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  • 特許-醤類組成物及び醤類組成物の製造方法 図1
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  • 特許-醤類組成物及び醤類組成物の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】醤類組成物及び醤類組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/24 20160101AFI20221206BHJP
   A23L 11/70 20210101ALI20221206BHJP
   C12N 1/16 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
A23L27/24
A23L11/70
C12N1/16 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020531511
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 KR2018015638
(87)【国際公開番号】W WO2019117570
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2017-0170570
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512088051
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CheilJedang Corporation
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center, 330, Dongho-ro, Jung-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ハナ
(72)【発明者】
【氏名】チョ, ソンア
(72)【発明者】
【氏名】キム, ドクジン
(72)【発明者】
【氏名】シン, ヘウォン
(72)【発明者】
【氏名】ユン, デソン
(72)【発明者】
【氏名】オ, ソンミ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-536994(JP,A)
【文献】特開2014-204715(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0046844(KR,A)
【文献】醤油と味噌の微生物, モダンメディア, 2015, vol.61, no.10, p.298-304
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物原料をC.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵した発酵物を含む醤類組成物であって、前記発酵物は、アルコールが0.01から4.0v/v%で含まれているものであり、前記炭水化物原料は、第1炭水化物原料として小麦粉を含み、第2炭水化物原料として全麦、及びキノアでなる群から選択された1以上を含み、前記第1炭水化物原料100重量部を基準に、前記第2炭水化物原料を10から50重量部で含むものであることを特徴とする、醤類組成物。
【請求項2】
前記発酵は、20から60℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の醤類組成物。
【請求項3】
前記発酵物は、複合ハーブ抽出物及びニンニク濃縮液でなる群から選択された1種以上の天然抗菌剤をさらに含んで発酵されたものである、請求項1に記載の醤類組成物。
【請求項4】
小麦粉を含む第1炭水化物原料で製麹した麹を、全麦、及びキノアでなる群から選択された1以上を含む第2炭水化物原料に加水して蒸煮した蒸煮物と混合する段階であって、前記第1炭水化物原料100重量部を基準に、前記第2炭水化物原料を10から50重量部で含む段階と、
前記混合物を、C.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵させる段階と、
前記発酵段階を経た発酵物に、唐辛子粉、澱粉糖、醤油、塩、香辛料加工品、香味増進剤、天然抗菌剤及び穀物加工品でなる群から選択された一つ以上を混合し、混合物を熟成させる熟成段階とを含む醤類組成物の製造方法。
【請求項5】
前記発酵させる段階において、前記混合物を20から60℃で1日から50日間発酵することを特徴とする、請求項に記載の醤類組成物の製造方法。
【請求項6】
前記発酵させる段階において、前記混合物を30から50℃で1日から5日間発酵することを特徴とする、請求項に記載の醤類組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、醤類組成物及び醤類組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風味とコクに優れたコチュジャン及びサムジャンのような醤類は、麹菌由来酵素による炭水化物及びタンパク質等の成分の分解と発酵中の微生物により生成された発酵産物から作られる。
【0003】
醤類の製造時に進められる多様な種類の発酵中、酵母によって進められるアルコール発酵は、ブドウ糖、果糖のような糖類がエタノール、二酸化炭素に分解される生物学的過程である。醤類の半発酵物の普遍的な製造工程は、米、小麦等の炭水化物の含量が高い原料を用いて発酵することであって、野生酵母及び培養酵母によってアルコール発酵が行われ、炭水化物からアルコールが生成される。このように生成されたアルコールは、多くの有機酸と反応して、醤類の官能的品質要素中の一つであるエステル類の香りを発散させる。
【0004】
しかし、醤類の製造時にアルコール発酵により製造された醤類にはアルコールが含有され、このようなアルコールの異臭によって醤類の風味を阻害するか、宗教等によってアルコールの摂取が制限される場合から、醤類の使用が制限される要因となった。
【0005】
但し、このような醤類内のアルコールは、製造過程で自然に生成されることもあるが、コチュジャンの場合、殺菌効果のためにアルコールを追加で添加することもあるため、醤類の製造過程においてアルコールの含量を減らすのは困難であった。これを解決するために、従来には、醤類内に生成されたアルコールの含量を減らすために、追加的な加熱殺菌を行うか、アルコールの添加量を減らす代わりに極端な条件下での殺菌を介して十分な殺菌効果を得ようとする試みがあったが、醤類内のアルコールの生成自体を低減しようとする試みはなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願は、前記の問題を解決するために、炭水化物の原料をC.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵した発酵物を含む醤類組成物であって、前記発酵物は、アルコールが0.01から4.0v/v%で含まれていることを特徴とする醤類組成物の提供を目的とする。
【0007】
また、本出願は、小麦粉を含む第1炭水化物原料で製麹した麹(コウジ)を、小麦米、全麦、キノア及び脱脂大豆粉でなる群から選択された1以上を含む第2炭水化物原料に加水して蒸煮した蒸煮物と混合する段階と、前記混合物をC.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵させる段階と、前記発酵段階を経た発酵物に唐辛子粉、澱粉糖、醤油、塩、香辛料加工品、香味増進剤、天然抗菌剤及び穀物加工品でなる群から選択された一つ以上を混合し、混合物を熟成させる熟成段階とを含む醤類組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下で本出願を具体的に説明する。
【0009】
前記目的を達成するための本出願の一態様は、炭水化物原料をC.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵した発酵物を含む醤類組成物であって、前記発酵物は、アルコールが0.01から4.0v/v%で含まれていることを特徴とする醤類組成物であってよい。
【0010】
前記炭水化物原料は、第1炭水化物原料として小麦粉を含み、第2炭水化物原料として小麦米、全麦、キノア及び脱脂大豆粉でなる群から選択された1以上を含むものであってよい。
【0011】
従来の醤類組成物は、高炭水化物原料を発酵させる工程だけで製造され、醤類組成物のアルコール含量が高いためアルコール臭が発生した。しかし、本出願は、炭水化物原料として第1炭水化物原料及び炭水化物含量が低い第2炭水化物原料を混合して用いることで、原料の炭水化物含量を下げて発酵過程中にブドウ糖が分解され生成されるアルコールの含量を下げることができ、それにより製造された醤類組成物のアルコール臭を減少させることができるという効果がある(実験例1参照)。具体的に、小麦粉及び小麦米は、70から80重量%の炭水化物の含量を有し、全麦、キノア及び脱脂大豆粉は、20から50重量%の炭水化物の含量を有する。また、選択的に前記第1炭水化物原料は小麦粉を製麹した麹であってよい。
【0012】
そして、前記炭水化物原料は、第1炭水化物原料100重量部を基準に、第2炭水化物原料10から50重量部、具体的には20から40重量部を含むものであってよい。第2炭水化物原料が10重量部未満で含まれる場合、前記炭水化物の含量の減少によるアルコール含量の低減の効果を得にくく、50重量部超過で含まれる場合、後述する発酵に長時間かかることがある。
【0013】
そして、前記発酵物は、炭水化物原料をC.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株、具体的にはC.utilisで発酵したものであってよい。前記発酵物は、アルコールの生成を特徴とする野生酵母及び培養酵母によるアルコールの生成を抑制するために、低アルコール生成酵母を接種して優占化することで、アルコール生成菌株の活性を減らすことができる。前記菌株のうちC.utilis(Candida utilis)は、Torulopsis utilis、Torula utilis、Cyberlindnera jadinii、Pichia jadiniiを雅名とする酵母であって、グルタミン酸を多く含んでよく、チーズの発酵に用いられる。そして、S.fragilis(Saccharomyces fragilis)は、Kluyveromyces fragilis、Kluyveromyces marxianus、Saccharomyces marxianusを雅名とする酵母であって、糖を発酵してアルコール、炭酸ガス等を生産できる。また、S.lactis(Saccharomyces lactis)は、Kluyveromyces lactisを雅名とする酵母であって、乳糖を発酵して乳酸やアルコールを生成でき、チーズの発酵等に用いられる。一方、S.pombe(Schizosaccharomyces pombe)は、Schizosaccharomyces malidevoransを雅名とする酵母であって、主にアルコール発酵に用いられ、Saccharomyces cerevisiaeに比べてアルコール生産能力が半分水準である。また、Z.rouxii(Zygosaccharomyces rouxii)は、Kluyveromyces osmophilusを雅名とする酵母であって、好塩性菌株(halophile)として酸膜を形成し、主に味噌のような醤類の発酵に用いられる。特に、C.utilisで発酵された炭水化物発酵物の場合、発酵物内のアルコール含量が低く、このような発酵物を用いて製造された醤類組成物(コチュジャン)の場合にもアルコール含量が低い(実験例2参照)。
【0014】
前記炭水化物原料の発酵は、20から60℃の温度で、具体的には30から50℃で、1から50日、具体的には1から5日間行われてよい。前記発酵条件では、従来の醤類組成物に比べてアルコール含量が低い醤類組成物を製造でき、特に、30から50℃で1から5日間発酵を行う場合、炭水化物の分解で発生した還元糖がアルコール発酵される前に発酵を終了させることで、醤類組成物の品質を維持しながら醤類組成物内のアルコール含量をさらに下げることができる。
【0015】
また、前記発酵物は、複合ハーブ抽出物及びニンニク濃縮液でなる群から選択された1種以上の天然抗菌剤をさらに含んで発酵されたものであってよい。前記天然抗菌剤は、酵母の生育及び活性を抑制してアルコール生成を阻害できるものであり、前記天然抗菌剤には前記の目的を達成できる公知の全ての物質が含まれてよいが、具体的に発酵物又は醤類組成物の風味等を考慮する時、複合ハーブ抽出物C及びニンニク濃縮液のうち選択された何れか一つ以上、より具体的にアルコール生成量を考慮する時、複合ハーブ抽出物C及びニンニク濃縮液を共に用いてよい。前記複合ハーブ抽出物Cは、構成原料である生姜のギンゲロール(gingerol)、緑茶のカテキン(catechin)、甘草のリクイリチゲニン(liquiritigenin)が抗菌力の大きい天然食品保存成分として作用し、ニンニク濃縮液は、ニンニクのアリシン(allicin)が不安定な特性によってカビ、細菌、酵母の生育を抑制する作用があり、醤類組成物内のアルコール発酵を阻害できる効果がある(実験例3参照)。具体的に、前記天然抗菌剤は、炭水化物原料100重量部対比0超過4重量部、より具体的には1から3重量部、さらに具体的には複合ハーブ抽出物C1重量部及びニンニク濃縮液1重量部が含まれてよい。前記範囲以外の場合、アルコール生成阻害効果を得にくいか、酵母の生育が過度に抑制されることがある。
【0016】
前記発酵物は、アルコールを0.01から4.0v/v%、具体的には0.01から2.0v/v%、より具体的には0.01から1.0v/v%、さらに具体的には0.01から0.05v/v%で含んでよい。前記発酵物は、前記の通り、炭水化物含量が少ない原料を適用してアルコール生成量が少ない菌株で発酵することで、従来の醤類組成物の風味を維持しながらアルコール臭がしない。
【0017】
前記醤類組成物は、炭水化物原料を発酵させた製品のうちソースとして用いられるものや、具体的には味噌、コチュジャン、サムジャンのうち選択された1種以上を含む韓式醤類組成物であってよく、より具体的にはコチュジャンであってよい。従来の醤類組成物は、発酵菌株の代謝生成物としてアルコールを生成するか、抗菌作用等を考慮してアルコールを添加して製造され、それにより製造された醤類組成物は、アルコール臭によって風味が阻害されるだけでなく、宗教等によってアルコールの摂取が制限される場合、醤類の使用が制限されることがあった。しかし、前記醤類組成物は、製造された醤類組成物を加工してアルコール臭を除去するものではなく、発酵物のアルコールが低減され、すなわち、醤類組成物の製造過程でアルコールの生成を調節してアルコール臭が低減されたものである。
【0018】
本出願の他の態様は、小麦粉を含む第1炭水化物原料で製麹した麹を、小麦米、全麦、キノア及び脱脂大豆粉でなる群から選択された1以上を含む第2炭水化物原料に加水して蒸煮した蒸煮物と混合する段階、前記混合物をC.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵させる段階、及び前記発酵段階を経た発酵物に唐辛子粉、澱粉糖、醤油、塩、香辛料加工品、香味増進剤、天然抗菌剤及び穀物加工品でなる群から選択された一つ以上を混合し、混合物を熟成させる熟成段階を含む醤類組成物の製造方法であってよい。
【0019】
前記混合する段階は、小麦粉を含む第1炭水化物原料で製麹した麹を、小麦米、全麦、キノア及び脱脂大豆粉でなる群から選択された1以上を含む第2炭水化物原料に加水して蒸煮した蒸煮物と混合する段階である。
【0020】
麹は、小麦粉を含む第1炭水化物原料で製麹したものであり、具体的には、第1炭水化物原料100重量部対比麹菌0.01から0.1重量部を混合して製造されたものであってよく、これを介して後述する発酵段階で発酵期間を短縮させることで醤類組成物内のアルコール含量をより減らすことができる。また、前記蒸煮物は、第2炭水化物原料として小麦米、全麦、キノア及び脱脂大豆粉でなる群から選択された1以上の第2炭水化物原料を加水(浸漬)、蒸煮して糊化したものであってよい。具体的に前記加水(浸漬)は、第2炭水化物原料を水にふやかす段階であって、第2炭水化物原料の全重量基準50重量%から100重量%の精製水を、第2炭水化物原料に加水して60分から180分、具体的には60重量%から90重量%の精製水を入れて90分から150分間浸漬してよい。前記範囲外では、第2炭水化物原料が充分に加水されず醤類組成物の品質が低下する。前記蒸煮は、加水を経た第2炭水化物原料を飽和スチームで蒸煮する段階であって、水を常圧で排出してから高圧スチームを投入し、凝縮水及び余分の水を排出しながら行われてよい。前記蒸煮段階は、0.5kgf/cmから1.5kgf/cmの高圧スチームで3分から20分、具体的には0.8kgf/cmから1.3kgf/cmの高圧スチームを入れて5分から15分間蒸煮してよい。
【0021】
そして、前記混合する段階は、天然抗菌剤をさらに混合してよい。前記天然抗菌剤は、前述した醤類組成物に含まれる天然抗菌剤と同一のものである。
【0022】
前記発酵段階は、混合段階を経た混合物を発酵させる段階であって、前記混合物は、C.utilis、S.fragilis、S.lactis、S.pombe及びZ.rouxiiのうち何れか一つ以上の菌株で発酵されてよく、具体的にはC.utilisで発酵されてよい。各菌株の特徴は、前述した醤類組成物に含まれる菌株と同一のものである。
【0023】
そして、前記発酵段階は、前記混合物を20から60℃、具体的に30から50℃の温度で1日から50日、具体的に1日から5日間発酵できる。前記発酵条件は、醤類組成物内のアルコール含量をより下げることができるもので、前述した醤類組成物の発酵と同一である(実験例3参照)。
【0024】
本出願の前記製造方法は、前記熟成段階以後に殺菌する段階をさらに含んでよい。これは、製造された醤類組成物内の菌株を殺菌、静菌することにより、保管、流通過程において追加的なアルコール発酵を阻害することで、醤類組成物の品質を高めることができる。具体的に醤類組成物を55から85℃の温度で1から60分間殺菌できる。
【0025】
本出願の前記醤類組成物製造方法は、炭水化物が少ない原料の適用、低アルコール生成菌株の適用によるアルコール発酵菌株の制御、及び高温短時間発酵及び天然抗菌剤の適用による発酵条件の制御を介して、アルコール含量が低い醤類組成物を短時間に製造できる効果がある。
【発明の効果】
【0026】
本出願は、従来の醤類組成物の風味を維持しながら、アルコール含量が低い醤類組成物を提供するという効果がある。
【0027】
また、本出願の醤類組成物の製造方法は、炭水化物の含量が少ない原料の適用、アルコールを少なく生成する菌株の適用によるアルコール発酵菌株の制御、及び高温短時間発酵及び天然抗菌剤の適用による発酵条件の制御を介して、アルコールの含量が低い醤類組成物を短時間に製造できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実験例2の菌株毎のコチュジャン内のアルコール含量を示したグラフである。
図2】実験例3の天然抗菌剤の適用有無及び含量別発酵期間による還元糖の含量の変化を示したグラフである。
図3】実験例3の天然抗菌剤の適用有無及び含量別発酵期間によるアルコールの含量の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、実施例を介して本出願をより具体的に説明する。但し、実施例は本出願の一例示であって、本出願の範囲が実施例の範囲に限定されるのではない。
【0030】
以下の実施例において、アルコールの含量は、韓国食薬処の酒類分析規定により蒸留した後、振動式密度計法で測定し、希釈倍数を乗じて求めた。水分の含量は常圧加熱乾燥法で分析し、アミノ酸態窒素の含量はホルマール滴定法(Sorensen法)で分析した。還元糖の含量はソモギーネルソン法(Somogyi)で分析した後、グルコース(glucose)基準に計算して求めた。
【0031】
[実験例1]
低アルコール生成のための炭水化物の含量が低い原料の選定
醤類組成物の製造過程において、アルコールが低く生成されるように炭水化物含量が低い原料を確認した。具体的に、コチュジャンの製造を考慮して炭水化物原料、第1炭水化物原料として小麦粉(CJ第一製糖、米国/カナダ/オーストラリア産)、第2炭水化物原料として小麦米(韓国産業、米国産)、全麦(ミンガネ、韓国産)、キノア(オーガニカ、米国産)及び脱脂大豆粉(Kong-G、中国産)を準備した。
【0032】
小麦粉を含む麹と第2炭水化物原料を加水し、1.1MPa(Kgf/cm)で7分間蒸煮した蒸煮物を混合した後、C.utilisを接種して25℃で発酵した。具体的な原料の比率(重量比)は、以下の表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
製造された発酵物は、発酵1、3、5、7及び12日目に採取してアルコール含量を測定し、その結果を表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
実験区1-1と実験区1-2から1-4を比べた時、発酵3日目には実験区1-1対比実験区1-2で同等水準のアルコール含量を示し、実験区1-3、実験区1-4は、実験区1-1対比低いアルコール含量を示した。
【0037】
発酵5日目には、実験区1-1と実験区1-3が類似水準のアルコール含量を示した。
【0038】
発酵12日目には、実験区のうち実験区1-2のアルコール含量が最も低く測定された。
【0039】
これをまとめてみると、炭水化物含量が低い原料をコチュジャン製造工程に適用時、発酵物内のアルコール含量が減少したことが確認され、特に、第2炭水化物原料として、全麦及びキノアがアルコール生成低減効果に優れることが確認された。
【0040】
[実験例2]
低アルコール生成酵母の選定
醤類の製造過程に好適であり、且つ、アルコールを低く生成する酵母を確認した。
【0041】
これは、アルコール生成を特徴とする野生酵母及び培養酵母によるアルコール生成を抑制するために、低アルコール生成酵母を接種して優占化させることで、アルコール生成菌株の活性を減らすためである。
【0042】
具体的に、コチュジャンの製造を考慮し、韓国食品公典(Korean Food Standards Codex)を参考にして食用及び食品発酵由来若しくは乳製品発酵由来の酵母を表3のように選定した。
【0043】
【表3】
【0044】
醤類の製造過程での適合性を確認するため、製造された発酵物内の前記酵母の耐塩性の有無を確認した。具体的に、前記実験例1の発酵物を培地にして30℃の条件で表3の菌株を培養し、その結果、全ての選定酵母が醤類の製造過程において適した水準の耐塩性があることを確認した。
【0045】
また、実験例1に記載された方法で製造し、但し、実験区1-1の炭水化物原料に表4の酵母を5.0×10の水準で接種・発酵し、発酵14日目にアルコール、還元糖含量とアミノ酸態窒素の含量を測定してその結果を表4に示した。
【0046】
発酵14日目の発酵物のアルコール含量に対して、表4のようにC.utilisを接種、発酵した実験区2-1で最も少ないアルコール含量を示した。そして、発酵特性を確認できる指標の一つであるアミノ酸態窒素の発酵物内の含量(以下、成熟度)は、表4のようにC.utilisを適用した実験区2-1の発酵物において成熟度が少し高く表れたが、全実験区で類似の値を示した。
【0047】
【表4】
【0048】
追加的に、市販コチュジャンの製造方法によってコチュジャンを製造した。製造されたコチュジャンのアルコール含量を分析し、その結果は、図1に示した。天然抗菌剤が適用された場合にも、C.utilisを適用したコチュジャンが、アルコール含量が低いことを確認した。
【0049】
結果的に、C.utilisを用いる時にアルコール低減化効果が最も優れることが分かる。
【0050】
[実験例3]
低アルコール生成発酵のための条件の選定
原料を1から30日間発酵する発酵物の製造工程を含む醤類の製造過程において、醤類の品質を維持しながらアルコールが少なく生成できる工程を確認した。具体的に、高温短期発酵工程及び天然抗菌剤の適用を介して発酵期間を短縮し、且つ、アルコール生成作用が阻害される工程を確認した。
【0051】
(1)低アルコール生成発酵条件の選定
実験区1-1の原料及び酵母菌株を用い、但し、実験区3-1は25℃で、実験区3-2は45℃の恒温ルームで発酵熟成する点(表5参照)を除いては、実験例1の製造方法を介して発酵物を製造し、発酵終了時点(発酵は全ての実験区が類似の品質水準に到達する時点を基準に終了)のアルコール含量を比較分析した(表6参照)。
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
実験区3-1は、発酵終了時点である14日目に、還元糖の含量が初期値より約1.5%減少し、アルコールの含量が3.45%に到達したことからみて、発酵物の遊離糖がアルコールに転換され、還元糖の含量が減少したことが確認できる。実験区3-2は、発酵終了時点である3日目に、還元糖の含量が18.77%で初期値対比増加し、アルコールの含量が0.08%で初期値と大きい差を示していないため、アルコールへの転換が最小化されたことが確認できる。
【0055】
したがって、45℃の高温発酵条件が、25℃の中温発酵条件対比還元糖の生成(炭水化物の分解)速度を高めて発酵期間を短縮し、糖分の発酵によるアルコール含量の増加の防止に有利な条件であることが確認された。
【0056】
(2)低アルコール生成発酵条件による官能の評価
実験区3-1及び3-2の発酵物を活用して市販コチュジャンの製法によってコチュジャンを製造した。
【0057】
専門パネル9名に試食させた後、5点尺度法でブラインド官能検査を実施し、その結果は、表7及び8の通りである。実験区3-2の発酵物活用コチュジャンの官能評価結果、市販コチュジャン対比全般味及び味属性(甘味、コク味、辛味)の選好度、強度において統計的に有意差がないことを確認した(p-value<0.05の場合、有意差有り)。すなわち、アルコール生成の低減化のための高温短期発酵を行っても伝統食品のアイデンティティを維持できるものと確認された。
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
(3)天然抗菌剤添加による発酵段階の低アルコール生成効果の確認
実験区1-1の原料を用い、但し、発酵段階前に天然抗菌剤の適用及び含量(炭水化物原料100重量部基準)によって実験区3-3(天然抗菌剤無添加)、実験区3-4(複合ハーブ抽出物C2重量部)、実験区 3-5(ニンニク濃縮液2重量部)、実験区3-6(複合ハーブ抽出物C1重量部とニンニク濃縮液1重量部)を異にした点(表9参照)を除いては、実験例1の製造方法を介して発酵物を製造し、全ての実験区が類似の品質水準に到達する時点を基準に終了した。発酵終了時点の還元糖及びアルコール含量を比較分析した(表10、図2及び3参照)。
【0061】
【表9】
【0062】
【表10】
【0063】
図2及び3に示された通り、実験区3-3、実験区3-4、実験区3-5は、アルコール含量値が1%以上と急激に増加する18日を基準に還元糖含量が減少する傾向を見せ、実験区3-6は、還元糖含量が継続的に増加するもののアルコール含量は0.5%未満で増加幅が少ないことが確認された。このような結果は、実験区3-3、実験区3-4、実験区3-5は、高温短期発酵熟成実験と同様に発酵期間が長くなるにつれ、発酵物の遊離糖がアルコールに転換され、還元糖含量が減少したものと思われる。アルコール含量が1.33%で最も高い実験区3-4は、複合ハーブ抽出物Cの構成原料が甘草抽出物、茶抽出物、生姜濃縮液粉末、粉末結晶ブドウ糖でなっているところ、粉末結晶ブドウ糖の影響を受けてアルコール転換が最も高かったものと推定される。
【0064】
これに基づいて、天然抗菌剤の候補物質である複合ハーブ抽出物Cとニンニク濃縮液をそれぞれ適用することは、アルコールの抑制に大きい効果がないことが確認でき、これらを共に用いる時にアルコールの生成を抑制する効果が大きいことが確認できる。これは、複合ハーブ抽出物Cの構成原料である生姜のギンゲロール(gingerol)、緑茶のカテキン(catechin)、甘草のリクイリチゲニン(liquiritigenin)は抗菌力が大きい天然食品保存成分として働き、ニンニクのアリシン(allicin)は不安定な特性によってカビ、細菌、酵母の生育を抑制する作用をして発生した効果であると思われる。
【0065】
[実験例4]
低アルコール生成発酵のための最適条件の選定
醤類の製造過程においてアルコールが低く生成される最適条件を設定するために、前記実験例1から3で確認された低アルコール生成条件を統合してアルコールの生成を確認した。具体的に、以下の表11の組成及び条件で発酵を適用した。
【0066】
発酵は、全ての実験区が類似の品質水準に到達する時点を基準に終了した。発酵終了時点のアルコール含量を比較分析した(表11参照)。
【0067】
【表11】
【0068】
実験区4-1から4-4のアルコール含量を比べてみた時、前記実験例1から実験例3で確認した炭水化物含量が少ない穀物である全麦、低アルコール生成酵母C.utilis及び高温発酵条件を統合すれば、アルコールの生成を抑制する効果に最も優れることを確認した。また、実験区4-4及び4-5を比べた時、炭水化物の含量が少ない穀物の含量を高めるほど、アルコール含量の増加の防止に有利な条件であることが確認された。
図1
図2
図3