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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】耐震補強壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221206BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E04B2/56 643A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018238423
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100960
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・スミリン ハイパーパネル工法(仮称) 技術評価資料(平成30年7月2日 住友林業ホームテック株式会社申請)
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597007282
【氏名又は名称】住友林業ホームテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 亮二
(72)【発明者】
【氏名】西田 正晴
(72)【発明者】
【氏名】岸 由美子
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-303070(JP,A)
【文献】特開2004-263500(JP,A)
【文献】実開昭59-147859(JP,U)
【文献】特開2003-232133(JP,A)
【文献】特開2005-232713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 2/56
E04B 1/10、1/18
E04B 1/24、1/26
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する一対の柱と、これらの一対の柱に跨るようにして上端部及び下端部に架け渡された上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を、天井材及び床材を残置したまま屋内からの作業によって補強可能にする耐震補強壁構造であって、
壁躯体における天井材の下方に間隔をおいて、一対の前記柱の間に架け渡されて取り付けられた上部受け桟と、床材の上方に間隔をおいて、両側の一対の前記柱の間に架け渡されて取り付けられた下部受け桟と、
天井材と前記上部受け桟との間の間隔部分における、前記上部受け桟と一対の前記柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記上部受け桟と前記柱とに接合されて取り付けられた上部コーナー金物と、床材と前記下部受け桟との間の間隔部分における、前記下部受け桟と一対の前記柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記下部受け桟と前記柱とに接合されて取り付けられた下部コーナー金物と、天井材及び床材との間の部分において、一対の前記柱に架け渡されて取り付けられると共に、上端部が前記上部受け桟に接合され、下端部が前記下部受け桟に接合された矩形形状の補強面材とを含んで構成されており、
前記上部コーナー金物及び下部コーナー金物は、金属プレートを用いて形成され、等脚台形形状の連結プレート部と、該連結プレート部の両側の斜辺部から当該連結プレート部に対して折り曲げられた、一対の接合プレート部とを備えていると共に、該一対の接合プレート部は、各々、くの字の断面形状を備えるように折り曲げられており、連結プレート部に対して斜めに傾斜する基端部側の部分に、金物止め用ビスを締着させるための締着孔が複数貫通形成されている耐震補強壁構造。
【請求項2】
前記壁躯体の内側は、前記上段横架材と前記下段横架材との間に架け渡された間柱によって、複数の壁区画に仕切られており、各々の壁区画において、前記上部受け桟及び前記下部受け桟が、両側の柱又は間柱の間に同じ高さで架け渡されて取り付けられており、前記上部受け桟と前記柱又は前記間柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記上部受け桟と前記柱又は前記間柱とに接合されて、前記上部コーナー金物が取り付けられており、前記下部受け桟と前記柱又は前記間柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記下部受け桟と前記柱又は前記間柱とに接合されて、前記下部コーナー金物が取り付けられている請求項1記載の耐震補強壁構造。
【請求項3】
前記補強面材は、上下方向に分割された複数枚の単位補強面材を、上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する前記単位補強面材は、これらの上端部又は下端部が、一対の前記柱に架け渡されたつなぎ桟に接合されていることで、該つなぎ桟を介して複数枚の前記単位補強面材が一体となった前記補強面材が形成されている請求項1又は2記載の耐震補強壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強壁構造に関し、特に、隣接する一対の柱と、上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を、天井材及び床材を残置したまま補強可能にする耐震補強壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、東日本大震災や阪神淡路大震災等の大規模な地震が頻発しており、今後も、例えば東海地震、東南海地震、南海地震等の大規模な地震の発生が予測されることから、特に都市部における木造建築物等の建物に対して、耐震改修を行うことが要望されている。
【0003】
また、建物を効果的に耐震改修するための方法として、隣接する一対の柱と、上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を耐震補強することが提案されており、壁躯体を耐震補強する場合に、天井材と床材とを残置したまま、屋内での作業によって、効率良く施工できるようにした耐震補強構造も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-232713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された木造住宅の耐震補強構造では、隣接する一対の柱と、上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体において、一対の柱の間に架け渡して、上段横架材の下方に間隔をおいて天井材の縁部近傍に上段の補助横架材を取り付けると共に、下段横架材の上方に間隔をおいて床材の縁部近傍に下段の補助横架材を取り付けておき、これらの一対の柱と上下の補助横架材とに周縁部を留め付けるようにして、室内側から補強面材を取り付けることによって、天井材や床材を撤去することなく、壁躯体を耐震補強できるようになっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された耐震補強構造では、天井材の上方の天井懐の部分において、壁躯体の上段横架材とこれの下方に配置された上段の補助横架材との間には、相当の大きさの開口部分が残ったままの状態となっていると共に、また床材の下方の部分において、壁躯体の下段横架材とこれの上方に配置された下段の補助横架材との間には、相当の大きさの開口部分が残ったままの状態となっており、地震荷重を受けた際に、柱の中間部分の上段の補助横架材や下段の補助横架材との接合部に曲げモーメントが生じることになるため、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールの制約を受けることになると共に、高耐力の耐震補強壁が得られるように設計することが難しくなる。
【0007】
本発明は、天井材や床材を撤去することなく、屋内からの作業によって効率良く耐震補強できると共に、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることになく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計することのできる耐震補強壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、隣接する一対の柱と、これらの一対の柱に跨るようにして上端部及び下端部に架け渡された上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を、天井材及び床材を残置したまま屋内からの作業によって補強可能にする耐震補強壁構造であって、壁躯体における天井材の下方に間隔をおいて、一対の前記柱の間に架け渡されて取り付けられた上部受け桟と、床材の上方に間隔をおいて、両側の一対の前記柱の間に架け渡されて取り付けられた下部受け桟と、天井材と前記上部受け桟との間の間隔部分における、前記上部受け桟と一対の前記柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記上部受け桟と前記柱とに接合されて取り付けられた上部コーナー金物と、床材と前記下部受け桟との間の間隔部分における、前記下部受け桟と一対の前記柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記下部受け桟と前記柱とに接合されて取り付けられた下部コーナー金物と、天井材及び床材との間の部分において、一対の前記柱に架け渡されて取り付けられると共に、上端部が前記上部受け桟に接合され、下端部が前記下部受け桟に接合された矩形形状の補強面材とを含んで構成されており、前記上部コーナー金物及び下部コーナー金物は、金属プレートを用いて形成され、等脚台形形状の連結プレート部と、該連結プレート部の両側の斜辺部から当該連結プレート部に対して折り曲げられた、一対の接合プレート部とを備えていると共に、該一対の接合プレート部は、各々、くの字の断面形状を備えるように折り曲げられており、連結プレート部に対して斜めに傾斜する基端部側の部分に、金物止め用ビスを締着させるための締着孔が複数貫通形成されている耐震補強壁構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明の耐震補強壁構造は、前記壁躯体の内側が、前記上段横架材と前記下段横架材との間に架け渡された間柱によって、複数の壁区画に仕切られており、各々の壁区画において、前記上部受け桟及び前記下部受け桟が、両側の柱又は間柱の間に同じ高さで架け渡されて取り付けられており、前記上部受け桟と前記柱又は前記間柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記上部受け桟と前記柱又は前記間柱とに接合されて、前記上部コーナー金物が取り付けられており、前記下部受け桟と前記柱又は前記間柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記下部受け桟と前記柱又は前記間柱とに接合されて、前記下部コーナー金物が取り付けられていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の耐震補強壁構造は、前記補強面材が、上下方向に分割された複数枚の単位補強面材を、上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する前記単位補強面材は、これらの上端部又は下端部が、一対の前記柱に架け渡されたつなぎ桟に接合されていることで、該つなぎ桟を介して複数枚の前記単位補強面材が一体となった前記補強面材が形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐震補強壁構造によれば、天井材や床材を撤去することなく、屋内からの作業によって効率良く耐震補強できると共に、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることになく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は、本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する室内側から見た正面図、(b)は、(a)のA-Aに沿った断面図である。
図2】(a)は、本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する、図1(b)のB部拡大図、(b)は、図1(b)のC部拡大図である。
図3】(a)は、上部コーナー金物及び下部コーナー金物の正面図、(b)は側面図である。
図4】本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する、補強面材を取り付ける前の状態の正面図である。
図5】(a)、(b)は、本発明の好ましい他の実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する、補強面材を取り付ける前の状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造10は、建物として、例えば軸組構法による2階建ての木造の住宅建築物において、図1に示すように、隣接する一対の柱31と、これらの一対の柱31に跨るようにして上下に架け渡された上段横架材32及び下段横架材33とを含む壁躯体30に対して、天井材34と床材35とを残置したまま、屋内での作業によって、効率良く耐震補強できるようにする補強用の壁構造として採用されたものである。本実施形態では、上段横架材32は、建物の1階部分については2階の床梁、建物の2階部分については小屋梁となっており、下段横架材33は、建物の1階部分については土台、2階部分については床梁となっている。本実施形態の耐震補強壁構造10は、特に、天井材34及び床材35を撤去しないことで開口部分となっている、壁躯体30における、天井材34と上段横架材32との間の天井懐30aや、床材35と下段横架材33との間の床下間隔部30bに対しても、天井材34及び床材35を残置したままの状態で効果的に補強できるようにして、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることになく、また好ましくは上段横架材32の下方や下段横架材33の上方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることなく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計できるようにする機能を備えている。
【0014】
そして、本実施形態の耐震補強壁構造10は、図1(a)、(b)に示すように、隣接する一対の柱31と、これらの一対の柱31に跨るようにして上端部及び下端部に架け渡された上段横架材32及び下段横架材33とを含む壁躯体30を、天井材34及び床材35を残置したまま屋内からの作業によって補強可能にする耐震補強壁構造であって、壁躯体30における天井材34の下方に間隔をおいて、一対の柱31の間に架け渡されて取り付けられた上部受け桟15と、床材35の上方に間隔をおいて、両側の一対の柱31の間に架け渡されて取り付けられた下部受け桟20と、天井材34と上部受け桟15との間の間隔部分における上部受け桟15と一対の柱31との角部内側部分の各々に、両端部が上部受け桟15と柱31とに接合されて取り付けられた上部コーナー金物16と、床材35と下部受け桟20との間の間隔部分における下部受け桟20と一対の柱31との角部内側部分の各々に、両端部が下部受け桟と柱31とに接合されて取り付けられた下部コーナー金物22と、天井材34及び床材35との間の部分において、一対の柱31に架け渡されて取り付けられると共に、上端部が上部受け桟15に接合され、下端部が下部受け桟20に接合された矩形形状の補強面材17とを含んで構成されている。
【0015】
また、本実施形態の耐震補強壁構造10は、好ましくは、壁躯体30の内側は、上段横架材32と下段横架材33との間に架け渡された間柱36によって、複数の壁区画37に仕切られており、各々の壁区画37において、上部受け桟15及び下部受け桟20が、両側の柱31又は間柱36の間に同じ高さで架け渡されて取り付けられており、上部受け桟15と柱31又は間柱36との角部内側部分の各々に、両端部が上部受け桟15と柱31又は間柱36とに接合されて、上部コーナー金物16が取り付けられており、下部受け桟20と柱31又は間柱36との角部内側部分の各々に、両端部が下部受け桟20と柱31又は間柱36とに接合されて、下部コーナー金物22が取り付けられている。
【0016】
さらに、本実施形態の耐震補強壁構造10は、好ましくは、補強面材17は、上下方向に分割された複数枚の単位補強面材17aを、上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する単位補強面材17aは、これらの上端部又は下端部が、一対の柱31に架け渡されたつなぎ桟21に接合されていることで、つなぎ桟21を介して複数枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が形成されている。
【0017】
本実施形態では、耐震補強される壁躯体30は、例えば建物の1階部分を構成する壁躯体となっており、上段横架材32は、例えば横幅が105mm程度、縦幅が180mm程度の大きさの角形断面を有する木製の角材からなる2階部分の床梁となっている。下段横架材33は、例えば縦横105mm程度の大きさの角形断面を有する木製の角材からなる土台となっており、一対の柱31は、例えば縦横105mm程度の大きさの角形断面を有する木製の角材からなり、上段横架材32を下方から支持するようにして下段横架材33から立設して設けられている。上段横架材32と下段横架材33とは、縦方句に2730mm程度の中心間間隔をおいて、横方向に平行に延設して配置されていると共に、一対の柱31は、横方向に1820mm程度の中心間間隔をおいて、縦方向に平行に延設して配置されることによって、壁躯体30の骨組み構造が形成されている。
【0018】
また、本実施形態では、天井材34は、上段横架材32の下端部から例えば85mm程度下がった位置に配置されており、これによって壁躯体30における天井材34の上方には、上段横架材32との間に開口部分となっている天井懐30aが形成さている。床材35は、下段横架材33の上端部から例えば85mm程度上がった位置に配置されており、これによって壁躯体30における床材35の下方には、下段横架材33との間に、開口部分となっている床下間隔部30bが形成さている。なお、補強面材17の高さは、上段横架材32から下段横架材33までの内法に対し、80%以上の高さを有していることが好ましい。
【0019】
さらに、本実施形態では、上述のように、壁躯体30の内側は、上段横架材32と下段横架材33との間に架け渡された複数本(本実施形態では3本)の間柱36によって、複数(本実施形態では4箇所)の壁区画37に仕切られている。間柱36は、例えば30mm×60mmの木製の角材からなり、上端部を上段横架材32の下面に、下端部を下段横架材33の上面に各々接合することで、一対の柱31の間に、これらと平行に立設して、例えば450~460mm程度の中心間ピッチとなるように取り付けられている。これによって、壁躯体30の内側は、4箇所の壁区画37に仕切られる。
【0020】
本実施形態では、壁躯体30の上端部分に、天井材34の下方に間隔をおいて取り付けられる上部受け桟15は、例えば30mm×105mmの木製の板材からなり、壁躯体30における隣接する2箇所の壁区画37にまたがる長さを有している。上部受け桟15は、左右両側の各隣接する2箇所の壁区画37において、例えば天井材34の下方に例えば65~115mm程度の間隔をおいて、柱31と中央部の間柱36との間に、表面が柱31や間柱36の表面と面一になるよう嵌め込むようにして装着されると共に(図1(b)、図2(a)、図4参照)、壁区画37の内側から、上部受け桟15の端部を貫通させて、柱31や間柱36の側面に向けて、固定部材として例えばコーススレッド38(図4参照)を、複数本斜めに打ち込むことによって、柱31や間柱36に一体として固定することができる。
【0021】
ここで、柱31と中央部の間柱36と間に配置される一対の中間部の間柱36には、上部受け桟15の取り付け位置と対応する高さ位置の表面側に、上部受け桟15の厚さに相当する深さの切欠きを適宜設けておくことにより、上部受け桟15との干渉を回避することが可能になる。一対の上部受け桟15は、同じ高さで架け渡されていることにより、一対の柱31の間に、中央部の間柱36を介在させつつ連続した状態で架け渡されることになる。
【0022】
また、本実施形態では、壁躯体30の下端部分に、床材35の上方に間隔をおいて取り付けられる下部受け桟20は、上部受け桟15と同様に、例えば30mm×105mmの木製の板材からなり、壁躯体30における隣接する2箇所の壁区画37にまたがる長さを有している。下部受け桟20は、左右両側の各隣接する2箇所の壁区画37において、例えば床材35の下方に例えば65~115mm程度の間隔をおいて、柱31と中央部の間柱36との間に、表面が柱31や間柱36の表面と面一になるよう嵌め込むようにして装着されると共に(図1(b)、図2(b)、図4参照)、壁区画37の内側から、下部受け桟20の端部を貫通させて、柱31や間柱36の側面に向けて、固定部材として例えばコーススレッド38(図4参照)を、複数本斜めに打ち込むことによって、柱31や間柱36に一体として固定することができる。
【0023】
ここで、柱31と中央部の間柱36と間に配置される一対の中間部の間柱36には、下部受け桟20の取り付け位置と対応する高さ位置の表面側に、上部受け桟15の場合と同様に、下部受け桟20の厚さに相当する深さの切欠きを適宜設けておくことにより、下部受け桟20との干渉を回避することが可能になる。一対の下部受け桟20は、同じ高さで架け渡されていることにより、一対の柱31の間に、中央部の間柱36を介在させつつ連続した状態で架け渡されることになる。
【0024】
さらに、本実施形態では、壁躯体30を上下方向に3分割する位置に、好ましくは上部受け桟15や下部受け桟20と平行に配置して、2本のつなぎ桟21が、一対の柱31の間に架け渡すようにして取り付けられている。つなぎ桟21は、上部受け桟15や下部受け桟20と同様に、例えば30mm×105mmの木製の板材からなり、壁躯体30における隣接する2箇所の壁区画37にまたがる長さを有している。つなぎ桟21は、左右両側の各隣接する2箇所の壁区画37において、上部受け桟15と下部受け桟20との間隔部分を上下方向に3分割する高さ位置に配置されて、柱31と中央部の間柱36との間に、表面が柱31や間柱36の表面と面一になるように嵌め込むようにして装着されると共に(図1(b)、図2(b)、図4参照)、壁区画37の内側から、つなぎ桟21の端部を貫通させて、柱31や間柱36の側面に向けて、固定部材として例えばコーススレッド38(図4参照)を、複数本斜めに打ち込むことによって、柱31や間柱36に一体として固定することができる。
【0025】
ここで、柱31と中央部の間柱36との間に配置される中間部の間柱36には、つなぎ桟21の取り付け位置と対応する高さ位置の表面側に、上部受け桟15や下部受け桟20の場合と同様に、つなぎ桟21の厚さに相当する深さの切欠きを適宜設けておくことにより、つなぎ桟21との干渉を回避することが可能になる。一対のつなぎ桟21は、同じ高さで架け渡されていることにより、一対の柱31の間に、中央部の間柱36を介在させつつ連続した状態で架け渡されることになる。
【0026】
上部受け桟15と一対の柱31との角部内側部分の各々取り付けられる上部コーナー金物16は、図3(a)、(b)に示すように、例えば2mm程度の厚さの金属プレートを用いて形成されており、等脚台形形状の連結プレート部16aと、連結プレート部16aの両側の斜辺部から当該連結プレート部16aに対して折り曲げられた、一対の接合プレート部16bとを備えている。一対の接合プレート部16bは、各々、くの字の断面形状を備えるように折り曲げられており、連結プレート部16aに対して斜めに傾斜する基端部側の部分に、金物止め用ビスを締着させるための締着孔16cが複数貫通形成されている。
【0027】
上部コーナー金物16は、本実施形態では、各々の壁区画37の上端部分における、上部受け桟15の上辺部と一対の柱31又は間柱36との両側の角部内側部分の各々に、両端部の接合プレート部16bを沿わせると共に、上部受け桟15と柱31又は間柱36とに向けて、締着孔16cを介して金物止め用ビスを打ち込んで締着固定することにより、これらの角部内側部分に強固に取り付けることができる。金物止め用ビスを締着させるための締着孔16cが、接合プレート部16bの斜めに傾斜する基端部側の部分に形成されていることにより、金物止め用ビスを、上部受け桟15や柱31や間柱36に対して斜め方向に打ち込ませることが可能になるので、金物止め用ビスを打ち込む際に、上部受け桟15と柱31や間柱36に割れが生じることになるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0028】
下部受け桟20と一対の柱31との角部内側部分の各々取り付けられる下部コーナー金物22は、上部コーナー金物16と同様に、図3(a)、(b)に示すように、例えば2mm程度の厚さの金属プレートを用いて形成されており、等脚台形形状の連結プレート部22aと、連結プレート部22aの両側の斜辺部から当該連結プレート部22aに対して折り曲げられた、一対の接合プレート部22bとを備えている。一対の接合プレート部22bは、各々、くの字の断面形状を備えるように折り曲げられており、連結プレート部22aに対して斜めに傾斜する基端部側の部分に、金物止め用ビスを締着させるための締着孔22cが複数貫通形成されている。
【0029】
下部コーナー金物22は、各々の壁区画37の下端部分における、下部受け桟20の下辺部と一対の柱31又は間柱36との両側の角部内側部分の各々に、両端部の接合プレート部22bを沿わせると共に、下部受け桟20と柱31又は間柱36とに向けて、締着孔22cを介して金物止め用ビスを打ち込んで締着固定することにより、これらの角部内側部分に強固に取り付けることができる。金物止め用ビスを締着させるための締着孔22cが、接合プレート部22bの斜めに傾斜する基端部側の部分に形成されていることにより、金物止め用ビスを、下部受け桟20や柱31や間柱36に対して斜め方向に打ち込ませることが可能になるので、金物止め用ビスを打ち込む際に、下部受け桟20や柱31や間柱36に割れが生じることになるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0030】
本実施形態では、一対の柱31に架け渡されて取り付けられる補強面材17は、図1(a)、(b)に示すように、建築用の耐力面材として知られる公知の各種の板状部材を用いることができる。本実施形態では、補強面材17として、好ましくは石膏ボードを用いることができ、より具体的には、例えば12.5mm程度の厚さの硬質石膏ボードを用いることができる。補強面材17は、床材35から天井材34までの高さと同様の、例えば2400mm程度の縦幅を有すると共に、両側の一対の柱31の中心間の間隔と同様の、例えば1820mm程度の横幅を有する、矩形形状に形成されている。
【0031】
補強面材17は、両側の一対の柱31の間に架け渡された、上述の上部受け桟15に、天井材34の下方の部分において上端部が一体として接合されると共に、両側の一対の柱31の間に架け渡された、下部受け桟20に、床材35の上方の部分において下端部が一体として接合される。
【0032】
また、本実施形態では、補強面材17は、上述にように、好ましくは上下方向に分割された複数枚(本実施形態では3枚)の単位補強面材17aを、上下方向に連設配置して形成されている。上下に隣接する単位補強面材17aは、これらの上端部又は下端部が、両側の一対の柱31の間に架け渡された、上述のつなぎ桟21に各々接合されていることで、これらのつなぎ桟21を介して、3枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が形成されるようになっている。
【0033】
本実施形態の耐震補強壁構造10により、屋内からの作業によって既存の壁躯体30を耐震補強するには、先ず天井材34及び床材35を残置したまま、天井材34と床材35との間の部分の壁仕上げ材や壁下地材等を撤去して、両側の一対の柱31を、これらの内側に配置された、壁躯体30の内側を4箇所の壁区画37に仕切る3本の間柱36と共に露出させる。
【0034】
しかる後に、図4に示すように、壁躯体30の上端部分に、上述のようにして、屋内からの作業によって、天井材34の下方に所定の間隔をおいて一対の上部受け桟15を、一対の柱31の間に同じ高さで架け渡すようにして連続させて取り付けると共に、天井材34と、天井材34の下方に取り付けられた上部受け桟15との間の間隔部分を利用して、各々の壁区画37における、上部受け桟15の上端面と一対の柱31又は間柱36の側面との両側の角部内側部分に、上部コーナー金物16を取り付ける。
【0035】
また、壁躯体30の下端部分に、上述のようにして、屋内からの作業によって、床材35の上方に所定の間隔をおいて一対の下部受け桟20を、一対の柱31の間に同じ高さで架け渡すようにして連続させて取り付けると共に、床材35と、床材35の上方に取り付けられた下部受け桟20との間の間隔部分を利用して、各々の壁区画37における、下部受け桟20の下端面と一対の柱31又は間柱36の側面との両側の角部内側部分に、下部コーナー金物22を取り付ける。
【0036】
さらに、壁躯体30を上下方向に3分割する上下2段の位置に、上述のようにして、屋内からの作業によって、各々2本のつなぎ桟21を、一対の柱31の間に同じ高さで架け渡すようにして連続させて取り付ける。
【0037】
これらの上部受け桟15、下部受け桟20、つなぎ桟21、上部コーナー金物16、及び下部コーナー金物22を、屋内からの作業によって、天井材34と床材35とを残置したまま取り付けたら、同様に屋内からの作業によって、図1(a)、(b)に示すように、天井材34と床材35との間の部分において、補強面材17を、一対の柱31に架け渡たすと共に、上端部を上部受け桟15に、下端部を下部受け桟20に接合することによって取り付ける。また、本実施形態では、補強面材17は、上述のように、上下方向に3分割された3枚の単位補強面材17aを上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する単位補強面材17aは、これらの上端部又は下端部がつなぎ桟21に各々接合されていることで、3枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が形成されるようになっている。
【0038】
すなわち、上段の単位補強面材17aは、上端部の裏面側を上部受け桟15の表面側に当接させ、両側の側端部の裏面側を一対の柱31の表面側に各々当接させ、下端部の裏面側を上段のつなぎ桟21の表面側に当接させた状態で、例えば表面側からこれらの上部受け桟15や柱31やつなぎ桟21に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって強固に固定して、壁躯体30に取り付けることができる。中段の単位補強面材17aは、上端部の裏面側を上段のつなぎ桟21の表面側に当接させ、両側の側端部の裏面側を一対の柱31の表面側に各々当接させ、下端部の裏面側を下段のつなぎ桟21の表面側に当接させた状態で、例えば表面側からこれらのつなぎ桟21や柱31に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって強固に固定して、壁躯体30に取り付けることができる。下段の単位補強面材17aは、上端部の裏面側を下段のつなぎ桟21の表面側に当接させ、両側の側端部の裏面側を一対の柱31の表面側に各々当接させ、下端部の裏面側を下部受け桟20の表面側に当接させた状態で、例えば表面側からこれらのつなぎ桟21や柱31や下部受け桟20に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって強固に固定して、壁躯体30に取り付けることができる。これらによって、3枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が、天井材34と床材35との間の部分において、一対の柱31に架け渡されて取り付けられることになる。
【0039】
なお、壁躯体30に補強面材17を取り付けるのに先立って、壁躯体30の内側に、断熱材や遮音材等を適宜配置しておくこともできる。また、補強面材17における間柱36と重なる部分において、例えば表面側からこれらの間柱36に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって、補強面材17を、壁躯体30にさらに強固に固定することが可能になる。上部受け桟15や下部受け桟20やつなぎ桟21が、柱31と中央部の間柱36との間に配置される中間部の間柱36と交差する部分において、上部受け桟15や下部受け桟20やつなぎ桟21の表面側から当該中間部の間柱36に向けて固定ビスを打ち込むことによって、より強固に、上部受け桟15や下部受け桟20やつなぎ桟21を固定することが可能になる。
【0040】
上述のようにして、壁躯体30に補強面材17を取り付けたら、天井材34と床材35との間の部分の補強面材17を覆って、壁下地材や壁仕上げ材を取り付けることによって、本実施形態の耐震補強壁構造10の施工が終了する。
【0041】
そして、上述の構成を備える本実施形態の耐震補強壁構造10によれば、上述のように、天井材34や床材35を撤去することなく、屋内からの作業によって効率良く耐震補強することが可能になると共に、柱31の中間部分として、柱31における補強面材17の上端部が接合される上部受け桟15の高さ位置や、補強面材17の下端部が接合される下部受け桟20の高さ位置において、曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることなく、また好ましくは上段横架材32の下方や下段横架材33の上方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることなく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計することが可能になる。
【0042】
すなわち、本実施形態によれば、壁躯体30における天井材34の下方に間隔をおいて取り付けられた、補強面材17の上端部が接合される上部受け桟15と、一対の柱31との角部内側部分の各々に、両端部が上部受け桟15と柱31とに接合されて取り付けられた上部コーナー金物16が取り付けられており、壁躯体30における床材35の上方に間隔をおいて取り付けられた、補強面材17の下端部が接合される下部受け桟20と、一対の柱31との角部内側部分の各々に、両端部が下部受け桟20と柱31とに接合されて取り付けられた下部コーナー金物22が取り付けられているので、上部受け桟15と柱31との接合部分や下部受け桟20と柱31との接合部分にモーメントが生じないように効果的に補強することが可能になる。これによって、壁躯体30の上段横架材32と、これの下方に配置された、補強面材17の上端部が接合される上部受け桟15との間に、開口部分が残ったままの状態となっており、且つ壁躯体30の下段横架材33と、これの上方に配置された、補強面材17の下端部が接合される下部受け桟20との間に、開口部分が残ったままの状態となっていることで、例えば地震荷重を受けた際に、柱31の中間部分の上部受け桟15との接合部及び下部受け桟20との接合部に、曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールの制約を受けることになるのを解消させて、また好ましくは上段横架材32の下方や下段横架材33の上方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることになるのを解消させて、高耐力の耐震補強壁を容易に設計させることが可能になる。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、壁躯体の内側は、間柱によって4箇所の壁区画に仕切られている必要は必ずしも無く、図5(a)に示すように、2箇所の壁区画に仕切られていても良い。壁躯体の内側は、図5(b)に示すように、間柱によって仕切られていなくても良く、上部コーナー金物16や下部コーナー金物22は、上部受け桟15や下部受け桟20と一対の柱31との接合部における、上部受け桟15や下部受け桟20の各々の両端部の一対の柱31との角部内側部分にのみ取り付けられていても良い。補強面材は、複数枚の単位補強面材がつなぎ桟を介して一体となったものである必要は必ずしも無く、単一の面材からなるものであっても良い。本発明の耐震補強壁構造によって壁躯体が補強される建物は、2階建ての木造の住宅建築物以外の、平屋建てや3階建て以上の建物であっても良く、木造の壁躯体を含む、木造以外の建物であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10 耐震補強壁構造
15 上部受け桟
16 コーナー金物
16a 連結プレート部
16b 接合プレート部
16c 締着孔
17 補強面材
17a 単位補強面材
20 下部受け桟
21 つなぎ桟
22 下部コーナー金物
22a 連結プレート部
22b 接合プレート部
22c 締着孔
30 壁躯体
30a 天井懐
30b 床下間隔部
31 柱
32 上段横架材
33 下段横架材
34 天井材
35 床材
36 間柱
37 壁区画
図1
図2
図3
図4
図5