(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ゲル状ミルク食品用粉末組成物およびゲル状ミルク食品
(51)【国際特許分類】
A23L 29/256 20160101AFI20221206BHJP
A23C 9/154 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A23L29/256
A23C9/154
(21)【出願番号】P 2021180218
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2021-11-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 昌和
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 志帆
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-500459(JP,A)
【文献】特公昭46-025700(JP,B1)
【文献】特開昭64-045401(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011988(WO,A1)
【文献】Raspberry Mousse, ID:5415303,MINTEL GNPD,2018年,[検索日:2022/06/23]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10~100μmのアルギン酸塩、
25℃における水への溶解度が0.05g/100mL以上1.0g/100mL未満の難溶性カルシウム塩、および
カリウム塩
(ただし、アルギン酸塩を除く)
を含有することを特徴とするゲル状ミルク食品用粉末組成物。
【請求項2】
前記アルギン酸塩は
、アルギン酸ナトリウムである請求項1記載のゲル状ミルク食品用粉末組成物。
【請求項3】
前記難溶性カルシウム塩は、硫酸カルシウムおよびクエン酸カルシウムから選択される請求項1または2記載のゲル状ミルク食品用粉末組成物。
【請求項4】
前記カリウム塩はリン酸カリウムである請求項1~3のいずれかに記載のゲル状ミルク食品用粉末組成物。
【請求項5】
粉末状ミルクをさらに含有する請求項1~4のいずれかに記載のゲル状ミルク食品用粉末組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のゲル状ミルク食品用粉末組成物を、加熱工程なしに液体と混合して得られたことを特徴とするゲル状ミルク食品。
【請求項7】
前記アルギン酸塩の含有量が0.1~3.0質量%である請求項6記載のゲル状ミルク食品。
【請求項8】
前記難溶性カルシウム塩の含有量が0.03~0.3質量%である請求項6または7記載のゲル状ミルク食品
【請求項9】
前記カリウム塩の含有量が0.01~0.3質量%である請求項6~8のいずれかに記載のゲル状ミルク食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状ミルク食品用粉末組成物およびゲル状ミルク食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリン、杏仁豆腐、ババロア等の種々のゲル状食品、およびゲル状食品用ベースが提案されている。特許文献1には、乳原料とゲル化剤を含む原料液をゲル化してなるプリン状食品が記載されている。特許文献1によれば、乳原料としてホエー由来の乳製品を使用することによって、粉っぽさのない、なめらかな食感を達成している。
【0003】
特許文献2には、加熱を要することなく、例えば、牛乳などのカルシウムを含有する水性組成物と混合することによって、簡便にフィリング材、クリーム、ムースなどの保形性を有するゲル状食品を調製することができるゲル状食品調製用ベース、および当該ベースにより調製されたゲル状食品組成物が記載されている。
【0004】
特許文献3には、アルギン酸塩、カルシウムイオンを供給する塩及びキレート剤を含有してなるゼリー及びゼリーベースが記載されている。特許文献3のゼリーベースを用いることで、加熱や熱水の使用なしに室温下で簡単にゼリーを調製することができる。得られたゼリーは食感的に良好なものであり、特に炭酸ガス入りゼリーを家庭でも簡単に製造できる。
【0005】
特許文献4には、アルギン酸ナトリウムとキレート剤を含むゲル状食品用ベースが記載されている。特許文献4のゲル状食品用ベースと牛乳を混合し冷蔵庫で冷却するだけで、低年齢者でも簡便に、かつ加熱溶解等の工程を経ることなく安全にプリン様のゲル状食品を調製することができる。
【0006】
特許文献5には、(A)アルギン酸ナトリウムと第三リン酸カルシウムとを含有してなる粉末組成物、(B)有機酸を含有してなる酸性粉末組成物、および(C)カルシウムイオン封鎖剤を含有してなる粉末組成物の3成分を含有するシェイク用即席ゲル化粉末が記載されている。少なくとも(A)成分と(B)成分とは、別々に包装されている。
特許文献5のシェイク用即席ゲル化粉末は、経日安定性に優れている。こうしたシェイク用即席ゲル化粉末を用いることにより、数十秒以内の短時間容器を振るという、幼児にもできる簡単な操作を行うだけで、均一でなめらかな表面を有し離水しないゼリー状食品を得ることができる。
【0007】
特許文献6には、アルギン酸塩、難溶性の炭酸カルシウム、キレート剤を含む製剤と酸味料の液を使用時に混合することで、短時間で十分なゼリー強度を有する均一な発泡ゼリーが用時に得られる発泡ゼリー調製キットが記載されている。キレート剤としては、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-61035号公報
【文献】特開2008-86218号公報
【文献】特開平8-154601号公報
【文献】特開2005-160384号公報
【文献】特開2007-151545号公報
【文献】特開2019-141030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているプリン状食品は、乳原料とゲル化剤を含むものであり、製造には加熱工程が必要である。特許文献2~4のベースを用いた場合には、加熱なしにゼリー及びゲル状食品を作製することが可能であるものの、特許文献2~4のベースを使用する際には、ゲル化剤のみを水溶液としなくてはならない。このため、製造や管理が複雑となる。
【0010】
特許文献5のシェイク用即席ゲル化粉末は、含有される成分を分けて保存しなければならない。このため、ゲル状食品を製造する際には複数の粉末を混ぜ合わせる必要がある。特許文献6の発泡ゼリー調製キットには、粉末状の製剤に加えて酸味料の水溶液が必須であり、発泡ゼリーを製造する際には両者を混合しなければならない。また、特許文献6には、ミルク成分に関する記述は見られない。
【0011】
水溶液の調製、複数成分の混合、加熱等を必要としない簡便な操作によって、食感等の優れたゲル状ミルク食品を製造することが望まれているものの、未だ達成されていない。
そこで本発明は、保存や管理が容易であって、加熱工程なしに液体に溶解させるのみでゲル状ミルク食品が製造可能なゲル状ミルク食品用粉末組成物、および外観、風味、食感に優れたゲル状ミルク食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルシウム塩とゲル化剤としてのアルギン酸塩とを含有するゲル化組成物にカリウム塩を配合することによって、加熱工程なしに液体に溶解させるのみでゲル状ミルク食品が製造可能となることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るゲル状ミルク食品用粉末組成物は、アルギン酸塩、25℃における水への溶解度が0.05g/100mL以上1.0g/100mL未満の難溶性カルシウム塩、およびカリウム塩を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のゲル状ミルク食品は、前述のゲル状ミルク食品用粉末組成物を、液体と混合して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保存や管理が容易であって、加熱工程なしに液体に溶解させるのみでゲル状ミルク食品が製造可能なゲル状ミルク食品用粉末組成物、および外観、風味、食感に優れたゲル状ミルク食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明におけるゲル状ミルク食品は、生乳、粉末状ミルク、加工乳、植物性ミルクなどのミルク成分を含有したゲル状食品をさす。具体的にはプリン、杏仁豆腐、牛乳かん、牛乳豆腐、および豆花などが挙げられる。本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、このようなゲル状ミルク食品の製造に用いられる。
【0017】
本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、アルギン酸塩、難溶性カルシウム塩、およびカリウム塩を含有する。粉末組成物を冷水等の液体に溶解させるだけで、加熱せずにゲル状ミルク食品を作製する場合、ゲル化剤であるアルギン酸塩が液体に十分に溶解し、かつカルシウムイオンと穏やかに反応してゲル化する必要がある。
【0018】
液体に粉末組成物を溶解させてゲル状ミルク食品を作製する場合、粉末組成物中のアルギン酸塩に加えて、カルシウム塩等も同時に溶解し始める。その結果、アルギン酸塩とカルシウムイオンが反応してゲル化が始まる「プリセット」が、溶解工程中に生じる。プリセットによってゲル状ミルク食品の食感が著しく損なわれてしまうのを防ぐために、多くの場合、メタリン酸ナトリウムなどのナトリウム塩が用いられている。
【0019】
しかしながら、ミルク食品のような中性のpH域では、メタリン酸ナトリウムの作用は十分に発揮されない。メタリン酸ナトリウムの添加量によっては、塩類の味が強くなってミルク食品の風味が著しく損なわれてしまう。本発明においては、カルシウム塩とカリウム塩とを併用することにより、メタリン酸ナトリウムに起因した問題を回避することを可能とした。カリウム塩の作用は、中性のpH域でも十分に発揮され、ミルク食品の風味も損なわれない。溶解工程中におけるアルギン酸塩とカルシウムイオンとの反応を制御してプリセットを防止することで、本来の食感を有するゲル状ミルク食品が得られた。
【0020】
アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、およびアルギン酸アンモニウム等が挙げられ、なかでもアルギン酸ナトリウムが好ましい。アルギン酸塩の粒子径が大きすぎる場合には、液体と混合した際に十分に溶解せずに残存するおそれがある。この場合には、ゲル状ミルク食品の外観、食感(硬さ、なめらかさ)が損なわれてしまう。一方、粒子径が小さすぎるアルギン酸塩の場合には、液体と混合した際にダマを生じるおそれがある。
【0021】
アルギン酸塩の平均粒子径が10μm以上100μm以下であれば、液体中に分散させた際でも容易に溶解して、溶け残ることがない。これにより十分なゲル強度が得られることから、外観や食感の良好なゲル状ミルク食品を作製することができる。アルギン酸塩は、必要に応じて粉砕し、篩分けにより平均粒子径を調整することができる。アルギン酸塩の体積平均粒子径は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製)により確認することができる。アルギン酸塩の平均粒子径は、10μm以上70μm以下であることがより好ましい。
【0022】
本明細書においては、25℃における水への溶解度が、0.05g/100mL以上1.0g/100mL未満であるカルシウム塩を、難溶性カルシウム塩と称する。なお、25℃における水への溶解度が1g/100mL以上のものを、可溶性カルシウム塩とし、0.05g/100mL未満のものは、不溶性カルシウム塩とする。
【0023】
難溶性カルシウム塩は、食品の製造に使用されるものであれば制限なく使用することができる。具体的には、硫酸カルシウムおよびクエン酸カルシウムが挙げられる。例えば、硫酸カルシウム(太平化学産業株式会社製)は、25℃における水への溶解度が0.241~0.269g/100mL程度であり、クエン酸カルシウム(富田製薬株式会社製)は、25℃における水への溶解度が0.085~0.095g/mL程度である。
こうした難溶性カルシウム塩は、単独でも組み合わせて用いて添加してもよい。あるいは、難溶性カルシウム塩を含有する素材を添加して、ゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製することもできる。難溶性カルシウム塩を含有する素材としては、例えば豆腐用凝固剤、酒造用助剤等が挙げられる。
【0024】
本発明においては、カルシウム塩とともにカリウム塩が含有される。カリウム塩としては、塩化カリウム、リン酸カリウム等が挙げられるが、リン酸カリウムが好ましい。具体的には、リン酸1カリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、およびピロリン酸カリウムなどが挙げられる。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、カリウム塩の一部を、メタリン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等で置き換えてもよい。
【0025】
本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、アルギン酸塩、カルシウム塩およびカリウム塩を、所定の割合で混合して調製することができる。例えば、カルシウム塩とカリウム塩との合計量は、アルギン酸塩の質量の0.01~10倍程度とすることができる。カルシウム塩は、カリウム塩の質量の0.05~50倍程度とすることができる。必要に応じて、粉末油脂、粉末状ミルク、砂糖、デキストリンおよび粉末香料等を、適宜配合してもよい。なお、粉末状ミルクとは、脱脂粉乳、全粉乳、糖や脂質が添加された調整粉乳等をさす。
【0026】
粉末香料は、目的とするゲル状ミルク食品の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、杏仁豆腐の場合には杏仁霜、抹茶プリンの場合には抹茶粉末、ココアプリンの場合にはココア粉末を、それぞれ適切な割合で添加すればよい。
【0027】
本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、粉末成分の混合物であるので、密閉容器に収容すればそのまま保存することができ、容易に管理することができる。しかも、本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、液体に加えて撹拌することで、加熱工程なしに所定のゲル強度を有するゲル状ミルク食品を製造することができる。ゲル状ミルク食品中には、アルギン酸塩、難溶性カルシウム塩、およびカリウム塩がそれぞれ所定の量で含有されていることが好ましい。
液体は、通常の食品に使用されるものであれば特に限定されず、具体的には冷水、常水、精製水、蒸留水、および硬水などが挙げられる。こうした液体は、調味料、塩分、またはミルク成分などの副成分を含有していてもよい。
【0028】
アルギン酸塩の含有量が少なすぎる場合にはゲル化しないおそれがあり、多すぎる場合にはゲル状ミルク食品の食感が損なわれる。難溶性カルシウム塩の含有量が少なすぎる場合にはゲル化しないおそれがあり、多すぎる場合には、プリセットによりゲル状ミルク食品の食感が著しく損なわれてしまう。また、カリウム塩が少なすぎる場合には、プリセットによりゲル状ミルク食品の食感が著しく損なわれてしまうおそれがあり、多すぎる場合には風味が損なわれるという不都合が生じる。
【0029】
ゲル状ミルク食品中におけるアルギン酸塩の含有量が0.1~3質量%、難溶性カルシウム塩の含有量が0.03~0.3質量%、カリウム塩の含有量が0.01~0.3質量%の場合には、所望の物性を備えたゲル状ミルク食品を得ることができる。ゲル状ミルク食品におけるアルギン酸塩の含有量は、0.1~2.0質量%がより好ましく、難溶性カルシウム塩の含有量は、0.05~0.2質量%がより好ましく、カリウム塩の含有量は、0.05~0.2質量%がより好ましい。
カリウム塩とカルシウム塩との質量比(K:Ca)は、1:0.05~1:50の範囲であることが好ましく、1:0.1~1:30の範囲であることがより好ましい。アルギン酸塩と他の塩との質量比(ALG:(K+Ca))は、1:0.01~1:10の範囲であることが好ましく、1:0.2~1:6の範囲がより好ましい。
【0030】
ゲル状ミルク食品用粉末組成物を水に溶解する際、極短時間でゲル化して固まり始めると、得られるゲル状ミルク食品の食感が損なわれてしまうのに加えて、溶解後に小分けの容器などへの充填などの作業性が低下する。本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、カルシウム塩とともにカリウム塩を含有しているので、極短時間でゲル化して固まり始めることがなく、溶解後に小分け容器などへの充填などの作業を十分に行うことが可能である。
【0031】
しかも、製造後3時間後のゲル強度は、10g/cm2以上であり、良好な食感(硬さ、なめらかさ)を備えている。強度は、10~500g/cm2の範囲内が好ましい。ゲル強度が比較的低い場合、具体的には10~80g/cm2の場合には、柔らかくとろける様な食感に優れたものとなる。こうした食感に起因して、小分け容器に充填し、そのまま喫食するカップデザート等に適したゲル状ミルク食品が得られる。
【0032】
一方、80~500g/cm2の場合には、硬さのあるしっかりとした強度となることから、固まった後にキューブ状等の所定の形状に切り分けることができる。さらに、任意の形状の型を用いることで、所望の形状のゲル状ミルク食品を得ることも可能である。なお、ゲル状ミルク食品の強度は、アルギン酸塩の含有量に依存する。アルギン酸塩が多いほど、強度は大きくなる傾向がある。
【0033】
本発明のゲル状ミルク食品は、上述したアルギン酸塩、難溶性カルシウム塩、カリウム塩、および必要に応じた任意の成分を、冷水等の液体に溶解させて製造することもできる。この場合には、ゲル状ミルク食品における各成分(アルギン酸塩、難溶性カルシウム塩、カリウム塩)の含有量が上述の範囲内となるように、それぞれの配合量を調整する。液体に加える順番は特に限定されないが、まずアルギン酸塩を加え、次いで難溶性カルシウムおよびカリウム塩を加えることが好ましい。
【0034】
本発明のゲル状ミルク食品を製造する際、液体の少なくとも一部を液状ミルクとしてもよい。液状ミルクとしては、牛乳、ヤギ乳、および羊乳などの動物由来のもの、豆乳、ライスミルク、ココナッツミルクなどの植物由来のもののいずれでもよい。この場合には、液状ミルクからミルク成分が供給されるので、ゲル状ミルク食品用粉末組成物には、必ずしも所定量のミルク成分が含有されている必要はない。粉末組成物中のミルク成分は、減量または省略することができる。
【0035】
本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物は、粉末成分の混合物であるので、保存や管理が容易である。しかも、カルシウム塩とともにカリウム塩が含有されているので、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが穏やかに反応してゲル化が進行する。これによって、冷水等の液体に溶解させるだけで加熱工程なしでも、外観、風味、食感の優れたゲル状ミルク食品を製造することが可能となった。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。特に指定がない限り、%は質量%を示している。
【0037】
ゲル状ミルク食品用粉末組成物の基本処方を下記表1に示す。各成分を配合して、ゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製する。
【0038】
【0039】
19.39質量部のゲル状ミルク食品用粉末組成物を、80.61質量部の水に加えて撹拌してゲル状ミルク食品を製造する。ミルク食品における各成分の含有量(%)を、下記表2にまとめる。
【0040】
【0041】
ゲル状ミルク食品を製造する際の作業性、および所定時間後の強度(JS(g/cm2))を評価する。評価用試料としては、ゲル状ミルク食品用粉末組成物を水に加えて1分間撹拌した後の溶液を用意した。約60gの評価用試料を、小分け容器(内径45mm)に充填し、その際の作業性を調べた。その結果を、試料の様子と合わせて以下の基準で評価した。
〇:溶液が均質であり、小分け容器への充填などの作業性が良好である。
△:一部弱く固まり始めているが、溶液は概ね均質であり、小分け容器への充填等は可能である。
×:プリセットが起こっており、溶液が不均質である。又は、ゲル化が速すぎるために小分け容器への充填が困難である。
【0042】
ゲル状ミルク食品の強度は、以下の方法により測定する。
ゲル強度の測定には、テクスチャーアナライザー(英弘精機社製)を使用する。試料としては、ゲル状ミルク食品用粉末組成物を水に加えて1分間撹拌後に、上記小分け容器に充填して10℃で3時間または24時間保持したミルク食品を用いる。断面積が1cm2の円柱状プランジャーを、20mm/分の速度で深さ20mmまで試料に進入させる。その際の最大の応力をゲル強度とした。
【0043】
<カルシウム塩の比較>
アルギン酸塩としてアルギン酸ナトリウム(イナゲルGS130)を用い、カリウム塩としてポリリン酸カリウムを用い、表2の基本処方のカルシウム塩部分の種類および含有量を変更してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。
【0044】
用いたカルシウム塩は、可溶性カルシウム塩(塩化カルシウム、乳酸カルシウム)、難溶性カルシウム塩(硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム)、および不溶性カルシウム塩(リン酸1水素カルシウム、炭酸カルシウム)である。各カルシウム塩の25℃における水への溶解度を以下に示す。
塩化カルシウム(富田製薬株式会社製):45.3~53.0g/100mL
乳酸カルシウム(昭和化工株式会社製):4.4~9.7g/100mL
硫酸カルシウム(太平化学産業株式会社製):0.241~0.269g/100mL
クエン酸カルシウム(富田製薬株式会社製):0.085~0.095g/100mL
リン酸1水素カルシウム(太平化学産業株式会社製):0.02g/100mL
炭酸カルシウム(太平化学産業株式会社製):0.0014g/100mL
【0045】
各ゲル状ミルク食品の評価結果を、用いたカルシウム塩の種類および量とともに下記表3にまとめる。表中には、ゲル状ミルク食品用粉末組成物におけるカリウム塩とカルシウム塩との質量比(K:Ca)、アルギン酸塩と他の塩との質量比(ALG:(K+Ca))、およびゲル状ミルク食品中におけるカルシウム塩の含有量(%)を示した。表中の(*)は、ゲル化しなかったことを表している。
【0046】
【0047】
難溶性カルシウム塩を用いた場合には、作業性等の評価も優れており、3時間後のゲル強度は、15~20(g/cm2)と適切な範囲内である。これに対し、可溶性カルシウム塩を用いた場合には直ちに固まり始めてしまい、良好な食感が得られなかった。不溶性カルシウム塩を用いた場合にはゲル化させることができず、ゲル状ミルク食品の製造は不可能であった。
【0048】
<難溶性カルシウム塩の含有量>
表2の基本処方のカルシウム塩部分について、難溶性カルシウム塩(硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム)の含有量を変更してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、カルシウム塩の種類および量とともに下記表4にまとめる。表4中には、ゲル状ミルク食品用粉末組成物におけるカリウム塩とカルシウム塩との質量比(K:Ca)、アルギン酸塩と他の塩との質量比(ALG:(K+Ca))、およびゲル状ミルク食品中におけるカルシウム塩の含有量(%)を示した。
【0049】
【0050】
難溶性カルシウム塩が、ゲル状ミルク食品中に0.03~0.3%含有されていれば、作業性等の評価は良好であり、3時間後の強度が10~220(g/cm2)と適切な範囲内となることが示された。
【0051】
<アルギン酸塩の比較>
表2の基本処方のアルギン酸塩の種類を変更してゲル状ミルク食品を製造し、所定時間後(3時間後、24時間後)の強度を比較した。用いたアルギン酸塩は、アルギン酸ナトリウム(イナゲルGS130)、アルギン酸カリウム(イナゲルGS80)、およびアルギン酸アンモニウム(イナゲルGS81M)である。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、用いたアルギン酸塩とともに下記5にまとめる。
【0052】
【0053】
アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、またはアルギン酸アンモニウムを用いた場合の強度は、3時間後には13~24(g/cm2)、24時間後に19~33(g/cm2)であり、良好なゲル状ミルク食品を製造することができた。
【0054】
<アルギン酸ナトリウムの含有量>
表2の基本処方のアルギン酸塩部分について、アルギン酸ナトリウムの含有量を変更してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。食品中におけるアルギン酸ナトリウムの含有量は、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%、0.7%、1.0%、2.0%、および3.0%とした。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、ゲル状ミルク食品用粉末組成物におけるカリウム塩とカルシウム塩との質量比(K:Ca)、アルギン酸塩と他の塩との質量比(ALG:(K+Ca))、およびゲル状ミルク食品中におけるアルギン酸ナトリウムの含有量とともに、下記表6、7にまとめる。
【0055】
【0056】
【0057】
アルギン酸ナトリウムが、ゲル状ミルク食品中に0.1~3.0%含有されている場合の強度は、3時間後で11~450(g/cm2)であり、適切な範囲内となることが示された。アルギン酸ナトリウムの含有量が2.0質量%以下の場合は、作業性等の評価も良好である。
【0058】
<アルギン酸ナトリウムの平均粒子径の比較>
アルギン酸ナトリウムの平均粒子径を変更してゲル状ミルク食品を製造し、3時間後の強度を比較した。アルギン酸ナトリウムは、必要に応じて粉砕して、篩分けにより平均粒子径を100μm、70μm、40μm、および20μmに調整した。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、アルギン酸ナトリウムの平均粒子径とともに下記表8にまとめる。
【0059】
【0060】
平均粒子径が100μm以下のアルギン酸ナトリウムを用いることによって、強度が良好なゲル状ミルク食品を製造することができる。70μm以下の平均粒子径を有するアルギン酸ナトリウムを用いた場合には、ゲル状ミルク食品の強度は、より良好で外観も優れていることが示された。
【0061】
<カリウム塩の比較>
表2の基本処方のカリウム塩部分の種類、含有量を変更してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、カリウム塩の種類、ゲル状ミルク食品用粉末組成物におけるカリウム塩とカルシウム塩との質量比(K:Ca)、アルギン酸塩と他の塩との質量比(ALG:(K+Ca))、食品中におけるカリウム塩の含有量とともに下記表9、10にまとめる。
【0062】
【0063】
【0064】
リン酸カリウム塩が、ゲル状ミルク食品中に0.01~0.3%含有されている場合には、作業性等の評価は良好であり、3時間後の強度は10~35(g/cm2)と適切な範囲内となることが示された。
【0065】
<メタリン酸ナトリウムとカリウム塩との併用>
各種カリウム塩とメタリン酸ナトリウムとを併用してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。ゲル状ミルク食品中におけるメタリン酸ナトリウムおよびカリウム塩の含有量は、いずれも0.1%とした。比較として、メタリン酸ナトリウムのみを配合した場合についても、同様に評価した。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、メタリン酸ナトリウムおよびカリウム塩の含有量とともに下記表11にまとめる。
【0066】
【0067】
0.1%のカリウム塩がゲル状ミルク食品中に含有されていれば、同量のメタリン酸ナトリウムが含有されていても、良好な物性のゲル状ミルク食品を製造できることが示された。すなわち、作業性等の評価は良好であり、3時間後の強度は17~29(g/cm2)と適切な範囲内である。
これに対して、メタリン酸ナトリウムのみが含有されてカリウム塩が含有されない場合には、直ちに固まり始めてしまい、良好な食感のゲル状ミルク食品を製造することができない。
【0068】
<ポリリン酸ナトリウムとカリウム塩との併用>
各種カリウム塩とメタリン酸ナトリウムとを併用してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。ゲル状ミルク食品中におけるポリリン酸ナトリウムおよびカリウム塩の含有量は、いずれも0.1%とした。比較として、ポリリン酸ナトリウムのみを配合した場合についても、同様に評価した。各ゲル状ミルク食品の評価結果を、ポリリン酸ナトリウムおよびカリウム塩の含有量とともに下記表12にまとめる。
【0069】
【0070】
0.1%のカリウム塩がゲル状ミルク食品中に含有されていれば、同量のポリリン酸ナトリウムが含有されていても、良好な物性のゲル状ミルク食品を製造できることが示された。すなわち、作業性等の評価は良好であり、3時間後の強度は15~25(g/cm2)と適切な範囲内である。
これに対して、ポリリン酸ナトリウムのみが含有されてカリウム塩が含有されない場合には、直ちに固まり始めてしまい、良好な食感のゲル状ミルク食品を製造することができない。
【0071】
<ポリリン酸ナトリウムとカリウム塩との配合比>
ポリリン酸ナトリウムとカリウム塩との配合比を変更してゲル状ミルク食品を製造し、物性を比較した。ゲル状ミルク食品中におけるポリリン酸ナトリウムの含有量は、0.15%とし、カリウム塩の含有量は、0.01%、0.05%、および0.3%とした。比較のために、ポリリン酸ナトリウムのみを配合した場合についても、同様に評価した。得られた結果を、下記表13にまとめる。
【0072】
【0073】
ゲル状ミルク食品中に0.15%のポリリン酸ナトリウムが含有されていても、0.01~0.3%のカリウム塩が含有されていれば、良好な物性が示された。カリウム塩が含有されずに0.15%のポリリン酸ナトリウムが含有されている場合には、直ちに固まり始めてしまい、良好な物性のゲル状ミルク食品は得られない。
【0074】
<各種食品への応用>
下記表14に示す処方で原材料を配合して、各ゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製し、実施例1~7の食品を製造した。表中の数値は、質量%を表わしている。ゲル状ミルク食品用粉末組成物におけるカリウム塩とカルシウム塩との質量比(K:Ca)、およびアルギン酸塩と他の塩との質量比(ALG:(K+Ca))も示した。
【0075】
【0076】
(実施例1)
上記に示した配合にて、ミルクプリンの素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、ピロリン酸カリウム、粉末油脂、脱脂粉乳、グラニュー糖、デキストリン、および香料を混ぜ合わせて、ミルクプリンの素を作製した。
このミルクプリンの素20gに水80gを加えて1分間撹拌し、カップに充填した。これを、4℃で3時間冷却しゲル化させてミルクプリンを製造した。得られたミルクプリンを、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、口どけが良く、切れの良い食感であった。
【0077】
(実施例2)
上記に示した配合にて、杏仁豆腐の素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、ポリリン酸カリウム、粉末油脂、脱脂粉乳、グラニュー糖、デキストリン、香料、および杏仁霜を混ぜ合わせて、杏仁豆腐の素を作製した。
この杏仁豆腐の素20gに水80gを加えて1分間撹拌し、カップに充填した。これを、4℃で3時間冷却しゲル化させて杏仁豆腐を製造した。得られた杏仁豆腐を、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、硬く切れの良い食感であった。
【0078】
(実施例3)
上記に示した配合にて、プリンの素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、ポリリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、粉末油脂、脱脂粉乳、グラニュー糖、デキストリン、香料、および色素を混ぜ合わせて、プリンの素を作製した。
このプリンの素20gに水80gを加えて1分間撹拌し、カップに充填した。これを、4℃で3時間冷却しゲル化させて、プリンを製造した。得られたプリンを、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、口どけが良く、切れの良い食感であった。
【0079】
(実施例4)
上記に示した配合にて、抹茶プリンの素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、ピロリン酸カリウム、粉末油脂、脱脂粉乳、グラニュー糖、デキストリン、香料、および抹茶粉末を混ぜ合わせて、抹茶プリンの素を作製した。
この抹茶プリンの素20gに水70gと牛乳10gを加えて、1分間撹拌した後、牛乳を加えてさらに攪拌した。これをカップに充填し、4℃で3時間冷却しゲル化させて、抹茶プリンを製造した。得られた抹茶プリンを、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、くちどけが良く、切れの良い食感であった。
【0080】
(実施例5)
上記に示した配合にて、ココアプリンの素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、粉末油脂、脱脂粉乳、グラニュー糖、デキストリン、香料、およびココア粉末を混ぜ合わせて、ココアプリンの素を作製した。
このココアプリンの素20gに水80gを加えて1分間撹拌し、カップに充填した。これを、4℃で3時間冷却しゲル化させて、ココアプリンを製造した。得られたココアプリンを、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、濃厚でなめらかな食感であった。
【0081】
(実施例6)
上記に示した配合にて、マンゴープリンの素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、ポリリン酸カリウム、粉末油脂、脱脂粉乳、グラニュー糖、デキストリン、香料、および色素を混ぜ合わせて、マンゴープリンの素を作製した。
このマンゴープリンの素20gに水80gを加えて1分間撹拌し、カップに充填した。これを、4℃で3時間冷却しゲル化させて、マンゴープリンを製造した。得られたマンゴープリンを、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、柔らかく、さっぱりとした食感であった
【0082】
(実施例7)
上記に示した配合にて、イチゴミルクプリンの素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、リン酸1カリウム、粉末油脂、グラニュー糖、デキストリン、香料、および色素を混ぜ合わせて、イチゴミルクプリンの素を作製した。
このイチゴミルクプリンの素20gに水40gを加えて1分間撹拌した後、牛乳40gを加えてさらに攪拌し、カップに充填した。これを、4℃で3時間冷却しゲル化させて、イチゴミルクプリンを製造した。得られたイチゴミルクプリンを、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、口どけが良く、切れの良い食感であった。
【0083】
(実施例8)
上記に示した配合にて、豆花の素となるゲル状ミルク食品用粉末組成物を調製した。具体的には、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、ピロリン酸カリウム、粉末油脂、デキストリン、および香料を混ぜ合わせて、豆花の素を作製した。
この豆花の素20gに水60gを加えて、1分間撹拌した後、豆乳20gを加えてさらに撹拌した。これをカップに充填し、4℃で3時間冷却しゲル化させて、豆花を製造した。得られた豆花を、10人のパネラーが実際に食して食感を評価した結果、口どけが良く、切れの良い食感であった。
【0084】
本発明のゲル状ミルク食品用粉末組成物を用いることにより、加熱工程なしに液体に溶解させるのみで、外観、風味、食感に優れたゲル状ミルク食品を製造することが可能となった。
【要約】
【課題】保存や管理が容易であって、加熱工程なしに液体に溶解させるのみでゲル状ミルク食品が製造可能なゲル状ミルク食品用粉末組成物、および外観、風味、食感に優れたゲル状ミルク食品を提供する。
【解決手段】本発明に係るゲル状ミルク食品用粉末組成物は、アルギン酸塩、25℃における水への溶解度が0.05g/100mL以上1.0g/100mL未満の難溶性カルシウム塩、およびカリウム塩を含有することを特徴とする。
【選択図】なし