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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20221206BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/26 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019086384
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020183612
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】萩原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】溝口 和彦
(72)【発明者】
【氏名】穴原 圭一郎
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168973(JP,A)
【文献】特開2018-062412(JP,A)
【文献】特開2005-180943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を駆動するためのアクチュエータと、
前記アクチュエータを駆動させるために操作する操作装置と、
前記車体に設けられ、前記車体の周囲に存在する物体を検知するセンサと、
前記操作装置による前記アクチュエータの駆動を制限する制限装置と、
前記センサの検知結果に基づいて前記制限装置を制御する制御装置とを備えた作業機械において、
前記センサは、前記物体の中から特定の物体を区別して検知可能であり、
前記センサの検知範囲は、前記車体の稼働範囲を少なくとも一部含むように設定された第一検知領域と前記第一検知領域の上方に隣接して設定された第二検知領域とで設定されており、
前記制御装置は、
前記センサにより前記第一領域で物体を検知した場合には、検知された前記物体が前記特定の物体のときのみ、前記制限装置により前記アクチュエータの駆動を制限し、
前記センサにより前記第二領域で物体を検知した場合には、検知された前記物体が前記特定の物体でなくとも、前記制御装置により前記アクチュエータの駆動を制限することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記第一検知領域に前記物体が検知され、前記第二検知領域に前記物体が検知されていない時に、前記検知された物体が前記特定の物体でない場合には、前記制限装置による制御を行わないことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1からの何れか1項に記載の作業機械において、
前記センサは、赤外線深度センサであることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の作業機械において、
前記特定の物体は、再帰性反射材であることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1記載の作業機械において、
前記車体は、上部旋回体及び下部走行体により構成され、
前記制限装置は、前記下部走行体の走行動作と前記上部旋回体の前記下部走行体に対する旋回動作との少なくとも何れか一方を制限することを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1記載の作業機械において、
前記車体は、上部旋回体及び下部走行体により構成され、
前記第一検知領域と前記第二検知領域との境界の少なくとも一部は、前記上部旋回体の下端と前記下部走行体の上端の間となるよう設定されたことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの作業機械においては、車体に設けたカメラで得られる画像を運転室のモニタに表示することで、オペレータによる作業機械の周囲監視を補助する技術が知られている。
【0003】
このような作業機械の周囲監視に関する技術として、例えば、特許文献1には、作業車両の周辺に監視領域を設定し、該監視領域における作業者の存在を検出する作業車両用周辺監視システムであって、前記作業者に装着される回帰反射体と、前記作業車両から前記監視領域に向けて走査状にレーザ光を投光すると共に、前記回帰反射体に反射したレーザ光を受光し、その受光レベルに基づいて前記作業者の存在を検出する周辺監視装置とを備え、前記回帰反射体は、多数のキューブコーナプリズムを配列したキューブコーナリフレクタを用いて構成され、前記周辺監視装置は、非拡散レーザ光を投光し、かつ、その反射光をほぼ同軸で受光し、その受光レベルを出力する同軸回帰反射型の光電センサを備えると共に、該光電センサのレーザ光源を所定の周期でパルス駆動し、受光パルスに基づいて前記作業者の存在を検出する作業車両用周辺監視システムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、旋回機構を介して下部走行体に搭載される上部旋回体を備える建設機械の周囲に存在する物体を検知する建設機械用物体検知システムであって、前記上部旋回体に取り付けられる走査型距離計測装置の出力に基づいて物体を検出する物体検出部を有し、前記走査型距離計測装置が発する光は、前記上部旋回体と前記下部走行体との間の隙間を通る、建設機械用物体検知システムが開示されており、特許文献3には、建設機械の前後左右方向と当該建設機械からの離隔距離に基づいて設定される複数の所定範囲毎に人を検知する人検知手段と、当該人検知手段により前記人が検知される場合に、当該所定範囲に対応する制限内容を選択する選択手段と、当該制限内容にて前記建設機械の動作を制限する制限手段を含む建設機械の動作制限装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-032141号公報
【0006】
【文献】特開2015-229836号公報
【0007】
【文献】特開2014-218849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術においては、走査状にレーザ光を投光して作業者に装着された再帰性反射材からの反射光を検出することで作業者を検出することができるものの、再帰性反射材を有しないその他の資材や障害物を認識することができない。また、特許文献2に記載の従来技術においては、上下方向の検知範囲が上部旋回体と下部走行体の間を通る平面に制限されるため、上部旋回体に対して相対的に旋回移動する下部走行体を検知対象から除外することはできるものの、上部旋回体の下面よりも低い位置に作業者やその他の障害物が有る場合には検知することができないため、例えば、特許文献3の技術を適用したとしても、障害物の検知時に作業機械の動作を適切に制限することができない。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、作業機械の構造物を検知対象からの除外することによる検知範囲の減少を抑制しつつ、作業機械と障害物の接触を抑制することができる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、車体を駆動するためのアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動させるために操作する操作装置と、前記車体に設けられ、前記車体の周囲に存在する物体を検知するセンサと、前記操作装置による前記アクチュエータの駆動を制限する制限装置と、前記センサの検知結果に基づいて前記制限装置を制御する制御装置とを備えた作業機械において、前記センサは、前記物体の中から特定の物体を区別して検知可能であり、前記センサの検知範囲は、前記車体の稼働範囲を少なくとも一部含むように設定された第一検知領域と前記第一検知領域の上方に隣接して設定された第二検知領域とで設定されており、前記制御装置は、前記センサにより前記第一領域で物体を検知した場合には、検知された前記物体が前記特定の物体のときのみ、前記制限装置により前記アクチュエータの駆動を制限し、前記センサにより前記第二領域で物体を検知した場合には、検知された前記物体が前記特定の物体でなくとも、前記制御装置により前記アクチュエータの駆動を制限するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業機械の構造物を検知対象からの除外することによる検知範囲の減少を抑制しつつ、作業機械と障害物の接触を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を概略的に示す側面図である。
図2】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を概略的に示す上面図である。
図3】運転室内の様子を示す図である。
図4】油圧ショベルに適用される油圧回路システムの一部を関連構成とともに抜き出して模式的に示す図である。
図5】油圧ショベルの周囲監視機能に係る構成を抜き出して模式的に示す機能ブロック図である。
図6】制御装置から電磁弁に出力される電磁弁電流とアクチュエータ速度との関係を示す図である。
図7】センサの検知範囲の一例を示す図である。
図8】物体・再帰性反射材判定部の処理内容を示すフローチャートである。
図9】動作制限判定部の処理内容を示すフローチャートである。
図10】センサの検知範囲の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態を図1図9を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、作業機械の一例とし、油圧ショベルを示して説明するが、クレーンのような他の作業機械やホイールローダのような道路機械にも本発明を適用することが可能である。
【0014】
図1及び図2は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を概略的に示す図であり、図1は側面図、図2は上面図である。また、図3は、運転室内の様子を示す図である。
【0015】
図1及び図2において、油圧ショベル100は、クローラ式の下部走行体1及び下部走行体1に対して旋回可能に設けられた上部旋回体2により構成された車体と、上部旋回体2の前側に俯仰動可能に設けられたフロント作業機3とから概略構成されている。なお、図2においては、図示の簡単のため、フロント作業機3の一部を省略して示す。
【0016】
フロント作業機3は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム3a、アーム3b、及びバケット3c)を連結して構成されている。ブーム3aの基端は上部旋回体2の前部に回動可能に支持されている。また、ブーム3aの先端にはアーム3bの一端が回動可能に連結されており、アーム3bの他端(先端)にはバケット3cが回動可能に連結されている。ブーム3a、アーム3b、及びバケット3cは、油圧アクチュエータであるブームシリンダ3d、アームシリンダ3e、及び、バケットシリンダ3fによってそれぞれ駆動される。
【0017】
下部走行体1は、左右一対のクローラフレーム1c,1dにそれぞれ掛け回された一対のクローラ1e,1fと、クローラ1e,1fを図示しない減速機構等を介してそれぞれ駆動する油圧アクチュエータとしての走行油圧モータ1a,1bとから構成されている。なお、図1において、下部走行体1の各構成については、左右一対の構成のうちの一方のみを図示して符号を付し、他方の構成については図中に括弧書きの符号のみを示して図示を省略する。
【0018】
上部旋回体2は、基部となる旋回フレーム上に各部材を配置して構成されており、旋回フレームが油圧アクチュエータである旋回油圧モータ10により下部走行体1に対して旋回駆動されることにより、上部旋回体2が下部走行体1に対して旋回可能となっている。
【0019】
上部旋回体2の旋回フレーム上の前側には、オペレータが搭乗して油圧ショベル100の操作を行うための運転室4が配置されているほか、原動機であるエンジン25、エンジン25により駆動される油圧ポンプ26及びパイロットポンプ27、各油圧アクチュエータ(走行油圧モータ1a,1b、旋回油圧モータ10、ブームシリンダ3d、アームシリンダ3e、バケットシリンダ3f)を駆動するための油圧回路システムが搭載されている(後の図4参照)。また、上部旋回体2には、油圧ショベル100の全体の動作を制御する制御装置20が配置されている。
【0020】
図3に示すように、運転室4内には、オペレータが着座する座席4aや、フロント作業機3の駆動操作、上部旋回体2の旋回操作、下部走行体1の走行操作などを行う操作装置4b,4c,4d,4eや、ゲートロックレバー4fなどのほか、座席4aに着座したオペレータが見やすい位置であって外部視野の妨げにならない位置にモニタ4gが配置されている。
【0021】
上部旋回体2の上部の左右および後方には、上部旋回体2の周囲を撮影する複数のセンサ14~16が搭載されている。複数のセンサ14~16は、その配置に応じて、それぞれ、右側方センサ14、後方センサ15、及び、左側方センサ16と称する。すなわち、複数のセンサ14~16は、上部旋回体2の左側の運転室4の後方に設けられて上部旋回体2の前方及び左側方を検知範囲とする左側方センサ16と、上部旋回体2の右側方に設けられて上部旋回体2の前方及び右側方を検知範囲とする右側方センサ14と、上部旋回体2の後方に設けられて上部旋回体2の左右の側方及び後方を検知範囲とする後方センサ15とを有して構成されている。
【0022】
図4は、油圧ショベルに適用される油圧回路システムの一部を関連構成とともに抜き出して模式的に示す図である。なお、図4においては、油圧ショベル100の複数の油圧アクチュエータの代表として旋回油圧モータ10に係る構成を示している。
【0023】
図4において、油圧回路システムは、原動機であるエンジン25と、エンジン25によって駆動される油圧ポンプ26及びパイロットポンプ27と、油圧ポンプ26から吐出された圧油により駆動される複数の油圧アクチュエータ(ここでは、旋回油圧モータ10のみを図示する)と、油圧ポンプ26から複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する複数の方向切換弁(ここでは、旋回油圧モータ10の方向切換弁28のみを図示する)と、複数の油圧アクチュエータの動作を指示し、複数の方向切換弁を切り換えるパイロット圧(操作信号)を生成する油圧パイロット式の複数の操作装置(ここでは、旋回操作に係る操作装置4bのみを図示する)とを備えている。
【0024】
方向切換弁28は、センタバイパス型であり、センタバイパスライン28a上に位置するセンタバイパス通路を有している。センタバイパス通路は、センタバイパスライン28aに直列に接続されており、方向切換弁28のスプールが中立位置にあるときはセンタバイパス通路をセンタバイパスライン28aと連通し、方向切換弁28のスプールが図4中左側又は右側の切換位置に切換えられるとセンタバイパス通路をセンタバイパスライン28aから遮断するようになっている。センタバイパスライン28aの上流側は油圧ポンプ26の吐出ライン26aに接続され、センタバイパスライン28aの下流側はタンクライン41に接続されている。
【0025】
方向切換弁28は、操作装置4bからのパイロット圧(操作信号)によって切換えられるようになっている。操作装置4bは、操作量に応じてパイロットポンプ27の吐出圧を元圧としてパイロット圧を生成する一対のパイロット弁を有している。例えば、操作装置4bを中立位置から左旋回に対応する方向(例えば左側)に操作すると、その操作量に応じて一方のパイロット弁で生成されたパイロット圧が方向切換弁28の図4中右側の受圧部へ出力され、これによって方向切換弁28が図4中右側の切換位置に切換えられる。これにより、旋回油圧モータ10が回転し、上部旋回体2が下部走行体1に対して左方向に旋回するようになっている。一方、例えば、操作装置4bを中立位置から右旋回に対応する方向(例えば右側)に操作すると、その操作量に応じて他方のパイロット弁で生成されたパイロット圧が方向切換弁28の図4中左側の受圧部へ出力され、これによって方向切換弁28が図4中左側の切換位置に切換えられる。これにより、旋回油圧モータ10が回転し、上部旋回体2が下部走行体1に対して右方向に旋回するようになっている。
【0026】
操作装置4bから方向切換弁28の2つの受圧部への管路には、それぞれ、電磁弁23a,23bが設けられている。電磁弁23a,23bは、操作装置4bから方向切換弁28に出力されるパイロット圧(操作信号)を制限する制限装置であり、後述する制御装置20からの電磁弁電流(指令信号)に基づいてパイロット圧(操作信号)を制限することにより油圧アクチュエータである旋回油圧モータの動作速度を制限する。
【0027】
図6は、制御装置から電磁弁に出力される電磁弁電流とアクチュエータ速度との関係を示す図である。図6の横軸は、制御装置20から電磁弁23a,23bに出力される電磁弁電流の予め定めた値に対する割合を示している。ここでは、電磁弁23a,23bが全閉となる電磁弁電流の値を100%としている。また、図6の縦軸は、操作装置4bから方向切換弁28に出力されるパイロット圧が制限されない場合の油圧アクチュエータの速度をV1として示している。すなわち、図6においては、電磁弁電流が0(ゼロ)%の場合には、操作装置4bから出力されるパイロット圧に応じた速度V1で油圧アクチュエータが動作し、電磁弁電流が増加してある割合を超えると油圧アクチュエータの速度が電磁弁電流の増加に伴って制限され、電磁弁電流が50%になると油圧アクチュエータの速度がV2(<V1)まで制限され、電磁弁電流が100%になると油圧アクチュエータの速度が0(ゼロ)に制限されることを示している。
【0028】
パイロットポンプ27の吐出ライン27aには、パイロットポンプ27の吐出圧を一定に保持するパイロットリリーフ弁(図示せず)が設けられている。また、パイロットポンプ27の吐出ライン27aにはロック弁27bが設けられており、このロック弁27bは、ゲートロックレバー4fの操作に応じて切換えられるようになっている。ゲートロックレバー4fには、ゲートロックレバー4fがロック解除位置(下降位置)にある場合に閉じ状態、ロック位置(上昇位置)にある場合に開き状態となるポジションスイッチ(図示せず)が設けられている。そして、例えば、ポジションスイッチが閉じ状態になると、ポジションスイッチを介してロック弁27bのソレノイド部が通電されて、ロック弁27bが連通位置に切換えられる。これにより、パイロットポンプ27の吐出ライン27aが連通されて、パイロットポンプ27の吐出圧が操作装置4bなどに導入される。その結果、操作装置4bなどの操作によってパイロット圧が生成され、油圧アクチュエータを作動させることができる(作業可能状態)。一方、ポジションスイッチが開き状態になると、ロック弁27bが遮断位置となる。これにより、パイロットポンプ27の吐出ライン27aを遮断する。その結果、操作装置4bなどを操作してもパイロット圧が生成されず、油圧アクチュエータが作動しないようになっている(作業不可状態)。
【0029】
なお、図4に図示しない左右の走行油圧モータ1a,1b、ブームシリンダ3d、アームシリンダ3e、及び、バケットシリンダ3fに係る油圧回路システムもほぼ同様の構成を備えている。
【0030】
また、少なくとも走行操作に係る操作装置4d,4eから油圧モータ1a,1bのそれぞれの方向切換弁(図示せず)の2つの受圧部への管路には、それぞれ、電磁弁24a,24bが設けられており、制御装置20からの電磁弁電流(指令信号)に基づいてパイロット圧(操作信号)を制限することにより油圧アクチュエータである走行油圧モータ1a,1bの動作速度を制限する。
【0031】
以上のように構成した本実施の形態の油圧ショベル100は、センサ14~16の検知結果に基づいて、油圧ショベル100の動作を制限する周囲監視機能を有している。
【0032】
図5は、本実施の形態に係る油圧ショベルの周囲監視機能に係る構成を抜き出して模式的に示す機能ブロック図である。
【0033】
図5において、周囲監視機能は、複数のセンサ14~16と、制限装置としての電磁弁23a,23b,24a,24bと、複数のセンサ14~16の検知結果に基づいて電磁弁23a,23b,24a,24bへの指令信号を生成する制御装置20とから構成されている。
【0034】
センサ14~16は、センサ14~16から物体までの距離および方向を検知し、検知した物体の3次元座標系における位置を検知結果として出力するものであり、例えば、赤外線深度センサである。また、センサ14~16は、再帰性反射材とそれ以外の部材(物体)とを区別して検知可能であり、検知結果として検知した物体が再帰性反射材であるか否かの情報を出力する。
【0035】
図7は、センサの検知範囲の一例を示す図である。
【0036】
図7では、センサ14~16のうち右側方センサ14の検知範囲を代表して示している。図7に示すように、センサ14の検知範囲30は、下部走行体1の上部旋回体2に対する相対的な稼動範囲を少なくとも一部に含むように設定された第一検知領域30bと、第一検知領域30bと隣接するように設定された第二検知領域30aとで設定されており、第一検知領域30bと第二検知領域30aとの境界は、上部旋回体2の下端と下部走行体1の上端の間の高さで、上部旋回体2の旋回軸に垂直な仮想平面に沿うよう設定されている。この検知範囲の設定は、制御装置20の図示しない記憶領域に記憶されており、例えば、メンテナンス用の外部機器等を介して調整を行うことが可能である。
【0037】
第一検知領域30bと第二検知領域30aは、それぞれセンサ14の検知対象となる物体(部材)が決められている。第一検知領域30bは、油圧ショベル100の周囲で作業を行う作業者が装着する再帰性反射材とそれ以外の物体のうち、再帰性反射材のみを検知対象とする検知領域である。また、第二検知領域30aは、再帰性反射材とそれ以外の物体の両方を検知対象とする検知領域である。すなわち、制御装置20は、センサ14からの検知結果として、検知された物体の3次元位置の情報と検知された物体の種類(再帰性反射材か否か)の情報とを取得しており、物体が検知された3次元位置が第一検知領域30bである場合には、検知された物体が再帰性反射材である場合にのみ物体を検知したものとし、下部走行体1のような再帰性反射材以外の物体のみが検知されても物体の検知は無いものとする。また、制御装置20は、物体が検知された3次元位置が第二検知領域30aである場合には、再帰性反射材とそれ以外の物体の何れの物体が検知された場合にも物体を検知したものとする。
【0038】
制御装置20は、物体・再帰性反射材判定部20aと、動作制限判定部20bとを有している。
【0039】
図8は、物体・再帰性反射材判定部の処理内容を示すフローチャートであり、図9は動作制限判定部の処理内容を示すフローチャートである。
【0040】
図8に示すように、物体・再帰性反射材判定部20aは、まず、センサ14~16からの検知結果に基づいて物体が検知されたかどうかを判定する(ステップS100)。具体的には、上述のように、第一検知領域30bで再帰性反射材が検知されたか、或いは、第二検知領域30aで何れかの物体が検知されたかを判定する。ステップS100での判定結果がNOの場合には、物体が検知されるまでステップS100の処理を繰り返す。
【0041】
また、ステップS100での判定結果がYESであり、かつ、物体を検知したセンサが右側方センサ14又は左側方センサ16である場合には、検知した物体に再帰性反射材が含まれるかどうかを判定し(ステップS110)、判定結果がYESの場合には検知フラグAを動作制限判定部20bに出力し(ステップS111)、判定結果がNOの場合には検知フラグBを動作制限判定部20bに出力して(ステップS112)、処理を終了する。
【0042】
また、ステップS100での判定結果がYESであり、かつ、物体を検知したセンサが後方センサ15である場合には、検知した物体に再帰性反射材が含まれるかどうかを判定し(ステップS120)、判定結果がYESの場合には検知フラグCを動作制限判定部20bに出力し(ステップS121)、判定結果がNOの場合には検知フラグDを動作制限判定部20bに出力して(ステップS122)、処理を終了する。
【0043】
続いて、動作制限判定部20bは、物体・再帰性反射材判定部20aから出力された検知フラグが何かを判定し(ステップS200)、検知フラグがA又はCであると判定された場合には、旋回用の電磁弁23a,23bに出力する電磁弁電流と、走行用の電磁弁24a,24bに出力する電磁弁電流とを両方とも100%とすることで、旋回動作および走行動作を停止させ(ステップS201)、処理を終了する。すなわち、再帰性反射材を装着する作業者が検知されたと考えられる場合には、旋回動作と走行動作の両方を停止することで、油圧ショベル100の作業者への接触を防止することができる。
【0044】
また、ステップS200において、検知フラグがBであると判定された場合には、旋回用の電磁弁23a,23bに出力する電磁弁電流を50%とするとともに、走行用の電磁弁24a,24bに出力する電磁弁電流を100%とすることで、旋回動作の動作速度を減速させるとともに、走行動作を停止させ(ステップS202)、処理を終了する。すなわち、油圧ショベル100の側方(正確には上部旋回体2の側方)において、再帰性反射材以外の物体(つまり、作業者以外の物体)が検知された場合には、旋回速度を停止させずに減速にとどめるとともに、走行動作を停止することで、作業効率の低下を抑制しつつ側方で検知された物体との接触を適切に抑制することができる。
【0045】
また、ステップS200において、検知フラグがDであると判定された場合には、旋回用の電磁弁23a,23bに出力する電磁弁電流を0(ゼロ)%とするとともに、走行用の電磁弁24a,24bに出力する電磁弁電流を100%とすることで、旋回動作の動作速度を制限せずに、走行動作を停止させ(ステップS203)、処理を終了する。すなわち、油圧ショベル100の後方(正確には上部旋回体2の後方)において、再帰性反射材以外の物体(つまり、作業者以外の物体)が検知された場合には、旋回速度を維持するとともに、走行動作を停止することで、作業効率の低下を抑制しつつ後方で検知された物体との接触を適切に抑制することができる。
【0046】
以上のように構成した本実施の形態における効果を説明する。
【0047】
走査状にレーザ光を投光して作業者に装着された再帰性反射材からの反射光を検出することで作業者を検出する従来技術においては、再帰性反射材を有しないその他の資材や障害物を認識することができない。また、上下方向の検知範囲が上部旋回体と下部走行体の間を通る平面に制限される従来技術においては、上部旋回体に対して相対的に旋回移動する下部走行体を検知対象から除外することはできるものの、上部旋回体の下面よりも低い位置に作業者やその他の障害物が有る場合には検知することができない。このため、例えば、障害物を検知した場合に作業機械の動作を制限する従来技術を適用したとしても、障害物の検知時に作業機械の動作を適切に制限することができない。
【0048】
これに対して本実施の形態においては、油圧アクチュエータである走行油圧モータ1a,1bや油圧シリンダ3d~3f、旋回油圧モータ10を駆動させるための操作信号を出力する操作装置4b~4eと、特定の物体である再帰性反射材とそれ以外の物体とを区別して検知可能なセンサ14~16と、操作装置4b~4eから出力される操作信号を制限することで油圧アクチュエータの駆動を制限する制限装置としての電磁弁23a,23b,24a,24bと、センサ14~16の検知結果に基づいて電磁弁23a,23b,24a,24bを制御する制御装置20とを備えた油圧ショベル100において、制御装置20は、センサ14~16により物体が検知された場合には、センサ14~16で検知された物体(部材)が再帰性反射材であるか否かの情報と、センサ14~16で検知された物体(部材)の位置が車体の稼動範囲を少なくとも一部に含む第一検知領域30bと第一検知領域30bに隣接する第二検知領域30aの何れであるかの情報とに基づいて、電磁弁23a,23b,24a,24bを制御するように構成したので、油圧ショベル100の構造物を検知対象からの除外することによる検知範囲の減少を抑制しつつ、油圧ショベル100と障害物の接触を抑制することができる。
【0049】
なお、検知領域の設定については、図7で説明したものに限られず、例えば、図10に示すように、センサ14の検知範囲31について、下部走行体1の上部旋回体に対する相対的な稼動範囲に相当する範囲を第一検知領域31bとし、その他の領域を第二検知領域31aとするように構成してもよい。このように下部走行体1の稼動範囲に基づいて第一検知領域31bを設定することで、より精度よく物体の検知を行うことができる。
【0050】
以上のように構成した本実施の形態の特徴を説明する。
【0051】
(1)上記の実施の形態では、車体(例えば、下部走行体1及び上部旋回体2)を駆動するためのアクチュエータ(例えば、走行油圧モータ1a,1b、旋回油圧モータ10)と、前記アクチュエータを駆動させるために操作する操作装置4b~4eと、前記車体に設けられ、前記車体の周囲に存在する物体を検知するセンサ14~16と、前記操作装置による前記アクチュエータの駆動を制限する制限装置(例えば、電磁弁23a,23b,24a,24b)と、前記センサの検知結果に基づいて前記制限装置を制御する制御装置20とを備えた作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記センサは、前記物体の中から特定の物体を区別して検知可能であり、前記センサの検知範囲は、前記車体の稼働範囲を少なくとも一部含むように設定された第一検知領域と前記第一検知領域の上方に隣接して設定された第二検知領域とで設定されており、前記制御装置は、前記センサにより前記第一領域で物体を検知した場合には、検知された前記物体が前記特定の物体のときのみ、前記制限装置により前記アクチュエータの駆動を制限し、前記センサにより前記第二領域で物体を検知した場合には、検知された前記物体が前記特定の物体でなくとも、前記制御装置により前記アクチュエータの駆動を制限するものとした。
【0052】
これにより、作業機械の構造物を検知対象からの除外することによる検知範囲の減少を抑制しつつ、作業機械と障害物の接触を抑制することができる。
【0054】
(2)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記制御装置20は、前記第一検知領域に前記物体が検知され、前記第二検知領域に前記物体が検知されていない時に、前記検知された物体が前記特定の物体でない場合には、前記制限装置(例えば、電磁弁23a,23b,24a,24b)による制御を行わないものとした。
【0055】
(3)また、上記の実施の形態では、上記(1)~(2)の何れか1つの作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記センサ14~16は、赤外線深度センサであるものとした。
【0056】
(4)また、上記の実施の形態では、上記(1)~(3)の何れか1つの作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記特定の物体は、再帰性反射材であるものとした。
【0057】
(5)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記車体は、上部旋回体2及び下部走行体1により構成され、前記制限装置(例えば、電磁弁23a,23b,24a,24b)は、前記下部走行体の走行動作と前記上部旋回体の前記下部走行体に対する旋回動作との少なくとも何れか一方を制限するものとした。
【0058】
(6)また、上記の実施の形態では、上記(1)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記車体は、上部旋回体2及び下部走行体1により構成され、前記第一検知領域30bと前記第二検知領域30aとの境界の少なくとも一部は、前記上部旋回体の下端と前記下部走行体の上端の間となるよう設定されたものとした。

【0059】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…下部走行体、1a,1b…走行油圧モータ、1c,1d…クローラフレーム、1e,1f…クローラ、2…上部旋回体、3…フロント作業機、3a…ブーム、3b…アーム、3c…バケット、3d…ブームシリンダ、3e…アームシリンダ、3f…バケットシリンダ、4…運転室、4a…座席、4b~4e…操作装置、4f…ゲートロックレバー、4g…モニタ、10…旋回油圧モータ、14…右側方センサ、14…センサ、15…後方センサ、15…センサ、16…左側方センサ、16…センサ、20…制御装置、20a…物体・再帰性反射材判定部、20b…動作制限判定部、23a,23b…電磁弁、24a,24b…電磁弁、25…エンジン、26…油圧ポンプ、26a…吐出ライン、27…パイロットポンプ、27a…吐出ライン、27b…ロック弁、28…方向切換弁、28a…センタバイパスライン、30,31…検知範囲、30a,31a…第二検知領域、30b,31b…第一検知領域、41…タンクライン、100…油圧ショベル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10