(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ホウ素系結合材を用いたダイヤモンド基複合材及びその製造方法、並びにこれを用いた工具要素
(51)【国際特許分類】
C04B 35/52 20060101AFI20221206BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20221206BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20221206BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20221206BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20221206BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20221206BHJP
B24D 3/02 20060101ALI20221206BHJP
B24D 3/08 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C04B35/52
C04B35/645
B23B27/14 B
B23B27/20
B24D3/00 320B
B24D3/06 A
B24D3/00 340
B24D3/02 A
B24D3/08
(21)【出願番号】P 2017203486
(22)【出願日】2017-10-20
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2017126280
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】石塚 博
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-169179(JP,A)
【文献】特開昭58-199776(JP,A)
【文献】特開2003-181765(JP,A)
【文献】特開2003-011019(JP,A)
【文献】特開平06-199571(JP,A)
【文献】特開昭62-114879(JP,A)
【文献】特開2008-133173(JP,A)
【文献】特開昭63-079758(JP,A)
【文献】特開昭53-009804(JP,A)
【文献】特開2002-018267(JP,A)
【文献】特開平09-142932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/52-35/536
C04B 35/645
C01B 32/25-32/28
B23B 27/14-27/20
B24D 3/00-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のダイヤモンド粒子と、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料とからなる出発物質の加圧加熱処理によって、結合一体化された複合材
であって、
出発物質全体におけるダイヤモンド粒子の含有量が60%~
90%(質量比。以下同様)、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料の含有量が
10%~40%である、
前記複合材。
【請求項2】
複数個のダイヤモンド粒子と金属ホウ素とを含む出発物質の加圧加熱処理によって緻密に結合一体化された複合材であって、ダイヤモンド粒子の表面が上記加圧加熱処理においてホウ素との反応により形成された炭化ホウ素層を有し、かつ該ダイヤモンド粒子の隣接粒子同士が直接結合および/又は出発物質成分および/又はその派生物と共に結合一体化されてなる請求項
1に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項3】
請求項1に記載のダイヤモンド基複合材における出発物質に加えてさらに、Al、Si、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、WCから選ばれる1種以上である第一の金属質成分を、該出発物質の質量に対して15%以下含有せしめた
出発物質の加圧加熱処理によって、結合一体化された複合材であって、
出発物質全体におけるダイヤモンド粒子の含有量が60%~90%(質量比。以下同様)、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料の含有量が10%~40%である、前記複合材。
【請求項4】
第一の金属質成分が前記加圧加熱処理において少なくとも表面に成分ホウ素との反応によりその場で形成されたホウ化物層を有する、請求項3に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項5】
ビッカース硬さが40GPa以上である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項6】
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が100μm以下である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項7】
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が20μm以下である、請求項6に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項8】
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が1μm以下である、請求項6又は7に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項9】
前記ダイヤモンド粒子が規定された粒度分布及び平均粒度を有する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
【請求項10】
ダイヤモンド粒子の集合体を粉末状のホウ素と混合し
たもののみからなる出発混合集合体
であって、出発混合集合体全体におけるダイヤモンド粒子の含有量が60%~90%(質量比。以下同様)、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料の含有量が10%~40%である、前記出発混合集合体を処理セルに充填し、1500℃以上の反応温度にて加熱加圧処理することを特徴とするダイヤモンド基複合材の製法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法における出発混合集合体におい
て、さらにAl、Si、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、WCから選ばれる1種以上である粉末状の第一金属材
を出発物質の質量に対して15%以下密に混合して処理セルに充填
し、ここにおいて出発物質全体におけるダイヤモンド粒子の含有量が60%~90%(質量比。以下同様)、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料の含有量が10%~40%であり、1500℃以上の反応温度にて加熱加圧処理することを特徴とするダイヤモンド基複合材の製法。
【請求項12】
前記加熱加圧処理をダイヤモンドの熱力学的安定領域内の温度圧力条件で行う、請求項
10または
11に記載の方法。
【請求項13】
前記加熱加圧処理をホットプレス工程によって行う、請求項
10または
11に記載の方法。
【請求項14】
前記加熱加圧処理を放電プラズマ工程によって行う、請求項
10または
11に記載の方法
【請求項15】
前記加熱加圧処理を燃焼合成反応によって行う、請求項
10または
11に記載の方法。
【請求項16】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材で構成される切削工具要素。
【請求項17】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材から一定の形状に切り出された切削工具要素。
【請求項18】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材で構成される構造部材。
【請求項19】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材を破砕して得られた研削砥粒。
【請求項20】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材を破砕して砕粒とし、該砕粒の集合体を整粒し、さらに金属質、樹脂質又はセラミック質ボンド剤で成形してなる研磨研削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド粒子が炭化ホウ素を介して固結一体化されたダイヤモンド質複合材、及びその製造方法に関する。本発明は特に、硬度及び耐熱性に優れた切削工具要素および研磨研削材として鉄系金属材を始め多様な材種の加工に適用可能で、また幅広い分野の切削,研削・研磨加工に使用可能なダイヤモンド集合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬度が高く耐摩耗性に優れた研磨材である粉状ダイヤモンドを結合させた焼結体が切削工具のチップ等の製作に利用されてきた。このような焼結体はダイヤモンド多結晶体(PCD)とも呼ばれ、一般には超高圧高温下でコバルト(Co)を溶融してダイヤモンド粉末間に流入させ、融液相を介してダイヤモンド粉末を一体化したもので、工具材として広く利用されている。
【0003】
しかしながら結合材のコバルトは700℃位からダイヤモンドをグラファイト化させる触媒として作用し、温度上昇に伴ってこの作用が顕著になるので、切削時の発熱による高温条件下での使用が困難という耐熱性の問題があった。また、ダイヤモンド自体、鉄との反応性があるという問題もある。従ってダイヤモンドに内包されるこれらの問題を克服し、極めて硬いダイヤモンドの特性が発揮できる切削チップ材として、鉄系材質の切削にも適用可能なダイヤモンド質塊体の開発が望まれている。
【0004】
コバルトを使用せずにダイヤモンド多結晶体(塊体)を調製する方法は公知である。例えば結合材としてコバルトに代えてアルカリ土類炭酸塩(特許文献1)、炭化ホウ素(特許文献2)を用いる方法、結合材を用いないで、ダイヤモンドが直接結合した一体品とする方法(特許文献3)が知られている。
【0005】
特許文献1の方法においては、ダイヤモンド粉末に導電性付与のためのドーピング材としてボロン粉末0.5~15wt%と、焼結体の結合相を形成する成分としてMg、Ca等の「アルカリ土類炭酸塩」粉末とが混合添加され、第一段階でボロンの拡散によるダイヤモンド粉末への導電性付与、第二段階で結合相のダイヤモンド粉末粒子間隙への溶浸充填によって導電性のダイヤモンド焼結体が得られている。これらの処理には超高圧高温が必要で、特に第二段階は6.0~9.0GPa、1600~2500℃で行われている。
【0006】
特許文献2の方法においては溶融温度2450℃の炭化ホウ素を溶融乃至半溶融状態でダイヤモンドの粒子間へ浸透させる操作が必要であり、微粉末化による焼結温度の低下を見込んでも2000℃程度の加熱を必要とし、この温度においてダイヤモンドを熱力学的に安定な状態に保つには7GPa以上の超高圧力維持が必要で、焼結装置の負担がさらに大きくなる。
【0007】
特許文献3の方法はグラファイトからダイヤモンドへの直接変換と焼結とを同時に実施することで、ダイヤモンドのみで構成されたタフな焼結体が得られるが、高温での反応においてダイヤモンドの熱力学的安定性を確保するために、8GPa以上の更なる超高圧力維持が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-133173号公報
【文献】米国特許第3,136,615号
【文献】特開2012-106925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ダイヤモンド粒子が添加したホウ素との反応で生じた炭化ホウ素を介して強固に結合一体化したと解される複合材に関するものである。
本発明は特に、鉄を含むすべての材料の加工への適用が可能であり、結合材によるグラファイト化への相転換促進も生じず、さらに現在一般的なコバルト系ダイヤモンド焼結体(PCD)製造条件で製作が可能なダイヤモンド集合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は切削工具等の素材として、或いは研磨・研削砥粒の原料として好適な高硬度ダイヤモンド集合体の作成において、結合材として、ダイヤモンドのグラファイト化への触媒作用を持つ従来のコバルト等の鉄系金属や、高融点物質であるボロンカーバイドに代えてホウ素を用いることにより、各種鋼材等、鉄系材料加工への利用が可能なダイヤモンド-ホウ素複合集合体を提供するものである。
【0011】
本発明は、ダイヤモンド粒子を単体の(金属)ホウ素粉末と密に混合して加圧下での加熱操作に供し、その際にダイヤモンド粒子の表面に形成された(in situ formed)炭化ホウ素層を結合材として一体化したものである。ダイヤモンド粒子の表面のホウ化物層はダイヤモンドの酸素との接触を断つ保護層として作用するため、本発明の処理には必ずしもダイヤモンドが熱力学的に安定な超高圧を必要としない。即ち従来のダイヤモンド焼結体に匹敵する硬さを有する複合材が、より低圧領域でも製作可能という、利点が達成される。
【0012】
ダイヤモンド粒子を、予め形成された(preformed)炭化ホウ素B4Cで結合する試みは前記のとおり公知である。また導電性付与のドープ材としてのホウ素粉末を結合材粉末と混合してダイヤモンド粒子と共に超高圧高温下で加圧加熱処理する方法も公知である。しかしこの例においては前記のように結合相成分としてMg、Ca、Sr、Baの炭酸塩やこれらの複合炭酸塩が使用され、これらはダイヤモンド粒子間隙中に溶浸することによって焼結体が製造されており、多数のダイヤモンド粒子を一体化・塊体とする際に金属ホウ素を結合材として用いダイヤモンド粒子と混合処理した例は見られない。
【0013】
ダイヤモンド(炭素)とホウ素との反応によって炭化ホウ素を形成する反応は発熱反応であることから、加熱加圧操作において両成分の界面では、周囲からの加熱温度に加えてホウ化物形成反応による反応熱が生じることにより、局部的に生成ホウ化物の融点を超える箇所も出現し、緻密化が促進されると考えられる。この反応熱を利用することにより、加熱に必要なエネルギーの消費量を軽減することが出来る。
【0014】
炭化ホウ素の形成は固相における相互拡散でも生じるが、加熱温度の上昇に伴ってより速やかに進行する。但し界面に形成されたB4C層は相互拡散の障壁になり、新たなB4C層の形成速度が低下すると考えられ、実際通常の加熱操作においてダイヤモンドの全量が炭化ホウ素に転化する現象は認められていない。
【0015】
本発明においてはまた、少量の金属、特に遷移金属を添加することにより、金属ホウ化物形成時の大きな反応熱を利用した緻密化と、金属ホウ化物による集合体への靭性付与を行うこともできる。この場合には添加した金属とダイヤモンドとの間で金属炭化物の形成も生じる。この反応も大きな発熱を伴い、生成物の緻密化と化学結合による相互の一体化が促進される。
【0016】
すなわち本発明は、以下のダイヤモンド複合材およびその製造方法に関する。
[1] 複数個のダイヤモンド粒子と、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料とからなる出発物質の加圧加熱処理によって、結合一体化された複合材。
[2] 出発物質全体におけるダイヤモンド粒子の含有量が60%~99.5%(質量比。以下同様)、ホウ素或いはホウ素および不可避不純物からなる結合材料の含有量が0.5%~40%である、[1]に記載の複合材。
[3]複数個のダイヤモンド粒子と金属ホウ素とを含む出発物質の加圧加熱処理によって緻密に結合一体化された複合材であって、ダイヤモンド粒子の表面が上記加圧加熱処理においてホウ素との反応により形成された炭化ホウ素層を有し、かつ該ダイヤモンド粒子の隣接粒子同士が直接結合および/又は出発物質成分および/又はその派生物と共に結合一体化されてなる[1]または[2]に記載のダイヤモンド基複合材。
[4]前記出発物質に加えてさらに、第一の金属質成分を、該出発物質の質量に対して15%以下含有せしめた、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
[5]第一の金属質成分が前記加圧加熱処理において少なくとも表面に成分ホウ素との反応によりその場で形成されたホウ化物層を有する、[4]に記載のダイヤモンド基複合材。
[6]前記第一の金属質成分がAl、Si、Fe、Co、Ni、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、WCから選ばれる1種以上である、[4]または[5]に記載のダイヤモンド基複合材。
[7]ビッカース硬さが40GPa以上である、[1]乃至[6]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
[8]前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が100μm以下である、[1]乃至[7]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
[9]前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が20μm以下である、[8]に記載のダイヤモンド基複合材。
[10]前記ダイヤモンド粒子の平均粒径が1μm以下である、[8]又は[9]に記載のダイヤモンド基複合材。
[11]前記ダイヤモンド粒子が規定された粒度分布及び平均粒度を有する、[1]乃至[10]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材。
【0017】
[12]ダイヤモンド粒子の集合体を粉末状のホウ素と混合してなる出発混合集合体を処理セルに充填し、1500℃以上の反応温度にて加熱加圧処理することを特徴とするダイヤモンド基複合材の製法。
[13]前記ダイヤモンド粒子の集合体を粉末状のホウ素及び粉末状の第一金属材と密に混合して処理セルに充填する、[12]に記載の方法。
[14]前記第一金属がAl、Si、Fe、Co、Ni、Cu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、WCから選ばれる1種以上である、[13]に記載の方法。
[15]前記加熱加圧処理をダイヤモンドの熱力学的安定領域内の温度圧力条件で行う、[12]乃至[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16]前記加熱加圧処理をホットプレス工程によって行う、[12]乃至[14]のいずれか一項に記載の方法。
[17]前記加熱加圧処理を放電プラズマ工程によって行う、[12]乃至[14]のいずれか一項に記載の方法。
[18]前記加熱加圧処理を燃焼合成反応によって行う、[12]乃至[14]のいずれか一項に記載の方法。
[19][1]乃至[11]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材で構成される切削工具要素。
[20][1]乃至[11]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材から一定の形状に切り出された切削工具要素。
[21][1]乃至[11]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材で構成される構造部材。
[22][1]乃至[11]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材を破砕して得られた研削砥粒。
[23][1]乃至[11]のいずれか一項に記載のダイヤモンド基複合材を破砕して砕粒とし、該砕粒の集合体を整粒し、さらに金属質、樹脂質又はセラミック質ボンド剤で成形してなる研磨研削工具。
【発明の効果】
【0018】
本発明の炭化ホウ素結合ダイヤモンド基複合材は、特にダイヤモンド粒子と共に出発物質として不定形ホウ素を用い、ダイヤモンド粒子を炭化ホウ素及びホウ素を結合材として一体化結合することにより、ダイヤモンド基の硬質複合材が、従来のB4C結合による焼結体よりも低温で製造可能となる、という優れた効果を奏する。
【0019】
集合体としての硬さは結合材の硬さにも依存する。本発明においてはダイヤモンド粒子の表面がホウ素と接触し、両者の反応によって炭化ホウ素の層が形成されることにより、ホウ素との間に強い結合力が発生していると考えることができる。炭化ホウ素はバルク材ではビッカース硬さは33GPa(約3370VHN)とされているが、本発明における炭化ホウ素層の厚さはnmオーダーまたはそれ以下の薄膜であることから、本発明品における炭化ホウ素の影響は限定的である。
【0020】
本発明の複合材においてはまた、ダイヤモンド粒子間にホウ素が存在する可能性があるが、標準状態において安定なβ-ホウ素が45GPa(約4590VHN)の硬さを有しており、硬さの面では焼結バインダーを用いたcBN(立方晶窒化硼素)焼結体を凌ぐレベルである。従ってダイヤモンド粒子の結合材としてホウ素由来の硬質材料を用いる本発明品は、ダイヤモンドに近い硬さを有する複合材として、鉄系材料を含むすべての材料の切削加工工具素材としての、広い用途が期待される。
【0021】
さらに、本発明のダイヤモンド複合材は、従来のダイヤモンド焼結体とは異なり、ダイヤモンドのグラファイト化への相転換を促進するコバルト等の鉄系金属を含まない、または微量に含んでいてもダイヤモンドへの影響が殆どないことから、耐熱性の高いダイヤモンド集合体となる。
なお、本発明の複合材は、その構造または特性により直接特定することが、凡そ実際的でないものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のダイヤモンド-ホウ素複合体は、ダイヤモンド粒子を粉末状の結晶質または不定形またはこれらの混在したホウ素と混合し、この混合粉末を、加圧状態での高温下に置く加圧・加熱処理によって、より効率よく得られる。加圧方法として最も好ましいのはダイヤモンド焼結体製造用の超高圧高温装置であって、1450℃以上、5GPa以上の温度、圧力の使用が好ましい。
【0023】
上記の圧力条件は、長時間の高温付与を行った場合にも、ダイヤモンドのグラファイト化を効果的に防止してダイヤモンドが熱力学的に安定相として存在できる環境を実現するための要件である。
【0024】
但し、超高圧力の付与は必須ではない。ダイヤモンドとホウ素との反応により、ダイヤモンド粒子表面にB4C層が形成される反応は速く、グラファイト化への誘導時間内のごく短時間で完了することが予期される。一方、誘導時間は還元雰囲気中では長くなることが認められていることから、ダイヤモンドのグラファイト化への誘導時間内に実質的な反応完了が可能な加熱方法を用いる場合には、HIP、ホットプレス、放電プラズマ焼結、あるいは燃焼合成技術も用いることができる。
【0025】
従って本発明のダイヤモンド基複合材の製造には、既存の各種焼結装置を用いることができ、高性能切削、研削工具素材の大量生産が可能である。
【0026】
加熱操作を還元雰囲気内で実施するために、出発原料中に例えば水素化チタンなどの金属水素化物を添加することもできる。昇温の際に生じたガスによって出発原料が水素雰囲気に保たれ、反応によって生じる金属ホウ化物は、複合体の靭性、導電性などの物性に好ましい効果を生じる。
【0027】
本発明のダイヤモンド基複合材は硬質材として様々な用途への利用が見込まれる。この際、特に切削工具、研磨・研削工具の用途を意図する場合には、結合材の靭性改善のために少量の金属成分の添加が有効である。このような靭性改善金属としてはAl、Si、Fe、Co、Ni、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wが適し、これらの金属種は単独又は組み合わせて利用可能である。靭性改善金属の添加は得られる複合材の硬度を低下させることから、ダイヤモンドとホウ素とから成る出発材料に添加する際、好適な硬度を維持するために、出発材料の質量に対し外掛けで15%以下とすることが望ましい。
【0028】
前記の金属成分の添加は、放電加工等のために導電性を付与する場合にも有効に作用する。添加する金属成分の種類及び量は、個々の用途に応じて適宜選択決定される。さらにこれらの金属は使用目的に合わせて炭化物、窒化物或いはホウ化物等、化合物の形で添加することも可能である。
【0029】
一方、本発明において結合一体化されるダイヤモンド粒子としては、目的とする硬さに応じて100μmまで如何なる粒度のものも使用可能であるが、加工工具として必要な靭性を確保する観点からは20μm以下、特に1μm以下の粒子が好適である。
【0030】
本発明において複合材に含有されるホウ素は、ダイヤモンド粒子と接触して表面に炭化ホウ素層を形成すると解される。このためホウ素の量は複合材中に一様に分布しダイヤモンド粒子成分の全表面と接触させるのに十分な量を含有させることが好ましいが、一方生成される複合材中にホウ素相が過剰に存在すると複合材の靭性が低下することになる。従って複合材に含有されるホウ素の量は用いるダイヤモンドの粒度にもよるが、全体の0.5%以上40%以下が好適である。
【0031】
これまでに単体のホウ素をダイヤモンド粒子と組合せ、加熱操作によってその場で形成された炭化ホウ素によってダイヤモンド粒子を結合した複合材は知られていない。本願発明においては、効果的な結合材の有効な利用によってきわめて高い硬度と共に、またダイヤモンド粒子のグラファイトへの相転移を来さない高い耐熱性も同時に達成された、高性能の複合体が達成される。
【0032】
耐熱性の発現は、ダイヤモンド粒子表面において、結合した炭化ホウ素を含むホウ化物から転じた酸化ホウ素膜がダイヤモンド粒子表面を覆い、ダイヤモンドが酸素に触れることによるグラファイト化の開始が阻止されることによる、とも説明されている。
【0033】
本発明によるダイヤモンド基複合材は、従来の超砥粒焼結体と同様に、反応装置から取出し未切断の原複合材塊体として所定の形状に整えられ、さらにレーザー切断や放電切断により所要形状に切断して、或いは未切断のまま各種切削工具ブランクや工具要素として利用可能である。ここで塊体とは、焼結体調製装置から回収され、混在物を除去して単離された工具要素に切断される前の大断面複合材塊体を指す。
【0034】
本発明の複合体はまた、高強度の研削砥粒、特に通常の高温・高圧合成技術では製作が困難な粒径0.5mm以上の研磨研削工具用の高硬度砥粒を製造するための原料としても用いることができる。即ち一旦直径数十mmの大断面の複合材塊体を調製した後、破砕して篩い分け整粒することにより、呼称#40よりも粗いダイヤモンド―ホウ素複合材からなるダイヤモンド多結晶粒子が容易に得られる。ホウ素はダイヤモンド、炭化ホウ素に比して脆いので、複合材中に未反応の形で残留しているホウ素の箇所で破断する傾向がある。
【0035】
得られた多結晶質集合粒子はcBN砥粒に匹敵する硬さであることから、重研削に耐える大粒の安価な研削砥粒として、コバルトボンド、超硬合金ボンド、あるいはセラミックスボンドの掘削工具として岩盤掘削に用いたり、鉄筋コンクリート構造物の切断や穿孔のための工具に用いることができる。ダイヤモンド粒子表面を覆っている炭化ホウ素は工具製作のための上記各種ボンド剤と容易に化合物を生じるので、各ボンド剤による砥粒保持力がダイヤモンド単体を用いた工具に比して向上する傾向が認められる。
【0036】
特にメタルボンド砥石の製作の際にNi、Coが含まれるボンド剤を用いてこの砥粒を固定すると、1000℃付近の砥石の加熱成型の段階で、砥粒はB4C層や表面に残留しているホウ素とボンド剤金属とによって生じる金属ホウ化物を介して、化学結合によりボンド剤金属中に固定される。即ちダイヤモンド・炭化ホウ素・金属ホウ化物・ボンド剤金属がそれぞれ化学結合によって連続した組織となる。
【0037】
一方、ミクロンサイズにまで粉砕した多結晶質集合粒子をコバルトで結合した複合材は、超硬合金において炭化タングステン粒子をダイヤモンド粒子で置換した構造となり、ダイヤモンド粒子は表面の炭化ホウ素層を介してコバルトと化学結合していることから、超硬合金よりも硬く、超硬合金と同等の抗折力を有する切削、旋削工具として用いることができる。
【実施例】
【0038】
〔実施例1〕
平均粒度1μmの合成ダイヤモンド(トーメイダイヤ株式会社製IRM級。以下同様)及び呼称粒度1μm(比表面積値12.5m2/g)の不定形ホウ素粉末を質量比85:15(容積比でほぼ80:20)の割合でボールミルに入れ、充分に混合して出発材料とした。この混合粉末200gをニオブ製のカプセルに充填して超高圧高温装置に装填し5.5GPa、1600℃の条件下に15分間供して複合材塊体を完成させた。
回収された複合材塊体は強固に結合されており、ビッカース硬さ62GPaを示した。
【0039】
〔実施例2〕
平均粒度1μmの合成ダイヤモンドに、結合材として(上記と同じ)粒度1μmの不定形ホウ素粉末に粒度約2μmの炭化タングステン(WC)粉末を加えてボールミルに入れて混合し、ダイヤモンド:B:WC質量比75:10:15の出発材料とした。この混合粉末200gをニオブ製のカプセルに充填して超高圧高温装置に装填し5.5GPa、1600℃の条件下に15分間供して複合材塊体を完成させた。
回収された複合材塊体は抗折力及びビッカース硬さの測定においてそれぞれ0.9GPa及び65GPaを示した。また20~30Ωcmの電気抵抗値を有した。
【0040】
前記実施例と同種の合成ダイヤモンド、不定形ホウ素粉末及びWC粉末を用い、但し比率を変えて混合し、出発材料とした。それぞれを実施例1と同様に超高圧高温装置に装填し加熱加圧操作を行った。得られた複合材塊体の密度及びビッカース硬さを出発材料の組成と共に表1に示す。
【0041】
【0042】
〔実施例3〕
前記実施例と同種の合成ダイヤモンド、不定形ホウ素粉末及びWC粉末を用い、ただし出発材料におけるホウ素の比率を0.5%から35%まで変えて加圧加熱操作を行った。ダイヤモンドの粒度はホウ素0.5%の場合のみ、1μmと10μmとを混合使用し、他は全量1μmとした。得られた複合材塊体の密度、ビッカース硬さ及び電気抵抗値を測定し、表2の結果を得た。
【0043】
【0044】
〔実施例4〕
平均粒度1μmの合成ダイヤモンド、及び結合材として1μmのホウ素及び公称粒度1.85μmのTiC粉末をそれぞれ質量比70:20:10の割合でボールミルに入れ、充分に混合して出発材料とした。この混合粉末200gをニオブ製のカプセルに充填して超高圧高温装置に装填し6GPa、1650℃の条件下に15分間供して一体化を完成させた。回収された複合材塊体は58.1GPaの硬さを示した。
【0045】
〔実施例5〕
実施例4における結合材中のTiC粉末に代えて6μmの金属Si粉末を用いて前記操作を繰り返した。平均粒度1μmの合成ダイヤモンド、及び結合材としてホウ素及びSiをそれぞれ質量比70:20:10の割合で配合、充分に混合して出発材料とした。この混合粉末を前記同様に超高圧高温装置に装填し、加圧加熱条件に供した。回収された複合材塊体のXRD観察においてSiは炭化物に変換しており、複合材塊体のビッカース硬さは52.0GPaを示した。
【0046】
〔実施例6〕
焼結アルミナの切削加工素材として、呼称 1μm以下のダイヤモンド微粉、呼称0.6μmのアモルファスホウ素、呼称0.8μmのタングステン粉末を75:15:10で混合し、6GPa、1700℃に15分間保持した。得られた複合材はビッカース硬さ59GPa、抗折力1.35GPaを示した。
【0047】
〔実施例7〕
平均粒径4.5μmのダイヤモンド粉、平均粒径1μmのダイヤモンド粉、呼称0. 6μmのアモルファスホウ素粉(比表面積25m2/g)、呼称10μm以下の水素化チタン粉を50:10:30:10の割合(質量比。以下同様)で混合し、出発原料とした。カーボンるつぼに充填した混合原料を面圧200kg/cm2で加圧しながら、高周波によってるつぼ温度1500℃に加熱し、5分間保持した。
生成物は一部がガラス状となったTiB2を介して一体化した塊体となっており、ワイヤーカットによってスチール加工用の切削バイトに仕上げた。
【0048】
〔実施例8〕
呼称2-3μmのダイヤモンド粒子(平均粒径1.9μm、比表面積4m2/g)200gと呼称0.6μmのアモルファスホウ素20gとの混合粉末をニオブ製のカプセルに充填し、6GPa、1650℃に15分間保持した。反応生成物の塊体は鋼球を用いるボールミルで粉砕し、粉砕の際に生じた鉄粉を塩酸で溶解除去した後、比重差を利用して未反応ホウ素を除いた。
【0049】
得られたB4Cで被覆されたダイヤモンド粒子と、粒径2μmのコバルト粉末とを85:15で混合し、カーボン型を用いて1300℃でホットプレス焼結を行った。
得られた切削バイト素材の物性値はビッカース硬さHv 70GPa、抗折力 1.23GPaであった。
【0050】
〔実施例9〕
粒径50μmのダイヤモンド粉、粒径6μmのダイヤモンド粉、粒径1μmのダイヤモンド粉、呼称0.6μmのアモルファスホウ素粉、呼称1μmのモリブデン粉を200:40:5:2.5:20の割合で混合し、出発原料とした。
先端部を円錐形に加工したカーボン型へ入れた混合原料を、面圧200kg/cm2で加圧しながら、高周波加熱によって1800℃に5分間保持した。得られた複合材は円錐部を研磨仕上げし、円筒研削盤のレースセンターとして用いた。
【0051】
〔実施例10〕
平均粒度0.6μmの合成ダイヤモンド、結合材として比表面積値27.1m2/gの不定形ホウ素及び呼称3μmのAl粉末をそれぞれ質量比90:7:3の割合で配合、充分に混合した出発材料を用い、5.5GPa、1550℃の条件に供して直径65mm、厚さ5mmの板状複合材を多数作製した。これを集めて内径1m長さ1.2mのボールミル中で直径25mmの鋼球1トンを用いて粉砕し、5時間ごとに粉砕物を取出して篩分ける操作を繰り返し、20/30メッシュの多結晶質複合砥粒を得た。
この砥粒をコバルト粉末中に埋め込んで焼結してブレード用のチップを作製し、耐火煉瓦切断ブレードの刃として用いた。
【0052】
〔実施例11〕
呼称#170のダイヤモンド粒子(粒径約100μm)200gと呼称0.6μmのアモルファスホウ素(比表面積25m2/g) 10gとの混合粉末をニオブ製のカプセルに充填し、6GPa、1650℃に15分間保持した。
反応生成物の塊体は鋼球を用いてボールミル粉砕し、粉砕の際に生じた鉄粉と未反応ホウ素とを篩い分けによって除いた後、残留鉄分を塩酸で溶解除去した。
得られたB4Cで被覆されたダイヤモンド粒子はブロンズボンド(主成分% Cu:75、Sn:15、Ni:10)(質量%)の研削砥石としてダイス鋼の仕上げ加工に用いた。
【0053】
〔実施例12〕
石材研削砥石用の砥粒として、平均粒径20μmのダイヤモンド粉、呼称0.6μmのアモルファスホウ素、呼称2μmのニッケル粉を75:13:12で混合し出発原料とした。この混合原料150gを内径 100 mm、長さ200mmの円筒状カーボン型に充填し、5トンの荷重を加えた状態で上下のカーボンパンチを経由して通電加熱することにより、1500℃に昇温し1分間保持した。
【0054】
得られた複合材を粉砕し、篩い分けによって#100の砥粒とした。この砥粒からはX線回折によってダイヤモンドの他にB4C、Ni2Bも検出された。この砥粒をコバルトボンドの円筒研削砥石として使用したところ、通常のダイヤモンドの裸砥粒を用いた砥石に比して、50%の寿命向上が得られた。
【0055】
本発明において使用するダイヤモンド粒子は、合成された、または天然に産出するダイヤモンド材を処理して個々の粒子の集合体(粉体)とし、さらに粒度を揃えた、即ち管理された一定の粒度分布を有する粉体の構成粒子を言い、市販されているメッシュサイズ及びミクロン・サブミクロンサイズの粒度のものを含む。 また、複数の粒度分布、複数の平均粒度の粒子粉体の配合とは、一定の粒度分布の或る平均粒度を有する粒子群と、それとは異なる粒度分布および平均粒度を有する複数の粒子群が混ざっているものを指す。