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特許7189095レール破断の検知装置及びレール破断の検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】レール破断の検知装置及びレール破断の検知方法
(51)【国際特許分類】
   B61K 9/10 20060101AFI20221206BHJP
   B61L 23/00 20060101ALI20221206BHJP
   E01B 35/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B61K9/10
B61L23/00 Z
E01B35/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019131602
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021017063
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 充
(72)【発明者】
【氏名】相澤 宏行
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】西宮 裕騎
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107215353(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0261533(US,A1)
【文献】米国特許第04306694(US,A)
【文献】特開2011-225188(JP,A)
【文献】特開平08-184426(JP,A)
【文献】特開2012-021790(JP,A)
【文献】特開2012-158919(JP,A)
【文献】特開2015-227834(JP,A)
【文献】特開2004-170080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 9/10
B61L 23/00
E01B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置であって、
車両に取り付けられる加速度センサと、
前記加速度センサによって測定された加速度データを記録する記憶部と、
前記加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行う高周波判定部と、
前記加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行う低周波判定部と、
前記第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを備え
前記高周波バンドパスフィルタ処理は、300Hz - 800Hzの周波数帯のフィルタによるものであることを特徴とするレール破断の検知装置。
【請求項2】
レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置であって、
車両に取り付けられる加速度センサと、
前記加速度センサによって測定された加速度データを記録する記憶部と、
前記加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行う高周波判定部と、
前記加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行う低周波判定部と、
前記第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを備え、
前記低周波バンドパスフィルタ処理は、0.001Hz - 30Hzの周波数帯のフィルタによるものであることを特徴とするレール破断の検知装置。
【請求項3】
前記加速度センサは、前記車両の軸箱支持装置又は台車に取り付けられて上下加速度を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載のレール破断の検知装置。
【請求項4】
前記加速度データは、位置情報に関するデータとともに前記記憶部に記録されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のレール破断の検知装置。
【請求項5】
レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知方法であって、
加速度センサを備えた車両をレールに沿って走行させることで加速度データを取得するステップと、
前記加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行うステップと、
前記加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行うステップと、
前記第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定するステップとを備え
前記高周波バンドパスフィルタ処理は、300Hz - 800Hzの周波数帯のフィルタによるものであることを特徴とするレール破断の検知方法。
【請求項6】
レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知方法であって、
加速度センサを備えた車両をレールに沿って走行させることで加速度データを取得するステップと、
前記加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行うステップと、
前記加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行うステップと、
前記第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定するステップとを備え
前記低周波バンドパスフィルタ処理は、0.001Hz - 30Hzの周波数帯のフィルタによるものであることを特徴とするレール破断の検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置及びレール破断の検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道におけるレール破断は、繰り返しの車両走行によってレールが損傷することで発生し、車両の走行安全性を著しく低下させる。そのため、特許文献1に開示されているように、鉄道事業者は軌道回路と呼ばれる車両の位置検知を目的としたレールに流している信号電流によって、レール破断を検知している。
【0003】
軌道回路を利用した検知方法は、レールが破断した際に、破断したレールが開口して電流が短絡することで検知する方法である。軌道回路は、レールに信号電流を流すことで実現しているシステムであるため、その信号電流をき電する装置や、電車線から車両へ電力を供給し、その下のレールを使って変電所に返す電流等の軌道回路の信号電流と異なる電流を回路で分ける役割があるインピーダンスボンド等の地上設備のメンテナンスに、多大なコストを要している。
【0004】
一方、車両の位置検知を無線で行う技術の開発が進んでおり、軌道回路を維持する必要性が低下している。そして、特許文献2,3に開示されているように、軌道回路を利用しないレール破断の検知方法が開発されつつある。
【0005】
例えば特許文献2には、地上側にレールを伝搬する超音波を受信する超音波トランスデューサを設け、レール破断が発生した際に生じる衝撃振動を超音波トランスデューサが受信した場合に警報信号を出力する鉄道レール破断検出装置が開示されている。また、特許文献3にも、地上側に設けるレール破断検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/175439号公報
【文献】特開2014-80133号公報
【文献】特開2012-91671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、延長が長大となるレールに対して、地上側にレール破断の検知装置を設けるとなれば、特許文献2,3に開示されているような様々な工夫がなされたとしても、大幅なコスト削減は難しいという現実がある。
そこで、本発明は、レール破断を車両側から検知させることが可能なレール破断の検知装置及びレール破断の検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のレール破断の検知装置は、レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知装置であって、車両に取り付けられる加速度センサと、前記加速度センサによって測定された加速度データを記録する記憶部と、前記加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行う高周波判定部と、前記加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行う低周波判定部と、前記第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記加速度センサは、前記車両の軸箱支持装置又は台車に取り付けられて上下加速度を測定する構成にすることができる。また、前記高周波バンドパスフィルタ処理は、300Hz - 800Hzの周波数帯のフィルタであることが好ましい。さらに、前記低周波バンドパスフィルタ処理は、0.001Hz - 30Hzの周波数帯のフィルタであることが好ましい。また、加速度データは、位置情報に関するデータとともに前記記憶部に記録される構成とすることができる。
【0010】
そして、レール破断の検知方法の発明は、レール破断を車両側から検知させるレール破断の検知方法であって、加速度センサを備えた車両をレールに沿って走行させることで加速度データを取得するステップと、前記加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行うステップと、前記加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行うステップと、前記第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明のレール破断の検知装置は、車両に取り付けられた加速度センサによって測定された加速度データを利用し、高周波判定部と低周波判定部とによって2つの判定を行う。そして、これらの第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定する。
【0012】
このような構成であれば、地上側に何の設備を設けなくても、レール破断を車両側から検知させることができる。また、加速度センサは、車両の軸箱支持装置や台車などに取り付けることができ、これらの位置に予め取り付けられている加速度センサを利用することもできる。さらに、加速度データが位置情報に関するデータとともに記憶部に記録されていれば、車両走行後にレール破断箇所を特定して、補修などの対応を迅速にとることができるようになる。
【0013】
また、レール破断の検知方法の発明は、加速度センサを備えた車両をレールに沿って走行させて加速度データを取得し、測定された加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理及び低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果を利用することで、レール破断の有無を判定する。すなわち、地上側に何の設備を設けなくても、レール破断を車両側から検知させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態のレール破断の検知装置の構成を模式的に示した説明図である。
図2】異常のないレールを走行させたときの加速度波形を説明するための図で、(a)はレールの状態とその上を走行する車両の台車の構成を示した説明図、(b)は加速度センサによって測定された加速度データを例示した図である。
図3】レール破断が起きているときの加速度波形を説明するための図で、(a)はレール破断によって沈み込みが起きている状態を示した説明図、(b)は加速度センサによって測定された加速度データを例示した図である。
図4】レール破断の開口幅を変えたときの輪重の時刻歴波形を比較して示した説明図である。
図5】本実施の形態のレール破断の検知方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図6】加速度データと高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果とを併せて表示するとともに、第1の判定について説明するための説明図である。
図7】加速度データと低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果とを併せて表示するとともに、第2の判定について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態のレール破断の検知装置の構成を模式的に示した説明図である。
【0016】
軌道を構成するレール2は、レール2に沿って走行する車両1の車輪12との接触が繰り返されることで、レール破断が起きることがある。レール破断箇所21として開口が生じると、状態によっては図3(a)に示すような沈み込み箇所211となる場合もある。要するにレール2は、まくらぎ22上に差し渡されて締結装置23で固定されているが、まくらぎ2,2間にレール破断が起きると、片持ち梁状となったレール2が沈み込み箇所211となることがある。
【0017】
一方、車両1は、保守用車両であっても、列車などを構成する一般的な鉄道車両であってもよい。以下では、直方体状の箱型の車体に前後方向に間隔を置いて台車11が配置される車両1を例に説明する。
【0018】
台車11は、平面視長方形状の台車枠111を備え、一対のレール2のそれぞれを走行する車輪12が車軸によって連結されている。また、1台の台車11には、前後方向に2組の車輪12及び車軸の組み合わせ(輪軸)が設けられる。さらに、車軸の端部には、軸箱112及び軸箱支持装置が設けられる。
【0019】
このように構成された台車11の台車枠111及び軸箱支持装置などの少なくとも1箇所には、加速度センサ3が取り付けられる。この加速度センサ3は、上下方向の加速度(上下加速度)が測定できるように取り付けられる。
【0020】
加速度センサ3は、有線又は無線によって車両1に搭載されたデータレコーダ4に接続される。データレコーダ4は、加速度センサ3によって測定された加速度データを記録する記憶部となる。
【0021】
そして、データレコーダ4に記録された加速度データは、演算処理部を備えたパーソナルコンピュータなどのPC部5によって解析される。このPC部5は、車両1に搭載されていてもよいし、車両1とは別の管理棟などに設置されていてもよい。また、PC部5が車両1以外にある場合は、データレコーダ4からリアルタイム又は定期的にデータが転送される構成であってもよいし、データレコーダ4又はそれに挿し込まれたフラッシュメモリ等の記憶媒体を接続したときにデータが転送される構成であってもよい。
【0022】
PC部5は、第1の判定を行う高周波判定部と、第2の判定を行う低周波判定部と、第1の判定結果及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定する破断判定部とを判定処理部として備えている。
【0023】
高周波判定部では、加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第1の判定を行う。高周波バンドパスフィルタは、車輪12がレール2に接触することで衝撃的に発生する応答(加速度)を抽出するためのフィルタである。
【0024】
この応答は、車輪12とレール接触ばねに起因するもので、2000Hz以下の周波数とされている。また、これまでの測定結果では、100Hz程度以上でもこのような応答がみられている。そこで、高周波バンドパスフィルタとしては、100Hz - 2000Hzの範囲の周波数帯のものが使用できる。一方、浮きまくらぎや波状摩耗等の軌道の不正から発生する応答と区別するためには、300Hz程度以上に設定する方がよい。このため、好ましくは300Hz - 800Hzの範囲の周波数帯のものを使用する。
【0025】
低周波判定部では、加速度データに低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果から第2の判定を行う。低周波バンドパスフィルタは、輪軸の質量と軸ばね及び軌道ばねとに起因して発生する応答(加速度)を抽出するためのフィルタである。低周波バンドパスフィルタとしては、0.001Hz - 30Hzの範囲の周波数帯のものが使用できる。
【0026】
ここで、図2は、異常のないレール(健全部)に沿って車両1を走行させたときの加速度波形を説明するための図である。図2(a)は、健全部のレールの状態と、その上を走行する車両1の台車11に加速度センサ3が取り付けられた状態を示している。
【0027】
そして、図2(b)は、レール2の健全部を走行した車両1の加速度センサ3によって測定された加速度データを例示した図である。この図には、加速度データによって作成される加速度波形RDと振幅中心RD1とを示している。
【0028】
鉄道の軌道には、継目やまくらぎ22の浮きや締結装置23の不良箇所などが存在する。このような箇所を車両1が走行した際に、健全部と異なる応答を軸箱支持装置や台車枠111の上下加速度として示すことになる。
【0029】
図3は、レール破断が起きているときの加速度波形を説明するための図である。図3(a)は、レール破断によって沈み込み箇所211が発生している状態を示している。また、図3(b)は、沈み込み箇所211を走行した車両1の加速度センサ3によって測定された加速度データを例示した図である。
【0030】
上述した継目やまくらぎ22の浮きなどだけでなく、レール破断箇所や沈み込み箇所211を車両1が走行した際にも、健全部と異なる応答が軸箱支持装置や台車枠111の上下加速度として示されることになる。レール破断を検知するためには、こういった様々な応答からレール破断部の応答を区別する必要がある。
【0031】
図4は、レール破断部の開口幅を70mm,100mm,150mmと変えて車両1を走行させたときの輪重の時刻歴波形を示している。ここで輪重とは、車輪12がレール2を下方向に押す力を指す。
【0032】
輪重と軸箱支持装置の上下加速度は、近い関係にあるとされている。この輪重の波形を見ると、いずれの開口幅のケースにおいても、特徴的な高周波領域HFと低周波領域LFとが発生していることがわかる。
【0033】
高周波領域HFの波形は、レール破断部を車両1が走行した場合に、車輪12がレール2に接触することで衝撃的に発生する応答である。この波形は、レール破断部だけでなく、継目等を走行した際にも同様な波形が表れる。
【0034】
低周波領域LFの波形は、高周波領域HFの波長の後に、その後数秒変動している波形を意味している。健全部では、連続梁のようにレール2がまくらぎ22で連続的に支持されるのに対し、レール破断部においては、レール2が不連続になることでレール2が片持ち梁のように支持されることになる。その結果、レール破断部の走行時には輪軸の上下方向の変位が大きくなることや、軌道も異なる支持モードとなることから、このような応答になるものと考えられる。
【0035】
このような挙動には、輪軸のばねや質量及び軌道ばねが関係している。そして、この周波数帯の応答は、軌道にまくらぎ22の浮きや締結装置23の不良がある際にも、近いモードとして表れると想定される。
【0036】
そこで、低周波バンドパスフィルタ処理の周波数帯を設定するために、レール破断を検査する線区を走行する車両1及び軌道に基づいて解析を行うこととする。ここで、輪軸と軌道をモデル化するにあたって、軌道のたわみ等を簡単に把握するために、軌道を無限長の弾性床梁に近似する方法がある。例えば、「佐藤裕、「軌道構造の構築振動におよぼす影響」、土木学会論文報告集、第240号、pp.63-70、1975」などに詳細が記載されている。
【0037】
このモデル化手法により、軌道を単純に1つの質点と1つのばねとに置き換えることができる。軌道が質点とばねとに置き換えられれば、軌道のばね、軌道の質量、車輪とレールの接触ばね、車輪及び軸ばねからなる振動モデルを考えることができる。
【0038】
そして、この振動モデルの固有値を計算することで、軌道と車輪と車体との連成振動の固有振動数を簡易的に算出できる。そこで、計算に必要となる各種パラメータを設定し、軌道に開口部があるとみなした場合の連成振動を算出した。設定すべきパラメータは、まくらぎ間隔、単位長さあたりのレール質量、まくらぎの質量、軌道パッドばね定数、まくらぎ下のばね定数、レールの長手方向ヤング係数、レールの水平軸回りの断面二次モーメント、車輪の質量、車輪とレールの接触ばね、車輪上載荷重に相当する質量、軸ばねのばね定数などである。
【0039】
こうした解析によって算出された固有振動数は、1次の固有振動数が2Hz程度、2次の固有振動数が26Hz程度、3次の固有振動数が1000Hz程度となった。例えば2次の振動モードについて考察すると、軌道が不連続な場合に固有振動数が30Hz弱の値となったが、軌道が連続な場合と比較すると、振動に寄与する質量の有効長さとばねの有効長さとが変化したことで、2次モードの固有振動数が下がったものと考えられる。すなわち、車輪の支持剛性が開口によって局所的に変化し、開口部では特有の30Hz弱の共振周波数による振動が励起されていることがわかる。そこで低周波バンドパスフィルタを、上述したように0.001Hz - 30Hzの周波数帯に設定した。
【0040】
次に、本実施の形態のレール破断の検知方法について、図5に示したフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
まず上述したように、加速度センサ3を車両1の台車11の台車枠111の側面や軸箱112まわりの軸箱支持装置に取り付ける。加速度センサ3は、少なくとも1箇所に、上下加速度が測定できるように取り付けられていればよい。加速度センサ3は、車両1に搭載されたデータレコーダ4に接続される。
【0042】
ステップS1では、車両1をレール2に沿って走行させることで、軸箱支持装置の上下加速度である軸箱加速度、台車11(台車枠111)の上下加速度である台車加速度などの加速度データを検出させる。
【0043】
加速度センサ3によって検出された加速度データは、距離程などの位置情報に換算できる情報とともにデータレコーダ4に記録される(ステップS2)。例えば一定速度で車両1を走行させる場合は、加速度データに測定時刻を紐付けておくことで、位置情報に変換することができる。また、GPS(Global Positioning System)に基づく位置情報を、測定された加速度データに紐付けることもできる。
【0044】
データレコーダ4に記録された加速度データは、判定処理部となるPC部5に転送される(ステップS3)。判定処理部では、高周波判定部でステップS41,S411,S412,S413の処理が行われ、低周波判定部でステップS42,S421,S422,S423の処理が行われる。
【0045】
以下では、判定処理部の説明を分かりやすくするために、図6,7に示した適用例を参照しながら説明を行う。これらの図に示した適用例は、レール破断部を模擬した開口部P1を列車速度30km/hで走行させた際の結果である。ここで、開口部P1の前後には、継目P2,P2を模擬した。
【0046】
図6,7には、軸箱支持装置の加速度センサ3によって測定された上下加速度の加速度データ(加速度波形RD)を、横軸を測定時刻、縦軸を振幅(単位はG)にして示した。そして、図6には高周波バンドパスフィルタ処理を施した結果(高周波処理波形HD)を併せて表示し、図7には低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果(低周波処理波形LD)を併せて表示した。
【0047】
すなわちステップS41で、加速度波形RDに300Hz - 800Hzの周波数帯の高周波バンドパスフィルタ処理を施すと、図6の高周波処理波形HDが生成される。そこで、予め設定された閾値(例えば1.0G)と比較を行う(ステップS411)。
【0048】
閾値(1.0G)と比較した結果、高周波処理波形HDに閾値を超える箇所がなければ、「異常なし」という第1判定結果となる(ステップS412)。これに対して、高周波処理波形HDが閾値(1.0G)を超えた箇所は、開口部P1(レール破断箇所)又は継目P2のいずれかであるという第1判定結果となる(ステップS413)。
【0049】
一方、ステップS42で、加速度波形RDに0.001Hz - 30Hzの周波数帯の低周波バンドパスフィルタ処理を施すと、図7の低周波処理波形LDが生成される。そこで、予め設定された閾値(例えば1.5G)と比較を行う(ステップS421)。
【0050】
閾値(1.5G)と比較した結果、低周波処理波形LDに閾値を超える箇所がなければ、「異常なし」という第2判定結果となる(ステップS422)。これに対して、低周波処理波形LDが閾値(1.5G)を超えた箇所は、開口部P1(レール破断箇所)、締結装置23の不良又は浮きまくらぎ22のいずれかであるという第2判定結果となる(ステップS423)。すなわち、継目P2の箇所では、低周波処理波形LDは閾値(1.5G)を超えない。
【0051】
ステップS5では、第1判定結果と第2判定結果とを、PC部5に接続されたモニタなどに出力させる。続いて判定処理部の破断判定部では、第1判定結果と第2判定結果との両方が閾値を超えているか否かを判定する(ステップS6)。すなわち、ステップS413及びステップS423の両方を通過したか否かを確認する。
【0052】
この結果、第1判定結果がステップS413によるもので、第2判定結果がステップS423によるものであった場合は、「レール破断が有る」と判定する(ステップS7)。これに対して、第1判定結果がステップS412によるもの又は第2判定結果がステップS422によるものであった場合は、「レール破断が無い」と判定する(ステップS8)。
【0053】
レール破断が無い場合には、「異常がまったくない場合」と、「締結装置23の不良等がある場合」とがある。すなわち、第1判定結果及び第2判定結果の両方が「異常なし」(ステップS412,ステップS422)の場合が「異常がまったくない場合」となり、第1判定結果がステップS412によるもので第2判定結果がステップS423によるものであった場合に、「締結装置23の不良又は浮きまくらぎ22がある場合」となる。また、第1判定結果がステップS413によるもので第2判定結果がステップS422によるものであった場合に、「継目P2がある場合」となる。
【0054】
次に、本実施の形態のレール破断の検知装置及びレール破断の検知方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のレール破断の検知装置は、車両1に取り付けられた加速度センサ3によって測定された加速度データを利用し、高周波判定部と低周波判定部とによって2つの判定を行う。そして、これらの第1及び第2の判定結果に基づいてレール破断の有無を判定する。
【0055】
このような構成であれば、地上側に何の設備を設けなくても、レール破断を車両1側から検知させることができる。また、加速度センサ3は、車両1の軸箱支持装置や台車11などに取り付けることができ、これらの位置にレール破断検知以外の目的で予め取り付けられている加速度センサ3があれば、それを利用することもできる。
【0056】
さらに、加速度データが位置情報に関するデータとともにデータレコーダ4に記録されていれば、車両走行後にデータレコーダ4に記録された加速度データを検証してレール破断が検知された場合でも、距離程などで軌道の位置を特定することができ、補修などの対応を迅速にとることができる。
【0057】
また、レール破断の検知方法の発明は、加速度センサ3を備えた車両1をレール2に沿って走行させて加速度データを取得し、測定された加速度データに高周波バンドパスフィルタ処理及び低周波バンドパスフィルタ処理を施した結果を利用することで、レール破断の有無を判定する。すなわち、地上側に何の設備を設けなくても、レール破断を車両側から検知させることができる。
【0058】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0059】
例えば前記実施の形態では、軸箱支持装置と台車枠111の両方に加速度センサ3を取り付ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、いずれか一方であっても、3箇所以上から得られた測定結果を統計処理して使用するものであってもよい。また、例示した箇所とは別の位置に取り付けて加速度データを測定させてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 :車両
11 :台車
2 :レール
21 :レール破断箇所
3 :加速度センサ
4 :データレコーダ(記憶部)
HD :高周波処理波形
LD :低周波処理波形
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7