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特許7189138生存、増殖及び細胞分化を促進するためのペプチド化合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】生存、増殖及び細胞分化を促進するためのペプチド化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20221206BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20221206BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20221206BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20221206BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C12N5/0775
C12N5/0735
C12N5/079
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019530185
(86)(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2017081562
(87)【国際公開番号】W WO2018104325
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】16202294.1
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518100421
【氏名又は名称】アクソルティス・ファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ゴブロン
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/090285(WO,A2)
【文献】特表2001-510034(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2014年,Volume 9, Issue 3,e93179
【文献】Front. Cell. Neurosci.,2015年,vol.9,article 480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 5/00- 5/28
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号6)、及び
W-S-G-W-S-S-C S -S-R-S-C S -G(配列番号7)
からなる群から選択され、式中、 S はシステイン残基がジスルフィド結合によって結合していることを示す、
少なくとも1つのペプチド化合物の、幹細胞の神経細胞への分化を促進するための、in vitro又はex vivoでの使用。
【請求項2】
前記幹細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項3】
前記幹細胞が間葉系幹細胞又は胚性幹細胞である、請求項1又は2に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞を骨髄、臍帯血、脂肪組織、歯髄又は筋肉から入手した、請求項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項5】
前記ペプチド化合物を使用して、間葉系幹細胞の神経細胞への分化を促進する、請求項1に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項6】
前記幹細胞を、前記ペプチド化合物を含有する培養系において増殖させる、請求項1からのいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項7】
前記幹細胞を、ペプチド化合物を含有する培地中で増殖させ、前記培地が、少なくとも1つの増殖因子を更に含有する、請求項1からのいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項8】
前記増殖因子が、bFGF、LIF、アクチビン-A、TGF、Wnt、Oct-4、Sox-2、BMP-4、Nanog、Shh、PDGF、レチノイン酸、EGF、IGF1、IGF2、HGF、VEGF、インスリン及びトランスフェリンからなる群から選択される、請求項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項9】
前記幹細胞を、ペプチド化合物を含有する培地中で増殖させ、前記培地が0~20%(v/v)のウシ胎児血清を更に含有する、請求項1からのいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項10】
葉系幹細胞を、ペプチド化合物を含有し、bFGF及びウシ胎児血清を更に含有する培地中で増殖させる、請求項1からのいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項11】
前記培地が、
1~100ng/mlのbFGF、及び
1~10%のウシ胎児血清(v/v)
を含有する、請求項10に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項12】
前記幹細胞を、支持体上にコーティングしたペプチド化合物を含有する支持体上で増殖させる、請求項1から11のいずれか一項に記載の少なくとも1つのペプチド化合物の使用。
【請求項13】
幹細胞の分化を促進するための方法であって、請求項1に規定される少なくとも1つのペプチド化合物の存在下で前記幹細胞を培養する工程を含む方法。
【請求項14】
- 請求項1に規定される少なくとも1つのペプチド化合物、及び
- 幹細胞の増殖に適した培養
含むキット。
【請求項15】
幹細胞をさらに含む、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前駆細胞又は幹細胞の生存及び/又は増殖及び/又は分化を促進するためのペプチド化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
寿命の延長が原因で、神経系障害及び神経変性疾患は、西側諸国において他の如何なる疾患よりも社会経済的重要性が増している。これらの疾患を治療するための様々な薬理学的手法は開発されているが、成功はほとんど得られておらず、新たな治療の探索が活発に続いている。これに関して、幹細胞に関する近年の研究から多くの希望が生じている。特に幹細胞は、2つの興味深い能力:
-同じ増殖をくり返して、多数の細胞を得られることを意味する、自己複製能力、及び
-特定の機能を直ぐにでも保証する成熟した成体細胞、特にニューロンを供給できることを意味する、分化能力
を有するので特に魅力的である。
【0003】
したがって、幹細胞を使用して中枢神経系の損傷を修復することができるであろう。しかしながら、幹細胞は希少であり、これらの細胞に基づく臨床手法の開発には、治療慣習に従った増殖及び/又は分化を可能にする新たなプロトコールが必要である。
【0004】
最適化培地を使用して及び/又は増殖因子等の追加的化合物を使用して、幹細胞を増殖及び分化させるための幾つかの方法が開発されている。細胞外糖タンパク質のファミリーであるトロンボスポンジンの性質を使用した、幾つかの手法も開発されている。これらの糖タンパク質は、発生中の表現型の調節、及び細胞間接触、細胞接着、又は細胞間若しくは細胞とその環境間の連絡等の様々な細胞機能に関与する。
【0005】
これに関して、本発明は、全脊椎動物に見出される中枢神経系の特異的糖タンパク質であるSCO-スポンジン中に存在する、TSRパターン(トロンボスポンジンタイプ1リピート)の一部にその配列が由来する特異的ペプチド化合物の使用を提供する。この糖タンパク質は、哺乳動物中で交連下(SCO)器官によって分泌される細胞外マトリックスの分子である。SCO-スポンジンは、様々な保存型パターン、特に哺乳動物中では26個のTSRパターンを含むマルチモジュール構成である、アミノ酸が4,500個超の大型タンパク質である。
【0006】
TSRパターンは、保存型アミノ酸であるシステイン、トリプトファン及びアルギニンのアライメントに基づく約55残基のタンパク質ドメインである。これらのパターンは、凝固に関与する分子であるトロンボスポンジン1(TSP-1)において最初に確認された。次いでそれらのパターンは、細胞付着、運動性、増殖、細胞凝集、プロテアーゼの調節又は血管形成の阻害等の様々な生物学的機能を有する多数の分子に見出された。
【0007】
特に、SCO-スポンジンのTSRパターン由来のある種のペプチドは、神経細胞に対して生物活性を示すこと(WO99/03890)、及びこれらのペプチドが特異的受容体を介して神経細胞に作用することが示されている(Bambad Mら、Cell and Tissue Research、vol.315、15~25頁(2004年))。このようなペプチドが神経突起伸展部の発芽を促進することも示されている(WO2008/090285)。
【0008】
しかしながら、ニューロン等の特異な細胞型を得るために、幹細胞の増殖及び/又は分化を可能にする方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO99/03890
【文献】WO2008/090285
【非特許文献】
【0010】
【文献】Bambad Mら、Cell and Tissue Research、vol.315、15~25頁(2004年)
【文献】Okabeら(Mechanisms of Development、59:89~102頁、1996年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前駆細胞又は幹細胞の生存及び/又は増殖及び/又は分化を促進するためのペプチド化合物及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様では、本発明は、
X1-S-X2-W-S-X3-X4-S-X5(配列番号1)
において、
X1がW又はL-Nal2であり、
X2がG、V、A、S又はAbuであり、
X3がS、D又はAであり、
X4がC*又はAbuであり、
X5がR-S、R-S-Nm、R-S-C*-G、R-Abu-Nm、R-Abu-C*-G、K-iPr-S-Nm又はK-iPr-S-C*-Gであり、
Abuが2-アミノ酪酸残基に相当し、
iPrがイソプロピル-リシン残基に相当し、
Nal2が2-ナフチルアラニンに相当し、
NmはCOOH末端がNH2末端に置換されていることを示し、
*は、X4とX5の両方がシステイン残基を表すか又は含むとき、前記システイン残基がジスルフィド結合によって結合し得ることを示す、
配列番号1を含むか又は配列番号1からなる少なくとも1つのペプチド化合物の前駆細胞又は幹細胞の生存及び/又は増殖及び/又は分化を促進するための、in vitro又はex vivoでの使用に関する。
【0013】
本発明は、これらのペプチド化合物が前駆細胞又は幹細胞の生存、増殖及び分化を刺激することができるという、本発明者らによって得られた予想外の観察結果に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】7日間ゼラチン上で培養し0.5mg/mlのNX210ペプチドで処理したESCにおけるネスチンタンパク質の発現の図である。(A)対照の未処理培養物は、ネスチン+細胞が少ないNX210処理培養物(B)(白い矢印)と比較して、より多数のネスチン+細胞を示す(鮮明なスポット、白い矢印)。
図2】0.5mg/mlのNX210ペプチドの存在下での、5日後のESCにおけるMAP2の発現の図である。MAP2+細胞(白い矢印)は、MAP2発現細胞が観察されなかった対照培養物と比較して、NX210の存在下でのみ観察される。
図3】未処理状態(A)と比較して、処理済培養物(B)におけるより多くの神経前駆細胞(白い矢印)を示すネスチンタンパク質の発現の図である。
図4】培養条件に応じた細胞増殖の図である。
図5】bFGF及びATRAの存在下で増殖させた患者No.1由来のhMSCで実施した遺伝子発現解析の図である。
図6】ATRAを含まない10%bFGFの存在下で増殖させた患者No.1由来のhMSCで実施した遺伝子発現解析の図である。
図7】ATRAを含まない10%bFGFの存在下で増殖させた患者No.2由来のhMSCで実施した遺伝子発現解析の図である。
図8】異なる条件での培養12日 後におけるhMSCの免疫細胞化学的解析の図である。
図9】MAP-2及びネスチンの免疫標識の蛍光強度の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用する表現「ペプチド化合物」は、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を指す。更に、この用語は発現後の修飾ペプチドを除外するわけではない。例えば、グリコシル基、アセチル基、脂質基等のジスルフィド結合又は共有結合を含むペプチドは用語「ペプチド化合物」によって包含される。
【0016】
本発明のペプチド化合物を形成するアミノ酸は、天然又は非天然アミノ酸でもよい。
【0017】
表現「天然アミノ酸」は、天然タンパク質において見られるL-型のアミノ酸、即ち:アラニン(A)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、酸性アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リシン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)及びバリン(V)を指す。
【0018】
表現「非天然アミノ酸」は、天然アミノ酸のD-型、ある種の天然アミノ酸(アルギニン、リシン、フェニルアラニン及びセリン等)のホモ型、及びロイシンとバリンのノル型を指す。非天然アミノ酸は、α-アミノ酪酸(Abu)、アグマチン(Agm)、α-アミノイソ酪酸(Aib)、N-ホルミル-Trp(F-trp)、サルコシン、スタチン、オルニチン、デスアミノチロシン等の合成アミノ酸も含む。デスアミノチロシンはこれらのペプチドのN-末端に取り込まれ、一方アグマチンとスタチンはこれらのペプチドのC-末端に取り込まれる。
【0019】
一実施形態では、本発明は、
X1-S-X2-W-S-X3-X4-S-X5(配列番号1)
において、
X1がW又はL-Nal2であり、
X2がG、V、A、S又はAbuであり、
X3がS、D又はAであり、
X4がC*又はAbuであり、
X5がR-S、R-S-Nm、R-S-C*-G、R-Abu-Nm、R-Abu-C*-G、K-iPr-S-Nm又はK-iPr-S-C*-Gであり、
Abuが2-アミノ酪酸残基に相当し、
iPrがイソプロピル-リシン残基に相当し、
Nal2が2-ナフチルアラニンに相当し、
NmはCOOH末端がNH2末端に置換されていることを示し、
*は、X4とX5の両方がシステイン残基を表すか又は含むとき、前記システイン残基がジスルフィド結合によって結合し得ることを示し、
幾つかの特異的アミノ酸はそれらの誘導体又はアナログによって置換することができ、
ペプチド化合物は、アミド化、アシル化、PEG化、N-ter及び/又はC-ter末端におけるアミノ酸の付加、主要ペプチドの改変、或いは特にアルブミン、又はPEG等のポリマーとの任意の結合法、或いはゲル又はハイドロゲルとの組合せによって修飾することができ、
前記ペプチドは環状化することができる、
配列番号1を含むか又は配列番号1からなる少なくとも1つのペプチド化合物の前駆細胞又は幹細胞の生存及び/又は増殖及び/又は分化を促進するための、in vitro又はex vivoでの使用に関する。
【0020】
一実施形態では、本発明は、
X1-S-X2-W-S-X3-X4-S-X5(配列番号1)
において、
X1がW又はL-Nal2であり、
X2がG、V、A又はSであり、
X3がS、D又はAであり、
X4がC*又はAbuであり、
X5がR-S、R-S-Nm、R-S-C*-G、R-Abu-Nm、R-Abu-C*-G、K-iPr-S-Nm又はK-iPr-S-C*-Gであり、
Abuが2-アミノ酪酸残基に相当し、
iPrがイソプロピル-リシン残基に相当し、
Nal2が2-ナフチルアラニンに相当し、
NmはCOOH末端がNH2末端に置換されていることを示し、
*は、X4とX5の両方がシステイン残基を表すか又は含むとき、前記システイン残基がジスルフィド結合によって結合し得ることを示す、
配列番号1を含むか又は配列番号1からなる少なくとも1つのペプチド化合物の、前駆細胞又は幹細胞の生存及び/又は増殖及び/又は分化を促進するための、in vitro又はex vivoでの使用に関する。
【0021】
本発明のペプチド化合物は異なる方法で、化学合成によって、組換え技術、及びペプチド化合物をコードする配列又は断片DNAを含む遺伝子構築物に基づく他の方法によって得ることができる。本発明によるオリゴペプチドは、必要な場合、脱グリコシル化又はグリコシル化型でもよい。幾つかの場合、且つ調製法に応じて、オリゴペプチドの特定の三次構造を復元することが必要となり得る。
【0022】
本発明中、「幹細胞」は2つの機能性:
- 見かけ上、無限の自己複製能力、及び
- 多数の成熟した神経細胞型を生成する能力
に基づいて定義する。
【0023】
幹細胞は、分化全能性(生物中の全ての分化細胞を生成する能力)、分化多能性(3つの胚葉、内胚葉、中胚葉及び外胚葉の細胞全てを生成する能力)又は分化複能性(多数、ただし限られた細胞型に分化する能力)でもよい。
【0024】
本発明中、「前駆細胞」は幹細胞の初期子孫である。前駆細胞は限られた自己複製能力を有する増殖性細胞であり、それらは分化単能性であることが多い。
【0025】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が、
X1-S-X2-W-S-X3-X4-S-X5(配列番号2)
において、
X1がW又はL-Nal2であり、
X2がGであり、
X3がSであり、
X4がC*又はAbuであり、
X5がR-S、R-S-Nm、R-S-C*-G、R-Abu-Nm、R-Abu-C*-G、K-iPr-S-Nm又はK-iPr-S-C*-Gであり、
Abuが2-アミノ酪酸残基に相当し、
iPrがイソプロピル-リシン残基に相当し、
Nal2が2-ナフチルアラニンに相当し、
NmはCOOH末端がNH2末端に置換されていることを示し、
*は、X4とX5の両方がシステイン残基を表すか又は含むとき、前記システイン残基がジスルフィド結合によって結合し得ることを示す、
配列番号2を含むか又は配列番号2からなる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0026】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が、
W-S-G-W-S-S-[C/Abu]-S-R-S(配列番号3)
を含むか又は配列番号3からなる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0027】
一実施形態では、本発明は、前記ペプチド化合物が配列番号3と少なくとも90%の同一率を有する、上記定義のペプチド化合物の使用に関する。
【0028】
アミノ酸の「配列同一率」を決定するための技法は当技術分野でよく知られている。典型的には、このような技法は、遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を決定し、この配列を第2のアミノ酸配列と比較することを含む。一般に「同一」は、それぞれ2つのポリペプチド配列の完全なアミノ酸とアミノ酸の対応を指す。それらの「同一率」を決定することにより、2つ以上の配列を比較することができる。2つのアミノ酸配列の同一率は、短鎖配列の長さで割り100を掛けた2つアライメント配列間の完全なマッチ数である。多数のソフトウエアが、配列間の同一率を計算するのに適している。例えば、デフォルトパラメーター(遺伝子コード=標準、フィルター=なし、鎖=両鎖、カットオフ値=60、期待値=10、マトリックスBLOSUM62、記述子=50配列、選別=ハイスコア、データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDSトランスレーション+Swissプロテイン+Spupdate+PIR)でBLASTソフトウエアを使用することができる。
【0029】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が、
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S(配列番号4)、
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-Nm(配列番号5)、
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号6)、
W-S-G-W-S-S-CS-S-R-S-CS-G(配列番号7)、
W-S-G-W-S-S-C-S-R-Abu-Nm(配列番号8)、
W-S-G-W-S-S-C-S-R-Abu-C-G(配列番号9)、
W-S-G-W-S-S-CS-S-R-Abu-CS-G(配列番号10)、
W-S-G-W-S-S-C-S-K-iPr-S-Nm(配列番号11)、
W-S-G-W-S-S-C-S-K-iPr-S-C-G(配列番号12)、
W-S-G-W-S-S-CS-S-K-iPr-S-CS-G(配列番号13)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S(配列番号14)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S-Nm(配列番号15)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S-C-G(配列番号16)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-Abu-Nm(配列番号17)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-Abu-C-G(配列番号18)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-K-iPr-S-Nm(配列番号19)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-K-iPr-S-C-G(配列番号20)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-R-S(配列番号21)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-R-S-Nm(配列番号22)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号23)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-CS-S-R-S-CS-G(配列番号24)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-R-Abu-Nm(配列番号25)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-R-Abu-C-G(配列番号26)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-CS-S-R-Abu-CS-G(配列番号27)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-K-iPr-S-Nm(配列番号28)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-C-S-K-iPr-S-C-G(配列番号29)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-CS-S-K-iPr-S-CS-G(配列番号30)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S(配列番号31)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S-Nm(配列番号32)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S-C-G(配列番号33)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-R-Abu-Nm(配列番号34)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-R-Abu-C-G(配列番号35)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-K-iPr-S-Nm(配列番号36)、
L-Nal2-S-G-W-S-S-Abu-S-K-iPr-S-C-G(配列番号37)
を含み、式中、Sはシステイン残基がジスルフィド結合によって結合していることを示す群から選択され、好ましくは
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号6)、
W-S-G-W-S-S-CS-S-R-S-CS-G(配列番号7)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S-Nm(配列番号15)
を含み、式中、Sはシステイン残基がジスルフィド結合によって結合していることを示す群から選択される、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0030】
配列番号6はNX210と呼ばれるペプチドの配列に相当する。
【0031】
配列番号7はNX218と呼ばれるペプチドの配列に相当する。
【0032】
配列番号15はNS640と呼ばれるペプチドの配列に相当する。
【0033】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞及び前記幹細胞が哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0034】
一実施形態では、本発明は、前記幹細胞が間葉系幹細胞又は胚性幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞である、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0035】
本発明において、表現「胚性幹細胞」は、胚盤胞の内細胞塊に由来する幹細胞を指す。
【0036】
胚性幹細胞(ESC)は分化全能性であり、それらは分化して生物の全細胞型を形成できることを意味する。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明は、前記幹細胞がヒト胚性幹細胞(hESC)株である、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明は、前記幹細胞がヒトの胚の破壊を含む方法によって初期に得られていないヒト胚性幹細胞(hESC)株である、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0039】
本発明において、表現「間葉系幹細胞」(MSC)は、多数の組織中に存在する成体幹細胞を指す。
【0040】
間葉系幹細胞(MSC)は、組織性又は「成体」幹細胞の一例である。それらは分化複能性であり、全タイプではないが特殊な体細胞型を2つ以上生成できることを意味する。それらは中胚葉系統(骨形成、脂肪形成、軟骨形成)だけでなく、非中胚葉派生物(例えば神経細胞)にも分化することができる。
【0041】
一実施形態では、本発明は、前記間葉系幹細胞を骨髄、臍帯血、脂肪組織、歯髄又は筋肉から入手した、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0042】
一実施形態では、本発明は、前記ペプチド化合物を使用して前駆細胞又は幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞の神経細胞への分化を促進する、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0043】
本発明において、表現「神経細胞」は、神経幹細胞に由来する細胞を指す。神経細胞は主にニューロン、星状膠細胞及び希突起神経膠細胞に相当する。
【0044】
神経細胞への分化は、幹細胞又は前駆細胞による神経マーカーの発現によって評価することができる。
【0045】
例えば、神経マーカーは
- GFAP(グリア細胞線維性星状膠細胞タンパク質):グリア細胞及び星状膠細胞によって発現されるタンパク質、
- ムサシ1:RNAと結合し前駆細胞において見られるタンパク質、
- ネスチン:神経前駆細胞中の中間径フィラメントにおいて見ることができるタンパク質、
- βIII-チューブリン:分化の中間段階で神経細胞の微小管において見られるタンパク質、
- MAP-2(微小管結合タンパク質):成熟神経細胞の神経突起又は樹状突起中の微小管において見られるタンパク質
を含むが、これらだけには限られない。
【0046】
神経細胞への分化は、ニューロンの伸展(軸索又は樹状突起の伸展)を意味する神経突起の発芽によって評価することもできる。
【0047】
一実施形態では、本発明は、前記ペプチド化合物を使用して前駆細胞又は幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞又は神経幹細胞の生存を促進する、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0048】
一実施形態では、本発明は、前記ペプチド化合物を使用して前駆細胞又は幹細胞、好ましくは間葉系幹細胞の増殖を促進する、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0049】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が
W-S-G-W-S-S-C-S-R-S-C-G(配列番号6)、
W-S-G-W-S-S-CS-S-R-S-CS-G(配列番号7)、
W-S-G-W-S-S-Abu-S-R-S-Nm(配列番号15)
を含み、式中、Sはシステイン残基がジスルフィド結合によって結合していることを示す群から選択される、間葉系幹細胞の神経細胞への分化を促進するための、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0050】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を、前記ペプチド化合物を含有する培養系において増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0051】
本発明において、表現「培養系」は、培地、培養基、支持体又はフラスコ等の様々な培養材料を指すことができる。特に培養系は、培地含有フラスコ等の培養材料の組合せも指すことができる。
【0052】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を0.02μg/ml~20μg/ml又は1~1000μg/cm2、好ましくは0.2μg/ml~2μg/ml又は10~500μg/cm2のペプチド化合物が存在する培養系において増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0053】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、15又は20μg/mlのペプチド化合物が存在する培養系において増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000μg/cm2のペプチド化合物が存在する培養系において増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0055】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を、ペプチド化合物を含有する培地中で増殖させ、前記培地が、好ましくはbFGF、LIF、アクチビン-A、TGF、Wnt、Oct-4、Sox-2、BMP-4、Nanog、Shh、PDGF、レチノイン酸、EGF、IGF1、IGF2、HGF、VEGF、インスリン及びトランスフェリンを含む群から選択される少なくとも1つの増殖因子を更に含有する、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0056】
一実施形態では、前記前駆細胞又は幹細胞を、ペプチド化合物を含有し0.01ng/ml~1000ng/ml、好ましくは1ng/ml~100ng/ml、より好ましくは1ng/ml~10ng/mlの少なくとも1つの増殖因子を含有する培地中で増殖させる。
【0057】
一実施形態では、前記前駆細胞又は幹細胞を、ペプチド化合物を含有し0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、20、50、100、200、500又は1000ng/mlの少なくとも1つの増殖因子を含有する培地中で増殖させる。
【0058】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を、ペプチド化合物を含有する培地中で増殖させ、前記培地が0~20%(v/v)、好ましくは2%~10%のウシ胎児血清を更に含有する、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0059】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を、ペプチド化合物を含有する培地中で増殖させ、前記培地が0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20%のウシ胎児血清(v/v)を更に含有する、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0060】
一実施形態では、本発明は、
間葉系幹細胞を、ペプチド化合物を含有し、bFGF及びウシ胎児血清を更に含有する培地中、好ましくは
1~100ng/mlのbFGF、及び
1~10%のウシ胎児血清(v/v)
を含有する培地中で増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0061】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が配列番号6、配列番号7又は配列番号15に相当し、間葉系幹細胞を、ペプチド化合物を含有し、bFGF及びウシ胎児血清を更に含有する培地中、好ましくは
1~100ng/mlのbFGF、及び
1~10%のウシ胎児血清(v/v)
を含有する培地中で増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0062】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が配列番号6に相当し、間葉系幹細胞を、ペプチド化合物を含有し、bFGF及びウシ胎児血清を更に含有する培地中、好ましくは
1~100ng/mlのbFGF、及び
1~10%のウシ胎児血清(v/v)
を含有する培地中で増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0063】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が配列番号7に相当し、間葉系幹細胞を、ペプチド化合物を含有し、bFGF及びウシ胎児血清を更に含有する培地中、好ましくは
1~100ng/mlのbFGF、及び
1~10%のウシ胎児血清(v/v)
を含有する培地中で増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0064】
一実施形態では、本発明は、
前記ペプチド化合物が配列番号15に相当し、間葉系幹細胞を、ペプチド化合物を含有し、bFGF及びウシ胎児血清を更に含有する培地中、好ましくは
1~100ng/mlのbFGF、及び
1~10%のウシ胎児血清(v/v)
を含有する培地中で増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0065】
一実施形態では、本発明は、前記前駆細胞又は前記幹細胞を、好ましくは支持体上にコーティングしたペプチド化合物を含有する支持体上で増殖させる、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の使用に関する。
【0066】
別の態様では、本発明は更に、前駆細胞又は幹細胞の生存及び/又は増殖及び/又は分化を促進するための方法であって、上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物の存在下で前記前駆細胞又は前記幹細胞を培養する工程を含む方法に関する。
【0067】
別の態様では、本発明は更に、
- 上記定義の少なくとも1つのペプチド化合物、
- 前駆細胞及び/又は幹細胞の増殖に適した培養系、
- 及びおそらくは前駆細胞及び/又は幹細胞
を含むキットに関する。
【0068】
本発明のキットを使用して、幹細胞に対する製品の治療有効性を試験することができる。
【0069】
一実施形態では、本発明は、2つ以上のペプチド化合物を含有する上記定義のキットに関する。
【0070】
例えば、本発明のキットは2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれより多くの異なるペプチド化合物の混合物を含有し得る。
【0071】
一実施形態では、本発明は、細胞接着を可能にするための処理済又は未処理マルチウエルプレートを更に備える、上記定義のキットに関する。
【0072】
一実施形態では、本発明は、前記培地がゼラチン、及び/又はbFGF、LIF、アクチビン-A、TGF、Wnt、Oct-4、Sox-2、BMP-4、Nanog、Shh、PDGF、レチノイン酸、EGF、IGF1、IGF2、HGF、VEGF、インスリン、トランスフェリン等の増殖因子を含む、上記定義のキットに関する。
【0073】
本発明を、以下の図面及び実施例によって例証する。これらの実施例は、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0074】
(実施例1)
初期分化
材料及び方法
129Sv/J胚性幹細胞(ESC)を、ゼラチン基質で覆われた35mm径ペトリ皿中に細胞0.7×106個の濃度で接種した。
【0075】
使用した培地は、N2サプリメントを補充したGlasgowの最小必須培地(G-MEM)であった。
【0076】
神経上皮前駆細胞へのESCの分化を可能にするため、培地からLIF(白血病抑制因子)を欠乏させた。LIFはESCの自己複製の主要因子だからである。
【0077】
様々な試験を血清の非存在下で実施した。血清は特異的に分化を適合させる可能性を制限し、本発明のペプチド化合物の効果を隠蔽又は少なくとも低減する可能性があるからである。
【0078】
第1、第3及び第5日に0.5mg/mlのNX210(配列番号6)を加え、上記定義の培地中でESCを増殖させた。
【0079】
次いで、培養の7日後に4%パラホルムアルデヒドで培養物を固定した。
【0080】
神経上皮前駆細胞及び分化ニューロンへのESCの分化を解析するため、様々な細胞型を免疫細胞化学法により、
- 神経上皮前駆細胞に特異的な一次抗ネスチン抗体(ネスチン=中間径フィラメントタンパク質)を使用し、且つ
- 樹状突起に特異的でありしたがって分化ニューロンに特異的である、一次抗MAP2抗体(MAP2=微小管結合タンパク質2)を使用して、目に見える状態にした。
【0081】
ビスベンズイミド/Hoechst33342、核を青色に染色するのに通常使用されDNAに対するアフィニティーがある蛍光色素を使用した核の標識によって、細胞の合計数を測定した。
【0082】
結果
培養の7日後、ネスチンタンパク質を発現するESC集団が、NX210(配列番号6)の非存在下での培養においてネスチンタンパク質を発現するESC細胞集団と比較して、NX210(配列番号6)の存在下での培養において減少することを観察した(図1)。
【0083】
実際、NX210(配列番号6)の非存在下では、(神経上皮前駆細胞に特徴的な)ネスチンタンパク質を発現する幾つかの細胞を観察するが、MAP2タンパク質を発現する細胞は観察せず(分化ニューロンが存在しないことを意味する)、一方NX210の存在下では、MAP2タンパク質を発現する幾つかの細胞を観察する(図2)。
【0084】
したがって、NX210(配列番号6)の存在下では、分化は急速に更に先の段階に達した。
【0085】
これらの結果は、NX210(配列番号6)が、動態に関して神経分化経路へのESCの優先的指向を誘導することを実証する。
【0086】
(実施例2)
神経上皮前駆細胞の選択
材料及び方法
これらの実験用に、Okabeら(Mechanisms of Development、59:89~102頁、1996年)から適合させたプロトコールに従い、ESCの分化を優先的に神経分化経路に向けた。
【0087】
簡単に言うと、分化を開始させるため、2日間LIFを含まないゼラチン上でESCを増殖させた。これらの細胞を注意深くトリプシン処理して、小さなESC凝集体を回収した。次いで、これらの凝集体を如何なるコーティングもしていないペトリ皿に移して、非接着性の球状細胞体、即ち胚細胞体(EB)を生成した。
【0088】
培養の5日後に、EBをゼラチンで覆われた新しいペトリ皿に移して、細胞接着を可能にした。
【0089】
培養の24時間後、10%ウシ胎児血清を含む培地を無血清培地に交換して神経上皮前駆細胞を選択し、ペプチドNX210(配列番号6)を0.5mg/mlの濃度で培地中に加えた。
【0090】
培養の6日後に、ネスチンタンパク質(神経上皮前駆細胞に特異的な細胞骨格タンパク質)を発現する細胞の最大含有率に達した。
【0091】
神経上皮前駆細胞が富化状態の細胞集団を次いでトリプシン処理し、ポリオルニチンとラミニンの混合物で構成される培養基に1×105細胞/cm2の濃度で接種した。
【0092】
培養の2日後に、FGF2(線維芽細胞増殖因子2)の存在下で前駆細胞集団を発生させるため、ネスチン免疫染色前に細胞を固定し処理した。
【0093】
結果
ネスチンタンパク質を発現するより多くの細胞を、未処理培養物と比較してNX210(配列番号6)で処理した培養物において観察した(図3)。
【0094】
NX210(配列番号210)の存在下でのネスチン等の分化マーカーの生成は、神経経路へのESCの加速的分化を示唆する。
【0095】
したがって、神経上皮前駆細胞の選択中に、FGF2による特異的刺激に対する更に有効な応答をNX210が促進する。
【0096】
(実施例3)
ヒト間葉系幹細胞の神経分化
材料及び方法
2ドナーからFicollで抽出したヒト成人骨髄単核細胞はLonza社から入手した。細胞は1週間に1回継代した。ヒト間葉系幹細胞(hMSC)はプラスチック接着性によって選択し、10%ウシ胎児血清(FBS、PAA Laboratoires社)及び0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S、Lonza社)を補充した改変イーグル培地α(MEMα、MacoPharma社)中での50000細胞/cm2の平板培養によって増殖させた。培地は3日後に交換し次いで毎日交換した。5%CO2下高湿度環境中37℃での培養の2~5週間後、トリプシン処理によってhMSCを採取した。CD73、CD90及びCD105(陽性)、並びにCD34及びCD45(陰性)でFACS解析(BD Bioscience社、BD LSRII)により表現型を確認した(Table1(表1))。
【0097】
【表1】
【0098】
更に、細胞の自己複製能力をコロニー形成単位-線維芽細胞アッセイ(CFU-F)によって確認した。このアッセイ用に、hMSCを2つの異なる密度、20,000細胞/cm2及び60,000細胞/cm2で、前に記載した完全培地を含む25cm2フラスコ内に接種した。7日後と10日後に、50を超える細胞(大コロニー)、25未満の細胞(小コロニー)及び25~50の細胞(中間サイズコロニー)を含むCFU-Fコロニーの数を計測した。
【0099】
【表2】
【0100】
ペプチドの神経分化能を調べるため、25cm2フラスコと12ウエル培養プレートを、80μg/cm2の濃度でNX210又はNS640いずれかの滅菌水溶液でコーティングした。コーティングは、細胞の平板培養の前に37℃及び5%CO2で一晩実施した。
【0101】
第0日(D0)に、hMSCを予めコーティングした25cm2フラスコ又は12ウエル培養プレート中、完全培地中に3,000細胞/cm2の濃度で接種し、培養物は5%CO2下高湿度環境中に37℃で放置した。24時間後、MEMα-bFGF12.5ng/ml-FBS2%-P/S0.1%;MEMα-bFGF12.5ng/ml-FBS10%-P/S0.1%;MEMα-FBS2%-P/S0.1%(対照条件);MEMα-FBS10%-P/S0.1%(対照条件)のいずれかを含有する異なる培地の組合せに、培地を変更及び交換した。5%CO2下高湿度環境中37℃に細胞を放置し、培地は1週間に2回交換した。第8日に、bFGFの代わりにATRAを含有する培地に培地を交換し、したがってMEMα-ATRA20μM-FBS2%-P/S0.1%;MEMα-ATRA20μM-FBS10%-P/S0.1%;MEMα-FBS2%-P/S0.1%(対照条件);MEMα-FBS10%-P/S0.1%(対照条件)に変更した。5%CO2下高湿度環境中37℃に細胞を放置した。培地は1週間に2回交換した。第15日(D15)に、mRNA抽出又は固定免疫細胞化学解析用にトリプシン処理により細胞を採取した。
【0102】
分化の評価は様々な時間地点(D0、D1、D8及びD15)でのmRNA抽出後に遺伝子発現によって実施し、免疫細胞化学解析は培養期間の最後(D15)に実施した。
【0103】
免疫細胞化学解析は、標準プロトコールを使用し4%パラホルムアルデヒド中に固定した細胞において実施した。30分間Triton1×0.1%/BSA5%で遮断した後、+4℃で一晩、ネスチン(Millipore社)又はMAP-2(Sigma社)を対象とする抗体と共に細胞をインキュベートした。洗浄後、適切なFITC又はシアンジジン-5標識二次抗体を加える。核はHoescht33258(Sigma社)で対比染色した。観察はLeica TCS LSIシステムを使用して実施した。
【0104】
全てのRNAは、製造者(Qiagen社)の説明書に従いRNAeasy完全精製キットを使用して抽出した。製造者によって記載されたように、高性能cDNA逆転写キット(Applied Biosystems社)を使用してcDNAを生成した。
【0105】
遺伝子(GFAP、ムサシ1、ネスチン、β3-チューブリン、MAP-2及びGAPDH)の発現レベルを、Applied Biosystems 7900リアルタイムPCRシステム(Life technologies社)でTaqMan遺伝子発現マスター混合物(Applied Biosystems社)を使用し、リアルタイムPCRによって解析した。試料は三連で解析した。内部対照としてGAPDH遺伝子を使用してデータを標準化し、試料内の遺伝子の相対量(RQ)を式2-ΔCtに従い決定した。
【0106】
結果
患者間の変動があるにもかかわらず、2%FBSと比較して10%FBSの存在下でMSCの数は増大する。FBS濃度が何であれ、bFGFには細胞増殖に対してプラスの影響がある。更に、(J5からの)ATRAの添加は、2%FBSの存在下でわずかな差、及び10%FBSの存在下でMSC数の減少をもたらす(図4)。NX210又はNS640は、試験条件が何であれ増殖に対して影響がない。
【0107】
試験したプロトコールは、神経膠腫経路におけるMSCの分化は助長しないようである。したがって、GFAPの発現を後に定量化することはなかった。
【0108】
2%FBSの存在下でのbFGF及び次いで(J5からの)ATRAによる連続分化は、対照条件と比較してネスチン(×6.7対×1.8)、βIII-チューブリン(×22対×9.2)及びMAP-2(×9.9対×3.5)の遺伝子発現の増加をもたらす。NX210又はNS640はこの増加を改変しない。10%FBSの存在下では、発現の増加はそれほど顕著ではない。NX210及びNS640には適度な効果があり、これはMAP-2及びネスチン発現の増加(それぞれ×1.21及び1.46対×0.75、×2及び1.5対×1.2)によって観察される(図5)。
【0109】
患者No.1由来の細胞に関して、bFGFの存在下での培養はムサシ-1とネスチン発現の低減、及びβIII-チューブリンとMAP-2の発現の増加をもたらす(それぞれJ0に関して×9.3及び×2.3)。第5日には、NX210及びNS640の存在が、bFGF単独と比較してネスチン発現の増加をもたらす(NX210又はNS640処理なしのbFGF条件で×2対×0.6)(図6)。
【0110】
患者No.1と同様に、bFGFの存在下での患者No.2由来のhMSCの培養は、ムサシ-1とネスチン発現の低減、及びβIII-チューブリンとMAP-2の発現の増加をもたらす(それぞれJ0に関して×9.3及び×2.3)。NX210の存在が、bFGF単独と比較してネスチン発現の増加をもたらす(コーティングなしのbFGF条件で×1.95対×0.6)。更に、培養の5日後NX210又はNS640の存在下でβIII-チューブリンも最大になる。bFGF単独条件でMAP-2発現が低減する一方、この遺伝子の発現はNX210の存在下では第5日に増加した(図7)。
【0111】
ムサシ-1、ネスチン、βIII-チューブリン及びMAP-2に関する遺伝子発現の結果はTable3(表3)中に要約する。
【0112】
【表3】
【0113】
2%FBSの存在下でのbFGFの添加によってネスチン及びMAP-2マーカーの発現が増加する。この条件で、NX210又はNS640が存在するとき、免疫細胞化学的解析は強い染色を示した。10%FBS条件では、bFGFは対照条件と比較してネスチン発現を増加させ、この増加はNX210又はNS640で最大になる(染色強度の増加)。NX210及びNS640の存在のみがMAP-2タンパク質の存在の観察を可能にする(図8)。
【0114】
ネスチン又はMAP-2の発現に相当する染色強度の段階的変化を、培養条件に応じて観察した(図9)。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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