(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20221206BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20221206BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20221206BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/067
H01L21/78 B
H01L21/304 611Z
(21)【出願番号】P 2018012604
(22)【出願日】2018-01-29
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】奈良 康永
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213334(JP,A)
【文献】特開2003-205383(JP,A)
【文献】特開2005-305470(JP,A)
【文献】特開2013-022627(JP,A)
【文献】国際公開第2011/018989(WO,A1)
【文献】特開2005-178288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01L 21/301
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンである加工対象物に改質領域を構成する改質スポットを形成する加工装置であって、
前記加工対象物に第1の光を照射し、前記加工対象物の一部領域において吸収率を前記第1の光の照射前よりも一時的に上昇させる第1照射部と、
前記一部領域の吸収率が一時的に上昇している吸収率上昇期間に、当該一部領域に第2の光を照射する第2照射部と、を備え
、
前記第2の光の波長は、前記第1の光の波長よりも長く、
前記第2の光の波長は、1000~8500nmであり、
前記第2の光のエムスクエア値は、前記第1の光のエムスクエア値よりも大きい、加工装置。
【請求項2】
前記第2の光のエネルギは、
前記第1の光のエネルギよりも高い、請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記第2の光のピーク強度は、
前記第1の光のピーク強度よりも低い、請求項1又は2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記第2の光は、前記加工対象物への単独照射時に改質スポットが形成されない光である、請求項1~
3の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項5】
前記加工対象物に対する前記第2の光の照射方向は、前記加工対象物に対する前記第1の光の照射方向と異なる、請求項1~
4の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項6】
前記第2の光の集光位置に対して前記第2の光が集光する角度は、前記第1の光の集光位置に対して前記第1の光が集光する角度と異なる、請求項1~
5の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項7】
前記第2の光のビームプロファイルは、前記第1の光のビームプロファイルと異なる、請求項1~
6の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項8】
前記第2の光のパルス幅は、前記第1の光のパルス幅と異なる、請求項1~
7の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項9】
前記第2の光のパルス波形は、前記第1の光のパルス波形と異なる、請求項1~
8の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項10】
前記第2の光の偏光方向は、前記第1の光の偏光方向と異なる、請求項1~
9の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項11】
前記改質領域は、前記加工対象物を厚さ方向に沿って切断する切断起点領域である、請求項1~
10の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項12】
前記改質領域は、前記加工対象物を厚さ方向と交差する方向に沿って切断する切断起点領域である、請求項1~
10の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項13】
前記改質領域は、前記加工対象物において2次元状又は3次元状に延びる除去予定領域である、請求項1~
10の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項14】
前記改質領域は、前記加工対象物の内部に形成された結晶領域、再結晶領域、又は、ゲッタリング領域である、請求項1~
10の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項15】
前記第1照射部は、前記第1の光を出射する第1光源により構成され、
前記第2照射部は、前記第2の光を出射する第2光源と、前記第2の光が前記吸収率上昇期間に前記一部領域へ照射されるように前記第2光源の照射タイミングを制御する制御部と、により構成される、請求項1~
14の何れか一項に記載の加工装置。
【請求項16】
前記第1照射部及び前記第2照射部は、光源及び前記光源から出射された光を変調する外部変調器により構成され、
前記光源から出射され前記外部変調器により変調された光の一部は、前記加工対象物に前記第1の光として照射され、
前記光源から出射され前記外部変調器により変調された光の他部は、前記吸収率上昇期間に前記一部領域へ前記第2の光として照射される、請求項1~
14の何れか一項に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、改質領域を構成する改質スポットを加工対象物に形成する加工装置が知られている。この種の技術として、例えば特許文献1には、レーザ加工装置が記載されている。特許文献1に記載されたレーザ加工装置では、加工対象物にレーザ光を照射することにより、加工対象物の内部に改質スポットを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述した加工装置としては、多分野への適用が進む中、様々な加工要求(例えば、高分断力、加工対象物へのダメージ抑制、又はそれらの両立等)に容易に対応し得る付加価値の高いものが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、高い付加価値を有する加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、光の照射によって加工対象物に改質スポットを形成する際、その始まりから終わりまでの間において特徴的な現象を見出した。具体的には、加工対象物への光の照射により、加工対象物の一部領域(例えば、当該光の集光点付近:以下、単に「一部領域」ともいう)で吸収率が一時的に上昇される(第1ステージ)。吸収率が一時的に上昇された一部領域への光の照射により、当該一部領域にエネルギが注入され、高温状態の一部領域が拡大される(第2ステージ)。その結果として、加工対象物に改質スポットが形成されるという現象を見出した。このような特徴的な現象を利用すれば、様々な加工要求にも容易に対応し、装置の付加価値を高め得ることを更に見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る加工装置は、改質領域を構成する改質スポットを加工対象物に形成する加工装置であって、加工対象物に第1の光を照射し、加工対象物の一部領域において吸収率を第1の光の照射前よりも一時的に上昇させる第1照射部と、一部領域の吸収率が一時的に上昇している吸収率上昇期間に、当該一部領域に第2の光を照射する第2照射部と、を備える。
【0008】
この加工装置では、加工対象物に第1の光を照射し、加工対象物の一部領域の吸収率を一時的に上昇させ、その間に当該一部領域に第2の光を照射することで、改質スポットを形成する。これにより、改質スポットを形成するに当たり、第1ステージ及び第2ステージの各現象それぞれに応じて、光を第1の光及び第2の光として分けて照射することができる。第1の光及び第2の光それぞれの各種パラメータないし照射態様を適宜変えることで、様々な加工要求に容易に対応可能となる。よって、高い付加価値を有する加工装置を実現可能となる。
【0009】
本発明に係る加工装置では、第2の光のエネルギは、第1の光のエネルギよりも高くてもよい。これにより、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて、第1の光及び第2の光を照射することができる。
【0010】
本発明に係る加工装置では、第2の光のピーク強度は、第1の光のピーク強度よりも低くてもよい。これにより、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて、第1の光及び第2の光を照射することができる。
【0011】
本発明に係る加工装置では、第2の光の波長は、第1の光の波長と異なっていてもよい。第1の光の波長と第2の光の波長とを適宜に異ならせることで、加工対象物における第1の光及び第2の光の吸収ひいては加工結果を制御することができる。
【0012】
本発明に係る加工装置では、第2の光は、加工対象物への単独照射時に改質スポットが形成されない光であってもよい。この場合、第2の光を常に又は予め照射しておいても改質スポットは形成されず、第1の光が改質スポットの形成を開始するトリガとして作用する。第2の光の照射タイミングを精密に制御することが不要になる。
【0013】
本発明に係る加工装置では、加工対象物に対する第2の光の照射方向は、加工対象物に対する第1の光の照射方向と異なっていてもよい。第1の光の照射方向と第2の光の照射方向とを適宜に異ならせることで、改質スポット形成時に改質スポットが拡大していく方向及び改質領域の位置を制御できる。
【0014】
本発明に係る加工装置では、第2の光の集光位置に対して第2の光が集光する角度は、第1の光の集光位置に対して第1の光が集光する角度と異なっていてもよい。第1の光の集光位置に対して第1の光が集光する角度と第2の光の集光位置に対して第2の光が集光する角度とを適宜に異ならせることで、加工領域の広狭を制御できる。
【0015】
本発明に係る加工装置では、第2の光のビームプロファイルは、第1の光のビームプロファイルと異なっていてもよい。第1の光のビームプロファイルと第2の光のビームプロファイルとを適宜に異ならせることで、分断力及び加工対象物へのダメージを制御できる。
【0016】
本発明に係る加工装置では、第2の光のエムスクエア値は、第1の光のエムスクエア値と異なっていてもよい。第1の光のエムスクエア値と第2の光のエムスクエア値とを適宜異ならせることで、装置の簡略化が可能となる。
【0017】
本発明に係る加工装置では、第2の光のパルス幅は、第1の光のパルス幅と異なっていてもよい。第1の光のパルス幅と第2の光のパルス幅とを適宜異ならせることで、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて第1の光及び第2の光を照射することができる。
【0018】
本発明に係る加工装置では、第2の光のパルス波形は、第1の光のパルス波形と異なっていてもよい。第1の光のパルス波形と第2の光のパルス波形とを適宜異ならせることで、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて第1の光及び第2の光を照射することができる。
【0019】
本発明に係る加工装置では、第2の光の偏光方向は、第1の光の偏光方向と異なっていてもよい。第1の光の偏光方向と第2の光の偏光方向とを適宜異ならせることで、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて第1の光及び第2の光を照射することができる。
【0020】
本発明に係る加工装置では、改質領域は、加工対象物を厚さ方向に沿って切断する切断起点領域であってもよい。この場合、改質領域を切断の起点として、加工対象物を厚さ方向に沿って切断することができる。
【0021】
本発明に係る加工装置では、改質領域は、加工対象物を厚さ方向と交差する方向に沿って切断する切断起点領域であってもよい。この場合、改質領域を切断の起点として、加工対象物を厚さ方向と交差する方向に沿って切断(例えばスライシング)することができる。
【0022】
本発明に係る加工装置では、改質領域は、加工対象物において2次元状又は3次元状に延びる除去予定領域であってもよい。この場合、改質領域をエッチング等で選択的に除去し、加工対象物に2次元状又は3次元状に延びる空間を形成できる。
【0023】
本発明に係る加工装置では、改質領域は、加工対象物の内部に形成された結晶領域、再結晶領域、又は、ゲッタリング領域であってもよい。この場合、改質領域を結晶領域、再結晶領域、又は、ゲッタリング領域として利用することができる。
【0024】
本発明に係る加工装置では、第1照射部は、第1の光を出射する第1光源により構成され、第2照射部は、第2の光を出射する第2光源と、第2の光が吸収率上昇期間に一部領域へ照射されるように第2光源の照射タイミングを制御する制御部と、により構成されていてもよい。この場合、本発明の加工装置を、複数の光源を利用して構成できる。
【0025】
本発明に係る加工装置では、第1照射部及び第2照射部は、光源及び光源から出射された光を変調する外部変調器により構成され、光源から出射され外部変調器により変調された光の一部は、加工対象物に第1の光として照射され、光源から出射され外部変調器により変調された光の他部は、吸収率上昇期間に一部領域へ第2の光として照射されていてもよい。この場合、本発明の加工装置を、同じ1つの光源を利用して構成できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い付加価値を有する加工装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【
図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【
図3】
図2の加工対象物のIII-III線に沿っての断面図である。
【
図5】
図4の加工対象物のV-V線に沿っての断面図である。
【
図6】
図4の加工対象物のVI-VI線に沿っての断面図である。
【
図7】改質スポットの形成メカニズムを説明する図である。
【
図8】改質スポット形成後の加工対象物の断面を示す写真図である。
【
図9】第1実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図10】第1レーザ光、第2レーザ光及び吸収率を説明する図である。
【
図11】第1実施形態の第1変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図12】第1実施形態の第2変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図13】第1実施形態の第3変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図14】第2実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図15】第2実施形態の変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図16】第3実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図17】第3実施形態の変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図18】第4実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図19】第5実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図20】第6実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図21】第7実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図22】第7実施形態の変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図23】第8実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図24】第8実施形態の変形例に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【
図25】第9実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0029】
[改質領域の形成]
実施形態に係る加工装置は、加工対象物に光を集光することにより、改質領域を構成する改質スポットを加工対象物に形成する。そこで、まず、改質領域の形成について説明する。
【0030】
図1に示されるレーザ加工装置100は、加工装置の一例であって、熱応力を利用したレーザ加工を実施する。レーザ加工装置100は、加工対象物1にレーザ光Lを集光することにより、切断予定ライン5に沿って加工対象物1に改質領域を形成する。レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0031】
レーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成される。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
【0032】
加工対象物1としては、半導体材料で形成された半導体基板や圧電材料で形成された圧電基板等を含む板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。
図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、
図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、
図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、
図4、
図5及び
図6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。切断起点領域8としての改質領域7が形成された加工対象物1に外力を加えることにより、あるいは、切断起点領域8としての改質領域7の形成時に、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を複数のチップへ分断できる。
【0033】
集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。切断予定ライン5は、改質領域形成予定ラインである。改質領域形成予定ラインは、改質領域7の形成が予定される予定ラインである。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面又は側面であってもよい。
【0034】
加工対象物1の表面3又は裏面側には、複数の機能素子(フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、又は回路として形成された回路素子等)がマトリックス状に形成されている。複数の切断予定ライン5は、隣り合う機能素子の間を通るように格子状に設定される。
【0035】
ちなみに、加工対象物1の内部に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に、加工対象物1の内部に位置する集光点P近傍にて特に吸収される。これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。この場合、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一方、加工対象物1の表面3に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、表面3に位置する集光点P近傍にて特に吸収され、表面3から溶融され除去されて、穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)。
【0036】
改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくとも何れか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域7としては、加工対象物1の材料において改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある。加工対象物1の材料が単結晶シリコンである場合、改質領域7は、高転位密度領域ともいえる。
【0037】
溶融処理領域、屈折率変化領域、改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、及び、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域7と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域7の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1は、結晶構造を有する結晶材料からなる基板を含む。例えば加工対象物1は、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、LiTaO3、ダイアモンド、GaOx、及び、サファイア(Al2O3)の少なくとも何れかで形成された基板を含む。換言すると、加工対象物1は、例えば、窒化ガリウム基板、シリコン基板、SiC基板、LiTaO3基板、ダイアモンド基板、GaOx基板、又はサファイア基板を含む。結晶材料は、異方性結晶及び等方性結晶の何れであってもよい。加工対象物1は、非結晶構造(非晶質構造)を有する非結晶材料からなる基板を含んでいてもよく、例えばガラス基板を含んでいてもよい。
【0038】
実施形態では、改質スポット(加工痕,改質層)を1つ又は複数形成することにより、改質領域7を形成することができる。この場合、1つの改質スポットが、又は、集まった複数の改質スポットが、改質領域7となる。改質スポットは、改質領域7に1つ又は複数含まれた改質部分である。改質スポットは、改質領域7を構成する改質部分である。改質スポットは、スポット状の改質部分である。複数の改質スポットの少なくとも何れかは、互いに離間していてもよいし、互いに接触(連続)していてもよい。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分である。ここでは、改質スポットは、後述の第1レーザ光の1パルスのショットに応じて形成される改質部分である。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物1の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することができる。また、実施形態では、切断予定ライン5に沿って、改質スポットを改質領域7として形成することができる。改質スポットは、局所的又は点状のものに限定されない。改質スポットのサイズ及び形状は、特に限定されず、種々のサイズ及び形状であってもよい。
【0039】
[改質スポットの形成メカニズム]
加工対象物1に改質スポットを形成する際、その始まりから終わりまでの間において、ステージ毎に分かれた特徴的な現象が見出される。以下、改質スポットの形成メカニズムについて説明する。
【0040】
図7に示されるように、改質スポットSの形成開始から完了までの現象は、その現象の内容に応じて5つのステージに分けることができる。なお、ここでの例では、加工対象物1をシリコンとする。
【0041】
第1ステージは、加工対象物1に対してレーザ光Lのパルスが照射された直後の期間である。第1ステージでは、加工対象物1において、室温付近から初期吸収が発生し、集光点付近の一部領域(集光点を含む一部の領域:以下、単に「一部領域」ともいう)で局所的な温度上昇及びプラズマが発生し、当該一部領域で吸収率が一時的に上昇する。第1ステージの終点は、加工対象物1へのレーザ光Lの照射開始を起点にして、例えば、多光子吸収等の非線形な吸収現象である非線形吸収の場合には1psまでの時点であり、通常の吸収現象である線形吸収の場合には1msまでの時点である。第1ステージの加工対象物1は、例えば数10000Kの温度を有する。第1ステージの加工対象物1は、プラズマ、蒸気又は液体の状態を有する。このような第1ステージのレーザ光Lでは、良好な集光性と、集光点までの透過性と、集光点での選択的吸収性と、高いピークパワーと、急峻な立上がりのパルス波形と、の少なくとも何れかが望まれる。
【0042】
第2ステージは、局所的な温度上昇が進み、吸収率が上昇した一部領域が拡大する期間である。第2ステージは、レーザ光Lが照射されている期間である。第2ステージでは、加工対象物1において高温状態の一部領域(高温領域)へエネルギが注入され、上方(レーザ光Lの照射側)へ高温領域が拡大され,改質スポットの形成領域が画定される。第2ステージの終点は、加工対象物1へのレーザ光Lの照射開始を起点にして、例えば、700nsまでの時点である。第2ステージの加工対象物1は、例えば2000~10000Kの温度を有する。第2ステージの加工対象物1は、液体の状態を有する。第2ステージにおいて、高温領域は溶融領域である。このような第2ステージのレーザ光Lでは、パルス波形や室温付近の加工前の加工対象物1に吸収されない波長であることが重要とされる。第2ステージのレーザ光Lでは、加工要求(加工目的)に応じた伝播プロファイルと、大きなパルスエネルギ及び持続時間と、の少なくとも何れかが望まれる。
【0043】
第3ステージは、伝導冷却による急速な温度低下が進み、ボイド13が固定されると共に、溶融領域の閉込め(溶融凝固領域11の形成)が行われる期間である。第3ステージは、レーザ光Lの照射が停止された直後の期間である。第3ステージの終点は、加工対象物1へのレーザ光Lの照射開始を起点にして、例えば、2μsまでの時点である。第3ステージの加工対象物1は、例えば500~2000Kの温度を有する。第3ステージの加工対象物1は、固体の状態を有する。このような第3ステージでは、速やかな伝導冷却と、集光点付近で凝固が先行すること(ボイド13の固定)と、分断に適した形状且つ大きな体積での融液閉じ込めと、の少なくとも何れかが望まれる。なお、ボイド13の固定は、第3ステージで成されることに限定されず、第2ステージ中で成される場合もある。
【0044】
第4ステージは、更なる熱拡散により全体が凝固され、最後まで溶融していた領域から大きな応力Stが発生し、残留応力場が形成され且つマイクロクラックが発生及び伸展される期間である。図示する例では、発生及び進展したマイクロクラックは、それらが集まってマイクロクラック群9を形成している。マイクロクラック群9は、マイクロクラック集合体である。第4ステージは、レーザ光Lの照射が停止された期間である。第4ステージでは、転位領域が形成される。第4ステージの終点は、加工対象物1へのレーザ光Lの照射開始を起点にして、例えば、10μsまでの時点である。第4ステージの加工対象物1は、室温と同程度の温度を有する。第4ステージの加工対象物1は、固体の状態を有する。このような第4ステージでは、分断に適した凝固順序及び速度と、転位及び高圧領域の形成(残留応力の分布の支配)と、の少なくとも何れかが望まれる。
【0045】
第5ステージは、レーザ光Lの次のパルスが加工対象物1に照射される期間であって、第1ステージと同様である。なお、第5ステージでは、それまでの第1ステージ~第4ステージで形成された改質スポットSにおいて、そのマイクロクラックが進展されマイクロクラック群9が拡がっている。
【0046】
図8は、改質スポットSの形成後の加工対象物1の断面を示す写真図である。図中の状態は、第5ステージの状態に対応する。図中の上側が、レーザ光Lの照射側である。
図8に示されるように、改質スポットSは、溶融凝固領域11、マイクロクラック群9及びボイド13を含む。溶融凝固領域11は、第3ステージから第4ステージの再凝固の際に最後まで溶融していた領域である。溶融凝固領域11の再凝固の際の体積膨張により、大きな応力を発生する。溶融凝固領域11を中心とする応力により、クラック14が生じている。マイクロクラック群9は、第3ステージから第4ステージの再凝固に伴う応力で形成される。マイクロクラック群9は、高密度な転位を伴うこともある。マイクロクラック群9は、集合及び成長してクラック14となる。ボイド13は、第2ステージにおける溶融及び蒸発後の再凝固の際に取り残された空洞である。図中の集光点Pは、加工の開始点であって、第1ステージの作用領域である。
【0047】
[第1実施形態]
次に、第1実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。
【0048】
図9に示される第1実施形態に係るレーザ加工装置200は、分断力を優先させた仕様の装置であって、高い分断力で加工対象物1を厚さ方向に沿って切断可能とする。レーザ加工装置200は、第1光源201、第2光源202、第1アッテネータ203、第2アッテネータ204、第1ビームエキスパンダ205、第2ビームエキスパンダ206、空間光変調器207、リレー光学系208、ダイクロイックミラー209、集光光学系210、及び、シリンドリカルレンズユニット211を備える。
【0049】
第1光源201は、パルスレーザ光の第1レーザ光(第1の光)L1を出射(パルス発振)する。一例として、第1光源201は、波長が1064nmでパルス持続時間が30nsの第1レーザ光L1を出射する。第2光源202は、パルスレーザ光の第2レーザ光(第2の光)L2を出射(パルス発振)する。一例として、第2光源202は、波長が1550nmでパルス持続時間が1000nsの第2レーザ光L2を出射する。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のそれぞれは、上述のレーザ光Lに対応する。
【0050】
第1アッテネータ203は、第1光源201から出射された第1レーザ光L1の出力(光強度)及び偏光方向を調整する。第2アッテネータ204は、第2光源202から出射された第2レーザ光L2の出力及び偏光方向を調整する。第1ビームエキスパンダ205は、第1アッテネータ203を通過した第1レーザ光L1のビーム径及び発散角を調整する。第2ビームエキスパンダ206は、第2アッテネータ204を通過した第2レーザ光L2のビーム径及び発散角を調整する。
【0051】
空間光変調器207は、第1ビームエキスパンダ205を通過してミラー212で反射した第1レーザ光L1を変調しつつ反射する。空間光変調器207は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器207は、第1レーザ光L1が入射される表示部を有し、この表示部に表示させる変調パターンを適宜設定することにより、反射する第1レーザ光L1を変調(例えば、第1レーザ光L1の強度、振幅、位相、偏光等を変調)する。
【0052】
リレー光学系208は、空間光変調器207の表示部での第1レーザ光L1の像(空間光変調器207において変調された第1レーザ光L1の像)を、集光光学系210の入射瞳面に転像(結像)させる。リレー光学系208としては、例えば4fレンズユニットを用いることができる。
【0053】
ダイクロイックミラー209は、リレー光学系208を通過してミラー213で反射した第1レーザ光L1を集光光学系210に向かって透過させると共に、シリンドリカルレンズユニット211を通過した第2レーザ光L2を集光光学系210に向かって反射させる。
【0054】
集光光学系210は、加工対象物1に対して第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を集光する。集光光学系210は、複数のレンズと、複数のレンズを保持するホルダと、を有する。集光光学系210は、圧電素子等の駆動機構の駆動力によって、その光軸方向に沿って可動する。
【0055】
シリンドリカルレンズユニット211は、第2ビームエキスパンダ206を通過してミラー214,215で反射した第2レーザ光L2のビームプロファイルを調整(ビーム形状を整形)する。シリンドリカルレンズユニット211は、加工対象物1に照射される第2レーザ光L2のビームプロファイルを、切断予定ライン5に沿う方向において長尺状とする。
【0056】
制御部216は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等によって構成されている。制御部216は、レーザ加工装置200の各部の動作を制御する。制御部216は、上述したレーザ光源制御部102及びステージ制御部115(
図1参照)の機能を有する。制御部216は、第1光源201及び第2光源202の動作を制御し、第1光源201及び第2光源202のそれぞれから第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のそれぞれを出射させる。制御部216は、第1光源201及び第2光源202から出射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の出力やパルス幅等を調節する。制御部216は、改質スポットSを形成する際、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の集光点が所定深さに位置し且つ切断予定ライン5に沿って相対的に移動するように、レーザ加工装置200の各部の動作を制御する。制御部216は、第1光源201及び第2光源202から第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2が出射されるタイミングを調節することで、加工点における第1レーザ光L1と第2レーザ光L2との到達タイミングを制御する。
【0057】
制御部216は、改質スポットSを形成する際、空間光変調器207の表示部に所定の変調パターンを表示させ、第1レーザ光L1を空間光変調器207で所望に変調させる。表示させる変調パターンは、例えば、改質スポットSを形成しようとする深さ位置、第1レーザ光L1の波長、加工対象物1の材料、集光光学系210や加工対象物1の屈折率等に基づいて予め導出され、制御部216に記憶されている。変調パターンは、レーザ加工装置200に生じる個体差を補正するための個体差補正パターン、球面収差を補正するための球面収差補正パターン、及び、非点収差を補正するための非点収差補正パターン等の少なくとも何れかを含んでいてもよい。
【0058】
制御部216は、第1光源201を制御して第1レーザ光L1を出射させた後、第2光源202を制御して第2レーザ光L2を出射させる。具体的には、制御部216は、加工対象物1へ第1レーザ光L1を1パルス照射させ、加工対象物1の一部領域で吸収率が一時的に上昇している期間である吸収率上昇期間に、その一部領域に第2レーザ光L2を1パルス照射させる。制御部216は、第2レーザ光L2の1パルス照射後には、第1光源201及び第2光源202の出射を一定期間停止させる。その後、制御部216は、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の当該1パルス照射を繰り返す。
【0059】
一部領域は、例えば第1レーザ光L1の集光点付近であり、第1レーザ光L1の照射及び集光に伴い吸収率が上昇している領域である。吸収率とは、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を単位長さあたり(例えば1cmあたり)に吸収する割合である。吸収率上昇期間とは、第1レーザ光L1の照射前の吸収率を基準にして、一時的に吸収率が上昇している(一時的に吸収率が大きくなっている)期間である。吸収率上昇期間は、吸収率が第1レーザ光L1の照射前よりも大きい範囲において、吸収率が増加している期間と、吸収率が減少している期間と、を含む。例えば吸収率上昇期間では、第1レーザ光L1の照射前の吸収率よりも大きい範囲において、吸収率が時間経過に伴い増加した後に減少する。
【0060】
より具体的には、制御部216は、次のように、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の照射タイミングを制御する。すなわち、
図10に示されるように、まず、第1レーザ光L1を1パルス照射させる。これにより、第1ステージが開始し、一部領域の吸収率が急峻に上昇し、ピークを迎えた後に下降する。この吸収率上昇期間Hに、第2レーザ光L2を1パルス照射させる。図示する例では、第1レーザ光L1のパルスの終了時に、第2レーザ光L2のパルスが立ち上がっている。第2レーザ光L2のパルスは、所定期間持続された後に終了する。第2レーザ光L2の照射によって、吸収率が上昇あるいは維持されている。当該終了に伴って、第2ステージが終了し、第3ステージが開始する。そして、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の照射が一定期間停止し、これにより。第3ステージ及び4ステージが進展する。
【0061】
以上のように構成されたレーザ加工装置200では、加工対象物1に第1レーザ光L1を照射し、加工対象物1の一部領域において吸収率を第1レーザ光L1の照射前よりも一時的に上昇させるステップと、一部領域の吸収率が一時的に上昇している吸収率上昇期間Hに、当該一部領域に第2レーザ光L2を照射するステップと、を含む加工方法を実施する。
【0062】
ここで、レーザ加工装置200において、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の特徴について、以下に詳説する。
【0063】
第2レーザ光L2のエネルギは、第1レーザ光L1のエネルギよりも高い。ここでいうエネルギは、全時間軸において投入されるエネルギの総量である。第2レーザ光L2のピーク強度は、第1レーザ光L1のピーク強度よりも低い。ここでいうピーク強度とは、当該レーザ光Lが吸収される領域における単位面積及び単位時間当たりのエネルギである。第1レーザ光L1のエネルギ及びピーク強度は、例えば第1光源201及び第1アッテネータ203の少なくとも何れかにより制御できる。第2レーザ光L2のエネルギ及びピーク強度は、例えば第2光源202及び第2アッテネータ204の少なくとも何れかにより制御できる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のエネルギ及びピーク強度は、EOM(Electro-Optic Modulator)又はAOM(acousto-Optic Modulator)等の変調器を利用して制御することもできる。
【0064】
第2レーザ光L2の波長は、第1レーザ光L1の波長と異なる。第2レーザ光L2の波長及び第2レーザ光L2の波長は、加工対象物1を透過する波長であり、ここでは、シリコンを透過する1000~8500nmである。第2レーザ光L2の波長は、第1レーザ光L1の波長よりも長い。加工対象物1がシリコンである場合、波長を1000nm以上1100未満とすると、加工対象物1への吸収が早く、ダメージが少なく、亀裂が伸びにくくなる。加工対象物1がシリコンである場合、波長を1100nm以上2000nm未満とすると、分断力が高くなり、加工対象物1へのダメージ抑制よりも分断力を優先(発生する亀裂を長く)できる。加工対象物1がシリコンである場合、波長を2000nm以上8500nm未満とすると、分断力がより高くなり、加工対象物1へのダメージ抑制よりも分断力をより優先できる。第1レーザ光L1の波長は、例えば第1光源201及び空間光変調器207の少なくとも何れかにより制御できる。第2レーザ光L2の波長は、例えば第2光源202により制御できる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の波長は、EOM又はAOM等の変調器を利用して制御することもできる。
【0065】
第2レーザ光L2は、加工対象物1への単独照射時に改質スポットSひいては改質領域7が形成されないレーザ光である。例えば第2レーザ光L2のピーク強度は、加工対象物1の加工閾値よりも低く、単独では改質スポットSの形成が開始されない。この場合、第2レーザ光L2は、常に又は予め加工対象物1に照射されていてもよく、第1レーザ光L1のみが加工開始のトリガとして作用する。このとき、加工開始までの間の第2レーザ光L2は、加工対象物1に吸収されずに抜け光となる。「抜け光」とは、加工対象物1の一方側から入射した光であって、加工対象物1で吸収されずに他方側から抜ける(出射する)光である。光の入射面とは反対側の面に抜け光によりダメージが及ぶことを、「裏面ダメージ」とも称する。
【0066】
第2レーザ光L2のNA(Numerical Aperture)は、第1レーザ光L1のNAと異なる。第1レーザ光L1のNAとは、第1レーザ光L1の集光位置に対して第1レーザ光L1が集光する角度である。第2レーザ光L2のNAとは、第2レーザ光L2の集光位置に対して第2レーザ光L2が集光する角度である。具体的には、第2レーザ光L2のNAは、第1レーザ光L1のNAよりも小さい。第2レーザ光L2は、平行ビームであってもよい。
【0067】
第1レーザ光L1のNAは、例えば第1ビームエキスパンダ205、空間光変調器207及び集光光学系210の少なくとも何れかにより制御できる。第2レーザ光L2のNAは、例えば第2ビームエキスパンダ206及び集光光学系210の少なくとも何れかにより制御できる。要は、レーザ光LのNAは、対物レンズ又はピンホール等の有限開口、ビームエキスパンダ等のビーム調整系、及び、空間光変調器の少なくとも何れかにより制御できる。NAは、その値が高いほど集光点のスポットサイズが小さくなり、集光点から離れるとビーム径が急速に増加するという傾向を有する。NAは、集光光学系210でのレーザ光Lの径及び集光光学系210の焦点距離によって決定される。レーザ光Lのピーク強度の位置依存性は、NAが高いほど大きくなる。レーザ光Lを深さ方向(光軸方向,厚さ方向)において局所的に集中させる場合には、NAが高い方が有利である。一方、レーザ光Lを光軸方向に沿って長い領域に分布させる場合には、NAが低い方が有利である。
【0068】
第2レーザ光L2のビームプロファイルは、第1レーザ光L1のビームプロファイルと異なる。具体的には、第1レーザ光L1のビームプロファイルは、真円又は環状等の回転対称を有する。第2レーザ光L2のビームプロファイルは、切断予定ライン5に沿って長尺状の形状を有する。第2レーザ光L2のビームプロファイルは、切断予定ライン5に沿う方向を長手方向とする回転非対称な形状(例えば長円、楕円形、長方形又は多角形等)を有する。第1レーザ光L1のビームプロファイルは、空間光変調器207により制御できる。第2レーザ光L2のビームプロファイルは、シリンドリカルレンズユニット211により制御できる。なお、例えば回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)又は空間光変調器を利用してビームプロファイルを制御してもよく、この場合には、長円又は多角形等の複雑なビームプロファイルも容易に得られる。
【0069】
第2レーザ光L2のエムスクエア値は、第1レーザ光L1のエムスクエア値と異なる。エムスクエア値は、レーザ光L(レーザ光Lの横モード)の品質を示す値である。エムスクエア値は、レーザ光Lの集光性を表す値である。エムスクエア値は、M^2とも表記される。エムスクエア値は、実際のレーザ光Lが理想的なTEM00のガウシアンレーザ光(基本モード光)に対してどれくらい離れているかを示す。エムスクエア値は、TEM00のガウシアンレーザ光の拡がり角とビームウエスト径との積に対する、実際のレーザ光Lの拡がり角とビームウエスト径との積である。
【0070】
第2レーザ光L2のエムスクエア値は、第1レーザ光L1のエムスクエア値よりも大きい。第1レーザ光L1には良好なビーム品質が必要であり、第1レーザ光L1のエムスクエア値は、1.5以下である。第2レーザ光L2には、第1レーザ光L1ほどのビーム品質は不要であり、第2レーザ光L2のエムスクエア値は、6.0以下である。第1レーザ光L1のエムスクエア値は、例えば第1光源201及び空間光変調器207の少なくとも何れかにより制御できる。第2レーザ光L2のエムスクエア値は、例えば第2光源202により制御できる。なお、レーザ光Lのエムスクエア値は、当該レーザ光Lのレーザ光源、空間フィルタ及び空間光変調器の少なくとも何れかを利用することで、制御してもよい。
【0071】
第2レーザ光L2のパルス幅は、第1レーザ光L1のパルス幅と異なる。第2レーザ光L2のパルス幅は、第1レーザ光L1のパルス幅よりも長い。第1レーザ光L1のパルス幅は、例えば第1光源201により制御できる。第2レーザ光L2のパルス幅は、例えば第2光源202により制御できる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のパルス幅は、EOM又はAOM等の変調器を利用して制御することもできる。
【0072】
第2レーザ光L2のパルス波形は、第1レーザ光L1のパルス波形と異なる。第1レーザ光L1のパルス波形は、矩形波形又はガウス波形である。第2レーザ光L2のパルス波形は、時間経過に連れて出力が高くなる波形であり、具体的には、第2レーザ光L2が吸収領域で吸収される実効的な面積が増加することに応じて、ピーク強度が一定になるように出力が高まる波形(以下、単に「後ろ上がり波形」ともいう)である。第2レーザ光L2のパルス波形は、例えば自乗曲線を有する。第1レーザ光L1のパルス波形は、例えば第1光源201により制御できる。第2レーザ光L2のパルス波形は、例えば第2光源202により制御できる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2のパルス波形は、EOM又はAOM等の変調器を利用して制御することもできる。
【0073】
第2レーザ光L2の偏光方向は、第1レーザ光L1の偏光方向と異なる。第1レーザ光L1の偏光方向は、垂直、水平、右回り円偏光、左回り円偏光、又はZ偏光である。第2レーザ光L2の偏光方向は水平、垂直、左回り円偏光、右回り円偏光、又はZ偏光である。第1レーザ光L1の偏光方向は、例えば波長板(不図示)及び空間光変調器207の少なくとも何れかにより制御できる。第2レーザ光L2の偏光方向は、例えば波長板(不図示)により制御できる。偏光としては、例えば直線偏光、直交偏光、円偏光、ランダム偏光、Z偏光、及び、ラジアル偏光が挙げられる。波長板には、1/4波長板、1/2波長板、及びZ波長板の少なくとも1つが含まれる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の偏光方向は、波長板、偏光解消子及び空間光変調器の少なくとも何れかを利用して制御することもできる。
【0074】
このようなレーザ加工装置200では、第1ステージに必要且つ十分な第1レーザ光L1を、第1ステージに最適な時間的及び空間的分布で供給することができる。適切な時間間隔の後に、第2ステージに必要且つ十分な第2レーザ光L2を、第2ステージに最適な時間的及び空間的分布で供給することができる。その後、第3ステージ以降で速やかに冷却が行われるよう、鋭く第2レーザ光L2(及びその他の光)を遮断することができる。
【0075】
ここでのレーザ加工装置200は、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2に関して、以下の特徴を有するように構成されている。
(波長)
第1レーザ光L1:1026~1064nm
第2レーザ光L2:1180~7500nm
(ビーム品質(エムスクエア値))
第1レーザ光L1:1.0
第2レーザ光L2:3.0未満
(パルス持続時間)
第1レーザ光L1:20~50ns
第2レーザ光L2:0.7~5μs
(パルス立上がり時間)
第1レーザ光L1:5ns未満
第2レーザ光L2:50ns未満
(パルス波形)
第1レーザ光L1:矩形波形又はガウス波形
第2レーザ光L2:後ろ上がり波形(自乗曲線)
(ピーク強度)
第1レーザ光L1:70W
第2レーザ光L2:150~250W
(繰返し周波数)
第1レーザ光L1:150kHz以下
第2レーザ光L2:150kHz以下
(照射タイミング)
第1レーザ光L1:任意
第2レーザ光L2:20~30ns後
(第1レーザ光L1の照射開始を起点)
(集光系)
第1レーザ光L1:集光優先
第2レーザ光L2:経路優先
(収差補正)
第1レーザ光L1:あり
第2レーザ光L2:なし
(ビームプロファイルの対称性)
第1レーザ光L1:回転対称(真円)
第2レーザ光L2:切断予定ライン5に沿う方向に長尺状
(NA)
第1レーザ光L1:0.7以上
第2レーザ光L2:0.2~0.6
【0076】
以上、レーザ加工装置200によれば、改質スポットSを形成するに当たり、第1ステージ及び第2ステージの各現象それぞれに応じて、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2として分けて照射することができる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2それぞれの各種パラメータないし照射態様を適宜変えることで、様々な加工要求に容易に対応可能となる。よって、高い付加価値を有するレーザ加工装置200を実現可能となる。また、単純且つ安価な光学系を用いて分断力を向上することが可能となる。
【0077】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のエネルギは、第1レーザ光L1のエネルギよりも高い。これにより、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を照射することができる。
【0078】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のピーク強度は、第1レーザ光L1のピーク強度よりも低い。これにより、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を照射することができる。
【0079】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2の波長は、第1レーザ光L1の波長と異なる。第1レーザ光L1の波長と第2レーザ光L2の波長とを適宜に異ならせることで、加工対象物1における第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の吸収ひいては加工結果を制御することができる。さらに、半導体である加工対象物1は、バンドギャップ近傍で分光吸収特性が大きく変化するため、波長を変化させるとその吸収分布や加工結果を効果的に制御することができる。特にレーザ加工装置200では、第2レーザ光L2の波長は、第1レーザ光L1の波長よりも長い。これにより、第1レーザ光L1の吸収を早めてダメージ抑制しつつ、第2レーザ光L2で分断力を高めること(高分断力とダメージ抑制との両立)ができる。
【0080】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2は、加工対象物1への単独照射時に改質スポットSが形成されない光である。これにより、第2レーザ光L2を常に又は予め照射しておいてもよく、この場合でも、改質スポットSは形成されず、第1レーザ光L1が改質スポットSの形成を開始するトリガとして作用する。第2レーザ光L2の照射タイミングを精密に制御することが不要になる。
【0081】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のNAは、第1レーザ光L1のNAと異なる。第1レーザ光L1のNAと第2レーザ光L2のNAとを適宜に異ならせることで、加工領域の広狭を制御できる。特にレーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のNAは、第1レーザ光L1のNAよりも小さい。これにより、第2レーザ光L2は集光点から離れた位置においてもビームの発散が抑制されるため、改質スポットSを集光点から離れた位置まで誘導又は形成することができる。
【0082】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のビームプロファイルは、第1レーザ光L1のビームプロファイルと異なる。第1レーザ光L1のビームプロファイルと第2レーザ光L2のビームプロファイルとを適宜に異ならせることで、分断力及び加工対象物1へのダメージを制御できる。特にレーザ加工装置200では、第1レーザ光L1のビームプロファイルは、回転対称の形状であり、これにより、第1レーザ光L1を小さな領域に集光することができ、高いパワー密度を実現できる。そのため、第1ステージの現象を最低限の漏れ光で実現できる。第2レーザ光L2のビームプロファイルは、切断予定ライン5に沿って長尺状の形状である。これにより、切断予定ライン5に沿って加工対象物1を切断しやすくできる。また、厚さ方向から見て切断予定ライン5に直交する方向が、第2レーザ光L2のビームプロファイルの短手方向になることから、加工対象物1の機能素子に対する第2レーザ光L2による悪影響を抑制できる。
【0083】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のエムスクエア値は、第1レーザ光L1のエムスクエア値と異なる。第1レーザ光L1のエムスクエア値と第2レーザ光L2のエムスクエア値とを適宜異ならせることで、装置の簡略化、低価格化及び簡易化が可能となる。特にレーザ加工装置200では、第1レーザ光L1のエムスクエア値は第2レーザ光L2のエムスクエア値よりも小さい。これにより、第1レーザ光L1で必要なビーム品質を確保しつつ、第2レーザ光L2のビーム品質に係る制限を低減することが可能となる。
【0084】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のパルス幅は、第1の光のパルス幅と異なる。第1レーザ光L1のパルス幅と第2レーザ光L2のパルス幅とを適宜異ならせることで、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を照射することができる。特にレーザ加工装置200では、第1レーザ光L1のパルス幅は第2レーザ光L2のパルス幅よりも長い。これにより、溶融領域が成長可能な速度に合わせて、あるいは溶融領域が成長に必要な時間に合わせて、第2レーザ光L2によるエネルギ供給が一層適切に行われ、一層適切な溶融領域ひいては改質スポットSを形成できる。
【0085】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2のパルス波形は、第1レーザ光L1のパルス波形と異なる。第1レーザ光L1のパルス波形と第2レーザ光L2のパルス波形とを適宜異ならせることで、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を照射することができる。特にレーザ加工装置200では、第1レーザ光L1のパルス波形は矩形波形又はガウス波形であり、これにより、鋭い立上り特性をパルス波形が備えることになり、加工前の漏れ光を最小限にできる。第2レーザ光L2のパルス波形は後ろ上がり波形であり、これにより、第2レーザ光L2の吸収領域の面積が増加する場合でも、それに応じてピーク強度を一定に保つことができる。
【0086】
レーザ加工装置200では、第2レーザ光L2の偏光方向は、第1レーザ光L1の偏光方向と異なる。第1レーザ光L1の偏光方向と第2レーザ光L2の偏光方向とを適宜異ならせることで、第1ステージ及び第2ステージの各現象に一層応じて第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を照射することができる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の結合及び分離が容易となる。特にレーザ加工装置200では、第1レーザ光L1の偏光方向は、垂直、水平、右回り円偏光、左回り円偏光、又はZ偏光であり、第2レーザ光L2の偏光方向は、水平、垂直、左回り円偏光、右回り円偏光、又はZ偏光である。これにより、第1レーザ光L1の波長と第2レーザ光L2の波長とが同じ場合でも、偏光方向の相違を利用して同一光路へのビーム合成あるいは同一光路からのビーム分離が容易に可能になる。また、物質内部への透過率が高いZ偏光のレーザ光Lを用いることで、一層適切に加工対象物1の内部加工を行うことができる。
【0087】
レーザ加工装置200では、改質領域7は、加工対象物1を厚さ方向に沿って切断する切断起点領域である。これにより、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を厚さ方向に沿って切断(分断)することができる。
【0088】
レーザ加工装置200は、第1光源201、第2光源202及び制御部216を含んでいる。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を加工対象物1へ照射するレーザ加工装置200を、第1光源201及び第2光源202(複数の光源)を利用して構成することができる。
【0089】
レーザ加工装置200では、加工対象物1に対する第2レーザ光L2の照射方向は、加工対象物1に対する第1レーザ光L1の照射方向と同じである。この場合、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を同一方向から照射でき、光学系を簡便なものとすることができる。
【0090】
なお、第1レーザ光L1の照射方向及び第2レーザ光L2の照射方向は、加工目的及び装置構成上の制約から適宜設定してもよい。第1レーザ光L1と第2レーザ光L2それぞれの集光点が共通であっても異なっていても、それらの照射方向(伝搬方向)を個別に制御することで加工を特徴付けることが可能である。例えば後述の変形例で示されるように、第1レーザ光L1を加工対象物1の表面(又は裏面)から垂直に入射する一方で、第2レーザ光L2を裏面(又は表面)から、側方から、それらの対向方向から、あるいは、それらを組合せた方向から入射してもよい。第1レーザ光L1の照射方向を適宜設定することで、初期の漏れ光の方向を制御できる。第2レーザ光L2の照射方向を適宜設定することで、分断力の方向付けを行ったり、改質スポットSの形成方向及び位置を制御したり、特定の加工態様(例えば残存漏れ光の分布制御)に最適化させたり等することが可能となる。
【0091】
レーザ加工装置200では、上述したように、第2レーザ光L2は、切断予定ライン5に沿って長尺となる回転非対称のビーム形状であって、大きなエネルギ及び持続時間で供給される。これにより、第2ステージを長時間持続させ、溶融凝固領域11を切断予定ライン5の延在方向に拡大することができる。
【0092】
なお、本実施形態において、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の各種パラメータは、上記の値に特に限定されない。第1レーザ光L1の波長は、1000nm~1100nmであってもよく、特に、1026nm、1028nm、1030nm、1047nm、1064nm、又は1080nmであると、装置製造が容易であるために有効である。第1レーザ光L1の波長は、9500nm~10000nmであってもよい。
【0093】
第1レーザ光L1の集光状態は、高い集光強度を実現すべく、良好なビーム品質とするために、エムスクエア値が1.2未満であってもよい。第1レーザ光L1の球面収差補正に関して、集光点Pにおいて無収差集光であってもよい。第1レーザ光L1の集光スポット径(集光点でのビーム径)は、φ1μm以下であってもよい。第1レーザ光L1のパルス持続時間は、30~50ns未満であってもよい。
【0094】
第2レーザ光L2の照射タイミング(第1レーザ光L1からの遅れ時間)は、第1レーザ光L1の照射による一部領域の局所的な電子の励起あるいは温度上昇等の過渡的現象の開始後であって、励起された電子の緩和又は熱拡散により当該過渡的現象が終了あるいは減衰してキャリア等が拡散又は消滅する時点よりも早いタイミングであってもよい。第2レーザ光L2の波長は、1150nm~9500nmであってもよい。第2レーザ光L2の波長は、加工対象物1を透過する波長であればよい。第2レーザ光L2のビーム品質への要求は、大幅に緩和され、例えば第2レーザ光L2のエムスクエア値が4でもよい。第2レーザ光L2の集光スポット径(集光点でのビーム径)は、φ3μm程度であってもよい。第2レーザ光L2のパルス波形の立上がりは、第1レーザ光L1の照射による一部領域の局所的な温度上昇が緩和しない程度の立上がりであればよい。第2レーザ光L2のパルス立上がり時間は、10~30nsであってもよい。
【0095】
第2レーザ光L2のパルス持続時間は、500~5000nsであってもよい。第2レーザ光L2の偏光状態は、あらゆる状態であってもよい。第2光源202として、安価なランダム偏光レーザ光源を用いてもよい。第2レーザ光L2の集光状態は、加工性能を決定づけるため、加工要求に応じて設定されていてもよい。第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1に比べ、集光点ではなく伝播状態が重要とされる。
【0096】
上記において、第1光源201及び制御部216は第1照射部を構成し、第2光源202及び制御部216は第2照射部を構成する。
【0097】
図11は、第1実施形態の第1変形例に係るレーザ加工装置220の構成を示す概略図である。第1変形例に係るレーザ加工装置220が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と異なる点は、第1レーザ光L1と対向するように第2レーザ光L2を更に照射する点である。レーザ加工装置220は、上記レーザ加工装置200に対して、ハーフミラー221及び集光光学系224を更に備える。
【0098】
ハーフミラー221は、第2レーザ光L2の光路上においてシリンドリカルレンズユニット211とダイクロイックミラー209との間に配置されている。ハーフミラー221は、シリンドリカルレンズユニット211を通過した第2レーザ光L2の一部を反射すると共に、当該第2レーザ光2の他部を透過させる。
【0099】
集光光学系224は、ハーフミラー221で反射してミラー222,223で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系224は、加工対象物1を介して集光光学系210と対向するように配置されている。集光光学系224は、集光光学系210のレーザ光入射面である表面(又は裏面)とは反対側の裏面(又は表面)をレーザ光入射面として、第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系224は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系224として、集光光学系210よりも特に高性能な光学系を用いることは不要である。このようなレーザ加工装置220では、加工対象物1において、表面側及び裏面側それぞれから第2レーザ光L2を同時照射し、表面側及び裏面側それぞれへ改質スポットSを成長させて形成することが可能である。
【0100】
以上、レーザ加工装置220においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。また、レーザ加工装置220では、2つの第2レーザ光L2うちの一方の第2レーザ光L2の照射方向は、第1レーザ光L1の照射方向と異なる。第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とで照射方向を適宜に異ならせることで、改質スポットS及び亀裂が拡大していく方向を制御可能(選択的誘導可能)になると共に、改質スポットS及び亀裂の位置を制御可能になる。特にレーザ加工装置220では、対向する集光光学系210,224による表面側及び裏面側からの改質スポットSの同時成長及び分断力の極大化が可能となる。
【0101】
図12は、第1実施形態の第2変形例に係るレーザ加工装置230の構成を示す概略図である。第2変形例に係るレーザ加工装置230が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、ビームシフター231を備える点である。
【0102】
ビームシフター231は、第2レーザ光L2の光路上においてシリンドリカルレンズユニット211とダイクロイックミラー209との間に配置されている。ビームシフター231は、第2レーザ光L2の位置をシフトさせる。具体的には、ビームシフター231は、集光光学系210で集光された第2レーザ光L2の照射方向(光軸)が、集光光学系210の光軸に対して傾斜する傾斜方向となるように、第2レーザ光L2の位置をシフトさせる。ここでの傾斜方向は、加工対象物1に近づくに連れて、レーザ光L(第1レーザ光l及び第2レーザ光L2)のスキャンの進行方向における前側から後側に傾斜する方向である。
【0103】
なお、ビームシフター231としては、特に限定されず、第2レーザ光L2の位置をシフトできれば、種々の光学素子を用いることができる。以下、スキャンの進行方向を、単に「スキャン進行方向」と称する。スキャン進行方向は、レーザ光Lを走査する方向であり、加工進行方向である。
【0104】
以上、レーザ加工装置230においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。また、レーザ加工装置230では、第2レーザ光L2を集光光学系210の光軸に対して傾斜する傾斜方向から照射させることができる。特に、当該傾斜方向は、加工対象物1に近づくに連れてスキャン進行方向の前側から後ろ側に傾斜する方向であることから、レーザ光Lのスキャンに対して改質スポットSを先行するように形成することが可能となる。
【0105】
図13は、第1実施形態の第3変形例に係るレーザ加工装置240の構成を示す概略図である。第3変形例に係るレーザ加工装置240が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と異なる点は、加工対象物1の側面から第2レーザ光L2を照射すると共に、第1レーザ光L1と対向するように第2レーザ光L2を照射する点である。レーザ加工装置220は、上記レーザ加工装置200に対して、ダイクロイックミラー209を備えず、ハーフミラー241及び集光光学系242,243を更に備える。レーザ加工装置220では、集光光学系210は、加工対象物1に対して第1レーザ光L1のみを集光する。
【0106】
ハーフミラー241は、第2レーザ光L2の光路上においてシリンドリカルレンズユニット211の下流側に配置されている。ハーフミラー241は、シリンドリカルレンズユニット211を通過してミラー244で反射した第2レーザ光L2の一部を反射すると共に、当該第2レーザ光2の他部を透過させる。
【0107】
集光光学系242は、ハーフミラー241で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系242は、加工対象物1の側面と対向するように配置されている。集光光学系242は、加工対象物1の側面をレーザ光入射面として第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系242は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系243は、ハーフミラー221を透過してミラー245,246で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系243は、加工対象物1を介して集光光学系210と対向するように配置されている。集光光学系243は、集光光学系210のレーザ光入射面である表面(又は裏面)とは反対側の裏面(又は表面)をレーザ光入射面として、第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系243は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系242,243として、集光光学系210よりも特に高性能な光学系を用いることは不要である。
【0108】
このようなレーザ加工装置240では、加工対象物1において、第1レーザ光L1の照射方向の反対側及び加工対象物1の側面側から第2レーザ光L2を同時照射し、第1レーザ光L1の照射方向の反対側及び加工対象物1の側面側のそれぞれへ改質スポットSを成長させることが可能である。
【0109】
以上、レーザ加工装置240においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。また、レーザ加工装置240では、第2レーザ光L2が第1レーザ光L1の照射方向の反対側と加工対象物1の側面側とから照射されるため、改質スポットS及び亀裂が拡大していく方向を、第1レーザ光L1の照射方向の反対側と加工対象物1の側面側とへ制御可能(選択的誘導可能)になる。また、第2レーザ光L2が第1レーザ光L1の照射方向の反対側と加工対象物1の側面側とから照射されるため、抜け光による裏面ダメージを本質的に回避することが可能となる。
【0110】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0111】
図14に示される第2実施形態に係るレーザ加工装置300は、加工対象物1へのダメージ抑制を優先させた仕様の装置であって、加工対象物1に与えるダメージ(特に裏面ダメージ)を抑制しつつ加工対象物1を厚さ方向に沿って切断可能とする。レーザ加工装置300が上記レーザ加工装置200と装置構成で異なる点は、シリンドリカルレンズユニット211を備えていない点である。シリンドリカルレンズユニット211を備えずに第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の双方を回転対称のビームプロファイルとし、双方の伝搬経路及び集光点を一層一致させる。これにより、第1レーザ光L1により励起されて吸収率が一時的に上昇した一部領域に対して、第2レーザ光L2を一層効率的に作用させることが可能となる。
【0112】
レーザ加工装置300では、第1レーザ光L1の漏れ光の抑制が優先されている。第1レーザ光L1は、加工対象物1の吸収の大きい波長で急峻な立上がりの波形を有する。このような第1レーザ光L1によれば、第1ステージのみを最小限の漏れ光で実施できる。レーザ加工装置300では、第2レーザ光L2は、加工対象物1のバンドギャップ付近又はバンドギャップより長い波長、回転対称のビームプロファイル、大きなエネルギ、急峻な立ち上りのパルス波形、及び、長いパルス持続時間を有する。これにより、第1レーザ光L1の照射で一時的に吸収率が上昇している一部領域に時間的及び空間的に一致するよう、第2レーザ光L2を照射し、第2ステージを持続させ、溶融凝固領域11を拡大できる。
【0113】
ここでのレーザ加工装置300は、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2に関して、以下の特徴を有するように構成されている。
(波長)
第1レーザ光L1:1026~1064nm
第2レーザ光L2:1120~2000nm
(ビーム品質(エムスクエア値))
第1レーザ光L1:1.0
第2レーザ光L2:3.0未満
(パルス持続時間)
第1レーザ光L1:10~30ns
第2レーザ光L2:0.5~1μs
(パルス立上がり時間)
第1レーザ光L1:3ns未満
第2レーザ光L2:50ns未満
(パルス波形)
第1レーザ光L1:矩形波形又はガウス波形
第2レーザ光L2:後ろ上がり波形(自乗曲線)
(ピーク強度)
第1レーザ光L1:70W
第2レーザ光L2:150~250W
(繰返し周波数)
第1レーザ光L1:300kHz以下
第2レーザ光L2:300kHz以下
(照射タイミング)
第1レーザ光L1:任意
第2レーザ光L2:15~20ns後
(第1レーザ光L1の照射開始を起点)
(第1レーザ光L1のパルス幅、第1レーザ光L1
の立上り、及び、第2レーザ光L2の立上りに基
づき適宜に最適化)
(集光系)
第1レーザ光L1:集光優先
第2レーザ光L2:経路優先
(収差補正)
第1レーザ光L1:あり
第2レーザ光L2:なし
(ビームプロファイルの対称性)
第1レーザ光L1:回転対称(真円)
第2レーザ光L2:回転対称(真円)
(NA)
第1レーザ光L1:0.7以上
第2レーザ光L2:0.2~0.6
【0114】
以上、レーザ加工装置300においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置300では、単純且つ安価な光学系を用いて、抜け光を抑制し、加工対象物1へのダメージを抑制することが可能となる。
【0115】
図15は、第2実施形態の変形例に係るレーザ加工装置320の構成を示す概略図である。変形例に係るレーザ加工装置320が上記レーザ加工装置300(
図14参照)と異なる点は、第1レーザ光L1と対向するように第2レーザ光L2を照射する点である。レーザ加工装置320は、上記レーザ加工装置300に対して、ダイクロイックミラー209を備えず、集光光学系321を更に備える。レーザ加工装置320では、集光光学系210は、加工対象物1に対して第1レーザ光L1のみを集光する。
【0116】
集光光学系321は、第2ビームエキスパンダ206を通過してミラー214,215,322,323,324で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系321は、加工対象物1を介して集光光学系210と対向するように配置されている。集光光学系321は、集光光学系210のレーザ光入射面である表面(又は裏面)とは反対側の裏面(又は表面)をレーザ光入射面として、第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系321は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系321として、集光光学系210よりも特に高性能な光学系を用いることは不要である。
【0117】
このようなレーザ加工装置320では、加工対象物1において、第1レーザ光L1の照射方向の反対側から第2レーザ光L2を照射し、第1レーザ光L1の照射方向の反対側へ改質スポットSを成長させて形成することが可能である。
【0118】
以上、レーザ加工装置320においても、上記レーザ加工装置300による上述した作用効果を奏する。また、レーザ加工装置320では、第1レーザ光L1の照射方向の反対側から第2レーザ光L2を照射することで、改質スポットSの形成時に改質スポットS及び亀裂が拡大していく方向を、第1レーザ光L1の照射方向の反対側へ制御可能(選択的誘導可能)になる。第1レーザ光L1の照射方向の反対側から第2レーザ光L2を照射することで、抜け光による裏面ダメージを本質的に回避することが可能となる。
【0119】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0120】
図16に示される第3実施形態に係るレーザ加工装置400は、厚さ方向に長尺な改質スポットSを加工対象物1に形成可能とする。レーザ加工装置400が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、シリンドリカルレンズユニット211を備えていない点である。シリンドリカルレンズユニット211を備えずに第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の双方を回転対称のビームプロファイルとし、双方の伝搬経路及び集光点を一層一致させる。これにより、第1レーザ光L1により励起されて吸収率が一時的に上昇した一部領域に対して、第2レーザ光L2を一層効率的に作用させることが可能となる。
【0121】
ここでのレーザ加工装置400は、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2に関して、以下の特徴を有するように構成されている。
(波長)
第1レーザ光L1:1026~1064nm
第2レーザ光L2:1120~2000nm
(ビーム品質(エムスクエア値))
第1レーザ光L1:1.0
第2レーザ光L2:2.0未満
(パルス持続時間)
第1レーザ光L1:20~80ns
第2レーザ光L2:2~200μs
(パルス立上がり時間)
第1レーザ光L1:3ns未満
第2レーザ光L2:50ns未満
(パルス波形)
第1レーザ光L1:矩形波形又はガウス波形
第2レーザ光L2:後ろ上がり波形(自乗曲線)又は矩形波形
(ピーク強度)
第1レーザ光L1:70W
第2レーザ光L2:150~250W
(繰返し周波数)
第1レーザ光L1:300kHz以下
第2レーザ光L2:300kHz以下
(照射タイミング)
第1レーザ光L1:任意
第2レーザ光L2:15~20ns後
(第1レーザ光L1の照射開始を起点)
(集光系)
第1レーザ光L1:集光優先
第2レーザ光L2:経路優先
(収差補正)
第1レーザ光L1:あり
第2レーザ光L2:なし
(ビームプロファイルの対称性)
第1レーザ光L1:回転対称(真円)
第2レーザ光L2:回転対称(真円)あるいは任意形状断面
(NA)
第1レーザ光L1:0.7以上
第2レーザ光L2:0.4~0.6
【0122】
以上、レーザ加工装置400においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置400では、厚さ方向に長尺な改質スポットS及び改質領域7を形成することが可能となる。
【0123】
図17は、第3実施形態の変形例に係るレーザ加工装置420の構成を示す概略図である。変形例に係るレーザ加工装置420が上記レーザ加工装置400(
図16参照)と装置構成で異なる点は、第2レーザ光L2の光路上においてミラー215とダイクロイックミラー209との間に、シリンドリカルレンズユニット421及びビームシフター422を更に備える点である。
【0124】
シリンドリカルレンズユニット421は、上記シリンドリカルレンズユニット211(
図9参照)と同様に構成されている。ビームシフター422は、上記ビームシフター231(
図12参照)と同様に構成されている。このようなレーザ加工装置420では、第2レーザ光L2を平行ビームとして加工対象物1に照射できる。
【0125】
以上、レーザ加工装置420においても、上記レーザ加工装置400による上述した作用効果を奏する。また、レーザ加工装置420では、第2レーザ光L2を平行ビームとして加工対象物1に照射することで、第2レーザ光L2の入射面側に無制限に長い改質スポットSを形成することが可能となる。
【0126】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0127】
図18に示される第4実施形態に係るレーザ加工装置500は、加工対象物1のへき開方向によらずに、加工対象物1を切断可能とする。レーザ加工装置500が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、ビームシフター501及びビームシェイパー502を更に備える点である。
【0128】
ビームシフター501は、第2レーザ光L2の位置をシフトさせる。具体的には、ビームシフター501は、集光光学系210で集光された第2レーザ光L2の照射方向が集光光学系210の光軸に対して傾斜する傾斜方向となるように、第2レーザ光L2の位置をシフトさせる。ここでの傾斜方向は、加工対象物1に近づくに連れて、スキャン進行方向の後側から前側に傾斜する方向である。なお、ビームシフター501としては、特に限定されず、第2レーザ光L2の位置をシフトできれば、種々の光学素子を用いることができる。
【0129】
ビームシェイパー502は、第2レーザ光L2のビームプロファイルを、スキャン進行方向に非対称な異形プロファイルへ成形する。具体例としては、ビームシェイパー502は、集光光学系210で集光された第2レーザ光L2が、スキャン進行方向の前側が欠けた半円(スキャン進行方向において後側半分の半円)状のビームプロファイルとなるように、第2レーザ光L2のビームプロファイルを成形する。
【0130】
以上、レーザ加工装置500においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置500では、スキャン進行方向の前側の亀裂を抑制すると共に、スキャン進行方向の後側に亀裂を発生させることができる。加工対象物1のへき開方向によらずに、切断予定ライン5に沿って加工対象物1が切断可能となる。
【0131】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0132】
図19に示される第5実施形態に係るレーザ加工装置600は、結晶方位によらずに、厚さ方向に長尺な改質スポットSを加工対象物1に形成可能とする。レーザ加工装置600が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、第2レーザ光L2の光路上においてシリンドリカルレンズユニット211とダイクロイックミラー209との間に、ビームシフター602を更に備える点である。本実施形態の加工対象物1のへき開方向は、切断予定ライン5の延在方向に沿わず、切断予定ライン5と交差する。
【0133】
ビームシフター602は、上記ビームシフター231(
図12参照)と同様に構成されている。このようなレーザ加工装置600では、第2レーザ光L2を平行ビームとして加工対象物1に照射できる。本実施形態の制御部216は、第2レーザ光L2の照射タイミングを制御し、亀裂が生じないように溶融凝固領域11の凝固速度を制御する。
【0134】
以上、レーザ加工装置600においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置600では、第2レーザ光L2を平行ビームとして加工対象物1に照射し、へき開方向への亀裂の発生を抑制しながら、厚さ方向に長尺な改質スポットSを形成することができる。
【0135】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0136】
図20に示される第6実施形態に係るレーザ加工装置700は、廉価な装置構成を可能とする。レーザ加工装置700が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、第2アッテネータ204及びシリンドリカルレンズユニット601を備えず、第1光源201に代えて第1光源701を備え、第2光源202に代えて第2光源702を備える点である。
【0137】
第1光源701は、第1光源201(
図9参照)に対して出力が小さい光源である。第2光源702は、レーザダイオード、CW(Continuous Wave:連続発振)ファイバーレーザ、又は、QCW(Quasi Continuous Wave:準連続発振)ファイバーレーザを用いた光源である。一例として、第2光源702は、波長が1064nmでパルス持続時間が1μsの第2レーザ光L2を出射する。
【0138】
以上、レーザ加工装置700においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置700では、極めて安価な加工装置を構築可能となる。
【0139】
[第7実施形態]
次に、第7実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0140】
図21に示される第7実施形態に係るレーザ加工装置800は、加工対象物1を厚さ方向と直交(交差)する方向に沿って切断(スライシング)することを可能とする。レーザ加工装置800では、加工対象物1に設定されたスライス予定面に直交する方向からレーザ光L(第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2)を入射し、当該スライス予定面に沿う平面状の改質領域7を加工対象物1の内部に形成する。本実施形態の改質領域7は、スライシングする切断起点領域である。
【0141】
スライス予定面は、加工対象物1をスライシングするための仮想面であり、平面状に拡がる。スライス予定面は、平面状に限らず曲面状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。スライス予定面は、改質領域形成予定面である。改質領域形成予定面は、改質領域7の形成が予定される予定面である。
【0142】
レーザ加工装置800が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、第2レーザ光L2の光路上においてシリンドリカルレンズユニット211とダイクロイックミラー209との間に、ビームシフター801を更に備える点である。ビームシフター801は、上記ビームシフター231(
図12参照)と同様に構成されている。このようなレーザ加工装置600では、第2レーザ光L2を平行ビームとして加工対象物1に照射できる。本実施形態の制御部216は、第2レーザ光L2の照射タイミングを制御し、厚さ方向へは亀裂が生じないように溶融凝固領域11の凝固速度を制御する。
【0143】
レーザ加工装置800において、第1レーザ光L1は、バンドギャップ付近又はバンドギャップより長い波長、及び、急峻な立上がりのパルス波形を有する。第1レーザ光L1のパルス波形は、矩形波形又はガウス波形である。第1レーザ光L1は、加工対象物1におけるスライス予定面の深さ位置あるいはそれよりも深い深さ位置に、短時間のみ照射される。このような第1レーザ光L1の照射により、第1ステージの吸収現象をスライス予定面に最小限の高さ(厚さ方向の幅)で誘起する。
【0144】
一方、第2レーザ光L2は、基底状態の加工対象物1に対して吸収が無い波長を有する。第2レーザ光L2は、パルス波形を有する。第2レーザ光L2のパルス波形は、矩形波形又はガウス波形である。第2レーザ光L2は、加工対象物1に短時間で断続的に照射される。これにより、第2ステージを断続的に生じさせ、改質スポットSがスライス予定面からの厚さ方向に逸脱することを抑制する。これと共に、スライス予定面で分断を容易にするため、複数点同時照射等でスライス予定面に沿った改質領域7を形成する。厚さ方向への亀裂の進展を抑制する。
【0145】
ここでのレーザ加工装置800は、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2に関して、以下の特徴を有するように構成されている。
(波長)
第1レーザ光L1:1026~1064nm
第2レーザ光L2:1180~1700nm
(ビーム品質(エムスクエア値))
第1レーザ光L1:1.0
第2レーザ光L2:3.0未満
(パルス持続時間)
第1レーザ光L1:10~50ns
第2レーザ光L2:0.3~0.7μs
(パルス立上がり時間)
第1レーザ光L1:3ns未満
第2レーザ光L2:50ns未満
(パルス波形)
第1レーザ光L1:矩形波形又はガウス波形
第2レーザ光L2:矩形波形又はガウス波形
(ピーク強度)
第1レーザ光L1:70W
第2レーザ光L2:150~250W
(繰返し周波数)
第1レーザ光L1:300kHz以下
第2レーザ光L2:300kHz以下
(照射タイミング)
第1レーザ光L1:任意
第2レーザ光L2:20~30ns後
(複数パルス列)
(集光系)
第1レーザ光L1:集光優先
第2レーザ光L2:経路優先
(収差補正)
第1レーザ光L1:あり
第2レーザ光L2:なし
(ビームプロファイルの対称性)
第1レーザ光L1:回転対称(真円)
第2レーザ光L2:四角形状
(NA)
第1レーザ光L1:0.7以上
第2レーザ光L2:0.6以上
【0146】
以上、レーザ加工装置800においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置800では、改質領域7は、加工対象物1をスライシングする場合の切断起点領域である。これにより、改質領域7を切断の起点として加工対象物1をスライシングすることができる。
【0147】
図22は、第7実施形態の変形例に係るレーザ加工装置820の構成を示す概略図である。変形例に係るレーザ加工装置820が上記レーザ加工装置800(
図21参照)と異なる点は、加工対象物1の側面から第2レーザ光L2を照射する点である。レーザ加工装置820は、上記レーザ加工装置800に対して、ダイクロイックミラー209を備えず、集光光学系821を更に備える。レーザ加工装置820では、集光光学系210は、加工対象物1に対して第1レーザ光L1のみを集光する。
【0148】
集光光学系821は、シリンドリカルレンズユニット211を通過してミラー822,823を反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系821は、加工対象物1の側面と対向するように配置されている。集光光学系821は、加工対象物1の側面をレーザ光入射面として第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系821は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系821として、集光光学系210よりも特に高性能な光学系を用いることは不要である。
【0149】
レーザ加工装置820において、第1レーザ光L1は、バンドギャップ付近又はバンドギャップより長い波長、及び、急峻な立上がりのパルス波形を有する。第1レーザ光L1は、加工対象物1におけるスライス予定面に照射される。第1レーザ光L1は、ダメージ抑制条件を満たす。このような第1レーザ光L1の照射により、第1ステージの一時的な吸収領域の誘起を最小限に実施する。一方、第2レーザ光L2は、基底状態の加工対象物1に対して吸収が無い波長、大きなエネルギ、及び長いパルス持続時間を有する。第2レーザ光L2は、分断力優先条件を満たす。第2レーザ光L2は、ビームプロファイルがスライス予定面に沿っている。第2レーザ光L2は、スライス予定面に沿った方向から、スライス予定面に沿ったビームプロファイルで、スライス予定面に照射される。これにより、第2ステージを長時間持続させ、スライス予定面内において、溶融凝固領域11を拡大させ、大きな分断力を発生可能となる。
【0150】
ここでのレーザ加工装置820は、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2に関して、以下の特徴を有するように構成されている。
(波長)
第1レーザ光L1:1026~1064nm
第2レーザ光L2:1180~7500nm
(ビーム品質(エムスクエア値))
第1レーザ光L1:1.0
第2レーザ光L2:2.0未満
(パルス持続時間)
第1レーザ光L1:10~30ns
第2レーザ光L2:0.7~5μs
(パルス立上がり時間)
第1レーザ光L1:3ns未満
第2レーザ光L2:50ns未満
(パルス波形)
第1レーザ光L1:矩形波形又はガウス波形
第2レーザ光L2:後ろ上がり波形(自乗曲線)
(ピーク強度)
第1レーザ光L1:70W
第2レーザ光L2:150~250W
(繰返し周波数)
第1レーザ光L1:150kHz以下
第2レーザ光L2:150kHz以下
(照射タイミング)
第1レーザ光L1:任意
第2レーザ光L2:20~30ns後
(集光系)
第1レーザ光L1:集光優先
第2レーザ光L2:経路優先
(収差補正)
第1レーザ光L1:あり
第2レーザ光L2:深さに応じて対応
(ビームプロファイルの対称性)
第1レーザ光L1:回転対称(真円)
第2レーザ光L2:スライス予定面に沿って長尺
(NA)
第1レーザ光L1:0.7以上
第2レーザ光L2:0.05~0.4
【0151】
以上、レーザ加工装置820においても、上記レーザ加工装置800による上述した作用効果を奏する。また、レーザ加工装置820では、スライス予定面に沿う方向から第2レーザ光L2を照射することで、改質スポットS及び亀裂が拡大していく方向を、スライス予定面に沿う方向へ制御可能(選択的誘導可能)になる。
【0152】
[第8実施形態]
次に、第8実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0153】
図23に示される第8実施形態に係るレーザ加工装置900は、例えばインターポーザ又はマイクロ流路の製造に用いられる加工装置であって、加工対象物1において2次元状又は3次元状に延びる改質領域7を形成可能とする。本実施形態の改質領域7は、エッチング等が選択的に進展されて除去される除去予定領域である。レーザ加工装置900は、加工対象物1に対して第2レーザ光L2を多方向照射することにより、改質領域7を超高速に誘導する。
【0154】
レーザ加工装置900が上記レーザ加工装置200(
図9参照)と装置構成で異なる点は、ハーフミラー901,902、集光光学系903,904、及び、シャッタ907~909を更に備える点である。ハーフミラー901は、第2レーザ光L2の光路上においてシリンドリカルレンズユニット211とダイクロイックミラー209との間に配置されている。ハーフミラー901は、シリンドリカルレンズユニット211を通過した第2レーザ光L2の一部を反射すると共に、当該第2レーザ光2の他部を透過させる。
【0155】
ハーフミラー902は、第2レーザ光L2の光路上においてハーフミラー901の下流側に配置されている。ハーフミラー902は、ハーフミラー901で反射した第2レーザ光L2の一部を反射すると共に、当該第2レーザ光2の他部を透過させる。
【0156】
集光光学系903は、ハーフミラー902で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系903は、加工対象物1の側面と対向するように配置されている。集光光学系903は、加工対象物1の側面をレーザ光入射面として第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系903は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系904は、ハーフミラー902を透過してミラー905,906で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系904は、加工対象物1を介して集光光学系210と対向するように配置されている。集光光学系904は、集光光学系210のレーザ光入射面である表面(又は裏面)とは反対側の裏面(又は表面)をレーザ光入射面として、第2レーザ光L2を入射させる。集光光学系904は、集光光学系210と同様に構成されている。集光光学系903,904として、集光光学系210よりも特に高性能な光学系を用いることは不要である。
【0157】
シャッタ907~909は、第2レーザ光L2の遮断及び開放を制御する。シャッタ907は、例えば第2レーザ光L2の光路上においてハーフミラー901とダイクロイックミラー209との間に配置されている。シャッタ908は、例えば第2レーザ光L2の光路上においてハーフミラー902と集光光学系903との間に配置されている。シャッタ909は、例えば第2レーザ光L2の光路上においてハーフミラー902とミラー905との間に配置されている。
【0158】
本実施形態の制御部216は、シャッタ907~909の開閉を適宜切り替えることで、加工対象物1に対する第2レーザ光L2の多方向照射を実現する。例えば制御部216は、シャッタ907~909の何れかのみを適時に開くことで、加工対象物1に対して第2レーザ光L2を、加工対象物1の表面側、裏面側及び側面側のうちの何れかから照射可能とする。あるいは、第2レーザ光L2の照射方向の切替えを、複数の光源を組み合わせて適切なタイミングで発光させることにより実現してもよい。
【0159】
レーザ加工装置900において、第1レーザ光L1は、バンドギャップ付近又はバンドギャップより長い波長、及び、急峻な立上がりのパルス波形を有する。第1レーザ光L1は、加工対象物1の除去予定位置に照射される。このような第1レーザ光L1の照射により、第1ステージの一時的な吸収領域の誘起を最小限に実施する。一方、第2レーザ光L2は、基底状態の加工対象物1に対して吸収が無い波長、大きなエネルギ、及び長いパルス持続時間を有する。第2レーザ光L2は、加工対象物1の除去予定経路に沿って照射される。このような第2レーザ光L2の照射により、第2ステージを長時間持続し、エッチングに有効な改質領域7を任意の長さで形成する。
【0160】
除去予定経路は、加工対象物1に除去予定領域を形成するための仮想経路である。除去予定経路は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。除去予定経路は、改質領域形成予定経路である。改質領域形成予定経路は、改質領域7の形成が予定される経路である。
【0161】
ここでのレーザ加工装置900は、加工対象物1に照射される第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2に関して、以下の特徴を有するように構成されている。なお、ビア径とは、除去予定領域としての改質領域7における延在方向と直交する断面での径に対応する。
(波長)
第1レーザ光L1:1026~1064nm
第2レーザ光L2:1180~7500nm
(ビーム品質(エムスクエア値))
第1レーザ光L1:1.0
第2レーザ光L2:3.0未満
(パルス持続時間)
第1レーザ光L1:10~30ns
第2レーザ光L2:0.1~5μs
(パルス立上がり時間)
第1レーザ光L1:3ns未満
第2レーザ光L2:50ns未満
(パルス波形)
第1レーザ光L1:矩形波形又はガウス波形
第2レーザ光L2:後ろ上がり波形(自乗曲線)
(ピーク強度)
第1レーザ光L1:70W
第2レーザ光L2:80~180W
(繰返し周波数)
第1レーザ光L1:80kHz以下
第2レーザ光L2:80kHz以下
(照射タイミング)
第1レーザ光L1:任意
第2レーザ光L2:20~30ns後
(集光系)
第1レーザ光L1:集光優先
第2レーザ光L2:経路優先
(収差補正)
第1レーザ光L1:あり
第2レーザ光L2:深さ及びビア径に応じて対応
(ビームプロファイルの対称性)
第1レーザ光L1:回転対称(真円)
第2レーザ光L2:改質領域7に依存
(NA)
第1レーザ光L1:0.7以上
第2レーザ光L2:0.05~0.4
【0162】
以上、レーザ加工装置900においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。特にレーザ加工装置900では、改質領域7は、加工対象物1において2次元状又は3次元状に延びる除去予定領域である。この場合、改質領域7をエッチング等で選択的に除去し、加工対象物に2次元状又は3次元状に延びる空間を形成できる。
【0163】
レーザ加工装置900では、加工対象物1に対して第2レーザ光L2を所望な照射方向から照射し、改質領域7の進展を超高速で3次元的に誘導することができる。所望な3次元状の改質領域7を加工対象物1に形成することが可能となる。
【0164】
なお、レーザ加工装置900では、装置構成上の制約から、第2レーザ光L2の照射方向を除去予定経路の延びる方向に一致させることが困難な場合がある。この場合、第2レーザ光L2のパルス持続時間を短くし、当該第2レーザ光L2を断続的に照射してスキャンすることで、第2レーザ光L2の照射方向以外の方向に改質領域7を進展することも可能である。レーザ加工装置900の光学系は、
図23に示される構成に特に限定されず、加工対象物1に対して多方向照射が可能であれば、他の構成であってもよい。例えば、高速分岐ユニット(EOM又はAOM等)を用いることで、瞬間的に光路を切り替えることが可能であり、この場合、第2レーザ光L2の出力の利用効率を大幅に改善できる。
【0165】
図24は、第8実施形態の変形例に係るレーザ加工装置920の構成を示す概略図である。変形例に係るレーザ加工装置920が上記レーザ加工装置900(
図23参照)と装置構成で異なる点は、ダイクロイックミラー209、ハーフミラー901,902、集光光学系904、ミラー905,906及びシャッタ907~909を備えていない点である。レーザ加工装置920では、集光光学系210は、加工対象物1に対して第1レーザ光L1のみを集光する。レーザ加工装置920では、集光光学系903は、シリンドリカルレンズユニット211を通過してミラー921,922を反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。
【0166】
レーザ加工装置920において、第1レーザ光L1は、加工対象物1に吸収の大きい波長、及び、急峻な立上がりのパルス波形を有する。このような第1レーザ光L1を照射することにより、第1ステージのみを最小限の溶融凝固領域11で実施する。一方、第2レーザ光L2は、加工対象物1に対して完全に透明な波長、大きなエネルギ、及び、長いパルス持続時間を有する。このような第2レーザ光L2を照射することにより、第2ステージを長時間持続させ、エッチングに有効な改質領域7を形成すると共に、改質領域7を任意のサイズに拡大させる。
【0167】
以上、レーザ加工装置920においても、上記レーザ加工装置900による上述した作用効果を奏する。なお、レーザ加工装置920による加工では、加工対象物1の内部に切断起点領域として改質領域7を形成する場合と異なり、レーザ光Lを狭ピッチで3次元状にスキャンする。よって、スキャン速度を遅くし、加工ピッチを細かく刻むことで改質領域7を繋げることもできる。レーザ加工装置920による加工では、第2ステージで改質領域7をエッチングに有効な状態に促進できる。
【0168】
[第9実施形態]
次に、第9実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。
【0169】
図25に示される第9実施形態に係るレーザ加工装置1000は、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の加工対象物1への照射を、1つの光源1001で実現する。レーザ加工装置1000は、光源1001、外部変調器1002、分岐用光学素子1003、結合用光学素子1004、ミラー1005,1006、集光光学系1007及び制御部1008を備える。
【0170】
光源1001は、パルスレーザ光のレーザ光Lを出射(パルス発振)する。外部変調器1002は、光源1001が出射したレーザ光Lについて、下流側の変調器に適した分岐用光学素子1003で第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2として分岐されるように変調する。外部変調器1002としては、特に限定されず、種々の変調器を用いることができる。
【0171】
分岐用光学素子1003は、外部変調器1002で変調されたレーザ光Lが入射され、その短波長側あるいは水平又は垂直偏光を第1レーザ光L1として透過すると共に、その長波長側あるいは垂直又は水平偏光を第2レーザ光L2として反射する。分岐用光学素子1003は、例えばダイクロイックミラー又は偏光子である。結合用光学素子1004は、分岐用光学素子1003を透過した第1レーザ光L1を透過すると共に、分岐用光学素子1003を反射してミラー1005,1006で反射した第2レーザ光L2を反射する。結合用光学素子1004の構成は、分岐用光学素子1003の構成と同様である。
【0172】
集光光学系1007は、結合用光学素子1004を透過した第1レーザ光L1及び結合用光学素子1004で反射した第2レーザ光L2を加工対象物1に集光する。集光光学系1007は、上記集光光学系210(
図9参照)と同様に構成されている。制御部1008は、光源1001及び外部変調器1002の動作を制御する。制御部1008は、上記制御部216(
図9参照)と同様の機能を有する。光源1001、外部変調器1002及び制御部1008は、第1照射部及び第2照射部を構成する。
【0173】
このように構成されたレーザ加工装置1000では、光源1001からレーザ光Lが出射され、出射されたレーザ光Lは外部変調器1002で変調される。外部変調器1002で変調されたレーザ光Lの一部は、分岐用光学素子1003を第1レーザ光L1として透過する。外部変調器1002で変調されたレーザ光Lの他部は、分岐用光学素子1003で第2レーザ光L2として反射する。
【0174】
分岐用光学素子1003を透過した第1レーザ光L1は、結合用光学素子1004を透過し、集光光学系1007を介して加工対象物1に照射される。これにより、加工対象物1の一部領域の吸収率が一時的に上昇する。当該吸収率上昇期間Hにおいて、分岐用光学素子1003を反射した第2レーザ光L2は、ミラー1005,1006及び結合用光学素子1004を順次反射し、集光光学系1007を介して加工対象物1の一部領域に照射される。
【0175】
以上、レーザ加工装置1000においても、上記レーザ加工装置200による上述した作用効果を奏する。なお、レーザ加工装置1000では、同じ1つの光源1001を利用して構成することができる。
【0176】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。
【0177】
上記実施形態では、第2光源202は特に限定されず、安価で高出力なガスレーザやマルチモードレーザ光源であってもよい。第2光源202としては、例えば歯科用又は美容整形用に普及しているような波長が1.8~2.3μm領域のレーザ光源も利用可能である。また、第1光源201及び第2光源202の少なくとも何れかは、必ずしもレーザ光源でなくてもよく、インコヒーレントな光を出力するランプ等であってもよいし、プラズマ光源であってもよいし、マイクロ波を発生させるマイクロ波発振器であってもよい。
【0178】
上記実施形態では、第2光源202の数は特に限定されず、2つ以上の第2光源202を備えていてもよい。この場合、一部領域の吸収率が一時的に上昇している吸収率上昇期間Hに、複数の第2光源202それぞれから複数の第2レーザ光L2が順次に、複数の第2光源202の少なくとも一部が同時に照射される。
【0179】
上記実施形態では、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2を、加工対象物1の表面、裏面又は側面に対して垂直な垂直方向から入射させたが、これに限定されない。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の少なくとも何れかを、当該垂直方向に対して傾斜する傾斜方向から入射させてもよい。
【0180】
本発明に係る加工装置は、上述した加工以外の他の加工へ適用されてもよく、要は、加工対象物1に改質領域7を形成するものであればよい。改質領域7は、例えば加工対象物1の内部に形成された結晶領域、再結晶領域、又は、ゲッタリング領域であってもよい。結晶領域は、加工対象物1の加工前の構造を維持している領域である。再結晶領域は、一旦は蒸発、プラズマ化あるいは溶融した後、再凝固する際に単結晶あるいは多結晶として凝固した領域である。ゲッタリング領域は、重金属等の不純物を集めて捕獲するゲッタリング効果を発揮する領域であり、連続的に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよい。また、例えば加工装置は、アブレーション等の加工へ適用されてもよい。
【0181】
本発明は、レーザ加工装置、改質領域形成装置又はチップの製造装置として捉えるとこともできる。また、本発明は、加工方法、レーザ加工方法、改質領域形成方法又はチップの製造方法として捉えることもできる。上記実施形態及び上記変形例それぞれにおいては、他の上記実施形態及び上記変形例それぞれの構成のうちの少なくとも一部を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0182】
1…加工対象物、7…改質領域、100,200,220,230,240,300,320,400,420,500,600,700,800,820,900,1000…レーザ加工装置(加工装置)、201…第1光源(第1照射部)、202…第2光源(第2照射部)、216…制御部(第1照射部,第2照射部)、1001…光源(第1照射部,第2照射部)、1002…外部変調器(第1照射部,第2照射部)、1008…制御部(第1照射部,第2照射部)、L1…第1レーザ光(第1の光)、L2…第2レーザ光(第2の光)、S…改質スポット。