(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20221206BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221206BHJP
C08J 9/32 20060101ALI20221206BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20221206BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20221206BHJP
C08G 18/66 20060101ALI20221206BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08J9/32 CFF
C08G18/10
C08G18/48 045
C08G18/66 007
C08G18/00 H
(21)【出願番号】P 2019058669
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08J 9/32
C08G 18/10
C08G 18/48
C08G 18/66
C08G 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、
前記イソシアネート末端プレポリマーが、トルエンジイソシアネート(TDI)
50~90モル%、数平均分子量1000~2000のポリプロピレングリコール(PPG)
25~5モル%、及びジエチレングリコール(DEG)25~5モル%由来の構成成分
からなり、
前記硬化剤が、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)のみ、又はMOCAとPPGとの混合物であり、
測定周波数10ラジアン/秒および引っ張りモードの動的粘弾性試験で測定した前記研磨層のtanδの値が40℃で0.12以上かつ下記式:
[(20℃~80℃における前記研磨層のtanδの最大値)-(20℃~80℃における前記研磨層のtanδの最小値)]/40℃における前記研磨層のtanδ
で表される20℃~80℃の前記研磨層のtanδの変動率が50%以下であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記硬化性樹脂組成物が、発泡剤として微小中空球体をさらに含む、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、請求項1~
2のいずれかに記載の研磨パッドを使用することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~
2のいずれかに記載の研磨パッドを使用して光学材料又は半導体材料の表面を研磨する際のスクラッチを低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関する。本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体デバイス、ハードディスク用のガラス基板等の研磨に用いられ、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを研磨するのに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの研磨には、TDI(トルエンジイソシアネート)及びPTMG(ポリオキシテトラメチレングリコール)由来の構成成分を含むプレポリマーとMOCA(4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン))などのジアミン硬化剤を反応させて得られたポリウレタン材料を研磨層として設けた研磨パッドを用いることが一般的である。近年、半導体デバイスの配線の微細化に伴い、従来の研磨パッドでは、段差性能やディフェクト性能が不十分である場合があり、研磨パッドを軟質化させる目的で、硬化剤としてポリオールを用いる検討がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、硬化剤としてポリオールを用いた場合でもプレポリマーにPTMGが含まれる場合、研磨層のtanδの値の温度変化が大きいため、温度による研磨性能の影響が大きく、結果として所望の段差性能やディフェクト性能を示さないことがあった。そこで、本発明は研磨層のtanδの値の温度変化が小さく温度による研磨性能の影響が小さい研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下のものを提供する。
[1]
ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、
前記イソシアネート末端プレポリマーがトルエンジイソシアネート(TDI)及びポリプロピレングリコール(PPG)由来の構成成分を含み、
測定周波数10ラジアン/秒および引っ張りモードの動的粘弾性試験で測定した前記研磨層のtanδの値が40℃で0.12以上かつ下記式:
[(20℃~80℃における前記研磨層のtanδの最大値)-(20℃~80℃における前記研磨層のtanδの最小値)]/40℃における前記研磨層のtanδ
で表される20℃~80℃の前記研磨層のtanδの変動率が50%以下であることを特徴とする研磨パッド。
[2]
前記硬化性樹脂組成物が、発泡剤として微小中空球体をさらに含む、[1]に記載の研磨パッド。
[3]
前記イソシアネート末端プレポリマーが、ジエチレングリコール(DEG)由来の構成成分をさらに含む、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4]
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、[1]~[3]のいずれかに記載の研磨パッドを使用することを特徴とする方法。
[5]
[1]~[3]のいずれかに記載の研磨パッドを使用して光学材料又は半導体材料の表面を研磨する際のスクラッチを低減する方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、良好な段差性能及びディフェクト性能を示す研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施例及び比較例の研磨パッドの研磨層の動的粘弾性測定(DMA)の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例の研磨パッドの研磨層の動的粘弾性測定(DMA)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[作用]
本発明の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、前記イソシアネート末端プレポリマーがトルエンジイソシアネート(TDI)及びポリプロピレングリコール(PPG)由来の構成成分を含み、測定周波数10ラジアン/秒および引っ張りモードの動的粘弾性試験で測定した前記研磨層のtanδの値が40℃で0.12以上かつ下記式:
[(20℃~80℃における前記研磨層のtanδの最大値)-(20℃~80℃における記研磨層のtanδの最小値)]/40℃における前記研磨層のtanδ
で表される20℃~80℃の前記研磨層のtanδの変動率が50%以下であることを特徴とする。すなわち、本発明の研磨パッドの研磨層は、研磨温度(40℃付近)でのtanδの値が従来の研磨パッドに比べ大きく、また20℃~80℃の広い温度範囲においてtanδの温度変化が少ない。なお、本明細書においては、変動率の値に100を乗じた百分率で表記している。
【0008】
材料の粘弾性は、弾性を反映する貯蔵弾性率(E’)と粘性を反映する損失弾性率(E’’)の両者を組み合わせて考えることができる。tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’)は両者のバランスを反映したパラメーターであり、一般に、tanδが大きいと粘性に富み、tanδが小さいと弾性に富む傾向がある。従来のポリウレタン樹脂の研磨層は、温度上昇に伴って粘性が高くなるのでtanδが大きくなる傾向がある。
【0009】
しかし、本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリウレタン樹脂の構成成分にPPG由来の成分を含む場合には、研磨温度(40℃付近)での研磨層のtanδの値が従来の研磨パッドのものに比べ大きく、また20℃~80℃の広い温度範囲において研磨層のtanδの温度変化が少ないことを見出した。このことは、本発明の研磨パッドは、20℃~40℃の比較的温度が低い状態でも粘性に富み、被研磨物を傷つけにくい一方で、40℃~80℃の比較的温度が高い状態でも粘性が高くなりすぎず、最初の研磨レートを維持できることを意味する。当業界では研磨層のtanδの値が高いと研磨レートが低くなると予想される傾向にあるが、本発明では、tanδの値が温度変化しにくいために、研磨工程の最初から終わりまでの全工程にわたって評価すると、スクラッチなどのディフェクトが少なく、所望の研磨レートが得られているという予想外の結果が得られる。このことは後述する研磨試験の結果において、本発明の研磨パッドが、段差性能が高く、スクラッチが少なく、研磨レートが高いという優れた研磨特性を示すことからも理解できる。
【0010】
本発明の作用効果は実験的に見出されたものであり、特定の理論により拘束されるものではないが、硬質研磨パッド用のポリウレタン樹脂において、プレポリマーの材料として用いられるポリオール成分として、従来、使用されてきた下記構造式:
【化1】
で表されるPTMG(ポリオキシテトラメチレングリコール)は、温度変化に対して分子が変形しやすいが、本発明で、上記プレポリマーのポリオール成分に従来のPTMGの代わりに下記構造式:
【化2】
で表されるPPG(ポリプロピレングリコール)を用いたことにより、温度変化に対して分子が変形しにくい材料を製造できたことによると考えられる。すなわち、PTMG単位は炭素数4個分の長さの直鎖構造であるため、低温領域では凝集しやすい分子構造であり、高温領域になると凝集した分子同士がほつれやすい。一方、本発明でプレポリマーに使用するPPG単位は炭素数2個分の長さの主鎖を構成し、メチル基が主鎖から分岐しているので、低い温度領域でも凝集しにくい分子構造となっている。このような両者の構造の違いは、温度上昇に伴う分子の運動性にも影響していると考えられる。
【0011】
[プレポリマー]
本発明のイソシアネート末端プレポリマーは、トルエンジイソシアネート(TDI)及びポリプロピレングリコール(PPG)由来の構成成分を含み、好ましくは、ジエチレングリコール(DEG)由来の構成成分をさらに含む。TDIは、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートとの割合によって等級があり、TDI100(2,4-トルエンジイソシアネート100%)、TDI80(2,4-トルエンジイソシアネート80%及び2,6-トルエンジイソシアネート20%との混合物)などが挙げられる。PPGとしては、本発明の研磨パッドの性能に影響しない範囲において置換基を有してもよいが、下記構造式:
【化3】
に示す2官能のPPGであることが好ましい。PPGの数平均分子量は、700~5000であることが好ましく、より好ましくは1000~2000である。数平均分子量が1000または分子長がPTMG1000と同等のPPGが特に好ましい。
【0012】
プレポリマーにおけるイソシアネート成分とPPG成分とのモル比は、20:1~2:1であることが好ましく、より好ましくは10:1~2:1である。DEGなどのその他の第三成分が加わる場合には、プレポリマーを構成する成分の全体を100モル%として、第三成分が30モル%以下、特に、5~25モル%となるように調整する。
【0013】
本発明で好適に使用されるプレポリマーの例を以下に示す。
プレポリマー(1):TDI100(50~90モル%)/PPG1000(25~5モル%)/DEG(25~5モル%)(NCO当量400~600)
ポリイソシアネート成分としてTDI100(トルエン-2,4-ジイソシアネート)、ポリオール成分としてPPG1000(数平均分子量1000のポリプロピレングリコール)及びDEG(ジエチレングリコール)を含むNCO当量400~600のウレタンプレポリマー
プレポリマー(2):TDI100(50~90モル%)/PPG1000(15~3モル%)/PPG2000(数平均分子量2000のポリプロピレングリコール)(10~2モル%)/DEG(25~5モル%)(NCO当量400~600)
ポリイソシアネート成分としてTDI100(トルエン-2,4-ジイソシアネート)、ポリオール成分としてPPG1000(数平均分子量1000のポリプロピレングリコール)、PPG2000(数平均分子量2000のポリプロピレングリコール)及びDEG(ジエチレングリコール)を含むNCO当量400~600のウレタンプレポリマー
【0014】
[研磨パッド]
本発明の研磨パッドは、発泡ポリウレタン樹脂からなる研磨層と基材層とが両面テープを介して積層されてなるが、用途によっては、基材層が無く、研磨層を直接研磨装置の定盤に貼り付ける態様も包含する。研磨層は被研磨材料に直接接する位置に配置される。
【0015】
本発明の研磨パッドは、一般的な研磨パッドと同様に使用することができ、例えば、研磨パッドを回転させながら研磨層を被研磨材料に押し当てて研磨することもできるし、被研磨材料を回転させながら研磨層に押し当てて研磨することもできる。
【0016】
[研磨パッドの製造方法]
本発明の研磨パッドにおいて、研磨層は、一般に知られたモールド成形、スラブ成形等の製造法より作成できる。まずは、それら製造法によりポリウレタンのブロックを形成し、ブロックをスライス等によりシート状とし、ポリウレタン樹脂から形成される研磨層を成形し、基材に貼り合わせることによって製造される。
【0017】
より具体的には、研磨層は、研磨層の研磨面とは反対の面側に両面テープが貼り付けられ、基材層に貼り付けられ、所定形状にカットされて、本発明の研磨パッドとなる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。
【0018】
研磨層は、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物を含むポリウレタン樹脂硬化性組成物を調製し、前記ポリウレタン樹脂硬化性組成物を硬化させることによって成形される。本発明では、研磨層の性能を制御しやすいプレポリマーをあらかじめ用意し、これに所定の硬化剤を混合してポリウレタン樹脂硬化性組成物を調製する。
【0019】
研磨層は上記ポリウレタン樹脂硬化性組成物中に気泡が分散されている発泡ポリウレタン樹脂からなる。気泡の形成方法としては、特に限定されるものではないが、化学的な発泡剤による発泡、機械的な泡を混入させる発泡、及び微小中空球体を混入させることで気泡を形成する方法などがある。気泡径を制御しやすいという観点では微小中空球体を混入させることで気泡を形成する方法が好ましい。この場合、プレポリマー、硬化剤及び発泡剤を含むポリウレタン樹脂発泡硬化性組成物を調製し、ポリウレタン樹脂発泡硬化性組成物を硬化させることによって発泡体を成形する。
【0020】
ポリウレタン樹脂硬化性組成物は、例えば、ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)を含むA液と、それ以外の成分を含むB液とを混合して調製する2液型の組成物とすることもできる。それ以外の成分を含むB液はさらに複数の液に分割して3液以上の液を混合して構成される組成物とすることができる。
【0021】
本発明では、前述したPPG由来の構成成分を含むプレポリマーを使用する。プレポリマーのNCO当量は、好ましくは400~600であり、より好ましくは400~550であり、より好ましくは450~510である。なお、NCO当量は、“(ポリイソシアネート化合物の質量部+ポリオール化合物の質量部)/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量部/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量部/ポリオール化合物の分子量)]”で求められ、NCO基1個当たりのPP(プレポリマー)の分子量を示す数値である。
【0022】
[イソシアネート成分]
TDI以外のイソシアネート成分としては、例えば、
m-フェニレンジイソシアネート、
p-フェニレンジイソシアネート、
ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、
ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、
3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、
3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソシアネート、
4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、
トリメチレンジイソシアネート、
ヘキサメチレンジイソシアネート、
プロピレン-1,2-ジイソシアネート、
ブチレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、
p-フェニレンジイソチオシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、
エチリジンジイソチオシアネート
等が挙げられる。
【0023】
[ポリオール成分]
PPG(即ち、1,2-プロパンジオール、)以外のポリオール成分としては、例えば、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;
ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;
エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール;
ポリカーボネートポリオール;
ポリカプロラクトンポリオール;
等が挙げられる。
【0024】
[硬化剤]
本発明において、硬化剤はポリアミン及びポリオールからなる。
ポリアミン硬化剤:
ポリアミンとしては、例えば、ジアミンが挙げられ、これには、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミンなどの脂肪族環を有するジアミン;3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)などの芳香族環を有するジアミン;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン、特にヒドロキシアルキルアルキレンジアミン;等が挙げられる。また、3官能のトリアミン化合物、4官能以上のポリアミン化合物も使用可能である。
ポリオール硬化剤:
PPGを含めて上述したプレポリマーの成分の項目で例示したポリオール成分が挙げられる。
【0025】
[硬化剤の組成と使用量]
研磨パッドの柔軟性は、プレポリマーの構成成分のみならず、硬化剤のポリアミン硬化剤とポリオール硬化剤の配合割合でも調節できる。ポリアミン硬化剤とポリオール硬化剤の混合物を使用する場合、硬化剤中のアミノ基の数を100とした場合の硬化剤中の水酸基の数の割合である硬化剤の水酸基比率が10~50であることが好ましく、より好ましくは水酸基比率は15~30である。また、プレポリマーの末端に存在するイソシアネート基に対する、硬化剤に存在する活性水素基(アミノ基及び水酸基)の当量比であるR値が、0.60~1.2となるように硬化剤の量を用いることが好ましい。R値は、0.70~1.0がより好ましく、0.80~0.95がさらに好ましい。また、研磨パッドのD硬度(JISK6253-1997/ISO7619)は、好ましくは20~70であり、より好ましくは30~50である。
【0026】
[発泡剤]
微小中空球体をポリウレタン樹脂に混合することによって発泡体を形成することができる。微小中空球体とは、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を、加熱膨張させたものをいう。前記ポリマー殻としては、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の例により具体的に説明するが、以下の説明は、本発明の範囲が以下の例に限定して解釈されることを意図するものではない。
[材料]
以下の例で使用した材料を列挙する。
【0028】
・イソシアネート末端プレポリマー:
以下の4種類のプレポリマーを当業界で一般的な方法に従って調製して、以下の実施例及び比較例に供した。
プレポリマー(1):TDI100/PPG1000/DEG(NCO当量506)
ポリイソシアネート成分としてTDI100(トルエン-2,4-ジイソシアネート)(66.7モル%)、ポリオール成分としてPPG1000(数平均分子量1000のポリプロピレングリコール)(20.9モル%)及びDEG(ジエチレングリコール)(12.4モル%)を反応させて得られたNCO当量506のウレタンプレポリマー
プレポリマー(2):TDI100/PPG1000/PPG2000/DEG(NCO当量505)
ポリイソシアネート成分としてTDI100(トルエン-2,4-ジイソシアネート)(66.7モル%)、ポリオール成分としてPPG1000(数平均分子量1000のポリプロピレングリコール)(6.4モル%)、PPG2000(数平均分子量2000のポリプロピレングリコール)(6.8モル%)及びDEG(ジエチレングリコール)(20.1モル%)を反応させて得られたNCO当量505のウレタンプレポリマー
プレポリマー(3):TDI100/PTMG650/DEG(NCO当量458)
ポリイソシアネート成分としてTDI100(トルエン-2,4-ジイソシアネート)、ポリオール成分としてPTMG650(数平均分子量650のポリテトラメチレングリコール)及びDEG(ジエチレングリコール)を含むNCO当量458のウレタンプレポリマー
プレポリマー(4):TDI100/PTMG1000/PTMG650/DEG(NCO当量458)
ポリイソシアネート成分としてTDI100(トルエン-2,4-ジイソシアネート)、ポリオール成分としてPTMG1000(数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール)、PTMG650(数平均分子量650のポリテトラメチレングリコール)及びDEG(ジエチレングリコール)を含むNCO当量458のウレタンプレポリマー
【0029】
・硬化剤:
硬化剤(1):MOCA(3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)
硬化剤(2):MOCAとPPG2000の1:1混合物(重量比)
【0030】
・その他の成分
微小中空球体(発泡剤):日本フィライト社製 EXPANCEL 551DE40d42
【0031】
[実施例1]
A成分としてプレポリマー(1)を100g、B成分として硬化剤であるMOCAを23g、C成分として微小中空球体2gをそれぞれ準備した。
A成分とC成分とを混合し、A成分とC成分の混合物を減圧脱泡した後、A成分とC成分の混合物及びB成分を混合機に供給した。
得られた混合液を80℃に加熱した型枠に注型し、1時間加熱し硬化させた後、形成された樹脂発泡体を型枠から抜き出し、その後120℃で5時間キュアリングした。この発泡体を1.3mm厚にスライスしてウレタンシートを作成し、このウレタンシートを研磨パッドとして研磨性能を評価した。
【0032】
表1に得られたウレタンシートの配合、R値及びD硬度を示す。D硬度は以下のようにして求めた。
(D硬度)
研磨パッドのD硬度は、日本工業規格(JIS-K-6253)に準拠して、D型硬度計を用いて測定した。ここで、試料は、少なくとも総厚さ4.5mm以上になるように、必要に応じて複数枚のウレタンシートを重ねることで得た。
【0033】
[実施例2~6及び比較例1~3]
表1の配合に基づいて実施例2~6としてPPGを用いたプレポリマー2種を用いた研磨パッドを5種類作製した。比較例1は従来公知の研磨パッドIC1000(ニッタ・ハース社製)である。表1の配合に基づいて比較例2としてPTMGプレポリマーおよび硬化剤としてMOCAを用いた研磨パッド、比較例3としてPTMGプレポリマーに硬化剤としてMOCA及びPPG2000を用いた研磨パッドをそれぞれ作製した。表1に実施例2~6及び比較例1~3のウレタンシートの配合、R値及びD硬度を示す。
【0034】
【0035】
[動的粘弾性測定(DMA)]
上記の各実施例及び比較例について、動的粘弾性試験により試料の粘弾性特性として、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)、損失正接:tanδ(=E”/E’)の20~80℃における温度依存性を測定した。動的粘弾性試験は、JIS K7244-4に準じ、下記条件にて測定した。
測定装置:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン RSAIII
試験モード:引っ張り 温度分散
試験片:4×0.5×0.125cm
周波数:1.6Hz
初荷重:148g
温度:20~80℃
歪範囲:0.1%
昇温速度:5℃/分
各実施例・比較例のDMA測定結果(tanδ)を表2、
図1及び
図2に示す。
【0036】
【0037】
表2において、変動率は、以下の式で定義される。
[(20℃~80℃におけるtanδの最大値)-(20℃~80℃におけるtanδの最小値)]/40℃におけるtanδ
なお、表2において変動率は上記式の値に100を乗じた百分率で表記している。
【0038】
表2から分かる様に、従来公知の比較例1の研磨パッドはtanδの40℃の値が0.106と低く、tanδの変動率もやや大きかった。また、PTMGを含むプレポリマー(プレポリマー(3))を用い、硬化剤にMOCAとPPGを用いた比較例2は、tanδの40℃の値は0.134と高かったもののtanδの変動率が103.3%と大きくなってしまった。PTMGを含むプレポリマー(プレポリマー(4))を用い、硬化剤にMOCAを用いた比較例3は、tanδの40℃の値が0.093と低く、tanδの変動率も50.5%と大きいものであった。一方、PPGを含むプレポリマー(プレポリマー(1)及び(2))を用いた実施例1~6は、硬化剤の成分比を変化させても、いずれもtanδの40℃の値が0.12以上で、tanδの変動率30%以下であった。
【0039】
上記実施例及び比較例の研磨パッドについて研磨試験を行った。その結果を以下に示す。
<研磨試験の条件>
・使用研磨機:荏原製作所社製、F-REX300X
・Disk:3MA188(#100)
・回転数:(定盤)70rpm、(トツプリング)71rpm
・研磨圧力:3.5psi
・研磨剤:キャボット社製、品番:SS25(SS25原液:純水=重量比1:1の混合液を使用)
・研磨剤温度:20℃
・研磨剤吐出量:200ml/min
・使用ワーク(被研磨物):12インチシリコンウエハ上にテトラエトキシシランをPE-CVDで絶縁膜1μmの厚さになるように形成した基板
・パッドブレーク:35N 10分
・コンディショニング:Ex-situ、35N、4スキャン
【0040】
(ディフェクト性能の評価)
ディフェクト性能は、25枚の基板を研磨し、研磨加工後の21~25枚目の基板5枚について、ウエハ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP1DLS)の高感度測定モードにて測定し、基板表面におけるスクラッチ等のディフェクトの個数をカウントした。ここで評価するディフェクトは、パーティクル、パッド屑由来と思われる有機物、有機残渣、スクラッチ、膜由来のボイド、ウォーターマーク等の欠陥の合計である。
ディフェクト性能の評価基準は以下の通り。
0.16μm以上のディフェクト個数50個未満:◎(極めて良好)
0.16μm以上のディフェクト個数100個未満:○(良好)
0.16μm以上のディフェクト個数200個未満:△(やや良好)
0.16μm以上のディフェクト個数200個以上:×(不良)
【0041】
(段差性能の評価)
段差性能は、銅配線パターン付ウエハ(SEMATECH社製、754ウエハ)を用い、研磨剤(フジミコーポレーション製、PLANARLITE7000)で研磨を行い、100μm/100μmのディッシングを段差・表面粗さ・微細形状測定装置(KLAテンコール社製、P-16+)で測定することにより評価した。
段差性能の評価基準は絶縁膜からの窪み深さで評価して以下の通り。
ディッシングが400Å未満:◎(極めて良好)
ディッシングが500Å未満:○(良好)
ディッシングが750Å以上:×(不良)
【0042】
ディフェクト性能及び段差性能の評価結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0043】
表3の結果より、ディフェクト性能は、比較例1~3はいずれも不良であった一方で、実施例1~6はいずれもディフェクト数が200個未満であった。ディフェクト性能については、tanδの変動率及びD硬度が影響しているものと考えられ、tanδの変動率が30%未満の実施例1~6はディフェクト数が少なく、さらにtanδの変動率が20%未満と小さい実施例3~6はより良好な結果であった。段差性能については、40℃におけるtanδの値が影響しているものと考えられ、0.12より大きい実施例1~6及び比較例2はディッシングが500Å未満と良好であり、さらに0.17より大きい実施例1~3及び実施例6はきわめて良好な結果であった。