(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20221206BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2019181230
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018217292
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】北川 知己
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-092916(JP,A)
【文献】特開2016-225287(JP,A)
【文献】特開2015-153496(JP,A)
【文献】特開2011-210462(JP,A)
【文献】特開2016-004691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子と第一の炭素質前駆体とを混合して、前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を前記第一の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程1と、
前記混合・被覆工程で得られた黒鉛粒子を加圧する加圧工程と、
前記加圧工程で得られた黒鉛粒子と第二の炭素質前駆体とを混合して、前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を前記第二の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程2と、
前記混合・被覆工程2で得られた黒鉛粒子を焼成して、前記第一の炭素質前駆体及び前記第二の炭素質前駆体を炭素質にして、炭素質被覆黒鉛粒子を得る焼成工程とを有するリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法。
【請求項2】
球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子と第一の炭素質前駆体とを混合して、前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を前記第一の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程1と、
前記混合・被覆工程1で得られた黒鉛粒子を300℃以上、700℃未満の温度範囲で焼成する焼成工程1と、
前記焼成工程1で得られた黒鉛粒子を加圧する加圧工程と、
前記加圧工程で得られた黒鉛粒子と第二の炭素質前駆体とを混合して、前記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を前記第二の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程2と、
前記混合・被覆工程2で得られた黒鉛粒子を非酸化性雰囲気中、700℃超、2000℃以下の温度範囲で焼成して、前記第一の炭素質前駆体及び前記第二の炭素質前駆体を炭素質にして、炭素質被覆黒鉛粒子を得る焼成工程2とを有するリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は携帯電子機器に広く搭載されており、ハイブリッド自動車や電気自動車への利用も始まっている。このような状況の中で、リチウムイオン二次電池には一層の高容量、高速充放電特性、サイクル特性が要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極および非水電解質を主たる構成要素としており、リチウムイオンが放電過程および充電過程で負極と正極との間を移動することで二次電池として作用する。現在、上記負極用材料には黒鉛が広く用いられている。黒鉛は天然黒鉛と人造黒鉛に大別される。天然黒鉛は結晶性が高く容量が高いという利点を有するが、鱗片状ゆえ電極内で粒子が一方向に配向してしまい、高速充放電特性やサイクル特性に劣るという欠点があった。
【0004】
これを補うために、鱗片状の黒鉛を球状に加工し、さらに表面被覆処理を施した材料が多く提案されている。球状化された天然黒鉛の表面には電解液との反応性が高いエッジ面が少なからず露出しており、被覆の目的はそのエッジ面を封止し、副反応を抑制することである。近年、携帯機器の大型化などに伴い電池のさらなる高エネルギー密度化が求められており、それに伴い負極用材料に対してもさらなる高密度化が可能であることが求められている。しかしながら従来の被覆天然黒鉛においては被覆層の強度が十分ではなく、高密度化によって被覆層に割れや亀裂などが生じてしまい、結果として初回充放電効率やサイクル特性などが低下してしまうという問題があった。
【0005】
一方、特許文献1には、天然黒鉛粒球状化粒子及び/又は天然黒鉛塊状化粒子が加圧処理された加圧黒鉛粒子の表面に炭化物からなる被覆層が成形されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用黒鉛材料、並びに、該リチウムイオン二次電池用黒鉛材料の製造方法であって、天然黒鉛球状化粒子及び/または天然黒鉛塊状化粒子を加圧処理して加圧黒鉛粒子を得る加圧工程;得られた加圧黒鉛粒子を炭素質前駆体により被覆した後、熱処理して炭素被覆する被覆工程;を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用黒鉛材料の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、天然黒鉛球状化粒子と炭素質前駆体とを混合する混合・被覆工程;得られた黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛粒子を得る加圧工程;得られた加圧黒鉛粒子を熱処理して炭素被覆する被覆工程;を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用黒鉛材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-60465号公報
【文献】特開2015-153496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えば特許文献1のようにまず球状化等の黒鉛粒子の加圧処理を行う場合、球状化等の黒鉛粒子を金型に挿入して加圧処理すると、金型の隙間から球状化黒鉛粒子等が噴出して歩留りの低下を招く問題があった。
また、特許文献2では加圧処理前に混合・被覆処理を行うことで歩留りを向上できることが記されているが、初回充放電効率が必ずしも十分ではなかった。
【0009】
そこで、本発明は、高歩留りかつ優れた電池特性を得ることができるリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、球状および/または楕円体状黒鉛粒子を第一の炭素質前駆体と混合し、加圧し、第二の炭素質前駆体と混合し、焼成することで高歩留りで炭素質被覆黒鉛質粒子が得られ、製造された炭素質被覆黒鉛質粒子をリチウムイオン二次電池負極用材料に用いたリチウムイオン二次電池では、高い放電容量を維持しつつ、高い初回充放電効率を達成し、優れた電池特性が得られることを知得し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法を提供する。
1. 球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子と第一の炭素質前駆体とを混合して、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を上記第一の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程1と、
上記混合・被覆工程で得られた黒鉛粒子を加圧する加圧工程と、
上記加圧工程で得られた黒鉛粒子と第二の炭素質前駆体とを混合して、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を上記第二の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程2と、
上記混合・被覆工程2で得られた黒鉛粒子を焼成して、上記第一の炭素質前駆体及び上記第二の炭素質前駆体を炭素質にして、炭素質被覆黒鉛粒子を得る焼成工程とを有するリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法。
2. 球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子と第一の炭素質前駆体とを混合して、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を上記第一の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程1と、
上記混合・被覆工程1で得られた黒鉛粒子を300℃以上、700℃未満の温度範囲で焼成する焼成工程1と、
上記焼成工程1で得られた黒鉛粒子を加圧する加圧工程と、
上記加圧工程で得られた黒鉛粒子と第二の炭素質前駆体とを混合して、上記黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を上記第二の炭素質前駆体で被覆する混合・被覆工程2と、
上記混合・被覆工程2で得られた黒鉛粒子を非酸化性雰囲気中、700℃超、2000℃以下の温度範囲で焼成して、上記第一の炭素質前駆体及び上記第二の炭素質前駆体を炭素質にして、炭素質被覆黒鉛粒子を得る焼成工程2とを有するリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法(本発明の製造方法)は、生産性に優れ、電池特性の優れるリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法で製造したリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の電池特性を評価するための評価電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明の製造方法は、混合・被覆工程1と、加圧工程と、混合・被覆工程2と、焼成工程とを有するリチウムイオン二次電池負極用の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法である。
【0015】
第一の炭素質前駆体が原料黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を被覆することによって、原料黒鉛粒子の表面の濡れ性が高くなり、原料黒鉛粒子の滑りが防止され、これによって混合・被覆工程1で得られた黒鉛粒子を、加圧工程に投入する際に発塵が発生せず、及び/又は、当該黒鉛粒子が配管等の設備内で詰まることがなく、歩留まりが向上すると考えられる。加圧工程で得られた黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第二の炭素質前駆体が被覆することによって、加圧時に割れた表面を修正し、高い電池特性を得ることができると考えられる。なお、加圧後に黒鉛粒子を解砕する場合は、解砕によって割れが生じる場合もあるが、解砕時に割れた表面も、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第二の炭素質前駆体が被覆することによって修正される。上記メカニズムは本発明者の推測であり、メカニズムがほかのものであっても本発明の範囲内である。
【0016】
1.炭素質被覆黒鉛粒子の原料
〔球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子:炭素質被覆黒鉛粒子の芯材〕
本発明において使用される球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子(炭素質被覆黒鉛粒子の芯材となる。)は、球状及び/又は楕円体状の平均粒径1~50μmの黒鉛粒子であることが好ましく、より好ましくは平均アスペクト比5以下、平均粒径5~30μmの範囲である黒鉛粒子である。また、平均アスペクト比2以下であることが好ましい。平均比表面積は10m2/g以下であることが好ましく、8m2/g以下であることがより好ましい。
【0017】
球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子として、例えば、球状及び/又は楕円体状に加工された黒鉛粒子を使用することができ、具体的には例えば球状及び/又は楕円体状に加工された天然黒鉛粒子が挙げられる。
【0018】
市販品の球状及び/又は楕円体状の天然黒鉛粒子を用いることもできる。また、球状または楕円体状以外の形状の天然黒鉛、例えば鱗片状の天然黒鉛粒子を、機械的外力で造粒球状化して球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子を製造することができる。球状及び/又は楕円体状に加工する方法は、例えば、接着剤や樹脂などの造粒助剤の共存下で複数の鱗片状黒鉛を混合する方法、複数の鱗片状の黒鉛に接着剤を用いずに機械的外力を加える方法、両者の併用などが挙げられる。しかし、造粒助剤を用いずに機械的外力を加えて球状に造粒する方法が最も好ましい。機械的外力とは、機械的に粉砕および造粒することであり、鱗片状黒鉛を造粒して球状化することができる。鱗片状黒鉛の粉砕装置としては、例えば、加圧ニーダー、二本ロールなどの混練機、回転ボールミル、カウンタジェットミル(登録商標)(ホソカワミクロン(株)製)、カレントジェット(登録商標)(日清エンジニアリング(株)製)などの粉砕装置が使用可能である。
【0019】
上記粉砕品は、その表面が鋭角な部分を有する場合もあるが、このようなときは粉砕品を造粒球状化して使用しても良い。粉砕品の造粒球状化装置としては、例えば、GRANUREX(登録商標)(フロイント産業(株)製)、ニューグラマシン((株)セイシン企業)、アグロマスター(ホソカワミクロン(株)製)などの造粒機、ハイブリダイゼーション(登録商標)((株)奈良機械製作所製)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所製)、メカノフュージョンシステム(登録商標)(ホソカワミクロン(株)製)などのせん断圧縮加工装置が使用可能である。
【0020】
本発明において用いられる、球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子について、そのX線回折の測定値であるLcは40nm以上、Laは40nm以上が好ましい。ここで、Lcは黒鉛構造のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)、Laはa軸方向の結晶子の大きさLa(110)である。また、d002が0.337nm以下であるのが好ましく、アルゴンレーザーを用いたラマン分光法により測定した1360cm-1ピーク強度(I1360)と1580cm-1ピーク強度(I1580)の比I1360/I1580(R値)が0.06~0.30、および1580cm-1バンドの半値幅が10~60であるのが好ましい。
【0021】
〔炭素質前駆体〕
本発明において、炭素質被覆黒鉛粒子の芯材である球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に被覆するのに炭素質前駆体が使用される。具体的には、後述する製造方法の混合・被覆工程1において、原料黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第一の炭素質前駆体で被覆する。また、混合・被覆工程2において、加圧工程で得られた黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第二の炭素質前駆体で被覆する。第一の炭素質前駆体、および第二の炭素質前駆体として、同一の炭素質前駆体を用いてもよく、異なる炭素質前駆体を用いてもよい。
【0022】
本発明において用いられる炭素質前駆体としては、黒鉛に比べて結晶性が低く、黒鉛化するために必要とされる高温処理をしても黒鉛結晶とはなりえない炭素材であるタールピッチ類および/または樹脂類が例示される。具体的には、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられる。樹脂類としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が例示される。好ましくは樹脂類を含まず、タールピッチ類のみとするとコスト的に有利である。炭素質前駆体は上記に例示したいかなるものを用いてもよいが、コールタールピッチを炭素質前駆体全量中の80質量%以上含むものが特に好ましい。炭素質前駆体は溶媒に溶解又は分散させて使用してもよい。
【0023】
2.炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法
〔混合・被覆工程1〕
混合・被覆工程1において、球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子と第一の炭素質前駆体とを混合して、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第一の炭素質前駆体で被覆する。
【0024】
混合は、球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第一の炭素質前駆体で被覆できる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。例えば二軸式のニーダーなどが例示される。
好ましくは固体の原料黒鉛粒子と固体または半固体(粘調液状を含む)の第一の炭素質前駆体とを混合する。第一の炭素質前駆体としての重質油は、常温で固体である。第一の炭素質前駆体としてタール軽油、タール中油等の液体を溶媒として混合した場合には200℃以下程度の温度で予め溶媒を揮発させて次の加圧工程を行うのが好ましい。
【0025】
混合比率は最終製品(炭素質被覆黒鉛粒子)の比率で黒鉛粒子が80~99質量%、第一の炭素質前駆体が1~20質量%の範囲となるように原料を混合するのが好ましい。よって、混合・被覆工程1において使用される第一の炭素質前駆体の量は、原料黒鉛粒子及び第一の炭素質前駆体の合計100質量部に対して、1~20質量部であるのが好ましく、1~10質量部であるのがより好ましく、最も好ましくは2~7質量部である。
【0026】
混合は後述する焼成工程、もしくは焼成工程1のための昇温工程とともに行っても良い。加熱混合の方法は特に限定されないが、ヒーターや熱媒などの加熱機構を有する二軸式のニーダーなどが例示される。混合処理の際、炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機材料、無機材料、金属材料を加えてもよい。加熱温度は20~200℃とすることができる。
【0027】
〔加圧工程〕
第一の炭素質前駆体で被覆した黒鉛粒子(又は、後述する焼成工程1を実施した場合は当該焼成工程1後に得られた黒鉛粒子)を加圧する方法は特に限定されず、異方的または等方的のいずれの処理でもよい。例えば異方的な処理としては金型プレスやロールプレスなど、等方的な処理としては冷間静水圧プレスや熱間等方性プレスなどが挙げられる。加圧で固着を生じた場合などは、必要に応じて、プレスのあとに黒鉛粒子を解砕してもよい。加圧の際、炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機材料、無機材料、金属材料を加えてもよい。
【0028】
加圧工程における圧力は、1~500MPaが好ましく、20~200MPaがより好ましい。加圧工程において線圧は、0.1~5ton/cmが好ましく、0.5~3ton/cmがより好ましい。
【0029】
〔混合・被覆工程2〕
混合・被覆工程2において、加圧工程後に得られる黒鉛粒子と第二の炭素質前駆体とを混合して、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第二の炭素質前駆体で被覆する。
【0030】
混合は、球状及び/又は楕円体状の黒鉛粒子の表面の少なくとも一部を第二の炭素質前駆体で被覆できる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。例えば二軸式のニーダーなどが例示される。
好ましくは固体の原料黒鉛粒子と固体または半固体(粘調液状を含む)の第二の炭素質前駆体とを混合する。第二の炭素質前駆体としての重質油は、常温で固体である。
【0031】
混合比率は最終製品(炭素質被覆黒鉛粒子)の比率で黒鉛粒子が90~99質量%、第二の炭素質前駆体が1~10質量%の範囲となるように原料を混合するのが好ましい。よって、混合・被覆工程2において使用される第二の炭素質前駆体の量は、原料黒鉛粒子及び第二の炭素質前駆体の合計100質量部に対して、1~10質量部であるのが好ましく、1~5質量部であるのがより好ましい。
【0032】
混合は後述する焼成工程、もしくは焼成工程2のための昇温工程とともに行っても良い。加熱混合の方法は特に限定されないが、ヒーターや熱媒などの加熱機構を有する二軸式のニーダーなどが例示される。混合処理の際、炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機材料、無機材料、金属材料を加えてもよい。加熱温度は20~200℃とすることができる。
【0033】
〔焼成工程〕
焼成工程では、混合・被覆工程2で得られた黒鉛粒子を、酸化性又は非酸化性雰囲気中で焼成して、第一の炭素質前駆体、および第二の炭素質前駆体を炭素質にして炭素質被覆黒鉛粒子を得る。
【0034】
焼成工程において、混合・被覆工程2で得られた黒鉛粒子を、700℃超2000℃以下の温度範囲で焼成することができる。焼成処理の方法は特に限定されないが、攪拌しながら焼成するのが好ましく、ロータリーキルンを使用することが、均質な焼成ができるので好ましい。焼成温度は最終的に到達する温度が上記範囲内であれば、複数段階で焼成を行ってもよい。雰囲気は酸化性雰囲気または非酸化性雰囲気のいずれであってもよく、段階ごとに両者を使い分けてもよい。歩留りや性能等の点から非酸化性雰囲気で行うのが好ましい。
【0035】
酸化性雰囲気は、酸素を含有する不活性ガス雰囲気が例示できる。この場合、5~50体積%の酸素を含む不活性ガス雰囲気が好ましい。この場合の不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素等が例示できる。非酸化性雰囲気は、酸素を含まない不活性ガス雰囲気であり、アルゴン、ヘリウム、窒素等が例示できる。
【0036】
複数段階で焼成を行う場合、混合・被覆工程1と、加圧工程との間に、300℃以上から700℃未満の範囲での焼成工程1を実施し、加圧工程の実施後、700℃超2000℃以下の範囲での焼成工程2を実施することが好ましい。焼成工程1、および焼成工程2をこの順で実施する場合、焼成工程1は、酸化性雰囲気中、非酸化性雰囲気中のいずれで実施してもよい。但し、非酸化性雰囲気中での実施が好ましい。焼成工程2は、非酸化性雰囲気中で実施する。各焼成時間は5分~30時間が好ましい。また昇温時および焼成時の温度プロファイルとしては、直線的な昇温、一定間隔で温度をホールドする段階的な昇温などの様々な形態をとることが可能である。
【0037】
本発明の製造方法では、焼成工程の実施後に黒鉛粒子を粉砕する工程を含まないのが好ましい。
【0038】
また焼成工程の実施前に、異種の黒鉛材料同士を、付着、埋設、複合して用いても良い。炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機材料、無機材料、金属材料を芯材の黒鉛粒子に付着、埋設、複合してから用いてもよい。
【0039】
3.炭素質被覆黒鉛粒子
本発明の製造方法によって製造される炭素質被覆黒鉛粒子に含まれる炭素質の割合は、炭素質被覆黒鉛粒子中の1~30質量%であるのが好ましい。炭素質の割合が1質量%未満の場合は、活性な黒鉛エッヂ面を完全に被覆することが難しくなり、リチウムイオン二次電池の負極に用いた場合に初回充放電効率が低下することがある。一方、炭素質の割合が30質量%を越える場合には、相対的に放電容量の低い炭素質の割合が多すぎて、リチウムイオン二次電池の負極に用いた場合に放電容量が低下することがある。また、炭素質前駆体(熱硬化性樹脂類やタールピッチ類)の割合が多い場合、混合・被覆工程1および/または混合・被覆工程2や、焼成工程(焼成工程1および/または焼成工程2)において、黒鉛粒子が融着しやすく、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛粒子の炭素質層の一部に割れや剥離を生じ、リチウムイオン二次電池の負極に用いた場合に初回充放電効率の低下を生じることがある。炭素質被覆黒鉛粒子に含まれる炭素質の割合は、炭素質被覆黒鉛粒子中の、特に1~20質量%、さらには1~10質量%であることが好ましい。なお、炭素質の含有量は炭素質被覆黒鉛粒子全体の平均として上記範囲内にあればよい。個々の粒子全てが上記範囲内にある必要はなく、上記範囲以外の粒子を一部含んでいてもよい。
【0040】
最終製品である炭素質被覆黒鉛粒子の平均粒子径は1~50μmの範囲であることが好ましく、5~30μmの範囲であることがさらに好ましい。BET法により測定した比表面積は1.0~10.0m2/gの範囲であることが好ましく、2.0~8.0m2/gの範囲であることがさらに好ましい。
また、上記炭素質被覆黒鉛粒子が、アルゴンレーザーを用いたラマン分光法により測定した1360cm-1ピーク強度(I1360)と1580cm-1ピーク強度(I1580)の比I1360/I1580(R値)が黒鉛のR値より大きく、0.05~0.80であることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法によって製造された炭素質被覆黒鉛粒子は、例えば、リチウムイオン二次電池負極材料として使用することができる。
リチウムイオン二次電池用の負極は、例えば通常の負極の成形方法に準じて作製されうるが、化学的、電気化学的に安定な負極を得ることができる方法であれば何ら制限されない。負極の作製時には、本発明の製造方法によって製造された炭素質被覆黒鉛粒子に結合剤を加えて、予め調製した負極合剤を用いることが好ましい。結合剤としては、電解質に対して、化学的および電気化学的に安定性を示すものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂粉末、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末、カルボキシメチルセルロースなどが用いられる。これらを併用することもできる。結合剤は、通常、負極合剤の全量中の1~20質量%程度の割合で用いられる。
【0042】
より具体的には、例えば、まず、本発明の製造方法によって製造された炭素質被覆黒鉛粒子を分級などにより所望の粒度に調整し、これを結合剤と混合して得た混合物を溶剤に分散させ、ペースト状にして負極合剤を調製することができる。すなわち、例えば、本発明の製造方法によって製造された炭素質被覆黒鉛粒子と、結合剤を、水、イソピロピルアルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの溶剤と混合して得たスラリーを、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合して、ペーストを調製することができる。該ペーストを、集電材の片面または両面に塗布し、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に接着した負極が得られる。負極合剤層の膜厚は10~200μmとすることができ、好ましくは20~100μmである。
【0043】
また、リチウムイオン二次電池用の負極は、本発明の製造方法によって製造された炭素質被覆黒鉛粒子と、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末を乾式混合し、金型内でホットプレス成型して作製することもできる。
負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電体との接着強度をより高めることができる。
【0044】
負極の作製に用いる集電体の形状としては、特に限定されることはないが、例えば、箔状、メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状などが挙げられる。集電材の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。集電体の厚みは、箔状の場合で5~20μm程度であるのが好ましい。
なお、リチウムイオン二次電池用の負極は、異種の黒鉛質材料、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機物、金属、金属化合物などを混合しても、内包しても、被覆しても、または積層してもよい。
【0045】
〔正極〕
リチウム二次電池に用いる正極は、例えば正極材料と結合剤および導電剤よりなる正極合剤を集電体の表面に塗布することにより形成することができる。正極の材料(正極活物質)は、充分量のリチウムを吸蔵/離脱し得るものを選択するのが好ましく、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物、一般式MXMo6S8-Y(式中Mは少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などである。バナジウム酸化物は、例えば、V2O5、V6O13、V2O4、V3O8で示されるものである。
【0046】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独で使用しても、2種類以上を組合わせて使用してもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には例えば、LiM11-X M2XO2(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦1の範囲の数値である)、またはLiM11-YM2YO4(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で示される。
【0047】
M1、M2で示される遷移金属元素は、例えば、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどであり、好ましいのはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alなどである。好ましい具体例は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.9Co0.1O2、LiNi0.5Co0.5O2などである。
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600~1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
【0048】
正極活物質は、前記化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウム等の炭素塩を添加することができる。また、正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜に使用することができる。
【0049】
[正極の製造]
正極は、例えば、前記正極材料、結合剤、および正極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を、集電体の両面に塗布して正極合剤層を形成して作製されうる。結合剤としては、負極の作製に使用されるものと同じものが使用可能である。導電剤としては、例えば、黒鉛化物、カーボンブラックなど公知のものが使用される。
【0050】
集電体の形状は特に限定されないが、例えば、箔状またはメッシュ、エキスパンドメタル等の網状等のものが用いられる。集電体の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。その厚さは10~40μmのものが好適である。
【0051】
正極も負極と同様に、正極合剤を溶剤中に分散させペースト状にし、このペースト状の正極合剤を集電体に塗布、乾燥して正極合剤層を形成してもよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行ってもよい。これにより正極合剤層が均一且つ強固に集電材に接着される。
【0052】
〔非水電解質〕
リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解質としては、通常の非水電解液に使用される電解質塩である、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3CH2OSO2)2、LiN(CF3CF2OSO2)2、LiN(HCF2CF2CH2OSO2)2、LiN((CF3)2CHOSO2)2、LiB[{C6H3(CF3)2}]4、LiAlCl4、LiSiF6などのリチウム塩を用いることができる。酸化安定性の点からは、特に、LiPF6、LiBF4が好ましい。
電解液中の電解質塩濃度は0.1~5mol/Lが好ましく、0.5~3.0mol/Lがより好ましい。
【0053】
非水電解質は液状の非水電解質としてもよく、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成され、後者の場合は、非水電解質電池は高分子固体電解質、高分子ゲル電解質電池などの高分子電解質電池として構成される。
【0054】
非水電解質液を調製するための溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート、1、1-または1、2-ジメトキシエタン、1、2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、1、3-ジオキソラン、4-メチル-1、3-ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル、スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3-メチル-2-オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒などを用いることができる。
【0055】
非水電解質を高分子固体電解質または高分子ゲル電解質などの高分子電解質とする場合には、マトリクスとして可塑剤(非水電解液)でゲル化された高分子を用いることが好ましい。前記マトリクスを構成する高分子としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを用いることが特に好ましい。
前記高分子固体電解質または高分子ゲル電解質には、可塑剤が配合されるが、該可塑剤としては、前記の電解質塩や非水溶媒が使用可能である。高分子ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1~5mol/Lが好ましく、0.5~2.0mol/Lがより好ましい。
【0056】
高分子固体電解質の作製方法は特に限定されないが、例えば、マトリクスを構成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して高分子化合物を溶融する方法、有機溶剤に高分子化合物、リチウム塩、および非水溶媒(可塑剤)を溶解させた後、混合用有機溶剤を蒸発させる方法、重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、混合物に紫外線、電子線または分子線などを照射して、重合性モノマーを重合させ、ポリマーを得る方法などを挙げることができる。
ここで、固体電解質中の非水溶媒(可塑剤)の割合は10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。10質量%未満であると導電率が低くなり、90質量%を超えると機械的強度が弱くなり、成膜しにくくなることがある。
【0057】
〔セパレータ〕
リチウムイオン二次電池においては、セパレータを使用することもできる。セパレータの材質は特に限定されるものではないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などを用いることができる。前記セパレータの材質としては、合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、なかでもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜等が好適である。
【0058】
〔リチウムイオン二次電池の製造〕
リチウムイオン二次電池は、上述した構成の負極、正極および非水電解質を、例えば、負極、非水電解質、正極の順で積層し、電池の外装材内に収容することで構成される。さらに、負極と正極の外側に非水電解質を配するようにしてもよい。
【0059】
また、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は特に限定されず、その形状、形態についても特に限定されるものではなく、用途、搭載機器、要求される充放電容量などに応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものを用いることが好ましい。
リチウムイオン二次電池が高分子固体電解質電池や高分子ゲル電解質電池の場合には、ラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
【実施例】
【0060】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また以下の実施例および比較例では、添付の
図1に示す評価電池(単極評価用のボタン型二次電池。添付の
図1に示す評価電池については後述する。)を作製して、これを用いて電池特性の評価をした。実電池は、本発明の概念に基づき、例えば公知の方法に準じて作製することができる。
【0061】
(実施例1)
[炭素質被覆黒鉛粒子の作製]
平均粒子径12μmの球状に加工された天然黒鉛粒子に、タール中油溶液(残炭率40%)を、最終製品である炭素質被覆黒鉛粒子100質量部に対して、固形分比率が3質量部となるように添加し、二軸ニーダーで150℃に加熱して60分混合した(混合・被覆工程1)。
得られた混合物を、ロータリーキルンを用い、窒素5L/分の流通下(非酸化性雰囲気下)400℃で3時間の焼成を行った(焼成工程1)。
次いでこの熱処理物を、加圧の方法として金型成形機を用い25℃、300MPaの条件下で異方的に加圧したのちアトマイザーで解砕した(加圧工程)。
得られた最終製品である炭素質被覆黒鉛粒子100質量部に対して、コールタールピッチ(残炭率60%)を、固形分比率が1質量部となるように添加し、二軸ニーダーで150℃に加熱して60分混合した(混合・被覆工程2)。
管状炉を用い窒素2L/分の流通下(非酸化性雰囲気下)1300℃で3時間の焼成を行った(焼成工程2)。焼成後に最終製品(炭素質被覆黒鉛粒子)を得た。
【0062】
[負極合剤ペーストの作製]
上述のとおり製造された負極材料(炭素質被覆材料)98質量%と、カルボキシメチルセルロース・アンモニウム塩1質量%とスチレンブタジエンラバー1質量%を水中に入れ、ホモミキサーを用いて2000rpmで30分間攪拌混合し、有機溶剤系負極合剤(負極合剤ペースト)を調製した。
【0063】
[作用電極(負極)の作製]
上述のとおり製造された負極合剤ペーストを銅箔に均一な厚さで塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発させ、乾燥し、負極合剤層をハンドプレスによって加圧した。銅箔と負極合剤層を直径15.5mmの円柱状に打抜いて、集電体と、該集電体に密着した負極合剤とからなる作用電極(負極)を作製した。
【0064】
[対極(正極)の作製]
リチウム金属箔をニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打抜いて、ニッケルネットからなる集電体と、この集電体に密着したリチウム金属箔(厚み0.5mm)からなる対極(正極)を作製した。
【0065】
[電解液、セパレータ]
エチレンカーボネート33体積%-エチルメチルカーボネート66体積%の混合溶剤に、LiPF6を1mol/Lとなる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。得られた非水電解液をポリプロピレン多孔質体(厚み20μm)に含浸させ、電解液が含浸したセパレータを作製した。
【0066】
[評価(黒鉛粒子の流動性)]
<焼成工程1で得られた黒鉛粒子の加圧工程における生産性評価>
焼成工程1で得られた黒鉛粒子の生産性を黒鉛粒子の流動性を測定することで比較した。流動性が高い黒鉛粒子であれば、配管等の設備内での詰まりが生じにくく歩留まりが向上すると考えられる。
流動性の評価はカー(Carr)指数を用いて行った。カー指数を求めるために必要な圧縮度、安息角、スパチュラ角についてはセイシン企業(株)のマルチテスターMT-1001を用いて求めた。均一度の測定にはセイシン企業(株)のLMS-2000eを用いた。流動性指数は前述した4項目をカー指数による指数表に換算し、値を合計することで求めた。
【0067】
<BET比表面積>
窒素ガス吸着によるBET比表面積(m2/g)を求めた(JIS Z 8830:2013 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)。具体的には、250℃で予備乾燥し、さらに30分間窒素ガスを流した後に、流動法BET1点法比表面積測定装置(MONOSORB,カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)を用いて、BET1点法により測定した。
【0068】
[評価電池の作製]
評価電池として
図1に示す評価電池(ボタン型二次電池)を作製した。
図1は本発明の炭素質被覆黒鉛粒子を用いて作製したリチウムイオン二次電池負極の電池特性を評価するために使用された評価電池の概略を示す断面図である。
【0069】
図1において、外装カップ1と外装缶3とを、その周縁部において絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部(図示せず。)をかしめて密閉した。その内部に外装缶3の内面から順に、ニッケルネットからなる集電体7a、リチウム箔よりなる円筒状の対極(正極)4、電解液が含浸されたセパレータ5、負極材料2、銅箔からなる集電体7bが積層された電池系である。負極材料2は集電体7bに付着する。
図1に示す評価電池は、電解液を含浸させたセパレータ5を、集電体7bに付着した負極材料2と集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、集電体7bを外装カップ1内に収容し、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、さらに、外装カップ1と外装缶3との周縁部に絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部(図示せず。)をかしめて密閉して作製した。
【0070】
上述のとおり製造した評価電池を用いて以下の電池特性を評価した。結果を表2に示した。
[充放電試験]
回路電圧が1mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行った後、回路電圧が1mVに達した時点で定電圧充電に切替え、さらに電流値が20μAになるその間の通電量から充電容量(単位:mAh/g)を求めた。その後、10分間休止した。次に0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量(単位:mAh/g)を求めた。これを第1サイクルとした。
初回充放電効率は次式から計算した。
初回充放電効率(%)=100×((第1サイクルの充電容量-第1サイクルの放電容量)/第1サイクルの放電容量)
なおこの試験では、リチウムイオンを負極材料に吸蔵する過程を充電、負極材料からリ
チウムイオンが脱離する過程を放電とした。
【0071】
(実施例2)
実施例1において、焼成工程1を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
なお流動性の評価は、混合・被覆工程1で得られた黒鉛粒子を用いて評価した。
【0072】
(実施例3)
実施例1において、焼成工程1を空気下(酸化性雰囲気)で実施した以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
【0073】
(実施例4)
実施例1において、混合・被覆工程1のタール中油溶液(残炭率40%)の添加量を最終製品である炭素質被覆黒鉛粒子100質量部に対して、固形分比率が2質量部となるように添加したこと、および混合・被覆工程2において、得られた最終製品である炭素質被覆黒鉛粒子100質量部に対して、コールタールピッチ(残炭率60%)を、固形分比率が2質量部となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
【0074】
(比較例1)
実施例1において、混合・被覆工程1を実施せず、混合・被覆工程2で混合するコールタールピッチ量を固形分比率で1質量部とした以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
【0075】
(比較例2)
実施例1において、被覆・混合工程1で混合するタール中油溶液の量を固形分比率で4質量部とし、混合被覆工程2を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
【0076】
(比較例3)
実施例1において、被覆・混合工程1で混合するタール中油溶液の量を固形分比率で3質量部とし、混合被覆工程2を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
【0077】
(比較例4)
実施例1において、加圧工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、炭素質被覆黒鉛粒子を製造し、評価した。
【0078】
【0079】
【0080】
表2に示す結果から明らかなように、加圧工程前に混合・被覆工程1を行わない比較例1は流動性が低く、歩留まりが低くなることが推定される。また加圧工程後に混合・被覆2を行わない比較例2,3は初回充放電効率が低かった。加圧工程を行わない比較例4は比較例1~3よりも初回充放電効率はよいが、十分な値とはいえない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の炭素質被覆黒鉛粒子の製造方法(本発明の製造方法)によれば、歩留まりが向上し、作業環境を良好とすることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 外装カップ
2 負極合剤
3 外装缶
4 対極
5 セパレータ
6 絶縁ガスケット
7a、7b 集電体