(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2018228126
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 有司
(72)【発明者】
【氏名】山成 正宏
(72)【発明者】
【氏名】加茂 考史
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-226608(JP,A)
【文献】特開2013-180111(JP,A)
【文献】特開2017-176341(JP,A)
【文献】特開2014-115280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光干渉を用いて被検眼を測定する眼科装置であって、
波長掃引型の光源と、
前記光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、
前記光源からの光を導いて較正光とする較正光学系と、
前記較正光学系により導かれた前記較正光と前記参照光学系により導かれた前記参照光とを合波した較正用干渉光を受光する受光素子と、
前記較正用干渉光を受光したときに前記受光素子から出力される較正用干渉信号をサンプリングする信号処理部と、
演算部と、を備えており、
前記光源からの光は、周期的に周波数が変化し、
前記信号処理部は、少なくとも前記光源からの光の周波数が1周期変化するときの全周波数帯域のうち第1の周波数帯域において前記較正用干渉信号をサンプリングすると共に、前記光源からの光の周波数が1周期変化するときの全周波数帯域のうち前記第1の周波数帯域と異なる第2の周波数帯域において前記較正用干渉信号をサンプリングし、
前記演算部は、前記第1の周波数帯域においてサンプリングされフーリエ変換された前記較正用干渉信号の第1の波形と、前記第2の周波数帯域においてサンプリングされフーリエ変換された前記較正用干渉信号の第2の波形との間のずれ量を演算する、眼科装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記第1の波形と前記第2の波形との間の深さ方向の位置のずれ量を算出する、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記第1の波形の形状と前記第2の波形の形状との間のずれ量を算出する、請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えており、
前記較正光学系は、前記光源からの光を反射する反射面を備える較正部材を備えており、
前記較正部材は、前記測定光学系の光路上に着脱可能に配置され、
前記較正部材が前記測定光学系の光路上に配置されていないときに、前記測定光学系の光路上に被検眼が配置可能となる、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えており、
前記較正光学系は、前記光源からの光を反射する反射面を備える較正部材を備えており、
前記測定光学系の光路と前記較正光学系の光路との少なくとも一部が異なるように構成されており、
前記較正部材は、前記測定光学系の光路上に配置されておらず、前記較正光学系の光路上に配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えており、
前記較正光学系の光路は、前記測定光学系の光路の一部と重複しており、
前記較正光は、前記測定光学系が備える光学部材の反射面からの反射光によって生成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えており、
前記受光素子は、前記測定光学系により導かれた前記反射光と前記参照光学系により導かれた前記参照光とを合波した測定用干渉光をさらに受光し、
前記信号処理部は、前記測定用干渉光を受光したときに前記受光素子から出力される測定用干渉信号をさらにサンプリングし、
前記演算部は、演算された前記ずれ量に基づいて、サンプリングされた前記測定用干渉信号及びサンプリングされフーリエ変換された前記測定用干渉信号の少なくともいずれかを補正する、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、眼科装置に関する。詳細には、光干渉を用いて被検眼を測定する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の内部の断層画像を撮影する眼科装置が開発されている。例えば、特許文献1に記載の眼科装置は、光源からの光を被検眼の内部に照射すると共にその反射光を導く測定光学系と、光源からの光を参照面に照射すると共にその反射光を導く参照光学系を備えている。測定の際には、測定光学系により導かれた反射光(測定光)と参照光学系により導かれた反射光(参照光)とを合波した干渉光から、被検眼の断層画像を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような眼科装置を用いて被検眼を測定する際には、干渉光から、測定光軸に沿った深さ方向の位置と信号強度との関係を示す断層情報(いわゆる、Aスキャン情報)を取得する。例えば、被検眼の断層画像を取得する場合は、測定光を走査して複数のAスキャン情報を取得し、これら複数のAスキャン情報を用いて被検眼の断層画像を生成する。あるいは、測定精度を上げるために、同一位置において複数回の断層情報を取得する場合も、測定光を同一の位置に照射しながら複数のAスキャン情報を取得する。複数のAスキャン情報を取得するためには、複数回に亘って干渉信号をサンプリングする必要がある。一方、このような眼科装置に用いられる波長掃引型の光源は、出力される光の波長が周期的に掃引され、それに応じて光の周波数も周期的に変化する。一般的に、測定時間を短くするために、高速でAスキャン情報を取得することが望まれている。例えば、光源から出力される光の波長の掃引速度を速くすることによって、被検眼の測定時間を短くすることができるが、技術的に難しいという問題やコストが高くなるという問題が生じる。そこで、光源から出力される光の周波数が1周期変化する毎に、異なる周波数帯域において複数のAスキャン情報を取得することが検討されている。しかしながら、異なる周波数帯域において干渉信号をサンプリング(取得)すると、サンプリングした干渉信号毎に波長(周波数帯域)が異なるため、干渉信号毎に位置ずれや信号強度のずれが生じることがある。例えば、このような干渉信号を用いて断層画像を生成すると、画像の歪みや輝度ムラが生じてしまう。本明細書は、異なる周波数帯域で干渉信号をサンプリングする際に生じる干渉信号の歪みを抑制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する眼科装置は、光干渉を用いて被検眼を測定する。眼科装置は、波長掃引型の光源と、光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、光源からの光を導いて較正光とする較正光学系と、較正光学系により導かれた較正光と参照光学系により導かれた参照光とを合波した較正用干渉光を受光する受光素子と、較正用干渉光を受光したときに受光素子から出力される較正用干渉信号をサンプリングする信号処理部と、演算部と、を備えている。光源からの光は、周期的に周波数が変化する。信号処理部は、少なくとも光源からの光の周波数が1周期変化するときの全周波数帯域のうち第1の周波数帯域において較正用干渉信号をサンプリングすると共に、光源からの光の周波数が1周期変化するときの全周波数帯域のうち第1の周波数帯域と異なる第2の周波数帯域において較正用干渉信号をサンプリングする。演算部は、第1の周波数帯域においてサンプリングされフーリエ変換された較正用干渉信号の第1の波形と、第2の周波数帯域においてサンプリングされフーリエ変換された較正用干渉信号の第2の波形との間のずれ量を演算する。
【0006】
上記の眼科装置では、同一の較正光学系により導かれる較正光から取得される較正用干渉光を用いることによって、異なる周波数帯域で干渉信号を複数回サンプリングしても、干渉信号間の波形のずれ量を算出できる。すなわち、第1の周波数帯域でサンプリングされた較正用干渉信号の第1の波形と、第2の周波数帯域でサンプリングされた較正用干渉信号の第2の波形とは、同一の対象(較正光)を示す波形であるため、同一の位置に同一の波形(形状)で検出されるべきである。このため、第1の波形と第2の波形のずれ量を算出することによって、異なる周波数帯域でサンプリングされた干渉信号(較正用干渉信号)のずれ量を検出することができる。検出されたずれ量に基づいて干渉信号を補正することによって、被検眼を測定した際の干渉信号の歪みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1に係る眼科装置の光学系の概略構成を示す図。
【
図2】実施例1に係る眼科装置の制御系を示すブロック図。
【
図3】ゼロ点と参照光路長と測定光路長と較正光路長との関係を説明するための図。
【
図4】光源装置から出力される光の波長が1周期変化する間に、干渉信号を複数回サンプリングするタイミングを説明するための図(サンプリングする波長領域が独立している場合)。
【
図5】光の波長を1周期変化させる速度と、走査角を変更する速度との関係を説明するための図であり、(a)は本実施例に係る眼科装置の測定光の照射位置と時間との関係及び波長と時間との関係を示し、(b)は(a)の時間t1~t2における測定光の照射位置と時間との関係を示し、(c)は比較例の眼科装置の時間t1~t2における測定光の照射位置と時間との関係を示す。
【
図6】干渉信号波形を処理する手順を説明するための図。
【
図7】異なる周波数帯域で干渉信号をサンプリングする際に生じる干渉信号の歪みを補正する処理の一例を示すフローチャート。
【
図8】光源装置から出力される光の波長が1周期変化する間に、干渉信号を複数回サンプリングするタイミングを説明するための図(サンプリングする波長領域が部分的に重複している場合)。
【
図9】取得したAスキャン情報を用いて生成した断層画像を示す模式図であり、(a)は干渉信号の位置ずれや信号強度のずれが生じていないAスキャン情報を用いて生成された断層画像の模式図であり、(b)は干渉信号の位置ずれが生じているAスキャン情報を用いて生成された断層画像の模式図である。
【
図10】実施例2に係る眼科装置の光学系の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0009】
(特徴1)本明細書が開示する眼科装置では、演算部は、第1の波形と第2の波形との間の深さ方向の位置のずれ量を算出してもよい。このような構成によると、算出された深さ方向のずれ量に基づいて干渉信号を補正することによって、異なる周波数帯域においてサンプリングされた干渉信号の深さ方向のずれ量を適切に補正することができる。
【0010】
(特徴2)本明細書が開示する眼科装置では、演算部は、第1の波形の形状と第2の波形の形状との間のずれ量を算出してもよい。このような構成によると、算出された波形の形状のずれ量に基づいて干渉信号を補正することによって、異なる周波数帯域においてサンプリングされた干渉信号の信号強度のずれ量を適切に補正することができる。
【0011】
(特徴3)本明細書が開示する眼科装置は、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えていてもよい。較正光学系は、光源からの光を反射する反射面を備える較正部材を備えていてもよい。較正部材は、測定光学系の光路上に着脱可能に配置されてもよい。較正部材が測定光学系の光路上に配置されていないときに、測定光学系の光路上に被検眼が配置可能となってもよい。このような構成によると、較正部材は、測定光学系の光路上に着脱可能に配置される。例えば、較正部材は、較正用干渉信号を取得する際に、測定時に被検眼が位置する位置と略一致する位置に配置することができる。較正部材を眼科装置内に設置しないと、眼科装置の構成を容易にすることができる。
【0012】
(特徴4)本明細書が開示する眼科装置は、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えていてもよい。較正光学系は、光源からの光を反射する反射面を備える較正部材を備えていてもよい。測定光学系の光路と較正光学系の光路との少なくとも一部が異なるように構成されていてもよい。較正部材は、測定光学系の光路上に配置されておらず、較正光学系の光路上に配置されていてもよい。このような構成によると、較正部材が較正光学系の光路上に配置され、測定光学系の光路上には配置されていないため、被検眼を測定する際に被検眼からの反射光(測定光)と較正部材の反射面からの反射光(較正光)とを同時に生成できる。このため、被検眼の測定時に干渉信号のずれを補正することができる。
【0013】
(特徴5)本明細書が開示する眼科装置は、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えていてもよい。較正光学系の光路は、測定光学系の光路の一部と重複していてもよい。較正光は、測定光学系が備える光学部材の反射面からの反射光によって生成されてもよい。このような構成によると、較正光を生成するための光学部材(較正部材)を設置することなく、較正光を生成することができる。このため、部品点数を増やすことなく較正光を生成できると共に、被検眼を測定する際に測定光と較正光とを同時に生成できる。
【0014】
(特徴6)本明細書が開示する眼科装置は、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系をさらに備えていてもよい。受光素子は、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合波した測定用干渉光をさらに受光してもよい。信号処理部は、測定用干渉光を受光したときに受光素子から出力される測定用干渉信号をさらにサンプリングしてもよい。演算部は、演算されたずれ量に基づいて、サンプリングされた前記測定用干渉信号及びサンプリングされフーリエ変換された測定用干渉信号の少なくともいずれかを補正してもよい。このような構成によると、演算されたずれ量に基づいて測定用干渉信号を補正することによって、被検眼を測定した際の干渉信号の歪みを好適に抑制することができる。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
以下、実施例に係る眼科装置1について説明する。
図1に示すように、眼科装置1は、被検眼100を検査するための測定部10を備えている。測定部10は、被検眼100から反射される反射光と参照光とを干渉させる干渉光学系14と、被検眼100の前眼部を観察する観察光学系50と、被検眼100に対して測定部10を所定の位置関係にアライメントするためのアライメント光学系(図示省略)と、K-clock信号を生成するK-clock発生装置80(
図2に図示)を有している。アライメント光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
【0016】
干渉光学系14は、光源装置12と、測定光学系と、参照光学系と、較正光学系と、受光素子26によって構成されている。測定光学系は、光源装置12からの光を被検眼100の内部に照射すると共にその反射光を導く光学系である。参照光学系は、光源装置12からの光を参照面22aに照射すると共にその反射光を導く光学系である。較正光学系は、光源装置12からの光を反射面70aに照射すると共にその反射光を導く光学系である。受光素子26は、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した測定用干渉光と、較正光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した較正用干渉光とを受光する。
【0017】
光源装置12は、波長掃引型の光源装置であり、出射される光の波長が所定の周期で変化するようになっている。光源装置12から出射される光の波長が変化すると、出射される光の波長に対応して、被検眼100の深さ方向の各部位から反射される光のうち参照光と干渉を生じる反射光の反射位置が被検眼100の深さ方向に変化する。このため、出射される光の波長を変化させながら干渉光を測定することで、被検眼100の内部の各部位(すなわち、水晶体104や網膜106)の位置を特定することが可能となる。
【0018】
測定光学系は、ビームスプリッタ24と、ビームスプリッタ28と、焦点調整機構40と、ガルバノスキャナ46と、ホットミラー48によって構成されている。光源装置12から出射された光は、ビームスプリッタ24、ビームスプリッタ28、焦点調整機構40、ガルバノスキャナ46、及びホットミラー48を介して被検眼100に照射される。被検眼100からの反射光は、ホットミラー48、ガルバノスキャナ46、焦点調整機構40、ビームスプリッタ28、及びビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。
【0019】
焦点調整機構40は、光源装置12側に配置される凸レンズ42と、被検眼100側に配置される凸レンズ44と、凸レンズ42に対して凸レンズ44を光軸方向に進退動させる第2駆動装置56(
図2に図示)を備えている。凸レンズ42と凸レンズ44は、光軸上に配置され、入射する平行光の焦点の位置を変化させる。第2駆動装置56が凸レンズ44を
図1の矢印Aの方向に駆動することで、被検眼100に照射される光の焦点の位置が被検眼100の深さ方向に変化し、被検眼100に照射される光の焦点の位置が調整される。
【0020】
ガルバノスキャナ46は、ガルバノミラー46aと、ガルバノミラー46aを傾動させる第3駆動装置58(
図2参照)を備えている。第3駆動装置58がガルバノミラー46aを傾動することで、被検眼100への測定光の照射位置が走査される。
【0021】
参照光学系は、ビームスプリッタ24と、参照ミラー22によって構成されている。光源装置12から出射された光の一部は、ビームスプリッタ24で反射され、参照ミラー22の参照面22aに照射され、参照ミラー22の参照面22aによって反射される。参照ミラー22で反射された光は、ビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。参照ミラー22とビームスプリッタ24と受光素子26は、干渉計20内に配置され、その位置が固定されている。このため、本実施例の眼科装置1では、参照光学系の参照光路長は一定で変化しない。
【0022】
較正光学系は、ビームスプリッタ24と、ビームスプリッタ28と、ミラー70によって構成されている。光源装置12から出射された光は、ビームスプリッタ24を介してビームスプリッタ28で反射され、ミラー70の反射面70aに照射され、ミラー70の反射面70aで反射される。ミラー70で反射された光は、ビームスプリッタ28及びビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。本実施例の眼科装置1では、ミラー70の配置位置は固定されている。このため、較正光学系により導かれる光(以下、較正光ともいう)の光路長は一定で変化しない。なお、ミラー70は、「較正部材」の一例である。
【0023】
また、
図3に示すように、較正光学系は、ゼロ点を基準にしてミラー70の位置が設定されており、ゼロ点を被検眼100より光源装置12側の位置に設定した場合に、ゼロ点からの光路長L1が、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定されている。ここで、ゼロ点とは、参照光学系の光路長(参照光路長)と測定光学系の光路長(測定光路長)とが同一となる点を意味する。本実施例では、ゼロ点の位置は所定の位置(例えば、角膜102の前面からわずかに光源装置12側にずれた位置)に設定されている。較正光学系のゼロ点からの光路長L1を、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定することによって、ミラー70の反射面70aが被検眼100の測定領域(角膜102前面から網膜106までの領域)に重なることなく検出される。このため、反射面70aの位置を容易に特定することができる。
【0024】
受光素子26は、参照光学系により導かれた光と測定光学系により導かれた光とを合成した測定用干渉光と、参照光学系により導かれた光と較正光学系により導かれた光とを合成した較正用干渉光を検出する。受光素子26は、測定用干渉光と較正用干渉光を受光すると、それに応じた干渉信号を出力する。すなわち、測定用干渉光による信号(測定用干渉信号)と、較正用干渉光による信号(較正用干渉信号)を出力する。これらの信号は、サンプリング回路66(
図2に図示)を介して演算装置64に入力される。受光素子26としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0025】
K-clock発生装置80(
図2に図示)は、等周波数間隔(光の周波数の変化に対して均等な間隔)にて干渉信号のサンプリングを行うために、光源装置12の光からサンプルクロック(K-clock)信号を光学的に生成する。そして、生成されたK-clock信号は、サンプリング回路66に向けて出力される。これにより、サンプリング回路66がK-clock信号に基づいて干渉信号をサンプリングすることで、等周波数間隔で干渉信号がサンプリングされる。
【0026】
サンプリング回路66(
図2に図示)は、干渉信号とK-clock信号が入力され、K-clock信号で規定されるタイミングで干渉信号をサンプリングする。サンプリング回路66には、公知のデータ収集装置(いわゆる、DAQ)を用いることができる。サンプリング回路66は、被検眼100内部のAスキャン情報(被検眼100の内部構造について、測定光軸に沿った深さ方向の位置と信号強度との関係を示す情報)を複数回に亘って取得するために、干渉信号を複数回に亘ってサンプリングする。すなわち、1回のサンプリングによって複数個の干渉信号を取得し、取得した複数個の干渉信号は、1個のAスキャン情報(すなわち、1走査線上のAスキャン情報、以下、単に「Aスキャン情報」ともいう)を構成する。したがって、サンプリング回路66が複数回のサンプリングを行うことで、複数個の干渉信号によって構成されるAスキャン情報が複数個取得される。
【0027】
また、上述したように、光源装置12は波長掃引型の光源装置であるため、光源装置12から出力される光の波長は周期的に掃引され、それに応じて光の周波数も周期的に変化する。光源装置12から出力される光の周波数が1周期変化する毎に1回ずつ干渉信号をサンプリングすると(すなわち、1周期毎に1個のAスキャン情報を取得するように構成すると)、複数回に亘る測定に要する時間が長くなってしまう。本実施例では、サンプリング回路66は、光源装置12から出力される光の周波数が1周期変化する毎に、異なる周波数帯域において複数回に亘って干渉信号をサンプリングする。これによって、複数回に亘る測定に要する時間が長くなることを抑制している。例えば、
図4に示すように、光源装置12から出力される光の波長が1周期変化する間(すなわち、周波数が1周期変化する間)に干渉信号を8回サンプリングすると、同じ周波数帯域で8回サンプリングする場合と比較して、測定に要する時間を大幅に短縮することができる。なお、サンプリング回路66は、「信号処理部」の一例である。
【0028】
以下の説明では、光源装置12から出力される光の波長が最も大きくなる時間から次に最も大きくなる時間までを1周期(すなわち、周波数の1周期)とし、1周期のうち最初にサンプリングする波長領域(
図4の時間t1からt2の間の波長領域)を第1の波長領域とし、第1の波長領域の次にサンプリングする波長領域(
図4の時間t3からt4の間の波長領域)を第2の波長領域とする。
図4の例では、光源装置12から出力される光の波長が1周期変化する間に干渉信号を8回サンプリングするため(すなわち、8個のAスキャン情報を取得するため)、1周期の間に第1の波長領域から第8の波長領域のそれぞれにおいて複数個の干渉信号を取得することになる。以下では、説明を容易にするために、第1の波長領域におけるサンプリングと第2の波長領域におけるサンプリングのみについて説明するが、第3の波長領域から第8の波長領域におけるサンプリングにおいても同様に行われる。なお、本実施例では、光源装置12から出力される光の波長が1周期変化する間に干渉信号を8回サンプリングしているが、光の波長が1周期変化する間に干渉信号をサンプリングする回数は限定されるものではなく、8回より少なくてもよいし、8回より多くてもよい。
【0029】
また、本実施例では、走査角を変更する速度は、光源装置12から出射される光の掃引速度(光の波長を1周期変化させる速度)に対して十分に遅くしている。これによって、1個のAスキャン情報を構成する複数の干渉信号を連続して取得することができる。以下、
図5(a)及び
図5(b)を用いて説明する。
図5(a)は、上図において、被検眼100に測定光を照射する位置をP1からP2に走査する場合における測定光の照射位置と時間との関係を示し、下図において、光源装置12から出力される光の波長と時間との関係を示している。また、
図5(b)は、第1の波長領域におけるサンプリングの時間t1~t2の間の測定光の照射位置を示している。
【0030】
図5(a)に示すように、被検眼100に測定光を照射する位置をP1からP2の間で走査する間に(上図参照)、光源装置12から出射される光の波長は、複数周期(
図5(a)では4周期)変化する(下図参照)。上述したように、本実施例では、光源装置12から出射される光の波長が1周期変化する間に、複数回(例えば、8回)サンプリングし、1回のサンプリング毎に1個のAスキャン情報を取得する。走査角を変更する速度を光の波長を1周期変化させる速度に対して十分に遅くすると、
図5(b)に示すように、1回のサンプリングにかかる時間t1~t2の間、被検眼100に照射する光の位置はほとんど変化しない。したがって、時間t1~t2の間に、1走査線上の干渉信号、すなわち、1個のAスキャン情報を構成する複数の干渉信号を全て取得することができる。
【0031】
例えば、短時間で複数のAスキャン情報を取得する方法としては、本実施例の方法の他に、被検眼100への測定光の照射位置を高速で走査させながらサンプリングする方法も考えられる。
図5(c)は、比較例として、照射位置を高速で走査する場合における測定光の照射位置と時間との関係を示している。
図5(c)に示すように、比較例の方法では、時間t1~t2(すなわち、本実施例において第1の波長領域におけるサンプリングにかかる時間)の間に、測定光の照射位置が位置P1からP2の間を複数回(
図5(c)では約16回)往復する。すなわち、時間t1~t2の間、照射位置は一定でなく変化し続ける。このため、時間t1~t2の間に、1個のAスキャン情報を構成する干渉信号の全てを取得することができない。一方、この方法では、時間t1~t2の間に、位置P1からP2の間の異なる照射位置における干渉信号を離散的に取得する。例えば、n個のAスキャン情報を取得するとする。この場合、時間t1~t2の間に、1番目のAスキャン情報を構成する干渉信号の一部を取得すると共に、2番目のAスキャン情報を構成する干渉信号の一部を取得し、同様にして、n番目のAスキャン情報を構成する干渉信号の一部を取得する。このように、時間t2以降においても同様に、異なる照射位置における干渉信号を離散的に取得していくことによって、n個のAスキャン情報を構成する干渉信号を全て取得することができる。したがって、照射位置を高速で走査させる方法を用いると、1個のAスキャン情報を取得するために、複数(n個)の走査線のAスキャン情報を取得するために必要な時間と同じ時間を要する。
【0032】
ここで、1個のAスキャン情報を取得する間に、被検眼100が、例えば固視微動等によって移動してしまうと、被検眼100の位置が変化して、1個のAスキャン情報に含まれる複数の干渉信号の位置関係等を正確に測定できなくなってしまう。このため、1個のAスキャン情報の全てを取得する間、被検眼100が移動しない状態で測定する必要がある。本実施例では、1個のAスキャン情報を構成する複数の干渉信号を連続して取得するため、1個のAスキャン情報を取得する時間が短くなる。したがって、1個のAスキャン情報を取得する間に被検眼100が移動し難くなるため、被検眼100の移動による影響を小さくすることができる。
【0033】
観察光学系50は、被検眼100にホットミラー48を介して観察光を照射すると共に、被検眼100から反射される反射光(すなわち、照射された観察光の反射光)を撮影する。ここで、ホットミラー48は、光源装置12からの光を反射する一方で、観察光学系50の光源装置からの光を透過する。このため、本実施例の眼科装置1では、干渉光学系14による測定と、観察光学系50による前眼部の観察を同時に行うことができる。なお、観察光学系50には、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な構成については説明を省略する。
【0034】
なお、本実施例の眼科装置1では、被検眼100に対して測定部10の位置を調整するための位置調整機構16(
図2に図示)と、その位置調整機構16を駆動する第1駆動装置54(
図2に図示)を備えている。第1駆動装置54を駆動することで、被検眼100に対する測定部10の位置が調整される。
【0035】
次に、本実施例の眼科装置1の制御系の構成を説明する。
図2に示すように、眼科装置1は演算装置64によって制御される。演算装置64は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。演算装置64には、光源装置12と、第1~第3駆動装置54~58と、モニタ62と、観察光学系50が接続されている。演算装置64は、光源装置12のオン/オフを制御し、第1~第3駆動装置54~58を制御することで位置調整機構16、焦点調整機構40、ガルバノスキャナ46を駆動し、また、観察光学系50を制御して観察光学系50で撮像される前眼部像をモニタ62に表示する。
【0036】
また、演算装置64には、サンプリング回路66が接続されている。演算装置64は、サンプリング回路66にサンプリングを開始させるトリガー信号を出力する。サンプリング回路66は、トリガー信号が入力すると、予め設定された時間のあいだK-clock信号で規定されるタイミングで干渉信号を取得する。演算装置64には、サンプリング回路66においてサンプリングされた干渉信号が入力される。上述したように、受光素子26から出力される干渉信号は、
図6に示すように、信号強度が時間によって変化する信号となり、この信号には被検眼100の各部(角膜102の前面及び後面、水晶体104の前面及び後面、網膜106の表面)及びミラー70の反射面70aから反射された各反射光と参照光とを合成した干渉波による信号が含まれている。演算装置64は、サンプリングされた干渉信号をフーリエ変換して、その干渉信号から被検眼100の各部(角膜102の前面及び後面、水晶体104の前面及び後面、網膜106の表面)及びミラー70の反射面70aによる干渉信号成分を分離する(
図6の下段のグラフ参照)。これにより、演算装置64は、被検眼100の各部の位置及びミラー70の反射面70aの位置を特定することができる。
【0037】
なお、本実施例では、演算装置64は、サンプリングされる干渉信号(データ)を、1個のAスキャン情報を構成するデータ毎に分割して複数取得していたが、このような構成に限定されない。例えば、演算装置64は、サンプリングされる干渉信号を、複数のAスキャン情報を全て包含する連続した1つのデータとして取得してもよい。この場合、演算装置64は、取得したデータに対して中心位置が異なる窓関数を適用することによって、連続した1つのデータから個々のAスキャン情報を抽出してもよい。演算装置64は、Aスキャン情報毎に抽出された複数のデータをそれぞれフーリエ変換することによって、Aスキャン情報毎に被検眼100の各部及びミラー70の反射面70aによる干渉信号成分を分離でき、被検眼100の各部の位置及びミラー70の反射面70aの位置を特定できる。
【0038】
次に、
図7を参照して、本実施例の眼科装置1を用いて、異なる周波数帯域で干渉信号をサンプリングする際に生じる干渉信号の歪みを補正する処理について説明する。上述したように、本実施例では、光源装置12から出力される光の周波数が1周期変化する毎に、異なる周波数帯域において複数回に亘って(例えば、8回)Aスキャン情報を取得する。しかしながら、異なる周波数帯域においてAスキャン情報を取得すると、Aスキャン情報毎に検出される干渉信号の信号強度や位置が異なることがある。このように信号強度のずれや位置ずれが生じているデータを用いて断層画像を生成すると、生成された断層画像に歪みが生じたり(
図9(b)参照)、輝度ムラが生じたりして、被検眼100の状態を正確に把握することができない。本実施例の眼科装置1は、サンプリングした周波数帯域が異なることに起因して生じる干渉信号の信号強度のずれや位置ずれを補正する。
【0039】
図7に示すように、まず、演算装置64は、異なる波長領域(すなわち、周波数帯域)でサンプリングされる複数のAスキャン情報を取得する(S12)。複数のAスキャン情報は、以下の手順で取得される。まず、検査者は図示しないジョイスティック等の操作部材を操作して、被検眼100に対して測定部10の位置合わせを行う。すなわち、演算装置64は、検査者の操作部材の操作に応じて、第1駆動装置54により位置調整機構16を駆動する。これによって、被検眼100に対する測定部10のxy方向(縦横方向)の位置とz方向(進退動する方向)の位置が調整される。また、演算装置64は、第2駆動装置56を駆動して、焦点調整機構40を調整する。これによって、光源装置12から被検眼100に照射される光の焦点の位置が被検眼100の所定の位置(例えば、角膜102の前面)となる。
【0040】
次いで、特定の波長領域において干渉信号をサンプリングする。ここで、最初にサンプリングする特定の波長領域が第1の波長領域である場合を例に、特定の波長領域(第1の波長領域)において干渉信号をサンプリングする手順を説明する。まず、トリガー信号を生成するために、演算装置64は、第1の波長領域の範囲内の特定の波長を検出する。特定の波長の検出方法は、特に限定されるものではなく、例えば、FBG(ファイバブラッググレーティング)やエタロン等を用いて検出することができる。演算装置64は、検出した波長に基づいて、第1の波長領域におけるサンプリングを開始させるトリガー信号を生成する。例えば、FBGを用いて、第1の波長領域におけるサンプリングの開始タイミングである
図4の時間t1に対応する波長を検出し、演算装置64は、検出された波長に基づいてトリガー信号を生成する。これによって、演算装置64は、第1の波長領域におけるサンプリングの開始タイミング(すなわち、時間t1)に設定されるトリガー信号を生成できる。なお、本実施例では、特定の波長領域におけるサンプリングを開始させるトリガー信号を生成するために、当該特定の波長領域(例えば、第1の波長領域)の範囲内の特定の波長(例えば、時間t1に対応する波長)を検出しているが、このような構成に限定されない。例えば、特定の波長領域(例えば、第1の波長領域)におけるサンプリングを開始させるトリガー信号を生成するために、当該特定の波長領域(例えば、第1の波長領域)の範囲外の特定の波長を検出してもよい。すなわち、特定の波長領域(例えば、第1の波長領域)の範囲外の特定の波長を検出して、その波長が検出された時間から所定時間経過した時間(例えば、時間t1)にサンプリングを開始させるトリガー信号を生成してもよい。
【0041】
演算装置64は、生成されたトリガー信号をサンプリング回路66に出力する。サンプリング回路66に干渉信号とK-clock信号が入力する状態で、演算装置64からサンプリング回路66にトリガー信号が入力されると、サンプリング回路66は、K-clock信号で規定されたタイミングで干渉信号を取得する。干渉信号の取得は、予め設定された時間(例えば、t1~t2)だけ行われる。これによって、第1の波長領域における複数個の干渉信号(1個のAスキャン情報)が取得される。ここで取得された複数個の干渉信号には、測定用干渉信号と較正用干渉信号が含まれる。取得された複数個の干渉信号は、サンプリング回路66から演算装置64に入力される。
【0042】
第1の波長領域における干渉信号のサンプリングが終了すると、次の波長領域(すなわち、第2の波長領域)において干渉信号のサンプリングを行う。サンプリング回路66は、光源装置12から出力される光の波長が第2の波長領域の開始時の波長となったとき、K-clock信号に基づき干渉信号を取得する。具体的には、サンプリング回路66は、トリガー信号に基づいて、第1の波長領域におけるサンプリングの開始タイミングである時間t1から所定時間が経過した時間t3にサンプリングを開始する。これによって、サンプリング回路66は、第2の波長領域におけるサンプリングの開始タイミングである時間t3にサンプリングを開始できる。干渉信号の取得は、所定時間(t3~t4)の間行われる。ここで取得された干渉信号には、測定用干渉信号と較正用干渉信号が含まれる。取得された複数個の干渉信号は、サンプリング回路66から演算装置64に入力される。なお、第2の波長領域におけるサンプリングは、第2の波長領域におけるサンプリングを開始させるトリガー信号に基づいて開始してもよい。詳細には、第2の波長領域におけるサンプリングを開始させるトリガー信号は、検出した特定の波長(
図4の時間t1に対応する波長)に基づいて、第2の波長領域におけるサンプリングの開始タイミングを規定するように生成されてもよい。すなわち、演算装置64は、検出した特定の波長に対応する時間t1から所定の時間が経過した時間t3にサンプリングを開始するように、トリガー信号を生成してもよい。また、第2の波長領域におけるサンプリングを開始させるトリガー信号は、第2の波長領域におけるサンプリングを開始するタイミングである時間t3に対応する波長を検出することによって生成されてもよい。上記の処理は、波長領域を変更しながら各走査線において実行される。これによって、異なる波長領域でサンプリングされた複数のAスキャン情報が取得される。
【0043】
なお、本実施例では、サンプリングする波長領域が重複することなく独立していたが(
図4参照)、サンプリングする波長領域は部分的に重複していてもよい。例えば、
図8に示すように、光源装置12から出力される光は、時間t5からt7の間に第1の波長領域となり、時間t6からt8の間に第2の波長領域となり、第1の波長領域と第2の波長領域において、時間t6からt7の間で重複していてもよい。このような場合には、波長領域が重複する複数の波長領域(例えば、
図8では第1の波長領域から第4の波長領域まで)について連続して干渉信号をサンプリングし、演算装置64のメモリ(図示省略)に記憶する。そして、サンプリングしたデータから各波長領域に対応するデータを抽出する。これによって、サンプリングする波長領域が部分的に重複する場合であっても、各波長領域において被検眼100の各部の位置及びミラー70の反射面70aの位置を適切に特定することができる。
【0044】
ステップS12において複数のAスキャン情報が取得されると、演算装置64は、Aスキャン情報毎に、較正用干渉信号の波形(詳細には、フーリエ変換後の信号波形、例えば、点像分布関数信号波形)を特定する(S14)。上述したように、較正光学系のゼロ点からの光路長L1は、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定されている(
図3参照)。これによって、反射面70aの位置は、被検眼100の測定領域の範囲外(詳細には、測定領域より深い位置)に検出される。このため、測定用干渉信号と較正用干渉信号を含む干渉信号をフーリエ変換することで、これら干渉信号の中から、較正用干渉信号を特定することができる。
【0045】
次に、演算装置64は、ステップS14で特定された較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置について、Aスキャン情報毎に生じるずれ量を算出する(S16)。異なる周波数帯域において干渉信号をサンプリングすると、周波数帯域毎に干渉信号の波形の深さ方向の位置が異なる。このような位置ずれは、例えば、測定光学系、参照光学系及び較正光学系がファイバを用いている場合において、測定光学系(又は較正光学系)を構成するファイバ長と参照光学系を構成するファイバ長との間の差に起因して生じ、この場合には干渉信号の波形の深さ方向の位置がシフトする。また、K-clock発生装置80の波長分散に起因して分解能が変化することによっても位置ずれが生じることがある。干渉信号の波形の深さ方向の位置ずれは、眼科装置1毎の特性や光源装置12毎の特性によって生じるものであり、どのような位置ずれが生じるのか(例えば、位置がシフトしているのか、分解能が変化しているのか等)を予め調べることができる。このように干渉信号の波形が深さ方向にずれているデータを用いて断層画像を生成すると、同一の対象であってもAスキャン情報毎に深さ方向の測定値が異なり、生成された断層画像に歪みが生じる(
図9参照)。そこで、各Aスキャン情報間において、検出された較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置のずれ量を算出する。
【0046】
較正用干渉信号は、ミラー70の反射面70aから反射された反射光と参照光とを合成した干渉波による信号であり、較正光の光路長は一定で変化しない。したがって、複数のAスキャン情報に含まれる較正用干渉信号は、全て同じ対象(すなわち、ミラー70の反射面70a)を示すものであり、本来であれば全て同一の深さ方向の位置に検出される。各Aスキャン情報間において、同一の深さ方向の位置に検出されるべき較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置ずれ量を算出することによって、異なる周波数帯域でサンプリングしたことによって生じる干渉信号全体(すなわち、較正用干渉信号と測定用干渉信号)の深さ方向の位置ずれ量を算出することができる。例えば、演算装置64は、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる較正用干渉信号の波形(以下、第1の較正用波形ともいう)の深さ方向の位置と、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる較正用干渉信号の波形(以下、第2の較正用波形ともいう)の深さ方向の位置との間のずれ量を算出する。このずれ量は、第1の波長領域においてサンプリングした干渉信号全体と、第2の波長領域においてサンプリングした干渉信号全体との間の深さ方向の位置ずれ量と言える。同様にして、各Aスキャン情報間における較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置のずれ量を算出する。
【0047】
次に、演算装置64は、ステップS14で特定された較正用干渉信号の波形の形状(以下、ピーク形状ともいう)について、Aスキャン情報毎に生じるずれ量を算出する(S18)。異なる周波数帯域において干渉信号をサンプリングすると、周波数帯域毎に検出される干渉信号の波形のピーク形状が異なる。このように干渉信号の波形のピーク形状がずれているデータを用いて断層画像を生成すると、同一の対象であってもAスキャン情報毎に信号強度が異なり、生成された断層画像に輝度ムラが生じる。そこで、各Aスキャン情報間において、検出された較正用干渉信号の波形のピーク形状のずれ量を算出する。例えば、演算装置64は、第1の較正用波形のピーク形状と、第2の較正用波形のピーク形状との間のずれ量(例えば、ピーク形状の高さ、幅、傾き等のずれ量)を算出する。このずれ量は、第1の波長領域においてサンプリングされた干渉信号全体と、第2の波長領域においてサンプリングされた干渉信号全体との間の信号強度のずれ量と言える。同様にして、各Aスキャン情報間における較正用干渉信号の波形のピーク形状のずれ量を算出する。
【0048】
次に、演算装置64は、ステップS16及びステップS18で算出されたずれ量に基づいて、各Aスキャン情報について干渉信号全体(すなわち、較正用干渉信号と測定用干渉信号)を補正する(S20)。1個のAスキャン情報には、被検眼100の各部位を特定する測定用干渉信号とミラー70を特定する較正用干渉信号が含まれている。異なる周波数帯域においてサンプリングすることによって生じる干渉信号の深さ方向の位置ずれ及びピーク形状のずれは、1個のAスキャン情報に含まれる干渉信号全体に同様に生じる。すなわち、較正用干渉信号がずれている場合、同一のAスキャン情報に含まれる測定用干渉信号も、当該較正用干渉信号と同じようにずれている。そこで、ステップS16及びステップS18で算出されたずれ量分だけ、同一のAスキャン情報に含まれる測定用干渉信号及び較正用干渉信号を補正する。
【0049】
例えば、Aスキャン情報毎に干渉信号の深さ方向の位置が単にシフトする場合には、以下のように補正する。ステップS16において、第2の較正用波形の深さ方向の位置が、第1の較正用波形の深さ方向の位置に対して+ΔZ1だけシフトしていると算出されたとする。この場合、演算装置64は、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号(すなわち、測定干渉信号及び較正用干渉信号)を-ΔZ1だけシフトする。このように補正すると、同一の深さ方向の位置に検出されるべき2つの較正用干渉信号の波形(すなわち、第1の較正用波形と第2の較正用波形)の深さ方向の位置が略一致する。これによって、第2の波長領域でサンプリングされたAスキャン情報に含まれる較正用干渉信号と同じようにずれていた測定用干渉信号の位置を、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に対してずれのない位置に補正することができる。なお、本実施例では、第1の較正用波形と第2の較正用波形の深さ方向の位置が略一致するように、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体をシフトしていたが、このような構成に限定されない。第1の較正用波形と第2の較正用波形の深さ方向の位置が略一致するように、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体をシフトしてもよいし、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体と第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体の両方をシフトしてもよい。
【0050】
また、Aスキャン情報毎に干渉信号の深さ方向の位置が分解能の変化によってずれる場合には、以下のように補正する。例えば、ある位置(例えば、0点)を基準として、第1の較正用波形の深さ方向の位置がZ1と検出され、第2の較正用波形の深さ方向の位置がZ2と検出されたとする。この場合、演算装置64は、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号(すなわち、測定干渉信号及び較正用干渉信号)を、基準の位置からZ1/Z2だけ移動させる。このように補正すると、第1の較正用波形の位置と第2の較正用波形の位置が一致すると共に、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号の位置が、同じ割合で変更される。これによって、分解能の変化によって位置ずれが生じる場合にも、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報を、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に対してずれのない位置に補正できる。なお、第1の較正用波形と第2の較正用波形の深さ方向の位置が略一致するように、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体を移動させてもよいし、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体と第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる干渉信号全体の両方を移動させてもよい。
【0051】
なお、上記の例では、Aスキャン情報毎に干渉信号の深さ方向の位置が単にシフトする場合の補正(シフトの補正)と、Aスキャン情報毎に干渉信号の深さ方向の位置が分解能の変化によってずれる場合の補正(分解能変化の補正)についてそれぞれ説明したが、このような構成に限定されない。例えば、Aスキャン情報毎に干渉信号の深さ方向の位置がシフトすると共に分解能が変化することによってずれる場合には、上記のシフトの補正と分解能変化の補正の両方を組み合わせて、干渉信号(すなわち、測定干渉信号及び較正用干渉信号)の深さ方向の位置を補正してもよい。
【0052】
同様にして、複数のAスキャン情報それぞれに含まれる全ての較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置が一致するように、各Aスキャン情報に含まれる干渉信号全体を補正する。このように補正されたAスキャン情報を用いて断層画像を生成することによって、断層画像の歪みを抑制することができる。
【0053】
また、Aスキャン情報毎に生じる干渉信号の波形形状のずれ量についても、各Aスキャン情報に含まれる較正用干渉信号の波形のピーク形状が一致するように、各Aスキャン情報に含まれる干渉信号全体を補正する。例えば、ステップS18において、第2の較正用波形のピーク形状の高さが、第1の較正用波形のピーク形状の高さの約50%と算出されたとする。この場合、第1の較正用波形のピーク形状の高さと第2の較正用波形の高さが一致するように、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号(すなわち、測定干渉信号及び較正用干渉信号)の信号強度を50%にする。なお、第1の較正用波形のピーク形状の高さと第2の較正用波形の高さが一致するように、第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号の信号強度を大きくしてもよいし、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号の信号強度と第2の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれる全ての干渉信号の信号強度の両方を変更してもよい。
【0054】
また、Aスキャン情報毎に較正用干渉信号の波形のピーク形状の幅が異なる場合には、例えば、各Aスキャン情報に含まれる較正用干渉信号の波形のピーク形状の半分の高さにおける幅(いわゆる、半値幅)を検出し、検出された半値幅が一致するように、各Aスキャン情報に含まれるフーリエ変換前の全ての干渉信号を補正する。その後、補正された干渉信号をフーリエ変換する。これによって、干渉信号の波形のピーク形状の幅が補正される。すなわち、Aスキャン情報毎、当該Aスキャン情報に含まれるピーク形状毎に、そのピーク形状を構成する干渉信号を補正する。例えば、ステップS18において、フーリエ変換後の第2の較正用波形のピーク形状の半値幅が、フーリエ変換後の第1の較正用波形のピーク形状の半値幅の約50%と算出されたとする。この場合、フーリエ変換後の第1の較正用波形のピーク形状の半値幅とフーリエ変換後の第2の較正用波形の半値幅が一致するように、第1の波長領域においてサンプリングされたAスキャン情報に含まれるフーリエ変換前の全ての干渉信号(すなわち、測定干渉信号及び較正用干渉信号)に対してスペクトルシェイピングを行う。その後、スペクトルシェイピングが行われた干渉信号をフーリエ変換する。これによって、干渉信号の波形の各ピーク形状の幅が50%になったAスキャン情報が得られる。なお、干渉信号の波形の各ピーク形状の幅の補正方法は限定されない。例えば、スペクトルシェイピングに代わり、窓関数を適用することによって、干渉信号の波形の各ピーク形状の幅を補正してもよい。このように補正されたAスキャン情報を用いて断層画像を生成することによって、断層画像の輝度ムラを抑制することができる。また、眼内の各部位の深さ方向の寸法が同一の大きさに表示され、断層画像の鮮明度が向上する。
【0055】
なお、本実施例では、ミラー70の反射面70aで反射された光を較正光として用いていたが、このような較正に限定されない。眼科装置内の光路長が既知の反射光であれば較正光として用いることができ、例えば、測定光学系が備える光学部材(例えば、凸レンズ42等)の反射面を較正光として用いてもよい。測定光学系が備える光学部材を用いて較正光を生成することによって、部品点数を増やすことなく較正光を生成することができる。
【0056】
(実施例2)
上記の実施例1では、較正光を生成するためのミラー70は、眼科装置1の内部の測定光学系の光路上ではない位置に設置されていたが、このような構成に限定されない。例えば、較正光を生成するためのミラー170は、眼科装置2の外部の測定光学系の光路上の位置に配置してもよい。なお、本実施例の眼科装置2は、較正光学系の光路が実施例1の眼科装置1と相違しており、その他の構成については略同一となっている。そこで、実施例1と同様の構成については、その説明を省略する。
【0057】
図10に示すように、眼科装置2は、干渉光学系114を備えている。干渉光学系114は、光源装置12と、測定光学系と、参照光学系と、較正光学系と、受光素子26によって構成されている。較正光学系は、ビームスプリッタ24と、焦点調整機構40と、ガルバノスキャナ46と、ホットミラー48と、ミラー170によって構成されている。光源装置12から出射された光は、ビームスプリッタ24、焦点調整機構40、ガルバノスキャナ46、及びホットミラー48を介してミラー170の反射面170aに照射される。ミラー170で反射された光は、ホットミラー48、ガルバノスキャナ46、焦点調整機構40、及びビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。
【0058】
本実施例では、較正光学系の光路は、測定光学系の光路と略一致しており、ミラー170は、図示しない装着部に装着されることによって、眼科装置2の外部の測定光学系の光路上に設置される。ミラー170が装着部に装着されているとき、較正光学系の光路上にはミラー170が配置され、測定光学系の光路上に被検眼100を配置できない。このため、ミラー170が装着部に装着されているとき、受光素子26はミラー170の反射面170aからの反射光(すなわち、較正光)を受光する。一方、ミラー170が装着部に装着されていないとき、測定光学系の光路上に被検眼100を配置できる。このため、ミラー170が装着部に装着されておらず、測定光学系の光路上に被検眼100が配置されているとき、受光素子26は被検眼100からの反射光(すなわち、測定光)を受光する。したがって、本実施例の眼科装置2では、較正光と測定光は同時に生成されることがなく、較正光と測定光は異なるタイミングで生成される。なお、ミラー170は、「較正部材」の一例である。
【0059】
本実施例では、まず、ミラー170を装着部に装着した状態で、演算装置64は、異なる波長領域(すなわち、周波数帯域)でサンプリングされる複数のAスキャン情報を取得する。ここで取得される複数のAスキャン情報には、較正用干渉信号のみが含まれ、測定用干渉信号は含まれない。そして、演算装置64は、Aスキャン情報毎に、較正用干渉信号の波形を特定し、較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置のずれ量とピーク形状のずれ量を算出する。なお、上記の処理は、実施例1のステップS12~ステップS18の処理と略同一であるため、詳細な説明は省略する。Aスキャン情報毎に算出された較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置のずれ量とピーク形状のずれ量は、演算装置64のメモリ(図示省略)に記憶される。ミラー170は、較正用干渉信号を含む複数のAスキャン情報を取得した後、装着部から取り外される。
【0060】
ミラー170が装着部に装着されていないとき、眼科装置2を用いて被検眼100を測定(すなわち、被検眼100について複数のAスキャン情報を取得)できる。なお、被検眼100について複数のAスキャン情報を取得する処理は、実施例1のステップS12の処理と略同一であるため、詳細な説明は省略する。ここで取得される複数のAスキャン情報には、測定用干渉信号のみが含まれ、較正用干渉信号は含まれない。そして、演算装置64は、メモリに記憶されている、Aスキャン情報毎に算出された較正用干渉信号の波形の深さ方向の位置のずれ量とピーク形状のずれ量に基づいて、測定用干渉信号を補正する。なお、この処理は、実施例1のステップS20の処理と略同一であるため、詳細な説明は省略する。このように、測定用干渉信号と較正用干渉信号を異なるタイミングで取得した場合であっても、サンプリングした周波数帯域が異なることに起因して生じる干渉信号の信号強度のずれや位置ずれを適切に補正することができる。
【0061】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
1、2:眼科装置
10:測定部
12:光源装置
14、114:干渉光学系
16:位置調整機構
22:参照ミラー
26:受光素子
40:焦点調整機構
46:ガルバノスキャナ
50:観察光学系
64:演算装置
66:サンプリング回路
70、170:ミラー
100:被検眼