(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】呼気ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20221206BHJP
A61B 5/087 20060101ALI20221206BHJP
A61B 5/097 20060101ALI20221206BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/087
A61B5/097
G01N33/497 A
(21)【出願番号】P 2018243257
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達典
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大昌
(72)【発明者】
【氏名】灘浪 紀彦
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0185112(US,A1)
【文献】特表2017-512556(JP,A)
【文献】特表2013-519896(JP,A)
【文献】特表2016-500151(JP,A)
【文献】国際公開第2012/127794(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106901742(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0100043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08-5/097
G01N 33/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の呼気に含まれる特定ガスを検知する呼気ガス検知装置であって、
第1開口部から第2開口部まで繋がる1本のガス流路であって前記呼気が通過するガス流路を備える本体部と、
前記第1開口部で前記ガス流路に繋がるように設けられ、前記被験者による前記呼気の吹き込み動作および前記被験者による吸気動作が可能に構成されたマウスピースと、
前記ガス流路に設けられ、前記特定ガスを検知するガス検知部と、
前記ガス流路のうち、前記ガス検知部よりも前記第2開口部に近い領域に設けられ、少なくとも前記特定ガスを除去する異物除去部と、
前記ガス検知部の検知結果に基づいて前記呼気に含まれる前記特定ガスの存在の程度を判定する検知判定部と、
を備え、
前記ガス流路は、前記第1開口部および前記第2開口部を介して前記本体部の外部と繋がるように
構成され、
前記検知判定部は、前記被験者による吸気動作によって前記ガス検知部に大気を導入したときの前記ガス検知部による検知結果に対応した状態量である基準ガス値と、前記被験者による呼気吹き込み操作によって前記ガス検知部に前記呼気を導入したときの前記ガス検知部による検知結果に対応した状態量である検知ガス値と、を用いて、前記呼気に含まれる前記特定ガスの存在の程度を判定する、
呼気ガス検知装置。
【請求項2】
前記ガス流路に設けられ、前記ガス流路の内部を流れるガスの移動方向が、前記第1開口部から前記第2開口部に向かう第1方向であるか、前記第2開口部から前記第1開口部に向かう第2方向であるかを判定する移動方向判定部を備える、
請求項1に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項3】
前記移動方向判定部は、流体の流量および流体の移動方向を測定可能に構成された流量センサを備えている、
請求項2に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項4】
前記ガス検知部は、混成電位式センサを用いて構成されている、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項5】
前記特定ガスは一酸化窒素である、
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項6】
前記マウスピースは、湿度成分、NO
2
、アセトニトリルのうち少なくとも1つを吸着する吸着部を備える、
請求項5に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項7】
前記異物除去部は、少なくとも過マンガン酸カリウムを備える、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項8】
前記マウスピースは、前記呼気の流速を調整するための絞り構造を備えている、
請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載の呼気ガス検知装置。
【請求項9】
前記マウスピースは、前記本体部に対して着脱自在に構成されている、
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載の呼気ガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、呼気ガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の呼気に含まれる特定ガス(特定成分)を検知する呼気ガス検知装置として、種々の装置が提案されている。
例えば、診断用ガス分析装置(特許文献1)では、ガス流路を変更するための弁(三方向弁9など)を備えている。呼気分析システム(特許文献2)では、周囲空気を分析器(215)に取り込むガス流路と、被験者(人体)の呼気(240)を分析器(215)に取り込むガス流路(250)と、が別々に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4472533号公報
【文献】特許第5848608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の装置のように、弁を備える構成や、複数のガス流路を備える構成では、構成部材が増えるため、コストの増加や装置構成の複雑化という問題が生じる可能性がある。
【0005】
そこで、本開示の一局面においては、被験者の呼気における特定ガスを検知するにあたり、コスト低減および装置構成の簡素化を実現できる呼気ガス検知装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、被験者の呼気に含まれる特定ガスを検知する呼気ガス検知装置であって、本体部と、マウスピースと、ガス検知部と、異物除去部と、を備えている。
本体部は、ガス流路を備える。ガス流路は、第1開口部から第2開口部まで繋がる1本のガス流路で構成され、呼気が通過するように構成されている。マウスピースは、第1開口部でガス流路に繋がるように設けられる。マウスピースは、被験者による呼気の吹き込み動作および被験者による吸気動作が可能に構成されている。ガス検知部は、ガス流路に設けられ、特定ガスを検知するように構成されている。異物除去部は、ガス流路のうち、ガス検知部よりも第2開口部に近い領域に設けられ、少なくとも特定ガスを除去するように構成されている。
【0007】
ガス流路は、第1開口部および第2開口部を介して本体部の外部と繋がるように構成されている。
このように構成された呼気ガス検知装置は、マウスピースでの被験者による吸気動作時には、ガス流路内のガスが第1開口部からガス流路の外部に排出され、第2開口部から外気(大気)をガス流路の内部に取り込むように構成されている。また、この呼気ガス検知装置は、マウスピースでの被験者による呼気吹き込み動作時には、呼気が第1開口部からガス流路の内部に導入され、ガス流路内のガス(呼気)が第2開口部から外部に排出されるように構成されている。
【0008】
このような構成の呼気ガス検知装置は、ガス(呼気)を移動させるポンプやガス流路の開閉動作を行うバルブなどを設けることなく、被験者の呼吸動作が呼気吹き込み動作および吸気動作のいずれかに切り替わることによって、ガス検知部への呼気の導入、およびガス検知部への基準ガス(大気)の導入、をそれぞれ実現できる。
【0009】
よって、この呼気ガス検知装置によれば、被験者の呼気における特定ガスを検知するにあたり、ポンプやバルブなどの部材が不要となるため、装置構成が簡略化できるとともに、製造コストを低減できる。
【0010】
なお、呼気ガス検知装置の利用者(被験者、医師、看護師など)は、例えば、基準ガス値と、検知ガス値と、を用いて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を判定してもよい。具体的には、利用者は、基準ガス値と検知ガス値との比較結果に基づいて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を判定してもよい。なお、基準ガス値は、被験者による吸気動作によってガス検知部に基準ガスを導入したときのガス検知部による検知結果に対応した状態量である。検知ガス値は、被験者による呼気吹き込み操作によってガス検知部に呼気を導入したときのガス検知部による検知結果に対応した状態量である。
【0011】
この場合、例えば、基準ガス値の検知タイミングおよび検知ガス値の検知タイミングを予め定めておき、各タイミングに応じて、被験者が吸気動作および呼気吹き込み動作を実行することで、基準ガス値および検知ガス値を得ることができる。なお、「呼気に含まれる特定ガスの存在の程度」に関する指標としては、特定ガスの濃度であってもよいし、特定ガスの存在量を数段階のレベルで評価する態様の段階指標(例えば、存在量が大、中、小といったレベルで評価)でもよいし、特定ガスの有り・無しの結果であってもよい。
【0012】
次に、上述の呼気ガス検知装置においては、移動方向判定部を備えてもよい。移動方向判定部は、ガス流路に設けられる。移動方向判定部は、ガス流路の内部を流れるガスの移動方向が、第1開口部から第2開口部に向かう第1方向であるか、第2開口部から第1開口部に向かう第2方向であるかを判定する。
【0013】
呼気ガス検知装置は、このような移動方向判定部を備えることで、被験者が任意のタイミングで吸気動作および呼気吹き込み動作を行う場合でも、移動方向判定部の判定結果を用いて、基準ガス値の検知タイミングおよび検知ガス値の検知タイミングを判定できる。これにより、呼気ガス検知装置は、移動方向判定部の判定結果を用いることで、基準ガス値の検知タイミングおよび検知ガス値の検知タイミングを予め定めることなく、移動方向判定部での判定結果に基づいて基準ガス値および検知ガス値を取得できる。
【0014】
なお、呼気ガス検知装置は、移動方向判定部の判定結果を利用者に報知する報知部を備えてもよい。報知部は、例えば、ランプなどを用いた表示形態でもよいし、音を用いた音声通知形態でもよいし、外部機器に対して信号形式で出力する形態でもよい。
【0015】
次に、移動方向判定部を備える上述の呼気ガス検知装置においては、移動方向判定部は、流体の流量および流体の移動方向を測定可能に構成された流量センサを備えてもよい。
このような構成の移動方向判定部は、流量センサでの検知結果に基づいて、ガス流路の内部を流れるガスの移動方向が第1方向であるか第2方向であるかを判定できる。
【0016】
次に、上述の呼気ガス検知装置においては、ガス検知部の検知結果に基づいて呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を判定する検知判定部を備えてもよい。検知判定部は、基準ガス値と検知ガス値とを用いて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を判定するように構成されている。基準ガス値は、被験者による吸気動作によってガス検知部に大気(基準ガス)を導入したときのガス検知部による検知結果に対応した状態量である。検知ガス値は、被験者による呼気吹き込み操作によってガス検知部に呼気を導入したときのガス検知部による検知結果に対応した状態量である。
【0017】
このような呼気ガス検知装置は、検知判定部を備えることで、利用者自身が基準ガス値と検知ガス値との比較やそれらの値の分析を行うことなく、検知判定部による判定結果に基づいて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を容易に判定できる。呼気に含まれる特定ガスの存在の程度に関する指標としては、特定ガスの濃度であってもよいし、特定ガスの存在量を数段階のレベルで評価する態様の段階指標(例えば、存在量が大、中、小といったレベルで評価)でもよいし、特定ガスの有り・無しの結果であってもよい。
【0018】
なお、検知判定部は、本体部の内部に備えられる構成であってもよいし、本体部の外側に備えられる構成であってもよい。
次に、上述の呼気ガス検知装置においては、ガス検知部は、混成電位式センサを用いて構成されてもよい。このような混成電位式センサを用いることで、呼気に含まれる特定ガス(例えば、窒素酸化物など)を検出することができる。なお、混成電位式センサは、例えば、固体電解質体と、固体電解質体の表面に配置された一対の電極を用いて構成してもよい。
【0019】
次に、上述の呼気ガス検知装置においては、特定ガスは一酸化窒素であってもよい。このような呼気ガス検知装置は、被験者の呼気に含まれる一酸化窒素の存在の程度を判定でき、被験者の健康状態(喘息であるか否かなど)を判定できる。
【0020】
次に、特定ガスが一酸化窒素である上述の呼気ガス検知装置においては、マウスピースは、湿度成分、NO2、アセトニトリルのうち少なくとも1つを吸着する吸着部を備えてもよい。
【0021】
このような呼気ガス検知装置は、ガス検知部への呼気の導入時に、呼気から湿度成分、NO2、アセトニトリルのうち少なくとも1つを低減でき、特定ガスとして一酸化窒素(NO)を検知するにあたり、検知ガス値の検知時における湿度成分、NO2、アセトニトリルの影響による誤差を低減できる。
【0022】
次に、上述の呼気ガス検知装置においては、異物除去部は、少なくとも過マンガン酸カリウムを備えてもよい。このような呼気ガス検知装置は、ガス検知部への基準ガス(大気)の導入時に大気から雑ガス成分を除去でき、特定ガスの検知精度を向上することができる。特に、特定ガスが一酸化窒素のときに、上記異物除去部を使用することにより、効果的にガス検知精度を高められる。
【0023】
次に、上述の呼気ガス検知装置においては、マウスピースは、呼気の流速を調整するための絞り構造を備えてもよい。このようなマウスピースを用いることで、呼気ガス検知装置は、被験者の呼気から特定ガスの存在の程度を検知して、被験者の健康状態(例えば、喘息の症状の度合)を判定するにあたり、判定基準に適した呼気圧力を確保することができる。
【0024】
次に、呼気ガス検知装置においては、マウスピースは本体部に対して着脱自在に構成されてもよい。このような構成の呼気ガス検知装置は、被験者ごとにマウスピースを交換することができるため、複数の被験者間におけるマウスピースを介したウイルス感染の拡大を抑制しつつ、多数の被験者に対する検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】呼気ガス検知装置の内部構成を表した説明図である。
【
図2】被験者による呼気の吹き込み動作時におけるガス流路でのガスの移動状態を模式的に表した説明図である。
【
図3】被験者による吸気動作時におけるガス流路でのガスの移動状態を模式的に表した説明図である。
【
図4】ガス検知処理の処理内容を表したフローチャートである。
【
図5】第2実施形態の呼気ガス検知装置におけるガス流路の内部構成を模式的に表した説明図である。
【
図6】第3実施形態の呼気ガス検知装置におけるガス流路の内部構成を模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0027】
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
本実施形態の呼気ガス検知装置1は、被験者の呼気に含まれる特定ガス(特定成分)を検知するための装置である。
【0028】
呼気ガス検知装置1は、医療等の分野に使用してもよい。呼気ガス検知装置1は、特に数ppbから数百ppbレベルの極低濃度の一酸化窒素(NO)を含むガスの測定、具体的には喘息診断に好適に使用できる。
【0029】
呼気ガス検知装置1は、
図1に示すように、マウスピース11と、本体部13と、キャップ15と、流量センサ21と、ガス検知部23と、異物除去部25と、第1制御部31と、第2制御部33と、を備える。
【0030】
なお、
図1では、呼気ガス検知装置1の内部構造を表すために、マウスピース11および本体部13を半分に切断した状態での内部構造を表している。本明細書などでは、呼気ガス検知装置1の長手方向における両端部のうち、マウスピース11が設けられる端部を先端とし、キャップ15が設けられる端部を後端とする。
【0031】
[1-2.各部の構成]
マウスピース11は、被験者による呼気の吹き込み動作および被験者による吸気動作が可能となるように、被験者が口をあてること可能な形状に構成されている。マウスピース11は、開口部11aと、内部空間11bと、連結部11cと、を備える。マウスピース11は、開口部11aから内部空間11bを介して連結部11cに至るガス経路を内部に備えている。連結部11cは、本体部13の先端側端部に対して着脱自在に嵌合できるように構成されている。
【0032】
マウスピース11は、内部空間11bが呼気の流速を調整するための絞り構造を備えている。このような絞り構造を備えるマウスピース11を用いることで、被験者の呼気から一酸化窒素の存在の程度を検知して、喘息の症状の度合いを判定するにあたり、判定基準に適した呼気圧力を確保することができる。なお、本実施形態では、特定ガスである一酸化窒素の存在の程度の検知として、一酸化窒素の濃度を検知している。
【0033】
マウスピース11は、内部空間11bに吸着剤11dを備えている。吸着剤11dは、内部空間11bに導入されたガス(呼気)の湿度成分の少なくとも一部を吸着するように構成されている。吸着剤11dは、例えば、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、シリカゲルなどを用いて構成してもよい。
【0034】
本体部13は、先端から後端にかけて延びる長尺形状である。本体部13は、呼気の流路となるガス流路13aを内部に備える。ガス流路13aは、本体部13の先端に設けられた第1開口部13bと、本体部13の後端に設けられた第2開口部13cと、を備えたガス流路である。
【0035】
ガス流路13aは、第1開口部13bから第2開口部13cまで繋がる1本のガス流路として形成されている。ガス流路13aは、第1開口部13bおよび第2開口部13cのみを介して本体部13の外部と繋がるように構成されている。
【0036】
本体部13は、流量センサ21、ガス検知部23、異物除去部25、第1制御部31、第2制御部33を収容している。このうち、流量センサ21、ガス検知部23、異物除去部25は、ガス流路13aにおいて、第1開口部13bから第2開口部13cにかけてこの順番で配置されている。
【0037】
マウスピース11の連結部11cが本体部13の先端側端部と嵌合することで、マウスピース11は、ガス流路13aの第1開口部13bに繋がるように設けられる。
流量センサ21は、流体の流量および流体の移動方向を測定可能に構成されたセンサである。流量センサ21は、ガス流路13aに流れるガス(呼気、大気)の流量および移動方向を測定できる。
【0038】
このため、流量センサ21によるガス流量の測定結果に基づいて、被験者により吹き込まれた呼気の流量を判定できる。また、流量センサ21によるガス流量の測定結果に基づいて、被験者による呼気吹き込み開始時期や、呼気吹き込みの継続時間を判定できる。さらに、流量センサ21によるガス移動方向の測定結果に基づいて、被験者による呼気の吹き込み動作中であるか、被験者による吸気動作中であるかを、判定できる。
【0039】
なお、被験者による呼気の吹き込み動作中には、
図2に模式的に示すように、マウスピース11に吹き込まれた呼気は、ガス流路13aの第1開口部13bから第2開口部13cに向けて移動する。また、被験者による吸気動作中には、ガス流路13aが負圧になるため、
図3に模式的に示すように、キャップ15の通気穴15aから取り込まれた大気(基準ガス)は、ガス流路13aの第2開口部13cから第1開口部13bに向けて移動する。
【0040】
流量センサ21を備えることで、呼気の吹き込み動作および吸気動作のそれぞれが、適正な流量で適正な時間にわたり実施されたか否かを判定可能となる。
ガス検知部23は、窒素酸化物を検知するガスセンサである。ガス検知部23は、例えば、公知の混成電位式センサを用いて構成されている。なお、本実施形態のガス検知部23は、混成電位式センサに導入されるガス(呼気)の上流側に、NOをNO2に変換するための触媒部を備えている。そして、呼気に含まれるNOを触媒部でNO2に変換した上で、NO2の濃度を混成電位式センサで検知している。混成電位式センサでは検知しているのはNO2の濃度ではあるが、触媒によって呼気に含まれるNOをNO2に変換して濃度検知していることから、本実施形態の呼気ガス検知装置1は特定ガスとしてNOの濃度を検知するものである。つまり、触媒部によるNOからのNO2の変換効率を考慮することにより、混成電位式センサから出力されるNO2の濃度に応じたセンサ信号に基づいてNOの濃度を算出することができ、呼気ガス検知装置1は被験者の呼気に含まれる一酸化窒素(NO)を検知するための装置である。
【0041】
ここで、被験者による呼気吹き込み動作時には、呼気がマウスピース11を介して第1開口部13bからガス流路13aに導入されてガス検知部23に到達するため、このときのガス検知部23による検知結果は、呼気における特定ガス(NO)の含有状態に対応したものとなる。つまり、このときの検知結果に対応する状態量(検知結果信号)は、被験者の呼気における特定ガスの含有状態に応じた検知ガス値として利用できる。
【0042】
なお、ガス検知部23は、混成電位式センサを用いる構成に限られることはなく、任意のガスセンサを用いて構成してもよい。例えば、ガス検知部23は、電気化学式センサや、酸化物半導体式センサなどを用いて構成してもよい。また、本実施形態のガス検知部23では、NOをNO2に変換する触媒部を設けた構成を採用したが、触媒部を設けることなく、一酸化窒素の濃度を測定できる構成を採ってもよい。
【0043】
異物除去部25は、少なくとも過マンガン酸カリウムを含む吸着剤を内蔵して構成されている。これにより、被験者による吸気動作時に、第2開口部13cからガス流路13aに導入された大気は、異物除去部25を通過する際に、大気に含まれる雑ガス成分(窒素酸化物)が異物除去部25で除去された上で、ガス検知部23に到達する。このときのガス検知部23での検知結果は、窒素酸化物を含まないガスに対する検知結果であり、この検知結果に対応した状態量(検知結果信号)は、一酸化窒素の検知に際して基準ガス値として利用できる。
【0044】
キャップ15は、本体部13の後端側端部と嵌合可能に構成されている。キャップ15は、ガス(呼気、大気など)が通過可能な通気穴15aを備えている。キャップ15は、本体部13の後端側端部と嵌合することで、通気穴15aがガス流路13aの第2開口部13cに繋がるように設けられる。
【0045】
次に、第1制御部31、第2制御部33は、それぞれ、各種演算処理を行うマイクロコンピュータ(以下、マイコンともいう。図示省略。)を備えて構成されている。
マイコンは、CPU、ROM、RAMなどを備える。マイコンの各種機能は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムをCPUが実行することにより実現される。この例では、ROMが、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、第1制御部31、第2制御部33は、それぞれ、備えるマイコンの数は1つでも複数でもよい。また、マイコンが実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0046】
[1-3.各種処理]
第1制御部31は、流量センサ21から測定結果信号を受信するように構成されている。第1制御部31は、測定結果信号に基づいて各種判定処理を実行するように構成されている。各種判定処理としては、例えば、ガス移動判定処理、呼気・吸気動作判定処理、呼気流量判定処理、呼気時間判定処理などが挙げられる。
【0047】
ガス移動判定処理は、測定結果信号に基づいて、ガス流路13aにおいてガス移動が発生しているか否かを判定する処理である。呼気・吸気動作判定処理は、測定結果信号に基づいて、被験者による呼気の吹き込み動作中であるか、被験者による吸気動作中であるかを判定する処理である。呼気流量判定処理は、測定結果信号に基づいて、被験者により吹き込まれた呼気の流量を判定する処理である。呼気時間判定処理は、測定結果信号に基づいて、被験者による呼気吹き込み開始時期や、呼気吹き込みの継続時間を判定する処理である。
【0048】
第2制御部33は、ガス検知部23から検知結果信号を受信するように構成されている。第2制御部33は、第1制御部31との間で各種情報を送受信するように構成されている。第2制御部33は、第1制御部31から各種判定処理の判定結果を受信するように構成されている。第2制御部33は、検知結果信号および各種判定処理の判定結果に基づいて、ガス検知処理を実行するように構成されている。
【0049】
ガス検知処理は、検知結果信号および各種判定処理の判定結果に基づいて、被験者の呼気に含まれる特定ガス(本実施形態では、一酸化窒素)の存在の程度(本実施形態では、特定ガスの濃度)を判定する処理である。第2制御部33は、呼気ガス検知装置1が起動するとガス検知処理を開始する。
【0050】
図4のフローチャートに示すように、第2制御部33は、ガス検知処理を開始すると、まず、S110(Sはステップを表す)では、ガス流路13aにおいてガス移動が発生しているか否かを判定し、肯定するとS120に移行し、否定判定すると同ステップを繰り返し実行して待機する。なお、S110での判定は、第1制御部31から受信した判定結果に基づいて判定する。
【0051】
S110で肯定判定されてS120に移行すると、第2制御部33は、被験者による吸気動作中であるか否かを判定し、肯定判定するとS130に移行し、否定判定するとS140に移行する。このS120は、被験者による吸気動作中であるか、被験者による呼気の吹き込み動作中であるかを判定する判定ステップである。
【0052】
S120で肯定判定されてS130に移行すると、第2制御部33は、ガス検知部23から受信した検知結果信号に対応した状態量を基準ガス値G1として記憶する。このときガス検知部23から受信した検知結果に対応する状態量(検知結果信号)は、窒素酸化物を含まないガス(大気)に対する検知結果に対応した状態量である基準ガス値G1として利用できる。
【0053】
S120で否定判定されてS140に移行すると、第2制御部33は、ガス検知部23から受信した検知結果信号に対応した状態量を検知ガス値G2として記憶する。このときガス検知部23から受信した検知結果に対応する状態量(検知結果信号)は、被験者の呼気における特定ガスの含有状態に応じた検知ガス値G2として利用できる。
【0054】
次のS150では、S130で記憶した基準ガス値G1と、S140で記憶した検知ガス値G2との差分値D1(=G2-G1)を演算する。次のS160では、差分値D1に基づいて、特定ガス(NO)の判定、詳細には、特定ガス(NO)の濃度演算を実行する。S160では、例えば、特定ガスの濃度と差分値D1との相関関係に基づいて、予め(換言すれば、実験的に)設定された演算式を用いることにより、差分値D1に基づいて特定ガス(NO)の濃度を演算することができる。
【0055】
次のS170では、例えば、液晶画面による映像表示、ランプ表示、音声通知などの方法によって、判定結果(特定ガスの濃度演算の結果)を利用者に報知する。
第2制御部33は、S130,S170のいずれかを実行すると、ガス検知処理を終了する。
【0056】
呼気ガス検知装置1は、このようにして第1制御部31、第2制御部33が各種処理を実行することで、流量センサ21からの測定結果信号、およびガス検知部23からの検知結果信号を用いて、呼気に含まれる特定ガス(一酸化窒素)の存在の程度を検知(判定)するように構成されている。
【0057】
[1-4.効果]
以上説明したように、本実施形態の呼気ガス検知装置1は、マウスピース11での被験者による吸気動作時には、ガス流路13aの内部のガスが第1開口部13bからガス流路13aの外部に排出され、第2開口部13cから外気(大気)をガス流路13aの内部に取り込むように構成されている、また、呼気ガス検知装置1は、マウスピース11での被験者による呼気吹き込み動作時には、呼気が第1開口部13bからガス流路13aの内部に導入され、ガス流路13aの内部のガス(呼気)が第2開口部13cから外部に排出されるように構成されている。
【0058】
このような構成の呼気ガス検知装置1は、呼気を移動させるポンプやガス流路の開閉動作を行うバルブなどを設けることなく、被験者の呼吸動作が呼気吹き込み動作および吸気動作のいずれかに切り替わることによって、ガス検知部23への呼気の導入、およびガス検知部23への基準ガス(大気)の導入、をそれぞれ実現できる。
【0059】
よって、呼気ガス検知装置1によれば、被験者の呼気における特定ガス(一酸化窒素)を検知するにあたり、ポンプやバルブなどの部材が不要となるため、装置構成が簡略化できるとともに、製造コストを低減できる。
【0060】
次に、呼気ガス検知装置1は、ガス流路13aに設けられた流量センサ21を備える。流量センサ21は、ガス流路13aの内部を流れるガス(呼気、大気)の移動方向が、第1開口部13bから第2開口部13cに向かう第1方向であるか、第2開口部13cから第1開口部13bに向かう第2方向であるかを判定することができる。
【0061】
呼気ガス検知装置1は、このような流量センサ21を備えることで、被験者が任意のタイミングで吸気動作および呼気吹き込み動作を行う場合でも、流量センサ21の測定結果信号を用いて、基準ガス値G1の検知タイミングおよび検知ガス値G2の検知タイミングを判定できる。これにより、呼気ガス検知装置1は、流量センサ21の測定結果信号を用いることで、基準ガス値G1の検知タイミングおよび検知ガス値G2の検知タイミングを予め定めることなく、流量センサ21の測定結果信号に基づいて基準ガス値G1および検知ガス値G2を取得できる。
【0062】
次に、呼気ガス検知装置1は、流量センサ21の測定結果信号およびガス検知部23の検知結果信号に基づいて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を判定する第1制御部31および第2制御部33を備えている。
【0063】
つまり、ガス検知処理を実行する第2制御部33は、第1制御部31から受信した判定結果に基づいて、被験者による吸気動作中と判定すると(S120で肯定判定)、そのときの検知結果信号に対応した状態量を基準ガス値G1として記憶する(S130)。また、第2制御部33は、第1制御部31から受信した判定結果に基づいて、被験者による吸気動作中ではない(換言すれば、被験者による呼気の吹き込み動作中)と判定すると(S120で否定判定)、そのときの検知結果信号に対応した状態量を検知ガス値G2として取得する(S140)。第2制御部33は、検知ガス値G2を取得すると、検知ガス値G2と基準ガス値G1との比較結果に基づいて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を判定する(S150,S160)。具体的には、第2制御部33は、検知ガス値G2と基準ガス値G1との差分値D1に基づいて、特定ガスの判定、詳細には、特定ガスの濃度演算を実行する。
【0064】
よって、呼気ガス検知装置1は、第1制御部31および第2制御部33を備えることで、利用者自身(被験者、医師、看護師など)が基準ガス値G1と検知ガス値G2との比較やそれらの値の分析を行うことなく、第1制御部31および第2制御部33による判定結果に基づいて、呼気に含まれる特定ガスの存在の程度を容易に判定できる。
【0065】
次に、呼気ガス検知装置1は、過マンガン酸カリウムを含む吸着剤を内蔵した異物除去部25を備えている。これにより、呼気ガス検知装置1は、被験者による吸気動作時(換言すれば、ガス検知部23への基準ガス(大気)の導入時)に、第2開口部13cからガス流路13a導入された大気から雑ガス成分を除去できるため、大気中の雑ガス成分がガス検知部23に到達することを抑制でき、特定ガスの検知精度を高められる。
【0066】
次に、呼気ガス検知装置1は、マウスピース11の内部空間11bに吸着剤11dを備えている。これにより、呼気ガス検知装置1は、ガス検知部23への呼気の導入時に、呼気から湿度成分を低減でき、特定ガスを検知するにあたり、検知ガス値G2の検知時における湿度成分の影響による誤差を低減できる。
【0067】
なお、吸着剤11dは、湿度成分を吸着するものにかぎられることはなく、湿度成分、NO2、アセトニトリルのうち少なくとも1つを吸着する吸着部であってもよい。これにより、ガス検知部23への呼気の導入時に、呼気から湿度成分、NO2、アセトニトリルのうち少なくとも1つを低減でき、特定ガスとして一酸化窒素(NO)を検知するにあたり、検知ガス値G2の検知時における湿度成分、NO2、アセトニトリルの影響による誤差を低減できる。
【0068】
次に、呼気ガス検知装置1においては、マウスピース11の連結部11cが本体部13の先端側端部に対して着脱自在に嵌合できるように構成されている。これにより、呼気ガス検知装置1は、被験者ごとにマウスピースを交換することができるため、複数の被験者間におけるマウスピース11を介したウイルス感染の拡大を抑制しつつ、多数の被験者に対する検査が可能となる。
【0069】
[1-5.文言の対応関係]
ここで、文言の対応関係について説明する。
呼気ガス検知装置1が呼気ガス検知装置の一例に相当し、本体部13が本体部の一例に相当し、ガス流路13aがガス流路の一例に相当し、マウスピース11がマウスピースの一例に相当する。
【0070】
ガス検知部23がガス検知部の一例に相当し、異物除去部25が異物除去部の一例に相当し、流量センサ21が移動方向判定部の一例に相当し、第1制御部31および第2制御部33が検知判定部の一例に相当し、吸着剤11dが吸着部の一例に相当する。
【0071】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態では、ガス流路に配置される移動方向判定部(流量センサ)、ガス検知部、異物除去部の配置順序が、第1開口部から第2開口部にかけて、この順番に配置される形態について説明したが、ガス流路の内部におけるこれらの配置順序は上記実施形態と同一のものに限られることはない。例えば、「ガス流路における第1開口部から第2開口部にかけて、ガス検知部、移動方向判定部(流量センサ)、異物除去部の順に配置される構成」(第2実施形態。
図5参照)でもよい。あるいは、「ガス流路における第1開口部から第2開口部にかけて、ガス検知部、異物除去部、移動方向判定部(流量センサ)の順に配置される構成」(第3実施形態。
図6参照)でもよい。つまり、異物除去部がガス流路のうちガス検知部よりも第2開口部に近い領域に設けられているとよい。
【0073】
次に、マウスピースは、本体部と着脱自在に構成されたものに限られることはなく、本体部と一体に形成されても良い。
次に、呼気ガス検知装置は、第1制御部および第2制御部を本体部に内蔵する構成に限られることはなく、第1制御部および第2制御部が本体部とは別に備えられる構成であってもよい。その場合、移動方向判定部(流量センサ)の測定結果信号およびガス検知部の検知結果信号を、第1制御部および第2制御部に送信するための信号経路を設けることで、ガス検知処理を実行できる。
【0074】
次に、呼気ガス検知装置は、起動後にガス検知処理を1回のみ実行する構成に限られることは無く、ガス検知処理を繰り返し実行する構成であってもよい。例えば、第2制御部33は、ガス検知処理を終了した後、予め定められた再検知時間が経過すると、再びガス検知処理を開始する構成であってもよい。このように、ガス検知処理を繰り返し実行する構成であれば、呼気に含まれる特定ガスの検知作業を繰り返し実行できるため、多数の被験者を診断する場合に、被験者ごとに起動操作を行う必要が無くなり、診断の待ち時間を短縮できる。
【0075】
次に、呼気ガス検知装置は、移動方向判定部の判定結果を利用者に報知する報知部を備えてもよい。報知部は、例えば、液晶画面やランプなどを用いた表示形態でもよいし、音を用いた音声通知形態でもよいし、外部機器に対して信号形式で出力する形態でもよい。
【0076】
次に、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0077】
1…呼気ガス検知装置、11…マウスピース、11a…開口部、11d…吸着剤、13…本体部、13a…ガス流路、13b…第1開口部、13c…第2開口部、21…流量センサ、23…ガス検知部、25…異物除去部、31…第1制御部、33…第2制御部。