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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両走行制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20221206BHJP
   B60W 10/20 20060101ALI20221206BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20221206BHJP
   B60W 40/105 20120101ALI20221206BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20221206BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20221206BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
B60W10/00 134
B60W10/04
B60W10/20
B60W30/02
B60W40/105
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019059815
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157940
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】守野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中野 友祐
(72)【発明者】
【氏名】須田 理央
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】古藏 稔也
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-175230(JP,A)
【文献】特開2007-008453(JP,A)
【文献】特開2006-256549(JP,A)
【文献】特開2005-247029(JP,A)
【文献】特開2018-047773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 10/30
B60W 30/00 ~ 60/00
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を転舵する転舵機構がステアリングホイールと機械的に切り離された操舵装置と、
車両駆動力を発生させる車両駆動ユニットと、
前記操舵装置と前記車両駆動ユニットとを制御する制御装置と、
を備える車両走行制御システムであって、
前記制御装置は、
前記車輪の実転舵角が目標転舵角となるように前記転舵機構を制御する転舵処理と、
車両駆動要求に基づく要求車両駆動力に応じた目標車両駆動力を決定し、決定した前記目標車両駆動力に実車両駆動力を近づけるように前記車両駆動ユニットを制御する車両駆動処理と、
前記車両の車速が車速閾値よりも低い低車速条件において前記目標転舵角に対する前記実転舵角の偏差である転舵角偏差が転舵角閾値よりも大きい場合、前記要求車両駆動力よりも小さくなるように前記目標車両駆動力を制限する駆動力制限処理と、
を実行し、
前記制御装置は、前記駆動力制限処理において、前記要求車両駆動力から減少補正量を減じて得られる値を前記目標車両駆動力として算出し、
前記減少補正量は、前記転舵角偏差が大きいほど大きい基本補正量を含み、
前記減少補正量は、前記車速に応じた第1ゲイン係数を前記基本補正量に乗じて得られ、
前記第1ゲイン係数は、前記車速が高い場合には、前記車速が低い場合と比べて大きい
ことを特徴とする車両走行制御システム。
【請求項2】
前記減少補正量は、前記実転舵角の変化速度である転舵速度に応じた第2ゲイン係数を前記基本補正量に乗じて得られ、
前記第2ゲイン係数は、前記転舵速度が高い場合には、前記転舵速度が低い場合と比べて大きい
ことを特徴とする請求項に記載の車両走行制御システム。
【請求項3】
車両の車輪を転舵する転舵機構がステアリングホイールと機械的に切り離された操舵装置と、
車両駆動力を発生させる車両駆動ユニットと、
前記操舵装置と前記車両駆動ユニットとを制御する制御装置と、
を備える車両走行制御システムであって、
前記制御装置は、
前記車輪の実転舵角が目標転舵角となるように前記転舵機構を制御する転舵処理と、
車両駆動要求に基づく要求車両駆動力に応じた目標車両駆動力を決定し、決定した前記目標車両駆動力に実車両駆動力を近づけるように前記車両駆動ユニットを制御する車両駆動処理と、
前記車両の車速が車速閾値よりも低い低車速条件において前記目標転舵角に対する前記実転舵角の偏差である転舵角偏差が転舵角閾値よりも大きい場合、前記要求車両駆動力よりも小さくなるように前記目標車両駆動力を制限する駆動力制限処理と、
を実行し、
前記制御装置は、前記駆動力制限処理において、前記要求車両駆動力から減少補正量を減じて得られる値を前記目標車両駆動力として算出し、
前記減少補正量は、前記転舵角偏差が大きいほど大きい基本補正量を含み、
前記減少補正量は、前記実転舵角の変化速度である転舵速度に応じた第2ゲイン係数を前記基本補正量に乗じて得られ、
前記第2ゲイン係数は、前記転舵速度が高い場合には、前記転舵速度が低い場合と比べて大きい
ことを特徴とする車両走行制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記低車速条件において前記転舵角偏差が前記転舵角閾値よりも大きく、かつ、前記要求車両駆動力が駆動力閾値よりも高い場合に、前記駆動力制限処理を実行する
ことを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の車両走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両走行制御システムに関し、より詳細には、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両の走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置では、車輪を転舵する転舵機構は、ステアリングホイールと機械的に切り離されている。このため、運転者による車輪の転舵を補助するための一般的な電動パワーステアリング(EPS)装置とは異なり、転舵機構の転舵モータは、転舵に必要なトルクのすべてを発揮することを要求される。より詳細には、例えば、停車中にステアリングホイールを回転させて車輪を転舵させる操作時(据え切り操作時)には、車輪の転舵に必要な転舵軸力が車両走行中と比べて大きくなる。
【0003】
特許文献1には、ステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置が開示されている。この操舵装置は、転舵モータの駆動回路と、その入力部に設けられた昇圧回路とを備えている。すなわち、当該転舵装置は、車載電源電圧を昇圧し、昇圧した電源電圧を転舵モータの駆動回路に供給するように構成されている。これにより、据え切り操作時のように転舵モータに大きな電流を流すことが必要とされる時に、昇圧回路を利用して所望の転舵トルクを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-105457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両走行制御システムでは、据え切り操作時のように転舵に必要な転舵軸力が大きい時には、転舵モータの出力不足に起因して目標転舵角にまで車輪を転舵できず、目標転舵角に対する実転舵角の偏差(転舵角偏差)が発生することがある。車両が走り出すと、転舵に必要な転舵軸力が減少する。このため、発生した転舵角偏差は、車両の発進後に減少していく。その一方で、転舵角偏差の解消のための転舵に伴って生じるヨーレートの変化は、車速が高くなると大きくなる。したがって、転舵角偏差を十分に減少できずに車速が大きく上昇すると、ヨーレートの大きな変化の発生に起因して乗員に違和感を与えてしまうおそれがある。
【0006】
特許文献1に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置によれば、上述のように、据え切り操作時のように転舵モータに大きな電流を流すことが必要とされる時に、昇圧回路を利用して所望の転舵トルクを得ることができる。しかしながら、このような昇圧回路の利用は、コストの増加を招くことが懸念される。
【0007】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両走行制御システムにおいて、コストの増加を抑制しつつ、停車時に生じた転舵角偏差の解消に起因する車両挙動への違和感を乗員に与えることを抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る車両走行制御システムは、
車両の車輪を転舵する転舵機構がステアリングホイールと機械的に切り離された操舵装置と、
車両駆動力を発生させる車両駆動ユニットと、
前記操舵装置と前記車両駆動ユニットとを制御する制御装置と、
を備える。
前記制御装置は、
前記車輪の実転舵角が目標転舵角となるように前記転舵機構を制御する転舵処理と、
車両駆動要求に基づく要求車両駆動力に応じた目標車両駆動力を決定し、決定した前記目標車両駆動力に実車両駆動力を近づけるように前記車両駆動ユニットを制御する車両駆動処理と、
前記車両の車速が車速閾値よりも低い低車速条件において前記目標転舵角に対する前記実転舵角の偏差である転舵角偏差が転舵角閾値よりも大きい場合、前記要求車両駆動力よりも小さくなるように前記目標車両駆動力を制限する駆動力制限処理と、
を実行する。
前記制御装置は、前記駆動力制限処理において、前記要求車両駆動力から減少補正量を減じて得られる値を前記目標車両駆動力として算出する。
前記減少補正量は、前記転舵角偏差が大きいほど大きい。
前記減少補正量は、前記車速に応じた第1ゲイン係数を前記基本補正量に乗じて得られる。
前記第1ゲイン係数は、前記車速が高い場合には、前記車速が低い場合と比べて大きい。
【0011】
上記第1の態様において、前記減少補正量は、前記実転舵角の変化速度である転舵速度に応じた第2ゲイン係数を前記基本補正量に乗じて得られてもよい。そして、前記第2ゲイン係数は、前記転舵速度が高い場合には、前記転舵速度が低い場合と比べて大きくてもよい。
また、本発明の第2の態様に係る車両走行制御システムは、
車両の車輪を転舵する転舵機構がステアリングホイールと機械的に切り離された操舵装置と、
車両駆動力を発生させる車両駆動ユニットと、
前記操舵装置と前記車両駆動ユニットとを制御する制御装置と、
を備える。
前記制御装置は、
前記車輪の実転舵角が目標転舵角となるように前記転舵機構を制御する転舵処理と、
車両駆動要求に基づく要求車両駆動力に応じた目標車両駆動力を決定し、決定した前記目標車両駆動力に実車両駆動力を近づけるように前記車両駆動ユニットを制御する車両駆動処理と、
前記車両の車速が車速閾値よりも低い低車速条件において前記目標転舵角に対する前記実転舵角の偏差である転舵角偏差が転舵角閾値よりも大きい場合、前記要求車両駆動力よりも小さくなるように前記目標車両駆動力を制限する駆動力制限処理と、
を実行する。
前記制御装置は、前記駆動力制限処理において、前記要求車両駆動力から減少補正量を減じて得られる値を前記目標車両駆動力として算出する。
前記減少補正量は、前記転舵角偏差が大きいほど大きい。
前記減少補正量は、前記実転舵角の変化速度である転舵速度に応じた第2ゲイン係数を前記基本補正量に乗じて得られる。
前記第2ゲイン係数は、前記転舵速度が高い場合には、前記転舵速度が低い場合と比べて大きい。
【0012】
上記第1又は第2の態様において、前記制御装置は、前記低車速条件において前記転舵角偏差が前記転舵角閾値よりも大きく、かつ、前記要求車両駆動力が駆動力閾値よりも高い場合に、前記駆動力制限処理を実行してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低車速条件において転舵角偏差が転舵角閾値よりも大きい場合には、駆動力制限処理が実行され、車両駆動要求に基づく要求車両駆動力よりも小さくなるように目標車両駆動力が制限される。これにより、車両の発進後に車速が高くなり過ぎる前に(つまり、ヨーレートが小さいうちに)転舵角偏差の減少を促進させることができる。このため、停車時に生じた転舵角偏差の解消に起因する車両挙動(ヨーレートの大きな変化)の違和感に乗員に与えてしまうことを抑制できる。そして、駆動力制限処理を利用した対策は、昇圧回路の追加を必要としない。このため、コストの増加を抑制しつつ、上述の違和感を乗員に与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1に係る車両走行制御システムの構成例を表した模式図である。
図2】ステアバイワイヤ方式の操舵装置の課題を説明するためのタイムチャートである。
図3】ヨーレートゲインと車速Vとの関係を表したグラフである。
図4】本発明の実施の形態1に係る車両走行制御システムの制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
図5図4に示すルーチンの処理に伴う車両の動作の一例を表したタイムチャートである。
図6】本発明の実施の形態1の第1変形例に係る車両走行制御システムの制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態1の第2変形例に係る車両走行制御システムの制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
図8】転舵角偏差Δδに基づく目標車両駆動力Ftの減少補正量Cの設定の一例を表したグラフである。
図9】本発明の実施の形態2に係る駆動力制限処理が用いられた場合の車両の動作の一例を表したタイムチャートである。
図10】本発明の実施の形態3に係る駆動力制限処理に用いられる第1ゲイン係数G1の設定の一例を表したグラフである。
図11】本発明の実施の形態4に係る駆動力制限処理に用いられる第2ゲイン係数G2の設定の一例を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明される各実施の形態において、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略又は簡略する。また、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造やステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0016】
1.実施の形態1
まず、図1図7を参照して、本発明の実施の形態1に係る車両走行制御システム10について説明する。
【0017】
1-1.車両走行制御システムの構成例
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両走行制御システム10の構成例を表した模式図である。この車両走行制御システム10は、車両に搭載された操舵装置20を備えている。操舵装置20は、車輪12を転舵するために、ステアリングホイール22、ステアリングシャフト24、反力モータ26、操舵角センサ28、及び転舵機構30を備えている。図1に示される例では、操舵対象となる2つの車輪12は前輪である。しかしながら、本発明に係る操舵装置による操舵の対象は、前輪に代え、或いはそれとともに後輪であってもよい。
【0018】
ステアリングホイール22は、運転者による操舵操作が入力される操舵部材である。ステアリングホイール22は、ステアリングシャフト24を介して反力モータ26に連結されている。反力モータ26は、車輪12の転舵に伴う反力をステアリングホイール22に付与する。反力モータ26には、図示しない蓄電装置(例えば、バッテリ又はキャパシタ)から電力が供給される。操舵角センサ28は、ステアリングシャフト24に設けられており、ステアリングホイール22の回転角度、すなわち、操舵角(実操舵角)θに応じた信号を出力する。
【0019】
転舵機構30は、転舵モータ32、ラックシャフト(転舵軸)34、タイロッド36、及び転舵角センサ38を備えている。転舵モータ32は、図示しない減速機構を介してラックシャフト34に取り付けられている。転舵モータ32には、上記の蓄電装置から電力が供給される。ラックシャフト34は、ステアリングシャフト24及び反力モータ26から機械的に分離されている。車輪12は、タイロッド36を介してラックシャフト34に連結されている。
【0020】
転舵モータ32を回転させてラックシャフト34をその軸方向に直線運動させることにより、タイロッド36を介して車輪12の転舵角(実転舵角)δが変更される。転舵角センサ38は、転舵モータ32に設けられている。転舵モータ32の回転角と車輪12の転舵角δとの間には、常に一意に定まる相関関係がある。このため、転舵角センサ38は、車輪12の転舵角δに応じた信号を出力する。
【0021】
上述のように、操舵装置20によれば、車輪12を転舵する転舵機構30がステアリングホイール22と機械的に切り離されている。したがって、車輪12の転舵は、転舵モータ32を用いてステアバイワイヤ方式で行われる。
【0022】
また、車両走行制御システム10は、車両駆動ユニット40を備えている。車両駆動ユニット40は、車両駆動力Fを発生させる。車両駆動ユニット40の一例は、内燃機関である。車両駆動ユニットの他の例として、内燃機関に代え、或いはそれとともに電動モータが用いられてもよい。
【0023】
車両走行制御システム10は、さらに、操舵装置20及び車両駆動ユニット40を制御する制御装置50を備えている。制御装置50は、少なくとも1つのプロセッサ50aと少なくとも1つのメモリ50bとを有する電子制御ユニット(ECU)を含む。メモリ50bには、車両走行制御(転舵制御及び車両駆動力制御)に用いられるマップを含む各種のデータや各種の制御プログラムが記憶されている。プロセッサ50aがメモリ50bから制御プログラムを読み出して実行することにより、制御装置50による処理が実現される。
【0024】
転舵制御及び車両駆動力制御に関連する物理量を計測する各種のセンサは、直接、或いは、車両内に構築された通信ネットワークを介して制御装置50に接続されている。そのようなセンサには、少なくとも、上述の操舵角センサ28と転舵角センサ38とともに、車速センサ52とアクセルポジションセンサ54とが含まれる。車速センサ52は、車両の速度である車速Vに応じた信号を出力する。アクセルポジションセンサ54は、車両のアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)に応じた信号を出力する。
【0025】
また、上述した反力モータ26、転舵モータ32及び車両駆動ユニット40の各動作は、制御装置50によって制御される。なお、制御装置50は、複数のECUを用いて構成されていてもよい。
【0026】
1-2.車両走行制御システムの動作
制御装置50による車両走行制御(転舵制御及び車両駆動力制御)のための処理は、転舵制御及び車両駆動力制御のそれぞれに関する基本的な処理である「転舵処理」及び「車両駆動処理」を含む。そのうえで、本実施形態に係る制御装置50による処理は、以下に説明される転舵制御の課題に対処するために、「駆動力制限処理」を含む。
【0027】
1-2-1.転舵処理及び車両駆動処理
転舵処理では、制御装置50は、車輪12の実転舵角δが目標転舵角δtとなるように転舵機構30を制御する。制御装置50は、例えば操舵角θと車速Vとに基づいて、目標転舵角δtを算出する。より詳細には、制御装置50は、実転舵角δ(転舵モータ32の回転角)と目標転舵角δtとに基づいて、転舵モータ32を駆動するための電流制御信号を生成する。転舵モータ32は電流制御信号に従って駆動され、転舵モータ32の作動により車輪12が転舵される。
【0028】
車両駆動処理では、制御装置50は、車両駆動要求に基づく要求車両駆動力Frを算出する。この車両駆動要求の一例は、運転者によるアクセルペダルの踏み込みによって発せられる。制御装置50は、例えば、アクセル開度と要求車両駆動力Frとの関係を定めたマップ(図示省略)を記憶している。アクセル開度に応じた(すなわち、車両駆動要求に基づく)要求車両駆動力Frが、このようなマップを用いて算出される。
【0029】
なお、車両の自動運転を実現する自動運転制御部を備える車両走行制御システムの例では、自動運転中に自動運転制御部によって出される車両の駆動要求が、上記の車両駆動要求の他の例に相当する。
【0030】
上記のように算出される要求車両駆動力Frを修正する要求がない場合には、制御装置50は、算出した要求車両駆動力Frを、そのまま目標車両駆動力Ftとして決定する。後述の駆動力制限処理による目標車両駆動力Ftの修正は、ここでいう要求車両駆動力Frの修正要求の一例に相当する。
【0031】
制御装置50は、決定した目標車両駆動力Ftに実車両駆動力Fを近づけるように車両駆動ユニット40を制御する。より詳細には、車両駆動ユニット40として内燃機関が用いられる例では、目標車両駆動力Ftを満たすエンジントルクが発揮されるように所定のアクチュエータ(例えば、スロットル弁及び燃料噴射弁)を制御する。
【0032】
1-2-2.ステアバイワイヤ方式の操舵装置の課題
図2は、ステアバイワイヤ方式の操舵装置の課題を説明するためのタイムチャートである。図3は、ヨーレートゲイン(単位操舵角当たりのヨー角速度(ヨーレート)の大きさ)と車速Vとの関係を表したグラフである。
【0033】
ステアバイワイヤ方式の操舵装置では、既述したように、車輪を転舵する転舵機構は、ステアリングホイールと機械的に切り離されている。このため、運転者による車輪の転舵を補助するための一般的な電動パワーステアリング(EPS)装置とは異なり、転舵機構の転舵モータは、転舵に必要なトルクのすべてを発揮することを要求される。
【0034】
停車中にステアリングホイールを回転させて車輪を転舵させる操作時(据え切り操作時)には、車輪の転舵に必要な転舵軸力が車両走行中と比べて大きくなる。その結果、図2に示すように、停車中に運転者によるステアリングホイール22の回転(操舵)に伴って目標転舵角δtが変化した場合に、転舵モータの出力不足に起因して目標転舵角δtにまで車輪を転舵することができない事態が生じ得る。このような事態が生じると、目標転舵角δtに対する実転舵角δの偏差(転舵角偏差Δδ)が発生する。
【0035】
車両が走り出すと、転舵に必要な転舵軸力が減少する。このため、図2に示すように、時間経過とともに転舵角偏差Δδが減少していく。その一方で、ヨーレートゲインは、車速Vに応じて変化する。より詳細には、図3に示すように、車両の走り出し後のヨーレートゲインは、ある車速値(本実施形態において想定する後述の低車速条件と比べて十分に大きな車速値)に達するまでは車速Vが高くなるにつれて大きくなる。つまり、転舵角偏差Δδの解消のための転舵に伴って生じるヨーレートの変化は、車速Vが高くなると大きくなる。したがって、転舵角偏差Δδを十分に減少できずに車速が大きく上昇すると、大きなヨーレート変化の発生に起因して車両挙動への違和感を乗員に与えてしまうおそれがある。
【0036】
1-2-3.駆動力制限処理の概要
上述の課題に鑑み、本実施形態に係る制御装置50による処理には、「駆動力制限処理」が含まれる。この駆動力制限処理は、車速Vが所定の車速閾値Vthよりも低い低車速条件において転舵角偏差Δδが転舵角閾値δthよりも大きい場合に、上述の転舵処理及び車両駆動処理とともに実行される。そして、駆動力制限処理では、制御装置50は、要求車両駆動力Frよりも小さくなるように目標車両駆動力Ftを制限する。
【0037】
より詳細には、制御装置50は、停車状態からの車両の発進直後に上記の低車速条件が満たされる時に、転舵角偏差Δδが転舵角閾値δthよりも大きいことを条件として駆動力制限処理を実行する。なお、本実施形態の駆動力制限処理は、基本的には、車両の前進時の低車速条件を対象として実行される。しかしながら、この駆動力制限処理は、車両の後進時の低車速条件にも適用することができる。
【0038】
1-2-3.制御装置による処理
図4は、本発明の実施の形態1に係る車両走行制御システム10の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンの処理は、車両走行制御システム10の起動中に繰り返し実行される。
【0039】
図4に示すルーチンでは、制御装置50は、まず、ステップS100において、目標転舵角δtに対する実転舵角δの偏差である転舵角偏差Δδを算出する。転舵角偏差Δδの算出に用いられる実転舵角δは転舵角センサ38を用いて取得され、目標転舵角δtは上述の転舵処理によって算出される。その後、処理は、ステップS102に進む。
【0040】
ステップS102では、制御装置50は、算出した転舵角偏差Δδが、所定の転舵角閾値δthよりも大きいか否かを判定する。その結果、この判定結果が否定的である場合(Δδ≦δth)には、制御装置50は、駆動力制限処理を行わずに今回の処理サイクルを終了する。
【0041】
一方、ステップS102の判定結果が肯定的である場合(Δδ>δth)には、処理は、ステップS104に進む。ステップS104では、制御装置50は、車速Vが所定の車速閾値Vth未満であるか否か、すなわち、上述の「低車速条件」が満たされるか否かを判定する。
【0042】
より詳細には、低車速条件の上限の車速値である車速閾値Vthは、次のように決定される。すなわち、低車速条件は、駆動力制限処理による車両駆動力Fの制限が行われる極低速域(例えば、3km/h以下)と対応している。ヨーレートゲインと車速Vとの間には、上述の図3に示すような関係があり、ヨーレートゲインは、このような極低速域では十分に小さくなる。このため、転舵角偏差Δδの解消がそのような極低速域で行われるのであれば、転舵角偏差Δδの解消に起因するヨーレートの変化を車両の乗員に感じさせにくくすることができる。したがって、車速閾値Vthは、一例として3km/hに設定される。ただし、車速閾値Vthの具体的な数値としては、3km/h以外の任意の値を用いることができる。また、許容可能なヨーレートゲインの大きさの観点から、車速閾値Vthは、例えば、10km/hに設定されてもよい。
【0043】
ステップS104の判定結果が否定的である場合(V≧Vth)には、制御装置50は、駆動力制限処理を行わずに今回の処理サイクルを終了する。一方、ステップS104の判定結果が肯定的である場合(V<Vth)には、処理は、ステップS106に進む。ステップS106では、制御装置50は、要求車両駆動力Frが所定の駆動力閾値Fthよりも大きいか否かを判定する。要求車両駆動力Frは、例えば、アクセル開度に応じた値として算出される。
【0044】
ステップS106の判定結果が否定的である場合(Fr≦Fth)には、制御装置50は、駆動力制限処理を行わずに今回の処理サイクルを終了する。
【0045】
一方、ステップS106の判定結果が肯定的である場合(Fr>Fth)には、処理は、ステップS108に進む。ステップS108では、制御装置50は、駆動力制限処理を実行する。具体的には、駆動力制限処理において、制御装置50は、一例として、駆動力閾値Fthと等しい値(一定値)となるように目標車両駆動力Ftを修正(制限)する。
【0046】
1-3.効果
図5は、図4に示すルーチンの処理に伴う車両の動作の一例を表したタイムチャートである。図5中の時点t0は、ステアリングホイール22を回転させて車輪12を転舵させる操作(据え切り操作)が運転者によって停車中に開始された時点に相当する。その結果、停車中には転舵軸力が大きくなることに起因して、大きな転舵角偏差Δδが生じている。
【0047】
時点t1は、転舵角閾値δthよりも大きな転舵角偏差Δδが生じている状態で運転者によってアクセルペダルが踏み込まれ、要求車両駆動力Frが上昇し始めた時点に相当する。このアクセルペダルの踏み込みに伴い、車両が発進する。
【0048】
その後の時点t2は、車速閾値Vth未満の低車速条件の下で要求車両駆動力Frが駆動力閾値Fthに到達した時点に相当する。上記ルーチンの処理によれば、低車速条件において転舵角偏差Δδが転舵角閾値δthよりも大きく、かつ、要求車両駆動力Frが駆動力閾値Fthよりも大きい場合には、上述の駆動力制限処理が実行される。
【0049】
駆動力制限処理によれば、要求車両駆動力Fr(実線)よりも小さくなるように目標車両駆動力Ftが制限される。より詳細には、上記ルーチンに従う駆動力制限処理の例では、図5に示すように、駆動力閾値Fthと等しい値(破線)で目標車両駆動力Ftが制限される。
【0050】
図5中に実線で示す車速Vの波形は、駆動力制限処理を伴わない例に対応しており、破線で示す車速Vの波形は、駆動力制限処理を伴う例に対応している。駆動力制限処理によって目標車両駆動力Ftが制限されることにより、制限後の目標車両駆動力Ftに応じて実車両駆動力Fが制限される。その結果、図5に示すように車速Vの上昇が駆動力制限処理を伴わない例と比べて抑制される。そして、このように車速Vの上昇が制限されている間に、停車時と比べて車速Vが上昇したことに伴って転舵軸力が低下することを利用して転舵角偏差Δδが減少していく。
【0051】
時点t3は、転舵角偏差Δδが転舵角閾値δthにまで減少した時点に相当する。時点t3の到来に伴い、駆動力制限処理が終了される。その結果、要求車両駆動力Frが目標車両駆動力Ftとして用いられる。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る駆動力制限処理を伴う転舵処理によれば、転舵角閾値δthよりも大きな転舵角偏差Δδが生じている状態で車両が発進した場合には、車速Vが高くなり過ぎる前に(つまり、ヨーレートが小さいうちに)転舵角偏差Δδの減少を促進させることができる。このため、停車時に生じた転舵角偏差Δδの解消に起因する車両挙動の違和感を乗員に与えてしまうことを抑制できる。そして、駆動力制限処理を利用した対策は、昇圧回路の追加を必要としない。このため、コストの増加を抑制しつつ、上述の違和感を乗員に与えることを抑制できる。
【0053】
また、図4に示すルーチンの処理によれば、駆動力制限処理は、低車速条件において転舵角偏差Δδが転舵角閾値δthよりも大きいことに加え、要求車両駆動力Frが駆動力閾値Fthよりも大きいという判定条件が満たされる場合に実行される。要求車両駆動力Frが大きい(すなわち、急加速がなされる)と、大きな転舵角偏差Δδが残ったままで車速Vが大きく上昇し易くなり、その結果、転舵角偏差Δδの解消のための転舵に伴って大きなヨーレートの変化が生じ易くなる。一方、要求車両駆動力Frが小さい(すなわち、車両の加速が緩やかである)と、車速Vが大きく上昇する前に転舵角偏差Δδが解消し易くなる。したがって、駆動力制限処理の実行条件の中に車両駆動力Fに関する上記判定条件を含む上記ルーチンの例によれば、駆動力制限を利用した車速上昇度の制限を必要とする状況を適切に判別しながら駆動力制限処理を実行できるようになる。
【0054】
1-4.制御装置による処理の他の例
本発明に係る駆動力制限処理は、上記図4に示すルーチンに代え、例えば、以下の図6又は図7に示すルーチンに従って実行されてもよい。
【0055】
図6は、本発明の実施の形態1の第1変形例に係る車両走行制御システム10の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
【0056】
図6に示すルーチンでは、図4に示すルーチンとは異なり、車両駆動力Fに関する判定条件(ステップS106)が省略されている。ステップS104の判定結果が肯定的である場合(VVth)には、処理はステップS200に進み、駆動力制限処理が実行される。
【0057】
より詳細には、ステップS200における駆動力制限処理では、制御装置50は、例えば、事前に決定された値(例えば、一定値)を超えないように目標車両駆動力Ftを制限してもよい。また、目標車両駆動力Ftは、例えば、事前に決定された減少補正量(例えば、一定値)だけ要求車両駆動力Frよりも小さくなるように制限されてもよい。
【0058】
以上説明した図6に示すルーチンのように、本発明に係る駆動力制限処理は、要求車両駆動力Frが駆動力閾値Fthよりも大きいか否かの判定を伴わずに、低車速条件において転舵角偏差Δδが転舵角閾値δthよりも大きい場合に実行されてもよい。
【0059】
図7は、本発明の実施の形態1の第2変形例に係る車両走行制御システム10の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
【0060】
図7に示すルーチンでは、ステップS300及びS302の処理が追加されている点において、図4に示すルーチンと異なっている。図7に示すルーチンによれば、ステップS108において駆動力制限処理が実行された後に、処理はステップS300に進む。
【0061】
ステップS300では、制御装置50は、転舵角偏差Δδが転舵角閾値δth以下であるか否かを判定する。その結果、この判定結果が否定的である場合、すなわち、転舵角偏差Δδが未だ転舵角閾値δth以下にまで減少していない場合には、ステップS108の処理が繰り返し実行される。
【0062】
一方、ステップS300の判定結果が肯定的である場合、すなわち、転舵角偏差Δδが未だ転舵角閾値δth以下にまで減少した場合には、処理はステップS302に進む。ステップS302では、制御装置50は駆動力制限処理を終了する。
【0063】
図7に示すルーチンによれば、駆動力制限処理の実行中に転舵角偏差Δδが転舵角閾値δth以下に減少していないにもかかわらず、車速Vが閾値Vthに到達したことによって駆動力制限処理が終了されることを防止できる。このため、図4に示すルーチンと比べて、転舵角偏差Δδが転舵角閾値δth以下になるまで駆動力制限処理をより確実に実行させられるようになる。
【0064】
なお、ステップS300及びS302の処理は、図6に示すルーチンのステップS200の処理の後に追加されてもよい。また、ステップS300の判定を用いる例に代え、制御装置50は、転舵角偏差Δδが解消する(ゼロになる)まで駆動力制限処理を実行してもよい。
【0065】
2.実施の形態2
次に、図8及び図9を参照して、本発明の実施の形態2に係る車両走行制御システムについて説明する。この車両走行制御システムは、以下に説明される点を除き、上述した実施の形態1に係る車両走行制御システム10と同じである。
【0066】
2-1.駆動力制限処理の概要
図8は、転舵角偏差Δδに基づく目標車両駆動力Ftの減少補正量Cの設定の一例を表したグラフである。上述した実施の形態1の駆動力制限処理では、駆動力閾値Fthと等しい値(一定値)となるように目標車両駆動力Ftが修正(制限)される。これに対し、本実施形態の駆動力制限処理では、目標車両駆動力Ftの修正(制限)は、要求車両駆動力Frに対する目標車両駆動力Ftの減少補正量(制限量)Cを用いて行われる。
【0067】
具体的には、要求車両駆動力Fr及び減少補正量Cと、修正(制限)後の目標車両駆動力Ft’との関係は、次の(1)式のように表される。
Ft’=Fr-C ・・・(1)
【0068】
そのうえで、減少補正量Cは、基本補正量Bを含む。この基本補正量Bは、転舵角偏差Δδの大きさに応じて変更される。より詳細には、図8に示すように、目標車両駆動力Ftの減少補正量C(基本補正量B)は、転舵角偏差Δδが大きいほど大きくなるように設定されている。ただし、減少補正量C(基本補正量B)と転舵角偏差Δδとの関係は、転舵角偏差Δδが大きいほど減少補正量Cを大きくするものである限り、図8に示すような曲線に限られず、例えば、他の任意の曲率を有する曲線又は直線によって表されてもよい。
【0069】
上述した本実施形態の駆動力制限処理は、例えば、次のように実行することができる。すなわち、制御装置50は、図8に示すような転舵角偏差Δδと減少補正量C(基本補正量B)との関係をマップとして記憶していてもよい。そして、制御装置50は、例えば、上述の図4に示すルーチンのステップS108において、転舵角偏差Δδに応じた減少補正量Cを上記マップから取得するとともに、(1)式の関係に従って減少補正量Cによって制限された目標車両駆動力Ft’を算出してもよい。
【0070】
2-2.効果
図9は、実施の形態2に係る駆動力制限処理が用いられた場合の車両の動作の一例を表したタイムチャートである。上述の減少補正量C(基本補正量B)は、駆動力制限処理の実行中に転舵角偏差Δδが減少するにつれて小さくなる。したがって、図9に示すように、目標車両駆動力Ftの制限は、転舵角偏差Δδの減少に伴って徐々に緩和されることになる。
【0071】
同じヨーレートゲイン[deg/s/deg]で比較したとき、発生するヨーレート[deg/s]は、残された転舵角偏差Δδ[deg]が小さい場合の方が、それが大きい場合と比べて小さくなる。つまり、残された転舵角偏差Δδが小さくなっていれば、目標車両駆動力Ftの制限を緩和しても、転舵角偏差Δδが大きい場合と比べて、大きなヨーレートの発生を抑制できるといえる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態の駆動力制限処理によれば、転舵角偏差Δδの大きさに応じて目標車両駆動力Ftの減少補正量Cが決定される。これにより、減少補正量Cを一定値とする例と比べて、残された転舵角偏差Δδの下で大きなヨーレートの発生の抑制のために必要とされる減少補正量Cをより適切に設定できるようになる。付け加えると、このような手法によれば、目標車両駆動力Ftの制限による車速上昇度の制限を転舵角偏差Δδに応じて必要最小限に抑制できる。また、減少補正量Cを一定値とする例と比べ、目標車両駆動力Ftの制限の終了時に目標車両駆動力Ftの段差を低減できる。
【0073】
3.実施の形態3
次に、図10を参照して、本発明の実施の形態3に係る車両走行制御システムについて説明する。この車両走行制御システムは、以下に説明される点を除き、上述した実施の形態2に係る車両走行制御システムと同じである。
【0074】
3-1.駆動力制限処理の概要
本実施形態に係る駆動力制限処理では、制御装置50は、目標車両駆動力Ftの制限のために減少補正量C’用い。減少補正量C’は、以下の(2)式で表されるように、実施の形態2において説明された基本補正量Bに対し、車速Vに応じた第1ゲイン係数G1を乗じて得られる。そして、第1ゲイン係数G1は、車速Vが高い場合には、車速Vが低い場合と比べて大きくなるように設定されている。
C’=B×G1 ・・・(2)
【0075】
より詳細には、図10は、本発明の実施の形態3に係る駆動力制限処理に用いられる第1ゲイン係数G1の設定の一例を表したグラフである。図10に示す一例では、第1ゲイン係数G1は、第1車速値V1未満では一定となり、第1車速値V1を超えると車速Vの上昇に伴って大きくなり、第1車速値V1よりも大きな第2車速値V2を超えると一定となるように設定されている。
【0076】
ただし、第1ゲイン係数G1と車速Vとの関係は、第1ゲイン係数G1が、車速Vが高い場合には、車速Vが低い場合と比べて大きくなるように設定される限り、図10に示すような設定に限られず、例えば、任意の曲率の曲線又は任意の傾きの直線等の他の設定手法を用いて決定されてもよい。
【0077】
3-2.効果
駆動力制限処理の実行中に残された転舵角偏差Δδが同じであっても、車速Vが高くなると、ヨーレートゲインが高くなるので、大きなヨーレートの変化が生じ易くなる。この点に関し、上述した実施の形態2における目標車両駆動力Ftの制限手法は、一定の第1ゲイン係数G1が用いられているとみなすことができる。
【0078】
これに対し、本実施形態における目標車両駆動力Ftの制限に用いられる減少補正量C’によれば、転舵角偏差Δδに基づく基本補正量Bを実施の形態2と同様に用いつつ、車速Vの観点で当該基本補正量Bが修正される。具体的には、第1ゲイン係数G1の利用により、減少補正量C’は、基本補正量Bを基準として、車速Vが高い場合には車速Vが低い場合と比べて大きくなるように修正されることになる。これにより、転舵角偏差Δδの観点だけでなく、車速Vをも考慮して、目標車両駆動力Ftをより適切に制限できるようになる。
【0079】
4.実施の形態4
次に、図11を参照して、本発明の実施の形態4に係る車両走行制御システムについて説明する。この車両走行制御システムは、以下に説明される点を除き、上述した実施の形態2に係る車両走行制御システムと同じである。
【0080】
4-1.駆動力制限処理の概要
本実施形態に係る駆動力制限処理では、制御装置50は、目標車両駆動力Ftの制限のために減少補正量C’’用い。減少補正量C’’は、以下の(3)式で表されるように、実施の形態2において説明された基本補正量Bに対し、実転舵角δの変化速度である転舵速度dδ/dtに応じた第2ゲイン係数G2を乗じて得られる。そして、第2ゲイン係数G2は、実転舵角δの変化速度である転舵速度dδ/dtが高い場合には、転舵速度dδ/dtが低い場合と比べて大きくなるように設定されている。
C’=B×G2 ・・・(3)
【0081】
より詳細には、図11は、本発明の実施の形態4に係る駆動力制限処理に用いられる第2ゲイン係数G2の設定の一例を表したグラフである。図11に示す一例では、第2ゲイン係数G2は、第1転舵速度値dδ/dt1未満では一定となり、第1転舵速度値dδ/dt1を超えると転舵速度dδ/dtの上昇に伴って大きくなり、第1転舵速度値dδ/dt1よりも大きな第2転舵速度値dδ/dt2を超えると一定となるように設定されている。
【0082】
ただし、上述の第1ゲイン係数G1と同様に、第2ゲイン係数G2と転舵速度dδ/dtとの関係は、第2ゲイン係数G2が、転舵速度dδ/dtが高い場合には、転舵速度dδ/dtが低い場合と比べて大きくなるように設定される限り、図11に示すような設定に限られず、例えば、任意の曲率の曲線又は任意の傾きの直線等の他の設定手法を用いて決定されてもよい。
【0083】
4-2.効果
駆動力制限処理の実行中に残された転舵角偏差Δδが同じであっても、転舵速度dδ/dtが高くなると、大きなヨーレートの変化が生じ易くなる。この点に関し、上述した実施の形態2における目標車両駆動力Ftの制限手法は、一定の第2ゲイン係数G2が用いられているとみなすことができる。
【0084】
これに対し、本実施形態における目標車両駆動力Ftの制限に用いられる減少補正量C’’によれば、転舵角偏差Δδに基づく基本補正量Bを実施の形態2と同様に用いつつ、転舵速度dδ/dtの観点で当該基本補正量Bが修正される。具体的には、第2ゲイン係数G2の利用により、減少補正量C’’は、基本補正量Bを基準として、転舵速度dδ/dtが高い場合には転舵速度dδ/dtが低い場合と比べて大きくなるように修正されることになる。これにより、転舵角偏差Δδの観点だけでなく、転舵速度dδ/dtをも考慮して、目標車両駆動力Ftをより適切に制限できるようになる。
【0085】
また、上述した第2ゲイン係数G2の利用による目標車両駆動力Ftの制限は、実施の形態3に係る第1ゲイン係数G1の利用による目標車両駆動力Ftの制限と組み合わせて実施されてもよい。すなわち、基本補正量Bに対して第1ゲイン係数G1及び第2ゲイン係数G2の双方を乗じて得られる減少補正量が、目標車両駆動力Ftの制限のために用いられてもよい。
【0086】
以上説明した各実施の形態に記載の例及び他の各変形例は、明示した組み合わせ以外にも可能な範囲内で適宜組み合わせてもよいし、また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形してもよい。
【符号の説明】
【0087】
10 車両走行制御システム
12 車輪
20 操舵装置
22 ステアリングホイール
24 ステアリングシャフト
26 反力モータ
28 操舵角センサ
30 転舵機構
32 転舵モータ
34 ラックシャフト(転舵軸)
36 タイロッド
38 転舵角センサ
40 車両駆動ユニット
50 制御装置
52 車速センサ
54 アクセルポジションセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11