(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】温度予測方法、温度予測装置、及び温度予測用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01K 7/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G01K7/00 381D
(21)【出願番号】P 2019106932
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390000011
【氏名又は名称】JFEアドバンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】田村 有為
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-24530(JP,A)
【文献】特開平3-122535(JP,A)
【文献】特開昭54-133392(JP,A)
【文献】特開昭49-91488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に接触させた温度センサの実測温度(T
実)に基づいて測定対象の温度(T
対)を予測する温度予測方法であって、
温度センサによる測定対象の実測温度(T
実)と実測温度(T
実)の単位時間当たりの温度変化に基づいて、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値(T
e1,T
e2,…T
en)を算出し、
あらかじめ求めておいた実測温度(T
実)と予測値(T
e1,T
e2,…T
en)と測定対象の予測温度(T
予)との関係式を用いて、温度センサの実測温度(T
実)が測定対象の温度(T
対)に一致する前に測定対象の温度(T
対)を予測温度(T
予)として予測する温度予測方法。
【請求項2】
前記関係式は、以下の式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の温度予測方法。
【数1】
ここで、T
予は予測温度、T
eiはi番目の予測モデルによる予測値、T
実は実測温度、α
i、α
実、βは係数である。
【請求項3】
前記予測モデルには、以下の式(2)を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の温度予測方法。
【数2】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、T
eは予測モデルによる予測値、mは1以上の整数、aは係数である。
【請求項4】
n≧2であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の温度予測方法。
【請求項5】
n種類(n≧2)の前記予測モデルのうち、予測モデルAには以下の式(3)を用い、予測モデルBには以下の式(4)を用いることを特徴とする請求項4に記載の温度予測方法。
【数3】
【数4】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、T
e1は予測モデルAによる予測値、T
e2は予測モデルBによる予測値、a,bは係数である。
【請求項6】
測定対象に接触させた温度センサの実測温度(T
実)に基づいて測定対象の温度(T
対)を予測する温度予測装置であって、
温度センサによる測定対象の実測温度(T
実)と実測温度(T
実)の単位時間当たりの温度変化に基づいて、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値(T
e1,T
e2,…T
en)を算出する予測値算出手段と、
あらかじめ求めておいた実測温度(T
実)と予測値(T
e1,T
e2,…T
en)と測定対象の予測温度(T
予)との関係式を用いて、温度センサの実測温度(T
実)が測定対象の温度(T
対)に一致する前に測定対象の温度(T
対)を予測温度(T
予)として予測する温度予測手段と、を備える温度予測装置。
【請求項7】
測定対象に接触させた温度センサの実測温度(T
実)に基づいて測定対象の温度(T
対)を予測する温度予測用プログラムであって、
プロセッサを有する装置に、
温度センサによる測定対象の実測温度(T
実)と実測温度(T
実)の単位時間当たりの温度変化に基づいて、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値(T
e1,T
e2,…T
en)を算出する予測値算出ステップと、
あらかじめ求めておいた実測温度(T
実)と予測値(T
e1,T
e2,…T
en)と測定対象の予測温度(T
予)との関係式を用いて、温度センサの実測温度(T
実)が測定対象の温度(T
対)に一致する前に測定対象の温度(T
対)を予測温度(T
予)として予測する温度予測ステップと、を実行させる温度予測用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象に接触させた温度センサの実測温度に基づいて、測定対象の温度を予測する温度予測方法、温度予測装置、及び温度予測用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば回転機械に多用される軸受は、潤滑不良等の異常が生じると発熱して軸受箱等の温度を上昇させるので、軸受の状態監視のために温度測定が行われる。軸受等の測定対象の温度を測定するために、温度センサを測定対象に接触させるとき、測定対象と温度センサとには温度差があるので、温度センサが測定対象の温度まで変化(上昇又は下降)する。この温度センサが測定対象の温度まで変化するまでの時間が温度測定に要する時間であるが、温度センサの構造的制約から温度センサの熱容量を十分小さくすることができない場合、温度測定に要する時間は無視できない。特に、様々な環境で使用される産業用温度センサには構造的な頑強さが求められ、そのために温度応答が遅くなってしまうことがあるので、温度センサを測定対象に接触させた後の温度センサの実測温度の変化に基づいて測定対象の予測温度を予測することで、温度測定に要する時間を短縮することが行われている。
【0003】
この種の温度予測方法として、従来からニュートンの冷却法則が知られている。ニュートンの冷却法則を用いれば、測定対象の温度は、以下の式(6)の予測モデルから予測することができる。
【0004】
【0005】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、aは係数、Teは測定対象の予測温度である。実測温度T(t)は、測定対象に接触させた温度センサの実測温度である。
【0006】
ニュートンの冷却法則は、実測温度の単位時間当たりの変化dT(t)/dtが、実測温度T(t)と測定対象の温度との差に比例するという経験則を利用したものである。
【0007】
ニュートンの冷却法則以外の予測方法として、例えば特許文献1に記載の予測方法が知られている。この予測方法は、体温計に用いられる。この予測方法では、温度センサによる実測値が所定値以上、かつ温度上昇率が所定値以上になったときを予測演算の起点とし、予測値をY、実測値をT、上乗量をUとすると、Y=T+Uで与えられる予測モデルを使用している。上乗量は、tを起点からの経過時間とすると、U=a1×dT/dt+b1、又はU=(a2×t+b2)×dT+(c2×t+d2)で与えられる。ここで、係数a1、b1、a2、b2、c2、d2は、被験者の特徴や温度センサの特性に基づいて決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前者のニュートンの冷却法則による予測方法においては、
図14に示すように、予測温度と測定対象の温度との乖離が大きいという課題がある。特に温度センサが測定対象に接触した直後の予測温度と測定対象の温度との乖離が大きい。
【0010】
また、後者の体温計に用いられている予測方法においては、精度の高い予測が可能であるが、予測終了までに時間がかかるという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は、測定対象の予測温度と測定対象の温度との乖離を小さくすることができ、短時間で予測を終了することができる温度予測方法、温度予測装置、及び温度予測用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、測定対象に接触させた温度センサの実測温度(T実)に基づいて測定対象の温度(T対)を予測する温度予測方法であって、温度センサによる測定対象の実測温度(T実)と実測温度(T実)の単位時間当たりの温度変化に基づいて、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値(Te1,Te2,…Ten)を算出し、あらかじめ求めておいた実測温度(T実)と予測値(Te1,Te2,…Ten)と測定対象の予測温度(T予)との関係式を用いて、温度センサの実測温度(T実)が測定対象の温度(T対)に一致する前に測定対象の温度(T対)を予測温度(T予)として予測する温度予測方法である。
【0013】
本発明の他の態様は、測定対象に接触させた温度センサの実測温度(T実)に基づいて測定対象の温度(T対)を予測する温度予測装置であって、温度センサによる測定対象の実測温度(T実)と実測温度(T実)の単位時間当たりの温度変化に基づいて、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値(Te1,Te2,…Ten)を算出する予測値算出手段と、あらかじめ求めておいた実測温度(T実)と予測値(Te1,Te2,…Ten)と測定対象の予測温度(T予)との関係式を用いて、温度センサの実測温度(T実)が測定対象の温度(T対)に一致する前に測定対象の温度(T対)を予測温度(T予)として予測する温度予測手段と、を備える温度予測装置である。
【0014】
本発明のさらに他の態様は、測定対象に接触させた温度センサの実測温度(T実)に基づいて測定対象の温度(T対)を予測する温度予測用プログラムであって、プロセッサを有する装置に、温度センサによる測定対象の実測温度(T実)と実測温度(T実)の単位時間当たりの温度変化に基づいて、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値(Te1,Te2,…Ten)を算出する予測値算出ステップと、あらかじめ求めておいた実測温度(T実)と予測値(Te1,Te2,…Ten)と測定対象の予測温度(T予)との関係式を用いて、温度センサの実測温度(T実)が測定対象の温度(T対)に一致する前に測定対象の温度(T対)を予測温度(T予)として予測する温度予測ステップと、を実行させる温度予測用プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象の予測温度(T予)と測定対象の温度(T対)との乖離を小さくすることができ、温度センサの熱容量の影響を受けずに短時間で温度予測を終了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】温度センサによる実測温度T
実、測定対象の温度T
対、予測モデルAによる予測値T
e1、予測モデルBによる予測値T
e2を比較したグラフである。
【
図2】実測温度T
実、予測モデルAによる予測値T
e1、測定対象の温度T
対と予測モデルBによる予測値T
e2の差をプロットした3次元散布図である。
【
図4】実測温度T
実、測定対象の予測温度T
予、測定対象の温度T
対、予測モデルAによる予測値T
e1を比較したグラフである。
【
図5】実測温度T
実、測定対象の予測温度T
予、測定対象の温度T
対、予測モデルAによる予測値T
e1を比較したグラフである。
【
図6】重回帰分析によりα、β、γを求めた場合の測定対象の予測温度T
予と、2次元散布図によりα、β、γを求めた場合の測定対象の予測温度T
予とを比較したグラフである。
【
図7】予測モデルAと予測モデルBを用いた予測温度T
予と、予測モデルCと予測モデルDを用いた予測温度T
予とを比較したグラフである。
【
図8】予測モデルA,Bを用いた予測温度T
予と、予測モデルA,B,Cを用いた予測温度T
予とを比較したグラフである。
【
図9】1種類の予測モデルAを用いた予測温度T
予、1種類の予測モデルDを用いた予測温度T
予、2種類の予測モデルA,Bを用いた予測温度T
予を比較したグラフである。
【
図11】予測モデルA,Bを用いた予測温度T
予、予測モデルC,Dを用いた予測温度T
予、予測モデルA,Bを用いた予測温度T
予(実測温度なし)、予測モデルC,Dを用いた予測温度T
予(実測温度なし)を比較したグラフである。
【
図12】温度予測装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図13】温度予測装置が実行する処理のフローチャートである。
【
図14】従来のニュートンの冷却法則による予測温度と測定対象の温度とを比較したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の温度予測方法、温度予測装置、及び温度予測用プログラムを詳細に説明する。ただし、本発明は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
<温度予測方法>
(予測モデルAと予測モデルBを用いた温度予測方法)
【0018】
本実施形態の温度予測方法では、まず、n種類の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値Te1,Te2,…Tenを算出する。ここでは、式(3)に示すニュートンの冷却法則を用いた予測モデルAと、発明者が見出した式(4)に示す経験則を用いた予測モデルBを用いて、それぞれの予測モデルA,Bによる予測値Te1,Te2を算出する。
【0019】
【数2】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、aは係数、T
e1は予測モデルAによる予測値である。
【0020】
実測温度T(t)と単位時間当たりの温度変化dT(t)/dtの組を複数回測定することにより、式(3)における予測値Te1及び係数aを推定することができる。
【0021】
図1は、温度センサによる実測温度、測定対象の温度、予測モデルAによる予測値T
e1を比較したグラフを示す。
図1に示すように、予測モデルAによる予測値T
e1は、測定対象の温度との乖離が大きい。特に温度センサを測定対象に接触させた直後の乖離が顕著である。
【0022】
式(4)に示す予測モデルBは、実際に得られた温度応答曲線をモデル化したものであり、経験則に基づく。
【0023】
【数3】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、bは係数、T
e2は予測モデルBによる予測値である。
【0024】
実測温度T(t)と単位時間当たりの温度変化dT(t)/dtの組を複数回測定することにより、式(4)における予測値Te2及び係数bを推定することができる。
【0025】
図1に示すように、予測モデルBによる予測値T
e2は、予測モデルAによる予測値T
e1に比べて、時間が経過すると測定対象の温度T
対に近づく。しかし、予測モデルBによる予測値T
e2も、温度センサを測定対象に接触させた直後は測定対象の温度T
対との乖離が大きい。
【0026】
図2(a)に示すように、x軸に実測温度T
実、y軸に予測モデルAによる予測値T
e1、z軸に測定対象の温度T
対と予測モデルBによる予測値T
e2の差をプロットすると、3次元散布図が得られる。
図2(b)は
図2(a)とは視点を変えたものである。
図2(a)(b)に示すように、プロットした点が3次元のある平面の近傍に分布する。
図2(b)は、この平面内の視点から見た3次元散布図であり、プロットした点が略一直線上に並ぶ。3次元上のこの平面を特定するパラメータが、以下の式(5)のα、β、γである。α、β、γは、温度センサ固有の値である。
【0027】
【数4】
ここで、T
対は測定対象の温度、T
実は実測温度、T
e1は予測モデルAによる予測値、T
e2は予測モデルBによる予測値、α、β、γは係数である。
【0028】
温度予測においては、予測するのは測定対象の予測温度であるので、式(5)中の温度T対を予測温度T予と置き換えて変形して得られる、以下の式(6)を測定対象の予測温度T予を予測するのに用いる。
【0029】
【0030】
実測温度T実、予測モデルAによる予測値Te1、予測モデルBによる予測値Te2が測定中に入手可能であることから、温度センサに対してα、β、γをあらかじめ求めておくことで、測定対象の予測温度T予を式(6)から求めることができる。
【0031】
式(5)のα、β、γの求め方を説明する。以下には、γを決めてからα、βを求める実施例を説明するが、パラメータα、β、γを主成分分析や平面近似により求めてもよい。
【0032】
式(5)のα、β、γは、上記のように、
図2(a)(b)の散布図上の点が存在する3次元上の平面を特定するパラメータである。γ≠0の場合に、
図2(a)(b)の散布図を予測モデルAによる予測値T
e1+(実測温度T
実/γ)=0を満たす平面に投影すると、縦軸を(予測モデルBによる予測値T
e2-測定対象の温度T
対)、横軸を(予測モデルAによる予測値T
e1-γ×実測温度T
実)とする2次元散布図が得られる。本実施形態では、
図3に示すように、γ=1とした2次元散布図を得た。
【0033】
図3に示す2次元散布図でも、プロットした点が十分に直線上に載っていると判断し、そして、γ=1に決定した上で、(α,β)≒(1.1,2.3)に決定した。相関係数R
2は0.9874であった。
【0034】
γ=1と固定して、測定対象の温度T対を変えた実験においてもパラメータα、βの測定対象の温度への依存度が低く、このパラメータの組は十分に温度センサそのものの特性を表すものであることがわかった。
【0035】
上記のように式(6)から測定対象の予測温度T予を求めるが、式(3)及び式(4)のそれぞれの予測値Te1,Te2は、単位時間当たりの温度変化が小さい場合において、温度測定誤差の影響を受け易い。このため、温度変化量が所定値(例えば0.08℃/sec)以下の場合には、予測適用を避けることが望ましい。
【0036】
図4は、温度センサによる実測温度T
実、測定対象の予測温度T
予、測定対象の温度T
対、予測モデルAによる予測値T
e1を比較したグラフを示す。
【0037】
式(6)から求めた測定対象の予測温度T予は、測定対象の温度T対との乖離が小さく、温度センサを測定対象に接触させた直後(例えば15秒経過後)でも、測定対象の温度T対との乖離が小さいことがわかる。
【0038】
式(3)から予測モデルAによる予測値Te1を求め、式(4)から予測モデルBによる予測値Te2を求めるにあたり、測定対象に接触する前の温度センサの温度及び測定対象に温度センサを接触させた時間の情報を必要としない。式(6)から測定対象の予測温度T予を求めるにあたっても同様である。このため、測定対象へ温度センサを設置した後の任意の時間に温度測定及び温度予測をすることができる。
【0039】
予測可能な温度範囲が低温から高温まで広く、測定対象の温度T
対が接触前の温度センサより低い場合でも、
図5に示すように予測可能である。
【0040】
温度センサが測定対象の温度T対に達するよりも速く測定対象の予測温度T予を予測することができ、より短時間で温度予測を終了することができる。温度予測に必要な時間が短縮するので、応答の速い接触式の別のセンサ(例えば、振動センサ、アコースティックエミッションセンサ、歪センサ)と組み合わせた同時計測も可能になる。
(重回帰分析を用いた温度予測方法)
【0041】
式(5)、すなわち実測温度T実、予測モデルAによる予測値Te1、予測モデルBによる予測値Te2、測定対象の温度T対の関係式は、予測モデルA,Bに合わせて、以下のように重回帰分析により求めることもできる。
【0042】
X=(予測モデルAによる予測値T
e1,実測温度)、Y=予測モデルBによる予測値T
e2-測定対象の温度T
対として、標準化の後、重回帰にかけて下記の式(7)を推定する。推定するのは下記の式(7)の係数c(1)、c(2)である。
【数6】
ここで、X(1)は予測モデルAによる予測値T
e1であり、X(2)は実測温度である。□
m(添え字のm)はそれぞれの平均値であり、□
s(添え字のs)はそれぞれの標準偏差で標準化時に計算する。
【0043】
式(5)を整理すると、下記の式(8)が得られる。
【数7】
【0044】
式(8)のc(1)が式(5)のαに相当し、式(8)のc(2)/c(1)が式(5)のγに相当し、式(8)の右辺の第2項が式(5)のβに相当する。c(1)、c(2)を推定することで、α、β、γを求めることができる。
【0045】
図6は、重回帰分析によりα、β、γを求めた場合の測定対象の予測温度T
予と、2次元散布図によりα、β、γを求めた場合の測定対象の予測温度T
予とを比較したグラフである。いずれの場合でも略同一の予測温度T
予が得られる。
(予測モデルCと予測モデルDを用いた温度予測方法)
【0046】
式(3)に示す予測モデルAを下記の式(9)に示す予測モデルCに変更し、式(4)に示す予測モデルBを下記の式(10)に示す予測モデルDに変更した。
【数8】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、aは係数、T
e3は予測モデルCによる予測値である。
【0047】
【数9】
ここで、tは時間、T(t)は時間tでの実測温度、bは係数、T
e4は予測モデルDによる予測値である。
【0048】
α、β、γは、上述の重回帰分析により求めた。
図7は、予測モデルAと予測モデルBを用いた予測温度T
予と、予測モデルCと予測モデルDを用いた予測温度T
予とを比較したグラフである。いずれの場合でも略同一の予測温度T
予が得られた。
【0049】
図7から予測モデルA,B,C,Dを下記の式(2)ように一般化しても予測可能であることがわかる。
【数10】
mは1以上の整数である。
(予測モデルAと予測モデルBと予測モデルCを用いた温度予測方法)
【0050】
式(3)に示す予測モデルAと式(4)に示す予測モデルBと式(9)に示す予測モデルCを用いて測定対象の予測温度T予を予測した。
【0051】
ここで、関係式である式(6)を予測モデルの数nに対して以下の式(1)に一般化する。
【数11】
T
予は予測温度、T
eiはi番目の予測モデルによる予測値、T
実は実測温度、α
i、α
実、βは係数である。
【0052】
【0053】
【0054】
係数γ=α
実/α
1を導入してα
実から置き換えると、
【数14】
【0055】
【0056】
式(14)は式(6)と同一である(ただし、係数の前の符号が逆)。
【0057】
図8は、予測モデルA,Bを用いた予測温度T
予と、予測モデルA,B,Cを用いた予測温度T
予とを比較したグラフである。予測モデルを3つに増やすと予測開始直後の誤差は低減された。予測モデルを増やすことで予測性能が上がると思われる。
(1種類の予測モデルを用いた温度予測方法)
【0058】
式(3)に示す1種類の予測モデルAを用いて測定対象の予測温度T予を予測した。関係式には、n=1とした式(1)を用いた。
【0059】
また、式(10)に示す1種類の予測モデルDを用いて測定対象の予測温度T予を予測した。関係式には、n=1とした式(1)を用いた。
【0060】
図9は、1種類の予測モデルAを用いた予測温度T
予、1種類の予測モデルDを用いた予測温度T
予、2種類の予測モデルA,Bを用いた予測温度T
予を比較したグラフである。
図10は、
図9を拡大したグラフである。1種類の予測モデルA又は1種類の予測モデルDを用いても、温度予測が可能であった。ただし、予測モデルを2種類以上使用すると、予測性能がより向上した。
(関係式に実測温度を含めない比較例)
【0061】
式(6)において、実測温度T実が必須であるかどうかを検討した。式(6)において単純に実測温度T実の項を削除した。そして、予測モデルA,Bを用いた予測温度T予(重回帰分析、実測温度ありの発明例)、予測モデルC,Dを用いた予測温度T予(重回帰分析、実測温度ありの発明例)、予測モデルA,Bを用いた予測温度T予(重回帰分析、実測温度なしの比較例)、予測モデルC,Dを用いた予測温度T予(重回帰分析、実測温度なしの比較例)を比較した。
【0062】
図11は、これらの予測温度T
予を比較したグラフである。関係式に実測温度を含めない場合は、精度がでないことがわかった。
<温度予測装置>
【0063】
図12は、温度予測装置の内部構成を示すブロック図である。温度予測装置1は、温度センサ4と、処理部5と、表示装置2aと、を備える。温度センサ4は、測定対象の温度を測定し、それを温度データとして処理部5に出力する。温度センサ4が出力する温度データが実測温度である。
【0064】
処理部5は、CPU5aと、メモリ5bと、を備える。メモリ5bは、温度予測用プログラムを格納したROM及び演算処理用のRAMを含む。CPU5aは、温度予測用プログラムにしたがって動作する。CPU5aによって、予測値算出手段及び温度予測手段が実現される。
【0065】
本実施形態の温度予測装置1は、携帯可能であり、作業員が工場内を巡回しながら軸受に温度センサ4を取り付けて、軸受の温度を測定するのに用いられる。温度センサ4には、振動センサを組み込んでもよい。この場合、表示装置2aには、軸受の温度と振動の測定結果が表示される。振動の測定に比べて温度の測定には時間がかかるところ、本実施形態の温度予測装置1を使用すれば、振動の測定と同時に温度の測定を終了することができる。測定した温度と振動のデータを、インターネットを介してパソコン等に送信してもよい。なお、もちろん、本発明の温度予測装置の用途、構成は上記の実施形態に限られることはない。
【0066】
図13は、温度予測装置1が実行する処理のフローチャートを示す。この処理は、温度予測装置1のCPU5aによって実行される。まず、S1において、電源スイッチがONされる。その後、S2において、温度センサによる測定対象の温度測定がなされる。
【0067】
S3において、測定対象の実測温度に基づいて、温度変化量が所定値(例えば0.08℃/sec)以下であるかどうかを判断する。所定値以下の場合は、温度測定誤差の影響を受け易いので、S4において、メッセージと共に実測温度を表示する。温度変化量が所定値以上の場合は、S5に進む。
【0068】
S5では、n種類(n≧1)の予測モデルを用いて、それぞれの予測モデルによる予測値Te1,Te2,…Tenを算出する。
【0069】
S6では、式(1)を用いて、実測温度T実、n種類の予測モデルによる予測値Te1,Te2,…Tenから予測温度T予を求める。S7では、求めた予測温度T予を表示装置2aに表示する。
<他の実施形態>
【0070】
上記実施形態では、温度予測装置を軸受の温度を予測する装置として使用する例を説明したが、温度予測装置を電子体温計として使用してもよい。この場合、温度予測装置は人の脇に挟むことができるように形成される。
【0071】
上記実施形態では、温度予測装置によって温度予測用プログラムを実行する例を説明したが、プロセッサを有する他の装置、例えばパソコン等のコンピュータによって温度予測用プログラムを実行してもよい。この場合、温度予測用プログラムの供給方法も限定されるものではなく、例えばCD-ROM等の記録媒体に格納された温度予測用プログラムをコンピュータにインストールしてもよいし、インターネット回線を通じてサーバから温度予測用プログラムをダウンロードしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…温度予測装置
4…温度センサ
5a…CPU(予測値算出手段、温度予測手段)
S5…予測値算出ステップ
S6…温度予測ステップ