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特許7188905セルロースナノファイバーの製造方法と製造装置
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  • 特許-セルロースナノファイバーの製造方法と製造装置 図1
  • 特許-セルロースナノファイバーの製造方法と製造装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーの製造方法と製造装置
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20221206BHJP
   B03C 1/28 20060101ALI20221206BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20221206BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
D21H11/18
B03C1/28 105
B03C1/00 A
B03C1/00 B
C08B15/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018079549
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019189664
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正成
(72)【発明者】
【氏名】三浦 繁之
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0177066(US,A1)
【文献】特開2016-132848(JP,A)
【文献】特開2013-100613(JP,A)
【文献】特開2016-191162(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150185(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
C08B1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロースを原料として、微細セルロース繊維が所望の溶媒中に分散しているセルロース繊維の分散体を得るセルロースナノファイバーの製造方法において、
セルロースナノファイバーの原料スラリーを貯留させた原料タンク内を撹拌装置で撹拌し、
前記原料タンクに接続させた循環ポンプにより、原料タンクから排出させた原料スラリーを該循環ポンプの吐出側に接続させた戻し管を介して該原料タンクに返還させて、循環ポンプと原料タンクとの間で原料スラリーを循環させ、
前記戻し管の途中に磁石を有する磁性体吸着手段を配して、原料スラリーに混入している磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させ、
処理対象の原料スラリーを前記循環ポンプと原料タンクとの間で所望時間循環させて異物が除去処理された原料スラリーを排出して次工程へ供給し、
次の処理対象の原料スラリーを原料タンクに供給して、前記戻し管を介して該原料スラリーを前記原料タンクと前記循環ポンプとの間で所望時間循環させて異物の除去処理を行って次工程へ供給することを繰り返して、
バッチ処理により磁性体若しくは磁性体を含む異物を除去することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記戻し管の途中に分岐部を設けて供給管を分岐させ、所望時間の循環後に該供給管を介して次工程へ原料スラリーを供給することを特徴とする請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
磁性体吸着手段を前記循環ポンプと前記分岐部との間に配して、磁性体若しくは磁性体を含む異物の吸着を行うことを特徴とする請求項2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記分岐部の下流側の前記戻し管に戻し側切替弁を配し、
該戻し側切替弁の下流側に磁性体吸着手段を配して、磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記供給管に供給側切替弁を配し、
前記供給側切替弁の下流側に磁性体吸着手段を配して、磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させることを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
天然セルロースを原料として、微細セルロース繊維が所望の溶媒中に分散しているセルロース繊維の分散体を得るセルロースナノファイバーの製造装置において、
セルロースナノファイバーの原料スラリーを貯留させる原料タンクと、
前記原料タンク内の原料スラリーを撹拌する撹拌装置と、
原料スラリーを原料タンクから排出させて原料タンクへ返還する、循環ポンプと戻し管とを含む原料スラリー循環路と、
前記原料スラリー循環路の途中に配した磁石を有する磁性体吸着手段とからなり、
処理対象の原料スラリーを前記原料スラリー循環路を介して原料タンクと循環ポンプとの間を循環させながら前記磁性体吸着手段により磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させて処理された原料スラリーを排出して次工程へ供給し、
次の処理対象の原料スラリーを原料タンクに供給して、前記原料スラリー循環路を介して該原料スラリーを前記原料タンクと前記循環ポンプとの間で循環させて磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させて次工程へ供給することを繰り返す、バッチ処理することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造装置。
【請求項7】
前記戻し管の途中に分岐部を設けて供給管を分岐させ、所望時間の循環後に該供給管を介して次工程へ原料スラリーを供給することを特徴とする請求項6に記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【請求項8】
前記磁性体吸着手段は、前記循環ポンプと前記分岐部との間に配してあることを特徴とする請求項7に記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【請求項9】
前記循環ポンプから吐出された原料スラリーを戻し管と供給管との一方または両方へ供給することを切り替える管路切替手段を設けたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【請求項10】
前記管路切替手段は、前記分岐部の下流側の戻し管に配した戻し側切替弁と、前記供給管に配した供給側切替弁とからなることを特徴とする請求項9に記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【請求項11】
前記管路切替手段は、前記分岐部に配した三方弁であることを特徴とする請求項9に記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【請求項12】
前記管路切替手段の下流側の戻し管と供給管とのいずれか一方または両方に前記磁性体吸着手段を配してあることを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれかに記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロースナノファイバーの製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を極限まで細くしてナノオーダーの繊維、いわゆるナノファイバーが非常に注目されている。この種のナノファイバーのうちのセルロースナノファイバーは木材繊維から生成される植物繊維由来のものであるから、再生可能な資源であり、生産・廃棄に関する環境負荷が小さいことから、種々の分野において注目されている。
【0003】
セルロースナノファイバーは、1000nm以下のナノレベルの繊維径を持つ繊維であり、その分散液は高い透明性を有している。このため透明性を求められる用途、例えば、光学フィルム、フィルム用コーティング剤、ガラスへの複合化等への応用が期待されている。
【0004】
このセルロースナノファイバーは、一般的には化学変性したセルロース繊維を機械的せん断力で解繊することにより得ることができる(特許文献1参照)。なお、セルロースナノファイバーの製造方法に関しては、特許文献1に記載されている製造方法を含め、様々な製造方法が検討されている。
【0005】
セルロース繊維は、針葉樹系や広葉樹系の木材パルプや綿系パルプ、麦わらパルプ等の非木材系パルプ等から単離される天然セルロースを原料とし、酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程と不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、この含水反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程により得られる。また、原料となる天然セルロースは汎用的に入手可能であることが好ましく、汎用的に入手できるものであることから、様々な不純物が含有されているおそれがある。特許文献1には、精製工程にいて、ストレーナー等の装置による水洗とろ過とを繰り返すことで高純度の反応物繊維と水の分散体を得るようにしている。
【0006】
また、特許文献2には、紙の製造過程において、原料、てん料又は紙料に混入された異物を除去するための異物除去機能を有する流送部を備えた製紙用チェストが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-1728号公報
【文献】特開2016-132848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、不純物その他の異物が混入した場合、製品の品質を低下させてしまうことは勿論、特に一定の粒径以上の磁性体若しくは磁性体を含む異物が混入した場合には、解繊装置への詰まりによる稼働停止や装置を破損させたりしてしまうおそれがある。前述したろ過による場合であっても、ストレーナーの開口はパルプ繊維を通過させてしまう大きさとすることができず、パルプ繊維の通過を許容しない大きさの開口とすると、解繊装置に影響を及ぼす粒径の磁性体若しくは磁性体を含む異物を除去できなくなってしまう。
【0009】
また、ミリ単位の繊維を処理する製紙工程における異物を除去する方法を、ナノオーダーの繊維を処理する必要があるセルロースナノファイバーの製造工程に転用することは不都合があり、特許文献2に開示された異物除去機能を備えた装置によって製造されたセルロースナノファイバーには異物の混入が避けられない。
【0010】
そこで、この発明は、微細な磁性体若しくは磁性体を含む異物であっても極力除去して解繊装置の稼働が影響されることがないようにするセルロースナノファイバーの製造方法と製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するための技術的手段として、この発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、天然セルロースを原料として、微細セルロース繊維が所望の溶媒中に分散しているセルロース繊維の分散体を得るセルロースナノファイバーの製造方法において、セルロースナノファイバーの原料スラリーを貯留させた原料タンク内を撹拌装置で撹拌し、前記原料タンクに接続させた循環ポンプにより、原料タンクから排出させた原料スラリーを該循環ポンプの吐出側に接続させた戻し管を介して該原料タンクに返還させて、循環ポンプと原料タンクとの間で原料スラリーを循環させ、前記戻し管の途中に磁石を有する磁性体吸着手段を配して、原料スラリーに混入している磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させ、処理対象の原料スラリーを前記循環ポンプと原料タンクとの間で所望時間循環させて異物が除去処理された原料スラリーを排出して次工程へ供給し、次の処理対象の原料スラリーを原料タンクに供給して、前記戻し管を介して該原料スラリーを前記原料タンクと前記循環ポンプとの間で所望時間循環させて異物の除去処理を行って次工程へ供給することを繰り返して、バッチ処理により磁性体若しくは磁性体を含む異物を除去することを特徴としている。
【0012】
また、この製造方法を実施するに際して、戻し管の途中に分岐部を設けて供給管を分岐させ、所望時間の循環後に該供給管を介して次工程へ原料スラリーを供給することができる。
【0013】
また、磁性体吸着手段を循環ポンプと分岐部との間に配して、磁性体若しくは磁性体を含む異物の吸着を行うようにすることが好ましい。
【0014】
また、分岐部の下流側の戻し管に戻し側切替弁を配し、該戻し側切替弁の下流側に磁性体吸着手段を配して、磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させることが好ましい。
【0015】
また、供給管に供給側切替弁を配し、該供給側切替弁の下流側に磁性体吸着手段を配して、磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させることが好ましい。
【0016】
また、この発明に係るセルロースナノファイバーの製造装置は、天然セルロースを原料として、微細セルロース繊維が所望の溶媒中に分散しているセルロース繊維の分散体を得るセルロースナノファイバーの製造装置において、セルロースナノファイバーの原料スラリーを貯留させる原料タンクと、前記原料タンク内の原料スラリーを撹拌する撹拌装置と、原料スラリーを原料タンクから排出させて原料タンクへ返還する、循環ポンプと戻し管とを含む原料スラリー循環路と、前記原料スラリー循環路の途中に配した磁石を有する磁性体吸着手段とからなり、処理対象の原料スラリーを前記原料スラリー循環路を介して原料タンクと循環ポンプとの間を循環させながら前記磁性体吸着手段により磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させて処理された原料スラリーを排出して次工程へ供給し、次の処理対象の原料スラリーを原料タンクに供給して、前記原料スラリー循環路を介して該原料スラリーを前記原料タンクと前記循環ポンプとの間で循環させて磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させて次工程へ供給することを繰り返す、バッチ処理することを特徴としている。
【0017】
また、循環ポンプから吐出された原料スラリーを戻し管と供給管との一方または両方へ供給することを切り替える管路切替手段を設けることが好ましい。
【0018】
管路切替手段は、分岐部の下流側の戻し管に配した戻し側切替弁と、供給管に配した供給側切替弁とからなるものとすることができる。
【0019】
また、管路切替手段は、分岐部に配した三方弁とすることができる。
【0020】
また、管路切替手段の下流側の戻し管と供給管とのいずれか一方または両方に磁性体吸着手段を配することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法と製造装置によれば、原料タンク内に貯留された原料スラリーを撹拌しながら原料スラリー循環路を介して循環させ、該原料スラリー循環路の途中に磁性体吸着手段を配したから、原料スラリー循環路を流れる原料スラリーに混入された磁性体若しくは磁性体を含む異物が磁性体吸着手段に吸着されて捕捉される。しかも、磁石の吸着によるから、原料スラリー内の繊維を損傷させることがなく、しかも繊維の大きさとは無関係に、ストレーナー等では除去できない細かな磁性体若しくは磁性体を含む異物であっても除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法と製造装置とを説明するためのセルロースナノファイバーの製造装置の概略の構成を示す概略図である。
図2】この発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法と製造装置によって異物の除去を実施した場合の効果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1に概略を示す好ましい実施形態に基づいて、この発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法と製造装置を具体的に説明する。
【0024】
この発明に係るセルロースナノファイバー製造装置1は、処理対象の原料スラリーSを貯留する原料タンク2と循環ポンプ3、磁性体吸着手段4a、4b、原料タンク2の内部を撹拌する撹拌装置8とを主体として構成されている。なお、このセルロースナノファイバー製造装置1で処理された原料スラリーSを次工程に供給することを要するので、そのため装置として、切替弁5、6と磁性体吸着手段7とを設けることが好ましい。
【0025】
原料タンク2には原料スラリーSが供給されて貯留される。貯留されている原料スラリーSは撹拌装置8によって撹拌される。なお、撹拌装置8は原料タンク2に貯留された原料スラリーSに浸された撹拌羽根8aが、駆動モータ8bの回転軸8cを介して回転することにより原料スラリーSを撹拌するようにしてある。この原料タンク2には、吸込側配管9を介して循環ポンプ3の吸込口が接続されている。
【0026】
循環ポンプ3の吐出口には戻し管10が接続されており、この戻し管10の開放端10aが原料タンク2に臨んで配されている。あるいは、この開放端10aが原料タンク2に接続されている。このため、原料タンク2に貯留されている原料スラリーSは、循環ポンプ3により吐出されて戻し管10を通って原料タンクに返還されるよう、原料タンク2と循環ポンプ3との間を循環することになる。すなわち、前記吸込側配管9と循環ポンプ3、戻し管10とにより原料スラリー循環路が形成されている。
【0027】
戻し管10の途中には分岐部11が設けられており、この分岐部11には供給管12が接続されている。この分岐部11よりも下流側の戻し管10に前記切替弁5、6のうちの戻し側切替弁5が配されており、供給管12に供給側切替弁6が配されている。なお、供給管12を介して原料スラリーSが解繊工程13等の次工程へ供給されることになり、解繊工程13からさらに後段工程14へ供給される。
【0028】
前記磁性体吸着手段4aは循環ポンプ3の吐出口と分岐部11との間の戻し管10に配された吐出側磁性体吸着手段4aであり、磁性体吸着手段4bは戻し側切替弁5の下流側に配された戻し側磁性体吸着手段4bとされている。なお、これら磁性体吸着手段4a、4bは両方を配することが好ましいが、いずれか一方であっても構わない。また、磁性体吸着手段7は供給側切替弁6の下流側に配された供給側磁性体吸着手段7とされている。
【0029】
これら磁性体吸着手段4a、4b、7はステンレス等で形成されたケース内に永久磁石を収容させた構造で、配管の内部に配されて該配管内を流れる流体がこの磁性体吸着手段4a、4b、7に接触し、流体に混入されている磁性体若しくは磁性体を含む異物を磁石によって吸着して捕捉するものである。配管の呼び径に応じて種々の形状があり、棒状や格子状のものがある。また、ケースの材質には流体の性質等に対して耐摩耗性等が良好なものが用いられる。磁石により捕捉された磁性体若しくは磁性体を含む異物はこのケースの外面に吸着されている。
【0030】
以上により構成されたこの発明に係るセルロースナノファイバーの製造装置の作用を説明し、併せてこの製造装置によるセルロースナノファイバー製造方法を説明する。
【0031】
前記戻し側切替弁5を開放し、供給側切替弁6を閉止させた状態とする。原料タンク2内に貯留された原料スラリー2は撹拌装置8の撹拌羽根8aの回転によって撹拌される。また、循環ポンプ3の作動によって、吸込側配管9を通って吸込口から吸い込まれ、吐出口から戻し管10に排出される。戻し管10を流れる原料スラリーSが吐出側磁性体吸着手段4aが配されている箇所を通過する際には、原料スラリーSに混入している鉄等の磁性体若しくは磁性体を含む異物がこの吐出側磁性体吸着手段4aの磁石に吸着されて捕捉され、該磁性体若しくは磁性体を含む異物が下流へ流れて行くことが阻止される。分岐部11に至った原料スラリーSは、供給側切替弁6が閉止されて戻し側切替弁5が開放されているから、戻し管10を流れることになる。このため、戻し側磁性体吸着手段4bが配されている箇所を通過することになり、この戻し側磁性体吸着手段4bによっても混入された磁性体若しくは磁性体を含む異物が吸着され捕捉されて原料スラリーSから分離される。戻し管10を流れる原料スラリーSは原料タンク2に開放端10aから返還されて、原料タンク2と循環ポンプ3との間を循環しながら、原料タンク2内で撹拌装置8による撹拌作用に供される。
【0032】
循環途中で原料スラリーSは磁性体吸着手段4a、4bが配されている箇所を通過するから、通過する度毎に混入している磁性体若しくは磁性体を含む異物が分離されて、原料スラリーSと共に流れることが阻止される。適宜回数あるいは適宜時間を循環させて、混入された磁性体若しくは磁性体を含む異物の量が、次工程に供する際の許容値以下となったならば、戻し側切替弁5を閉止し、供給側切替弁6を開放する。これにより、循環ポンプ3から吐出された原料スラリーSは、吐出側磁性体吸着手段4aが配された箇所を通過する際に磁性体若しくは磁性体を含む異物が吸着されて捕捉された後に、供給管12を流れることになる。この供給管12の流れの途中で供給側磁性体吸着手段7が配されている箇所を通過する際には、混入している磁性体若しくは磁性体を含む異物が吸着され捕捉されて分離される。この原料スラリーSが解繊工程13等の次工程に供給される。例えば、解繊工程13に供給された原料スラリーSは、高圧ホモジナイザー等の解繊装置に供されて、機械的せん断力を受けて解繊される。
【0033】
前述したように、原料スラリーSを戻し管10に流して循環させている間は供給側切替弁6が閉止されているので、この供給側切替弁6の下流の部分の供給管12には原料スラリーSが流れない。このため、この循環処理時には、供給側磁性体吸着手段7を供給管12から取り出して、清掃することにより捕捉された磁性体若しくは磁性体を含む異物を除去することができる。他方、原料スラリーSを解繊工程13へ供給している間は戻し側切替弁5が閉止されているので、この戻し側切替弁5の下流の部分の戻し管10には原料スラリーSが流れない。このため、この供給処理時には、戻し側磁性体吸着手段4bを戻し管10から取り出して、清掃して捕捉された磁性体若しくは磁性体を含む異物を除去することができる。
このように戻し側磁性体吸着手段4bと供給側磁性体吸着手段7とを取り出せるように、これらが配されている箇所の配管を戻し管10と供給管12とに対して着脱自在とする。すなわち、これらの磁性体吸着手段4b、7はそれぞれ戻し側切替弁5の下流側と供給側切替弁6の下流側に配することで、容易に清掃することができるものである。
【0034】
さらに、磁性体若しくは磁性体を含む異物を原料スラリーSから分離させる循環処理はバッチ式での処理となるから、原料タンク2内の原料スラリーSが解繊工程13へ供給された後には空となった原料タンク2に新たな処理すべき原料スラリーSが供給されることになる。この原料スラリーSが供給される間は、循環ポンプ3は停止しているから、循環ポンプ3から原料スラリーSは吐出されず、このため、吐出側磁性体吸着手段4aを取り出すことができる。したがって、原料スラリーSを原料タンク2に供給している間に、吐出側磁性体吸着手段4aを取り出して清掃することができる。なお、循環ポンプ3の吸込側または吐出側に閉止弁を設置する場合には、この閉止弁を閉止させることにより、磁性体吸着手段4a、4b、7を同時に清掃することができる。
【0035】
また、前述した説明では、戻し側切替弁5を開放または閉止とし、供給側切替弁6を閉止または開放として説明したが、原料スラリーSを解繊工程13へ供給する場合には、例えば、戻し側切替弁5と供給側切替弁6のいずれもを半開として、原料スラリーSの一部を循環させながら解繊工程13へ供給するようにすることもできる。
【0036】
また、分岐部11に三方弁を設けることもでき、循環ポンプ3の吐出側を戻し管10と供給管12とのいずれか一方に接続させることができる。三方弁を用いる場合には、戻し側切替弁5と供給側切替弁6とを配する必要がない。
【0037】
以上に説明した実施形態では、循環処理時と次工程への供給処理時とのいずれにも原料スラリーSの供給を循環ポンプ3を用いて行うものとして説明したが、循環処理時に用いられる循環ポンプ3とは異なる供給ポンプを原料タンク2に接続させて、この供給ポンプによって解繊工程13への供給を行うようにしても構わない。
【0038】
さらに、原料スラリーSを解繊工程13へ供給する前段で磁性体若しくは磁性体を含む異物の分離を行う場合について説明したが、他の工程、例えば、原料スラリーSを生成するためのパルプ溶解工程や反応工程、生成された原料スラリーSの洗浄工程、脱水工程等の前段または後段において磁性体若しくは磁性体を含む異物の分離を行うようにすることもできる。
【0039】
上述したセルロースナノファイバー製造装置1によって原料スラリーSに混入した磁性体若しくは磁性体を含む異物を磁性体吸着手段4a、4b、7によって捕捉して分離させた場合の効果を確認した結果を、図2に示してある。結果の確認は解繊工程13に用いられる解繊装置の運転可能時間で行った。なお、比較のために、セルロースナノファイバー製造装置1を介さず、磁性体若しくは磁性体を含む異物を除去する処理を施さない場合のデータを併せて示してある。
試料には、絶乾固形分10kgのパルプを濃度1%に希釈して1000kgとした原料スラリーSを原料タンク2に投入して、撹拌装置8で撹拌しながら、循環ポンプ3を作動させて戻し管10から原料タンク2に返還するよう循環させた。循環量は15L/分とした。
磁性体吸着手段には、表面磁束密度10,000ガウス以上の棒状磁石を配管内に配した。
【0040】
(実施例1)
循環処理を120分間行って磁性体吸着手段4a、4bにより磁性体若しくは磁性体を含む異物による異物を吸着させて捕捉させた。これら磁性体吸着手段4a、4bを取り出して吸着されて捕捉された異物を目視によって計数した。このとき、JISP8145「紙及び板紙-異物の評価方法」における附属書JA「目視法異物比較チャート」に示されている0.2mm2以上の大きさのものを計数した。
その結果、1200個の異物が捕捉されていた。この1200個の異物が除去された原料スラリーSを解繊装置に供したところ、120分間の連続運転を行うことができた。
【0041】
(実施例2)
循環処理を120分間行って磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着した磁性体吸着手段4a、4bを取り出して捕捉されている異物を除去して清掃した後、戻し管10に取り付け、再度循環処理を120分間行った。磁性体吸着手段4a、4bを取り出して、捕捉されている異物を計数したところ、200個の異物が捕捉されていた。
すなわち、240分間循環させて、合計1400個の異物が除去された原料スラリーSを得た。この原料スラリーSを解繊装置に供したところ、120分間以上の連続運転を行うことができた。
【0042】
(実施例3)
循環処理を240分間行って磁性体若しくは磁性体を含む異物を吸着させ捕捉させた磁性体吸着手段4a、4bを取り出して捕捉されている異物を除去して清掃して、戻し管10に取り付け、再度循環処理を120分間行った。磁性体吸着手段4a、4bを取り出して、捕捉されている異物を計数したところ、50個の異物が捕捉されていた。
すなわち、360分間循環させて、合計1450個の異物が除去された原料スラリーSを得た。この原料スラリーSを解繊装置に供したところ、120分間以上の連続運転を行うことができた。
【0043】
比較例1~比較例3は、いずれも前述した試料を異物を除去せずに、解繊装置に供した場合を示しており、比較例1としては5分の運転時間で詰まりが生じて稼働が停止した。
また、比較例2の場合には、15分で稼働停止となり、比較例3では2分で稼働停止となった。
【0044】
すなわち、試料の場合には、異物が除去されない状態では殆ど解繊装置を運転させることができなかったのに対して、磁性体吸着手段を配して異物を除去した場合には、解繊装置をほぼ支障なく連続して運転できることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明に係るセルロースナノファイバーの製造方法と製造装置によれば、原料スラリーから磁性体若しくは磁性体を含む異物を確実に除去できて、次工程の解繊装置等を支障なく連続運転に寄与することができるので、セルロースナノファイバーの生産性の向上を図るのに有効なものとなる。
【符号の説明】
【0046】
1 セルロースナノファイバー製造装置
2 原料タンク
3 循環ポンプ
4a 吐出側磁性体吸着手段
4b 戻し側磁性体吸着手段
5 戻し側切替弁
6 供給側切替弁
7 供給側磁性体吸着手段
8 撹拌装置
8a 撹拌羽根
8b 駆動モータ
8c 回転軸
9 吸込側配管
10 戻し管
11 分岐部
12 供給管
13 解繊工程(次工程)
14 後段工程
S 原料スラリー
図1
図2