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特許7189131脆弱X症候群遺伝子治療のための組換えDgkk遺伝子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】脆弱X症候群遺伝子治療のための組換えDgkk遺伝子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20221206BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/864 100Z
A61K48/00
A61K31/7088
A61P25/28
A61P25/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019516199
(86)(22)【出願日】2017-09-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017074387
(87)【国際公開番号】W WO2018055206
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】16306232.6
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エルヴェ・モワヌ
(72)【発明者】
【氏名】リカルドス・タベ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2016年06月,Vol. 113,E3619-3628
【文献】J. Biol. Chem.,2005年,Vol. 280,p. 39870-39881
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠く機能性ヒトDGKk(ジアシルグリセロールキナーゼカッパー)タンパク質をコードする核酸、又は、前記核酸を含む発現カセット若しくは発現ベクターを含む、医薬組成物であって、前記機能性プロリンリッチ領域が配列番号1のヌクレオチド70と132との間のヌクレオチド領域であり、前記機能性EPAPE反復領域が配列番号1のヌクレオチド142と539との間のヌクレオチド領域であ前記核酸配列番号1の539~3816位のヌクレオチド配列と、少なくとも90%の同一性を有し、且つ配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位及び142~539位の配列、配列番号1の70~539位の配列、配列番号1の4~132位の配列、配列番号1の4~142位の配列、配列番号1の4~539位の配列、並びに配列番号1の4~648位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む、医薬組成物。
【請求項2】
ヒトDGKkタンパク質が機能性プロリンリッチ領域及び機能性EPAPE反復領域を欠く、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ヒトDGKkタンパク質がプロリンリッチ領域及び/又はEPAPE反復領域を欠く、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
機能性ヒトDGKk(ジアシルグリセロールキナーゼカッパー)タンパク質をコードする前記核酸が、5’UTRを欠いている、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記核酸が配列番号1の4~69位、及び/又は133~141位、及び/又は540~648位のヌクレオチド配列中に、1つ又は複数の欠失を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記核酸が、配列番号1の配列を有し、配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位、及び142~539位の配列、並びに配列番号1の4~539位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記発現カセットがニューロン特異的プロモーターを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ニューロン特異的プロモーターがヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記発現ベクターがアデノ随伴ウイルスである、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記アデノ随伴ウイルスがAAV10(RH10)である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
それを必要とする患者の脆弱X症候群の処置において使用するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
PPARガンマアゴニストと組み合わせて使用される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記PPARガンマアゴニストが、チアゾリンジオンファミリーである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記PPARガンマアゴニストが、ピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、更により好ましくはピオグリタゾンである、請求項12又は13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野、特に脆弱X症候群の分野に関する。本発明は、脆弱X症候群の新規処置を提供する。
【背景技術】
【0002】
脆弱X症候群(FXS)は、知的障害、行動及び学習上の問題、並びに様々な身体的特徴を生じる遺伝学的状態である。脆弱X症候群は、両性で発症するが、男性(4,000人に1人)のほうが女性(8,000人に1人)より罹患頻度が高く、一般的により重度である。
【0003】
罹患者は、一般的に、2歳までに発語及び言語の発達遅延を有する。脆弱X症候群を有する男性のほとんどは、軽度から中程度の知的障害を有するが、罹患女性では約3分の1が知的障害である。脆弱X症候群を有する小児はまた、不安、及び落ち着きを欠く又は衝動的行動等の多動性行動を示すこともある。これらの小児は、注意力を維持する能力の欠如、及び特定の課題へ集中することが困難であることを含む注意欠陥障害(ADD)を有する可能性がある。脆弱X症候群を有する個人の約3分の1は、コミュニケーション及び社会的行動に影響を与える自閉症スペクトラム障害の特徴を有する。脆弱X症候群を有する男性の約15パーセント、及び女性の約5パーセントが発作を起こす。
【0004】
脆弱X症候群を有する男性のほとんど、及び女性の約半数は、加齢に伴いより明白となる特徴的な身体的形状を有する。これらの特徴には、細長い顔、大きな耳、突出した顎及び額、異常に屈曲する指、扁平足、また男性では、思春期後の巨大睾丸(巨睾丸症)等が挙げられる。
【0005】
脆弱X症候群は、X染色体上の脆弱X精神遅滞1(FMR1)遺伝子に影響を与えるCGG三塩基反復の拡大が生じ、正常な神経発達に必要な脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)の発現不全をもたらすことによって起こる。
【0006】
マウスでは、FMRPの欠失は、特にシナプス後タンパク質等の、何百もの神経細胞タンパク質の過剰翻訳に関連している。この局所的なタンパク質合成の調節解除は、観察されたグルタミン酸作動性シナプスの成熟及び機能の欠損の原因であるということ、また、FMRPに結合することが報告されている何百ものmRNA種に優先的に影響を与えるということが提唱されている。
【0007】
現在、脆弱X症候群に特異的に効果を示す処置法はない。脆弱X症候群の処置における現在の傾向に含まれるのは、注意欠陥及び多動、不安、並びに攻撃性の症状等の脆弱X症候群に関連した二次的特徴を最小限度に抑えることを目的とした、症状に基づく処置法のための投薬だけである。脆弱X症候群を有する個人の役割を最適化する支援管理も開発されており、言語療法、作業療法、並びに個別の教育及び行動プログラム等がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Tabet R等、2016年、Proc Natl Acad Sci USA、pii: 201522631
【文献】Henikoff及びHenikoff、1992年、PNAS、89:915~919頁
【文献】Devernam等、2016年、Nature Biotechnology、34、204~206頁
【文献】Sambrook及びRussell(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York
【文献】Adachi等、Hum Mol Genet. 2005年、14、3709~22頁
【文献】Choudhury等、2016年、Mol Ther. 2016年、24、726~35頁
【文献】Xu等、2005年、Virology、341、203~214頁
【文献】Canadian Pharmacists AssociationのCompendium of Pharmaceutical and Specialties
【文献】「Route of Administration」. 25 Data Standards Manual. Food and Drug Administration.
【文献】De Roo M等、2008年、Cereb Cortex、18(1):151~161頁
【文献】Comery TA等、1997年、Proc Natl Acad Sci USA、94(10):5401~5404頁
【文献】He CX及びPortera-Cailliau C、2013年、Neuroscience、251:120~128頁
【文献】Le Merrer等、(2013) Neuropsychopharmacology 38(6):1050~1059頁
【文献】Gantois等、Nat Med. 2017年6月;23(6):674~677頁
【文献】Bhattacharya等、2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、新規且つ有効な脆弱X症候群の処置を導入する医学が今日もなお強く求められている。本発明は、これら及び他の要求を満たすそうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者等は、驚くべきことに、5'コード領域をトランケートされたDgkk(ジアシルグリセロールキナーゼカッパー)核酸の発現が、海馬CA1錐体Fmr1-KOニューロンの樹状突起スパイン異常をレスキューすることができることを発見した。発明者等はまた、この5'コード領域において、2つのドメイン、プロリンリッチドメイン及びEPAPE反復ドメインが、きわめて重要であることも明らかにした。
【0011】
したがって、第1の態様において、本発明は、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする核酸に関する。
【0012】
好ましくは、このヒトDGKkタンパク質は、機能性プロリンリッチ領域及び機能性EPAPE反復領域を欠く。
【0013】
具体的には、本発明によるヒトDGKkタンパク質は、プロリンリッチ領域及び/又はEPAPE反復領域を欠いていてもよい。
【0014】
好ましくは、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約85%の同一性、好ましくは少なくとも約90%の同一性、より好ましくは少なくとも約95%の同一性を有し、配列番号1の70~132位、及び/又は142~539位のヌクレオチド配列中に1つ又は複数の変異、好ましくは欠失及び/又はエピジェネティック修飾を、また任意選択で、配列番号1の4~69位、及び/又は133~141位、及び/又は540~648位のヌクレオチド配列中に1つ又は複数の変異、好ましくは欠失及び/又はエピジェネティック修飾を含む。
【0015】
より好ましくは、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約85%の同一性、好ましくは少なくとも約90%の同一性、より好ましくは少なくとも約95%の同一性を有し、配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位及び142~539位の配列、配列番号1の70~539位の配列、配列番号1の4~132位の配列、配列番号1の4~142位の配列、配列番号1の4~539位の配列、並びに配列番号1の4~648位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む。
【0016】
更により好ましくは、本発明による核酸は、配列番号1の配列を有し、配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位及び142~539位の配列、並びに配列番号1の4~539位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む。
【0017】
本発明はまた、第2の態様において、本発明による核酸及びプロモーターを含む発現カセットに関する。好ましくは、プロモーターは、ニューロン特異的プロモーター、より好ましくはヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターである。
【0018】
本発明はまた、第3の態様において、本発明による核酸又は本発明による発現カセットを含む発現ベクターに関する。好ましくは、発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス、より好ましくはアデノ随伴ウイルス2/9又はアデノ随伴ウイルス2/10、更により好ましくはアデノ随伴ウイルス2/9である。
【0019】
第4の態様において、本発明は、薬物として使用する、本発明による核酸、本発明による発現カセット、又は本発明による発現ベクターに関する。
【0020】
本発明はまた、第5の態様において、本発明による核酸、本発明による発現カセット、又は本発明による発現ベクターを含む医薬組成物に関する。
【0021】
第6の態様において、本発明はまた、それを必要とする患者の脆弱X症候群の処置で使用する、本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物に関する。
【0022】
好ましくは、その核酸、発現ベクター、又は医薬組成物は、PPARガンマアゴニスト、好ましくはチアゾリンジオン(thiazolinedione)ファミリーのPPARガンマアゴニスト、より好ましくはピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、更により好ましくはピオグリタゾンと組み合わせて使用される。
【0023】
本発明はまた、第7の態様において、本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物と、前記核酸又は前記発現カセット又は前記発現ベクター又は前記医薬組成物の投与のための手段と、任意選択で、このようなキットを使用するためのガイドラインを提供するリーフレットとを含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一定の比で表したマウスDgkk構築物の地図である。Dgkkの5'コード領域の2つの主要ドメインである、プロリンリッチ領域を指すProとEPAPE反復領域を指す(EPAPE)10とを示す。HAはヘマグルチニンタグを指し、GFPは緑色蛍光タンパク質を指し、CMVはサイトメガロウイルスプロモーターを指す。記号Δは、その後ろのDNA又はタンパク質領域を欠くことを意味する。「5'領域」という用語は、Dgkkのプロリンリッチ領域及びEPAPE反復領域、並びに5'UTRを含むDgkkの5'コード領域を指す。「N-ter」という用語は、Dgkk遺伝子の5'コード領域に対応するタンパク質領域を指す。「FL」という用語は全長を指し、Dgkk-FLベクターは、すべてのDgkkエクソン、その5'UTR領域、その3'UTR領域、及びHAタグを含む配列を運ぶ。灰色のバーは1kbを表す。
図2A】Cos-1細胞においてFMRPがDgkkの発現へ及ぼす影響を示す図である。示したDgkk構築物(Dgkk-FL若しくはΔ5'reg-Dgkk)を有するプラスミド又はトランスフェクト対照(TC)を有するプラスミドのトランスフェクションの24時間前に、siRNA対照(siCtlr)、又はFmr1に対するsiRNA(siFmr1)をトランスフェクトしたCos-1細胞の分析の代表的なウェスタンブロットの写真である。使用した抗体を示す:抗HA抗体(HA)、抗FMRP抗体(FMRP)、及び抗GAPDH抗体(GAPDH)。
図2B】Cos-1細胞においてFMRPがDgkkの発現へ及ぼす影響を示す図である。図2Aで示した構築物のウェスタンブロットのデンシトグラムである。縦軸は、siCtrlの状態を100としたGAPDHに対して正規化した、示したタンパク質(HA又はFMRP)のシグナルの任意単位を表す。***:p<0.001、**:p<0.01、*:p<0.1、NS:有意ではない、p値はスチューデント検定で算出する、n=6。
図3A】Cos-1細胞における様々なDgkk構築物の発現を比較する図である。Dgkk構築物をトランスフェクトしていない(NT)Cos-1細胞、又は示したDgkk構築物を有するプラスミドをトランスフェクトしたCos-1細胞の分析の代表的なウェスタンブロットの写真である。使用した抗体を示す:抗HA抗体(HA)、及び抗GAPDH抗体(GAPDH)。
図3B】Cos-1細胞における様々なDgkk構築物の発現を比較する図である。図3Aで示した構築物のウェスタンブロットのデンシトグラム。縦軸は、GAPDHに対し正規化した、HAタンパク質のシグナルの任意単位を表す。
図4A】Dgkkの5'領域がFMRPによるDgkk発現の制御へ及ぼす影響を示す図である。Dgkk構築物をトランスフェクトしていない(NT)Cos-1細胞、又は示したDgkk構築物(左に示す)を有するプラスミドをトランスフェクトしたCos-1細胞いずれかの分析の代表的なウェスタンブロットの写真である。これらの構築物のトランスフェクションの24時間前に、siRNA対照(siCtlr)、又はFmr1に対するsiRNA(siFmr1)を細胞にトランスフェクトした。使用した抗体を示す:抗HA抗体(HA)、抗FMRP抗体(FMRP)、及び抗GAPDH抗体(GAPDH)。
図4B】Dgkkの5'領域がFMRPによるDgkk発現の制御へ及ぼす影響を示す図である。図4Aで示した構築物のウェスタンブロットのデンシトグラム。縦軸は、siCtrlの状態を100としたGAPDHに対し正規化した、示したタンパク質(HA又はFMRP)のシグナルの任意単位を表す。***:p<0.001、**:p<0.01、*:p<0.1、NS:有意ではない、p値はスチューデント検定で算出する、n=6。
図5A】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。pAAV-EGFP-shRNA-スクランブル、pAAV-EGFP-shRNA-Dgkκ、pAAV-EGFP、pAAV-Δ5'-DgkκでそれぞれトランスフェクトされたCA1錐体ニューロンにおける、shRNA-スクランブル(左上)、shRNA-Dgkκ(左下)、Fmr1-/y(右上)、Fmr1-/y+Δ5'-Dgkk(右下)の発現によって誘導されたスパイン形態の変化を例示する写真である。複数のヘッドをもつスパイン(星印)、及び非常に細長いスパインの存在に留意されたい(矢印、バー:2μm)。
図5B】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。錐体ニューロンを発現するshRNAスクランブルで生じるスパイン変化を示す写真である(新たなスパイン:+、及び消失したスパイン:-)(バー:2μm)。
図5C】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。上記の4条件下ではスパイン密度に変化がないことを示すグラフである。
図5D】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。shRNA-Dgkk(sh-Dgkk)トランスフェクト細胞(n=10)とshRNA-スクランブル(sh-scrbl)トランスフェクト細胞(n=8)との比較における、及びFmr1-/y(FMRKO)トランスフェクト細胞(n=8)とFmr1-/y+Δ5'-Dgkk(FMRKO+Δ5'-DGKK)トランスフェクト細胞(n=8)との比較における、複数のヘッドをもつスパインの増加及びマッシュルーム型スパインの減少を示すグラフである(*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001、ボンフェローニ事後検定を用いる二元配置分散分析)。
図5E】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。shRNA-Dgkk(n=342スパイン)、shRNA-スクランブル(n=297スパイン)、Fmr1-/y(n=359スパイン)、Fmr1-/y+Δ5'-Dgkk(n=377スパイン)トランスフェクト細胞におけるスパイン長の分布を示すグラフである(p=0.13、コルゴモロフ-スミルノフ検定)。
図5F】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。スパインの安定性の経時的な低下を示すグラフである(*:p<0.05、ボンフェローニ事後検定を用いた二元配置分散分析)。
図5G】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。CA1錐体ニューロンにおける、樹状突起スパインの形態、及びshRNA-Dgkκ(右)又はshRNA-スクランブル(左)発現によって誘導された動的変化を示す写真である。時間(h)を示す。バイオリスティック法(材料及び方法)によって、shRNA-Dgkκ又はshRNA-スクランブルを発現するプラスミドベクターをトランスフェクトされたマウス海馬器官型培養物の、示した時間に取得した反復共焦点画像に対応する写真。
図5H】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。shRNA-Dgkk(n=10)トランスフェクト細胞とshRNA-スクランブル(n=8)トランスフェクト細胞との比較における、24時間当たりの新たなスパイン形成の増加を示すグラフである(**:p<0.01、独立t検定)。
図5I】樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkk発現調節によるレスキューを示す図である。24時間当たりの消失スパインの増加を示すグラフである(*:p<0.05、独立t検定)。
図6A】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。解離した皮質ニューロン(インビトロでの培養14日目)を、AAV9-Δ5'reg-Dgkkで効率的に形質導入した。Dgkkは、抗HA一次抗体を使用して免疫標識することによって可視化した。AAV-GFPは、形質導入陽性対照として示す。Map2はニューロンのマーカーである。
図6B】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。Fmr1-/yニューロンでは、開始因子4E(eIF4E)のリン酸化が増加している。示した一次抗体を用いて、皮質ニューロン(14DIV)のタンパク質抽出物10μgについてウェスタンブロット分析を実施した。3つの生物学的複製物を示す。
図6C】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。感染7日後、AAV9からのΔ5'reg-Dgkk発現によって、Fmr1-/yニューロン-におけるeIF4Eリン酸化が低減している。データは、図6Bで実施したウェスタンブロットに対応している。ウイルスの力価(ゲノムコピー)を示す。右にウェスタンブロットのデンシトグラム解析を示す。***:p<0.001、**:p≦0.01、スチューデントt検定による、n=4。
図6D】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。示したベクターを注入したマウスの海馬領域での、抗HA抗体(緑色)によるΔ5'reg-Dgkkの免疫蛍光標識の写真である。
図6E】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。図6Dのように処置したマウスの海馬中のウイルスゲノムコピー/細胞の、qRT-PCRによる定量化を示すグラフである(AAV9及びAAV10は、それぞれAAV9-Δ5'reg-Dgkk、及びAAV10-Δ5'reg-Dgkkに対応する)。
図6F】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。被処置マウスの身体能力を、加速ロータロッドテストで試験した。データは、図6Dのように処置したマウスについて、4日間のセッション(1~4)の落下潜時(分)に対応する(AAV9及びAAV10は、AAV9-erroupsに対応する(T検定))。Wt Ctr:Fmr1 y/+処理生理的食塩水、A:Fmr1Y/-処理生理的食塩水、B:Fmr1Y/-処理AAV9-Δ5'reg-Dgkk、C, B:Fmr1Y/-処理AAV9-Δ5'reg-Dgkk。
図6G】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。直接的社会的行動を示すグラフである。同じ遺伝型のマウス2体間の接触回数を示す(平均。データcoP≦0.05 T-検定、n=10)。Wt対照:Fmr1 y/+処理生理的食塩水、KO対照:Fmr1Y/-処理生理的食塩水、KO-AAV9:Fmr1Y/-処理AAV9-Δ5'reg-Dgkk、KO-AAV10:Fmr1Y/-処理AAV9-Δ5'reg-Dgkk。
図6H】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。新奇物体認識試験を示すグラフである。におい嗅ぎ時間の%は、試験2日目の新奇物体(NO)、及び見慣れた物体(FO)について示す。データは、平均値±SEM、***:P≦0.001、T-検定、n=10である。群の名前は図6Gに記載の通り。
図6I】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。アクチメトリー試験(Actimetry test)を示すグラフである。データは、24時間全体の光ビーム遮断の平均±SEMである。動物群は図6Fに記したように名札を付ける。t検定による、*:P≦0.05、n≧9、ns:有意ではない。
図6J】インビトロ及びインビボでのAAVΔ5ransductκの形質導入、並びにFmr1-KOマウスの行動への影響を示す図である。アクチメトリー測定の詳細を示すグラフである。データは、図6Iに記載の光ビーム遮断の平均±SEMである。各期間のp値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
【表1】
【0026】
最近、発明者等は、皮質ニューロンにおいて、FMRPが、ある独特なmRNA、ジアシルグリセロールとホスファチジン酸とのシグナル伝達経路の切り換えを制御する重要な制御因子であるジアシルグリセロールキナーゼカッパー(Dgkk)のmRNAと主として会合していることを明らかにした(Tabet R等、2016年、Proc Natl Acad Sci USA、pii:201522631を参照されたい)。ニューロンでFMRPが欠如すると、Dgkk発現の喪失がもたらされる。発明者等は、脆弱X症候群マウスモデルにおいて認められたように、ニューロンでのDgkk発現の減少が、樹状突起スパイン異常、シナプスの可塑性の変化、及び行動障害の原因となるに十分であることを実証した。したがって、ニューロンでDgkkを過剰発現させることによって、FMRPの欠如をレスキューすることができる。まとめると、これらのデータは、Dgkk調節解除が脆弱X症候群の病理学に寄与することを示唆し、Dgkkの翻訳を制御することによって、FMRPが樹状突起スパインにおける脂質シグナル伝達に影響を及ぼすことによってシナプスタンパク質の翻訳及び膜の特性を間接的に制御するモデルを支持するものである。
【0027】
発明者等は、細胞モデルにおいて、FMRPの非存在下では、全長Dgkk核酸を過剰発現してもDGKkタンパク質発現がもたらされないことを発見した。したがって、全長Dgkk核酸の過剰発現はFMRPの欠如による影響をレスキューできない。しかしながら、発明者等は、驚くべきことに、5'コード領域がトランケートされたDgkkを過剰発現すると、FMRP制御が消失し、DGKkタンパク質が発現されることを観察した。このランケートされたDgkk核酸の発現が、海馬CA1錐体Fmr1-KOニューロンの樹状突起スパイン異常をレスキューすることができることが示された。発明者等はまた、Dgkk核酸のこの5'コード領域において、2つのドメイン、プロリンリッチドメイン及びEPAPE反復ドメインがきわめて重要であることを証明した。機能性プロリンリッチドメインの、又は機能性EPAPE反復ドメインの欠如は、事実、FMRP制御を消失させるのに十分であった。
【0028】
したがって、第1の態様において、本発明は、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする核酸に関する。好ましくは、ヒトDGKkタンパク質をコードする核酸は、機能性プロリンリッチ領域及び機能性EPAPE反復領域を欠く。
【0029】
定義
本明細書において使用される場合、「脆弱X症候群」、「fra(X)症候群」、「FXS」、「FRAXA症候群」、「マーカーX症候群」、「マーティン-ベル症候群」、「X連鎖精神遅滞及び巨睾丸症」、及び「エスカランテ症候群(Escalante's syndrome)」という用語は、同義であり、本出願の中で互換的に用いることができる。本明細書において使用される場合、「脆弱X症候群」は、知的障害、行動及び学習上の問題、並びに様々な身体的特徴を生じる遺伝学的状態を指す。脆弱X症候群は、脆弱X精神遅滞タンパク質の発現不全による結果である。
【0030】
本明細書において使用される場合、「知的障害(ID)」、「全般的学習障害」、又は「精神遅滞(MR)」という用語は、同義であり、本出願において互換的に用いることができる。本明細書において使用される場合、「知的障害」は、知的及び/又は適応機能の著しい障害を特徴とする、全般的神経発達障害を指す。
【0031】
本明細書において使用される場合、「脆弱X精神遅滞タンパク質」又は「FMRP」という用語は、X染色体上に位置した脆弱X精神遅滞1遺伝子(FMR1,遺伝子ID:2332)によってコードされたタンパク質(NCBI参照配列:NP_001172004.1、Uniprot KB:QO6787)を指す。このタンパク質は、正常な神経の発達に必要とされる。
【0032】
一般的に、脆弱X症候群は、FMR1の5'非翻訳領域中のCGG三塩基反復の数が増加した結果として生じる。CGG反復の長さによって、FMR1対立遺伝子は以下の通り分類することができる:
- 正常、6個から54個の間のCGG反復、保因者は、脆弱X症候群に罹患していない。
- 前変異、55個から約200個の間のCGG反復、保因者は、その他のFMR関連障害のリスクがある。
- 完全変異、約200超個のCGG反復、保因者は、一般に脆弱X症候群に罹患している。
FMR1の機能欠落変異及び/又は異常な遺伝子メチル化もまた、脆弱X症候群に関与している可能性がある。
【0033】
本明細書において使用される場合、「ジアシルグリセロールキナーゼカッパー」又は「DGKk」という用語は、X染色体上に位置したDgkk遺伝子(遺伝子ID:139189)によってコードされたタンパク質(NCBI参照配列:NP_001013764.1、Uniprot KB:Q5KSL6、配列番号9)を指す。DGKkは、ジアシルグリセロールをホスファチジン酸に変換することができる酵素である。
【0034】
本明細書において使用される場合、「核酸分子」又は「核酸」という用語は、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを指す。核酸分子は、任意の組合せで、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体を含んでいてもよい。
【0035】
本明細書において使用される場合、「ヌクレオチド」という用語は、糖(修飾、非修飾、又はそれらの類似体)、ヌクレオチド塩基(修飾、非修飾、又はそれらの類似体)、及びリン酸基(修飾、非修飾、又はそれらの類似体)を有する化学的部分を指す。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、並びに修飾ヌクレオチド類似体、例えばロックド核酸(「LNA」)、ペプチド核酸(「PNA」)、L-ヌクレオチド、エチレン架橋型核酸(「ENA」)、アラビノシド、及びヌクレオチド類似体(脱塩基ヌクレオチドを含む)等を含む。
【0036】
本明細書において使用される場合、「スプライシング」という用語は、イントロンが除去されエクソンは連結している前RNA転写物の修飾を指す。
【0037】
本明細書において使用される場合、「イントロン」又は「イントロン配列」という用語は、最終RNA産物の成熟化の間にRNAスプライシングによって除去される、遺伝子内のあらゆるヌクレオチド配列を指す。RNAスプライシング後、最終的な成熟RNA中でひとつに連結されている配列が「エクソン」又は「エクソン配列」である。「イントロン」及び「エクソン」という用語は、遺伝子内のDNA配列、及びRNA転写物において対応する配列の両方を指す。
【0038】
具体的には、本発明による核酸は、好ましくは、天然に生じる遺伝子から分離した、及び/又は、そうでなければ本来存在しないであろう方法で、好ましくは天然に生じる遺伝子に元から存在するイントロン配列を除去することによって、組み合わせた若しくは並置させた核酸のセグメントを含有するように改変されたDNAポリヌクレオチドである。
【0039】
本明細書において使用される場合、「5'UTR」、「5'非翻訳領域」、「リーダー配列」又は「リーダーRNA」という用語は、同義であり、互換的に用いることができる。これらは、開始コドンからすぐ上流にあるmRNA領域を指す。この領域は、転写物の翻訳の調節に重要である。「5'UTR」という用語は、遺伝子内のDNA配列、及びRNA転写物において対応する配列の両方を指す。
【0040】
本明細書において使用される場合、「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリヌクレオチド間のヌクレオチド対ヌクレオチドの正確な一致を指す。同一性のパーセントは、配列をアラインさせ、アラインさせた2つの配列間の正確なマッチ数を数え、より短い配列の長さで割り、その結果に100を掛けて、2分子間の配列情報を直接比較することによって決定することができる。
【0041】
配列同一性は、2つの配列の長さに応じて大域的又は局所的アラインメントアルゴリズムを使用する、2つのヌクレオチド配列のアラインメントにより決定することができる。類似の長さの配列は、好ましくは、配列を完全長にわたり最適にアラインさせる大域的アラインメントアルゴリズム(例えばニードルマン・ウンシュ法)を使用してアラインさせ、一方、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、局所的アラインメントアルゴリズム(例えばスミス・ウォーターマン法)を使用してアラインさせる。配列が(例えば、デフォルトパラメーターを使用するプログラムGAP又はBESTFITによって最適にアラインされている場合)、少なくとも配列同一性のある最少の百分率を共有している場合、次いで、配列は、「実質的に同一で」又は「実質的に類似の」と呼んでもよい。GAPでは、ニードルマン・ウンシュの大域的アラインメントアルゴリズムを使用して、2つの配列を完全長(全長)にわたってアラインさせ、マッチ数を最大化し、ギャップ数を最少化する。大域的アラインメントは、2つの配列が類似の長さを有する場合の配列同一性の決定に好適に用いられる。一般的に、GAPデフォルトパラメーターは、ギャップ生成ペナルティー(gap creation penalty)=50(ヌクレオチド)、及びギャップ伸長ペナルティー=3(ヌクレオチド)で用いられる。ヌクレオチドについては、使用されるデフォルトスコアリングマトリックスはnwsgapdnaである(Henikoff及びHenikoff、1992年、PNAS、89:915~919頁)。百分率配列同一性のための配列アラインメント及びスコアは、コンピュータープログラム、例えばAccelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121-3752 USAから入手できるGCG Wisconsin Package、バージョン10.3等を使用して、又はオープンソースのソフトウエア、例えばEmbossWINバージョン2.10.0のプログラム「needle」(大域的ニードルマン・ウンシュアルゴリズムを使用する)若しくは「water」(局所的スミス・ウォーターマンアルゴリズムを使用する)等を使用して、上記GAP用と同じパラメーターを使用して、若しくはデフォルト設定(「needle」及び「water」いずれも、デフォルトギャップ開始ペナルティーは10.0、デフォルトギャップ伸長ペナルティーは0.5である。デフォルトスコアリングマトリックスは、タンパク質についてはBlossum62、DNAについてはDNAFullである)を使用して決定することができる。配列の全長が実質的に異なる場合、局所的アラインメント、例えばスミス・ウォーターマンアルゴリズムを使用する局所的アラインメント等が好ましい。別法として、百分率類似性又は同一性は、例えばFASTA、BLAST等のアルゴリズムを使用して公のデータベースを検索することによって決定してもよい。
【0042】
本明細書において使用される場合、「プロリンリッチドメイン」、「プロリンリッチ領域」、「プロリンリッチ配列」、「プロリンリッチセグメント」、及び「PRR」という用語は、同義であり、互換的に使用することができる。これらの用語は、主としてプロリンを含むタンパク質の部分を指す。「プロリンリッチ領域」という用語は、主としてプロリンを含むタンパク質の部分、及びこのタンパク質の部分をコードする遺伝子内のDNA配列の両方を指す。ヒトDGKkは、(配列番号1のヌクレオチド70から132との間のヌクレオチド領域に対応する)N末端プロリンリッチ領域を呈する。
【0043】
本明細書において使用される場合、「EPAPE反復ドメイン」、「EPAPE反復領域」、「EPAPE反復配列」、「EPAPE反復セグメント」という用語は、同義であり、互換的に使用することができる。これらの用語は、EPAPEモチーフ、すなわち、グルタミン酸、プロリン、アラニン、プロリン及びグルタミン酸の連続の繰り返しを幾つか含むタンパク質の部分を指す。「EPAPE反復領域」という用語は、EPAPEモチーフの繰り返しを幾つか含むタンパク質の部分、及びこのタンパク質の部分をコードする遺伝子内のDNA配列の両方を指す。ヒトDGKkには、N末端EPAPE反復領域(配列番号1のヌクレオチド142から539との間のヌクレオチド領域に対応する)を示す。
【0044】
本文書に記載したペプチド又はタンパク質配列では、アミノ酸は、次の命名法に従い、一字コードによって表す。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リジン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:トレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、及びY:チロシン。
【0045】
本明細書において使用される場合、「変異」という用語は、遺伝子のヌクレオチド配列の変化を指す。変異という用語は、置換、欠失、及び挿入を包含するが、それらに限定されない。
【0046】
本明細書において使用される場合、「置換」又は「点変異」という用語は、同義であり、1つのヌクレオチドと別のヌクレオチドとの交換で構成される変異を指す。好ましくは、本発明による置換は、ミスセンス変異である。ミスセンス変異では、交換されたヌクレオチドは、この変異後、元のトリプレットとは異なるアミノ酸をコードするヌクレオチドのトリプレットの一部である。好ましくは、変異は、サイレント変異又はナンセンス変異ではない。サイレント変異では、交換されたヌクレオチドは、変異後、元のトリプレットと同じアミノ酸をコードするヌクレオチドのトリプレットの一部である。ナンセンス変異では、交換されたヌクレオチドは、変異後、停止コドンをコードし、したがって、タンパク質をトランケートすることができるヌクレオチドのトリプレットの一部である。
【0047】
本明細書において使用される場合、「欠失」という用語は、DNAからの1つ又は複数のヌクレオチドの除去で構成される変異を指す。本発明による欠失は、リーディングフレームの変化(フレームシフト)はもたらさない。したがって、欠失したヌクレオチドの数は、3の倍数である。
【0048】
本明細書において使用される場合、「挿入」という用語は、DNAへの1つ又は複数の余分なヌクレオチドの付加で構成される変異を指す。本発明による挿入は、リーディングフレームの変化はもたらさない。したがって、挿入されたヌクレオチドの数は、3の倍数である。
【0049】
本明細書において使用される場合、「エピジェネティック修飾」という用語は、ヌクレオチド配列の変化は伴わない、ゲノムへの機能性に関連する変化を指す。このような変化を生むメカニズムの例には、DNAメチル化、及びヒストン修飾がある。
【0050】
本明細書において使用される場合、「発現カセット」という用語は、コード領域、及びこのコード領域に作動可能に連結されている発現のために必要な調節領域を含む、核酸構築物を指す。「作動可能に連結されている」という表現は、コード領域の発現が調節領域の制御下にあるような方法で、エレメントが結合されていることを意味する。典型的には、調節領域は、コード領域の発現の制御に適合可能な距離をおいて、コード領域の上流に位置している。調節領域は、プロモーター、促進因子、サイレンサー、アテニュエーター、及び配列内リボソーム進入部位(IRES)を含むことができる。また、発現を妨げない限りは、スペーサー配列が調節エレメントとコード領域との間に存在していてもよい。発現カセットはまた、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン、イントロンのためのスプライシングシグナル、及び停止コドン、転写ターミネーター、ポリアデニル化配列を含んでいてもよい。
【0051】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」及び「転写プロモーター」という用語は、同義であり、発現カセットの調節領域の部分であるDNAの領域を指す。プロモーターは特定の遺伝子の転写を開始する調節エレメントである。プロモーターは、(センス鎖の5'領域に向かって)DNA上の同じ鎖上の上流で、遺伝子の転写開始部位付近に位置する。本明細書において使用される場合、「構成的プロモーター」という用語は、ほとんどの組織において、及びほとんどの細胞内環境において作用しているプロモーターを指す。「被調節プロモーター」又は「誘導性プロモーター」という用語は、本明細書において使用される場合、同義であり、特定の物理的又は化学的刺激に反応して、細胞中でのみ活性化又は抑制されるプロモーターを指す。「特異的プロモーター」という用語は、特定の器官若しくは組織、例えば脳等において、又は特定の細胞型、例えばニューロン等においてのみ活性化されうるプロモーターを指す。
【0052】
本明細書において使用される場合、「エンハンサー」という用語は、調節領域の一部である短い(50~1500bp)DNA領域を指す。エンハンサーは、タンパク質(アクチベーター)が結合し、遺伝子で転写が起こる可能性を上昇させうる調節エレメントである。エンハンサーは、一般的にシス作用性であり、遺伝子から1Mbp(1,000,000bp)以内の距離に位置しており、開始部位から上流又は下流にあり、フォワード又はバックワードのどちらであってもよい。
【0053】
本明細書において使用される場合、「転写ターミネーター」という用語は、発現カセットの一部であるとともに、転写における遺伝子の終点を印付ける、核酸配列の一区分を指す。この配列は、転写複合体から新生mRNAを放出する過程を誘発するシグナルを新生mRNA中に与えることによって転写終結をもたらす。
【0054】
本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、宿主細胞中へ、パッセンジャー核酸配列、すなわちDNA又はRNA、を移入するのに働く核酸分子、典型的にはDNA又はRNAを指す。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、及び遺伝子挿入のための好適な部位、例えばマルチクローニング部位等を含んでいてもよい。プラスミド、ファージ、ファージミド、ウイルス、コスミド、及び人工染色体を含む、数種の一般的なタイプのベクターがある。好ましくは、本発明のベクターは、DNAウイルスベクターである。
【0055】
「ウイルスベクター」は、本明細書において使用される場合、遺伝子産物をコードするウイルス遺伝子、制御配列、及びウイルスのパッケージング配列のうちの、幾つか又はすべてを含むベクターを指す。
【0056】
「パルボウイルスベクター」は、本明細書において使用される場合、インビボ、エクスビボ、又はインビトロのいずれかで宿主細胞中に送達されるポリヌクレオチドを含む、遺伝子組換えによって作製されたパルボウイルス又はパルボウイルス粒子を指す。パルボウイルスベクターの例としては、例えばアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が挙げられ、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、及びAAV-PHP.Bがある(Devernam等、2016年、Nature Biotechnology、34、204~206頁)。本明細書では、パルボウイルスベクターはまた、ウイルスゲノム又はその一部及び目的の核酸を含むポリヌクレオチドも指す。具体的には、改変されたAAV配列も、本発明の関連において使用することができる。このような改変された配列には、他のAAVの部分を、野生型AAV ITR(末端逆位配列)、Rep(複製タンパク質)、又はVP(ウイルスタンパク質)配列と置き換えて使用することができるAAVが含まれる。AAV VPタンパク質は、AAVビリオンの細胞指向性を決定することが知られている。様々なAAV血清型の間では、VPタンパク質コード配列の保存度は、ITR、並びにRepタンパク質及び遺伝子に比べて著しく低い。Rep及びITR配列の、他の血清型の対応する配列を交差補完する能力によって、ある血清型(例えば、AAV5)のカプシドタンパク質と別のAAV血清型(例えば、AAV2)のITR配列とを含むシュードタイプ化AAV粒子の作製が可能になる。このようなシュードタイプ化AAV粒子は、タイプ「x/y」であると表すこともあり、ここで「x」はITR配列の起源を示し、「y」はカプシドの血清型を示しており、例えば、AAV2/9粒子は、AAV2由来ITR配列とAAV5由来カプシドとを有する。
【0057】
本明細書において使用される場合、「発現ベクター」という用語は、細胞での遺伝子発現のために設計されたベクターを指す。発現ベクターは、特定の遺伝子を標的細胞へ導入することを可能にし、タンパク質合成のための細胞のメカニズムを勝手に使って、遺伝子にコードされたタンパク質を産生することができる。発現ベクターは、例えば、プロモーター、正しい翻訳開始配列、例えばリボソーム結合部位及び開始コドン等、終止コドン、並びに転写終結配列等の発現エレメントを含む。発現ベクターはまた、所与の遺伝子の転写レベルを支配するその他の調節領域、例えばエンハンサー、サイレンサー、及び境界領域/インスレーター等を含んでいてもよい。発現ベクターは、遺伝子の安定又は一過性発現のためのベクターであってもよい。本明細書において使用される場合、「安定発現」は、宿主細胞の複製後でも、適時、維持されている遺伝子発現を指す。安定発現のためには、導入される遺伝物質は、宿主ゲノムへ組み込まれなければならない。組込み型発現ベクターは、安定発現のために好適な発現ベクターである。本明細書において使用される場合、「一過性発現」は、適時に、好ましくは1日から1年の間、より好ましくは10日から8カ月の間、なお好ましくは1カ月から6カ月の間、更により好ましくは2カ月から4カ月の間に限定される遺伝子発現を指す。一過性遺伝子発現のためには、導入される遺伝物質は、宿主ゲノムへ組み込まれる必要はない。
【0058】
本明細書において使用される場合、「処置」、「処置する」又は「処置すること」という用語は、患者の健康状態を改善することを意図した、疾患の治療及び予防等のあらゆる行為を指す。
【0059】
本明細書において使用される場合、「有効量」という用語は、脆弱X症候群の有害な影響を防止、遅延、除去又は低減する、核酸、発現カセット、発現ベクター、又は医薬組成物の量を指す。
【0060】
本明細書において使用される場合、「活性要素」、[活性成分」、及び「活性医薬成分」という用語は、同義であり、治療的効果を有する医薬組成物の成分を指す。
【0061】
本明細書において使用される場合、「治療的効果」という用語は、脆弱X症候群の出現を防止若しくは遅延することができる、又は脆弱X症候群の影響を治癒若しくは減弱することができる、活性成分又は本発明による医薬組成物によって誘発される効果を指す。
【0062】
本明細書において使用される場合、「賦形剤又は薬学的に許容される担体」という用語は、医薬組成物中に存在する、活性成分を除くあらゆる成分を指す。その添加の目的は、最終産物に、特定の硬度、又は他の物理的若しくは味覚的特性を付与することであってもよい。賦形剤若しくは薬学的に許容される担体は、特に化学的な、活性成分とのいかなる相互作用もあってはならない。
【0063】
本明細書において使用される場合、「遺伝子治療」という用語は、遺伝子を使用して、疾患、例えば脆弱X症候群を、処置、減弱、遅延又は予防する技術を指す。具体的には、遺伝子治療は、遺伝子増強治療(gene augmentation therapy)であってもよく、脆弱X症候群との戦いの一助となる、改変したヒトDgkk遺伝子の体内への導入を指してもよい。別法として、遺伝子治療は、欠失遺伝子治療(deletion gene therapy)であってもよく、脆弱X症候群との戦いの一助となる、ヒトDgkkの一部の細胞のゲノムにおける削除を指してもよい。
【0064】
本明細書において使用される場合、「対象」、「個体」又は「患者」という用語は、互換可能であり、動物、好ましくは哺乳動物、更により好ましくは成人、小児、新生児、及び出生前期のヒトを含むヒトを指す。
【0065】
本明細書において使用される場合、「チアゾリジンジオンファミリーの分子」、「チアゾリジンジオン」、又は「グリタゾン」という用語は、互換可能であり、チアゾリジンがジオンとして働く官能基を含有する分子のクラスを指す。チアゾリジンジオンは、核内PPARガンマ受容体(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ)を結合することができる。本発明によるチアゾリジンジオンは、ピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンから構成される群から選択されてもよい。好ましくは、本発明によるチアゾリジンジオンは、ピオグリタゾンである。
【0066】
本明細書において使用される場合、「mGluR」及び「代謝型グルタミン酸受容体」という用語は、互換可能であり、グルタミン酸を結合することができる、Gタンパク質共役型受容体のグループCファミリーのメンバーを指す。mGluRは、間接的な代謝過程を介して作用する。本発明によるmGluRリガンドは、mGluRに結合できるどんな分子であってもよい。本発明によるmGluRリガンドは、mGluRのアゴニストであってもよい。
【0067】
本文書において、「約」という用語は、指定した値の±10%の値の範囲を指す。例えば、「約50」は、50の±10%の値、すなわち、45から55の間の範囲の値を含む。好ましくは、「約」という用語は、指定した値の±5%の値の範囲を指す。
【0068】
核酸
本発明は、ヒトDGKkタンパク質をコードする核酸に関する。本発明による核酸は、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠く。「機能性領域」又は「機能性ドメイン」とは、本明細書において使用される場合、同義であり、FMRPによるヒトDgkk遺伝子の発現の制御に関与する領域を指す。ヒトDgkk遺伝子において機能性プロリンリッチ領域又は機能性EPAPE反復領域が欠如していると、ヒトDgkk遺伝子の発現へのFMRP制御が消失又は低減する。ヒトDgkk遺伝子において機能性プロリンリッチ領域又は機能性EPAPE反復領域が存在しないと、FMRP非依存的に、Dgkk遺伝子の発現が可能になる。本発明による核酸は、これらの領域のうちの1つ又は両方が非機能性である又は削除されているため、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠いている場合がある。
【0069】
特定の実施形態において、本発明による核酸は、非機能性プロリンリッチ領域及び/又は非機能性EPAPE反復領域を含むヒトDGKkタンパク質をコードする。
【0070】
別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、プロリンリッチ領域及び/又はEPAPE反復領域を欠くタンパク質をコードする。具体的には、プロリンリッチ領域及び/又はEPAPE反復領域が削除されている。
【0071】
幾つかの実施形態において、本発明による核酸は、発現がFMRP非依存的なヒトDGKkタンパク質をコードする。
【0072】
好ましくは、本発明による核酸は、その配列内に1つ又は幾つかの変異を含み、その結果、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠く核酸を生じる。本発明による変異は、置換、欠失、及び/又は挿入であってもよい。変異は、当該領域に又は当該領域内にあってもよい。別法として、本発明による核酸は、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠く核酸を生じる、1つ又は幾つかのエピジェネティック修飾を含む。
【0073】
特定の実施形態において、本発明による核酸は、プロリンリッチ領域及び/又はEPAPE反復領域の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%の欠失を含む。
【0074】
本発明による核酸は、機能性「DGKkタンパク質」をコードする。本明細書において使用される場合、「機能性タンパク質」という用語は、細胞中で正常なDGKkタンパク質と同様に機能を果たすことができるヒトDGKkタンパク質を指す。好ましくは、FMRPによるDGKkの発現の調節を消失することを除いては、正常なDGKkタンパク質と同じ調節を行う。具体的には、本発明による核酸によってコードされたタンパク質では、DGKkタンパク質の触媒機能は保存される。具体的には、この触媒機能は、ジアシルグリセロール(DAG)をリン酸化して、ホスファチジン酸(PA)を生成する能力である。具体的には、機能性DGKkタンパク質は、プレクストリン相同ドメイン(PHドメイン)、及び触媒ドメインを含む。PHドメインは、ヒトDGKkタンパク質(NCBI参照配列:NP_001013764.1、Uniprot KB:Q5KSL6に開示されている。配列番号9も参照されたい)の216位から309位の間にあり、触媒ドメインは487位から622位の間にある。
【0075】
好ましくは、本発明による核酸は、エクソン配列のみを含む。
【0076】
好ましくは、本発明による核酸は、5'UTRを欠いている。
【0077】
特定の実施形態において、本発明による核酸は、機能性プロリンリッチ領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする。好ましくは、本発明による核酸は、プロリンリッチ領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする。別法として、本発明による核酸は、非機能性プロリンリッチ領域を含むヒトDGKkタンパク質をコードする。
【0078】
好ましい実施形態において、本発明による核酸は、機能性EPAPE反復領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする。好ましくは、本発明による核酸は、EPAPE反復領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする。別法として、本発明による核酸は、非機能性EPAPE反復領域を含むヒトDGKkタンパク質をコードする。
【0079】
より好ましい実施形態において、本発明による核酸は、機能性プロリンリッチ領域及び機能性EPAPE反復領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする。好ましくは、本発明による核酸は、プロリンリッチ領域及びEPAPE反復領域を欠くヒトDGKkタンパク質をコードする。別法として、本発明による核酸は、非機能性プロリンリッチ領域及び非機能性EPAPE反復領域を含むヒトDGKkタンパク質をコードする。
【0080】
好ましい実施形態において、本発明による核酸は、変異、好ましくはその配列内に欠失、及び/又はエピジェネティック修飾があるため、機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠く。したがって、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の70~132位、及び/又は142~539位のヌクレオチド配列中に、1つ又は幾つかの変異、好ましくは欠失、及び/又はエピジェネティック修飾を含んでいてもよく、また任意選択で、配列番号1の4~69位、及び/又は133~141位、及び/又は540~648位のヌクレオチド配列中に、1つ又は幾つかの変異、好ましくは欠失、及び/又はエピジェネティック修飾を含んでいてもよい。
【0081】
別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の70~132位、及び/又は142~539位のヌクレオチド配列中に、1つ又は幾つかの変異、好ましくは欠失、及び/又はエピジェネティック修飾を含む。
【0082】
更に別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の70~132位のヌクレオチド配列中に、1つ又は幾つかの変異、好ましくは欠失、及び/又はエピジェネティック修飾を含む。
【0083】
更に別の特定の実施形態において本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、並びに更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の142~539位のヌクレオチド配列中に、1つ又は幾つかの変異、好ましくは欠失、及び/又はエピジェネティック修飾を含む。
【0084】
好ましい特定の実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の70~132位、及び142~539位のヌクレオチド配列中に、1つ又は幾つかの変異、好ましくは欠失、及び/又はエピジェネティック修飾を含む。
【0085】
好ましくは、変異が欠失である場合、配列70~132における及び/又は配列142~539における総欠失率は、対応するヌクレオチド配列の少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、更により好ましくは少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、更により好ましくは少なくとも約99%である。
【0086】
別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1のヌクレオチド70~132位、及び/又は142~539位の欠失、また任意選択で、配列番号1の4~69位、及び/又は133~141位、及び/又は540~648位のヌクレオチド配列において1つ又は幾つかの欠失を含む。
【0087】
好ましい実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位、及び142~539位の配列、配列番号1の70~539位の配列、配列番号1の4~132位の配列、配列番号1の4~142位の配列、配列番号1の4~539位の配列、並びに配列番号1の4~648位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む。
【0088】
より好ましい実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列と、少なくとも約70%の同一性、好ましくは少なくとも約80%の同一性、より好ましくは少なくとも約90%の同一性、なお好ましくは少なくとも約95%の同一性、更により好ましくは少なくとも約99%の同一性を有する核酸であり、配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位、及び142~539位の配列、並びに配列番号1の4~539位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む。
【0089】
更により好ましい実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1の配列を有する核酸であり、配列番号1の70~132位の配列、配列番号1の142~539位の配列、配列番号1の70~132位、及び142~539位の配列、配列番号1の70~539位の配列、配列番号1の4~132位の配列、配列番号1の4~142位の配列、配列番号1の4~539位の配列、並びに配列番号1の4~648位の配列で構成される群から選択される配列の欠失を含む。
【0090】
特定の実施形態において、本発明による核酸は、70~132位のヌクレオチドが削除されている配列番号1の配列を有する。
【0091】
別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、142~539位のヌクレオチドが削除されている配列番号1の配列を有する。
【0092】
更に別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、70~132位、及び142~539位のヌクレオチドが削除されている配列番号1の配列を有する。
【0093】
更に別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、4~539位のヌクレオチドが削除されている配列番号1の配列を有する。
【0094】
別の特定の実施形態において、本発明による核酸は、配列番号1の648~3816位、好ましくは539~3816位、より好ましくは4~69位及び539~3816位、更により好ましくは4~69位、133~141位、及び539~3816位のヌクレオチド配列と、少なくとも約70%、80%、85%、90%、95%、99%の同一性を有する。
【0095】
発現カセット
本発明はまた、第2の態様において、調節領域に作動可能に連結された本発明による核酸を含む発現カセットに関する。
【0096】
好ましくは、発現カセットの調節領域は、宿主細胞中の核酸の発現を可能にするプロモーターを含み、更により好ましくは、調節領域はプロモーターである。調節領域はまた、他の調節エレメントを含んでいてもよく、好ましくは、調節領域は、プロモーターに作動可能に連結された少なくとも1つのエンハンサーを含む。またスペーサー配列も、調節エレメントの間、及び調節領域と核酸との間において、発現カセット中に存在してもよい。
【0097】
本発明による核酸細胞又は生物における発現に好適な多様なプロモーターは、当業者によって容易に選択されうる。哺乳動物細胞で使用する好適なプロモーターの例は、例えば、Sambrook及びRussell(2001年)「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、に記載されている。
【0098】
プロモーターは、Dgkk遺伝子と本来関連しているプロモーターであってもよい。
【0099】
プロモーターはまた、Dgkk遺伝子に対して異種の構成的又は誘導性プロモーターであってもよい。好ましくは、プロモーターは、構成的プロモーターである。
【0100】
本発明によるプロモーターはまた、器官又は組織特異的、好ましくは脳特異的であってもよい。好ましくは、本発明によるプロモーターは、細胞型特異的、好ましくはニューロン特異的である。
【0101】
本発明による好適なプロモーターの例としては、ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーター、ヒトカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII遺伝子プロモーター、ニューロペプチドソマトスタチン(SST)遺伝子プロモーター、ヒトアルファチューブリンI遺伝子プロモーター、ヒトニューロン特異的エノラーゼ(NSE)遺伝子プロモーター、ヒト血小板由来増殖因子B鎖遺伝子プロモーター、ヒトプレプロエンケファリン遺伝子プロモーター、ヒトドーパミンβヒドロキシラーゼ(dbH)遺伝子プロモーター、ヒトプロラクチン遺伝子プロモーター、ヒトグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)遺伝子プロモーター、ヒトグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD67)遺伝子プロモーター、ヒトホメオボックスDlx5/6遺伝子プロモーター、ヒトグルタミン酸受容体1(GluR1)遺伝子プロモーター、ヒトプレプロタキキニン1(Tac1)遺伝子プロモーター、ヒトドーパミン作動性受容体1(Drd1a)遺伝子プロモーター、ヒト芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)遺伝子プロモーター、ニューロフィラメント遺伝子プロモーター、メチルCpG-結合タンパク質2(MeCP2)遺伝子プロモーターの断片(具体的にはその-677/+56断片、Adachi等、Hum Mol Genet. 2005年、14、3709~22頁に開示されている)、及びセロトニン受容体遺伝子プロモーターが挙げられるが、限定するものではない。
【0102】
好ましくは、本発明によるプロモーターは、ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターである。
【0103】
発現カセットは、任意選択で、本発明による核酸に作動可能に連結された3'末端逆位配列(3'ITR)が続いた転写ターミネーターを更に含んでいてもよい。転写ターミネーターは、当業者によって容易に選択されうる。例えば、好適な転写ターミネーターは、β-グロビン転写ターミネーター又はヒト成長ホルモンポリアデニル化シグナルである。
【0104】
発現ベクター
本発明はまた、第3の態様において、本発明による核酸又は本発明による発現カセットを含む発現ベクターに関する。
【0105】
好ましくは、発現ベクターは、DNAウイルスの発現ベクターである。
【0106】
好ましくは、発現ベクターは、哺乳動物細胞の、好ましくはヒト細胞の形質転換に好適である。
【0107】
発現ベクターは、当業者に公知の古典的な分子生物学技術によって構築されてもよい。
【0108】
好ましくは、本発明の発現ベクターは、調節エレメント、例えばプロモーター及び/又はエンハンサー、好ましくはプロモーター、具体的にはヒトシナプシン-1遺伝子プロモーター等を含む。発現が望まれる宿主細胞に応じてこれらのエレメントを選択するための方法は、当業者に公知である。
【0109】
本発明による発現ベクターは、安定又は一過性発現のためのベクターであってもよい。
【0110】
特定の実施形態において、発現ベクターは、安定発現に好適な組込み型ベクターである。このようなベクターは、宿主細胞のゲノム中への発現ベクターの、発現カセットの、又は核酸の標的挿入を可能にする、1つ又は幾つかの配列を含む。
【0111】
好ましい実施形態において、発現ベクターは、一過性発現のためのベクターである。
【0112】
好ましくは、発現ベクターは、脳細胞を特異的に標的とするベクターである。更により好ましくは、発現ベクターは、ニューロンを特異的に標的とするベクターである。
【0113】
好ましい実施形態において、本発明による発現ベクターは、レンチウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)、組換えHSVベクター、及びパルボウイルスベクター、好ましくはパルボウイルスベクター、更により好ましくはアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)で構成される群から選択される。
【0114】
更により好ましい実施形態において、本発明による発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス1、アデノ随伴ウイルス2、アデノ随伴ウイルス5、アデノ随伴ウイルス9、アデノ随伴ウイルスrh.10、アデノ随伴ウイルス2/1、アデノ随伴ウイルス2/5、アデノ随伴ウイルス2/9、アデノ随伴ウイルス2/rh.10で構成される群から選択されるアデノ随伴ウイルスベクターであり、好ましくは、本発明による発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス2/9又はアデノ随伴ウイルス2/rh.10、更により好ましくはアデノ随伴ウイルス2/9である。
【0115】
特に好ましい実施形態において、本発明による発現ベクターは、ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターを含むアデノ随伴ウイルス2/9又はアデノ随伴ウイルス2/rh.10、好ましくは、ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターを含むアデノ随伴ウイルス2/9である。
【0116】
特定の実施形態において、本発明による発現ベクターは、VPカプシドタンパク質、好ましくはVP2カプシドタンパク質に、1個から約50個の間のアラニン、好ましくは約5個から約25個の間のアラニン、より好ましくは約10個から約20個の間のアラニン、更により好ましくは19個のアラニンが付加されているアデノ随伴ウイルスベクターである。例えば、このようなベクターは、AAV-ASベクターであってもよい(Choudhury等、2016年、Mol Ther. 2016年、24、726~35頁)。
【0117】
別の特定の実施形態において、本発明による発現ベクターは、グルタミン酸作動性ニューロンを特異的に標的とする。好ましくは、このようなベクターは、そのカプシド中へmGluRリガンドを発現するように改変されたベクターである。本発明によるmGluRリガンドは、mGluRアゴニストであってもよい。
【0118】
別法として、細胞質ダイニンのための結合ドメインを模倣するペプチド及び/又はNMDA受容体アンタゴニスト由来のペプチドがカプシドに挿入されてもよい(Xu等、2005年、Virology、341、203~214頁)。
【0119】
薬物としての使用
第4の態様において、本発明はまた、薬物として使用する、本発明による核酸、本発明による発現カセット、又は本発明による発現ベクターに関する。
【0120】
本発明はまた、本発明による核酸、本発明による発現カセット、又は本発明による発現ベクターを含む医薬組成物に関する。
【0121】
本発明による医薬組成物はまた、別の活性成分を含んでいてもよい。具体的には、本発明による医薬組成物は更に、PPARガンマアゴニスト、好ましくはチアゾリンジオンファミリーのPPARガンマアゴニスト、より好ましくは、ピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、更により好ましくはピオグリタゾンを含んでいてもよい。実際に、PPARガンマアゴニスト、具体的にはピオグリタゾンは、発明者等によって、DgK活性を増加させる又は向上させることが証明されている。追加の治療剤の同時投与に関するガイダンスは、例えば、Canadian Pharmacists AssociationのCompendium of Pharmaceutical and Specialties(CPS)で見つけることができる。
【0122】
好ましくは、医薬組成物はまた、好ましくは溶媒、等張性吸収遅延剤、抗接着剤、結合剤、コーティング剤、着色料、崩壊剤、香料、滑剤、滑沢剤、防腐剤、吸着剤、甘味料、及びビヒクルで構成される群から選択される、少なくとも1つの賦形剤又は薬学的に許容される担体を含む。
【0123】
好ましい実施形態において、本発明は、それを必要とする対象の脆弱X症候群の処置において、又はニューロンにおけるDgkk発現の低下と関連した別の知的障害の処置において、好ましくは脆弱X症候群の処置において使用する、本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物に関する。任意選択で、これらは別の活性成分と組み合わせて使用してもよい。一実施形態において、別の活性成分は、PPARガンマアゴニスト、好ましくはチアゾリンジオンファミリーのPPARガンマアゴニスト、より好ましくはピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、更により好ましくはピオグリタゾンである。
【0124】
本発明はまた、それを必要とする対象の脆弱X症候群、又はニューロンにおけるDgkk発現の低下と関連した別の知的障害、好ましくは脆弱X症候群の処置の方法であって、対象への有効量の本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物の投与を含む方法に関する。任意選択で、方法は更に、別の活性成分の投与を含んでいてもよい。一実施形態において、別の活性成分は、PPARガンマアゴニスト、好ましくはチアゾリンジオンファミリーのPPARガンマアゴニスト、より好ましくは、ピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、更により好ましくはピオグリタゾンである。
【0125】
本発明はまた、それを必要とする対象の脆弱X症候群、又はニューロンにおけるDgkk発現の低下と関連した別の知的障害、好ましくは脆弱X症候群の処置ための薬物の製造における、本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクターの使用に関する。任意選択で、これらは別の活性成分と組み合わせて使用してもよい。一実施形態において、別の活性成分は、PPARガンマアゴニスト、好ましくはチアゾリンジオンファミリーのPPARガンマアゴニスト、より好ましくは、ピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、更により好ましくはピオグリタゾンである。
【0126】
対象、レジメン及び投与
本発明の対象は、ヒト、好ましくは新生児、又は小児である。別法として、対象は、ヒト成人でもよい。
【0127】
好ましい実施形態において、対象は、脆弱X症候群であると診断されている。脆弱X症候群の診断方法は当業者に公知である。具体的には、FMR1遺伝子における機能喪失変異の同定によって、発達遅延又は知的障害を示す個人の脆弱X症候群を十分に診断することができる。脆弱X症候群の診断は、1)病歴、並びに発達、行動、及び認知機能の評価、2)状態の特徴及び関連FMR1障害に関する家族歴の調査、3)分子遺伝学的検査、すなわち、サザンブロット又はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によるFMRの三塩基反復領域の標的変異の分析、の3つのステップにまとめられる。
【0128】
別の実施形態において、対象は、脆弱X症候群と診断されていないが、好ましくはニューロンでのDgkk発現の低下に関連した別の知的障害を示す。このDgkk発現の低下は、Dgkk遺伝子のプロリンリッチ領域における及び/又はEPAPEリッチ領域における変異の結果である可能性がある。
【0129】
好ましくは、対象の処置は、診断後1年未満、好ましくは診断後1カ月未満のうちに開始する。
【0130】
本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物は、任意の通常の投与経路によって、好ましくは非経口、更により好ましくは経静脈投与によって投与してもよい。特定の実施形態において、投与経路は、頭蓋内、例えば皮質内、又は海馬領域内である。投与経路はまた、髄腔内、すなわち、脳室への注射を含む、脳脊髄軸の任意のレベルでの脳脊髄液内への投与であってもよい(「Route of Administration」. 25 Data Standards Manual. Food and Drug Administration.も参照されたい。2011年3月11日検索)。
【0131】
好ましい実施形態において、対象は、一過性発現ベクターを含む医薬組成物によって処置される。したがって、その処置は、定期的に、好ましくはほぼ毎週から約1年の間、より好ましくは約2週間から約9カ月の間、なお好ましくはほぼ毎月から約6カ月毎の間、更により好ましくは約2カ月毎から約4カ月毎の間に投与されなければならない。
【0132】
好ましくは、本発明による発現ベクターは、注射1回当たり1010から1013の間、好ましくは1011から1012の間のベクターゲノム(VG)を含む用量で投与される。投与されるべきベクターの用量は、ベクターのタイプによって、患者によって、具体的には患者の年齢、体重、及び全身健康状態、並びに疾患の重症度によって、当業者が調整することができる。
【0133】
特に好ましい実施形態において、対象は、本発明の核酸に作動可能に連結されたヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターを含むアデノ随伴ウイルス2/9又はアデノ随伴ウイルス2/rh.10を含む医薬組成物によって処置される。
【0134】
キット及びキットの使用
本発明はまた、第5の態様において、本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター又は本発明による医薬組成物と、それらの投与の手段と、任意選択で、このようなキットを使用するためのガイドラインを提供するリーフレットとを含む、対象の脆弱X症候群の処置のためのキットに関する。
【0135】
更なる実施形態において、本発明はまた、それを必要とする対象の脆弱X症候群、又はニューロンでのDgkk発現の低下と関連した別の知的障害、好ましくは脆弱X症候群の処置において使用する、同時、個別又は連続使用のための混合調製物としての、本発明による核酸、本発明による発現カセット、本発明による発現ベクター、又は本発明による医薬組成物と、チアゾリンジオンファミリーのPPARガンマアゴニスト、より好ましくはピオグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、及びトログリタゾンからなる群から選択される分子、より好ましくはピオグリタゾンとを含むキットに関する。
【0136】
本発明はまた、それを必要とする対象の脆弱X症候群、又はニューロンでのDgkk発現の低下と関連した別の知的障害、好ましくは脆弱X症候群の処置における、上記のキットの使用に関する。
【0137】
好ましくは、対象はヒトである。
【0138】
欠失遺伝子治療
第6の態様において、本発明はまた、得られる組換えDgkk遺伝子が機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠く、細胞のゲノムにおけるヒトDGKk遺伝子の標的の組換えのための手段に関する。プロリンリッチ領域中及び/又はEPAPE反復領域中での改変又は欠失は、相同組換えによって導入されてもよい。例えば、Crispr/Cas9システムを使用して、ヒトDgkk遺伝子を改変してもよい。
【0139】
好ましい実施形態において、ヒトDgkk遺伝子の標的の組換えのための手段は、ヒトDgkk遺伝子に特異的なガイドRNAをコードする核酸を含む。本明細書において使用される場合、「ガイドRNA」という用語は、Crispr/Cas9酵素が固定するRNA構造、及びDgkk遺伝子の標的配列に相補的なRNA配列を含むRNAを指す。本明細書において使用される場合、「Crisp/Cas9酵素」という用語は、そのガイドRNAに相補的なDNA基質を切断し、これによってヒトDgkk遺伝子の組換えを可能にする、RNA誘導性DNAエンドヌクレアーゼを指す。
【0140】
好ましくは、ガイドRNAは、配列番号1の70~132位、及び/又は142~539位の配列に含まれる1つ又は幾つかのヌクレオチド配列を標的とする。
【0141】
好ましくは、ヒトDgkk遺伝子の標的の組換えのための手段は、Crispr/Cas9酵素をコードする核酸を更に含む。好ましくは、同じ核酸がガイドRNAとCrispr/Cas9酵素とをコードする。
【0142】
好ましい実施形態において、本発明は、得られる組換えDgkk遺伝子が機能性プロリンリッチ領域及び/又は機能性EPAPE反復領域を欠くヒトDgkk遺伝子の組換え体を特異的に標的とするCrispr/Cas9酵素コード遺伝子及びガイドRNAコード遺伝子に、作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクターで構成される。
【0143】
好ましくは、発現ベクターは、アデノ随伴ウイルス2/9又はアデノ随伴ウイルス2/rh.10、更により好ましくはアデノ随伴ウイルス2/9である。
【0144】
好ましくは、プロモーターは、細胞型特異的、好ましくはニューロン特異的である。
【0145】
好ましくは、プロモーターは、ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターである。
【0146】
特定の実施形態において、ガイドRNAは、配列番号1のヌクレオチド70~132の欠失を標的としている。
【0147】
別の特定の実施形態において、ガイドRNAは、配列番号1のヌクレオチド142~539の欠失を標的としている。
【0148】
更に別の特定の実施形態において、ガイドRNAは、配列番号1のヌクレオチド70~132、及び142~539の欠失を標的としている。
【0149】
更に別の特定の実施形態において、ガイドRNAは、配列番号1のヌクレオチド4~539位の欠失を標的としている。
【0150】
本発明はまた、薬物として使用する本発明のヒトDgkk遺伝子の標的の組換えの手段に関する。好ましくは、本発明は、それを必要とする対象の、好ましくは脆弱X症候群の処置において薬物として使用する、本発明のCrispr/Cas9酵素コード遺伝子及びガイドRNAコード遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクターに関する。
【0151】
本発明はまた、ヒトDgkk遺伝子の標的の組換えのための手段を含む医薬組成物に関する。好ましくは、本発明は、それを必要とする対象の、好ましくは脆弱X症候群の処置における、本発明のCrispr/Cas9酵素コード遺伝子及びガイドRNAコード遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクターを含む医薬組成物に関する。好ましくは、対象とはヒトである。
【0152】
本発明はまた、それを必要とする対象の脆弱X症候群の処置の方法であって、有効量の、本発明のCrispr/Cas9酵素コード遺伝子及びガイドRNAコード遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクター、又は有効量の本発明による医薬組成物の対象への投与を含む方法に関する。好ましくは、対象とは、ヒトである。
【0153】
本発明はまた、それを必要とする対象の脆弱X症候群の処置のための薬物の製造における、本発明のCrispr/Cas9酵素コード遺伝子及びガイドRNAコード遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現ベクターの使用に関する。好ましくは、対象とは、ヒトである。
【0154】
科学論文及び要約、公開特許出願、登録特許、又はその他のあらゆる参考文献を含む、本出願で引用されている参考文献はすべて、これらの参考文献の結果、表、図、及び本文のすべてを含め、全体として参照により本明細書に組み込まれている。
【0155】
「を含む」、「を有する」、「で構成される」、及び「を含有する」という用語は、様々な意味をもつものの、本出願全体においては互換可能である。
【0156】
本発明の更なる態様及び利点は以下の実施例において説明するが、これらは例証であって、限定するものではないとみなされたい。
【実施例
【0157】
(実施例1)
Cos-1細胞におけるFMRPによるDgkk発現の制御に関与する領域の同定。
材料及び方法
細胞培養:COS細胞(ATCC(登録商標)CRL-1650(商標))は、5%CO2、37℃で、抗生物質の存在下、10%ウシ胎仔血清、1g/lグルコース添加DMEM中で増殖させた。トランスフェクションの前日に、抗生物質フリーの培地500μl中4×104個の細胞を24ウェルフォーマットのプレートへプレーティングした。
【0158】
プラスミド構築:マウスDgkκは、クローンIMAGE IRAVp968H03163Dからサブクローニングした。欠落していたDgkκ3'UTR領域を、プライマー、GCAGCTAGCTCCTTGAAAGCTGGAAGGAGA(配列番号2)及びAATAGAATGCGGCCGCCAGCTTCAACAGCACTTGTAG(配列番号3)を用いてPCRによってマウスのゲノムDNAからクローニングし、pYX-DgkκベクターのXbaI及びNotI部位へ導入して、pYX-Dgkκ全長を得た。プラスミドpCI-Dgkκ-FL(図1、下記のTable 1(表2)、及び配列番号8を参照されたい)は、センスプライマー(TTCTCAACTATACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTTAGTCCTTG-AAAGCTGGAAGG、配列番号4)、及びアンチセンスプライマー(TCAAGGACTAAGCGTAATCTGGA-ACATCGTATGGGTATAGTTGAGAACTTGAAGGTGTTG、配列番号5)を使用し、停止コドンの前にHA配列を有するテンプレートとしてpCI-Dgkκ全長(pCIベクターGenBank U47119へDgkkをサブクローニングして得た)を使用して、PCRサブクローニングによって得た。
【0159】
プラスミドΔ5'reg-Dgkk(図1を参照されたい)は、pYX-mDgkkをpEGF-N1(U55762)へサブクローニングすることによって得られ、pCi-mDgkk-3'UTRの酵素消化、及びタグHAの挿入と5'領域の欠失とを行う部位特異的変異導入によって完成した。
【0160】
プラスミド5'reg-Dgkk(図1を参照されたい)は、事前にクローニングしておいた5'領域断片をpEGFP-C1(U55763)ベクターへ挿入することによって得られ、タグHAを挿入する部位特異的変異導入によって完成した。
【0161】
Δ5'UTR-5'reg-Dgkk、ΔPro-5'reg-Dgkk、ΔEPAPE-5'regDgkk、ΔEPAPE I-5'reg-Dgkk、及びΔEPAPE II-5'reg-Dgkkプラスミドは、pEGF-C1 5'regプラスミドの部位特異的変異導入によって得た後、所望の配列を削除しなければならない(図1を参照されたい)。
【0162】
【表2】
【0163】
トランスフェクション及びウェスタンブロット分析:sh-RNAのトランスフェクションは、最終量600μl中20pmolのsiRNA(対照又はOn Target plus Smart PoolマウスFMR1、Thermo)と、リポフェクタミン2000(Invitrogen、Carlsbad、CA)とを用いて、製造業者の指示通り、細胞60000個に対し、同じ方法で3回実施した。24時間後、0.6μgのプラスミド構築物と20pmolのshRNAとを上述の通り同時導入した。48時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、直接、ローディングバッファー(100mMのTris-HCl、pH6.8、4%SDS、30%グリセロール、1.4Mのβ-メルカプトエタノール、及びブロモフェノールブルー)中で、95℃で3分間、溶解した。タンパク質は、10%SDS-ポリアクリルアミドゲルで分析し、200mAで1時間、Tris-グリシン-SDS/20%エタノール緩衝液中でPVDF(Millipore)上に免疫ブロットした。メンブレンは、マウス抗FMRP 1C3と1:10000で、マウス抗HAと1:1000で、又はマウス抗GAPDHと1:10000で、4℃で一晩インキュベートし、ペルオキシダーゼ-結合ヤギ抗マウス抗体(1/5000)と室温でインキュベートした。免疫反応バンドをSuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(Pierce、Rockford、IL)を用いて可視化した。
【0164】
結果
発明者等は、Cos-1細胞におけるDgkk発現へのFMRPの影響を検討した。Cos-1細胞に、全長Dgkk構築物(Dgkk-FL、図1を参照されたい)を発現するプラスミド、5'コード領域及び5'-UTRを欠くDgkk構築物(Δ5'reg-Dgkk、図1を参照されたい)を発現するプラスミド、又は対照プラスミドのいずれかをトランスフェクトした。いずれのDgkk構築物もHAタグを含むため、特異的抗体を用いて検出することができる。プラスミドトランスフェクションの前に、Cos-1細胞を、Fmr1標的siRNA、又は対照siRNAで処理した。
【0165】
抗FMRP抗体を用いたウェスタンブロットの結果は、Fmr1標的siRNAが、対照siRNA条件と比較した場合、FMRPの発現を低減させる効果があることを示している(図2Aを参照されたい)。FMRPの発現は、約70%低減した(図2B又は図2Cを参照されたい)。
【0166】
FMRP発現が低減すると、Dgkk-FLの発現レベルも、対照条件と比較して約70%低減する(HA抗体を用いた図2A及び図2Bを参照されたい)。これらの結果は、FMRPがDgkkの発現を正に制御することを実証している。
【0167】
反対に、Δ5'reg-Dgkk構築物の発現はFMRP発現の低減による影響を受けず(図2A及び2Cを参照されたい)、これは、Δ5'reg-Dgkk発現がFMRPによって制御されないことを実証している。これらの結果は、Dgkkの5'コード領域及び5'UTRを含むΔ5'領域が、FMRPによるDgkk発現の制御にきわめて重要であることを明示している。したがって、Δ5'reg-Dgkk構築物は、全長Dgkk遺伝子とは対照的に、FMRP欠失細胞において発現させることが可能である。
【0168】
更に、Δ5'reg-DgkkとDgkk-FLとの間のHA標識強度の比較から、Δ5'reg-Dgkkの発現の基礎レベルは、FMRP制御に非依存的に、Dgkk-FLの発現の基礎レベルを上回っている可能性があるように思われる。図3の実験では、Dgkk-FL及びΔ5'reg-Dgkkを含む様々なDgkk構築物をCos-1細胞にトランスフェクトし、次いで、それらの発現を、同一ゲル上でのウェスタンブロットによって分析した。Dgkk-FLとΔ5'reg-Dgkk構築物との間に発現の有意差がみられ、これは、Dgkkの5'領域がDgkkの発現レベルに対し抑制作用を及ぼすことを確認するものである。
【0169】
したがって、Dgkkの5'領域を抑制することにより、Dgkk発現に対しFMRPが及ぼす正の制御が抑制され、Dgkkの発現が増強される。
【0170】
第2の一連の実験では、発明者等は、FMRPによるDgkk発現の制御において、Dgkkの5'領域のどの部分が重要であるのかを決定することを目指した。この目的を達成するために、発明者等は、いずれも検出のためのGFP及びHAタグを含む様々な構築物を作製した(図1を参照されたい)。第1の構築物、5'reg-Dgkkは、Δ5'reg-Dgkk構築物では除去された配列である、Dgkkの5'コード領域及びDgkkの5'UTRを含む。次いで、他の各構築物において5'reg-Dgkk配列の一部を除去した。Δ5'UTR-5'reg-Dgkk構築物では5'UTRを、ΔPro-5'reg-Dgkk構築物ではプロリンリッチ領域を、ΔEPAPE-5'reg-Dgkk構築物ではEPAPE反復領域及び5'reg-Dgkkの残りを、ΔEPAPE I-5'reg-Dgkk構築物ではEPAPE反復領域を、そしてΔEPAPE II-5'reg-Dgkk構築物ではEPAPE反復領域の後半部を除去した。次いで、前述の通り、Fmr1 siRNAの存在又は非存在下で、これらの構築物をCos-1細胞にトランスフェクトし、構築物の発現をウェスタンブロットによって分析した。
【0171】
5'reg-Dgkk構築物を用いた実験では、FMRP発現レベルは、Fmr1 siRNAをトランスフェクトした細胞では、対照条件と比較して約80%低減した(図4A、及び図4B、1番目のグラフ)。FMRP発現レベルが低減する場合、5'reg-Dgkk構築物の発現レベルも約45%低減した。これらの結果は、Dgkkの5'領域が、FMRPによる発現の正の制御を可能にするに十分なものであることを実証している。
【0172】
Δ5'UTR-5'reg-Dgkk構築物を用いた実験では、FMRP発現レベルは、siRNA Fmr1をトランスフェクトした細胞では、対照条件と比較して約60%低減した(図4A、及び図4B、2番目のグラフ)。FMRP発現レベルが低減する場合、Δ5'UTR-5'reg-Dgkk構築物の発現レベルは約25%低減していた。これらの結果は、Dgkkの5'領域で5'UTRが欠如する場合、FMRPによる発現の制御が維持されていることを示す。したがって、5'UTRは、FMRPによるDgkkの発現の制御において、最も重要というわけではないと思われる。更に、本実験でFMRPによる発現の制御のみかけ上の減少が前記実験との比較において50%から30%であるのは、FMRPの消去率が低かった結果であるとも考えられる(前記実験での80%に代わって50%)。
【0173】
ΔPro-5'reg-Dgkk構築物を用いた実験では、FMRP発現レベルは、siRNA Fmr1をトランスフェクトした細胞では、対照条件と比較して約80%低減した(図4A、及び図4B、3番目のグラフ)。ΔPro-5'reg-Dgkk構築物の発現レベルは、FMRP発現レベルの低減による影響を受けなかった。これらの結果は、FMRPは、その配列からプロリンリッチ領域を除去するとDgkkの5'領域の発現を制御できないことを実証しており、これは、FMRPによるDgkkの発現の制御においてプロリンリッチ領域がきわめて重要であることを実証するものである。
【0174】
ΔEPAPE-5'reg-Dgkk構築物を用いた実験では、FMRP発現レベルは、siRNA Fmr1をトランスフェクトした細胞では、対照条件と比較して約70%低減した(図4A、及び図4B、4番目のグラフ)。ΔEPAPE-5'reg-Dgkk構築物発現レベルは、FMRP発現レベルの低減による影響を受けなかった。これらの結果は、FMRPは、その配列からEPAPE反復領域を除去するとDgkkの5'領域の発現を制御できないことを実証しており、これは、FMRPによるDgkkの発現の制御において、EPAPE反復領域がきわめて重要であることを実証するものである。
【0175】
ΔEPAPE I-5'reg-Dgkk構築物又はΔEPAPE II-5'reg-Dgkk構築物を用いた実験では、FMRP発現レベルは、Fmr1をトランスフェクトした細胞では、対照条件と比較して約60%低減した(図4A、及び図4B、5番目及び6番目のグラフ)。ΔEPAP I-5'reg-Dgkk構築物及びΔEPAPE II-5'reg-Dgkkの発現レベルは、FMRP発現レベルの低減による影響を受けなかった。これらの結果は、FMRPは、その配列からEPAPE反復領域の全体又は半分を除去するとDgkkの5'領域の発現を制御できないことを実証しており、EPAPE反復領域が不完全では、FMRPによるDgkkの発現の制御が十分にできないことを実証するものである。
【0176】
更に、構築物5'reg-Dgkk、Δ5'UTR-5'reg-Dgkk、ΔPro-5'reg-Dgkk、ΔEPAPE-5'reg-Dgkk、ΔEPAPE I-5'reg-Dgkk、及びΔEPAPE II-5'reg-Dgkkの発現を、同一ゲル上で比較した結果、ΔPro-5'reg-Dgkk構築物の発現レベル、及び特にΔEPAPE-5'reg-Dgkk、ΔEPAPE I-5'reg-Dgkk、及びΔEPAPE II-5'reg-Dgkk構築物の発現レベルが、5'reg-Dgkkの発現レベルより高いことが示され、これは、プロリンリッチ領域及びEPAPE反復領域が、Dgkkの発現に対して抑制効果を発揮することを確認するものである。
【0177】
まとめると、これらの結果は、FMRPによるDgkkの発現の正の制御における、Dgkkのプロリンリッチ領域の重要性及びEPAPE反復領域の重要性を実証するものである。Dgkkの5'コード領域の抑制、具体的にはプロリンリッチ領域及び/又はEPAPE反復領域の抑制によって、FMRPによるDgkkの発現の制御は十分消失し、したがって、このような改変Dgkk遺伝子を、FMRP発現レベルに非依存的に細胞中で発現させることが可能である。
【0178】
(実施例2)
樹状突起スパインの変化、及びΔ5'-Dgkκ発現制御によるレスキュー。
材料及び方法
AAVベクター構築:標的Dgkkに対して設計された低分子ヘアピン型RNA(shRNA Dgkk、5'-GGAATGCACTACTGGTATTCC、配列番号6)、及びインシリコでマウスゲノムにマッチがないshRNA-スクランブル配列(5'-GCGCTTAGCTGTAGGATTC、配列番号7)を選択して、CMVプロモーターの制御下で増強される緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現するpAAV-MCS由来のプラスミドに、mU6プロモーターの制御下でクローニングした。Dgkkの過剰発現は、HAタグ付きΔ5'reg-Dgkkを、対照プラスミドpENN.AAV.hシナプシン1.EGFP.RBG(University of PennsylvaniaのPenn Vector Coreにより提供)のEGFPを置き換える形で、ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターの制御下でクローニングすることによって達成した。EGFPとshRNAとを同時発現する組換えアデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)(AAV9-EGFP-shRNA-Dgkk、及び対照のAAV9-EGFP-shRNA-スクランブル)、並びにHA-Dgkk又はEGFPを発現するAAV9(AAV9-hシナプシン1-HA-Dgkk、及び対照のAAV9-hシナプシン1-EGFP)を作製した。AAVの産生は、一部改変を加えたAAV Helper-Freeシステム(Agilent Technologies)を使用して行った。AAV9ベクターは、pAAV-EGFP-shRNA-Dgkk又はpAAV-EGFP-shRNA-スクランブル、pAAV-hシナプシン1-HA-Δ5'reg-Dgkk又はpENN.AAV.hシナプシン1.EGFP.RBGを、AAV血清型9のcap遺伝子を含有するpAAV2/9(Penn Vector Core)とpHelperと共に使用して、293T/17細胞株へのトランスフェクションを3回行って作製した。トランスフェクションの2日後、細胞を回収し、ドライアイス-エタノールと37°C恒温槽とで凍結/解凍を3サイクル行って溶解し、更に、37℃で30分間、100U/mlベンゾナーゼ(Novagen)で処理し、遠心分離によって清澄化した。ウイルスベクターをイオジキサノール(OptiprepTM、Axis Shield)密度勾配超遠心分離によって精製した後、遠心式フィルター(Amicon Ultra-15 100K)を使用して0.5mMのMgCl2含有のPBSに対する透析及び濃縮を行った。線状化標準プラスミドpAAV-EGFPを使用するリアルタイムPCRによって、ウイルス粒子を定量化した。比較可能な作用濃度を得るために、ウイルスを1ml当たり5×1012ウイルスゲノム(vg/ml)最終濃度まで希釈し、使用するまで-80℃で保管した。
【0179】
スライス培養物へのトランスフェクション及びイメージング:海馬器官型スライス培養物(400μm厚)は、Geneva veterinary officeによって承認されたプロトコールを使用して、生後5~6日齢のC57BL/6Fmr1+/y又はそのFmr1-/yの同腹マウスから調製し、記載の培養条件(De Roo M等、2008年、Cereb Cortex、18(1):151~161頁)下で維持した。トランスフェクションは、DIV7に、mRFPをコーティングした金粒子と、pAAV-EGFP-shRNA-Dgkk、pAAV-EGFP-shRNA-スクランブル、pAAV-hシナプシン1-EGFP、又はpAAV-hシナプシン1-HA-Δ5'reg-Dgkkのいずれかとを使用して、バイオリスティック法(Helios Gene Gun、Bio-Rad)で行った。反復共焦点イメージングは既述の通り実施した(De Roo M等、2008年、Cereb Cortex、18(1):151~161頁)。簡潔に記すと、トランスフェクトされたCA1ニューロン(CAl transfected neurons)の樹状部(長さ30~40μm)のイメージングは、Olympus Fluoview300システムを使用してDIV12からDIV15まで(0、5、24、48及び72時間に)行い、そのように取得したZ-スタック画像の分析は、Osirixソフトウエアを使用して実施した。
【0180】
結果
発明者等は、Dgkkの機能欠失が樹状突起スパインの形態及び動態へ及ぼす影響を調べた。マウス海馬器官型切片のCA1領域におけるDgkkサイレンシングは、異常に長く、複数のヘッドをもつスパインを強力に増加させ、成熟スパインの割合を著しく低減させたが(図5A図5Dを参照されたい)、スパイン密度は変わっていなかった(図5Cを参照されたい)。更に、スパイン形成率及び消失率の増加によって示されるように、スパインの不安定性と関連したスパインターンオーバーの有意な増加が認められる(図5G図5Iを参照されたい)。これらのデータは、Dgkkがスパイン成熟化及び維持のために必要であること、並びにDgkkの欠失は、Fmr1-/yマウスにおいて以前に認められていた構造的欠損と類似の構造的欠損をもたらすことを示している(Comery TA等、1997年、Proc Natl Acad Sci USA、94(10):5401~5404頁、He CX及びPortera-Cailliau C、2013年、Neuroscience、251:120~128頁)。DgkkとFMRPとの間の機能的関連を証明するために、発明者等は、Fmr1-/yニューロン内でのΔ5'reg-Dgkkの過剰発現によって、樹状突起スパインの表現型がレスキューされうるかどうか調べた。注目すべきことに、Δ5'reg-Dgkkを発現するAAV9によって形質導入されたFmr1-/yニューロンではスパイン欠損が修正されており(図5A図5F、Fmr1-/y+Δ5'reg-Dgkkを参照されたい)、Δ5'reg-Dgkkの過剰発現がFMRPの欠失を補いうることを示している。
【0181】
(実施例3)
インビトロ及びインビボでのAAVΔ5'reg-Dgkκの形質導入、並びにFmr1-KOマウス行動への影響。
材料及び方法
AAVベクター構築:ヒトシナプシン-1遺伝子プロモーターの制御下でHAタグ付きΔ5'reg-Dgkkを発現する、組換えアデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)及びRH10(AAV10)(AAV9-Δ5'reg-Dgkk及びAAV10-Δ5'reg-Dgkk)を、実施例2に記述した通りに調製した。
【0182】
初代皮質ニューロン培養:C57BL/6J Fmr1+/y又はFmr1-/yマウス胚(胎生17.5日)由来皮質を、1×PBS、2.56mg/mLのD-グルコース、3mg/mLのBSA、及び1.16mMのMgSO4の中で切断し、0.25mg/mLのトリプシン及び0.08mg/mLのDNA分解酵素Iと共に20分間インキュベートし、0.5mg/mLダイズトリプシンインヒビター、0.08mgのDNA分解酵素I、及び1.5mMのMgSO4を含む培地を添加した後、機械的に解離させた。細胞は、ポリ-L-リジン臭化水素酸塩-でコーティングした6ウェル培養プレート上へプレーティングし、B27、ペニシリン/ストレプトマイシン、及び0.5μMのL-グルタミンを添加したNeurobasal培地(GIBCO)中で8日間置いた。
【0183】
定位脳手術及びAAV注入:マウス(C57BL/6J)は、滅菌等張生理食塩水(0.9%NaCl)に溶解したケタミン/キシラジンで(Virbac/Bayer、100/10mg/kg、10mL/kg、経腹腔的に)深麻酔をかけ、脳定位固定装置(Unimecanique)に載せた。AAV9-Δ5'reg-Dgkk、AAV10-Δ5'reg-Dgkk又はAAV9-EGFP(1mL当たり5x1012ウイルスゲノム)を、マウスの脳地図の座標にしたがって、線条体及び海馬の両方に両側的に注入した。注入部位当たり1.5μLの量のAAVベクターを、注入ポンプに連結した30ゲージステンレス鋼カニューレを通して緩やかな注入速度(0.1μL/分)で両側的に送達した。各注入が完了した後、最適な拡散を確実にし、注射器を引く抜く間の逆流を最少化するために、更に10分間、注射器はその位置にそのままにした。行動実験は、ウイルスの形質導入及びDgkκ発現のための時間が十分となるよう、AAV注入の4週間後に実施した。効率的な遺伝子発現をqRT-PCR及び免疫蛍光法によって評価した。
【0184】
行動実験:行動試験は、線条体への注入後、AAV9-Δ5'reg-Dgkk、AAV10-Δ5'reg-Dgkk、又はAAV9-EGFP処置マウスについてバッテリーの中で、盲検で4週間実施した。直接的社会的行動及びNORは、白色のプレキシガラスのプラットフォーム(View Point)上を高さ35cmの不透明な灰色のプレキシガラス壁で仕切った4つの等しい、四角いアリーナ(50×50cm)で実施した。
【0185】
直接的社会的行動:1日目に、マウスを15分間各アリーナ内に置いて慣らした。2日目、一対の動物(同じ条件であるが、同じケージにいたわけではない)を、各アリーナ内で10分間接触させた。ビデオ画像を記録して、接近接触(鼻及び足の接触)して過ごした時間の総計、並びに鼻及び足の(這い上がり(crawling over)、マウンティング、踏みつけ(stepping on)、及び突き(pushing))接触及び対他毛づくろいの回数及び継続期間、並びに追従、立ち上がり、及び旋回エピソードの回数を点数化した。本試験の間、被験個体間での攻撃行動(攻撃、噛みつき、又は尾振り回し)は認められなかった。
【0186】
身体状態:身体能力は、5分で4rpmから40rpmまで加速するロータロッド(Bioseb)を用いて評価した。ロッドは、外周5cmの掴みやすい絶縁チューブで覆った(40 lx)。1日目に、4rpmの回転で、ロッド上に180秒を超えて滞在することができるまでマウスを馴化した。2日目から5日目まで、1日当たり3回のトライアル(60秒間のトライアル)を行ってマウスを試験した。マウスをロッド上に置き、60秒間に4rpmの一定速度の回転が始まることによって、各トライアルを開始した。次いで、加速プログラムを発動し、マウス毎に、ロッドから落下した時点でトライアルを終了した。ロッド上にいた時間を自動記録した。
【0187】
新奇物体認識(NOR):NOR試験は、記載の通り実施した(Le Merrer等、(2013) Neuropsychopharmacology 38(6):1050~1059頁)。簡潔に記すと、1日目に、動物をアリーナに15分間置いて2つの見慣れていない物体に馴化させた。2日目に、5分のトライアル間隔を2回挟んだ3回の10分間トライアルからなる認識試験を実施した。物体馴致段階では、マウスを2つの見慣れていない物体と共に置いた。位置認知段階では、2つの物体のうちの1つをアリーナの新奇位置へ移動した。物体認知段階では、前トライアルで移動した物体を新奇物体と置き換えた。刺激物体の大きさは1.5~3×2~3cmであった。物体の同一性及びその空間的配置は、対象間で等しくした。ビデオ画像を記録して、各物体への訪問回数及び探索時間を点数化した。識別率は、物体への訪問回数及び探索時間について次の通り算出した:移動した物体又は新奇物体の探索/全探索×100。四分円横断のパターンは、ビデオ画像の記録を引用した。全域探索(FE、すなわち、4部セットをオーバーラップする4つの四分円の逐次横断、例えばABCD)、四分円逆戻り(QR、例えば、ABCB)、及び四分円交互往来(QA、例えば、ABAB)を点数化し、FE、QR、及びQAの割合を次の通り算出した:FE、又はQR、又はQA/(全横断)×100。
【0188】
自発活動:24時間の生物学的リズム及び睡眠異常を数値化するために、自動ケージ(Imetronic、Pessac、France)中で自発活動及び食物/水の摂取量を測定して評価した。ケージは、午前7時から1日当たり12時間照明した。ラックは、自動データ記憶用コンピューターと情報交換する電子インターフェースに接続した。午後6時に各マウスを活動ケージに入れ、その後の25時間、邪魔することなくそのままにしておいた。自発運動活性は、赤外線データ捕捉の中断回数に基づき評価した。新奇環境への自発応答及び馴化を評価するために、試験の初めの1時間は、10分毎に分析した。自発運動活性の概日調節を評価するために、追加の個体内要因として、残りの24時間を12時間の暗/明期において1時間単位で分析した。
【0189】
統計分析:データはすべて、個体間要因として、遺伝学的背景B6及びFmr1遺伝型(y/+又はy/-)を用いる分散分析によって分析した。個体内要因は必要に応じて含めた。事後比較は、フィッシャーのLSD検定を使用して実施した。データは、平均±SEMとして示す。
【0190】
結果
発明者等は、解離したニューロン培養物において、又はインビボでのC57BL/6のFmr1+/y若しくはFmr1-/y同腹マウスにおいて、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はrh10(AAV10)からのΔ5'reg-Dgkk発現の影響を検討した。C57BL/6Fmr1+/y又はそのFmr1-/y同腹マウス由来の皮質ニューロンをインビトロで14日目に高効率に形質導入し(±100%)、Δ5'reg-Dgkk導入遺伝子はHAタグにより可視化されている通り、十分に発現されている(図6A)。開始因子4E(eIF4E)のリン酸化が、Fmr1-/yニューロン及び患者で増加していることが以前に示されており(Gantois等、Nat Med. 2017年6月;23(6):674~677頁、図6B)、eIF4Eリン酸化は、脆弱X状態における代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)シグナル伝達の過剰活性化に起因していると提唱されている。発明者等は、AAV9(図6C)又はAAV10(データは示していない)からのΔ5'reg-Dgkkの発現が、感染7日後、Fmr1-/yニューロンにおけるeIF4Eリン酸化を低減させることを示した。これらのデータは、AAV9-Δ5'reg-Dgkk又はAAV10-Δ5'reg-Dgkkベクターが、Fmr1-/yニューロンにおける異常なeIF4Eリン酸化を修正する能力を有することを示す。発明者等は、次に、AAV9又はAAV10からのΔ5'reg-Dgkk発現がFmr1-/yマウスの行動を修正する能力について検討した。4週齢のC57BL/6J Fmr1+/y又はFmr1-/yマウスにおいて、線条体及び海馬領域の両方にAAVの注入(2×10E10 GC/注入部位)を行った。注入の4週間後、qRT-PCR、及び免疫蛍光法によって効率的な遺伝子発現を評価した(図6D図6E)。AAV9又はAAV10からのΔ5'reg-Dgkkの発現は、遺伝型に非依存的に、マウスの身体状態へ影響を及ぼさなかった(図6F)。Fmr1-/yマウスは、野生型Fmr1+/yと比較して、新参マウスとのインタラクション時間が増加していた(不安の低減)(図6A)。AAV9又はAAV10からのΔ5'reg-Dgkk発現が、この表現型を修正する(図6A)。Fmr1-/yマウスは、野生型Fmr1+/yと比較して、新奇物体認識(NOR)試験における記憶が低下していた(Bhattacharya等、2012年)。Fmr1-/yマウスが見慣れた物体と比較して新奇物体を識別する能力を欠くのに対し、AAV9-Δ5'reg-Dgkkを処置した動物は新奇物体と比較して見慣れた物体に対する識別能力を示している(図6H)。これらのデータは、この処置が、動物の記憶に対して部分的に有効であることを示唆している。特定の脳の領域へのAAVのターゲティングが、部分的な回復の理由を説明できる可能性がある。Fmr1-/yマウスは、野生型Fmr1+/yと比較して、24時間を通して活動が増加した(多動)(図6I)。AAV9又はAAV10からのΔ5'reg-Dgkk発現によって、多動の表現型は修正されている(図6I)。まとめると、これらのデータは、Δ5'reg-Dgkk発現が脆弱XのFmr1-/yマウスモデルの表現型を改善する能力を有することを示唆している。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B-1】
図4B-2】
図4B-3】
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図6A
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J
【配列表】
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