(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】フェンダーインシュレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20221206BHJP
B62D 25/18 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60R13/08
B62D25/18 Z
(21)【出願番号】P 2018194104
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】丹下 勝博
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-166659(JP,A)
【文献】特開2010-095235(JP,A)
【文献】特開2012-008458(JP,A)
【文献】特開2011-105297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08
B62D 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のピラーとフェンダーとの間で、車両に配設されるフェンダーインシュレータにおいて、
ピラーとフェンダーとの隙間を塞ぐ形の板状体に成形され、且つ前記ピラーと前記フェンダー間を繋ぐ板状主部に、開口部を構成する少なくとも一対の開口セルが近接配置されている樹脂製のハウジングと、
前記各開口セルを塞ぐ膜振動可能な膜状にして、各開口セルの全周縁に係止し、且つ前記ハウジングの樹脂と同系素材の熱可塑性エラストマー製弾性膜と、を具備することを特徴とするフェンダーインシュレータ。
【請求項2】
前記開口部を棒部で仕切って一対の前記開口セルが形成され、且つ前記板状主部の成形で、該棒部が一体成形されている請求項1記載のフェンダーインシュレータ。
【請求項3】
前記棒部に取り巻き包み込んで係止する前記弾性膜に係る筒部分と、該筒部分の両側から延在して一対の前記開口セルを塞ぐ前記弾性膜に係る両セル膜と、が一体成形されている請求項2記載のフェンダーインシュレータ。
【請求項4】
前記板状主部に、前記開口部が複数設けられ、且つ該開口部に前記開口セルが複数形成されている請求項2又は3に記載のフェンダーインシュレータ。
【請求項5】
前記棒部以外の前記開口セルの周縁に、前記板状主部から開口セル内に張り出す内鍔が設けられ、且つ前記弾性膜が該内鍔を挟着するようにして開口セル周縁に係止している請求項2乃至4のいずれか1項に記載のフェンダーインシュレータ。
【請求項6】
前記ハウジングがオレフィン系樹脂製であり、且つ前記弾性膜がオレフィン系熱可塑性エラストマー製である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフェンダーインシュレータ。
【請求項7】
車両のピラーとフェンダーとの間で、車両に配設されるフェンダーインシュレータの製造方法において、
ピラーとフェンダーとの隙間を塞ぐ形の板状体にして、前記ピラーと前記フェンダー間を繋ぐ板状主部に、開口部を構成する一対の開口セル間を棒部で仕切って双方の開口セルが近接配置された樹脂製のハウジングを射出成形した後、該ハウジングと同系素材の熱可塑性エラストマー製の膜振動可能な膜状にして、一対の前記開口セルの全周縁に係止させて両開口セルを塞ぐセル膜と、前記棒部に取り巻き包み込んで係止する筒部分と、が一体の弾性膜を射出成形することを特徴とするフェンダーインシュレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のピラーとフェンダーとの間に配設されるフェンダーインシュレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、車室が快適な居住空間となるよう、例えばフロントピラーとフロントフェンダーとの隙間を塞ぐ騒音吸収用のインシュレータが提案され(例えば特許文献1、2)、車室内への騒音侵入を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-1178号公報
【文献】実用新案登録第3048125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1、2のフェンダーインシュレータは、いずれも軟質の発泡樹脂を用いており、遮音効果を有するものの、低周波(例えば250Hz付近)の騒音には効果が低くかった。デコボコ道の車両走行中で、タイヤ内部の空気ボリュウムに起因する空洞共鳴音や、走行中のタイヤとタイヤハウス空間容量とで引き起こす騒音は、低周波の250Hz付近となるが、特許文献1,2等のフェンダーインシュレータでは透過してしまい遮音対策が不十分となった。
こうしたことから、
図2に描くフェンダーライナー73に繊維系の吸音材を貼付けることで対策を講じているものもあるが、該繊維系吸音材は、降雨時などで吸水して吸音特性が変化する。吸音性能が落ちて車室内が騒音悪化する問題があった。
また、ヘルムホルツレゾネータをフェンダー内に設置することも考えられるが、ヘルムホルツレゾネータ容量が大きく、FF車では設置が難しい場合があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、コンパクトにして、高周波騒音のみならず、凹凸走行のタイヤ変形に伴うタイヤの空洞共鳴音や、車両走行中のタイヤハウスに起因する低周波域の騒音も、安定して効率良く低減することができるフェンダーインシュレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、車両のピラーとフェンダーとの間で、車両に配設されるフェンダーインシュレータにおいて、ピラーとフェンダーとの隙間を塞ぐ形の板状体に成形され、且つ前記ピラーと前記フェンダー間を繋ぐ板状主部に、開口部を構成する少なくとも一対の開口セルが近接配置されている樹脂製のハウジングと、前記各開口セルを塞ぐ膜振動可能な膜状にして、各開口セルの全周縁に係止し、且つ前記ハウジングの樹脂と同系素材の熱可塑性エラストマー製弾性膜と、を具備することを特徴とするフェンダーインシュレータにある。請求項2の発明たるフェンダーインシュレータは、請求項1で、開口部を棒部で仕切って一対の前記開口セルが形成され、且つ前記板状主部の成形で、該棒部が一体成形されていることを特徴とする。請求項3の発明たるフェンダーインシュレータは、請求項2で、棒部に取り巻き包み込んで係止する前記弾性膜に係る筒部分と、該筒部分の両側から延在して一対の前記開口セルを塞ぐ前記弾性膜に係る両セル膜と、が一体成形されていることを特徴とする。請求項4の発明たるフェンダーインシュレータは、請求項2又は3で、板状主部に、前記開口部が複数設けられ、且つ該開口部に前記開口セルが複数形成されていることを特徴とする。請求項5の発明たるフェンダーインシュレータは、請求項2~4で、棒部以外の前記開口セルの周縁に、前記板状主部から開口セル内に張り出す内鍔が設けられ、且つ前記弾性膜が該内鍔を挟着するようにして開口セル周縁に係止していることを特徴とする。請求項6の発明たるフェンダーインシュレータは、請求項1~5で、ハウジングがオレフィン系樹脂製であり、且つ前記弾性膜がオレフィン系熱可塑性エラストマー製であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明の要旨は、車両のピラーとフェンダーとの間で、車両に配設されるフェンダーインシュレータの製造方法において、ピラーとフェンダーとの隙間を塞ぐ形の板状体にして、前記ピラーと前記フェンダー間を繋ぐ板状主部に、開口部を構成する一対の開口セル間を棒部で仕切って双方の開口セルが近接配置された樹脂製のハウジングを射出成形した後、該ハウジングと同系素材の熱可塑性エラストマー製の膜振動可能な膜状にして、一対の前記開口セルの全周縁に係止させて両開口セルを塞ぐセル膜と、前記棒部に取り巻き包み込んで係止する筒部分と、が一体の弾性膜を射出成形することを特徴とするフェンダーインシュレータの製造方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフェンダーインシュレータ及びその製造方法は、FF車にも対応できるコンパクトなこの製品一つで、ピラーとフェンダー間の隙間を遮蔽して高周波音を低減し、さらに弾性膜で、タイヤハウス等に起因する低周波域の騒音も天候に左右されずに持続して低減できるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のフェンダーインシュレータ及びその製造方法の一形態で、車両にフェンダーインシュレータを取付ける様子の斜視図である。
【
図2】
図1のフェンダーインシュレータが車両に取着状態にある斜視図である。
【
図4】車両前方側から見たフェンダーインシュレータの全体斜視図である。
【
図5】車両後方側から見たフェンダーインシュレータの全体斜視図である。
【
図6】(イ)がセル膜で蓋がされた開口部周りの縦断面図、(ロ)が(イ)のセル膜の膜振動する様子を示した縦断面図である。
【
図7】
図6の開口セルを塞いだセル膜が振動する様子を示した解析画像図である。
【
図8】(イ)が
図6の開口部の斜視図、(ロ)が(イ)に代わる他態様の開口部の斜視図である。
【
図10】(イ)が
図9のハウジングの射出成形を終えた説明断面図、(ロ)が(イ)の後、型開して、可動型が第二固定型へ移動する様子の説明断面図である。
【
図11】(イ)が
図10の可動型と第二固定型とが型閉じした説明断面図、(ロ)が(イ)の後、弾性膜の射出成形を終えた説明断面図である。
【
図12】(イ)がFF車の説明図、(ロ)がFR車の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るフェンダーインシュレータ及びその製造方法について詳述する。
図1~
図12は本発明のフェンダーインシュレータ及びその製造方法の一形態で、自動車のフロントピラーとフロントフェンダーとの間に用いられるフェンダーインシュレータに適用する。
図1は車両にフェンダーインシュレータを取付ける様子の斜視図、
図2はフェンダーインシュレータが車両に取着状態にある斜視図、
図3は
図2のIII-III線断面図、
図4,
図5はフェンダーインシュレータの車両前方側から見た斜視図と車両後方側から見た斜視図、
図6は(イ)が弾性膜で蓋がされた開口部周りの断面図、(ロ)が(イ)のセル膜が膜振動する様子の断面図、
図7は
図6のセル膜が振動する画像図、
図8は(イ)が
図6の開口部の斜視図、(ロ)が他態様の開口部の斜視図、
図9は
図6(イ)に代わる他態様図、
図10は(イ)がハウジングの射出成形を終えた断面図、(ロ)が可動型が第二固定型へ移動する様子の断面図、
図11は(イ)が可動型と第二固定型とが型閉じした断面図、(ロ)が弾性膜の射出成形を終えた断面図、
図12はFF車とFR車の説明図を示す。各図は図面を判り易くするため発明要部を強調図示し、また本発明と直接関係しない部分を簡略化又は省略する。
【0010】
(1)フェンダーインシュレータ
フェンダーインシュレータFSは、車両のピラーとフェンダーとの間で、車両の上下方向に配設される縦長形状品である。フェンダーインシュレータFSは、
図2のごとく車幅方向外側縁1cをフェンダーの裏面に沿わせた板状体で、フロントフェンダー72(以下、単に「フェンダー」ともいう。)と車両骨格たるフロントピラー71(以下、単に「ピラー」ともいう。)との間の隙間εを遮蔽する(
図3)。フェンダー72が組付けられると、ピラー71との間に縦長スリット状の隙間εができるが、この隙間εを通って車室空間RMへの
図3の矢印で示す音の進入を、本フェンダーインシュレータFSで止める。ここでは、フェンダー72の車両後方部が屈曲してフェンダー内側に延在するフランジ721と、ピラー71の車両前方側の側壁とに、フェンダーインシュレータFSを車両前方側から当接して隙間εを塞いでいる。フェンダーインシュレータFSは、その縦長方向を車両上下方向に合わせて隙間εが埋まるように、車体Pに取付けられる。
フェンダーインシュレータFSは、ハウジング1と弾性膜2とを具備する。
【0011】
ハウジング1は、板状主部1Aと補強リブ1Bと相手部材への接続用板部1Cとを具備し、硬質樹脂製フェンダーインシュレータFSの本体外形部を形成する縦長部である(
図1~
図4)。ハウジング1を図示ごとくの簡略形状とするが、実際はピラー71やフェンダー72の多少複雑な形状に合わせており、ドア9へと向かう図示しないハーネスを通す凹所等が適宜設けられる。
【0012】
板状主部1Aは、ピラー71とフェンダー72との隙間εを塞ぐ形の板状体に成形され、前記ピラー71と前記フェンダー72間を繋ぐ平板状部である。平板状部からなる板状主部1Aには、開口部12を構成する一対の開口セル13が近接配置されている(
図6)。少なくとも複数の開口セル13が隣り合うようにして設けられる。車両にフェンダーインシュレータFSが取付けられると、隙間εの位置に各開口セル13が配される(
図3)。開口セル13に設ける弾性膜2(詳細後述)と該板状主部1Aとで、車室空間RMへの外気の通り口になる隙間εを閉ざす。
補強リブ1Bは、板状主部1Aの剛性や強度を補強する部分で、板状主部1Aの外周縁から車両前方側に屈曲、延在した鍔部である。前記車幅方向外側縁1cは補強リブ1Bで形成する。また、両側鍔部の内面に両側端を結合して帯幅方向を板状主部1Aに起立させた帯板部も補強リブ1Bの一部で、板状主部1Aの上端から所定間隔で下端まで略水平に配される。
接続用板部1Cは、相手部材のピラー71又はフェンダー72への取付け片部である。本実施形態は、フェンダーインシュレータFSの上端部111と下端部112に板状主部1Aからそれぞれ延在する接続用板部1Cを設け、該接続用板部1Cに相手部材への取付け用孔19を設ける(
図4)。
【0013】
ここで、ピラー71とフェンダー72との隙間εから車室内へ浸入しようとする騒音を、前記板状主部1Aに開口部12を設けずに蓋をし、遮断することによって騒音を抑えることができる。しかし、高周波音を遮音できても、例えば250Hz域の低周波域の遮音が難しい。そこで、本発明は、板状主部1Aに少なくとも一対の開口セル13が近接配置された開口部12を設け、且つ各開口セル13を塞ぐ弾性膜2を設けて、低周波音の遮音をも図る。
ピラー71とフェンダー72との隙間εを、まずフェンダーインシュレータFSで塞いで高周波音を遮音し、さらに開口セル13を塞ぐ弾性膜2の膜振動によって例えば250Hz域の音波を効果的に低減させる。基本構成は、第一に板状主部1Aと例えば共振周波数を250Hzに設定した各開口セル13を塞ぐ弾性膜2とで隙間εに蓋をして、高い周波数域の騒音を遮音する。そして、第二に一対の開口セル13を塞いだ弾性膜2に係るセル膜3に250Hz付近の低周波が当たると、セル膜3は共振し、その振動(音)エネルギーが熱エネルギーに変換されることになって、該低周波の音が弱まる吸音作用を生じさせる。また弾性膜2の共振は、一方のセル膜3と他方のセル膜3とに位相差が発生するため、ターゲットの250Hz音に干渉して打ち消す。
【0014】
弾性膜2は、各開口セル13を塞ぐ膜振動可能な軟らかな膜状にして、各開口セル13の全周縁131に係止する弾性変形可能な皮膜である(
図6)。弾性膜2は、ハウジング1と同系素材の熱可塑性エラストマー製とし、例えばハウジング1をオレフィン系樹脂製として、弾性膜2をオレフィン系熱可塑性エラストマー製にする。弾性膜2の射出成形で、開口セル13の周縁131への該弾性膜2の接着性を良好にするためである。具体的には、ハウジング1をプロポリピレン樹脂製にし、弾性膜2はプロポリピレン樹脂をハードセグメントとし、エチレンープロピレンゴムをソフトセグメントとするオレフィン系熱可塑性エラストマーとしている。
【0015】
本実施形態は、前記開口部12を棒部16で仕切って一対の開口セル13が近接配置になるよう形成され、且つ該棒部16が板状主部1A(ハウジング1)の成形で一体成形される。開口部12の開口縁からは、開口部12の一部とする開口枠15が、補強リブ1Bの張り出す方向と同じ方向に張り出すように設けられる。該開口枠15は補強リブ1Bにもなっている。開口部12が棒部16で二つの開口セル13に区分けされる。真っ直ぐで細長い丸棒状の棒部16が、障子の桟のように矩形の開口部12をほぼ二分割して開口枠15の垂直板部分151に結合し、一対の開口セル13をつくっている(
図1~
図6)。
そして、この棒部16に取り巻き包み込んで係止する弾性膜2に係る筒部分4と、該筒部分4の両側から延在して一対の開口セル13を塞ぐ弾性膜2に係る両セル膜3と、が一体成形されたフェンダーインシュレータFSになっている。セル膜3を1.8mm厚とし、且つ板状主部1Aに、開口セル13の大きさを400mm×400mmの開口にして、該開口セル13を一対揃え、棒部16の径を2~2.5mmφとすることで、セル膜3の共振周波数を約250Hzに設定し、セル膜3で250Hz付近の低周波騒音を効果的に遮音できるフェンダーインシュレータFSになる。
【0016】
図6でいえば、250Hz付近の低周波が紙面左方の車両前方からセル膜3へ当たると、疎密波の波は該セル膜3を共振させる。セル膜3が共振することで該セル膜3に係る摩擦損失が発生し、振動(音)エネルギーが熱エネルギーに変換されて吸音作用を生じることになる。そして、セル膜3の共振は、上側開口セル13を塞ぐ一方のセル膜3が弾性変形で同図(ロ)の二点鎖線のように車両後方側に凸状変形すると、同時に、該凸状変形に伴って棒部16周りの筒部分4に矢印方向の力が働き、棒部16よりも下側の開口セル13を塞ぐ他方のセル膜3が車両前方側へ凸状変形する。ちょうど1/2波長分だけずれた逆位相の格好になる。車両前方から来る250Hz付近の低周波音に対して、逆位相の波を被せるので、それによっても前記低周波音を消すことができる。
図7はコンピュータ解析による車両後方側から見た弾性膜2に係る車両後方側膜面3bの解析模式図を示す。
図7で、上半部が上側開口セル13を塞いで紙面手前側(車両後方側)へ凸状に膨らむセル膜3の車両後方側膜面3bを表し、下半部が下側開口セル13を塞いで紙面奥側(車両前方側)へ凸状に膨らむセル膜3の車両後方側膜面3bを表している。
【0017】
フェンダーインシュレータFSは、板状主部1Aに開口部スペースが確保できれば、板状主部1Aに開口部12を複数設けることが好ましい。低周波音の吸音効果を一層上げられるからである。
図5では、ハウジング1に二つの開口セル13が棒部16で仕切られた開口部12を二組(複数)設けている。それぞれの棒部16に弾性膜2の筒部分4が巻いて、該棒部16に弾性膜2が係止し、棒部16を除く開口セル13の全周縁131に弾性膜2のセル膜3に係る周縁31が、
図6のごとく係止して、弾性膜2で開口セル13を塞ぐ。尚、開口枠15が有る
図9のような開口部12にあって、弾性膜2の周縁31が開口枠15の枠内面に係止した場合も、本発明でいう弾性膜2(セル膜3)の周縁31が開口セル13の周縁131に係止したものとみなす。前記棒部16の両端が、開口セル13の周縁131に結合する場合だけでなく、開口枠15の枠内面に結合する場合も、本発明でいう開口部12を棒部16で仕切って一対の開口セル13が形成されたものとみなす。
【0018】
開口部12は、
図8(イ)のように一の開口部12に一対の開口セル13が棒部16によって近接配置されるだけでなく、例えば
図8(ロ)のように一の開口部12に十字交差させた棒部16によって四つ(複数)の開口セル13が近接配置されてもよく、むしろこの方が好ましくなる。板状主部1Aに、低周波音を吸音する弾性膜2付き開口セル13をより効率良く多く形成できるからである。
また、棒部16以外の開口セル13の周縁131に、板状主部1Aから開口セル13内に張り出す内鍔14を設け、且つ弾性膜2が
図9のごとく該内鍔14を挟着して開口セル周縁131に係止しているフェンダーインシュレータFSとするのがより好ましい。ハウジング1と同系素材の熱可塑性エラストマー製弾性膜2が、射出成形で開口セル13の周縁131に融着係止して成形されるが、弾性膜2の厚みは小さく(2mm程度)、該弾性膜2を開口セル周縁131へ突き合せて融着係止させるだけでは所望の結合力が得られない場合があるからである。内鍔14があれば、ハウジング1の成形後、弾性膜2の成形で、セル膜3の外周部にできる挟着部分35によって内鍔14を挟むので、融着面積が大になる。ハウジング1と同系素材の熱可塑性エラストマー製弾性膜2の融着による結合に加え、その融着面積の増大によって開口セル周縁131への弾性膜2の結合強化につながる。
尚、
図9の棒部16は横断面をほぼ菱形にしている。後述の製造方法において、スライド型部65のスライドで弾性膜2を成形する際、棒部16周りの肉厚を一定にし易いためである。図中、符号1aは板状主部1Aの車両前方側表面、符号1bは板状主部1Aの車両後方側裏面、符号3aはセル膜3の車両前方側膜面、符号40は筒孔、符号41は車両前方側の筒部分、符号42は車両後方側筒部分、符号43は筒部分の筒内壁、符号75はステップアウター、符号76はエンジンフード、符号77はルーフを示す。
【0019】
(2)フェンダーインシュレータの製造方法
フェンダーインシュレータの製造方法は、車両のピラー71とフェンダー72との間で、車両に配設されるフェンダーインシュレータの製法であって、ハウジング1を射出成形した後、弾性膜2を射出成形して、ハウジング1に設けた開口部12を構成する少なくとも一対の開口セル13を、該弾性膜2で塞ぐ製法である(
図9~
図11)。ここでは、(1)で述べた
図1~
図5に示すフェンダーインシュレータFSで、一対の開口セル13を有する開口部12が二組形成されたフェンダーインシュレータFSの製造とする。但し、該開口部12は
図6に代わって
図9の構造になっている。
【0020】
フェンダーインシュレータFSの製造に先立ち、
図10,
図11ごとくの二色射出成形機Tが準備される。固定型5に第一固定型5Aと第二固定型5Bと、スライド型部65を有する可動型6とを備えた二色射出成形機Tである。第一固定型5Aと一次成形下の可動型6との型締めで、
図10(イ)ごとくのハウジング用キャビティC1を形成する。第一固定型5A側にはハウジング用キャビティC1へ硬質樹脂材料を注入できるランナー,ゲート等(図示せず)が設けられている。第二固定型5Bの弾性膜用第二キャビティ面52は、第一固定型5Aの開口部12形成用第一キャビティ面51よりも弾性膜2の約1/2の厚み分だけ凹んでいる。
図10(イ)の状態から可動型6のスライド型部65を弾性膜2の約1/2の厚み分だけ後退させ凹ませて、二次成形下の可動型6とし、該可動型6と第二固定型5Bとを型締めすると、
図11ごとくの弾性膜用キャビティC2を形成する。
【0021】
フェンダーインシュレータの製造方法は、まず、
図10の射出成形機Tを用い、第一固定型5Aと一次成形下の可動型6とを型締めする。
次いで、第一固定型5Aに設けた図示しないランナー,ゲートを経由して硬質樹脂材料をハウジング用キャビティC1へ注入し、ベースのハウジング1を射出成形する(
図10のイ)。ピラー71とフェンダー72間を繋ぐ板状主部1Aに、開口部12を構成する一対の開口セル13間を棒部16で仕切って双方の開口セル13が近接配置された硬質樹脂製ハウジング1を射出成形する。
ハウジング用キャビティC1には、開口セル13内に張り出す内鍔14用キャビティが設けられている。ハウジング1の成形で、開口セル13内(又は開口枠15内)に張り出す内鍔14を一体成形する。ハウジング1の成形,硬化後、型開し、次いで、可動型6を別の第二固定型5Bへ移送する(
図10のロ)。
【0022】
続いて、第二固定型5Bと可動型6とを型締めするが、この型締めに先立ち、スライド型部65を後退させ、二次成形下の可動型6の状態にする。そうして、該可動型6と第二固定型5Bとを型締めし、弾性膜用キャビティC2を形成する(
図11のイ)。
その後、
図11(イ)に示すランナー58,ゲート57を通って、弾性膜用キャビティC2にハウジング1と同系素材の弾性膜用熱可塑性エラストマー材料gを注入する。そうして、熱可塑性エラストマー製の膜振動可能な膜状にして、一対の開口セル13の全周縁131に係止させて両開口セル13を塞ぐセル膜3と、棒部16に取り巻き包み込んで係止する筒部分4と、が一体の弾性膜2を射出成形する(
図11のロ)。このとき、内鍔14を挟着するようにして開口セル周縁131に係止する弾性膜2の挟着部分35をも一体成形する。本実施形態は、一対の開口セル13を有する開口部12が二組あるので、二組の弾性膜2を射出成形する。
弾性膜2の成形後、脱型すれば
図9に示す板状主部1Aと弾性膜2とが一体化した所望のフェンダーインシュレータFSを得る。本実施形態は
図10、
図11の二色成形を活用してフェンダーインシュレータFSを製造したが、ハウジング1をインサート品にしてインサート成形で造ることもできる。
他の構成は(1)で述べた内容と同様で、その説明を省く。(1)と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0023】
(3)効果
このように構成したフェンダーインシュレータFSは、板状主部1Aに少なくとも一対の開口セル13が近接配置され、且つ各開口セル13を弾性膜2で塞いでいるので、特許文献1,2等のインシュレータでは透過してしまった例えば250Hz付近の低周波ノイズを該弾性膜2で効果的に低減できる。
ハウジング1と開口部12を塞ぐ弾性膜2とで隙間εをシールして、高周波域の騒音を遮音する。さらに、硬質の板状主部1Aでは透過し易い250Hz付近の低周波音に対して、弾性膜2の膜振動によって低減する。本フェンダーインシュレータFSだけで、低周波音を含めた幅広い周波数音を除去できる。
【0024】
従来の特許文献1,2にみられるフェンダーインシュレータFSは例えば250Hz付近の低周波ノイズを低減できず、また低周波ノイズを吸音できる繊維系インシュレータは降雨時等で吸水して吸音特性が悪化する。低周波ノイズを低減すべく、ヘルムホルツレゾネータを採用し、これをフェンダー72内側に設置することも考えられるが、新たに設置場所の確保や保持用部材も必要になり、コスト高になる。
【0025】
これに対し、本発明のフェンダーインシュレータFSによれば、隙間εに蓋をするフェンダーインシュレータFSで高周波域の騒音を低減し、蓋をするだけでは透過して除去困難なタイヤハウス空間等に起因する例えば250Hz付近の騒音を、弾性膜2の膜振動によって、降雨等に関係なく低減し、快適な車室空間RMを確保できる。
そして、ヘルムホルツレゾネータを用いた場合はその容量が大きく、
図12(ロ)のFR車に対応できても、前輪タイヤ8と前ドア9間の距離L1が小になる
図12(イ)のFF車対応が困難になる虞があるが、本フェンダーインシュレータFSは難なく対応できる。本フェンダーインシュレータFSは車両前後方向厚みが小さいので、前輪タイヤ8と前ドア9との間隔L1が狭いFF車を含めた全車種に設置可能で、適用範囲が広い。
さらに、本フェンダーインシュレータFSは、ハウジング1を樹脂製にして、弾性膜2が該ハウジングの樹脂と同系素材の熱可塑性エラストマー製であり、
図10,
図11ごとくの二色成形によって両者の一体化成形ができ、生産性向上,低コスト化を実現する。
【0026】
また、開口部12を棒部16で仕切って一対の開口セル13が形成されるので、
図6(ロ)のごとく、低周波の音圧を受けて弾性膜2が共振する際、一方の上側開口セル13を塞ぐセル膜3(弾性膜2)が車両後方に鎖線で示す凸状変形すると、棒部16周りの筒部分4に矢印ごとくの力が作用し、他方の下側開口セル13のセル膜3が前記凸状変形と半波長ずれた逆位相の形になって車両前方側に凸状変形する。この凸状変形でできた逆位相の波が、タイヤハウス内で発生した低周波に被せられるので、該低周波の音を打ち消すことができる。開口セル13の大きさを約400mm×400mm、セル膜3の厚みを2mm弱にすれば、共振周波数が250Hzとなり、250Hz付近の低周波音も効果的に除去できるフェンダーインシュレータFSになる。
【0027】
さらに、棒部16以外の開口セル13の周縁131に、板状主部1Aから開口セル13内に張り出す内鍔14が設けられ、且つ弾性膜2が内鍔14を挟着するようにして開口セル周縁131に係止すると、ハウジング1への弾性膜2の結合強化が図られる。弾性膜2にハウジング用樹脂と同系素材の熱可塑性エラストマーを用いることにより、弾性膜2の射出成形時の熱融着による結合において、その結合面積が広がることによって、ハウジング1への弾性膜2の係止力アップにつながる。
加えて、ハウジング1がオレフィン系樹脂製であると、軽くて耐熱性が比較的良好で械的強度に優れたポリプロピレン樹脂等でハウジング1を形成でき、車両用として打ってつけとなる。
このように本発明のフェンダーインシュレータFSは、上述した種々の優れた効果を発揮し、極めて有益である。
【0028】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。ハウジング1,板状主部1A,開口部12,開口枠15,弾性膜2,セル膜3,射出成形機T等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。すなわち、実施形態では、フェンダーインシュレータFSは車両の上下方向に配設される縦長形状品であったが、これに限定されない。また、ハウジング1は硬質樹脂で形成されていたが、弾性膜2の共振に影響を与えなければ軟質樹脂で形成してもよい。実施形態ではフェンダーフランジ721とフロントピラー71の車両前方側の側壁とにフェンダーインシュレータFSを当てて隙間εを遮蔽したが、例えばフェンダーフランジ721とピラー71の天板部とにフェンダーインシュレータFSを当てて隙間εを遮蔽してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 ハウジング
1A 板状主部
12 開口部
13 開口セル
131 開口セル周縁(開口セルの周縁)
14 内鍔
16 棒部
2 弾性膜
3 セル膜
4 筒部分
71 ピラー(車体骨格)
72 フェンダー(フロントフェンダー)