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特許7188620ボールねじ装置のグリース封入方法及びグリース封入装置、並びに、ボールねじ装置の製造方法、直動アクチュエータの製造方法、車両用ブレーキの製造方法、及び車両の製造方法
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  • 特許-ボールねじ装置のグリース封入方法及びグリース封入装置、並びに、ボールねじ装置の製造方法、直動アクチュエータの製造方法、車両用ブレーキの製造方法、及び車両の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ボールねじ装置のグリース封入方法及びグリース封入装置、並びに、ボールねじ装置の製造方法、直動アクチュエータの製造方法、車両用ブレーキの製造方法、及び車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20221206BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16H25/24 J
F16H25/22 A
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021577186
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030822
(87)【国際公開番号】W WO2022045070
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2020141099
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮
(72)【発明者】
【氏名】土橋 弘平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置された複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えたボールねじ装置における前記ナットの前記無限循環路に、グリースを塗布するボールねじ装置のグリース封入方法であって、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸の外周を被覆部材で覆う工程と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間にグリースを供給する工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させて、前記突出したねじ軸を前記被覆部材で覆ったままナット内側へ挿入し、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記一端部側における前記無限循環路の端部に近づけ、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路の領域に送る工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させて、前記被覆部材を前記ねじ軸とともに前記ナットの一端部から抜け出させる工程と、
前記被覆部材を前記ねじ軸から取り外す工程と、
を含む、
ボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項2】
外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置された複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置における前記ナットの前記無限循環路に、グリースを塗布するボールねじ装置のグリース封入方法であって、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸の外周を被覆部材で覆って、前記ナットの一端側を、前記被覆部材を介して支持部に支持させる支持工程と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間から、ナット内側に向けてグリースを圧送するグリース圧送工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させて、前記突出したねじ軸を、前記被覆部材で覆ったままナット内側へ挿入し、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記無限循環路の位置に到達させて、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路に送るグリース移送工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させるとともに、前記被覆部材を前記ねじ軸の移動とともに前記ナットの一端部から抜け出させる戻し工程と、
前記ボールねじ装置を前記支持部から取り外し、前記被覆部材を前記ねじ軸から除去する取り外し工程と、
を含む、
ボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項3】
前記ナットを前記支持部に固定し、前記ねじ軸を回転させて、前記ねじ軸を前記ナットに対して移動させる請求項2に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項4】
前記ねじ軸を、前記支持部に軸方向移動可能で且つ回転不能に支持し、前記ナットを回転させて、前記ねじ軸を前記ナットに対して移動させる請求項2に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項5】
前記被覆部材は、前記ねじ軸の最大半径と前記ナットの最小半径との差よりも薄肉な側壁部を有するスリーブである請求項1~4のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項6】
前記ナットの一端部において、前記ねじ軸の径方向から前記ナット内側に向けて吐出方向を傾斜させたノズルから前記グリースを圧送する請求項1~5のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項7】
前記ねじ軸の周方向に沿って設けられた複数の前記ノズルから前記グリースを圧送する請求項6に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項8】
前記ナット内側に挿入された前記被覆部材は、前記ノズルの吐出口の対向位置から前記挿入方向先端までの領域に、外周面を縮径した小径部を有し、前記小径部を通じて前記グリースを前記ナット内側に供給する請求項6又は7に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項9】
前記被覆部材は、有底筒状である請求項1~8のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
【請求項10】
外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置された複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置において、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸の外周を覆う被覆部材と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間にグリースを供給するグリース供給部と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させて、前記突出したねじ軸を前記被覆部材で覆ったままナット内側へ挿入し、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記一端部側における前記無限循環路の端部に近づけ、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路の領域に移送するグリース移送部と、
を備え、
前記グリース移送部は、前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させ、前記被覆部材を、前記ねじ軸とともに前記ナットの一端部から抜け出させて前記ねじ軸から取り外す、
ボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項11】
外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置される複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置において、前記ナットの前記無限循環路にグリースを塗布するボールねじ装置のグリース封入装置であって、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸を覆う被覆部材と、
前記ナットの一端部を、前記被覆部材を介して支持する支持部と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間に、前記グリースを圧送するグリース供給部と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させる回転機構による回転と同期して、前記被覆部材を前記ねじ軸と共に軸方向に沿って移動させて、前記隙間に圧送された前記グリースを、前記ナットの前記無限循環路に移送するグリース移送部と、
を備え、
前記ボールねじ装置を前記支持部から取り外すときに、前記被覆部材が前記ねじ軸から除去される、ボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項12】
前記グリース移送部は、
前記回転機構により前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させるとともに、前記突出したねじ軸を前記被覆部材で覆ったままナット内側へ移動させ、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記無限循環路の位置に到達させて、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路に送る機能と、
前記回転機構により前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させるとともに、前記被覆部材を前記ねじ軸の移動と同期して前記ナットの一端部から抜け出る方向に移動させる機能と、
を有する請求項11に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項13】
前記支持部は、前記ナットを固定し、
前記回転機構は、前記ねじ軸を回転させる請求項11又は12に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項14】
前記支持部は、前記ねじ軸を軸方向移動可能で且つ回転不能に支持し、
前記回転機構は、前記ナットを回転させる請求項11又は12に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項15】
前記支持部は、前記ナットの一端部において、前記ねじ軸の径方向からナット内側に向けて吐出方向を傾斜させたノズルを有する請求項11~14のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項16】
前記ねじ軸の周方向に沿って複数の前記ノズルが設けられた請求項15に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項17】
前記被覆部材は、前記ノズルの吐出口の対向位置から挿入方向先端までの領域に、外周面を縮径した小径部を有する請求項15又は16に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項18】
前記被覆部材は、前記ねじ軸の最大半径と前記ナットの最小半径との差よりも薄肉な側壁部を有するスリーブである、請求項10~17のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項19】
前記被覆部材は、有底筒状である請求項10~18のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか1項に記載のボールねじ装置のグリース封入方法により、前記グリースを前記無限循環路に供給するボールねじ装置の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載のボールねじ装置の製造方法により製造された前記ボールねじ装置を用いて、直動アクチュエータを製造する直動アクチュエータの製造方法。
【請求項22】
請求項20に記載のボールねじ装置の製造方法により製造された前記ボールねじ装置を用いて、車両用ブレーキを製造する車両用ブレーキの製造方法。
【請求項23】
請求項20に記載のボールねじ装置の製造方法により製造された前記ボールねじ装置を用いて、車両を製造する車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置のグリース封入方法及びグリース封入装置、並びに、ールねじ装置の製造方法、直動アクチュエータの製造方法、車両用ブレーキの製造方法、及び車両の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットの間に複数のボールを配置することで、ねじ軸とナットとを軽い力で移動可能にした部品として広く利用されている。ボールねじ装置には、ねじ軸とナットとの間に潤滑剤が必要であり、そのため、複数のボールが配置された部分にグリースを塗布する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、ねじ軸と、ナットと、ねじ軸とナットの間に配置される複数のボールと、ナットに取り付けられているハウジングと、を備える直動アクチュエータが記載されている。この直動アクチュエータに潤滑材を塗布する際、ねじ軸及びナットを一体とした組立体をハウジングに取り付ける前に、このハウジング内の底部側にグリースを設ける。そして、この組立体をハウジングに取り付けてから、ねじ軸を回転させ、ねじ軸の端部をハウジングの底部に向けて進めて、ハウジングの底部に接近させる。これにより、ねじ軸の端部がグリースを押し出し、ねじ軸とナットとの間の軌道路にグリースを侵入させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2018-168909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の直動アクチュエータの潤滑剤塗布方法は、ボールねじをハウジングに組み付け、グリースを軌道路へ移送させる塗布方法であるが、ナットが外嵌めされずにハウジングから露出しているねじ軸の露出部にも、グリースがはみ出して塗布される場合がある。そのため、製品の組み立て状態では露出部のグリースにゴミ、異物等が付着して外観不良になりやすい。また、グリースをねじ軸の端部で押圧してねじ軸とナットとの間に侵入させるため、押圧力が小さい場合又は粘性の高いグリースの場合には、ボールの介在する軌道路までグリースが到達するとは限らない。グリースが未到達の場合、グリース供給量を増やすこともできるが、グリースの送給側と反対側のナット端面からグリースはみ出しによる不具合を生じる可能性がある。
【0006】
特許文献1の潤滑剤の供給は、ボールねじ軸とナットとの組立品に、ハウジングを組み付ける工程で、グリースを軌道路へ移送させる方式である。そのため、グリースの塗布工程とハウジング組付けの工程とを製品毎に分けることができず、工程設定の自由度に制約が生じる。また、軌道路のみへのグリース塗布が不可能な為、多品種への応用ができない。ナット内側の軌道路までのクリアランスを利用してグリースを移送させる為、必要最小限のグリース量で塗布完了させることはできない。そして、グリース塗布量を変更する場合、軌道路までグリースを到達させる為のハウジングとのクリアランスの再設定が必要になると推測され、グリース塗布量の変更が容易にできない。同様に、ナット端面からのはみ出しに対しても、ハウジングとのクリアランスでの調整となり、容易に変更できない。
【0007】
そこで本発明は、ナット内側に供給するグリースを、ナットから突出したねじ軸への付着を抑制しつつ、ナット内側の所望の位置へ正確、且つ確実に供給できるボールねじ装置のグリース封入方法及びグリース封入装置、並びに、ールねじ装置の製造方法、直動アクチュエータの製造方法、車両用ブレーキの製造方法、及び車両の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置された複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えたボールねじ装置における前記ナットの前記無限循環路に、グリースを塗布するボールねじ装置のグリース封入方法であって、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸の外周を被覆部材で覆う工程と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間にグリースを供給する工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させて、前記突出したねじ軸を前記被覆部材で覆ったままナット内側へ挿入し、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記一端部側における前記無限循環路の端部に近づけ、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路の領域に送る工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させて、前記被覆部材を前記ねじ軸とともに前記ナットの一端部から抜け出させる工程と、
前記被覆部材を前記ねじ軸から取り外す工程と、
を含む、
ボールねじ装置のグリース封入方法。
(2) 外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置された複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置における前記ナットの前記無限循環路に、グリースを塗布するボールねじ装置のグリース封入方法であって、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸の外周を被覆部材で覆って、前記ナットの一端側を、前記被覆部材を介して支持部に支持させる支持工程と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間から、ナット内側に向けてグリースを圧送するグリース圧送工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させて、前記突出したねじ軸を、前記被覆部材で覆ったままナット内側へ挿入し、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記無限循環路の位置に到達させて、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路に送るグリース移送工程と、
前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させるとともに、前記被覆部材を前記ねじ軸の移動とともに前記ナットの一端部から抜け出させる戻し工程と、
前記ボールねじ装置を前記支持部から取り外し、前記被覆部材を前記ねじ軸から除去する取り外し工程と、
を含む、
ボールねじ装置のグリース封入方法。
上記したボールねじ装置のグリース封入方法によれば、ナットの一端部から突出したねじ軸の外周を被覆部材で覆い、この状態でグリースをナット内側に供給し、ねじ軸をスリーブと共にナット内側で移動させることで、ナット内側のグリースを無限循環路に供給できる。また、ねじ軸の被覆部材で覆われた部分へのグリースの付着を抑制できる。
【0009】
(3) 前記ナットを前記支持部に固定し、前記ねじ軸を回転させて、前記ねじ軸を前記ナットに対して移動させる(2)に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、ねじ軸よりも容易に固定できるナットを固定側にすることで、ボールねじ装置をより安定して支持できる。
【0010】
(4) 前記ねじ軸を、前記支持部に軸方向移動可能で且つ回転不能に支持し、前記ナットを回転させて、前記ねじ軸を前記ナットに対して移動させる(2)に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、ねじ軸を回転駆動する場合と比較して低トルクで回転駆動できる。
【0011】
(5) 前記被覆部材は、前記ねじ軸の最大半径と前記ナットの最小半径との差よりも薄肉な側壁部を有するスリーブである(1)~(4)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、薄肉な側壁部を通じてグリースがナット内側に圧送される。
【0012】
(6) 前記ナットの一端部において、前記ねじ軸の径方向から前記ナット内側に向けて吐出方向を傾斜させたノズルから前記グリースを圧送する(1)~(5)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、吐出方向を傾斜させたノズルからグリースを圧送するため、ナット内側に効率よくグリースを供給できる。
【0013】
(7) 前記ねじ軸の周方向に沿って設けられた複数の前記ノズルから前記グリースを圧送する(6)に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、ナット内側の周方向に沿って均一にグリースを供給できる。
【0014】
(8) 前記ナット内側に挿入された前記被覆部材は、前記ノズルの吐出口の対向位置から前記挿入方向先端までの領域に、外周面を縮径した小径部を有し、前記小径部を通じて前記グリースを前記ナット内側に供給する(6)又は(7)に記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、小径部の外周面とナットの内周面との間に形成される隙間にグリースが供給され、隙間の小さい小径部以外の領域にはグリースが流れにくくなる。これにより、ナット内側に向けて選択的にグリースを圧送できる。
【0015】
(9) 前記被覆部材は、有底筒状である(1)~(8)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入方法。
このボールねじ装置のグリース封入方法によれば、被覆部材の底によってねじ軸の端部を確実に覆うことができ、ねじ軸の端部へのグリースの付着を抑制できる。
【0016】
(10) 外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置された複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置において、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸の外周を覆う被覆部材と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間にグリースを供給するグリース供給部と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させて、前記突出したねじ軸を前記被覆部材で覆ったままナット内側へ挿入し、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記一端部側における前記無限循環路の端部に近づけ、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路の領域に移送するグリース移送部と、
を備え、
前記グリース移送部は、前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させ、前記被覆部材を、前記ねじ軸とともに前記ナットの一端部から抜け出させて前記ねじ軸から取り外す、
ボールねじ装置のグリース封入装置。
(11) 外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置される複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置において、前記ナットの前記無限循環路にグリースを塗布するボールねじ装置のグリース封入装置であって、
前記ナットの一端部から突出した前記ねじ軸を覆う被覆部材と、
前記ナットの一端部を、前記被覆部材を介して支持する支持部と、
前記ナットの一端側のナット内周面と前記ねじ軸との間の隙間に、前記グリースを圧送するグリース供給部と、
前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させる回転機構による回転と同期して、前記被覆部材を前記ねじ軸と共に軸方向に沿って移動させて、前記隙間に圧送された前記グリースを、前記ナットの前記無限循環路に移送するグリース移送部と、
を備え、
前記ボールねじ装置を前記支持部から取り外すときに、前記被覆部材が前記ねじ軸から除去される、ボールねじ装置のグリース封入装置。
上記したボールねじ装置のグリース封入装置によれば、ナット内側に圧送されたグリースを、被覆部材の移動によって無限循環路へ移送できる。
【0017】
(12) 前記グリース移送部は、
前記回転機構により前記ねじ軸と前記ナットとを相対回転させるとともに、前記突出したねじ軸を前記被覆部材で覆ったままナット内側へ移動させ、前記被覆部材の挿入方向先端を前記ナットの前記無限循環路の位置に到達させて、前記ナット内側に供給されたグリースを前記無限循環路に送る機能と、
前記回転機構により前記ねじ軸と前記ナットとを前記相対回転の方向と逆方向に相対回転させるとともに、前記被覆部材を前記ねじ軸の移動と同期して前記ナットの一端部から抜け出る方向に移動させる機能と、
を有する(11)に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、ナットの一端部から突出したねじ軸の外周を被覆部材で覆い、この状態でグリースをナット内側に供給し、ねじ軸を被覆部材と共にナット内側で移動させることで、ナット内側のグリースを無限循環路に供給できる。また、ねじ軸の被覆部材で覆われた部分へのグリースの付着を抑制できる。
【0018】
(13) 前記支持部は、前記ナットを固定し、前記回転機構は、前記ねじ軸を回転させる(11)又は(12)に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、ねじ軸よりも容易に固定できるナットを固定側にすることで、ボールねじ装置をより安定して支持できる。
【0019】
(14) 前記支持部は、前記ねじ軸を軸方向移動可能で且つ回転不能に支持し、前記回転機構は、前記ナットを回転させる(10)又は(11)に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、ねじ軸を回転駆動する場合と比較して低トルクで回転駆動できる。
【0020】
(15) 前記支持部は、前記ナットの一端部において、前記ねじ軸の径方向からナット内側に向けて吐出方向を傾斜させたノズルを有する(11)~(14)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、吐出方向を傾斜させたノズルからグリースを圧送するため、ナット内側に効率よくグリースを供給できる。
【0021】
(16) 前記ねじ軸の周方向に沿って複数の前記ノズルが設けられた(15)に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、ナット内側の周方向に沿って均一にグリースを供給できる。
【0022】
(17) 前記被覆部材は、前記ノズルの吐出口の対向位置から挿入方向先端までの領域に、外周面を縮径した小径部を有する(15)又は(16)に記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、小径部の外周面とナットの内周面との間に形成される隙間にグリースが供給され、隙間の小さい小径部以外の領域にはグリースが流れにくくなる。これにより、ナット内側に向けて選択的にグリースを圧送できる。
【0023】
(18) 前記被覆部材は、前記ねじ軸の最大半径と前記ナットの最小半径との差よりも薄肉な側壁部を有するスリーブである、(10)~(17)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、薄肉な側壁部を通じてグリースがナット内側に圧送される。
【0024】
(19) 前記被覆部材は、有底筒状である(10)~(18)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入装置。
このボールねじ装置のグリース封入装置によれば、被覆部材の底によってねじ軸の端部を確実に覆うことができ、ねじ軸の端部へのグリースの付着を抑制できる。
【0025】
(20) 外周面に第1ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に第2ねじ溝が形成されたナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転走路に配置される複数のボールと、前記ボールを前記転走路の一部位から他の部位へ戻す無限循環路と、を備えるボールねじ装置であって、
前記ナットの前記無限循環路にはグリースが塗布され、前記ナットから突出した前記ねじ軸の露出部にはグリースが付着されていないボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、グリースが必要な無限循環路にグリースが塗布されて、ねじ軸とナットとの円滑な回転が維持される。また、ねじ軸の露出部にはグリースが付着していないため、露出部への異物及び汚れの付着が抑制される。なる。
【0026】
(21) (1)~(9)のいずれか1つに記載のボールねじ装置のグリース封入方法により、前記グリースを前記無限循環路に供給するボールねじ装置の製造方法。
このボールねじ装置の製造方法によれば、ナット内側の無限循環路に確実にグリースが供給され、ねじ軸の露出部へのグリースの付着を抑えたボールねじ装置を効率よく製造できる。
【0027】
(22) (21)に記載のボールねじ装置の製造方法により製造された前記ボールねじ装置を用いて、直動アクチュエータを製造する直動アクチュエータの製造方法。
この直動アクチュエータの製造方法によれば、円滑な動作が得られ、ねじ軸の汚れが少ない高品質の直動アクチュエータを製造できる。
【0028】
(23) (21)に記載のボールねじ装置の製造方法により製造された前記ボールねじ装置を用いて、車両用ブレーキを製造する車両用ブレーキの製造方法。
この車両用ブレーキの製造方法によれば、円滑な動作が得られ、ねじ軸の汚れが少ない高品質の車両用ブレーキを製造できる。
【0029】
(24) (21)に記載のボールねじ装置の製造方法により製造された前記ボールねじ装置を用いて、車両を製造する車両の製造方法。
この車両の製造方法によれば、円滑な動作が得られ、ねじ軸の汚れが少ない高品質の車両を製造できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ナット内側に供給するグリースを、ナットから突出したねじ軸への付着を抑制しつつ、ナット内側の所望の位置へ正確、且つ確実に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、ボールねじ装置の外観斜視図である。
図2図2は、図1のボールねじ装置の主要部の断面図である。
図3図3は、ボールねじ装置のグリース封入装置の全体構成図である。
図4図4は、グリース供給部の一部拡大断面図である。
図5図5は、スリーブの外観斜視図である。
図6図6は、ボールねじ装置へのグリース封入手順を示すフローチャートである。
図7A図7Aは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7B図7Bは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7C図7Cは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7D図7Dは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7E図7Eは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7F図7Fは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7G図7Gは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図7H図7Hは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。
図8図8は、ナットへのグリースの供給形態を(A)~(C)で示す工程説明図である。
図9図9は、第2構成例のグリース封入装置の要部を示す一部拡大断面図である。
図10図10は、グリース封入装置によるグリース供給の様子を(A),(B)に段階的に示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
以下の説明では、ボールねじ装置としてフロップオーバー方式のボールねじ装置を例示するが、本発明はこれに限らず、他の方式のものにも適用が可能である。
<ボールねじ装置の構成>
図1は、ボールねじ装置の外観斜視図である。図2は、図1に示すボールねじ装置の一部断面図である。
【0033】
図1図2に示すように、ボールねじ装置1は、ねじ軸10と、ナット20と、複数のボール30と、を備える。ナット20は、円柱状のねじ軸10の周囲に配置される。また、略円筒状のナット20は、その内径はねじ軸10の外径よりも大きく、ねじ軸10との間に所定の隙間Sを有して組み付けられる。
【0034】
図2に示すように、ねじ軸10の外周面には、所定のリードを有する螺旋状の第1ねじ溝11が形成される。また、ナット20の内周面には、第1ねじ溝11に対向して第1ねじ溝11と等しいリードを有する螺旋状の第2ねじ溝21が形成される。第1ねじ溝11と第2ねじ溝21とによって形成される断面略円形状の転走路22には、複数のボール30が転動可能に配置される。また、隣り合う第1ねじ溝11同士の間には、ねじ山12が形成される。
【0035】
ナット20には、複数の駒孔23が周方向に異なる位相で形成され、各駒孔23に駒24が挿着されていてもよい。その場合、駒24には、螺旋状の転走路22を移動するボール30を循環させるボール循環部34が形成されている。
【0036】
ボール循環部34は、転走路22の一部位から他の部位へボール30を戻す。すなわち、ボール循環部34は、駒24に向かって転走路22を移動してくるボール30を、ねじ軸10の径方向にすくい上げ、さらに、ねじ軸10のねじ山12を乗り越えさせて、少なくとも1ピッチ手前の転走路22へ戻す。これにより、ボール30を循環可能にしている。
【0037】
駒24によって、ねじ軸10の外周に、ボール循環部34及び転走路22からなり、ボール30の軌道路となる無限循環路31が形成される。ねじ軸10とナット20とを相対回転させると、複数のボール30が無限循環路31内を循環して、互いの軸方向への直線運動が円滑になる。
【0038】
ナット20の内周面における無限循環路31以外のボール30が配置されない領域は、第2ねじ溝21が形成されていない非無限循環路32であり、非無限循環路32の内周面33は、円周面となっている。
【0039】
ナット20は、外周の一部に径方向外側へ突出する環状の突起部26を備えるが、突起部26を備えない構成であってもよい。突起部26は、例えば、外周面に内輪軌道溝を設け、内輪軌道溝に対向する部材(外輪部材)に外輪軌道溝を設け、内輪軌道溝と外輪軌道溝との間に複数の転動体を設けることで、転がり軸受(ボールねじ支持軸受)の一部となる。その場合、軸方向端部に、図示しないトルク伝達機構の動力伝達部材(例えば、ベルト部材が架け渡されるプーリ)が係合するキー溝28を形成して、ナット20を、突起部26を含むボールねじ支持軸受を介して、車両用ブレーキ等のハウジングに回転自在に支持させることができる。
【0040】
ここで、ボールねじ装置1の構造を説明するため、以下のように符号を定義する。
ねじ軸10における、ナット20を挟んだ一方の側(図1の奥側)を第1端部10a、第1端部10aの反対側(図1の手前側)を第2端部10bとする。ねじ軸10の第1端部10aを、ナット20から露出している部分として露出部15とする。ナット20における、突起部26を挟んで、一端側(ねじ軸10の第1端部10a側)を第1ナット部20a、他端側(ねじ軸10の第2端部10b側)を第2ナット部20b、第1ナット部20a側の端面を第1ナット端面20c、第2ナット部20b側の端面を第2ナット端面20dとする。なお、図2に示すボール30は、その一部を仮想線で示している。
【0041】
<ボールねじ装置のグリース封入装置>
[第1構成例]
図3は、ボールねじ装置のグリース封入装置の全体構成図である。
ボールねじ装置のグリース封入装置100は、ナット20の内側に潤滑剤であるグリースを供給する。そして、上記したボールねじ装置1を、ナット20の無限循環路31にはグリースGが塗布され、ナット20から突出したねじ軸10の露出部15にはグリースGが付着されていない状態にする。以下、ボールねじ装置のグリース封入装置100を単にグリース封入装置100という。グリース封入装置100は、支持部110と、回転機構200と、駆動部300と、グリース供給部400と、被覆部材であるスリーブ500と、スリーブ移動機構600と、を備える。以下に、上記した各部の構成を順に説明する。
【0042】
(支持部)
支持部110は、ボールねじ装置1の軸方向一端側を支持する治具であり、固定台座となるベース120と、ベース120上に固定される支持台130と、支持台130上に固定されるナット保持部140と、を備える。ベース120の中央部にはベース120を貫通する開口部121が形成される。支持台130の中央部には支持台130を貫通する貫通孔131が形成される。ナット保持部140の中央部にはナット保持部140を貫通する支持孔141が形成される。開口部121、貫通孔131及び支持孔141は、それぞれねじ軸10の軸線Lと同軸に形成されることで、ベース120、支持台130及びナット保持部140は、同軸に配置される。
【0043】
ナット保持部140の支持孔141の内径は、貫通孔131の内径よりも大きい。本構成の支持孔141は、図3の上から順に、第1支持孔142、第2支持孔143及び第3支持孔144を有し、それぞれの内径は異なっている。第1支持孔142は、ボールねじ装置1の突起部26を収容するため、突起部26の外径より僅かに大きい内径を有する。第2支持孔143は、ナット20の第2ナット部20bが挿入されるように、第2ナット部20bの外径よりも僅かに大きい内径を有する。
【0044】
支持台130の内部には、ねじ軸10とナット20との間の隙間SにグリースGを供給するグリース供給部400が設けられる。
図4は、グリース供給部400の一部拡大断面図である。
グリース供給部400は、グリース溜まり401と、複数のノズル402とを有する。グリース溜まり401は、軸線Lを中心とする円環形状を有し、内部にグリースGを貯留する。グリース溜まり401には、吐出方向を径方向からナット20側に傾斜させた複数のノズル402が接続される。複数のノズル402それぞれは、先端が先細りに形成され、吐出口403が貫通孔131の内周面に開口する。
【0045】
各ノズル402は、貫通孔131の周方向に沿って等間隔に配置されるが、配置形態はこれに限らない。例えば、単一のノズル402であってもよく、周方向に連続するスリット状のノズルであってもよい。ノズル402が複数個、又は周方向に連続して設けられることで、グリースGを周方向に均等に供給できる。
【0046】
なお、吐出口403は、ボールねじ装置1を支持部110に支持させた状態において、ナット20の第2ナット端面20dの近傍に配置される。
【0047】
支持台130には、ナット保持部140を固定する面(図4における上側の面)がノズル402の傾斜方向に盛り上がり、環状の突出部132が形成される。突出部132の頂面133には、ボールねじ装置1を支持部110に支持させた状態で、ナット20の第1ナット端面20cが当接する。
【0048】
支持台130とナット保持部140との間には、エア溜まり134が画成される。エア溜まり134は、突出部132の上面と、第1ナット部20aと、ナット保持部140の第3支持孔144及び段付面135とにより画成される円環状の空間である。このエア溜まり134は、不図示のエア供給部に接続され、エア供給部からの加圧よって大気圧以上に加圧される。
【0049】
エア溜まり134は、第1ナット端面20cと突出部132の頂面133とが当接した状態において、第1ナット端面20cと突出部132の頂面133との間から漏れようとするグリースGを内圧によって押し返し、グリース漏れを防止している。
【0050】
(回転機構)
図3に示すように、回転機構200は、ねじ軸固定部210とナット押さえ部220とを備える。ねじ軸固定部210は、クランプ部211を有し、ナット押さえ部220は、ナット固定機構221を有する。
【0051】
回転機構200は、支持部110に支持されたボールねじ装置1のナット20を回り止めして、ねじ軸10だけを回転させる。ねじ軸固定部210は、クランプ部211により、ねじ軸10の第2端部10bをクランプする。ここでいうクランプとは、ねじ軸10を軸方向に直交する方向から掴み、ねじ軸固定部210の回転と連動してねじ軸10を回転自在に固定することを意味する。
【0052】
ねじ軸10は、ねじ軸固定部210により回転駆動され、固定されたナット20に対して軸線Lに沿って昇降移動する。クランプ部211は、ねじ軸10と一体に回転駆動できればよく、その構成は特に限定されない。例えば、クランプ部211は、柔軟性を有し、ねじ軸10との摩擦力を確保できるゴム材等を用いて構成することもできる。
【0053】
ねじ軸10が回転して昇降移動する間、ナット20はナット押さえ部220により回転が阻止され、支持部110に組み付けられた位置で静止している。ボールねじ装置1が支持部110に支持された状態において、ナット20の第1ナット端面20c(図4参照)は、支持台130の突出部132の頂面133に押し当てられ、摩擦によってナット20の回転が阻止される。
【0054】
(駆動部)
駆動部300は、図3に示すように、制御部301と、グリース送給部302と、押込み駆動部303と、ねじ軸回転駆動部304と、ナット押さえ駆動部305と、を備える。
グリース送給部302は、グリース供給部400にグリースGを供給する、例えば定量ピストンであり、グリース供給量及びグリース供給圧を調整する。
押込み駆動部303は、後述するスリーブ押込み部610を昇降させる昇降機620の駆動及び停止を行う。ねじ軸回転駆動部304は、ねじ軸固定部210の回転の駆動及び停止を行う。ナット押さえ駆動部305は、ナット押さえ部220の昇降の駆動及び停止を行う。ねじ軸回転駆動部304、ナット押さえ駆動部305は、例えばモーター等のアクチュエータで構成される。
【0055】
制御部301は、グリース送給部302、押込み駆動部303、ねじ軸回転駆動部304及びナット押さえ駆動部305の駆動及び停止の指示、並びに駆動及び停止のタイミング等を制御する。
【0056】
(スリーブ)
スリーブ500は、支持台130の貫通孔131に配置され、ボールねじ装置1におけるナット20の一端部から突出したねじ軸10に挿入されて、露出部15を覆う被覆部材である。ここでは被覆部材として円筒状のスリーブ500を例示しているが、形状はこれに限らない。例えば、ねじ軸10の外周に当接するリング部と、リング部の下方を支持する枠部材とを有する構成であってもよく、後述するねじ軸10の先端部へのグリースの付着を抑制する構成であればよい。
【0057】
図5は、スリーブ500の外観斜視図である。
スリーブ500は、円筒状の側壁部501と、底部502とを有する有底筒状である。側壁部501は、先端側に外周面を縮径した小径部503と、基端側に大径部504とを有する。小径部503は、外周面を縮径して形成され、図2に示すねじ軸10の最大半径φdとナット20の最小半径φDとの差Δtよりも薄肉になっている。小径部503は、図4に示すように、軸線L方向に関して、ノズル402の吐出口403の対向位置からスリーブ500の挿入方向先端の領域に形成される。
【0058】
スリーブ500の側壁部501は、薄肉の小径部503の強度を維持できるよう、例えばステンレス材等の金属、又は樹脂材料により形成される。
【0059】
(スリーブ移動機構)
スリーブ移動機構600は、図3に示すように、スリーブ押込み部610と、昇降機620とを有する。スリーブ押込み部610は、スリーブ500に当接する先端側が円柱形状の軸体611であり、軸体611の基端側には昇降機630に接続するフランジ部612が設けられる。軸体611は、ベース120の開口部121を貫通し、支持台130の貫通孔131に挿入される。
【0060】
昇降機620は、スリーブ押込み部610のフランジ部612を、軸線Lに沿って昇降させる。昇降機620は、回転機構200のねじ軸固定部210の回転と同期して昇降駆動され、スリーブ押込み部610及びスリーブ500を、軸線L方向に沿って一体に昇降させる。つまり、ねじ軸10のピッチとねじ軸固定部210の回転に応じた軸線L方向の移動を、昇降機620により発生させて、スリーブ500とスリーブ押込み部610とを昇降駆動する。
【0061】
上記した回転機構200とスリーブ移動機構600と駆動部300とが協働することで、後述するグリースを無限循環路31に移送するグリース移送部として機能する。
【0062】
<グリース封入方法>
次に、グリース封入装置100によりボールねじ装置1の無限循環路31にグリースGを供給する各工程を順次に説明する。
図6は、ボールねじ装置1へのグリース封入手順を示すフローチャートである。図7A図7Hは、グリース封入手順を段階的に示す工程説明図である。各手順においては、制御部301が、ねじ軸回転駆動部304、ナット押さえ駆動部305、グリース送給部302、押込み駆動部303に駆動信号を出力することで、各部を駆動させる。
【0063】
(1)支持工程:
図7Aに示すように、ボールねじ装置1を支持部110の上方に配置する。支持台130の貫通孔131内には、スリーブ500が配置されている。ボールねじ装置1のハンドリングは、作業者又は不図示のロボットにより行ってもよい。
【0064】
まず、ボールねじ装置1を支持部110に向けて降下させ、ナット20の第1ナット端面20cを支持台130の頂面133に当接させる。すると、図7Bに示すように、ねじ軸10の第1端部10aが支持孔141を通じてスリーブ500に挿入され、ねじ軸10の露出部15がスリーブ500によって覆われる(S1)。
【0065】
(2)固定工程:
次に、ねじ軸固定部210とナット押さえ部220とを下降させ、ボールねじ装置1を固定する(S2)。つまり、ねじ軸固定部210のクランプ部211により、ねじ軸10の第2端部10bを把持し、ナット押さえ部220のナット固定機構221により、ナット20の突起部26を支持部110側に向けて押圧する。これにより、ボールねじ装置1のナット20は支持部110に固定され、ねじ軸10は回転可能なねじ軸固定部210に支持される。
【0066】
(3)グリース圧送工程:
次に、図7Dに示すように、グリース送給部302を駆動して、グリースGをグリース供給部400のグリース溜まり401に供給する。そして、グリース送給部302は、グリースGの送給量、送給速度、送給圧力等を調整しながら、ノズル402から所定量のグリースGをナット内側に向けて供給する(S3)。
【0067】
この動作により、図4に示すように、ねじ軸10とナット20との隙間Sに第1ナット部20a側からグリースGが供給される。グリースGの吐出時には、スリーブ500がノズル402の吐出口403に対面して配置されるため、ノズル402から吐出されたグリースGは、スリーブ500で覆われたねじ軸10の露出部15に付着することなく、非無限循環路32に溜まる。
【0068】
図8は、ナット20へのグリースGの供給形態を(A)~(C)で示す工程説明図である。図8においては、無限循環路31に配置されるボールを省略している。
グリース圧送工程を更に詳細に説明すると、図8の(A)に示すように、ねじ軸10が静止した状態で、非無限循環路32におけるねじ軸10の第1ねじ溝11にグリースGが圧送される。
【0069】
グリース圧送工程では、図4に示すようにグリース溜まり401に接続されたノズル402からグリースGが非無限循環路32に供給される。すなわち、ノズル402から吐出されたグリースGは、スリーブ500の小径部503(軸線L方向の高さhの領域)と支持台130の貫通孔131内周面との間の隙間Sに充填され、隙間Sからその上方の非無限循環路32に圧送される。非無限循環路32では、ねじ軸10の第1ねじ溝11と、ナット20の内周面33との間にグリースGが充填される。ねじ軸10へのグリースGの充填領域は、上記した小径部503の高さhの範囲と、スリーブ500の上端からナット20の無限循環路31までの高さHmaxまでの範囲としてもよく、高さHmaxより低い高さHまでの範囲にしてもよい。充填領域は、無限循環路31の直径及び軸線L方向の長さ等に応じて適宜に設定される。
【0070】
また、グリース圧送工程では、図4に示す第1ナット端面20cと突出部132の頂面133との間から漏れ出す可能性のあるグリースGを、エア溜まり134の内圧によってグリース漏れを防止している。
【0071】
(4)グリース移送工程
次に、図7Eに示すように、ねじ軸固定部210を回転駆動して、ねじ軸10を回転させながら上昇させる。また、ねじ軸固定部210の回転と同期して昇降機620を駆動し、スリーブ押込み部610の軸体611を上昇させる。このときのねじ軸10と軸体611との移動速度及び移動量は、互いに等しくなるようにする。スリーブ押込み部610の軸体611が上昇すると、スリーブ500がナット20の第1ナット部20a内に挿入される。すると、ナット20の非無限循環路32に供給されたグリースGが、スリーブ500の先端で掻き出され、無限循環路31に向けて移送される(S4)。
【0072】
そして、図8の(B)に示すように、ねじ軸10の露出部15をスリーブ500で覆いながら、スリーブ500の挿入方向先端が無限循環路31の端部に到達するまで、ねじ軸10を回転駆動する。スリーブ500は、ねじ軸10の回転と共に回転して、ねじ軸10と一体になって上昇する。これにより、ねじ軸10の第1ねじ溝11に充填されていたグリースGは、無限循環路31の転走路22を転動するボール(不図示)によって攪拌され、無限循環路31に広がる。なお、スリーブ500の挿入方向先端は、必ずしも無限循環路31の端部に到達させなくてもよく、場合によっては端部に近づける動作にしてもよい。
【0073】
ここで、ねじ軸10の回転は、無限循環路31の上端、すなわち、ナット20の第2ナット部20bの第2ナット端面20dからグリースGが漏れ出さないようにする。この動作によって、グリースGが無限循環路31に供給される。
【0074】
上記のグリース移送工程において、制御部301は、スリーブ500の挿入方向先端が無限循環路31に到達したか否かを判定する(S5)。判定方法としては、ねじ軸10の回転角度(回転数)を検出して判定する以外にも、接触式、非接触式の位置センサを設けて、位置センサからねじ軸10の位置を検出して判定してもよい。また、必ずしも無限循環路31に達したかの判定でなく、予め定めた移動量に達したかで判定してもよい。
【0075】
(5)戻し工程
次に、図7Fに示すように、ねじ軸固定部210を、グリース移送工程のときの逆方向に回転させて、ねじ軸10を下降させるとともに、昇降機620を駆動して、スリーブ押込み部610の軸体611と一緒にスリーブ500を下降させる(S6)。ねじ軸10とスリーブ500が図8の(A)に示す元の位置に戻ると、ねじ軸固定部210の回転を停止させる。
【0076】
(6)取り出し工程
そして、図7Gに示すように、ねじ軸固定部210及びナット押さえ部220と、ボールねじ装置1との固定を解除して、ねじ軸固定部210及びナット押さえ部220とを上方に待避させる(S7)。
さらに、図7Hに示すように、支持部110に支持されたボールねじ装置1を上方に引き抜き、ボールねじ装置1を支持部110から取り外す(S8)。このとき、スリーブ500がスリーブ押込み部610の軸体611と一体に接続されているため、スリーブ500で覆われたねじ軸10の露出部15は、スリーブ500が除去されることで表出する。その結果、ねじ軸10の露出部15は、グリースGが付与されていない状態となり、異物、汚れが付着しにくくなる。
【0077】
以上の回転機構200、駆動部300及びスリーブ移動機構600により構成されるグリース移送部によって、グリースGをナット20の無限循環路31に確実に供給できる。また、必要最小限のグリース供給量で所望の位置へのグリース供給が可能となる。さらに、ねじ軸10の露出部15は、グリース供給中にスリーブ500によって常に覆われるため、グリースGの付着を防止できる。
【0078】
グリース送給部302は、グリース供給部400へのグリース供給量、供給速度、供給圧等を任意に調整できるため、適量のグリースGを無限循環路31に確実に供給できる。また、ナット20の第2ナット部20b側からのグリースGのはみ出しを確実に防止できる。その結果、ナット20の両端から突出するねじ軸10にグリースGが付着することを防止できる。
【0079】
さらに、グリース送給部302によるグリースの供給量及び供給圧の制御によって、無限循環路31の幅及び径、並びにナット20の軸長等の仕様が異なる多品種のボールねじ装置に対して、工程設定の自由度が高いグリース封入を行える。例えば、無限循環路31へのグリース供給のみならず、任意の部位への選択的なグリース供給も可能となり、自由度が高く、より汎用性の高い、正確なグリース供給を実現できる。さらに、グリース塗布量の変更は、グリース送給部302の調整だけで済むため、調整作業が繁雑とならず、工程変更を簡単に行える。このように、種々の仕様のボールねじ装置へのグリース供給を簡単に自動化でき、生産効率を向上できる。
【0080】
[第2構成例]
次に、グリース封入装置100の第2構成例を説明する。
図9は、第2構成例のグリース封入装置100Aの要部を示す一部拡大断面図である。
【0081】
前述のナット20は、非無限循環路32と、第2ねじ溝21が形成されない内周面33(図2参照)とを有していたが、ここで用いるナット20Aは、軸線Lに沿った略全域が第2ねじ溝21の形成された無限循環路31となっており、非無限循環路を有さない。
【0082】
グリース封入装置100Aのナット保持部145Aには、円筒状のカラー146が支持孔141に収容される。カラー146の軸方向一端は、ナット20Aの第1ナット端面20cに当接し、軸方向他端は、突出部132の頂面133に当接する。カラー146の外周面は第2支持孔143の内周面に嵌まり、カラー146の内周面とねじ軸10との間には僅かな隙間が形成される。その他の構成は、前述の第1構成例と同様である。
【0083】
図10は、グリース封入装置100Aによるグリース供給の様子を(A),(B)に段階的に示す工程説明図である。
本構成のグリース封入装置100Aは、グリース圧送工程において、グリース供給部400から供給されるグリースGを、スリーブ500の挿入方向先端から、ねじ軸10とカラー146との間の隙間Sに供給する。
【0084】
隙間Sに供給されたグリースGは、図10の(A)に示すように、グリース移送工程において、ねじ軸10の上昇と共にスリーブ500も上昇することで、無限循環路31に供給される。この場合も、ねじ軸10の上昇量を、ナット20Aの第2ナット端面20dからグリースGが漏れ出さない範囲に制限する。
【0085】
そして、図10の(B)に示すように、ねじ軸10を逆回転させて元の位置まで下降させるとともに、スリーブ押込み部610の軸体611を下降させて、スリーブ500も下降させる。
【0086】
これにより、ナット20Aの第2ナット端面20dからグリースGの漏れを防止でき、ねじ軸10のカラー146によって覆われた部分へのグリースGの付着を防止できる。
【0087】
以上説明したボールねじ装置1は、一般に、機械又は車両に搭載され、回転駆動により特定の機械部品又は部位を移動させる用途に適用される。
その他にも、回転部又はスライド部を有する機械、各種製造装置、アクチュエータ(直動アクチュエータ)、アクチュエータを組み合わせたXYテーブル等の複数自由度の駆動装置、直動装置における回転機構の支持部、回転装置における直動機構部の支持部にも適用される。また、ステアリングコラム、電動パワーステアリング装置、及びウォーム減速機等の操舵装置の回転支持部にも適用される。更に、自動車、オートバイ、鉄道等の車両、あるいは、車両用のブレーキ装置にも適用可能である。
【0088】
そして、上記したグリース封入方法を適用したボールねじ装置の製造方法は、直動アクチュエータ、車両用ブレーキ、車両等の製造方法に適用できる。
【0089】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0090】
例えば、ナット20,20Aには突起部26が設けられているが、ナット20,20Aの形状は任意であり、突起部26が無くてもよい。また、ナット20,20Aは、駒24を備えず、ねじ溝に循環部が加工されたものであってもよい。
【0091】
また、上記した構成例では、ナット20(20A)を固定し、ねじ軸10を回転させることで、グリースGを無限循環路31に供給していたが、ねじ軸10を軸方向移動可能に且つ回転不能に支持部110等の部材に固定して、ナット20(20A)を回転させる構成であってもよい。その場合、ボールねじ10の径よりもナット20(20A)の径が大きいため、低トルクでナット20(20A)を回転駆動できる。つまり、ねじ軸10とナット20(20A)とが相対回転していずれか一方が軸方向移動すればよい。
【0092】
さらに、グリース封入装置100(100A)は、ボールねじ装置1をその軸線を鉛直方向に支持する構成に限らず、水平方向に支持する構成であってもよい。
【0093】
なお、本出願は、2020年8月24日出願の日本特許出願(特願2020-141099)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0094】
1 ボールねじ装置
10 ねじ軸
11 第1ねじ溝
15 露出部
20,20A ナット
21 第2ねじ溝
22 転走路
24 駒
30 ボール
31 無限循環路
100,100A ボールねじ装置のグリース封入装置
110 支持部
120 ベース
130 支持台
140 ナット保持部
200 回転機構(グリース移送部)
300 駆動部(グリース移送部)
400 グリース供給部
401 グリース溜まり
402 ノズル
403 吐出口
500 スリーブ(被覆部材)
503 小径部
600 スリーブ移動機構(グリース移送部)
G グリース
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図8
図9
図10