(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】放射線遮蔽装置、及び放射線予測装置
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20221206BHJP
G01T 1/02 20060101ALI20221206BHJP
G01T 1/16 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G21F3/00 S
G21F3/00 L
G01T1/02 A
G01T1/16 A
(21)【出願番号】P 2017237074
(22)【出願日】2017-12-11
【審査請求日】2020-12-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501464255
【氏名又は名称】株式会社テプコシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】谷口 敦
(72)【発明者】
【氏名】下迫田 隆太
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伸司
(72)【発明者】
【氏名】松居 祐介
(72)【発明者】
【氏名】奥山 暢之
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-038598(JP,A)
【文献】特開昭54-150593(JP,A)
【文献】特開2013-007640(JP,A)
【文献】特開2008-203194(JP,A)
【文献】特開2014-126429(JP,A)
【文献】特開昭60-213890(JP,A)
【文献】特開平01-217300(JP,A)
【文献】特開2012-141319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 3/00
G01T 1/02
G01T 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を遮蔽する複数の遮蔽板と、
該遮蔽板を支持する架構であって、
複数の柱部材と、
該柱部材同士を連結すると共に水平方向に延びる複数の梁部材と
を有する前記架構と、
該架構に取り付けられ、前記遮蔽板を下方から支持する遮蔽板受材と
を備え、
該遮蔽板受材は、前記遮蔽板を左右方向に移動させるコンベアを有し、
前記架構には、左右方向に延び前記遮蔽板の背面に当接するガイドレールが設けられて
おり、
前記遮蔽板受材は、前記架構の上下方向の複数位置に取り付けられており、
前記複数の梁部材の少なくとも1つの梁部材は、前記遮蔽板受材と高さ方向に重なるように配置されており、
前記複数の梁部材の少なくとも1つの梁部材は、放射線を遮蔽する遮蔽部材を内部に収容していることを特徴とする放射線遮蔽装置。
【請求項2】
前記遮蔽板は、遮蔽板受材内において左右方向に隣接して複数配置され、隣接する前記遮蔽板同士が、厚み方向に部分的に重なり合う凹凸構造を有する、請求項
1に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項3】
前記遮蔽板は、表面に保護材がコーティングされており、前記凹凸構造において、前記保護材の厚みが低減されている又は前記保護材がコーティングされていない、請求項
2に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項4】
前記遮蔽板受材は、左右方向及び前後方向への前記遮蔽板の移動を規制するストッパ部材を有する、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項5】
前記遮蔽板受材は、前記遮蔽板を厚み方向に複数重ねた状態で支持可能である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項6】
前記架構の下部には、前後方向に延びる複数の脚部材が固定されており、該脚部材は、前後方向に更に延びる延長脚部を着脱可能である、又は該脚部材を床に固定する固定穴を有する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項7】
前記架構の下部に脚部材が固定されており、該脚部材には、車輪の高さが調整可能である、又は該脚部材に着脱可能であるキャスターが固定されている、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項8】
前記キャスターは、床面に垂直な軸線周りに回動動作可能に構成されており、該軸線周りの回動動作は、前記キャスターの車輪が所定の方向に方向付けされた状態でロック可能である、請求項
7に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項9】
前記架構は、前記柱部材及び前記梁部材の少なくとも一方により固定され前記遮蔽板の少なくとも一部を背面から覆う平板状の背板を更に備え、前記遮蔽板受材及び前記ガイドレールは該背板に固定されている、請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項10】
放射線検出器を更に備える請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置と、該放射線検出器からの放射線検出結果を用いて線源の特性を予測する制御部とを備え、該制御部は、前記線源の特性の予測結果に基づいて、所定の領域内の線量分布を予測する、放射線予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子力発電所等において作業者の放射線被ばく線量を低減することが可能な放射線遮蔽装置、及びこれを用いた放射線予測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備、及び原子力関連施設において、放射線に晒される環境における作業が生じた場合には、作業者の放射線被ばくを極力低減させるための遮蔽装置が必要となる。
【0003】
例えば特許文献1には、合成樹脂で形成された袋体に水等の放射線遮蔽液を注入し、その放射線遮蔽液で放射線を遮蔽する、放射線遮蔽体が開示されている。この放射線遮蔽体では、袋体の間で水溶液が無い領域については、金属製のフレームにより放射線を遮蔽するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】原子力安全技術センター、「放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル(2015)」
【文献】杉浦義隆 他、″日本原子力学会「2015秋の大会」要旨集″、L56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、原子力発電所の事故時に放射線量が極めて高い配管や機器に接近して作業を行う際には、特許文献1の放射線遮蔽体のように、水溶液を内包する袋体により放射線の遮蔽を行う構造では、十分な遮蔽性能を確保できない場合があった。また、水溶液に代えて鉛等の放射線遮蔽性能が高い材料を用いる場合には、遮蔽材の重量が増大し、遮蔽材の設置時の作業性や運搬性が悪化するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決することを課題とするものであり、その目的は、遮蔽板を取り付ける際の作業性を向上させた放射線遮蔽装置、及びこれを用いた放射線予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の放射線遮蔽装置は、
放射線を遮蔽する複数の遮蔽板と、
該遮蔽板を支持する架構であって、
複数の柱部材と、
該柱部材同士を連結すると共に水平方向に延びる複数の梁部材と
を有する前記架構と、
該架構に取り付けられ、前記遮蔽板を下方から支持する遮蔽板受材と
を備え、
該遮蔽板受材は、前記遮蔽板を左右方向に移動させるコンベアを有し、
前記架構には、左右方向に延び前記遮蔽板の背面に当接するガイドレールが設けられており、
前記遮蔽板受材は、前記架構の上下方向の複数位置に取り付けられており、
前記複数の梁部材の少なくとも1つの梁部材は、前記遮蔽板受材と高さ方向に重なるように配置されており、
前記複数の梁部材の少なくとも1つの梁部材は、放射線を遮蔽する遮蔽部材を内部に収容していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記遮蔽板は、遮蔽板受材内において左右方向に隣接して複数配置され、隣接する前記遮蔽板同士が、厚み方向に部分的に重なり合う凹凸構造を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記遮蔽板は、表面に保護材がコーティングされており、前記凹凸構造において、前記保護材の厚みが低減されている又は前記保護材がコーティングされていないことが好ましい。
【0014】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記遮蔽板受材は、左右方向及び前後方向への前記遮蔽板の移動を規制するストッパ部材を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記遮蔽板受材は、前記遮蔽板を厚み方向に複数重ねた状態で支持可能であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記架構の下部には、前後方向に延びる複数の脚部材が固定されており、該脚部材は、前後方向に更に延びる延長脚部を着脱可能であること、又は該脚部材を床に固定する固定穴を有することが好ましい。
【0017】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記架構の下部に脚部材が固定されており、該脚部材には、車輪の高さが調整可能である、又は該脚部材に着脱可能であるキャスターが固定されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記キャスターは、床面に垂直な軸線周りに回動動作可能に構成されており、該軸線周りの回動動作は、前記キャスターの車輪が所定の方向に方向付けされた状態でロック可能であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の放射線遮蔽装置は、上記構成において、前記架構は、前記柱部材及び前記梁部材の少なくとも一方により固定され前記遮蔽板の少なくとも一部を背面から覆う平板状の背板を更に備え、前記遮蔽板受材及び前記ガイドレールは該背板に固定されていることが好ましい。
【0020】
本発明の放射線予測装置は、
放射線検出器を更に備える上記いずれかに記載の放射線遮蔽装置と、該放射線検出器からの放射線検出結果を用いて線源の特性を予測する制御部とを備え、該制御部は、前記線源の特性の予測結果に基づいて、所定の領域内の線量分布を予測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、遮蔽板を取り付ける際の作業性を向上させた放射線遮蔽装置、及びこれを用いた放射線予測装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の側面拡大図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置に用いられる遮蔽材の(a)平面図、及び(b)正面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の平面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置に用いられるキャスターの(a)上昇時、及び(b)下降時の状態を示す正面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置に用いられるキャスターの変形例であり、(a)ロック解除時、及び(b)ロック時の状態を示す正面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置に用いられるブレーキを示す正面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の遮蔽板受材に用いられる側方ストッパの(a)正面図、及び(b)左側面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置の梁部材に用いられる側方ストッパの(a)正面図、及び(b)左側面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置に用いられる延長脚部の(a)左側面図、及び(b)背面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置に用いられる背板の構成例である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置を左右方向に並べて配置した状態を示す平面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る放射線予測装置の構成を示す図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る放射線予測装置の制御系のブロック図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る放射線予測装置による線源の特性、及び線量分布の推定手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る放射線遮蔽装置100の側面図である。なお、本実施形態において、上下方向は、
図1における上下方向であり、前後方向は、
図1における左右方向である。すなわち、本実施形態における前側は、遮蔽板60が取り付けられる側であり、
図1における右側である。また、本実施形態における後側は、ホウヅエ90が設けられている側であり、
図1における左側である。また、本実施形態において、左右方向は、
図1における紙面に垂直な方向であり、
図3における左右方向である。また、
図2は、放射線遮蔽装置100を右前方から見た斜視図を示している。本実施形態に係る放射線遮蔽装置100は、
図1に示すように、放射線を遮蔽する複数の遮蔽板60と、上下方向に延びる複数の柱部材10と、柱部材10同士を連結すると共に水平方向に延びる複数の梁部材20と、柱部材10及び梁部材20により固定され、遮蔽板60を背面から覆う平板状の背板30と、背板30に取り付けられ遮蔽板60を下方から支持する遮蔽板受材70及び遮蔽板60を上方から覆う遮蔽板蓋材72と、柱部材10の下部に取り付けられる脚部材80とを備えている。柱部材10、梁部材20及び背板30により、放射線遮蔽装置100の基礎構造である架構50を構成している。なお、背板30を含まない構成である場合には、遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72は、柱部材10及び梁部材20の少なくとも一方により支持されている。
【0025】
遮蔽板60は、
図3に示すように矩形形状を有しており、本実施形態では、左右方向に8枚隣接して配置されると共に上下方向に3段積み重ねて配置されている。このように、上下方向および左右方向にも遮蔽板60を分割することで、遮蔽板60一枚あたりの重量を低減させ、遮蔽板60の取扱い及び設置を容易にしている。本実施形態に係る遮蔽板60は、鉛の機械的性質を高めるためにアンチモンを4%~6%程度添加した鉛合金板である硬鉛板により形成されている。遮蔽板60は、
図1に示すように、下方から遮蔽板受材70により支持されている。
【0026】
遮蔽板受材70は、側面視でH形状を有するH形鋼の上半分とローラーコンベア70aにより構成されている。
図4に示すように、遮蔽板受材70のベース70cを形成するH形鋼のウェブの上面には、遮蔽板60を左右方向(
図4の紙面に垂直方向)に移動させるためのローラーコンベア70aが配置されている。ローラーコンベア70aは、前後方向に方向付けられた軸周りに回転可能に支持されたローラが左右方向に等間隔で複数配置されており、作業者が、遮蔽板60の底面である長手方向端部をこのローラーコンベア70aの端部に載せることで、各ローラーを転がしながら遮蔽板60を遮蔽板受材70上の所定位置まで容易に移動させることができる。また、H形鋼のフランジは、遮蔽板受材70の前側ストッパ70bを構成しており、遮蔽板受材70に載せた遮蔽板60の前方への移動を規制している。遮蔽板受材70は、このようにH形鋼で構成され、H形鋼のウェブで構成されたベース70c上に遮蔽板60を配置しているため、このウェブの高さ位置には遮蔽板60を配置することができない。従って、本実施形態では、一部の梁部材20をH形鋼のウェブと高さ方向に重なるように配置し、後述のように、梁部材20の内部に遮蔽部材22を配置して放射線の遮蔽効果を高めている。さらに、一部の梁部材20と遮蔽板受材70は同じ高さ位置で背板30の表裏に溶接され固定されているため、遮蔽板60の荷重を梁部材20でも負担できる構造となっている。なお、本実施形態において、ローラーを支持しているフレームは、ベース70c(H形鋼のウェブ)に溶接により固定されている。遮蔽板受材70を構成するH形鋼は、その他の方法により背板30に固定されていてもよい。また、遮蔽板受材70は、背板30以外の架構50を構成する部材に対して固定されていてもよく、背板30を含まない構成の場合には、柱部材10や梁部材20に固定されていてもよい。
【0027】
なお、本実施形態では、遮蔽板60を左右方向に容易に移動させるためにローラーコンベア70aを用いているが、この態様には限定されない。ローラーコンベア70aの代わりにベルトコンベア等の他のコンベアを採用してもよい。
【0028】
遮蔽板60の上方には、
図1及び
図4に示すように、遮蔽板60を上方から覆う遮蔽板蓋材72が配置されている。遮蔽板蓋材72は、最上部のものを除いて、遮蔽板受材70と共に同一のH形鋼により形成されている。すなわち、
図4に示すように、H形鋼の上半分が遮蔽板受材70を形成し、同じH形鋼の下半分が遮蔽板蓋材72を形成している。遮蔽板蓋材72のベース72cを形成するH形鋼のウェブが遮蔽板60の上方への移動を規制している。また、遮蔽板蓋材72の前側ストッパ72bを構成するH形鋼のフランジが、遮蔽板60の前方への移動を規制している。なお、H形鋼は
図4に示すように後方側にもフランジを有しており、これによって遮蔽板60の後方への移動も規制している。
【0029】
なお、最上部の遮蔽板蓋材72、及び最下部の遮蔽板受材70には、
図1に示すように溝形鋼が用いられている。
【0030】
本実施形態において、同一の遮蔽板受材70上に配置される8枚の遮蔽板60は、
図5(a)に示す平面図のように、各遮蔽板60の厚み方向の一部が左右方向に突出する凸部、厚み方向のその他の部分が凹部を形成し、各遮蔽板60の凸部が隣接する遮蔽板60の凹部に嵌合する凹凸構造を有している。これによって、左右方向に隣接する遮蔽板60同士が、厚み方向に部分的に重なり合うので、遮蔽板60間の隙間を通過する放射線量を抑えて放射線の遮蔽効果を高めることができる。また、遮蔽板60を左右方向に分割して形成することで、個々の遮蔽板60の重量を低減させることができるので、作業者が遮蔽板60を設置する際の取り扱いを容易にしている。なお、左右方向両端の遮蔽板60には、
図5(b)に示すように、後述する遮蔽板押さえ62により遮蔽板60をガイドレール32に当接させつつ固定するための固定用穴60aが形成されている。
【0031】
遮蔽板60には、硬鉛板の劣化を抑制するためのコーティングが施されている。なお、上述の凹凸構造部分におけるコーティングについては、膜厚を薄くするか、コーティングしないことが好ましい。凹凸構造部分のコーティングを厚くすると、遮蔽板60間の隙間が大きくなって放射線の遮蔽効果が低減するからである。
【0032】
本実施形態では、上述のように左右方向に複数の遮蔽板60を並べて配置したが、この態様には限定されず、同一の遮蔽板受材70上に、遮蔽板60を厚み方向に複数重ねて配置してもよい。
【0033】
遮蔽板60は、
図3に示すように、左右に延びる遮蔽板押さえ62により前方から押圧され、背板30に設けれたガイドレール32(
図1参照)に当接することで固定されている。遮蔽板押さえ62による遮蔽板60の固定には、
図1及び
図3に示す遮蔽板固定用ボルト62aを用いている。なお、架構50に背板30を含まない構成の場合には、ガイドレール32は柱部材10や梁部材20に固定されていてもよい。
【0034】
ガイドレール32は、左右方向に水平に延び、遮蔽板60を設置した際に遮蔽板60の背面側に当接する。このように、遮蔽板60を水平方向に延びるガイドレール32に当接させて配置することで、複数の遮蔽板60を厚さ方向に揃えて配置できる。これにより、前述の凹凸構造で、左右方向に隣接する遮蔽板60同士を厚み方向に確実に重ね合わせることができ、遮蔽板60間を通過する放射線量を確実に抑えて放射線の遮蔽効果を高めることができる。また、設置の際に遮蔽板60を左右方向に移動させるときのガイドとして用いることで、重量が大きい遮蔽板60の移動を容易にしている。
【0035】
柱部材10は、矩形断面を有する中空の角形鋼管により形成され、上下方向に延びている。そして、柱部材10には、
図1に示すように水平方向に延びる梁部材20が複数箇所に固定されている。柱部材10の上端部には、放射線遮蔽装置100をクレーン等で運搬する際に係合部となるアイボルト15が設けられている。また、柱部材10の下部には、後述するように脚部材80及びブレーキ88等が固定されている。
【0036】
柱部材10の後方には、
図1、
図4等に示すように、ホウヅエ90が設置されている。ホウヅエ90は、上部が柱部材10の背面に固定される一方、下部が脚部材80の上面に固定されている。ホウヅエ90は、主に柱部材10に作用する前後方向への荷重を支持して架構50の剛性を高める役割を果たしている。
【0037】
梁部材20は、
図4に示すように、矩形断面を有する中空の角形鋼管により形成されている。そして、一部の梁部材20の内部には、硬鉛板により形成された遮蔽部材22が収容されている。遮蔽部材22は、
図4に示すように、梁部材20よりも前後方向(
図4の左右方向)の厚みが薄く形成されており、後方から遮蔽部材固定用ボルト22aで押圧されることにより梁部材20に固定されている。本実施形態において、遮蔽部材22は、遮蔽板60と同様に、左右方向(
図4における紙面に垂直方向)に分割されており、これにより1個あたりの重量を低減することで取り扱いを容易にしている。上述のように、一部の梁部材20は遮蔽板受材70を構成するH形鋼のウェブと高さ方向に重なるように配置されている。これによって、遮蔽板60を配置することができない高さ位置に、梁部材20内部に収容した遮蔽部材22を配置することができるので、遮蔽板60同士の高さ方向の隙間から漏洩する放射線を遮蔽部材22によって遮蔽することができる。従って、放射線の遮蔽効果を高めることができる。
【0038】
脚部材80は、
図1に示すように、柱部材10の下部に固定され、柱部材10の前方及び後方に突出して設けられている。脚部材80は、
図3に示すように左右に一対設けられており、正面視において矩形断面を有する中空の角形鋼管により形成されている。また、正面視において脚部材80の左右方向内側には、キャスター86が装着されている。キャスター86は、
図6に示すように、脚部材80の左右方向内側において、前後左右に1箇所ずつ装着されている。
【0039】
図7(a)、(b)は、キャスター86の構成を示している。
図7(a)は、キャスター86の車輪86aを上方に移動させ、脚部材80が床に接している状態を示している。一方、
図7(b)は、キャスター86の車輪86aを下方に移動させ、脚部材80が床から離れて放射線遮蔽装置100が車輪86aのみにより支持されている状態を示している。
【0040】
本実施形態のキャスター86は、
図7(a)に示すように、車輪86aと、車輪86aを支持するアーム部材である車輪支持部86bと、車輪86aを、床に垂直な軸周りに回動可能に支持する台座86cと、外周面に雄ねじ部を有し台座86cから上方に延びる全ねじボルト86dと、車輪86aを脚部材80に固定するブラケット86fと、全ねじボルト86dをブラケット86fに固定するナット86eとを備えている。ブラケット86fは、例えば溶接等により脚部材80に連結されている。
【0041】
図7(a)は、車輪86aの下端が脚部材80の下面と略同一高さに揃った状態になるように、ブラケット86fをナット86eにより全ねじボルト86dに固定した状態を示している。本実施形態では、ナット86eは、ブラケット86fの水平部分を上下から2つのナットで挟み込むダブルナットの構成を有している。
図7(a)の状態にするには、作業者が最も下方の梁部材20をジャッキを使って持ち上げ、車輪86aが床から離れて雄ねじ部に荷重がかかっていない状態でナット86eの締め込みを行うことが好ましい。一方、
図7(b)は、車輪86aの下端が脚部材80の下面よりも下方に下がった状態になるように、ダブルナット構成のナット86eによりブラケット86fを全ねじボルト86dに固定した状態を示している。
図7(b)の状態にするときも、作業者は、車輪86aを所定の高さまで下げられるように最も下方の梁部材20をジャッキを使って持ち上げてからナット86eを緩めることが好ましい。作業者は、
図7(b)の状態で放射線遮蔽装置100を所定の場所まで移動させた後、
図7(a)の状態まで車輪86aを引き上げて脚部材80を床に接触させて、放射線遮蔽装置100を安定的に床に固定することができる。このように、本実施形態では、車輪86aの昇降機構を有するキャスター86を備えることで、放射線遮蔽装置100を容易に移動させると共に、所定の場所において安定的に固定することができる。なお、車輪86aを昇降させる代わりに、キャスター86が脚部材80に対して着脱可能に固定されるように構成してもよい。
【0042】
図8(a),(b)は、
図7(a)、(b)のキャスター86の変形例(キャスター186)を示す。キャスター186は、
図7(a)、(b)の構成に加えて、ブラケット186fの水平部分から更に図の左側に突出する上側補助プレート186f1と、台座186cの上面から更に図の左側に突出する中央補助プレート186c1と、車輪支持部186bの上部から図の左側に突出する下側補助プレート186b1と、車輪186aの床に垂直な軸線周りの回動動作をロックするロックバー186gとを更に備えている。
【0043】
図8(a)において、ロックバー186gは、上側補助プレート186f1及び中央補助プレート186c1に形成された貫通孔を貫通しているが、下端部が下側補助プレート186b1の上面に到達していない。この状態では、下側補助プレート186b1は、ロックバー186gに対して相対移動可能であるため、車輪186aは、床に垂直な軸線周りに自由に回動可能である。
【0044】
一方、
図8(b)では、ロックバー186gは、上側補助プレート186f1及び中央補助プレート186c1に形成された貫通孔を貫通し、更に下端部が下側補助プレート186b1に形成された貫通孔を貫通している。下側補助プレート186b1には、車輪186aが所定の方向に方向付けされた状態でのみロックバー186gが貫通可能となる位置に貫通孔が形成されている。本実施形態では、
図8(b)に示すように、車輪186aの進行方向が脚部材80の長手方向(図の紙面に垂直方向)と一致した時にロックバー186gが下側補助プレート186b1を貫通することができる。この状態では、下側補助プレート186b1は、ロックバー186gによりロックされ、車輪186aは、床に垂直な軸線周りに回動不能である。
【0045】
作業者は、キャスター186を
図8(a)に示すアンロック状態にして放射線遮蔽装置100を所定の方向に方向付けする。その際、作業者は、左右方向におけるホウヅエ90の間に立ち、ホウヅエ90を両手で把持しながら放射線遮蔽装置100を操作するのが好ましい。その後、例えば車輪支持部186bを把持するなどして車輪186aを所定の方向(車輪186aの進行方向が脚部材80の長手方向と一致する方向)に手動で方向付けして、ロックバー186gが下側補助プレート186b1を貫通した状態(
図8(b)の状態)とする。これによって、車輪186aが床に垂直な軸線周りに回動することができない。従って、作業者が放射線遮蔽装置100を脚部材80の長手方向に移動させようとする場合に、あらかじめ当該移動方向と車輪186aの進行方向が揃っているため、作業者は、車輪186aの向きを変えるために付加的な力を作用させる必要がない。従って、作業者は、最小限の力で放射線遮蔽装置100を所定の方向に移動させることができる。
【0046】
脚部材80の下部におけるキャスター86の前後方向内側には、
図6に示すように脚部材80の下面と略同一高さ位置にアンカー金具87が設けられている。アンカー金具87は、中央に貫通孔87aを有しており、
図7(b)のように脚部材80の下面を床に当接させた状態でボルト等を貫通孔87aに通すことにより、脚部材80を床に固定することができる。
【0047】
柱部材10の下部には、
図1に示すようにブレーキ88が連結されている。ブレーキ88の構成を
図9に示す。ブレーキ88は、ブレーキを効かせる際に作業者が足で下方に押し下げるブレーキペダル88aと、ブレーキを解除する際に下方に押し下げる解除ペダル88cと、上下に延びる円筒形状のシリンダ88eと、ブレーキを効かせる際にシリンダ88e内を下方に移動して床を押圧するフット部88dと、フット部88dの下端部に固定され床に押圧力を伝える押圧板88gとを備えている。ブレーキペダル88aと解除ペダル88cとは、ペダルジョイント88bによって相対回転可能に連結されている。また、ブレーキペダル88aの根元部分は、シリンダジョイント88jによってシリンダ88eに対して相対回転可能に連結されている。更に、解除ペダル88cの根元部分は、フットジョイント88fによってフット部88dに対して相対回転可能に連結されている。
図9の破線部分は、ブレーキペダル88aを下方に押し下げてブレーキが効いている状態を示している。
【0048】
作業者がブレーキを効かせるためにブレーキペダル88aを下方に押圧すると、ブレーキペダル88aはシリンダジョイント88j周りに
図9の反時計回りに回転し、これに連動してペダルジョイント88bもシリンダジョイント88j周りにシリンダ88e方向に移動する。シリンダジョイント88jの上記移動に伴いフットジョイント88fはシリンダ88e内をフット部88dと共に下方に移動するため、フット部88dからの押圧力により押圧板88gが床に対して押し付けられる。これによって押圧板88gと床の間の摩擦力が増大して放射線遮蔽装置100を停止状態に維持することができる。なお、このとき、解除ペダル88cは、
図9に破線で示すように先端部が上方に移動して押し下げ可能な状態となる。
【0049】
次に、作業者が解除ペダル88cを下方に押し下げると、解除ペダル88cが反時計回りに回転し、フットジョイント88fはシリンダ88e内をフット部88dと共に上方に移動する。これに伴い、ペダルジョイント88bはシリンダジョイント88j周りに時計回りに回転移動してブレーキペダル88aの先端を上方に押し上げる。フット部88dの上昇により押圧板88gから床への押圧力が解除されるため、ブレーキは解除される。これによって、ブレーキ88は、
図9に実線で示す状態へと戻る。ブレーキ88は、取り付け板88hを梁部材20の左右方向端部に装着することにより放射線遮蔽装置100に取り付けられている。
【0050】
次に、遮蔽板60、及び遮蔽部材22の脱落を防止するストッパの構成について説明する。上述のように、遮蔽板60については、前方への脱落を防止するための前側ストッパ70b及び72bが形成されているが、ここでは、側方への脱落を防止する仕組みについて説明する。
【0051】
図10(a)、(b)は、遮蔽板受材70に設置した遮蔽板60の側方への脱落を防止するための側方ストッパ71の構成を示している。
図10(a)は、H形鋼で構成された遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72を前方から見た図である。遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72の左端部には、
図10(a)、(b)に示すように、ヒンジ71d周りに回動可能な側方ストッパ板71aが装着されている。側方ストッパ板71aの前端には、前方に突出するキーパー71cが配置されており、
図10(a)に示す遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72の前端に設けられているキャッチクリップ71bのアーム71b2の先端に取り付けられたシャフト71b3をキーパー71cに係合させた状態でレバー71b1を遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72側に押し込むことにより、側方ストッパ71を閉じることができる。なお、
図10(b)において、キャッチクリップ71bは図示を省略している。これによって、遮蔽板受材70に設置した遮蔽板60の側方への移動を規制できるため、脱落を防止することができる。なお、
図10(a),(b)では、遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72の左端に側方ストッパ71を設ける例を示しているが、遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72の右端にも同様に側方ストッパ71を設けることができる。また、
図10(a),(b)では、遮蔽板受材70及び遮蔽板蓋材72が上下に一体化された部分に適用される側方ストッパ71の構成を示したが、最上部の遮蔽板蓋材72、及び最下部の遮蔽板受材70に対しては、
図10(a),(b)の約半分の高さを有する側方ストッパを適用することができる。なお、
図1及び
図4では、内部構造の説明のため、側方ストッパ71の図示は省略している。
【0052】
図11(a)、(b)は、梁部材20の内部に収容した遮蔽部材22の側方への脱落を防止するための側方ストッパ21の構成を示している。
図11(a)は、梁部材20を前方から見た図である。梁部材20の左端部には、
図11(a)、(b)に示すように、ヒンジ21d周りに回動可能な側方ストッパ板21aが装着されている。側方ストッパ板21aの上端には、半円筒形状を有しつつ上方に突出するキーパー21cが配置されており、
図11(a)に示す梁部材20の上面に設けられているキャッチクリップ21bのアーム21b2の先端に取り付けられたシャフト21b3をキーパー21cに係合させた状態でレバー21b1を梁部材20の上面側に押し込むことにより、側方ストッパ21を閉じることができる。なお、
図11(b)において、キャッチクリップ21bは図示を省略している。これによって、梁部材20内に収容した遮蔽部材22の側方への移動を規制できるため、脱落を防止することができる。なお、
図11(a),(b)では、梁部材20の左端に側方ストッパ21を設ける例を示しているが、梁部材20の右端にも同様に側方ストッパ21を設けることができる。また、
図1及び
図4では、内部構造の説明のため、側方ストッパ21の図示は省略している。
【0053】
本実施形態では、脚部材80にアンカー金具87を形成することで床に固定して耐震安定性を向上させるように構成したが、この態様には限定されない。例えば、
図12(a)に示すように、脚部材80の後側(
図12(a)における左側)に、前後に延びる延長脚部89を着脱可能に装着するように構成してもよい。このように、脚部材80を前後に延長することで耐震安定性を更に向上させることができる。また、
図12(a)に示す延長脚部89は、脚部材80の後端に嵌合させる嵌合部89aと、高さを低減した先端部89bとを有している。延長脚部89の先端部89bの高さを低くすることで、作業者が延長脚部89の近傍で作業する際の作業性を向上させることができる。なお、
図12(a)には、脚部材80の後側に装着する延長脚部89のみが示されているが、脚部材80の前側にも延長脚部89を装着してもよい。
【0054】
背板30は、
図13に示すように、遮蔽板60が配置される領域の一部を開口させる開口部30aを有するように構成してもよい。
図13の例では、遮蔽板60を上下方向に3段配置する場合に、各遮蔽板60が配置される領域の中央部分に開口部30aを形成している。これによって、遮蔽板60の取り付け等に影響を与えることなく、背板30を軽量化して放射線遮蔽装置100の移動を容易にすることができる。また、遮蔽板60を装着していない状態において、開口部30aを視認窓として用いることができるので、作業者の作業環境を向上させることができる。
図13における固定穴30bは、遮蔽板押さえ62により遮蔽板60をガイドレール32に当接させる際に用いられる。なお、背板30を用いない構成の場合には、固定穴30bは、柱部材10又は梁部材20に設けることができる。
【0055】
図14は、本実施形態の放射線遮蔽装置100を左右方向に2台並べた状態を平面視で示す図である。本実施形態では、図示のように、キャスター86、及びアンカー金具87を脚部材80の左右方向内側に配置している。このため、各放射線遮蔽装置100の遮蔽板60同士を厚み方向に重ねて配置し易いため、放射線遮蔽装置100同士の隙間からの放射線の漏洩を極力抑制することができる。
【0056】
図15は、本実施形態の放射線遮蔽装置100を用いた放射線予測装置300の構成を示している。放射線予測装置300は、本実施形態の放射線遮蔽装置100の上方に放射線検出器110を配置し、更に遮蔽板60の後方に制御用コンピュータ200を配置している。なお、放射線検出器110は、線源500から見て遮蔽板60により遮蔽されない任意の位置に配置することができる。また、制御用コンピュータ200は、遮蔽板60に関して線源500とは対向する側に配置することにより、制御用コンピュータ200、及びその操作を行う作業者が放射線に晒されるのを抑制することが好ましい。
【0057】
図16は、本実施形態の放射線予測装置300の制御系の構成を示すブロック図である。制御用コンピュータ200は、放射線検出器110の位置情報、線源500を構成する構造物の形状情報、及び壁等の現場の形状が入力される入力部210と、入力部210から入力された放射線検出器110の位置情報等と、放射線検出器110から受信した放射線量の検出結果とから、線源500の線源強度等の特性を推定する制御部230と、推定結果を表示する表示部250とを備えている。制御部230は、更に線源500の特性の推定結果等に基づいて3次元空間内における線量分布の推定を行い、その結果を表示部250に表示することができる。
【0058】
次に、本実施形態の放射線予測装置300により線源500の特性及び3次元空間内における線量分布の推定を行う手順について説明する。
図17は、手順を示すフローチャートである。まず、作業者は、組立作業領域において、必要な枚数の遮蔽板60を放射線遮蔽装置100の遮蔽板受材70に装着する(ステップS101)。この遮蔽板60の装着は、予測される線源500の強度等に応じて遮蔽板60の厚み、積層枚数、遮蔽領域等を適宜定めて行う。
【0059】
次に作業者は、放射線遮蔽装置100の上方又は前方に放射線検出器110を配置すると共に、制御用コンピュータ200を遮蔽板60の後方に配置する(ステップS102)。また、放射線検出器110と制御用コンピュータ200との間の必要な接続を行う。なお、この放射線検出器110と制御用コンピュータ200との接続は、有線であってもよいし、WiFi(Wireless Fidelity)等によって無線接続されていてもよい。また、制御用コンピュータ200は、必ずしも放射線遮蔽装置100に装着されている必要はなく、放射線遮蔽装置100から離れた場所に配置されていてもよい。
【0060】
次に作業者は、放射線遮蔽装置100を線源500に近い所定の場所に配置する(ステップS103)。この放射線遮蔽装置100の配置場所は、予想される線源500の強度、予想される線源500の場所等に応じて適宜定めることができる。
【0061】
次に作業者は、制御用コンピュータ200の入力部210から放射線検出器110の位置情報等を入力する(ステップS104)。そして、作業者が制御用コンピュータ200にインストール済みのFLEXDOSE (FLEXible DOSE evaluation system)(非特許文献1,2参照)を実行すると、制御部230は、入力部210からの放射線検出器110の位置情報、線源500を構成する構造物の形状情報及び壁等の現場の形状、並びに放射線検出器110から受信した放射線量の検出結果等に基づいて、特定位置において線源500の線源強度等の特性を推定する(ステップS105)。
【0062】
次に、制御部230は、上述の線源500の特性の推定結果に基づいて、作業者の作業領域となる3次元空間内における線量分布を推定する(ステップS106)。この3次元空間内における線量分布の推定についても、上述のFLEXDOSEの実行により行われる。制御部230は、線源500の特性、及び線量分布の推定結果を、制御用コンピュータ200の表示部250に表示させる(ステップS107)。
【0063】
なお、本実施形態では、放射線予測装置300を所定の1箇所に固定し、固定された放射線検出器110からの検出結果に基づいて線源500の線源強度等の特性を推定し、更に3次元空間内の線量分布を推定するように構成したが、この態様には限定されない。放射線予測装置300を移動させながら複数箇所で放射線を検出し、複数の検出位置及びそれに対する複数の放射線の検出結果に基づいて線源500の特性を推定し、更に3次元空間内の線量分布を推定するように構成してもよい。これにより,より正確に線源500の特性および3次元空間内の線量分布を推定することができる。特に、線源500が複数箇所に存在するような環境では、放射線の検出位置を増加させることによって線源500の特性の推定精度を高めることができる。この場合、各検出位置において作業者が放射線検出器110の位置情報を入力部210から入力する代わりに、例えばキャスター86の車輪86aの回転をエンコーダ等で検出することにより制御部230が放射線検出器110の位置情報を取得するようにしてもよいし、GPS(Global Positioning System)受信機を搭載することによって放射線検出器110の位置情報を取得するように構成してもよい。線源500を構成する構造物の形状情報及び壁等の現場の形状についても、作業者が入力部210から入力してもよいし、例えば図示しない記憶部からこれらの情報を読み出すように構成してもよい。
【0064】
以上に述べたように、本実施形態の放射線遮蔽装置100では、放射線を遮蔽する複数の遮蔽板60と、遮蔽板60を支持する架構50であって、複数の柱部材10と、柱部材10同士を連結すると共に水平方向に延びる複数の梁部材20とを有する架構50と、架構50に取り付けられ、遮蔽板60を下方から支持する遮蔽板受材70とを備え、遮蔽板受材70は、遮蔽板60を左右方向に移動させるローラーコンベア70aを有し、架構50には、左右方向に延び遮蔽板60の背面に当接するガイドレール32が設けられるように構成した。これによって、放射線遮蔽装置100の遮蔽面を複数の遮蔽体60で構成することができ、遮蔽板60一枚あたりの重量を抑え、取扱いや設置を容易にすることができる。また、ガイドレール32とローラーコンベア70aを併用することで、遮蔽材受材70上で遮蔽板60を容易に移動させることができる。さらに、遮蔽板60をガイドレール32に当接させて固定することで、複数の遮蔽板60を厚さ方向に揃えて配置できるため、隣接する遮蔽板60同士の隙間の発生を抑え放射線の通過を低減させることができる。したがって、遮蔽板60の設置を円滑にすることができ、特に高所における作業負荷を低減し、作業の安全性を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、遮蔽板受材70は、架構50の上下方向の複数位置に取り付けられるように構成した。これによって、上下方向の広い範囲にわたって放射線を遮蔽することができ、上下方向の遮蔽範囲を自在に調整及び拡張することができる。また、遮蔽板60の一段あたりの高さを60cm以下とすることで、変形し易い鉛板を使用する場合でも形状安定性を保つことができ、変形によって生じる隙間による遮蔽性能の低下を抑制することができる。さらに、この上下方向に遮蔽板60を分割する構成と合わせて左右方向に遮蔽板60を分割することで遮蔽板60一枚当たりの重量を低減させることができ遮蔽板60の設置及び取り扱いを容易にできる。
【0066】
また、本実施形態では、複数の梁部材20の少なくとも1つの梁部材20が、遮蔽板受材70と高さ方向に重なるように構成した。これによって、遮蔽板受材70が受ける遮蔽板60の荷重を梁部材20でも負担する構造とすることができ、必要な強度を容易に確保することができる。なお、梁部材20と遮蔽板受材70とが高さ方向に完全に重なっている必要は無く、高さ方向に部分的に重なっていてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、複数の梁部材20の少なくとも1つの梁部材20が、放射線を遮蔽する遮蔽部材22を内部に収容するように構成した。上述の梁部材20と遮蔽板受材70とが高さ方向に重なる構成に加えて、梁部材20が遮蔽部材22を内部に収容する構成を採用することによって、遮蔽板60を上下方向の複数段に設置する場合にも、上下に並ぶ遮蔽板60同士の隙間、すなわち遮蔽板受材70を構成するH形鋼のウェブ高さ位置から放射線が漏洩するのを抑制し、遮蔽板60を上下に分割しない場合と同等の遮蔽効果を得ることができる。
【0068】
また、本実施形態では、遮蔽板60は、遮蔽板受材70内において左右方向に隣接して複数配置され、隣接する遮蔽板60同士が、厚み方向に部分的に重なり合う凹凸構造を有するように構成した。これによって、放射線の水平方向の遮蔽範囲を自在に調整及び拡張することができる。また、この構成と上述の遮蔽板60を上下方向の複数段に設置する構成によって、遮蔽板60を上下方向又は左右方向に分割して1枚あたりの重量を低減して作業性を向上させることができる。特に、本実施形態では、遮蔽板60の1枚あたりの重量が20kg以下となるように分割することで遮蔽板60を高所に設置する際の作業負荷を低減することができる。また、上述したガイドレール32により、複数の遮蔽板60を厚さ方向に揃えて配置できることから、この凹凸構造で左右方向に隣接する遮蔽板60同士を厚み方向に確実に重ね合わせることができ、遮蔽板60間を通過する放射線量を確実に抑えて放射線の遮蔽効果を高めることができる。
【0069】
また、本実施形態では、遮蔽板60は、表面に保護材がコーティングされており、前述の凹凸構造において、保護材の厚みが低減されている又は保護材がコーティングされていないように構成した。これによって、腐食等による遮蔽板60表面の劣化や衝撃による損傷をコーティングにより抑制することができると共に、凹凸構造部分においてコーティングによる遮蔽板60間の隙間の発生を抑制して、放射線の通過を一段と抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態では、遮蔽板受材70が、左右方向及び前後方向への遮蔽板60の移動を規制するストッパ部材である、遮蔽板押さえ62,前側ストッパ70bを含むH形鋼のフランジ,及び側方ストッパ71を有するように構成した。これによって、地震によって揺れが発生した場合や架構50が傾いた場合でも、遮蔽板受材70上に配置された遮蔽板60が左右方向及び前後方向に脱落するのを抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では、遮蔽板受材70は、遮蔽板60を厚み方向に複数重ねた状態で支持可能とすることができる。これによって、使用環境に応じて放射線の遮蔽量を調整することができる。例えば、放射線遮蔽装置100を線量が高い場所で使用する場合には、遮蔽板60を厚み方向に複数枚重ねて使用する。この場合、重量が増加することになるものの高い遮蔽性能を確保することができる。一方、線量が低い場所で使用する場合には、遮蔽板60を一枚使用すれば十分である為、放射線遮蔽装置100の可搬性を生かした使用を行うことができる。
【0072】
また、本実施形態では、架構50(柱部材10)の下部には、前後方向に延びる複数の脚部材80が固定されており、脚部材80は、前後方向に更に延びる延長脚部89が着脱可能となるように構成した。これによって、使用時の耐震安定性を向上させることができる。また、脚部材80を床に固定する固定穴(貫通孔87a)を有するように構成してもよく、これによって、更に耐震安定性を向上させ、十分な作業安全性を確保した上で放射線の遮蔽が可能となる。
【0073】
また、本実施形態では、架構50の下部には脚部材80が固定されており、脚部材80には、車輪86aの高さが調整可能である、又は脚部材80に着脱可能であるキャスター86が固定されるように構成した。これによって、大きな重量を有する放射線遮蔽装置100を自由に移動することが可能となり、放射線遮蔽位置の変更が容易となる。また、放射線遮蔽装置100を移動した後は、床に固定することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、キャスター186は、床面に垂直な軸線周りに回動動作可能に構成されており、当該軸線周りの回動動作は、キャスター186の車輪186aが所定の方向に方向付けされた状態でロック可能であるように構成した。これによって、作業者が放射線遮蔽装置100を所定の方向に移動させようとする場合に、あらかじめ当該移動方向と車輪186aの進行方向が揃っているため、作業者は、車輪186aの向きを変えるために付加的な力を作用させる必要がなく、最小限の力で放射線遮蔽装置100を所定の方向に移動させることができる。
【0075】
また、本実施形態では、架構50は、柱部材10及び梁部材20の少なくとも一方により固定され遮蔽板60の少なくとも一部を背面から覆う平板状の背板30を備え、遮蔽板受材70及びガイドレール32は背板30に固定されている構成とした。これによって、放射線遮蔽装置100の強度をより高めることができ、さらに、遮蔽板受材70及びガイドレール32の配置の自由度を高めることができる。
【0076】
また、本実施形態の放射線予測装置300では、放射線検出器110を更に備える上記いずれかに記載の放射線遮蔽装置100と、放射線検出器110からの放射線検出結果を用いて線源500の特性、及び所定の領域内の線量分布を予測する制御部230とを備えるように構成した。これによって、作業時の被爆線量を低減し、作業工程の最適化に有効な情報を得ることができる。
【0077】
本発明を諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0078】
例えば、本実施形態では、背板30を含む構成としたが、これを含まない構成としてもよく、その場合は、遮蔽板受材70及びガイドレール32は、柱部材10及び梁部材20の少なくとも一方により支持される構成としてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 柱部材
15 アイボルト
20 梁部材
21 側方ストッパ
21a 側方ストッパ板
21b キャッチクリップ
21b1 レバー
21b2 アーム
21b3 シャフト
21c キーパー
21d ヒンジ
22 遮蔽部材
22a 遮蔽部材固定用ボルト
30 背板
30a 開口部
30b 固定穴
32 ガイドレール
50 架構
60 遮蔽板
60a 固定用穴
62 遮蔽板押さえ(ストッパ部材)
62a 遮蔽板固定用ボルト
70 遮蔽板受材
70a ローラーコンベア(コンベア)
70b 前側ストッパ(ストッパ部材)
70c ベース
71 側方ストッパ(ストッパ部材)
71a 側方ストッパ板
71b キャッチクリップ
71b1 レバー
71b2 アーム
71b3 シャフト
71c キーパー
71d ヒンジ
72 遮蔽板蓋材
72b 前側ストッパ
72c ベース
80 脚部材
86 キャスター
86a 車輪
86b 車輪支持部
86c 台座
86d ねじボルト
86e ナット
86f ブラケット
87 アンカー金具
87a 貫通孔(固定穴)
88 ブレーキ
88a ブレーキペダル
88b ペダルジョイント
88c 解除ペダル
88d フット部
88e シリンダ
88f フットジョイント
88g 押圧板
88h 取り付け板
88j シリンダジョイント
89 延長脚部
89a 嵌合部
89b 先端部
90 ホウヅエ
100 放射線遮蔽装置
110 放射線検出器
186 キャスター
186a 車輪
186b 車輪支持部
186b1 下側補助プレート
186c 台座
186c1 中央補助プレート
186f ブラケット
186f1 上側補助プレート
186g ロックバー
200 制御用コンピュータ
210 入力部
230 制御部
250 表示部
300 放射線予測装置
500 線源