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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】膜ろ過システムおよび膜ろ過方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/22 20060101AFI20221206BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20221206BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20221206BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20221206BHJP
   C02F 1/78 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B01D61/22
A01K63/04 A
B01D61/14 500
C02F1/44 F
C02F1/78
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018164379
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020037058
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 明広
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-181973(JP,A)
【文献】特開2014-188473(JP,A)
【文献】特開2008-055385(JP,A)
【文献】特開2003-326258(JP,A)
【文献】特開2015-173995(JP,A)
【文献】特開2017-202467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/04
C02F 1/44
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/72 - 1/78
C02F 1/58
C02F 9/02
C02F 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含む、水中生物の飼育水中の懸濁物質を除去する膜ろ過システムであって、
前記飼育水中に過酸化物を発生させる過酸化物発生手段と、
前記過酸化物を発生させた過酸化物含有水を限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過する膜ろ過手段と、
前記膜ろ過手段の後段の、過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段と、
前記過酸化物分解手段により分解処理した処理水の少なくとも一部を返送して前記飼育水に添加する返送手段と、
を備え、
前記限外ろ過膜または前記精密ろ過膜の膜間差圧に基づいて、前記過酸化物の発生量を調整することを特徴とする膜ろ過システム。
【請求項2】
請求項1に記載の膜ろ過システムであって、
前記過酸化物発生手段がオゾン発生手段であることを特徴とする膜ろ過システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜ろ過システムであって、
前記膜間差圧をモニタリングし、前記過酸化物の前記発生量を制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする膜ろ過システム。
【請求項4】
ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含む、水中生物の飼育水中の懸濁物質を除去する膜ろ過方法であって、
前記飼育水中に過酸化物を発生させる過酸化物発生工程と、
前記過酸化物を発生させた過酸化物含有水を限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過する膜ろ過工程と、
前記膜ろ過工程の後段の、過酸化物を分解処理する過酸化物分解工程と、
前記過酸化物分解工程において分解処理した処理水の少なくとも一部を返送して前記飼育水に添加する返送工程と、
を含み、
前記限外ろ過膜または前記精密ろ過膜の膜間差圧に基づいて、前記過酸化物の発生量を調整することを特徴とする膜ろ過方法。
【請求項5】
請求項4に記載の膜ろ過方法であって、
前記過酸化物発生工程がオゾン発生工程であることを特徴とする膜ろ過方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の膜ろ過方法であって、
前記膜間差圧をモニタリングし、前記過酸化物の前記発生量を制御することを特徴とする膜ろ過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水中の懸濁物質を除去する膜ろ過システムおよび膜ろ過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜のファウリングを抑制する方法あるいは膜を洗浄する方法として、一般的には次亜塩素酸ナトリウム水溶液を膜の2次側から1次側に逆流させる方法が用いられる。さらに膜の洗浄効果を高める方法として、塩素を含む水を膜の2次側から逆流させた後、その水を所定の時間保持することで膜を洗浄する方法(特許文献1参照)等がある。
【0003】
海水中の懸濁物質を限外ろ過膜や精密ろ過膜で除去しようとする場合、海水中に生息する細菌の繁殖や、海水中の有機物等により、膜の表面が汚染され、細孔が塞がれてしまう現象(ファウリング)が生じる場合がある。
【0004】
特に、養殖や水族館のようなアンモニア等の窒素化合物が含まれる海水を処理しようとする場合、窒素が細菌の栄養源となり、ファウリングを助長してしまう可能性がある。ファウリングが起きた場合、膜モジュール内の圧力が急激に上昇し、安定した膜処理ができなくなる可能性がある。さらに、一度ファウリングを起こしてしまった膜は、酸やアルカリ等を用いた薬品洗浄を行う必要があり、洗浄にかかるメンテナンス費用や、装置停止を見込んだ予備系列の設置等、コストが膨らむ要因となる。
【0005】
特許文献1の方法では、膜のファウリングを抑制するために、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いているが、膜の洗浄に必要な薬品コストや薬品補充の手間がかかる。また、逆流工程や浸漬工程を必要とするため、膜ろ過工程を停止する必要がある。
【0006】
また、膜のファウリングを抑制しつつ、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水中の懸濁物質およびアンモニア態窒素を除去する方法として、ハロゲン化物イオン含有水中にオゾン処理により過酸化物を発生させ、過酸化物を発生させた過酸化物含有水を限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過する方法(特許文献2参照)がある。
【0007】
特許文献2の方法では、過酸化物の発生量が少ないと膜のファウリングが発生し、安定した膜処理ができなくなる場合がある。また、一度ファウリングが発生した膜に対し、過酸化物の注入量を調整することで、膜が回復することについて記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-015365号公報
【文献】特許第6251095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水について安定した膜処理を行うことができる膜ろ過システムおよび膜ろ過方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含む、水中生物の飼育水中の懸濁物質を除去する膜ろ過システムであって、前記飼育水中に過酸化物を発生させる過酸化物発生手段と、前記過酸化物を発生させた過酸化物含有水を限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過する膜ろ過手段と、前記膜ろ過手段の後段の、過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段と、前記過酸化物分解手段により分解処理した処理水の少なくとも一部を返送して前記飼育水に添加する返送手段と、を備え、前記限外ろ過膜または前記精密ろ過膜の膜間差圧に基づいて、前記過酸化物の発生量を調整する、膜ろ過システムである。
【0011】
前記膜ろ過システムにおいて、前記過酸化物発生手段がオゾン発生手段であることが好ましい。
【0012】
前記膜ろ過システムにおいて、前記膜間差圧をモニタリングし、前記過酸化物の前記発生量を制御する制御手段をさらに備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含む、水中生物の飼育水中の懸濁物質を除去する膜ろ過方法であって、前記飼育水中に過酸化物を発生させる過酸化物発生工程と、前記過酸化物を発生させた過酸化物含有水を限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過する膜ろ過工程と、前記膜ろ過工程の後段の、過酸化物を分解処理する過酸化物分解工程と、前記過酸化物分解工程において分解処理した処理水の少なくとも一部を返送して前記飼育水に添加する返送工程と、を含み、前記限外ろ過膜または前記精密ろ過膜の膜間差圧に基づいて、前記過酸化物の発生量を調整する、膜ろ過方法である。
【0014】
前記膜ろ過方法において、前記過酸化物発生工程がオゾン発生工程であることが好ましい。
【0015】
前記膜ろ過方法において、前記膜間差圧をモニタリングし、前記過酸化物の前記発生量を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水について安定した膜処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る膜ろ過システムの一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る膜ろ過システムの他の例を示す概略構成図である。
図3】実施例におけるオゾンの注入量を変えたときの膜間差圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態に係る膜ろ過システムの一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0020】
膜ろ過システム1は、過酸化物発生手段として、オゾン発生装置26を備えるオゾン処理装置24と、膜ろ過手段として、限外ろ過膜または精密ろ過膜を有する膜ろ過装置14と、過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段として、活性炭処理装置18とを備える。膜ろ過システム1は、原水槽10と、過酸化物含有水槽12と、膜ろ過水槽16と、処理水槽20と、濃縮水槽22とを備えてもよい。
【0021】
図1の膜ろ過システム1において、原水槽10の出口と過酸化物含有水槽12の入口とが配管40により接続され、過酸化物含有水槽12の出口と膜ろ過装置14の入口とがポンプ28およびストレーナ38を介して配管42により接続され、膜ろ過装置14の透過水出口と膜ろ過水槽16の入口とが配管44より接続され、膜ろ過水槽16の出口と活性炭処理装置18の入口とがポンプ30を介して配管46により接続され、活性炭処理装置18の出口と処理水槽20の入口とが配管48より接続され、処理水槽20の出口と原水槽10とがポンプ32を介して返送配管50により接続されている。
【0022】
膜ろ過装置14の濃縮水出口と濃縮水槽22の濃縮水入口とが配管52により接続され、濃縮水槽22の出口とオゾン処理装置24の入口とがポンプ34を介して配管54により接続され、オゾン処理装置24の出口と過酸化物含有水槽12の入口とが配管56により接続されている。オゾン処理装置24の下部にはオゾン発生装置26がバルブ65を介して配管66により接続されている。配管66におけるバルブ65の下流側にはオゾンの流量を測定するフローメータ60が設置されている。オゾン処理装置24の上部の排オゾン出口には、排オゾンを排出する配管64が接続され、配管66におけるバルブ65の上流側から分岐した配管63がバルブ61を介して配管64に接続されている。オゾン処理装置24の上部側面には発生したスカム等を排出する配管62が接続されている。処理水槽20の下部と膜ろ過装置14の2次側とはポンプ36を介して配管58により接続されている。圧力測定手段として、配管42のストレーナ38の下流側には、圧力計11が設置され、配管44には、圧力計13が設置され、配管52には、圧力計15が設置されている。
【0023】
本実施形態に係る膜ろ過方法および膜ろ過システム1の動作について説明する。
【0024】
原水槽10に貯留された、懸濁物質を含み、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水は、必要に応じて過酸化物含有水槽12に貯留される。ハロゲン化物イオン含有水は、過酸化物含有水槽12において、後述する過酸化物を発生させた過酸化物含有水と混合された後、混合水としてポンプ28により配管42を通して膜ろ過装置14に供給される。必要に応じて配管42の途中にストレーナ38を設置し、ハロゲン化物イオン含有水中の比較的大きめの固形物が除去されてもよい。
【0025】
膜ろ過装置14において、混合水中の懸濁物質、すなわち原水であるハロゲン化物イオン含有水に含まれていた懸濁物質が限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過されて除去される(膜ろ過工程)。
【0026】
膜ろ過された膜ろ過水(透過水)は、配管44を通して必要に応じて膜ろ過水槽16に貯留された後、ポンプ30により配管46を通して活性炭処理装置18に供給される。活性炭処理装置18において、膜ろ過水中の過酸化物であるハロゲンオキソ酸が活性炭により分解処理され、ハロゲン化物イオンとなる(過酸化物分解工程)。
【0027】
過酸化物が分解処理され、ハロゲン化物イオンを含む処理水は、配管48を通して必要に応じて処理水槽20に貯留された後、ポンプ32により返送配管50を通して原水槽10に返送され、ハロゲン化物イオン含有水に添加される(返送工程)。過酸化物分解手段により分解処理した処理水の少なくとも一部を返送してハロゲン化合物イオン含有水に添加する返送手段として、ポンプ32および返送配管50が機能する。
【0028】
膜ろ過装置14の濃縮水は、配管52を通して必要に応じて濃縮水槽22に貯留された後、ポンプ34により配管54を通してオゾン処理装置24に供給される。
【0029】
オゾン処理装置24には、一方で、オゾン発生装置26で発生させたオゾンが配管66を通して供給される。オゾン処理装置24において、下記式1に示すように、濃縮水に含まれるハロゲン化物イオンとオゾンとの反応により、過酸化物である次亜ハロゲン酸(HXO)等のハロゲンオキソ酸が発生する(過酸化物発生工程)。次亜ハロゲン酸等のハロゲンオキソ酸は酸化力を有し、有機物の酸化や殺菌等に効果がある。なお、排オゾンは、配管64を通して排出され、オゾン処理装置24において発生したスカム等は、配管62を通して排出される。オゾン発生装置26で発生させたオゾンのうちオゾン処理装置24に供給されない分は、配管66,63,64を通して排出される。すなわち、オゾン処理装置24に供給されるオゾンの量は、バルブ61,65の開閉度によって調整される。
【0030】
[式1]
+ O → O + OX
OX + HO → HXO + OH
(ここで、Xは、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)等のハロゲン化物イオンであり、Xは、Cl,Br,I等のハロゲンである。)
【0031】
が塩化物イオンの場合、下記式2に示すように、濃縮水に含まれる塩化物イオンとオゾンとの反応により、過酸化物である次亜塩素酸(HClO)等のハロゲンオキソ酸が発生する。
【0032】
[式2]
Cl + O → O + OCl
OCl + HO → HClO + OH
【0033】
また、Xが臭化物イオンの場合、下記式3に示すように、濃縮水に含まれる臭化物イオンとオゾンとの反応により、過酸化物である次亜臭素酸(HBrO)等のハロゲンオキソ酸が発生する。
【0034】
[式3]
Br + O → O + OBr
OBr + HO → HBrO + OH
【0035】
過酸化物を発生させた過酸化物含有水は、配管56を通して過酸化物含有水槽12に供給され、原水槽10からのハロゲン化物イオン含有水と混合される。
【0036】
膜ろ過装置14の洗浄が必要になった場合は、処理水の一部が逆洗水として処理水槽20からポンプ36により配管58を通して膜ろ過装置14の2次側から1次側に逆流されて、膜が洗浄されてもよい(逆洗工程)。逆洗排水は、配管52を通して濃縮水槽22に供給され、膜ろ過装置14からの濃縮水と混合される。膜ろ過水槽16の膜ろ過水が逆洗水として用いられてもよい。
【0037】
本実施形態に係る膜ろ過システム1において、オゾン発生装置26を備えるオゾン処理装置24等の過酸化物発生装置より生じる次亜臭素酸や臭素酸等の酸化殺菌力を有するハロゲンオキソ酸を含む過酸化物含有水とハロゲン化物イオン含有水との混合水を膜ろ過装置14の膜に供給することによって、有機物や生物等による膜のファウリングを抑制することができる。膜のファウリングを抑制するための次亜塩素酸ナトリウム等の薬品は用いなくてもよい。そして、圧力計11、圧力計13および圧力計15により測定された、膜ろ過装置14の膜間差圧の挙動に基づいて、オゾン処理装置24における過酸化物の発生量が調整される(調整工程)。これにより、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水について安定した膜処理を行うことができる。すなわち、過酸化物の発生量によって、膜ろ過運転を継続しながら、膜間差圧を制御できる。
【0038】
膜ろ過装置14の膜間差圧は、例えば、圧力計11により測定された入口圧、圧力計13により測定された出口圧(透過水圧)および圧力計15により測定された濃縮水圧に基づいて、下記式により求められる。
膜間差圧=出口圧-[(入口圧+濃縮水圧)/2]
【0039】
例えば、膜間差圧が上昇して、予め定めた基準圧に到達したら、または予め定めた上昇量に到達したら、オゾン処理装置24におけるオゾン発生装置26からのオゾン注入量を増やせばよい(例えば10%程度)。膜間差圧が基準圧より下がったら、オゾン注入量を減らしてもよいし、そのままオゾン注入量を維持してもよい。この場合、膜ろ過装置14の膜間差圧の挙動に基づいて過酸化物の発生量を調整する調整手段として、オゾン発生装置26が機能してもよいし、オゾン発生装置26の出口のフローメータ60の値に応じて開閉度が調整されるバルブ61およびバルブ65等が機能してもよい。
【0040】
例えば、図示しない制御手段である制御装置と、圧力計11、圧力計13、圧力計15、オゾン発生装置26とを、またはフローメータ60、バルブ61、バルブ65とをそれぞれ電気的接続等により接続し、膜間差圧をモニタリングし、膜間差圧の挙動に基づいて、オゾン処理装置24における過酸化物の発生量を制御してもよい。
【0041】
本実施形態に係る膜ろ過システム1では、下記式4に示すように、発生させた次亜ハロゲン酸等のハロゲンオキソ酸がハロゲン化物イオン含有水に含まれるアンモニア態窒素の脱窒反応を起こす(脱窒工程)ため、膜による除濁とハロゲン化物イオン含有水の窒素除去がともに可能となる。
【0042】
[式4]
HXO + NH → NHX + H
3HXO + 2NH → 2N + 3HX + 3H
(ここで、Xは、Cl,Br,I等のハロゲンである。)
【0043】
特に、XがBrの場合、下記式5に示すような、発生させた次亜臭素酸がハロゲン化物イオン含有水に含まれるアンモニア態窒素の脱窒反応を起こしやすい。
【0044】
[式5]
HBrO + NH → NHBr + H
3HBrO + 2NH → 2N + 3HBr + 3H
【0045】
膜ろ過水中の次亜臭素酸等のハロゲンオキソ酸の濃度が高く、生態等に影響を及ぼすことが懸念されるため、膜ろ過装置14の後段に活性炭処理装置18等の過酸化物分解手段を設ける。膜ろ過装置14の後段に過酸化物分解手段を備えることにより、次亜臭素酸等のハロゲンオキソ酸による生態等への影響を低減することができる。このため、原水が養殖や水族館等の飼育水等である場合に、処理水を原水槽10へ返送しても、生物への影響を低減することができる。
【0046】
図1の例では、処理水の全てが原水槽10に返送されてハロゲン化物イオン含有水に添加されているが、処理水の少なくとも一部が原水槽10に返送されてハロゲン化物イオン含有水に添加されればよい。使用する水量を低減する等の観点から、処理水の全てが原水槽10に返送されることが好ましい。処理水の全てが原水槽10に返送される閉鎖循環系とすることにより、使用する水量を低減することができる等の利点がある。
【0047】
本発明の実施形態に係る膜ろ過システムの他の例の概略を図2に示し、その構成について説明する。
【0048】
膜ろ過システム3は、過酸化物発生手段として、オゾン発生装置26を備えるオゾン処理装置24と、膜ろ過手段として、限外ろ過膜または精密ろ過膜を有する膜ろ過装置14と、過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段として、活性炭処理装置18とを備える。膜ろ過システム3は、原水槽10と、過酸化物含有水槽68と、膜ろ過水槽70と、処理水槽72とを備えてもよい。
【0049】
図2の膜ろ過システム3において、原水槽10の出口とオゾン処理装置24の入口とがポンプ74およびストレーナ38を介して配管84により接続され、オゾン処理装置24の出口と過酸化物含有水槽68の入口とが配管86により接続され、過酸化物含有水槽68の出口と膜ろ過装置14の入口とがポンプ76を介して配管88により接続され、膜ろ過装置14の透過水出口と膜ろ過水槽70の入口とが配管90により接続され、膜ろ過水槽70の出口と活性炭処理装置18の入口とがポンプ78を介して配管92により接続され、活性炭処理装置18の出口と処理水槽72の入口とが配管94により接続され、処理水槽72の出口と原水槽10とがポンプ80を介して返送配管96により接続されている。オゾン処理装置24の下部にはバルブ116を介してオゾン発生装置26が配管104により接続されている。配管104におけるバルブ116の下流側にはオゾンの流量を測定するフローメータ112が設置されている。オゾン処理装置24の上部の排オゾン出口には、排オゾンを排出する配管108が接続され、配管104におけるバルブ116の上流側から分岐した配管110がバルブ114を介して配管108に接続されている。オゾン処理装置24の上部側面には発生したスカム等を排出する配管106が接続されている。処理水槽72の下部と膜ろ過装置14の2次側とはポンプ82を介して配管98により接続されている。圧力測定手段として、配管88のポンプ76の下流側には、圧力計17が設置され、配管90には、圧力計19が設置され、配管102には、圧力計21が設置されている。
【0050】
本実施形態に係る膜ろ過方法および膜ろ過システム3の動作について説明する。
【0051】
原水槽10に貯留された、懸濁物質を含み、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水は、ポンプ74により配管84を通してオゾン処理装置24に供給される。必要に応じて配管84の途中にストレーナ38を設置し、ハロゲン化物イオン含有水中の比較的大きめの固形物が除去されてもよい。
【0052】
オゾン処理装置24には、一方で、オゾン発生装置26で発生させたオゾンが配管104を通して供給される。オゾン処理装置24において、上記式1に示すように、ハロゲン化物イオン含有水に含まれるハロゲン化物イオンとオゾンとの反応により、過酸化物である次亜ハロゲン酸(HXO)等のハロゲンオキソ酸が発生する(過酸化物発生工程)。次亜ハロゲン酸等のハロゲンオキソ酸は酸化力を有し、有機物の酸化や殺菌等に効果がある。なお、排オゾンは、配管108を通して排出され、オゾン処理装置24において発生したスカム等は、配管106を通して排出される。オゾン発生装置26で発生させたオゾンのうちオゾン処理装置24に供給されない分は、配管104,110,108を通して排出される。すなわち、オゾン処理装置24に供給されるオゾンの量は、バルブ114,116の開閉度によって調整される。
【0053】
が塩化物イオンの場合、上記式2に示すように、ハロゲン化物イオン含有水に含まれる塩化物イオンとオゾンとの反応により、過酸化物である次亜塩素酸(HClO)等のハロゲンオキソ酸が発生する。
【0054】
また、Xが臭化物イオンの場合、上記式3に示すように、ハロゲン化物イオン含有水に含まれる臭化物イオンとオゾンとの反応により、過酸化物である次亜臭素酸(HBrO)等のハロゲンオキソ酸が発生する。
【0055】
過酸化物を発生させた過酸化物含有水は、配管86を通して必要に応じて過酸化物含有水槽68に貯留された後、ポンプ76により配管88を通して膜ろ過装置14に供給される。膜ろ過装置14において、過酸化物含有水中の懸濁物質、すなわち原水であるハロゲン化物イオン含有水に含まれていた懸濁物質が限外ろ過膜または精密ろ過膜を用いてろ過されて除去される(膜ろ過工程)。
【0056】
膜ろ過された透過水(膜ろ過水)は、配管90を通して必要に応じて膜ろ過水槽70に貯留された後、ポンプ78により配管92を通して活性炭処理装置18に供給される。活性炭処理装置18において、膜ろ過水中の過酸化物であるハロゲンオキソ酸が活性炭により分解処理され、ハロゲン化物イオンとなる(過酸化物分解工程)。膜ろ過装置14の濃縮水は、配管102を通して排出される。
【0057】
過酸化物が分解処理され、ハロゲン化物イオンを含む処理水は、配管94を通して必要に応じて処理水槽72に貯留された後、ポンプ80により返送配管96を通して原水槽10に返送され、ハロゲン化物イオン含有水に添加される(返送工程)。過酸化物分解手段により分解処理した処理水の少なくとも一部を返送してハロゲン化合物イオン含有水に添加する返送手段として、ポンプ80および返送配管96が機能する。
【0058】
膜ろ過装置14の洗浄が必要になった場合は、処理水の一部が逆洗水として処理水槽72からポンプ82により配管98を通して膜ろ過装置14の2次側から1次側に逆流されて、膜が洗浄されてもよい(逆洗工程)。逆洗排水は、配管100を通して排出される。膜ろ過水槽70の膜ろ過水が逆洗水として用いられてもよい。
【0059】
本実施形態に係る膜ろ過システム3において、オゾン発生装置26を備えるオゾン処理装置24等の過酸化物発生装置より生じる次亜臭素酸や臭素酸等の酸化殺菌力を有するハロゲンオキソ酸を含むハロゲン化物イオン含有水を膜ろ過装置14の膜に供給することによって、有機物や生物等による膜のファウリングを抑制することができる。膜のファウリングを抑制するための次亜塩素酸ナトリウム等の薬品は用いなくてもよい。そして、圧力計17、圧力計19および圧力計21により測定された、膜ろ過装置14の膜間差圧の挙動に基づいて、オゾン処理装置24における過酸化物の発生量が調整される(調整工程)。これにより、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水について安定した膜処理を行うことができる。
【0060】
膜ろ過装置14の膜間差圧は、例えば、圧力計17により測定された入口圧、圧力計19により測定された出口圧(透過水圧)および圧力計21により測定された濃縮水圧に基づいて、上記式により求められる。
【0061】
例えば、膜間差圧が上昇して、予め定めた基準圧に到達したら、または予め定めた上昇量に到達したら、オゾン処理装置24におけるオゾン発生装置26からのオゾン注入量を増やせばよい(例えば10%程度)。膜間差圧が基準圧より下がったら、オゾン注入量を減らしてもよいし、そのままオゾン注入量を維持してもよい。この場合、膜ろ過装置14の膜間差圧の挙動に基づいて過酸化物の発生量を調整する調整手段として、オゾン発生装置26が機能してもよいし、オゾン発生装置26の出口のフローメータ112の値に応じて開閉度が調整されるバルブ114およびバルブ116等が機能してもよい。
【0062】
例えば、図示しない制御手段である制御装置と、圧力計17、圧力計19、圧力計21、オゾン発生装置26とを、またはフローメータ112、バルブ114、バルブ116とをそれぞれ電気的接続等により接続し、膜間差圧をモニタリングし、膜間差圧の挙動に基づいて、オゾン処理装置24における過酸化物の発生量を制御してもよい。
【0063】
本実施形態に係る膜ろ過システム3では、上記式4に示すように、発生させた次亜ハロゲン酸等のハロゲンオキソ酸がハロゲン化物イオン含有水に含まれるアンモニア態窒素の脱窒反応を起こす(脱窒工程)ため、膜による除濁とハロゲン化物イオン含有水の窒素除去がともに可能となる。
【0064】
特に、XがBrの場合、上記式5に示すような、発生させた次亜臭素酸がハロゲン化物イオン含有水に含まれるアンモニア態窒素の脱窒反応を起こしやすい。
【0065】
膜ろ過水中の次亜臭素酸等のハロゲンオキソ酸の濃度が高く、生態等に影響を及ぼすことが懸念されるため、膜ろ過装置14の後段に活性炭処理装置18等の過酸化物分解手段を設ける。膜ろ過装置14の後段に過酸化物分解手段を備えることにより、次亜臭素酸等のハロゲンオキソ酸による生態等への影響を低減することができる。このため、原水が養殖や水族館等の飼育水等である場合に、処理水を原水槽10へ返送しても、生物への影響を低減することができる。
【0066】
図2の例では、処理水の全てが原水槽10に返送されてハロゲン化物イオン含有水に添加されているが、処理水の少なくとも一部が原水槽10に返送されてハロゲン化物イオン含有水に添加されればよい。使用する水量を低減する等の観点から、処理水の全てが原水槽10に返送されることが好ましい。処理水の全てが原水槽10に返送される閉鎖循環系とすることにより、使用する水量を低減することができる等の利点がある。
【0067】
過酸化物発生手段としては、オゾン発生装置を備えるオゾン処理装置の他に、UV照射装置を備えたUV酸化装置等が挙げられる。処理性能等の観点から、オゾン発生装置を備えるオゾン処理装置が好ましい。
【0068】
膜ろ過装置14としては、限外ろ過膜(UF膜)または精密ろ過膜(MF膜)を有するものであればよく特に制限はない。
【0069】
過酸化物分解手段としては、活性炭を充填した活性炭充填塔等の活性炭処理装置18の他に、Pd担持担体、酸化チタン、白金等の過酸化物分解触媒を充填した充填塔等が挙げられ、コスト等の観点から活性炭充填塔等の活性炭処理装置が好ましい。また、過酸化物分解触媒を充填した充填塔への通水方向は、下向流と上向流のどちらでもよいが、過酸化物の分解率を高めるためには下向流が望ましい。
【0070】
本実施形態に係る膜ろ過システムおよび膜ろ過方法は、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水中の懸濁物質の除去に適用され、ハロゲン化物イオン含有水は海水であっても、淡水であってもよい。特に、アンモニア態窒素を含む海水の処理に適しており、魚類等の水中生物の養殖や水族館等の魚類等の水中生物の飼育水処理に用いられる閉鎖系循環処理により適している。すなわち、本実施形態に係る膜ろ過システムは、水中生物の飼育水の製造装置または処理装置として、好適に用いることができる。海水には臭化物イオンが通常含まれ、魚類等の水中生物からはアンモニア態窒素が通常排出される。アンモニア態窒素を硝化および脱窒しようとする場合、まず、好気性生物処理によりアンモニア態窒素を硝酸にした後、嫌気性生物処理により硝酸を窒素ガスへ還元して水中から窒素を除去するのが通常であった。このような生物処理を用いる場合、好気条件の硝化槽と嫌気条件の脱窒槽を必要とするため、広い設置スペースが必要である。それに対して、本実施形態に係る膜ろ過システムでは、硝化および脱窒を一つの装置(オゾン処理装置24)で行うことができるため、省スペース化が可能となる。
【0071】
オゾン処理装置24において、ハロゲン化物イオン含有水中のアンモニア態窒素の濃度(ppm)に対して、ハロゲン化物イオンの濃度が5~50倍、オゾンの注入率が2~20倍の濃度比となるように、ハロゲン化物塩およびオゾンのうち少なくとも1つの注入量を調整することが好ましく、ハロゲン化物イオンの濃度が5~25倍、オゾンの注入率が2~10倍の濃度比となるように、ハロゲン化物塩およびオゾンのうち少なくとも1つの注入量を調整することがより好ましい。これは、ハロゲン化物イオン含有水中のアンモニア態窒素の濃度に対して、次亜臭素酸等のハロゲンオキソ酸の量比を1.5モル以上とするために、処理に用いるオゾンの注入率を最適化するものである。オゾン注入率の算出式を下記式6に示す。
【0072】
[式6]
オゾン注入率[mg-O/L] =
オゾン発生装置出口オゾン濃度[mg-O/NL]×(オゾン流量[NL/h]/原水流量[L/h])
【0073】
オゾンの注入率が過剰になると、排オゾン量が多くなり、排オゾンの除去装置が大型化してしまう可能性がある。また、ハロゲン化物イオン含有水中のアンモニア態窒素濃度が上昇した場合は、オゾン注入率を上げるとともに、臭化物塩等のハロゲン化物塩等をハロゲン化物イオン含有水に添加することで処理することができる。ハロゲン化物イオン含有水中のアンモニア態窒素濃度が低下した場合は、オゾン注入率を下げればよい。
【0074】
ハロゲン化物塩としては、塩化ナトリウム等の塩化物塩、臭化ナトリウム等の臭化物塩等が挙げられる。
【0075】
海水の飼育水中のアンモニア態窒素の濃度は通常1ppm以下であり、臭化物イオンの濃度は通常50~60ppm程度、塩化物イオンの濃度は通常18,000~22,000ppm程度である。本実施形態に係る膜ろ過システムおよび膜ろ過方法は、アンモニア態窒素の濃度が10ppm以下程度であり、臭化物イオンの濃度が50ppm~60ppm程度のハロゲン化物イオン含有水の処理に好適に適用することができる。
【実施例1】
【0076】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
図1に示す膜ろ過システムを用いて、魚の飼育水(アンモニア態窒素濃度:0.1~0.5ppm、臭化物イオン濃度:60~65ppm)について、オゾン注入量を変化させて(アンモニア態窒素(NH-N):オゾン(O)=1:1.5(モル比)→1:0.6→1:1.5)、膜ろ過装置(膜:限外ろ過膜)の膜間差圧を測定した。実験結果を図3に示す。図3は、オゾンの注入量を変えたときの膜間差圧を示す。なお、飼育水中のアンモニア態窒素濃度および臭化物イオン濃度は、それぞれポータブル吸光光度計(HACH社製、DR1900)、イオンクロマトグラフィ装置(メトローム社製、761CompactIC型)を用いて測定した。
【0078】
図3からわかるように、オゾン注入量をアンモニア態窒素(NH-N):オゾン(O)=1:1.5(モル比)から1:0.6に変化させると膜間差圧が上昇し、1:1.5に戻すと膜間差圧が低下した。
【0079】
このように、限外ろ過膜または精密ろ過膜の膜間差圧の挙動に基づいて過酸化物の発生量を調整することにより、ハロゲン化物イオンおよびアンモニア態窒素を含むハロゲン化物イオン含有水について安定した膜処理を行うことができることがわかった。
【符号の説明】
【0080】
1,3 膜ろ過システム、10 原水槽、11,13,15,17,19,21 圧力計、12,68 過酸化物含有水槽、14 膜ろ過装置、16,70 膜ろ過水槽、18 活性炭処理装置、20,72 処理水槽、22 濃縮水槽、24 オゾン処理装置、26 オゾン発生装置、28,30,32,34,36,74,76,78,80,82 ポンプ、38 ストレーナ、40,42,44,46,48,52,54,56,58,62,63,64,66,84,86,88,90,92,94,98,100,102,104,106,108,110 配管、50,96 返送配管、60,112 フローメータ、61,65,114,116 バルブ。
図1
図2
図3