(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】光励起磁気センサ用セルモジュール
(51)【国際特許分類】
G01R 33/26 20060101AFI20221206BHJP
G01R 33/032 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01R33/26
G01R33/032
(21)【出願番号】P 2018189913
(22)【出願日】2018-10-05
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 統久
(72)【発明者】
【氏名】須山 本比呂
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213285(JP,A)
【文献】国際公開第2012/120732(WO,A1)
【文献】特表2006-515216(JP,A)
【文献】特開2009-236599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/26
G01R 33/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射されたプローブ光を導く光導波部と前記プローブ光を反射するミラーとを備えた光励起磁気センサに用いられるセルモジュールであって、
アルカリ金属が封入されたセルと、
前記セルに近接して配置されて、前記アルカリ金属を加熱する加熱部と、
前記セルと前記加熱部とを収容する減圧領域を形成する収容部と、を備
え、
前記収容部は、前記光導波部から前記プローブ光を受け入れる第1の窓穴と、前記第1の窓穴から受け入れられて前記セルを通過した前記プローブ光が通過する第2の窓穴と、を有し、
前記第1の窓穴は、前記光導波部によって閉鎖され、
前記第2の窓穴は、前記ミラーによって閉鎖されている、光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項2】
前記減圧領域は、真空領域である、請求項1に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項3】
前記加熱部は、前記セルの外面と熱的に結合されるとともに、前記収容部の内面と離間するように配置される、請求項1又は2に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項4】
前記収容部の内面と前記セルの外面とが離間するように前記収容部内において前記セルを支持する支持部をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項5】
前記セルは、所定の軸線方向に延びる形状を有し、前記軸線方向の一端側において磁気入射部を含むとともに、前記軸線方向の他端側において前記支持部に支持される、請求項4に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項6】
前記収容部の内面と前記セルの外面との間に配置された断熱部材をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項7】
前記断熱部材は、前記セルの外面からの輻射熱を反射する輻射熱反射部材である、請求項6に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項8】
前記収容部は、所定の軸線方向に延びる矩形の筒状部材であり、
前記収容部は、前記所定の軸線方向と直交する第1の方向において互い対面する第1の側面及び第2の側面を含み、
前記収容部の前記第1の側面には、前記第1の窓穴が設けられ、
前記収容部の前記第2の側面には、前記第2の窓穴が設けられている、請求項1に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項9】
前記収容部は、前記第1の方向と直交する第2の方向において互いに対面する第3の側面及び第4の側面と、をさらに含み、
前記収容部の前記第3の側面には、第3の窓穴が設けられ、
前記第3の窓穴は、前記光導波部である第1の光導波部とは別の第2の光導波部であって、前記アルカリ金属を励起するためのポンプ光を導く前記第2の光導波部によって閉鎖されている、請求項8に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【請求項10】
前記収容部の前記第4の側面に向き合う前記セルの側面には、前記加熱部が設けられ、ている、請求項9に記載の光励起磁気センサ用セルモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光励起磁気センサ用セルモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光ポンピングを利用する光励起磁気センサは、微小な磁気を測定する磁気センサである。光励起磁気センサは、超伝導量子干渉計(superconducting quantum interference device, SQUID)に代わる新たな磁気測定の技術として注目されている。例えば、特許文献1は、光ポンピングを利用した磁気センサを開示する。この磁気センサは、いわゆるポラリメータ型検出器の構成を採用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光励起磁気センサは、光ポンピングによりスピン偏極した蒸気状のアルカリ金属の原子(アルカリ金属蒸気)が磁気の影響を受けると、それらのスピン偏極がトルクを受けて回転し、向きが変わる(回転角が変化する)ことを利用する。このようなアルカリ金属蒸気は、セル内に封入されたアルカリ金属を加熱することにより得る。スピン偏極の向き(回転角)の変化は、セル内のアルカリ金属蒸気にプローブ光を照射することにより得られる。
【0005】
磁気の強さは、測定対象までの距離が大きくなるにつれて、指数関数的に減衰する。従って、磁気測定の感度の向上のためには、光励起磁気センサ(少なくともセル)は、測定対象にできるだけ近づけることが望ましい。一方、上記のように、光励起磁気センサにおいて、磁気を測定可能な状態とするためには、セル内にアルカリ金属蒸気を生じさせるために、アルカリ金属が気化するような高い温度までセルを加熱する必要がある。そして、測定対象としては、例えば生体や、高温下では特性が変化するもの等、温度条件に制限があるようなものも存在する。つまり、測定対象によっては、セルを測定対象に近接させるのが困難であるため、高感度な磁気測定が困難な場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、多様な測定対象に対して、高感度な磁気測定を可能とする光励起磁気センサ用セルモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態である光励起磁気センサ用セルモジュールは、アルカリ金属が封入されたセルと、セルに近接して配置されて、アルカリ金属を加熱する加熱部と、セルと加熱部とを収容する減圧領域を形成する収容部と、を備える。
【0008】
このセルモジュールは、アルカリ金属が封入されたセルと、当該アルカリ金属を加熱する加熱部とを備えている。そして、セル及び加熱部は、減圧領域を形成する収容部に収容されている。この配置によれば、セル及び加熱部が減圧領域に配置されているので、それらが発する熱が収容部に移動し難くなる。つまり、減圧領域によってセル及び加熱部の高温を断熱することで、収容部の温度上昇を抑制し、光励起磁気センサ用セルモジュール(セル)を測定対象に近接させることができる。従って、多様な測定対象に対して、高感度な磁気測定を行うことができる。
【0009】
上記の光励起磁気センサ用セルモジュールにおいて、減圧領域は、真空領域であってもよい。このような減圧領域によれば、セル及び加熱部からの熱がさらに収容部に移動し難くなる。
【0010】
上記の光励起磁気センサ用セルモジュールにおいて、加熱部は、セルの外面と熱的に結合されるとともに、収容部の内面と離間するように配置されてもよい。このような配置によれば、加熱部からの熱は、確実にセルに与えられるとともに収容部には移動し難くなる。
【0011】
上記の光励起磁気センサ用セルモジュールは、収容部の内面とセルの外面とが離間するように収容部内においてセルを支持する支持部をさらに備えてもよい。この支持部によれば、セルから収容部への熱の移動がさらに抑制される。
【0012】
上記の光励起磁気センサ用セルモジュールにおいて、セルは所定の軸線方向に延びる形状を有し、軸線方向の一端側において磁気入射部を備えるとともに、軸線方向の他端側において支持部に支持されてもよい。この支持部によれば、磁気入射部の熱が支持部を介して収容部へ移動することを抑制することができる。つまり、磁気入射部は高温に保ちつつ、測定対象に近い領域の収容部の温度上昇を抑制することができる。
【0013】
上記の光励起磁気センサ用セルモジュールは、収容部の内面とセルの外面との間に、断熱部材を備えてもよい。この断熱部材により、セルから収容部への熱の移動がさらに抑制される。
【0014】
上記の光励起磁気センサ用セルモジュールにおいて、断熱部材は、セルの外面からの輻射熱を反射する輻射熱反射部材であってもよい。減圧領域における熱の移動に関しては、セルの外面から収容部の内面への輻射も大きな要因の一つとなっている。そこで、断熱部材として、輻射熱反射部材を用いることにより、セルから収容部への輻射による熱移動をさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多様な測定対象に対して、高感度な磁気測定を可能とする光励起磁気センサ用セルモジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、セルモジュールを光励起磁気センサに適用する場合の構成例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の光励起磁気センサが備えるセルの断面を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、ポンプ光とプローブ光との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1に示すように、光励起磁気センサ1は、セルモジュール5を有する。セルモジュール5は、その内部にセル2を収容している。セル2は、アルカリ金属と封入ガスを収容している。アルカリ金属蒸気は、ポンプ光源(不図示)からポンプ光が照射されることにより、所定のスピン状態を形成する。この状態が、磁気測定が可能な状態である。そして、プローブ光源(不図示)から、アルカリ金属蒸気に対してスピン偏極の向きの変化(回転角の変化)を検出するためのプローブ光が、互いに異なる2か所の測定領域のそれぞれに照射される。このような構成によれば、光励起磁気センサ1は、いわゆるグラジオメータ型のセンサを構成する。そして、光検出部(不図示)によって、検出した光の強度に応じた電気信号を出力する。この電気信号を情報処理装置(不図示)などにより処理することにより、測定対象における磁気に関する情報を得ることができる。
【0019】
〔セルモジュール〕
光励起磁気センサ1は、アルカリ金属を加熱して気化させ、アルカリ金属蒸気を生成するためのヒータ14(
図1参照)をセル2に取り付けている。つまり、セル2の温度は、ヒータ14によって高温になる。光励起磁気センサ1において、セル2内のアルカリ金属蒸気密度は、磁気の検出感度に対応する。具体的には、磁気の検出感度を高めるためには、アルカリ金属蒸気密度を高める必要がある。そして、アルカリ金属蒸気密度を高めるためには、アルカリ金属蒸気の温度が高温(好ましくは200℃以上)となるように、アルカリ金属をヒータ14によって加熱する必要が生じる。
【0020】
図1に示すように、光励起磁気センサ1において、セルモジュール(光励起磁気センサ用セルモジュール)5は、セル2と、ヒータ(加熱部)14と、ケース(収容部)43と、を有する。
【0021】
セル2は、例えばガラス製の封入容器であり、その内部にアルカリ金属(アルカリ金属蒸気)及び封入ガスを収容する。セル2については、後に詳細に説明する。
【0022】
ヒータ14は、セル側面2b(外面、
図3参照)に取り付けられ、熱的に結合されている。また、後述するケース本体44の内面44Kと離間するように配置されている。なお、セル側面2bは、ポンプ光が入射される面であるセル側面2a(
図3参照)に対向する面である。ヒータ14は、セル2を加熱することでセル2内に収容されたアルカリ金属を加熱して気化させ、セル2内にアルカリ金属蒸気を生成する。つまり、セル2の温度は、ヒータ14によって高温になる。光励起磁気センサ1において、セル2内のアルカリ金属蒸気密度は、磁気の検出感度に対応する。具体的には、磁気の検出感度を高めるためには、アルカリ金属蒸気密度を高める必要がある。よって、アルカリ金属蒸気密度を高めるために、アルカリ金属蒸気の温度が高温(好ましくは200℃以上)となるように、アルカリ金属をヒータ14によって加熱する。また、アルカリ蒸気密度は、ヒータ14によって温度を制御することにより制御することができる。
【0023】
ケース43は、略矩形の筒状部材であり、その内部に略直方体状の内部空間44fを形成するケース本体44と、内部空間44fを封止する蓋46と、を有する。ケース43は、ケース本体44と蓋46とにより封止された内部空間44fにより減圧領域44Sを形成する。ケース43は、いわゆる減圧容器であり、内部の圧力は、大気圧よりも低く、例えば真空領域である。そうすると、セル2及びヒータ14の熱は、ケース43に移動しにくくなるので、セル2を高温状態に加熱及び維持しながら、ケース43の温度上昇を抑制できる。このような真空断熱構造によれば、セル2の周囲に断熱材を巻き付ける構成に対して、小型化することが可能である。さらに、ヒータ14により供給された熱が逃げにくくなるので、所定の温度に維持するためにヒータ14へ提供する電力を低減することができる。ケース本体44は、減圧及び封止作業に用いる真空引き用の排気口47及び封止蓋48を有する。これらの構成によれば、測定対象への近接配置を可能としつつ、セル2を高温とすることによる検出感度の向上も可能とすることができる。
【0024】
ケース本体44は、セラミック等の非磁性材料により構成され、減圧領域44Sを構成する内部空間44fと、開口44Tと、を有する。ケース本体44において、後述するセル2の一端側(先端側)に設けられた磁気入射部12Aが配置される一端側は閉鎖されている。開口44Tは、ケース本体44の他端側に設けられている。この開口44Tから、セル2及びヒータ14が内部に挿入される。ケース本体44の開口は、蓋46によって封止されている。
【0025】
さらに、ケース本体44は、6つの窓穴を有する。
図1に示すように、ケース本体44の先端側には、窓穴44a、44b、44e(
図3参照)が設けられる。また、ケース本体44の基端側には、窓穴44c、44dが設けられる。なお、基端側には、さらにもう一つの窓穴が設けられるが、当該窓穴については図示を省略する。これらの窓穴44a、44b、44c、44d、44eは、ポンプ光及びプローブ光をケース本体44の内部に導き、セル2に提供するためのものである。窓穴44a、44dは、ケース側面5cに設けられる。窓穴44b、44cは、ケース側面5aと対向する面であるケース側面5dに設けられる。窓穴44eは、ケース側面5cとケース側面5dとを接続する面であって、ケース側面5c及びとケース側面5dと略垂直に交わる面であるケース側面5aに設けられる。
【0026】
蓋46は、いわゆるインターポーザであり、シール材49を介してケース本体44に固定される。蓋46は、ヒータ14に給電線を介して電力を供給するための端子51を有する。蓋46もケース本体44と同様に、非磁性材料により構成されている。
【0027】
減圧領域44S(内部空間44f)の大きさは、セル2の外形寸法よりも大きい。つまり、セル2を減圧領域44Sに収めると、セル2と、ケース本体44の内面44Kとの間が離間し、セル2の周囲を囲むような隙間が設けられる。減圧領域44Sは、減圧空間であるので、輻射による熱移動が支配的であり、熱伝達及び熱伝導による熱移動はごくわずかである。これらの隙間によれば、セル2からケース本体44への熱移動を抑制することができる。
【0028】
セルモジュール5は、上述したように、セル2とケース本体44との間の隙間を確保するように、セル2を支持する支持部52を有する。支持部52は、例えば、セル2の外形に合わせた環状部材でもよいし、ケース本体44に一体形成され、その内面44Kから突出する突起でもよい。支持部52の形状は、その断面が円形であってもよいし、矩形であってもよいし、三角形であってよいし、半円状であってもよいが、セル2と接触する部分の面積をできるだけ小さくするのが好ましい。例えば、支持部52は、セルの軸線方向に水平な方向での断面において、セル2との接触領域の断面積が、ケース本体44の内面44K側の領域の断面積以下の(より好ましくは小さい)形状を有したり、セル2に対して複数の突起で点接触してもよい。その結果、支持部52を介したセル2からケース本体44への熱移動を抑制することができる。さらに、支持部52は、後述するセル2の他端側(基端側)、つまりセル2の磁気入射部12Aに対して離間した方の端部側においてセル2を支持するよう、ケース本体44の他端側(開口44Tの近傍)に設けられている。その結果、磁気入射部12Aの熱が支持部52を介してケース本体44へ移動することを抑制することができる。つまり、磁気入射部12A(磁気入射部12Aに隣接するセル2の内部空間である測定領域16A)は高温に保ちつつ、測定対象に近い領域であるケース本体44の一端側(先端側)の温度上昇を抑制することができる。また、支持部52は、セル2の加熱温度のような高温環境下においても安定な材料(例えば溶融したり、ガスを発生しないような材料)で構成するのが好ましく、さらに、セル2の熱膨張を吸収できるような弾性を備えた材料で構成すると、より好ましい。
【0029】
ケース本体44の内面44Kには、輻射熱反射膜(断熱部材)53が設けられている。この輻射熱反射膜53は、セル2からケース本体44への熱移動をさらに低減させるものである。輻射は、互いに対面する面と面との間で生じる。そこで、輻射熱反射膜53は、セル2の外面と対面するケース本体44の内面44Kに、セル2の外面及びヒータ14と離間した状態で設けられている。輻射熱反射膜53は、例えば、非磁性の金属膜を採用してよい。なお、輻射熱反射膜53は、必要に応じて設けることとしてもよいが、セル2におけるヒータ14が配置された領域に関しては、可能な限り広い範囲を包囲するように設けるのが好ましい。なお、本実施形態においては、セル2におけるヒータ14が配置された領域のうち、支持部52に対応する領域に関しては設けられていないが、当該領域やさらに他端側(基端側)におけるケース本体44の内面44Kにも輻射熱反射膜53を設けてもよい。
【0030】
さらに、輻射熱反射膜53は、ケース本体44の窓穴44a、44b、44c、44d、44eのそれぞれに対応する窓穴53a、53b、53c、53d、53eを有する。つまり、窓穴53aは、窓穴44aと連通する。窓穴53bは、窓穴44bと連通する。
窓穴53cは、窓穴44cと連通する。窓穴53dは、窓穴44dと連通する。窓穴53eは、窓穴44eと連通する。なお、輻射熱反射膜53がポンプ光及びプローブ光を透過するような光学特性を備えている場合、窓穴53a、53b、53c、53d、53eは設けなくてもよい。
【0031】
また、第1図及び第3図を参照して、ポンプ光およびプローブ光の光路に関して説明する。ポンプ光源(不図示)から出射されたポンプ光は柱状の光学部材からなる光導波部22に入射され、光導波部22に設けられた図示しない光学系によって第1ポンプ光17Aと第2ポンプ光(不図示)とに分割され、それぞれセル2内へと照射され、アルカリ金属蒸気を励起する。一方、プローブ光源(不図示)から出射されたプローブ光は図示しない光学系によって第1プローブ光26Aと第2プローブ光26Bとに分割され、それぞれ柱状の光学部材からなる光導波部29A、29Bを通過し、セル2内へと照射される。そして、セル2内へ入射した第1プローブ光26A及び第2プローブ光26Bは、アルカリ金属蒸気を通過することで磁気情報を取得しながら、それぞれ反射部であるミラー37A及びミラー37Bで反射され、再度、光導波部29A、29Bに入射し、光検出部(不図示)まで導かれる。より具体的には、光導波部22は、ケース側面5a上に固定され、第1ポンプ光17Aは、窓穴44e、窓穴53e及び減圧領域44Sを通過して、セル側面2aからセル2内の測定領域16Aへと照射される。一方、光導波部29Aは、ケース側面5c上に固定され、第1プローブ光26Aは、窓穴44a、窓穴53a及び減圧領域44Sを通過して、セル側面2cからセル2内の測定領域16Aへと照射される。また、セル側面2dから出射された、磁気情報を取得した第1プローブ光26Aは、減圧領域44S、窓穴53b、窓穴44bを通過して、ミラー37Aで反射され、同じ経路を逆行して、再度、光導波部29Aに入射し、光検出部(不図示)まで導かれる。同様に、光導波部29Bは、ケース側面5d上に固定され、第2プローブ光26Bは、窓穴44c、窓穴53c及び減圧領域44Sを通過して、セル側面2dからセル2内へと照射される。また、セル側面2cから出射された、磁気情報を取得した第2プローブ光26Bは、減圧領域44S、窓穴53d、窓穴44dを通過して、ミラー37Bで反射され、同じ経路を逆行して、再度、光導波部29Bに入射し、光検出部(不図示)まで導かれる。
【0032】
このようなセルモジュール5によれば、光励起磁気センサ1を測定対象への近接配置を可能としつつ小型化することが可能であり、さらに、セル2を高温とすることによる検出感度の向上も可能とすることができる。
【0033】
〔セル〕
図2に示すように、セル2は、アルカリ金属(アルカリ金属蒸気)及び封入ガスを密封する空間を形成するガラス基体8を有する。
【0034】
本実施形態においてアルカリ金属は、カリウム(K)である。また、カリウム以外にも、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)を採用してもよく、これらを複数種類含んでもよい。なお、原子番号の小さなアルカリ金属ほど高感度化には好ましいため、封入されるアルカリ金属はカリウムを含むことが好ましい。
【0035】
封入ガスは、アルカリ金属蒸気を制御するために用いられる。封入ガスとしては、不活性ガスが好ましい。例えば、不活性ガスの原料として、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、窒素(N2)、水素(H2)を採用してよく、これらの混合ガスでもよい。封入ガスは、アルカリ金属原子との反応性が低く、原子番号の小さな原子ほど好適であるので、封入ガスとしてヘリウムを含むことが好ましい。封入ガスの封入圧力は、0.1atm~4atm程度が好ましい。
【0036】
ガラス基体8の材料として、例えば、石英、サファイア、シリコン、コバールガラス、ホウケイ酸ガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)を採用してよい。特に、コバールガラスは、パイレックス(登録商標)ガラスと比較すると、ヘリウム(He)の透過係数が一桁低い。従って、厚さを薄くでき、小型化に資する。このような材料によれば、磁気測定のための光(ポンプ光及びプローブ光)を良好に透過して、内部のアルカリ金属蒸気に好適に提供することができる。
【0037】
ガラス基体8は、筒状のガラス本体部12と、封じ切り部13と、を有する。ガラス本体部12は、所定の軸線方向に延びる略直方体状の筒形状を呈し、その軸線に対して垂直な方向での断面は一例として正方形である。ガラス本体部12の一端(先端)は平面であり、測定対象に対向する磁気入射部12Aとなる。ガラス本体部12の他端(基端)には、封じ切り部13が形成されている。
【0038】
ここで、
図3を参照しながら、第1ポンプ光17Aと第1プローブ光26Aとの関係について説明する。
図3に示すように、第1ポンプ光17Aは、ケース側面5aに設けられた光導波部22から出射される。第1ポンプ光17Aは、セル側面2aの法線方向に進む。そして、第1ポンプ光17Aは、ヒータ14が設けられた、逆側のセル側面2bに至る。第1ポンプ光17Aは、測定領域16Aにおけるアルカリ金属蒸気を励起できればよい。従って、セル2は、一つの測定領域16Aに対して、第1ポンプ光17Aを入射する一つの入力部を有していればよい。
【0039】
第1プローブ光26Aは、ケース側面5cに設けられた光導波部29Aから出射される。ケース側面5cは、ケース側面5a、5bに対して直交する。換言すると、ケース側面5a、5cの間の角度は、直角である。第1プローブ光26Aは、セル側面2cの法線方向に進む。そうすると、ケース側面5a、5cは互いに直交しているので、第1ポンプ光17Aの進行方向及び第1プローブ光26Aの進行方向も互いに直交する。測定領域16Aを通過した第1プローブ光26Aは、ケース側面5dに設けられたミラー37Aに至り、反射される。つまり、第1プローブ光26Aは、測定領域16Aにおけるアルカリ金属蒸気を通過して磁気情報を取得した後に、ミラー37Aで反射され、再び測定領域16Aにおけるアルカリ金属蒸気を通過して、再度、磁気情報を取得した後、光導波部29Aに戻る。従って、セル2は、一つの測定領域16Aに対して、第1プローブ光26Aを受け入れる入力面と、第1プローブ光26Aを取り出す出力面とを有する。この入力面及び出力面は、本実施形態のように共通でもよい。この場合には、第1プローブ光26Aの進行方向を制御する光学部品(つまり、ミラー37A)が必要である。
【0040】
〔作用効果〕
このセルモジュール5は、アルカリ金属が封入されたセル2と、当該アルカリ金属を加熱するヒータ14とを備えている。そして、セル2及びヒータ14は、減圧領域44Sを形成するケース43に収容されている。この配置によれば、セル2及びヒータ14が減圧領域44Sに配置されているので、それらが発する熱がケース43に移動し難くなる。つまり、減圧領域44Sによってセル2及びヒータ14の高温を断熱することで、ケース43の温度上昇を抑制し、セルモジュール5(セル2)を測定対象に近接させることができる。従って、例えば生体や、高温下では特性が変化するもの等、温度条件に制限があるようなものを含む、多様な測定対象に対して、高感度な磁気測定を行うことができる。また、ケース43の温度上昇を抑制できるので、セル2内のアルカリ金属を所望の高い温度に設定することができ、その点からも検出感度を向上することができる。
【0041】
セルモジュール5において、減圧領域44Sは、真空領域である。このような減圧領域44Sによれば、真空断熱効果によって、セル2及びヒータ14からの熱がさらにケース43に移動し難くなる。また、セル2の外部に存在するガス等がセル2内へ侵入してしまうことを抑制可能であるため、検出感度の変化を抑制し、安定した磁気測定が可能となる。
【0042】
セルモジュール5において、ヒータ14は、セル2のセル側面2bと熱的に結合されるとともに、ケース本体44(ケース43)の内面44Kと離間するように配置されている。このような配置によれば、ヒータ14からの熱は、確実にセル2に与えられるとともに、ケース43との間には減圧領域44Sが介在するため、ケース43には移動し難くなる。より詳細には、ヒータ14は、発熱部を構成する領域の全体において、内面44Kと離間するとともにセル側面2bに面接触した状態で固定されている。そのため、ヒータ14からの熱は、確実にセル2に与えられるとともに、端子51に対する給電線以外にヒータ14とケース43に対する熱的な接続部がないため、ケース43には移動し難くなる。
【0043】
セルモジュール5は、ケース43の内面44Kからセル2のセル側面2a、2b、2c、2dが離間するように、ケース43内においてセル2を支持する支持部52をさらに備える。この支持部52によれば、セル側面2a、2b、2c、2dとケース43の内面44Kとが直接に接触しない。つまり、直接の接触に起因するセル2からケース43への熱移動がさらに抑制される。そのため、セル2及びヒータ14の設定温度を更に高め、検出感度を上げることができる。
【0044】
セルモジュール5において、セル2は所定の軸線方向に延びる形状を有し、軸線方向の一端側において磁気入射部12Aを備えるとともに、軸線方向の他端側において支持部52に支持されている。この支持部52によれば、磁気入射部12Aの熱が支持部52を介してケース43へ移動することを抑制することができる。つまり、支持部52を磁気入射部12A側に設けず、磁気入射部12Aと離間した端部側に設けることで、磁気入射部12A、およびそれに隣接した測定領域16Aは高温に保ちつつ、測定対象に近い領域のケース43の温度上昇を抑制することができる。
【0045】
セルモジュール5において、ケース43は、ケース43の内面44Kに設けられた断熱部材であって、セル側面2a、2b、2c、2dからの輻射熱を反射する輻射熱反射膜53を有する。減圧領域44Sにおける熱移動は、セル側面2a、2b、2c、2dからケース43の内面44Kへの輻射も大きな要因の一つとなっている。そこで、輻射熱を受けるケース43の内面44Kへ、輻射熱反射膜53を設けることにより、セル2からケース43への輻射による熱移動をさらに低減することができる。特に、減圧領域44S及び支持部52等により、セル2およびヒータ14とケース43との直接接触及び熱的結合を可能な限り抑制した構造であるため、空間を介した輻射熱を抑制することで、確実な断熱効果を得ることができる。
【0046】
以上、本発明について説明したが、上記本発明の構成に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【符号の説明】
【0047】
1…光励起磁気センサ、2…セル、2a…セル側面、2b,2d…セル側面、2c…セル側面、5…セルモジュール、8…ガラス基体、12…ガラス本体部、14…ヒータ、16A…測定領域、17A…第1ポンプ光、26A…第1プローブ光、29A,29B…光導波部、37A,37B…ミラー、43…ケース、44…ケース本体、46…蓋、44S…減圧領域、44T…開口、49…シール材、44K…内面、51…端子、52…支持部、53…輻射熱反射膜、53a,53b…窓穴。