(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】鉄含有輸液剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20221206BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/401 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/661 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20221206BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20221206BHJP
A61K 33/18 20060101ALI20221206BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20221206BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20221206BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20221206BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20221206BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221206BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221206BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221206BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20221206BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20221206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K9/08
A61K31/198
A61K31/375
A61K31/401
A61K31/405
A61K31/4172
A61K31/661
A61K31/7004
A61K31/7016
A61K33/18
A61K33/24
A61K33/30
A61K33/32
A61K33/34
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/36
A61P3/02
A61P3/02 107
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2018183927
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 文子
(72)【発明者】
【氏名】田辺 拓也
(72)【発明者】
【氏名】福島 聖子
(72)【発明者】
【氏名】北條 智行
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/047302(WO,A1)
【文献】特開2006-117586(JP,A)
【文献】特開2003-212767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/26
A61K 9/08
A61K 31/198
A61K 31/375
A61K 31/401
A61K 31/405
A61K 31/4172
A61K 31/661
A61K 31/7004
A61K 31/7016
A61K 33/18
A61K 33/24
A61K 33/30
A61K 33/32
A61K 33/34
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/36
A61P 3/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンドロイチン硫酸・鉄コロイドと、アスコルビン酸またはその塩と、グリセロリン酸塩と、乳酸またはその塩と、酢酸、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、
前記アスコルビン酸またはその塩の含有量が100~200mg/Lであり、乳酸イオンの含有量が20
mEq/Lを超えて38mEq/L
以下であり、酢酸イオンの含有量が40mEq/L以下であり、コハク酸イオンの含有量が45mEq/L以下である、鉄含有輸液剤。
【請求項2】
コンドロイチン硫酸・鉄コロイドと、アスコルビン酸またはその塩と、グリセロリン酸塩と、乳酸またはその塩と、酢酸、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、
前記アスコルビン酸またはその塩の含有量が100~200mg/Lであり、乳酸イオンの含有量が20mEq/Lを超えて38mEq/L以下であり、酢酸イオンの含有量が40mEq/L以下であり、コハク酸イオンの含有量が45mEq/L以下であり、
用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つに前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液が収容され、前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液が収容された室とは異なる室に前記アスコルビン酸またはその塩を含む液が収容され、
前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液と前記アスコルビン酸またはその塩を含む液との混合液を、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下である、鉄含有輸液剤。
【請求項3】
前記乳酸イオンの含有量が、23~38mEq/Lである、請求項1または2に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項4】
システイン、アセチルシステインおよび亜硫酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の還元性物質をさらに含む、請求項1
~3のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項5】
酢酸イオンの含有量が25mEq/L以下である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項6】
クエン酸イオンの含有量が45mEq/L以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項7】
コハク酸イオンの含有量が25mEq/L以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項8】
成人1人に対する1日あたりの鉄元素の投与量が0.1~2mgとなる量で、前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項9】
マンガン化合物、亜鉛化合物、銅化合物、ヨウ素化合物およびセレン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の微量元素化合物をさらに含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項10】
糖、電解質およびアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種の栄養輸液剤成分をさらに含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項11】
用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つに前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび前記微量元素化合物を含む液が収容され、前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび前記微量元素化合物を含む液が収容された室とは異なる室に前記栄養輸液剤成分を含む液が収容されている、請求項
9に記載の鉄含有輸液剤。
【請求項12】
前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび前記微量元素化合物を含む液と前記栄養輸液剤成分を含む液との混合液を、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下である、請求項11に記載の鉄含有輸液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄含有輸液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、ヘモグロビン合成、全身の細胞の酸化還元反応、分裂、増殖に関与する必須の微量金属である。しかし、鉄が過剰になると、フェントン反応により毒性の強いヒドロキシラジカルを産生し、DNAの損傷やアポトーシスを誘導する。そのため、鉄代謝は数多くの関連分子により巧妙に制御されている(非特許文献1)。
【0003】
鉄は1日に1mg程度が上部消化管から吸収されて血液中に入り、トランスフェリンと結合して全身に運搬されるが、体内で利用される鉄のほとんどは網内系による赤血球ヘモグロビン鉄の再利用によりまかなわれる。赤血球の寿命は平均120日であり、1日あたり20mgの鉄が網内系マクロファージでヘモグロビンから取り出され、生体内で唯一の鉄輸送蛋白であるフェロポルチンを介して再び血液中に入り再利用される(非特許文献2)。
【0004】
ヘプシジン-25は21世紀初めに発見されたペプチドホルモンで、ヘプシジン-25・フェロポルチン系により鉄代謝を負に制御している。
【0005】
フェロポルチンは、網内系マクロファージ、上部小腸粘膜上皮細胞、肝細胞などに存在する鉄輸送膜蛋白であって、ヘプシジン-25の受容体である。フェロポルチンはヘプシジン-25と結合すると細胞内部へ移行し、ライソゾームでヘプシジンとともに分解される。分解により減少したフェロポルチンが新たに合成されるのに2~3日を要するため、その間はフェロポルチンの膜分布密度が低下し、細胞からの鉄放出が減少する。
【0006】
ヘプシジン-25は炎症や鉄負荷などにより誘導されるが、血清ヘプシジン-25濃度が持続的に高値であると、鉄の利用が阻害されて赤血球合成に鉄を利用できない機能性鉄欠乏状態となり貧血を発現することが知られている(非特許文献3)。
【0007】
高カロリー輸液療法施行時には、ビタミンおよび微量元素の補給のために総合ビタミン剤および微量元素製剤を高カロリー輸液剤に配合して投与する。
【0008】
微量元素製剤中の鉄は、遊離鉄による副作用を避け、さらに水酸化第二鉄の粗大分子の沈澱生成を防止するために、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドの形態にして輸液剤中に配合されている(非特許文献4、5)。
【0009】
近年、高カロリー輸液剤に鉄を含む微量元素製剤を配合すると、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから鉄が経時的に解離することが報告されている(非特許文献6、7)。コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する成分としては、還元性物質であるアスコルビン酸、システインおよび亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる(非特許文献8、9)。
【0010】
コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから解離した遊離鉄を含む輸液剤を静脈内に投与すると、ヘプシジン-25を誘導し、鉄の利用を阻害する危険がある(非特許文献6、10、11)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】「Iron Over loadと鉄キレート療法」、p25-33(2007)
【文献】「血液フロンティア」、21(6)、p23-30(2011)
【文献】「血液フロンティア」、21(6)、p31-39(2011)
【文献】「医薬ジャーナル」、28(5)、p83-88(1992)
【文献】「医薬品インタビューフォーム、高カロリー輸液用微量元素製剤.エレジェクト注」
【文献】「外科と代謝・栄養」、48(5)、p149-157(2014)
【文献】「外科と代謝・栄養」、51(6)、p355-367(2017)
【文献】「日病薬誌」、33(4)、p57-60(1997)
【文献】「薬事59」(臨時増刊)、p169-172(2008)
【文献】「日本臨床栄養学会誌」、36(1)、p40-45(2014)
【文献】「日本臨床栄養学会誌」、36(4)、p202-205(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高カロリー輸液療法におけるビタミン必要量は、1975年に米国医師会からガイドラインが示され、アスコルビン酸の推奨量は1日あたり100mgであったが、その後、2000年に米国食品医薬品局によって1日あたり200mgに改訂されている。通常、高カロリー輸液剤は成人に対して1日あたり2L投与されることから、高カロリー輸液剤中のアスコルビン酸濃度は100mg/Lとなる。
【0013】
アスコルビン酸は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する成分の一つであることから、高カロリー輸液剤中のアスコルビン酸の含有量が多くなると、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから鉄がより解離しやすい環境となる。解離した遊離鉄を多量に含む輸液剤を投与すると、ヘプシジン-25を誘導し鉄の利用が阻害される。
【0014】
また、高カロリー輸液剤には、アスコルビン酸とともに、一般にシステイン、アセチルシステイン、亜硫酸塩などの還元性物質が配合されており、これらの還元性物質もコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する。
【0015】
このように、高カロリー輸液剤には、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長する様々な物質が配合されている。現状では、高カロリー輸液剤に鉄を含む微量元素製剤を混合した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制される鉄含有輸液剤は開示されていない。さらに、鉄の解離を抑制することで、ヘプシジン-25の誘導を回避しつつ、患者に鉄を補給できる鉄含有輸液剤は開示されていない。
【0016】
上記の点から、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を輸液剤1L中に100mg以上含有しながら、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制できる鉄含有輸液剤の開発が求められている。
【0017】
したがって、本発明の目的は、高濃度(輸液1Lあたり100mg以上)のアスコルビン酸を含有しながら、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離が抑制される鉄含有輸液剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、アスコルビン酸を輸液剤1Lあたり100~200mg含有する鉄含有輸液剤に、グリセロリン酸塩および所定量の乳酸またはその塩を添加し、さらに有機酸(酢酸、クエン酸または/およびコハク酸)を添加したものが、共存するコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を大幅に抑制できることを見いだした。
【0019】
したがって、本発明の一態様は以下のとおりである:
(1)コンドロイチン硫酸・鉄コロイドと、アスコルビン酸またはその塩と、グリセロリン酸塩と、乳酸またはその塩と、酢酸、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、前記アスコルビン酸またはその塩の含有量が100~200mg/Lであり、乳酸イオンの含有量が20~38mEq/Lであり、酢酸イオンの含有量が40mEq/L以下であり、コハク酸イオンの含有量が45mEq/L以下である、鉄含有輸液剤。
【0020】
また、本発明の他の態様は、以下のとおりである:
(2)システイン、アセチルシステインおよび亜硫酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の還元性物質をさらに含む、前記(1)に記載の鉄含有輸液剤;
(3)酢酸イオンの含有量が25mEq/L以下である、前記(1)または(2)に記載の鉄含有輸液剤;
(4)クエン酸イオンの含有量が45mEq/L以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の鉄含有輸液剤;
(5)コハク酸イオンの含有量が25mEq/L以下である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の鉄含有輸液剤;
(6)成人1人に対する1日あたりの鉄元素の投与量が0.1~2mgとなる量でコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含有する、前記(1)~(5)のいずれかの鉄含有輸液剤;
(7)マンガン化合物、亜鉛化合物、銅化合物、ヨウ素化合物およびセレン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の微量元素化合物をさらに含む、前記(1)~(6)のいずれかに記載の鉄含有輸液剤;
(8)糖、電解質およびアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種の栄養輸液剤成分をさらに含む、前記(1)~(7)のいずれかに記載の鉄含有輸液剤;
(9)用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つに前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液が収容され、前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液が収容された室とは異なる室に前記アスコルビン酸またはその塩を含む液が収容されている、前記(1)~(8)のいずれかに記載の鉄含有輸液剤;
(10)前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液と前記アスコルビン酸またはその塩を含む液との混合液を、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下である、前記(9)に記載の鉄含有輸液剤;
(11)用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つに前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび前記微量元素化合物を含む液が収容され、前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび前記微量元素化合物を含む液が収容された室とは異なる室に前記栄養輸液剤成分を含む液が収容されている、前記(8)に記載の鉄含有輸液剤;および
(12)前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび前記微量元素化合物を含む液と前記栄養輸液剤成分を含む液との混合液を、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下である、前記(11)に記載の鉄含有輸液剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鉄含有輸液剤は、高濃度(輸液剤1L中100mg以上)のアスコルビン酸を含有しながら、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る鉄含有輸液剤は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドと、アスコルビン酸またはその塩と、グリセロリン酸塩と、乳酸またはその塩と、酢酸、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、前記アスコルビン酸またはその塩の含有量が100~200mg/Lであり、乳酸イオンの含有量が20~38mEq/Lであり、酢酸イオンの含有量が40mEq/L以下であり、コハク酸イオンの含有量が45mEq/L以下である。
【0023】
本発明の一実施形態に係る鉄含有輸液剤は、高濃度(輸液剤1L中100mg以上)のアスコルビン酸を含有しながら、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離が抑制される。具体的には、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下と低い。ゆえに、解離した鉄によるヘプシジン-25の誘導を防ぐことができ、それによって患者の体内における鉄の利用を促進することができる。
【0024】
また、本発明の一実施形態に係る鉄含有輸液剤は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離が抑制されるため、解離した鉄によるヘプシジン-25の誘導が抑制される。これにより、網内系に鉄が過剰に蓄積せず、さらに細胞内の自由鉄の濃度の増加が抑制される。この結果、ヒドロキシラジカルの産生が抑制され、DNAの損傷やアポトーシスの誘導が抑制される。
【0025】
さらに、本発明の一実施形態に係る鉄含有輸液剤は、輸液剤1Lあたりアスコルビン酸を100~200mgという高濃度で含有しているため、アスコルビン酸(ビタミンC)による抗酸化作用、免疫機能の向上作用、コラーゲンの生成作用、カルシウムの吸収および代謝作用、糖の代謝作用、アレルギー反応で生じるヒスタミンの放出抑制作用、ストレスを軽減するホルモンの生成作用などを効果的に発揮させることができる。
【0026】
以下に、本発明の実施形態に係る鉄含有輸液剤(以下、輸液剤とも称する)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。
【0027】
[コンドロイチン硫酸・鉄コロイド]
コンドロイチン硫酸・鉄コロイド(以下、鉄コロイドとも称する)としては、合成品、市販品のいずれを使用してもよい。鉄コロイドを合成する場合には、公知の合成方法を採用することができ、例えば、コンドロイチン硫酸エステルの溶液に、鉄化合物と水酸化ナトリウムとを交互に添加する方法などが挙げられる。
【0028】
鉄コロイドの合成に使用される鉄化合物としては、生体に対して安全でかつ水などの液体に溶解する鉄化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
【0029】
鉄化合物の具体例としては、塩化第二鉄、クエン酸第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄などの第二鉄塩を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、使用実績の豊富な点から、塩化第二鉄が好ましく用いられる。
【0030】
鉄コロイドの合成に使用されるコンドロイチン硫酸エステルは、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩の形態であってもよい。鉄コロイドの形成に際し、コンドロイチン硫酸エステルの使用量は、液中に含まれる鉄元素1質量部に対して、4質量部以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の鉄含有輸液剤におけるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドの含有量は、成人1人に対する1日あたりの鉄元素の投与量が0.1~2(2.0)mgとなる量であることが好ましく、0.1~1.5mgとなる量であることがより好ましく、0.1~1.2mgとなる量であることがさらに好ましい。
【0032】
鉄含有輸液剤におけるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドの含有量が、成人一人1日あたりの鉄元素の投与量が2.0mg以下であれば、鉄が過剰とならず、フェリチンまたはヘモジデリンとして体内に蓄積される心配がない。一方、鉄含有輸液剤におけるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドの含有量が、成人一人1日あたりの鉄元素の投与量が0.1mg以上であれば、患者への十分な鉄補給が達成される。
【0033】
[アスコルビン酸(塩)]
本発明の鉄含有輸液剤は、アスコルビン酸(好ましくは、L-アスコルビン酸すなわちビタミンC)またはその塩(以下、アスコルビン酸(塩)とも称する)を、鉄含有輸液剤1Lあたり100~200mgの量で含有する。
【0034】
鉄含有輸液剤1Lあたりのアスコルビン酸(塩)の含有量が100mg未満であると、上述したようなアスコルビン酸の作用が発揮されにくくなる。一方、鉄含有輸液剤1Lあたりのアスコルビン酸(塩)の含有量が200mgを超えると、必要量を超えるために利用されずに排泄される。
【0035】
ここで、「鉄含有輸液剤1Lあたり」とは、患者に投与される時点での鉄含有輸液剤の全量(合計量)に基づく1Lあたりの含有量である。すなわち、鉄含有輸液剤が複数の室に区画された複室型容器に収容されており、複数の室に収容されている液や成分を混合して患者に投与する場合には、混合後の液全体1Lあたりの含有量をいう。また、本明細書において、「g/L」、「mg/L」または「mEq/L」の単位を用いて表される含有量も、上記と同様の含有量を意味する。
【0036】
[グリセロリン酸塩]
本発明の鉄含有輸液剤は、リンの供給源として、グリセロリン酸塩を含有する。従来の輸液剤には、リンの供給源として、リン酸二水素カリウムやリン酸二カリウムが配合されているが、本発明者らは、これらがコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長することを見出した。具体的に、グリセロリン酸塩の代わりにリン酸二水素カリウムを使用した場合は、短時間で(具体的には、保存24時間後で)コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから多量の鉄が解離する(後述の比較例3、4参照)。
【0037】
グリセロリン酸塩としては、生体に対して安全で一般の注射剤などに用いられるグリセロリン酸塩を使用することができる。具体例としては、グリセロリン酸二カリウムなどのグリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸二ナトリウムなどのグリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カルシウム、グリセロリン酸マグネシウムなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
中でも、グリセロリン酸塩としては、使用実績の豊富な点から、グリセロリン酸カリウム(グリセロリン酸二カリウム)が好ましく用いられる。
【0039】
本発明の鉄含有輸液剤におけるグリセロリン酸塩の含有量は、リンの補給およびコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離の防止の点から、鉄含有輸液剤1Lあたり、1~10g(リンとして約63~625mg)であることが好ましく、1~8g(リンとして約63~500mg)であることがより好ましく、1~5g(リンとして約63~313mg)であることがさらにより好ましく、1~2g(リンとして約63~125mg)であることが特に好ましい。
【0040】
グリセロリン酸塩の含有量が10g/L以下の場合には、リンの投与量が適度となり、エネルギー代謝や骨代謝が円滑になる。一方、グリセロリン酸塩の含有量が1g/L以上の場合には、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離の防止効果が十分に発揮される。また、リンの投与量が十分となり、患者への十分なリンの補給が達成される。
【0041】
[乳酸(塩)]
本発明の鉄含有輸液剤は、乳酸またはその塩(以下、乳酸(塩)とも称する)を含む。グリセロリン酸塩と乳酸またはその塩とを組み合わせることで、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離の防止効果において有利となる。
【0042】
乳酸塩としては、例えば、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウムなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、使用実績が豊富な観点から、乳酸ナトリウムが好ましい。
【0043】
本発明の鉄含有輸液剤において、乳酸イオンの含有量は、20~38mEq/L(輸液剤1Lあたり20~38mEq)である。乳酸イオンの含有量が20mEq/L未満または38mEq/Lを超える場合には、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから鉄が解離しやすくなる(後述の比較例1~6)。コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離をより防止する観点から、乳酸またはその塩の含有量は、好ましくは35mEq/L以下であり、より好ましくは30mEq/L以下である。
【0044】
輸液剤には通常、代謝されて重炭酸イオンとなるアルカリ化剤(乳酸イオン、酢酸イオン等)が28mEq/L以上配合されている。乳酸イオンの含有量を20~38mEq/Lとし、後述する有機酸を適宜配合することで、鉄解離に悪影響を及ぼすおそれなく、28mEq/L以上のアルカリ化剤の配合を達成することが可能である。
【0045】
[有機酸]
本発明の鉄含有輸液剤は、酢酸、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む。かような有機酸を用いてpHを調整することで、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離の防止効果においてさらに有利となる。ここで、例えば、酢酸を含むとは、輸液剤中で解離した形態を含む概念である。すなわち、本発明の鉄含有輸液剤は、酢酸、クエン酸およびコハク酸からなる群より選択される少なくとも1種由来のイオンを含む。
【0046】
本発明の鉄含有輸液剤において、酢酸イオンの含有量は、40mEq/L以下である。酢酸イオンの含有量が40mEq/Lを超えると、短時間で(具体的には、保存24時間後で)コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから多量の鉄が解離する(後述の比較例7参照)。コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離をより防止する観点から、酢酸イオンの含有量は、好ましくは35mEq/L以下であり、より好ましくは30mEq/L以下であり、さらにより好ましくは25mEq/L以下であり、特に好ましくは20mEq/L以下である(下限:0mEq/L)。ここで、酢酸イオンの含有量には、酢酸塩由来の酢酸イオンの含有量を含めるものとする。
【0047】
本発明の鉄含有輸液剤において、クエン酸イオンの含有量は、好ましくは45mEq/L以下である(下限:0mEq/L)。クエン酸イオンの含有量が45mEq/L以下であると、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離の防止効果が良好となる。ここで、クエン酸イオンの含有量には、クエン酸塩由来のクエン酸イオンの含有量を含めるものとする。
【0048】
本発明の鉄含有輸液剤において、コハク酸イオンの含有量は、45mEq/L以下である。コハク酸イオンの含有量が45mEq/Lを超えると、短時間で(具体的には、保存24時間後で)コンドロイチン硫酸・鉄コロイドから多量の鉄が解離する(後述の比較例8参照)。コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離をより防止する観点から、コハク酸イオンの含有量は、好ましくは40mEq/L以下であり、より好ましくは35mEq/L以下であり、さらにより好ましくは30mEq/L以下であり、特に好ましくは25mEq/L以下である(下限:0mEq/L)。ここで、コハク酸イオンの含有量には、コハク酸塩由来のコハク酸イオンの含有量を含めるものとする。
【0049】
本発明の一実施形態において、鉄含有輸液剤は、酢酸、クエン酸およびコハク酸を含む場合には、各イオンの含有量を上記範囲内とすることが好ましい。かような形態の場合には、経時の鉄の解離率を低く抑えることができる。ゆえに、長期保存しても、解離鉄による影響を抑えることができると考えられる。
【0050】
[還元性物質]
本発明の鉄含有輸液剤は、有効成分の安定性を図る観点から、システイン、アセチルシステインおよび亜硫酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の還元性物質をさらに含有することが好ましく、システインおよびアセチルシステインの少なくとも一方と、亜硫酸塩とを含有することがより好ましく、アセチルシステインおよび亜硫酸塩を含有することがさらにより好ましい。
【0051】
システインおよびアセチルシステインの含有量(両者を含有する場合は合計含有量)は、鉄含有輸液剤1Lあたり0.05~2.0gであることが好ましく、0.1~1.0gであることがより好ましく、0.2~0.5gであることがさらにより好ましい。
【0052】
亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウムなどが挙げられる。中でも、使用実績が豊富な観点から、亜硫酸水素ナトリウムが好ましい。亜硫酸塩の含有量は、鉄含有輸液剤1Lあたり、0.01~0.5gであることが好ましく、0.01~0.03gであることがより好ましく、0.01~0.02gであることがさらにより好ましい。
【0053】
[栄養輸液剤成分]
本発明の鉄含有輸液剤は、糖、電解質およびアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種の栄養輸液剤成分をさらに含むことが好ましい。
【0054】
(糖)
本発明の鉄含有輸液剤は、患者に熱量を投与する観点から、糖をさらに含有することが好ましい。糖の含有量は、患者に十分な熱量を投与する観点から、鉄含有輸液剤1Lあたり、50~250gであることが好ましく、60~250gであることがより好ましく、100~200gであることがさらにより好ましい。
【0055】
糖としては、生体内でカロリー源として代謝・利用されるものであれば特に制限されず、具体例としては、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マルトース、グリセロールなどを挙げられ、これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。中でも、エネルギー源として最も生体に利用されやすいため、グルコース(ブドウ糖)が好ましい。
【0056】
(電解質)
本発明の鉄含有輸液剤は、高カロリー輸液療法における電解質補給の観点から、電解質をさらに含有することが好ましい。電解質の含有量は、鉄含有輸液剤1Lあたり、1~5gが好ましい。
【0057】
電解質としては、一般の電解質輸液などに用いられる化合物と同様のものを使用することができ、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、塩化物、リン酸塩などが挙げられる。電解質の具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウムなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらは水和物であってもよい。
【0058】
(アミノ酸)
本発明の鉄含有輸液剤は、輸液用のアミノ酸溶液製剤として十分な機能を発揮させるために、アミノ酸(システインを除く)をさらに含有することが好ましい。アミノ酸の含有量(全アミノ酸の合計量)は、鉄含有輸液剤1Lあたり、10~60gであることが好ましく、15~50gであることがより好ましく、20~40gであることがさらにより好ましい。
【0059】
アミノ酸としては、従来から生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に含有されている各種アミノ酸(必須アミノ酸、非必須アミノ酸)が挙げられる。具体的には、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、グリシン、L-アラニン、L-プロリン、L-アスパラギン酸、L-セリン、L-チロシン、L-グルタミン酸などが例示される。これらのアミノ酸は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いられる必要はなく、無機酸塩(たとえば、L-リジン塩酸塩、L-リジン亜硫酸塩など)、有機酸塩(たとえば、L-リジン酢酸塩、L-リジンリンゴ酸塩など)、生体内で加水分解可能なエステル体(たとえば、L-チロシンメチルエステル、L-メチオニンメチルエステル、L-メチオニンエチルエステルなど)、N-置換体(たとえば、N-アセチル-L-トリプトファン、N-アセチル-L-システイン、N-アセチル-L-プロリンなど)などの形態で用いてもよい。また、同種または異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(たとえば、L-チロシル-L-チロシン、L-アラニル-L-チロシン、L-アルギニル-L-チロシン、L-チロシル-L-アルギニンなど)などの形態で用いてもよい。特に、上記アミノ酸の全てを含有させると、輸液用のアミノ酸溶液製剤として十分な機能を有するようになる。なお、本明細書において、システインは、還元性物質に分類するものとする。
【0060】
[微量元素化合物]
本発明の鉄含有輸液剤は、マンガン化合物、亜鉛化合物、銅化合物、ヨウ素化合物およびセレン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の微量元素化合物をさらに含有してもよい。かような微量元素化合物をさらに含有することで、高カロリー輸液療法において微量元素を補給することができる。
【0061】
マンガン化合物としては、例えば、塩化マンガン、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、塩化マンガンが好ましい。
【0062】
亜鉛化合物としては、例えば、硫酸亜鉛、塩化亜鉛などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、硫酸亜鉛が好ましい。
【0063】
銅化合物としては、例えば、硫酸銅、塩化銅などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、硫酸銅が好ましい。
【0064】
ヨウ素化合物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。
【0065】
セレン化合物としては、例えば、亜セレン酸、亜セレン酸ナトリウムなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0066】
本発明の鉄含有輸液剤における微量元素化合物の含有量は、成人1人に対する1日あたりの元素の投与量が、それぞれ以下の範囲内であることが好ましい:
マンガン 0.01~0.3mg、特に0.02~0.2mg
亜鉛 0.5~10.0mg、特に1.0~8.0mg
銅 0.01~2.0mg、特に0.05~1.0mg
ヨウ素 0.01~1.0mg、特に0.05~0.3mg
セレン 0.005~0.2mg、特に0.01~0.1mg。
【0067】
[添加剤]
本発明の鉄含有輸液剤は、必要に応じて、水溶性ビタミン(例えば、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2、ビタミンB6(ピリドキシン等)、ビオチン、ビタミンB12、ニコチン酸アミド、パントテン酸、葉酸など)、脂溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなど)の1種または2種以上をさらに含有することができる。各ビタミンの含有量は、従来からの高カロリー輸液剤において採用されている同程度の量とすることができる。上記ビタミンは、塩や誘導体の形態であってもよい。
【0068】
本発明の鉄含有輸液剤は、必要に応じて、脂肪乳剤をさらに含有することができる。脂肪乳剤としては、例えば、大豆油等の植物油を生理的に許容し得る適当な乳化剤を用いて水中油滴型(O/W型)のエマルジョンとしたもの等が挙げられる。
【0069】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、他のpH調整剤、可溶剤、安定剤等、輸液剤に通常使用される公知の添加剤をさらに含有することができる。可溶剤としては、ポリソルベート80、ポリソルベート20等が挙げられる。
【0070】
[製造方法]
本発明の鉄含有輸液剤は、特に制限されないが、例えば、上記のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドと、アスコルビン酸(塩)と、グリセロリン酸塩と、乳酸(塩)と、酢酸、クエン酸および/またはコハク酸と、を混合することによって得られる。具体的には、上記のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドと、アスコルビン酸(塩)と、グリセロリン酸塩と、乳酸(塩)と、酢酸、クエン酸および/またはコハク酸と、必要に応じて他の成分とを、一括または順次に混合することによって得ることができる。混合温度および混合時間は適宜調節することができ、混合手段は公知のものを使用することができる。
【0071】
[物性]
本発明の鉄含有輸液剤のpHは、好ましくは4.5~7.5であり、より好ましくは4.5~7.0であり、さらにより好ましくは4.5~6.5である。
【0072】
本発明の鉄含有輸液剤は、当該輸液剤の成人1人に対する1日あたりの投与総熱量が500~2000kcalであることが好ましく、600~1500kcalであることがより好ましい。
【0073】
[収容形態]
本発明の鉄含有輸液剤は、1室に収容された形態(1室型)であってもよいし、複数の室に分けて収容された形態(複室型)であってもよい。
【0074】
本発明の一実施形態に係る鉄含有輸液剤は、用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有す複室型容器の1つにコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液が収容され、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液が収容された室とは異なる室に、アスコルビン酸またはその塩を含む液が収容されていることが好ましい。かような収容形態とすることで、アスコルビン酸による鉄コロイドからの鉄の解離をより防止し、輸液剤を長期にわたって安定に保存することができる。
【0075】
上記実施形態において、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含む液とアスコルビン酸またはその塩を含む液との混合液を、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下であることが好ましい。ここで、鉄の解離率は、後述の実施例に記載した方法で算出される値である。なお、複室型である輸液剤は、通常、混合後48時間以内に投与されるため、48時間で鉄の解離の防止効果が担保されていればよい。
【0076】
本発明の輸液剤に上記微量元素化合物を含有させる場合には、粗大粒子の沈澱生成を防ぐ観点から、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含有する液に配合するとよい。
【0077】
本発明の輸液剤に上記還元性物質を含有させる場合には、還元性物質を含む液は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドを含有する液を収容した室とは異なる室に収容することが好ましい。かような収容形態とすることで、還元性物質による鉄コロイドからの鉄の解離を防止し、長期にわたって鉄コロイドを安定に保存することができる。
【0078】
また、本発明の一実施形態に係る鉄含有輸液剤は、用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器に収容されており、複数の室の1つにコンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび微量元素化合物を含む液が収容され、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび微量元素化合物を含む液が収容された室とは異なる室に栄養輸液剤成分を含む液が収容されていることが好ましい。かような収容形態とすることで、栄養輸液剤成分による鉄コロイドからの鉄の解離をより防止し、輸液剤を長期にわたって安定に保存することができる。
【0079】
上記の実施形態において、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドおよび微量元素化合物を含む液と栄養輸液剤成分を含む液との混合液を、波長450nm以下の光を遮断した遮光状態で室温下に48時間保存した際に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が40%以下であることが好ましい。ここで、鉄の解離率は、後述の実施例に記載した方法で算出される値である。
【0080】
本発明の鉄含有輸液剤が複室型である場合において、栄養輸液剤成分は、1室に収容されていても、複数の室に分けて収容されていてもよい。メイラード反応の進行を防ぐ観点から、糖とアミノ酸は分けて収容されていることが好ましい。
【0081】
用時に剥離可能な隔壁によって区画された複数の室を有する複室型容器は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマーなどの1種または2種以上よりなる単層または複層のシートまたはフィルムを用いて、従来から知られている方法で複室型バッグ状容器などにして製造することができる。
【0082】
容器への充填、収容は常法に従って行うことができ、例えば、輸液剤を不活性ガス雰囲気下で充填し、施栓し、加熱滅菌する方法が挙げられる。加熱滅菌方法は、高圧蒸気滅菌、熱水滅菌、熱水シャワー滅菌などの公知の方法を適宜採用することができる。また、滅菌方法の操作条件、例えば、滅菌時間、滅菌温度などは通常の滅菌操作条件などと同様のものとすることができる。さらに、上記加熱滅菌は、必要に応じて窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
【0083】
さらに、本発明の輸液剤の酸化などの変質を確実に防止するために、輸液剤を収容した容器を脱酸素剤とともに実質的に酸素を透過しない外装容器で包装することができる。この際、輸液剤を収納する容器の材質としてガス透過性を有するプラスチックを用いることが好ましい。脱酸素剤としては、公知の各種のものが使用できる。例えば、水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄などの鉄化合物を有効成分とするものを利用できる。市販品としてはエージレス(三菱ガス化学(株)製)、モジュラン(日本化薬(株)製)およびセキュール(日本曹達(株)製)などが挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明は以下のこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
なお、以下の実施例において、グリセロリン酸カリウムはグリセロリン酸二カリウムであり、リンゴ酸リジンはL体(すなわちL-リジンリンゴ酸塩)である。
【0086】
《実施例1》
(1)注射用水にブドウ糖とともに、下記の表1の溶液Aの欄に記載されている電解質、ビタミン類を溶解し、乳酸ナトリウムおよび氷酢酸を添加し、ろ過を行い、表に示す溶液A(pH4.5)を調製した。
【0087】
(2)注射用水にアミノ酸とともに下記の表1の溶液Bの欄に記載されているリボフラビンリン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸、リン化合物としてグリセロリン酸カリウム50%液、亜硫酸水素ナトリウムを溶解し、クエン酸水和物とコハク酸でpH6.5に調整した後、ろ過を行い、表に示す溶液Bを調製した。
【0088】
(3)レチノールパルミチン酸エステル、エルゴカルシフェロール、トコフェロール酢酸エステル、フィトナジオンをポリソルベート80およびポリソルベート20に溶解して脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を調製した。注射用水に、シアノコバラミン、葉酸、ビオチンおよびD-ソルビトールを溶解し、これに前記で調製した脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を加えて攪拌混合し、クエン酸水和物と水酸化ナトリウムを添加してpHを6.0に調整し、ろ過を行い、表1に示す溶液Cを調製した。
【0089】
(4)注射用水にコンドロイチン硫酸エステルナトリウムを溶解し、塩化第二鉄六水和物の水溶液と水酸化ナトリウムを交互に加えて、コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液を調製した。コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液に塩化マンガン四水和物、硫酸銅五水和物、硫酸亜鉛七水和物およびヨウ化カリウムを加え、水酸化ナトリウムでpH5.8に調整し、ろ過を行い表1に示す溶液Dを調製した。
【0090】
(5)用時に剥離可能な隔壁によって4つの室に仕切られたポリプロピレン製の4室型容器(バッグ)を準備し、第1室に溶液Aを693mL充填し、第2室に溶液Bを300mL充填し、第3室に溶液Cを3mL充填し、第4室に溶液Dを4mL充填して、高カロリー輸液剤を製造した。
【0091】
(6)上記(5)で得られた高カロリー輸液入りバッグを常法に従い高圧蒸気滅菌した後、脱酸素剤とともに酸素非透過性の外包材で包装して、実施例1の高カロリー輸液剤を得た。
【0092】
《実施例2》
実施例1と同様にして、表1の実施例2の欄に記載されている溶液A、B、CおよびDを調製し、それぞれの溶液を用時に剥離可能な隔壁により仕切られた4室型の溶液(バッグ)のそれぞれに充填した後、常法に従い高圧蒸気滅菌し、脱酸素剤とともに酸素非透過性の外包材で包装して実施例2の高カロリー輸液剤を製造した。
【0093】
【0094】
実施例1、2で得られた高カロリー輸液剤のそれぞれについて、バッグを外方から押圧して隔壁を剥離させて、4つの室に充填した溶液A~Dの全てを混合させた後、遮光カバー(波長450nmの光の透過性が約1%、波長600nm以上の光の透過性が約50%)を装着して室温下に24時間および48時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を[コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率]に示した方法で求めた。
【0095】
《比較例1》
表2の比較例1の欄に示す成分組成を有する液(注射用水にて全量を900mLに調整)を0.22μmメンブランフィルターでろ過し、これを輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した後、直ちに遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nmの光の透過率が約50%)を装着した。室温下に24時間および48時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を[コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率]に示した方法で求めた。
【0096】
《比較例2》
表2の比較例2の欄に示す成分組成を有する液を輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した後、比較例1と同様にコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0097】
《比較例3》
表3の比較例3の欄に示す成分組成を有する液を比較例1と同様に製造し、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0098】
《比較例4》
表3の比較例4の欄に示す成分組成を有する液を輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した後、比較例1と同様に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0099】
《比較例5》
表4の比較例5の欄に示す成分組成を有する液を輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した後、比較例1と同様に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0100】
《比較例6》
表4の比較例6の欄に示す成分組成を有する液を輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した後、比較例1と同様に、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0101】
[コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率]
(i)総鉄濃度の測定:
実施例1、2、比較例1~6で得られた、室温下に48時間保存する前の輸液剤について、チオグリコール酸を添加した後、60℃に加温してコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからすべての鉄を解離させ、ニトロソ-PSAP法にて総鉄濃度(CA)を測定した。
【0102】
(ii)非コロイド鉄濃度の測定:
室温下に遮光カバーを装着した状態で24時間および48時間保存した輸液剤を遠心式フィルターユニット「Amicon Ultra-4(30K)」を使用して、5000xgで30分間遠心ろ過し、それにより得られたろ液を用いて、ニトロソ-PSAP法にて非コロイド鉄濃度(CB)を測定した。
【0103】
(iii)コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率の算出:
下記の数式(I)により、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率(鉄の解離率)を求めた。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
《試験結果1》
実施例1~2および比較例1~6の輸液剤について、鉄の解離率の結果を表5に示す。表5中、輸液剤1Lあたりの乳酸イオン(表5中、乳酸)、酢酸イオン(表5中、酢酸)、クエン酸イオン(表5中、クエン酸)、コハク酸イオン(表5中、コハク酸)の含有量(mEq/L)をそれぞれ示す。
【0109】
実施例1の輸液剤(リン配合形態がグリセロリン酸二カリウムであり、乳酸23mEq/L、酢酸5.8mEq/L、クエン酸10.05mEq/L、コハク酸2.6mEq/Lを含有する)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では25.8%、48時間保存では28.0%であった;
実施例2の輸液剤(リン配合形態がグリセロリン酸二カリウムであり、乳酸28mEq/L、酢酸6.8mEq/L、クエン酸10.05mEq/L、コハク酸8.8mEq/Lを含有する)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では24.6%、48時間保存では28.6%であった;
比較例1の輸液剤(リン配合形態がグリセロリン酸二カリウムであり、乳酸を含有せず、酢酸28mEq/L、クエン酸0.07mEq/Lを含有する)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では28.8%、48時間保存では45.2%と高値であった;
比較例2の輸液剤(比較例1の組成に大豆油を配合した)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では31.4%、48時間保存では47.8%と高値であり、大豆油の有無によって影響は受けない;
比較例3の輸液剤(リン配合形態がリン酸二水素カリウムであり、乳酸が11mEq/L、酢酸が39mEq/L、クエン酸が8mEq/Lである)は、混合後24時間保存すると鉄の解離率は86.1%、48時間保存では97.5%と高値であった;
比較例4の輸液剤(リン配合形態がリン酸二水素カリウムであり、乳酸が14mEq/L、酢酸が48mEq/L、クエン酸が12mEq/Lである)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では78.2%、48時間保存では95.8%と高値であった。
【0110】
比較例5の輸液剤(リン配合形態がグリセロリン酸二カリウムであり、乳酸が40mEq/L、酢酸が0.07mEq/L、クエン酸が5.7mEq/L、コハク酸が1.1mEq/Lである)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では34.3%、48時間保存では50.5%と高値であった。
【0111】
比較例6の輸液剤(リン配合形態がグリセロリン酸二カリウムであり、乳酸が40mEq/L、酢酸が16.1mEq/L、クエン酸が13.3mEq/L、コハク酸が1.0mEq/Lである)は、混合後の鉄の解離率は、24時間保存では33.2%、48時間保存では52.1%と高値であった。
【0112】
すなわち、実施例1および実施例2について、鉄の解離率は、24時間保存時で30%以下であり、48時間保存時も40%以下であり、24時間保存時から48時間保存時の増加分も2.2%および4.0%と低値であった。一方、乳酸(塩)を含有しない場合(比較例1~2)や、グリセロリン酸二カリウムの代わりにリン酸二水素カリウムを使用し、かつ乳酸イオンの含有量が20mEq/L未満である場合(比較例3~4)には、24時間保存時の鉄の解離率は実施例1および実施例2と比較して高値であり、48時間保存時はさらに高値となり、24時間保存時から48時間保存時の増加分も11.4%~17.6%と高値であった。乳酸イオンの含有量が38mEq/Lを超える(40mEq/Lである)場合(比較例5、6)には、24時間保存時の鉄の解離率は実施例1および実施例2と比較して高値であり、48時間保存時はさらに高値となり、24時間保存時から48時間保存時の増加分も16.2%~18.9%と高値であった。
【0113】
【0114】
《実施例3》
(1)注射用水にブドウ糖とともに、下記の表6の溶液Aの欄に記載されている電解質、ビタミン類を溶解し、ろ過を行い、表に示す溶液A(pH4.5)を調製した。
【0115】
(2)注射用水にアミノ酸とともに下記の表6の溶液Bの欄に記載されているリボフラビンリン酸エステルナトリウム、アスコルビン酸、リン化合物としてグリセロリン酸カリウム50%液、亜硫酸水素ナトリウムを溶解し、ろ過を行い、表に示す溶液Bを調製した。
【0116】
(3)レチノールパルミチン酸エステル、エルゴカルシフェロール、トコフェロール酢酸エステル、フィトナジオンをポリソルベート80およびポリソルベート20に溶解して脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を調製した。注射用水に、シアノコバラミン、葉酸、ビオチンおよびD-ソルビトールを溶解し、これに前記で調製した脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を加えて攪拌混合し、水酸化ナトリウムを添加して、ろ過を行い、表6に示す溶液Cを調製した。
【0117】
(4)注射用水にコンドロイチン硫酸エステルナトリウムを溶解し、塩化第二鉄六水和物の水溶液と水酸化ナトリウムを交互に加えて、コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液を調製した。コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液に塩化マンガン四水和物、硫酸銅五水和物、硫酸亜鉛七水和物およびヨウ化カリウムを加え、水酸化ナトリウムを添加して、ろ過を行い表6に示す溶液Dを調製した。
【0118】
溶液A、B、CおよびDを混合し、氷酢酸を加えてpHを6とした後、注射用水にて全量を1000mLに調整し、これを輸液バッグ(1室型)に無菌的に充填して、輸液剤中の全成分が混合された状態にある輸液剤を製造した。直ちに遮光カバー(波長450nmの光の透過率が約1%、波長600nmの光の透過率が約50%)を装着した。室温下に24時間および48時間保存した時点でのコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を[コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率]に示した方法で求めた。
【0119】
《実施例4》
クエン酸水和物を加えてpH6とした以外は実施例3と同様に、表6の実施例4の欄に示す成分組成を有する液を製造し、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
た。
【0120】
《実施例5》
クエン酸水和物を加えてpH5とした以外は実施例3と同様に、表6の実施例5の欄に示す成分組成を有する液を製造し、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0121】
《実施例6》
コハク酸を加えてpH6とした以外は実施例3と同様に、表6の実施例6の欄に示す成分組成を有する液を製造し、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0122】
《比較例7》
氷酢酸を加えてpH5とした以外は実施例3と同様に、表6の比較例7の欄に示す成分組成を有する液を製造し、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0123】
《比較例8》
コハク酸を加えてpH5とした以外は実施例3と同様に、表6の比較例8の欄に示す成分組成を有する液を製造し、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率を求めた。
【0124】
【0125】
《試験結果2》
鉄の解離率の結果を表7に示す。表7中、輸液剤1Lあたりの乳酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオンの含有量(mEq/L)をそれぞれ示す。
【0126】
実施例3の輸液剤(乳酸28mEq/L、酢酸20mEq/Lを含有する)の鉄の解離率は、24時間保存では25.4%、48時間保存では33.2%であった;
実施例4の輸液剤(乳酸28mEq/L、クエン酸18mEq/Lを含有する)の鉄の解離率は、24時間保存では17.1%、48時間保存では25.5%であった;
実施例5の輸液剤(乳酸28mEq/L、クエン酸41mEq/Lを含有する)の鉄の解離率は、24時間保存では26.9%、48時間保存では33.5%であった;
実施例6の輸液剤(乳酸28mEq/L、コハク酸22mEq/Lを含有する)の鉄の解離率は、24時間保存では23.0%、48時間保存では31.4%であった;
比較例7の輸液剤(乳酸28mEq/L、酢酸41mEq/Lを含有する)の鉄の解離率は、24時間保存では44.3%、48時間保存では53.1%と高値であった;
比較例8の輸液剤(乳酸28mEq/L、コハク酸49mEq/Lを含有する)の鉄の解離率は、24時間保存では39.6%、48時間保存では48.0%と高値であった。
【0127】
すなわち、酢酸イオンの含有量が40mEq/Lを超える場合(比較例7)やコハク酸イオンの含有量が45mEq/Lを超える場合(比較例8)には、実施例3~6に比べて、24時間保存後の鉄の解離率が高かった。
【0128】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の鉄含有輸液剤は、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を助長するアスコルビン酸を輸液剤1Lあたり100~200mgという高濃度で含有しているにも拘わらず、コンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離率が低い。このため、解離した鉄によるヘプシジン-25の誘導を防ぐことができ、それによって患者における鉄の利用を促進することができる。
【0130】
さらに、本発明の鉄含有輸液剤は、輸液剤1Lあたりアスコルビン酸を100~200mgという高濃度で含有しているため、アスコルビン酸(ビタミンC)による抗酸化作用、免疫機能の向上作用、コラーゲンの生成作用、カルシウムの吸収と代謝作用、糖の代謝作用、アレルギー反応で生じるヒスタミンの放出抑制作用、ストレスを軽減するホルモンの生成作用などを効果的に発揮させることができるため、輸液剤として有用である。
【0131】
本発明の鉄含有輸液剤は、微量元素として鉄の補給が必要な静脈栄養施行患者に対して投与することができる。また、本発明の鉄含有輸液剤は、高カロリー輸液剤中におけるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドからの鉄の解離を抑制することで、解離した遊離鉄によるヘプシジン誘導を回避して、鉄代謝を阻害することなく患者に鉄を補給することができる。