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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】無人航空機及び構造物の保守点検方法
(51)【国際特許分類】
   B64C 39/02 20060101AFI20221206BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20221206BHJP
   B64C 25/36 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B64C39/02
B64C27/08
B64C25/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018166273
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020037363
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】首藤 和正
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127049(JP,A)
【文献】特開2018-075938(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
B64C 27/08
B64C 25/36
B64C 25/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に対する保守点検を行う無人航空機であって、
無人航空機本体と、
前記無人航空機本体に取り付ける車輪と、
前記車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構と、を備え、
前記密着機構は、無人航空機を上昇させる回転翼とは別体であり、かつ、送風による押力又は磁力を利用するものであり、
前記車輪は、構造物側のガイドに沿って移動することを特徴とする、無人航空機。
【請求項2】
構造物に対する保守点検を行う無人航空機であって、
無人航空機本体と、
前記無人航空機本体に取り付ける車輪と、
前記車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構と、
前記無人航空機本体を1軸のみで動かすコントローラと、を備え、
前記密着機構は、無人航空機を上昇させる回転翼とは別体であり、
前記車輪は構造物側のガイドに沿って移動することを特徴とする、無人航空機。
【請求項3】
前記車輪は、前記無人航空機本体の両側に少なくとも1つずつ取り付けられ、前記車輪同士の間隔は変更可能であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無人航空機。
【請求項4】
無人航空機を用いた構造物の保守点検方法であって、
前記無人航空機は、無人航空機本体と、前記無人航空機本体に取り付ける車輪と、前記車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構と、を備え、
前記密着機構は、無人航空機を上昇させる回転翼とは別体であり、送風による押力又は磁力を利用するものであり、
前記車輪を構造物の壁面に密着させた状態で、構造物側のガイドに沿って移動させることを特徴とする、構造物の保守点検方法。
【請求項5】
無人航空機を用いた構造物の保守点検方法であって、
前記無人航空機は、無人航空機本体と、前記無人航空機本体に取り付ける車輪と、前記車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構と、前記無人航空機本体に対する1軸コントローラと、を備え、
前記密着機構は、無人航空機を上昇させる回転翼とは別体であり、
前記車輪を構造物側のガイドに沿って移動させ、前記1軸コントローラにより無人航空機本体を構造物に対して1軸方向のみに移動させることを特徴とする、構造物の保守点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に対する保守点検(検査、洗浄、修繕等)を行う無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法に関するものである。特に、密閉空間内の保守点検を行う無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外部から遮断された密閉空間である建物の内部構造や建物内に配置された装置などの構造物に対する保守点検を行う場合、高所においては人による保守点検を行うための作業スペースの確保などが必要とされている。例えば、構造物の内部壁面に設置された水管の検査、洗浄、修繕等を行う場合には、その都度構造物の内部に作業用の足場を組み、作業者が足場を登って水管の所定の箇所を検査、洗浄、修繕等を行っていた。この方法では、足場を組むために、多大な建設日数や費用を必要としていた。
【0003】
そのため、このような保守点検作業について、無人航空機を用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、点検を要する設備が収容された施設内を所定の飛行ルートに沿って自動飛行する無人航空機を用いた点検システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-154577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、無人航空機のコントロールには、上下方向(スロットル)、左右方向(エルロン)、前進後退(エレベータ)、回転方向(ラダー)と呼ばれる4軸のコントロールが必要であり、これらの操作には一定の技能を要するため、保守点検の現場作業員が技能を習得する必要がある。また、特許文献1に示すように、無人航空機のコントロールを自動化することも行われている。
【0006】
しかしながら、構造物に対して無人航空機による保守点検を行う場合、特に密閉空間内においては無人航空機自身が発する風が外乱要因となり、無人航空機の姿勢が安定せず、コントロールが非常に難しくなるという問題が生じる。特に、密閉空間の容積が狭くなるほど、この外乱要因の影響が大きくなる。このため、無人航空機のコントロールを全て自動化することは困難であるとともに、操作のためには高い技能を有する作業員の育成や配置等が要求されるため、結果的に保守点検に係る時間及びコストがかかるという問題がある。
【0007】
また、密閉空間において無人航空機が構造物の壁面に衝突することを避けるために密閉空間の中央部でホバリングさせると、無人航空機と構造物の壁面との距離が大きくなり、構造物の壁面に対する保守点検の精度が低下するという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明では、構造物に対する保守点検(検査、洗浄、修繕等)を行う無人航空機において、無人航空機のコントロールを容易にするとともに、構造物の壁面に対する保守点検作業を安定かつ高精度に実行することができる無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、無人航空機の移動に一定の制限を設ける構成とすることで、無人航空機のコントロールを容易とし、かつ無人航空機が構造物の壁面に対して一定の距離を保つことを容易とすることにより、保守点検作業を安定かつ高精度に行うことができることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の無人航空機は、構造物に対する保守点検を行う無人航空機であって、無人航空機本体と、無人航空機本体に取り付ける車輪と、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構とを備え、車輪は構造物側のガイドに沿って移動することを特徴とする。
【0011】
この無人航空機によれば、無人航空機本体に設けた車輪が構造物側にあるガイドに沿って移動することにより、無人航空機本体が移動する方向に一定の制限を設けることができる。また、この無人航空機によれば、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構を備えることにより、車輪が取り付けられた無人航空機本体自体は、構造物の壁面に対して一定の距離を保った状態とすることができる。したがって、ガイドによる無人航空機本体の移動方向の制限に加え、無人航空機本体と構造物の壁面との間に一定距離を保った状態とすることで、無人航空機本体に対して必要な操作軸数を減らすことが可能となり、無人航空機本体のコントロールが容易となる。
【0012】
また、この無人航空機によれば、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構を備えることにより、車輪が取り付けられた無人航空機本体は、構造物の壁面に対して衝突することなく、保守点検に適した距離を保った状態とすることができる。これにより、構造物の壁面における保守点検の安定性及び精度を高めることが可能となる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の無人航空機は、構造物に対する保守点検を行う無人航空機であって、無人航空機本体と、無人航空機本体に取り付ける車輪と、無人航空機本体を1軸のみで動かすコントローラとを備え、車輪は構造物側のガイドに沿って移動することを特徴とする。
【0014】
この無人航空機によれば、無人航空機本体に設けた車輪が構造物側にあるガイドに沿って移動することにより、無人航空機本体が移動する方向に一定の制限を設けることができる。また、この無人航空機によれば、無人航空機を動かすコントローラを1軸コントローラとすることで、ガイドによる無人航空機本体の移動方向の制限に加え、無人航空機本体に対して必要な操作を減らすことが可能となり、無人航空機本体のコントロールが容易となる。
【0015】
更に、本発明の無人航空機は、車輪は、無人航空機本体の両側に少なくとも1つずつ取り付けられ、車輪同士の間隔は変更可能であるという特徴を有する。
この特徴によれば、無人航空機本体の両側に車輪を設けることにより、車輪を構造物側のガイドに沿って移動させる際に、無人航空機の態勢を安定させることが容易となる。また、車輪同士の間隔を変更可能とすることにより、構造物側のガイド幅に合わせた対応が可能となる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の構造物の保守点検方法は、無人航空機を用いた構造物の保守点検方法であって、無人航空機は、無人航空機本体と、無人航空機本体に取り付ける車輪と、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構とを備え、車輪を構造物の壁面に密着させた状態で、構造物側のガイドに沿って移動させることを特徴とする。
【0017】
この構造物の保守点検方法によれば、無人航空機をコントロールする際に、無人航空機本体に設けた車輪が構造物側にあるガイドに沿って移動することにより、無人航空機本体が移動する方向に一定の制限を設けた状態とすることができる。また、無人航空機は、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構を備えているから、車輪が取り付けられた無人航空機本体自体は、構造物の壁面に対して一定の距離を保った状態とすることができる。したがって、ガイドによる無人航空機本体の移動方向の制限に加え、無人航空機本体と構造物の壁面との間に一定距離を保った状態とすることで、無人航空機本体に対して必要な操作軸数を減らすことができる。その結果、無人航空機本体のコントロールを容易とし、構造物に対する保守点検を行う作業員の負担を軽減することができる。
【0018】
また、この構造物の保守点検方法によれば、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構を備えることにより、車輪が取り付けられた無人航空機本体は、構造物の壁面に対して衝突することなく、保守点検に適した距離を保った状態とすることができる。これにより、構造物の壁面における保守点検の安定性及び精度を高めることが可能となる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明の構造物の保守点検方法は、無人航空機を用いた構造物の保守点検方法であって、無人航空機は、無人航空機本体と、無人航空機本体に取り付ける車輪と、無人航空機本体に対する1軸コントローラとを備え、車輪を構造物側のガイドに沿って移動させ、1軸コントローラにより無人航空機本体を構造物に対して1軸方向のみに移動させることを特徴とする。
【0020】
この構造物の保守点検方法によれば、無人航空機をコントロールする際に、無人航空機本体に対して設けた車輪が構造物側にあるガイドに沿って移動することにより、無人航空機本体が移動する方向に一定の制限を設けた状態とすることができる。また、無人航空機を動かすコントローラを1軸コントローラとすることで、ガイドによる無人航空機本体の移動方向の制限に加え、無人航空機本体に対して必要な操作を減らすことが可能となる。その結果、無人航空機本体のコントロールを容易とし、構造物に対する保守点検を行う作業員の負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、構造物に対する保守点検(検査、洗浄、修繕等)を行う無人航空機において、無人航空機のコントロールを容易にするとともに、構造物の壁面に対する保守点検作業を安定かつ高精度に実行することができる無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施態様の無人航空機の構造を示す概略説明図(斜視図)である。
図2】本発明の第1の実施態様の無人航空機の構造を示す概略説明図(正面図)である。
図3】本発明の第1の実施態様の無人航空機の構造を示す概略説明図(側面図)である。
図4】本発明の第1の実施態様の無人航空機における車輪の構造について他の態様を示す概略説明図である。
図5】本発明の第1の実施態様の無人航空機を用いた構造物の保守点検作業の工程説明図である。
図6】本発明の第2の実施態様の無人航空機の構造を示す概略説明図である。
図7】本発明の第3の実施態様の無人航空機の構造を示す概略説明図である。
図8】本発明の第4の実施態様の無人航空機の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る好適な実施態様について、添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する無人航空機については、本発明に係る無人航空機を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。また、実施態様に記載する無人航空機を用いた構造物の保守点検方法についても、本発明に係る無人航空機を用いた構造物の保守点検方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明の無人航空機は、構造物に対する保守点検を行う無人航空機に係るものである。特に、密閉空間内にある構造物に対する保守点検に好適に利用される。例えば、リアクター等の壁面に設置された水管の保守点検に利用される。なお、実施態様における保守点検対象の構造物については、本発明を説明するための例示であって、これに限定されるものではない。
【0025】
[第1の実施例]
図1は、本発明の第1の実施態様における無人航空機を示す概略説明図(斜視図)である。また、図2は、本発明の第1の実施態様における無人航空機を示す概略説明図(正面図)である。また、図3は、本発明の第1の実施態様における無人航空機を示す概略説明図(側面図)である。なお、図中の黒矢印は無人航空機の移動方向を示している。また、図中の白矢印は無人航空機に働く力の方向を示している。
本実施態様に係る無人航空機1aは、構造物100に対する保守点検を行うものであり、図1に示すように、無人航空機本体2、車輪3、密着機構4を備えている。また、無人航空機1aは、構造物100に対する保守点検を行うための保守点検作業部5を備えている。
【0026】
保守点検対象となる構造物100は、図1に示すように、壁面101にガイド102を有するものである。なお、ガイド102は、車輪3の進行を誘導可能な構造であればよく、詳細な構造等については特に限定されないが、車輪3の脱落が生じにくい凹状構造であることが好ましい。また、ガイド102は、構造物100の上下方向に対して直進、傾斜、あるいは蛇行するものであってもよい。
【0027】
また、ガイド102は、保守点検作業時に利用されるものであり、常設、仮設の形態は特に限定されない。例えば、常設の形態としては、リアクター内の水管間の壁(フィン)のように構造物100そのものの構成を利用するものが挙げられる。これにより、保守点検作業時ごとに設置する必要がないという利点がある。また、仮設の形態としては、外部からガイド102に相当する構造体(レールなど)を持ち込み、構造物100に仮置きする、あるいは取り付けるものが挙げられる。これにより、本来の壁面101の構造によらず、本発明の無人航空機を用いた構造物の保守点検作業を行うことが可能となる。
【0028】
無人航空機本体2は、図2に示すように、中央部21、アーム22、モータ23、回転翼24を有する。中央部21は、外部との通信を行う送受信ユニット、モータ23の駆動回路やバッテリー等を搭載している。無人航空機本体2は、送受信ユニットでコントローラなどの他装置と通信を行い、操作を行う。なお、送受信ユニットの通信手段に関しては、有線、無線のいずれであってもよい。アーム22は、中央部21の外側に延伸しており、アーム22の先端にモータ23及び回転翼24が設けられる。また、モータ23と回転翼24は接続しており、モータ23により回転翼24が回転駆動するものである。
なお、図1においては、アーム22の本数を4本とし、それぞれのアーム22に対してモータ23及び回転翼24が上下に設けられたものを例示しているが、これに限定されるものではない。アーム22、モータ23及び回転翼24に係る個数及び配置などの部品の詳細については、保守点検時に必要となる無人航空機の大きさや飛行能力に応じて適宜選択することが可能である。
【0029】
車輪3は、無人航空機本体2の上部に配置された車軸31を介して、無人航空機本体2の両側に配置されている。このとき、車輪3が無人航空機本体2における回転翼24に接触しないように配置する。また、車輪3は、ガイド102に沿って移動するものである。したがって、車輪3はガイド102から脱落しないような幅となるように設計することが好ましい。なお、車軸31に対して車輪3が回転するものとしてもよく、車輪3と車軸31とを固定し、車軸31が回転するものであってもよい。
【0030】
図3に示すように、車輪3が壁面101に接した際に、ガイドに102によって車輪3が壁面101の左右方向へ移動することが制限される。これにより、無人航空機本体2の左右方向(エルロン)に対しても移動が制限されるとともに、無人航空機本体2が回転方向(ラダー)に移動することも制限され、無人航空機本体2の態勢を安定させることが可能となる。また、無人航空機1aを飛行前に地面に置いた際にも、安定した態勢をとることが可能となる。
【0031】
また、車輪3は壁面101に接した際に、無人航空機本体2と壁面101との間に一定の距離が生じるように設けられる。具体例としては、図3に示すように、無人航空機本体2上部中心に車軸31を設け、車輪3の直径を無人航空機本体2よりも大きいものとすることが挙げられる。
【0032】
本実施態様における車輪3の構造、配置については、車輪3が壁面101に接した際に、無人航空機本体2と壁面101との間に一定の距離が生じる作用を有するものであればよく、図1から図3に例示した態様に限定するものではない。
【0033】
図4は、本実施態様における無人航空機についての他の態様を示す概略説明図(側面図)である。
図4(A)に示すように、無人航空機本体2上端部に設けた車軸31に、車輪3を配するものとしてもよい。このとき、車輪3の直径は、無人航空機本体2よりも小さくすることができる。なお、車輪3が壁面101に接した際に、無人航空機本体2と壁面101の間に一定の距離を保つためには、回転翼24端部よりも車輪3の半径が大きくなるようにすればよい。これにより、無人航空機1a全体としての大きさをコンパクト化することが可能となる。
【0034】
また、図4(B)に示すように、無人航空機本体2の側面中心から車軸31を設け、1つの車輪3を構造物100の壁面101に接するようにするものとしてもよい。これにより、部品点数を削減することが可能となる。
なお、図4に例示した態様においては、無人航空機1a全体としての重心バランスがとれるように、保守点検作業部5の配置や中央部21内におけるバッテリー等の配置について設計するものとしてもよく、バランサー(不図示)を設けるものとしてもよい。
【0035】
車輪3及び車軸31の材質としては、複数回の使用に耐える強度を有するものであればよく、金属、非金属(樹脂、木材など)について特に限定されない。例えば、軽量かつ強度の高い材質を用いることにより、無人航空機本体2の飛行能力に対する影響を少なくすることができる。また、保守点検を行う構造物100の設置環境を考慮し、耐熱、耐薬品性を有するものを用いることが特に好ましい。このような材質の例としてはカーボンファイバーが挙げられる。
また、車輪3の円周面に緩衝部材32を取り付けることが好ましい。これにより、車輪3と壁面101との接触による壁面101の損傷を抑制することが可能となる。なお、緩衝部材32の具体例としては、ゴム、スポンジなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0036】
密着機構4は、車輪3を壁面101に密着させるためのものである。密着機構4としては、図1に示すように、送風による押力を利用するものとして無人航空機本体2の上部にプロペラ41を設けている。プロペラ41は、壁面101に対して垂直方向に送風することで、壁面101方向への押力を生じ、車輪3を壁面101に密着させる作用を有する。なお、プロペラ41の駆動機構は無人航空機本体2のモータ23及び回転翼24と連動するものであってもよく、独立するものであってもよい。
【0037】
送風による押力を利用した密着機構4では、密着可能な壁面101の材質を問わないという利点がある。例えば、土やセメント等の非磁性材料からなる壁面等に吸着することができる。
また、送風による押力を利用した密着機構4では、壁面101の表面状態による密着力の低下が起こらないため、落下のリスクが少ない。
【0038】
なお、本発明の密着機構4は、車輪3を壁面101に密着する作用を有していれば、どのような手段でもよく、図1に例示した態様に限定するものではない。
例えば、壁面101が金属製である等、磁性を有する場合は、密着機構4として、壁面101に対する引力を利用する磁性体を備えるものとしてもよい。
磁力を利用した密着機構では、プロペラ等の送風装置を載置することなく、簡素な構造物により密着機構を構成することができる。また、無人航空機1aを軽量化することができるため、無人航空機1aが壁面101等を登る際の電力消費量を低減したり、落下のリスクを低減したりすることもできる。その他、送風による押力を利用した密着機構のように、粉塵等を舞い上げることがないため、検査や清掃等の作業を妨害することがないという利点がある。
【0039】
密着機構4を作動させることで、壁面101に対して垂直方向に働く押力又は引力により、無人航空機1aの前進後退方向(エレベータ)に係る移動の制限が行われるため、無人航空機本体2のコントロールに必要な軸数を減らすことが可能となる。
【0040】
また、密着機構4を備えることにより、車輪3は壁面101から離れることがないので、無人航空機本体2は、壁面101に対して常に保守点検に適した距離を保った状態とすることができる。これにより、壁面101における保守点検の安定性及び精度を高めることが可能となる。
【0041】
保守点検作業部5は、検査、洗浄、修繕等の作業を行う装置であり、無人航空機本体2の上部に設置されている。このとき、保守点検作業時において、保守点検作業部5の作業面が壁面101に対向するように設置される。
保守点検作業部5は、作業前後に電源のオンオフ操作を行うのみの構成とするものであってもよく、遠隔操作による操作や取得した情報の外部送信等を行う各種制御装置を備える構成であってもよい。また、保守点検作業部5と無人航空機本体2の中央部21にある送受信ユニットとを連携制御する装置を設けるものであってもよい。なお、制御装置における情報の送受信は有線、無線のいずれであってもよい。
【0042】
検査装置は、壁面101等の作業箇所の状態等を示す情報を取得するための装置であり、特に制限されないが、例えば、超音波を利用した減肉測定装置や、水管の内部の腐食を確認するX線検査装置や、作業箇所表面の状態を確認するカメラ等が挙げられる。
【0043】
洗浄装置は、作業箇所を洗浄するための装置であり、特に制限されないが、高水圧噴射洗浄装置や、回転ブラシ等の洗浄具を備えたブラシ洗浄装置や、エアガン等の高圧空気噴射装置等が挙げられる。
【0044】
修繕装置は、作業箇所の亀裂等を自動的に修繕するための装置であり、特に制限されないが、溶接装置のように亀裂を接合する装置や、コーキングガンのような亀裂に充填剤を埋める装置や、ドリルドライバーのように緩くなったネジを絞め直す装置等が挙げられる。
【0045】
その他の作業装置としては、表面を塗装するための塗装装置や、ドリルのように穴空け加工を行う加工装置等が挙げられる。
なお、保守点検作業部の種類、個数は、特に制限されず、同種又は異なる種の装置を、複数設置してもよい。
【0046】
次に、図5を参照して、本発明の第1の実施態様における無人航空機を用いた構造物の保守点検について説明する。図5(A)は、保守点検開始時を示すものである。また、図5(B)は、保守点検作業中から保守点検対象面の変更時を示すものである。なお、構造物100としてリアクター110を保守点検対象としたものについて説明する。
図5に示した無人航空機1aは、無人航空機本体2の上部中心に車軸31を有し、車軸31の両側にそれぞれ車輪3を備えている。また、無人航空機本体2の上部には密着機構4としてプロペラ41を備えており、送風による押力により車輪3がリアクター110の壁面111に密着している。
保守点検対象であるリアクター110の壁面111には、複数の水管112が垂直に並べられており凹凸を有している。このとき、水管112の間の壁(フィン)113がガイド102の役目を果たし、無人航空機1aは、車輪3がこれらのフィン113に沿うように設計及び配置される。
【0047】
まず、図5(A)に示すように、無人航空機1aは、車輪3が地面及びフィン113に接している。このとき、車輪3の間隔はフィン113の間隔に合わせている。次に、無人航空機本体2の回転翼24及び密着機構4のプロペラ41を作動し、車輪3をフィン113に密着させた状態で無人航空機1aを上昇させる。このとき、必要に応じて保守点検作業部5のオンオフ操作あるいは駆動制御を行う。そして、図5(B)に示すように、所定の位置まで上昇させた無人航空機1aを下降させ、その後、無人航空機1aを次の場所に移動させて保守点検作業を継続する。なお、無人航空機1aを移動させる手段としては、コントローラによる手動操作あるいは自動操作により無人航空機1aを移動させること以外に、作業員が無人航空機1aを直接持ち運ぶことも含まれる。
【0048】
図5に示すように、無人航空機1aは、保守点検時において車輪3がフィン113(ガイド102)に沿って移動することにより、無人航空機本体2の回転方向(ラダー)、左右方向(エルロン)に対して移動制限がかかることとなる。また、密着機構4の作用により、無人航空機本体2の前進後退方向(エレベータ)に対しても移動制限がかかる。したがって、無人航空機1aのコントロールに必要な軸は、上下方向(スロットル)のみとなる。これにより、本来4軸方向のコントロールを要する無人航空機1aの操作が容易となり、作業者の負担軽減及び保守点検に係るコスト低減が可能となる。
【0049】
なお、無人航空機本体2を外部からコントロールするためのコントローラは、従来の4軸方向のコントローラを利用することが可能である。保守点検作業時においては、上下方向(スロットル)のみを操作するが、例えば、保守点検作業面を変更する際の水平方向への移動等において、他の方向軸に係るコントロールを行うものであってもよい。
【0050】
以上のように、本実施態様における無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法によって、無人航空機本体が移動する方向に一定の制限を設けて、無人航空機本体の操作に必要な軸数を減らしたことで、保守点検時における作業員の負担軽減が可能となる。また、この無人航空機によれば、車輪が構造物の壁面に密着するための密着機構を備えることにより、車輪が取り付けられた無人航空機本体自体は、構造物の壁面に対して一定の距離を保った状態とすることができる。したがって、保守点検において無人航空機自身が発する風の影響を抑制し、保守点検の安定性及び精度を高めることが可能となる。
【0051】
[第2の実施態様]
図6は、本発明の第2の実施態様の無人航空機を示す概略説明図である。
本実施態様に係る無人航空機1bは、図6に示すように、無人航空機本体2を1軸のみで動かすコントローラ6を備える。コントローラ6は、無人航空機本体2の上昇、下降をコントロールするものであればよく、さらに空中停止(ホバリング)をコントロールする機能を有するものであればより好ましい。なお、本実施態様における無人航空機1bのうち、第1の実施態様における無人航空機1aの構造と同じものについては説明を省略する。
【0052】
本実施態様における無人航空機1bは、図6に示すように、無人航空機本体2、車輪3を備える。第1の実施態様と同様に、無人航空機本体2に対して車輪3を設けることにより、無人航空機本体2をコントロールするコントローラ6は、上下方向(スロットル)のみの1軸で操作が可能となる。これにより、無人航空機1bの操作に係る作業員の負担を軽減することが可能となる。なお、上下方向(スロットル)以外の操作軸に係る移動制限をより確実なものとするために、無人航空機1bに、第1の実施態様における無人航空機1aの密着機構4を備えるものとすることがより好ましい。
【0053】
本実施態様における無人航空機1bを用いた保守点検方法は、第1の実施態様における保守点検方法と同様に、車輪3を保守点検対象の壁面101にあるガイド102に沿って移動させることにより行う。無人航空機1bは1軸方向のみに移動するため、作業員が操作技能について習熟する必要がない。したがって、保守点検作業に係る時間及びコストの低減が可能となる。
【0054】
第2の実施態様の無人航空機によれば、無人航空機本体をコントロールするコントローラ自体を1軸とすることで、無人航空機のコントロールを容易にするとともに、他の操作軸を操作してしまうような作業者の操作ミスを低減させることができる。これにより、保守点検時における作業の効率向上が可能となる。
【0055】
[第3の実施例]
図7は、本発明の第3の実施態様の無人航空機を示す概略説明図である。
本実施態様に係る無人航空機1cは、第1の実施態様における無人航空機1aにおける無人航空機本体2に設けた車軸31に対して、車輪3の位置を変更可能とするものである。なお、本実施態様における無人航空機1cのうち、第1の実施態様における無人航空機1aの構造と同じものについては説明を省略する。
【0056】
本実施態様における無人航空機1cは、車軸31に対して車輪3を係止する係止手段33を有し、構造物100のガイド102幅に応じて車輪3の間隔を変更する。これにより、ガイド102幅の異なる構造物100に対しても適用することが可能となる。係止手段33は、車輪3を車軸31に固定可能な構成であれば特に限定されない。例えば、ボルトなどが挙げられる。
【0057】
また、ガイド102幅が一定ではない場合に対応するために、車軸31に対して車輪3を完全に固定せず、車軸31上を車輪3が動く余地を設けるように構成してもよい。例えば、図7に示すように、係止手段33として車輪3を挟むように車軸31上にストッパー33aを設け、ストッパー33aの間隔を車輪3の幅よりも広くし、車輪3が動く余地を設けるものとしてもよい。なお、車輪3が車軸31から脱落しないように、車軸31端部にもストッパーを設けることが好ましい。
【0058】
第3の実施態様の無人航空機によれば、車輪の間隔を変更可能とすることによって、ガイド幅の異なるさまざまな構造物に対して保守点検作業を行うことが可能となる。
【0059】
[第4の実施態様]
図8は、本発明の第4の実施態様の無人航空機を示す概略説明図である。
本実施態様に係る無人航空機1dは、第1の実施態様における無人航空機1aにおける無人航空機本体2に設けた車軸31の長さを変更することで、車輪3の間隔を変更可能とするものである。なお、本実施態様における無人航空機1dのうち、第1の実施態様における無人航空機1aの構造と同じものについては説明を省略する。
【0060】
本実施態様における無人航空機1dは、車輪3が取り付けられた車軸31を交換可能とし、構造物100のガイド102幅に応じた長さの車軸31を用いることで、車輪3の間隔を変更する。これにより、ガイド102幅の異なる構造物100に対しても適用することが可能となる。
また、ガイド102幅が一定ではない場合に対応するために、車軸31自体が伸縮可能となるように構成してもよい。
【0061】
第4の実施態様の無人航空機によれば、車軸の長さを変更可能とすることで車輪の間隔を変更することによって、ガイド幅の異なるさまざまな構造物に対して保守点検作業を行うことが可能となる。
【0062】
なお、上述した実施態様は無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法の一例を示すものである。本発明に係る無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法を変更してもよい。
【0063】
例えば、本発明の無人航空機における車輪は、車軸から取り外しが可能であり、かつ車輪自体が分解、組み立て可能なものとしてもよい。これにより、無人航空機の搬送が容易になるとともに、保守点検対象である構造物へ持ち込む際、構造物の入り口が狭隘であったとしても現場での対応が可能となる。
【0064】
また、例えば、本発明の無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法を適用する構造物としては、密閉空間内にある構造物に限定されない。他の態様としては、ビルの窓に適用し、保守点検作業として清掃作業に適用することや、巨大なガスタンクに適用し、保守点検作業として検査作業に適用することなどが挙げられる。また、高所における保守点検作業のみではなく、マンホールのように地下方向に延びる縦孔の構造物に対して地上から地下方向へ無人航空機を移動させて保守点検作業を行うものに適用するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の無人航空機及び無人航空機を用いた構造物の保守点検方法は、構造物に対する保守点検(検査、洗浄、修繕等)に利用される。特に、作業員が別途作業スペースを設ける必要のある構造物の保守点検作業や密閉空間内にある構造物の保守点検作業に好適に利用される。具体的には、例えば、リアクター、貯留タンクなどの構造物の内部の保守点検作業や、ビルの窓清掃や、壁面清掃などの構造物の外部の保守点検作業等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1a,1b,1c,1d…無人航空機、2…無人航空機本体、21…中央部、22…アーム、23…モータ、24…回転翼、3…車輪、31…車軸、32…緩衝部材、33…係止手段、33a…ストッパー、4…密着機構、41…プロペラ、5…保守点検作業部、6…コントローラ、100…構造物、101…壁面、102…ガイド、110…リアクター、111…壁面、112…水管、113…フィン
図1
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図6
図7
図8