IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通テン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図1
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図2
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図3
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図4
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図5
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図6
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図7
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図8
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図9
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図10
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図11
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図12
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図13
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図14
  • 特許-レーダ装置及び信号処理方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】レーダ装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20221206BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20221206BHJP
【FI】
G01S13/66
G01S13/931
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018048877
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019158787
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸也
(72)【発明者】
【氏名】藤津 聖也
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-053611(JP,A)
【文献】特開2008-051615(JP,A)
【文献】特開2003-075531(JP,A)
【文献】特開2014-006776(JP,A)
【文献】特開2007-292541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前回検知された物標の今回検知における予測位置を算出する予測処理部を備えるレーダ装置であって、
前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外であるか否かを判断する判断部と、
前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、予め定められた条件が満たされるときに、前記予測位置を前回検知された物標と同一の物標の位置であると仮定する外挿処理を実行する外挿処理部と、
をさらに備える、レーダ装置。
【請求項2】
自車両の速度が所定値未満であることを前記条件として、
前記外挿処理部は、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、自車両の速度が所定値未満であるときに前記外挿処理を実行し、自車両の速度が所定値以上であるときに前記外挿処理を実行しない、請求項に記載のレーダ装置。
【請求項3】
自車両が駐車動作中であることを前記条件として、
前記外挿処理部は、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、自車両が駐車動作中であるときに前記外挿処理を実行し、自車両が駐車動作中でないときに前記外挿処理を実行しない、請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記レーダ装置の検知領域内であっても、前記レーダ装置の検知領域内と前記レーダ装置の検知領域外の境界に近い所定領域は前記レーダ装置の検知領域外であると仮定する、請求項1~のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記所定領域内で新規検出された物標に関しては、前記所定領域内で新規検出された物標が、前記所定領域を除く前記レーダ装置の検知領域内に移動するまでは、前記所定領域を例外的に前記レーダ装置の検知領域外であると仮定しない、請求項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記予測処理部は、前回検知された物標の今回検知における予測位置を前回検知された物標毎に算出し、
前記レーザ装置は、前記予測位置を含む割当領域を前記予測位置毎に設定する設定部をさらに備え、
第1の物標の前記予測位置に該当する第1の予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、第2の物標の前記予測位置に該当する第2の予測位置が前記レーダ装置の検知領域内であり、今回検知された物標が前記第1の予測位置を含む前記割当領域内且つ前記第2の予測位置を含む前記割当領域内に位置し、統計的距離について今回検知された物標の位置が前記第1の予測位置よりも前記第2の予測位置に近い場合に限り、前記第1の物標と同一の物標は今回検知されなかったと判断する、請求1~のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前回検知された物標の今回検知における予測位置を算出する予測処理工程を備えるレーダ装置の信号処理方法であって、
前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外であるか否かを判断する判断工程と、
前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、予め定められた条件が満たされるときに、前記予測位置を、前回検知された物標と同一の物標の位置であると仮定する外挿処理工程と、
をさらに備える、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置によって検知される物標を追従する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
前側方レーダ装置では、レーダ装置の向きと自車両の移動方向とが異なること、検知対象シーンとして自車両と他車両との出会い頭などのシーンがあることなどの理由から、物体がレーダ装置を横切るシーンが多い。そのような物体はレーダ装置の検知領域(FOV:field of view)内からFOV外に移動する。
【0003】
例えば、前側方レーダ装置がガードレールのポールを検知する場合、図14に示すひし形のように規則的に並んだ物標が検知される。ここで、注目物標を黒塗りのひし形で示すと、図14(a)~(c)においては自車両の前進に伴って自車両に対して相対的に後方に移動する注目物標を正しく追従している。なお、図14及び後述する図15において、角度θの範囲がFOV内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-81886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図14(d)~(f)においては注目物標の誤追従が生じている。この誤追従の原因は、前回検知した注目物標の物標データから今回検知における注目物標の予測位置(図15に示す白丸)が算出され、予測位置を含む割当領域(図15に示す白丸の位置が重心となる点線矩形)内で今回検知された物標を今回検知における注目物標としているためである。
【0006】
特許文献1では、誤ペアリングを防止するレーダ装置が開示されているが、特許文献1で開示されているレーダ装置は図14に示すような誤追従を防止するものではない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、レーダ装置によって検知される物標の誤追従を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーダ装置は、前回検知された物標の今回検知における予測位置を算出する予測処理部を備えるレーダ装置であって、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、前回検知された物標と同一の物標は今回検知されなかったと判断する判断部をさらに備える構成(第1の構成)である。
【0009】
上記第1の構成のレーダ装置において、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、前回検知された物標と同一の物標が前記予測位置に存在すると判断する外挿処理を実行する外挿処理部をさらに備える構成(第2の構成)であってもよい。
【0010】
上記第2の構成のレーダ装置において、前記外挿処理部は、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合でも、自車両の速度が所定値以上であれば、前記外挿処理を実行しない構成(第3の構成)であってもよい。
【0011】
上記第2の構成のレーダ装置において、前記外挿処理部は、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合でも、自車両が駐車動作中でなければ、前記外挿処理を実行しない構成(第4の構成)であってもよい。
【0012】
上記第1~第4いずれかの構成のレーダ装置において、前記レーダ装置の検知領域内であっても、前記レーダ装置の検知領域内と前記レーダ装置の検知領域外の境界に近い所定領域は前記レーダ装置の検知領域外であるとみなす構成(第5の構成)であってもよい。
【0013】
上記第5の構成のレーダ装置において、前記所定領域内で新規検出された物標に関しては、前記所定領域内で新規検出された物標が、前記所定領域を除く前記レーダ装置の検知領域内に移動するまでは、前記所定領域を例外的に前記レーダ装置の検知領域外であるとみなさない構成(第6の構成)であってもよい。
【0014】
上記第1~第6いずれかの構成のレーダ装置において、前記予測処理部は、前回検知された物標の今回検知における予測位置を前回検知された物標毎に算出し、前記レーザ装置は、前記予測位置を含む割当領域を前記予測位置毎に設定する設定部をさらに備え、第1の物標の前記予測位置に該当する第1の予測位置が前記レーダ装置の検知領域外であり、第2の物標の前記予測位置に該当する第2の予測位置が前記レーダ装置の検知領域内であり、今回検知された物標が前記第1の予測位置を含む前記割当領域内且つ前記第2の予測位置を含む前記割当領域内に存在し、統計的距離について今回検知された物標の位置が前記第1の予測位置よりも前記第2の予測位置に近い場合に限り、前記判断部は、前記第1の物標と同一の物標は今回検知されなかったと判断する構成(第7の構成)であってもよい。
【0015】
本発明に係る信号処理方法は、前回検知された物標の今回検知における予測位置を算出する予測処理工程を備えるレーダ装置の信号処理方法であって、前記予測位置が前記レーダ装置の検知領域外である場合に、前回検知された物標と同一の物標は今回検知されなかったと判断する判断工程をさらに備える構成(第8の構成)である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、レーダ装置によって検知される物標の誤追従を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】レーダ装置の構成例を示す図
図2】信号処理装置の動作を示すフローチャート
図3】ピーク角度の例を示す図
図4】連続性判定処理の第1例の概要を示すフローチャート
図5】連続性判定処理の第2例の概要を示すフローチャート
図6】レーダ装置のFOV及び限定領域を示す俯瞰図
図7】連続性判定処理の第3例の概要を示すフローチャート
図8】物標の瞬時値及び予測位置を示す俯瞰図
図9】物標の瞬時値及び予測位置を示す俯瞰図
図10】連続性判定処理の第4例の概要を示すフローチャート
図11】物標の瞬時値及び予測位置を示す俯瞰図
図12】物標の瞬時値及び予測位置を示す俯瞰図
図13】物標の瞬時値を示す俯瞰図
図14】物標の誤追従の例を示す俯瞰図
図15】物標の誤追従の例を示す俯瞰図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
<1.レーダ装置の構成>
図1は本実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載されている。以下、レーダ装置1が搭載される車両を「自車両」という。また、自車両の直進進行方向であって、運転席からステアリングに向かう方向を「前方」という。また、自車両の直進進行方向であって、ステアリングから運転席に向かう方向を「後方」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方向を向いている運転手の右側から左側に向かう方向を「左方向」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方向を向いている運転手の左側から右側に向かう方向を「右方向」という。
【0020】
レーダ装置1は自車両の左側面前方部に搭載されている。レーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の左前側方に存在する物標に係る物標データを取得する。
【0021】
レーダ装置1は、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離(以下、「物標の距離」という。) [m]、自車両に対する物標の相対速度[km/h]、自車両の前後方向における物標の距離(以下、「縦位置」という。)[m]、自車両の左右方向における物標の距離(以下、「横位置」という。)[m]などのパラメータを有する物標データを導出する。縦位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の前方では正の値、自車両の後方では負の値で表現される。横位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。
【0022】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部2と、受信部3と、信号処理装置4と、を主に備えている。
【0023】
送信部2は、信号生成部21と発信器22とを備えている。信号生成部21は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発信器22に供給する。発信器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ23に出力する。
【0024】
送信アンテナ23は、発信器22からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の左前側方に出力する。送信アンテナ23が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFMCWとなる。送信アンテナ23から自車両の左前側方に送信された送信波TWは、人、他車両などの物体で反射されて反射波RWとなる。
【0025】
受信部3は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32とを備えている。本実施形態では、受信部3は、例えば、4つの受信アンテナ31と4つの個別受信部32とを備えている。4つの個別受信部32は、4つの受信アンテナ31にそれぞれ対応している。各受信アンテナ31は物体からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。
【0026】
各個別受信部32は、ミキサ33とA/D変換器34とを備えている。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には送信部2の発信器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
【0027】
信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、フーリエ変換部43、及び、データ処理部44を備えている。送信制御部42は、送信部2の信号生成部21を制御する。
【0028】
フーリエ変換部43は、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これにより、フーリエ変換部43は、複数の受信アンテナ31それぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部43で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部44に入力される。
【0029】
図1に示すように、データ処理部44は、主な機能として、ピーク抽出部44a、方位演算部44b、ペアリング部44c、連続性判定部44d、フィルタ処理部44e、物標分類部44f、不要物標判定部44g、結合処理部44h、及び出力物標選択部44iを備えている。
【0030】
ピーク抽出部44aは、フーリエ変換部43による高速フーリエ変換結果においてピークとなるピーク周波数を抽出して方位演算部44bへ出力する。なお、ピーク抽出部44aは、アップ区間(送信波TWの周波数が上昇する区間)及びダウン区間(送信波TWの周波数が下降する区間)のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。
【0031】
方位演算部44bは、ピーク抽出部44aにおいて抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度を推定し、各ピーク周波数での信号強度(受信レベル)を算出する。
【0032】
ペアリング部44cは、方位演算部44bの推定結果及び算出結果に基づいてアップ区間及びダウン区間の正しい組み合わせを求め、組み合わせ結果から各物標の距離及び相対速度を算出する。また、ペアリング部44cは、各物標の推定角度、距離、及び相対速度を含む情報を、連続性判定部44dへ出力する。
【0033】
連続性判定部44dは、今回検知された物標の瞬時値に、前回検知された物標と連続性があるか否かを判定する。連続性判定部44dは、連続性判定部の物標に関する情報をフィルタ処理部44eへ出力する。連続性判定部44dは、予測処理部45、設定部46、判断部47、及び外挿処理部48を備えている。予測処理部45、設定部46、判断部47、及び外挿処理部48それぞれが実行する処理の詳細については後述する。
【0034】
フィルタ処理部44eは、検知された各物標について、連続性がとれた今回の瞬時値と予測値とを所定の重み係数により平滑化する。即ち、下記の式が成り立つ。なお、αは0より大きく1より小さい。
フィルタ後の物標データ=α×予測値データ+(1-α)×瞬時値データ
フィルタ処理部44eは、フィルタ処理後の物標に関する情報を物標分類部44fへ出力する。
【0035】
物標分類部44fは、フィルタ処理部44eのフィルタ処理結果等に基づき、各物標を移動物及び静止物に分類する。物標分類部44fは、分類結果を不要物標判定部44gへ出力する。
【0036】
不要物標判定部44gは、各物標について、システム制御上、不要となる物標であるか否かを判定する。不要となる物標は、例えば、位相折り返しゴースト、構造物、壁反射などである。なお、不要物標判定部44gによって不要と判定された物標は、基本的に外部装置への出力対象としないが、内部的には保持されていてよい。不要物標判定部44gは、不要と判定しなかった物標に関する情報を結合処理部44hへ出力する。
【0037】
結合処理部44hは、不要物標判定部44gによって不要と判定されなかった複数の物標のうち、同一物からの反射点であると推定されるものについて、1つの物標にまとめるグルーピングを行い、グルーピング結果を出力物標選択部44iへ出力する。
【0038】
出力物標選択部44iは、システム制御上、外部装置へ出力することが必要となる物標を選択する。出力物標選択部44iは、選択した物標に関する物標情報を外部装置へ出力する。
【0039】
外部装置は、例えば車両制御ECU5である。車両制御ECU5は、例えば、車速センサ6、舵角センサ7、スロットル8、及びブレーキ9に電気的に接続されている。車両制御ECU5は、レーダ装置1から取得した物標情報に基づいて、例えばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-crash Safety System)などの車両制御を行う。
【0040】
<2.信号処理装置の動作>
次に、信号処理装置4の動作について説明する。図2は、信号処理装置4の動作を示すフローチャートである。信号処理装置4は、図2に示す処理を一定時間(例えば、1/20秒)ごとに周期的に繰り返す。
【0041】
図2に示す処理の開始前に、送信制御部42による信号生成部21の制御が完了している。まず、フーリエ変換部43が、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換を実行する(ステップS1)。そして、4つの受信アンテナ31の全てに関してアップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部43からデータ処理部44に入力される。
【0042】
次に、ピーク抽出部44aが、周波数スペクトラムを対象にピーク周波数を抽出する(ステップS2)。ピーク抽出部44aは、周波数スペクトラムのうち、所定の閾値を超えるパワーを有するピークが表れる周波数を、ピーク周波数として抽出する。
【0043】
次に、方位演算部44bは、方位演算処理により、抽出したピーク周波数の信号に係る物標の角度を推定する。方位演算処理では、一つのピーク周波数の信号から、複数の角度、及びそれら複数の角度それぞれの信号のパワーが導出される。方位演算処理としては、ESPRIT、MUSIC、PRISMなどの周知の方位演算処理を用いることができる。
【0044】
図3は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。図中において、横軸は角度(deg)、縦軸は信号のパワーを示している。角度(deg)は、自車両の前方直進進行方向とレーダ装置1から物標に向かう方向とのなす角度であり、例えば物標が自車両の前方右側に存在する場合に正の値で表現され物標が自車両の前方左側に存在する場合に負の値で表現される。横位置は、例えば、自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点Oとし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度はピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」といい、ピーク角度の信号のパワーを「角度パワー」という。このように一つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、レーダ装置1から同一の距離(当該ピーク周波数に対応する距離)に存在する複数の物標の角度を示す。
【0045】
ペアリング部44cは、レーダ装置1から同一の距離に存在する複数の物標それぞれのピーク角度と、角度パワーとを導出する。これにより、ペアリング部44cは、自車両の左前側方に存在する複数の物標それぞれに対応する区間データを導出する。ペアリング部44cは、アップ区間及びダウン区間の双方で、ピーク周波数、ピーク角度、及び、角度パワーのパラメータを有する区間データを導出する。そして、ペアリング処理部44cは、アップ区間の区間データとダウン区間の区間データとを対応付けてアップ区間及びダウン区間の正しい組み合わせを求める(ステップS4)。ペアリング処理部44cは、例えば、マハラノビス距離を用いた演算を用いて、類似のパラメータ(ピーク周波数、ピーク角度、及び、信号のパワー)を有する2つの区間データを対応付ける。
【0046】
続いて、連続性判定部44dが、ペアリング処理の処理結果に基づき、連続性判定処理を行う(ステップS5)。その後、フィルタ処理部44eが、連続性判定処理の処理結果に基づき、フィルタ処理を行う(ステップS6)。
【0047】
続いて、物標分類部44fが、フィルタ処理の処理結果に基づき、物標分類処理を行う(ステップS7)。その後、不要物標判定部44gが、物標分類処理の処理結果に基づき、不要物標判定処理を行う(ステップS8)。
【0048】
そして、結合処理部44hが、不要物標判定処理の処理結果に基づき、結合処理を行う(ステップS9)。最後に、出力物標選択部44iが、結合処理の処理結果に基づき、出力物標選択処理を行い(ステップS8)、出力対象として選択された物標の物標情報を外部装置へ出力して、処理を終了する。
【0049】
<3.連続性判定処理の第1例>
図4は、連続性判定処理の第1例の概要を示すフローチャートである。図4に示すフローチャートは、前回検知された物標及び前回外挿処理された物標それぞれにおいて実行される。
【0050】
まず予測処理部45は、前回検知された物標又は前回外挿処理された物標(以下、前回物標という)の今回検知における予測位置を算出する(ステップS110)。即ち、前回物標データの位置と相対速度に基づき、今回の位置を予測する。次に、判断部47は、上記の予測位置がFOV外であるか否かを判定する(ステップS120)。
【0051】
上記の予測位置がFOV外である場合(ステップS120のYES)、判断部47は、ロスト処理を行う(ステップS130)。具体的には、判断部47は、前回検知された物標と同一の物標は今回検知されなかったと判断し、上記の予測位置をメモリ41から削除する。これにより、レーダ装置1は図14に示すような誤追従を防止することができる。ステップS130の処理が完了すると、図4に示すフロー動作が終了する。
【0052】
一方、上記の予測位置がFOV内である場合(ステップS120のNO)、設定部46は、上記の予測位置を含む割当領域を設定する(ステップS140)。割当領域は、自車両を俯瞰した二次元平面において、例えば、上記の予測位置が重心となる矩形にすればよい。
【0053】
割当領域内に今回検知した物標があれば(ステップS150のYES)、連続性判定部44dは、今回検知した物標は前回物標と連続性がある(同一の物標である)と判定する(ステップS160)。ステップS160の処理が完了すると、図4に示すフロー動作が終了する。なお、割当領域内の今回検知した物標が他の割当領域内にもあって他の割当領域の方に割り当てる場合には、ステップS160ではなくステップS170に移行すればよい。
【0054】
一方、割当領域内に今回検知した物標がなければ(ステップS150のNO)、外挿処理部48は、外挿処理を行う(ステップS170)。具体的には、外挿処理部48は、前回の検知された物標と同一の物標が上記の予測位置に存在すると判断する。なお、外挿処理で用いられる上記の予測位置は、フィルタ処理部44eによるフィルタ処理において物標の瞬時値として取り扱われない。ステップS170の処理が完了すると、図4に示すフロー動作が終了する。
【0055】
なお、外挿処理が所定回数連続すると、ロスト処理が実行されるようにすればよい。また、前回検知された全ての物標及び前回外挿処理された全ての物標と連続性がない今回検出された物標は新規物標となる。
【0056】
<4.連続性判定処理の第2例>
図5は、連続性判定処理の第2例の概要を示すフローチャートである。図5に示すフローチャートは、図4に示すフローチャートにおいてステップS130をステップS131に置換したものである。
【0057】
ステップS131では、外挿処理部48が外挿処理を行う。具体的には、外挿処理部48は、前回の検知された物標と同一の物標が上記の予測位置に存在すると判断する。なお、外挿処理で用いられる上記の予測位置は、フィルタ処理部44eによるフィルタ処理において物標の瞬時値として取り扱われない。ステップS131の外挿処理が完了すると、図5に示すフロー動作が終了する。
【0058】
つまり、図5に示すフローチャートでは、上記の予測位置がFOV外である場合(ステップS120のYES)、ステップS131の外挿処理が行われる。これにより、レーダ装置1は図14に示すような誤追従を防止することができる。
【0059】
<5.連続性判定処理の第3例及び第4例>
自車両が低速で走行している場合や自車両が駐車動作中である場合には、自車両の進行方向が大きく変化することがあり、今回検知における予測位置がFOV外であった物標がこの変化に伴ってFOV内に移動する可能性がある。したがって、自車両が低速で走行している場合や自車両が駐車動作中である場合には、ステップS130のロスト処理を行うよりもステップS131の外挿処理を行う方がより適切に物標を追従することができる。
【0060】
そこで、連続性判定処理の第3例では、連続性判定部44dは、自車両の速度が所定値を超えていれば、図4に示すフローチャートの動作を実行し、自車両の速度が所定値以下であれば、図5に示すフローチャートの動作を実行する。連続性判定部44dは自車両の速度情報を例えば車両制御ECU5から受け取ればよい。
【0061】
また、連続性判定処理の第4例では、連続性判定部44dは、自車両が駐車動作中でなければ、図4に示すフローチャートの動作を実行し、自車両が駐車動作中であれば、図5に示すフローチャートの動作を実行する。連続性判定部44dは自車両の挙動情報を例えば車両制御ECU5から受け取り、その挙動情報に基づき自車両が駐車動作中であるか否かを判定すればよい。また、車両制御ECU5が自動運転制御を行う場合、連続性判定部44dは自動運転制御の内容に関する情報を車両制御ECU5から受け取り、その自動運転制御の内容に関する情報に基づき自車両が駐車動作中であるか否かを判定すればよい。
【0062】
<6.連続性判定処理の第5例>
FOV内であっても、FOV内とFOV外の境界の近くでは物標が検知されにくい領域があるため、そのような領域はFOV外として取り扱う方が良い。そこで、連続性判定処理の第5例では、連続性判定部44dは、FOV内であっても、FOV内とFOV外の境界に近い所定領域A1(図6中の淡いグレー地の部分)はFOV外であるとみなす。また、連続性判定処理の第5例では、連続性判定部44dは、例えば図5に示すフローチャートの動作を実行する。但し、ステップS120の「FOV」の範囲が「所定領域A1」だけ狭くなる。即ち、ステップS120において、予測位置が限定領域A2外であるか否かが判定される。限定領域A2は、FOVから所定領域A1を除いた領域である。図6並びに後述する図8及び図9において角度θA2の範囲が限定領域A2内である。
【0063】
<7.連続性判定処理の第6例>
連続性判定処理の第6例では、連続性判定処理の第5例と同様に、連続性判定部44dは、FOV内であっても、FOV内とFOV外の境界に近い所定領域A1(図6中の淡いグレー地の部分)はFOV外であるとみなす。
【0064】
連続性判定処理の第5例では、FOV内とFOV外の境界に近い所定領域A1(図6中の淡いグレー地の部分)内にある新規物標が検出できる状態であっても、その新規物標を検出しないため、FOVから所定領域A1を除いた領域である限定領域A2に新規物標が移動した場合、新規物標の検出が遅れることになる。
【0065】
このような新規物標の検出遅れを防止するために、連続性判定処理の第6例では、連続性判定部44dは、所定領域A1内で新規検出された物標に関しては、所定領域A1内で新規検出された物標が、限定領域A2内に移動するまでは、所定領域A1を例外的にFOV外であるとみなさない。そして、連続性判定処理の第6例では、物標に係る物標データに対して限定領域内進入フラグを用意し、連続性判定部44dは、図7に示すフローチャートの動作を実行する。物標が一度でも限定領域A2に入った場合は限定領域内進入フラグをONにし、物標が一度も限定領域A2に入っていない場合は限定領域内進入フラグをOFFにする。
【0066】
図7に示すフローチャートは、図5に示すフローチャートにステップS121及びS122を追加したものである。なお、連続性判定処理の第6例では、連続性判定処理の第5例とは異なり、ステップS120の「FOV」の範囲が狭くならない。即ち、ステップS120において、予測位置が角度θの範囲である領域外であるか否かが判定される。以下、図7に示すフローチャートにおいて図5と異なる点について説明する。
【0067】
前回物標の今回検知における予測位置がFOV外でないと判断部47によって判定された場合(ステップS120のNO)、判断部47は前回物標の今回検知における予測位置が所定領域A1内であるか否かを判定する(ステップS121)。前回物標の今回検知における予測位置が所定領域A1内であれば(ステップS121のYES)、ステップS122に移行する。一方、前回物標の今回検知における予測位置が所定領域A1内でなければ(ステップS121のNO)、ステップS140に移行する。
【0068】
ステップS122において、連続性判定部44dは、前回物標の限定領域内進入フラグがONであるか否かを確認する。前回物標の限定領域内進入フラグがONであれば(ステップS122のYES)、ステップS131に移行する。一方、前回物標の限定領域内進入フラグがOFFであれば(ステップS122のNO)、ステップS140に移行する。
【0069】
例えば、図8に示すように新規物標の瞬時値P1が所定領域A1内で検出され、次回の予測位置P2も所定領域A1内である場合、図7のステップS121での判定結果が「YES」となって図7のステップS122に進む。このとき、限定領域内進入フラグ(以下、フラグという)はOFFであるため、図7のステップS122での判定結果が「NO」となって図7のステップS140に進んで連続性判定部44dが通常の連続性判定を行う。
【0070】
その後、図8に示すように連続性がとられた物標の瞬時値P3が限定範囲A2に侵入すると、フラグがONになる。そして、フラグがONになった後、予測位置P4が所定領域A1内に移動すると、図7のステップS121での判定結果が「YES」となって図7のステップS122に進む。このとき、フラグはONであるため、図7のステップS122での判定結果が「YES」となって図7のステップS131に進んで外挿処理部47が強制的に外挿処理を行う。
【0071】
一方、図8に示すように新規物標の瞬時値P1が所定領域A1内で検出され、次回の予測位置P2’がFOV外である場合、図7のステップS120での判定結果が「YES」となって図7のステップS131に進んで外挿処理部47が強制的に外挿処理を行う。
【0072】
また例えば、図9に示すように新規物標の瞬時値P11が限定領域A2内で検出され、次回の予測位置P12が所定領域A1内である場合、図7のステップS121での判定結果が「YES」となって図7のステップS122に進む。このとき、フラグはONであるため、図7のステップS122での判定結果が「YES」となって図7のステップS131に進んで外挿処理部47が強制的に外挿処理を行う。
【0073】
一方、図9に示すように新規物標の瞬時値P11が限定領域A2内で検出され、次回の予測位置P12’がFOV外である場合、図7のステップS120での判定結果が「YES」となって図7のステップS131に進んで外挿処理部47が強制的に外挿処理を行う。
【0074】
<8.連続性判定処理の第7例>
連続性判定処理の第7例では、連続性判定部44dは、図10に示すフローチャートの動作を実行する。図10に示すフローチャートは、図5に示すフローチャートにステップS123を追加したものである。
【0075】
前回物標の今回検知における予測位置がFOV外であると判断部47によって判定された場合(ステップS120のYES)、連続性判定部44dは、競合物標データの方が割当尤度が高いか否かを確認する(ステップS123)。そして、競合物標データの方が割当尤度が高ければ、ステップS131に移行し、競合物標データの方が割当尤度が高くなければ、ステップS140に移行する。なお、「競合物標データの方が割当尤度が高い」とは、ステップS110で算出した予測位置と今回検知した物標との距離よりも、ステップS110での算出対象とは別の物標である競合物標の予測位置と今回検知した物標との統計的距離(例えばマハラノビス距離)の方が近いことを意味している。即ち、割当尤度が高いとする判定は、ユークリッド距離が近いだけでなく、予測位置に対応する物標と今回検知した物標の瞬時値との相対速度差が小さいことや受信パワー差が小さいことも含めて総合的に判定される。以下では、代表してユークリッド距離で説明を進める。
【0076】
ここで、図11及び図12に示すように第1の物標(図10のステップS110での算出対象)の予測位置に該当する第1の予測位置P21がFOV外であり、第2の物標(競合物標)の予測位置に該当する第2の予測位置P22がFOV内であり、今回検知された物標の瞬時値P23が第1の予測位置P21を含む割当領域R1内且つ第2の予測位置P22を含む割当領域R2内に存在する状況について考察する。
【0077】
上記の状況で図11に示すように今回検知された物標の瞬時値P23が第1の予測位置P21よりも第2の予測位置P22に近い場合は、図10のステップS123での判定結果が「YES」となって図10のステップS131に進んで外挿処理部47が強制的に外挿処理を行う。一方、上記の状況で図12に示すように今回検知された物標の瞬時値P23が第2の予測位置P22よりも第1の予測位置P21に近い場合は、図10のステップS123での判定結果が「NO」となって図10のステップS140に進んで連続性判定部44dが通常の連続性判定を行う。よって、今回検知された物標の瞬時値P23が第1の予測位置P21よりも第2の予測位置P22に近い場合に限り、判断部47は、第1の物標と同一の物標は今回検知されなかったと判断することになる。これにより、例えば自車両の左横にガードレールがある場合に、ガードレールに対応する物標のうちFOVから出て行く第1の物標については誤追従することを防止できるとともに、ガードレールに対応する物標のうちFOV内に留まっている第2の物標(競合物標)については漏れなく追従できる。
【0078】
また例えば、図11及び図12とは異なり、図13に示すように第1の物標(図10のステップS110での算出対象)の瞬時値P31はFOV内で検出されたが、第2の物標(競合物標)の瞬時値はFOV内で検出されなかった場合、第2の物標(競合物標)が存在しないので、図10のステップS123での判定結果が「NO」となって図10のステップS140に進んで連続性判定部44dが通常の連続性判定を行う。これにより、例えば自車両の左横に他車両が並走状態で留まっている場合でも、その他車両に対応する物標を追従することができる。
【0079】
<9.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0080】
例えば、上述した実施形態ではレーダ装置1はFMCW方式のレーダ装置であったが、他の方式のレーダ装置を用いてもよい。例えば、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式のレーダ装置を用いてもよい。
【0081】
例えば、上述した実施形態ではレーダ装置1は前側方レーダ装置であったが、本発明によれば、物標がFOV内からFOV外に移動する場合の誤追従を防止することができるので、前側方レーダ装置以外のレーダ装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 レーダ装置
44d 連続性判定部
45 予測処理部
46 設定部
47 判断部
48 外挿処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15