(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】トランスフルトリンの揮散促進方法、トランスフルトリン揮散促進剤および薬剤揮散組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 53/06 20060101AFI20221206BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20221206BHJP
A01N 25/18 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A01N53/06 110
A01P7/04
A01N25/18 102A
(21)【出願番号】P 2018208199
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 千佳
(72)【発明者】
【氏名】三木 大輝
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090048(JP,A)
【文献】特開2010-285417(JP,A)
【文献】特開平09-077908(JP,A)
【文献】特開2010-193817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物に、
プロフルトリンを配合することを特徴とする、トランスフルトリンの揮散促進方法。
【請求項2】
さらに、
エンペントリンを
配合する、請求項1に記載のトランスフルトリンの揮散促進方法。
【請求項3】
プロフルトリンを含む、トランスフルトリン揮散促進剤。
【請求項4】
さらに、
エンペントリンを含む、請求項3に記載のトランスフルトリン揮散促進剤。
【請求項5】
トランスフルトリンと、
プロフルトリンと、
エンペントリンとを含有する、トランスフルトリンの揮散を促進させるための、薬剤揮散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフルトリンの揮散促進方法、トランスフルトリン揮散促進剤および薬剤揮散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、常温揮散性薬剤を担体に保持させた薬剤揮散体を屋内や屋外に設置し、薬剤を空間に継続して揮散させ、害虫を忌避する技術が知られている。常温揮散性薬剤としては、例えば特許文献1および2に記載されているように、トランスフルトリンが汎用されている。トランスフルトリンはピレスロイド系化合物の害虫防除成分であって、ヨコバイ、アブラムシ等の農業害虫、ダニ、ゴキブリ等の衛生害虫に対して高い殺虫活性を有すること、ある種の害虫に対しては忌避効力を示すこと、また安全性が高いことから、特に衛生害虫を対象とした各種製剤の有効成分として検討されている。一方、特許文献3には、常温揮散性薬剤を収容した容器の形状を特定化し、容器内に風を侵入しやすくさせ、常温揮散性薬剤の揮散を促進させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-194034号公報
【文献】特開2001-192309号公報
【文献】特開2018-93778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トランスフルトリンは常温で揮散させるには蒸気圧が低く、例えば飛翔害虫に対して忌避効力を奏するまでの揮散量を得るには相当の時間がかかるという問題点があった。
したがって本発明の目的は、常温においてトランスフルトリンの揮散量を増やし、使用初期から害虫に対する忌避効力を発揮することのできる、トランスフルトリンの揮散促進方法、トランスフルトリン揮散促進剤および薬剤揮散組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、トランスフルトリンと特定範囲の蒸気圧を有するピレスロイド系化合物とを併用することにより、常温におけるトランスフルトリンの揮散量を増加できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
1.トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物に、25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa以上1.3×10-2Pa以下であるピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物を配合することを特徴とする、トランスフルトリンの揮散促進方法。
2.さらに、25℃における蒸気圧が1.3×10-2Paより大きいピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物を含む、上記1に記載のトランスフルトリンの揮散促進方法。
3.25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa以上1.3×10-2Pa以下であるピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物を含む、トランスフルトリン揮散促進剤。
4.さらに、25℃における蒸気圧が1.3×10-2Paより大きいピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物を含む、上記3に記載のトランスフルトリン揮散促進剤。
5.トランスフルトリンと、25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa以上1.3×10-2Pa以下であるピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物と、25℃における蒸気圧が1.3×10-2Paより大きいピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物とを含有する、トランスフルトリンの揮散を促進させるための、薬剤揮散組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のトランスフルトリンの揮散促進方法は、トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物に、25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa以上1.3×10-2Pa以下であるピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物(以下、第1ピレスロイド系化合物と言うことがある)を配合することを特徴としている。この構成によれば、第1ピレスロイド系化合物が、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を増加させることができ、使用初期から害虫に対する忌避効力を発揮することが可能となる。
【0008】
また、第1ピレスロイド系化合物に加え、さらに、25℃における蒸気圧が1.3×10-2Paより大きいピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物(以下、第2ピレスロイド系化合物と言うことがある)を併用する形態によれば、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期からの害虫に対する忌避効力を一層高めることができる。
【0009】
また、本発明のトランスフルトリン揮散促進剤は、第1ピレスロイド系化合物を含むことを特徴としている。この構成によれば、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期からの害虫に対する忌避効力を一層高めることができる。
【0010】
また、本発明のトランスフルトリン揮散促進剤において、第1ピレスロイド系化合物に加え、さらに、第2ピレスロイド系化合物を併用する形態によれば、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期からの害虫に対する忌避効力を一層高めることができる。
【0011】
また、本発明の薬剤揮散組成物は、トランスフルトリンと、第1ピレスロイド系化合物と、第2ピレスロイド系化合物とを含有することを特徴としている。この構成によれば、第1ピレスロイド系化合物および第2ピレスロイド系化合物が、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期から害虫に対する忌避効力を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のトランスフルトリンの揮散促進方法を適用可能な薬剤揮散装置の一例を説明するための図である。
【
図3】試験例1で使用した試験装置を説明するための図である。
【
図4】試験例2及び試験例3で使用した試験装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
本発明のトランスフルトリン揮散促進方法は、トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物に、25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa以上1.3×10-2Pa以下であるピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物(以下、第1ピレスロイド系化合物とも称する)を配合することを特徴とする。
また、本発明のトランスフルトリン揮散促進剤は、第1ピレスロイド系化合物を含むことを特徴とする。
【0014】
トランスフルトリンは、下記構造を有し、25℃における蒸気圧は1.0×10-3Paであり、上述のように常温で揮散させるには蒸気圧が低く、例えば飛翔害虫に対して忌避効力を奏するまでの揮散量を得るには相当時間がかかるという問題点があった。
【0015】
【0016】
本発明では、トランスフルトリンと第1ピレスロイド系化合物とを併用することにより上記問題点を解決している。
第1ピレスロイド系化合物は、25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa以上1.3×10-2Pa以下であるピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物であって、例えばプロフルトリン(25℃における蒸気圧=1.0×10-2Pa)、メトフルトリン(25℃における蒸気圧=1.9×10-3Pa)等が挙げられる。なお、第1ピレスロイド系化合物には、トランスフルトリンは含まない。
第1ピレスロイド系化合物の25℃における蒸気圧が1.0×10-3Pa未満であると、常温で揮散させるにはトランスフルトリンよりも蒸気圧が低く、トランスフルトリンが揮散しづらくなるため好ましくない。
【0017】
中でも、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期からの害虫に対する忌避効力を一層高めることができる、という観点から、第1ピレスロイド系化合物としては下記構造を有するプロフルトリンが好ましい。
【0018】
【0019】
トランスフルトリンと第1ピレスロイド系化合物の使用割合としては、前者/後者(質量比)として、1/1~1000/1が好ましく、10/1~200/1がさらに好ましい。
【0020】
また本発明では、第1ピレスロイド系化合物に加え、さらに、25℃における蒸気圧が1.3×10-2Paより大きいピレスロイド系化合物からなる群から選択される少なくとも1種以上のピレスロイド系化合物(以下、第2ピレスロイド系化合物とも称する)を併用する形態が好ましい。この形態によれば、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期からの害虫に対する忌避効力を一層高めることができる。
【0021】
第2ピレスロイド系化合物としては、例えばエンペントリン(25℃における蒸気圧=1.4×10-2Pa)等が挙げられる。
【0022】
中でも、トランスフルトリンの常温での揮散量、特に使用初期の揮散量を顕著に増加させることができ、使用初期からの害虫に対する忌避効力を一層高めることができる、という観点から、第2ピレスロイド系化合物としては下記構造を有するエンペントリンが好ましい。
【0023】
【0024】
トランスフルトリンと第2ピレスロイド系化合物との使用割合としては、前者/後者(質量比)として、1/1~1000/1が好ましく、2.5/1~20/1がさらに好ましい。
【0025】
図1は、本発明のトランスフルトリンの揮散促進方法を適用可能な薬剤揮散装置の一例を説明するための図である。
薬剤揮散装置1は、屋内または屋外において、トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物を保持した担体2を収容した容器3を吊り下げフック5で上から吊り下げて使用される。容器3の正面には複数の通風開口部4が形成されており、背面にも同様に複数の通風開口部4’が形成されている(
図2を参照)。
【0026】
容器3は、
図2に示すように、正面部3aと背面部3bとを備えた略板状体である。本発明において、容器3の正面とは正面部3aの外表面をいい、容器3の背面とは背面部3bの外表面をいう。
正面部3aと背面部3bは、少なくともそれらの側縁部で互いに一体化され、内部に通気用の空間6が形成される。通風開口部4、4’は、容器3の正面から背面に向けて通気性を保持するよう、正面部3aと背面部3bとに同一形状で、かつ同じ位置に設けられている。このような通風開口部4、4’を設けることにより、通風開口部4、4’から担体2に保持された薬剤揮散組成物中のトランスフルトリンを揮散させることができる。
なお、通風開口部4、4’の形状や形成位置は、正面部3aと背面部3bとの間で通気性が確保され、トランスフルトリンが効率よく揮散できる限り、特に制限されず、任意の形状や位置に設計することができ、例えば容器3の側面に設けてもよいが、トランスフルトリンの揮散量を多くするうえで、容器3の表面積に対する通風開口部4、4’の総面積の比が大きいほど好ましい。
【0027】
容器3は、別部材として成形した正面部3aと背面部3bとを少なくとも側縁部で重ね合わせるか、もしくは突合せて、一体化しているが、一体成形して形成されていてもよい。正面部3aと背面部3bは、内面に複数の挟持部材8a、8bが突設されており、各挟持部材8a、8bは、それらの間に担体2を挟持させた状態で突き合わされ、一体化される。
容器3(正面部3aおよび背面部3b)を構成する素材は、特に制限されるものではなく、例えば、各種プラスチック、金属、ガラス、紙、木、陶磁器等により形成することができる。
【0028】
正面部3aと背面部3bとの一体化には、例えば係止部材を用いた方法、熱融着による方法、接着剤等を用いる方法等を用いることができる。係止部材を用いた方法としては、例えば、正面部3aと背面部3bの周縁部の一方に図示しない爪部を設け、他方に凹部を設け、爪部を凹部に係止させる方法が挙げられる。正面部3aと背面部3bとは、上記の係止部材を用いるなどして、着脱自在に一体化されていてもよい。
【0029】
薬剤揮散組成物を保持した担体としては、例えば繊維材から形成したネットが挙げられる。このネットは、トランスフルトリンが揮散するのに有用な通気孔となる目開きを有する。具体的には、短繊維または長繊維の糸を用いて、レース編みやメリヤス編みなどの手法を用いて編み上げたものを使用することができる。
【0030】
短繊維または長繊維の糸の素材としては、例えば、パルプ、綿、羊毛、麻、絹等の天然繊維や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリサルフォン、レーヨン、メタアクリル酸樹脂、その他生分解性樹脂(ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸))などが挙げられ、これらの素材の1種または2種以上の素材を混合して使用することができる。これらの中でも特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンが好ましい。
なお、繊維には、例えば、防カビ剤、色素、紫外線吸収剤、香料等の従来公知の添加物を含有させることもできる。
【0031】
ネットの目開き(通気孔)の割合は、特に制限されないが、ネットの総面積に占める目開き部分の総面積の割合(開口率)が5~80%、好ましくは10~50%であるのがよい。開口率が小さすぎると、糸に保持されたトランスフルトリンの揮散性が低下するおそれがあり、一方、開口率が大きすぎると、単位面積あたりの糸の重量(すなわち目付け)が小さくなり、薬剤揮散組成物の保持量が低下する傾向がある。
【0032】
薬剤揮散組成物を担体に保持させる方法は、特に制限されず、例えば、薬剤揮散組成物の溶液を調製し、該溶液中に担体(ネット)を浸漬し、薬剤揮散組成物を含浸させる方法や、上記溶液もしくは薬剤揮散組成物そのものを上記ネットの上に噴霧もしくは滴下することによりネットに薬剤揮散組成物を含浸させる方法、担体に薬剤を練り込む方法等を採用することができる。さらに、必要に応じて、薬剤揮散組成物を含浸させた後、乾燥等によって用いた溶剤を除去してもよい。また、薬剤揮散組成物を保持させる際の上記各操作は、トランスフルトリンの保持量が所望の量に達するまで繰り返し行なうことができる。
【0033】
トランスフルトリンの担体への保持量は、使用初期から害虫に対する忌避効力を発揮させるという観点から、0.01g以上10g以下が好ましく、0.1g以上5g以下がさらに好ましい。
また、第1ピレスロイド系化合物の担体への保持量は、トランスフルトリンの揮散を促進させるという観点から、0.00001g以上10g以下が好ましく、0.0005g以上0.5g以下がさらに好ましい。
また、第2ピレスロイド系化合物の担体への保持量は、トランスフルトリンの揮散をさらに促進させるという観点から、0.00001g以上10g以下が好ましく、0.005g以上2g以下がさらに好ましい。
【0034】
担体のサイズは、特に制限されないが、好ましくは10~1000cm2であり、より好ましくは20~500cm2である。
【0035】
なお、担体2を、図示しない枠体に保持させてもよい。担体2を保持した枠体をカートリッジ式とすれば、常温揮散性薬剤が全てまたは殆ど揮散してしまい、効力が消失または低下した場合に、この使用後の枠体を新たな枠体に取り替えることで、再度、優れた効果を発現させることができる。
【0036】
図1、
図2に示されるように、容器3はフック形の固定具9から吊り下げフック5で吊り下げられている。また、フック形の固定具9は、天井面などに取り付けられたものであるが、フック形ではなく、例えば屋外では物干し竿、ベランダや階段の手摺などに吊り下げフック5を引っかけるようにしてもよく、特に制限されない。なお、吊り下げフック5は、両端を結んで輪状にした一本の紐からなる吊り下げ紐であってもよい。
【0037】
本実施形態の薬剤揮散装置1は、例えば、屋内や屋外に吊り下げて使用することができ、常温においてトランスフルトリンが使用初期から十分な揮散量でもって揮散し、例えば、蚊、蝿等の飛翔害虫が侵入する箇所である建物の出入り口や窓等の開口部にこれを吊り下げると、害虫の防除に効果的である。
【0038】
本発明の薬剤揮散組成物は、トランスフルトリン、第1ピレスロイド系化合物および第2ピレスロイド系化合物以外にも、必要に応じてその他の成分を含有することができる。例えば、上述したトランスフルトリン、第1ピレスロイド系化合物および第2ピレスロイド系化合物を除くその他害虫防除剤、芳香剤、消臭・防臭剤、殺菌剤、防カビ剤等が挙げられる。
【0039】
その他害虫防除剤としては、例えば、有機リン系、カーバメート系等の各種殺虫剤、忌避剤、昆虫成長調節剤等が挙げられる。害虫防除剤を例示すると、例えば、有機リン系殺虫剤としては、DDVP、ダイアジノン等が挙げられ、カーバメート系殺虫剤としては、プロポクスル等が挙げられる。また、その他害虫防除剤として植物精油、テルペン、およびこれらの異性体や誘導体等も使用できる。
【0040】
芳香剤としては、例えば、ラベンダー油、じゃ香、竜延香、アビエス油、シトロネラ油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、レモン油、レモングラス油、ナツメグ油、ハッカ油、オレンジ油、テレビン油、セイジ油などの精油類、ピネン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、シトロネラール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、アネトール、オイゲノール、アルデヒド、シトラール、シトロネラール、ワニリン、カルボン、ケトン、メントン、アセトフェノン、クマリン、シネオール、酢酸エチル、酢酸オクチル、酢酸リナリル、酢酸ブチルシクロヘキシル、酢酸ブチルシクロヘプチル、イソ酪酸イソプロピル、カプロン酸アリル、安息香酸エチル、桂皮酸メチル、サリチル酸メチルなどの香料等が挙げられる。
【0041】
消臭・防臭剤としては、例えば、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、アミルシンナミックアルデヒド、アニシックアルデヒド、ジフェニルオキサイド、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、ネオリン、サフロール、シトロネラ油、レモングラス油等が挙げられる。
【0042】
殺菌剤としては、例えば、IPMP(イソプロピルメチルフェノール)、PCMX(p-クロロ-m-キシレノール)、AIT(アリルイソチオシアネート)、ヒノキチオール、安定化二酸化塩素等が挙げられる。
【0043】
また、本発明における薬剤揮散組成物には、常温揮散性薬剤の溶液を調製するための溶剤を含有することができる。溶剤としては、特に制限はないが、例えば、水、ナフテン、灯油、パラフィン等の炭化水素類、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、メタノール、イソプロパノール、1-オクタノール、1-ドデカノール等のアルコール類、アセトン、アセトフェノン等のケトン類、ジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ラウリン酸ヘキシル、アジピン酸ジオクチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル等のエステル類、キシレン、クロルセン、シリコーンオイル等の1種もしくは2種以上が挙げられる。
【0044】
さらに、本発明における薬剤揮散組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、効力増強剤、揮散率向上剤、安定剤、酸化防止剤、色素等が挙げられる。添加剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0045】
揮散率向上剤としては、例えば、フェネチルイソチオシアネート、ハイミックス酸ジメチル等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール、ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、2,2'-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4'-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、フェニル-β-ナフチルアミン、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、α-トコフェロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、γ-オリザノール、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。なお、以下の実施例において試験環境は30℃とした。
【0047】
試験例1
下記表1、2に示す配合処方にしたがい、トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物1~7を調製した。なお、薬剤揮散組成物2、3、5、6が実施例に相当し、薬剤揮散組成物1、4、7が比較例に相当する。
【0048】
【0049】
【0050】
上記調製した薬剤揮散組成物1~7を、
図1および
図2に示す薬剤揮散装置1における担体2に点滴することにより、各種成分を担体2に含浸させ、それぞれ検体1~7を得た。担体2としては、縦14cm、横9cm、開口率が15%のネット状のポリエステル製の担体を用いた。
【0051】
次に、
図3(A)に示すように、各種ピレスロイド系化合物の揮散量を測定するための試験装置30を準備した。試験装置30は、プラスチック製のボックス31(各辺1mの立方体)で作製されており、ボックス31の天井面の2か所に吸気孔32が設けられている。一方、ボックス31の側面底部の1か所にファン付き排気孔33が設けられている。排気孔33は、ボックス31内の空気が17L/分の割合で排気され、ボックス31内の空気がほぼ1時間で排気されるように設けられている。
つづいて、
図3(B)に示すように、ボックス31内に小型ファン34を設置し、ボックス31内の空気を循環させた。次いで、ボックス31内のほぼ中央部に検体35を吊り下げた。
【0052】
検体1~6については、ボックス31を用いた試験を7日間継続し、試験開始から7日後に検体35を取り出し、担体に含まれる各有効成分をアセトンで抽出し、ガスクロマトグラフを用い、担体に残存する各有効成分量を定量し、検体からの1日あたりの各有効成分の揮散量(mg)を算出した。また、検体7については、ボックス31を用いた試験を11日間継続し、試験開始から11日後に検体35を取り出したことを除いては、検体1~6と同様に試験を行い、検体からの1日あたりの各有効成分の揮散量(mg)を算出した。
結果を表3に示す。なお、検体7は試験回数(n)を3回、検体1~6は試験回数(n)を4回とし、結果は平均値として示した。
【0053】
【0054】
表3において、検体1および3(薬剤揮散組成物1および3)と、検体4および6(薬剤揮散組成物4および6)とをそれぞれ比較すると、トランスフルトリンおよびプロフルトリン(第1ピレスロイド系化合物)を併用した薬剤揮散組成物3および6は、それぞれ薬剤揮散組成物1および4に比べ、初期7日間における1日あたりのトランスフルトリンの揮散量が多いことが分かる。
また、薬剤揮散組成物1および2と、薬剤揮散組成物4および5とをそれぞれ比較すると、トランスフルトリン、プロフルトリン(第1ピレスロイド系化合物)およびエンペントリン(第2ピレスロイド系化合物)を併用した薬剤揮散組成物2および5は、それぞれ薬剤揮散組成物1および4に比べ、初期7日間における1日あたりのトランスフルトリンの揮散量が顕著に多いことが分かる。
【0055】
試験例2
薬剤揮散組成物として、試験例1で調製した検体1、2、4および5を用い、試験例1と同様に、薬剤揮散組成物1、2、4および5を含む検体1、2、4および5をそれぞれ作製した。
つづいて、
図4に示す試験装置40を作製した。
図4において、試験装置40は、直径20cm、長さ100cmの中空の円筒形状を呈し、一方の端部(上流端部)41に検体45が設置され、そこから下流方向15cmの位置にファン44が設置され、他方の端部(下流端部)46に供試虫20頭(ユスリカ成虫(雌雄混合))を収容したメッシュ状の試験ケージ47が設置されている。試験装置40は、ファン44の動作により上流方向から下流方向に向かって風速0.1m/秒の割合で空気が流通するよう設定した。
ファン44の運転を開始して、供試虫を揮散した薬剤に曝露した後、1分毎に供試虫のノックダウン数をカウントし、全頭数がノックダウンするまで観察した。その後、KT50(供試虫の50%がノックダウンする時間:分)をプロビット回帰分析にて算出した。
結果を表4に示す。なお、試験回数(n)は2回とし、結果は平均値として示した。
【0056】
【0057】
表4において、検体1および2(薬剤揮散組成物1および2)と、検体4および5(薬剤揮散組成物4および5)とをそれぞれ比較すると、トランスフルトリン、プロフルトリン(第1ピレスロイド系化合物)およびエンペントリン(第2ピレスロイド系化合物)を併用した薬剤揮散組成物2および5は、それぞれ薬剤揮散組成物1および4に比べ、供試虫がノックダウンするまでの時間が短いことが分かる。
【0058】
試験例3
下記表5に示す配合処方にしたがい、トランスフルトリンを含む薬剤揮散組成物8~11を調製し、試験例1と同様に、薬剤揮散組成物8~11を含む検体8~11をそれぞれ作製した。なお、薬剤揮散組成物10、11が実施例に相当し、薬剤揮散組成物8、9が比較例に相当する。
つづいて、
図4に示す試験装置40を用いて、以下の(1)~(4)の手順で試験を行い、吸血阻害率およびノックダウン率を調べた。なお、供試虫としてはヒトスジシマカ成虫(雌)20頭を用いた。
(1)供試虫に揮散した薬剤を曝露する前に、試験ケージ47のメッシュ部(外側)に実施者の手をかざした。それから1分間、実施者の手に対しメッシュ部の内側から針を刺そうとする行動(吸血意欲を示す行動)をとった蚊の頭数をカウントした(なお、供試虫のほとんどが吸血意欲を示す行動をとったことを確認した)。
(2)試験ケージ47を試験装置40内に設置した後、ファン44の運転を開始し、2分間供試虫を揮散した薬剤に曝露した。
(3)試験装置40から試験ケージ47を取出し、供試虫のノックダウン数をカウントし、全頭数に対するノックダウン率を算出した。
(4)試験ケージ47のメッシュ部(外側)に実施者の手をかざした。それから1分間、実施者の手に対しメッシュ部の内側から針を刺そうとする行動(吸血意欲を示す行動)をとった蚊の頭数をカウントした。
【0059】
吸血阻害率は下記式より算出した。
吸血阻害率(%)={(試験開始前に吸血意欲を示した頭数-試験後に吸血意欲を示した頭数)/(試験開始前に吸血意欲を示した頭数)}×100
【0060】
得られた吸血阻害率およびノックダウン率を表6に示す。なお、試験回数(n)は2回とし、結果は平均値として示した。
【0061】
【0062】
【0063】
試験例3の結果から、検体8および9(薬剤揮散組成物8および9)と、検体10および11(薬剤揮散組成物10および11)とを比較すると、トランスフルトリンおよびプロフルトリン(第1ピレスロイド系化合物)を併用した薬剤揮散組成物11は、薬剤揮散組成物8および9に比べ、吸血阻害率およびノックダウン率が向上していることが分かる。また、トランスフルトリン、プロフルトリン(第1ピレスロイド系化合物)およびエンペントリン(第2ピレスロイド系化合物)を併用した薬剤揮散組成物10は、薬剤揮散組成物8および9に比べ、吸血阻害率およびノックダウン率がさらに顕著に向上していることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
1 薬剤揮散装置
2 担体
3 容器
3a 正面部
3b 背面部
4、4’ 通風開口部
5 吊り下げフック(吊り下げ具)
6 空間
8a、8b 挟持部材
9 固定具
30 試験装置
31 ボックス
32 吸気孔
33 排気孔
34 小型ファン
35 検体
40 試験装置
41 上流端部
44 ファン
45 検体
46 下流端部
47 試験ケージ