IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トラストエナジー株式会社の特許一覧

特許7188758バッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置
<>
  • 特許-バッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置 図1
  • 特許-バッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置 図2
  • 特許-バッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】バッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20221206BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20221206BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221206BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221206BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20221206BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20221206BHJP
【FI】
H01M10/44 Q
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
H02J7/04 F
G01R31/392
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019047059
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020149887
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】519091258
【氏名又は名称】トラストエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】若▲崎▼ 英紀
(72)【発明者】
【氏名】矢原 正樹
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-009531(JP,A)
【文献】特開2015-215976(JP,A)
【文献】国際公開第2016/135913(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常用電源のバッテリをリアルタイムで監視しながら、延命措置を施すバッテリ監視延命方法であって、
複数のセルを有する前記バッテリの劣化を判定する基となる前記各セルの特性データを定期的に取得する特性データ取得工程と、前記各セルの電極に定期的にパルス電流を供給する定期的延命工程と、前記特性データ取得工程で取得された前記特性データを基に、前記各セルが劣化傾向にあるか否かを判定する劣化傾向判定工程と、該劣化傾向判定工程で劣化傾向にあると判定された前記セルの電極に集中的にパルス電流を供給する集中的延命工程とを有することを特徴とするバッテリ監視延命方法。
【請求項2】
請求項1記載のバッテリ監視延命方法において、前記劣化傾向判定工程で劣化傾向にあると判定された前記セルに対し、劣化傾向にあると判定されなくなるまで前記集中的延命工程を連続して行うことを特徴とするバッテリ監視延命方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のバッテリ監視延命方法において、前記劣化傾向判定工程での判定とは関係なく、複数の前記セルの中から選択した特定の前記セルの電極に集中的にパルス電流を供給する強制延命工程を有することを特徴とするバッテリ監視延命方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1記載のバッテリ監視延命方法に用いられるバッテリ監視延命装置において、前記各セルの特性データを定期的に取得する特性データ取得手段と、該特性データ取得手段で取得された前記特性データを基に、前記各セルが劣化傾向にあるか否かを判定する劣化傾向判定手段と、該劣化傾向判定手段での判定に基づいて、前記各セルの電極に供給するパルス電流の供給パターンをそれぞれ設定するパルスパターン設定手段と、該パルスパターン設定手段で設定されたそれぞれの前記供給パターンに従って前記各セルの電極に前記パルス電流を供給するパルス電流供給手段とを有し、前記各セルは、前記劣化傾向判定手段で劣化傾向にあると判定されるまでは、前記パルスパターン設定手段で設定された前記供給パターンに従って前記各セルの電極に定期的に前記パルス電流が供給され、前記劣化傾向判定手段で劣化傾向にあると判定された前記セルは、該セルに接続された前記パルス電流供給手段に対して、前記パルスパターン設定手段から前記パルス電流の前記供給パターンの変更が指示され、該セルの電極に集中的に前記パルス電流が供給されることを特徴とするバッテリ監視延命装置。
【請求項5】
請求項記載のバッテリ監視延命装置において、前記パルスパターン設定手段で設定される前記パルス電流の前記供給パターンのパラメータには、周期T 、電流値I、パルス幅T 、繰返し回数n及び休止時間T があり、集中的に前記パルス電流を供給することには、正常な前記セルの電極に対してよりも、a)周期T を短くすること、b)電流値Iを高くすること、c)パルス幅T を長くすること、d)繰返し回数nを多くすること、e)休止時間T を短くすること、及びf)a)~e)のいずれか2以上を組合せることが含まれることを特徴とするバッテリ監視延命装置。
【請求項6】
請求項又は記載のバッテリ監視延命装置において、前記特性データ取得手段で取得した前記特性データを、ネットワーク回線を介して入手し、遠隔地から前記バッテリを監視する遠隔監視手段を有し、前記劣化傾向判定手段での判定とは関係なく、前記遠隔監視手段で選択された特定の前記セルの電極に対し、前記パルス電流供給手段から集中的に前記パルス電流を供給することを特徴とするバッテリ監視延命装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常用(バックアップ用)電源として用いられるバッテリ(鉛蓄電池)をリアルタイムで監視しながら、必要な延命措置を施すことにより、バッテリの品質維持及び長寿命化を図るバッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、商業施設、公共施設、工場、又は病院等の各種施設の多くには、非常用(バックアップ用)電源として、バッテリを搭載した無停電電源装置等が設置されている。この非常用電源は、商用電源に停電等の異常事態が発生した際に、商用電源に代わって電力を供給できるように備えるものであり、安全上、非常に重要な役割を担っている。したがって、いつ停電事故が発生しても対応できるように、バッテリには常に充分な充電が行われていなければならない。そこで、非常用電源は、負荷に対し商用電源と並列に接続され、通常はフロート充電と呼ばれる小さな電流で商用電源からバッテリに充電されて、満充電状態に維持されている。しかし、絶えずフロート充電が行われているバッテリは、徐々に劣化し、やがては負荷に対して充分な電力を供給できない状態に至ることが知られている。したがって、日常的に点検を行うことが望ましいが、人手と手間がかかるため、通常は、半年に1回又は1年に1回程度の定期点検を行っている。その場合でも、バッテリの数が増えると、多額の人件費が発生するという問題がある。また、バッテリは、使用機会が少なくても、経年変化によっても劣化するため、設置から一定期間(例えば、6~10年)が経過する毎に新品と交換され、廃棄処分されている。このような定期交換では、良好な性能が維持されている(劣化が発生していない)バッテリでも交換されてしまうため、極めて不経済で省資源性に欠けるという問題がある。特に、通信機器や制御装置等に備え付けられている全てのバッテリを定期的に交換する場合、対象となる装置の数は膨大であり、バッテリの購入、搬送、交換及び回収に多大な費用と労力を必要とするという問題もある。
そこで、例えば、特許文献1では、遠隔のローカルコントローラ及びシステムコントローラで、通信ネットワークを介して蓄電システムを監視及び制御し、蓄電池(バッテリ)に含まれる複数の単位電池(セル)の状態や余寿命を把握する蓄電池監視方法及び監視コントローラが提案されている。また、特許文献2では、バックアップ電源用のバッテリの劣化状態を自動的に測定して遠隔監視を行うバッテリ劣化監視システムが提案されている。
一方、非常用電源として好適に用いられる鉛蓄電池(バッテリ)では、充電と放電を繰返すことによって、電解液中の硫酸と電極板の鉛が化学反応を起こし、負極表面において、結晶化した不導体の硫酸鉛(PbSO)が皮膜となって電極板に付着して、電極の電気化学的な活性が失われる現象(サルフェーション)が発生し、これがバッテリの劣化の原因となっている。よって、鉛蓄電池の電極に付着した硫酸鉛の皮膜を除去することにより、鉛蓄電池の長寿命化を図ることができる。例えば、特許文献3では、鉛蓄電池のサルフェーション現象によって生じる硫酸鉛の皮膜を溶解還元又は分解還元することにより除去し、鉛蓄電池を再生する方法及び該方法に用いられる硫酸鉛皮膜除去装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/135913号
【文献】特開2007-333393号公報
【文献】特開2011-71001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のような遠隔監視では、バッテリの劣化(又は異常)が発生した際に、各種報知手段により報知され、劣化したバッテリが定期交換まで放置されることなく、新たなバッテリと交換されるので、監視や点検の作業負担は軽減されるものの、バッテリの延命を図ることはできなかった。一方、特許文献3は、既に寿命と判断されて廃棄(回収)された鉛蓄電池を対象に再生を行うものであり、使用中の鉛蓄電池(バッテリ)の延命を図るものではなかった。また、再生された鉛蓄電池は、充分な能力を有するにも関わらず、ユーザの品質の安定性及び耐久性等に対する不安から、需要が低く、用途も限定されていた。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、非常用電源のバッテリをリアルタイムで監視しながら、必要な延命措置を施すことにより、バッテリの延命を図り、特に再生された鉛蓄電池の品質を安定的に維持することができるバッテリ監視延命方法及びそれに用いられるバッテリ監視延命装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係るバッテリ監視延命方法は、非常用電源のバッテリをリアルタイムで監視しながら、延命措置を施すバッテリ監視延命方法であって、
複数のセルを有する前記バッテリの劣化を判定する基となる前記各セルの特性データを定期的に取得する特性データ取得工程と、前記各セルの電極に定期的にパルス電流を供給する定期的延命工程と、前記特性データ取得工程で取得された前記特性データを基に、前記各セルが劣化傾向にあるか否かを判定する劣化傾向判定工程と、該劣化傾向判定工程で劣化傾向にあると判定された前記セルの電極に集中的にパルス電流を供給する集中的延命工程とを有する。
【0006】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記劣化傾向判定工程で劣化傾向にあると判定された前記セルに対し、劣化傾向にあると判定されなくなるまで前記集中的延命工程を連続して行うことが好ましい。
【0007】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記劣化傾向判定工程での判定とは関係なく、複数の前記セルの中から選択した特定の前記セルの電極に集中的にパルス電流を供給する強制延命工程を有することもできる。
【0008】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記特性データは、前記各セルの内部抵抗、電圧、及び温度のいずれか1以上であることが好ましい。
【0009】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記劣化傾向判定工程では、前記特性データ取得工程で取得された前記内部抵抗が、予め設定された規定抵抗値以上となった前記セルを劣化傾向にあると判定することが好ましい。
【0010】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記特性データ取得工程で取得された前記内部抵抗が、予め設定された上限抵抗値以上となった前記セルの交換を指示する抵抗異常セル交換指示工程を有することが好ましい。
【0011】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記特性データ取得工程で取得された前記電圧が、予め設定された下限電圧値以下となった前記セルの交換を指示する電圧異常セル交換指示工程を有することが好ましい。
【0012】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法において、前記特性データ取得工程で取得された前記温度が、予め設定された規定温度範囲から外れた前記セルの異常を報知する温度異常報知工程を有することが好ましい。
【0013】
前記目的に沿う第2の発明に係るバッテリ監視延命装置は、第1の発明に係るバッテリ監視延命方法に用いられるバッテリ監視延命装置において、前記各セルの特性データを定期的に取得する特性データ取得手段と、該特性データ取得手段で取得された前記特性データを基に、前記各セルが劣化傾向にあるか否かを判定する劣化傾向判定手段と、該劣化傾向判定手段での判定に基づいて、前記各セルの電極に供給するパルス電流の供給パターンをそれぞれ設定するパルスパターン設定手段と、該パルスパターン設定手段で設定されたそれぞれの前記供給パターンに従って前記各セルの電極に前記パルス電流を供給するパルス電流供給手段とを有し、前記各セルは、前記劣化傾向判定手段で劣化傾向にあると判定されるまでは、前記パルスパターン設定手段で設定された前記供給パターンに従って前記各セルの電極に定期的に前記パルス電流が供給され、前記劣化傾向判定手段で劣化傾向にあると判定された前記セルは、該セルに接続された前記パルス電流供給手段に対して、前記パルスパターン設定手段から前記パルス電流の前記供給パターンの変更が指示され、該セルの電極に集中的に前記パルス電流が供給される。
【0014】
【0015】
第2の発明に係るバッテリ監視延命装置において、前記特性データ取得手段で取得した前記特性データを、ネットワーク回線を介して入手し、遠隔地から前記バッテリを監視する遠隔監視手段を有し、前記劣化傾向判定手段での判定とは関係なく、前記遠隔監視手段で選択された特定の前記セルの電極に対し、前記パルス電流供給手段から集中的に前記パルス電流を供給することもできる。
【0016】
【0017】
第2の発明に係るバッテリ監視延命装置において、前記特性データ取得手段は、前記各セルの内部抵抗を測定する内部抵抗測定手段、電圧を測定する電圧測定手段、及び温度を測定する温度測定手段のいずれか1以上を有することが好ましい。
【0018】
第2の発明に係るバッテリ監視延命装置において、前記劣化傾向判定手段は、前記内部抵抗測定手段で取得された前記内部抵抗が、予め設定された規定抵抗値以上となった前記セルを劣化傾向にあると判定することが好ましい。
【0019】
第2の発明に係るバッテリ監視延命装置において、(1)前記内部抵抗測定手段で取得された前記内部抵抗が、予め設定された上限抵抗値以上となった前記セル及び(2)前記電圧測定手段で取得された前記電圧が、予め設定された下限電圧値以下となった前記セルの交換を指示するセル交換指示手段を有することが好ましい。
【0020】
第2の発明に係るバッテリ監視延命装置において、前記温度測定手段で取得された前記温度が、予め設定された規定温度範囲から外れた前記セルの異常を報知する温度異常報知手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明に係るバッテリ監視延命方法及び第2の発明に係るバッテリ監視延命装置は、非常用電源のバッテリの各セルに対して定期的に延命措置を施しながら、劣化傾向を監視し、劣化傾向にあるセルの電極には集中的に(例えば定期的な延命措置より短い周期又は高い頻度で)パルス電流を供給して、劣化の進行を遅らせることができる。また、各セルの各種特性データの変化に応じて、適宜、セルの交換を指示することや、異常を報知することができる。さらに、バッテリを遠隔から監視することもできる。これらにより、バッテリの品質を長期間にわたって安定的に維持し、非常時の電力供給に確実に備えることができる。特に、バッテリが、再生された鉛蓄電池(以下、再生鉛蓄電池ともいう)である場合の品質保証に好適に用いることができ、再生鉛蓄電池の需要及び用途の拡大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態に係るバッテリ監視延命方法に用いられるバッテリ監視延命装置の構成を示すブロック図である。
図2】同バッテリ監視延命装置の特性データ取得手段の構成を示すブロック図である。
図3】同バッテリ監視延命装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1及び図2に示す本発明の一実施の形態に係るバッテリ監視延命方法に用いられるバッテリ監視延命装置10は、非常用(バックアップ用)電源として用いられるバッテリ(例えば鉛蓄電池)11をリアルタイムで監視しながら、必要な延命措置を施すことにより、バッテリ11の品質維持及び長寿命化を図るためのものである。
ここで、バッテリ11は、複数のセル(単位電池)12が直列に接続されているが、バッテリの構成は、これに限定されるものではなく、複数のセルが、直列と並列を組合せて接続されたものでもよいし、並列に接続されたものでもよい。
【0024】
まず、バッテリ監視延命装置10は、図1に示すように、各セル12に接続されてそれぞれのセル12の特性データを定期的に取得する特性データ取得手段13と、特性データ取得手段13で取得された特性データを基に、各セル12が劣化傾向にあるか否かを判定する劣化傾向判定手段14を有している。また、バッテリ監視延命装置10は、劣化傾向判定手段14での判定に基づいて、各セル12の電極(図示せず)に供給するパルス電流の供給パターンをそれぞれ設定するパルスパターン設定手段15と、パルスパターン設定手段15で設定されたそれぞれの供給パターンに従って各セル12の電極にパルス電流を供給するパルス電流供給手段16とを有している。そして、劣化傾向判定手段14で劣化傾向にあると判定されたセル12の電極に対して、パルス電流供給手段16から、他のセル12の電極よりも集中的にパルス電流を供給することにより、サルフェーションを低減(電極に付着した不導体の皮膜を部分的に破壊(除去)、或いは電極に付着する不導体の皮膜の付着量を削減(成長を抑制))して、セルの劣化の進行を遅らせ、延命を図ることができる。
【0025】
ここで、各セル12の電極にパルス電流を供給する場合、通常は、所定の周期でパルス電流を繰返し供給した後、休止時間を挟んで、再度、所定の周期でパルス電流を繰返し供給するというパターン(パルスパターン)を繰返す。よって、パルスパターン設定手段15で設定されるパルス電流の供給パターンのパラメータとしては、パルス電流を繰返し供給する際の周期T、パルス電流の電流値I、パルス電流のパルス幅TW、パルス電流を所定の周期Tで繰返し供給する際の繰返し回数n、所定の周期Tでパルス電流をn回繰返し供給した後、次にパルス電流の供給を開始するまでの休止時間Tがある。そして、集中的にパルス電流を供給することには、例えば劣化傾向にあると判定されたセル12の電極にパルス電流を供給する際に、他の(正常な)セル12の電極よりも、a)周期Tを短くすること、b)電流値Iを高くすること、c)パルス幅TWを長くすること、d)繰返し回数nを多くすること、e)休止時間Tを短くすること、及びf)a)~e)のいずれか2以上を組合せることが含まれる。具体的には、例えば、通常状態では(正常なセル12の電極に対しては)、1カ月に1回(定期的に)、5日間だけパルス電流を所定の周期で供給するようにし、劣化傾向にあると判定されたセル12の電極に対しては、繰返し行われる劣化傾向判定手段14による判定で、劣化傾向にあると判定されなくなるまで毎日(連続的に)、パルス電流を所定の周期で供給することにより、集中的にパルス電流を供給することができる。
このように、各セル12の状態(劣化傾向の有無)に応じて、パルスパターン設定手段15で、各セル12の電極に供給するパルス電流の供給パターンをそれぞれ設定することにより、必要な延命措置を施すことができる。
【0026】
また、バッテリ監視延命装置10は、特性データ取得手段13で取得した特性データを、ネットワーク回線17を介して入手し、遠隔地からバッテリ11を監視する遠隔監視手段18を有することもできる。これにより、バッテリ11の設置場所から離れた場所からもリルタイムでバッテリ11の状態を確認することができ、省力性に優れる。特に、バッテリ11が複数の設置場所に設置されている場合でも、ネットワーク回線17を介して、1つの遠隔監視手段18で集中管理(一元管理)することができ、見回り及び保守に要する費用を削減できる。ネットワーク回線17は有線でも無線でもよい。
さらに、劣化傾向判定手段14での判定とは関係なく、管理者が、遠隔監視手段18を用いて特定のセル12を選択し、選択された特定のセル12の電極に対し、パルス電流供給手段16から集中的にパルス電流を供給するようにしてもよい。この場合、遠隔監視手段18からパルスパターン設定手段15に指示して、特定のセル12の電極に供給するパルス電流の供給パターンを設定することができる。これにより、劣化傾向判定手段14での判定のみに頼らず、強制的に延命措置を施すことができ、汎用性に優れる。この強制的延命措置は、例えば、特性データ取得手段13で取得した特性データを管理者が確認して、劣化傾向判定手段14での判定が間違っていた場合、劣化傾向にはないが、劣化傾向に近い状態が継続している場合等に有益である。
【0027】
次に、特性データ取得手段13の詳細について説明する。
特性データ取得手段13は、図2に示すように、各セル12の内部抵抗を測定する内部抵抗測定手段20、電圧を測定する電圧測定手段21、及び温度を測定する温度測定手段22を有している。これにより、劣化傾向判定手段14は、内部抵抗測定手段20で取得された内部抵抗が、予め設定された規定抵抗値(例えば基準抵抗値の1.5倍)以上となったセル12を劣化傾向にあると判定することができる。
また、バッテリ監視延命装置10は、各セル12が寿命に近付いた際に、該当するセル12の交換を指示するセル交換指示手段23を有している。そして、セル交換指示手段23は、内部抵抗測定手段20で取得された内部抵抗が、予め設定された上限抵抗値(例えば基準抵抗値の2倍)以上となったセル12及び電圧測定手段21で取得された電圧が、予め設定された下限電圧値(例えば基準電圧値の75%)以下となったセル12の交換を指示することができる。
さらに、バッテリ監視延命装置10は、各セル12に温度異常が発生した際に、該当するセル12の異常を報知して点検を促す温度異常報知手段24を有している。そして、温度異常報知手段24は、温度測定手段22で取得された温度が、予め設定された規定温度範囲(例えば0~40℃)から外れたセル12の温度異常を報知することができる。
【0028】
ここで、バッテリ監視延命装置10は、RAM、CPU、ROM、I/O、及びこれらの要素を接続するバス(図示せず)を備えた従来公知の汎用のコンピュータを、バッテリ監視延命装置10全体を制御する制御部25として好適に用いることができる。そして、そのコンピュータを基本ハードウェアとして、CPUに所定のプログラムを実行させることにより、コンピュータを劣化傾向判定手段14、パルスパターン設定手段15、セル交換指示手段23、及び温度異常報知手段24として機能させることができる。所定のプログラムは、予めコンピュータにインストールしてもよいし、CD-ROM等の記憶媒体に記憶したものを適宜、読み出して実行させてもよい。
セル交換指示手段23及び温度異常報知手段24は、制御部(コンピュータ)25及び遠隔監視手段18に接続されるモニタ(図示せず)上で、文字若しくは記号等の表示、点滅、又は色の変化等を用いて、セル12の交換指示及び温度異常の報知を行うことができる。また、モニタでの表示に加えて又は代えて、スピーカから音声若しくは警告音を発したり、警告灯を点灯若しくは点滅させたりしてもよい。さらに、遠隔監視手段18として、メール受信機能を有するコンピュータ又は携帯端末等を用いる場合は、メールで通知することもできる。
制御部25は、特性データ取得手段13で取得した特性データ及び各セル12に供給したパルス電流の供給パターンの履歴等を記憶及び集計することができる。これにより、バッテリ監視延命装置10のユーザ(管理者)は、必要に応じて、それらのデータを取り出し、各セル12に異常が発生するまでの経緯を確認することができる。
なお、本実施の形態では、コンピュータを劣化傾向判定手段14、パルスパターン設定手段15、セル交換指示手段23、及び温度異常報知手段24として機能させたが、これらの各手段は、協同して上記の動作を行うことができればよく、その構成は特に限定されず、それぞれが独立していてもよいし、一部が一体化されていてもよい。
【0029】
次に、本発明の一実施の形態に係るバッテリ監視延命方法をバッテリ監視延命装置10の動作に基づいて説明する。
図3に示すように、バッテリ監視延命装置10が動作を開始すると、まず、各セル12の電極に対して定期的にパルス電流が供給される。このパルス電流の供給パターンは、図1に示したパルスパターン設定手段15で設定され、各パルス電流供給手段16から各セル12にパルス電流が供給される(以上、定期的延命工程)。
これと並行して、バッテリ監視延命装置10は、バッテリ11の劣化を判定する基となる各セル12の特性データを定期的に取得する。この特性データの取得は、図1に示した特性データ取得手段13によって行われる。具体的には、図2に示した内部抵抗測定手段20、電圧測定手段21、及び温度測定手段22により、各セル12の内部抵抗、電圧、及び温度を測定する。なお、特性データを取得する周期は、各セル12にパルス電流を供給する周期と関係なく、適宜、選択することができる(以上、特性データ取得工程)。
【0030】
そして、バッテリ監視延命装置10は、特性データ取得工程で取得された特性データを基に、次に行う動作を決定する。まず、電圧測定手段21で取得された電圧が、予め設定された下限電圧値以下となったか否かを判定する。ここで、電圧が下限電圧値以下となったセル12については、電圧異常セルと判定してセル交換指示手段23から交換を指示する(以上、電圧異常セル交換指示工程)。
電圧が下限電圧値以下ではないセル12については、次に、特性データ取得工程で取得された温度が、予め設定された規定温度範囲から外れたか否かを判定する。ここで、温度が規定温度範囲外となったセル12については、温度異常セルと判定して温度異常報知手段24から温度異常を報知する(以上、温度異常報知工程)。
温度が規定温度範囲外ではないセル12については、次に、特性データ取得工程で取得された内部抵抗が、予め設定された規定抵抗値以上となったか否かを判定する。ここで、内部抵抗が規定抵抗値以上となったセル12については、劣化傾向にある(劣化傾向セル)と判定し、内部抵抗が規定抵抗値以上ではないセル12については、正常セルと判定する(以上、劣化傾向判定工程)。
【0031】
そして、劣化傾向にあると判定されたセル12については、さらに、特性データ取得工程で取得された内部抵抗が、予め設定された上限抵抗値以上となったか否かを判定する。ここで、内部抵抗が上限抵抗値以上となったセル12については、抵抗異常セルと判定してセル交換指示手段23から交換を指示する(以上、抵抗異常セル交換指示工程)。
また、内部抵抗が規定抵抗値以上で上限抵抗値以上ではないセル12の電極には、集中的にパルス電流を供給する。このとき、図1に示したパルスパターン設定手段15から、該当するセル12に接続されたパルス電流供給手段16に対して、パルス電流の供給パターンの変更が指示され、該当するセル12の電極に連続的に(短い周期で)パルス電流が供給される。パルス電流の供給パターンは適宜、選択することができるが、例えば繰返し行われる劣化傾向判定工程で劣化傾向にあると判定されなくなるまで連続的に(或いは長期間にわたって断続的に)行うことが好ましい。(以上、集中的延命工程)。
以上の動作を各セル12について定期的(周期的)に繰返すことにより、バッテリ11の品質を長期間にわたって安定的に維持し、非常時の電力供給に確実に備えることができる。
なお、図1に示したように、バッテリ監視延命装置10が遠隔監視手段18を有する場合は、劣化傾向判定工程での判定とは関係なく、複数のセル12の中から選択した特定のセル12の電極に集中的にパルス電流を供給する強制延命工程を行うこともできる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、バッテリ監視延命方法において、電圧異常セル、温度異常セル、抵抗異常セル、及び劣化傾向セルを判定する順番や組合せ等は適宜、選択することができる。
また、セルの電極に対してパルス電流を集中的に(短い周期で連続的に)供給する場合、同じ波形のパルス電流を繰返し供給してもよいし、波形(電流値やパルス幅等)の異なるパルス電流を順次、供給してもよい。さらに、パルス電流を集中的(連続的)に供給する場合の周期は、全て同一である必要はなく、異なっていてもよい。なお、パルス電流の波形としては、矩形波以外にも、レイズドコサイン波、三角波、及び鋸歯状波等の波形やこれらを合成した波形も適用可能である。
また、劣化傾向判定工程は、特性データ取得工程と同様に、定期的(周期的)に行われるが、劣化傾向判定工程の周期と、特性データ取得工程の周期は必ずしも一致している必要はなく、特性データ取得工程の周期よりも長い周期でもよい。
【符号の説明】
【0033】
10:バッテリ監視延命装置、11:バッテリ、12:セル、13:特性データ取得手段、14:劣化傾向判定手段、15:パルスパターン設定手段、16:パルス電流供給手段、17:ネットワーク回線、18:遠隔監視手段、20:内部抵抗測定手段、21:電圧測定手段、22:温度測定手段、23:セル交換指示手段、24:温度異常報知手段、25:制御部
図1
図2
図3