(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】非発酵ビールテイスト飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
A23L2/00 B
(21)【出願番号】P 2018156291
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】鯉江 弘一朗
(72)【発明者】
【氏名】飯牟礼 隆
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113869(JP,A)
【文献】2018 Beer Style Guidelines, 2018.02.28 [検索日 2022.06.08], インターネット:<URL:https://cdn.brewersassociation.org/wp-content/uploads/2018/03/2018_BA_Beer_Style_Guidelines_Final.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非凍結粉砕ホップを添加する工程を含み、
前記非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕したものである、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で加圧粉砕したものである、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップは、ビール、発泡酒及びノンアルコールビール等のビールテイスト飲料に苦味及び香りを付与するための原料として用いられている。通常、ホップは、収穫後乾燥させて圧縮又は粉砕によりペレット状に加工されたものが用いられている。一方、乾燥等の加工を経ることによって、生ホップに含まれる香気成分等が劣化又は消失してしまうことが避けられない。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、新鮮な生ホップによる香味を付与したビール又は発泡酒等の芳香性の高い発酵麦芽飲料及びその製造方法の提供を目的として、発酵麦芽飲料の製造に際して、収穫後乾燥することなく凍結した生ホップの粉砕物を、ホップ原料として又は生ホップフレーバーとして用いることを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載されるように収穫後乾燥することなく凍結した生ホップの粉砕物をホップ原料又は生ホップフレーバーとして用いた非発酵ビールテイスト飲料は、トゲトゲしい香り、人工的な香りがするといった課題があることを見出した。また、本発明者らは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕した粉砕物(非凍結粉砕ホップ)をホップ原料として用いた非発酵ビールテイスト飲料は、フレッシュ(グリーンさがある)でマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有することを見出した。
【0006】
本発明は、この新規な知見に基づくものであり、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有する非発酵ビールテイスト飲料を得ることができる、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含み、上記非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕したものである、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法に関する。
【0008】
本発明に係る製造方法は、非凍結粉砕ホップを使用していることにより、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有し、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている非発酵ビールテイスト飲料の製造が可能となる。
【0009】
本発明に係る製造方法において、非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で加圧粉砕したものであるのが好ましい。これにより、上述した効果がより一層顕著に奏される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有する非発酵ビールテイスト飲料を得ることができる、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法の提供が可能となる。本発明に係る製造方法により得られる非発酵ビールテイスト飲料はまた、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビール様の香味を有する飲料を意味する。非発酵ビールテイスト飲料とは、酵母等による発酵を行わずに製造されるビールテイスト飲料である。ビールテイスト飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0013】
本実施形態に係る非発酵ビールテイスト飲料が非発酵ビールテイストアルコール飲料である場合、アルコール度数は、例えば、1.0v/v%以上であるのが好ましく、2.0v/v%以上であるのがより好ましく、3.0v/v%以上であるのが更に好ましく、4.0%以上であるのが更により好ましい。アルコール度数の上限は、例えば、20.0v/v%未満であってよく、10.0v/v%以下であってよく、9.0v/v%以下であってよく、8.0v/v%以下であってよく、7.0v/v%以下であってよく、6.0v/v%以下であってよい。
【0014】
本実施形態に係る非発酵ビールテイスト飲料は、非発泡性であってもよく、発泡性であってもよい。ここで、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm2)程度としてもよい。
【0015】
〔非発酵ビールテイスト飲料の製造方法〕
本実施形態に係る非発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含む。本明細書において、原料液とは、非発酵ビールテイスト飲料のもととなる液を意味する。原料液には、各工程で使用又は製造される液(例えば、後述する、麦汁、煮沸後液、混合液)が含まれる。
【0016】
非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕したもの(粉砕物)である。非凍結粉砕ホップの調製に使用する生ホップとしては、収穫後乾燥させていないホップ(毬花)であればよく、収穫後保存及び/又は輸送等のために凍結させたホップ(毬花)であってもよい。収穫後凍結させたホップを使用する場合は、粉砕前に充分に解凍すればよい(例えば、室温で30~60分間置く)。
【0017】
生ホップの粉砕方法に特に制限はなく、ホップ(毬花)に含まれるルプリンが充分に破壊される方法を採用すればよい。生ホップの粉砕方法の具体例として、例えば、生ホップを摩砕する方法、生ホップを(必要に応じて押し出しながら)せん断する方法を挙げることができる。生ホップの粉砕方法としては、生ホップを摩砕する方法、生ホップを押し出しながらせん断する方法等の生ホップを加圧粉砕する方法が好ましい。
【0018】
生ホップの摩砕は、例えば、摩砕機(例えば、増幸産業株式会社製,スーパーマスコロイダー)を使用して、生ホップに圧をかけながらすり潰すことにより行うことができる。
【0019】
生ホップのせん断は、例えば、ミンチ機(例えば、電動ミンサー SG-30,福農産業株式会社)を使用して、生ホップを押し出しながら回転刃等によるせん断力で粉砕することにより行うことができる。
【0020】
調製した非凍結粉砕ホップは、そのまま使用してもよく、また使用するまで、密封した状態で保存してもよい。保存する場合は、凍結保存が好ましい。
【0021】
本実施形態に係る製造方法は、例えば、水と、原料と、必要に応じて、蒸留アルコール及び各種添加剤(例えば、着色料、酸化防止剤、酸味料、苦味料、香料)と、を原料タンクに配合する配合工程を含む。
【0022】
本実施形態に係る製造方法は、配合工程において各成分を混合して得た混合液をろ過するろ過工程と、ろ過液をビン、缶、ペットボトル等の容器に充填する充填工程と、充填工程で容器に充填されたろ過液を容器ごと殺菌する殺菌工程と、を更に含んでいてもよい。
【0023】
配合工程は、各成分がよく混ざるよう、撹拌機等により撹拌しながら混合してもよい。また、ろ過工程は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。充填工程は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填してもよい。殺菌工程は、所定の温度及び所定の時間でろ過液を容器ごと加熱することにより行うことができる。殺菌工程を行わない無殺菌充填を行うことも可能である。また、発泡性の飲料とする場合は、例えば、充填工程の前にカーボネーションを行うとよい。
【0024】
上記の原料は、麦汁を含んでいてよい。麦汁は、例えば、麦原料及び/又はその他原料と水とを混合する工程、麦原料及び/又はその他原料と水とを含む液を常法により糖化して糖化液を得る工程(糖化工程)、糖化液をろ過する工程(ろ過工程)、ろ過した糖化液を煮沸して煮沸後液を得る工程(煮沸工程)、並びに煮沸後液中の固形分を除去する工程(除去工程)を経て得ることができる。煮沸工程では、原料液にホップを添加してもよい。添加するホップに特に制限はなく、例えば、従来用いられている乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスを用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0025】
麦原料は、麦芽を含んでいてよい。麦芽は、麦を発芽させることにより得ることができる。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦及びハト麦等であってよく、大麦であることが好ましい。麦芽にはモルトエキスが含まれる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。
【0026】
麦原料は、麦芽以外の麦原料を含んでいてもよい。麦芽以外の麦原料としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦及びハト麦等の麦、並びに麦エキス等の麦加工物が挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽以外の麦原料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
その他原料としては、副原料を用いてもよい。副原料としては、コーン、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料、液糖、砂糖等の糖質原料が挙げられる。
【0028】
除去工程は、例えば、煮沸後液に含まれる不溶性の固形分を沈殿させることにより行うことができる。固形分としては、煮沸工程により生じた熱凝固物、煮沸工程でホップを添加した場合には、ホップのかす等が挙げられる。除去工程は、ワールプール中で実施してよい。当該工程における原料液の温度は、例えば、99℃以下、95℃以下、92℃以下、90℃以下、又は89℃以下であってよく、80℃以上、85℃以上、又は90℃以上であってよい。
【0029】
本実施形態に係る製造方法は、非凍結粉砕ホップを原料液に添加するタイミングに特に制限はないが、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有し、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている非発酵ビールテイスト飲料が得られるという本発明による効果をより顕著に奏する観点からは、例えば、麦汁調製の際の煮沸工程後半(原料液温を低下させている段階)以降に添加すること、配合工程以降(配合工程開始時を含む。)に添加することが好ましい。
【0030】
具体的には、本実施形態に係る製造方法が、麦汁の調製を含む場合、煮沸工程後半の原料液温を低下させている間に非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を実施してよい。また、配合工程開始時、配合工程中、配合工程後に、非凍結粉砕ホップを原料液(例えば、水等の原料液、撹拌中の配合液、混合して得た混合液)に添加する工程を実施してもよい。
【0031】
非凍結粉砕ホップを原料液に添加した後、非凍結粉砕ホップと原料液とを接触させている時間に特に制限はないが、例えば、原料液の液温に応じて、5分~4週間の間で適宜設定することができる。
【0032】
本実施形態に係る非発酵ビールテイスト飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態として、非発酵ビールテイスト飲料にフレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを付与する方法であって、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含む方法が提供される。本発明の他の実施形態として、非発酵ビールテイスト飲料のトゲトゲしい苦味を低減する方法であって、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含む方法が提供される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔ホップの調製〕
ホップとして、2015年北海道産ソラチエース、及び2017年北海道産カスケードを使用した。ホップは収穫後直ちに-20℃で凍結させて保管した。
【0036】
(非凍結粉砕ホップの調製)
乾燥せずに凍結保管していたホップ(毬花)を室温で30~60分間かけて解凍した。解凍した生ホップを、ミンサー(電動ミンサー SG-30,福農産業株式会社)にて、カットプレート(5mm)を使用して粉砕した。粉砕後直ちに密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管したものを「非凍結粉砕ホップ(直後)」とし、粉砕後室温で3時間放置した後密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管したものを「非凍結粉砕ホップ(3時間)」とした。
【0037】
(凍結粉砕ホップの調製)
比較のために、凍結粉砕ホップを以下のように調製した。乾燥せずに凍結保管していたホップ(毬花)を乳鉢に入れ、液体窒素を適量注いだ後、乳棒を用いて粉砕した。粉砕後直ちに密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管した。
【0038】
(乾燥粉砕ホップの調製)
比較のために、乾燥粉砕ホップを常法により調製した。具体的には、凍結保管していたホップ(毬花)を乾燥機を使用して55℃で6時間乾燥させた後、ミルで粉砕した。粉砕後直ちに密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管した。
【0039】
〔非発酵ビールテイスト飲料の製造及び評価〕
非発酵ビールテイスト飲料は、上記で調製したホップ(非凍結粉砕ホップ、凍結粉砕ホップ、乾燥粉砕ホップ)を麦汁に浸漬することで製造した。
【0040】
(麦汁の調製)
麦芽と水とを混合した後、常法により糖化して、糖化液を得た。得られた糖化液を濾過した後、ホップ(ホップペレット及びホップエキス)を添加し、煮沸釜中で煮沸した。煮沸後、熱麦汁をワールプールに移し、熱麦汁中の固形分を沈殿させて除去した。得られた麦汁は、冷却した後、非発酵ビールテイスト飲料の製造に用いた。
【0041】
(非発酵ビールテイスト飲料の製造)
乾燥球果重量換算で1.6(g/L-麦汁)となるように上記で調製したホップ(非凍結粉砕ホップ、凍結粉砕ホップ、乾燥粉砕ホップ)を市販の不織布ティーパックに入れ、麦汁150mLに浸漬した。4℃で1週間インキュベートした後、ティーパックを取り出した。得られた非発酵ビールテイスト飲料を官能評価に供した。
【0042】
(非発酵ビールテイスト飲料の官能評価)
官能評価では、選抜された識別能力のある5名のパネルにより、非発酵ビールテイスト飲料の香りについて「マイルド」、「グリーン」及び「トゲトゲしい」の項目を評価し、非発酵ビールテイスト飲料の味について「トゲトゲしい(苦味の)」の項目を評価した。
【0043】
2017年北海道産カスケードの凍結粉砕ホップを使用した非発酵ビールテイスト飲料の評点を2点とし(基準)、各項目0~5点(0.5点刻み)で点数を付け、全パネルの平均値を評価スコアとした。「マイルド」の項目は、マイルドさがある場合を5点とし、マイルドさがない場合を0点とした。「グリーン」の項目は、グリーンさがある場合を5点とし、グリーンさがない場合を0点とした。「トゲトゲしい」の項目は、トゲトゲしさがない場合を5点とし、トゲトゲしさがある場合を0点とした。「トゲトゲしい(苦味の)」の項目は、トゲトゲしさがない場合を5点とし、トゲトゲしさがある場合を0点とした。いずれの項目も、評点が高いほど飲料として好ましい。
【0044】
【0045】
表1に示すとおり、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕した非凍結粉砕ホップを添加して製造した非発酵ビールテイスト飲料は、生ホップを凍結した状態で粉砕した凍結粉砕ホップを添加して製造した非発酵ビールテイスト飲料と比べて、いずれの官能評価項目も高い評点であった。また、汎用されるホップ(乾燥粉砕ホップ)を添加して製造した非発酵ビールテイスト飲料と比べても、いずれの官能評価項目も高い評点であった。この傾向は、ホップの品種を変えても同様であった。