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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】日焼け止め化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20221206BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 8/41 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221206BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/06
A61K8/25
A61K8/41
A61K8/81
A61K8/9789
A61Q17/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018167805
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2019131534
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018013749
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 百合香
(72)【発明者】
【氏名】東條 も絵
(72)【発明者】
【氏名】松本 朋子
(72)【発明者】
【氏名】桜田 香織
(72)【発明者】
【氏名】大竹 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭太
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-217534(JP,A)
【文献】特開2010-150172(JP,A)
【文献】特開平09-095433(JP,A)
【文献】特開2007-217361(JP,A)
【文献】国際公開第2009/098839(WO,A1)
【文献】特開2010-037230(JP,A)
【文献】特開2001-039819(JP,A)
【文献】特開2009-173666(JP,A)
【文献】特開2009-209139(JP,A)
【文献】国際公開第2010/114125(WO,A1)
【文献】特開2005-232020(JP,A)
【文献】特開平02-231463(JP,A)
【文献】特開2015-101545(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0015700(US,A1)
【文献】特開2003-206214(JP,A)
【文献】特表2015-520756(JP,A)
【文献】Shiseido,Color-Smart Day Moisturizer Broad Spectrum SPF30 Sunscreen,Mintel GNPD,2017年07月,ID:4927411
【文献】Amorepacific,Wrinkle Design Liquid Pact SPF50+ PA+++,Mintel GNPD,2017年11月,ID:5276523
【文献】Kao,Face UV Watery Essence SPF50+ PA++++,Mintel GNPD,2017年05月,ID:4741485
【文献】Kose,Super Hard N Sunscreen SPF50+ PA++++,Mintel GNPD,2017年04月,ID:4730183
【文献】Noevir,BB Cool Powder,Mintel GNPD,2017年07月,ID:4939895
【文献】L'Oreal,Skin Idealizing BB Cream SPF35 PA+++,Mintel GNPD,2016年05月,ID:3993903
【文献】Johnson & Johnson,Actif Unify Tinted Mousse Sunscreen SPF30,Mintel GNPD,2016年06月,ID:4046365
【文献】Schering-Plough,UVA/UVB Sunblock Lotion,Mintel GNPD,2002年04月,ID:10107172
【文献】Beiersdorf,Refreshing Sun Lotion SPF50,Mintel GNPD,2017年11月,ID:5236975
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンから選択される少なくとも1種以上の紫外線吸収剤
(B)以下の(i)~(iii)から選択される粉末:
(i)平均粒子径が5~20nm、比表面積が50~200m /g、吸油量が30~35ml/100gである煙霧状疎水化シリカ、
(ii)平均粒子径が3~10μm、比表面積が250~350m /g、吸油量が100~200ml/100gである球状多孔性シリカ、及び
(iii)平均粒子径が5~10μm、比表面積が80~100m /g、吸油量が100~200ml/100gである球状多孔性ポリメチルメタクリレート、並びに
TRPV1活性阻害剤
を含む水中油型乳化日焼け止め化粧料であって、
(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末が同一相内に共存しており、
最終製品を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積が、(B)粉末を含まない点においてのみ最終製品と異なる組成物を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積の70%以下である水中油型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項2】
A)紫外線吸収剤及び(B)粉末がいずれも内相(油相)に存在する、請求項に記載の水中油型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項3】
紫外線散乱剤をさらに含有し、その合計配合量が水中油型乳化日焼け止め化粧料全体に対して3質量%以下である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化日焼け止め化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日焼け止め化粧料に関する。より詳しくは、適用後に皮膚上を広がりにくく、眼に対して刺激の少ない日焼け止め化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線の害から皮膚を守ることはスキンケア、ボディケアにおける重要な課題の一つであり、紫外線が皮膚に与える悪影響を最小限に抑えるために種々のUVケア化粧料が開発されている。UVケア化粧料の1種である日焼け止め化粧料(サンスクリーン化粧料)は、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤を配合した塗膜で皮膚を覆うことによりUVA及びUVBを吸収又は散乱させて皮膚に到達する紫外線量を抑制し、紫外線の害から皮膚を守る(非特許文献1)。
【0003】
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンは、主にUVB領域に吸収波長を持つ液状の紫外線吸収剤であり、優れた紫外線吸収能や入手容易性から非常に多くの日焼け止め化粧料に使用されている。これらの液状紫外線吸収剤は、紫外線吸収剤であると同時に油性溶媒としての役割も果たすため、他の油分の配合比率を低減してべたつきの発生を抑えることや、化粧料全体に対する紫外線吸収剤の配合比率を高く維持して高い紫外線防御効果(高SPF)を実現することが可能である。
【0004】
しかしながら、これらの紫外線吸収剤は、敏感肌の使用者には皮膚に刺激を与えることが知られている。また、敏感肌によらず、顔に適用した場合には、皮脂や汗などにより皮膚上を紫外線吸収剤が移動し、目尻等から眼に侵入して、眼にしみるような痛みを与えることが問題となっている。
【0005】
こうした紫外線吸収剤による刺激を緩和することを目的として、例えば、特許文献1にはポリプロピレングリコールジメチルエーテルを配合して、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの経皮吸収を抑制することが提案されている。しかし、皮膚刺激は抑制できても、紫外線吸収剤の経時的な広がりを抑制するものではないため、眼に対する刺激は緩和することができない。
【0006】
また、特許文献2には、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンを配合しない代わりに、紫外線散乱作用のある複数の粉末成分を組み合わせて配合することが提案されている。しかしながら、高SPFを得るためには粉末成分を大量に配合する必要があり、皮膚に塗布した際に白浮きしたり、使用感触が著しく損なわれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-206214号公報
【文献】特開2015-124172号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「新化粧品学」第2版、光井武夫編、2001年、南山堂発行、第497~504頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の欠点に鑑みてなされたものであり、紫外線吸収剤として汎用されているメトキシケイヒ酸エチルヘキシル及び/又はオクトクリレンを含有するにも拘わらず、眼に対して刺激の少ない日焼け止め化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及び/又はオクトクリレンとともに、特定の粉末成分を配合することにより、適用後に皮膚上で広がりにくく、眼を刺激しにくい日焼け止め化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(A)メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンから選択される少なくとも1種以上の紫外線吸収剤と、
(B)10倍量(質量比)の(A)紫外線吸収剤と混合して得た懸濁液を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積が、(A)紫外線吸収剤のみをスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積の60%以下である粉末と、
を含む日焼け止め化粧料であって、
最終製品を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積が、(B)粉末を含まない点においてのみ最終製品と異なる組成物を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積の70%以下である日焼け止め化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の日焼け止め化粧料は、上記特定の性質を有する粉末成分を配合することにより、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンを含有する日焼け止め化粧料の皮膚上での広がりを抑制することができる。そのため、特に顔に塗布した場合に、紫外線吸収剤が眼に侵入するのを抑えることができ、眼に対して刺激が少なく、使用感及び安全性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の日焼け止め化粧料は、(A)紫外線吸収剤と、(B)特定の粉末とを必須に含有する。以下に詳しく説明する。
【0014】
<(A)紫外線吸収剤>
本発明における(A)紫外線吸収剤は、常温で液状の紫外線吸収剤であるメトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンから選択される。
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(すなわちオクチルメトキシシンナメート)は、308nmに極大吸収波長を有するUVBカット能に優れた淡黄色の液状紫外線吸収剤である。市販品としては、例えば「パルソールMCX」(DSM ニュートリション ジャパン株式会社)等を使用することができる。
【0015】
オクトクリレン(すなわち2-エチルヘキシル 2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート)は、310nmを極大吸収波長としつつ、290~350nmの幅広い波長域をカットできる黄色の液状紫外線吸収剤である。市販品としては、例えば「ユビナールN539T」(BASFジャパン株式会社)、「パルソール340」(DSM ニュートリション ジャパン株式会社)等を使用することができる。
【0016】
本発明の日焼け止め化粧料における(A)紫外線吸収剤の配合量は、日焼け止め化粧料全体に対して3~30質量%、好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは5~12質量%である。(A)紫外線吸収剤の配合量が3質量%未満の場合には紫外線防御効果が十分に発揮されず、30質量%よりも多いとべたつきを生じて使用感を損なったり、皮膚や眼に対する刺激が強くなり過ぎる傾向があるため好ましくない。
【0017】
<(B)粉末>
本発明における(B)粉末は、前記(A)紫外線吸収剤と所定の比率で混合して懸濁液とした場合に、懸濁液を皮膚代替膜上にスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積が、(A)紫外線吸収剤のみをスポッティングして3時間後に得られるスポットの面積の60%以下となる粉末である。
すなわち、(B)粉末は、以下の式によって表される「懸濁液の延展率」が60%以下となることを要件とする。
懸濁液の延展率(%)=([懸濁液のスポットの面積]/[(A)紫外線吸収剤のみのスポットの面積])×100
【0018】
以下、「懸濁液の延展率」の評価方法について説明する。
まず、候補となる粉末を、質量比で10倍量の(A)紫外線吸収剤、すなわちメトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オクトクリレン又はこれらの混合物と混合して懸濁液を得る。これらの紫外線吸収剤は室温で液状であるため、粉末を加えて攪拌するだけで均一な懸濁液が得られる。
【0019】
皮膚代替膜は、ヒトの肌に近い疎水性の材料から構成され、なおかつ、ヒトの肌の肌理を模して表面に格子状の凹凸(又は溝)が形成された測定用擬似人工皮膚基板である。
ヒトの肌に近い疎水性を有する材質としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン、ナイロン等の樹脂を挙げることができる。なかでも、後述するスポットの面積の測定に有利であることから、紫外線透過特性に優れるポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0020】
ヒトの肌の肌理を再現するために、皮膚代替膜表面の算術平均粗さSaが10~50μm、より好ましくは13~30μmとなるように凹凸が形成されているのが好ましい。また、凹部の幅は、50~500μmが好ましく、より好ましくは200~400μmである。凹部の深さは、30~150μmが好ましく、より好ましくは50~100μmである。凹凸は、サンドブラスト加工、モールド加工等の従来より公知の方法により形成することができる。
【0021】
このような皮膚代替膜は、例えば特許第4871385号に開示されている。皮膚代替膜の市販品としては、「SPF MASTER(登録商標) PA-01」(資生堂医理化テクノロジー株式会社)(PMMA樹脂製;表面の算術平均粗さSa=17μm)等を使用することができる。
【0022】
懸濁液を皮膚代替膜にスポッティング(適用)する方法は、サンプル間の適用条件を一定に揃えることができれば特に限定されないが、例えば、液量を正確に測ることができるマイクロピペット等を用いて、水平に配置した皮膚代替膜上に4~6μlの懸濁液の液滴を静かに載せるのが好ましい。スポッティング時のスポットの直径は5~6mmが好ましい。
【0023】
懸濁液をスポッティングした後、皮膚代替膜をそのまま常温常圧(25℃、1気圧)下にて3時間静置する。この間に、懸濁液が皮膚代替膜表面の凹部を伝って拡散し、スポットの面積が広がる。
【0024】
次いで、皮膚代替膜上に広がったスポットの面積([懸濁液のスポットの面積])を測定する。面積の測定には、懸濁液が紫外線吸収剤を含有することを利用して、紫外線照射器と紫外線カメラを用いるのが好ましい。具体的には、皮膚代替膜にブラックライトの紫外線を照射し、紫外線カメラで撮影する。懸濁液は(A)紫外線吸収剤を含むため、スポットの部分は紫外線を吸収し、紫外線カメラに黒く写る。この画像データをコンピュータで2値化するなどして、皮膚代替膜上に広がったスポットの面積を正確に測定することができる。
【0025】
一方、懸濁液に用いたものと同一の(A)紫外線吸収剤を、懸濁液と同一の条件で皮膚代替膜上にスポッティングし、3時間経過後のスポットの面積([(A)紫外線吸収剤のみのスポットの面積])を測定する。
最後に、これらの面積から、上記の式により「懸濁液の延展率」を算出する。
懸濁液の延展率が60%以下、より好ましくは40%以下となる粉末を、本発明に使用可能な(B)粉末と判定する。
【0026】
このような懸濁液の延展率を満たす具体的な(B)粉末としては、(i)煙霧状疎水化シリカ、(ii)球状多孔性シリカ、(iii)球状多孔性ポリメチルメタクリレート(PMMA)を挙げることができる。これらの粉末は吸油能、比表面積等に共通するところがなく、現在のところ、上記の「懸濁液の延展率」によらなければ適切に特定することができない。一方、シリコーン樹脂微粒子は、これらの粉末と平均粒子径や比表面積が近いものであっても「懸濁液の延展率」が60%をはるかに超えてしまうことが確認されている。
【0027】
(i)煙霧状疎水化シリカとしては、平均粒子径が5~20nm、BET法による比表面積が50~200m/g、JIS K5101-13-2に準じて測定した吸油量が30~35ml/100gの微細なシリカで、その表面をジメチルジクロロシラン、ジメチルポリシロキサン等の処理剤にて疎水化処理したものが好ましい。具体的には、アエロジル R972(日本アエロジル株式会社)等が例示できる。
【0028】
(ii)球状多孔性シリカとしては、平均粒子径が3~10μm、比表面積が250~350m/g、吸油量が100~200ml/100gのものが好ましい。具体的には、サンスフェアL-51(AGCエスアイテック株式会社)等が例示できる。
【0029】
(iii)球状多孔性ポリメチルメタクリレート(PMMA)としては、平均粒子径が5~10μm、比表面積が80~100m/g、吸油量が100~200ml/100gとなるように形成された球状ポリ(メタ)アクリレート粒子が好ましい。具体的には、テクポリマーMBP-8(積水化成品工業株式会社)を好適に用いることができる。
【0030】
本発明の日焼け止め化粧料における(B)粉末の配合量は、日焼け止め化粧料全体に対して0.5~15質量%、好ましくは2~10質量%、最も好ましくは約5質量%である。(B)粉末の配合量が0.5質量%未満の場合には皮膚や眼に対する刺激を十分に抑えるのが難しく、15質量%よりも多いと使用感が損なわれる傾向があるため好ましくない。
【0031】
本発明の日焼け止め化粧料は、前記特定の(A)紫外線吸収剤と(B)粉末という必須成分に加えて、日焼け止め化粧料に通常配合し得る他の任意成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0032】
<上記(A)以外の紫外線吸収剤>
本発明の日焼け止め化粧料は、(A)以外の紫外線吸収剤を含んでもよい。メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレン以外の紫外線吸収剤を配合することにより、UVA及び/又はUVB領域の紫外線防御能をさらに向上させることができる。なお、この場合であっても、(A)と(A)以外の紫外線吸収剤との合計配合量が、(A)について上述した配合量の範囲内にあることが好ましい。
このような紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、エチルヘキシルトリアゾン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、オキシベンゾン-3、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、ポリシリコーン-15、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、ホモサレート、サリチル酸エチルへキシル等を挙げることができる。
【0033】
<紫外線散乱剤>
本発明の日焼け止め化粧料は、反射・散乱により紫外線を物理的に遮蔽する粉体(紫外線散乱剤)を含有してもよい。
本発明に配合することができる紫外線散乱剤は、化粧料の分野で紫外線散乱剤として用いられている粉体であれば特に限定されない。具体例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化鉄、タルク、マイカ、セリサイト、カオリン、雲母チタン、紺青、酸化クロム、水酸化クロム、シリカ、酸化セリウム等から選択される1種又は2種以上が挙げられる。特に、1.5以上の屈折率を有する粉体、例えば酸化亜鉛、酸化チタンを用いるのが光学的特性から好ましい。
【0034】
また、紫外線散乱剤は、粒子表面が疎水化処理されていてもよい。表面疎水化処理することにより、油中への分散性や耐水性が向上する。表面処理の方法としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルポリシロキサン等のシリコーン処理;アルキルシラン処理;パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルコール等によるフッ素処理;N-アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理;その他、レシチン処理;金属石鹸処理;脂肪酸処理;アルキルリン酸エステル処理等が挙げられる。
【0035】
本発明における(A)紫外線吸収剤であるメトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンは、紫外線散乱剤の配合量が少ない場合に皮膚上で広がりやすい傾向がある。その一方で、紫外線散乱剤を配合し過ぎると塗布時の白さが目立つようになったり、粉っぽい使用感を生じる場合がある。
本発明は、(B)粉末を配合することで日焼け止め化粧料の皮膚上での広がりを低減できることから、紫外線散乱剤の配合量が少ない状況、又は、全く配合しない状況でも、(A)紫外線吸収剤の広がりを緩和することができる。具体的には、水中油型乳化形態をとる場合には、紫外線散乱剤の合計配合量が日焼け止め化粧料全体に対して3質量%以下である処方において、特に優れた眼刺激低減効果を達成できる。一方、油中水型乳化形態をとる場合には、紫外線散乱剤の合計配合量が10質量%以下である処方において、特に優れた眼刺激低減効果を達成できる。
【0036】
<TRPV1活性阻害剤>
本発明者らは、本発明の日焼け止め化粧料に、TRPV1活性阻害剤を配合することにより、眼に対する刺激をさらに抑制できることを見出した。TRPV1とは、TRP(transient receptor potential)イオンチャネルスーパーファミリーに属し、カプサイシン受容体として知られている。本発明者らは、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンが眼に入った際の刺激の原因がTRPV1の活性化によることを明らかにし、TRPV1の活性化を抑制することで眼刺激がさらに抑制されることを新たに見出した。
TRPV1は活性化されると細胞内にカルシウムイオンを取り込むため、TRPV1活性阻害剤は、例えば、TRPV1を強制発現させたHEK293細胞を用いて、陽性対照物質(カプサイシン等)による反応に対する抑制効果をカルシウムイメージングで評価することによってスクリーニングできる。
上記スクリーニングの結果、ユズ種子油、レスベラトロール、オレンジ油、PEG-9 ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ジステアリン酸エチレングリコール、ステリアン酸、ミリスチン酸亜鉛にTRPV1活性阻害効果が確認できた。これらの中でも、ユズ種子油、レスベラトロールが眼刺激抑制効果の観点で特に好ましい。最も好ましいのはユズ種子油である。
【0037】
本発明の日焼け止め化粧料にTRPV1活性阻害剤を配合する場合、日焼け止め化粧料全体に対して0.5~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%、最も好ましくは約1質量%である。TRPV1活性阻害剤の配合量が0.5質量%未満の場合にはTRPV1活性阻害剤の効果をほとんど実感できず、5質量%よりも多く配合すると使用感が損なわれる傾向があるため好ましくない。
【0038】
その他の任意成分としては、アルコール類、水溶性高分子、油溶性高分子、界面活性剤、上記(B)粉末及び紫外線散乱剤以外の粉末成分、各種油分等が挙げられるが、これらの例示に限定されるものではない。
【0039】
アルコール類としては、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどの多価アルコール等が例示される。
【0040】
水溶性高分子としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(以下、「AMPS」と略記する)のホモポリマー、あるいはコポリマーが挙げられる。コポリマーは、ビニルピロリドン、アクリル酸アミド、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸ヒドロキシエチル等のコモノマーからなるコポリマーである。すなわち、AMPSホモポリマー、ビニルピロリドン/AMPS共重合体、ジメチルアクリルアミド/AMPS共重合体、アクリル酸アミド/AMPS共重合体、アクリル酸ナトリウム/AMPS共重合体等が例示される。さらには、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム/アクリル酸アルキル/メタクリル酸ナトリウム/メタクリル酸アルキル共重合体、カラギーナン、ペクチン、マンナン、カードラン、コンドロイチン硫酸、デンプン、グリコーゲン、アラビアガム、ヒアルロン酸ナトリウム、トラガントガム、キサンタンガム、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、グアガム、デキストラン、ケラト硫酸、ローカストビーンガム、サクシノグルカン、キチン、キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天等が例示される。
【0041】
油溶性高分子としては、トリメチルシロキシケイ酸、アルキル変性シリコーン、ポリアミド変性シリコーン、ジメチコンクロスポリマー、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、ポリメチルシルセスキオキサン等が例示される。
【0042】
界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、又は両性の界面活性剤が挙げられ、シリコーン系又は炭化水素系の界面活性剤が含まれる。
【0043】
上記(B)粉末及び紫外線散乱剤以外の粉末成分としては、ナイロンやアクリル系のポリマー球状粉末、シリカ粉末、シリコーン粉末、金属を含まない表面処理剤で表面処理された金属酸化物粉末等が例示される。
【0044】
<日焼け止め化粧料>
本発明の日焼け止め化粧料は、最終製品を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後のスポットの面積が、(B)粉末を含まない点においてのみ最終製品と異なる組成物を皮膚代替膜にスポッティングして3時間後のスポットの面積の70%以下である。
すなわち、本発明の日焼け止め化粧料は、以下の式によって表される「最終製品の延展率」が70%以下となることを要件とする。
最終製品の延展率(%)=([最終製品のスポットの面積]/[最終製品から(B)粉末を除いた組成物のスポットの面積])×100
【0045】
以下、「最終製品の延展率」の評価方法について説明する。
評価対象の最終製品を、上記「懸濁液の延展率」の評価と同様に皮膚代替膜にスポッティングする。皮膚代替膜をそのまま常温常圧(25℃、1気圧)下にて3時間静置した後、皮膚代替膜上に広がったスポットの面積([最終製品のスポットの面積])を測定する。最終製品は紫外線吸収剤を含有するため、ここでも面積の測定には紫外線照射器と紫外線カメラを用いることができる。
【0046】
一方で、(B)粉末を含まない点においてのみ最終製品と異なる組成物を調製し、最終製品と同様に3時間後のスポットの面積([最終製品から(B)粉末を除いた組成物のスポットの面積])を測定する。
これらの面積から、上記の式により「最終製品の延展率」を算出する。
最終製品の延展率が70%以下、より好ましくは50%以下となるものを、本発明の日焼け止め化粧料と判定する。最終製品の延展率が70%以下であれば、化粧料が皮膚上で広がりにくく、眼に侵入しにくくなるため、眼に対して低刺激性で安全である。
【0047】
本発明の日焼け止め化粧料は、水中油型乳化化粧料、油中水型乳化化粧料、あるいは油性化粧料の形態で提供することが可能である。具体的な剤型としては、日焼け止め乳液、日焼け止めクリームといった剤型であり、各剤型に適した常法を用いて製造することができる。
【0048】
(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末は、同一相内に共存している場合に、特に高い眼刺激低減効果を示す傾向がある。ここで、「同一相内に共存」とは、(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末の全てが完全に同一相内に存在していることを必要とするものではなく、実質的に共存している状態を指す。具体的には、(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末それぞれの90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上が同一相内に共存していればよい。メトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンは油溶性であるため、(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末の両方を同一の油相内に共存させること、すなわち、日焼け止め化粧料が水中油型乳化化粧料の形態である場合には、(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末をいずれも内相(油相)に存在させ、一方、油中水型乳化化粧料の形態である場合には、(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末をいずれも外相(油相)に存在させることが好ましい。
特に、水中油型乳化化粧料の場合、使用性の観点からは、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛等の紫外線散乱剤を用いないものが好まれる傾向にあり、このような場合にメトキシケイヒ酸エチルヘキシル及びオクトクリレンは眼を刺激しやすくなる。紫外線散乱剤に頼らなくても皮膚上での広がりを抑制できる本発明の日焼け止め化粧料は、のびの良さとさっぱりとした使用感を併せて実現することができる水中油型乳化化粧料の形態において特に高い効果を発揮する。
従って、本発明の日焼け止め化粧料は、水中油型乳化化粧料の形態であって、(A)紫外線吸収剤及び(B)粉末の両方をその内相(油相)に存在させる処方とした場合に、特に高い効果を発揮し、眼に対する刺激を大幅に低減することができる。
【0049】
また、本発明の日焼け止め化粧料の粘度は特に限定されるものではないが、粘度が10000mPa・s以上の場合にはそもそも延展による問題を生じにくい。従って、本発明は、粘度が10000mPa・s以下である系において特に有効である。
【実施例
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。
【0051】
<懸濁液の延展率評価>
オクトクリレン(商品名「ユビナールN539T」;BASFジャパン株式会社)10gに、表1記載の粉末を1g混合して懸濁液をそれぞれ得た。この懸濁液5μlを、皮膚代替膜(商品名「SPF MASTER(登録商標) PA-01」;資生堂医理化テクノロジー株式会社)上に、マイクロピペットを用いて静かにスポッティングした。皮膚代替膜を常温常圧(25℃、1気圧)下にて3時間静置した後に、紫外線照射器と紫外線カメラを用いて撮影し、画像データをコンピュータで2値化処理して、皮膚代替膜上に広がった懸濁液のスポットの面積を測定した。各懸濁液についてそれぞれ10箇所にスポッティングを行い、それらのスポットの面積の平均をその懸濁液の延展率の算出に用いた。
一方で、オクトクリレンのみを同一の条件で皮膚代替膜上にスポッティングし、3時間経過後のスポットの面積を測定した。こちらも10回のスポッティングを行い、それらのスポットの面積の平均を延展率の算出に用いた。
各懸濁液及びオクトクリレンのスポットの面積から、各懸濁液の延展率を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
また、オクトクリレンの代わりに、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(商品名「パルソールMCX」;DSMニュートリションジャパン株式会社)を用いて、同様に懸濁液の延展率を算出した。結果を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2に示した結果から明らかなように、煙霧状疎水化シリカ、球状多孔性シリカ、球状多孔性ポリメチルメタクリレートを配合した場合には、粉末を配合しない場合と比べて、オクトクリレン又はメトキシケイヒ酸エチルヘキシルの皮膚代替膜上での広がり(懸濁液の延展率)を60%以下に低減できることが確認された。なかでも、煙霧状疎水化シリカは、懸濁液の延展率を10%程度にまで低減でき、極めて高い効果を有することが確認された。これに対し、シリコーン樹脂微粒子を配合した場合には、オクトクリレン又はメトキシケイヒ酸エチルヘキシルのいずれについてもスポットの広がりをほとんど抑制することができなかった。
【0056】
<最終製品の延展率評価>
(1)水中油型乳化日焼け止め化粧料
表3に示す処方にて、常法により、水中油型乳化日焼け止め化粧料を製造した。
具体的には、(24)に(1)~(9)、(23)を添加し均一に混合した後に、(21)の粉末を均一に分散させて水相を得た。一方で、(10)~(20)を均一に混合した後に、(22)を添加して均一に分散させて油相を得た。その後、水相に油相を徐添し、ホモミキサーで均一分散後、乳化粒子を整え、実施例1の日焼け止め化粧料を得た。
比較例1では、(20)及び(22)を添加せずに日焼け止め化粧料を得た。
【0057】
実施例1の日焼け止め化粧料5μlを、皮膚代替膜(商品名「SPF MASTER(登録商標) PA-01」;資生堂医理化テクノロジー株式会社)上に、マイクロピペットを用いて静かにスポッティングした。皮膚代替膜を常温常圧(25℃、1気圧)下にて3時間静置した後に、紫外線照射器と紫外線カメラを用いて撮影し、画像データをコンピュータで2値化処理して、皮膚代替膜上に広がったスポットの面積を測定した。スポッティングは3箇所に行い、それらの平均を最終製品の延展率の算出に用いた。
一方で、比較例1についても、同一の条件で皮膚代替膜上にスポッティングを行い、3時間経過後のスポットの面積を測定した。
実施例1について得られたスポットの面積と、比較例1について得られたスポットの面積から、最終製品の延展率を算出した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示した結果から明らかなように、煙霧状疎水化シリカを配合した実施例1では、この粉末を配合しない比較例1と比べて、化粧料の皮膚代替膜上での広がり(最終製品の延展率)を41.9%にまで低減できることが確認された。
【0060】
<日焼け止め化粧料の眼刺激性評価>
専門パネル12名により、顔の左右(眼の周りを含む)にそれぞれ実施例1又は比較例1の日焼け止め化粧料を塗布して、3時間後の眼に対する刺激の有無を評価してもらった。
比較例1を塗布した方の眼に刺激を感じた専門パネルは12名のうち11名であったのに対し、実施例1を塗布した方の眼に刺激を感じた専門パネルは5名のみであった。
【0061】
(2)油中水型乳化日焼け止め化粧料
さらに、表4に示す処方にて、常法により、油中水型乳化日焼け止め化粧料を製造した。
具体的には、油相を構成する成分を均一に混合した後に、メタクリル酸メチルクロスポリマーを添加して均一に分散させて油相を得た。一方で、水相を構成する成分を均一に混合溶解して水相を得た。油相を水相に徐添し、ホモミキサーで均一分散後、乳化粒子を整え、実施例2~4の日焼け止め化粧料を得た。
比較例2及び3では、メタクリル酸メチルクロスポリマーを添加せずに日焼け止め化粧料を得た。
実施例1と同様に最終製品の延展率を算出した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示した結果から明らかなように、メタクリル酸メチルクロスポリマーを配合した実施例2~4では、この粉末を配合しない比較例2及び3と比べて、化粧料の皮膚代替膜上での広がり(最終製品の延展率)を60%以下にまで低減できることが確認された。