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特許7188795原子力発電所のエネルギーを回収する復水システム
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  • 特許-原子力発電所のエネルギーを回収する復水システム 図1
  • 特許-原子力発電所のエネルギーを回収する復水システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】原子力発電所のエネルギーを回収する復水システム
(51)【国際特許分類】
   G21D 1/00 20060101AFI20221206BHJP
   G21D 9/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G21D1/00 A
G21D9/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020536123
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 RU2017001008
(87)【国際公開番号】W WO2019132703
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】517197118
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー サイエンティフィック リサーチ アンド デザイン インスティテュート フォー エナジー テクノロジーズ アトムプロエクト
(73)【特許権者】
【識別番号】516233088
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト
【氏名又は名称原語表記】JOINT STOCK COMPANY ATOMENERGOPROEKT
【住所又は居所原語表記】ul. Bakuninskaya,7,str.1 Moscow,105005 Russia
(73)【特許権者】
【識別番号】517423567
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“サイエンス アンド イノヴェーションズ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロゴジキン ウラジーミル ウラジーミロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】トホール イゴル アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】プロホロフ ニコライ アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コーサレフ ウラジスラフ フェリクソビッチ
(72)【発明者】
【氏名】モシュコフ キリル ウラジーミロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】シェボルディン アレクセイ ヴャチェスラヴォビッチ
(72)【発明者】
【氏名】スカチコーフ ヴャチェスラフ アンドレイエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミーシン エフゲニー ボリソビッチ
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0205236(US,A1)
【文献】特開昭62-075299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21D 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所から放出される排水のエネルギーを回収する復水システムであって、
原子力発電所と、
密閉された屋根を有し、原子力発電所からの排水を外部の水域に導く排水路と、
前記排水路を流れる排水の液面下に配され、排水内に気泡を噴出する気泡管と、
前記排水路の途中に配され、前記排水路内を流れる排水の液面より上方の空気を取り入れる空気取入手段と、
前記空気取入手段より取り入れた空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機と、
前記圧縮機で生成された圧縮空気を、熱交換管または熱交換プレートにより冷却して復水する復水器と、
前記熱交換管または熱交換プレートに冷却水を供給する冷却水ポンプ場と、
発電機を有し、前記復水器から排出された圧縮空気を断熱膨張させて前記発電機を駆動させる膨張タービンと、
前記膨張タービンにおける断熱膨張により温度が低下して生成された雪粒子と氷粒子を含む空気を受け入れ、散水器により散水して前記雪粒子及び氷粒子を解かして水滴にする水室と、
前記水室で生成された水滴を回収して収容する第1プールと、
前記第1プールに収容された水を外部に供給する清浄水ポンプ場と、
を備えたことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記気泡管には、空気ダクトを介して前記水室の空気が供給される
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記排水路の総有効面積は、長さ100mあたり2000 2 以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記復水器から排出された圧縮空気から液滴と空気を分離する液滴分離器と、
前記液滴分離器で分離された水滴を回収する第2プールと
をさらに備え、
前記液滴分離器により水滴が分離された空気が、前記膨張タービンに供給されると共に、前記第2プールに収容された水の一部が、前記散水器に供給され、
前記第2プールに残留する水は、前記清浄水ポンプ場を介して、前記第1プールに収納された水と共に外部に供給される
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記水室内の空気を圧縮し、空気ダクトを介して前記気泡管に送出する気泡圧縮機をさらに備える
ことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記冷却水ポンプ場は、前記気泡管よりも下方において前記排水路に接続された圧力パイプラインを介して排水を吸引して前記復水器の熱交換管または熱交換プレートに送出し、
前記圧縮機は、前記気泡管より上方において前記排水路に接続されたパイプラインを介して排水の液面より上の空気を吸引して圧縮し前記復水器に送出する
ことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
外部加熱システムからの戻り水が、冷却水として前記冷却水ポンプ場を介して前記復水器の熱交換管または熱交換プレートに供給される
ことを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記水室の前記散水器には、前記第1プールに収納された水が供給される
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記排水路内に位置する前記空気ダクトの一部は、前記排水の液面より上に配され、
当該空気ダクトの一部の下方には、凝縮水を回収可能な樋が設けられ、当該樋は回収した凝縮水を前記排水路外に排出するためのパイプラインに連結されている
ことを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力エネルギーに関し、特に、原子力発電所の排水路における排水の液面より上の熱エネルギーおよび気湿を利用して、原子力発電所から放出されたエネルギーを回収する復水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所(NPP)は、無事故運転であれば、火力発電所(TPP)に比較して環境に与える直接的な悪影響がきわめて小さいことが知られている。というのも、火力発電所から燃料(石炭、天然ガス、燃料油、泥炭や可燃性頁岩)の燃焼生成物が大気に排出されるのは、やむを得ないからである。
【0003】
原子力発電所が環境面において火力発電所に劣る唯一の要素は、タービン復水器の冷却に使用される大流量の排水に起因する熱汚染である。原子力発電所は、火力発電所より成績係数(COP)が低い(35%以下)ことから、熱汚染が、火力発電所よりわずかに多い。
【0004】
冷却水を天然水資源(河川、湖または海)から取り出せば、原子力発電所にとっては経済的に好ましいが、水資源の温度上昇につながるので、生態系にとっては悪影響となる。
【0005】
この問題に対処するために、現代の原子力発電所には、冷却器、冷却塔、噴霧池などの貯水池が人工的に設けられている。しかしながら、このような解決策では上記問題を完全には解決できない。なぜならば、これら設備における大気中への蒸発の増加は、湿度、降水量および雲量の増加などと相まって、その地域の生態学的環境を変化させ、ひいては大気の温度上昇につながるからである。
【0006】
さらに、原子力発電所の過剰な排熱を利用すれば、電気だけでなく付加的な経済効果を得られるので、原子力発電所の合計COPを向上させることができる。
【0007】
冬季の寒冷地では、原子力発電所や火力発電所の排水熱を利用して、多くの住宅や産業施設に暖房を提供することができる。
【0008】
しかしながら、この解決策を一般的な場合に適用することはできない。原子力発電所が多い乾燥沿岸地域では、大量の海水を冷却水として利用できる見込みがあることから、原子力を淡水の生成に利用できる。そのために様々な技術的解決策が適用されてきた。
【0009】
従来技術として、特許文献1には、空気から水蒸気を凝縮して淡水を大量生産するための装置が開示されている。
【0010】
この装置は、冷却した乾燥空気を放出するためのパイプを有する断熱冷凍室と、周囲の空気を冷凍室に引き込むための圧縮ポンプと、当該空気中の水蒸気を凝縮して生じる氷を溶かすための電熱器と、生成された水を収容するための容器と、当該水を外部に放出するためのコック付きパイプとを備える。
【0011】
圧縮ポンプは、コイル状熱交換器に連結される。コイル状熱交換器はノズルに連結される。冷凍室は室分離器にパイプを介して連結される。室分離器には、生成された水を外部に放出するために、電熱器およびコック付きパイプが配置される。
【0012】
上記装置は、空気の圧縮、冷却、および断熱膨張を利用して水蒸気を凍結することにより大気中の水分から水を生成するよう設計されている。得られた微細な氷晶は、コックを介して放出する際に、電気加熱することによって周期的に溶かされる。
【0013】
このような装置の欠点は、非凍結液滴と固体不純物(例えば食塩水と砂)が分離しないために得られる水の品質が低いこと、外気を利用した圧縮空気の冷却速度が遅いこと、および解凍の周期のために最終生成物の生産性が低いことである。
【0014】
これらの欠点があることから、上記装置を原子力産業に適用しても、排水が環境に与える悪影響の低減を期待できない。
【0015】
本発明に最も類似する技術は、特許文献2に開示される、大気から水蒸気を凝縮して淡水を生成するよう主に設計された原子力発電コンビナートである。この原子力発電コンビナートは、空気取入手段と、圧縮空気を冷却するための熱交換器に連結される圧縮機と、膨張タービンと、配管を介した水および空気の輸送手段と、原子力発電所とを含む。
【0016】
空気取入手段は塔状であり、200メートル(m)以上あるその高さにわたって空気取入窓が配置される。圧縮空気を冷却するための熱交換器は、液滴分離器に連結される復水器である。
【0017】
復水器および液滴分離器はともに、復水を一次復水プールに放出可能に配置される。膨張タービンは水室に連結される。水室は、二次復水プールに連結された散水器と、原子力発電発電所に連結された循環熱交換器とを有する。
【0018】
原子力発電コンビナートの運転中、大気空気からの水蒸気は、空気取入手段と圧縮機を通過した後、第1復水段階で復水器により冷却される。このようにして、雨水に匹敵する環境水質の一次復水を得ることができる。そして、第2復水段階では、圧縮空気は膨張タービンを通過し、温度低下を伴う急激な断熱膨張による仕事を行う。これにより、圧縮空気が含有する水分が凍結または凝縮されて、自然溶解物や雨水に匹敵する水質の二次復水が生成される。
【0019】
したがって、特許文献2の原子力発電コンビナートは、本質的に雨水をもたらす(太陽放射下での低温蒸発および水分の低温凍結)同一のプロセスを適用することにより、大量の大気中の海水の水分を凝縮して環境に配慮した淡水を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】ロシア特許第2143033号明細書
【文献】ロシア特許第2504417号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、この方法の欠点は、(1)原子力発電コンビナートが海岸から遠く離れている場合は淡水生成プロセスの生産性が不十分であること、および淡水生成プロセスの生産性が周囲空気の経日的および季節的な温度変化に依存すること、(2)原子力発電所の熱COPが不十分であること、ならびに(3)原子力発電所の排水熱が環境に与える悪影響を低減できないことである。
【0022】
本発明の目的は、(1)いかなる条件下でも淡水生成プロセスにおいて高い生産性が確保され、(2)原子力発電所の合計熱COPが向上され、(3)排水熱が環境に与える悪影響が低減された、原子力発電所の排水路の復水システムの設計を提供することである。
【0023】
そして、本発明の技術的成果は、高温の湿り蒸気を利用して原子力発電所の排水熱エネルギーを回収することにより、(1)いかなる条件下でも淡水生成プロセスにおいて高い生産性が確保されること、(2)原子力発電所の合計熱COPが向上すること、および(3)排水熱が環境に与える悪影響を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記技術的成果は、公知の特許文献2に開示される、大気中の水蒸気を凝縮する原子力発電所の復水システムにおいて、以下を備えることにより達成される。
【0025】
すなわち、復水システムは、原子力発電所と、空気取入手段と、圧縮機と、復水器と、散水器を有する水室と、清浄水ポンプ場と、冷却水ポンプ場と、二次復水プールと、発電機を有する膨張タービンとを備える。
【0026】
空気取入手段は、圧縮機に連結される。圧縮機は、復水器に連結される。復水器は、膨張タービンに連結される。膨張タービンは、水室に連結される。水室は、二次復水プールに連結される。二次復水プールは、清浄水ポンプ場に連結される。復水器は、冷却水ポンプ場に連結される。これら連結の全てには、圧力パイプラインが用いられる。
【0027】
空気取入手段は、原子力発電所の排水路に配置される。排水路は、原子力発電所に連結され、密閉された屋根を有する。
【0028】
好ましくは、排水路には、排水の液面より下に気泡管が配置され、気泡管は、水室に空気ダクトを介して連結される。
【0029】
排水路の有効面積は、長さ100mあたり2000平方メートル(m2)以上であれば有利である。
【0030】
復水システムに、液滴分離器と一次復水プールとを備えることが推奨される。復水器は、液滴分離器に圧力パイプラインを介して連結される。液滴分離器は、膨張タービンおよび一次復水プールに連結される。一次復水プールは、水室の散水器および清浄水ポンプ場に連結される。
【0031】
好ましくは、復水システムは、水室および気泡管に空気ダクトを介して連結される気泡圧縮機をさらに備える。
【0032】
冷却水ポンプ場は、気泡管の下方において排水路に圧力パイプラインを介して連結され、圧縮機は、気泡管の上方において排水路に圧力パイプラインを介して連結されれば有利である。
【0033】
冷却水ポンプ場および復水器は、外部加熱システム(原子力発電所、産業施設、住宅街など)に連結されることが推奨される。
【0034】
好ましくは、水室の散水器は、二次復水プールに圧力パイプラインを介して連結される。
【0035】
有利には、排水路内に位置する空気ダクトの一部は、排水の液面より上に配され、当該空気ダクトの一部には、その外周面で凝結した水を回収可能な樋(gutter)が配され、当該樋は、回収した水を、排水路の外部に排出するためのパイプラインに連結される。
【0036】
本発明の利点は、高温の湿り蒸気を利用して原子力発電所の排水熱エネルギーを回収することにより、いかなる条件下でも淡水生成プロセスにおいて高い生産性が確保されること、原子力発電所の合計熱COPが向上すること、および排水が環境に与える悪影響が低減されることである。
【0037】
原子力発電所の排水路には、排水の液面より下に、水室に空気ダクトを介して連結される気泡管が配置される。排水路には空気取入手段も配置され、排水路は、屋根で密閉されて気密状態にされる。この構成により、原子力発電所の排水路の排水から湿り蒸気を確実に取り出せるので、いかなる条件下でも淡水生成プロセスにおいて高い生産性を確保でき、排水の温度を低下させ、環境への悪影響を低減するとともに、原子力発電所の合計熱COPを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】原子力発電所からエネルギーを回収するための、原子力発電所を含む復水システムの好ましい実施形態を示す概略図である。
図2】排水路の設計およびこれに配置される空気ダクトおよび気泡管の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、原子力発電所からエネルギーを回収するための、原子力発電所1を含む復水システムの好ましい実施形態を示す概略図である。
【0040】
原子力発電所1が連結される排水路2には、排水の液面より下に気泡管3が配置される。気泡管3は、水室13に冷気ダクトを介して連結される。排水路2内の空気部分は、圧縮機4に圧縮空気ダクトを介して連結される。
【0041】
圧縮機4は、復水器5に連結される。復水器5は、冷却水ポンプ場6、液滴分離器8および一次復水プール7に連結される。液滴分離器8は、一次復水プール7および膨張タービン9に連結される。膨張タービン9は、発電機10および水室13に連結される。
【0042】
散水器14を有する水室13は、原子力発電所1および気泡圧縮機15にそれぞれ空気ダクトを介して連結される。水室13は、一次復水プール7および二次復水プール12にも連結される。二次復水プール12は、清浄水ポンプ場11に連結される。清浄水ポンプ場11は、一次復水プール7に連結される。これらの連結には、いずれも圧力パイプラインが用いられる。
【0043】
図2は、排水路2の設計およびこれに配置される空気ダクトおよび気泡管3の実施形態を示す図である。
【0044】
空気ダクトの管の一部が排水の液面より下に配置されると、空気ダクトを流れる冷気によって排水はさらに冷却される。空気ダクトの管の一部が排水の液面より上に配置されると、空気ダクトの下方には、復水を回収してパイプラインを通して外部の消費者へ移送することができる樋を設けることができる。この構成により、システムの生産性が向上する。
【0045】
好ましくは、原子力発電所の排水熱エネルギーを回収する復水システムは以下のように動作する。
【0046】
原子力発電所1の稼働によってそのタービンから発生する蒸気の凝縮には、外部の貯水池の冷却水が用いられる。熱交換過程では、冷却水は、原子力発電所1の復水器の管束を通過する際に、5~10℃だけ加熱されて、約35℃の温度となり、その後、気泡管3が設けられた排水路2を介して、海、河川、貯水池、または他の外部水域に放出される。
【0047】
蒸発面積を増大させるために、空気が気泡管3に供給される。この空気は、周囲の空気を取り込んでもいいが、本発明の好ましい実施形態では、冷たい乾燥空気が気泡圧縮機15によって水室13から空気ダクトを介して供給されるので、この空気は排水管内より湿度および温度が低い(相対湿度約20%および気温-4℃~+8℃)。
【0048】
これにより、気泡管3から発生する気泡は、排水を通過中にその温度を奪い、水蒸気で飽和される(気泡中の蒸気の含水量は、空気の32.3g/キログラム(kg)すなわち39グラム(g)/立方メートル(m3)に達する)。気泡が排水路2内の排水の液面に到達すると、湿り蒸気(水蒸気で飽和された暖かい空気)が生成される。気泡管3は、例えば有孔管のような様々な形態とすることができる。
【0049】
気泡管3に沿って流れ、温度が低下した排水は、排水路2を介して海や他の外部水域に放出される。
【0050】
一方、湿り蒸気は、圧縮空気ダクトを通って圧縮機4に供給される。なお、圧縮空気ダクトの入口は、排水路2の空気部分に位置する。湿り蒸気は、圧縮機4において断熱的な圧力の上昇によって100℃を超える温度にさらに加熱されてから、圧縮空気ダクトを通って復水器5に供給される。
【0051】
加圧および加熱された湿り蒸気は、復水器5において、熱交換管または熱交換プレートの壁を介して、原子力発電所や近隣の建物の加熱システムにおける戻り水や、近隣の貯水池の冷たい自然水、または排水路2の気泡管3より上流の部分から取り出された水と、接触する。これらの水は、冷却水ポンプ場6を利用して供給される。
【0052】
復水器5の熱交換管または熱交換プレート上での湿り蒸気と海水の温度差によって、湿り蒸気の温度は10~18℃に低下する、すなわち、当該湿り蒸気を含む空気の露点を下回る。その結果、復水器5の内表面に、水蒸気の一部が結露して付着し、これが一次復水プール7に排出されて、雨水に匹敵する水質の淡水が生成される。
【0053】
このプロセスが、塩分および不純物を除去する精製による淡水生成の第1復水段階に相当する。その後、残留する圧力下にある湿り蒸気は、圧縮空気ダクトを通って液滴分離器8に供給される。この液滴分離器は例えばスロット型でもよい。液滴分離器8において、水分における塩分含有不純物のさらなる沈殿および精製が行われる。その後、精製された水が一次復水プール7に供給され、雨水に匹敵する水質の淡水が生成される。
【0054】
淡水生成の第1復水段階で得られる一次復水は、農業用灌漑や技術的目的に利用でき、また、以下に示すように、本発明の好ましい実施形態では原子力発電所自体のエネルギーを回収する復水システムの動作に利用できる。
【0055】
一次復水が復水器5から圧力下で分離された後に残留する湿り蒸気は、圧力パイプラインを介して膨張タービン9に流入する。膨張タービン9の作動によって、湿り蒸気は圧力および温度が低下して断熱膨張する。こうして、取り出されるエネルギーは、発電機10によって電気エネルギーに変換される。またこれにより、湿り蒸気の一次圧縮のために圧縮器4に供給されるエネルギーが部分的に回収される。
【0056】
膨張タービン9において、湿り蒸気は急激な断熱膨張により約-10℃まで冷却され、この時点までに湿り蒸気中に残留する水分が凍結される。このプロセスが、低温凍結による第2復水段階に相当する。凍結水分は水室13に流入する。凍結水分には、空気、雪粒子および氷粒子が含まれる。
【0057】
水室13の散水器14において、凍結水分に温かい淡水が散水される。この淡水は、復水器5から圧力パイプラインを介して散水器14に供給することができる。しかしながら本発明の好ましい実施形態では、淡水は、一次復水プール7または二次復水プール12から圧力パイプラインを介して散水器14に供給される。この構成により、原子力発電所の排水熱エネルギーの部分的回収が可能になる。
【0058】
散水によって、空気、雪および氷の混合物が溶解および分解されて、雨水に匹敵する水質の二次復水と、原子力発電所の構内や近隣の建物の空調に適した冷却された乾燥空気とが生成される。この目的のために、水室13に連結された圧力空気ダクトが使用される。
【0059】
本発明の重要な本質的特徴は、水室13を気泡管3に空気ダクトを介して連結することである。この特徴により、上述したように、蒸発面積の増大により気泡と排水路2の排水との間の熱交換を増大させて、本発明の技術的効果を確実に達成することができる。
【0060】
本発明の技術的効果とは、原子力発電所の排水熱エネルギーを回収することにより、いかなる条件下でも淡水生成プロセスにおいて高い生産性が確保されること、排水熱が環境に与える悪影響が低減されること、および原子力発電所の合計熱COPが向上することである。
【0061】
この場合、高純度の二次復水は、圧力パイプラインを介して二次復水プール12に供給され、原子力発電所の近隣地域の灌漑のための産業用水としての利用や、住宅地域の給水設備における利用が可能である。
【0062】
エネルギー出力が1000MW未満の原子力発電所または火力発電所にエネルギー回収システムを適用する場合、液滴分離器8を使用しないことが有利になる。この使用方法では、圧縮機4の下流の湿り蒸気が膨張タービン9に直接流入し、さらに水室13に流入する。湿り蒸気は、水室13において上述の方法により第2復水段階で凝縮される。
【0063】
湿り蒸気の湿度および温度をさらに上昇させるには、排水路2に設置された、排水の液面に大きな起伏を形成可能な受動浮遊羽根車(passive floating impellers)を使用できる。この構成によれば、蒸発表面積が増大して湿り蒸気の湿度および温度が上昇する。
【0064】
ここで、排水路2が極めて長い(300mを超える)場合、本発明によれば、排水路2の各セクションから湿り蒸気を放出可能にして、各セクションに別個の気泡管3および浮遊羽根車を設けることができる。
【0065】
本発明の実施形態では、冷却水ポンプ場6は、気泡管3の下方において排水路2に圧力パイプラインを介して連結することができ、圧縮機4は、気泡管3の上方において排水路2に圧力パイプラインを介して連結することができる。この構成により、復水器5と排水路2の間でさらなる熱交換ができるので、排水の温度をさらに低下させることができる。
【0066】
また、本発明の別の実施形態によれば、復水器5および冷却水ポンプ場6を、外部加熱システムに連結することができる。外部加熱システムは、例えば都市暖房システムである。この場合、都市暖房システムに利用される水が加熱されるとともに、復水器5において湿り蒸気が凝縮されるので、原子力発電所の合計熱COPがさらに向上する。
【0067】
本発明の適用により得られる高い効率を以下の算出により示す。
【0068】
排水路2の推定寸法(図2)は、幅10m、高さ6m、長さ800mおよび水深3mであり、排水路2における排水の推定流量は66トン(t)/秒(sec)である。
【0069】
排水路2の底部には、断面積が0.07m2である有孔の水中気泡管100本が、軸を横切る方向に互いに1m以上離れて配置される。これら管により、主管が連結され、400m3/sec以上の体積流量で均一に空気放出処理が行われる。
【0070】
好ましい実施形態では、排水路2を、格子状部分を有し、排水の移動は妨げずに、空気のスペースを仕切る仕切り部材により、長さ100mの複数のセクションに分割することができる。この場合、各セクションから湿り蒸気が取り出される。取り出された湿り蒸気は、本発明のブロック4~15をそれぞれ含む別個の復水ステーションに供給することができる。
【0071】
復水ステーションの出口から1000m3/secの流量で気泡を発生させることにより、空気(相対湿度20%、気温-4℃~+8℃)が排水路2の各セクションの排水に供給される。排水路2の排水に気泡状態で流入する空気は水温(+35℃)になり、蒸気の含水量は32.3g/kgすなわち39g/m3(空気)に達する。
【0072】
また、1つの復水システムにおける(淡水の)生産性は、1日あたり3000トンを超える。排水路に、エネルギー回収の好ましい実施形態を構成する復水ステーションが6つ連結されれば、排水の温度の低下幅は3℃を超えることになる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
原子力発電所の復水システムは、原子力発電所の排水熱エネルギーを回収することにより、淡水生成プロセスにおける生産性の実質的な向上、排水が環境に与える悪影響の低減、および原子力発電所の合計熱COPの向上を可能にする。
図1
図2