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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】一人乗り電動車両
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20221206BHJP
   A61G 5/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61G5/04 710
A61G5/10 712
A61G5/04 703
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018178071
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020048611
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】大澤 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩幸
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0283008(US,A1)
【文献】特開2007-111380(JP,A)
【文献】特開2006-223483(JP,A)
【文献】特開平4-292282(JP,A)
【文献】特開昭55-72476(JP,A)
【文献】特開2004-255968(JP,A)
【文献】特開2016-27776(JP,A)
【文献】特開2013-86703(JP,A)
【文献】特開2010-5347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/007
B62K 5/01
B62K 25/08
B62K 25/10
A61G 5/04
A61G 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一人乗り電動車両であって、
乗員が座るシートと、
前記乗員が腕を置くアームレストと、
前記乗員が足を置くフットボードと、
前輪および後輪を含む少なくとも四輪の車輪と、
前記車輪のうちの少なくとも二輪を互いに独立して駆動する少なくとも二つの電動モータと、
前記前輪を支持する独立懸架のフロントサスペンションと、
前記後輪を支持する独立懸架のリアサスペンションと、
を備え、
前記乗員が乗車していない状態で、前記独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついており、
前記リアサスペンションの上部は、前記シートに取り付けられる、一人乗り電動車両。
【請求項2】
一人乗り電動車両であって、
乗員が座るシートと、
前記乗員が腕を置くアームレストと、
前記乗員が足を置くフットボードと、
前輪および後輪を含む少なくとも四輪の車輪と、
前記車輪のうちの少なくとも二輪を互いに独立して駆動する少なくとも二つの電動モータと、
前記前輪を支持する独立懸架のフロントサスペンションと、
前記後輪を支持する独立懸架のリアサスペンションと、
を備え、
前記乗員が乗車していない状態で、前記独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついており、
前記リアサスペンションは、ピボット軸が前記後輪の回転軸よりも前方に位置するトレーリングアーム式サスペンションであり、
前記リアサスペンションがフルバンプ状態にあるときの前記ピボット軸の高さは、前記後輪の回転軸の高さ以上である一人乗り電動車両。
【請求項3】
一人乗り電動車両であって、
乗員が座るシートと、
前記乗員が腕を置くアームレストと、
前記乗員が足を置くフットボードと、
前輪および後輪を含む少なくとも四輪の車輪と、
前記車輪のうちの少なくとも二輪を互いに独立して駆動する少なくとも二つの電動モータと、
前記前輪を支持する独立懸架のフロントサスペンションと、
前記後輪を支持する独立懸架のリアサスペンションと、
を備え、
前記乗員が乗車していない状態で、前記独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついており、
前記フロントサスペンションが伸びきった状態にあるときの前記前輪の回転軸の高さは、前記一人乗り電動車両の最低地上高以下であり、
前記フロントサスペンションがフルバンプ状態にあるときの前記前輪の回転軸の高さは、前記フットボードの上面の高さ以上である一人乗り電動車両。
【請求項4】
一人乗り電動車両であって、
乗員が座るシートと、
前記乗員が腕を置くアームレストと、
前記乗員が足を置くフットボードと、
前輪および後輪を含む少なくとも四輪の車輪と、
前記車輪のうちの少なくとも二輪を互いに独立して駆動する少なくとも二つの電動モータと、
前記前輪を支持する独立懸架のフロントサスペンションと、
前記後輪を支持する独立懸架のリアサスペンションと、
を備え、
前記乗員が乗車していない状態で、前記独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついており、
前記リアサスペンションが伸びきった状態にあるときの前記後輪の回転軸の高さは、前記一人乗り電動車両の最低地上高以下であり、
前記リアサスペンションがフルバンプ状態にあるときの前記後輪の回転軸の高さは、前記フットボードの上面の高さ以上である一人乗り電動車両。
【請求項5】
前記乗員が操舵を行うハンドルと、
前記乗員による前記ハンドルの操作を前記前輪に伝達する伝達経路に設けられたステアリングコラムと、
前記ステアリングコラムが内部を通るヘッドチューブと、
前記フロントサスペンションの上部を取り付けるサスペンションタワーと、
をさらに備え、
前記サスペンションタワーは、前記ヘッドチューブに設けられる、請求項1から4のいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【請求項6】
前記前輪の前端は、前記一人乗り電動車両の最も前方に位置する、請求項1からのいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【請求項7】
前記後輪の後端は、前記一人乗り電動車両の最も後方に位置する、請求項1からのいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【請求項8】
前記少なくとも二つの電動モータは、インホイールモータである、請求項1からのいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【請求項9】
前記リアサスペンションは、ピボット軸が前記後輪の回転軸よりも前方に位置するトレーリングアーム式サスペンションである、請求項1および3から8のいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【請求項10】
前記フロントサスペンションは、ダブルウィッシュボーン式サスペンションである、請求項1からのいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【請求項11】
前記ダブルウィッシュボーン式サスペンションは、アッパーアームと、ロアアームと、ショックアブソーバとを有し、
前記ショックアブソーバは、前記アッパーアームに取り付けられる、請求項10に記載の一人乗り電動車両。
【請求項12】
前記一人乗り電動車両はハンドル形電動車椅子である、請求項1から11のいずれかに記載の一人乗り電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを用いて走行する一人乗り電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者向けの一人乗り電動車両として、ハンドル形電動車椅子が知られている(例えば特許文献1)。ハンドル形電動車椅子は、シニアカー(登録商標)と称される場合もある。
【0003】
ハンドル形電動車椅子は、比較的平坦な舗装路を走行することが可能である。例えば、高齢者は、ハンドル形電動車椅子に乗ることで、自宅と店舗との間を移動して買い物を行ったりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-255968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハンドル形電動車椅子に乗った乗員の行動可能な範囲を広げるためには、未舗装路などの悪路も走行できることが望まれる。
【0006】
本発明は、走行性能を高めた一人乗り電動車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る一人乗り電動車両は、乗員が座るシートと、前記乗員が腕を置くアームレストと、前記乗員が足を置くフットボードと、前輪および後輪を含む少なくとも四輪の車輪と、前記車輪のうちの少なくとも二輪を互いに独立して駆動する少なくとも二つの電動モータと、前記前輪を支持する独立懸架のフロントサスペンションと、前記後輪を支持する独立懸架のリアサスペンションとを備え、前記乗員が乗車していない状態で、前記独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついている。
【0008】
本発明の実施形態に係る一人乗り電動車両は、独立懸架のフロントサスペンションおよび独立懸架のリアサスペンションを備えるとともに、少なくとも二つの電動モータを用いて少なくとも二輪を互いに独立して駆動する。これにより、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、駆動力を安定して路面に伝達することができる。また、車両の旋回性能を高めることができる。また、独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついている。これにより、車両の最低地上高を高くすることができるとともに、サスペンションのストローク量を大きくすることができる。本発明によれば、例えば、車両の未舗装路での走行性能を高めることができる。また、例えば、車両が段差を乗り越えやすくすることができる。
【0009】
ある実施形態によれば、前記一人乗り電動車両は、前記乗員が操舵を行うハンドルと、前記乗員による前記ハンドルの操作を前記前輪に伝達する伝達経路に設けられたステアリングコラムと、前記ステアリングコラムが内部を通るヘッドチューブと、前記フロントサスペンションの上部を取り付けるサスペンションタワーとをさらに備え、前記サスペンションタワーは、前記ヘッドチューブに設けられてもよい。
【0010】
サスペンションが取り付けられるフレーム部分には、サスペンションが路面から受けた衝撃が伝達されるため、高い強度が求められる。サスペンションタワーを車体フレームの左右端部付近に設けた場合、車幅方向の中心部から左右方向に延びるフレーム部分に高い強度を確保する必要があり、車体重量が大きくなる。車幅方向の中心近傍に位置するヘッドチューブにサスペンションタワーを設けることで、上記のような高い強度の左右方向に延びるフレーム部分が不要になり、車体重量を軽くすることができる。
【0011】
ある実施形態によれば、前記リアサスペンションの上部は、前記シートに取り付けられてもよい。
【0012】
車体フレームにリアサスペンションの上部を取り付けるためのフレーム部分が不要になるため、車体構造をシンプルにすることができる。
【0013】
ある実施形態によれば、前記前輪の前端は、前記一人乗り電動車両の最も前方に位置してもよい。
【0014】
車両前方に位置する段差などの障害物に、前輪より先に車体フレームおよびボディカバー等が接触することを抑制することができる。車両前方の障害物に先ず前輪が接触することにより、障害物を乗り越えやすくすることができる。例えば、比較的高い段差でも乗り越えることができる。
【0015】
ある実施形態によれば、前記後輪の後端は、前記一人乗り電動車両の最も後方に位置してもよい。
【0016】
車両後方に位置する段差などの障害物に、後輪より先に車体フレームおよびボディカバー等が接触することを抑制することができる。車両後方の障害物に先ず後輪が接触することにより、障害物を乗り越えやすくすることができる。例えば、比較的高い段差でも乗り越えることができる。
【0017】
ある実施形態によれば、前記少なくとも二つの電動モータは、インホイールモータであってもよい。
【0018】
車両のボディ部分に電動モータおよび動力伝達機構を配置するスペースを確保する必要がなくなり、省スペース化を実現することができる。また、車両の左右方向に延びるドライブシャフトが不要であるため、サスペンションはドライブシャフトによる制約を受けない。また、インホイールモータを用いて各車輪の駆動力を互いに独立して制御することで、車両の走行性能を高めることができる。
【0019】
ある実施形態によれば、前記リアサスペンションは、ピボット軸が前記後輪の回転軸よりも前方に位置するトレーリングアーム式サスペンションであってもよい。
【0020】
これにより、リアサスペンションのストローク量を大きくできる。また、車両後方の中心部付近にサスペンションのアームが位置しないことから、車両後方の中心部付近に空間を確保することができる。車両後方の中心部付近の空間は、例えば荷物置きとして利用することができる。荷物の収納スペースを確保した、走行性の高い一人乗り電動車両を実現できる。
【0021】
ある実施形態によれば、前記リアサスペンションがフルバンプ状態にあるときの前記ピボット軸の高さは、前記後輪の回転軸の高さ以上であってもよい。
【0022】
これにより、リアサスペンションがフルバンプ状態にあるときにおいても、リアサスペンションが後輪を路面に押し付ける力を確保し、駆動力の路面への伝達ロスを低減させることができる。
【0023】
ある実施形態によれば、前記フロントサスペンションは、ダブルウィッシュボーン式サスペンションであってもよい。
【0024】
これにより、前輪が上下動するときのキャンバー角の変化を少なくすることができ、前輪の安定したグリップ力を確保するとともに、乗り心地を向上させることができる。
【0025】
ある実施形態によれば、前記ダブルウィッシュボーン式サスペンションは、アッパーアームと、ロアアームと、ショックアブソーバとを有し、前記ショックアブソーバは、前記アッパーアームに取り付けられてもよい。
【0026】
これにより、ステアリングシステムのナックルアームと、ショックアブソーバとの干渉を抑制することができる。前輪の切れ角を大きくでき、車両の最小回転半径を小さくすることができる。
【0027】
ある実施形態によれば、前記フロントサスペンションが伸びきった状態にあるときの前記前輪の回転軸の高さは、前記一人乗り電動車両の最低地上高以下であり、前記フロントサスペンションがフルバンプ状態にあるときの前記前輪の回転軸の高さは、前記フットボードの上面の高さ以上であってもよい。
【0028】
フロントサスペンションのストローク量が大きいことにより、凹凸が激しい路面を走行したり段差を乗り越えたりするときに、安定した車両姿勢を維持しやすくできる。
【0029】
ある実施形態によれば、前記リアサスペンションが伸びきった状態にあるときの前記後輪の回転軸の高さは、前記一人乗り電動車両の最低地上高以下であり、前記リアサスペンションがフルバンプ状態にあるときの前記後輪の回転軸の高さは、前記フットボードの上面の高さ以上であってもよい。
【0030】
リアサスペンションのストローク量が大きいことにより、凹凸が激しい路面を走行したり段差を乗り越えたりするときに、安定した車両姿勢を維持しやすくできる。
【0031】
ある実施形態によれば、前記一人乗り電動車両はハンドル形電動車椅子であってもよい。
【0032】
これにより、走行性能を高めたハンドル形電動車椅子が実現され、ハンドル形電動車椅子に乗った乗員の行動範囲を広げることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の実施形態に係る一人乗り電動車両は、独立懸架のフロントサスペンションおよび独立懸架のリアサスペンションを備えるとともに、少なくとも二つの電動モータを用いて少なくとも二輪を互いに独立して駆動する。これにより、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、駆動力を安定して路面に伝達することができる。また、車両の旋回性能を高めることができる。また、独立懸架のフロントサスペンションが有するアームには下反角がついている。これにより、車両の最低地上高を高くすることができるとともに、サスペンションのストローク量を大きくすることができる。本発明の実施形態によれば、例えば、車両の未舗装路での走行性能を高めることができる。また、例えば、車両が段差を乗り越えやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両を左斜め前方から見た斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る電動車両のシャーシ構造を左斜め前方から見た斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る電動車両を右斜め後方から見た斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る電動車両のシャーシ構造を右斜め後方から見た斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る電動車両の正面図である。
図6】(a)および(b)は、本発明の実施形態に係る電動車両が備えるステアリング機構の上面図である。
図7】本発明の実施形態に係る電動車両を示すブロック図である。
図8】本発明の実施形態に係る前輪の前端位置および後輪の後端位置を示す電動車両の側面図である。
図9】(a)は本発明の実施形態に係るサスペンションが伸びきった状態における電動車両を示す側面図であり、(b)は本発明の実施形態に係る乗員が乗車した状態における電動車両を示す側面図であり、(c)は本発明の実施形態に係るサスペンションがフルバンプ状態にあるときの電動車両を示す側面図である。
図10】は、本発明の実施形態に係るリアサスペンションがフルバンプ状態にある電動車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
以下の説明において、前、後、上、下、左、右は、それぞれ電動車両のシートに着座した乗員から見たときの前、後、上、下、左、右を意味するものとする。
【0037】
図1は、本発明の実施形態に係る一人乗り電動車両1を示す斜視図である。図1に示す例では、一人乗り電動車両1は、四輪のハンドル形電動車椅子である。なお、本発明の実施形態に係る一人乗り電動車両1は、ここで例示する四輪のハンドル形電動車椅子に限定されない。本発明の実施形態に係る一人乗り電動車両1は、ジョイスティック形電動車椅子であってもよい。また、車輪の数は四輪より多くてもよい。
【0038】
図2は、電動車両1のシャーシ構造を示す斜視図である。図3は、電動車両1を右斜め後方から見た斜視図である。図4は、電動車両1のシャーシ構造を右斜め後方から見た斜視図である。図5は、電動車両1の正面図である。
【0039】
電動車両1は、車体フレーム2(図2図4)を備える。車体フレーム2のダウンチューブ21には、ヘッドチューブ22が設けられている。ヘッドチューブ22は、その内部を通るステアリングコラム26(図1図3)を回転可能に支持している。ステアリングコラム26の上端部には、乗員が操舵を行うハンドル6が設けられている。ハンドル6にはアクセル操作子7が設けられている。
【0040】
車体フレーム2の前部23には、独立懸架のフロントサスペンション40が設けられている。この例では、フロントサスペンション40は、ダブルウィッシュボーン式サスペンションである。
【0041】
フロントサスペンション40は、アッパーアーム41L、ロアアーム42L、ショックアブソーバ43Lを有する。アッパーアーム41Lの一端およびロアアーム42Lの一端のそれぞれは、車体フレーム2の前部23に回転可能に支持されている。アッパーアーム41Lの他端およびロアアーム42Lの他端のそれぞれは、ナックルアーム47L(図4)を介して左前輪4Lを回転可能に支持している。
【0042】
また、フロントサスペンション40は、アッパーアーム41R、ロアアーム42R、ショックアブソーバ43Rを有する。アッパーアーム41Rの一端およびロアアーム42Rの一端のそれぞれは、車体フレーム2の前部23に回転可能に支持されている。アッパーアーム41Rの他端およびロアアーム42Rの他端のそれぞれは、ナックルアーム47R(図2)を介して右前輪4Rを回転可能に支持している。電動車両1の構造を分かりやすく図示するために、一部の図面ではショックアブソーバ43Lおよび43Rが有するコイルスプリングの図示は省略している場合がある。
【0043】
ヘッドチューブ22にはサスペンションタワー48Lおよび48Rが設けられている。ショックアブソーバ43Lの上部44Lは、サスペンションタワー48Lによって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ43Rの上部44Rは、サスペンションタワー48Rによって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ43Lの下部45Lは、アッパーアーム41Lを回転可能に支持している。ショックアブソーバ43Rの下部45Rは、アッパーアーム41Rを回転可能に支持している。
【0044】
図6(a)および図6(b)は、電動車両1が備えるステアリング機構の概要を示す上面図である。ステアリングコラム26の下端部にはピットマンアーム49が取り付けられている。タイロッド46Lの一端およびタイロッド46Rの一端のそれぞれは、ピットマンアーム49に回転可能に接続されている。タイロッド46Lの他端はナックルアーム47Lに回転可能に接続されている。タイロッド46Rの他端はナックルアーム47Rに回転可能に接続されている。
【0045】
図6(a)は直進走行時のステアリング機構を示している。カーブを走行するとき、乗員はハンドル6を回転させる。図6(b)を参照して、乗員がハンドル6を回転させて発生した操舵力は、ステアリングコラム26を介してピットマンアーム49に伝達される。ピットマンアーム49はステアリングコラム26を中心に回転し、タイロッド46Lおよび46R、ナックルアーム47Lおよび47Rを介して、操舵力が前輪4Lおよび4Rに伝達される。伝達された操舵力により前輪4Lおよび4Rの操舵角が変化し、電動車両1は、左または右に曲がりながら走行することができる。
【0046】
ボディカバー34(図1)は、車体フレーム2の前部23およびフロントサスペンション40の一部を覆うように設けられている。前輪4Lおよび4Rは、ボディカバー34おおびカウル等で覆われずに露出している。これにより、乗員は、前輪4Lおよび4Rと路面上の障害物との位置関係を容易に視認することができる。
【0047】
ボディカバー34には、フロントガード35およびフロントキャリア36が設けられている。フロントキャリア36には荷物を置くことができる。また、フロントキャリア36には荷物を収容するカゴが取り付けられてもよい。乗員の前方にフロントガード35が配置されていることで、乗員は走行時に安心感を得ることができる。また、フロントガード35は荷物掛けとして用いることができる。
【0048】
車体フレーム2の後部25には、乗員が座るシート3が設けられている。シート3には、乗員が腕を置くアームレスト31Lおよび31Rと、乗員がもたれかかる背もたれ32とが設けられている。アームレスト31Lおよび31Rはサイドガードの役割も果たしている。シート3の後方にはバッテリ10が配置される。バッテリ10をシート3周辺の車両端部に配置することで、乗員はバッテリ10の着脱を容易に行うことができる。
【0049】
車体フレーム2の底部24には、乗員が足を置くフットボード8が設けられている。フットボード8には滑り止め加工がなされている。乗員の乗り降りが容易なように、フットボード8の上面は概ね平坦な形状を有している。
【0050】
車体フレーム2の後部25の下方には、独立懸架のリアサスペンション50が設けられている。この例では、リアサスペンション50は、トレーリングアーム式サスペンションである。
【0051】
リアサスペンション50は、トレーリングアーム51L、ショックアブソーバ53Lを有する。また、リアサスペンション50は、トレーリングアーム51R、ショックアブソーバ53Rを有する。電動車両1の構造を分かりやすく図示するために、一部の図面ではショックアブソーバ53Lおよび53Rが有するコイルスプリングの図示は省略している場合がある。
【0052】
トレーリングアーム51Lおよび51Rの前部は、ピボット軸56によって車体フレーム2の後部25に回転可能に支持されている。乗員が座るシート3は、シートフレーム33(図4)を有する。シートフレーム33は車体フレーム2の後部25に固定されている。この例では、ショックアブソーバ53Lの上部54Lおよびショックアブソーバ53Rの上部54Rのそれぞれは、シートフレーム33によって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ53Lの下部55Lは、トレーリングアーム51Lを回転可能に支持している。ショックアブソーバ53Rの下部55Rは、トレーリングアーム51Rを回転可能に支持している。トレーリングアーム51Lおよび51Rには、スタビライザ57が設けられている。
【0053】
トレーリングアーム51Lの後部には、電動モータ60L(図4)が設けられている。電動モータ60Lはインホイールモータであり、電動モータ60Lに左後輪5Lが設けられている。リアサスペンション50は、電動モータ60Lを介して左後輪5Lを回転可能に支持している。トレーリングアーム51Rの後部には、電動モータ60R(図2)が設けられている。電動モータ60Rはインホイールモータであり、電動モータ60Rに右後輪5Rが設けられている。リアサスペンション50は、電動モータ60Rを介して右後輪5Rを回転可能に支持している。
【0054】
本実施形態の電動車両1は、サイズが大きい前輪および後輪4L、4R、5Lおよび5Rを採用している。例えば、前輪および後輪のタイヤサイズは14インチ以上である。このサイズは一例であり、本発明はこれに限定されない。サイズが大きい前輪および後輪を採用することにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0055】
本実施形態では、二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて、後輪5Lおよび5Rを互いに独立して駆動する。左右の車輪の回転を独立に制御することで、電動車両1の旋回時の挙動の安定性を高めることができる。
【0056】
また、デファレンシャルギアを備える車両では、一方の駆動輪が空転したときに、他方の駆動輪に駆動力が伝わりにくくなるという課題がある。本実施形態では、後輪5Lおよび5Rの一方が空転したとしても、他方がグリップ力を発揮することで走行を安定して継続することができる。
【0057】
なお、ここでは、電動モータ60Lおよび60Rが後輪5Lおよび5Rを駆動する二輪駆動の形態を例示したが、電動車両1は四輪駆動であってもよい。その場合は、前輪4Lおよび4Rのそれぞれに対してもインホイールモータが設けられる。
【0058】
本実施形態の電動車両1は、独立懸架のフロントサスペンション40および独立懸架のリアサスペンション50を備える。また、二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて後輪5Lおよび5Rを互いに独立して駆動する。これにより、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、駆動力を安定して路面に伝達することができる。また、車両の旋回性能を高めることができる。本実施形態によれば、未舗装路や段差に対する車両の走破性を高めることができる。
【0059】
次に、図5を用いて、アッパーアーム41Lおよび41Rと、ロアアーム42Lおよび42Rの角度を説明する。
【0060】
少なくとも乗員が乗車していない状態で、アッパーアーム41Lおよびロアアーム42Lは、車幅方向(左右方向)の中心部から左方向に向かって、徐々に高さが低くなるように傾いている。すなわち、アッパーアーム41Lおよびロアアーム42Lには下反角θ41Lおよびθ42Lがついている。また、少なくとも乗員が乗車していない状態で、アッパーアーム41Rおよびロアアーム42Rは、車幅方向(左右方向)の中心部から右方向に向かって、徐々に高さが低くなるように傾いている。すなわち、アッパーアーム41Rおよびロアアーム42Rには下反角θ41Rおよびθ42Rがついている。これにより、電動車両1の最低地上高を高くすることができるとともに、フロントサスペンション40のストローク量を大きくすることができる。最低地上高を高く且つサスペンションのストローク量を大きくすることにより、車両の未舗装路での走行性能を高めることができる。また、車両が段差を乗り越えやすくすることができる。
【0061】
また、本実施形態では、サスペンションタワー48Lおよび48R(図2)は、ヘッドチューブ22に設けられている。ステアリングコラム26が通るヘッドチューブ22は、車幅方向の中心近傍に位置している。サスペンションが取り付けられるフレーム部分には、サスペンションが路面から受けた衝撃が伝達されるため、高い強度が求められる。サスペンションタワー48Lおよび48Rを車体の左右端部付近に設けた場合、車幅方向の中心部から左右方向に延びるフレーム部分に高い強度を確保する必要があり、車体重量が大きくなる。車幅方向の中心近傍に位置するヘッドチューブ22にサスペンションタワー48Lおよび48Rを設けることで、上記のような高い強度の左右方向に延びるフレーム部分が不要になり、車体重量を軽くすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、リアサスペンション50のショックアブソーバ53Lおよび53Rは、シート3内部のシートフレーム33に取り付けられている。すなわち、シートフレーム33がリアサスペンション50を支持する支持部材を兼ねている。車体フレーム2にショックアブソーバ53Lおよび53Rを取り付けるためのフレーム部分が不要になるため、車両構造をシンプルにすることができる。
【0063】
また、電動車両1は、ダブルウィッシュボーン式のフロントサスペンション40を備えている。ダブルウィッシュボーン式サスペンションでは、キャンバー角などのストローク時のサスペンションの挙動を車両に適するように設定できる。ダブルウィッシュボーン式のフロントサスペンション40を採用することにより、前輪4Lおよび4Rが上下動するときのキャンバー角の変化を少なくし、前輪4Lおよび4Rの安定したグリップ力を確保するとともに、乗り心地を向上させることができる。
【0064】
フロントサスペンション40において、ショックアブソーバ43Lおよび43Rは、アッパーアーム41Lおよび41Rに取り付けられている。ショックアブソーバ43Lおよび43Rをロアアーム42Lおよび42Rに取り付けた場合、前輪4Lおよび4Rの切れ角が大きくなると、ナックルアーム47Lおよび47Rと、ショックアブソーバ43Lおよび43Rとが干渉することが起こり得る。ショックアブソーバ43Lおよび43Rをアッパーアーム41Lおよび41Rに取り付けることで、ナックルアーム47Lおよび47Rと、ショックアブソーバ43Lおよび43Rとの干渉を抑制することができる。これにより、前輪4Lおよび4Rの切れ角を大きくでき、車両の最小回転半径を小さくすることができる。
【0065】
また、本実施形態の電動モータ60Lおよび60Rは、インホイールモータである。これにより、車両のボディ部分に電動モータおよび動力伝達機構を配置するスペースを確保する必要がなくなり、省スペース化を実現することができる。また、車両の左右方向に延びるドライブシャフトが不要であるため、サスペンションはドライブシャフトによる制約を受けない。
【0066】
また、トレーリングアーム式のリアサスペンション50では、トレーリングアーム51Lおよび51Rは前後方向に延びており、ピボット軸56が後輪5Lおよび5Rの回転軸よりも前方に位置している。これにより、リアサスペンション50のストローク量を大きくできる。また、車両後方の中心部付近にトレーリングアームが位置しないことから、車両後方の中心部付近に空間を確保することができる。車両後方の中心部付近の空間は、例えば荷物置きとして利用することができる。荷物の収納スペースを確保した、走行性の高い一人乗り電動車両1を実現できる。また、車両後方の中心部付近に空間があることにより、独立懸架のリアサスペンション50の動作に応じて左右の後輪5Lおよび5Rの上下方向における位置に大きな差が発生した場合でも、車両本体部分を地面に接触しにくくすることができる。
【0067】
次に、図7を用いて、電動モータ60Lおよび60Rの制御を説明する。
【0068】
制御装置70は、電動車両1の動作を制御する。制御装置70は、例えばMCU(Motor Control Unit)である。典型的には、制御装置70はデジタル信号処理を行うことが可能なマイクロコントローラ、信号処理プロセッサ等の半導体集積回路を有する。
【0069】
制御装置70は、演算回路71、メモリ72、モータ駆動回路73Lおよび73Rを備える。演算回路71は、電動モータ60Lおよび60Rの動作を制御するとともに、電動車両1の各部の動作を制御する。メモリ72は、電動モータ60Lおよび60Rおよび電動車両1の各部の動作を制御するための手順を規定したコンピュータプログラムを格納している。演算回路71は、メモリ72からコンピュータプログラムを読み出して各種制御を行う。制御装置70には、バッテリ10から電力が供給される。
【0070】
アクセル操作子7は、乗員のアクセル操作量に応じた信号を演算回路71に出力する。舵角センサ81は、例えばヘッドチューブ22またはステアリングコラム26に設けられ、ステアリングコラム26の回転角に応じた信号を演算回路71に出力する。
【0071】
電動モータ60Lには、モータ回転センサ61Lが設けられている。モータ回転センサ61Lは、電動モータ60Lの回転角を検出し、回転角に応じた信号を演算回路71、モータ駆動回路73Lへ出力する。演算回路71、モータ駆動回路73Lは、モータ回転センサ61Lの出力信号から電動モータ60Lの回転速度を算出する。
【0072】
電動モータ60Rには、モータ回転センサ61Rが設けられている。モータ回転センサ61Rは、電動モータ60Rの回転角を検出し、回転角に応じた信号を演算回路71、モータ駆動回路73Rへ出力する。演算回路71、モータ駆動回路73Rは、モータ回転センサ61Rの出力信号から電動モータ60Rの回転速度を算出する。
【0073】
演算回路71は、アクセル操作子7の出力信号、舵角センサ81の出力信号、車両の走行速度、およびメモリ72に格納されている情報などから、適切な駆動力を発生させるための指令値を算出し、モータ駆動回路73Lおよび73Rへ送信する。演算回路71は、車両の走行状態に応じて、モータ駆動回路73Lおよび73Rに互いに異なる指令値を送信し得る。
【0074】
モータ駆動回路73Lおよび73Rは、例えばインバータである。モータ駆動回路73Lは、演算回路71からの指令値に応じた電力をバッテリ10から電動モータ60Lに供給する。モータ駆動回路73Rは、演算回路71からの指令値に応じた電力をバッテリ10から電動モータ60Lに供給する。電力が供給された電動モータ60Lおよび60Rが回転することで、後輪5Lおよび5Rは回転する。電動モータ60Lおよび60Rが減速機を備える場合は、それらの減速機を介して後輪5Lおよび5Rに回転が伝達される。
【0075】
演算回路71は、舵角センサ81の出力信号から、電動車両1が曲がる方向を検出することができる。電動車両1が左に曲がる場合は、後輪5Lの回転数が後輪5Rの回転数より小さくなるように、モータ駆動回路73Lおよび73Rに互いに異なる指令値を送信する。電動車両1が右に曲がる場合は、後輪5Rの回転数が後輪5Lの回転数より小さくなるように、モータ駆動回路73Lおよび73Rに互いに異なる指令値を送信する。後輪5Lと後輪5Rとの回転数の差は、ステアリングコラム26の回転角に応じて変化してもよい。例えば、ステアリングコラム26の回転角が大きい場合は、後輪5Lと後輪5Rとの回転数の差を大きくしてもよい。このように、左右の車輪の回転を独立に制御することで、電動車両1の旋回時の挙動の安定性を高めることができる。
【0076】
また、演算回路71は、後輪5Lおよび5Rの一方の空転を検出した場合は、空転した方の車輪の回転数を下げ、グリップ力が回復しやすいように制御を行ってもよい。
【0077】
上記の例では、電動車両1は舵角センサ81を備えていたが、電動車両1は舵角センサ81を備えていなくてもよい。その場合は、左右の電動モータ60Lおよび60Rの回転数の差から、旋回方向および旋回半径を推定してもよい。
【0078】
次に、電動車両1における前輪の前端位置および後輪の後端位置を説明する。
【0079】
図8は、電動車両1の側面図である。前後方向における前輪4Lおよび4Rの前端位置を破線94で示している。電動車両1における前輪以外の部分の前端位置を実線91で示している。前輪以外で最も前方に位置する部材は、例えば、ボディカバー34である。フレーム前部が露出している形態では、フレーム前部が前輪以外で最も前方に位置する部材であり得る。電動車両1がフロントバンパーおよび前カゴ等を備える形態では、それらの部材が前輪以外で最も前方に位置する部材であり得る。
【0080】
本実施形態では、前輪4Lおよび4Rの前端は、電動車両1の最も前方に位置している。すなわち、電動車両1における前輪以外の部分の前端位置よりも、前輪4Lおよび4Rの前端は、前方に位置している。前輪4Lおよび4Rが車両の最も前方に位置することにより、車両前方に位置する段差などの障害物に、前輪4Lおよび4Rより先にボディカバー34および車体フレーム2等が接触することを抑制することができる。例えば、前輪4Lおよび4Rの上端部以下の高さにおいて、電動車両1における前輪以外の部分の前端位置よりも、前輪4Lおよび4Rの前端は、前方に位置している。また、例えば、前輪4Lおよび4Rの回転軸以下の高さにおける前輪以外の部分の前端位置よりも、前輪4Lおよび4Rの前端は、前方に位置している。車両前方の障害物にサイズが大きい前輪4Lおよび4Rが先ず接触することにより、障害物を乗り越えやすくすることができる。例えば、比較的高い段差でも乗り越えることができる。
【0081】
図8は、前後方向における後輪5Lおよび5Rの後端位置を破線95で示している。電動車両1における後輪以外の部分の後端位置を実線92で示している。後輪以外で最も後方に位置する部材は、例えば、シート3である。電動車両1がその後方部にリアバンパーおよびカゴ等を備える形態では、それらの部材が後輪以外で最も後方に位置する部材であり得る。
【0082】
本実施形態では、後輪5Lおよび5Rの後端は、電動車両1の最も後方に位置している。すなわち、電動車両1における後輪以外の部分の後端位置よりも、後輪5Lおよび5Rの後端は、後方に位置している。後輪5Lおよび5Rが車両の最も後方に位置することにより、車両後方に位置する段差などの障害物に、後輪5Lおよび5Rより先に別の部分が接触することを抑制することができる。例えば、後輪5Lおよび5Rの上端部以下の高さにおいて、電動車両1における後輪以外の部分の後端位置よりも、後輪5Lおよび5Rの後端は、後方に位置している。また、例えば、後輪5Lおよび5Rの回転軸以下の高さにおける後輪以外の部分の後端位置よりも、後輪5Lおよび5Rの後端は、後方に位置している。車両後方の障害物にサイズが大きい後輪5Lおよび5Rが先ず接触することにより、障害物を乗り越えやすくすることができる。例えば、比較的高い段差でも乗り越えることができる。
【0083】
次に、フロントサスペンション40およびリアサスペンション50のストローク量を説明する。
【0084】
図9は、電動車両1の側面図である。図9(a)は、フロントサスペンション40およびリアサスペンション50が伸びきった状態における電動車両1を示している。サスペンションが伸びきった状態とは、車両および乗員の重量がサスペンションに掛かっていない状態を指す。サスペンションが伸びきった状態では、車輪はストロークの上下幅における下端に位置している。例えば、車体を宙につるし、サスペンションが下がりきった状態が、サスペンションが伸びきった状態に該当する。また、例えば、ショックアブソーバが物理的にそれ以上伸びない状態が、サスペンションが伸びきった状態に該当する。図9(b)は、乗員が乗車した状態における電動車両1を示している。図9(c)は、フロントサスペンション40およびリアサスペンション50がフルバンプ状態にあるときの電動車両1を示している。フルバンプ状態とは、サスペンションのショックアブソーバが最も縮んだ状態を指す。フルバンプ状態では、車輪はストロークの上下幅における上端に位置している。電動車両1の最低地上高を実線117で示している。フットボード8の上面108の高さを破線118で示している。電動車両1の最低地上高は、例えば、車体フレーム2の最も低い位置107の高さである。
【0085】
フロントサスペンション40が伸びきった状態(図9(a))にあるときの前輪4Lおよび4Rの回転軸(回転中心)104の高さは、電動車両1の最低地上高117以下である。フロントサスペンション40がフルバンプ状態(図9(c))にあるときの前輪4Lおよび4Rの回転軸104の高さは、フットボード8の上面108の高さ118以上である。このように、フロントサスペンション40のストローク量が大きいことにより、凹凸が激しい路面を走行したり段差を乗り越えたりするときに、安定した車両姿勢を維持しやすくできる。
【0086】
また、リアサスペンション50が伸びきった状態(図9(a))にあるときの後輪5Lおよび5Rの回転軸(回転中心)105の高さは、電動車両1の最低地上高117以下である。リアサスペンション50がフルバンプ状態(図9(c))にあるときの後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さは、フットボード8の上面108の高さ118以上である。このように、リアサスペンション50のストローク量が大きいことにより、凹凸が激しい路面を走行したり段差を乗り越えたりするときに、安定した車両姿勢を維持しやすくできる。
【0087】
次に、ピボット軸56の高さと後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さとの関係を説明する。
【0088】
図10は、リアサスペンション50がフルバンプ状態にある電動車両1の側面図である。後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さを一点鎖線115で示している。リアサスペンション50がフルバンプ状態にあるときのピボット軸56の中心116の高さは、後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さ115以上である。フルバンプ以外の状態において、ピボット軸56の中心116の高さは、後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さ115以上であることは言うまでもない。このように、ピボット軸56が後輪5Lおよび5Rの回転軸105よりも高い位置にあることにより、リアサスペンション50が後輪5Lおよび5Rを路面に押し付ける力を確保し、駆動力の路面への伝達ロスを低減させることができる。
【0089】
以上、本発明の例示的な実施形態を説明した。
【0090】
実施形態に係る電動車両1は、乗員が座るシート3と、乗員が腕を置くアームレスト31Lおよび31Rと、乗員が足を置くフットボード8と、前輪および後輪4L、4R、5Lおよび5Rを含む少なくとも四輪の車輪と、車輪のうちの少なくとも二輪を互いに独立して駆動する少なくとも二つの電動モータ60Lおよび60Rと、前輪4Lおよび4Rを支持する独立懸架のフロントサスペンション40と、後輪5Lおよび5Rを支持する独立懸架のリアサスペンション50とを備える。乗員が乗車していない状態で、独立懸架のフロントサスペンション40が有するアーム41L、41R、42Lおよび42Rには下反角がついている。
【0091】
実施形態に係る電動車両1は、独立懸架のフロントサスペンション40および独立懸架のリアサスペンション50を備えるとともに、少なくとも二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて少なくとも二輪を互いに独立して駆動する。これにより、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、駆動力を安定して路面に伝達することができる。また、車両の旋回性能を高めることができる。また、独立懸架のフロントサスペンション40が有するアーム41L、41R、42Lおよび42Rには下反角がついている。これにより、車両の最低地上高117を高くすることができるとともに、サスペンションのストローク量を大きくすることができる。本発明によれば、例えば、車両の未舗装路での走行性能を高めることができる。また、例えば、車両が段差を乗り越えやすくすることができる。
【0092】
ある実施形態によれば、電動車両1は、乗員が操舵を行うハンドル6と、乗員によるハンドル6の操作を前輪4Lおよび4Rに伝達する伝達経路に設けられたステアリングコラム26と、ステアリングコラム26が内部を通るヘッドチューブ22と、フロントサスペンション40の上部を取り付けるサスペンションタワー48Lおよび48Rとをさらに備えてもよい。サスペンションタワー48Lおよび48Rは、ヘッドチューブ22に設けられてもよい。
【0093】
サスペンションが取り付けられるフレーム部分には、サスペンションが路面から受けた衝撃が伝達されるため、高い強度が求められる。サスペンションタワーを車体フレームの左右端部付近に設けた場合、車幅方向の中心部から左右方向に延びるフレーム部分に高い強度を確保する必要があり、車体重量が大きくなる。本実施形態では、車幅方向の中心近傍に位置するヘッドチューブ22にサスペンションタワー48Lおよび48Rを設けることで、上記のような高い強度の左右方向に延びるフレーム部分が不要になり、車体重量を軽くすることができる。
【0094】
ある実施形態によれば、リアサスペンション50の上部54Lおよび54Rは、シート3に取り付けられてもよい。車体フレーム2にリアサスペンション50の上部54Lおよび54Rを取り付けるためのフレーム部分が不要になるため、車体構造をシンプルにすることができる。
【0095】
ある実施形態によれば、前輪4Lおよび4Rの前端は、電動車両1の最も前方に位置してもよい。これにより、車両前方に位置する段差などの障害物に、前輪4Lおよび4Rより先に車体フレームおよびボディカバー等が接触することを抑制できる。車両前方の障害物に先ず前輪4Lおよび4Rが接触することにより、障害物を乗り越えやすくすることができる。例えば、比較的高い段差でも乗り越えることができる。
【0096】
ある実施形態によれば、後輪5Lおよび5Rの後端は、電動車両1の最も後方に位置してもよい。これにより、車両後方に位置する段差などの障害物に、後輪5Lおよび5Rより先に車体フレームおよびボディカバー等が接触することを抑制できる。車両後方の障害物に先ず後輪5Lおよび5Rが接触することにより、障害物を乗り越えやすくすることができる。例えば、比較的高い段差でも乗り越えることができる。
【0097】
ある実施形態によれば、少なくとも二つの電動モータ60Lおよび60Rは、インホイールモータであってもよい。車両のボディ部分に電動モータおよび動力伝達機構を配置するスペースを確保する必要がなくなり、省スペース化を実現することができる。また、車両の左右方向に延びるドライブシャフトが不要であるため、サスペンションはドライブシャフトによる制約を受けない。また、インホイールモータを用いて各車輪の駆動力を互いに独立して制御することで、車両の走行性能を高めることができる。
【0098】
ある実施形態によれば、リアサスペンション50は、ピボット軸56が後輪5Lおよび5Rの回転軸105よりも前方に位置するトレーリングアーム式サスペンションであってもよい。これにより、リアサスペンション50のストローク量を大きくできる。また、車両後方の中心部付近にサスペンションのアームが位置しないことから、車両後方の中心部付近に空間を確保することができる。車両後方の中心部付近の空間は、例えば荷物置きとして利用することができる。荷物の収納スペースを確保した、走行性の高い電動車両1を実現できる。
【0099】
ある実施形態によれば、リアサスペンション50がフルバンプ状態にあるときのピボット軸56の高さは、後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さ以上であってもよい。これにより、リアサスペンション50がフルバンプ状態にあるときにおいても、リアサスペンション50が後輪5Lおよび5Rを路面に押し付ける力を確保し、駆動力の路面への伝達ロスを低減させることができる。
【0100】
ある実施形態によれば、フロントサスペンション40は、ダブルウィッシュボーン式サスペンションであってもよい。これにより、前輪4Lおよび4Rが上下動するときのキャンバー角の変化を少なくすることができ、前輪4Lおよび4Rの安定したグリップ力を確保するとともに、乗り心地を向上させることができる。
【0101】
ある実施形態によれば、ダブルウィッシュボーン式のフロントサスペンション40は、アッパーアーム41Lおよび41Rと、ロアアーム42Lおよび42Rと、ショックアブソーバ43Lおよび43Rとを有してもよい。ショックアブソーバ43Lおよび43Rは、アッパーアーム41Lおよび41Rに取り付けられてもよい。これにより、ステアリングシステムのナックルアーム47Lおよび47Rと、ショックアブソーバ43Lおよび43Rとの干渉を抑制することができる。前輪4Lおよび4Rの切れ角を大きくでき、車両の最小回転半径を小さくすることができる。
【0102】
ある実施形態によれば、フロントサスペンション40が伸びきった状態にあるときの前輪4Lおよび4Rの回転軸104の高さは、電動車両1の最低地上高117以下であり、フロントサスペンション40がフルバンプ状態にあるときの前輪4Lおよび4Rの回転軸104の高さは、フットボード8の上面の高さ118以上であってもよい。フロントサスペンション40のストローク量が大きいことにより、凹凸が激しい路面を走行したり段差を乗り越えたりするときに、安定した車両姿勢を維持しやすくできる。
【0103】
ある実施形態によれば、リアサスペンション50が伸びきった状態にあるときの後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さは、電動車両1の最低地上高117以下であり、リアサスペンション50がフルバンプ状態にあるときの後輪5Lおよび5Rの回転軸105の高さは、フットボード8の上面の高さ118以上であってもよい。リアサスペンション50のストローク量が大きいことにより、凹凸が激しい路面を走行したり段差を乗り越えたりするときに、安定した車両姿勢を維持しやすくできる。
【0104】
ある実施形態によれば、電動車両1はハンドル形電動車椅子であってもよい。これにより、走行性能を高めたハンドル形電動車椅子が実現され、ハンドル形電動車椅子に乗った乗員の行動範囲を広げることができる。
【0105】
以上、本発明の実施形態を説明した。上述の実施形態の説明は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。また、上述の実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせた実施形態も可能である。本発明は、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、改変、置き換え、付加および省略などが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、ハンドル形電動車椅子等の一人乗り電動車両の分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0107】
1:一人乗り電動車両(ハンドル形電動車椅子)、 2:車体フレーム、 3:シート、 4L、4R:前輪、 5L、5R:後輪、 6:ハンドル、 7:アクセル操作子、 8:フットボード、 10:バッテリ、 21:ダウンチューブ、 22:ヘッドチューブ、 23:フレーム前部、 24:フレーム底部、 25:フレーム後部、 26:ステアリングコラム、 31L、31R:アームレスト、 32:背もたれ、 33:シートフレーム、 34:ボディカバー、 35:フロントガード、 36:フロントキャリア、 40:フロントサスペンション、 41L、41R:アッパーアーム、 42L、42R:ロアアーム、 43L、43R:ショックアブソーバ、 44L、43R:ショックアブソーバ上部、 45L、45R:ショックアブソーバ下部、 46L、46R:タイロッド、 47L、47R:ナックルアーム、 48L、48R:サスペンションタワー、 49:ピットマンアーム、 50:リアサスペンション、 51L、51R:トレーリングアーム、 53L、53R:ショックアブソーバ、 54L、54R:ショックアブソーバ上部、 55L、55R:ショックアブソーバ下部、 56:ピボット軸、 57:スタビライザ、 60L、60R:電動モータ(インホイールモータ)、 61L、61R:モータ回転センサ、 70:制御装置(MCU)、 71:演算回路、 72:メモリ、 73L、73R:モータ駆動回路、 81:舵角センサ、 91:車体の前端位置、 92:車体の後端位置、 94:前輪の前端位置、 95:後輪の後端位置、 104:前輪の回転軸、 105:後輪の回転軸、 107:車体フレームの最も低い位置、 108:フットボード上面、 115:後輪の回転軸の高さ、 116:ピボット軸の中心の高さ、 117:最低地上高、 118:フットボード上面の高さ
図1
図2
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図5
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図7
図8
図9
図10