(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ベル型塗装装置
(51)【国際特許分類】
B05B 5/04 20060101AFI20221206BHJP
B05B 3/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B05B5/04 A
B05B3/10 B
(21)【出願番号】P 2019107434
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 徳子
(72)【発明者】
【氏名】有地 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 勝浩
(72)【発明者】
【氏名】大澤 直浩
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-152700(JP,A)
【文献】特開平10-156222(JP,A)
【文献】特開2015-080766(JP,A)
【文献】特開昭58-081458(JP,A)
【文献】特開2000-202329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/04
B05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの塗装を行うベル型塗装装置であって、
同一の軸線に沿って配置された複数のベルカップを有するベルヘッド部と、
上記軸線を中心に上記ベルヘッド部を回転させる駆動部と、
を備え、
上記ワークに対向する側を前方としたとき、上記ベルヘッド部には、上記複数のベルカップのうち第1ベルカップと上記第1ベルカップの後方に隣接して配置された第2ベルカップとの間に形成された塗料溜り部と、上記塗料溜り部からいずれも分岐した複数の塗料供給孔と、が設けられており、
上記複数の塗料供給孔は、上記ベルヘッド部の回転時の遠心方向に沿って前斜め外方へと延びて上記塗料溜り部を上記第1ベルカップの前方側の第1塗料噴射面に連通させる複数の第1塗料供給孔と、上記遠心方向に沿って後斜め外方へと延びて上記塗料溜り部を上記第2ベルカップの前方側の第2塗料噴射面に連通させる複数の第2塗料供給孔と、からな
り、
上記複数の第1塗料供給孔と上記複数の第2塗料供給孔は、上記ベルヘッド部を径方向の外方から視たときに上記ベルヘッド部の回転平面について実質的に面対称形状をなすように構成されており、
上記複数の第1塗料供給孔はいずれも、上記回転平面に対して第1の角度で傾斜した第1傾斜直線上に配置され、上記複数の第2塗料供給孔はいずれも、上記回転平面に対して上記第1の角度と実質的に同一の第2の角度で傾斜した第2傾斜直線上に配置され、且つ、上記第1の角度と上記第2の角度がともに45度よりも小さい値に設定されている、ベル型塗装装置。
【請求項2】
上記複数の第1塗料供給孔はいずれも、上記塗料溜り部から塗料が流入する第1流入口を有し、上記複数の第2塗料供給孔はいずれも、上記塗料溜り部から塗料が流入する第2流入口を有し、上記第1流入口と上記第2流入口とが上記ベルヘッド部の回転平面における同一円周上に配置されている、請求項
1に記載のベル型塗装装置。
【請求項3】
上記第1流入口と上記第2流入口が1つの共通流入口として兼用されている、請求項
2に記載のベル型塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベル型塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体を塗装する中塗り、上塗りラインにおいては、高速で回転するベルを備えたベル型塗装装置(以下、単に「塗装装置」ともいう。)が使用されている。この塗装装置は、一般的に、カップ形状を有するベルカップを備え、このベルカップの回転による遠心力を利用して塗料を粒化してワークである車体の塗装面に塗着させるように構成されている。
【0003】
このような塗装装置の一例が下記の特許文献1に開示されている。この塗装装置は、一体化された2つのベルカップと、塗料が流入する塗料溜り部と、を有する回転霧化頭を備えている。この塗装装置において、2つのベルカップが同一の回転軸線を中心に一体回転した状態で、塗料溜り部に流入した塗料は、この塗料溜り部から塗料供給孔を通じて一方のベルカップの塗料吐出沿面に供給され、また塗料溜り部から別の塗料供給孔を通じて他方のベルカップの塗料吐出沿面に供給される。このとき、塗料は各ベルカップの塗料吐出沿面において遠心力によって薄膜化され微粒化された状態でワークに向けて噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の塗装装置の設計に際しては、多くの塗料を安定して微粒化できるように塗装能力を高める技術が求められている。このような要請に対しては、例えばベルカップを大径化して、このベルカップによって塗料が受ける遠心力を高めることが考えられる。ところが、ベルカップの吐出口径を上げると、ワークに向けて噴射される塗装パターンの径が大きくなり、これによりオーバースプレーによる塗料のロスが増えることになる。
【0006】
このような問題に対して、特許文献1に開示の塗装装置は、複数のベルカップが同一の軸線を中心に回転する多重ベル構造の回転霧化頭を備えており、塗料を塗料溜り部から複数のベルカップに同時並行で供給することができ、ベルカップの吐出口径を上げることなく塗装能力を高めるのに有効である。しかしながら、この塗装装置では、複数のベルカップに対する塗料の供給比率を均等にするのが難しい。このとき、複数のベルカップの間で塗料の供給量にばらつきが生じると、塗料を安定して微粒化する微粒化性能を得ることができないという問題が生じ得る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、塗装能力と塗料の微粒化性能をともに向上させることができるベル型塗装装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
ワークの塗装を行うベル型塗装装置であって、
同一の軸線に沿って配置された複数のベルカップを有するベルヘッド部と、
上記軸線を中心に上記ベルヘッド部を回転させる駆動部と、
を備え、
上記ワークに対向する側を前方としたとき、上記ベルヘッド部には、上記複数のベルカップのうち第1ベルカップと上記第1ベルカップの後方に隣接して配置された第2ベルカップとの間に形成された塗料溜り部と、上記塗料溜り部からいずれも分岐した複数の塗料供給孔と、が設けられており、
上記複数の塗料供給孔は、上記ベルヘッド部の回転時の遠心方向に沿って前斜め外方へと延びて上記塗料溜り部を上記第1ベルカップの前方側の第1塗料噴射面に連通させる複数の第1塗料供給孔と、上記遠心方向に沿って後斜め外方へと延びて上記塗料溜り部を上記第2ベルカップの前方側の第2塗料噴射面に連通させる複数の第2塗料供給孔と、からなり、
上記複数の第1塗料供給孔と上記複数の第2塗料供給孔は、上記ベルヘッド部を径方向の外方から視たときに上記ベルヘッド部の回転平面について実質的に面対称形状をなすように構成されており、
上記複数の第1塗料供給孔はいずれも、上記回転平面に対して第1の角度で傾斜した第1傾斜直線上に配置され、上記複数の第2塗料供給孔はいずれも、上記回転平面に対して上記第1の角度と実質的に同一の第2の角度で傾斜した第2傾斜直線上に配置され、且つ、上記第1の角度と上記第2の角度がともに45度よりも小さい値に設定されている、ベル型塗装装置、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上記のベル型塗装装置において、ベルヘッド部は、同一の軸線に沿って配置された複数のベルカップを有し、駆動部によって軸線を中心に回転する。このベルヘッド部の複数の塗料供給孔はいずれも、複数のベルカップのうち第1ベルカップと第2ベルカップとの間に設けられた塗料溜り部から分岐している。
【0010】
上記のベルヘッド部は、複数のベルカップが同一の軸線を中心に回転する多重ベル構造を有する。このため、塗料を塗料溜り部から複数のベルカップに同時並行で供給することができ、ベルカップの吐出口径を上げることなく塗装能力を高めることができる。
【0011】
また、上記のベルヘッド部の複数の塗料供給孔は、複数の第1塗料供給孔と複数の第2塗料供給孔とからなり、各第1塗料供給孔は、ベルヘッド部の回転時の遠心方向に沿って前斜め外方へと延びており、各第2塗料供給孔は、ベルヘッド部の回転時の遠心方向に沿って後斜め外方へと延びている。
【0012】
これにより、第1塗料供給孔と第2塗料供給孔が遠心方向に沿って概ね同方向に延びるようにこれらの相対的な配置を工夫することで、ベルヘッド部の回転時に、塗料溜り部から第1塗料供給孔を通じて第1ベルカップの第1塗料噴射面へと流れる塗料の吐出流量と、塗料溜り部から第2塗料供給孔を通じて第2ベルカップの第2塗料噴射面へと流れる塗料の吐出流量と、を概ね同量に合わせることができる。このため、第1ベルカップ及び第2ベルカップに対する塗料の供給比率を概ね均等にして供給量のばらつきを小さく抑えることで、塗料を安定して微粒化する微粒化性能を得ることができる。
【0013】
以上のごとく、上記の態様によれば、塗装能力と塗料の微粒化性能をともに向上させることができるベル型塗装装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1のベル型塗装装置の全体構成を示す断面図。
【
図2】
図1中のベルヘッド部を矢印A方向から視た図。
【
図5】
図1中のベルヘッド部を拡大して示す断面図。
【
図7】実施形態2のベル型塗装装置のベルヘッド部について
図2に対応した断面図。
【
図9】実施形態2のベル型塗装装置のベルヘッド部について
図6に対応した断面図。
【
図10】実施形態3のベル型塗装装置のベルヘッド部について
図6に対応した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述の態様の好ましい実施形態について説明する。
【0016】
上記のベル型塗装装置において、上記複数の第1塗料供給孔と上記複数の第2塗料供給孔は、上記ベルヘッド部を径方向の外方から視たときに上記ベルヘッド部の回転平面について実質的に面対称形状をなすように構成されているのが好ましい。
【0017】
このベル型塗装装置によれば、複数の第1塗料供給孔と複数の第2塗料供給孔がベルヘッド部の回転平面について実質的に面対称形状をなすため、第1ベルカップ及び第2ベルカップに対する塗料の供給量のばらつきをより小さく抑えることができる。
【0018】
上記のベル型塗装装置において、上記複数の第1塗料供給孔はいずれも、上記回転平面に対して第1の角度で傾斜した第1傾斜直線上に配置され、上記複数の第2塗料供給孔はいずれも、上記回転平面に対して上記第1の角度と実質的に同一の第2の角度で傾斜した第2傾斜直線上に配置されているのが好ましい。
【0019】
このベル型塗装装置によれば、第1塗料供給孔及び第2塗料供給孔がいずれも実質的に同一の傾斜角度で直線状に延びる形状であるため、各塗料供給孔を塗料が流れるときの圧力損失を低く抑えることができる。
【0020】
上記のベル型塗装装置において、上記複数の第1塗料供給孔はいずれも、上記塗料溜り部から塗料が流入する第1流入口を有し、上記複数の第2塗料供給孔はいずれも、上記塗料溜り部から塗料が流入する第2流入口を有し、上記第1流入口と上記第2流入口とが上記ベルヘッド部の回転平面における同一円周上に配置されているのが好ましい。
【0021】
このベル型塗装装置によれば、第1流入口と第2流入口をベルヘッド部の回転平面における同一円周上に配置することで、塗料溜り部において塗料が第1塗料供給孔の第1流入口まで流れる距離と、第2塗料供給孔の第2流入口まで流れる距離を同じにすることができる。これにより、塗料溜り部から第1塗料供給孔及び第2塗料供給孔のそれぞれに塗料を均等に分配することができる。
【0022】
上記のベル型塗装装置において、上記第1流入口と上記第2流入口が1つの共通流入口で兼用されているのが好ましい。
【0023】
このベル型塗装装置によれば、第1塗料供給孔の第1流入口と第2塗料供給孔の第2流入口を1つの共通流入口とすることによって、ベルヘッド部の構造を簡素化することができる。
【0024】
以下、ベル型塗装装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
なお、このベル型塗装装置を説明するための図面において、特にことわらない限り、ベルヘッド部の軸方向を矢印Xで示し、ベルヘッド部の径方向を矢印Yで示し、ベルヘッド部の周方向を矢印Z示すものとする。また、ベルヘッド部が軸方向についてワークと対向する側を「前方」とし、ワークの反対側を「後方」とする。
【0026】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1のベル型塗装装置(以下、単に「塗装装置」という。)1は、塗装対象であるワークWの塗装を行うための装置である。ワークWとして、例えば、中塗り、上塗りラインにおいて塗装ブースに搬入されて塗装される車体が挙げられる。この場合、塗装装置1は、塗装ロボットのロボットアームに取付けられ、塗装作業時にロボットアームが予め教示された移動軌跡にしたがって制御され、ワークWである車体の被塗装面Waに向けて配置される。
【0027】
塗装装置1は、同一の軸線Lに沿って配置された2つのベルカップ20,30を有するベルヘッド部10と、駆動部50と、駆動部50を含む複数の構成要素を収容するハウジング2と、を備えている。軸線Lは、軸方向Xに沿って延びる仮想の回転軸線である。
【0028】
ベルヘッド部10は、軸線Lまわりの回転時に生じる遠心力によって塗料Pを霧化(或いは、「微粒化」ともいう。)する機能を有するものであり、「回転霧化頭」とも称呼される。このベルヘッド部10には、外部電源に接続された電気ケーブル6を通じて高電圧が印加される。
【0029】
2つのベルカップ20,30は、いずれもカップのようなカップ状(「凹状」或いは「椀状」ともいう。)のものである。第2ベルカップ30が第1ベルカップ20に被せられるように配置された状態で互いに一体化されている。そして、ベルヘッド部10の回転に伴って2つのベルカップ20,30が軸線Lを中心に一体回転するように構成されている。
【0030】
第1ベルカップ20は、2つのベルカップ20,30のうち軸方向Xの前側且つ径方向Yの内側に配置され、第2ベルカップ30は、第1ベルカップ20の後方に隣接して配置されている。このため、第1ベルカップ20は、「インナベルカップ」或いは「インナベル」とも称呼され、第2ベルカップ30は、「アウタベルカップ」或いは「アウタベル」とも称呼される。
【0031】
第1ベルカップ20は、開口縁部20aを有し、軸方向Xの前方に向かうにつれて内径が漸増して開口縁部20aで内径が最大となるように構成されている。第2ベルカップ30は、第1ベルカップ20と同様に、開口縁部30aを有し、軸方向Xの前方に向かうにつれて内径が漸増して開口縁部30aで内径が最大となるように構成されている。
【0032】
ベルヘッド部10には、第1ベルカップ20と第2ベルカップ30との間に形成された塗料溜り部40と、この塗料溜り部40からいずれも分岐した複数の塗料供給孔41と、が設けられている。複数の塗料供給孔41は、複数の第1塗料供給孔41Aと、複数の第1塗料供給孔41Aと同数の複数の第2塗料供給孔41Bと、からなる。なお、塗料供給孔41の数は必要に応じて適宜に選択が可能である。
【0033】
複数の第1塗料供給孔41Aはいずれも、ベルヘッド部10の回転時の遠心方向Y1に沿って前斜め外方へと延びて塗料溜り部40を第1ベルカップ20の前方側の第1塗料噴射面21に連通させるためのものである。このため、塗料溜り部40から各第1塗料供給孔41Aを通じて第1塗料噴射面21に供給された塗料Pは、この第1塗料噴射面21において第1ベルカップ20の回転時の遠心力によって薄膜化される。
【0034】
複数の第2塗料供給孔41Bはいずれも、ベルヘッド部10の回転時の遠心方向Y1に沿って後斜め外方へと延びて塗料溜り部40を第2ベルカップ30の前方側の第2塗料噴射面31に連通させるためのものである。このため、塗料溜り部40から各第2塗料供給孔41Bを通じて第2塗料噴射面31に供給された塗料Pは、この第2塗料噴射面31において第2ベルカップ30の回転時の遠心力によって薄膜化される。
【0035】
第1ベルカップ20と第2ベルカップ30との間には、第1ベルカップ20の裏面と第2ベルカップ30の第2塗料噴射面31とによって区画された間隙Gが形成されている。この間隙Gは、塗料溜り部40よりも径方向Yの外方に円環状に設けられた隙間である。このため、塗料Pは、間隙Gを通じ第2塗料噴射面31に沿って径方向Yの外方に流れることができる。
【0036】
第1ベルカップ20の中央部は、円板状のベルハブ22として構成されている。このベルハブ22において、軸方向Xの後方側の裏面22aは、中心部から外周部まで凹んだ湾曲状のガイド面として構成されている。このため、ベルハブ22の裏面22aは、塗料溜り部40に供給された後述の塗料Pや洗浄液を径方向Yの外方へガイドする機能を果たす。また、ベルハブ22の中央部には、洗浄液吐出孔22bが貫通形成されている。この洗浄液吐出孔22bは、塗料Pよりも粘性の低い洗浄液を流す一方で、塗料Pを流さないように構成されている。
【0037】
ハウジング2の各部位のうち外表面に近い部位には、外部のエア供給源3に連通するエア供給路4が設けられている。このエア供給路4の流入口4aから流入したエアはエア吹出口4bから吹き出すエア、所謂「シェーピングエア」に使用される。このシェーピングエアは、塗料が遠心方向に広がりすぎるのを抑える機能を果たす。エア供給路4のエア吹出口4bは、ハウジング2の周方向に沿って等間隔で複数設けられている。
【0038】
駆動部50は、軸線Lを中心にベルヘッド部10を回転させるためのものであり、エアモータ51及びタービン52を有する。
【0039】
エアモータ51は、エア駆動式のモータであり、ベルヘッド部10を回転駆動するアクチュエータとして構成されている。このエアモータ51は、軸線Lに沿って延びる駆動軸部51aを有し、この駆動軸部51aがエアモータ51の回転中心となる。このエアモータ51の起動及び停止、運転時の回転数は、制御部53によって制御される。
【0040】
エアモータ51の駆動軸部51aには、ベルヘッド部10の軸線Lに沿って延びる塗料供給管7が内蔵されている。この塗料供給管7は、ベルヘッド部10を貫通しており、軸方向Xの前方側の吐出口7aが塗料溜り部40に連通するように配置されている。このため、外部の塗料供給源5から供給された塗料Pが、塗料供給管7の管内を軸方向Xの前方へと流れた後に、吐出口7aから塗料溜り部40に供給される。
【0041】
また、特に図示しないものの、塗料供給管7の外周には、この塗料供給管7と同心状であり且つ塗料溜り部40に連通する洗浄液供給経路が設けられており、この洗浄液供給経路を通じて塗料溜り部40に洗浄液が供給可能になっている。これにより、ベルヘッド部10の洗浄時に、塗料Pに代えて洗浄液を塗料溜り部40に供給することができる。
【0042】
エアモータ51の駆動軸部51aは、ベルヘッド部10に固定され且つ円筒状のタービン52と一体化されている。このタービン52の外周面には、周方向に互いに等間隔で配置された複数の羽根52aが設けられている。このため、タービン52の複数の羽根52aにエアが供給されることによってエアモータ51の駆動軸部51aが軸線Lまわりに回転し、これによりベルヘッド部10が軸線Lを中心に回転する。
【0043】
なお、エアモータ51のスラスト方向の空気軸受、及びラジアル方向の空気軸受に使用される軸受用エアや、エアモータ51を駆動するための駆動用エアは、エア供給路4とは別の経路を通じて供給されるようになっている。
【0044】
上記のタービン52の構造の詳細については、例えば実開昭60-151555号公報に開示の「タービン5」が参照される。従って、本明細書では、この公報を援用することにより、タービン52の更なる詳細な説明を省略する。
【0045】
図2及び
図3に示されるように、第1ベルカップ20の複数の第1塗料供給孔41Aは、複数の第1流出口45及び複数の共通流入口44がいずれも軸線L(
図1参照)を中心に周方向Zに等間隔に配置されるように構成されている。
【0046】
図2に示されるように、第1塗料噴射面21の外縁部には、塗料Pを液糸にするための複数の溝21aが設けられている。これら複数の溝21aは、周方向Zに等間隔で配置されており、いずれも第1ベルカップ20の径方向Yに沿って延びている。
【0047】
第1塗料噴射面21と同様に、第2塗料噴射面31の外縁部には、塗料Pを液糸にするための複数の溝31aが設けられている。これら複数の溝31aは、周方向Zに等間隔で配置されており、いずれも第2ベルカップ30の径方向Yに沿って延びている。
【0048】
図4に示されるように、第2ベルカップ30の複数の第2塗料供給孔41Bは、複数の第2流出口46が軸線Lを中心に周方向Zに等間隔に配置されるように構成されている。複数の第2流出口46は、それぞれが軸方向Xについて複数の第1流出口45のそれぞれと重なるように配置されている。複数の第2塗料供給孔41Bは、第1塗料供給孔41Aと同一の孔径及び長さを有する。
【0049】
図5に示されるように、ベルヘッド部10において、第2ベルカップ30が第1ベルカップ20よりも大径のベルカップとなるように構成されている。即ち、第2ベルカップ30は、その開口縁部30aにおける吐出口径(「ベル径」ともいう。)が第1ベルカップ20の開口縁部20aにおける吐出口径を寸法差d1で上回るように構成されている。この寸法差d1は、必要に応じて0(ゼロ)であってもよい。
【0050】
また、第2ベルカップ30は、その開口縁部30aが第1ベルカップ20の開口縁部20aに対して軸方向Xの後方に寸法d2でオフセットしたオフセット構造を有する。なお、ワークWに塗着する塗料Pの粒径を所望の範囲内に抑えることが可能であれば、このようなオフセット構造を省略することもできる。
【0051】
ここで、本発明者は、第1塗料供給孔41Aと第2塗料供給孔41Bの孔径及び長さを単に同じにするのみでは、ベルヘッド部10に回転時の遠心力によって遠心方向Y1に沿って流れる塗料Pの圧力損失を2つの塗料供給孔41A,41Bの間で均等にするのが難しいことに着目した。
【0052】
そこで、本実施形態では、
図6に示されるように、複数の第1塗料供給孔41Aと複数の第2塗料供給孔41Bは、ベルヘッド部10を径方向Yの外方から視たときにベルヘッド部10の回転平面Rについて実質的に面対称形状をなすように構成されている。ここで、回転平面Rは、第1方向Xを法線方向とする仮想の平面である。
【0053】
ここでいう「実質的に面対称形状をなす」との形態には、第1塗料供給孔41Aの形状と第2塗料供給孔41Bの形状が幾何学的に完全な面対称の関係となる形態のみならず、これらの形状が公差などの誤差や許容値などの多少のずれによって概ね面対称の関係となる形態が包含される。このような面対称形状を実現するために、第1塗料供給孔41Aと第2塗料供給孔41Bは、同数であり略同一の孔径及び長さを有するのが好ましい。
【0054】
複数の第1塗料供給孔41Aはいずれも、ベルヘッド部10の回転平面Rに対して第1の角度θ1で傾斜した仮想の第1傾斜直線M上に配置されている。各第1塗料供給孔41Aは、軸方向Xの前方へ向かうにつれて回転平面Rから徐々に遠ざかるように傾斜している。
【0055】
また、複数の第2塗料供給孔41Bはいずれも、ベルヘッド部10の回転平面Rに対して第1の角度θ1と実質的に同一の第2の角度θ2で傾斜した仮想の第2傾斜直線N上に配置されている。この場合、第2の角度θ2は、第1の角度θ1と実質的に同一であればよく、完全に同一の値となる関係に限定されるものではなく、公差などの誤差や許容値などの多少のずれが許容される。各第2塗料供給孔41Bは、軸方向Xの後方へ向かうにつれて回転平面Rから徐々に遠ざかるように傾斜している。
【0056】
なお、角度θ1,θ2については特に限定されないが、各塗料供給孔41を塗料Pが流れるときの圧力損失を下げるという観点に基づいた場合、角度θ1,θ2を45度よりも小さい値に設定するのが好ましい。
【0057】
第1塗料供給孔41Aは、塗料溜り部40から塗料Pが流入する第1流入口42と、第1塗料噴射面21に開口形成された第1流出口45と、を有する。これにより、塗料溜り部40から第1流入口42を通じて第1塗料供給孔41Aに流入した塗料Pは、第1ベルカップ20に作用する遠心力にしたがって第1塗料供給孔41Aを斜め前方へと流れて、第1流出口45を通じて第1塗料噴射面21に向けて噴射される。
【0058】
第2塗料供給孔は、塗料溜り部40から塗料Pが流入する第2流入口43と、第2塗料噴射面31に開口形成された第2流出口46と、を有する。これにより、塗料溜り部40から第2流入口43を通じて第2塗料供給孔41Bに流入した塗料Pは、第2ベルカップ30に作用する遠心力にしたがって第2塗料供給孔41Bを斜め前方へと流れて、第2流出口46を通じて第2塗料噴射面31に向けて噴射される。
【0059】
ここで、第1塗料供給孔41Aの第1流入口42と、第2塗料供給孔の第2流入口43は、1つの共通流入口44として兼用されている。即ち、本実施形態では、第1流入口42と第2流入口43とは、回転平面Rにおける同一円周上に配置されており、且つ周方向Zについて互いに重なり合うように同一の位置に配置されている。この場合、塗料供給管7の吐出口7aと第1流入口42とを直線的に結ぶ距離と、塗料供給管7の吐出口7aと第2流入口43とを直線的に結ぶ距離と、が同じである。
【0060】
上記の塗装装置1(
図1参照)において、運転時に電気ケーブル6を通じてベルヘッド部10に通電されると、塗料溜り部40から第1塗料供給孔41A及び第2塗料供給孔41Bを流れる塗料Pが印加電圧によって帯電する。帯電した塗料Pは、第1塗料供給孔41Aの第1流出口45と、第2塗料供給孔41Bの第2流出口46と、のそれぞれから吐出される。
【0061】
第1流出口45から吐出された塗料Pは、第1ベルカップ20の第1塗料噴射面21に沿って薄膜を形成し、この第1ベルカップ20の開口縁部20aで所望の微粒化状態となって吐出される。一方で、第2流出口46から吐出された塗料Pは、間隙Gにおいて第2ベルカップ30の第2塗料噴射面31に沿って薄膜を形成し、この第2ベルカップ30の開口縁部30aで所望の微粒化状態となって吐出される。
【0062】
なお、間隙Gの軸方向X或いは径方向Yの寸法は、第2塗料噴射面31に沿って形成される塗料Pの薄膜の軸方向X或いは径方向Yの厚みに、所定の隙間を加算した値に設定されるのが好ましい。
【0063】
そして、微粒化した塗料Pは、接地されたワークWとの間の静電気力とエア供給路4のエア吹出口4bから吹き出すシェーピングエアとによって、一定のパターンでワークWの塗装面Waに向けて噴射されて塗着する。
【0064】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0065】
上記の塗装装置1において、ベルヘッド部10は、同一の軸線Lに沿って配置された2つのベルカップ20,30を有し、駆動部50によって軸線Lを中心に回転する。このベルヘッド部10の複数の塗料供給孔41はいずれも、第1ベルカップ20と第2ベルカップ30との間に設けられた塗料溜り部40から分岐している。
【0066】
上記のベルヘッド部10は、2つのベルカップ20,30が同一の軸線Lを中心に回転する多重ベル構造を有する。このため、塗料Pを塗料溜り部40から2つのベルカップ20,30に同時並行で供給することができ、ベルカップの吐出口径を上げることなく塗装能力を高めることができる。例えば、同様の吐出口径を有する1つのベルカップのみを使用する場合に比べて、塗装能力である塗料Pの吐出流量を2倍程度まで高めることができる。
【0067】
また、上記のベルヘッド部10の複数の塗料供給孔41は、複数の第1塗料供給孔41Aと複数の第2塗料供給孔41Bとからなり、各第1塗料供給孔41Aは、ベルヘッド部10の回転時の遠心方向Y1に沿って前斜め外方へと延びており、各第2塗料供給孔は、ベルヘッド部10の回転時の遠心方向Y1に沿って後斜め外方へと延びている。
【0068】
これにより、第1塗料供給孔41Aと第2塗料供給孔41Bが遠心方向Y1に沿って概ね同方向に延びるようにこれらの相対的な配置を工夫することで、ベルヘッド部10の回転時に、塗料溜り部40から第1塗料供給孔41Aを通じて第1ベルカップ20の第1塗料噴射面21へと流れる塗料Pの吐出流量と、塗料溜り部40から第2塗料供給孔41Bを通じて第2ベルカップ30の第2塗料噴射面31へと流れる塗料Pの吐出流量と、を概ね同量に合わせることができる。このため、第1ベルカップ20及び第2ベルカップ30に対する塗料Pの供給比率を概ね均等にして供給量のばらつきを抑えることで、塗料Pを安定して微粒化する微粒化性能を得ることができる。
【0069】
従って、上述の実施形態1によれば、塗装能力と塗料Pの微粒化性能をともに向上させることができる塗装装置1を提供できる。
【0070】
特に、複数の塗料供給孔41は、複数の第1塗料供給孔41Aと複数の第2塗料供給孔41Bとからなり、複数の第1塗料供給孔41Aと複数の第2塗料供給孔41Bが、ベルヘッド部10を径方向Yの外方から視た側面視でベルヘッド部10の回転平面Rについて実質的に面対称形状をなすように構成されている。
【0071】
これにより、ベルヘッド部10の回転時に、塗料溜り部40から第1塗料供給孔41Aを通じて第1ベルカップ20の第1塗料噴射面21へと流れる塗料Pの吐出流量と、塗料溜り部40から第2塗料供給孔41Bを通じて第2ベルカップ30の第2塗料噴射面31へと流れる塗料Pの吐出流量と、を合わせることができる。その結果、第1ベルカップ20及び第2ベルカップ30に対する塗料Pの供給量のばらつきをより小さく抑えることができる。
【0072】
また、上記のベルヘッド部10によれば、第1ベルカップ20と第2ベルカップ30との間での塗料Pの供給比率を均等にして供給量のばらつきを小さく抑えることで、塗料Pを安定して微粒化する微粒化性能を得ることができる。
【0073】
上記の塗装装置1によれば、第1塗料供給孔41A及び第2塗料供給孔41Bがいずれも同一の傾斜角度で直線状に延びる形状であるため、各塗料供給孔41を塗料Pが流れるときの圧力損失を低く抑えることができる。
【0074】
上記の塗装装置1によれば、第1流入口42と第2流入口43をベルヘッド部10の回転平面Rにおける同一円周上に配置することで、塗料溜り部40において塗料Pが第1塗料供給孔41Aの第1流入口42まで流れる距離と、第2塗料供給孔41Bの第2流入口43まで流れる距離を同じにすることができる。これにより、塗料溜り部40から第1塗料供給孔41A及び第2塗料供給孔41Bのそれぞれに塗料Pを均等に分配することができる。
【0075】
上記の塗装装置1によれば、第1塗料供給孔41Aの第1流入口42と第2塗料供給孔41Bの第2流入口43を1つの共通流入口44とすることによって、ベルヘッド部10の構造を簡素化することができる。
【0076】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明を省略する。
【0077】
(実施形態2)
図7~
図9に示されるように、実施形態2の塗装装置101は、ベルヘッド部110の構造が実施形態1の塗装装置1のベルヘッド部10のものと相違している。
【0078】
図7及び
図8に示されるように、ベルヘッド部110において、複数の第2流出口46は、それぞれが周方向Zについて複数の第1流出口45のそれぞれから外れた位置にあり、それぞれが軸方向Xについて複数の第1流出口45のそれぞれと重ならないように配置されている。そして、第1流出口45と第2流出口46は、周方向Zに互い違いに等間隔で配置されている。
【0079】
図9に示されるように、複数の第1塗料供給孔41Aと複数の第2塗料供給孔41Bは、ベルヘッド部110を径方向Yの外方から視た側面視でベルヘッド部110の回転平面Rについて実質的に面対称形状をなしている。また、塗料供給管7の吐出口7aから第1流入口42までの距離と、塗料供給管7の吐出口7aから第2流入口43までの距離と、が同じになるように構成されている。
【0080】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0081】
塗装装置101によれば、ベルヘッド部110において、第1塗料供給孔41Aの第1流出口45と第2塗料供給孔41Bの第2流出口46が周方向Zに互い違いに等間隔で配置された構造を実現できる。
【0082】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0083】
(実施形態3)
図10に示されるように、実施形態3の塗装装置201は、ベルヘッド部210の構造が実施形態1の塗装装置1のベルヘッド部10のものと相違している。
【0084】
ベルヘッド部210において、第1流入口42と第2流入口43とは、軸方向Xについて互いに離れた位置にあり、回転平面Rにおける同一円周上に配置されていない。即ち、第1流入口42と第2流入口43が互いに異なる流入口になっている。
【0085】
塗装装置201によれば、ベルヘッド部210において、第1塗料供給孔41Aの複数の第1流入口42と第2塗料供給孔41Bの複数の第2流入口43を軸方向Xに離間させた構造を実現できる。
【0086】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0087】
なお、実施形態3に特に関連する変更例として、複数の第1流入口42と複数の第2流入口43を軸方向Xに離間させる構造を、実施形態2のベルヘッド部110に適用した実施形態を採用することもできる。
【0088】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0089】
上述の実施形態では、2つのベルカップ20,30を設ける場合について例示したが、これに代えて、2つのベルカップ20,30に1又は複数の別のベルカップが追加された構造を採用することもできる。即ち、ベルカップの数を3つ以上の複数に設定することもできる。
【0090】
上述の実施形態では、第1塗料供給孔41Aと第2塗料供給孔41Bがいずれも直線状に延びる場合について例示したが、回転平面Rについて実質的に面対称形状をなすという条件を満足していれば、第1塗料供給孔41A及び第2塗料供給孔41Bの形状は直線以外の形状(例えば、湾曲形状や折れ曲がり形状)であってもよい。
【0091】
上述の実施形態では、ワークWとしての車体を塗装するための塗装装置1,101,201について例示したが、これらの塗装装置1,101,201を必要に応じて車体以外のワークWの塗装に使用することもできる。
【符号の説明】
【0092】
1,101,201 ベル型塗装装置(塗装装置)
10,110,210 ベルヘッド部
20 第1ベルカップ(ベルカップ)
21 第1塗料噴射面
30 第2ベルカップ(ベルカップ)
31 第2塗料噴射面
40 塗料溜り部
41 塗料供給孔
41A 第1塗料供給孔
41B 第2塗料供給孔
42 第1流入口
43 第2流入口
44 共通流入口
50 駆動部
L 軸線
M 第1傾斜直線
N 第2傾斜直線
R 回転平面
W ワーク
Y 径方向
θ1 第1の角度
θ2 第2の角度