(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】作業機械の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20221206BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20221206BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
E02F3/43 B
E02F9/20 Q
E02F9/26 B
(21)【出願番号】P 2018163643
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 健
(72)【発明者】
【氏名】根田 知樹
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014726(JP,A)
【文献】特開2008-106440(JP,A)
【文献】特許第5202667(JP,B2)
【文献】特表2002-515559(JP,A)
【文献】特開2016-065422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/43
E02F 9/20
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、前記走行体に支持され、旋回中心回りに旋回可能な旋回体と、前記旋回体に設けられバケットを有する作業機とを備える作業機械の制御装置であって、
前記作業機械の周囲の形状を示す三次元マップを取得する三次元マップ取得部と、
前記バケットの刃先の位置を特定するバケット位置特定部と、
前記バケットの刃先の位置の履歴に基づいて、前記三次元マップのうち前記作業機による掘削対象によって遮蔽された遮蔽部分の高さを補完する高さ補完部と、
前記遮蔽部分の高さが補完された三次元マップが表す地形のうち、運搬車両が走行可能な面である走路面と
前記掘削対象との境界線である走路境界線を特定する境界特定部と、
前記走路境界線上または前記走路境界線より上方の点を、前記作業機による掘削開始点に決定する掘削開始点決定部と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記三次元マップが表す地形のうち、前記作業機械が走行せずに掘削可能な範囲を掘削可能範囲として特定する掘削可能範囲特定部を備え、
前記掘削開始点決定部は、前記走路境界線上の点であって、掘削時のバケットの移動方向の後方側における前記掘削可能範囲の境界線である後方境界線との距離が最も短くなる点を、前記掘削開始点に決定する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記掘削開始点決定部は、前記走路境界線上の点であって、前記作業機械の位置から斜め下方に広がる掘削禁止領域の外の点を、前記掘削開始点に決定する
請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記掘削開始点に基づいて、前記旋回体および前記作業機を操作する操作信号を出力する操作信号出力部を備える
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記掘削開始点決定部は、前記走路境界線上の点を所定の高さだけ上方にオフセットした点を掘削開始点に決定する
請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
走行体と、前記走行体に支持され、旋回中心回りに旋回可能な旋回体と、前記旋回体に設けられバケットを有する作業機とを備える作業機械の制御方法であって、
前記作業機械の周囲の形状を示す三次元マップを取得するステップと、
前記バケットの刃先の位置を特定するステップと、
前記バケットの刃先の位置の履歴に基づいて、前記三次元マップのうち前記作業機による掘削対象によって遮蔽された遮蔽部分の高さを補完するステップと、
前記遮蔽部分の高さが補完された三次元マップが表す地形のうち、運搬車両が走行可能な面である走路面と
前記掘削対象との境界線である走路境界線を特定するステップと、
前記走路境界線上または前記走路境界線より上方の点を、前記作業機による掘削開始点に決定するステップと
を備える制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、土工作業の計画方法が開示されている。特許文献1に記載の方法によれば、掘削現場を格子状の小区域に分割し、各区域の掘削順序を決定する。特許文献1には、掘削順序を掘削現場の上方の部位を優先して設定することで、下方の区域を掘削するときに作業機に求められる力が小さくなり、また上方の土で下方の土が遮られることを防ぐことができるという効果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、掘削現場においては、土砂を運搬する運搬車両が走行可能な走行面が設けられる。掘削積込の効率のため、走行面は掘削対象に隣接して設けられる。このとき、特許文献1に記載されているように、掘削現場の上方から土砂を掘削すると、掘削対象が崩れ、またはバケットから土砂がこぼれたときに、当該土砂が斜面を流れ、土砂が走行面に散乱する可能性がある。土砂が走行面に散乱すると、運搬車両の走行の妨げとなる。
本発明の目的は、土砂が走行面に散乱しないように掘削を計画する制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、制御装置は、走行体と、前記走行体に支持され、旋回中心回りに旋回可能な旋回体と、前記旋回体に設けられバケットを有する作業機とを備える作業機械の制御装置であって、前記作業機械の周囲の形状を示す三次元マップを取得する三次元マップ取得部と、前記バケットの刃先の位置を特定するバケット位置特定部と、前記バケットの刃先の位置の履歴に基づいて、前記三次元マップのうち前記作業機による掘削対象によって遮蔽された遮蔽部分の高さを補完する高さ補完部と、前記遮蔽部分の高さが補完された三次元マップが表す地形のうち、運搬車両が走行可能な面である走路面と前記掘削対象との境界線である走路境界線を特定する境界特定部と、前記走路境界線上または前記走路境界線より上方の点を、前記作業機による掘削開始点に決定する掘削開始点決定部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
上記態様のうち少なくとも1つの態様によれば、制御装置は、土砂が走行面に散乱しないように掘削を計画することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る掘削積込作業の例を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る積込機械の構成を示す概略図である。
【
図3】第1の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図5】作業機械と掘削対象との位置関係を示す上面図である。
【
図6】第1の実施形態に係る自動掘削制御を示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図8】第2の実施形態に係る三次元マップの形状の補完方法の例を示す図である。
【
図9】第3の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図10】第3の実施形態に係る掘削禁止領域の例を示す図である。
【
図11】第3の実施形態に係る自動掘削制御を示すフローチャートである。
【
図12】第4の実施形態に係る掘削積込作業の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈第1の実施形態〉
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る掘削積込作業の例を示す図である。
第1の実施形態では、バックホウショベルによる掘削積込作業について説明する。バックホウショベルである積込機械100は、掘削対象Lの山の上段に配置され、掘削対象Lの下段である走路面Fに位置する運搬車両200に掘削した土砂を積み込む。走路面Fは、運搬車両200が走行可能となるように、平らにならされている。
【0009】
《積込機械の構成》
図2は、第1の実施形態に係る積込機械の構成を示す概略図である。
積込機械100は、土砂を運搬車両などの積込点へ積込を行う作業機械である。
積込機械100は、走行体110と、走行体110に支持される旋回体120と、油圧により作動し旋回体120に支持される作業機130とを備える。旋回体120は、旋回中心回りに旋回自在に支持される。
【0010】
作業機130は、ブーム131と、アーム132と、バケット133と、ブームシリンダ134と、アームシリンダ135と、バケットシリンダ136とを備える。
【0011】
ブーム131の基端部は、旋回体120にピンを介して取り付けられる。
アーム132は、ブーム131とバケット133とを連結する。アーム132の基端部は、ブーム131の先端部にピンを介して取り付けられる。
バケット133は、土砂などを掘削するための刃と掘削した土砂を搬送するための容器とを備える。バケット133の基端部は、アーム132の先端部にピンを介して取り付けられる。第1の実施形態に係るバケット133は、刃先が旋回体120の後方を向くように取り付けられる。そのため、第1の実施形態における掘削時のバケット133の移動方向は、アーム132の引き方向である。
【0012】
ブームシリンダ134は、ブーム131を作動させるための油圧シリンダである。ブームシリンダ134の基端部は、旋回体120に取り付けられる。ブームシリンダ134の先端部は、ブーム131に取り付けられる。
アームシリンダ135は、アーム132を駆動するための油圧シリンダである。アームシリンダ135の基端部は、ブーム131に取り付けられる。アームシリンダ135の先端部は、アーム132に取り付けられる。
バケットシリンダ136は、バケット133を駆動するための油圧シリンダである。バケットシリンダ136の基端部は、アーム132に取り付けられる。バケットシリンダ136の先端部は、バケット133を回動させるリンク機構に取り付けられる。
【0013】
ブームストロークセンサ137は、ブームシリンダ134のストローク量を計測する。ブームシリンダ134のストローク量は、旋回体120に対するブーム131の傾斜角に換算可能である。以下、旋回体120に対する傾斜角を、絶対角度ともいう。つまり、ブームシリンダ134のストローク量は、ブーム131の絶対角度に換算可能である。
アームストロークセンサ138は、アームシリンダ135のストローク量を計測する。アームシリンダ135のストローク量は、ブーム131に対するアーム132の傾斜角に換算可能である。以下、ブーム131に対するアーム132の傾斜角を、アーム132の相対角度ともいう。
バケットストロークセンサ139は、バケットシリンダ136のストローク量を計測する。バケットシリンダ136のストローク量は、アーム132に対するバケット133の傾斜角に換算可能である。以下、アーム132に対するバケット133の傾斜角をバケット133の相対角度ともいう。
なお、他の実施形態に係る積込機械100は、ブームストロークセンサ137、アームストロークセンサ138、およびバケットストロークセンサ139に代えて、地平面に対する傾斜角または旋回体120に対する傾斜角を検出する角度センサを備えてもよい。
【0014】
旋回体120には、運転室121が設けられる。運転室121の内部には、オペレータが着座するための運転席122、積込機械100を操作するための操作装置123が設けられる。操作装置123は、オペレータの操作に応じて、ブーム131の上げ操作信号および下げ操作信号、アーム132の押し操作信号および引き操作信号、バケット133のダンプ操作信号および掘削操作信号、旋回体120の左右への旋回操作信号を生成し、制御装置128に出力する。また操作装置123は、オペレータの操作に応じて作業機130に自動駆動制御を開始させるための駆動指示信号を生成し、制御装置128に出力する。自動駆動制御とは、旋回体120を旋回させて掘削点へ作業機130を自動的に移動させる制御である。
操作装置123は、例えばレバー、スイッチおよびペダルにより構成される。駆動指示信号は自動制御用のスイッチの操作により生成される。例えば、スイッチがONになったときに、駆動指示信号が出力される。操作装置123は、運転席122の近傍に配置される。操作装置123は、オペレータが運転席122に座ったときにオペレータの操作可能な範囲内に位置する。
なお、第1の実施形態に係る積込機械100は、運転席122に着座するオペレータの操作に従って動作するが、他の実施形態においてはこれに限られない。例えば、他の実施形態に係る積込機械100は、積込機械100の外部で操作するオペレータの遠隔操作によって操作信号や駆動指示信号が送信され動作するものであってもよい。
【0015】
積込機械100は、検出方向に存在する対象物の3次元位置を検出するための深度検出装置124、位置方位演算器125、傾斜計測器126、油圧装置127、制御装置128を備える。
【0016】
深度検出装置124は、運転室121内に設けられ、旋回体120の前方に伸びる軸を中心とする検出範囲において施工対象を含む周囲の物体の深度を検出する。深度とは、深度検出装置124から対象までの距離である。深度検出装置124の例としては、例えば、LiDAR装置、レーダ装置、ステレオカメラなどが挙げられる。
【0017】
位置方位演算器125は、旋回体120の位置および旋回体120が向く方位を演算する。位置方位演算器125は、GNSSを構成する人工衛星から測位信号を受信する2つの受信器を備える。2つの受信器は、それぞれ旋回体120の異なる位置に設置される。位置方位演算器125は、受信器が受信した測位信号に基づいて、現場座標系における旋回体120の代表点(ショベル座標系の原点)の位置を検出する。
位置方位演算器125は、2つの受信器が受信した各測位信号を用いて、一方の受信器の設置位置に対する他方の受信器の設置位置の関係として、旋回体120の向く方位を演算する。旋回体120が向く方位とは、旋回体120の正面方向であって、作業機130のブーム131からバケット133へ伸びる直線の延在方向の水平成分に等しい。
【0018】
傾斜計測器126は、旋回体120の加速度および角速度を計測し、計測結果に基づいて旋回体120の姿勢(例えば、ロール角およびピッチ角)を検出する。傾斜計測器126は、例えば旋回体120の下面に設置される。傾斜計測器126は、例えば、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)を用いることができる。
【0019】
油圧装置127は、作動油タンク、油圧ポンプ、および流量制御弁を備える。油圧ポンプは、図示しないエンジンの動力で駆動し、流量制御弁を介して走行体110を走行させる図示しない走行油圧モータ、旋回体120を旋回させる図示しない旋回油圧モータ、ブームシリンダ134、アームシリンダ135、およびバケットシリンダ136に作動油を供給する。流量制御弁はロッド状のスプールを有し、スプールの位置によって走行油圧モータ、旋回油圧モータ、ブームシリンダ134、アームシリンダ135、およびバケットシリンダ136に供給する作動油の流量を調整する。スプールは、制御装置128から受信する制御指令に基づいて駆動される。つまり、走行油圧モータ、旋回油圧モータ、ブームシリンダ134、アームシリンダ135、およびバケットシリンダ136に供給される作動油の量は、制御装置128によって制御される。上記のとおり、走行油圧モータ、旋回油圧モータ、ブームシリンダ134、アームシリンダ135、およびバケットシリンダ136は共通の油圧装置127から供給される作動油によって駆動する。なお、走行油圧モータまたは旋回油圧モータが斜板式可変容量モータである場合、制御装置128は斜板の傾転角により回転速度を調整してもよい。
【0020】
制御装置128は、操作装置123から操作信号を受信する。制御装置128は、受信した操作信号に基づいて、作業機130、旋回体120、または走行体110を駆動させる。
【0021】
《制御装置の構成》
図3は、第1の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
制御装置128は、プロセッサ1100、メインメモリ1200、ストレージ1300、インタフェース1400を備えるコンピュータである。ストレージ1300は、プログラムを記憶する。プロセッサ1100は、プログラムをストレージ1300から読み出してメインメモリ1200に展開し、プログラムに従った処理を実行する。
【0022】
ストレージ1300の例としては、HDD、SSD、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM等が挙げられる。ストレージ1300は、制御装置128の共通通信線に直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース1400を介して制御装置128に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ1300は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0023】
プロセッサ1100は、プログラムの実行により、車両情報取得部1101、検出情報取得部1102、操作信号入力部1103、マップ生成部1104(三次元マップ取得部)、掘削可能範囲特定部1105、境界特定部1106、掘削位置特定部1107、移動処理部1108、操作信号出力部1109を備える。
【0024】
車両情報取得部1101は、例えば旋回体120の旋回速度、位置および方位、ブーム131、アーム132およびバケット133の傾斜角、ならびに旋回体120の姿勢を取得する。以下、車両情報取得部1101が取得する積込機械100に係る情報を車両情報とよぶ。
【0025】
検出情報取得部1102は、深度検出装置124から深度情報を取得する。深度情報は、検出範囲内の複数の点の三次元位置を示す。深度情報の例としては、深度を表す複数の画素からなる深度画像や、直交座標(x,y,z)で表現される複数の点からなる点群データが挙げられる。
【0026】
操作信号入力部1103は、操作装置123から操作信号の入力を受け付ける。操作信号にはブーム131の上げ操作信号および下げ操作信号、アーム132の押し操作信号および引き操作信号、バケット133のダンプ操作信号および掘削操作信号、旋回体120の旋回操作信号、走行体110の走行操作信号、ならびに積込機械100の駆動指示信号が含まれる。
【0027】
マップ生成部1104は、車両情報取得部1101が取得した旋回体120の位置、方位、および姿勢と、検出情報取得部1102が取得した深度情報とに基づいて、現場座標系における積込機械100の周囲の形状を表す三次元マップを生成する。マップ生成部は、三次元マップ取得部の一例である。なお、他の実施形態においては、マップ生成部1104は、旋回体120を基準としたショベル座標系に係る三次元マップを生成してもよい。
【0028】
図4は、作業機の可動範囲の例を示す図である。
掘削可能範囲特定部1105は、既知の作業機130の可動範囲R1に基づいて、三次元マップが表す地形のうち、積込機械100が走行せずに掘削可能な範囲である掘削可能範囲R2を特定する。作業機130の可動範囲R1は、
図4に示すように、作業機130のピンに直交する平面において、旋回体120の位置を基準とした平面図形として表すことができる。そのため、掘削可能範囲特定部1105は、例えば、既知の可動範囲R1を旋回体120の旋回中心軸A回りに回転させた回転図形と、三次元マップとが重なる範囲を、掘削可能範囲R2と特定することができる。
【0029】
境界特定部1106は、三次元マップが表す地形のうち、運搬車両200が走行可能な面である走路面Fと、作業機130による掘削対象Lとの境界線である走路境界線B1を特定する。例えば、境界特定部1106は、三次元マップが表す地形のうち、水平面に対する傾きが所定角度を超える部分を掘削対象Lと特定し、掘削対象Lより下方に位置し水平面に対する傾きが所定角度以下の部分を走路面Fと特定する。これにより、境界特定部1106は、走路面Fと掘削対象Lとの境界線である走路境界線B1を特定することができる。
また、別の方法として、運搬車両200がGNSS等による測位を行う測位装置を有している場合に、境界特定部1106は、以下の手順で走路境界線B1を特定してもよい。境界特定部1106は、運搬車両200が積込機械100の近くにいるときの運搬車両200の高さを測位装置から取得する。境界特定部1106は、三次元マップが表す地形のうち、運搬車両200のタイヤが接地する高さとの差が所定範囲内である部分を走路面Fと特定する。境界特定部1106は、特定した走路面Fより上方の部分を掘削対象Lと特定することで、走路面Fと掘削対象Lとの走路境界線B1を特定することができる。
また、検出情報取得部1102が取得した深度情報のノイズや、走路面F上の散乱した土砂でも運搬車両200の走行に支障ない程度の大きさのものを検知する場合に、境界特定部1106は、特定した走路境界線B1をさらに平滑化して、走路境界線B1としてもよい。具体的には、バケット133の幅よりも十分に小さい走路境界線B1の凸凹を平滑化して滑らかにする。
【0030】
図5は、作業機械と掘削対象との位置関係を示す上面図である。
掘削位置特定部1107は、掘削可能範囲特定部1105が特定した掘削可能範囲R2と、境界特定部1106が特定した走路境界線B1とに基づいて、作業機130による掘削開始点Pを特定する。具体的には、掘削位置特定部1107は、掘削可能範囲R2のうち走路境界線B1上の点であって、旋回中心軸Aから当該点までの距離が最も長い点を、掘削開始点Pに決定する。掘削開始点Pは、アーム132の押し方向側、すなわち掘削時のバケット133の移動方向の後方側における掘削可能範囲R2の境界線である後方境界線B2と走路境界線B1との距離が最も短くなる走行境界線B1上の点でもある。
また、掘削位置特定部1107は、決定した掘削開始点Pを所定の高さだけ上方にオフセットしてもよい。つまり、掘削開始点Pは、走路境界線B1上の点に限られず、走路境界線B1の上方の点であってもよい。これは、走路境界線B1より低い部分は掘削対象ではなく地盤が固く、走路境界線B1上の高さを掘削開始点として掘削を開始する場合に掘削しにくいために、走路境界線B1よりも所定の高さだけ上方にオフセットした高さを掘削開始点とすることで掘削しやすくするためである。
【0031】
移動処理部1108は、操作信号入力部1103が駆動指示信号の入力を受け付けた場合に、バケット133を掘削開始点Pへ移動させるための旋回体120および作業機130の操作信号を生成する。
【0032】
操作信号出力部1109は、操作信号入力部1103に入力された操作信号、または移動処理部1108が生成した操作信号を出力する。具体的には、操作信号出力部1109は、自動駆動制御中である場合に、移動処理部1108が生成した操作信号を出力し、自動駆動制御中でない場合に、操作信号入力部1103に入力された操作信号を出力する。
【0033】
《自動駆動制御》
積込機械100のオペレータは、積込機械100と掘削対象Lとが掘削処理可能な位置関係にあると判断すると、操作装置123のスイッチをONにする。これにより、操作装置123は、駆動指示信号を生成し出力する。
【0034】
図6は、第1の実施形態に係る自動駆動制御を示すフローチャートである。制御装置128は、オペレータから駆動指示信号の入力を受け付けると、
図6に示す自動駆動制御を実行する。
【0035】
車両情報取得部1101は、旋回体120の位置、方位、および姿勢を取得する(ステップS1)。車両情報取得部1101は、取得した旋回体120の位置および方位に基づいて、旋回体120の旋回中心軸Aの位置を特定する(ステップS2)。
【0036】
検出情報取得部1102は、深度検出装置124から、積込機械100の前方の深度を示す深度情報を取得する(ステップS3)。マップ生成部1104は、車両情報取得部1101が取得した旋回体120の位置、方位、および姿勢と、検出情報取得部1102が取得した深度情報とに基づいて、現場座標系によって積込機械100の前方の形状を表す三次元マップを生成する(ステップS4)。
【0037】
掘削可能範囲特定部1105は、掘削可能範囲特定部1105は、既知の可動範囲R1をステップS2で特定した旋回中心軸A回りに回転させた回転図形を生成する(ステップS5)。掘削可能範囲特定部1105は、三次元マップと回転図形とが重なる範囲を、掘削可能範囲R2と特定する(ステップS6)。
【0038】
境界特定部1106は、三次元マップが表す地形のうち、水平面に対する傾きが所定角度を超える部分を掘削対象Lと特定し、掘削対象Lより下方に位置し水平面に対する傾きが所定角度以下の部分を走路面Fと特定する(ステップS7)。境界特定部1106は、特定した走路面Fと掘削対象Lとの境界線である走路境界線B1を特定する(ステップS8)。
【0039】
掘削位置特定部1107は、検出範囲のうち、旋回体120の旋回中心軸Aを基準とした方位ごとに、走路境界線B1と旋回中心軸Aとの距離を算出する(ステップS9)。このとき、掘削位置特定部1107は、距離の算出対象となる方位の範囲を、運搬車両200の停車位置から所定角度(例えば90度)以内の範囲に限定してもよい。掘削位置特定部1107は、算出した距離が最も長くなる走路境界線B1上の点を、掘削開始点Pに決定する(ステップS10)。
【0040】
移動処理部1108は、旋回体120が向く方向と、旋回中心軸Aから掘削開始点Pへ向かう方向とがなす角に基づいて、旋回体120の目標旋回角を算出する(ステップS11)。移動処理部1108は、目標旋回角に基づいて旋回操作信号を生成し、操作信号出力部1109は、当該旋回操作信号を油圧装置127に出力する(ステップS12)。
そして、移動処理部1108は、バケット133の刃先を掘削開始点Pへ移動させるための作業機130の操作信号を生成し、操作信号出力部1109は、当該作業機操作信号を油圧装置127に出力する(ステップS13)。なお、ステップS12の旋回操作とステップS13の作業機操作とは、同時になされてもよいし、ステップS12の旋回操作の後にステップS13の作業機操作がなされてもよい。
上述の自動駆動制御により、積込機械100は、バケット133の刃先を掘削開始点へ自動的に移動させることができる。オペレータは、この後、操作装置123による掘削操作を行うことができる。また他の実施形態においては、制御装置128が所定の軌跡に従った自動掘削制御を行ってもよいし、制御装置128が自動掘削制御の後にさらに自動積込制御を行ってもよい。
【0041】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態に係る積込機械100の制御装置128は、積込機械100の周囲の形状を示す三次元マップが表す地形に基づいて掘削可能範囲R2と走路境界線B1とを特定し、走路境界線B1上の点を、作業機130による掘削開始点Pに決定する。これにより、積込機械100は、掘削対象Lを、斜面の下側から掘削することができる。斜面の下側から掘削対象Lを掘削することで、斜面の一部が崩れたとしても崩れた土砂が走路面Fまで流れる距離が短くなる。これにより、土砂の流れ速度を抑え、走路面Fに土砂が散乱することを防ぐことができる。
【0042】
また、第1の実施形態に係る制御装置128は、走路境界線B1上の点であって旋回中心軸Aからの距離が最も長くなる点を、掘削開始点Pに決定する。すなわち制御装置128は、走路境界線B1上の点であって後方境界線B2との距離が最も短くなる点を、掘削開始点Pに決定する。これにより、制御装置128は、運搬車両200の走行可能な範囲を早期に広げることができる。また、走路境界線B1と斜面の上段からの距離が短いほど、その斜面が急である可能性が高い。そのため、前方境界線B2との距離が最も長くなる点を掘削開始点Pとすることで、斜面の崩壊の可能性を低減することができる。なお、他の実施形態に係る制御装置128は、他の条件に基づいて掘削開始点Pに決定してもよい。例えば、他の実施形態に係る制御装置128は、走路境界線B1上の点であって旋回角が最も小さくなる点を、掘削開始点Pに決定してもよい。
【0043】
〈第2の実施形態〉
第1の実施形態に係る積込機械100は、掘削対象の上段に位置し、斜面の下方から土砂を掘削する。このとき、斜面の上方の掘削対象Lによって、斜面の下方の掘削対象Lが隠れ、その三次元位置を特定することができない可能性がある。第2の実施形態に係る制御装置128は、隠れた部分における掘削対象Lの形状を推定し、これに基づいて掘削開始点Pを決定する。
【0044】
図7は、第2の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
第2の実施形態に係る制御装置128は、第1の実施形態の構成に加え、さらにバケット位置特定部1110および高さ補完部1111を備える。
【0045】
バケット位置特定部1110は、車両情報取得部1101が取得した車両情報に基づいて、ショベル座標系におけるバケット133の刃先の位置を特定する。具体的には、バケット位置特定部1110は、以下の手順でバケット133の刃先の位置を特定する。バケット位置特定部1110は、ブームシリンダ134のストローク量から求められるブーム131の絶対角度と既知のブーム131の長さ(基端部のピンから先端部のピンまでの距離)とに基づいて、ブーム131の先端部の位置を求める。バケット位置特定部1110は、ブーム131の絶対角度と、アームシリンダ135のストローク量から求められるアーム132の相対角度とに基づいて、アーム132の絶対角度を求める。バケット位置特定部1110は、ブーム131の先端部の位置と、アーム132の絶対角度と、既知のアーム132の長さ(基端部のピンから先端部のピンまでの距離)とに基づいて、アーム132の先端部の位置を求める。そしてバケット位置特定部1110は、アーム132の先端部の位置と、バケット133の絶対角度と、既知のバケット133の長さ(基端部のピンから刃先までの距離)とに基づいて、バケット133の刃先の位置を求める。
【0046】
図8は、第2の実施形態に係る三次元マップの形状の補完方法の例を示す図である。
高さ補完部1111は、バケット133の刃先の位置の履歴に基づいて、三次元マップのうち掘削対象Lによって遮蔽された遮蔽部分Hの形状を補完する。具体的には、高さ補完部1111は、バケット位置特定部1110が特定したバケット133の刃先の軌跡Tに基づいて、バケット133によって掘削された箇所の三次元形状を推定する。高さ補完部1111は、三次元マップのうち上方からの平面視において高さの値が欠落した部分を遮蔽部分Hと特定し、当該遮蔽部分Hの高さを、軌跡Tから推定した三次元形状に係る高さで補完する。
【0047】
このように、第2の実施形態によれば、制御装置128は、バケット133の刃先の位置の履歴に基づいて、三次元マップの遮蔽部分Hの高さを補完し、補完された三次元マップに基づいて走路境界線B1を特定する。これにより、第2の実施形態に係る制御装置128は、斜面の上方の掘削対象Lによって、斜面の下方の掘削対象Lが隠れる場合にも、適切に掘削開始点Pを特定することができる。
【0048】
〈第3の実施形態〉
掘削対象Lの斜面は、急なほど崩れる可能性が高い。第3の実施形態に係る積込機械100は、積込機械100の足場が崩れることを防ぎながら、適切な掘削開始点Pを特定する。
【0049】
図9は、第3の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
第3の実施形態に係る制御装置128は、第1の実施形態の構成に加え、さらに後退判定部1112を備える。
【0050】
図10は、第3の実施形態に係る掘削禁止領域の例を示す図である。
後退判定部1112は、掘削位置特定部1107が特定した掘削開始点Pが走行体110の位置から斜め下方に広がる掘削禁止領域R3内にある場合、走行体110を後退させることを決定する。つまり、後退判定部1112は、掘削開始点Pが掘削禁止領域R3内にある場合に、当該掘削開始点Pを採用しない。これにより、制御装置128は、掘削対象Lの斜面の傾きが急になることを防ぐ。掘削禁止領域R3の傾きは、例えば掘削対象Lの安息角に基づいて決定される。
【0051】
《自動駆動制御》
図11は、第3の実施形態に係る自動駆動制御を示すフローチャートである。制御装置128は、オペレータから駆動指示信号の入力を受け付けると、
図11に示す自動駆動制御を実行する。
【0052】
制御装置128は、第1の実施形態のステップS1からステップS10と同様の方法により、掘削開始点Pを求める。次に、後退判定部1112は、掘削開始点Pが走行体110の位置から斜め下方に広がる掘削禁止領域R3内にあるか否かを判定する(ステップS41)。掘削開始点Pが掘削禁止領域R3内にない場合(ステップS41:NO)、制御装置128は、第1の実施形態のステップS11からステップS13と同様の方法により、自動駆動制御を行う。他方、掘削開始点Pが掘削禁止領域R3内にある場合(ステップS41:YES)、移動処理部1108は、走行体110を後退させる走行操作信号を生成し、操作信号出力部1109は、当該走行操作信号を油圧装置127に出力する(ステップS42)。そして制御装置128は、処理をステップS1に戻し、再度掘削開始点を決定する。
【0053】
《作用・効果》
このように、第3の実施形態に係る積込機械100の制御装置128は、掘削開始点Pが走行体110の位置から斜め下方に広がる掘削禁止領域R3内にある場合、走行体110を後退させる。つまり、制御装置128は、走路境界線B1上の点であって掘削禁止領域R3の外の点を、掘削開始点Pに決定する。これにより、掘削対象Lの掘削による斜面の崩れによって、積込機械100の足場が崩れることを防ぐことができる。なお、第3の実施形態に係る制御装置128は、掘削開始点Pが掘削禁止領域R3内にある場合に走行体110を後退させるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る制御装置128は、掘削開始点Pが掘削禁止領域R3内にある場合に、現在の積込機械100の位置では掘削ができない旨の警報を出力してもよい。
【0054】
〈第4の実施形態〉
第1から第3の実施形態は、バックホウショベルによる掘削に係る実施形態である。第4の実施形態では、フェイスショベルによる掘削について説明する。
図12は、第4の実施形態に係る掘削積込作業の例を示す図である。積込機械100は、走路面Fに配置され、前方の掘削対象Lを掘削し、運搬車両200に掘削した土砂を積み込む。
【0055】
第4の実施形態に係るバケット133は、刃先が旋回体120の前方を向くように取り付けられる。そのため、第4の実施形態における掘削時のバケット133の移動方向は、アーム132の押し方向である。
第4の実施形態に係る掘削位置特定部1107は、掘削可能範囲R2のうち走路境界線B1上の点であって、旋回中心軸Aから当該点までの距離が最も短い点を、掘削開始点Pに決定する。掘削開始点Pは、アーム132の引き方向側、すなわち掘削時のバケット133の移動方向の後方側における掘削可能範囲R2の境界線である後方境界線B2と走路境界線B1との距離が最も短くなる点でもある。
【0056】
このように、第4の実施形態に係る制御装置128も、掘削時のバケット133の移動方向とは反対側における掘削可能範囲R2の境界線である後方境界線B2と走路境界線B1との距離が最も短くなる点を掘削開始点Pとする。これにより、第1の実施形態と同様に、運搬車両200の走行可能な範囲を早期に広げ、また斜面の崩壊による走路面Fへの土砂の散乱を抑制することができる。
【0057】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
【0058】
また、上述の実施形態に係る積込機械100は、オペレータが搭乗して操作する有人運転車両であるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る積込機械100は、遠隔の事務所にいるオペレータがモニタの画面を見ながら操作する遠隔操作装置から、通信により取得する操作信号によって作動する遠隔運転車両であってもよい。この場合、制御装置128の一部の機能が遠隔操作装置に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0059】
100…積込機械 110…走行体 120…旋回体 121…運転室 122…運転席 123…操作装置 124…深度検出装置 125…位置方位演算器 126…傾斜計測器 127…油圧装置 128…制御装置 130…作業機 131…ブーム 132…アーム 133…バケット 134…ブームシリンダ 135…アームシリンダ 136…バケットシリンダ 137…ブームストロークセンサ 138…アームストロークセンサ 139…バケットストロークセンサ 200…運搬車両 1101…車両情報取得部 1102…検出情報取得部 1103…操作信号入力部 1104…マップ生成部 1105…掘削可能範囲特定部 1106…境界特定部 1107…掘削位置特定部 1108…移動処理部 1109…操作信号出力部 1110…バケット位置特定部 1111…高さ補完部 1112…後退判定部 F…走路面 L…掘削対象 P…掘削開始点 A…旋回中心軸 B1…走路境界線 B2…前方境界線 R1…可動範囲 R2…掘削可能範囲 R3…掘削禁止領域 H…遮蔽部分 T…軌跡