(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】巻鉄心
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20221206BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221206BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20221206BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221206BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01F27/245 155
H01F1/147 183
C21D8/12 B
C22C38/00 303U
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2022559177
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039553
(87)【国際公開番号】W WO2022092116
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2020178900
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】牛神 義行
(72)【発明者】
【氏名】山本 信次
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 毅郎
(72)【発明者】
【氏名】国田 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 聡
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148036(JP,A)
【文献】国際公開第2020/149319(WO,A1)
【文献】特開昭53-5800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
H01F 41/02
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、
前記巻鉄心本体は、長手方向に第1の平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部を挟んで隣り合う2つの第1の平面部のなす角が90°である方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造を有し、
前記各コーナー部は、前記方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を2つ以上有するとともに、隣り合う前記屈曲部の間に第2の平面部を有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であり、
前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは1mm以上5mm以下であり、
前記方向性電磁鋼板が
質量%で、
Si:2.0~7.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ
少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(1)~(3)式を満たすことを特徴とする、巻鉄心。
Tave≦40nm ・・・・・・(1)
(To-Tu)/Tave≦0.50 ・・・・・・(2)
Tave(To-Tu)≦240nm
2 ・・・・・・(3)
ここで、前記屈曲部に隣接する第1および第2の平面部領域の複数箇所で、前記方向性電磁鋼板の母鋼板の表面に設けられた中間層の厚さT(nm)を測定し、当該中間層の厚さT(nm)の平均厚さをTave(nm)、最大厚さをTmax(nm)、最小厚さをTmin(nm)とし、T>Taveであるデータの平均値をTo(nm)とし、T<Taveであるデータの平均値をTu(nm)とする。
【請求項2】
少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(4)式を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の巻鉄心。
N(To-Tu)≦24nm ・・・・・・(4)
ここで、鋼板表面方向に沿った前記中間層の厚さ分布において、T>Taveとなる測定値が連続する領域を一つの領域として数え、全測定領域内の数をNとする。
【請求項3】
少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(5)式を満たすことを特徴とする、請求項2に記載の巻鉄心。
N≧2 ・・・・・・(5)
【請求項4】
少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(6)式を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の巻鉄心。
(Tmax-Tmin)<Tave ・・・・・・(6)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄心に関する。本願は、2020年10月26日に、日本に出願された特願2020-178900号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、Siを7質量%以下含有し、二次再結晶粒が{110}<001>方位(Goss方位)に集積した二次再結晶集合組織を有する鋼板である。方向性電磁鋼板の磁気特性は、{110}<001>方位への集積度に大きく影響される。近年、実用されている方向性電磁鋼板では、結晶の<001>方向と圧延方向との角度が5°程度の範囲内に入るように制御されている。
【0003】
方向性電磁鋼板は積層されて変圧器の鉄心などに用いられるが、主要な磁気特性として高磁束密度、低鉄損であることが求められている。結晶方位はこれら特性との強い相関が知られており、例えば、特許文献1~3のような精緻な方位制御技術が開示されている。
【0004】
鉄損を低下させるため、鋼板表面に皮膜が形成される。この皮膜は、鋼板に張力を付与して鋼板単板としての鉄損を低下させる他、鋼板を積層して使用する際に鋼板間の電気的絶縁性を確保することで鉄心としての鉄損を低下させることも目的としている。
【0005】
鋼板表面に皮膜が形成された方向性電磁鋼板としては、例えば、母鋼板表面にフォルステライト(Mg2SiO4)を主体とする中間層(一次被膜)が形成され、中間層の表面に絶縁皮膜が形成されたものがある。
【0006】
この密着性は主に母鋼板と中間層の界面の凹凸によるアンカー効果によって確保されるが、この界面の凹凸は、電磁鋼板が磁化される際の磁壁移動の障害にもなるため、鉄損の低下作用を妨げる要因ともなっている。そこで、仕上げ焼純皮膜を存在させずに鉄損を低下させるために、上述した界面を平滑化した状態で、SiO2やTiN等からなる数nm~数10nmの特殊な中間層により絶縁皮膜の密着性を確保する、特許文献4~7のような技術が開示されている。
【0007】
また、巻鉄心の製造は従来、例えば特許文献8に記載されているような、鋼板を筒状に巻き取った後、筒状積層体のままコーナー部を一定曲率になるようにプレスし、略矩形に形成した後、焼鈍することにより歪取りと形状保持を行う方法が広く知られている。
【0008】
一方、巻鉄心の別の製造方法として、巻鉄心のコーナー部となる鋼板の部分を曲率半径が3mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする、特許文献9~11のような技術が開示されている。当該製造方法によれば、従来のような大掛かりなプレス工程が不要で、鋼板は精緻に折り曲げられて鉄心形状が保持され、加工歪も曲げ部(角部)のみに集中するため上記焼鈍工程による歪除去の省略も可能となり、工業的なメリットは大きく適用が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開2001-192785号公報
【文献】日本国特開2005-240079号公報
【文献】日本国特開2012-052229号公報
【文献】日本国特許第4025514号公報
【文献】日本国特開2002-322566号公報
【文献】日本国特開2019-019360号公報
【文献】日本国特開2005-264236号公報
【文献】日本国特開2005-286169号公報
【文献】日本国特許第6224468号公報
【文献】日本国特開2018-148036号公報
【文献】豪国特許出願公開第2012337260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、鋼板を曲率半径が5mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする方法により製造した変圧器鉄心の効率を詳細に検討した。その結果、結晶方位の制御がほぼ同等で、単板で測定される磁束密度および鉄損もほぼ同等である鋼板を素材とした場合であっても、鉄心の効率に差が生じる場合があることを認識した。
【0011】
この原因を探究したところ、問題となる効率の差は鉄心の寸法形状によっても現象の程度に違いが生じていることを知見した。鋼種による効率の差を比較すると、中間層の種類、特に中間層の厚さと形態の影響が確認できた。さらにこの現象を詳細に検討すると、特に中間層の形態が屈曲部での屈曲による磁化の阻害程度を変化させており、このため屈曲部を含む鋼板の鉄損劣化の程度に差が生じることが推測された。
この観点で様々な鋼板製造条件、鉄心形状について検討して鉄心効率への影響を分類した結果、素材の中間層の形態を最適に制御することで、鉄心の効率が鋼板素材の磁気特性に見合った妥当な効率になるように制御できるとの結果を得た。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、鋼板を曲率半径が5mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心とする方法により製造した巻鉄心において、不用意な効率の悪化が抑制されるように改善した巻鉄心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、
前記巻鉄心本体は、長手方向に第1の平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部を挟んで隣り合う2つの第1の平面部のなす角が90°である方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造を有し、
前記各コーナー部は、前記方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を2つ以上有するとともに、隣り合う前記屈曲部の間に第2の平面部を有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であり、
前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは1mm以上5mm以下であり、
前記方向性電磁鋼板が
質量%で、
Si:2.0~7.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ
少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(1)~(3)式を満たすことを特徴とする。
Tave≦40nm ・・・・・・(1)
(To-Tu)/Tave≦0.50 ・・・・・・(2)
Tave(To-Tu)≦240nm2 ・・・・・・(3)
ここで、前記屈曲部に隣接する第1および第2の平面部領域の複数箇所で、前記方向性電磁鋼板の母鋼板の表面に設けられた中間層の厚さT(nm)を測定し、当該中間層の厚さT(nm)の平均厚さをTave(nm)、最大厚さをTmax(nm)、最小厚さをTmin(nm)とし、T>Taveであるデータの平均値をTo(nm)とし、T<Taveであるデータの平均値をTu(nm)とする。
【0014】
また、本発明の前記構成において、少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(4)式を満たしてもよい。
N(To-Tu)≦24nm ・・・・・・(4)
ここで、鋼板表面方向に沿った前記中間層の厚さ分布において、T>Taveとなる測定値が連続する領域を一つの領域として数え、全測定領域内の数をNとする。
【0015】
また、本発明の前記構成において、少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(5)式を満たしてもよい。
N≧2 ・・・・・・(5)
【0016】
また、本発明の前記構成において、少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(6)式を満たしてもよい。
(Tmax-Tmin)<Tave ・・・・・・(6)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、曲げ加工された鋼板を積層してなる巻鉄心において、不用意な効率の悪化を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。
【
図3】本発明に係る巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。
【
図4】本発明に係る巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板の屈曲部の一例を模式的に示す側面図である。
【
図5】本発明に係る巻鉄心を構成する1層の方向性電磁鋼板の一例を模式的に示す側面図である。
【
図6】本発明に係る巻鉄心を構成する1層の方向性電磁鋼板の別の一例を模式的に示す側面図である。
【
図7】本発明に係る巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板の中間層の厚さを測定する方法を説明するための模式図である。
【
図8】実施例および比較例で製造した巻鉄心の寸法を示す模式図である。
【
図9】実施例および比較例で製造した三相巻鉄心の概略構成を示すもので、(a)は正面図、(b)は(a)におけるA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る巻鉄心について順に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。なお、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」、「直角」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
また、本明細書において「方向性電磁鋼板」のことを単に「鋼板」または「電磁鋼板」と記載し、「巻鉄心」のことを単に「鉄心」と記載する場合もある。
【0020】
本実施形態に係る巻鉄心は、側面視において略矩形状の巻鉄心本体を備える巻鉄心であって、
前記巻鉄心本体は、長手方向に第1の平面部とコーナー部とが交互に連続し、当該各コーナー部を挟んで隣り合う2つの第1の平面部のなす角が90°である方向性電磁鋼板が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造を有し、
前記各コーナー部は、前記方向性電磁鋼板の側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部を2つ以上有するとともに、隣り合う前記屈曲部の間に第2の平面部を有しており、且つ、一つのコーナー部に存在する屈曲部それぞれの曲げ角度の合計が90°であり、
前記屈曲部の側面視における内面側曲率半径rは1mm以上5mm以下であり、
前記方向性電磁鋼板が質量%で、Si:2.0~7.0%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、Goss方位に配向する集合組織を有し、且つ、少なくとも一つのコーナー部において、2つ以上存在する屈曲部の少なくとも一つについて、以下の(1)~(3)式を満たすことを特徴とする。
Tave≦40nm ・・・・・・(1)
(To-Tu)/Tave≦0.50 ・・・・・・(2)
Tave(To-Tu)≦240nm2 ・・・・・・(3)
ここで、前記屈曲部に隣接する第1および第2の平面部領域の複数箇所で、前記方向性電磁鋼板の母鋼板の表面に設けられた中間層の厚さT(nm)を測定し、当該中間層の厚さT(nm)の平均厚さをTave(nm)、最大厚さをTmax(nm)、最小厚さをTmin(nm)とし、T>Taveであるデータの平均値をTo(nm)とし、T<Taveであるデータの平均値をTu(nm)とする。
【0021】
1.巻鉄心及び方向性電磁鋼板の形状
まず、本実施形態の巻鉄心の形状について説明する。ここで説明する巻鉄心および方向性電磁鋼板の形状自体は、特に目新しいものではない。例えば背景技術において特許文献9~11として紹介した公知の巻鉄心および方向性電磁鋼板の形状に準じたものに過ぎない。
図1は、巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1の実施形態に示される巻鉄心の側面図である。また、
図3は、巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。
なお、本実施形態において側面視とは、巻鉄心を構成する長尺状の方向性電磁鋼板の幅方向(
図1におけるY軸方向)に視ることをいう。側面図とは側面視により視認される形状を表した図(
図1のY軸方向の図)である。
【0022】
本実施の形態に係る巻鉄心は、側面視において略矩形状(略多角形状)の巻鉄心本体10を備える。当該巻鉄心本体10は、方向性電磁鋼板1が、板厚方向に積み重ねられ、側面視において略矩形状の積層構造2を有する。当該巻鉄心本体10を、そのまま巻鉄心として使用してもよいし、必要に応じて積み重ねられた複数の方向性電磁鋼板1を一体的に固定するために、結束バンド等、公知の締付具等を備えていてもよい。
【0023】
本実施形態において、巻鉄心本体10の鉄心長に特に制限はない。鉄心において鉄心長が変化しても、屈曲部5の体積は一定であるため屈曲部5で発生する鉄損は一定である。鉄心長が長いほうが巻鉄心本体10に対する屈曲部5の体積率は小さくなるため、鉄損劣化への影響も小さい。よって、巻鉄心本体10の鉄心長は長いほうが好ましい。巻鉄心本体10の鉄心長は、1.5m以上であることが好ましく、1.7m以上であるとより好ましい。なお、本実施形態において、巻鉄心本体10の鉄心長とは、側面視による巻鉄心本体10の積層方向の中心点における周長をいう。
【0024】
本実施形態の巻鉄心は、従来公知のいずれの用途にも好適に用いることができる。
【0025】
図1及び2に示すように、巻鉄心本体10は、長手方向に第1の平面部4とコーナー部3とが交互に連続し、当該各コーナー部3において隣接する2つの第1の平面部4のなす角が90°である方向性電磁鋼板1が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造2を有する。なお、本明細書において、「第1の平面部」および「第2の平面部」をそれぞれ単に「平面部」と記載する場合もある。
方向性電磁鋼板1の各コーナー部3は、側面視において、曲線状の形状を有する屈曲部5を2つ以上有しており、且つ、一つのコーナー部3に存在する屈曲部5それぞれの曲げ角度の合計が90°となっている。コーナー部3は、隣り合う屈曲部5の間に第2の平面部4aを有している。したがって、コーナー部3は2以上の屈曲部5と1以上の第2の平面部4aとを備えた構成となっている。
図2の実施形態は1つのコーナー部3中に2つの屈曲部5を有する場合である。
図3の実施形態は1つのコーナー部3中に3つの屈曲部5を有する場合である。
【0026】
これらの例に示されるように、本実施形態では、1つのコーナー部は2つ以上の屈曲部により構成できるが、加工時の変形による歪み発生を抑制して鉄損を抑える点からは、屈曲部5の曲げ角度φ(φ1、φ2、φ3等)は60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。
1つのコーナー部に2つの屈曲部を有する
図2の実施形態では、鉄損低減の点から、例えば、φ1=60°且つφ2=30°とすることや、φ1=45°且つφ2=45°等とすることができる。また、1つのコーナー部に3つの屈曲部を有する
図3の実施形態では、鉄損低減の点から、例えばφ1=30°、φ2=30°且つφ3=30°等とすることができる。更に、生産効率の点からは折り曲げ角度(曲げ角度)が等しいことが好ましいため、1つのコーナー部に2つの屈曲部を有する場合には、φ1=45°且つφ2=45°とすることが好ましく、また、1つのコーナー部に3つの屈曲部を有する
図3の実施形態では、鉄損低減の点から、例えばφ1=30°、φ2=30°且つφ3=30°とすることが好ましい。
【0027】
図4を参照しながら、屈曲部5について更に詳細に説明する。
図4は、方向性電磁鋼板の屈曲部(曲線部分)の一例を模式的に示す図である。屈曲部5の曲げ角度とは、方向性電磁鋼板1の屈曲部5において、折り曲げ方向の後方側の直線部と前方側の直線部の間に生じた角度差を意味し、方向性電磁鋼板1の外面において、屈曲部5を挟む両側の平面部4,4aの表面である直線部分を延長して得られる2つの仮想線Lb-elongation1、Lb-elongation2がなす角の補角の角度φとして表される。この際、延長する直線が鋼板表面から離脱する点が、鋼板外面側の表面における平面部と屈曲部の境界であり、
図6においては、点Fおよび点Gである。
【0028】
さらに、点Fおよび点Gのそれぞれから鋼板外表面に垂直な直線を延長し、鋼板内面側の表面との交点をそれぞれ点Eおよび点Dとする。この点Eおよび点Dが鋼板内面側の表面における平面部と屈曲部の境界である。
そして本実施形態において屈曲部とは、方向性電磁鋼板1の側面視において、上記点D、点E、点F、点Gにより囲まれる方向性電磁鋼板1の部位である。
図6においては、点Dと点Eの間の鋼板表面、すなわち屈曲部5の内側表面をLa、点Fと点Gの間の鋼板表面、すなわち屈曲部5の外側表面をLbとして示している。
【0029】
また、
図4には、屈曲部5の側面視における内面側曲率半径rが表わされている。上記Laを点E及び点Dを通過する円弧で近似することで、屈曲部5の曲率半径rを得る。曲率半径rが小さいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは急であり、曲率半径rが大きいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは緩やかになる。
本実施形態の巻鉄心では、板厚方向に積層された各方向性電磁鋼板1の各屈曲部5における曲率半径rは、ある程度の変動を有するものであってもよい。この変動は、成形精度に起因する変動であることもあり、積層時の取り扱いなどで意図せぬ変動が発生することも考えられる。このような意図せぬ誤差は、現在の通常の工業的な製造であれば0.2mm程度以下に抑制することが可能である。このような変動が大きい場合は、十分に多数の鋼板について曲率半径rを測定し、平均することで代表的な値を得ることができる。また、何らかの理由で意図的に変化させることも考えられるが、本実施形態はそのような形態を除外するものではない。
【0030】
なお、屈曲部5の内面側曲率半径rの測定方法にも特に制限はないが、例えば、市販の顕微鏡(Nikon ECLIPSE LV150)を用いて200倍で観察することにより測定することができる。具体的には、観察結果から、曲率中心A点を求めるが、この求め方として、例えば、線分EFと線分DGを点Bとは反対側の内側に延長させた交点をAと規定すれば、内面側曲率半径rの大きさは、線分ACの長さに該当する。
本実施形態では、屈曲部5の内面側曲率半径rを、1mm以上5mm以下の範囲として、下記に説明する方向性電磁鋼板1の母鋼板に表面に設けられる中間層の形態を最適に制御することで、鉄心の効率を磁気特性に見合った最適な効率とすることが可能となった。屈曲部5の内面側曲率半径rは、好ましくは3mm以下の場合に、本実施形態の効果がより顕著に発揮される。
また、鉄心内に存在するすべての屈曲部5が、本実施形態が規定する内面側曲率半径rを満足することが最も好ましい形態である。本実施形態の内面側曲率半径rを満足する屈曲部5と満足しない屈曲部5が存在する場合は、少なくとも半数以上の屈曲部5が、本実施形態が規定する内面側曲率半径rを満足することが望ましい形態である。
【0031】
図5及び
図6は巻鉄心本体10における1層分の方向性電磁鋼板1の一例を模式的に示す図である。
図5及び
図6の例に示されるように本実施形態に用いられる方向性電磁鋼板1は、折り曲げ加工されたものであって、2つ以上の屈曲部5から構成されるコーナー部3と、平面部4とを有し、1つ以上の方向性電磁鋼板1の長手方向の端面である接合部6(隙間)を介して側面視において略矩形の環を形成する。
本実施形態においては、巻鉄心本体10が、全体として側面視が略矩形状の積層構造2を有していればよい。
図5の例に示されるように、1つの接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心本体10の1層分を構成する(一巻ごとに1箇所の接合部6を介して1枚の方向性電磁鋼板1が接続される)ものであってもよく、
図6の例に示されるように1枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心の約半周分を構成し、2つの接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板1が巻鉄心本体10の1層分を構成する(一巻ごとに2箇所の接合部6を介して2枚の方向性電磁鋼板1が互いに接続される)ものするものであってもよい。
【0032】
本実施形態において用いられる方向性電磁鋼板1の板厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択すればよいものであるが、通常0.15mm~0.35mmの範囲内であり、好ましくは0.18mm~0.23mmの範囲である。
【0033】
2.方向性電磁鋼板の構成
次に、巻鉄心本体10を構成する方向性電磁鋼板1の構成について説明する。本実施形態においては、隣接して積層される電磁鋼板の屈曲部5近傍の中間層形態、および中間層形態を制御した電磁鋼板の鉄心内での配置部位を特徴とする。
【0034】
(1)屈曲部に隣接する平面部の中間層形態
本実施形態の巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板1は、少なくとも一部の屈曲部5近傍において、積層される鋼板の中間層形態が薄くかつ滑らかになるよう制御される。屈曲部5近傍の中間層形態が厚くかつ凹凸が激しくなると本実施形態での鉄心形状を有する鉄心における効率劣化が著しくなる。
このような現象が発生するメカニズムは明確ではないが、以下のように考えられる。
本実施形態が対象とする鉄心は、素材である鋼板の磁気特性が鉄心特性として十分に反映されるよう、歪がほとんど入らない平面部4,4aが相対的に非常に広く設計され、曲げによる歪(変形)は屈曲部5近傍の非常に狭い領域に制限されている。このため、屈曲部5近傍領域での磁気特性の劣化が鉄心全体の特性を左右することになる。屈曲部5での磁気特性の劣化は、基本的には転位密度のような格子欠陥の導入量およびそれによる結晶方位の変化を含めた磁区構造の変化に起因していると考えられる。本実施形態が対象とするような極小径の曲げ変形での歪による磁区構造の変化については、実用的な制御指針はほとんど見られないが、本実施形態のベースとなる知見によれば、中間層形態が薄くかつ滑らかな方が、同じ歪を付与した場合の磁区構造の変化が小さく、良好な磁気特性を維持しやすい状況になっていると考えている。単純には、相対的に母鋼板より硬質である中間層が厚く、母鋼板と複雑な界面形態を有していると、母鋼板の特に表層(中間層との界面近傍)領域に複雑な歪が発生し、これが磁区構造を複雑化し磁気特性を大きく劣化させてしまうものと考えられる。このような本実施形態の作用機序は本実施形態が対象とする特定形状の鉄心での特別な現象と考えられ、これまでほとんど考慮されてはいないが、本発明者らが得た知見と合致する解釈が可能である。
【0035】
本願明細書において、「中間層」とは、基本的にα-Fe相である母鋼板と、方向性電磁鋼板1に張力と絶縁性を付与する絶縁被膜の密着性を確保するために、両者の間に介在する層状(膜状)の領域を意味する。前述の背景技術で例示したフォルステライト、SiO2、TiNに限らず、上記目的のために形成される公知の物質を対象とする。また、本実施形態の効果の作用機序を考慮すると、母鋼板との変形能に相当程度の差を有する物質が対象となる。本実施形態ではこれを化合物種として規定する。すなわち、本実施形態が対象とする中間層は、金属元素の酸化物、炭化物、窒化物およびこれらが複合した物質で構成されるものとする。これらは方向性電磁鋼板1において、母鋼板と絶縁被膜の間に介在して密着性を確保する役割を担うことが知られている物質である。
母鋼板と中間層の変形能の差が小さい場合、中間層の厚さや形態によらず界面領域は全体として均一に変形するため、本実施形態の効果を適用する必要がないと同時に本実施形態の効果が発現しない。
【0036】
本実施形態においては、中間層形態は以下のように測定される。
鉄心から抜き出した方向性電磁鋼板1を、鉄心の側面と平行な断面で観察する。観察方法は、一般的な方法であればよく特別なものである必要はないが、本実施形態が対象とする中間層の厚さは非常に薄いことから、STEM(走査透過電子顕微鏡)で断面を観察して、中間層の厚さを測定する。
【0037】
具体的には、上記観察断面の屈曲部5に隣接する第1の平面部4および第2の平面部4a領域で、鋼板表面に沿った方向(長手方向)に0.1μmの間隔で決定した101箇所(すなわち、10μmの測定領域)について、電子線の径を10nmとしたエネルギー分散型X線分光法(EDS)により、板厚方向に1nm間隔で定量分析を行う。そして、中間層として想定される物質の構成元素の合計濃度、中間層がSiO2であればSiとOの合計濃度、中間層がTiNであればTiとNの合計濃度、が50原子%以上である領域を中間層として厚さを決定する。
本実施形態では、屈曲部5に隣接する第1の平面部4および第2の平面部4a領域として、屈曲部5と第1の平面部4および第2の平面部4aの境界から、屈曲部5の長さの2倍以上離れた第1の平面部4および第2の平面部4a領域を中間層の測定領域として設定する。ここで2倍以上とするのは、屈曲部5からこの程度離れた領域であれば曲げによる中間層の変形の影響を回避できるからである。注意を要するのは、本来、本実施形態の効果は上記のように屈曲部5内での中間層の形態に応じた作用機序により発現するものであり、本質的には屈曲部5内の中間層がどのように変形したか、どのように母鋼板の変形に影響を及ぼしたかで評価されるものであることである。しかし、屈曲部5内の中間層は上述のようにその形態に応じて複雑に変形し、また母鋼板の組織も複雑に変化するため、これを本実施形態の規定として定量化することは困難と考えられる。このため、本実施形態では曲げ変形を付与する前の状態、すなわち第1の平面部4および第2の平面部4aの中間層形態により、上記作用機序の発揮に対応する定量値を規定する。
なお、第2の平面部4a領域はコーナー部3内にあり、第1の平面部4領域はコーナー部3外にあるが、少なくとも一つの屈曲部5において第2の平面部4aおよび/または第1の平面部4で中間層の形態を決定する。
【0038】
本実施形態では、上記のように得られる101点の中間層の厚さの測定値から、さらに以下のように中間層の形態に関する特性値を決定する。
例えば
図7に示すように、まず、101箇所(測定箇所)の中間層の厚さT(nm)の平均厚さをTave(nm)、最大厚さをTmax(nm)、最小厚さをTmin(nm)とし、T>Taveであるデータの平均値をTo(nm)とし、T<Taveであるデータの平均値をTu(nm)とする。さらに鋼板表面方向(長手方向)に沿った厚さ分布において、T>Taveとなる測定値が連続する領域を一つの領域として数え、全測定領域内の数をNとする。このNは、10μmの測定領域内の凸部領域の数となる。すなわち、10μmの測定領域において、連続してTaveよりも厚い領域(厚さ方向に突となる領域)を凸部領域としたとき、Nは、凸部領域の数となる。
ここで上記の中間層形態の測定は、鋼板の外面側と内面側のそれぞれで行い、それぞれの面で得られるそれぞれの値を平均して、鋼板のTave、Tmax、Tmin、To、Tu、Nを求める。なお、
図7では鋼板の外表面側を模式的に示し、中間層の厚さについては、説明の都合上デフォルメしている。また、中間層の上には絶縁被膜を形成するが、当該絶縁被膜の図示は省略する。
【0039】
本実施形態においては、少なくとも一つのコーナー部3において、2つ以上存在する屈曲部5の少なくとも一つについて、以下の(1)~(3)式を満たすことを特徴とする。
Tave≦40nm ・・・・・・(1)
(To-Tu)/Tave≦0.50 ・・・・・・(2)
Tave(To-Tu)≦240nm2 ・・・・・・(3)
(1)式の規定は特別なものではなく、一般的な中間層界面を鏡面化した方向性電磁鋼板1に準じた規定である。(1)式の左辺は、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
(2)式は本実施形態の特別な特徴を表す規定のひとつと言える。この規定は、上記で説明したメカニズムを考慮すると、中間層の厚さの変動(凸部と凹部の差)が小さいことが必要条件であることを示している。(2)式の左辺は、好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下である。
(3)式は本実施形態の特別な特徴を表す規定である。この規定は、中間層の厚さが薄いほど中間層の厚さの変動(凸部と凹部の差)が許容できることを示している。これは母鋼板より硬い被膜で覆われた鋼板を曲げ変形した場合の母鋼板への影響の大きさを評価する指標に相当する規定と考えられる。(3)式の左辺は、好ましくは200nm2以下、さらに好ましくは180nm2以下である。
上記式(1)から(3)を満たすことで屈曲部5の磁区構造が折り曲げによる影響を抑制した構造となり本実施形態の効果が発現する。また、一つのコーナー部3においてコーナー部3内に存在するすべての屈曲部5について上記式(1)から(3)を満足することが好ましいことは言うまでもない。さらに巻鉄心に4つ存在するコーナー部3のすべてにおいて上記式(1)から(3)を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0040】
別の実施形態としては、少なくとも一つのコーナー部3において、2つ以上存在する屈曲部5の少なくとも一つについて、以下の(4)式を満たすことを特徴とする。
N(To-Tu)≦24nm ・・・・・・(4)
この規定は、中間層の板厚変動の急峻度、すなわち中間層に沿った領域における板厚分布の凸部から凹部に亘る板厚の変化の程度を示すものである。この値が大きいと、中間層の局所的な領域において板厚が急激に変化していることになり、屈曲部5における母鋼板の変形が複雑な状況となり、磁区構造が複雑化するため、鉄心効率を低下させることとなる。また、一つのコーナー部3においてコーナー部3内に存在するすべての屈曲部5について上記式(4)を満足することが好ましいことは言うまでもない。さらに巻鉄心に4つ存在するコーナー部3のすべてにおいて上記式(4)を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0041】
さらに別の実施形態としては、少なくとも一つのコーナー部3において、2つ以上存在する屈曲部5の少なくとも一つについて、以下の(5)式を満たすことを特徴とする。
N≧2 ・・・・・・(5)
この規定は、上記(4)式の観点からすると、上記急峻度を高めることを意味するため奇異にも思われる。しかし、Nがある程度以上の数になると、すなわち中間層に沿った領域における板厚分布の凸部から凹部に亘る板厚の変化の間隔が非常に狭くなると(4)式で評価される急峻度がある程度高い値であっても、屈曲部5における磁区構造の複雑化が抑制されることを示している。この理由は明確ではないが、界面形態の変動の大きさがある程度まで微細化しても磁区構造の複雑化および微細化には限界があるため、ある意味平坦な界面と同様に作用するようになるためと考えられる。上記(5)式によれば、板厚変化の間隔(ピッチ)が5μm以下になると、母鋼板の磁区構造への影響としては平坦な界面に近づくと解釈される。また、一つのコーナー部3においてコーナー部3内に存在するすべての屈曲部5について上記式(5)を満足することが好ましいことは言うまでもない。さらに巻鉄心に4つ存在するコーナー部のすべてにおいて上記式(5)を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0042】
さらに別の実施形態としては、少なくとも一つのコーナー部3において、2つ以上存在する屈曲部5の少なくとも一つについて、以下の(6)式を満たすことを特徴とする。
(Tmax-Tmin)<Tave ・・・・・・(6)
この規定は、単純に中間層の板厚変動の絶対的な大きさを示す指標である。(6)式の値が小さいほど好ましいことは直感的にも理解できるが、本実施形態においては、特別な意味を有する。つまり、本実施形態が対象とする中間層は非常に薄いため、工業的な製造条件の変動で異常部が発生する懸念は避けられない。たとえば中間層が欠落するような領域がわずかに存在する可能性がある。本実施形態はこのような領域を抑制することが好ましいことを規定するものである。また、一つのコーナー部3においてコーナー部3内に存在するすべての屈曲部5について上記式(6)を満足することが好ましいことは言うまでもない。さらに巻鉄心に4つ存在するコーナー部3のすべてにおいて上記式(6)を満足することが好ましいことは言うまでもない。
【0043】
(2)方向性電磁鋼板
上述のように、本実施形態において用いられる方向性電磁鋼板1において母鋼板は、当該母鋼板中の結晶粒の方位が{110}<001>方位に高度に集積された鋼板であり、圧延方向に優れた磁気特性を有するものである。
本実施形態において母鋼板は、公知の方向性電磁鋼板を用いることができる。以下、好ましい母鋼板の一例について説明する。
【0044】
母鋼板の化学組成は、質量%で、Si:2.0%~6.0%を含有し、残部がFeからなる。この化学組成は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織に制御し、良好な磁気特性を確保するためである。その他の元素については、特に限定されるものではなく、Feに置き換えて、公知の元素を公知の範囲で含有することが許容される。代表的な元素の代表的な含有範囲は以下のようである。
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、
Ni:0~1.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよいので下限値を制限する必要がなく、実質的に含有していなくてもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、本実施形態の効果は損なわれない。なお、不純物は意図せず含有される元素を指し、母鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入する元素を意味する。
【0045】
母鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、母鋼板の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、被膜除去後の母鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を取得し、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより特定できる。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
【0046】
なお、上記の化学組成は、母鋼板の成分である。測定試料となる方向性電磁鋼板1が、表面に酸化物等からなる一次被膜(グラス被膜、中間層)、絶縁被膜等を有している場合は、これらを公知の方法で除去してから化学組成を測定する。
【0047】
(3)方向性電磁鋼板の製造方法
方向性電磁鋼板1の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適宜選択することができる。製造方法の好ましい具体例としては、例えば、Cを0.04~0.1質量%とし、その他は上記方向性電磁鋼板1の化学組成を有するスラブを1000℃以上に加熱して熱間圧延を行った後、必要に応じて熱延板焼鈍を行い、次いで、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷延により冷延鋼板とし、当該冷延鋼板を、例えば湿水素-不活性ガス雰囲気中で700~900℃に加熱して脱炭焼鈍し、必要に応じて更に窒化焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布した上で、1000℃程度で仕上焼鈍し、900℃程度で絶縁皮膜を形成する方法が挙げられる。さらにその後、動摩擦係数を調整するための塗装などを実施しても良い。
また、一般的に「磁区制御」と呼ばれる処理を鋼板の製造工程において公知の方法で施した鋼板であっても本実施形態の効果を享受できる。
【0048】
本実施形態で使用される方向性電磁鋼板1の特徴である中間層の形態を制御する方法は特に限定されるものでなく、公知の方法を適宜用いればよい。例えば、アルミナ(Al2O3)を主成分とする焼鈍分離剤を用いた仕上焼鈍の後の熱酸化により様々な形態の中間層を形成することが可能である。または、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤を用いた仕上焼鈍の後に、鋼板表面に形成されたフォルステライトを酸洗や研削で剥離し、その後の絶縁被膜を形成する焼付焼鈍の昇温過程における酸化挙動を制御して様々な形態の中間層を形成することが可能である。
【0049】
3.巻鉄心の製造方法
本実施形態に係る巻鉄心の製造方法は、前記本実施形態に係る巻鉄心を製造することができれば特に制限はなく、例えば背景技術において特許文献9~11として紹介した公知の巻鉄心に準じた方法を適用すれば良い。特にAEM UNICORE社のUNICORE(https://www.aemcores.com.au/technology/unicore/)製造装置を使用する方法は最適と言える。
【0050】
さらに公知の方法に準じて、必要に応じて熱処理を実施しても良い。また得られた巻鉄心本体10は、そのまま巻鉄心として使用してもよいが、更に必要に応じて積み重ねられた複数の方向性電磁鋼板1を結束バンド等、公知の締付具等を用いて一体的に固定して巻鉄心としてもよい。
【0051】
本実施形態は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について更に説明する。以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件例であり、本発明は、この条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0053】
(方向性電磁鋼板)
表1に示す化学組成(質量%、表示以外の残部はFe)を有するスラブを素材として、表2に示す化学組成(質量%、表示以外の残部はFe)を有する最終製品とした。
表1および表2において、「-」は含有量を意識した制御および製造をしておらず含有量の測定を実施していない元素である。
【0054】
【0055】
【0056】
製造工程は一般的な公知の方向性電磁鋼板の製造条件に準じたものである。
熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延を実施した。一部については、脱炭焼鈍後の冷延鋼板に、水素-窒素-アンモニアの混合雰囲気で窒化処理(窒化焼鈍)を施した。
さらに、主成分をマグネシアまたはアルミナとし、これらの混合割合を変化させた焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍鋼板の表面に形成された一次被膜の上に、燐酸塩とコロイド状シリカを主体としクロムを含有する絶縁被膜コーティング溶液を塗布し、これを熱処理して、絶縁被膜を形成した。一部の材料については、仕上焼鈍鋼板の時点で一次被膜を剥離し鏡面化した母鋼板の表面に、イオンプレーティングによりTiNの被膜を形成したのち、燐酸塩とコロイド状シリカを主体としクロムを含有する絶縁被膜コーティング溶液を塗布し、これを熱処理して、絶縁被膜を形成した。
【0057】
このようにして、母鋼板と絶縁被膜の間に介在して両者の密着性を確保する中間層の種類および形態を調整した鋼板を製造した。製造された鋼板の詳細は表3に示す。
【0058】
【0059】
(鉄心)
各鋼板を素材として、表4および
図8に示す形状を有するコアNo.a~hの鉄心を製造した。この際、コアNo.gおよびhの鉄心については、それぞれ単独の鉄心として試験に供するのではなく、それぞれを3個準備して単位鉄心とし、これらを
図9に示すように正三角筒状に配置し、それぞれの柱(第1の平面部4を含む部位)にコイルを巻いた三相巻鉄心(例えば特開2005-333057号公報に示されるような鉄心)を製造した。また、3個の単位鉄心は正三角筒の軸を中心として対称に配置されている。
図9の(a)は三相巻鉄心の概略構成を示す正面図、
図9の(b)は
図9の(a)におけるA-A線断面図である。
なお、L1はX軸方向に平行で、中心CLを含む平断面での巻鉄心の最内周にある互いに平行な方向性電磁鋼板1間の距離(内面側平面部間距離)である。L2はZ軸方向に平行で、中心CLを含む縦断面での巻鉄心の最内周にある互いに平行な方向性電磁鋼板1間の距離(内面側平面部間距離)である。L3はX軸方向に平行で、中心CLを含む平断面での巻鉄心の積層厚さ(積層方向の厚さ)である。L4はX軸方向に平行で中心CLを含む平断面での巻鉄心の積層鋼板幅である。L5は巻鉄心の最内部の互いに隣り合って、かつ、合わせて直角をなすように配置された平面部間距離(屈曲部間の距離)である。言い換えると、L5は、最内周の方向性電磁鋼板の平面部4,4aのうち、最も長さが短い平面部4aの長手方向の長さである。rは巻鉄心の内面側の屈曲部の曲率半径であり、φは巻鉄心の屈曲部の曲げ角度である。略矩形状のコアNo.a~hの鉄心は、内面側平面部間距離がL1である平面部が距離L1のほぼ中央で分割されており、「略コの字」の形状を有する2つの鉄心を結合した構造となっている。ここで、コアNo.fの鉄心は、従来から一般的な巻鉄心として利用されている、鋼板を筒状に巻き取った後、筒状積層体のままコーナー部3を一定曲率になるようにプレスし、略矩形に形成した後、焼鈍することにより形状保持を行う方法により製造された鉄心である。このため、屈曲部5の曲率半径rは鋼板の積層位置により大きく変動する。表4のrは最内面でのrである。rは外側となるに従って増加し、最外周部では約90mmとなっている。
【0060】
【0061】
(評価方法)
(1)方向性電磁鋼板の磁気特性
方向性電磁鋼板1の磁気特性は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)に基づいて測定した。
磁気特性として、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度B8(T)、さらに交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.7Tでの鉄損を測定した。
(2)中間層の形態
前述の通り鉄心から抜き出した鋼板の断面観察により中間層の形態を測定した。
(3)鉄心の効率
各鋼板を素材とする鉄心について電力計計測に基づいて鉄心効率を測定した。
【0062】
磁区幅が異なる各種鋼板を用いて製造した各種鉄心における効率を評価した。結果を表5に示す。同じ鋼種を用いた場合であっても、中間層の形態を適切に制御することにより鉄心の効率を向上できることがわかる。
【0063】
【0064】
以上の結果より、本発明の巻鉄心は、少なくとも一つのコーナー部3において、2つ以上存在する屈曲部5の少なくとも一つについて、上述した(1)~(3)式を満たすから、高い効率を備えることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、曲げ加工された鋼板を積層してなる巻鉄心において、不用意な効率の悪化を効果的に抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0066】
1 方向性電磁鋼板
2 積層構造
3 コーナー部
4 第1の平面部
4a 第2の平面部
5 屈曲部
6 接合部
10 巻鉄心本体