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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】抗ヒトアネキシンA1抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221206BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221206BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20221206BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221206BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 15/06 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20221206BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/18
C07K16/46
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61P25/18
A61P37/06
A61P9/10 101
A61P15/06
A61P31/18
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P25/00
A61P37/02
A61P21/00
A61P29/00
A61P3/10
A61P27/02
A61P1/04
A61P5/14
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/14
A61P3/04
A61P25/24
A61P25/22
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019543805
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2018053232
(87)【国際公開番号】W WO2018146230
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-02
(31)【優先権主張番号】1702091.8
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519288939
【氏名又は名称】メダネックス エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ、ヘンリー チャールズ ウィルソン
(72)【発明者】
【氏名】ウッド、クリストファー バリー
(72)【発明者】
【氏名】フラタウ、ティナ キャロライン
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-510507(JP,A)
【文献】FEBS Letters,1990年,Vol.261, No.2,p.247-252
【文献】Eur.J.Immunol.,2007年,Vol.37,p.3131-3142
【文献】BLOOD,Vol.109, No.3,2007年,p.1095-1102
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1998年,Vol.95,p.14535-14539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトAnx-A1に結合する、単離された抗体またはその抗原結合性断片であって、前記抗体またはその抗原結合性断片は、相補性決定領域(CDR)としてVLCDR1、VLCDR2、VLCDR3、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含み、前記CDRそれぞれは、以下のアミノ酸配列を有する、すなわち、
VLCDR1は、配列番号1、配列番号36もしくは配列番号37に示す配列、または9位および/または11位における保存的アミノ酸置換を含む配列番号1の改変された配列、9位および/または11位における保存的アミノ酸置換を含む配列番号36の改変された配列、または9位および/または11位における保存的アミノ酸置換を含む配列番号1の改変された配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する
、抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
VLCDR1は、配列番号36に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する、
請求項1記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
VLCDR1は、配列番号37に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する、
請求項1記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトAnx-A1に20nM未満のKdで結合する、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、ヒト化されている、請求項1から4のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
前記抗体は、モノクローナル抗体であり、前記抗原結合性断片は、Fab抗体断片またはF(ab')2抗体断片あるいはscFv分子である、請求項1から5のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、
(i)配列番号32、配列番号34、または配列番号48~51に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域と、
(ii)配列番号33または配列番号35に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域と、
を含む、請求項6に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、
(i)配列番号40、配列番号42、配列番号44~47、配列番号54、または配列番号75~79に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖と、
(ii)配列番号41、配列番号43、配列番号55または配列番号80に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖と、
を含む、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体は、
(i)配列番号40に示すアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号41に示すアミノ酸配列を含む重鎖と、を含むか、または
(ii)配列番号42に示すアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号43に示すアミノ酸配列を含む重鎖と、
を含む、請求項8に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
前記モノクローナル抗体は、
(i)配列番号44に示すアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号41に示すアミノ酸配列を含む重鎖と、を含むか、または
(ii)配列番号54に示すアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号55に示すアミノ酸配列を含む重鎖と、
を含む、請求項8に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
前記モノクローナル抗体は、
(i)配列番号45に示すアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号43に示すアミノ酸配列を含む重鎖と、を含むか、または
(ii)配列番号78に示すアミノ酸配列を含む軽鎖と、配列番号80に示すアミノ酸配列を含む重鎖と、
を含む、請求項8に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性断片を含有する製剤であって、前記製剤中の、ヒトAnx-A1に結合する前記抗体またはその抗原結合性断片の少なくとも90%は、20nM未満のKdで結合する、製剤。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項で定義される抗体またはその抗原結合性断片をコードする塩基配列を含む核酸分子である、核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸分子を含む、コンストラクト。
【請求項15】
請求項13に記載の核酸分子または請求項14に記載のコンストラクトを含む、ベクター。
【請求項16】
請求項13に記載の核酸分子、請求項14に記載のコンストラクト、または請求項15に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項で定義される抗体またはその抗原結合性断片を調製する方法であって、
i)請求項13で定義される核酸分子、請求項14で定義されるコンストラクト、または請求項15で定義されるベクターを、宿主細胞に導入することと、
ii)前記特異的分子を産生するように前記核酸分子を発現することと、
iii)前記抗体またはその抗原結合性断片を回収することと、
を含む、方法。
【請求項18】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、精製によって回収される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項17または18で定義される方法によって得ることができる、抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項20】
請求項1~11のいずれか1項もしくは請求項19で定義される抗体もしくはその抗原結合性断片、または請求項12で定義される製剤と、
1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項21】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、請求項7~11のいずれか1項で定義されるものである、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
少なくとも1種の治療上有効な第2の薬剤をさらに含む、請求項20または21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
T細胞媒介疾患、OCD、またはOCD関連疾患の治療に用いる薬剤の製造における、請求項1~11のいずれか1項もしくは請求項19で定義される抗体もしくはその抗原結合性断片、または請求項12で定義される製剤の使用。
【請求項24】
前記抗体またはその抗原結合性断片は、請求項7~11のいずれか1項で定義されるものである、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記薬剤が、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、移植片拒絶、アテローム性動脈硬化症、流産、およびHIV/AIDSから選択されるT細胞媒介疾患の治療に用いる薬剤である、請求項23または24の使用。
【請求項26】
前記薬剤が、関節リュウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、アジソン病、グレーブス病、強皮症、多発性筋炎、糖尿病、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、潰瘍性大腸炎、尋常性天疱瘡、炎症性腸疾患、自己免疫性甲状腺炎、ブドウ膜炎、ベーチェット病、シェーグレン症候群、および乾癬から選択される自己免疫疾患の治療のための薬剤である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記薬剤が、抜毛癖、自傷性皮膚症、トゥーレット症候群、アスペルガー症候群、食欲不振、多食症、鬱病、双極性障害、心気症、不安障害、統合失調症、注意欠陥多動性障害、および身体醜形障害から選択されるOCD関連疾患の治療のための薬剤である、請求項23または24に記載の使用。
【請求項28】
前記薬剤が、外傷性ストレス障害、社会不安障害、全般性不安障害、パニック障害、およびパニック発作から選択される不安障害の治療のための薬剤である、請求項27に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトアネキシンA1(Anx-A1)に結合する特異的結合分子、特に、モノクローナル抗体およびその断片、ならびに特定の疾患の治療におけるその使用に関する。また、本発明は、本発明の特異的結合分子をコードする核酸分子など、ならびに特異的結合分子を含む製剤および組成物に及ぶ。
【0002】
近年、自然免疫系および適応免疫系のいずれにおいても、Anx-A1が様々な細胞種の恒常性を維持する役割を果たすということが、多くの研究グループによって示されてきている。例えば、Anx-A1は、好中球およびマクロファージなどの自然免疫系の細胞に対して恒常性を維持するための調節を行い、また、T細胞受容体(TCR)シグナリングの強度を調節することで、T細胞においても役割を果たすということが示されてきている(ダキスト(D'Acquisto)ら,ブラッド(Blood)109:1095~1102,2007)。
【0003】
高濃度のAnx-A1は、T細胞活性化の閾値を低下させ、CD4+T細胞のT1およびT17細胞への分化を促進する。対照的に、Anx-A1欠損マウスのT細胞では、活性化が低下し、T2細胞への分化が増加することが見出されている(ダキストら,ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Eur. J. Immunol.)37:3131~3142,2007)。このような知見は、抗体などの特異的結合分子を用いてAnx-A1を標的化することに基づく、多くの疾患、特にT細胞媒介疾患の治療の発展へとつながってきている(例えば、WO2010/064012、WO2011/154705、およびWO2013/088111も参照のこと)。このようにAnx-A1を標的化することによって、T細胞活性レベルが低下し、T細胞の過剰な活性を特徴とする疾患、特に自己免疫疾患の症状が緩和される。
【0004】
ヒトAnx-A1の転写変異体としては、ANXA1-002、ANXA1-003、ANXA1-004、およびANXA1-006の4つが知られており、これらは、Anx-A1遺伝子の選択的スプライシングによって得られる。ANXA1-002およびANXA1-003は、全長Anx-A1をコードしている。ANXA1-002およびANXA1-003のmRNA転写産物は、選択的スプライシングのために長さが異なるが、どちらも同じタンパク質をコードしている(配列番号10および配列番号11)。ANXA1-004(配列番号12)およびANXA1-006(配列番号13)がコードするタンパク質は、全長Anx-A1の断片に相当する。
【0005】
本発明の発明者らは、ヒトAnx-A1に高い親和性で結合し、それによってT細胞活性化を特異的に阻害することができるモノクローナル抗体を同定した。有利には、この抗体は、有害な細胞障害効果を生じることなく、T細胞活性化を阻害することができる。自己免疫疾患および移植片対宿主疾患などのT細胞媒介疾患、強迫神経症(OCD)、ならびにOCD関連疾患を含む多くの病気の治療に、この抗体を用い得る。
【0006】
当業者には公知であるように、抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖という4本のポリペプチド鎖を含むタンパク質である。典型的には、重鎖は互いに同一であり、軽鎖は互いに同一である。軽鎖は、重鎖よりも短い(したがって、軽量である)。重鎖は、4つまたは5つのドメインを含む。すなわち、可変(V)ドメインがN末端に位置し、それに3つまたは4つの定常ドメイン(N末端からC末端に向かって、それぞれ、C1、C2、C3、および、存在する場合には、C4)が続く。軽鎖は、2つのドメインを含む。すなわち、可変(V)ドメインがN末端に位置し、定常(C)ドメインがC末端に位置する。重鎖においては、不定形のヒンジ領域が、C1ドメインとC2ドメインとの間に位置している。抗体の2本の重鎖は、ヒンジ領域に存在するシステイン残基間に形成されるジスルフィド結合によって結合されており、各重鎖は、それぞれC1ドメインおよびCドメインに存在するシステイン残基間のジスルフィド結合によって、一本の軽鎖と結合されている。
【0007】
哺乳動物では、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)として知られる、2種類の軽鎖が産生される。カッパ軽鎖においては、可変ドメインおよび定常ドメインは、それぞれVドメインおよびCドメインと表すことができる。軽鎖がλ軽鎖とκ軽鎖のどちらであるかということは、その定常領域によって決定される。すなわち、λ軽鎖の定常領域とκ軽鎖の定常領域とは異なるものであるが、既定の種においては、同種の軽鎖の定常領域はすべて同じである。
ある種における既定のアイソタイプの抗体では、重鎖の定常領域はすべて同じであるが、アイソタイプ間では異なっている(抗体のアイソタイプの例は、IgG、IgE、IgM、IgA、およびIgDといったクラスである;また、多くの抗体サブタイプが存在し、例えば、IgG抗体では、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4という4つのサブタイプが存在する)。抗体の特異性は、その可変領域の配列によって決定される。可変領域の配列は、どの個体においても、同種の抗体間で異なっている。特に、抗体の軽鎖および重鎖のいずれも、超可変性の相補性決定領域(CDR)を3つ有している。軽鎖および重鎖の対において、この2本の鎖のCDRは、抗原結合部位を形成する。CDR配列が、抗体の特異性を決定する。
【0008】
重鎖の3つのCDRは、N末端からC末端に向けて、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3として知られており、軽鎖の3つのCDRは、N末端からC末端に向けて、VLCDR1、VLCDR2、およびVLCDR3として知られている。
【0009】
WO2011/154705では、Anx-A1に高い親和性で結合するという、モノクローナル抗体が開示されている。この抗体は、ヒトAnx-A1のアイソフォームであるANXA1-003で遺伝学的に免疫したマウス由来のマウス細胞を用いたマウスハイブリドーマ(すなわち、マウスB細胞から作成されたハイブリドーマ)から産生された。この抗体は、VJ-4B6として知られている。VJ-4B6は、アイソタイプがIgG2bの抗体である。この抗体は、寄託番号10060301として欧州細胞培養コレクション(ECACC)に寄託されたハイブリドーマによって産生される。VJ-4B6は、以下のCDR配列を有するものとして定義された。すなわち、VHCDR1が、GYTFTNYWIG(配列番号4であり、VHCDR2がDIYPGGDYTNYNEKFKG(配列番号5)であり、VHCDR3がWGLGYYFDY(配列番号14)であり、VLCDR1がKASENVVTYVS(配列番号7)であり、VLCDR2がGASNRYT(配列番号8)であり、VLCDR3がGQGYSYPYT(配列番号9)である。
【0010】
本発明の発明者らは、医学における使用を意図して、開示されたVJ-4B6抗体をヒト化したものを合成した。ヒト化VJ-4B6抗体は、インビトロにおいて、ヒトAnx-A1に結合できなかった。本発明者らは、ハイブリドーマによって産生される抗体を再検討し、微量成分として、ハイブリドーマによって産生される第2の軽鎖を同定した。ハイブリドーマの特性が初めて明らかにされた際には、この軽鎖の配列も、Anx-A1結合抗体におけるその存在も、同定されてはいなかった。
【0011】
第2の軽鎖は、以下の配列のCDRを有している。すなわち、VLCDR1がRSSQSLENSNGKTYLN(配列番号1)であり、VLCDR2がGVSNRFS(配列番号2)であり、VLCDR3がLQVTHVPYT(配列番号3)である。この第2の軽鎖の完全配列は、配列番号15に示される。
【0012】
さらに、ECACC10060301は、単一の重鎖のみを産生することが確認されていたが、この重鎖を再分析すると、実際には、VHCDR3の配列がARWGLGYYFDY(配列番号6)であることが示された。ハイブリドーマECACC10060301が産生する重鎖の完全配列は、配列番号16に示される。
【0013】
軽鎖が、配列番号15の配列(すなわち、VLCDR1~3が、それぞれ配列番号1~3の配列である)を有し、重鎖が、配列番号16の配列(すなわち、VHCDR1~3が、それぞれ配列番号4~6の配列である)を有する、マウス抗体を合成した。このマウス抗体もアイソタイプがIgG2bであり、Mdx001と命名され、高い親和性でヒトAnx-A1に結合することが見出された(本明細書の実施例を参照のこと)。この抗体は、以前には知られていなかった配列を有しており、医学において色々と役立つものである。この抗体は、ヒトAnx-A1への結合において特に高い親和性を有しており、これにより、この抗体は、医学において特に有用なものとなり、また、以前に開示されたAnx-A1に結合する抗体または他の特異的結合分子よりも優れたものとなる。
【0014】
Mdx001抗体をヒト化したものを作成した。特に、この抗体をヒト化したものを2種類作成し、MDX-L1H4およびMDX-L2H2とした。これらの可変領域の配列は、配列番号32および配列番号33(MDX-L1H4の軽鎖可変領域および重鎖可変領域)と、配列番号34および配列番号35(MDX-L2H2の軽鎖可変領域および重鎖可変領域)とに示す。これらの配列において、CDRは、上記Mdx001の配列で説明したとおりである。
【0015】
Mdx001をヒト化したもののVLCDR1配列を改変することによって、強化された抗体が得られることが見出された。配列番号1(上記詳述したように、Mdx001のVLCDR1の配列である)の11位のグリシン残基を置換することによって、抗体の安定性および機能が向上する。理論に拘束されるものではないが、このことは、CDRの翻訳後修飾部位が除去されることによって達成されると考えられる。具体的には、このグリシン残基を置換することによって、タンパク質から脱アミド部位が除去されると考えられる。配列番号1に示すVLCDR1配列は、Ser-Asn-Glyという配列モチーフを含む。この配列モチーフは、アスパラギン残基をアスパラギン酸またはイソアスパラギン酸へと変換するAsn残基の脱アミド化に関連し、これは、抗体の安定性および標的への結合に影響し得る。Ser-Asn-Glyモチーフ内のいずれか1つの残基の置換によって、脱アミド化部位が除去されると考えられる。
【0016】
驚くべきことに、本発明者らは、11位のグリシン残基(上述した脱アミド化部位内に位置するグリシン残基である)がアラニンに置換され、標的(Anx-A1)への結合が、その天然型のMdx001抗体と比べて向上している抗体を同定した。11位のグリシンがアラニンに置換されたVLCDR1のアミノ酸配列は、RSSQSLENSNAKTYLNである(太字で示す残基は、上記の置換によって導入されたアラニンである)。このアミノ酸配列は、配列番号36に示され、これをVLCDR1変異体1と呼ぶ。さらに、セリンのスレオニンへの置換によって9位が改変されたVLCDR1を含むヒト化抗体もまた、Mdx001と比べて、Anx-A1への結合が向上していることが見出された。9位のセリンがスレオニンに置換されたVLCDR1のアミノ酸配列は、RSSQSLENTNGKTYLNである(太字で示す残基は、上記の置換によって導入されたスレオニンである)。このアミノ酸配列は、配列番号37に示され、これをVLCDR1変異体2と呼ぶ。
【0017】
VLCDR1変異体1を有する、ヒト化抗体MDX-L1H4の改変体を、MDX-L1M2H4と呼ぶ。同様に、VLCDR1変異体1を有する、ヒト化抗体MDX-L2H2の改変体を、MDX-L2M2H2と呼ぶ。VLCDR1変異体2を有する、ヒト化抗体MDX-L1H4の改変体を、MDX-L1M3H4と呼ぶ。同様に、VLCDR1変異体2を有する、ヒト化抗体MDX-L2H2の改変体を、MDX-L2M3H2と呼ぶ。
【0018】
したがって、第1の実施形態においては、本発明は、ヒトAnx-A1に結合する、単離された特異的結合分子を提供し、前記該特異的結合分子は、CDRとしてVLCDR1、VLCDR2、VLCDR3、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3を含み、該CDRそれぞれは、以下のアミノ酸配列を有する。すなわち、
VLCDR1は、配列番号1(RSSQSLENSNGKTYLN)または配列番号36(RSSQSLENSNAKTYLN)または配列番号37(RSSQSLENTNGKTYLN)に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2(GVSNRFS)に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3(LQVTHVPYT)に示す配列を有しり、
VHCDR1は、配列番号4(GYTFTNYWIG)に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5(DIYPGGDYTNYNEKFKG)に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6(ARWGLGYYFDY)に示す配列を有するか、または、
各配列において、その配列に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列である。好ましくは、該配列同一性は、少なくとも90%または少なくとも95%である。
【0019】
別の実施形態においては、本発明は、本発明の特異的結合分子を含有する製剤を提供し、前記製剤中の、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子の少なくとも90%は、結合のKが20nM未満、好ましくは15nMまたは10nM未満である。
【0020】
別の実施形態においては、本発明は、本発明の特異的結合分子をコードする塩基配列を含む核酸分子を提供する。本発明の核酸分子を含むコンストラクトも提供され、本発明の核酸分子またはコンストラクトを含むベクターも提供される。本発明は、また、本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターを含む宿主細胞も提供する。
【0021】
別の実施形態においては、本発明は、本発明の特異的結合分子を調製する方法を提供し、該方法は、
i)本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターを宿主細胞に導入することと、
ii)特異的結合分子が産生されるように前記核酸分子を発現することと、
iii)好ましくは精製することによって、前記特異的結合分子を回収することと、を含む。
【0022】
本発明は、本発明の特異的結合分子と、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤とを含む、医薬組成物も提供する。本発明の本方法で得ることができる特異的結合分子も提供される。
【0023】
本発明の別の実施形態は、治療法における使用のための本発明の特異的結合分子である。本発明は、また、治療法における使用のための本発明の製剤または医薬組成物も提供する。ある実施形態においては、治療法における使用のための本発明の特異的結合分子、製剤、または医薬組成物は、T細胞媒介疾患、強迫神経症(OCD)、またはOCD関連疾患の治療に用いるためのものである。
【0024】
同様に、本発明は、また、T細胞媒介疾患、OCD、またはOCD関連疾患の治療に用いる薬剤の製造における、本発明の特異的結合分子または製剤の使用も提供する。
【0025】
本発明は、また、T細胞媒介疾患、OCD、またはOCD関連疾患を治療する方法も提供し、該方法は、それを必要とする被験体に、本発明の特異的結合分子、製剤、または組成物を投与することを含む。
【0026】
上記の通り、本発明は、ヒトAnx-A1に結合する、単離された特異的結合分子を提供する。「特異的結合分子」とは、特定の分子パートナー(この場合は、ヒトAnx-A1)に特異的に結合する分子である。ヒトAnx-A1に特異的に結合する分子とは、他の分子(例えば、親和性が実施例に記載の通りである)に対する結合親和性、すなわち、他の分子の少なくともほとんどに対する結合親和性よりも高い親和性で、ヒトAnx-A1に結合する分子である。したがって、例えば、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子がヒト細胞の溶解産物と接触した場合には、特異的結合分子は、主にAnx-A1に結合する。特に、特異的結合分子は、ヒトAnx-A1に存在する配列または構造、好ましくは、他の分子には存在しない特有の配列または構造に結合する。特異的結合分子が抗体である場合、その配列または構造は、特異的結合分子が結合するエピトープである。特異的結合分子は、必ずしも、ヒトAnx-A1にのみ結合するものでなくてもよく、特異的結合分子は、ある不明確な他の標的分子と交差反応してもよいし、多数の分子の混合物(例えば、細胞溶解産物など)と接触した場合に、ある程度、非特異的に結合してもよい。とにかく、本発明の特異的結合分子は、Anx-A1に対して特異性を示す。当業者であれば、ELISA、ウエスタンブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)などの当該技術分野における標準的な方法を用いて、特異的結合分子がAnx-A1に対して特異性を示すかどうかを容易に特定することができるであろう。
【0027】
本明細書で言及するように、「ヒトAnx-1に結合する」分子は、これまでに述べてきた通り、ヒトAnx-1分子に対して特異性を示す。上記示したように、ヒトAnx-A1には、アイソフォームが4つ存在する。本発明の特異的結合分子は、その配列が配列番号11(および配列番号10)に示す配列である、全長AnxA1(すなわち、ANXA1-002転写産物またはANXA1-003転写産物がコードするAnx-A1)に結合する。全長Anx-A1(ANXA1-002転写産物およびANXA1-003転写産物がコードする)は、346アミノ酸からなるタンパク質である。抗体Mdx-001は、ANXA1-002転写産物およびANXA1-003転写産物がコードする全長Anx-A1タンパク質に対して産生される。したがって、特異的結合分子は、全長ヒトAnx-A1に結合する。特異的結合分子は、ANXA1-004転写産物またはANXA1-006転写産物がコードする断片、または本明細書で述べる抗体が結合するエピトープを含む全長Anx-A1の断片などの、ANXA1-002転写産物およびANXA1-003転写産物がコードする全長Anx-A1の特定の断片、部分、または変異体に結合してもよい。
【0028】
特異的結合分子は、当該技術分野で公知のいずれの方法によって合成されてもよい。特に、特異的結合分子は、原核細胞(例えば、細菌細胞)または真核細胞(例えば、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、または哺乳類細胞)を用いる細胞発現系などのタンパク質発現系を用いて合成されてもよい。特異的結合分子の産生に用いられ得る細胞については後述する。別のタンパク質発現系としては、インビトロにおける無細胞発現系が挙げられ、この系では、インビトロにおいて、特異的結合分子をコードする塩基配列がmRNAに転写され、このmRNAがタンパク質に翻訳される。無細胞発現系のキットは、広く入手可能であり、例えばサーモフィッシャー・サイエンティフィック社(ThermoFisher Scientific)(米国)から購入することができる。あるいは、特異的結合分子は、非生物系において化学合成されてもよい。本発明の特異的結合分子を形成し得る、または本発明の特異的結合分子に含有され得るポリペプチドを作成するのに、液相合成を用いてもよいし、固相合成を用いてもよい。当業者であれば、当該技術分野において一般的な手法のうち適切なものを用いて、特異的結合分子を容易に産生することができる。特に、特異的結合分子は、CHO細胞などの哺乳類細胞において、組み換え技術によって発現されてもよい。
【0029】
上記のように、本発明の特異的結合分子は、「単離されて」いる(別の実施形態においては、特異的結合分子は、単離されていない)。本明細書における「単離された」とは、特異的結合分子が、これを含む溶液などの主成分(すなわち、成分の大部分)であるということを意味する。特に、特異的結合分子が、最初は混合物または混合溶液において産生される場合には、特異的結合分子の単離とは、特異的結合分子が分離または精製されていることを意味する。したがって、例えば、特異的結合分子がポリペプチドであり、該ポリペプチドが上述したようなタンパク質発現系を用いて産生される場合には、特異的結合分子は、それが存在する溶液または組成物においてもっとも量の多いポリペプチドとなるように、好ましくは溶液または組成物中のポリペプチドの大部分を占めるように、単離され、元の産生培地に存在する他のポリペプチドおよび生体分子よりも濃縮される。特に、本発明の特異的結合分子は、溶液または組成物において最も多数を占める(大部分)特異的結合分子となるように、単離される。好ましい特徴においては、特異的結合分子は、溶液または組成物中の他の成分、特に他のポリペプチド成分の存在量を基準として評価した場合に、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の純度で、溶液または組成物中に存在する。
【0030】
特異的結合分子が、例えばタンパク質発現系で産生されたタンパク質である場合には、本発明の特異的結合分子が最も多数を占め、ひいては単離されているかどうかを確認するために、定量的プロテオミクスによって特異的結合分子の溶液を解析してもよい。例えば、2Dゲル電気泳動および/または質量分析が用いられてもよい。このような単離された分子は、以下で述べるような製剤または組成物中に存在し得る。
【0031】
本発明の特異的結合分子は、当該技術分野において公知のいずれの方法を用いて単離されてもよい。例えば、特異的結合分子がポリペプチドである場合には、適切な結合パートナーを用いるアフィニティクロマトグラフィによって分子を単離することができるように、ポリヒスチジンタグ、ストレップタグ(strep-tag)、FLAGタグ、およびHAタグなどのアフィニティタグを有して産生されてもよい。例えば、ポリヒスチジンタグがついた分子を、Ni2+イオンを用いて精製してもよい。特異的結合分子が抗体である実施形態においては、特異的結合分子は、プロテインG、プロテインA、プロテインA/G、またはプロテインLなどの抗体結合タンパク質を1つ以上用いるアフィニティクロマトグラフィによって単離されてもよい。あるいは、特異的結合分子は、例えばサイズ排除クロマトグラフィまたはイオン交換クロマトグラフィなどによって単離されてもよい。対照的に、化学合成(すなわち、非生物系の方法)によって産生された特異的結合分子は、単離された形態で産生され得る。したがって、単離することが考慮される本発明の特異的結合分子が、単離された分子を産生する様式で合成された場合には、特定の精製ステップまたは単離ステップは必要ではない。
【0032】
本発明の特異的結合分子は、VLCDR1、VLCDR2、VLCDR3、VHCDR1、VHCDR2、およびVHCDR3という6つのCDR配列を含んでおり、CDRそれぞれは、以下のアミノ酸配列を有する。すなわち、
VLCDR1は、配列番号1、配列番号36、または配列番号37に示す配列を有し、
VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、
VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、
VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、
VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、
VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有するか、または、
各配列において、その配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である、アミノ酸配列である。
【0033】
「または、各配列において、配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である、アミノ酸配列」とは、CDRのそれぞれのアミノ酸配列が、当該配列番号で規定されるものであるか、またはそれに対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である、アミノ酸配列であるということを意味する。したがって、VLCDR1は、配列番号1、配列番号36、または配列番号37に示す配列を有するか、あるいは配列番号1、配列番号36、または配列番号37に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有するか、あるいは配列番号2に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有するか、あるいは配列番号3に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有するか、あるいは配列番号4に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有するか、あるいは配列番号5に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列であり、VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有するか、あるいは配列番号6に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるアミノ酸配列である。
【0034】
本発明の好ましい実施形態においては、VLCDR1は、配列番号1、配列番号36、または配列番号37に示す配列を有し(本明細書においては、このような配列からなるということを意味する)、VLCDR2は、配列番号2に示す配列を有し、VLCDR3は、配列番号3に示す配列を有し、VHCDR1は、配列番号4に示す配列を有し、VHCDR2は、配列番号5に示す配列を有し、VHCDR3は、配列番号6に示す配列を有する。結合分子で用いられる配列は、本明細書に記載の配列を含んでいてもよい。
【0035】
上記のように、本発明の特異的結合分子は、ポリペプチド配列からなるCDRを6つ含む。本明細書において、「タンパク質」および「ポリペプチド」は交換可能であり、どちらも、1つ以上のペプチド結合で結合された2つ以上のアミノ酸からなる配列のことをいう。したがって、特異的結合分子は、ポリペプチドであってもよい。あるいは、特異的結合分子は、CDR配列を含むポリペプチドを、1つ以上含んでいてもよい。好ましくは、本発明の特異的結合分子は、抗体または抗体断片である。
【0036】
本発明のある特定の実施形態においては、前記CDR配列を組み合わせた配列は、配列番号1~6、または配列番号36および配列番号2~6、または配列番号37および配列番号2~6に示すアミノ酸配列を組み合わせた配列に対して、配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%(例えば、少なくとも97%または少なくとも98%)である。「CDR配列を組み合わせた配列」(または、CDRを組み合わせた配列)とは、配列の端と端をつないで組み合わせて形成される配列のことを(目的とする分子において、介在配列とともに生じる場合であっても)意味する。換言すると、CDR配列を組み合わせた配列とは、CDR配列を上記の順序(すなわち、VLCDR1-VLCDR2-VLCDR3-VHCDR1-VHCDR2-VHCDR3)で結合して得られるアミノ酸配列である。したがって、組み合わせ配列のN末端は、VLCDR1のN末端アミノ酸であり、VLCDR1のC末端は、VLCDR2のN末端に直接結合されており、VLCDR2のC末端は、VLCDR3のN末端に直接結合されており、VLCDR3のC末端は、VHCDR1のN末端に直接結合されており、VHCDR2のC末端は、VHCDR3のN末端に直接結合されており、VHCDR3のC末端アミノ酸は、組み合わせた配列のC末端を形成している。本明細書における「直接結合される」とは、ある特定のCDR配列のN末端アミノ酸が、介在アミノ酸なしに(配列同一性評価のため)、先行するCDR配列のC末端アミノ酸にすぐ隣接して配置されていることを意味する。
【0037】
配列番号1~6に示すアミノ酸配列を組み合わせた配列は、上記段落に記載のプロセスによって形成される。すなわち、組み合わせ配列のN末端は、配列番号1のN末端アミノ酸であり、配列番号1のC末端アミノ酸は、配列番号2のN端アミノ酸配列に直接結合され、配列番号2のC末端アミノ酸は、配列番号3のN端アミノ酸に直接結合され、配列番号3のC末端アミノ酸は、配列番号4のN末端アミノ酸に直接結合され、配列番号4のC末端アミノ酸は、配列番号5のN末端アミノ酸に直接結合され、配列番号5のC末端アミノ酸は、配列番号6のN末端アミノ酸に直接結合され、配列番号6のC末端アミノ酸は、組み合わせた配列のC末端を形成する。配列番号1~6に示すアミノ酸配列を組み合わせた配列自体を、配列番号17に示す。配列番号36(または配列番号37)および配列番号2~6に示すアミノ酸配列を組み合わせた配列は、配列番号1を配列番号36(または配列番号37)で置き換えた以外は、相当するプロセスによって形成される。配列番号36および配列番号2~6(ならびに配列番号37および配列番号2~6)に示すアミノ酸配列を組み合わせた配列を、配列番号38(または配列番号39)に示す。
【0038】
配列番号1(または配列番号36もしくは配列番号37)および配列番号2~6のアミノ酸配列に対する、特異的結合分子のCDRの配列同一性が100%未満である本発明の実施形態においては、CDR配列は、配列番号1(または配列番号36もしくは配列番号37)および配列番号2~6の配列において、適切な数のアミノ酸が置換、付加、または欠失することによって、変化していてもよい。本発明の他の実施形態においては、CDR配列はそれぞれ、結果として得られるCDR配列の、配列番号1(または配列番号36もしくは配列番号37)および配列番号2~6に対する配列同一性が、上述したように、少なくとも85%または少なくとも90%であるという条件において、配列番号1(または配列番号36もしくは配列番号37)および配列番号2~6と比べて、2つ以下のアミノ酸が置換、付加、または欠失することによって、改変されていてもよい。「置換、付加、または欠失」とは、置換、付加、および欠失を組み合わせたものも含む。したがって、特に、VLCDR1の配列は、配列番号1(または配列番号36もしくは配列番号37)の配列において1つまたは2つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VLCDR2の配列は、配列番号2の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VLCDR3の配列は、配列番号3の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VHCDR1の配列は、配列番号4の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VHCDR2の配列は、配列番号5の配列において1つまたは2つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよく、VHCDR3の配列は、配列番号6の配列において1つのアミノ酸が置換、付加、または欠失した配列であってもよい。好ましくは、配列番号1、配列番号36、または配列番号37における1つまたは2つのアミノ酸の置換は、その配列内の9位および/または11位において行われる。
【0039】
CDR配列が、ある特定のアミノ酸残基を置換することによって改変される場合は、その置換は保存的アミノ酸置換であってもよい。本明細書における「保存的アミノ酸置換」なる語は、あるアミノ酸を、類似の側鎖を有する他のアミノ酸に置き換えるアミノ酸置換のことをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸は、類似の性質を有する傾向があるので、ポリペプチドの構造または機能において重要なアミノ酸の保存的置換は、同じ位置における非保存的アミノ酸置換よりも、ポリペプチドの構造/機能に及ぼす影響が小さいことが期待され得る。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンなど)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸など)、無電荷極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンなど)、非極性側鎖(例えば、グリシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンなど)、および芳香性側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンなど)が挙げられる。したがって、保存的アミノ酸置換は、特定のアミノ酸を同じファミリーの別のアミノ酸と置換する置換とみなされてもよい。しかしながら、CDR残基の置換は、同様に、あるアミノ酸を、異なるファミリーに属する側鎖を有する他のアミノ酸と置換する、非保存的置換であってもよい。
【0040】
本発明の範囲におけるアミノ酸の置換または付加は、遺伝暗号がコードするタンパク質原性のアミノ酸を用いて行われてもよいし、遺伝暗号がコードしないタンパク質原性のアミノ酸を用いて行われてもよいし、非タンパク質原性のアミノ酸を用いて行われてもよい。好ましくは、アミノ酸の置換または付加は、タンパク質原性のアミノ酸を用いて行われる。CDRを構成するアミノ酸は、天然由来のアミノ酸ではないが、天然由来のアミノ酸の改変体である、アミノ酸を含んでいてもよい。これらの天然由来ではないアミノ酸が、配列を変化させず、特異性に影響を及ぼさないのであれば、配列同一性を低下させることなく、本明細書に記載のCDRを作成するのに用いられてもよい。すなわち、CDRのアミノ酸を与えるものとみなされる。例えば、メチル化アミノ酸などのアミノ酸誘導体が用いられてもよい。一態様では、本発明の特異的結合分子は、天然分子でない、すなわち、天然に見出される分子ではない。
【0041】
配列番号1~6、配列番号36、および配列番号37に示すCDRのアミノ酸配列に対する改変は、コード化DNA配列の部位特異的変異または固相合成などの適切ないずれの方法を用いて行われてもよい。
本発明の特異的結合分子は、上述したCDRを含む。さらに、このような分子は、CDRの適切な提示を可能にするリンカー部分またはフレームワーク配列を含んでいてもよい。好都合にさらなる性質を付与し得るさらなる配列が存在していてもよい。それは、例えば、これまでに述べてきたようなCDRを含む分子の単離または同定を可能にするペプチド配列である。このような場合、融合タンパク質が作成されてもよい。
【0042】
上述したように、本発明の特異的結合分子のCDRの、上記の配列番号1(または配列番号36もしくは配列番号37)および配列番号2~6に対する配列同一性は、少なくとも85%である。配列同一性は好都合ないずれの方法によって評価されてもよい。しかしながら、配列間の配列同一性の程度を求めるためには、配列を2つ1組で、または複数、アラインメントするコンピュータプログラムが有用であり、例えば、EMBOSSニードル(Needle)またはEMBOSSストレッチャー(stretcher)(いずれも、ライス P.(Rice P.)ら,トレンズ・イン・ジェネティクス(Trends Genet.),16,(6)pp276~277,2000)が、2つ1組の配列アラインメントに用いられてもよく、また、クラスタル・オメガ(Clustal Omega)(シーバース F(Sievers F)ら,モレキュラー・システムズ・バイオロジー(Mol. Syst. Biol.)7:539,2011)またはMUSCLE(エドガー R.C.(Edgar, R.C.),ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)32(5):1792~1797,2004)が、複数配列のアラインメントに用いられてもよいが、適切な他のプログラムが用いられてもよい。アラインメントは、2つ1組または複数のいずれで行われたとしても、局所的ではなく全体的に(すなわち、参照配列の全体にわたって)行われなければならない。
【0043】
配列のアラインメントおよび同一性のパーセント値の算出結果は、例えば、クラスタル・オメガの標準的なパラメータを用いて求められてもよい。すなわち、マトリックスはゴネット(Gonnet)であり、ギャップオープニングペナルティは6であり、ギャップエクステンションペナルティは1である。あるいは、EMBOSSニードルの標準的なパラメータが用いられてもよい。すなわち、マトリックスはブロサム62(BLOSUM62)であり、ギャップオープニングペナルティは10であり、ギャップエクステンションペナルティは0.5である。適切な他のパラメータが代わりに用いられてもよい。
【0044】
このような用途に用いる目的では、異なる方法で得られた配列同一性の値に相違がある場合、デフォルトのパラメータでEMBOSSニードルを用いて2つ1組のアラインメントを全体的に行って得た値が、有効であるとみなされることになっている。
【0045】
上述したように、本発明の特異的結合分子は、好ましくは抗体または抗体断片である。「抗体」とは、これまでに述べたような特徴を有する免疫グロブリンである。本発明は、後述するように、CDRを保持するが異なるフレームワークで提示され、同様に機能する、すなわち、抗原に対する特異性を保持している、天然由来の抗体の変異体をも意図するものである。したがって、抗体は、天然由来のドメインが、部分的または全体的に、同様に機能する天然または非天然の等価物または相同体と置き換わった、機能的等価物または機能的相同体を含む。
【0046】
本発明の特異的結合分子が抗体である場合、好ましくはモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」とは、単一の抗体種からなる抗体製剤を意味する。すなわち、製剤中の抗体はすべて、アミノ酸配列が同一で、同じCDRを含んでおり、そのため、標的抗原(「標的抗原」とは、特定の抗体が結合するエピトープを含む抗原を意味し、すなわち、抗Anx-A1抗体の標的抗原は、Anx-A1である)上の同じエピトープに結合して同じ効果を発揮する。換言すると、本発明の抗体は、好ましくはポリクローナル抗体混合物の一部ではない。
【0047】
上述したように、抗体においては、CDR配列が、重鎖および軽鎖の可変ドメインに位置している。CDR配列は、抗原結合のためにCDRを適切に位置決めする、ポリペプチドのフレームワーク内に存在する。したがって、可変ドメインの残部(すなわち、どのCDRの一部も形成しない可変ドメイン配列の部分)は、フレームワーク領域を構成する。成熟可変ドメインN末端は、フレームワーク領域1(FR1)を形成し、CDR1とCDR2との間のポリペプチド配列は、FR2を形成し、CDR2とCDR3との間のポリペプチド配列は、FR3を形成し、CDR3を定常ドメインに連結するポリペプチド配列は、FR4を形成する。本発明の抗体においては、可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、抗体が、そのCDRを介してヒトAnx-A1に結合するような、適切ないずれのアミノ酸配列であってもよい。定常領域は、いずれの哺乳類(好ましくはヒト)の抗体アイソタイプの定常領域であってもよい。
【0048】
本発明のある実施形態においては、特異的結合分子は、例えば二重特異性モノクローナル抗体などの多特異性モノクローナル抗体であってもよい。多特異性結合分子は、少なくとも2つの異なる分子結合パートナーに結合する、例えば、2つ以上の異なる抗原またはエピトープに結合する、領域またはドメイン(抗原結合領域)を含む。二重特異性抗体の場合、抗体は、2本の重鎖および2本の軽鎖の可変ドメインのそれぞれが異なっており、ひいては2つの異なる抗原結合領域を形成していること以外は、上述したような構成において、2本の重鎖および2本の軽鎖を含む。多特異性モノクローナル抗体などの本発明の多特異性(例えば、二重特異性)結合分子においては、抗原結合領域のうちの1つは、本明細書で定義される本発明の特異的結合分子のCDR配列を有しており、したがって、Anx-A1に結合する。本発明の多特異性結合分子の他の抗原結合領域は、本発明のCDRによって形成される抗原結合領域とは異なっており、例えば、本発明の特異的結合分子について本明細書において定義されたものとは異なる配列のCDRを有している。例えば、二重特異性抗体における、特異的結合分子のさらなる(例えば、第2の)抗原結合領域は、Anx-A1に結合してもよいが、Anx-A1に結合する第1の抗原結合領域(本発明の特異的結合分子のCDRを有する)とは異なるエピトープに結合する。あるいは、さらなる(例えば、第2の)抗原結合領域は、Anx-A1ではない、さらなる(例えば、第2の)異なる抗原に結合してもよい。別の実施形態においては、例えば抗体などの特異的結合分子における2つ以上の抗原結合領域は、それぞれ同じ抗原に結合してもよく、すなわち、多価(例えば、二価)分子を提供するものであってもよい。
【0049】
特異的結合分子は、ヒトAnx-A1に結合可能な、抗体断片であってもよいし、合成コンストラクトであってもよい。抗体断片については、ロドリゴ(Rodrigo)ら,アンチボディズ(Antibodies),Vol.4(3),p.259~277,2015に記載されている。本発明の抗体断片は好ましくはモノクローナルである(すなわち、ポリクローナル抗体断片混合物の一部ではない)。抗体断片としては、例えば、Fab断片、F(ab’)断片、Fab’断片、およびFv断片が挙げられる。Fab断片については、ロイット(Roitt)ら,イミュノロジー(Immunology)第2版(1989),チャーチル・リビングストン社(Churchill Livingstone),ロンドンに記載されている。Fab断片は、抗体の抗原結合ドメインからなる。すなわち、個々の抗体は、それぞれが軽鎖およびそれに結合した重鎖のN末端部からなる2つのFab断片を含むものとみなされてもよい。したがって、Fab断片は、軽鎖全体と、これが結合する重鎖のVドメインおよびC1ドメインとを含む。抗体をパパインで消化することによって、Fab断片が得られてもよい。
【0050】
F(ab’)断片は、抗体のFab断片2つと重ドメインのヒンジ領域とからなり、2本の重鎖を連結するジスルフィド結合を含む。換言すると、F(ab’)断片は、2つのFab断片が共有結合したものとみなすことができる。抗体をペプシンで消化することによって、F(ab’)断片が得られてもよい。F(ab’)断片を還元すると、2つのFab’断片が得られる。これらは、断片を他の分子に結合させるのに役立ち得るさらなるスルフヒドリル基を含むFab断片とみなすことができる。
【0051】
Fv断片は、軽鎖および重鎖の可変ドメインのみからなる。これらは共有結合で連結されておらず、非共有結合的な相互作用によって、弱く維持されているだけである。単鎖Fv(scFv)分子として知られる合成コンストラクトを産生するために、Fv断片を改変することができる。このような改変は、典型的には、抗体遺伝子を操作し、単一ポリペプチドがVドメインおよびVドメインの両方を含む融合タンパク質を産生することによって、組み換えで行うことができる。一般的に、scFV断片は、V領域とV領域とを共有結合するペプチドリンカーを含んでおり、これは、分子の安定性に寄与する。このリンカーは、1~20個のアミノ酸からなるものであってもよく、例えば、1つ、2つ、3つ、または4つのアミノ酸、あるいは、5つ、10個、または15個のアミノ酸、あるいは、好都合には、1~20の範囲にある他の数であってもよい。ペプチドリンカーは、グリシンおよび/またはセリンなどの一般的に好都合なアミノ酸残基から形成されてもよい。適切なリンカーの一例は、GlySerである。このようなリンカーの多量体、例えば、二量体、三量体、四量体、または五量体((GlySer)、(GlySer)、(GlySer)、または(GlySer)など)などが用いられてもよい。しかしながら、リンカーの存在は必須ではなく、Vドメインは、ペプチド結合によってVドメインに連結されていてもよい。本明細書において、scFVは、抗体断片として定義される。
【0052】
特異的結合分子は、scFvの類似体であってもよい。例えば、scFvは他の特異的結合分子(例えば、他のscFv、Fab抗体断片、およびキメラIgG抗体(例えば、ヒトのフレームワークを有する))に連結されてもよい。scFvは、例えば二量体、三量体、または四量体などの、多特異性結合タンパク質である多量体を形成するように、他のscFvに連結されてもよい。二重特異性scFvを二重特異性抗体、三重特異性scFvを三重特異性抗体、四重特異性scFvを四重特異性抗体と呼ぶことがある。他の実施形態においては、本発明のscFvは、他の同一scFv分子に結合され、これによって、単一特異性であるが多価である多量体が形成されてもよく、例えば、二価二量体または三価三量体が形成されてもよい。
【0053】
使用可能な合成コンストラクトは、CDRペプチドを含む。これらは、抗体結合決定基を含む合成ペプチドである。ペプチド模倣物を用いることもできる。これらの分子は、通常、CDRループ構造を模倣し、抗原と相互作用する側鎖を有する、立体配置が制限された有機環である。
【0054】
上記のように、本発明の特異的結合分子のCDR配列が依拠している配列番号1~6のCDR配列は、当所、マウス抗体Mdx001において同定された。上記のように、Mdx001の軽鎖の配列は、配列番号15であり、Mdx001の重鎖の配列は、配列番号16である(どちらもシグナル配列を含んでおり、それぞれ、配列番号15の最初の20アミノ酸と配列番号16の最初の19アミノ酸とに相当する)。Mdx001の軽鎖可変ドメインの配列および重鎖可変ドメインの配列は、それぞれ、配列番号18および配列番号19に示される。本発明のある実施形態においては、特異的結合分子は、それぞれが配列番号15および配列番号16の配列を含むか、または有する(これらの配列からなる)軽鎖および重鎖を含む抗体であってもよく、シグナル配列を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。例えば、本発明の特異的結合分子は、Mdx001抗体であってもよいし、これに対する同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)である配列(ただし、CDRについては、配列同一性が85%という条件を満たす)であってもよい。本発明の他の実施形態においては、特異的結合分子は、それぞれが配列番号15および配列番号16の配列を含むか、または有する軽鎖および重鎖を含む抗体から得られた抗体断片であってもよく、シグナル配列を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。例えば、このような抗体の抗原結合領域、またはこのような抗体の軽鎖および重鎖の可変領域を含むscFvを含むFabであってもよく、例えば、それぞれが配列番号18および配列番号19の配列を含むか、または有する、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインを含むか、あるいは、これらに対する同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)である配列(ただし、CDRについては、配列同一性が85%という条件を満たす)を含む。このような配列の抗体または抗体断片は、マウスの配列を含む。しかしながら、好ましくは、本発明の抗体または抗体断片は、ヒトの治療用途にさらに適したものとなるように改変される。
【0055】
本発明の抗体または抗体断片は、ヒト/マウスキメラ抗体であってもよいし、好ましくは、ヒト化されていてもよい。これは特に、モノクローナル抗体およびその抗体断片の場合である。分子をヒトの治療法に用いる場合には、ヒト化抗体またはキメラ抗体あるいはそれらの断片が望ましい。マウス抗体によるヒトの治療処置は、いくつかの理由で効果がない可能性がある。例えば、インビボにおける抗体の半減期が短いことや、ヒトの免疫エフェクター細胞上のFc受容体によるマウス重鎖定常領域の認識率が低いために、マウス重鎖定常領域が媒介するエフェクター機能が弱いこと、抗体に対する患者の感作およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答の発生、HAMAによるマウス抗体の中和によって治療効果が失われること、などが挙げられる。
【0056】
キメラ抗体とは、ある種に由来する可変領域と、他の種に由来する定常領域とを有する抗体である。したがって、本発明の抗体または抗体断片は、マウス可変ドメインとヒト定常ドメインとを含む、キメラ抗体またはキメラ抗体断片であってもよい。マウス軽鎖可変ドメインは、Mdx001軽鎖可変ドメインであってもよく、その配列は、配列番号18に示すものである。あるいは、マウス軽鎖可変ドメインは、配列番号18に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、CDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1~3に対する配列同一性が少なくとも85%である、配列であってもよい。マウス重鎖可変ドメインは、Mdx001重鎖可変ドメインであってもよく、その配列は、配列番号19に示すものである。あるいは、マウス重鎖可変ドメインは、配列番号19に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、CDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%である、配列であってもよい。
【0057】
上記詳述したように、抗体のアイソタイプは、その重鎖定常領域によって定義される。本発明のキメラ抗体の定常領域は、いずれのヒト抗体アイソタイプのものであってもよく、また各アイソタイプ内のいずれのサブクラスのものであってもよい。例えば、キメラ抗体は、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、またはIgM抗体のFc領域を有していてもよい(すなわち、キメラ抗体は、重鎖α、δ、ε、γ、またはμの各定常ドメインを含んでいてもよい)が、好ましくは、本発明の抗体は、アイソタイプがIgGである。したがって、本発明のキメラ抗体は、どのアイソタイプであってもよい。キメラ抗体の軽鎖は、κ軽鎖であってもよいしλ軽鎖であってもよい。すなわち、ヒトλ軽鎖の定常領域を含んでいてもよいし、ヒトκ軽鎖の定常領域を含んでいてもよい。同様に、キメラ抗体断片は、定常ドメインを含む抗体断片(例えば、Fab断片、Fab’断片、またはF(ab’)断片)である。本発明のキメラ抗体断片の定常ドメインは、キメラモノクローナル抗体について上述した定常ドメインであってもよい。
【0058】
キメラ抗体は、マウス可変ドメインのDNA配列を、キメラ抗体をコードするようにヒト定常ドメインのDNA配列に融合させる組み換えDNA技術などの、適切ないずれの方法を用いて作成されてもよい。キメラ抗体断片は、組み換えDNA技術を用いて、このようなポリペプチドをコードするDNA配列を産生することで得られてもよいし、本発明のキメラ抗体を処理して、上述したような所望の断片を産生することで得られてもよい。キメラ抗体によって、ヒトの治療法にマウス抗体を用いることに伴う、インビボにおける半減期が短いことやエフェクター機能が弱いという問題を克服することが期待でき、患者の感作やHAMAが生じる可能性が低減され得る。しかしながら、可変ドメインにマウス配列が存在しているために、キメラ抗体をヒトの患者に投与した際に、患者の感作やHAMAは依然として生じ得る。
【0059】
したがって、本発明の抗体または抗体断片は、好ましくは完全にヒト化されている。ヒト化抗体とは、マウスなどの他の種に由来する抗体であって、抗体鎖の定常ドメインがヒト定常ドメインと置き換わっているだけでなく、抗体内の非ヒト配列が好ましくはCDR配列のみとなるように、可変領域のアミノ酸配列を改変して、特に異種(例えば、マウス)フレームワーク配列をヒトフレームワーク配列と置き換えることも行われている、抗体である。ヒト化抗体によって、ヒトに対して非ヒト抗体を治療用途で用いることに伴う問題をすべて克服することができ、その例として、患者の感作やHAMAが生じる可能性を回避または最小化することが挙げられる。
【0060】
通常、抗体のヒト化は、CDR移植として知られるプロセスによって行われるが、当該技術分野における他の方法が用いられてもよい。抗体移植については、ウィリアムズ,D.G.(Williams, D.G.)ら,アンチボディ・エンジニアリング(Antibody Engineering)第1巻,編集:R.コンターマン(R. Kontermann)およびS.デュベル(S. Dubel),21章,pp.319~339にてよく説明されている。このプロセスにおいて、上述したようなキメラ抗体が最初に作成される。続く異種(例えば、マウス)可変ドメインのヒト化は、各免疫グロブリン鎖からのマウスCDRを、最も適切なヒト可変領域のFR内に挿入することを含む。これは、マウス可変ドメインを、公知のヒト可変ドメインのデータベース(例えば、IMGTまたはKabat)と整列化することによって行われる。適切なヒトフレームワーク領域は、もっともよく整列化された可変ドメインから同定され、例えば、ヒトフレームワーク領域とマウスフレームワーク領域との間の配列同一性が高いドメイン、同じ長さのCDRを含むドメイン、もっとも類似した構造(同一性モデリングに基づく)を有するドメインなどである。次に、マウスCDR配列が、組み換えDNA技術を用いて、先頭のヒトフレームワーク配列の適切な位置に移植され、その後、ヒト化抗体が産生されて、標的抗原に対する結合について検査が行われる。当業者であれば、抗体のヒト化プロセスについて知り、かつ理解しており、さらなる指示がなくても本方法を行うことができる。抗体をヒト化するサービスも、ジェンスクリプト社(GenScript)(米国/中国)やMRCテクノロジー社(MRC Technology)(英国)など、多くの営利企業によって提供されている。ヒト化抗体断片は、上述したように、ヒト化抗体から容易に得ることができる。
【0061】
したがって、本発明の抗体または抗体断片は、いずれの種に由来するものであってもよく、例えば、マウスの抗体または抗体断片であってもよい。しかしながら、抗体または抗体断片は、キメラ抗体またはその抗体断片であることが好ましい。すなわち、抗体または抗体断片の可変ドメインのみが非ヒト由来であり、定常ドメインはすべてヒト由来であることが好ましい。最も適切には、本発明の抗体または抗体断片は、ヒト化抗体またはその抗体断片である。
【0062】
これまでに述べてきたように、本発明者らは、Mdx001をヒト化したもの、すなわち、MDX-L1H4およびMDX-L2H2を開発した。VLCDR1の配列が配列番号36に示すものである(変異体1)、または配列番号37に示すものである(変異体2)、好ましい変異体も提供される。上記詳述したように、本発明の抗体は、配列番号36または配列番号37に示されるアミノ酸配列を有する(あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも85%である)VLCDR1を含んでいてもよく、このような抗体は、配列番号1のVLCDR1を含む同等の抗体よりも安定性が向上し、より高い親和性でAnx-A1に結合し得る。したがって、このような改変VLCDR1配列のうちの1つを含む抗体は、配列番号1のVLCDR1を含む同等の抗体と比べて、機能性が向上している。このようなヒト化抗体の名称を、上述したように、MDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、およびMDX-L2M3H2とした。MDX-L1H4およびMDX-L2H2は、アイソタイプがIgGであり、具体的にはサブクラスがIgG1である。これらはヒト化されているので、Mdx001よりも安全かつ少ない副作用で、ヒトの患者に投与することができる。
【0063】
上記詳述したように、抗体のCDRが、その結合特異性、すなわち、結合標的および標的に結合する際の親和性を決定する。抗体のCDR配列の変化によって、標的への抗体の結合が損なわれる場合もあるし、妨げられる場合もある。予想に反して、配列が配列番号36または配列番号37であるVLCDR1を含むMdx001をヒト化したものは、Mdx001と比べて、Anx-A1に対する親和性が向上した。下記実施例で実証されるように、MDX-L1M2H4およびMDX-L2M2H2は、それぞれ、Mdx001と比べて、Anx-A1への結合のK値が向上しており(実際のところ、MDX-L1M2H4のAnx-A1に対するK値は、Mdx001の半分未満である)、このことは、これらが、Mdx001よりも高い親和性でAnx-A1に結合することを意味する(実際のところ、MDX-L1M2H4は、Mdx001の親和性よりも2倍超高い親和性でAnx-A1に結合する)。この標的親和性の向上は、MDX-L1H4およびMDX-L2H2の変異体の治療における潜在性が、Mdx001と比べて向上していることに一致する。
【0064】
したがって、特定の実施形態においては、本発明は、配列番号36または配列番号37に示すアミノ酸配列を有するVLCDR1と、それぞれ配列番号2~6に示すアミノ酸配列を有するVLCDR2~3およびVHCDR1~3とを含む、ヒト化抗体またはその断片を提供する。
【0065】
MDX-L1H4は、配列番号40に示すアミノ酸配列を有するヒト化軽鎖と、配列番号41に示すアミノ酸配列を有するヒト化重鎖とを含む。MDX-L2H2は、配列番号42に示すアミノ酸配列を有するヒト化軽鎖と、配列番号43に示すアミノ酸配列を有するヒト化重鎖とを含む。当業者にとっては公知であるが、抗体鎖は、天然ではシグナル配列とともに産生される。抗体のシグナル配列は、軽鎖および重鎖のN末端、すなわち、可変領域のN末端に位置するアミノ酸配列である。シグナル配列によって、抗体鎖は、産生された細胞から輸送される。配列番号40~43のアミノ酸配列は、それぞれシグナル配列を含む。MDX-L1H4およびMDX-L2H2のどちらも、軽鎖のシグナル配列は配列番号52に示すものであり、これは、配列番号40および配列番号42の最初の20アミノ酸に相当する。また、MDX-L1H4およびMDX-L2H2のどちらも、重鎖のシグナル配列は配列番号53に示すものであり、これは、配列番号41および配列番号43の最初の19アミノ酸に相当する。
【0066】
MDX-L1M2H4の軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号44に示すものであり、MDX-L1M3H4のアミノ酸配列は、配列番号46に示すものである。MDX-L1M2H4およびMDX-L1M3H4の重鎖は、MDX-L1H4と比べて変化していない。すなわち、MDX-L1M2H4およびMDX-L1M3H4はいずれも、配列番号41に示すアミノ酸配列を有する重鎖を含む。MDX-L1M2H4の軽鎖の可変領域は、配列番号48に示すアミノ酸配列を有し、MDX-L1M3H4の可変領域は、配列番号49に示すアミノ酸配列を有する。
【0067】
MDX-L2M2H2の軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号45に示すものであり、MDX-L2M3H2の軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号47に示すものである。MDX-L2M2H2およびMDX-L2M3H2の重鎖は、MDX-L2H2と比べて変化していない。すなわち、MDX-L2M2H2およびMDX-L2M3H2はいずれも、配列番号43に示すアミノ酸配列を有する重鎖を含む。MDX-L2M2H2の軽鎖の可変領域は、配列番号50に示すアミノ酸配列を有し、MDX-L2M3H2の可変領域は、配列番号51に示すアミノ酸配列を有する。
【0068】
当業者にとっては公知であるが、シグナル配列は、合成された細胞からタンパク質が輸送されると、抗体鎖から切断される。シグナル配列の切断は、抗体鎖の成熟化と呼ぶこともできる。すなわち、自身が作られた細胞から輸送された、機能的な循環性抗体は、シグナル配列を欠いた成熟した重鎖および軽鎖を含む。成熟したMDX-L1H4の軽鎖は、配列番号75に示すアミノ酸配列を有し、成熟したMDX-L1M2H4の軽鎖は、配列番号54に示すアミノ酸配列を有し、成熟したMDX-L1M3H4の軽鎖は、配列番号76に示すアミノ酸配列を有し、成熟したMDX-L1H4の重鎖は、配列番号55に示すアミノ酸配列を有する(すべての変異体および元々のMDX-L1H4配列において同一)。
【0069】
成熟したMDX-L2H2の軽鎖は、配列番号77に示すアミノ酸配列を有し、成熟したMDX-L2M2H2の軽鎖は、配列番号78に示すアミノ酸配列を有し、成熟したMDX-L2M3H2の軽鎖は、配列番号79に示すアミノ酸配列を有し、成熟したMDX-L2H2の重鎖は、配列番号80に示すアミノ酸配列を有する(すべての変異体および元々のMDX-L2H2配列において同一)。
【0070】
本発明の特定の実施形態においては、特異的結合分子は、
(i)配列番号32、配列番号34、または配列番号48~51に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号36または配列番号37、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列を含むか、またはそれらのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域と、
(ii)配列番号33または配列番号35に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列を含むか、またはそれらのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、を含む。このような特異的結合分子は、抗体(特に、モノクローナル抗体)であってもよいし、例えば、Fab、F(ab’)、Fab’、Fv、またはscFvなどの、上述した抗体断片であってもよい。
【0071】
特異的結合分子は、MDX-L1H4もしくはMDX-L2H2の軽鎖および重鎖を含むヒト化モノクローナル抗体、またはその変異体であってもよい。この抗体においては、軽鎖および重鎖は、シグナル配列を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。したがって、特異的結合分子は、
(i)配列番号40、配列番号42、配列番号44~47、配列番号54、または配列番号75~79に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号36または配列番号37、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号41、配列番号43、配列番号55、または配列番号80に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含んでいてもよい。
【0072】
好ましい実施形態においては、特異的結合分子は、
(i)配列番号40、配列番号44、配列番号46、配列番号54、配列番号75、または配列番号76に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号36または配列番号37、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号41または配列番号55に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む。
【0073】
他の好ましい実施形態においては、特異的結合分子は、
(i)配列番号42、配列番号45、配列番号47、または配列番号77~79に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号36または配列番号37、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号43または配列番号80に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む。
【0074】
他の好ましい実施形態においては、特異的結合分子は、
(i)配列番号54、配列番号75、または配列番号76に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号36または配列番号37、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号55に示すアミノ酸配列、あるいは、このアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む。
【0075】
他の好ましい実施形態においては、特異的結合分子は、
(i)配列番号77~79に示すアミノ酸配列、あるいは、これらのアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VLCDR1~3それぞれの配列番号1、配列番号36または配列番号37、および配列番号2~3に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、軽鎖と、
(ii)配列番号80に示すアミノ酸配列、あるいは、このアミノ酸配列に対する配列同一性が少なくとも70%(好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)であり、かつCDR配列VHCDR1~3それぞれの配列番号4~6に対する配列同一性が少なくとも85%であるアミノ酸配列、を含むか、またはこのようなアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む。
【0076】
特定の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号40に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号41に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0077】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号42に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号43に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0078】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号44に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号41に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0079】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号45に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号43に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0080】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号46に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号41に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0081】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号47に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号43に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0082】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号54に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号55に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0083】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号75に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号55に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0084】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号76に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号55に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0085】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号77に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号80に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0086】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号78に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号80に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0087】
他の実施形態においては、特異的結合分子は、配列番号79に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、軽鎖と、配列番号80に示すアミノ酸配列を含むか、またはこのアミノ酸配列からなる、重鎖と、を含む抗体である。
【0088】
本発明の特異的結合分子は、好ましくは、高い親和性でAnx-A1に結合する。当業者にとっては公知であるが、リガンド(または結合パートナー)に対する結合分子の親和性、例えば、標的抗原に対する抗体の親和性などについては、結合分子とリガンドとの複合体の解離定数(K)によって定量的に定義することができる。K値が低いということは、リガンドに対する結合分子の結合親和性が高いということに相当する。本発明の特異的結合分子は、20nM未満、好ましくは15nMまたは10nM未満のKで、Anx-A1に結合することが好ましい。本明細書におけるAnx-A1とは、ヒトAnx-A1のアイソフォームのいずれかを意味する。特に、アイソフォームANXA1-003のことをいう場合がある。
【0089】
本発明の特異的結合分子はいずれも、20nM未満、好ましくは15nMまたは10nM未満のKで、Anx-A1に結合することが好ましい。これは特に、本発明の特異的結合分子が抗体である場合である。しかしながら、本発明の特異的結合分子が、scFvなどの抗体断片である場合には、いくつかの実施形態においては、これよりもわずかに低い親和性で、Anx-A1に結合することがある。すなわち、Anx-A1への結合のKは、10nM、15nM、または20nMよりも高くてもよく、例えば、40nM未満であってもよいが、好ましくは20nM未満であってもよい。
【0090】
特異的結合分子のAnx-A1への結合のKは、好ましくは、抗体Mdx001について最適であると特定された結合条件下で測定される。この条件とは、Ca2+イオンが少なくとも1mMの濃度で存在し、場合によってはHEPESが10~20mMの濃度で存在し、pHが7~8、好ましくは生理学的レベルである7.2以上7.5以下である、条件を意味する。NaClは、例えば100~250mMの濃度で存在していてもよく、低濃度の界面活性剤(例えば、ポリソルベート20)が存在していてもよい。この場合の低濃度とは、例えば0.01~0.5%v/vであってもよい。好都合には、実施例で述べるような方法が用いられてもよい。あるいは、本発明の特異的結合分子のヒトAnx-A1への結合を促進すると特定された他の条件が用いられてもよい。
【0091】
特異的結合分子とそのリガンドとの間の相互作用のKを算出し得る方法として、多くの方法が当該技術分野において周知されている。公知の方法としては、SPR(例えば、ビアコア)や、分極変調斜め入射反射率差(OI-RD)などが挙げられる。
【0092】
本発明においては、リガンドに対する親和性が高い特異的結合分子が有利である。なぜなら、一般的に、リガンドに対する親和性が高い特異的結合分子であれば、特定の効果を発揮するのに必要な量が、同じリガンドに対する親和性が低い特異的結合分子よりも少なくなるからである。例えば、特異的結合分子が治療用途に用いられる場合には、リガンドに対する親和性が高い特異的結合分子であれば、必要とされる投与量が、同じリガンドに対する親和性が低い特異的結合分子よりも少なくなることが期待できる。このことは、抗体などの特異的結合分子の投与回数または投与量をより少なくする必要がある患者にとって有利となる場合があり、また、より経済的でもある。なぜなら、治療法に必要とされる特異的結合分子が、より少なくなるからである。
【0093】
本発明は、上述した特異的結合分子を含む製剤も提供する。製剤中の、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子の少なくとも90%は、20nM未満、好ましくは15nMまたは10nM未満のKで結合する。結合分子のKを測定し得る方法、およびKを測定し得る条件については、上述されている。別の実施形態においては、本発明の特異的結合分子を含む製剤が提供され、製剤中の、ヒトAnx-A1と結合する特異的結合分子の少なくとも90%は、これまでに述べてきたようなCDRを有しており、好ましくは、各分子に(例えば、抗体中に)CDRのコピーを2つ含む。またさらなる実施形態においては、本発明の特異的結合分子を含む製剤が提供され、特異的結合分子は、抗体またはその断片であって、該製剤中の、抗体または断片の少なくとも90%は、本発明の抗体または断片である(すなわち、これまでに述べてきたようなCDRを含み、好ましくは、これまでに述べてきたCDRのコピーを2つ含む)。本発明に係るさらに好ましい製剤は、本発明の抗体断片、モノクローナル抗体もしくはその断片、キメラ抗体もしくはその断片、またはヒト化抗体またはその断片を含む。
【0094】
本明細書における「製剤」なる語は、単離された本発明の特異的結合分子を少なくとも含む製品(例えば、溶液または組成物)を意味する。製剤は、特異的結合分子が安定的に保存され得る形態で作成されるべきである。すなわち、特異的結合分子が分解したり変性したりしない、つまり、その構造または活性を失うことのない、形態である。当業者であれば、抗体を保存し得る適切な条件をよく知っているであろう。本発明の製剤は、水溶性製剤(すなわち、水で作成された溶液)、または1種類以上の有機溶媒などの溶媒で作成された製剤もしくは主に溶媒で作成された製剤などの、液体製剤(すなわち、溶液)であってもよい。このような溶媒は、極性溶媒であってもよいし、非極性溶媒であってもよい。あるいは、製剤は、凍結乾燥粉末などの粉末であってもよいし、特異的結合分子の保存に適した他の形態であってもよい。このような選択肢については、本発明の組成物についても同様である。
【0095】
製剤中の、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子の少なくとも90%は、20nM未満、好ましくは15nMまたは10nM未満のKで結合する。好ましくは、製剤中の、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子の少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%は、20nM未満、15nM未満、または10nM未満のKで結合する。この実施形態においては、特異的結合分子は、これまでに述べたように定義されたものであるが、必ずしも本発明の特異的結合分子ではない。すなわち、少なくとも90%のKが、必要とされるKであるかを判別するために、ヒトAnx-A1に結合する特異的結合分子のすべてが評価される。好ましくは、評価される特異的結合分子は、抗体またはその断片である。ヒトAnx-A1とは、ヒトAnx-A1のアイソフォームのいずれかを意味する。特に、アイソフォームANXA1-003のことをいう場合がある。当業者であれば、特異的結合分子のリガンドへの結合のKを算出することができる。本発明の特異的結合分子のKを算出し得る条件、およびこれを達成する方法については、上述されている。90%とは、Anx-A1に結合する特異的結合分子の数の90%(すなわち、Anx-A1に結合する特異的結合分子10のうちの9)を意味し、90%w/wではない。上記のように、Anx-A1に結合する特異的結合分子の少なくとも90%は、20nM未満、好ましくは15nMまたは10nM未満のKで結合する。このことは、製剤が、他の抗原に結合する特異的結合分子を任意の濃度で含むことを排除するものではない。したがって、これにより、ヒトAnx-A1に結合する分子が、概ね均一である、すなわち、類似の機能性を有している、製剤が提供される。
【0096】
本発明の製剤(および組成物)は、添加剤を含んでいてもよく、このことは、抗体または抗体断片などの特異的結合分子の保存に有利な場合がある。例えば、製剤が液体である場合、製剤は、有利には、高濃度のグリセロールまたはエチレングリコールなどの凍結防止剤を含んでいてもよく、例えば、グリセロールまたはエチレングリコールを少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%含んでいてもよい。凍結防止剤は、製剤が低温で凍結するのを防止し、保存中に、特異的結合分子を氷害から保護する。有利には、濃縮スクロース(例えば、少なくとも250mM、少なくとも500mM、少なくとも750mM、または少なくとも1Mのスクロース)が液体製剤に含まれていてもよい。液体製剤は、β-メルカプトエタノールまたはジチオスレイトールなどの抗酸化剤を1種以上、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート剤を1種以上、および担体タンパク質を1種以上(特にウシ血清アルブミン(BSA))を含んでいてもよい。液体製剤は、好ましくは、BSAを1%以下、例えば0,1~0.5%含んでいてもよい。本発明の製剤のpHは、5~8であってもよく、例えば6~8、7~8、または7~7.5であってもよい。pHは、Tris(すなわち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES、またはMOPSなどの緩衝液を製剤に添加することによって維持されてもよい。例えば、製剤は、5~50mMのHEPESを含んでいてもよく、例えば10~20mMのHEPESを含んでいてもよい。本発明の凍結乾燥製剤(または組成物)は、ポリオール(例えば、グリセロールまたはソルビトール)および/または糖(例えば、スクロース、トレハロース、またはマンニトール)などの安定化剤を1種以上含んでいてもよい。製剤は、以下で述べる組成物用に説明されるような追加成分を含んでいてもよい。
【0097】
本発明は、本発明の特異的結合分子をコードする塩基配列を含む核酸分子も提供する。したがって、本発明は、上記で定義されたCDR配列をコードする塩基配列を含む核酸分子を提供する。すなわち、本発明の核酸分子は、下記のものを含む塩基配列を含む:
配列番号1、配列番号36、もしくは配列番号37に示すアミノ酸配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列、をコードする塩基配列VLCDR1と、
配列番号2に示すアミノ酸配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列、をコードする塩基配列VLCDR2と、
配列番号3に示すアミノ酸配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列、をコードする塩基配列VLCDR3と、
配列番号4に示すアミノ酸配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列、をコードする塩基配列VHCDR1と、
配列番号5に示すアミノ酸配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列、をコードする塩基配列VHCDR2と、
配列番号6に示すアミノ酸配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列、をコードする塩基配列VHCDR3。
【0098】
塩基配列VLCDR1は、配列番号20、配列番号85、もしくは配列番号86(それぞれ配列番号1をコードする)に示す塩基配列、配列番号20、配列番号85、もしくは配列番号86が縮重した塩基配列、または配列番号20、配列番号85、もしくは配列番号86に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号20は、Mdx001のVLCDR1のDNA配列であり、配列番号85は、MDX-L1H4のVLCDR1のDNA配列であり、配列番号86は、MDX-L2H2のVLCDR1のDNA配列である。
【0099】
あるいは、塩基配列VLCDR1は、配列番号65もしくは配列番号66(それぞれ配列番号36をコードする)に示す塩基配列、配列番号65もしくは配列番号66が縮重した塩基配列、または配列番号65もしくは配列番号66に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号65は、MDX-L1M2H4のVLCDR1のDNA配列であり、配列番号66は、MDX-L2M2H2のVLCDR1のDNA配列である。
【0100】
あるいは、塩基配列VLCDR1は、配列番号87もしくは配列番号88(それぞれ配列番号37をコードする)に示す塩基配列、配列番号87もしくは配列番号88が縮重した塩基配列、または配列番号87もしくは配列番号88に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号87は、MDX-L1M3H4のVLCDR1のDNA配列であり、配列番号88は、MDX-L2M3H2のVLCDR1のDNA配列である。
【0101】
塩基配列VLCDR2は、配列番号21もしくは配列番号67に示す塩基配列、配列番号21もしくは配列番号67が縮重した塩基配列、または配列番号21もしくは配列番号67に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号21は、Mdx001のVLCDR2のDNA配列であり、配列番号67は、MDX-L1H4およびMDX-L2H2(MDX-L1H4およびMDX-L2H2の変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、およびMDX-L2M3H2を含む)のVLCDR2のDNA配列である。
【0102】
塩基配列VLCDR3は、配列番号22、配列番号68、もしくは配列番号69に示す塩基配列、配列番号22、配列番号68、もしくは配列番号69が縮重した塩基配列、または配列番号22、配列番号68、もしくは配列番号69に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号22はMdx001のVLCDR3のDNA配列であり、配列番号68は、MDX-L1H4(その変異体であるMDX-L1M2H4およびMDX-L1M3H4を含む)のVLCDR3のDNA配列であり、配列番号69は、MDX-L2H2(その変異体であるMDX-L2M2H2およびMDX-L2M3H2を含む)のVLCDR3のDNA配列である。
【0103】
塩基配列VHCDR1は、配列番号23、配列番号70、もしくは配列番号71に示す塩基配列、配列番号23、配列番号70、もしくは配列番号71が縮重した塩基配列、または配列番号23、配列番号70、もしくは配列番号71に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号23はMdx001のVHCDR1のDNA配列であり、配列番号70は、MDX-L1H4(その変異体であるMDX-L1M2H4およびMDX-L1M3H4を含む)のVHCDR1のDNA配列であり、配列番号71は、MDX-L2H2(その変異体であるMDX-L2M2H2およびMDX-L2M3H2を含む)のVHCDR1のDNA配列である。
【0104】
塩基配列VHCDR2は、配列番号24もしくは配列番号72に示す塩基配列、配列番号24もしくは配列番号72が縮重した塩基配列、または配列番号24もしくは配列番号72に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号24はMdx001のVHCDR2のDNA配列であり、配列番号72は、MDX-L1H4およびMDX-L2H2(これらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、およびMDX-L2M3H2を含む)のVHCDR2のDNA配列である。
【0105】
塩基配列VHCDR3は、配列番号25、配列番号73、もしくは配列番号74に示す塩基配列、配列番号25、配列番号73、もしくは配列番号74が縮重した塩基配列、または配列番号25、配列番号73、もしくは配列番号74に対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を有していてもよい。配列番号25はMdx001のVHCDR3のDNA配列であり、配列番号73は、MDX-L1H4(その変異体であるMDX-L1M2H4およびMDX-L1M3H4を含む)のVHCDR3のDNA配列であり、配列番号74は、MDX-L2H2(その変異体であるMDX-L2M2H2およびMDX-L2M3H2を含む)のVHCDR3のDNA配列である。(好ましい塩基配列に関連する好ましい態様においては、配列番号20~25または配列番号65~74に対する塩基配列の配列同一性は、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。)
【0106】
当業者であれば、遺伝暗号の縮重の結果、多くの塩基配列が、本明細書に記載のCDRなどの所与のアミノ酸配列をコードし得るということを理解するであろう。縮重した塩基配列とは、具体的には、1位から始まる基準塩基配列の読み枠内において、同一のタンパク質(またはタンパク質配列)をコードする2つ(またはそれ以上)の塩基配列を意味する(すなわち、コード配列のコドン1は基準塩基配列の1位~3位に相当する)。したがって、例えば、配列番号20が縮重した塩基配列は、配列番号20とは異なるが、遺伝暗号の縮重により、配列番号20と同じタンパク質配列、すなわち、配列番号1のCDRのアミノ酸配列をコードする、塩基配列である。
【0107】
各CDRの配列は、本発明の核酸分子に含まれている。これらの配列は、好ましくは、その間に適切なリンカー配列を備えており、これによって、標的エピトープに結合するようにCDRを提示する適切なフレームワークが、発現時に提供される。重鎖および軽鎖のCDRは、発現時に、異なるポリペプチド上に発現されるように提示されてもよい。本発明のいくつかの実施形態においては、重鎖および軽鎖のCDRは、別々の核酸分子に含まれている。このような分子対は、本発明のさらなる態様を形成する。以下で述べるコンストラクト、ベクター、および宿主細胞は、すべてのCDRを含む単一の核酸分子を組み込むか、または含んでいてもよいし、重鎖および軽鎖のCDRを別々に含む、2つの異なる核酸分子を組み込むか、または含んでいてもよい。
【0108】
本発明の特異的結合分子をコードする塩基配列は、好ましくは、抗体またはその断片をコードしていてもよい。このような抗体またはその断片は、該抗体または抗体断片の重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む。この実施形態においては、塩基配列は、好ましくは、Mdx001(あるいは、MDX-L1H4もしくはMDX-L2H2、またはこれらの変異体)抗体の可変ドメインの配列をコードする。すなわち、本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号18(または配列番号32、配列番号34、配列番号48、配列番号49、配列番号50、もしくは配列番号51)の配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列の軽鎖可変ドメインと、配列番号19(または配列番号33もしくは配列番号35)の配列、またはこの配列に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%であるアミノ酸配列の重鎖可変ドメインとをコードする塩基配列を含む。
【0109】
本発明の核酸分子は、単離された核酸分子であってもよく、DNAまたはRNA、あるいはDNAまたはRNAの化学的誘導体をさらに含んでいてもよい。「核酸分子」なる語は、具体的には、DNAおよびRNAの一本鎖形態および二本鎖形態を含む。
【0110】
本発明の特異的結合分子をコードする核酸分子を調製する方法は、当該技術分野において周知されており、例えば、本発明の核酸分子を構築するのに、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるクローニング法を用いることができる。本発明の特異的結合分子をコードする塩基配列は、特定の種または特定の起源の細胞における発現のためにコドン最適化されていてもよく、例えば、この配列は、CHO細胞における発現のために、ハムスターに最適化されていてもよい。
【0111】
したがって、本発明の特定の実施形態においては、本発明の核酸分子は、Mdx001の軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードする塩基配列を含む。特に、塩基配列は、ハムスター細胞、具体的にはCHO細胞における発現のためにコドン最適化されていてもよい。この実施形態においては、軽鎖可変ドメインの塩基配列および重鎖可変ドメインの塩基配列は、それぞれ配列番号28および配列番号29であってもよいし、これらの配列に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%である配列であってもよい。別の実施形態においては、完全軽鎖塩基配列および完全重鎖塩基配列は、コドン最適化されていてもよく、例えば、軽鎖および重鎖の塩基配列は、それぞれ、配列番号30および配列番号31に示される塩基配列(これらは、シグナル配列をコードする配列を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい)、またはこれらの配列に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%である配列であってもよいし、このような配列を含んでいてもよい。
【0112】
本発明の他の好ましい実施形態においては、本発明の特異的結合分子をコードする塩基配列は、MDX-L1H4、MDX-L2H2、またはこれらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、もしくはMDX-L2M3H2の軽鎖及び重鎖、あるいはこれらの可変領域またはCDRを含む、抗体またはその断片をコードする。MDX-L1H4の軽鎖は、配列番号81に示す塩基配列にコードされ、MDX-L1M2H4の軽鎖は、配列番号57に示す塩基配列にコードされ、MDX-L1M3H4の軽鎖は、配列番号89に示す塩基配列にコードされている。MDX-L1H4(その変異体であるMDX-L1M2H4およびMDX-L1M3H4を含む)の重鎖は、配列番号58に示す塩基配列にコードされている。MDX-L1H4の軽鎖の可変領域は、配列番号82に示す塩基配列にコードされ、MDX-L1M2H4の軽鎖の可変領域は、配列番号59に示す塩基配列にコードされ、MDX-L1M3H4の軽鎖の可変領域は、配列番号90に示す塩基配列にコードされている。MDX-L1H4の重鎖の可変領域は、配列番号60に示す塩基配列にコードされている。
【0113】
MDX-L2H2の軽鎖は、配列番号83に示す塩基配列にコードされ、MDX-L2M2H2の軽鎖は、配列番号61に示す塩基配列にコードされ、MDX-L2M3H2の軽鎖は、配列番号91に示す塩基配列にコードされている。MDX-L2H2(その変異体であるMDX-L2M2H2およびMDX-L2M3H2を含む)の重鎖は、配列番号62に示す塩基配列にコードされている。MDX-L2H2の軽鎖の可変領域は、配列番号84に示す塩基配列にコードされ、MDX-L2M2H2の軽鎖の可変領域は、配列番号63に示す塩基配列にコードされ、MDX-L2M3H2の軽鎖の可変領域は、配列番号92に示す塩基配列にコードされている。MDX-L2H2の重鎖の可変領域は、配列番号64に示す塩基配列にコードされている。
【0114】
したがって、本発明の核酸分子は、MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、もしくはMDX-L2M3H2、またはこれらの変異体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列と、MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体の重鎖可変領域をコードする塩基配列とを含んでいてもよい。MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、もしくはMDX-L2M3H2(またはこれらの変異体)の軽鎖可変領域をコードする塩基配列は、配列番号59、配列番号63、配列番号82、配列番号84、配列番号90、もしくは配列番号92に示す塩基配列、配列番号59、配列番号63、配列番号82、配列番号84、配列番号90、もしくは配列番号92が縮重した塩基配列、または配列番号59、配列番号63、配列番号82、配列番号84、配列番号90、もしくは配列番号92に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を含んでいてもよいし、このような塩基配列からなるものであってもよい。MDX-L1H4、またはMDX-L2H2(またはこれらの変異体)の重鎖可変領域をコードする塩基配列は、配列番号60もしくは配列番号64に示す塩基配列、配列番号60もしくは配列番号64が縮重した塩基配列、または配列番号60もしくは配列番号64に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を含んでいてもよいし、このような塩基配列からなるものであってもよい。
【0115】
あるいは、本発明の核酸分子は、MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、もしくはMDX-L2M3H2、またはこれらの変異体の軽鎖をコードする塩基配列と、MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体の重鎖をコードする塩基配列とを含んでいてもよい。MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、もしくはMDX-L2M3H2(またはこれらの変異体)の軽鎖をコードする塩基配列は、配列番号57、配列番号61、配列番号81、配列番号83、配列番号89、もしくは配列番号91に示す塩基配列、配列番号57、配列番号61、配列番号81、配列番号83、配列番号89、もしくは配列番号91が縮重した塩基配列、または配列番号57、配列番号61、配列番号81、配列番号83、配列番号89、もしくは配列番号91に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を含んでいてもよいし、このような塩基配列からなるものであってもよい。MDX-L1H4、またはMDX-L2H2(またはこれらの変異体)の重鎖をコードする塩基配列は、配列番号58もしくは配列番号62に示す塩基配列、配列番号58もしくは配列番号62が縮重した塩基配列、または配列番号58もしくは配列番号62に対する配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を含んでいてもよいし、このような塩基配列からなるものであってもよい。
【0116】
さらなる選択肢においては、本発明の核酸分子は、ヒトAnx-A1に結合し、MDX-L1H4、またはMDX-L2H2、またはこれらの変異体であるMDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2M2H2、もしくはMDX-L2M3H2、またはこれらの変異体の(これまでに述べたような)CDR配列を有する、特異的結合分子をコードする塩基配列を含んでいてもよい。好ましくは、配列番号20、配列番号65、配列番号66、もしくは配列番号85~88に示すVLCDR1の(すなわち、VLCDR1をコードする)塩基配列、配列番号21もしくは配列番号67に示すVLCDR2の塩基配列、配列番号22、配列番号68、もしくは配列番号69に示すVLCDR3の塩基配列、配列番号23、配列番号70、もしくは配列番号71に示すVHCDR1の塩基配列、配列番号24もしくは配列番号72に示すVHCDR2の塩基配列、および配列番号25、配列番号73、もしくは、配列番号74に示すVHCDR3の塩基配列、または配列番号20、配列番号65、配列番号66、配列番号85~88、配列番号21、配列番号67、配列番号22、配列番号68、配列番号69、配列番号23、配列番号70、配列番号71、配列番号24、配列番号72、配列番号25、配列番号73、もしくは配列番号74のそれぞれが縮重した塩基配列、または配列番号20、配列番号65、配列番号66、配列番号85~88、配列番号21、配列番号67、配列番号22、配列番号68、配列番号69、配列番号23、配列番号70、配列番号71、配列番号24、配列番号72、配列番号25、配列番号73、もしくは配列番号74のそれぞれに対する配列同一性が少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%である塩基配列を含んでいてもよい。好ましくは、上記本発明の実施形態においては、塩基配列は、Mdx001、MDX-L1H4、MDX-L1M2H4、MDX-L1M3H4、MDX-L2H2、MDX-L2M2H2、またはMDX-L2M3H2(ならびにこれらが縮重した配列および配列同一性関連配列)の塩基配列であり、例えば、MDX-L1M2H4の場合、配列番号65、配列番号67、配列番号68、配列番号70、配列番号72、および配列番号73である。
【0117】
本発明は、さらに、本発明の核酸分子を含むコンストラクトを提供する。このコンストラクトは、好都合には、本発明の核酸分子を含む組み換えコンストラクトである。このコンストラクトにおいて、本発明の核酸分子は、本発明の核酸分子のクローニングを容易にするために、制限部位(すなわち、1つ以上の制限酵素によって認識される塩基配列)に隣接していてもよい。本発明のコンストラクトにおいて、本発明の特異的結合分子をコードする塩基配列は、好都合には、該コンストラクト内で、核酸分子とは異種起源の、すなわち、外来である、発現制御配列に作動可能に連結されていてもよい。このような発現制御配列は、典型的にはプロモーターであるが、特異的結合分子をコードする塩基配列は、代わりに、または追加的に、ターミネーター配列、オペレーター配列、エンハンサー配列などの他の発現制御配列に作動可能に連結されていてもよい。したがって、このコンストラクトは、内在プロモーターを含んでいてもよいし、外来プロモーターを含んでいてもよい。
【0118】
「作動可能に連結される」なる語は、単一核酸断片上において、2つ以上の核酸分子が、一方の機能が他方の影響を受けるように結合していることをいう。例えば、プロモーターが、コード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合(すなわち、コード配列が、プロモーターの転写制御下にある場合)、プロモーターは、コード配列に作動可能に連結している。コード配列が調節配列に対して作動可能に連結されるのは、センス方向であってもよいし、アンチセンス方向であってもよい。
【0119】
「発現制御配列」なる語は、コード配列の上流(5’非翻訳配列)、コード配列の内部、またはコード配列の下流(3’非翻訳配列)に位置し、転写、RNAプロセシングもしくはRNA安定性、または関連するコード配列の翻訳に影響を及ぼす塩基配列のことをいう。発現制御配列は、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、翻訳リーダー配列、TATAボックス、B認識因子などを含み得る。本明細書における「プロモーター」なる語は、コード配列またはRNAの発現を制御することができる塩基配列のことをいう。適切な例を以下に挙げる。一般的に、コード配列は、プロモーター配列の3’側に位置する。プロモーターは、その全体が内在遺伝子に由来するものであってもよいし、天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なる因子からなるものであってもよいし、さらには、合成塩基部分を含むものであってもよい。たいていの場合、調節配列の正確な境界は、完全に規定されていないので、長さが異なる核酸断片が等しい調節活性を有する場合があるということが、さらに認識されている。
【0120】
本発明のコンストラクトを調製する方法は、当該技術分野において周知されており、例えば、公知の方法を用いて適切なコンストラクト(例えば、発現制御配列を含む)に挿入され得る本発明の核酸分子を構築するのに、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング法を用いることができる。
【0121】
本発明は、さらに、本発明の核酸分子またはコンストラクトを含むベクターを提供する。本明細書における「ベクター」なる語は、本発明の核酸分子またはコンストラクトを導入し得る(例えば、共有結合的に挿入し得る)担体のことをいい、特異的結合分子またはこれをコードするmRNAを発現し得、かつ/または本発明の核酸分子/コンストラクトをクローニングし得る。したがって、ベクターは、クローニングベクターであってもよいし、発現ベクターであってもよい。
【0122】
本発明の核酸分子またはコンストラクトは、当該技術分野において公知である適切ないずれの方法を用いて、ベクターに挿入されてもよい。例えば、ベクターおよび核酸分子を適切な制限酵素を用いて消化し、次いで、適合する付着末端を有する核酸分子とともにライゲーションを行ってもよいし、適宜、消化済み核酸分子を、平滑末端クローニングによって消化済みベクターにライゲーションしてもよいが、これらに限定されない。
【0123】
ベクターは、細菌ベクターであっても原核生物ベクターであってもよく、真核生物ベクター、特に哺乳類ベクターであってもよい。本発明の核酸分子またはコンストラクトは、汎用クローニングベクター、特に、大腸菌(Escherichia coli)クローニングベクターなどの細菌クローニングベクターで産生されてもよいし、そのようなベクターに導入されてもよい。このようなベクターとしては、pUC19、pBR322、pBluescriptベクター(ストラタジーン社(Stratagene Inc.))、およびpCR2.1-TOPOなどのpCR TOPO(登録商標)(インビトロジェン社(Invitrogen Inc.))が挙げられる。
【0124】
本発明の核酸分子またはコンストラクトは、本発明の特異的結合分子を発現するための発現ベクター、特に哺乳類発現ベクターにサブクローニングされてもよい。発現ベクターは、様々な発現制御配列を含むことができる。転写および翻訳を制御する制御配列に加えて、ベクターは、例えばベクター複製や選択マーカーなどの他の機能を果たす追加的な核酸配列を含んでいてもよい。
【0125】
発現ベクターは、各宿主細胞における遺伝子の効率的な転写および翻訳に必要な、プロモーター配列(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、PGKプロモーター、またはEF1aプロモーターなど、特にヒトCMV(HCMV)プロモーター)、リボソーム認識結合TATAボックス、翻訳開始位置のコザック配列、および3’UTR AATAAA転写終止配列などの、5’上流調節因子および3’下流調節因子を有するべきである。他のプロモーターとしては、恒常的シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、HIV LTRプロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、EBV最初期プロモーター、およびラウス肉腫ウイルスプロモーターなどが挙げられる。ヒト遺伝子プロモーターを用いてもよく、その例としては、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、およびクレアチンキナーゼプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態においては、誘導性プロモーターを用いてもよい。これによって、核酸分子の発現のオンオフを切り替えることができる分子スイッチが提供される。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、またはテトラサイクリンプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
さらに、発現ベクターは、核酸分子の効率的な転写の促進または向上を可能にするエンハンサー配列および/またはターミネーター配列として機能し得る、5’非翻訳調節配列および3’非翻訳調節配列を含んでいてもよい。
【0127】
ベクターの例としては、プラスミド、自己複製配列、および転位因子が挙げられる。さらなる例示的なベクターとしては、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)や細菌人工染色体(BAC)、PI由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファージ、および動物ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターとして有用な動物ウイルスの分類の例としては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
特に好ましい発現ベクターは、ケトルボロー(Kettleborough)ら(プロテイン・エンジニアリング(Protein Eng),Vol.4(7):773~783,1991)に開示されている発現ベクターであり、この発現ベクターは、具体的には、キメラ化または再構築されたヒトの軽鎖および重鎖を、哺乳類細胞において発現するように設計されたものである。このベクターは、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の転写用のエンハンサーおよびプロモーターと、適切なヒト軽鎖および重鎖の定常領域と、形質転換された細胞を選択するためのネオマイシン耐性遺伝子(neo)などの遺伝子と、宿主細胞におけるDNA複製のためのSV40転写開始点とを含む。
【0129】
本方法は、さらに、本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、原核細胞(例えば、細菌細胞)であってもよいし、真核細胞(例えば、哺乳類細胞)であってもよい。特に、本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターのクローニング宿主として、原核細胞が用いられてもよい。クローニング宿主として用いられる適切な原核細胞としては、グラム陰性生物またはグラム陽性生物などの真正細菌が挙げられ、例えば、エシェリヒア属(Escherichia)、特に大腸菌(E. coli)などの腸内細菌科や枯草菌(B. subtilis)などのバシラス綱(Bacilli)が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、クローニング宿主は、真菌細胞(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、つまり酵母細胞)などの真核細胞であってもよいし、さらには、哺乳類細胞などの高等真核細胞であってもよい。
【0130】
あるいは、本発明の宿主細胞は、産生宿主、すなわち、本発明の特異的結合分子を発現、産生するのに用いられる細胞であってもよい。産生宿主細胞は、上記定義したような原核細胞であってもよいが、好ましくは真核細胞である。産生宿主は、ピキア・パストリス、つまり酵母細胞などの真菌細胞であってもよいが、好ましくは哺乳類細胞であり、特に、齧歯類細胞、ヒト細胞、または別の霊長類の細胞である。
【0131】
本発明に係る産生宿主を構成し得る細胞の具体例としては、COS-7細胞などのCos細胞、HEK293細胞、CHO細胞が挙げられるが、適切ないずれの細胞種または細胞系が用いられてもよい。
【0132】
本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターは、宿主細胞の染色体に組み込まれてもよいし、染色体外に維持されていてもよい。核酸分子、コンストラクト、またはベクターは、当該技術分野において公知のいずれの方法によって宿主細胞に導入されてもよい。このような方法として、特に原核細胞の場合は、形質転換、形質導入、および接合が挙げられる。形質転換とは、DNAの直接的な取り込みによる、形質転換受容性のある細菌の遺伝子変異のことをいう。形質導入とは、目的のDNAを導入するために、バクテリオファージを用いて細菌に感染させることをいう。接合とは、直接接触している細菌細胞間の、遺伝物質の直接輸送のことをいう。
【0133】
真核細胞の場合、核酸分子、コンストラクト、およびベクターは、遺伝子導入または形質導入によって導入され得る。遺伝子導入は、当該技術分野において公知の様々な手段によって実現され得る。そのような手段としては、リン酸カルシウム-DNA共沈、DEAE-デキストラン媒介遺伝子導入、ポリブレン媒介遺伝子導入、電気穿孔法、顕微注射、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、および遺伝子銃が挙げられるが、これらに限定されない。形質導入とは、遺伝子導入よりむしろウイルス感染を利用することによって、ウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターを用いて遺伝子を輸送することをいう。ある実施形態においては、細胞との接触の前に、ウイルス粒子またはビリオンにレトロウイルスベクターをパッケージ化することによって、ベクターを形質導入する。当業者であれば、このような遺伝物質を宿主細胞に導入する適切な方法をよく知っている。
【0134】
本発明は、本明細書で定義されるような特異的結合分子を調製する方法も提供し、該方法は、
i)本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターを宿主細胞に導入することと、
ii)前記特異的結合分子を産生するように前記核酸分子を発現することと、
iii)好ましくは精製によって、前記特異的結合分子を回収することと、を含む。
本方法で用いられる宿主細胞は、本発明が提供する宿主細胞に関して上述した通りである。本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターを宿主細胞に導入する方法は、上述した通りである。有利には、本発明の核酸分子、コンストラクト、またはベクターは、これらが導入された宿主細胞を選択し得るように、選択マーカーを含む。選択マーカーの例としては、アンピシリン耐性遺伝子(例えば、β-ラクタマーゼ)、カナマイシン耐性遺伝子、またはクロラムフェニコール耐性遺伝子(例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。哺乳類細胞で用いるのに特に適した選択マーカーとしては、ハイグロマイシンBに対する耐性を付与するハイグロマイシン-Bホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hph)、抗生物質G418に対する耐性をコードするTn5由来のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neoまたはaph)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子、アデノシン脱アミノ酵素遺伝子(ADA)、および多剤耐性(MDR)遺伝子が挙げられる。
【0135】
核酸分子、コンストラクト、またはベクターを導入した細胞は、その後、例えば、選択マーカーによる耐性付与対象の化合物に曝露することによって、適宜容易に選択され得る。本発明の特定の実施形態においては、DHFR遺伝子を欠くCHO細胞が、DHFR遺伝子を含む本発明のベクターで遺伝子導入または形質導入され、細胞内のDHFR機能を回復する。その後、合成にDHFRを必要とするチミジンを欠く培地で培養を行うことによって、遺伝子導入された細胞を選択する。
【0136】
本発明の核酸分子の「発現」とは、核酸分子内の、本発明の特異的結合分子をコードする遺伝子、すなわち塩基配列が、本発明の特異的結合分子を産生するように、転写および翻訳されることを意味する。本発明の特異的結合分子を産生する、核酸分子の発現は、遺伝子発現を駆動するのに用いられるプロモーターに応じて、恒常的であってもよいし、誘導的であってもよい。当業者にとっては、宿主細胞で遺伝子を発現することは容易であるが、発現条件の最適化が必要となる場合がある。これは、十分に、当業者の能力の範囲内である。
【0137】
産生宿主が産生する特異的結合分子は、最終的に回収される。本方法で産生される特異的結合分子の「回収」とは、単純に、特異的結合分子が産生宿主細胞から分離されることを意味する。回収は、必ずしも特異的結合分子の単離を伴わないが、好ましくは、特異的結合分子は、精製によって単離される。特異的結合分子は、宿主細胞から分泌されるように産生されてもよい。例えば、特異的結合分子は、シグナル配列を伴って産生されてもよい。特異的結合分子が宿主細胞から分泌される場合には、最も簡便には、例えば培養液の遠心分離によって、培養上清を単に単離することで回収することができる。したがって、特異的結合分子は、産生宿主細胞から分離するにつれて、回収される。抗体の重鎖および軽鎖は、もともと、N末端シグナル配列とともにコードされているので、これらを産生する細胞から分泌される。好ましくは、本発明の特異的結合分子は、宿主細胞から分泌されるように産生される。例えば、シグナル配列とともに産生されてもよい(したがって、本発明の核酸分子は、特異的結合分子をシグナル配列とともにコードしていてもよい)。ポリペプチド鎖が、適切な膜(細菌では細胞膜、真核生物ではER膜)を横切って移動すると、シグナル配列は切断され、成熟したポリペプチド配列が得られる。特異的結合分子は、シグナル配列を含むものも含まないものも、本発明の範囲に含まれる。
【0138】
本発明の特異的結合分子が、宿主細胞から分泌されるように産生されない場合は、特異的結合分子は、この分子を産生した宿主細胞を収集して破砕することによって、回収されてもよい。当業者であれば、この作業を容易に行うことができる。宿主細胞は、遠心分離によって収集され、例えば、超音波処理、フレンチプレス、タンパク質抽出試薬(例えば、バグバスター(BugBuster)(登録商標)、EMDミリポア社(EMD Millipore)(米国))を用いた化学的破砕、またはアブカム社(AbCam)(英国)もしくはシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(米国)などが製造する哺乳類細胞破砕キットなどによって破砕されてもよい。
【0139】
本発明の特異的結合分子は、好ましくはその後精製される。特異的結合分子を精製する方法については、先に述べた。好ましくは、w/wベースで評価した場合に、特異的結合分子が、溶液または組成物(溶媒を除く)中に存在する他の成分と比べて少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%、95%)となるように、精製を行う。
【0140】
上記の方法で得られる特異的結合分子は、本発明の範囲に含まれる(すなわち、その特定の方法を用いない場合であっても、このような方法を用いた場合に得られる分子の性質を有している)。本発明は、その方法を用いて得られる特異的結合分子にも及ぶ。このような特異的結合分子は、上述した本発明が提供する特異的結合分子の性質を有している。上記の方法で得られる特異的結合分子は、ポリペプチドであり、好ましくは抗体または抗体の断片である。
【0141】
本発明は、さらに、本明細書で開示される特異的結合分子または製剤と、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。本発明の組成物は、薬学的技術分野で公知の方法および手順にしたがった好都合な様式で、処方されてもよい。特異的結合分子は、薬学的に許容される塩の形態で提示されてもよく、このような場合、組成物はそれに応じて調製される。本明細書における「薬学的に許容される」とは、組成物の他の成分と共存し、かつ受容者が生理学的に許容できる成分のことをいう。組成物および担体または賦形物質の種類や投与量などは、好みや、望ましい投与経路、治療目的などに応じて、所定の様式で選択されてもよい。また、投与量も、所定の様式で決定されてもよく、分子の種類、治療目的、患者の年齢、投与形態などによって決まってもよい。
【0142】
医薬組成物は、被験体に投与するために、適切ないずれの手段によって調製されてもよい。このような投与は、例えば、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所投与、経膣投与、または非経口投与であってもよい。本明細書における経口投与は、頬側投与および舌下投与を含む。本明細書における局所投与は、経皮投与を含む。本明細書で定義される非経口投与は、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与、および皮内投与を含む。
【0143】
本明細書で開示する医薬組成物としては、溶液またはシロップ、粉末、細粒、錠剤、またはカプセルなどの固形組成物、クリーム、軟膏、および当該技術分野において一般的に用いられるその他の組成物の形式が挙げられる。このような組成物に用いられる薬学的に許容される適切な希釈剤、担体、および賦形剤は、当該技術分野においてよく知られている。
【0144】
例えば、適切な賦形剤としては、ラクトース、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、ステアリン酸またはその塩、植物油、蝋、脂肪、およびポリオールが挙げられる。適切な担体または希釈剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストロース、トレハロース、リポソーム、ポリビニルアルコール、医薬品グレードのデンプン、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース(および他の糖)、炭酸マグネシウム、ゼラチン、油脂、アルコール、界面活性剤、およびポリソルベートなどの乳化剤が挙げられる。安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料などが用いられてもよい。
【0145】
溶液か、懸濁液か、その他類似の形態である、液体医薬組成物は、以下に挙げるもののうちの1つ以上を含んでいてもよい:すなわち、注射用水、食塩水(好ましくは生理学的な)、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、溶媒または懸濁媒として働き得る合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリド等の不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、あるいは他の溶媒などの滅菌済希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調整するための薬剤である。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨て注射器、または複数回投与バイアルに封入することができる。注射可能な医薬組成物は、好ましくは滅菌済である。
【0146】
本発明の医薬組成物は、治療(または予防)する疾患に適した様式で投与されてもよい。投与量および投与回数は、患者の状態ならびに患者の疾患の種類および重症度などの要因によって決定されるが、適切な投与量は、臨床試験によって決定されてもよい。好都合には、本発明の特異的結合分子は、1日に1回、週に1回、または月に1回の投与で被験体に提供されてもよいし、中間的な頻度で提供されてもよい。例えば、投与は、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、もしくは6日毎に、または2週間毎、3週間毎、4週間毎、5週間毎、もしくは6週間毎に、または2ヶ月毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、5ヶ月毎、もしくは6ヶ月毎に、または年に1回もしくは年に2回、行われてもよい。投与は、1μg/kg~10mg/体重kgなどの10ng/kg~100mg/kgの量で、例えば10μg/kg~1mg/kgの量で、行われてもよい。熟練の臨床医であれば、年齢、身長、体重、治療する病気、および重症度などのすべての関連要因に基づいて、患者への適切な投与量を算出することができるであろう。
【0147】
本発明の医薬組成物は、さらに、少なくとも1種の治療上有効な第2の薬剤を含んでいてもよい。すなわち、この組成物は、本発明の特異的結合分子および他の治療薬の両方を含んでいてもよい。治療上有効な第2の薬剤は、例えば、薬物分子、第2の特異的結合分子(すなわち、ヒトAnx-A1ではないリガンドに結合する特異的結合分子)などであってもよい。治療上有効な第2の薬剤は、治療期間中に本発明の特異的結合分子が被験体に投与される病気を治療するための第2の薬剤であってもよい。すなわち、組成物中の本発明の特異的結合分子および第2の治療薬は、いずれも、同じ疾病または病気を治療することが意図される。
【0148】
第2の治療薬は、特に、抗炎症薬または抗炎症性分子、あるいは免疫調節薬または免疫調節性分子であってもよい。特に、免疫調節薬は、免疫抑制剤である。このような薬物としては、グルココルチコイド(例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、またはトリアムシノロン)などのステロイド;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、アスピリン、イブプロフェン、セレコキシブ、またはナプロキセン);または免疫選択性抗炎症性誘導体(ImSAID)などの抗炎症性ペプチドが挙げられる。
【0149】
治療法における使用のための、本明細書で定義された特異的結合分子、製剤、または医薬組成物も提供される。治療法とは、被験体を治療することを意味する。本明細書における「治療法」とは、病気を治療することを意味する。このような治療は、予防的(prophylactic)(すなわち、防止的(preventative))であってもよいし、治癒的(または、治癒的であることが意図される治療)であってもよいし、緩和的(すなわち、病気の症状を単に制限、軽減、または改善するように設計された治療)であってもよい。本明細書で定義される被験体とは、哺乳類のことをいい、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、またはヤギなどの家畜や、ウサギ、ネコ、またはイヌなどのペット動物、サル、チンパンジー、ゴリラ、またはヒトなどの霊長類である。最も好ましくは。被験体はヒトである。
【0150】
本発明は、さらに、T細胞媒介疾患、強迫神経症(OCD)、またはOCD関連疾患の治療における使用のための、本明細書で定義された特異的結合分子、製剤、または医薬組成物を提供する。Anx-A1に特異的な抗体は、OCDの治療(WO2013/088111、これは参照により本明細書に援用される)およびT細胞媒介疾患の治療(WO2010/064012およびWO2011/154705、いずれも参照により本明細書に援用される)に有用であることが見出されており、したがって、同様にアネキシン-A1に特異的である本明細書に記載の特異的結合分子は、これらの目的に用いられ得る。
【0151】
同様に、本発明は、T細胞媒介疾患、OCD、OCD関連疾患を治療する方法を提供し、該方法は、それを必要とする被験体に、本明細書で定義される特異的結合分子、製剤、または医薬組成物を投与することを含む。別表現では、本発明は、被験体におけるT細胞媒介疾患、OCD、またはOCD関連疾患の治療に用いられる薬剤の製造における、本明細書で定義される特異的結合分子または製剤の使用も提供する。
【0152】
好ましくは、本発明の特異的結合分子、製剤、または医薬組成物は、それを必要とする被験体に、治療上有効な量で投与される。「治療上有効な量」とは、被験体の病気に対して効果を示すのに十分な量を意味する。被験体の病気に対して効果を示すのに十分な量であるかどうかは、被験体自身、または医師/獣医によって決定されてもよい。
【0153】
本明細書における「T細胞媒介疾患」とは、T細胞が疾患または病気の病因または進展に関与している、疾患または病気のことを意味する。T細胞媒介疾患は、典型的には、異常なT細胞の活性化に起因し、したがって、本発明の特異的結合分子、製剤、または医薬組成物を用いて実現されるように、Anx-A1の活性を阻害することによって治療され得る。
【0154】
T細胞媒介疾患としては、特に、自己免疫疾患、移植片対宿主疾患、移植片拒絶、アテローム性動脈硬化症、流産、およびHIV/AIDSが挙げられるが、これらに限定されない。本発明にしたがって治療され得る具体的な自己免疫疾患としては、慢性関節リュウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、アジソン病、グレーブス病、強皮症、多発性筋炎、糖尿病、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、潰瘍性大腸炎、尋常性天疱瘡、炎症性腸疾患、自己免疫性甲状腺炎、ブドウ膜炎、ベーチェット病、シェーグレン症候群、および乾癬が挙げられる。
【0155】
本発明にしたがって治療され得るT細胞媒介疾患としては、流産が含まれる。制御されないT1T細胞応答が、流産に関係している場合があることが知られている一方、T2T細胞応答を向上させることは、妊娠に好都合である。したがって、Anx-A1に結合することでT1応答を弱め、T2応答を向上させる本発明の特異的結合分子を用いて妊婦を予防的に治療することで、流産を防止し得る。
【0156】
本発明にしたがって治療され得るT細胞媒介疾患としては、アテローム性動脈硬化症も含まれる。炎症が、冠動脈疾患、およびアテローム性動脈硬化症の他の兆候において重要な役割を担っている。免疫細胞が、初期のアテローム性動脈硬化症病変の大半を占めており、免疫細胞が産生するエフェクター分子が、病変の進展を促進する。したがって、本発明の特異的結合分子を被験体に投与することによって実現されるように、免疫細胞応答を弱めることによって、アテローム性動脈硬化症を緩和または遅延し得る。
【0157】
本発明が治療に特に有用であるT細胞媒介疾患としては、慢性関節リュウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、および全身性エリテマトーデス(SLE)が含まれる。
【0158】
上記のように、Anx-A1に結合する特異的結合分子が、OCDおよびOCD関連疾患の治療に有効であることも見出されている(WO2013/088111)。したがって、このような病気を治療するのに、本発明の特異的結合分子を用い得る。
【0159】
本発明を用いて治療され得る、OCDに関連する疾患としては、抜毛癖、自傷性皮膚症、トゥーレット症候群、アスペルガー症候群、食欲不振、多食症、鬱病、パニック障害、パニック発作、双極性障害、心気症、外傷性ストレス障害、社会不安障害、統合失調症、注意欠陥多動性障害、または身体醜形障害が挙げられる。好ましい実施形態においては、本発明を用いて治療される、OCDに関連する疾患は、不安障害である。不安障害としては、全般性不安障害、社会不安障害、パニック障害、パニック発作、および外傷性ストレス障害が挙げられ、これらはそれぞれ、本発明を用いて治療され得る。
【0160】
本願において引用される文献は、すべて、参照によりその全体が本明細書に援用される。
本発明は、以下の限定しない実施例を参照することによって、さらに理解されるであろう。
【0161】
配列の定義
【表1-1】
【表1-2】
【図面の簡単な説明】
【0162】
図の説明
図1図1は、ELISAアッセイの結果を示し、Mdx001のAnx-A1への結合を実証している。A492の値は、二次抗体に結合されたHRPによるOPD分解に比例しており、これは、Mdx001の結合を表している。
図2図2は、Mdx001のAnx-A1への結合をビアコア解析した結果を示す。図2A図2B、および図2Cは、それぞれ、個別のアッセイの結果を表す。アッセイ1(図2A)は、Kが9.43nMであることを示し、アッセイ2(図2B)は、Kが9.58nMであることを示し、アッセイ3(図2C)は、Kが6.46nMであることを示す。
図3図3は、MDX-L1H4およびMDX-L2H2、ならびにMDX-L1H4およびMDX-L2H2から作成された変異体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域を示す。配列は、一文字表記のアミノ酸コードで表される。CDR配列を太字で示す。変異体配列におけるアミノ酸置換(MDX-L1H4およびMDX-L2H2との比較)が強調されている。
図4図4は、ELISAアッセイの結果を示し、抗体MDX-L1H4およびその変異体のAnx-A1への結合(A)、ならびに抗体MDX-L2H2およびその変異体のAnx-A1への結合(B)を実証している。図1と同様に、A492の値は、二次抗体に結合されたHRPによるOPD分解に比例しており、これは、抗体のAnx-A1への結合を表している。
図5図5は、MDX-L1M2H4およびMDX-L2M2H2のAnx-A1への結合をビアコア解析した結果を示す。図5A図5Cは、それぞれ、MDX-L1M2H4のAnx-A1への結合についての個別のアッセイの結果を表し、図5D図5Fは、それぞれ、MDX-L2M2H2のAnx-A1への結合についての個別のアッセイの結果を表す。MDX-L1M2H4について、アッセイ1(図5A)は、Kが3.96nMであることを示し、アッセイ2(図5B)は、Kが3.94nMであることを示し、アッセイ3(図5C)は、Kが4.04nMであることを示す。MDX-L2M2H2について、アッセイ1(図5D)は、Kが4.44nMであることを示し、アッセイ2(図5E)は、Kが4.37nMであることを示し、アッセイ3(図5F)は、Kが5.17nMであることを示す。
【0163】
実施例
実施例1:ハイブリドーマECACC10060301が産生するAnx-A1結合抗体の配列決定
ハイブリドーマECACC10060301からmRNAを抽出した。逆転写プロトコルを用いて、抽出したmRNAからcDNAを転写した。独自のプライマーを用いた、アルデブロン(Aldevron)(米国)社の標準的なダイターミネーターキャピラリー配列決定法によって、cDNAの配列を決定した。
【0164】
ライフ・テクノロジー(Life Technologies)社(登録商標)が提供する標準的なプロトコルのもと、ビッグダイ(登録商標)ターミネーターv3.1サイクルシークエンシングキットを用いて、サイクル配列決定法を行った。3730xlDNA分析装置システムと、3730xlDNA分析装置を操作し、3730xlDNA分析装置が産生するデータを収集するための、ライフ・テクノロジー社提供によるユニファイド・データ・コレクション・ソフトウェア(Unified Data Collection software)とを用いて、すべてのデータを収集した。
【0165】
コドンコード・アライナー(CodonCode Aligner)(コドンコード・コーポレーション社(CodonCode Corporation)、米国)を用いて、配列の構築を行った。混合ベースコールは、最も一般的なベースコールを混合ベースコールに対して自動的に割り当てることによって、解析される。普及率は、ベースコールの頻度およびベースコール個々の質の両方によって決定される。
【0166】
cDNAの配列決定によって得られた軽鎖可変領域および重鎖可変領域の配列を、それぞれ配列番号26および配列番号27に示す。
【0167】
配列番号26および配列番号27に示す配列を、公知の生殖細胞系列のデータベースに対して処理して、その抗体の生殖細胞系列を同定した。これによって、軽鎖について得られた配列は、一部が切れて、N末端のアミノ酸5個を欠いていることが示された。同定した生殖細胞系列の配列に基づいて、フュージョン・アンティボディズ社(Fusion Antibodies)(英国)によって完全配列が再構築され、CHO細胞での発現のためにコドン最適化を行った。コドン最適化された可変ドメインの配列は、配列番号28(軽鎖)および配列番号29(重鎖)に示すものである。
【0168】
実施例2:Anx-A1結合Mdx001抗体の産生
コドン最適化された配列を、標準的な組み換え技術を用いてベクターpD2610-v13(ATUM社、米国)にクローン化し、ExpiCHO細胞(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社、米国)に遺伝子導入した。200mlの培養液を作成した。プロテインAアフィニティカラムを用いて、細胞上清から抗体(Mdx001)を回収し、リン酸緩衝液培地へ溶出させた。
【0169】
実施例3:Mdx001はAnx-A1に結合する
Mdx001のAnx-A1への結合を、標準的なELISA法を用いるアンティボディ・カンパニー社(The Antibody Company)(英国)が行ったELISAによって確認した。25μg/mlのAnx-A1およびコーティング緩衝液(1mM CaClを添加した45mM NaCO、pH9.6)を用いて、4℃で一晩、ELISAプレートをコーティングした。(Mdx001のAnx-A1への結合に、Ca2+が必要であることが見出されたので、すべての結合実験は、1mM CaCl存在下で行われた。)
【0170】
その後、ブロッキング緩衝液(1mM CaCl、10mM HEPES、2%w/v BSA)を用いて、室温で1時間、プレートのブロッキングを行った。次いで、一次抗体(Mdx001)をプレートに加えた。抗体は、プレートの全体に4倍希釈で2回塗布した。すなわち、1μg/mlの濃度から始まって、最後は2.38×10-7μg/mlの濃度とした。0.1 BSAを添加した洗浄緩衝液(10mM HEPES,150mM NaCl、0.05%(v/v) Tween-20、および1mM CaCl)で抗体を希釈した。一次抗体を、プレートに室温で1時間添加した後、洗浄緩衝液を用いてプレートを洗浄した。
【0171】
次いで、検出抗体を加えた。検出には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウス抗体(シグマ・アルドリッチ社、A2554)を、1:1000に希釈して用いた。これを、室温で1時間、ELISAプレートに加えた。その後、洗浄緩衝液を用いてELISAプレートを洗浄した。
【0172】
次に、比色用基質であるOPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩、シグマ・アルドリッチ社、P4664)をプレートに加えた。OPD溶液を製造者の説明書にしたがって作成し、リン酸-クエン酸緩衝液(pH5)を用いた0.4mg/ml OPD溶液を得た。使用直前に、OPD溶液100mlあたり40μlの30% Hを加えた。その後、得られたOPD溶液100μlを、プレートの各ウェルに加えた。
【0173】
室温、暗所で20分間、プレートをインキュベートし、その後、50μlの3M HSOを加えて反応を停止させた。HSOの添加直後に、プレートの492nmにおける吸光度を読み取った(492nmにおける吸光度を、A492と略記する)。Mdx001は、Anx-A1によく結合することが見出された。結果を表1および図1に示す。希釈率が非常に高い場合を除いて、Mdx001は、プレートの端から端まで結合することが見出された。抗Anx-A1抗体の希釈率が最も高い場合であっても、ブランク値と抗体の希釈率が最も高い場合の値との間に見られる吸光度の違いによって、いくらか結合していることは明らかである。(ブランクのウェルは、コーティング緩衝液中25μg/mlのAnx-A1でコーティングし、一次抗体を加えなかったこと以外は、実験用のウェルと同様に処理した。)一次抗体(Mdx001)が0.0625μg/mlを下回ると、結合は急速に低下する。一次抗体の濃度が3.9×10-3μg/mlを下回ると、結合は平衡状態になるように見える。
【0174】
【表2】
【0175】
実施例4:Mdx001のアネキシン-A1への結合のビアコア解析
ビアコア解析は、ドイツ、チュービンゲン大学のNMIにて行った。標準的なビアコアの手順を用いて、上述したようにCHO細胞で発現させた精製Mdx001を解析した。
【0176】
ランニング緩衝液は、以下の通りであった。すなわち、10mM HEPES、150mM NaCl、1mM CaCl、0.05%v/v Tween20、pH7.4である。この緩衝液を0.22μMのフィルターを用いて濾過し、15分間の超音波処理によって脱気した。
【0177】
ヤギ抗マウスIgGを介して、Mdx001をチップ上に固定した。ランニング緩衝液中、リガンド(Anx-A1)を固定化抗体上に流した。Anx-A1は、5nM、10nM、20nM、40nM、または80nMの濃度で用いた。各実験において、合計で150μlのAnx-A1含有ランニング緩衝液を、30μl/分の流速で抗体上に流した。
【0178】
10mM グリシン-HClの再生緩衝液(pH2)を用いて、再生を行った。チップを再生するために、70μlの再生緩衝液を、10μl/分の流速でチップ上に流した。
【0179】
実験は3回行った。3回の実験のそれぞれの結果を、図2に示す。3回の実験において、Mdx001のAnx-A1への結合のK値は、9.43nM、9.58nM、および6.46nMであり、平均は8.49nMであった。
【0180】
実施例5:Mdx001のヒト化
公知のヒトフレームワーク領域配列の抗体構造およびデータベース解析を併用する標準的なCDR移植法を用いて、Mdx001をヒト化した。用いたフレームワーク領域はすべて、ヒトから単離された成熟IgG由来であった。よって、免疫原性がなく、CDRループの基本的な構造を保持していることが期待される。
【0181】
ヒト化プロセスによって、これまでに説明してきた配列を有する2つの抗体、MDX-L1H4およびMDX-L2H2が得られた。
【0182】
実施例6:Mdx002のAnx-A1への結合
標準的なバイオインフォマティクスの手段を用いてヒト化抗体を解析して、翻訳後修飾の可能性がある部位を同定した。脱アミド化が、抗体における主な分解経路であるので、脱アミド化モチーフであるSer-Asn-Gly、Glu-Asn-Asn、Leu-Asn-Gly、およびLeu-Asn-Asnについて、ヒト化配列を確認した。MDX-L1H4/MDX-L2H2のVLCDR1において、Ser-Asn-Glyの配列を有する脱アミド化モチーフが同定された。MDX-L1H4およびMDX-L2H2を改変して、この配列モチーフを除いた。機能的な改変VLCDR1配列を同定するために、改変VLCDR1配列を含むヒト化抗体を作成した。
【0183】
各ヒト化抗体について、3つの変異体を作成した。図3は、MDX-L1H4およびMDX-L2H2から作成された変異体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域を示す。
【0184】
第1の改変抗体である変異体1(すなわち、MDX-L1M2H4)は、配列番号36に示すアミノ酸配列、すなわち、11位のグリシン残基のアラニン残基への置換を有するVLCDR1を含んでいた。第2の改変抗体である変異体2(すなわち、MDX-L1M3H4)は、配列番号37に示すアミノ酸配列、すなわち、9位のセリン残基のスレオニン残基への置換を有するVLCDR1を含んでいた。第3の改変抗体である変異体3(注釈がLC1(mod1)HC4となっている)は、10位のアスパラギン残基のアスパラギン酸残基への置換を有するMdx001の改変VLCDR1配列を含んでいた。LC1(mod1)HC4のVLCDR1配列は、配列番号56に示す。
【0185】
MDX-L2H2由来の変異体は、VLCDR1に同じ改変を含む限りにおいて、MDX-L1H4由来の変異体と関連している。それらは、変異体1(MDX-L2M2H2)、変異体2(MDX-L2M3H2)、および変異体3(LC2(mod1)HC2)と称する。
【0186】
いずれの抗体も、実施例5で述べたような、ヒト化可変ドメインおよびヒト化定常ドメインを含んでいた。他の点では、CDR配列は、MDX-L1H4およびMDX-L2H2と比べて変化しておらず、上述したVLCDR1の改変を除いて、それらの元々の配列と同一であった。
【0187】
初めに、改変ヒト化抗体のAnx-A1の結合について、実施例3で述べたのと同じ方法を用いて、ELISAによって調べた。ELISAの結果を図4に示す。対照として、MDX-L1H4およびMDX-L2H2を用いた。図4Aに見られるように、MDX-L1M2H4(LC1(mod2)HC4)およびMDX-L1M3H4(LC1(mod3)HC4)(ならびに、MDX-L2M2H2(LC2(mod2)HC2)およびMDX-L2M3H2(LC2(mod3)HC2)、図4B)は、MDX-L1H4(またはMDX-L2H2)と同等にAnx-A1に結合したが、LC1(mod1)HC4(およびLC2(mod1)HC2)のAnx-A1への結合は、対照の場合よりも顕著に弱かった。このことによって、Mdx001のVLCDR1におけるアスパラギン10のアスパラギン酸への置換は、抗体のAnx-A1への結合に負の影響を与えるということが実証された。しかしながら、同じCDR配列におけるグリシン11のアラニンへの置換、またはスレオニン9のセリンへの置換は、結合に負の影響を与えなかった。
【0188】
ELISAの結果を鑑みて、LC1(mod1)HC4抗体およびLC2(mod1)HC2抗体を除いた。改変VLCDR1配列を有する抗体の中で最もよく結合することが実証されたLC1(mod2)HC4抗体およびLC2(mod2)HC2抗体について、さらなる解析を進めた。LC1(mod2)HC4およびLC2(mod2)HC2のAnx-A1への結合を、実施例4で述べたのと同じ方法を用いて、ビアコアによって定量化した。実施例4と同様に、ビアコアの実験は3回行った。3回の実験のそれぞれの結果を図5に示す。ここに示すように、LC1(mod2)HC4の場合、3回の実験において、K値は、3.96nM、3.94nM、および4.04nMであり、平均は3.98nMであった。このことによって、Anx-A1への結合のKが3.98nMであるLC1(mod2)HC4は、Anx-A1への結合のKが8.49nMであるMdx001よりも顕著に高い親和性でAnx-A1に結合することが実証された。LC1(mod2)HC4の名称を、MDX-L1M2H4とした。LC2(mod2)HC2の場合、3回の実験において、K値は、4.44nM、4.37nM、および5.17nMであり、平均は4.66nMであった。このことによって、Anx-A1への結合のKが4.66nMであるLC2(mod2)HC2も、Anx-A1への結合のKが8.49nMであるMdx001よりも顕著に高い親和性でAnx-A1に結合することが実証された。LC2(mod2)HC2の名称を、MDX-L2M2H2とした。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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