(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】閉胸器
(51)【国際特許分類】
A61B 17/82 20060101AFI20221206BHJP
F16B 2/12 20060101ALI20221206BHJP
F16B 7/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61B17/82
F16B2/12 Z
F16B7/04 301G
(21)【出願番号】P 2022077538
(22)【出願日】2022-05-10
【審査請求日】2022-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591131408
【氏名又は名称】日本ビー・エックス・アイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511212240
【氏名又は名称】束原 幸俊
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 和雄
(72)【発明者】
【氏名】束原 幸俊
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0117638(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107961064(CN,A)
【文献】特表2008-500114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/82
F16B 2/12
F16B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正中切開され、左右に分離された切開胸骨間に跨って配置可能とされ、胸骨に面する胸骨側面を一つの平面
とされた箱体により形成された支持体と、
胸骨、若しくは胸骨から左右方向に延びる肋骨に各先端部が係合可能とされ、前記各先端部の係合方向が互いに対向方向とされた左右一対の係合体と、
前記
箱体の内部空間に
収容されて固設され、前記係合
体に結合され、前記係合体同士の対向距離を伸縮させる伸縮機構と、
前記箱体内で前記伸縮機構に先端部が結合され、前記箱体から外部に貫通されて前記伸縮機構を伸縮操作可能と
された操作部と、
を備え、
前記一対の係合体は、胸骨の大きさに影響されずに胸骨を前記支持体に当接した状態で把持可能とするように、互いの対向面の前記支持体から胸骨側に突出する部分が全体として一つのなだらかな湾曲形状に形成され、該湾曲形状は内周側同士が互いに向かい合っている閉胸器。
【請求項2】
請求項1において、
前記支持体は、前記係合体同士の対向距離を前記支持体の外形寸法よりも小さくできるように、前記係合体が前記支持体の一部を横切って前記支持体の外形より内側に移動可能とする貫通経路を備える閉胸器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓外科、胸部外科等で正中切開された胸骨を再結合する際に補助具として使用される閉胸器に関する。
【背景技術】
【0002】
切開胸骨の再結合には、ワイヤの他、胸骨クリップ(特許文献1参照)が使用される場合がある。胸骨クリップは、切開された胸骨を結合した状態に保持するように装着されるが、装着するためには、左右に開かれた切開胸骨を左右の隙間なしに閉じる必要がある。しかし、左右に開かれた胸骨を閉じた状態に維持するには、大きな力が継続して必要であり、補助具としての閉胸器(非特許文献1参照)が有用である。閉胸器の概要を
図20に示す。閉胸器は、左右に開かれた切開胸骨を左右方向の外側から挟み込む左右一対のクランプ部材Aと、それらのクランプ部材Aの間隔を調整するラック・アンド・ピニオン機構Bと、ラック・アンド・ピニオン機構Bのピニオンギヤを手動操作により回転させるハンドルCと、を備える。
【0003】
係る閉胸器を使って正中切開された胸骨を再結合する際には、左右一対のクランプ部材Aにより左右に開かれた切開胸骨を挟んだ状態とし、ハンドルCを回転してラック・アンド・ピニオン機構Bを作動させて一対のクランプ部材Aの間隔を狭める。その結果、左右一対のクランプ部材Aにより左右に開かれた切開胸骨を互いに接近状態とすることができる。この状態では胸骨クリップを切開胸骨の左右両側に容易に係合し装着させることができる。ラック・アンド・ピニオン機構Bのピニオンギヤの外周部には、ラックB1に係止可能とされたリリースレバーDが設けられている。リリースレバーDの係止爪は、ラックB1に係止可能とされ、係止状態では、ハンドルCの操作力を解除しても一対のクランプ部材Aの相対位置は維持される。リリースレバーDを操作して、係止爪のラックB1への係止状態を解除すると、一対のクランプ部材Aの相対位置は変更自在となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】村中医療器株式会社のホームページ中の「閉胸器」(https://www.muranaka.co.jp/upload/pdf/45101750_Z04_tenpu.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように閉胸器と胸骨クリップを使用する胸骨の再結合では、胸骨クリップにより結合状態に保持された左右の胸骨が互いに上下方向及び前後方向、又はいずれかの方向にずれることがある。その結果、胸骨の再結合に時間がかかり、再結合したとしても肋骨の位置が左右でアンバランスになる問題がある。
【0007】
本発明の課題は、胸骨クリップのような結合具により正中切開された胸骨を再結合する前段階で、左右の切開胸骨を互いに接近状態に保持する閉胸器において、左右の切開胸骨を互いに接近させるに当たり一つの平面に沿って胸骨の位置をガイドすることにある。それより、互いに接近状態に保持された左右の切開胸骨が上下方向及び前後方向、又はいずれかの方向にずれて再結合されるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の閉胸器は、正中切開され、左右に分離された切開胸骨間に跨って配置可能とされ、胸骨に面する胸骨側面を一つの平面とされた箱体により形成された支持体と、胸骨、若しくは胸骨から左右方向に延びる肋骨に各先端部が係合可能とされ、前記各先端部の係合方向が互いに対向方向とされた左右一対の係合体と、前記箱体の内部空間に収容されて固設され、前記係合体に結合され、前記係合体同士の対向距離を伸縮させる伸縮機構と、前記箱体内で前記伸縮機構に先端部が結合され、前記箱体から外部に貫通されて前記伸縮機構を伸縮操作可能とされた操作部と、を備え、前記一対の係合体は、胸骨の大きさに影響されずに胸骨を前記支持体に当接した状態で把持可能とするように、互いの対向面の前記支持体から胸骨側に突出する部分が全体として一つのなだらかな湾曲形状に形成され、該湾曲形状は内周側同士が互いに向かい合っている。
【0009】
第1発明において、係合体の湾曲形状は、厳密な円弧形状でなくてもよい。即ち、係合体は、胸骨の大きさに影響されずに胸骨を支持体に当接した状態で把持可能とするものであれば、湾曲形状の曲率は一律でなく、途中で多少変化するものでもよい。
【0010】
第1発明によれば、支持体の胸骨側面を切開胸骨に当接した状態で、胸骨、若しくは肋骨に係合体の先端部を係合させ、操作部を操作して伸縮機構を作動すると、各係合体間の距離が短縮される。そのため、切開胸骨が互いに接近される。このとき、切開胸骨同士の上下方向及び前後方向、又はいずれかの方向の位置ずれをなくすように切開胸骨を移動させる。その移動は、支持体の胸骨側面の平面に沿ってガイドされ、係るガイドがない場合に比べて切開胸骨同士の位置ずれを容易に修正することができる。しかも、一対の係合体は、互いの対向面が一つのなだらかな湾曲形状に形成されているため、胸骨の大きさに影響されずに胸骨を支持体に当接した状態で把持することができる。
【0011】
第2発明は、上記第1発明において、前記支持体は、前記係合体同士の対向距離を前記支持体の外形寸法よりも小さくできるように、前記係合体が前記支持体の一部を横切って前記支持体の外形より内側に移動可能とする貫通経路を備える。
【0012】
第2発明によれば、係合体が貫通経路を通って移動することにより係合体同士の対向距離を支持体の外形寸法より小さくすることができる。逆に、支持体の胸骨側面の大きさを係合体同士の対向距離の大きさに制約されることなく大きくすることができる。従って、離間距離が大きい切開胸骨に対しても支持体の胸骨側面を胸骨移動時のガイドとして使用可能とすることができる。
【0013】
第3発明は、上記第1発明において、前記支持体は、前記係合体同士の対向距離の最小値を前記支持体の外形寸法よりも大きくできるように、前記伸縮機構の前記係合体との結合部が前記支持体の一部を横切って前記支持体の外側に露出可能とする貫通経路を備える。
【0014】
第3発明によれば、伸縮機構の係合体との結合部が貫通経路を通って移動することにより係合体同士の対向距離の大きさに制約されることなく支持体の外形寸法を小さくすることができる。従って、支持体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態の部分断面平面図である。
【
図5】
図4と同様の斜視図であり、箱体の裏面側を示す。
【
図6】第1実施形態の伸縮機構を示す斜視図である。
【
図7】
図2のVII-VII線断面矢視拡大図である。
【
図8】
図7と同様の図であり、操作部を操作した状態を示す。
【
図9】第1実施形態を胸骨に装着した状態を示す正面図である。
【
図10】
図9と同様の図であり、別の装着例を示す。
【
図11】
図9と同様の図であり、更に別の装着例を示す。
【
図12】
図9のXII-XII線断面矢視拡大図である。
【
図13】
図11のXIII-XIII線断面矢視拡大図である。
【
図14】本発明の第2実施形態の部分断面平面図である。
【
図17】第1実施形態における箱体に対する柄鎌の移動範囲を模式的に示す説明図である。
【
図18】第2実施形態における箱体に対する柄鎌の移動範囲を模式的に示す説明図である。
【
図19】本発明の第3実施形態の部分断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態の構成>
図1~3は、本発明の閉胸器の第1実施形態を示す。第1実施形態の閉胸器1は、
図20により説明した従来の閉胸器と同様、正中切開された胸骨を胸骨クリップにより再結合する前段階で、左右に開かれた胸骨を互いに接近状態に保持するための補助具である。
図1以降の各図では、
図9のように左右に開かれた胸骨Sを互いに接近状態に保持している閉胸器1における前後、上下、左右の各方向を矢印により示している。以下、方向に関する記述は、各図の矢印で示す方向に基づいて行う。
【0017】
図1~3のように、閉胸器1は、左右に分離された胸骨を互いに接近方向に引き寄せるための左右一対の柄鎌(本発明の係合体に相当)20と、各柄鎌20に結合され、各柄鎌20間の対向距離を伸縮させる伸縮機構30と、伸縮機構30を内部に収容する箱体(本発明の支持体に相当)10とを備える。箱体10は、内部に空間を備えた六面体であり、
図12のように正中切開され、左右に分離された切開胸骨S間に跨って配置可能とされている。また、柄鎌20は、
図2、6、10のように鎌の刃状に湾曲形状を成しており、湾曲形状の内周側が胸骨Sに対する係合方向である。そして、左右一対の柄鎌20は、各係合方向が互いの対向方向とされている。閉胸器1の各部は、全てステンレス鋼板により形成されている。
【0018】
伸縮機構30は、
図6のようにラック・アンド・ピニオン機構であり、一つのピニオンギヤ32が、一対のラック31に挟まれて各ラック31のギヤに噛合されている。
図1、6において、ピニオンギヤ32を時計回りに回転させると、各ラック31に結合された柄鎌20を互いに接近する方向に移動させる。ピニオンギヤ32を反時計方向に回転させた場合には、柄鎌20を互いに離間する方向に移動させる。
【0019】
各ラック31は、ギヤを形成された面を正面としたとき、前面、後面、背面の3面を摺動面として箱体10内で摺動自在とされている。そのため、各ラック31の背面は、箱体10の上下各側部17に当接しており、各ラック31の前面は、箱体10の段部11の後面に当接し、各ラック31の後面は、箱体10の底部16の前面に当接している。段部11は、箱体10の両側部17が対向方向に突出形成されて各ラック31の前面に係合するように形成されている。
【0020】
各ラック31の左端部又は右端部には、結合部21によって柄鎌20が結合されている。各ラック31は、箱体10内で上下方向の各側部17に寄せて配置されているが、柄鎌20は、ピニオンギヤ32の回転中心に対応する両側部17間の中間位置に配置されている。そのため、各結合部21は、上下方向に鉤型に屈曲されてラック31と柄鎌20をそれぞれ結合している。
【0021】
図1~5のように、箱体10の左右各端部18及び底部16には、柄鎌20の移動方向に沿って、移動する柄鎌20が通過可能なスリット状の貫通経路12が形成されている。伸縮機構30により各柄鎌20が互いに接近する方向に移動され最接近位置とされるとき、各柄鎌20は、貫通経路12を通過して箱体10の各端部18及び底部16を横切って移動される。各端部18及び底部16は、本発明の支持体の一部に相当する。この様子は、
図17に模式的に示されている。
図17において、箱体10に重複して描かれた2本の矢印が各柄鎌20の左右方向の移動範囲を示している。即ち、箱体10の左右方向の大きさに対して各柄鎌20が左右方向で箱体10内まで侵入して移動することを示している。そのため、各柄鎌20間の対向距離は、箱体10の各端部18間の距離(外形寸法に相当)より小さくすることができる。逆に、箱体10の各端部18間の大きさ(後述の胸骨側面14の大きさ)を各柄鎌20間の対向距離の大きさに制約されることなく大きくすることができる。従って、離間距離が大きい切開胸骨Sに対しても箱体10の胸骨側面14を胸骨移動時のガイドとして使用可能とすることができる。
【0022】
図2のように、ピニオンギヤ32の回転中心には、ピニオンギヤ32を回転操作するための操作部40が結合されている。操作部40は、ピニオンギヤ32の回転中心から箱体10の前方の天部19を貫通して配置された操作軸42と、操作軸42の前端に結合された蝶ボルト形状のハンドル41とを備える。操作部40は、天部19及びピニオンギヤ32に対して前後方向に摺動自在とされている。
図7、8のように、操作軸42の後方端部は、前方よりも細径の回転軸47とされ、回転軸47は、箱体10の底部16の軸受孔48に挿入されて回転自在に支持されている。回転軸47の周りには、圧縮コイルばね43が巻かれており、圧縮コイルばね43は、箱体10の底部16に対して操作軸42を離間させる方向に付勢している。底部16の前面には、軸受孔48の周りを囲んで、環状突起16aが前方に突出して形成されている。環状突起16aは、ピニオンギヤ32の回転中心にあって回転軸受として機能している。
【0023】
また、操作軸42は、箱体10の天部19及びピニオンギヤ32に対してそれぞれスプライン結合されている。具体的には、ピニオンギヤ32の回転中心には、スプライン孔33が形成されており、操作軸42のスプライン孔33に挿入される部分には、第1スプライン44が形成されている。第1スプライン44は、スプライン孔33に噛合可能とされている。また、天部19の操作軸42が貫通する孔は、スプライン孔13とされ、操作軸42のスプライン孔13と対応する部分には、第2スプライン45が形成されている。第2スプライン45は、スプライン孔13に噛合可能とされている。操作軸42の第1スプライン44と第2スプライン45に挟まれた位置には、操作軸42の外径を拡径したフランジ部46が形成されている。フランジ部46の外径は、天部19のスプライン孔13及びピニオンギヤ32のスプライン孔33の各内径よりも大きくされている。そのため、圧縮コイルばね43の付勢力により操作軸42が前方へ移動されたとき、フランジ部46が天部19の後面に当接して操作軸42の移動を、その位置で規制している(
図7参照)。また、ハンドル41を後方に押圧して操作軸42が圧縮コイルばね43の付勢力に抗して後方へ移動されたとき、フランジ部46がピニオンギヤ32の前面に当接して操作軸42の移動を、その位置で規制している(
図8参照)。
図7のようにフランジ部46が天部19の後面に当接した位置では、操作軸42の第1スプライン44はスプライン孔33に噛合した状態にあり、第2スプライン45もスプライン孔13に噛合した状態にある。一方、
図8のようにフランジ部46がピニオンギヤ32の前面に当接した位置では、操作軸42の第1スプライン44はスプライン孔33に噛合した状態にあり、第2スプライン45はスプライン孔13に噛合しない状態にある。
【0024】
そのため、ピニオンギヤ32を回転操作するためハンドル41を後方へ押圧しながら回転操作すると、第1スプライン44はスプライン孔33に噛合し、第2スプライン45はスプライン孔13に噛合しないため、ピニオンギヤ32の回転操作は可能となる。ピニオンギヤ32の回転操作を終了してハンドル41への操作力を解放すると、圧縮コイルばね43の付勢力により操作軸42は前方へ移動して第1スプライン44はスプライン孔33に噛合したままで、第2スプライン45はスプライン孔13に噛合する。そのため、ピニオンギヤ32は回転を規制される。その結果、ピニオンギヤ32の回転操作終了後に柄鎌20側からの力を受けるなどして各ラック31が左右方向のいずれかに移動しようとしても、ピニオンギヤ32の回転が規制されているため、各ラック31及び柄鎌20の位置はハンドル41の操作を終了した位置に保持される。
【0025】
<第1実施形態の作用>
図9、12は、第1実施形態の閉胸器1を使用して左右に開かれた胸骨Sを接近させた状態の第1例を示す。
【0026】
正中切開された胸骨Sを再結合する場合、左右に開かれた状態にある胸骨Sの両外側で、左右の肋骨Rの胸骨S側根元部に閉胸器1の左右の柄鎌20を個別に係合する必要がある。そのため、胸骨Sの両外側の間隔に対して左右の柄鎌20間の対向距離が同じになるようにハンドル41を操作して左右の柄鎌20間の対向距離を調整する。左右の胸骨Sが大きく開かれているときは、左右の柄鎌20間の対向距離の間隔を最大に開いても胸骨Sの両外側の間隔に届かない。そのため、まずは左右に切開された胸骨Sの上下端部(胸骨柄と剣状突起に相当)のそれぞれに開けられた各孔HにワイヤWを通して切開された胸骨S間の距離を縮めるようにワイヤWを締め付ける。
図9では、胸骨Sの上端部にある胸骨柄は上下2本のワイヤWで締め付けられている。なお、各孔Hは、必要に応じて胸骨S若しくは肋骨Rに開けられる。また、各孔Hは、左右対称に開けられることが望ましい。
【0027】
胸骨Sの両外側に閉胸器1の各柄鎌20の先端部が係合可能となった状態で胸骨Sの両外側に各柄鎌20の先端部を係合して各柄鎌20間の間隔(距離)を縮めるようにハンドル41を時計回りに回転する。閉胸器1は、必要に応じて
図9のように複数個(
図9では上下に離間させて2個)使用される。各柄鎌20間の間隔(距離)を縮めて左右に開かれた胸骨Sの間隔を縮めるとき、左右の胸骨Sが互いに対向する位置から上下、前後にずれてしまうことがある。そのようなずれが生じた場合、そのずれを無くすように左右の胸骨S又は肋骨Rを持って位置調整する。そのとき、
図12に矢印で示すように、胸骨Sを閉胸器1の箱体10の後面である胸骨側面14に押し付けながら行うことができる。各柄鎌20は、箱体10から胸骨側に突出する部分が全体として一つのなだらかな湾曲形状に形成され、該湾曲形状は内周側同士が互いに向かい合っている。そのため、胸骨の大きさに影響されずに胸骨を箱体10に当接した状態で把持することができる。それにより、胸骨Sの前後方向のずれは、胸骨側面14の平面に沿って揃えられて抑制される。また、胸骨Sの上下方向のずれは、胸骨側面14の平面に沿って左右の胸骨Sがそれぞれ摺動されて抑制される。箱体10は、ステンレス製のため、胸骨側面14の平面上での胸骨Sの摺動摩擦抵抗は小さくされている。そのため、上記各方向のずれを容易に修正することができる。
【0028】
図9、12のように左右の胸骨Sが互いに当接した状態となると、肋骨Rの根元で閉胸器1が装着されていない部位に左右の胸骨Sの両外側に胸骨クリップCLを装着する。
図9のように胸骨クリップCLは上下方向に複数個(
図9では2個)装着されるが、
図9の場合は、2個の閉胸器1が装着された状態で、2個の閉胸器1の間に2個の胸骨クリップCLを最初に装着する。その状態で、各閉胸器1を装着状態から外して、その場所にそれぞれ胸骨クリップCLを装着する。このようにして、正中切開された胸骨Sの再結合の作業は終了となる。
【0029】
図10は、第1実施形態の閉胸器1を使用して左右に開かれた胸骨Sを接近させた状態の第2例を示す。
【0030】
図10の第2例が
図9の第1例に対して相違する点は、2個の閉胸器1を胸骨Sの上下方向の中央部分に装着した点である。その他は両者同一である。但し、胸骨Sの上下方向の中央部分は、胸骨Sの左右幅が狭いため、閉胸器1の左右の柄鎌20の対向距離は閉胸器1の箱体10の左右幅よりも小さくなる。そのため、
図10では左右の柄鎌20は、閉胸器1の箱体10に隠れて見えなくなっている。
【0031】
図10のように閉胸器1により左右の胸骨Sが互いに当接した状態となると、閉胸器1の上下両側の肋骨Rの根元で左右の胸骨Sの両外側に胸骨クリップCLをそれぞれ装着する。その後、2個の閉胸器1を装着状態から外して、その場所にそれぞれ胸骨クリップCLを装着する。このようにして、正中切開された胸骨Sの再結合の作業は終了となる。
【0032】
図11、13は、第1実施形態の閉胸器1を使用して左右に開かれた胸骨Sを接近させた状態の第3例を示す。
【0033】
図11の第3例が
図10の第2例に対して相違する点は、胸骨Sと一体の左右の肋骨Rに開けた各孔Hに閉胸器1の左右の柄鎌20を個別に挿入して各柄鎌20を肋骨Rに係合させた点である。その他は両者同一である。
【0034】
図11、13のように左右の胸骨Sが互いに当接した状態となると、肋骨Rの根元で左右の胸骨Sの両外側に胸骨クリップCLを装着する。
図11のように胸骨クリップCLは上下方向に複数個(
図11では4個)装着されるが、
図11の場合は、3個の閉胸器1が装着された状態で、上から1番目の閉胸器1の上と、上から3番目の閉胸器1の下に胸骨クリップCLを最初に装着する。その状態で、上から1番目の閉胸器1と上から3番目の閉胸器1を装着状態から外して、残った上から2番目の閉胸器1の上下にそれぞれ胸骨クリップCLを一つずつ装着する。最後に残った上から2番目の閉胸器1を装着状態から外して、正中切開された胸骨Sの再結合の作業は終了となる。
【0035】
<第2実施形態>
図14、15は、本発明の第2実施形態を示す。第2実施形態が第1実施形態に対して特徴とする点は、第1実施形態のピニオンギヤ32が平歯車であるのに対し、第2実施形態のピニオンギヤ35をウォームギヤとした点である。その変更に応じてラック34の歯形も変更されている。また、ピニオンギヤ35をウォームギヤとしたことによりラック34側からの移動によりピニオンギヤ35は回転されないため、第2実施形態では、第1実施形態で設けられていた操作軸42のスプライン結合は設けられていない。その他の構成、作用は、第2実施形態においても第1実施形態と同一であり、同一部分についての再度の説明は省略する。
【0036】
但し、第2実施形態では、第1実施形態における箱体10の貫通経路12を設けず、代わりに貫通経路15を設けている。貫通経路15は、各柄鎌20間の対向距離を伸縮させるとき、各ラック34の結合部21が箱体10の外に露出可能としている。従って、貫通経路15は、
図16にも示すように箱体10の左右の各端部(本発明の支持体の一部に相当)18にラック34が貫通可能な大きさで形成されている。そのため、各柄鎌20は、箱体10の大きさに制約されることなく、ピニオンギヤ35が各ラック34と噛合できなくなる位置まで各先端部間の距離を大きくすることができる。一方、各柄鎌20間の対向距離は、各ラック34の反結合部21側端が各端部18の内壁に当接する位置で最小となる。第2実施形態の柄鎌20の移動範囲は、
図18の箱体10の左右両側の2本の矢印で示されている。即ち、箱体10の左右方向の大きさに対して柄鎌20は左右方向で箱体10の外側に離れた領域で移動している。そのため、各柄鎌20間の対向距離の大きさに制約されることなく箱体10の外形寸法を小さくすることができる。従って、箱体10を小型化することができる。
【0037】
<第3実施形態>
図19は、本発明の第3実施形態を示す。第3実施形態が第1実施形態に対して特徴とする点は、一対の柄鎌20のうち、一つの柄鎌20は箱体10の端部18に固定し、残りの一つの柄鎌20のみを伸縮機構30によって固定された柄鎌20に対して伸縮作動可能とした点にある。そのため、ラック31は一つのみとされている。その他の構成、作用は、第3実施形態においても第1実施形態と同一であり、同一部分についての再度の説明は省略する。
【0038】
第3実施形態では、伸縮機構30により伸縮作動される柄鎌20は、左側の一方のみとされているが、左右両側の柄鎌20が胸骨S又は肋骨Rに係合された状態で、伸縮機構30により一方の柄鎌20が固定された柄鎌20の方向に引き寄せられることにより、左右の柄鎌20の各先端部間の距離を縮めることができる。但し、ラック31が一つのみであるため、操作部40の回転操作に対する左右の柄鎌20の各先端部間の距離の変化は第1実施形態の場合に比べてゆっくり行われる。しかし、第3実施形態の場合、ラック31が一つとなった分だけ第1実施形態に比べて閉胸器1の構成は簡素化されるメリットがある。
【0039】
<その他の実施形態>
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、上記実施形態では、支持体を箱体10により構成したが、胸骨に面する胸骨側面14を一つの平面とされ、伸縮機構30を支持するものであれば箱体10に限定されない。また、係合体を柄鎌20としたが、これに限定されない。更にまた、伸縮機構をラック・アンド・ピニオン機構としたが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1 閉胸器
10 箱体(支持体)
11 段部
12、15 貫通経路
13 スプライン孔
14 胸骨側面
16 底部
16a 環状突起
17 側部
18 端部
19 天部
20 柄鎌(係合体)
21 結合部
30 伸縮機構
31、34 ラック
32、35 ピニオンギヤ
33 スプライン孔
40 操作部
41 ハンドル
42 操作軸
43 圧縮コイルばね
44 第1スプライン
45 第2スプライン
46 フランジ部
47 回転軸
48 軸受孔
S 胸骨
R 肋骨
H 孔
W ワイヤ
CL 胸骨クリップ
【要約】
【課題】胸骨クリップのような結合具により正中切開された胸骨を再結合する前段階で、左右の切開胸骨を互いに接近状態に保持する閉胸器において、左右の切開胸骨を互いに接近させるに当たり一つの平面に沿って胸骨の位置をガイドすることにある。それより、互いに接近状態に保持された左右の切開胸骨が上下方向及び前後方向、又はいずれかの方向にずれて再結合されるのを抑制する。
【解決手段】分離された切開胸骨S間に跨って配置可能とされ、胸骨Sに面する胸骨側面14を平面に形成された箱体10と、胸骨S、若しくは胸骨Sから左右方向に延びる肋骨Rに各先端部が係合可能とされ、各先端部の係合方向が互いに対向方向とされた左右一対の柄鎌20と、箱体10内に設けられ、柄鎌20に結合され、柄鎌20同士の対向距離を伸縮させる伸縮機構(30)と、伸縮機構(30)を伸縮操作可能とする操作部40と、を備える。
【選択図】
図12