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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法及び積層造形物
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20221206BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221206BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20221206BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B33Y10/00
B33Y80/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019186098
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021059772
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104059(JP,A)
【文献】特開2019-93415(JP,A)
【文献】特開2017-71154(JP,A)
【文献】特開平5-134067(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0189965(US,A1)
【文献】特開2020-189322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを積層させて空洞部を有する造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記溶着ビードを積層させて積層部を造形する造形工程と、
前記空洞部が形成された本体部の外周に接合凸部が突設された補助部材を、前記積層部に対して前記接合凸部を向けて設置する設置工程と、
前記補助部材を設置した前記積層部に前記溶着ビードを積層させる再造形工程と、
を含み、
前記再造形工程において、前記積層部と前記補助部材の前記接合凸部との隅部に前記溶着ビードを充填させて前記補助部材を前記積層部に接合させる、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記接合凸部は、断面視で前記本体部から離れるにしたがって窄まる先細りの断面形状を有し、前記接合凸部を形成する両側面のなす角が、40°~90°とされている、
請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記造形工程において、前記補助部材を設置する土台を前記積層部に形成し、
前記設置工程において、前記積層部における前記土台に前記補助部材を設置する、
請求項1または請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記空洞部が形成された筒状の前記本体部の外周に、溶加材または金属粉末を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記接合凸部を形成して前記補助部材とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードが積層されて造形され、内部に空洞部が形成された積層造形物であって、
前記空洞部が形成された本体部の外周に接合凸部が突設された補助部材と、
前記補助部材の周囲に積層された複数の前記溶着ビードと、
を備え、
前記補助部材は、前記接合凸部が、前記溶着ビードの積層方向と反対側へ向けられて配置されている、
積層造形物。
【請求項6】
前記接合凸部は、断面視で前記本体部から離れるにしたがって窄まる先細りの断面形状を有し、前記接合凸部を形成する両側面のなす角が、40°~90°とされている、
請求項5に記載の積層造形物。
【請求項7】
前記補助部材は、前記空洞部が形成された筒状の前記本体部の外周に、溶加材または金属粉末を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記接合凸部が形成されている、
請求項5または請求項6に記載の積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法及び積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
例えば、チャンバ内の所定のターゲットにホッパから粉体を供給し、ターゲット内において特定された範囲に熱源であるビームを照射して粉体を溶融および凝固させて層を積層させることにより、流路を有するインペラを成形する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の電極のアレイを備えた電極ヘッドを移動させ、アレイによって材料を層毎に順次溶着させて3次元部品を形成する積層造形システムによって、第1の溶着速度で輪郭線部分を形成し、複数の電極のアレイのうちの可変の数の電極を使用し、第1の溶着速度よりも速い第2の溶着速度で充填部分を形成することも知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-180177号公報
【文献】特開2018-187679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、チャンバ内にホッパから粉体を供給し、ターゲットにビームを照射する特許文献1の技術、及び複数の電極のアレイを備えた電極ヘッドを繰り返し移動させる特許文献2の技術では、いずれも装置が大掛かりとなる。しかも、造形できる造形物の大きさがチャンバや電極ヘッドのアレイの数によって制限され、また、複雑形状の造形物の造形が困難である。
【0007】
これに対して、溶接ワイヤを溶融及び凝固させて溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形技術によれば、大掛かりな設備を必要とせずに、冷却流路などの空洞部を有する複雑形状の積層造形物を、大きさの制限を受けることなく造形することができる。
【0008】
しかし、空洞部を有する積層造形物を積層造形によって造形する場合、その空洞部の外周部を形成する溶着ビードは、他の中実部を形成する溶着ビードと比べて重力等の影響による垂れが生じるおそれがある。このため、形成する空洞部の形状が歪みやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、歪みのない空洞部を有する造形物を容易にかつ効率よく造形することが可能な積層造形物の製造方法及び積層造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記構成からなる。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを積層させて空洞部を有する造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記溶着ビードを積層させて積層部を造形する造形工程と、
前記空洞部が形成された本体部の外周に接合凸部が突設された補助部材を、前記積層部に対して前記接合凸部を向けて設置する設置工程と、
前記補助部材を設置した前記積層部に前記溶着ビードを積層させる再造形工程と、
を含み、
前記再造形工程において、前記積層部と前記補助部材の前記接合凸部との隅部に前記溶着ビードを充填させて前記補助部材を前記積層部に接合させる、
積層造形物の製造方法。
(2) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードが積層されて造形され、内部に空洞部が形成された積層造形物であって、
前記空洞部が形成された本体部の外周に接合凸部が突設された補助部材と、
前記補助部材の周囲に積層された複数の前記溶着ビードと、
を備え、
前記補助部材は、前記接合凸部が、前記溶着ビードの積層方向と反対側へ向けられて配置されている、
積層造形物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歪みのない空洞部を有する造形物を容易にかつ効率よく造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の積層造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
図2】補助部材の形状を示す補助部材の概略断面図である。
図3A】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図3B】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図3C】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図3D】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図3E】積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図4】参考例に係る積層造形物の概略断面図である。
図5A】他の実施形態に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図5B】他の実施形態に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図5C】他の実施形態に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図5D】他の実施形態に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
図6】他の形状の空洞部を有する補助部材を示す図であって、図6の(a)~図6の(d)はそれぞれ補助部材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
本構成の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0014】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。
【0015】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0016】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0017】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0018】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート10に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0019】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。
【0020】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物の形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0021】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。
【0022】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡に基づき、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。
【0023】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベースプレート10上に供給する。これにより、例えば、水平に配置させたベースプレート10上に複数の線状の溶着ビードBが水平方向に積層された積層造形物Wが造形される。
【0024】
図1においては、水平に設置された鋼板からなるベースプレート10上に複数の溶着ビードBを積層させて複数の空洞部Cが水平方向に沿って形成された積層造形物Wを造形す
る様子を示している。この空洞部Cは、例えば、流体が通される流路等として用いられる。具体的には、この積層造形物Wを、例えば、ミキサーやポンプなどのロータとして用いる際に、空洞部Cに冷却水などの冷却媒体が流される。そして、この冷却媒体が空洞部Cへ流れることで、積層造形物Wが冷却される。
【0025】
ところで、空洞部Cを有する積層造形物Wを積層造形によって造形する場合、その空洞部Cの周囲を溶着ビードBで形成すると、この空洞部Cの周囲の溶着ビードBに重力の影響によって垂れが生じるおそれがある。このため、形成する空洞部Cの形状が歪みやすい。
【0026】
このため、本実施形態では、歪みのない空洞部Cを有する積層造形物Wを造形するために、補助部材を用いて、以下のように積層造形物Wを製造する。
図2は、補助部材の形状を示す補助部材の概略断面図である。
【0027】
図2に示すように、積層造形物Wを造形する際に用いる補助部材50は、空洞部Cを有する中空の筒状に形成された本体部53と、この本体部53における周方向の一部に、長手方向にわたって形成された接合凸部55とを有している。補助部材50は、例えば、鋼や銅などの金属から形成されており、接合凸部55は、本体部53に対して一体に形成されている。この補助部材50は、空洞部Cが形成された筒状の本体部53の外周に、溶加材または金属粉末を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて接合凸部55を形成したものである。なお、空洞部Cを冷却媒体用の流路として用いる場合、熱伝導性に優れた銅製の補助部材50を用いるのが好ましい。
【0028】
補助部材50は、本体部53が断面円環状に形成されている。また、接合凸部55は、断面視で本体部53から離れるにしたがって窄まる先細り形状を有している。この接合凸部55は、その両側面57のなす角αが、40°~90°とされている。
【0029】
次に、補助部材50を用いた製造手順について説明する。
図3A図3Eは、積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
【0030】
図3Aに示すように、水平に設置したベースプレート10に対して、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、積層造形装置11のトーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、ベースプレート10上に溶着ビードBを形成する。そして、この溶着ビードBを積層させて積層部W1を造形する(造形工程)。
【0031】
図3Bに示すように、ベースプレート10上に造形させた溶着ビードBからなる積層部W1上に補助部材50を支持させる。このとき、この補助部材50は、接合凸部55が積層部W1側である下方に向くように支持する(設置工程)。そして、この接合凸部55を積層部W1の上面に当接させる。
【0032】
このようにすると、積層部W1の上面からなる設置面W1sと、補助部材50の接合凸部55の両側面57との間に、側面57と設置面W1sとの隅部からなる開先部Kが形成される。このとき、接合凸部55の両側面57のなす角αが、40°~90°とされている。これにより、開先部Kでは、その開先角度βが、45°~70°となる。
【0033】
ここで、例えば、T継手などの溶接継手では、開先角度は45°~70°とされている。この角度は、開先部にビードが確実に溶け込むサイズである。例えば、開先角度が0°~45°であると、開先の深さが深くなりすぎるとともに開先の開口幅が小さくなり、ビ
ードが奥まで形成されず、未溶着が生じやすくなる。また、開先角度が70°~90°であると、開先の深さが浅くなりすぎるとともに開先の開口幅が大きくなり、のど厚が十分に確保できなくなる。
【0034】
このため、本例では、補助部材50の接合凸部55の両側面57と設置面W1sとの隅部からなる開先部Kの開先角度βが、良好に接合させることが可能な開先角度は45°~70°となるように、補助部材50の接合凸部55の両側面57のなす角αを40°~90°としている。
【0035】
図3Cに示すように、補助部材50の周囲に溶着ビードBを形成して積層させる(再造形工程)。このとき、積層部W1に支持した補助部材50の接合凸部55の両側面57と積層部W1との間に形成された開先部Kに溶着ビードBを充填する(図3C参照)。このようにすると、開先部Kが溶着ビードBによって埋められ、積層部W1に補助部材50が接合される。
【0036】
図3Dに示すように、補助部材50の周囲に溶着ビードBをさらに形成して積層させる。これにより、図3Eに示すように、空洞部Cを有する補助部材50が埋め込まれ、空洞部Cを有する積層造形物Wが得られる。
【0037】
以上、説明したように、本実施形態に係る積層造形物の製造方法及び積層造形物によれば、溶着ビードBを積層させて積層部W1を造形し、積層部W1上に補助部材50を設置し、その後、補助部材50を設置した積層部W1に溶着ビードBを積層させる。これにより、補助部材50に形成された空洞部Cを有する積層造形物Wを容易に製造することができる。つまり、歪みのない空洞部Cを有する積層造形物Wを容易にかつ効率よく造形することができる。
【0038】
ここで、参考例について説明する。
図4は、参考例に係る積層造形物の概略断面図である。
図4に示すように、参考例に係る積層造形物WAには、断面円形の空洞部Cを有する円環筒状のパイプ材からなる補助部材50Aが埋め込まれている。この積層造形物WAでは、補助部材50Aを埋め込む際に、補助部材50Aと積層部W1の上面との間に狭隘な隙間Gが形成される。すると、トーチ17の溶加材Mが狭隘な隙間Gへ入らず、補助部材50Aの下部に、溶着ビードBの未充填による溶け込み不良が生じてしまう。
【0039】
これに対して、本実施形態に係る積層造形物の製造方法及び積層造形物によれば、補助部材50を設置した積層部W1に溶着ビードBを積層させる際に、積層部W1と補助部材50の接合凸部55との隅部からなる開先部Kに溶着ビードBを充填させて補助部材50を積層部W1に接合させる。したがって、補助部材50の周囲における未溶着部分の発生を抑制することができ、補助部材50が良好に接合された積層造形物Wを製造することができる。
【0040】
しかも、補助部材50の接合凸部55を形成する両側面57のなす角αが、40°~90°とされている。したがって、接合凸部55を積層部W1に向けて補助部材50を設置することにより、例えば、平面からなる積層部W1の設置面W1sと接合凸部55の側面57との開先部Kにおける開先角度βが、溶接による接合に適した角度である45°~70°となる。これにより、補助部材50の周囲における未溶着部分の発生をより抑制することができ、補助部材50が良好に接合された積層造形物Wを製造することができる。
【0041】
また、本例によれば、本体部53の外周に溶加材または金属粉末を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させることにより、接合凸部55を有する補助部材50を容易に得るこ
とができる。これにより、空洞部Cを有する積層造形物Wの生産性を向上させることができる。
【0042】
次に、他の実施形態に係る積層造形物の製造方法について説明する。
図5A図5Dは、他の実施形態に係る積層造形物の製造手順を示す製造途中の積層造形物の概略断面図である。
【0043】
図5Aに示すように、他の実施形態では、ベースプレート10上に溶着ビードBを積層させて積層部W1を造形する際に、土台W1bを形成する。これらの土台W1bは、積層部W1における補助部材50の設置箇所に形成する。
【0044】
その後、図5Bに示すように、積層部W1の各土台W1b上に補助部材50を支持させる。そして、土台W1bの設置面W1sと接合凸部55の両側面57との間に形成された開先部Kに溶着ビードBを形成し、開先部Kを溶着ビードBによって埋めて積層部W1の土台W1bに補助部材50を接合させる。このとき、補助部材50が土台W1b上に支持されているので、開先部Kに溶着ビードBを形成する際に、トーチ17の一部を補助部材50の設置面W1sである土台W1bの設置面W1sよりも下方に移動させることができる。つまり、積層部W1に土台W1bを形成し、この土台W1bに補助部材50を支持させることで、トーチ17の可動範囲を大きくすることができる。したがって、開先部Kへの溶着ビードBの充填を円滑かつ良好に行うことができる。
【0045】
図5Cに示すように、補助部材50を土台W1b上に接合させたら、土台W1bの間の窪みに溶着ビードBを積層させて窪みを埋め、その後、図5Dに示すように、補助部材50の周囲に溶着ビードBを形成して積層させる。これにより、補助部材50が埋め込まれることにより、空洞部Cを有する積層造形物Wが得られる(図3E参照)。
【0046】
なお、空洞部Cを有する補助部材50としては、上記実施形態のものに限らず、必要となる空洞部Cの断面形状等によって様々なものが用いられる。
以下、空洞部Cを有する補助部材50を例示する。
図6は、他の形状の空洞部を有する補助部材を示す図であって、図6の(a)~図6の(d)はそれぞれ補助部材の概略断面図である。
【0047】
図6の(a)に示す補助部材50は、断面視正方形状の空洞部Cを有する本体部53を備えている。本体部53には、その一辺に接合凸部55が一体に形成されている。
【0048】
図6の(b)に示す補助部材50は、断面視半円形状の空洞部Cを有する本体部53を備えている。本体部53には、空洞部Cの円弧側と反対側に接合凸部55が形成されている。
【0049】
図6の(c)に示す補助部材50は、断面視菱型状の空洞部Cを有する本体部53を備えている。本体部53は、その一方の鋭角の角部が接合凸部55とされている。
【0050】
図6の(d)に示す補助部材50は、断面視正方形状の空洞部Cを有する本体部53を備えている。本体部53は、その一つの角部が接合凸部55とされている。
【0051】
そして、図6の(a)~図6の(d)に示す補助部材50は、いずれも接合凸部55における両側面57のなす角αが、40°~90°とされている。
【0052】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更
、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0053】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードを積層させて空洞部を有する造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記溶着ビードを積層させて積層部を造形する造形工程と、
前記空洞部が形成された本体部の外周に接合凸部が突設された補助部材を、前記積層部に対して前記接合凸部を向けて設置する設置工程と、
前記補助部材を設置した前記積層部に前記溶着ビードを積層させる再造形工程と、
を含み、
前記再造形工程において、前記積層部と前記補助部材の前記接合凸部との隅部に前記溶着ビードを充填させて前記補助部材を前記積層部に接合させる、
積層造形物の製造方法。
【0054】
上記(1)の構成の積層造形物の製造方法によれば、溶着ビードを積層させて積層部を造形し、積層部上に補助部材を設置し、その後、補助部材を設置した積層部に溶着ビードを積層させる。これにより、補助部材に形成された空洞部を有する積層造形物を容易に製造することができる。つまり、歪みのない空洞部を有する造形物を容易にかつ効率よく造形することができる。
しかも、補助部材を設置した積層部に溶着ビードを積層させる際に、積層部と補助部材の接合凸部との隅部に溶着ビードを充填させて補助部材を積層部に接合させる。したがって、例えば、円筒状などの単純形状の補助部材を積層部に設置して溶着ビードによって埋める場合と比べ、補助部材の周囲における未溶着部分の発生を抑制することができ、補助部材が良好に接合された積層造形物を製造することができる。
【0055】
(2) 前記接合凸部は、断面視で前記本体部から離れるにしたがって窄まる先細りの断面形状を有し、前記接合凸部を形成する両側面のなす角が、40°~90°とされている、
(1)に記載の積層造形物の製造方法。
【0056】
上記(2)の構成の積層造形物の製造方法によれば、接合凸部を形成する両側面のなす角が、40°~90°とされている。したがって、接合凸部を積層部に向けて補助部材を設置することにより、例えば、平面からなる積層部の設置面と接合凸部の側面との隅部における開先角度が、溶接による接合に適した角度である45°~70°となる。これにより、補助部材の周囲における未溶着部分の発生をより抑制することができ、補助部材が良好に接合された積層造形物を製造することができる。
【0057】
(3) 前記造形工程において、前記補助部材を設置する土台を前記積層部に形成し、
前記設置工程において、前記積層部における前記土台に前記補助部材を設置する、
(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
【0058】
上記(3)の構成の積層造形物の製造方法によれば、積層部に土台を形成し、この土台に補助部材を設置する。これにより、積層部と補助部材の接合凸部との隅部に溶着ビードを充填させて補助部材を接合させる際に、例えば、溶着ビードを形成するトーチの積層部への干渉を抑制することができる。つまり、トーチの可動範囲を大きくすることができ、設置面と補助部材の接合凸部との隅部への溶着ビードの充填を円滑かつ良好に行うことができる。
【0059】
(4) 前記空洞部が形成された筒状の前記本体部の外周に、溶加材または金属粉末を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記接合凸部を形成して前記補助部材とする、
(1)~(3)のいずれか一つに記載の積層造形物の製造方法。
【0060】
上記(4)の構成の積層造形物の製造方法によれば、本体部の外周に溶着ビードを積層させることにより、接合凸部を有する補助部材を容易に得ることができる。これにより、空洞部を有する積層造形物の生産性を向上させることができる。
【0061】
(5) 溶加材を溶融及び凝固させた複数の溶着ビードが積層されて造形され、内部に空洞部が形成された積層造形物であって、
前記空洞部が形成された本体部の外周に接合凸部が突設された補助部材と、
前記補助部材の周囲に積層された複数の前記溶着ビードと、
を備え、
前記補助部材は、前記接合凸部が、前記溶着ビードの積層方向と反対側へ向けられて配置されている、
積層造形物。
【0062】
上記(5)の構成の積層造形物によれば、補助部材の空洞部を、例えば、冷却媒体を流す流路として用いることができる。また、補助部材は、外周から突設された接合凸部が溶着ビードの積層方向と反対側へ向けて設置されている。つまり、補助部材は、溶着ビードを層状に積層させる際に、接合凸部が溶着ビードの積層方向と反対側に向けられて設置されるので、接合凸部の周囲に溶着ビードが円滑に充填され、補助部材が良好に接合された積層造形物とすることができる。
【0063】
(6) 前記接合凸部は、断面視で前記本体部から離れるにしたがって窄まる先細りの断面形状を有し、前記接合凸部を形成する両側面のなす角が、40°~90°とされている、
(5)に記載の積層造形物。
【0064】
上記(6)の構成の積層造形物によれば、溶着ビードを層状に積層させる際に、補助部材の両側面のなす角が、40°~90°とされた接合凸部の周囲に、溶着ビードがより円滑に充填され、補助部材が良好に接合された積層造形物とすることができる。
【0065】
(7) 前記補助部材は、前記空洞部が形成された筒状の前記本体部の外周に、溶加材または金属粉末を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて前記接合凸部が形成されている、
(5)または(6)に記載の積層造形物。
【0066】
上記(7)の構成の積層造形物によれば、本体部の外周に溶着ビードを積層させることにより接合凸部が容易に形成された補助部材が用いられている。これにより、空洞部を有し、しかも、生産性の高い積層造形物とすることができる。
【符号の説明】
【0067】
50 補助部材
53 本体部
55 接合凸部
57 側面
B 溶着ビード
C 空洞部
M 溶加材
W 積層造形物
W1 積層部
W1b 土台
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6