(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】異常検出装置
(51)【国際特許分類】
H02K 17/30 20060101AFI20221206BHJP
H02K 17/12 20060101ALI20221206BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20221206BHJP
【FI】
H02K17/30 B
H02K17/12 Z
H02K17/30 A
H02P29/024
(21)【出願番号】P 2019225390
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 安生
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-054962(JP,A)
【文献】特開平8-098484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/30
H02K 17/12
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線型誘導電動機のブラシ引上げ装置の異常検出装置であって、
前記ブラシ引上げ装置は、
前記巻線型誘導電動機のコレクタ電極と前記コレクタ電極を短絡する短絡カラー及び前記コレクタ電極とブラシとの間を接触状態と離間状態との間で切り替える切替機構と、
前記切替機構を操作する操作電動機とを備え、
前記異常検出装置は、
前記操作電動機の電気パラメータを検出するセンサと、
前記電気パラメータの基本波形を記憶する記憶部と、
前記センサが検出した電気パラメータを、前記記憶部から読み出された前記基本波形に基づいて判定し、前記ブラシ引上げ装置の異常診断を行なう、診断部とを備える、異常検出装置。
【請求項2】
前記電気パラメータは、電流であり、
前記基本波形は、予め測定された前記操作電動機の電流波形である、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記操作電動機のインラッシュ電流期間における前記電気パラメータは、前記異常診断に使用せず、前記操作電動機の前記インラッシュ電流期間経過後における前記電気パラメータを異常診断に使用する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記センサが検出時刻に検出した電気パラメータが、前記基本波形における前記検出時刻に対応するデータに基づいて定めた判定値より大きい場合に、前記ブラシ引上げ装置が異常であると判断する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記診断部は、前記基本波形における前記検出時刻に対応するデータを電源電圧の変動量に応じて補正し、前記判定値を定める、請求項4に記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記診断部は、前記検出時刻に対応するデータとして、電源周波数の変動量に応じて前記検出時刻を補正した時刻における前記基本波形のデータを使用する、請求項4に記載の異常検出装置。
【請求項7】
前記診断部は、前記ブラシ引上げ装置が異常であると判断した場合に、前記操作電動機の電源を遮断するとともに、前記巻線型誘導電動機の電源も遮断する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項8】
前記基本波形は、前記操作電動機が第1の方向に回転する場合に取得された第1波形と、前記操作電動機が前記第1の方向と逆の第2の方向に回転する場合に取得された第2波形とを含み、
前記診断部は、前記操作電動機が前記第1の方向に回転する場合に、前記センサが検出した電気パラメータを、前記記憶部から読み出された前記第1波形に基づいて判定し、前記操作電動機が前記第2の方向に回転する場合に、前記センサが検出した電気パラメータを、前記記憶部から読み出された前記第2波形に基づいて判定する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項9】
前記基本波形は、前記操作電動機が第1の方向に回転する場合に取得された波形であり、前記診断部は、前記操作電動機が前記第1の方向と逆の第2の方向に回転する場合に、前記基本波形を逆方向から読み出しながら前記センサで検出される電気パラメータを比較するための判定値を決定する、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項10】
前記異常検出装置は、
前記操作電動機の回転軸を停止させるブレーキをさらに備え、
前記電気パラメータは、前記操作電動機の端子電圧であり、
前記基本波形は、予め測定された前記操作電動機の電圧波形であり、
前記診断部は、前記ブレーキが作動中において、測定時刻における前記端子電圧と前記基本波形に基づいて定められた前記測定時刻に対応する電圧との差がしきい値よりも大きい場合に、前記ブレーキの異常であると判断する、請求項1に記載の異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、巻線型誘導電動機のブラシ引上げ装置の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線型誘導電動機には、始動電流を抑えるために、ブラシによって始動用の抵抗器を三相のコレクタ電極間に挿入する構成を有する。ロータの回転速度が定格速度近くまで上昇すると始動用抵抗器の抵抗値は、零となるので、短絡カラーをコレクタ電極に接続しコレクタ電極間を短絡させ、不要となった始動用の抵抗器をコレクタ電極からブラシを引上げて切り離し、ブラシの摩耗を防ぐ。
【0003】
特開57-170045号公報(特許文献1)には、このような構成を有する巻線型誘導電動機のブラシ引上げ装置の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなブラシ引上げ装置は、ブラシの引上げ、引下げ、短絡カラー(メス)のコレクタ電極への挿入、引外しなど、機械構造によって電気的接続をオンオフさせる可動部を有する。このような可動部は、潤滑グリースの劣化、コレクタ電極(オス)と短絡カラー(メス)との間の挿入位置ずれなどによる、経年変化または劣化を生じる。
【0006】
経年変化または劣化によって、可動部が動作せず固定状態となり、ブラシ引上げ装置が損傷する場合もある。このような場合には、プラント停止およびその復旧などにより大きな損害が発生する。したがって、損傷が生じる前に、ブラシ引上げ装置が正常に作動するか否かを点検することが好ましい。
【0007】
しかしながら、ブラシ引上げ装置の上記の可動部は、構造が複雑であり、点検扉等からの目視点検で確認することは困難なため、ブラシ引上げ装置の開放および分解点検が必要となり、メンテナンスに多大な労力および費用がかかっていた。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、ブラシ引上げ装置を開放点検することなく、経年変化または劣化を検出することにより、機械可動部の重大な損傷を防ぐことも可能となる異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、巻線型誘導電動機のブラシ引上げ装置の異常検出装置に関する。ブラシ引上げ装置は、巻線型誘導電動機のコレクタ電極とコレクタ電極を短絡する短絡カラー及びコレクタ電極とブラシとの間を接触状態と離間状態との間で切り替える切替機構と、切替機構を操作する操作電動機とを備える。異常検出装置は、操作電動機の電気パラメータを検出するセンサと、電気パラメータの基本波形を記憶する記憶部と、センサが検出した電気パラメータを、記憶部から読み出された基本波形に基づいて判定し、ブラシ引上げ装置の異常診断を行なう、診断部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の異常検出装置は、操作電動機の電流に基づいて、異常の有無を判定するので、ユーザーは、ブラシ引上げ装置を分解して点検する手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】主電動機とブラシ引上げ装置の構成を示す図である。
【
図2】ブラシ引上げ装置と異常検出装置の回路構成を示す概略図である。
【
図3】主電動機停止中および起動時のブラシ引上げ装置の短絡カラーとブラシ位置を示す図である。
【
図4】主電動機起動完了時および運転中のブラシ引上げ装置の短絡カラーとブラシ位置を示す図である。
【
図5】主電動機起動完了後のブラシ引上げ装置の操作電動機の電流波形を示す図である。
【
図6】主電動機停止開始時のブラシ引上げ装置の操作電動機の電流波形を示す図である。
【
図7】実施の形態1におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
【
図8】実施の形態2におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施の形態3におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
【
図10】ブラシ引上げ装置の操作電動機に付加されているブレーキの位置について説明するための概略図である。
【
図11】正常時とブレーキ異常時における操作電動機の電源の残留電圧の変化の違いを示した図である。
【
図12】実施の形態4におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、主電動機とブラシ引上げ装置の構成を示す図である。
図2は、ブラシ引上げ装置と異常検出装置の回路構成を示す概略図である。
【0014】
図1、
図2を参照して、主電動機M1は、巻線型誘導電動機であって、ステータSTとロータRTとを備える。ステータSTは、三相のステータコイルLU1,LV1,LW1を含む。ステータコイルLU1,LV1,LW1には、三相交流電源120から遮断器SW1を介して三相交流電流が供給される。
【0015】
ロータRTは、ステータコイルLU1,LV1,LW1からの回転磁界によって起電力が誘起されるロータコイルLU2,LV2,LW3を含む。ロータコイルには、コレクタ電極CU,CV,CWと、ブラシBU,BV,BWと、短絡カラー40とリンク機構LKと、操作電動機M2等からなるブラシ引上げ装置100が接続される。
【0016】
ブラシBU,BV,BWには始動時の電流を制限する抵抗器RU,RV,RWが接続される。操作電動機M2には電源供給する制御装置10が別に付帯される。制御装置10は、コンタクタSW2と異常検出装置1を含む。異常検出装置1は変流器30と、電圧センサ31と、コンタクタSW2と、トランスデューサ20と、診断回路15等から構成される。
【0017】
操作電動機M2は、ブラシ引上げ装置100のリンク機構LKを駆動する誘導電動機である。操作電動機M2はコンタクタSW2を介して交流電源110の電力が供給される。変流器30は、交流電源110から供給される操作電動機M2の電流を検出する。トランスデューサ20は、変流器30の検出信号iを診断回路15に適した信号に変換する。電圧センサ31は操作電動機M2の端子電圧を検出し、診断回路15に入力する。診断回路15は、電流データの蓄積、ブラシ引上げ装置の経年変化または劣化の判定等を実行するように構成される。また、コンタクタSW2には操作電動機M2の回転方向を順回転と逆回転に切り替えるための、相順切り替え回路が含まれる。リンク機構LKには図示されないリミットスイッチが設けられ操作電動機M2が必要以上に順回転や逆回転を行なわないように構成される。
【0018】
診断回路15としては、プログラマブルコントローラ、パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータなどが使用可能である。診断回路15は、CPU(Central Processing Unit)11と、メモリ12とを含む。メモリ12は、CPU11で実行されるプログラムおよび使用されるデータを記憶する。CPU11は、後に説明する異常検知動作を行なう一方で、遮断器SW1,コンタクタSW2の制御も行なう。CPU11は診断部の一例であり、メモリ12は記憶部の一例である。
【0019】
さらに、診断回路15から、上位DCS(Distributed Control System)等で構成される警報装置130へアラーム、トリップ、メンテナンス時期を知らせる信号を出力するようにしても良い。
図2では、接点信号を例示したが、この信号は、接点信号だけでなく通信でも良い。
【0020】
図3は、主電動機停止中および起動中のブラシ引上げ装置の短絡カラーとブラシ位置を示す図である。
図4は、主電動機起動完了後および運転中のブラシ引上げ装置の短絡カラーとブラシ位置を示す図である。なお、コレクタリングは実際には
図1に示したように三相分のコレクタ電極CU,CV,CWに分かれているが、
図3、
図4では、図示を簡略化して、コレクタ電極CU,CV,CWを1つにまとめて図示している。
【0021】
ブラシ引上げ装置100を有する主電動機M1とはどのような電動機なのか、補足説明を記載する。ブラシ引上げ装置100を有する主電動機M1は、ロータRTとして巻線形回転子をもつ三相誘導電動機である。主電動機M1は、起動時には、
図3に示すように、ブラシBU,BV,BWとコレクタ電極CU,CV,CWと接触摺動させ、始動用の抵抗器RU,RV,RWをロータコイルに接続する。これにより、始動電流を抑制するとともに始動トルクを制御することができる。なお、始動用の抵抗器RU,RV,RWは、主電動機M1の回転軸の回転速度の増加に従い抵抗値を減少させ、起動完了時には抵抗値を零とするようにしている。
【0022】
起動完了後は、
図4に示すように、回転軸MSに沿って短絡カラー40をコレクタ電極CWに向けて移動させ、コレクタ電極CWの端部に形成された突起状電極を短絡カラー40の凹部に挿入する。これによって、回転子のロータコイルLU2,LV2,LW3の端部を短絡させて、その後にブラシBU,BV,BWを引上げ、始動用の抵抗器RU,RV,RWの切り離しを行なう。これにより、主電動機M1は、通常のかご形誘導電動機と同じとなる。
【0023】
図5は、主電動機起動完了後の、ブラシ引上げ装置の起動位置からブラシ引き上げ完了位置までの操作電動機M2の電流波形を示す図である。
図5において、操作電動機M2は、コンタクタSW2を投入する時刻t1において通電し、時刻t2までに電流iBとして急峻に増減するインラッシュ電流がごく短時間(期間T0)ながれ、その後時刻t2~t3において安定する。そしてコレクタリングの端部の端子が短絡カラー40に挿入される時刻t3において一瞬増加し、時刻t3~t4において再び安定する。そして、ブラシがコレクタリングから引き上げられる時刻t4において一瞬増加し、時刻t4~t5において再び安定する。そして時刻t5においては、ブラシ引上げ装置の作動が完了し、コンタクタSW2を開放することにより、電流iはゼロになる。
【0024】
作動時間は、これに限定されないが、たとえば、T0<1(秒)、T1=7(秒)、T2=2(秒)、T3=1(秒)である。
【0025】
図6は、主電動機停止開始時の、ブラシ引上げ装置のブラシ引き上げ完了位置から起動位置までの操作電動機M2の電流波形を示す図である。停止時には、操作電動機M2を起動時とは逆回転させ、ブラシおよび短絡カラーを逆方向に動かす。
【0026】
図6において、操作電動機M2は、コンタクタSW2を投入する時刻t11において通電し、時刻t12までに電流iBとして急峻に増減するインラッシュ電流がごく短時間(期間T0)ながれ、その後時刻t12~t13において安定する。そしてブラシがコレクタリングに接触する時刻t13において一瞬増加し、時刻t13~t14において再び安定する。そして、短絡カラー40がコレクタリングの端部の端子から引き抜かれる時刻t14において一瞬増加し、時刻t14~t15において再び安定する。そして時刻t15においては、ブラシ引上げ装置の作動が完了し、コンタクタSW2を開放することにより電流iはゼロになる。
【0027】
インラッシュ電流の流れる期間T0を除くと、ブラシ引上げ装置の起動位置からブラシ引上完了位置まで、また逆の動作のブラシ引上完了位置から、起動位置までを駆動するブラシ引上げ装置用操作電動機M2の電流は、経年変化・劣化などによる異常がなければ、同じ時刻での操作電動機M2の電流は、ほぼ同じ値となる。異常検出には、このことを利用する。ただし、
図5および
図6に示すように、ブラシ引上げ装置が正常な場合であっても、操作電動機M2の電流は一定値ではなく、起動時および停止時において変動する。たとえば
図5の場合では、短絡カラー40をコレクタ端子に接続する時点(t3)および、ブラシBU,BV,BWをコレクタリングCU,CV,CWから引き離す時点(t4)では、電流にピークが生じる。したがって、電流の判定値を一定値に固定することはできない。また、インラッシュ電流は交流電源110に対するコンタクタSW2の投入位相で変化する。
【0028】
このため、上記動作でのブラシ引上げ装置用の操作電動機M2のコンタクタSW2が投入から解放されるまでの時間とともに変化する電流データ(時間-電流データ)を出荷時の試験で採取し、基本データとして、診断回路15のメモリ12にあらかじめ保存しておく。基本データと、出荷後の使用時において変流器30で検出された操作電動機M2の時間-電流データとをインラッシュ電流の期間T0を除いて診断回路15のCPU11において比較する。インラッシュ電流の期間T0は出荷時の試験における電流波形から求めることができる。
【0029】
ブラシ引上げ装置100に経年変化または劣化が発生すれば、操作電動機M2の同じ時刻での電流が基本データよりも増加する。たとえば、回転軸MSの錆、リンク機構LKの歯車等の錆等によって短絡カラーの移動時の操作電動機M2のトルク増加により、操作電動機M2の電流は増加する。
【0030】
診断回路15は、操作電動機M2の電流の増加を検出することにより、ブラシ引上げ装置100の経年変化または劣化などの異常を判断する。診断回路15は操作電動機M2の電流の増加を基本データに基づき時間とともに変化するしきい値と比較する。例えば、
図5および
図6に破線でしめしたith1およびith2が時間とともに変化するしきい値である。
【0031】
ブラシ引上げ装置100を直ちに停止させる必要のない場合は、診断回路15は警報装置130に警告ランプなどの警報(アラーム)の出力を、早めに発報させることとし、たとえば、出荷時の採集電流データの1.1倍の第2しきい値ith2とする。操作電動機M2の電流が第2しきい値を超えた場合は、警報を出力し、ユーザーに告知することにより、早期にブラシ引上げ装置のメンテナンスを行なうことができ、損傷を防ぐことができる。
【0032】
主電動機M1および操作電動機M2の電源電流を遮断するトリップ指令の出力は、第2しきい値ith2よりも大きな第1しきい値ith1で判定する。操作電動機M2の電流が第1しきい値を超えた場合は、診断回路15は操作電動機M2の電源電流を遮断するとともに、主電動機M1の電源を遮断するように、トリップ指令を出力する。たとえば、第1しきい値ith1は、出荷時の採集電流データの1.4倍の電流値とする。操作電動機M2の電源電流を遮断することにより、ブラシ引上げ装置100を直ちに停止することにより、ブラシ引上げ装置の異常の拡大を最小限にすることができる。また、主電動機M1の電源を遮断することにより、ブラシに継続的に電流が流れることを防止できる。なお、第1しきい値ith1を、ブラシ引上げ装置の機械機構の損傷も未然に防ぐことが可能となる操作電動機M2の定格電流としても良い。また、第1しきい値ith1,第2しきい値ith2の設定値は実機の状況に合わせて変えることも可能なようにしておくとよい。
【0033】
図7は、実施の形態1におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。診断回路15は、まずステップS1において、主電動機M1が所定の回転数に達し、図示しない起動スイッチがオン、または主電動機の停止のため遮断器SW1が解放されて、停止スイッチがオンされ、起動または停止の指令を受けたか否かを判断する。指令を受けていない場合(S1でNO)、診断回路15は、再びステップS1の処理を実行し、指令待ち状態となる。
【0034】
指令を受けた場合(S1でYES)、診断回路15は、ステップS2において、インラッシュ電流期間(
図5、
図6のT0)が経過したか否かを判断する。インラッシュ電流期間が経過しない間(S2でNO)、診断回路15は時間待ちを行ない、測定電流値iBを異常判定に使用しないようにする。
【0035】
インラッシュ電流期間が経過した場合(S2でYES)、診断回路15はステップS3において、起動または停止の指令を受けたタイミングからの経過時間に対応する基本電流データをメモリ12から読み出す。ここで、起動スイッチがオンの場合は、
図5に示すような主電動機M1の起動完了後の、ブラシ引上げ装置の起動位置からブラシ引き上げ完了位置までの操作電動機M2の電流波形パターンを読み出す。また、停止スイッチがオンの場合は、主電動機M1の停止開始時の、ブラシ引上げ装置のブラシ引き上げ完了位置から起動位置までの操作電動機M2の電流波形パターンを読み出す。そしてステップS4において、診断回路15は、第1しきい値ith1、第2しきい値ith2を決定する。たとえば、第2しきい値ith2を基本電流データの1.1倍の値に設定し、第1しきい値ith1を基本電流データの1.4倍の値に設定することができる。なお、第1しきい値ith1を定格電流などの固定値としても良い。
【0036】
なお、操作電動機M2の電源電圧が変動する場合も考えられる。そのような場合は、ステップS4においてしきい値を決定する際に、電圧センサ31にて検出した操作電動機M2の端子電圧を使用して、基本電流データを取得したときの標準電圧と差を監視する。電圧に差がある場合には、診断回路15は、電圧増加分に対応する電流増加分を補正して第1しきい値ith1、第2しきい値ith2を決定しても良い。
【0037】
続いて、ステップS5において、診断回路15は、変流器30で測定された電流値iが第1しきい値ith1よりも大きいか否かを判断する。
【0038】
電流値iが第1しきい値ith1よりも大きい場合には(S5でYES)、ステップS6において、診断回路15は、トリップ処理、すなわち主電動機M1の電源と操作電動機M2の電源とを同時に遮断するように、遮断器SW1およびコンタクタSW2に対して遮断信号を送信する。これにより、主電動機M1および操作電動機M2に大きな損傷が生じる前に装置を停止させることができる。
【0039】
電流値iが第1しきい値ith1以下である場合には(S5でNO)、ステップS7において、診断回路15は、変流器30で測定された電流値iが第2しきい値ith2よりも大きいか否かを判断する。
【0040】
電流値iが第2しきい値ith2よりも大きい場合には(S7でYES)、ステップS8において、診断回路15は、警報装置130の警告ランプなどアラームによって、リンク機構LKを動かすためのトルクがやや大きくなっていることをユーザーに警告する。一方、電流値iが第2しきい値ith2以下である場合には(S7でNO)、診断回路15は、ステップS8における警告を行なわない。
【0041】
そして、ステップS9において、診断回路15は、起動または停止の指令を受けたタイミングからの経過時間が、操作電動機M2の作動時間である判定時間より大きいか否かを判断する。経過時間が判定時間以下であれば(S9でNO)、診断回路15は、再び処理をステップS3に戻して、電流の監視を継続する。経過時間が判定時間より大きい場合(S9でYES)、診断回路15は、電流の監視を終了する。
【0042】
以上説明したように、実施の形態1の異常検出装置は、操作電動機M2の電流に基づいて、異常の有無を判定するので、ユーザーは、ブラシ引上げ装置を分解して点検する手間を省くことができる。
【0043】
また、ステップS5等において、変流器30で測定された電流値iをしきい値と比較する際に、合わせて電流のデータを蓄積することにより、異常発生の傾向管理が可能となり、メンテナンス時期および交換時期を実機にあった周期で計画することが可能となる。例えば、測定された電流値iが第1しきい値に達しなくとも、蓄積した電流値iを統計処理し経時的な変化率もとめ、所定の値に達する時期を予測し、メンテナンス計画を立てることが可能となる。
【0044】
[実施の形態2]
電源電圧の周波数が変動すると操作電動機M2の回転速度がそれにともない変動する場合がある。実施の形態2では、電源電圧の周波数変動に基づいて、基本電流データを参照するタイミングを補正する。
【0045】
図8は、実施の形態2におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
図8のフローチャートは、
図7に示した実施の形態1の異常検出処理のフローチャートにおいて、ステップS2とステップS3の間に、ステップS11およびS12の処理が追加されている。他の部分については、
図7で説明済みであるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0046】
図8では、ステップS2のインラッシュ電流期間が経過した後に、診断回路15は、ステップS11において、図示しない周波数検出装置から交流電源110の周波数を取得する。電源周波数が低下すると、操作電動機M2の回転速度が遅くなる。逆に、電源周波数が上昇すると、操作電動機M2の回転速度が速くなる。したがって、
図5および
図6に示した第1しきい値ith1および第2しきい値ith2の時間がずれてしまう。
【0047】
そこで、診断回路15は、ステップS12において周波数ズレ分を補正した経過時間を算出する。たとえば、電源周波数が1.1倍になっていた場合には、診断回路15はステップS12において、現在の経過時間に1/1.1を掛けた補正後の経過時間を算出し、ステップS3において、この経過時間に対応する第1しきい値ith1および第2しきい値ith2をメモリ12から読み出して使用する。
【0048】
このようにすることによって、電源周波数が変動した場合であっても、適切なしきい値を適用して正しい異常判定を行なうことができる。
【0049】
[実施の形態3]
実施の形態1では、起動時、停止時それぞれにおいて、基本電流データを記録しておく必要があった。しかし、起動時におけるリンク機構LKの動きと停止時におけるリンク機構LKの動きは逆向きであり操作電動機M2の回転も逆回転である。
図5、
図6を見れば分かるように、操作電動機M2の回転周波数が同じであれば、起動時と停止時の電流波形には相関がある。したがって、起動時の基本電流データを停止時にも使用することができる可能性がある。
【0050】
図9は、実施の形態3におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
図9のフローチャートは、
図7に示した実施の形態1の異常検出処理のフローチャートにおいて、ステップS2とステップS3の間に、ステップS21およびS22の処理が追加されている。他の部分については、
図7で説明済みであるので、ここでは説明は繰り返さない。
【0051】
図9では、ステップS2のインラッシュ電流期間が経過した後に、診断回路15は、ステップS21において、操作電動機M2の回転方向が正転(起動時)であるか、逆転(停止時)であるかをコンタクタSW2のどちらが選択されているかにより判断する。
【0052】
ステップS21において、回転方向が正転(起動時)であった場合には、診断回路15は、そのまま経過時間に対応する基本電流データを使用してしきい値を決定する。一方、ステップS21において、回転方向が逆転(停止時)であった場合には、診断回路15は、ステップS22において、現在の経過時間を逆転用に換算する。
【0053】
すなわち、
図5において、時刻t2~t5の基本電流データiBがメモリ12に記憶されているとすると、逆転時には、時刻t5から時刻t2に向けてデータが読み出されるようにすれば良い。このために、たとえば、変換後の経過時間をtx、変換前の経過時間をtとすると、tx=t5-tとすれば、
図5の基本電流データiBを
図6の基本電流データの代わりに使用することができる。そして、診断回路15は、換算した時間における基本電流データを読み出して、これに基づいてしきい値を決定する。
【0054】
このようにすることによって、基本電流データの記録の手間および記憶容量を節約することができる。
【0055】
[実施の形態4]
実施の形態4では、ブラシ引上げ装置の操作電動機M2に付加されているブレーキの異常検出について説明する。実施の形態4に示す異常検出処理は、実施の形態1~3に示した異常検出処理と組み合わせて実行しても良い。
【0056】
図10は、ブラシ引上げ装置の操作電動機M2に付加されているブレーキの位置について説明するための概略図である。ブレーキBKは、操作電動機M2の回転軸を固定状態に停止させるために設けられる。たとえば、操作電動機M2に通電中は、ソレノイドによってブレーキが解除され、操作電動機M2への通電が遮断されると、ソレノイドがオフ状態となって、ブレーキが効くようにブレーキBKが構成されている。ブレーキBKによって、起動完了後、または停止完了後において、操作電動機の電源がオフしている状態で操作電動機の回転軸が回転してしまうのを防ぐことができる。
【0057】
図11は、正常時とブレーキ異常時における操作電動機M2の電源の残留電圧の変化の違いを示した図である。正常時には、コンタクタSW2がオフされると、操作電動機M2の回転軸の回転速度が低下して、操作電動機M2の端子電圧である残留電圧も低下する。コンタクタSW2が解放てから時間とともに変化する操作電動機M2の端子電圧データ(時間-電圧データ)を出荷時の試験で採取し、基本データとして正常時の残留電圧の波形を基本電圧としてメモリ12に記憶しておく。ブレーキ異常時には、操作電動機M2の回転速度の低下が正常時よりも遅れる。したがって、実施の形態1における基本電流データと同様に、コンタクタSW2がオフされた時点からの経過時間に対応する基本電圧と比較することによって、ブレーキの異常の有無を判断することができる。
【0058】
図12は、実施の形態4におけるブラシ引上げ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
図1および
図12を参照して、ステップS101において、診断回路15は、コンタクタSW2がオフ状態となったか否かを判断する。
【0059】
コンタクタSW2がオフ状態となった場合(S101でYES)、診断回路15は、その時点からの経過時間の測定を開始する。そして、ステップS102において、基本電圧データをメモリ12から読み出す。
【0060】
続いてステップS103において、電圧センサ31で測定した残留電圧Vと基本電圧データから読み出した経過時間に対応する電圧との電圧差がしきい値より大きいか否かを判断する。
【0061】
電圧差がしきい値以下である場合には(S103でNO)、ステップS104において、経過時間が予め定められた判定時間より長いが否かを判断する。経過時間が判定時間以内であった場合(S104でNO)、診断回路15は、ステップS102に処理を戻して、残留電圧Vの監視を継続する。
【0062】
電圧差がしきい値よりも大きい場合には(S103でYES)、ステップS105において、ブレーキ異常を警報装置130等に報知する。
【0063】
ステップS104で経過時間が判定時間を超えた場合(S104でYES)、またはステップS105においてブレーキ異常を報知した場合、診断回路15は、残留電圧Vの監視によるブレーキ異常検出処理を終了する。なお、残留電圧の変化は基本的に単調減少であるので、コンタクタSW2の開放後の所定時刻の残留電圧Vを基準値と比較し、基準値以上の場合はブレーキ異常と検知し警報装置130等に報知するように構成してもよい。
【0064】
最後に、本実施の形態について、再び図面を参照して総括する。
【0065】
本開示は、巻線型誘導電動機である主電動機M1のブラシ引上げ装置100の異常検出装置1に関する。ブラシ引上げ装置100は、主電動機M1のコレクタ電極CU,CV,CWとブラシBU,BV,BWとの間を接触状態と離間状態との間で切り替える切替機構(リンク機構LK)と、切替機構を操作する操作電動機M2とを備える。異常検出装置1は、操作電動機M2の電気パラメータを検出するセンサ(変流器30)と、電気パラメータの基本波形を記憶する記憶部(メモリ12)と、センサ(変流器30)が検出した電気パラメータを、記憶部から読み出された基本波形に基づいて判定し、ブラシ引上げ装置100の異常診断を行なう、診断部(CPU11)とを備える。
【0066】
このような構成とすることによって、ユーザーは、ブラシ引上げ装置100を分解して内部を詳細に点検しなくても、ブラシ引上げ装置100の異常を知ることができる。
【0067】
好ましくは、
図5,
図6に示すように、センサ(変流器30)が検出した電気パラメータは、電流であり、基本波形は、予め測定された操作電動機M2の電流波形iBである。
【0068】
好ましくは、
図5,
図6、
図7~
図9のステップS2に示すように、診断部(CPU11)は、操作電動機M2のインラッシュ電流期間T0における電気パラメータは、異常診断に使用せず、操作電動機M2のインラッシュ電流期間T0経過後における電気パラメータを異常診断に使用する。
【0069】
このようにすることによって、異常の誤判定を避けることができる。
【0070】
好ましくは、診断部(CPU11)は、センサ(変流器30)が検出時刻に検出した電気パラメータが、基本波形における検出時刻に対応するデータに基づいて定めた判定値(第1しきい値ith1,第2しきい値ith2)より大きい場合に(
図7のS5またはS7でYES)、ブラシ引上げ装置100が異常であると判断する。
【0071】
より好ましくは、診断部(CPU11)は、基本波形における検出時刻に対応するデータを電源電圧の変動量に応じて補正し、判定値(第1しきい値ith1,第2しきい値ith2)を定める。
【0072】
より好ましくは、診断部(CPU11)は、検出時刻に対応するデータとして、電源周波数の変動量に応じて検出時刻を補正した時刻における基本波形のデータを使用する。
【0073】
具体的には、診断部(CPU11)は、電源周波数に基づいて定まる係数を検出時刻に乗じて得られる時刻を算出し、基本波形に含まれるデータのうち算出した時刻のデータを判定値とする。そして、診断部(CPU11)は、センサ(変流器30)が検出時刻に検出した電気パラメータが、この判定値より大きい場合に、ブラシ引上げ装置100が異常であると判断する。
【0074】
このような構成とすることによって、電源周波数が変動した場合であっても、同じ基本データに基づいて異常を判定することができる。
【0075】
好ましくは、診断部(CPU11)は、ブラシ引上げ装置100が異常であると判断した場合に、操作電動機M2の電源を遮断するとともに、主電動機M1の電源も遮断する。
【0076】
このような構成とすることによって、大きな損傷が主電動機M1およびブラシ引上げ装置100に発生する前に、これらを停止することができる。
【0077】
好ましくは、基本波形は、操作電動機M2が第1の方向(起動時、正転)に回転する場合に取得された
図5に示す第1波形と、操作電動機M2が第1の方向と逆の第2の方向(停止時、逆転)に回転する場合に取得された
図6に示す第2波形とを含む。診断部(CPU11)は、操作電動機M2が第1の方向に回転する場合に、センサ(変流器30)が検出した電気パラメータを、メモリ12から読み出された第1波形に基づいて判定し、操作電動機M2が第2の方向に回転する場合に、センサ(変流器30)が検出した電気パラメータを、メモリ12から読み出された第2波形に基づいて判定する。
【0078】
このような構成とすることによって、主電動機の起動時および停止時において、ブラシ引上げ装置100の異常判定をすることができる。
【0079】
好ましくは、基本波形は、操作電動機M2が第1の方向(起動時、正転)に回転する場合に取得された
図5に示す波形である。
図9に示すように、診断部(CPU11)は、操作電動機M2が第1の方向と逆の第2の方向(停止時、逆転)に回転する場合に、基本波形を逆方向から読み出しながらセンサ(変流器30)で検出される電気パラメータを比較するための判定値を決定する。なお、基本波形を停止時の
図6の波形として、起動時にこれを逆方向から読み出して使用しても良い。
【0080】
このような構成とすることによって、基本データの取得が1回ですみ、これを記憶する記憶容量も半分で済む。
【0081】
好ましくは、ブラシ引上げ装置100は、操作電動機M2の回転軸MSを停止させるブレーキBKをさらに備える。電気パラメータは、操作電動機M2の端子電圧(残留電圧V)であり、基本波形は、予め測定された操作電動機M2の電圧波形である。診断部(CPU11)は、ブレーキBKが作動中において、測定時刻における端子電圧と基本波形に基づいて定められた測定時刻に対応する電圧との差がしきい値よりも大きい場合に、ブレーキBKの異常であると判断する。
【0082】
このような構成とすることによって、操作電動機M2のブレーキBKについても、異常の有無を判定することができる。
【0083】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 異常検出装置、10 制御装置、11 CPU、12 メモリ、15 診断回路、20 トランスデューサ、30 変流器、31 電圧センサ、40 短絡カラー、100 ブラシ引上げ装置、110 三相交流電源、120 三相交流電源、130 警報装置、BK ブレーキ、BU,BV,BW ブラシ、CU,CV,CW コレクタ電極、LK リンク機構、LU1,LV1,LW1 ステータコイル、LU2,LV2,LW3 ロータコイル、M1 主電動機、M2 操作電動機、MS 回転軸、RT ロータ、RU,RV,RW 抵抗器、ST ステータ、SW1 遮断器、SW2 コンタクタ。