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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】コモンモードチョークコイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20221206BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017070319
(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2018174192
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-03-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】横山 大造
(72)【発明者】
【氏名】武冨 幸治
(72)【発明者】
【氏名】野木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 秀美
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】須原 宏光
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-080594(JP,A)
【文献】特開2007-242800(JP,A)
【文献】特開2010-278301(JP,A)
【文献】特開2016-213333(JP,A)
【文献】特開2012-119374(JP,A)
【文献】特開2001-230119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-17/04
H01F 27/28
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と下面とを有し前記上面と前記下面とを接続する貫通孔を有する非磁性体層と、
前記非磁性体層の前記上面に直接接するように形成された第1の磁性体層と、
前記非磁性体層の前記下面に直接接するように形成された第2の磁性体層と、
前記非磁性体層の前記貫通孔に、前記第1の磁性体層と前記第2の磁性体層との間において、その軸芯が上下方向に延伸するように設けられた磁芯と、
前記非磁性体層に埋め込まれ、前記磁芯の周りに巻回された第1のコイル導体と、
前記非磁性体層に埋め込まれ、前記磁芯の周りに巻回された第2のコイル導体と、
前記磁芯の上面と前記第1の磁性体層の下面との間に設けられた第1の磁気ギャップと、
を備える、
コモンモードチョークコイル。
【請求項2】
前記磁芯は、その上面の面積が前記軸芯に垂直な方向における前記磁芯の断面積以上となるように構成される、請求項1に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項3】
前記磁芯は、前記軸芯に沿った方向において互いに離間した第1の部分と第2の部分とを有し、
前記第1の部分と前記第2の部分との間に設けられ、非磁性材料から成る第2の磁気ギャップをさらに備え、前記第2の磁気ギャップは、その上下方向の厚さが前記第1のギャップの上下方向の厚さよりも小さくなるように形成されている、請求項1又は請求項2に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項4】
前記第1のコイル導体は、前記第2のコイル導体よりも前記第1の磁性体層の近くに配置され、
前記第1の磁気ギャップの上下方向の厚さは、前記第1のコイル導体の上面と前記第1の磁性体層との間隔よりも小さい、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項5】
前記第1の磁性体層の下面と前記第2の磁性体層の上面との間隔に対する前記第1の磁気ギャップの上下方向の厚さの比が0.1より小さい、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項6】
前記第1の磁性体層の下面と前記第2の磁性体層の上面との間隔に対する前記第1の磁気ギャップの上下方向の厚さと前記第2の磁気ギャップの上下方向の厚さとの合計の厚さの比が0.1より小さい、請求項3に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項7】
前記磁芯はフェライト材を含む、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項8】
前記第1の磁気ギャップは、空隙である、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項9】
上面と下面とを有し前記上面と前記下面とを接続する貫通孔を有する非磁性体層と、
前記非磁性体層の前記上面に直接接するように形成された第1の磁性体層と、
前記非磁性体層の前記下面に直接接し、その上面に凹部を有する第2の磁性体層と、
前記非磁性体層の前記貫通孔に、前記第1の磁性体層と前記第2の磁性体層との間において、その軸芯が上下方向に延伸し、その一部が前記第2の磁性体層の前記凹部内に突出するように設けられた磁芯と、
前記非磁性体層に埋め込まれ、前記磁芯の周りに巻回された第1のコイル導体と、
前記非磁性体層に埋め込まれ、前記磁芯の周りに巻回された第2のコイル導体と、
前記磁芯の下面と前記第2の磁性体層の上面との間に設けられた磁気ギャップと、
を備える、
コモンモードチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コモンモードチョークコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
差動信号が伝送される差動伝送回路からコモンモードノイズを除去するためにコモンモードチョークコイルが用いられる。コモンモードチョークコイルは、複数のコイル導体を備え、これらのコイル導体がコモンモードノイズに対してコモンモードインピーダンスを発生するインダクタとして機能することにより、差動伝送回路からコモンモードノイズを除去することができる。
【0003】
コモンモードチョークコイルは、コモンモードノイズの減衰量を大きくするために、大きなコモンモードインピーダンスを有していることが望ましい。大きなコモンモードインピーダンスを得るために、フェライト材から成る磁芯を有するコモンモードチョークコイルが知られている。この種のコモンモードチョークコイルは、絶縁体層の上面及び下面に設けられた一対の磁性体層と、当該一対の磁性体層同士を接続するフェライト材からなる磁芯と、この磁芯の周りを巻回するように当該絶縁体層内に埋め込まれた複数のコイル導体と、を備えている。このようなフェライト材から成る磁芯を有する従来のコモンモードチョークコイルは、例えば、特開2012-119374号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-119374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のフェライト材磁芯を有するコモンモードチョークコイルにおいては、フェライト材磁芯での磁気損失が発生するため、かかる磁芯を有していないコモンモードチョークコイルよりも高周波帯におけるQ特性が低下する。この結果、高周波の共振周波数付近に現れるコモンモードインピーダンスのピーク値が小さくなってしまう。このように、フェライト材磁芯を有するコモンモードチョークコイルでは、そのフェライト材磁芯の影響により、共振周波数付近では、コモンモードノイズの減衰量がかえって低くなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明の目的の一つは、磁芯を有するコモンモードチョークコイルにおいて、コモンモードインピーダンスのピーク値の低下を抑制させることである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るコモンモードチョークコイルは、非磁性体層と、前記非磁性体層の上面に形成された第1の磁性体層と、前記非磁性体層の下面に形成された第2の磁性体層と、前記第1の磁性体層と前記第2の磁性体層との間に、その軸芯が上下方向に延伸するように設けられた磁芯と、前記非磁性体層に埋め込まれ、前記磁芯の周りに巻回された第1のコイル導体と、前記非磁性体層に埋め込まれ、前記磁芯の周りに巻回された第2のコイル導体と、前記磁芯の上面と前記第1の磁性体層の下面との間に設けられた第1の磁気ギャップと、を備える。本発明の一実施形態において、磁芯はフェライト材から成る。
【0008】
当該実施形態によれば、磁芯と第1の磁性体層との間に磁気ギャップが設けられていることで、磁性材料で生じる高周波帯における磁芯での磁気損失の影響が抑制される。この結果、磁気損失に起因するQ特性の劣化も抑制することができるので、コモンモードインピーダンスのピーク値の低下を抑制されると共に、インピーダンス特性の共振周波数は高くなる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記磁芯は、その上面の面積が前記軸芯に垂直な方向における前記磁芯の断面積以上となるように構成される。
【0010】
当該実施形態によれば、磁芯のうち第1の磁気ギャップに臨んでいる上面の面積が磁芯の他の部分の断面積以上となっているので、当該磁芯を軸方向に通過する磁束の当該第1のギャップ部における漏れ量を抑制することができる。これにより、磁束漏れによる前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体に干渉しにくくなる。このため、高周波帯における磁芯での磁気損失を抑制するとともに、周波数特性の劣化を抑制することができる。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記磁芯は、前記軸芯に沿った方向において互いに離間した第1の部分と第2の部分とを有する。本発明の一実施形態におけるコモンモードチョークコイルは、前記第1の部分と前記第2の部分との間に設けられ、非磁性材料から成る第2の磁気ギャップをさらに備える。この第2の磁気ギャップは、その上下方向の厚さが前記第1のギャップの上下方向の厚さよりも小さくなるように形成されている。
【0012】
当該実施形態によれば、前記第2の磁気ギャップを前記第1の磁気ギャップよりも上下方向において薄く形成することで、磁束漏れによる前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体に干渉しにくくなる。このため、前記第2の磁気ギャップからの磁束漏れを小さくできる。このため、高周波帯における磁芯での磁気損失を抑制するとともに、周波数特性の劣化を抑制することができる。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記第1のコイル導体は、前記第2のコイル導体よりも前記第1の磁性体層の近くに配置され、前記第1の磁気ギャップの上下方向の厚さは、前記第1のコイル導体の上面と前記第1の磁性体層との間隔よりも小さい。
【0014】
当該実施形態によれば、前記第1の磁気ギャップからの漏れ磁束が前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体に干渉しにくくなる。これにより、前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体と前記磁芯との間隔を小さくすることができる。よって、当該実施形態により、より小型のコモンモードチョークコイルを得ることが可能となる。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記第1の磁性体層の下面と前記第2の磁性体層の上面との間隔に対する前記第1の磁気ギャップの上下方向の厚さの比が0.1より小さい。
【0016】
第2の磁気ギャップを有する実施形態においては、前記第1の磁性体層の下面と前記第2の磁性体層の上面との間隔に対する前記第1の磁気ギャップの上下方向の厚さと前記第2の磁気ギャップの上下方向の厚さとの合計の厚さの比が0.1より小さい。
【0017】
これらの実施形態によれば、磁束漏れの場所を分散し、またそれぞれの磁束漏れの範囲を小さくすることができるので、磁束漏れによる前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体に干渉しにくくなる。このため、磁束漏れによる共振周波数への影響を一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本明細書の開示によれば、磁芯を有するコモンモードチョークコイルにおいて、そのコモンモードインピーダンスのピーク値の低下を抑制することができ、インピーダンス特性の共振周波数を高くすることにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るコモンモードチョークコイルの斜視図である。
図2図1のコモンモードチョークコイルの分解斜視図である。
図3図1のコモンモードチョークコイルをI-I線に沿って切断した断面を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイルの断面を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイルの断面を模式的に示す断面図である。
図6】本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイルの断面を模式的に示す断面図である。
図7】本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイルの断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るコモンモードチョークコイルの斜視図である。図1に示されているコモンモードチョークコイル1は、下部磁性体層2と、非磁性体層3と、上部磁性体層4と、端子電極5a,5b,6a,6bと、を備える。図示のように、下部磁性体層2は、非磁性体層3の下面に形成され、上部磁性体層4は、非磁性体層3の上面に形成される。コモンモードチョークコイル1は、図示のように、ほぼ直方体形状に形成される。コモンモードチョークコイル1は、例えば1.25mm×1.0mm×0.5mmの寸法を有する。本明細書においてコモンモードチョークコイル1の上下方向について言及する場合には、文脈上別に解される場合を除き、図1の上方向を上とし、図1の下方向を下とする。
【0022】
端子電極5a,5b,6a,6bは、非磁性体層3の側面に設けられ、図示のように、コモンモードチョークコイル1の上面及び下面まで延伸する。端子電極5a,5b,6a,6bは、例えば、Agペーストから形成される。
【0023】
次に、図2及び図3を参照して、コモンモードチョークコイル1についてさらに説明する。図2の分解斜視図に示されているように、本発明の一実施形態による下部磁性体層2は、複数の磁性体シート21の積層体である。各磁性体シート21は、磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含むスラリーから作成される。具体的には、一定の厚みとなるように塗布されたスラリーを乾燥させ、この乾燥後のスラリーを所定サイズに切断することで、各磁性体シート21が得られる。
【0024】
本発明の一実施形態による上部磁性体層4は、複数の磁性体シート41の積層体である。各磁性体シート41は、磁性体シート21と同様に、磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含むスラリーから作成される。
【0025】
磁性体シート21及び磁性体シート41に含まれる磁性体粉末としては、例えば、Ni-Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu-Zn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu系フェライト、又はこれら以外の公知のフェライトの粉末を用いることができる。このフェライト粉末は、例えば、FeO2、CuO、ZnO、及びNiOを主材料として作成される。磁性体シート21及び磁性体シート41は、上記の磁性体粉末に代えて、又は、上記の磁性体粉末とともに、金属磁性粒子を含んでもよい。この金属磁性粒子は、例えば、Fe、Si、Al、Cr、Niのうち幾つかの元素を含む軟磁性材料から作成されてもよい。この金属磁性粒子は、球形に形成されてもよく、扁平形状に形成されてもよい。扁平形状の金属磁性粒子は、その最長軸方向が磁性体シート21及び磁性体シート41の厚み方向(コイル軸CAに平行な方向)を向くように配されてもよい。扁平形状の金属磁性粒子をその最長軸方向がコイル軸CAに平行な方向を向くように配することにより、コイル部品1の実効透磁率を高めるとともに、磁気損失を抑えることができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、非磁性体層3は、7枚の非磁性体シート(非磁性体シート31~非磁性体シート37)を積層した積層体である。非磁性体シート31~非磁性体シート37の各々は、各種非磁性材料から成る。この非磁性材料としては、例えば、各種樹脂材料(例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びこれら以外の樹脂材料)、各種誘電体セラミックス(ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスと結晶質シリカとの混合物、及びこれら以外の誘電体セラミックス)、又は非磁性の各種フェライト(例えば、Zn-Cu系フェライト)を用いることができる。
【0027】
非磁性体シート31の表面には、導体層51が形成されている。この導体層51は、コイル導体51aと、このコイル導体51aの外側端部から端子電極5bまで延伸する引出導体51bと、を備える。引出導体51bは、端子電極5bと電気的に接続されている。コイル導体51aは、その内側端部51cにおいて、非磁性体シート32の表面に形成された後述する導体層53と電気的に接続される。コイル導体51aは、コイル軸CAの周りに複数回巻回された渦巻状の形状を有している。コイル軸CAは、非磁性体層3の積層方向(つまり、コモンモードチョークコイル1の上下方向)に延伸する仮想的な軸線である。コイル軸CAは、第1の絶縁層11とほぼ直交する方向に延伸する。
【0028】
非磁性体シート35の表面には、導体層52が形成されている。この導体層52は、コイル導体52aと、このコイル導体52aの外側端部から端子電極6bまで延伸する引出導体52bと、を備える。引出導体52bは、端子電極6bと電気的に接続されている。コイル導体52aは、その内側端部52cにおいて、非磁性体シート34の表面に形成された後述する導体層54と電気的に接続される。コイル導体52aは、コイル軸CAの周りに複数回巻回された渦巻状の形状を有している。
【0029】
非磁性体シート32の表面には、導体層53が形成されている。この導体層53は、引出導体53aを有する。この引出導体53aは、その外側端部において端子電極5aと電気的に接続される。非磁性体シート32において、平面視でコイル導体51aの内側端部51cに対応する位置には、非磁性体シート32を厚み方向に貫通するスルーホール導体(不図示)が設けられている。引出導体53aは、当該スルーホール導体に対応する位置まで内側に延伸する。よって、引出導体53aは、その内側端部53bが非磁性体シート32のスルーホール導体に対応する位置にあるように形成される。引出導体53aは、当該スルーホール導体を介して、コイル導体51aと電気的に接続される。
【0030】
非磁性体シート34の表面には、導体層54が形成されている。この導体層54は、引出導体54aを有する。この引出導体54aは、その外側端部において端子電極6aと電気的に接続される。非磁性体シート35において、平面視でコイル導体52aの内側端部52cに対応する位置には、非磁性体シート35を厚み方向に貫通するスルーホール導体(不図示)が設けられている。引出導体54aは、当該スルーホール導体に対応する位置まで内側に延伸する。よって、引出導体54aは、その内側端部54bが非磁性体シート35のスルーホール導体に対応する位置にあるように形成される。引出導体54aは、当該スルーホール導体を介して、コイル導体52aと電気的に接続される。
【0031】
導体層51、導体層52、導体層53、及び導体層54は、Ag等の金属材料から成る。この金属材料は、導電性及び加工性に優れたものが望ましい。この金属材料としては、Ag以外にもCuやAlを用いることができる。
【0032】
非磁性体シート31~非磁性体シート37には、コイル導体51a及びコイル導体52aの内側を貫通する貫通孔61a~貫通孔61gがそれぞれ形成されている。本発明の一実施形態において、貫通孔61a~貫通孔61gは、対応する非磁性体シート31~非磁性体シート37に、互いに同じ形状を有するように形成される。また、貫通孔61a~貫通孔61gは、対応する非磁性体シート31~非磁性体シート37において、平面視にで、互いと重複する位置に形成される。これにより、非磁性体シート31~非磁性体シート37が積層されると、貫通孔61a~貫通孔61gが連結されて単一の貫通孔61となる。本発明の他の実施形態において、貫通孔61a~貫通孔61gのうち一部の貫通孔は、他の貫通孔よりも大きい断面積(コイル軸CAに垂直な方向で切断した断面の断面積)を有するように形成される。貫通孔61a~貫通孔61gは、コイル軸CAに垂直な方向で切断した断面形状が円形、楕円形、矩形、多角形、又はこれら以外の形状となるように形成される。以上のようにして形成された貫通孔61は、非磁性体層3をコイル軸CAの方向に貫通している。
【0033】
貫通孔61には、磁芯62が設けられている。磁芯62は、その断面形状が、貫通孔の断面形状に対応した形状となるように形成される。本発明の一実施形態において、磁芯62は、磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含む樹脂ペーストを貫通孔61に充填し、この樹脂ペーストを乾燥し、さらに焼成することにより形成される。この磁性体粉末としては、フェライト材(例えば、Ni-Cu-Zn系フェライト、Ni-Cu-Zn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、又はNi-Cu系フェライト)を用いることができる。磁芯62は、上記の磁性体粉末に代えて、又は、上記の磁性体粉末とともに、金属磁性粒子を含んでもよい。この金属磁性粒子は、例えば、Fe、Si、Al、Cr、Niのうち幾つかの元素を含む軟磁性材料から作成されてもよい。この金属磁性粒子は、球形に形成されてもよく、扁平形状に形成されてもよい。扁平形状の金属磁性粒子は、その最長軸方向が磁性体シート21及び磁性体シート41の厚み方向(コイル軸CAに平行な方向)を向くように配されてもよい。扁平形状の金属磁性粒子をその最長軸方向がコイル軸CAに平行な方向を向くように配することにより、コイル部品1の実効透磁率を高めるとともに、金属磁性粒子内で生じる損失を低く抑えることが可能となり、磁気損失を抑えることができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、磁芯62は、その下端が下部磁性体層2と接する一方で、その上端は上部磁性体層4と接しないように設けられる。図2に示されている実施形態においては、磁芯62は、その上面が非磁性体シート36の上面とほぼ面一となるように形成される。この場合、磁芯62の上面と上部磁性体層4の下面とは、非磁性体シート37の厚みに相当する間隔だけ離間する。このようにして、磁芯62と上部磁性体層4との間には、磁気ギャップ63(図3参照)が設けられる。本発明の一実施形態において、磁気ギャップ63は、空隙である。本発明の他の実施形態において、磁気ギャップ63は、低透磁率磁性材料で形成される。本明細書において、低透磁率磁性材料とは、透磁率が磁性体シート21及び磁性体シート41の透磁率の1/10以下の材料をいう。磁気ギャップ63を非磁性材料又は低透磁率磁性体で形成することにより、空隙と比べて磁気ギャップ63の厚み(コイル軸CAに平行な方向の寸法)を大きくすることができる。この磁気ギャップ63は、例えば、非磁性材料又は低透磁率磁性材料を磁芯62と上部磁性体層4との間のギャップ(空隙)に充填することで形成される。磁気ギャップ63は、非磁性材料又は低透磁率磁性材料から成るバインダ樹脂及び溶剤を含む樹脂ペーストを磁芯62と上部磁性体層4との間のギャップに印刷することで形成されてもよい。磁気ギャップ63は、非磁性材料又は低透磁率磁性材料から成るシートを、磁芯62と上部磁性体層4との間のギャップに戴置することで形成される。また、非磁性体層3と同様に、非磁性体シートを用いることもでき、非磁性体との密着性を確保し易く、厚みを薄くしても剥離を防ぐことができる。
【0035】
図3を参照して、磁気ギャップ63の寸法及び配置についてさらに説明する。本発明の一実施形態において、磁気ギャップ63は、上部磁性体層4の下面と下部磁性体層2の上面との間の幅(W1)に対する磁気ギャップ63の上下方向の幅(W2)の比の値(W2/W1)が0.1より小さくなるように形成される。図3の実施形態においては、上部磁性体層4の下面と下部磁性体層2の上面との間の幅(W1)は、非磁性体層3の上下方向の幅と等しい。非磁性体層3と上部磁性体層4との境界及び非磁性体層3と下部磁性体層2との境界に拡散層がある場合には、上部磁性体層4の下面と下部磁性体層2の上面との間の幅(W1)は、非磁性体層3の上下方向の幅と拡散層の上下方向の幅との合計に等しい。コイル導体51a及びコイル導体52aは、それぞれ2段以上に形成されてもよい。磁気ギャップ63の上下方向における幅W2は、磁芯62の上面と上部磁性体層4の下面との間の距離に等しい。
【0036】
W2/W1の値が0.1より小さくなるように磁気ギャップ63を形成することにより、磁束漏れを小さくすることができるので、磁束とコイル導体51a,52aとの干渉が抑えられる。これにより、磁束漏れによる共振周波数への影響を一層抑制することができる。
【0037】
本発明の一実施形態においては、磁気ギャップ63の上下方向における幅W2が導体層52の上面(導体コイル52aの上面)と上部磁性体層4の下面との間の距離W3よりも小さくなるように、磁気ギャップ63が形成される。かかる配置により、磁気ギャップ63からの漏れ磁束がコイル導体52と干渉しにくくできる。これにより、コイル導体52aと磁芯62との間隔を小さくすることができる。よって、コモンモードチョークコイル1を小型化することが可能となる。
【0038】
上述した下部磁性体層2、非磁性体層3、上部磁性体層4、端子電極5a,5b,6a,6b、及び磁芯62の材料はあくまでも例示であり、コモンモードチョークコイル1の要求性能や要求特性に応じて、本明細書において明示的に説明されたもの以外にも様々な材料を用いることができる。
【0039】
上述の構成及び配置により、コモンモードチョークコイル1において、端子電極5a,6aと端子電極5b,6bとの間には2つのコイルが設けられる。すなわち、コイル導体51aの外側端は、引出導体51bを介して端子電極5bと電気的に接続され、コイル導体51aの内側端51cは、非磁性体シート32に形成されたスルーホール、引出導体53aを介して端子電極5aと電気的に接続されているので、端子電極5aと端子電極5bとの間に、コイル導体51aを含む第1のコイルが構成される。同様に、コイル導体52aの外側端は、引出導体52bを介して端子電極6bと電気的に接続され、コイル導体52aの内側端52cは、非磁性体シート35に形成されたスルーホール、引出導体54aを介して端子電極6aと電気的に接続されているので、端子電極6aと端子電極6bとの間に、コイル導体52aを含む第2のコイルが構成される。この第1のコイル及び第2のコイルはいずれも磁芯62を有している。
【0040】
次に、コモンモードチョークコイル1の製造方法の一例を説明する。まず、磁性体シート21及び磁性体シート41となる磁性体グリーンシート、並びに、非磁性体シート31~非磁性体シート37となる非磁性体グリーンシートを次のようにして作成する。
【0041】
磁性体グリーンシートの作成のために、FeO2、CuO、ZnO、NiOを主材料とする仮焼粉砕後のNi-Zn-Cu系フェライト微粉末にブチラール樹脂及び溶剤を加えてスラリーを作成する。このスラリーを、一定の厚みになるように、ドクターブレードで基材に塗布し、この塗布されたスラリーを乾燥させる。この乾燥後のスラリーを所定サイズに切断することで磁性体グリーンシートが得られる。
【0042】
非磁性体グリーンシートの作成のために、FeO2、CuO、ZnOを主材料とする仮焼粉砕後のZn-Cu系フェライト微粉末にブチラール樹脂及び溶剤を加えてスラリーを作成する。このスラリーを、一定の厚みになるように、ドクターブレードで基材に塗布し、この塗布されたスラリーを乾燥させる。この乾燥後のスラリーを所定サイズに切断することで非磁性体グリーンシートが得られる。
【0043】
このようにして作成された非磁性体グリーンシートの各々には、貫通孔61に相当する位置に貫通孔が形成される。また、非磁性体グリーンシートの各々には、層間接続用のスルーホール導体に相当する位置にも貫通孔が形成される。これらの貫通孔は、例えば磁性体シートを打ち抜いたり、磁性体グリーンシートにレーザーを照射して穿孔することにより形成される。
【0044】
このようにして作成された複数の非磁性体グリーンシートのうち非磁性体シート31に対応する非磁性体シートには、例えばスクリーン版を用いてAgペーストを印刷することにより、導体層51に相当する導体パターンが形成される。同様に、非磁性体シート32に対応する非磁性体グリーンシートには導体層53に相当する導体パターンが形成され、非磁性体シート34に対応する非磁性体グリーンシートには導体層54に相当する導体パターンが形成され、非磁性体シート35に対応する非磁性体グリーンシートには導体層52に相当する導体パターンが形成される。また、各非磁性体グリーンシートに形成されたスルーホール用の貫通孔にはAgが埋め込まれる。
【0045】
導体層51~導体層54は、スクリーン印刷以外にも公知の様々な方法を用いて形成され得る。例えば、これらの導体層の形成には、マスクを用いた蒸着、スパッタなどの薄膜プロセス、薄膜プロセス等で形成されたシード層へのメッキ、及びナノインプリントのようなマイクロ転写プロセスなどを用いることができる。印刷やマイクロ転写プロセスにより作成された導体においては、当該導体の幅に対する高さ(アスペクト比)を大きくすることが困難であり通常1未満であるが、薄膜プロセスやメッキにより作成された導体においては、アスペクト比を大きくすることが可能であり、例えば1以上にすることもできる。よって、印刷やマイクロ転写プロセスにより導体層51~導体層54の導体パターンを形成することで浮遊容量の設計が容易となる。
【0046】
次に、上述のようにして作成された非磁性体シート31~非磁性体シート37に対応する非磁性体グリーンシートを、図2に示す順序で、印刷された導体パターンがスルーホール導体で導通されるように積層する。このように積層された複数の非磁性体グリーンシートをプレス圧着することで、非磁性体層3に対応する非磁性体の積層体(以下、「非磁性積層体」という。)を形成する。この非磁性積層体には、貫通孔61a~貫通孔61gが連結された貫通孔61が存在する。
【0047】
次に、上記非磁性積層体に形成された貫通孔61に、磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含む樹脂ペーストが充填される。この樹脂ペーストは、完成したコモンモードチョークコイル1において磁気ギャップ63が形成されるように、貫通孔61の一部のみに充填される。本発明の一実施形態においては、当該樹脂ペーストは、貫通孔61のうち、貫通孔61a~貫通孔61fに相当する部分に充填され、貫通孔61gに相当する部分には充填されない。これにより、完成したコモンモードチョークコイル1において、貫通孔61gに相当する部分が磁気ギャップ63となる。
【0048】
次に、貫通孔61に樹脂ペーストが充填された非磁性積層体を乾燥させて、当該樹脂ペーストに含有される溶剤を除去する。
【0049】
次に、上述した磁性体グリーンシートを所定枚数積層し、下部磁性体層2に相当する磁性体積層体及び上部磁性体層4に相当する磁性体積層体を形成する。
【0050】
次に、非磁性積層体の下面に下部磁性体層2に相当する磁性体積層体をプレス圧着し、当該非磁性積層体の上面に上部磁性体層4に相当する磁性体積層体をプレス圧着する。上部磁性体層4に相当する磁性体積層体は、当該非磁性積層体との間に磁気ギャップ63に相当する間隙を有するようにプレス圧着される。
【0051】
このプレス圧着された積層体を所定のサイズに切断し、この切断された積層体を所定の温度で焼成することで積層体チップが形成される。次に、このようにして形成された積層体チップの側面にAgペーストを塗布し焼き付けて、端子電極5a,5b,6a,6bが形成される。
【0052】
このようにして、コモンモードチョークコイル1が作成される。上述したコモンモードチョークコイル1の作製方法は一例に過ぎず、本発明を適用可能なコモンモードチョークコイルの作成方法は上述したものに限られない。例えば、磁性体グリーンシート及び非磁性体グリーンシートにスクリーン印刷により導体層51~導体層54を形成する代わりに、磁性体グリーンシート及び非磁性体グリーンシートを焼成した後に、例えばフォトリソグラフィ方により導体層51~導体層54を形成してもよい。また、複数の非磁性体グリーンシートに貫通孔61a~貫通孔61gを個別に形成するのではなく、複数の非磁性体グリーンシートを積層して非磁性体積層体を形成した後に、当該非磁性体積層体に貫通孔61を一括で形成してもよい。
【0053】
続いて、図4を参照して、本発明の他の実施形態に係るコモンモードフィルタについて説明する。図4は、本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイル101の断面を模式的に示す断面図である。図4に示すコモンモードチョークコイル101の構成要素のうち図1図3に示すコモンモードチョークコイル1の構成要素と同一又は類似のものには図1図3と同様の参照符号を付し、これらの同一又は類似の構成要素については詳細な説明を省略する。
【0054】
図4に示すとおり、コモンモードチョークコイル101は、非磁性体層3に、貫通孔61に代えて、貫通孔71a及び貫通孔71bが形成されている。具体的には、コモンモードチョークコイル101の非磁性体層3には、その下面からコイル軸CA方向に延伸する第1の貫通孔71aと、当該第1の貫通孔71aに連結され、非磁性体層3の上面までコイル軸CA方向に延伸する第2の貫通孔71bとが形成されている。図示のように、第2の貫通孔71bは、第1の貫通孔71aよりも大きい断面積(コイル軸CAに垂直な方向で切断した断面の断面積)を有するように形成される。例えば、非磁性体シート36に形成される貫通孔61f及び非磁性体シート37に形成される貫通孔61gを、その断面積が他の貫通孔61a~貫通孔61eの断面積よりも大きくなるように形成することで、第1の貫通孔71aよりも断面積が大きな第2の貫通孔71bが得られる。
【0055】
この第1の貫通孔71a及び第2の貫通孔71bには、磁芯72が設けられている。磁芯72は、第1の貫通孔71a内に設けられた小径部72aと、第2の貫通孔71b内に設けられた大径部72bと、を有する。小径部72aは、その上面において大径部72bと接続されている。磁芯72は、上記のようにして形成された第1の貫通孔71a及び第2の貫通孔71bに磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含む樹脂ペーストを充填し、当該樹脂ペーストを乾燥及び焼成することで得られる。
【0056】
磁芯72は、その下端が下部磁性体層2と接する一方で、その上端は上部磁性体層4と接しないように設けられる。一実施形態において、磁芯72は、例えば、第1の貫通孔71a全体と第2の貫通孔71bの一部を充填するように設けられる。例えば、磁芯72は、その上面が非磁性体シート36の上面とほぼ面一となるように形成される。この場合、磁芯62の上面と上部磁性体層4の下面とは、非磁性体シート37の厚みに相当する間隔だけ離間する。このようにして、磁芯72と上部磁性体層4との間には、磁気ギャップ73が設けられる。
【0057】
この図4の実施形態によれば、磁芯72のうち磁気ギャップ73に臨んでいる大径部72bの断面積が、下部磁性体層2と接している小径部72aの断面積よりも大きくなっている。これにより、磁芯72を軸方向に通過する磁束の磁気ギャップ73からの漏れを小さくできる。これにより、磁束漏れによる第1のコイル導体52a及び第2のコイル導体52bに干渉しにくくなる。このため、磁束漏れによる共振周波数への影響を一層抑制することができる。また、磁気ギャップ73が大きくなることにより、磁気ギャップ73を構成する部材(樹脂シートなど)の寸法制御が容易になる。これにより、磁気ギャップ73が共振周波数に与える影響を安定させることができる。また、磁気ギャップ73の大きさが大きくなることにより、生産性を向上させることができる。
【0058】
続いて、図5を参照して、本発明の他の実施形態に係るコモンモードフィルタについて説明する。図5は、本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイル201の断面を模式的に示す断面図である。図5に示すコモンモードチョークコイル201の構成要素のうち図1図3に示すコモンモードチョークコイル1の構成要素と同一又は類似のものには図1図3と同様の参照符号を付し、これらの同一又は類似の構成要素については詳細な説明を省略する。
【0059】
図5に示すとおり、コモンモードチョークコイル201は、非磁性体層3に、貫通孔61に代えて、貫通孔81が形成されている。この貫通孔81は、非磁性体層3をコイル軸CAに沿った方向に貫通しており、そのコイル軸CAと垂直な方向における断面積が、上に行くほど大きくなるように形成されている。
【0060】
この貫通孔81には、磁芯82が設けられている。磁芯82は、上記のようにして形成された貫通孔81に磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含む樹脂ペーストを充填し、当該樹脂ペーストを乾燥または焼成することで得られる。
【0061】
磁芯82は、その下端が下部磁性体層2と接する一方で、その上端は上部磁性体層4と接しないように設けられる。これにより、磁芯82と上部磁性体層4との間には、磁気ギャップ83が設けられる。
【0062】
この図5の実施形態によれば、磁芯82の上端面の面積が、磁芯82の上端面以外の部分の断面積よりも大きくなっている。つまり、磁芯82には、その上端面に向かって拡径するテーパが付けられている。本発明の他の実施形態において、磁芯82には、上端面に向かって拡径するとともに下端面に向かっても拡径するテーパが付けられていても良い。これらの実施形態によれば、磁芯82を軸方向に通過する磁束の磁気ギャップ83からの磁束漏れによる前記第1のコイル導体及び前記第2のコイル導体に干渉しにくくなる。このため、磁束漏れによる周波数特性への影響を一層抑制することができる。
【0063】
続いて、図6を参照して、本発明の他の実施形態に係るコモンモードフィルタについて説明する。図6は、本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイル301の断面を模式的に示す断面図である。図6に示すコモンモードチョークコイル301の構成要素のうち図1図3に示すコモンモードチョークコイル1の構成要素と同一又は類似のものには図1図3と同様の参照符号を付し、これらの同一又は類似の構成要素については詳細な説明を省略する。
【0064】
図6に示すとおり、コモンモードチョークコイル301は、下部磁性体層2に代えて、下部磁性体層302を備えている。下部磁性体層302は、その上面に、凹部302aが形成されている。凹部302aは、下部磁性体層302の上面のうち、貫通孔61と対応する位置に形成されている。図示のように、凹部302aは、例えば、下部磁性体層302に断面が円弧形状となるように形成される。凹部302aの形状は図示の形状に限定されず、むしろ凹部302aは様々な形状に形成され得る。凹部302aは、例えば、その断面が矩形形状を有するように形成されてもよい。
【0065】
この貫通孔61には、磁芯92が設けられている。磁芯92は、貫通孔61に磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含む樹脂ペーストを充填し、当該樹脂ペーストを乾燥及び焼成することで得られる。磁芯92は、非磁性体層3の下面から下方に突出する突出部92aを有するように形成される。この突出部92aは、下部磁性体層302の凹部302aとの対向するように形成される。
【0066】
貫通孔61は、貫通孔81と同様に、そのコイル軸CAと垂直な方向における断面積が下に行くほど小さくなるように形成されてもよい。これにより、磁芯92とコイル導体51aとの距離を大きくことができる。これとは逆に、貫通孔61は、そのコイル軸CAと垂直な方向における断面積が下に行くほど大きくなるように形成されてもよい。これにより、磁気ギャップ93を大きく形成することができる。磁気ギャップ93を大きく形成することにより、磁気ギャップ93を構成する部材(樹脂シートなど)の寸法制御が容易になる。これにより、磁気ギャップ93が共振周波数に与える影響を安定させることができる。また、磁気ギャップ93の大きさが大きくなることにより、生産性を向上させることができる。
【0067】
磁芯92は、その上端が上部磁性体層4と接する一方で、その下端にある突出部92aが下部磁性体層2と接しないように設けられる。これにより、磁芯92と下部磁性体層2との間には、磁気ギャップ93が設けられる。
【0068】
この図6の実施形態によれば、磁芯92の下端面の面積が、磁芯92の下端面以外の部分の断面積よりも大きくなっている。これにより、磁芯92を軸方向に通過する磁束の磁気ギャップ93からの漏れを抑制することができる。また、図6の実施形態によれば、下部磁性体層302に形成された凹部302aに磁芯92の下端が入り込んでいるため、磁気ギャップ93からの磁束漏れをさらに抑制することができる。これにより、磁束漏れによる周波数特性への影響を抑制することができる。
【0069】
続いて、図7を参照して、本発明の他の実施形態に係るコモンモードフィルタについて説明する。図7は、本発明の他の実施形態によるコモンモードチョークコイル401の断面を模式的に示す断面図である。図5に示すコモンモードチョークコイル401の構成要素のうち図1図3に示すコモンモードチョークコイル1の構成要素と同一又は類似のものには図1図3と同様の参照符号を付し、これらの同一又は類似の構成要素については詳細な説明を省略する。
【0070】
図7に示すとおり、コモンモードチョークコイル401は、磁芯62に代えて、磁芯62’を備えている。磁芯62’は、第1の部分62aと、第2の部分62bと、第3の部分62cと、を備えている。第1の部分62aと上部磁性体層4との間には第1の磁気ギャップ63aが設けられている。第1の部分62aと第2の部分62bとの間には第2の磁気ギャップ63bが設けられ、第2の部分62bと第3の部分62cとの間には第3の磁気ギャップが設けられている。本発明の一実施形態において、第1の磁気ギャップ63aは、その上下方向の幅が第2の磁気ギャップ63bの上下方向の幅及び第3の磁気ギャップ63cの上下方向の幅のいずれよりも大きくなるように形成される。これにより、第2の磁気ギャップ63b及び第3の磁気ギャップ63cからの磁束漏れを抑制することができる。本発明の一実施形態において、第1の磁気ギャップ63aは、その断面積(コイル軸CAに垂直な方向で切断した断面の断面積)が第2の磁気ギャップ63bの断面積及び第3の磁気ギャップ63cの断面積のいずれよりも大きくなるように形成される。これにより、第2の磁気ギャップ63b及び第3の磁気ギャップ63cからの磁束漏れの範囲をさらに小さくすることができる。
【0071】
磁芯62’は、まず貫通孔61に磁性体粉末、バインダ樹脂、及び溶剤を含む樹脂ペースト、及び、非磁性体又は低透磁率磁性体から成るシート部材を交互に充填し、充填された樹脂ペースト及びシート部材を焼成することで得られる。具体的には、貫通孔61には、磁芯62’の第1の部分62aに相当する樹脂ペーストを充填し、当該樹脂ペーストの上に第1の磁気ギャップ63aに相当するシート部材を設け、当該シート部材の上に第2の部分62bに相当する樹脂ペーストを充填し、当該樹脂ペーストの上に第2の磁気ギャップ63bに相当するシート部材を設け、当該シート部材の上に第3の部分62cに相当する樹脂ペーストを充填し、当該樹脂ペーストの上に第3の磁気ギャップ63cに相当するシート部材を設ける。
【0072】
コモンモードチョークコイル401は、例えば、第1の磁性体層の下面と第2の磁性体層の上面コイル導体の上下方向の幅(W1)に対する第1の磁気ギャップ63aの上下方向の幅、第2の磁気ギャップ63bの上下方向の幅、及び第3の磁気ギャップ63cの上下方向の幅の合計(W2’)の比(W2’/W1)の値が0.1より小さくなるように形成される。
【0073】
当該実施形態によれば、磁束漏れの発生場所を分散し、またそれぞれの発生場所における磁束漏れを小さくすることができる。これにより、磁束漏れの周波数特性への影響を一層抑制することができる。
【0074】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0075】
1,101,201,301,401 コモンモードチョークコイル
2 上部磁性体層
3 非磁性体層
4 下部磁性体層
5a,5b,5c,5d 端子電極
62,62’,72,82,92 磁芯
63,63a,63b,63c,73,83,93 磁気ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7