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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】水性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20221206BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20221206BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K38/46
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/65
A61K9/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018167425
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2019048800
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017172156
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】安川 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕加
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真二
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208695(WO,A1)
【文献】特表2017-519009(JP,A)
【文献】特表2016-502528(JP,A)
【文献】特表2013-534526(JP,A)
【文献】添付文書,エラプレース(登録商標)点滴静注液6mg,2016年07月
【文献】添付文書,アクテムラ(登録商標)点滴静注用80mg/アクテムラ(登録商標)点滴静注用200mg/アクテムラ(登録商標)点滴静注用400mg,2016年11月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 38/00
A61K 39/395
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体(ヒト化hTfR抗体)とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質を有効成分として含有してなる貯蔵安定な水性医薬組成物であって,該融合蛋白質の濃度が2.0~10mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.7~0.9mg/mLであり,スクロースの濃度が60~90mg/mLであり,ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールの濃度が0.3~0.8mg/mLであり,緩衝剤の濃度が15~25mMであり,pHが5.5~7.0であ及び
該融合蛋白質が,以下の(a)~(c)からなる群から選択されるもの:
(a)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して該ヒト化hTfR抗体の重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,該ヒト化hTfR抗体の軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号13で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2で示されるもの,
(b)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して該ヒト化hTfR抗体の重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,該ヒト化hTfR抗体の軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号15で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号4で示されるもの,
(c)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して該ヒト化hTfR抗体の重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,該ヒト化hTfR抗体の軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号17で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号6で示されるもの
【請求項2】
該緩衝剤がリン酸緩衝剤である,請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
該pHが,6.0~7.0である,請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
該pHが,6.2~6.8である,請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
該融合蛋白質の重合体が抑制されるものである,請求項1乃至のいずれかに記載の水性医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分とする医薬の,溶液状態で貯蔵安定な水性医薬組成物に関し,詳しくは,安定化剤として,スクロースと非イオン性界面活性剤を含有する水性医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質を有効成分として含有してなる医薬は,嘗ては,蛋白質の貯蔵安定性を考慮して凍結乾燥製剤として供給されることが一般であった。現在では,イズロン酸-2-スルファターゼ,α-ガラクトシダーゼA,グルコセレブロシダーゼ,α-L-イズロニダーゼ,N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼを含むリソソーム酵素,抗ヒトIL-6受容体抗体,抗ヒトPD-1抗体を含む抗体,エリスロポエチン,ダルベポエチン,成長ホルモンを含む生理活性蛋白質を主剤として含有してなる医薬の多くが,水性医薬組成物の形態で製造,販売されている。水性医薬組成物は使用時における薬剤の溶解操作が不要であるので,凍結乾燥製剤に比べて利便性が高い。
【0003】
水性医薬組成物には,主剤である蛋白質の安定性を高めるために,種々の添加物が含まれている。水溶液中での蛋白質の安定性を高める効果を有する添加物としては,例えば,ヒスチジン,メチオニン,アルギニン,グリシンを含むアミノ酸,ポリソルベート80を含む非イオン性界面活性剤,リン酸緩衝剤を含む緩衝剤が知られている。例えば,成長ホルモンの水性医薬組成物の場合,安定化剤としてヒスチジンを添加することにより,成長ホルモンの安定性が高められることが知られている(特許文献1)。また,ダルベポエチンの水性医薬組成物の場合,安定化剤としてメチオニンを添加することにより,ダルベポエチンの安定性が高められることが知られている(特許文献2)。このように,水性医薬組成物の組成は,水性医薬組成物毎にそれぞれ異なり,主剤の蛋白質の特性に応じて工夫がなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2000-508665号公報
【文献】特表2005-527470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は,安定化剤として,スクロースと非イオン性界面活性剤を含有してなり,市場に流通させることが可能な程度に安定な,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分として含有してなる水性医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,抗体とヒトリソソーム酵素の一種であるヒトイズロン酸-2-スルファターゼとを結合させた蛋白質が,スクロースと非イオン性界面活性剤とを含有する水性医薬組成物中で安定であることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分として含有してなる水性医薬組成物であって,該融合蛋白質の濃度が0.5~20mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.3~1.2mg/mLであり,スクロースの濃度が50~100mg/mLであり,非イオン性界面活性剤の濃度が0.15~3mg/mLであり,緩衝剤の濃度が3~30mMであり,pHが5.0~7.5である,水性医薬組成物。
2.抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分として含有してなる水性医薬組成物であって,該融合蛋白質の濃度が1.0~10mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.6~1.0mg/mLであり,スクロースの濃度が55~95mg/mLであり,非イオン性界面活性剤の濃度が0.15~1mg/mLであり,緩衝剤の濃度が10~30mMであり,pHが5.5~7.0である,水性医薬組成物。
3.該融合蛋白質の該濃度が,2.0~10mg/mLである,上記1又は2に記載の水性医薬組成物。
4.該塩化ナトリウムの該濃度が,0.7~0.9mg/mLである,上記1乃至3のいずれかに記載の水性医薬組成物。
5.該スクロースの該濃度が,60~90mg/mLである,上記1乃至4のいずれかに記載の水性医薬組成物。
6.該非イオン性界面活性剤の該濃度が,0.3~0.8mg/mLである,上記1乃至5のいずれかに記載の水性医薬組成物。
7.該非イオン性界面活性剤が,ポリソルベート又はポロキサマーである,上記1乃至6のいずれかに記載の水性医薬組成物。
8.該非イオン性界面活性剤が,ポリソルベート20,ポリソルベート80及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールからなる群から選択されるものである,上記1乃至6のいずれかに記載の水性医薬組成物。
9.該緩衝剤がリン酸緩衝剤である,上記1乃至8のいずれかに記載の水性医薬組成物。
10.該リン酸緩衝剤の濃度が15~25mMである,上記9に記載の水性医薬組成物。
11.該pHが,6.0~7.0である,上記1乃至10のいずれかに記載の水性医薬組成物。
12.該pHが,6.2~6.8である,上記1乃至10のいずれかに記載の水性医薬組成物。
13.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素を該抗体の軽鎖又は重鎖のいずれかのC末端側又はN末端側のいずれかにペプチド結合により結合させたものである,上記1乃至12のいずれかに記載の水性医薬組成物。
14.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素を該抗体の重鎖のC末端側にペプチド結合により結合させたものである,上記1乃至12のいずれかに記載の水性医薬組成物。
15.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素を該抗体の軽鎖又は重鎖のいずれかのC末端側又はN末端側のいずれかに,少なくとも1個のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーを介して,結合させたものである,上記1乃至12のいずれかに記載の水性医薬組成物。
16.該融合蛋白質が,該ヒトリソソーム酵素を該抗体の重鎖のC末端側に少なくとも1個のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーを介して結合させたものである,上記1乃至12のいずれかに記載の水性医薬組成物。
17.該ペプチドリンカーが,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するものである,上記15又は16に記載の水性医薬組成物。
18.該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,上記1乃至17のいずれかに記載の水性医薬組成物。
19.該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,及びCLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,上記1乃至18のいずれかに記載の水性医薬組成物。
20.該ヒトリソソーム酵素が,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼである,上記18に記載の水性医薬組成物。
21.該抗体が,ヒト抗体又はヒト化抗体である,上記1乃至20のいずれかに記載の水性医薬組成物。
22.該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原として認識するものである,上記1乃至21のいずれかに記載の水性医薬組成物。
23.該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,上記22に記載の水性医薬組成物。
24.該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である,上記22又は23に記載の水性医薬組成物。
25.該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,MCT-8及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,上記24に記載の水性医薬組成物。
26.該抗体が,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体である,上記21に記載の水性医薬組成物。
27.該抗体がヒト化抗hTfR抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトイズロン酸-2-スルファターゼであり,該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質が,以下の(a)~(c)からなる群から選択されるものである,上記21に記載の水性医薬組成物:
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがペプチドリンカーを介して結合したものとからなる,
融合蛋白質;
(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがペプチドリンカーを介して結合したものとからなる,
融合蛋白質;
(c)配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがペプチドリンカーを介して結合したものとからなる,
融合蛋白質。
28.該抗体がヒト化抗hTfR抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトイズロン酸-2-スルファターゼであり,該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質が,以下の(a)~(c)からなる群から選択されるものである,上記21に記載の水性医薬組成物:
(a)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するものである,
融合蛋白質;
(b)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するものである,
融合蛋白質;
(c)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するものである,
融合蛋白質。
29.該抗体がヒト化抗hTfR抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトイズロン酸-2-スルファターゼであり,該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とヒトイズロン酸-2-スルファターゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質が,以下の(a)~(c)からなる群から選択されるものである,上記21に記載の水性医薬組成物;
(a)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号13で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2で示されるもの,
(b)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号15で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号4で示されるもの,
(c)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号17で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号6で示されるもの。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば,市場に流通させることが可能な程度に,抗体とリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質を,水性医薬組成物中で安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1-1】振盪6時間後(白棒)及び24時間後(黒棒)の水性医薬組成物中に含まれる単位液量(200μL)当たりの粒子数の測定値を示す図。縦軸は粒子数(個/200μL)を,横軸はポロキサマー188の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図1-2】図1-1を,ポロキサマー188の濃度範囲(0.25~5mg/mL)において拡大した図。縦軸は粒子数(個/200μL)を,横軸はポロキサマー188の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図2】振盪6時間後(黒棒)及び24時間後(斜線棒)の水性医薬組成物中におけるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポロキサマー188の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図3】処方H(pH6.0),処方I(pH6.5)及び処方J(pH7.0)中におけるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率を示す図。白棒は5℃で1週間,黒棒は25℃で1週間,斜線棒は40℃で1週間,及び網掛け棒は50℃で24時間静置後の,処方H~J中における重合体の含有率をそれぞれ示す。縦軸は重合体の含有率(%)を示す。
図4】処方H(pH6.0),処方I(pH6.5)及び処方J(pH7.0)中におけるI2S-抗hTfR抗体の分解物の含有率を示す図。白棒は5℃で1週間,黒棒は25℃で1週間,斜線棒は40℃で1週間,及び網掛け棒は50℃で24時間静置後の,処方H~J中における分解物の含有率をそれぞれ示す。縦軸は分解物の含有率(%)を示す。
図5】処方K(pH6.0),処方L(pH6.5)及び処方M(pH7.0)中におけるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率を示す図。白棒は5℃で1週間,黒棒は25℃で1週間,斜線棒は40℃で1週間,及び網掛け棒は50℃で24時間静置後の,処方K~M中における重合体の含有率をそれぞれ示す。縦軸は重合体の含有率(%)を示す。
図6】処方K(pH6.0),処方L(pH6.5)及び処方M(pH7.0)中におけるI2S-抗hTfR抗体の分解物の含有率を示す図。白棒は5℃で1週間,黒棒は25℃で1週間,斜線棒は40℃で1週間,及び網掛け棒は50℃で24時間静置後の,処方K~M中における分解物の含有率をそれぞれ示す。縦軸は分解物の含有率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分とする医薬の,溶液状態で貯蔵安定な水性医薬組成物に関するものである。ここで,リソソーム酵素と結合される抗体は,好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体であるが,抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体の動物種等に特に制限はない。例えば,抗体は,ヒト以外の哺乳動物の抗体であってもよく,またヒト抗体とヒト以外の他の哺乳動物の抗体のキメラ抗体であってもよい。
【0010】
ヒト抗体は,その全体がヒト由来の遺伝子にコードされる抗体のことをいう。但し,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,コードされる抗体のアミノ酸配列に変異を加えることなく,元のヒトの遺伝子に変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,ヒト抗体である。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,ある一つのヒト抗体の一部を,他のヒト抗体の一部に置き換えた抗体も,ヒト抗体である。ヒト抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ある一つのヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体である。
【0011】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,ヒト抗体という。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させる場合,置換させるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸残基を付加させる場合,元の抗体のアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸残基が付加される。これらアミノ酸残基の付加,置換及び欠失の少なくとも2つを組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更により好ましくは95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示すものである。つまり,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,ヒト由来の元の遺伝子に改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0012】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRによって置き換えることにより作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,例えばマウスである。
【0013】
本発明において,抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である場合につき,以下詳述する。ヒト抗体及びヒト化抗体の軽鎖には,λ鎖とκ鎖がある。抗体を構成する軽鎖は,λ鎖とκ鎖のいずれであってもよい。また,ヒト抗体及びヒト化抗体の重鎖には,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖があり,それぞれ,IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに対応している。抗体を構成する重鎖は,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖のいずれであってもよいが,好ましくはγ鎖である。更に,抗体の重鎖のγ鎖には,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖があり,それぞれ,IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4に対応している。抗体を構成する重鎖がγ鎖である場合,そのγ鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体であり,且つIgGである場合,その抗体の軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもあってもよく,その抗体の重鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。例えば,好ましい抗体の一つの態様として,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ1鎖であるものが挙げられる。
【0014】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0015】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれに由来してもよい。
【0016】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。
【0017】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体のいずれかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。
【0018】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,及び
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体も含まれる。また,
(4)抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)を含む)も,本発明における「抗体」に含まれる。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカー配列を介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。
【0019】
本発明において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。例えば,上記(2)及び(3)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0020】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカー配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号19),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号20),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号21),又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を有するものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてScFVとする場合,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号19)の3個が連続したものに相当する計15個のアミノ酸残基からなるリンカー配列が好適である。
【0021】
本発明において,抗体が特異的に認識する抗原は,例えば,血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)である。かかる表面抗原としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーター,Fc受容体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。
【0022】
上記の表面抗原の中でも,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーターは,血液脳関門(Blood Brain Barrier)を形成する脳毛細血管内皮細胞の表面に存在するものである。これら抗原を認識できる抗体は,抗原を介して脳毛細血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)に結合できる。そして脳毛細血管内皮細胞に結合した抗体は,血液脳関門を通過して中枢神経系に到達することができる。従って,目的の蛋白質を,このような抗体と結合させることにより,中枢神経系にまで到達させることができる。目的の蛋白質としては,中枢神経系で薬効を発揮すべき機能を有する蛋白質が挙げられる。例えば,中枢神経障害を伴うリソソーム病患者において欠損しているか又は機能不全であるリソソーム酵素が,目的の蛋白質として挙げられる。かかるリソソーム酵素は,そのままでは中枢神経系に到達することができず,患者の中枢神経障害に対して薬効を示すことがないが,これらの抗体と結合させることにより血液脳関門を通過できるようになるので,リソソーム病患者において見られる中枢神経障害を改善することができる。
【0023】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質のことをいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号22で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。
【0024】
抗体の作製方法をhTfRに対する抗体を例にとって以下に説明する。hTfRに対する抗体の作製方法としては,hTfR遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換えヒトトランスフェリン受容体(rhTfR)を作製し,このrhTfRを用いてマウス等の動物を用いて免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物からhTfRに対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを癒合させることにより,hTfRに対する抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0025】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法によりrhTfRで免疫することによってもhTfRに対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法により免疫する場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等の組織から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,hTfRに対するヒト抗体を得ることができる。
【0026】
本発明において,抗体と結合させるべきヒトリソソーム酵素に特に限定はないが,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,及びCLN2等のリソソーム酵素,が挙げられる。
【0027】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合,抗体と結合させたヒトリソソーム酵素はそれぞれ,α-L-イズロニダーゼはハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群における中枢神経障害治療剤として,イズロン酸-2-スルファターゼはハンター症候群における中枢神経障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼはゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として,βガラクトシダーゼはGM1-ガングリオシドーシス1~3型における中枢神経障害治療剤として,GM2活性化蛋白質はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAはサンドホフ病及びティサックス病における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBはサンドホフ病における中枢神経障害治療剤として,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼはI-細胞病における中枢神経障害治療剤として,α-マンノシダーゼはα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,β-マンノシダーゼはβ-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼはクラッベ病における中枢神経障害治療剤として,サポシンCはゴーシェ病様蓄積症における中枢神経障害治療剤として,アリルスルファターゼAは異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における中枢神経障害治療剤として,α-L-フコシダーゼはフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼはシンドラー病及び川崎病における中枢神経障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼはニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼはファブリー病における中枢神経障害治療剤として,β-グルクロニダーゼはスライ症候群における中枢神経障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼはサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として,酸性セラミダーゼはファーバー病における中枢神経障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼはコリ病(フォーブス・コリ病)における中枢神経障害治療剤として,シアリダーゼはシアリダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における中枢神経障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における中枢神経障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1はヒアルロニダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,CLN1及びCLN2はバッテン病における中枢神経障害治療剤として使用できる。
【0028】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合に,抗体と結合させるべきリソソーム酵素として好適なものとして,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)を挙げることができる。hI2Sは,ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸のようなグリコサミノグリカン(GAG)分子内に存在する硫酸エステル結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素の一種である。ハンター症候群はこの酵素が先天的に欠失する遺伝子疾患である。ハンター症候群の患者は,ヘパラン硫酸,デルマタン硫酸が組織内に蓄積する結果,角膜混濁,精神発達遅滞等の諸症状を示す。但し,軽症の場合は精神発達遅延は観察されないこともある。従って,当該抗体とhI2Sとの融合蛋白質は,BBBを通過することにより脳組織内に蓄積したGAGを分解することができるので,精神発達遅滞を示すハンター症候群の患者に投与することにより,中枢神経障害治療剤として使用することができる。
【0029】
本発明において,「ヒトI2S」又は「hI2S」の語は,特に野生型のhI2Sと同一のアミノ酸配列を有するhI2Sのことをいう。野生型のhI2Sは,配列番号1で示される525個のアミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を有する。但し,これに限らず,I2S活性を有するものである限り,野生型のhI2Sのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhI2Sに含まれる。hI2Sのアミノ酸配列のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させる場合,置換させるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hI2Sのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hI2Sにアミノ酸残基を付加させる場合,hI2Sのアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸残基が付加される。これらアミノ酸残基の付加,置換及び欠失の少なくとも2つを組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhI2Sのアミノ酸配列は,元のhI2Sのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を有し,より好ましくは85%以上の同一性を有し,更により好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示す。
【0030】
なお本発明において,hI2SがI2S活性を有するというときは,hI2Sを抗体と融合させて融合蛋白質としたときに,天然型のhI2Sが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhI2Sが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗体と融合させたhI2Sが変異を加えたものである場合も同様である。抗体は,例えば抗hTfR抗体である。
【0031】
本発明において「融合蛋白質」というときは,抗体とヒトリソソーム酵素とを,非ペプチドリンカー若しくはペプチドリンカーを介して,又は直接に結合させた物質のことをいう。抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法は,以下に詳述する。
【0032】
抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ビオチン-ストレプトアビジン,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ抗体又はヒトリソソーム酵素のいずれかと共有結合を形成することにより,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させるものである。
【0033】
非ペプチドリンカーとしてビオチン-ストレプトアビジンを用いる場合,抗体がビオチンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がストレプトアビジンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよく,逆に,抗体がストレプトアビジンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がビオチンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよい。ビオチン及びストレプトアビジンは,周知の手法により蛋白質に結合させることができる。
【0034】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明の抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させたものは,特に,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素という。抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,抗体とPEGとを結合させて抗体-PEGを作製し,次いで抗体-PEGとヒトリソソーム酵素とを結合させることにより製造することができる。又は,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,ヒトリソソーム酵素とPEGとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体とを結合させることによっても製造することができる。PEGを抗体及びヒトリソソーム酵素と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に抗体及びヒトリソソーム酵素分子内のアミノ基と反応することにより,PEGと抗体及びヒトリソソーム酵素が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=300~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0035】
例えば,抗体-PEGは,抗体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,該抗体に対するALD-PEG-ALDのモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,抗体-PEGを,NaCNBH等の還元剤の存在下で,ヒトリソソーム酵素と反応させることにより,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素が得られる。逆に,先にヒトリソソーム酵素とALD-PEG-ALDとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体を結合させることによっても,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素を得ることができる。
【0036】
抗体とヒトリソソーム酵素とは,抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカー配列を介して又は直接に,それぞれヒトリソソーム酵素のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させることもできる。このように抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてなる融合蛋白質は,抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した細胞を培養することにより,得ることができる。この細胞には,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ発現ベクターも,同じホスト細胞に導入され,また,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ発現ベクターも,同じホスト細胞に導入される。抗体が一本鎖抗体である場合,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質は,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,1本鎖抗体をコードするcDNAを連結したDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,得ることができる。
【0037】
抗体の軽鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0038】
抗体の重鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0039】
抗体の軽鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0040】
抗体の重鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0041】
このとき抗体とヒトリソソーム酵素との間にリンカー配列を配置する場合,その配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸残基から構成されるものであるが,抗体に結合させるべきヒトリソソーム酵素によって,リンカー配列を構成するアミノ酸残基の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整できる。そのようなリンカー配列は,これにより連結された抗体がhTfRとの親和性を保持し,且つ当該リンカー配列により連結されたヒトリソソーム酵素が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸残基からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号19),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号20),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号21),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる1~50個のアミノ酸残基からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個のアミノ酸残基からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serを有するものはリンカー配列として好適に用いることができる。抗体が1本鎖抗体であっても同様である。
【0042】
なお,本発明において,1つのペプチド鎖に複数のリンカー配列が含まれる場合,便宜上,各リンカー配列はN末端側から順に,第1のリンカー配列,第2のリンカー配列というように命名する。
【0043】
抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい形態として,以下の(x)~(z)が挙げられる。すなわち,
(x)軽鎖が配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖が配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するもの;
(y)軽鎖が配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖が配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するもの;
(z)軽鎖が配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するもの,のいずれかである。
なお,ここで,(x),(y)及び(z)は,実施例中に示されるヒト化抗hTfR抗体番号1,ヒト化抗hTfR抗体番号2,及びヒト化抗hTfR抗体番号3にそれぞれ相当する。
【0044】
但し,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい形態は,上記の(x)~(z)に限られるものではない。例えば,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。また,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。また,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。また,抗体の軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものであり,該抗体の重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。
【0045】
また,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基の1~10個が置換,欠失又は付加をしたものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基の1~10個が置換,欠失又は付加をした抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。また,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基の1~5個が置換,欠失又は付加をしたものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基の1~5個が置換,欠失又は付加をした抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。更には,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基の1~3個が置換,欠失又は付加をしたものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(x)~(z)におけるそれぞれの重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基の1~3個が置換,欠失又は付加をした抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明における抗体として用いることができる。
【0046】
上記の抗体の好ましい形態の(x)において,配列番号2で示される軽鎖のアミノ酸配列中,配列番号23で示されるアミノ酸配列が可変領域であり,配列番号8で示される重鎖のアミノ酸配列中,配列番号24で示されるアミノ酸配列が可変領域である。また,上記の抗体の好ましい形態の(y)において,配列番号4で示される軽鎖のアミノ酸配列中,配列番号25で示されるアミノ酸配列が可変領域であり,配列番号9で示される重鎖のアミノ酸配列中,配列番号26で示されるアミノ酸配列が可変領域である。また,上記の抗体の好ましい形態の(z)において,配列番号6で示される軽鎖のアミノ酸配列中,配列番号27で示されるアミノ酸配列が可変領域であり,配列番号10で示される重鎖のアミノ酸配列中,配列番号28で示されるアミノ酸配列が可変領域である。これら抗体の好ましい形態の(x)~(z)において,重鎖又は/及び軽鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列中への置換,欠失又は付加は,特に,これらの可変領域に導入される。但し,上記軽鎖の可変領域としたアミノ酸配列のC末端側の1~10個のアミノ酸残基を除くアミノ酸配列,1~5個のアミノ酸残基を除くアミノ酸配列,又は1~3個のアミノ酸残基を除くアミノ酸配列を可変領域とすることもできる。また,上記軽鎖の可変領域としたアミノ酸配列及びそのC末端側に続く1~10個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列,1~5個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列,又は1~3個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を可変領域とすることもできる。また,上記重鎖の可変領域としたアミノ酸配列のC末端側の1~10個のアミノ酸残基を除くアミノ酸配列,1~5個のアミノ酸残基を除くアミノ酸配列,又は1~3個のアミノ酸残基を除くアミノ酸配列を可変領域とすることもできる。また,上記重鎖の可変領域としたアミノ酸配列及びそのC末端側に続く1~10個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列,1~5個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列,又は1~3個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を可変領域とすることもできる。
【0047】
なお,本発明において,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列と変異を加えた蛋白質のアミノ酸配列との同一性は,周知の相同性計算アルゴリズムを用いて容易に算出することができる。例えば,そのようなアルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol. Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等がある。
【0048】
本発明における,抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の好ましい一形態として,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体(ヒト化抗hTfR抗体)とヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)との融合蛋白質が挙げられる。この融合蛋白質において,ヒトトランスフェリン受容体に対する親和性と,ヒトリソソーム酵素の酵素活性のいずれをも保持させることができる限り,hI2Sは,ヒト化抗hTfR抗体を構成する重鎖と軽鎖のいずれにも融合させてもよい。また,hI2Sを重鎖に結合させる場合において,重鎖のN末端側又はC末端側のいずれにhI2Sを融合させてもよく,hI2Sを軽鎖に結合させる場合において,軽鎖のN末端側又はC末端側のいずれにhI2Sを融合させてもよい。
【0049】
係るヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい一形態として,ヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側にヒトイズロン酸-2-スルファターゼを結合させた融合蛋白質が挙げられる。係る融合蛋白質の好適なものとして以下の(1)~(3)に示されるものが例示できる。
(1)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものと,
からなる融合蛋白質。
(2)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものと,
からなる融合蛋白質。
(3)配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列を介して結合したものと,
からなる融合蛋白質。
これら(1)~(3)の融合蛋白質において,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼは,好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸を有するものであり,リンカー配列は,好ましくは(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するものである。またこれら融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0050】
また,係るヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい一形態として,
(1)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するものである融合蛋白質,
(2)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するものである融合蛋白質,
(3)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するものである融合蛋白質,が挙げられる。これら融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0051】
また,係るヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい一形態として,
(1)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号13で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2で示されるもの,
(2)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号15で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号4で示されるもの,
(3)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号17で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号6で示されるもの,が挙げられる。これら融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0052】
の一実施形態における水性医薬組成物は,有効成分として抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質,主に等張化剤として塩化ナトリウム,主に安定化剤としてスクロースと非イオン性界面活性剤,及びpH調節剤として緩衝剤を含有してなるものである。
【0053】
水性医薬組成物に含まれる抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の濃度は,好ましくは0.5~20mg/mLであり,より好ましくは1.0~10mg/mLであり,更に好ましくは2.0~10mg/mLであり,更により好ましくは2.0~6.0mg/mLであり,例えば,2.5mg/mL及び5.0mg/mLである。
【0054】
水性医薬組成物に含有される塩化ナトリウムの濃度は,好ましくは0.3~1.2mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.0mg/mLであり,更に好ましくは0.6~1.0mg/mLであり,更により好ましくは0.7~0.9mg/mLであり,例えば,0.8mg/mLである。
【0055】
水性医薬組成物に含まれるスクロースの濃度は,好ましくは50~100mg/mLであり,更に好ましくは55~95mg/mLであり,更に好ましくは60~90mg/mLであり,更により好ましくは70~80mg/mLであり,例えば,75mg/mLである。
【0056】
水性医薬組成物に含有される非イオン性界面活性剤としては,ポリソルベートやポロキサマー等を単独で又はこれらを組合せて使用することができる。ポリソルベートとしてはポリソルベート20,ポリソルベート80が,ポロキサマーとしてはポロキサマー188(ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール)が特に好適である。また,水性医薬組成物に含有される非イオン性界面活性剤の濃度は,0.15~3mg/mLであることが好ましく,0.15~1mg/mLであることがより好ましく,0.2~0.8mg/mLであることが更に好ましく,0.3~0.8mg/mLであることが更により好ましく,例えば,0.325mg/mL及び0.65mg/mLである。
【0057】
水性医薬組成物に含有される緩衝剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,リン酸緩衝剤が好ましい。緩衝剤としてリン酸緩衝剤が使用される場合,水性医薬組成物に含有されるリン酸緩衝剤の濃度は,好ましくは3~30mMであり,より好ましくは10~30mMであり,更に好ましくは15~25mMであり,例えば20mMである。また,緩衝剤によって調整される水性医薬組成物のpHは,好ましくは5.5~7.5であり,より好ましくは5.5~7.0であり,更に好ましくは6.0~7.0であり,更により好ましくは6.2~6.8であり,例えば6.5である。また,水性医薬組成物の生理食塩水に対する浸透圧比は,0.9~1.1に調整される。
【0058】
本発明の水性医薬組成物の好適な組成として,
(A)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の濃度が0.5~20mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.3~1.2mg/mLであり,スクロースの濃度が50~100mg/mLであり,非イオン性界面活性剤の濃度が0.15~1mg/mLであり,緩衝剤の濃度が3~30mMであって,pHが5.0~7.5であるもの,
(B)抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質の濃度が1.0~10mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.6~1.0mg/mLであり,スクロースの濃度が55~95mg/mLであり,非イオン性界面活性剤の濃度が0.15~1mg/mLであり,緩衝剤の濃度が10~30mMであって,pHが5.5~7.0であるもの,が挙げられる。
【0059】
上記(A)及び(B)で示される水性医薬組成物において,抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質は,例えば,ヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質である。係るヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい形態として,
(1)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するものであって,重鎖のC末端側に,リンカー配列を介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼが結合したものである融合蛋白質,
(2)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するものであって,重鎖のC末端側に,リンカー配列を介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼが結合したものである融合蛋白質,
(3)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するものであって,重鎖のC末端側に,リンカー配列を介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼが結合したものである融合蛋白質,が挙げられる。
上記(1)~(3)の融合蛋白質において,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼは,好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸を有するものであり,リンカー配列は,好ましくは(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するものである。またこれら融合蛋白質は,通常,2本の軽鎖と2本のヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合した重鎖とから構成される。
【0060】
また,上記(A)及び(B)で示される水性医薬組成物における,ヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の更なる好ましい形態として,
(1)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するもの
(3)該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が,そのC末端側で,(Gly-Ser)で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼと結合しており,全体として配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するもの,が挙げられる。
【0061】
また,上記(A)及び(B)で示される水性医薬組成物における,ヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の更なる好ましい形態として,
(1)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号13で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号2で示されるもの,
(2)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号15で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号4で示されるもの,
(3)該ヒトイズロン酸-2-スルファターゼがリンカー配列Gly-Serを介して重鎖のC末端側で結合してなる結合体と,軽鎖とからなり,該結合体のアミノ酸配列が配列番号17で示されるものであり,該軽鎖のアミノ酸配列が配列番号6で示されるもの,が挙げられる。
【0062】
上記(A)又は(B)で示される水性医薬組成物において,ヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質の好ましい濃度は,0.5~20mg/mL,1.0~10mg/mL,2.0~10mg/mL又は2.0~6.0mg/mLであり,適宜,2.5mg/mL,5.0mg/mL等に調整される。
【0063】
上記(A)又は(B)で示される水性医薬組成物において,塩化ナトリウムの好ましい濃度は,0.3~1.2mg/mL,0.5~1.0mg/mL,0.6~1.0mg/mL又は0.7~0.9mg/mLであり,例えば,0.8mg/mLである。
【0064】
上記(A)又は(B)で示される水性医薬組成物において,スクロースの好ましい濃度は,50~100mg/mL,55~95mg/mL,60~90mg/mL又は70~80mg/mLであり,例えば,75mg/mLである。
【0065】
上記(A)又は(B)で示される水性医薬組成物において,非イオン性界面活性剤としては,ポリソルベートやポロキサマー等を単独で又はこれらを組合せて使用することができる。ポリソルベートとしてはポリソルベート20,ポリソルベート80が,ポロキサマーとしてはポロキサマー188(ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール)が特に好適である。また,その濃度は,0.15~3mg/mLであることが好ましく,0.15~1mg/mLであることがより好ましく,0.2~0.8mg/mLであることが更に好ましく,0.3~0.8mg/mLであることが更により好ましく,例えば,0.325mg/mL及び0.65mg/mLである。
【0066】
上記(A)又は(B)で示される水性医薬組成物において用いられる緩衝剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,リン酸緩衝剤が好ましい。緩衝剤としてリン酸緩衝剤が使用される場合,その濃度は,好ましくは3~30mMであり,より好ましくは10~30mMであり,更に好ましくは15~25mMであり,例えば20mMである。また,緩衝剤によって調整される水性医薬組成物のpHは,好ましくは5.5~7.5であり,より好ましくは5.5~7.0であり,更に好ましくは6.0~7.0であり,更により好ましくは6.2~6.8であり,例えば6.5である。また,水性医薬組成物の生理食塩水に対する浸透圧比は,0.9~1.1に調整される。
【0067】
抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質である場合の,水性医薬組成物の好適な組成の一例として,当該融合蛋白質の濃度が5mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8mg/mLであり,スクロースの濃度が75mg/mLであり,非イオン性界面活性剤の濃度が0.65mg/mLであり,リン酸緩衝剤の濃度が20mMであるものが挙げられる。この水性医薬組成物において,pHは好ましくは6.0~7.0,より好ましくは6.2~6.8に,また,生理食塩水に対する浸透圧比は0.9~1.1に調整される。また,非イオン性界面活性剤は,好ましくはポリソルベート又はポロキサマーであり,ポリソルベートとしてはポリソルベート20又はポリソルベート80が,ポロキサマーとしてはポロキサマー188(ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール)が好適に使用できる。これらの中でも特にポロキサマー188が非イオン性界面活性剤として好適に使用できる。
【0068】
抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とhI2Sとの融合蛋白質である場合の,他の水性医薬組成物の好適な組成の更なる一例として,当該融合蛋白質の濃度が2.5mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8mg/mLであり,スクロースの濃度が75mg/mLであり,非イオン性界面活性剤の濃度が0.325mg/mLであり,リン酸緩衝剤の濃度が20mMであるものが挙げられる。この水性医薬組成物において,pHは好ましくは6.0~7.0,より好ましくは6.2~6.8に,また,生理食塩水に対する浸透圧比は0.9~1.1に調整される。また,非イオン性界面活性剤は,好ましくはポリソルベート又はポロキサマーであり,ポリソルベートとしてはポリソルベート20又はポリソルベート80が,ポロキサマーとしてはポロキサマー188(ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール)が好適に使用でき,特にポロキサマー188が好適である。
【0069】
抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質を有効成分とする本発明の水性医薬組成物は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内又は皮下に投与することができる。本発明の水性医薬組成物は,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。
【実施例
【0070】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0071】
〔実施例1〕hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用ベクターの構築
hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用ベクターは,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する重鎖からなるヒト化抗hTfR抗体番号1,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する重鎖からなるヒト化抗hTfR抗体番号2,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と配列番号10で示されるアミノ酸配列を有する重鎖からなるヒト化抗hTfR抗体番号3の,3種類のヒト化抗hTfR抗体(番号1~3)をコードする遺伝子を用いて構築した。
【0072】
pEF/myc/nucベクター(Invitrogen社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。pCI-neo(Invitrogen社)を,BglII及びEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を挿入して,pE-neoベクターを構築した。pE-neoベクターを,SfiI及びBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1 kbpの領域を切除した。pcDNA3.1/Hygro(+)(Invitrogen社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5’(配列番号11)及びプライマーHyg-BstX3’(配列番号12)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiI及びBstXIで消化し,上記のネオマイシン耐性遺伝子を切除したpE-neoベクターに挿入した。得られたベクターをpE-hygrベクターとした。
【0073】
配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号3)を合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-hygrベクターのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターをヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖発現用ベクターであるpE-hygr(LC1)とした。
【0074】
配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号5)を合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-hygrベクターのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターを,ヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖発現用ベクターであるpE-hygr(LC2)とした。
【0075】
配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号7)を合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-hygrベクターのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターを,ヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖発現用ベクターであるpE-hygr(LC3)とした。
【0076】
配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖のC末端側に(Gly-Ser)のアミノ酸配列を有するリンカーを介して配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号14で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖とhI2Sを結合させた蛋白質をコードする。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-1)を構築した。
【0077】
配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖のC末端側に(Gly-Ser)のアミノ酸配列を有するリンカーを介して配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号16で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖とhI2Sを結合させた蛋白質をコードする。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-2)を構築した。
【0078】
配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖のC末端側に(Gly-Ser)のアミノ酸配列を有するリンカーを介して配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号18で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖とhI2Sを結合させた蛋白質をコードする。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-3)を構築した。
【0079】
〔実施例2〕hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株の作製
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,下記の方法により,GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,実施例1で構築したpE-hygr(LC1)とpE-neo(HC-I2S-1)との組み合わせ,pE-hygr(LC2)とpE-neo(HC-I2S-2)との組み合わせ,及びpE-hygr(LC3)とpE-neo(HC-I2S-3)との組み合わせで,それぞれ形質転換した。細胞の形質転換は概ね以下の方法で行った。
【0080】
5 X 105個のCHO-K1細胞をCD OptiCHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)を添加した3.5 cm培養ディッシュに播種し,37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した。培養後,細胞を5×106細胞/mLの密度となるようにOpti-MEMTMI培地(Thermo Fisher Scientific社)で懸濁した。細胞懸濁液100 μLを採取し,これにCD OptiCHOTM培地で100 μg/mLに希釈したpE-hygr(LC1)及びpE-neo(HC-I2S-1)プラスミドDNA溶液を5 μLずつ添加した。GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,エレクトロポレーションを実施し,細胞にプラスミドを導入した。37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した後,細胞を,0.5 mg/mLのハイグロマイシン及び0.8 mg/mLのG418を含むCD OptiCHOTM培地で選択培養した。pE-hygr(LC2)及びpE-neo(HC-I2S-2)の組み合わせ,pE-hygr(LC2)及びpE-neo(HC-I2S-3)の組み合わせでも同様にして細胞を形質転換させた。
【0081】
次いで,限界希釈法により,1ウェルあたり1個以下の細胞が播種されるように,96ウェルプレート上に選択培養で選択された細胞を播種し,各細胞が単クローンコロニーを形成するまで約10日間培養した。単クローンコロニーが形成されたウェルの培養上清を採取し,ヒト化抗体含量をELISA法にて定量し,hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を選択した。
【0082】
このときのELISA法は概ね以下の方法で実施した。96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社)の各ウェルに,ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体溶液を0.05 M炭酸水素塩緩衝液(pH 9.6)で4 μg/mLに希釈したものを100 μLずつ加え,室温で少なくとも1時間静置して抗体をプレートに吸着させた。次いで,リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)に0.05% Tween20を添加したもの(PBS-T)で各ウェルを3回洗浄後,Starting Block(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに200 μLずつ加えてプレートを室温で30分静置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,0.5% BSA及び0.05% Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)(PBS-BT)で適当な濃度に希釈した培養上清又はヒトIgG標準品を,各ウェルに100 μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。次いで,プレートをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-BTで希釈したHRP標識抗ヒトIgGポリクロ-ナル抗体溶液を,各ウェルに100 μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。PBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,0.4 mg/mL o-フェニレンジアミンを含むリン酸-クエン酸緩衝液(pH 5.0)を100 μLずつ各ウェルに加え,室温で8~20分間静置した。次いで,1 mol/L 硫酸を100 μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーを用いて490 nmでの吸光度を測定した。高い測定値を示したウェルに対応する細胞を,hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株として選択した。
【0083】
pE-hygr(LC1)とpE-neo(HC-I2S-1)の組み合わせで形質転換させて得られたhI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株1とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体1とした。
【0084】
pE-hygr(LC2)とpE-neo(HC-I2S-2)の組み合わせで形質転換させて得られたhI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株2とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体2とした。
【0085】
pE-hygr(LC3)とpE-neo(HC-I2S-3)の組み合わせで形質転換させて得られたhI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質の高発現細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株3とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体3とした。
【0086】
〔実施例3〕hI2S-抗hTfR抗体発現株の培養
I2S-抗hTfR抗体を,以下の方法で製造した。実施例2で得たhI2S-抗hTfR抗体発現株3を,細胞密度が約2 X 105個/mLとなるように,4 mM L-アラニル-L-グルタミン,100 μmol/L ヒポキサンチン及び16 μmol/L チミジンを含有する,約200 Lの無血清培地(EX-CELL Advanced CHO Fed-batch Medium,Sigma Aldrich社)に懸濁させた。この細胞懸濁液の140 Lを培養槽に移した。培地をインペラ―で89 rpmの速度で撹拌し,培地の溶存酸素濃度を約40%に保持し,34~37℃の温度範囲で,約11日間細胞を培養した。培養期間中,細胞数,細胞の生存率,培地のグルコース濃度及び乳酸濃度を監視した。培地のグルコース濃度が15 mmol/L未満となった場合には,直ちにグルコース濃度が約38 mmol/Lとなるように,グルコース溶液を培地に添加した。培養終了後に培地を回収した。回収した培地を,Millistak+HC Pod Filter grade D0HC(Merck社)でろ過し,更にMillistak+ HCgrade X0HC(Merck社)でろ過して,I2S-抗hTfR抗体3を含む培養上清を得た。この培養上清を,PelliconTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30 kDa, 膜面積:1.14 m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,液量が約17分の1となるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOpticap XL600(0.22 μm, Merck社)を用いてろ過した。得られた液を濃縮培養上清とした。
【0087】
〔実施例4〕ウイルスの不活化
実施例3で得た濃縮培養上清に,トリn-ブチルリン酸(TNBP)及びポリソルベート80を,終濃度がそれぞれ0.3% (v/v)及び1% (w/v)となるように添加し,室温で4時間穏やかに撹拌した。この工程は培養上清中に混入するウイルスを不活化させるためのものである。但し,生物由来の成分を含まない無血清培地を用いて細胞をする限り,ウイルスの不活化工程がなくとも培養上清中に人体に有害なウイルスが混入する可能性はほとんどない。
【0088】
〔実施例5〕hI2S-抗hTfR抗体の精製
ウイルス不活化後の濃縮培養上清を,0.5倍容の140 mM NaClを含有する20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)を添加した後に,Millipak-200 Filter Unit(孔径:0.22 μm, Merck社)でろ過した。このろ過後の溶液を,カラム体積の4倍容の140 mM NaClを含有する20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)で平衡化した,プロテインAアフィニティーカラムであるMabSelect SuRe LXカラム(カラム体積:約3.2 L, ベッド高:約20 cm, GE Healthcare社)に,200 cm/hrの一定流速で負荷し,I2S-抗hTfR抗体3をプロテインAに吸着させた。
【0089】
次いで,カラム体積の5倍容の500 mM NaCl及び450 mM アルギニンを含有する10 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いでカラム体積の2.5倍容の140 mM NaClを含有する20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)を同流速で供給してカラムを更に洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の140 mM NaClを含有する100 mM グリシン緩衝液(pH 3.5)で,プロテインAに吸着したI2S-抗hTfR抗体3を溶出させた。溶出液は,予め1 M Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)の入れておいた容器に受けて,直ちに中和した。
【0090】
上記のプロテインAアフィニティーカラムからの溶出液に,200 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)と,4 M NaCl及び2 mM リン酸緩衝液を含有する10 mM MES緩衝液(pH 7.3)と,1 M Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)とを順次添加し,溶出液に含まれるリン酸ナトリウム及びNaClの濃度を,それぞれ2 mM及び215 mMに調整するとともに,溶出液のpHを7.3に調整した。次いで,この溶出液を,Opticap XL600(孔径:0.22 μm, Merck社)でろ過した。このろ過後の溶液を,カラム体積の4倍容の215 mM NaCl及び2 mM リン酸ナトリウムを含有する10 mM MES緩衝液(pH 7.3)で平衡化した,ハイドロキシアパタイトカラムであるCHT TypeII 40 μmカラム(カラム体積:約3.2 L,ベッド高:約20 cm,Bio-Rad社)に,200 cm/hrの一定流速で負荷し,I2S-抗hTfR抗体3をハイドロキシアパタイトに吸着させた。
【0091】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の215 mM NaClを含有する35 mM リン酸緩衝液(pH 7.3)で,ハイドロキシアパタイトに吸着したI2S-抗hTfR抗体3を溶出させた。なお,ハイドロキシアパタイトカラムでの精製は,プロテインAアフィニティーカラムからの溶出液を半量ずつ用いて,2回に分けて実施した。
【0092】
上記のハイドロキシアパタイトカラムからの溶出液に,希塩酸を加えてpHを6.5に調整した。次いで,PelliconTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30 kDa, 膜面積:1.14 m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,溶液中のI2S-抗hTfR抗体3の濃度が約2 mg/mLとなるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOpticap XL600(0.22μm, Merck社)を用いてろ過した。
【0093】
上記の濃縮液を,カラム体積の5倍容の0.8 mg/mL NaCl及び75 mg/mL スクロースを含有する20 mM リン酸緩衝液(pH 6.5)で平衡化した,サイズ排除カラムであるSuperdex 200カラム(カラム体積:約12.6 L, ベッド高:40 cm, GE Healthcare社)に,19 cm/hrの一定流速で負荷し,更に,同緩衝液を同じ流速で供給した。このとき,サイズ排除カラムからの溶出液の流路に,溶出液の吸光度を連続的に測定するための吸光光度計を配置して,280 nmの吸光度をモニターし,280 nmで吸収ピークを示した画分を,I2S-抗hTfR抗体3を含む画分として回収し,これをI2S-抗hTfR抗体精製品とした。なお,サイズ排除カラムでの精製は,ハイドロキシアパタイトカラムからの溶出液を半量ずつ用いて,2回に分けて実施した。
【0094】
〔実施例6〕I2S-抗hTfR抗体を含有する水性医薬組成物の安定性の検討1
実施例5で得たI2S-抗hTfR抗体精製品を用いて,塩化ナトリウム,リン酸緩衝剤,スクロース及びポロキサマー188,及びI2S-抗hTfR抗体を含有し,ポロキサマー188の濃度のみが異なる表1に示す7種類の水性医薬組成物を調製した。これら7種類の水性医薬組成物(処方A~G)を,それぞれ1 mLずつガラスバイアルに充填し,密封して,振盪機(SR-2S,タイテック社)を用いて,室温で,連続して6時間又は24時間振盪させた(振盪速度:240往復/分,振幅:40 mm)。振盪後の水性医薬組成物中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm)を,実施例8に記載の方法で測定した。また,振盪後の水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率を,実施例9に記載の方法で測定した。
【0095】
水性医薬組成物中に含まれる粒子数の測定結果を図1-1に示す。ポロキサマー188の濃度を0.1 mg/mL以下としたときは,ポロキサマー188の濃度を0.25 mg/mL以上としたときと比較して,振盪6時間後及び24時間後のいずれにおいても,水性医薬組成物中に含まれる1~100 μmの粒径の粒子数が大幅に増加することがわかった。更に,ポロキサマー188の濃度が0.25 mg/mL~5 mg/mLの範囲でみると,ポロキサマー188の濃度を0.25 mg/mL及び5 mg/mLとしたときは,ポロキサマー188の濃度を0.5~2.5 mg/mLとしたときと比較して,水性医薬組成物中に含まれる1~100 μmの粒径の粒子数が増加する傾向にあった(図1-2)。特に,振盪24時間後の粒子数は,ポロキサマー188の濃度を1 mg/mLとしたときに,最小値を示した。これらの結果は,1~100 μmの粒径の粒子の発生を防止するためのポロキサマー188の至適濃度が,凡そ1 mg/mLであることを示すものである。
【0096】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図2に示す。ポロキサマー188の濃度を1 mg/mL以上としたときは,振盪6時間後及び24時間後のいずれにおいても,水性医薬組成物中に重合体はほとんど生じなかった。ポロキサマー188の濃度を0.5 mg/mLとしたときは,振盪6時間後及び24時間後における重合体の含有率は,それぞれ約0.028%及び約0.15%とわずかなものであった。しかし,ポロキサマー188の濃度を0.25 mg/mLとしたときは,振盪6時間後及び24時間後における重合体の含有率は,それぞれ約0.24%及び約0.5%と急激に上昇した。ポロキサマー188の濃度を0.1 mg/mLとしたときは,ポロキサマー188の濃度を0.25 mg/mLとしたときと比較して,更に重合体の含有率が増加した。これらの結果は,振盪6時間後及び24時間後における重合体の増加を防止するためのポロキサマー188の至適濃度が,0.5 mg/mLより高いことを示すものであり,特に1.0 mg/mL以上であることを示すものである。
【0097】
以上の結果から,I2S-抗hTfR抗体の重合体の発生を抑制するために効果的な,水性医薬組成物におけるポロキサマー188の濃度は,1 mg/mL以上であることが導かれる。但し,水性医薬組成物は薬剤としてヒトに投与されるべきものであることから,ポロキサマー188の濃度は低く設定されることが好ましい。これらの事情も勘案すると,水性医薬組成物におけるポロキサマー188の好適な濃度は,0.15~3 mg/mLの範囲にあり,より好適な濃度は,0.3~2 mg/mLの範囲にあると結論付けられる。
【0098】
【表1】
【0099】
〔実施例7〕I2S-抗hTfR抗体を含有する水性医薬組成物の安定性の検討2
実施例5で得たI2S-抗hTfR抗体精製品を用いて,塩化ナトリウム,リン酸緩衝剤,スクロース及びポロキサマー188,及びI2S-抗hTfR抗体を含有し,pHが異なる表2に示す3種類(処方H~J)の水性医薬組成物を調製した。更に,処方H~Jと比較して,I2S-抗hTfR抗体及びポロキサマー188を2分の1の濃度で含有する3種類(処方K~M)の水性医薬組成物を調製した。これら種類の水性医薬組成物を,処方H~Jについては2 mLずつ,処方K~Mについては4 mLずつガラスバイアルに充填し,密封して,5℃で1週間,25℃で1週間,40℃で1週間,及び50℃で24時間,暗所で静置した。次いで,各水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率を,実施例9に記載の方法で測定した。更に,各水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の分解物の含有率を,実施例10に記載の方法で測定した。
【0100】
処方H~Jについて,水性医薬組成物中に含まれる,I2S-抗hTfR抗体の重合体及び分解物の含有率の測定結果を,それぞれ図3及び図4に示す。I2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率は,pH 6~7の範囲で,pHが上昇するにつれて増加する傾向にあった(図3)。一方,I2S-抗hTfR抗体の分解物の含有率は,pHが上昇するにつれて減少する傾向にあった(図4)。
【0101】
処方K~Mについて,水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の,重合体の含有率及び分解物の含有率の測定結果を,それぞれ図5及び図6に示す。処方K~Mについても,処方H~Jと同様に,I2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率は,pH 6~7の範囲で,pHが上昇するにつれて増加する傾向にあり(図5),一方,I2S-抗hTfR抗体の分解物の含有率は,pHが上昇するにつれて減少する傾向にあった(図6)。
【0102】
以上の結果で示されるように,水性医薬組成物のpHをpH 7としたときは,pHをpH 6及び6.5とした場合と比較して重合体の含有率が大きくなる傾向にあり,水性医薬組成物のpHをpH6としたときは,pHをpH 6.5及び7とした場合と比較して分解物の含有率が大きくなる傾向にある。従って,I2S-抗hTfR抗体の重合体の発生を抑制し,且つ,I2S-抗hTfR抗体の分解を抑制するために効果的な,水性医薬組成物の至適pHは,凡そpH 6.5であると結論付けられる。
【0103】
【表2】
【0104】
〔実施例8〕水性医薬組成物中に含まれる粒子数(粒径:1~100 μm)の測定
水性医薬組成物中に含まれる粒子数の測定は,フローイメージング粒子解析装置であるFlowCAMTM(フルイド・イメージング・テクノロジーズ社)を用いて行った。フローイメージング粒子解析装置は,サンプル溶液をシリンジポンプによって光学系と直交するフローセルに引き込み,フローセル中を通過する粒子をリアルタイムで撮影することにより,サンプル溶液中に含まれる粒子数を測定することのできる装置である。測定は,検出すべき粒子サイズを1~100 μmに設定して行った。
【0105】
〔実施例9〕水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の重合体の含有率の測定
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel UltraSW Aggregate 3μmカラム(7.8 mm径×30 cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を連続して測定できるようにした。0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液でカラムを平衡化させた後,3~20 μgのI2S-抗hTfR抗体を含有するサンプル溶液をカラムに負荷し,更に0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.5 mL/分の流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。得られた溶出プロフィールから,I2S-抗hTfR抗体の単量体のピーク面積(単量体ピーク面積)と,この単量体ピークより先に現れるI2S-抗hTfR抗体の重合体のピーク面積(重合体ピーク面積)を求めた。重合体の含有率(%)を次式で求めた。
重合体の含有率(%)={重合体ピーク面積/(単量体ピーク面積+重合体ピーク面積)}×100
【0106】
〔実施例10〕水性医薬組成物中に含まれるI2S-抗hTfR抗体の分解物の含有率の測定
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel UltraSW Aggregate 3 μmカラム(7.8 mm径×30 cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を連続して測定できるようにした。0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液でカラムを平衡化させた後,3~20 μgのI2S-抗hTfR抗体を含有するサンプル溶液をカラムに負荷し,更に0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.5 mL/分の流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。得られた溶出プロフィールから,I2S-抗hTfR抗体の単量体のピーク面積(単量体ピーク面積)と,この単量体ピークより後に現れるI2S-抗hTfR抗体の分解物のピーク面積(分解物ピーク面積)を求めた。分解物の含有率(%)を次式で求めた。
分解物の含有率(%)={分解物ピーク面積/(単量体ピーク面積+分解物ピーク面積)}×100
【0107】
〔実施例11〕水性医薬組成物の製剤設計
上記の実施例6及び7で示した検討結果を踏まえて,I2S-抗hTfR抗体を含有する水性医薬組成物の製剤実施例として,表3に示す組成を有するもの(処方O及びP)が設計し得る。この水性医薬組成物は,1~10 mLの液量で,ガラス製又はプラスチック製のバイアル,アンプル,又は注射器に充填・封入され,低温(例えば4℃)で貯蔵される。注射器に充填・封入されたものはプレフィルドシリンジ型の製剤となる。
【0108】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば,抗体とリソソーム酵素とを結合させた蛋白質を有効成分として含有してなる水性医薬組成物を,市場に安定して提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0110】
配列番号2:ヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号3:ヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖をコードする塩基配列を含む塩基配列,合成配列
配列番号4:ヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号5:ヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖をコードする塩基配列を含む塩基配列,合成配列
配列番号6:ヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号7:ヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖をコードする塩基配列を含む塩基配列,合成配列
配列番号8:ヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖のアミノ酸配列
配列番号9:ヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖のアミノ酸配列
配列番号10:ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖のアミノ酸配列
配列番号11:プライマーHyg-Sfi5’,合成配列
配列番号12:プライマーHyg-BstX3’,合成配列
配列番号13:抗hTfR抗体番号1の重鎖とI2Sの融合蛋白質のアミノ酸配列
配列番号14:抗hTfR抗体番号1の重鎖とI2Sの融合蛋白質をコードする塩基配列,合成配列
配列番号15:抗hTfR抗体番号2の重鎖とI2Sの融合蛋白質のアミノ酸配列
配列番号16:抗hTfR抗体番号2の重鎖とI2Sの融合蛋白質をコードする塩基配列,合成配列
配列番号17:抗hTfR抗体番号3の重鎖とhI2Sの融合蛋白質のアミノ酸配列
配列番号18:抗hTfR抗体番号3の重鎖とhI2Sの融合蛋白質をコードする塩基配列,合成配列
配列番号19:リンカーのアミノ酸配列の例1
配列番号20:リンカーのアミノ酸配列の例2
配列番号21:リンカーのアミノ酸配列の例3
配列番号23:ヒト化抗hTfR抗体番号1の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号24:ヒト化抗hTfR抗体番号1の重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号25:ヒト化抗hTfR抗体番号2の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号26:ヒト化抗hTfR抗体番号2の重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号27:ヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号28:ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖の可変領域のアミノ酸配列
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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