(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】水中ゴーグルの度数決定方法及び水中ゴーグル供給システム
(51)【国際特許分類】
G02C 7/02 20060101AFI20221206BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20221206BHJP
A63B 33/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/06
A63B33/00 A
(21)【出願番号】P 2018235753
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栄二
(72)【発明者】
【氏名】三浦 仁志
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02730014(US,A)
【文献】米国特許第06460994(US,B1)
【文献】米国特許第05359371(US,A)
【文献】米国特許第05523804(US,A)
【文献】米国特許第03672750(US,A)
【文献】特開平07-205886(JP,A)
【文献】特開昭63-109412(JP,A)
【文献】中国実用新案第2664721(CN,Y)
【文献】特開平04-332571(JP,A)
【文献】特表平11-512937(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/02- 7/08
A63B33/00
B63C11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中ゴーグルの度数を決定する方法であって、
空気中の度数、及び水中において主に見たい距離|a|が指定され、
水中ゴーグルの度数が、前記空気中の度数に対し、前記距離|a|に関する下記式(A)で算出された補正量を加えることで決定される
ことを特徴とする水中ゴーグルの度数決定方法。
【数1】
ここで、n
aは空気の屈折率、n
wは水の屈折率である。
【請求項2】
水中ゴーグルの度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数を含んでおり、
前記遠用度数
又は前記加入
度数が、前記補正量により決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の水中ゴーグルの度数決定方法。
【請求項3】
水中ゴーグルを供給するシステムであって、
空気中の度数、及び水中において主に見たい距離|a|を受け付ける手段と、
前記空気中の度数に対し、前記距離|a|に関する下記式(A)(n
aは空気の屈折率、n
wは水の屈折率)で算出された補正量を加えることで水中ゴーグルの度数を決定する手段と、
【数2】
決定された前記度数に係る水中ゴーグル又は水中ゴーグルのレンズを選定又は形成する手段と、
を備えている
ことを特徴とする水中ゴーグル供給システム。
【請求項4】
水中ゴーグルの度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数を含んでおり、
前記遠用度数
又は前記加入
度数が、前記補正量により決定される
ことを特徴とする請求項3に記載の水中ゴーグル供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水泳又はダイビング等の際にユーザの眼前を覆うように装用される水中ゴーグルにおけるレンズの度数を決定する方法、及び当該方法に則して決定されたレンズ度数に係る水中ゴーグルを供給するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開平4-332571号公報(下記特許文献1)に記載されるように、外面(前面,表面)が平坦であるレンズ筒の内側に任意の度数に係る度付レンズが液密に嵌合固着されて、近眼者であっても水中で良く見える水中眼鏡が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記水中眼鏡では、レンズ筒の外面が平坦(曲率半径≒∞)であるため、外面と接触する水も平坦となり、空気(屈折率=1.0)と異なる屈折率n1=1.33を有する水の中の屈折力と空気中の屈折力とが異ならず、空気中での装用時と水中での装用時との間で同じ屈折矯正効果を持たせることができるようになっている。このことは、水中眼鏡が屈折矯正を意図したものであってもそうでなくても同様である。
ここで、屈折力(レンズ表面)Dについての式(1)が次に示される。式(1)において、n1は物体側媒質の屈折率、n2はレンズの屈折率、R1はレンズ表面の曲率半径、fは焦点距離である。
【0005】
【0006】
しかし、レンズ筒の外面が平坦であっても、眼前有限距離にある物体の見え方は、水中と空気中とで異なる。なぜなら、水の屈折率は空気の屈折率より大きいところ、水中の物体は、見かけの距離が1.0/1.33となるように空気中よりも近く見え、実際に空気中と同じ距離にある物体でも、より多くの調節力が必要となる。
ところが、特開平4-332571号公報では、かような調節力等については一切触れられておらず、度数について任意のものを選定するとしか言及されていない。即ち、特開平4-332571号公報では、水中における視認性に配慮した度数選択の基準は、全く示されていない。
特に近時、中高年の泳者及びダイバーが増加傾向にあるところ、加齢による目の調節力の低下のために、空気中では見える距離にある物体が、水中では同じ距離において見えない、という事態が起こり易くなっている。
そこで、本発明の主な目的は、水中での視認性について配慮された水中ゴーグルの度数が決定される方法、及び水中での視認性について配慮された度数の水中ゴーグルが供給されるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、水中ゴーグルの度数を決定する方法であって、空気中の度数、及び水中において主に見たい距離|a|が指定され、水中ゴーグルの度数が、前記空気中の度数に対し、前記距離|a|に関する後述の式(8)(naは空気の屈折率、nwは水の屈折率)で算出された補正量を加えることで決定されることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、水中ゴーグルの度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数を含んでおり、前記遠用度数又は前記加入度数が、前記補正量により決定されることを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、水中ゴーグルを供給するシステムであって、空気中の度数、及び水中において主に見たい距離|a|を受け付ける手段と、前記空気中の度数に対し、前記距離|a|に関する下記式(8)(naは空気の屈折率、nwは水の屈折率)で算出された補正量を加えることで水中ゴーグルの度数を決定する手段と、決定された前記度数に係る水中ゴーグル又は水中ゴーグルのレンズを選定又は形成する手段と、を備えていることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明において、水中ゴーグルの度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数を含んでおり、前記遠用度数又は前記加入度数が、前記補正量により決定されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の主な効果は、水中での視認性について配慮された水中ゴーグルの度数が決定される方法、及び水中での視認性について配慮された度数の水中ゴーグルが供給されるシステムを提供されることにある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明に係る水中ゴーグル供給システム及び関連する機器のブロック図である。
【
図3】本発明に係る水中ゴーグル供給システムの動作例(水中ゴーグル供給方法の一例)に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態の例が説明される。本発明は、以下の形態に限定されない。
【0011】
本発明に係る水中ゴーグルは、透光性を有するレンズを含む。
レンズは、左右の眼のそれぞれに対応するように2枚用いられても良いし(水中メガネ)、左右の眼を共通して覆う1枚のレンズとされても良い(ダイビングマスク)。前者の場合、各レンズにおいて度数補正用の面が形成され、後者の場合、装用時に各眼の前方に位置する部分に、度数補正用の面を有するレンズ部が設けられる。
レンズは、ガラスを始めとする透光性を有する材質で形成され、好適にはプラスチック製である。
水中メガネの場合、各レンズは、左右に開口部を有するゴーグル枠における対応する開口部に入れられ、ダイビングマスクの場合、レンズは、顔面の3分の1程度を囲む大きさの開口部を有するゴーグル枠における開口部に入れられる。何れの場合でも、レンズとゴーグル枠とでゴーグル本体が形成され、ゴーグル本体の左右各端部を結ぶように、ヘッドバンドが設けられる。ユーザは、レンズが眼前となり、ヘッドバンドの端部が耳の上側となり、ヘッドバンドが後頭部を横切る状態で、ゴーグル本体とヘッドバンドとを頭部に巻き付けて装用する。
レンズは、1枚の板であっても良いし、前レンズ体と後レンズ体とが接合されたような複数の部材の組合せであっても良い。前レンズ体又は後レンズ体は、度数の補正に関わらない平坦な板であっても良く、ゴーグル枠と一体であり後レンズ体又は前レンズ体を受け入れるものであっても良い。
【0012】
レンズの度数は、レンズの前面(物体側の面)及び後面(眼側の面)の少なくとも一方を所定の曲面とすることで付与され、好ましくは水の中の屈折力と空気中の屈折力とが異ならないようにするため、前面は平坦とされ後面の形状が調整されることで付与される。
レンズの度数は、次の[表1]に示されるように、水中の物体が空気中よりも近く見えて見かけの距離が1.0/1.33となり、同距離の空気中の物体より多くの調節力を必要とすることを考慮して決定される。尚、[表1]における「D」は、度数の単位(ディオプター)である。
【0013】
【0014】
眼前有限距離にある物体を、水中と空気中とで同じ調節力で見るために必要な度数の補正量は、次の式(2)で示されるレンズの結像公式により算出される。
図1に、レンズの結像公式に係る模式図が示される。レンズの結像公式において、nは物体側屈折率(空気なら1,水なら1.33)、n’は像側屈折率、aは物点距離即ちレンズLから物点Oまでの距離(m,右に向かうと正で左に向かうと負)、bは像点距離即ちレンズLから像点Pまでの距離(m,右に向かうと正で左に向かうと負)、Dはレンズの度数である。
水中ゴーグルの場合、像側即ち眼側は空気であるためn’=1とし、更に式(2)を変形すると、下記式(3)が得られる。式(3)において、bは像点距離であり、レンズ通過後の物点距離に相当する。bの逆数1/bは、レンズ通過後の物体を見るのに必要な調節力(D)である。
【0015】
【0016】
以下、所定の有限距離aを置いた地点にある物体に対して、空気中と水中とで同じ調節力で見る場合が述べられる。
まず、空気中では、式(3)においてn=1として、次の式(4)で表される調節力が必要である。ここで、D1は、空気中で必要となる調節力に係るレンズ度数である。
【0017】
【0018】
この式(4)の左辺である1/bが、レンズの結像公式である式(2)におけるn’/bの部分に当てはめられると、次の式(5)が得られる。ここで、D2は、所定の有限距離aを置いた地点にある物体を空気中と水中とで同じ調節力で見るためのレンズ度数である。
【0019】
【0020】
水の屈折率である1.33が式(5)のnに代入され、更に整理されると、次の式(6)が得られる。
【0021】
【0022】
D2-D1は、空気中と水中で有限距離aにある物体を同じ調節力で見るために必要な度数補正量に相当し、これは、式(6)より、-0.33/aとなって、レンズから物体までの距離aに依存する。式(6)における-0.33は、空気の屈折率na(=1)から水の屈折率nw(=1.33)を減じたものであるから(na-nw)、式(6)は、下記式(7)として表記することもできる。
更に、式(6),(7)は、有限距離aが物体側で負数となり、他分野等の通常の「距離」の概念と異なることから、通常の概念に近づけるために有限距離aの絶対値|a|(距離|a|)を用いると、(na-nw)の符号も変わって-(na-nw)=nw-naとなることから、次の式(8)として表記することもできる。
【0023】
【0024】
従って、ユーザが水中において空気中と同様な状態で良く見たいと主に考えている特定の有限距離aが設定されることにより、式(6),(7)から、空気中で使用している眼鏡の度数(通常の眼鏡の度数)に対する水中ゴーグルの度数の補正量が割り出される。有限距離aは、レンズLの物体側における距離であるため、式(6),(7)において、実際の距離の値にマイナス符号を付した負数となる。尚、割り出された補正量は、ユーザの実際の見え方及び取り扱い易さ(レンズが0.50D毎にストックされる等)の少なくとも一方等に応じ、微調整がなされても良い。
例えば、ユーザがダイビングあるいは水泳等において2m(メートル)先の視認性を重視している場合、特定の有限距離aが、レンズLの物体側で2mであることに応じてa=-2というように負数で設定され、式(6),(7)より通常の度数から+0.165D(ディオプター)シフトされた度数が水中ゴーグルの度数と決定される。これは、式(8)で|a|=2と設定され算出されたシフト量(補正量)と同じである。
あるいは、同様に1m(メートル)先の視認性を重視している場合、a=-1とされ、式(6),(7)より通常の度数から+0.33Dだけシフトされた度数が水中ゴーグルの度数と決定される。これは、式(8)で|a|=1と設定され算出されたシフト量(補正量)と同じである。
又、ダイビング時に近くを泳ぐ魚を良く見たいこと等により50cm(センチメートル)先の視認性を重視している場合、a=-0.5とされ、式(6),(7)より通常の度数から+0.66Dだけシフトされた度数が水中ゴーグルの度数と決定される。これは、式(8)で|a|=0.5と設定され算出されたシフト量(補正量)と同じである。
【0025】
又、通常の眼鏡の度数が累進多焦点レンズに係る度数とされ、通常の眼鏡の度数に対する水中ゴーグルの度数の補正量が累進多焦点に係るものとされても良い。
あるいは、通常の眼鏡の度数は単焦点の度数であり、水中ゴーグルの度数が累進多焦点の度数とされる場合において、通常の眼鏡の度数に対する水中ゴーグルの度数の補正量を参照して、累進多焦点に係る水中ゴーグルの度数が決定されても良い。
累進多焦点に係る水中ゴーグルの度数は、遠用度数及び加入度数が含まれて良く、補正量は、遠用度数に適用し、近用度数が補正量適用後の遠用度数に加入度数を加えたものとされても良いし、遠用度数を通常の度数に保持したまま加入度数に適用しても良い。
【0026】
かように、水中ゴーグルの度数を決定する方法において、空気中の度数(通常の度数)、及び水中において主に見たい距離aが指定され、水中ゴーグルの度数が、空気中の度数に対し、距離|a|に関する式(8)(naは空気の屈折率、nwは水の屈折率)で算出された補正量を加えることで決定される。よって、通常の度数による調節力と同じ調節力で、主に見たい距離|a|だけ離れた水中の物体を視認することができる度数が決定可能であり、水中での視認性について配慮された水中ゴーグルの度数が決定される方法が提供される。
又、水中ゴーグルの度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数を含んでおり、遠用度数及び加入度数のうちの少なくとも一方が補正量により決定される。よって、遠近共に水中での視認性に優れた水中ゴーグルの度数が決定される方法が提供される。
【0027】
以下、かような水中ゴーグルの度数決定方法に則して決定されたレンズ度数に係る水中ゴーグルを供給するシステムが説明される。
図2は、当該水中ゴーグル供給システム1及び関連する機器のブロック図である。
水中ゴーグル供給システム1は、サーバコンピュータであり、表示手段2と、入力手段4と、記憶手段6と、通信手段7と、制御手段8と、を備えている。
水中ゴーグル供給システム1は、例えば、レンズメーカー、又は各種のレンズをストックしたラボラトリー(倉庫)若しくは店に設置される。
【0028】
表示手段2は、各種の情報を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイである。
入力手段4は、各種の情報の入力を受け付けるものであり、例えばキーボード及びポインティングデバイスの少なくとも一方である。
表示手段2と入力手段4とは、タッチパネルのように一体化されていても良い。
【0029】
記憶手段6は、各種の情報を記憶するものであり、例えばハードディスク、メモリ、及びディスクドライブの少なくとも何れかである。
通信手段7は、各種の情報を外部機器との間で通信するものであり、ここではインターネットINと通信するものである。
制御手段8は、これらの手段を制御するものであり、例えば中央演算装置(CPU)である。制御手段8は、記憶手段6に記憶された水中ゴーグル供給プログラムを逐次読み出して、当該プログラムに従い水中ゴーグルの供給に係る処理を行う。
【0030】
水中ゴーグル供給システム1の通信手段7は、インターネットINを介して、1以上の端末Tに通信可能に接続されている。尚、通信手段7,17は、専用線等、他のネットワークを介して通信するものであっても良い。又、通信手段7,17は、ローカルエリアネットワークによって接続されたものであっても良い。更に、通信手段7,17間の通信は、無線及び有線の少なくとも一方でなされて良い。
端末Tは、コンピュータであり、水中ゴーグル供給システム1と同様に、表示手段12、入力手段14、記憶手段16、通信手段17、及び制御手段18を備えている。
端末Tは、ユーザ側に設置され、例えば、水中ゴーグル供給システム1が設置された店と同一あるいは異なる店、又はユーザの家(パーソナルコンピュータ等)若しくは手元(タブレット若しくはスマートデバイス等)に設置される。
【0031】
図3は、水中ゴーグル供給システム1の動作例(水中ゴーグル供給方法の一例)に係るフローチャートである。
端末Tの制御手段18は、記憶手段16に記憶された水中ゴーグル発注プログラムを(ユーザのプログラム開始入力に基づいて)実行し、表示手段12において、水中ゴーグルで良く見たい(最も視認性を重視する)距離|a|の入力、及び通常の度数の入力を促す入力部を表示し、入力手段14において、当該距離|a|及び通常の度数の入力を受け付ける。通常の度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数のうちの少なくとも一方であっても良い。又、距離|a|の入力に代えて、物体側で負数となる距離aの入力がなされても良い。
制御手段18は、距離|a|及び通常の度数の入力がなされると、距離|a|及び通常の度数を記憶手段16に記憶し、端末Tの識別子(端末ID)を付して、通信手段17及びインターネットINを介し水中ゴーグル供給システム1に送信する。
【0032】
水中ゴーグル供給システム1の制御手段8は、通信手段7において端末ID付きの距離|a|及び通常の度数を受信すると(ステップS1)、これを記憶手段6において記憶し(ステップS2)、距離|a|を式(8)に代入することで水中ゴーグルにおける度数の補正量を算出して記憶手段6において記憶する(ステップS3)。式(8)は、水中ゴーグル供給プログラムの構成要素として、記憶手段6に記憶されている。尚、式(6),(7)の少なくとも一方が用いられても良い。
【0033】
更に、制御手段8は、通常の度数に水中ゴーグルにおける度数の補正量を適用して水中ゴーグルのレンズに係る度数を決定し、記憶手段6において記憶すると共に(ステップS4)、当該度数を有する水中ゴーグルの選定を、倉庫システム(所定の貯蔵品を自動で所定の箇所に運搬しあるいは貯蔵品の貯蔵箇所を案内するシステム)に対する指令、及び表示手段2への表示による作業者への指令の少なくとも一方等により行わせる(ステップS5)。度数の補正量の適用は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数のうちの少なくとも一方に対してなされても良い。
尚、制御手段8は、水中ゴーグル又はそのレンズを製造する機械に対し、当該度数に係る水中ゴーグル又はそのレンズの形成を指令しても良い。レンズが形成される場合、その場あるいはユーザ側あるいはそれらの間の地点で水中ゴーグル本体に合わせられて良い。
【0034】
制御手段8は、かように選定(形成)された水中ゴーグルについて、店を介してあるいは運搬業者等により直接ユーザに対して供給するため、その発送を指令する(ステップS6)。
発送の指令は、水中ゴーグルの選定(形成)の指令と同様に、発送システムに対する指令、及び表示手段2への表示による作業者への指令の少なくとも一方等によって行われる。
発送先は、端末IDにより判別可能である。
尚、同じ店において水中ゴーグル供給システム1と端末Tとが設置される場合、選定(形成)された水中ゴーグルは、店員によりユーザに渡されても良い。又、この場合、水中ゴーグル供給システム1と端末Tとが1つのコンピュータで構成されていても良い。
更に、水中ゴーグルが発送された旨が、制御手段8による通信手段7及びインターネットINを介した端末Tに対する指令により、端末Tの表示手段12において表示されるようにしても良い。
【0035】
かようにして、ユーザは、水中ゴーグル供給システム1により、良く見たいと所望する距離|a|において視認性が良好である度数を有する水中ゴーグルについて、供給を受けることができる。
【0036】
即ち、水中ゴーグル供給システム1は、空気中の度数、及び水中において主に見たい距離|a|を受け付ける手段(入力手段4,通信手段7)と、空気中の度数に対し、距離|a|に関する式(8)(naは空気の屈折率、nwは水の屈折率)で算出された補正量を加えることで水中ゴーグルの度数を決定する手段(制御手段8)と、決定された前記度数に係る水中ゴーグルを選定又は形成する手段と、を備えている。よって、水中での視認性について配慮された度数の水中ゴーグルが供給されるシステムが提供される。
又、水中ゴーグルの度数は、累進多焦点に係る遠用度数及び加入度数を含んでおり、遠用度数及び加入度数のうちの少なくとも一方が補正量により決定される。よって、遠近共に水中での視認性に優れた度数を有する水中ゴーグルの供給システムが提供される。
【実施例】
【0037】
次いで、本発明の実施例1,2が説明される。実施例1,2は、水中ゴーグルの度数決定方法に関するものである。
尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、実施例が本発明に属さない比較例となることがある。
【0038】
[実施例1]
実施例1は、ユーザU1がダイビング中に良く見たい距離|a|として50cmを指定し、ダイビングマスクを発注する場合に係る。
ユーザU1の通常の屈折矯正度数は、右眼においてS度数で-4.00D(R:S-4.00)、同様に左眼においてL:S-4.00である。
50cm先の物体を空気中と同じ調節力で見るためには、式(6)でa=-0.5とし、あるいは式(8)で|a|=0.5として、0.33/0.50=+0.66Dの補正が加えられる必要がある。そして、取り扱い易さの観点から、シフト量(補正量)を+0.66Dから+0.50とする微調整が行われ、水中ゴーグルの度数として、R:S-3.50,L:S-3.50と決定された。
この場合、理論上は、空気中の遠方視において-0.43Dの近視未矯正となる。例えば、5m先の物体を見るには0.33/5=+0.066Dの補正で済むところ、+0.66Dの補正が加えられていることになる。
しかし、実際には、水中での遠方視は空気中よりかなり手前に見えることとなり、例えば5m先の物体は5/1.33≒3.75m先に見えることとなる。
ユーザU1がR:S-3.50,L:S-3.50の水中ゴーグル(ダイビングマスク)を水中で装用した状態でユーザU1の視力測定が行われ、実際に1.0程度の視力が得られたため、R:S-3.50,L:S-3.50(ユーザU1に対する処方度数)の決定は遠方視に対しても良好であった。又、当該視力測定に付随して、ユーザU1における50cm先の物体の視認性が極めて良好であることが確認された。
【0039】
[実施例2]
実施例2は、ユーザU2がダイビング中に良く見たい距離|a|として33cmを指定し、ダイビングマスクを発注する場合に係る。
ユーザU2の通常の屈折矯正度数は、R:S-4.00,L:S-4.00である。又、残存調節力は3.00Dであり、空気中では眼前33cmの物体が見える程度である。
ユーザU2が水中で眼前33cmの物体を見るためには、3.00+0.33/0.33=4.00Dの調節力が必要となり、通常の度数のままではボケた状態でしか見えない。
そこで、ダイビングマスクでは、式(6)でa=-0.5とし、あるいは式(8)で|a|=0.5として、0.33/0.33=1.00だけ通常の度数をシフトしてR:S-3.00,L:S-3.00とすることが考えられる。
ところが、かような度数では遠方視において近視未矯正になり、例えば5m先の物体の視認において、0.33/5=+0.066の補正で良いため、-0.93Dの近視未矯正になる。
そこで、ダイビングマスクのレンズとして、累進多焦点レンズが選択され、累進多焦点レンズの度数が、遠用度数R:-4.00,L:-4.00に対し加入度数(ADD)1.00Dとされて、近用部分の度数は-3.00Dが中心となって眼前33cmの物体等が見易くなり、遠用部分の度数は-4.00Dが中心となって遠方視の視認性も良好とされたダイビングが供給されることとした。
ユーザU2は、かような度数に係るダイビングマスクを装用することにより、水中においいて、遠くも近くも空気中と同じ調節力で見えるようになった。
【符号の説明】
【0040】
1・・水中ゴーグル供給システム、4・・入力手段、7・・通信手段、8・・制御手段、L・・レンズ。