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特許7189145改変された膜脂質組成を有するリコンビナントホスト細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】改変された膜脂質組成を有するリコンビナントホスト細胞
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20221206BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221206BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N1/19 ZNA
C12N15/31
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019553357
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2018057853
(87)【国際公開番号】W WO2018178126
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】17163588.1
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504135837
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム エルツェーファウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】516257822
【氏名又は名称】ヴァリドーゲン・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Validogen GmbH
(73)【特許権者】
【識別番号】391003864
【氏名又は名称】ロンザ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】グリリッチュ,カールハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ダウム,ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】グルチュ,アンドレアス
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/157761(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/158800(WO,A1)
【文献】特表2013-535185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029853(US,A1)
【文献】特表2010-519917(JP,A)
【文献】特表2002-514077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、
前記ホスト細胞中において、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過剰発現させることにより、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現しないホスト細胞と比較して、前記目的のタンパク質の収率を向上させることを含み、
ここで、脂質代謝に関与する前記タンパク質は、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送及び/又はエルゴステロール生合成に関与し、
ここで、脂質代謝に関与する前記少なくとも1種のタンパク質は、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又は前記少なくとも1種のタンパク質の機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有
ここで、前記ホスト細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)である
方法。
【請求項2】
スフィンゴ脂質生合成に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:1~9のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1~9のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、
リン脂質生合成に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:10に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:10に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、又は
脂質輸送に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:11に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、又は
エルゴステロール生合成に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
-脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログの少なくとも1種をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過剰発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、前記ホスト細胞は、目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;及び
-脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養することをみ、
ここで、前記ホスト細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、
目的のタンパク質を製造する方法。
【請求項4】
配列番号:1~15のいずれか1つから選択される脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログの1、2、3、4、5、6、7、8種又はそれ以上がさらに過剰発現され、ここで機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
スフィンゴ脂質生合成に関与する下記少なくとも1種のタンパク質
(a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(b)配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(c)配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、配列番号:3に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(d)配列番号:1及び2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び2に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(e)配列番号:1及び3に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び3に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(f)配列番号:1、3及び4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、3及び4に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(g)配列番号:1、3、4及び8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、3、4及び8に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(h)配列番号:5及び6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:5及び6に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(i)配列番号:1及び7に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び7に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(j)配列番号:5、6及び9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:5、6及び9に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する;又は
(k)配列番号:1、5、6及び9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、5、6及び9に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する
が過剰発現される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、
リン脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、又は
スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び少なくとも1種のシャペロンが過剰発現され、又は
エルゴステロール生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び少なくとも1種のシャペロンが過剰発現される、
請求項4記載の方法。
【請求項7】
スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質輸送に関与するタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、又は
リン脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:10に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質輸送に関与するタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:10及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、又は
スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、シャペロンが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び18に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、又は
エルゴステロール生合成に関与するタンパク質が、配列番号:13、配列番号:14もしくは配列番号:15に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、シャペロンが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:13及び18に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
目的のタンパク質を製造するための、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であるリコンビナント真核生物ホスト細胞であって、
ホスト細胞は、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過剰発現するように操作されており、
ここで、脂質代謝に関与する前記タンパク質は、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、
ホスト細胞。
【請求項9】
真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、
前記ホスト細胞中において、脂質代謝に関与する配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過少発現させることにより、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現しない前記ホスト細胞と比較して、前記目的のタンパク質の収率を向上させることを含み、
ここで、前記ホスト細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)である
方法。
【請求項10】
-脂質代謝に関与し、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有し、前記ホスト細胞は、目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;及び
-脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過少発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養することを
ここで、前記ホスト細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、
目的のタンパク質を製造する方法。
【請求項11】
目的のタンパク質を製造するための、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)であるリコンビナント真核生物ホスト細胞であって、
ホスト細胞は、脂質代謝に関与する配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過少発現するように操作されている、
ホスト細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、リコンビナントバイオテクノロジーの分野、特に、タンパク質発現の分野にある。本発明は、一般的には、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現し又は過少発現することにより、ホスト細胞から目的のタンパク質(POI)を発現する方法に関する。本発明は、特に、目的のタンパク質を発現し及び/又は分泌するホスト細胞の能力を改善すること並びにタンパク質発現のためのホスト細胞の使用に関する。また、本発明は、細胞培養技術に関し、より具体的には、医療目的のための所望の分子又は食品もしくは飼料製品を製造するために細胞を培養することに関する。
【0002】
発明の背景
目的のタンパク質(POI)の産生の成功は、原核生物ホスト及び真核生物ホストの両方により達成されてきた。最も顕著な例は、細菌、例えば、Escherichia coli、酵母、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastorisもしくはHansenula polymorpha、糸状菌、例えば、Aspergillus awamoriもしくはTrichoderma reesei又はほ乳類細胞、例えば、CHO細胞である。一部のタンパク質の収率は、高率で容易に達成されるが、多くの他のタンパク質は、比較的低いレベルでのみ産生される。
【0003】
一般的には、異種タンパク質合成は、種々のレベルで制限される場合がある。潜在的な制限は、転写及び翻訳、タンパク質フォールディング並びに該当する場合、分泌、ジスルフィド架橋形成及びグリコシル化並びにターゲットタンパク質の凝集及び分解である。転写は、強力なプロモーターを利用するか又は異種遺伝子のコピー数を増やすことにより増強することができる。しかしながら、これらの手段は、明らかにプラトーに達し、転写の下流の他のボトルネックにより、発現が制限されることが示される。
【0004】
また、ホスト細胞における高レベルのタンパク質収率は、1つ以上の異なる工程、例えば、フォールディング、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、細胞内での輸送又は細胞からの放出においても制限される場合がある。関与するメカニズムの多くは、依然として完全には理解されておらず、ホスト生物の全ゲノムのDNA配列が利用可能である場合であっても、最高水準の現在の知識に基づいて予測することはできない。更に、リコンビナントタンパク質を高収率で産生する細胞の表現型は、増殖速度が低下し、バイオマス形成が減少し、細胞適応度が全体として低下する場合がある。
【0005】
タンパク質のフォールディング、アミノ酸の外部供給等を容易にすべきシャペロンの過剰発現等の、目的のタンパク質の産生を改善するための種々の試みが、当技術分野において行われてきた。
【0006】
しかしながら、目的のタンパク質を産生し及び/又は分泌するためのホスト細胞の能力を改善する方法が依然として必要とされている。本発明の根底にある技術的課題は、この必要性を満たすことである。
【0007】
この技術的課題の解決策は、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドをホスト細胞中において過剰発現させ又は過少発現させることにより、真核生物ホスト細胞中において目的の非膜タンパク質の収率を向上させるための手段、例えば、操作されたホスト細胞、前記手段を適用する方法及び手段の提供である。これらの手段、方法及び使用は、本明細書に詳細に記載され、特許請求の範囲に提示され、実施例に例示され、図面に図示されている。
【0008】
したがって、本発明は、単純かつ効率的であり、工業的方法における使用に適した、ホスト細胞におけるリコンビナントタンパク質の収率を向上させるための、新規な方法及び使用を提供する。また、本発明は、この目的を達成するためのホスト細胞も提供する。
【0009】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別途明確に示さない限り、複数の言及を含み、その逆もまた同様であることに留意されたい。このため、例えば、「ホスト細胞(a host cell)」又は「方法(a method)」への言及はそれぞれ、1つ以上のこのようなホスト細胞又は方法を含み、「方法(the method)」への言及は、当業者に公知の改変又は置換することができる同等の工程及び方法を含む。同様に、例えば、「方法(methods)」又は「ホスト細胞(host cells)」への言及はそれぞれ、「ホスト細胞(a host cell)」又は「方法(a method)」を含む。
【0010】
特に断りない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連の要素における全ての要素を指すものと理解されたい。当業者であれば、過度の試行錯誤をすることなく、本明細書に記載された本発明の具体的な実施態様に対する多くの均等物を理解し又は確認できるであろう。このような均等物は、本発明に包含されることが意図される。
【0011】
本明細書のどこかで使用される場合はいつでも、「及び/又は」という用語は、「及び」、「又は」及び「前記用語により接続される要素の全て又は任意の他の組み合わせ」の意味を含む。例えば、A、B及び/又はCは、A、B、C、A+B、A+C、B+C及びA+B+Cを意味する。
【0012】
本明細書で使用する場合、「約」又は「およそ」という用語は、所定の値又は範囲の20%以内、好ましくは、10%以内、より好ましくは、5%以内を意味する。また、これは、具体的な数も含み、例えば、約20は、20を含む。
【0013】
「以下」、「以上」又は「より大きい」という用語は、具体的な数を含む。例えば、20以下は、≦20を意味し、20以上は、≧20を意味する。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲又は項目全体にわたって、文脈が別段の要求をしない限り、「含む(comprise)」という語並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の変形例は、記載された整数(又は工程)又は整数(又は工程)のグループの包含を暗示するものと理解されるであろう。これは、他の整数(又は工程)又は整数(又は工程)のグループを何ら排除しない。本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」は、「含有する(containing)」、「構成される(composed of)」、「含む(including)」、「有する(having)」又は「有する(carrying)」により置換することができ、その逆もまた同様である。例として、「有する(having)」という用語は、「含む(comprising)」という用語により置換することができる。本明細書で使用する場合、「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲/項目で指定されていない任意の整数又は工程を除外する。本明細書で使用する場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲/項目の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない整数又は工程を除外しない。本明細書における各例では、「含む」、「から本質的になる」及び「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のいずれかと置き換えることができる。
【0015】
更に、本発明の代表的な実施態様を説明するのにおいて、本明細書は、本発明の方法及び/又はプロセスを特定の並びの工程として提示する場合がある。ただし、方法又はプロセスが本明細書で説明された工程の特定の順序に依存しない限り、方法又はプロセスは、記載された特定の並びの工程に限定されるべきではない。当業者であれば理解するであろうように、他の並びの工程も可能である場合がある。したがって、本明細書で説明された工程の特定の順序は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。加えて、本発明の方法及び/又はプロセスに向けられる特許請求の範囲は、それらの工程の実施を記載された順序に限定しないべきであり、当業者であれば、この並びは、本発明の趣旨及び範囲内で変更され、依然として維持することができると、容易に理解することができる。
【0016】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法、プロトコール、材料、試薬及び物質等に限定されないと、理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施態様を説明するのを目的とするのみであり、特許請求の範囲/項目によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0017】
本明細書の本文全体を通して引用される全ての刊行物及び特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造メーカーの仕様書、説明書等を含む)は、上記されたか又は下記されるかに関わらず、その全体が参照により組み入れられる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先の発明を根拠にそのような開示により先行する権利がないことを認めるものとして解釈されない。参照により組み入れられる材料が本明細書と矛盾するか又は一致しない限りにおいて、本明細書は、任意のこのような材料に取って代わるであろう。
【0018】
発明の概要
本発明は、発現、好ましくは、過剰発現により目的のタンパク質(POI)の収率の向上がもたらされる、脂質代謝に関与するタンパク質(本発明の「ヘルパータンパク質」)をコードするポリヌクレオチド配列(本発明のポリヌクレオチド)の驚くべき発見に基づいている。本開示は、ホスト細胞が脂質代謝に関与する少なくとも1種、すなわち、1種以上のタンパク質を過剰発現可能なようにホスト細胞を操作することにより、POIの収率を改善するのに有用な方法及び材料を提供する。好ましいポリヌクレオチドは、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示されるアミノ酸配列を含む(脂質代謝に関与する)ヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードし、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0019】
また、本発明は、過少発現により目的のタンパク質(POI)の収率の向上がもたらされる、脂質代謝に関与するタンパク質(「本発明のヘルパータンパク質」)をコードするポリヌクレオチド配列(「本発明のポリヌクレオチド」)の驚くべき発見に基づいている。このようなヘルパータンパク質は、本明細書において、「KOタンパク質」又は「KOヘルパータンパク質」とも呼ばれる場合がある。したがって、「ヘルパータンパク質」又は「ヘルパー遺伝子」又は「ヘルパー因子」等の用語は、「KOヘルパータンパク質」又は「KOヘルパー遺伝子」又は「KOヘルパー因子」も含み、これが技術的に意味をなす場合(すなわち、過少発現によりPOIの収率の向上がもたらされる場合)、本出願の本文中における場合であっても、使用される用語は、「ヘルパータンパク質」又は「ヘルパー遺伝子」又は「ヘルパー因子」等のみである。また、本開示は、ホスト細胞が脂質代謝に関与する少なくとも1種、すなわち、1種以上のタンパク質を過少発現可能なようにホスト細胞を操作することにより、POIの収率を改善するのに有用な方法及び材料も提供する。好ましいポリヌクレオチドは、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含む(脂質代謝に関与する)KOタンパク質又はその機能的ホモログをコードし、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:16又は17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0020】
本発明者らの発見は、脂質代謝が真核生物ホスト細胞、特に真菌ホスト細胞における目的のタンパク質の収率を向上させるのに関連しないというのが本発明までの知識の最良のものであったため、むしろ驚くべきことである。理論に拘束されるものではないが、脂質代謝の改変により、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞における生体膜脂質組成を改変されることにより、リコンビナントタンパク質産生に正の影響を及ぼす。
【0021】
脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、本明細書に記載された少なくとも1種のヘルパータンパク質の過剰発現により、目的のタンパク質の収率向上をもたらす、本明細書に記載されたホスト細胞の膜、特に、細胞膜又は小胞体膜の脂質組成が変化されると推定される。
【0022】
具体的には、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、本明細書に記載された少なくとも1種のヘルパータンパク質の過剰発現により、好ましくは、セラミド及び/もしくはイノシトール含有ホスホリルセラミド(例えば、イノシトールホスホリルセラミド(IPC)、マンノシル-イノシトールホスホリルセラミド(MIPC)、マンノシル-ジイノシトールホスホリルセラミド(M(IP)2C))のC26脂肪アシル部分の量を減らし並びに/又はセラミド及び/もしくはイノシトール含有ホスホリルセラミド(例えば、イノシトールホスホリルセラミド(IPC)、マンノシル-イノシトールホスホリルセラミド(MIPC)、マンノシル-ジイノシトールホスホリルセラミド(M(IP)2C))のC24脂肪アシル部分の量を減らすことによって、スフィンゴ脂質の分子種パターンが変化し、目的のタンパク質の収率向上がもたらされる。
【0023】
好ましくは、セラミド、例えば、IPC、MIPC及びM(IP)2Cに組み込まれた26個の炭素(C26)の鎖長の脂肪アシルの相対量は、少なくとも100%増加し、一方、24個の炭素(C24)の鎖長の脂肪アシルの相対量は、少なくとも70%まで減少する。
【0024】
好ましくは、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、本明細書に記載された少なくとも1種のヘルパータンパク質の過剰発現により、セラミド及びIPC分類上のイノシトール含有ホスホリルセラミド(IPC、MIPC、M(IP)2C)の、C24の代わりに優先的にC26を含有する脂肪アシル部分である、ほとんどのスフィンゴ脂質の分子種パターンの変化がもたらされる。C26の量は、空のベクターと比較して、少なくとも100%まで向上したスフィンゴ脂質(セラミド、IPC、MIPC及びM(IP)2C)の種類により決まる。
【0025】
脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、本明細書に記載された少なくとも1種のヘルパータンパク質の過剰発現により、IPC及びMIPCの量(約230%)が減少し及び/又はイノシトール含有ホスホリルセラミドであるM(IP)2Cの成熟型の形成が少なくとも6倍(600%)増加し、その結果、目的のタンパク質の収率が向上するとも推定される。
【0026】
更に、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質、好ましくは、本明細書に記載された少なくとも1種のヘルパータンパク質(ここでは、KOヘルパータンパク質)の過少発現により、非極性貯蔵脂質トリアシルグリセロール(TG)が枯渇し、その結果、目的のタンパク質の収率が向上すると推定される。
【0027】
「収率」という用語は、本明細書に記載されたPOI又はモデルタンパク質、特に、SDZ-Fab(重鎖については配列番号:37及び軽鎖については配列番号:38)及びHyHEL-Fab(重鎖については配列番号:39及び軽鎖については配列番号:40)それぞれの量を指し、これらは、例えば、操作されたホスト細胞から収穫され、収率の向上は、ホスト細胞によるPOIの生産量又は分泌量の増加に起因する場合がある。収率は、mg POI/g バイオマス ホスト細胞(乾燥細胞重量又は湿細胞重量として測定される)により表現することができる。本明細書で使用する場合、「力価」という用語は、同様に、mg POI/L 培養上清として表現される、産生されたPOI又はモデルタンパク質の量を指す。収率の向上は、操作されたホスト細胞から得られる収率が操作前のホスト細胞から、すなわち、操作されていないホスト細胞から得られる収率と比較される場合に決定することができる。好ましくは、本明細書で使用する場合、「収率」は、本明細書に記載されたモデルタンパク質の文脈において、実施例4cに記載されたように決定される。したがって、本明細書で使用する場合、「収率」は、本明細書に記載されたモデルタンパク質の文脈において、「Fab収率」又は「Fab力価」とも呼ばれる。Fab力価は、mg/Lとして与えられ、Fab収率は、mg/g バイオマス(乾燥細胞重量又は湿細胞重量として測定)として与えられる。SDZ-Fab及びHyHEL-Fabは、それぞれ、配列番号:41及び42並びに配列番号:43及び44に示されるヌクレオチド配列によりコードされる。
【0028】
簡潔に、モデルタンパク質であるHyHEL-Fab及びSDZ-Fabそれぞれを発現する、P. pastoris株CBS7435mut pPM2d_pAOX HyHEL及び/又はCBS7435mut pPM2d_pAOX SDZ(それらの生成については、実施例1を参照のこと)を本明細書に記載されたヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドにより操作する。同時過剰発現のために、ヘルパータンパク質をコードする遺伝子をP. pastoris GAPプロモーターの制御下でクローニングし、実施例3b及び実施例4に記載されたFab産生株内にトランスフォーメーションする。また、遺伝子は、P. pastoris AOXプロモーターの制御下にあることもできる。過少発現のために、KOタンパク質又はその機能的ホモログをコードする遺伝子をFab産生株のゲノムからノックアウトする(実施例5を参照のこと)。操作された細胞を、10g/L グリセロール及び50μg/mL ゼオシンを含有するYP培地中において、25℃で一晩増殖させる(実施例4aを参照のこと)。このような培地(最終OD600 2.0に相当)のアリコートを20g/L グルコース及びグルコース供給錠剤を含有する合成培地M2に移し(実施例4aに記載)、25℃で25時間インキュベーションする。培養物を洗浄し、合成培地M2に再懸濁させ、アリコート(最終OD600 4.0に相当)を5g/L メタノールを添加した合成培地M2に移す。メタノール(5g/L)を12時間毎に加える。48時間後、細胞を遠心分離により収集する。バイオマスを、細胞懸濁液 1mLから得られた細胞ペレットの重量を測定することにより決定する。上清をELISAにより、SDZ-Fab又はHyHEL-Fabの定量に使用する(実施例4cに記載)。具体的には、抗ヒトIgG抗体(例えば、ab7497、Abcam)を被覆抗体として使用し、例えば、ヤギ抗ヒト抗ヒトIgG(Fab特異的)抗体(例えば、Sigma A8542、アルカリホスファターゼコンジュゲート)を検出抗体として使用する。市販のヒトFab/カッパ、IgGフラグメントを100ng/mLの開始濃度で標準として使用し、上清サンプルをそれに応じて希釈する。収率の向上は、細胞を操作してポリペプチドを過剰発現させる前後のPOI収率の比較に基づいて決定することができる。実施例に示されたモデルタンパク質であるSDZ-Fab及び/又はHyHEL-Fabを含む標準試験をして、収率差を決定することができる。
【0029】
したがって、本発明は、脂質代謝に関与する1種以上の新たに発見されたポリペプチド(本明細書において、「ヘルパータンパク質」とも呼ばれる)及びPOI収率を向上させるためのその使用に関する。本発明は、配列番号:1~17のいずれか1つに示されるヘルパータンパク質又はその機能的ホモログに基づいているが、これらに限定されない。機能的ホモログの意味は、本願の後の部分で定義される。本発明のヘルパータンパク質のヌクレオチド配列はそれぞれ、配列番号:19~35それぞれに列挙される。本明細書で使用する場合、このようなタンパク質は、本発明において、複数形又は単数形で互換的に言及されるが、これらは、特に断りない限り、単数形であると理解されたい。配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質は、好ましくは、真核生物ホスト細胞中において過剰発現される。一方、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列を含む、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質は、好ましくは、真核生物ホスト細胞中において過少発現される。
【0030】
更に、本発明は、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド(polynucleotides of the present invention)」又は「本発明のポリヌクレオチド(a polynucleotide of the present invention)」と呼ばれる)及びPOI収率を向上させるためのそれらの個々の又は組み合わせた使用に関する。ポリヌクレオチドは、ホスト細胞中に導入することができ又は細胞中に既に存在する場合には、それらが過剰発現されるような様式で操作することができる。ヘルパータンパク質の過剰発現に使用される本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15又はその機能的ホモログをコードする。ポリヌクレオチド配列の例は、配列番号:19~33、例えば、配列番号:19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32又は33に記載されたものである。配列番号:19~33のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドは、好ましくは、真核生物ホスト細胞中において過剰発現される。一方、配列番号34又は35に示されるヌクレオチド配列を含む、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドは、好ましくは、真核生物ホスト細胞中において過少発現される。
【0031】
したがって、本発明は、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを前記ホスト細胞中において過剰発現させることにより、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現しないホスト細胞と比較して、前記目的のタンパク質の収率を向上させることを含む、方法を提供する。好ましくは、脂質代謝に関与する前記ヘルパータンパク質は、転写因子ではない。好ましくは、脂質代謝に関与する前記ヘルパータンパク質は、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0032】
好ましくは、ヘルパータンパク質の過剰発現の文脈において、脂質代謝は、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送又はエルゴステロール生合成である。本発明のヘルパータンパク質の過剰発現による脂質代謝の改変により、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞における生体膜脂質組成が改変されることにより、リコンビナントタンパク質産生が正の影響を受けることができる。したがって、本明細書で使用する場合、過剰発現の文脈における「脂質代謝」という用語は、「生体膜脂質組成の改変」という用語、好ましくは、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞における生体膜脂質組成の改変に置き換えることができる。生体膜脂質組成の改変は、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送又はエルゴステロール生合成により影響を受ける場合がある。
【0033】
更に、本発明は、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させるための方法であって、
-脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示される、好ましくは、配列番号:1~9、配列番号:10、配列番号:11もしくは配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように、ホスト細胞を操作すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する;
-前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように、前記ホスト細胞を操作すること、
-前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、前記ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、方法を提供する。
【0034】
更に、本発明は、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させるための方法であって、
-脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示される、好ましくは、配列番号:1~9、配列番号:10、配列番号:11もしくは配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有し、前記ホスト細胞は、前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;
-脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、方法を提供する。
【0035】
タンパク質の収率を向上させるための方法の文脈において、「ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現/過少発現するように操作する工程」と、「目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように操作する工程」との順序は、「目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように操作する工程」が「ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現/過少発現するように操作する工程」に先行するように、相互に逆転させることができる。特に、本明細書に記載されたように、目的のタンパク質の収率は、ヘルパータンパク質が過剰発現され及び/又はKOタンパク質が過少発現された場合に向上する。
【0036】
また、本発明は、目的のタンパク質を製造するためのリコンビナント真核生物ホスト細胞であって、ホスト細胞は、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作される、ホスト細胞も提供する。
【0037】
好ましくは、本発明は、目的のタンパク質を製造するためのリコンビナントホスト細胞であって、ホスト細胞は、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15、好ましくは、配列番号:1~9、配列番号:10、配列番号:11もしくは配列番号:12~15のいずれか1つを含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作され、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、ホスト細胞を提供する。
【0038】
好ましい実施態様では、ヘルパータンパク質は、好ましくは、過剰発現された場合、ホスト細胞中において、モデルタンパク質であるSDZ-Fab(重鎖については配列番号:37及び軽鎖については配列番号:38;図2)又はHyHEL-Fab(重鎖については配列番号:39及び軽鎖については配列番号:40;図2)の収率を、前記ヘルパータンパク質を過剰発現するように操作される前のホスト細胞と比較して、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は少なくとも200%、好ましくは、少なくとも10%まで向上させることができる。操作前のホスト細胞は、本発明のヘルパータンパク質を過剰発現せず、操作後に、適切な培養条件下でヘルパータンパク質を過剰発現することができる。驚くべきことに、実施例に記載された例示的なリコンビナント細胞は全て、モデルタンパク質であるSDZ-Fab又はHyHEL-Fabの収率を少なくとも20%(1.2倍 変化)まで向上させることができることが見出された。
【0039】
また、本発明は、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを前記ホスト細胞中において過少発現させることにより、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現させない前記ホスト細胞と比較して、前記目的のタンパク質の収率を向上させることを含む、方法に関する。好ましくは、脂質代謝に関与する前記ヘルパータンパク質は、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0040】
したがって、本発明は、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、
-脂質代謝に関与し、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように、ホスト細胞を操作すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、
-前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように、前記ホスト細胞を操作すること、
-前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、前記ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、方法を提供する。
【0041】
また、本発明は、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、
-脂質代謝に関与し、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有し、ここで、前記ホスト細胞は、前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;
-脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過少発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、方法を提供する。
【0042】
タンパク質の収率を向上させるための方法の文脈において、「ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現/過少発現するように操作する工程」と、「目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように操作する工程」との順序は、「目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように操作する工程」が「ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現/過少発現するように操作する工程」に先行するように、相互に逆転させることができる。特に、本明細書に記載されたように、目的のタンパク質の収率は、ヘルパータンパク質が過剰発現され及び/又はKOタンパク質が過少発現された場合に向上する。
【0043】
また、本明細書において、目的のタンパク質を製造するためのリコンビナントホスト細胞であって、ホスト細胞は、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作される、ホスト細胞も提供される。好ましくは、脂質代謝に関与する前記タンパク質は、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0044】
好ましくは、ヘルパータンパク質の過少発現の文脈において、ヘルパータンパク質が関与する脂質代謝は、脂質貯蔵である。好ましくは、ヘルパータンパク質の過少発現の文脈において、ヘルパータンパク質は、転写因子ではない。本発明のヘルパータンパク質の過少発現による脂質代謝の改変により、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞における生体膜脂質組成が改変されることにより、リコンビナントタンパク質産生が正の影響を受けることができる。したがって、本明細書で使用する場合、過少発現の文脈における「脂質代謝」という用語は、「生体膜脂質組成の改変」という用語、好ましくは、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞における生体膜脂質組成の改変に置き換えることができる。生体膜脂質組成の改変は、非極性貯蔵脂質生合成又はリン脂質代謝により影響を受けることができる。
【0045】
好ましい実施態様では、ヘルパータンパク質は、好ましくは、過少発現された場合、ホスト細胞中において、モデルタンパク質であるSDZ-Fab(重鎖については配列番号:37及び軽鎖については配列番号:38)又はHyHEL-Fab(重鎖については配列番号:39及び軽鎖については配列番号:40)の収率を、前記ヘルパータンパク質を過少発現するように操作される前のホスト細胞と比較して、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は少なくとも200%、好ましくは、少なくとも10%まで向上させることができる。操作前のホスト細胞は、本発明のヘルパータンパク質を過少発現せず、操作後に、適切な培養条件下でヘルパータンパク質を過少発現することができる。驚くべきことに、実施例に記載された例示的なリコンビナント細胞は全て、モデルタンパク質であるSDZ-Fab又はHyHEL-Fabの収率を少なくとも20%(1.2倍の変化)まで向上させることができることが見出された。一部の例では、実施例6bに示されたように、収率を80%まで向上させた。
【0046】
また、本発明は、目的のタンパク質(POI)を製造するための、本明細書に記載されたホスト細胞の使用を提供する。ホスト細胞は、1種以上のPOIをコードするポリヌクレオチドを導入するのに有利に使用することができ、その後、POIを発現するのに適切な条件下で培養することができ、それにより、本発明のヘルパータンパク質は、過剰発現され又は過少発現される。
【0047】
脂質代謝に関与し、配列番号:1~17のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)をコードする単離されたポリヌクレオチドも、本発明により提供される。好ましくは、脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つ、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)をコードする単離されたポリヌクレオチドも、本発明により提供される。
【0048】
同様に、ヘルパータンパク質をコードし、配列番号:19~36のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドも、本発明により提供される。ホスト細胞中への組み込み又は目的のタンパク質の製造に使用されるポリヌクレオチドは、好ましくは、配列番号:19~33又は36のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む。同様に、本明細書に記載された単離されたヘルパータンパク質は、目的のタンパク質の製造に使用される。このようなポリヌクレオチドは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質をコードする。
【0049】
また、本発明は、少なくとも0.25%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10% 目的のタンパク質と、本発明のヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含み、ここで、前記ポリヌクレオチドは、異種プロモーターと操作可能に連結している、組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、本発明のヘルパータンパク質のアミノ酸及びポリヌクレオチド配列を示す。
図2図2は、モデルタンパク質であるSDZ-Fab及びHyHEL-Fabそれぞれの重鎖及び軽鎖並びにS.cerevisiaeアルファ接合因子シグナルリーダー配列のアミノ酸配列及びポリヌクレオチド配列を示す。下線を引いた配列部分は、モデルタンパク質配列に融合された配列番号:45又は46のリーダー配列を表わす。
【0051】
本発明の項目
1.真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、
前記ホスト細胞中において、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過剰発現させることにより、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現しないホスト細胞と比較して、前記目的のタンパク質の収率を向上させることを含む、方法。
【0052】
2.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送、脂質貯蔵、エルゴステロール生合成、脂肪酸生合成、ホスファチジン酸生合成及び/又はリン脂質代謝プロセスに関与する、項1記載の方法。
【0053】
3.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、転写因子ではない、項1又は2記載の方法。
【0054】
4.脂質代謝に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0055】
5.スフィンゴ脂質生合成に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:1~9のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1~9のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0056】
6.リン脂質生合成に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:10に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:10に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0057】
7.脂質輸送に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0058】
8.エルゴステロール生合成に関与する前記少なくとも1種のタンパク質が、配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
9.脂質貯蔵に関与する前記タンパク質が、PP7435_Chr4-0493とPP7435_Chr4-0494(ARV1)との間で示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr4-0493とPP7435_Chr4-0494との間で示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0060】
10.
-脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つに示され、好ましくは、配列番号:1~9、配列番号:10、配列番号:11もしくは配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように、ホスト細胞を操作すること、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1~1529のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する;
-目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように、前記ホスト細胞を操作すること、
-前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、前記ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0061】
11.
-脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つに示され、好ましくは、配列番号:1~9、配列番号:10、配列番号:11もしくは配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログの少なくとも1種をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過剰発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有し、ここで、前記ホスト細胞が、目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;
-脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、項1~9のいずれか一項に記載の目的のタンパク質を製造する方法。
【0062】
12.過剰発現が、前記ホスト細胞において、脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする前記ポリヌクレオチドの1、2、3、4つ又はそれ以上のコピーを有することにより達成される、項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0063】
13.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする前記ポリヌクレオチドが、前記ホスト細胞の少なくとも1つの染色体内に組み込まれる、項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【0064】
14.組み込みが、異所性及び/又は天然の遺伝子座にある、項13記載の方法。
【0065】
15.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドが、ホスト細胞ゲノムのAOX1、GAP、ENO1、TEF、HIS4、TYR1、HIS3、LEU2、URA3、LYS2、ADE2、TRP1、GAL1又はADH1遺伝子座に組み込まれる、項14記載の方法。
【0066】
16.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドが、ベクター又はプラスミドに含有される、項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【0067】
17.ベクターが、YIp型ベクター、YEp型ベクター、YRp型ベクター、YCp型ベクター、pGPD-2、pAO815、pGAPZ、pGAPZα、pHIL-D2、pHIL-S1、pPIC3.5K、pPIC9K、pPICZ、pPICZα、pPIC3K、pHWO10、pPUZZLE又は2μm プラスミドである、項15記載の方法。
【0068】
18.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドの過剰発現が、前記ポリヌクレオチドの発現を駆動するリコンビナントプロモーターを使用することにより達成される、項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【0069】
19.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドの過剰発現が、脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする内因性ポリヌクレオチドに操作可能に連結しているレギュラトリー配列を改変することにより達成される、項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【0070】
20.プロモーターが、PAOX1、PTPI、PPGK、PGAPDH、PLAC、PGAL、PPGI、PGAP、PTEF、PENO1、PTPI、PRPS2、PRPS7、PRPS31、PRPL1、PFLD、PICL、PTHI、PSSA1、PHSP90、PKAR2、PGND1、PGPM1、PTKL1、PPIS1、PFET3、PFTR1、PPHO8、PNMT1、PMCM1、PUBI4、PRAD2、PPET9、PFMD、PGAL1、PADH1、PADH2/GAP、PCUP1又はPMALである、項18記載の方法。
【0071】
21.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドの過剰発現が、プロモーター活性を増強するエンハンサーを使用することにより達成される、項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【0072】
22.エンハンサーが、酵母上流活性化配列UAS/GALである、項21記載の方法。
【0073】
23.真核生物ホスト細胞が、非ほ乳類真核生物ホスト細胞である、項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【0074】
24.非ほ乳類真核生物ホスト細胞が、真菌ホスト細胞である、項23記載の方法。
【0075】
25.真菌ホスト細胞が、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Trichoderma reesei、Saccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactis、Yarrowia lipolytica、Pichia methanolica、Candida boidinii、Komagataella種、Aspergillus種及びSchizosaccharomyces pombeである、項24記載の方法。
【0076】
26.配列番号:1~15、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)及びPP7435_Chr1-0794(PSD1)のいずれか1つから選択される、脂質代謝に関与する1、2、3、4、5、6、7、8種又はそれ以上のタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現される、項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【0077】
27.スフィンゴ脂質生合成に関与する下記少なくとも1種のタンパク質
(a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(b)配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(c)配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:3に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(d)配列番号:1及び2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び2に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(e)配列番号:1及び3に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び3に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(f)配列番号:1、3及び4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、3及び4に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(g)配列番号:1、3、4及び8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、3、4及び8に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(h)配列番号:5及び6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:5及び6に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(i)配列番号:1及び7に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び7に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(j)配列番号:5、6及び9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:5、6及び9に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(k)配列番号:1、5、6及び9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、5、6及び9に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(l)配列番号:4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:4に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(m)配列番号:5に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:5に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(n)配列番号:6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:6に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(o)配列番号:7に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(p)配列番号:8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:8に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(q)配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:9に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(r)PP7435_Chr3-0788(SUR2)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr3-0788に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(s)PP7435_Chr3-1005(PHS1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr3-1005に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(t)PP7435_Chr2-0350(AUR1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr2-0350に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(u)PP7435_Chr4-0626(IFA38)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr4-0626に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(v)PP7435_Chr3-0669(SCS7)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr3-0669に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(w)配列番号:3及び4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:3及び4に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(x)配列番号:3、4及び8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:3、4及び8に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(y)配列番号:1及び5に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び5に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(z)配列番号:1、5及び6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、5及び6に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(aa)配列番号:1及びPP7435_Chr3-0788(SUR1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr3-0788に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(bb)配列番号:1及びPP7435_Chr3-1005(PHS1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr3-1005に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(cc)配列番号:1及び8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び8に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(dd)配列番号:1及びPP7435_Chr2-0350(AUR1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr2-0350に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(ee)配列番号:1及びPP7435_Chr4-0626(IFA38)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr4-0626に示されるアミノ酸配列となくとも30%の配列同一性を有する);又は
(ff)配列番号:1及びPP7435_Chr3-0669(SCS7)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr3-0669に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過剰発現される、項26記載の方法。
【0078】
28.リン脂質生合成に関与する下記タンパク質
(a)配列番号:10に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:10に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(b)PP7435_Chr3-0636(CRD1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr3-0636に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(c)PP7435_Chr3-0950(SLC4)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr3-0950に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(d)PP7435_Chr2-0585(PIS1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr2-0585に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過剰発現される、項26記載の方法。
【0079】
29.脂質輸送に関与する下記タンパク質
(a)配列番号:11に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(b)PP7435_Chr1-0934(PRY1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr1-0934に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(c)配列番号:11及びPP7435_Chr1-0934(PRY1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:11及びPP7435_Chr1-0934に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過剰発現される、項26記載の方法。
【0080】
30.脂肪酸生合成に関与する下記タンパク質
(a)PP7435_Chr4-0963(FAD12)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、PP7435_Chr4-0963に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過剰発現される、項26記載の方法。
【0081】
31.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0082】
32.スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質輸送に関与するタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項31記載の方法。
【0083】
33.リン脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0084】
34.リン脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:10又はPP7435_Chr1-0794(PSD1)に示されるアミノ酸配列を含み、脂質輸送に関与するタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列を含む、項33記載の方法。
【0085】
35.リン脂質生合成又は脂質輸送に関与する下記タンパク質
a)配列番号:10及び11に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:10及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
b)PP7435_Chr1-0794(PSD1)及び配列番号:11に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_Chr1-0794及び配列番号:11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過剰発現される、項34記載の方法。
【0086】
36.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及びリン脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0087】
37.スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含み、リン脂質生合成に関与するタンパク質が、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)又は配列番号:10に示されるアミノ酸配列を含む、項36記載の方法。
【0088】
38.スフィンゴ脂質生合成又はリン脂質生合成に関与する下記タンパク質
a)配列番号:1及びPP7435_Chr2-0585(PIS1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr2-0585に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
b)配列番号:1及び10に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び10に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
c)配列番号:1及びPP7435_Chr3-0636(CRD1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及びPP7435_Chr3-0636に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過剰発現される、項37記載の方法。
【0089】
39.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及びリン脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0090】
40.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及びエルゴステロール生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0091】
41.スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含み、エルゴステロール生合成に関与するタンパク質が、配列番号:12に示されるアミノ酸配列を含む、項40記載の方法。
【0092】
42.エルゴステロール生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0093】
43.エルゴステロール生合成に関与するタンパク質が、配列番号:12又は13に示されるアミノ酸配列を含み、脂質輸送に関与するタンパク質が、配列番号:11に示されるアミノ酸配列を含む、項42記載の方法。
【0094】
44.エルゴステロール生合成又は脂質輸送に関与する下記タンパク質
a)配列番号:12及び11に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:12及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
b)配列番号:13及び11に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:13及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)、
が過剰発現される、項37記載の方法。
【0095】
45.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質貯蔵に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現される、項26記載の方法。
【0096】
46.スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含み、脂質貯蔵に関与するタンパク質が、ARV1であり、ARV1が、PP7435_Chr4-0493とPP7435_Chr4-0493との間に位置するアミノ酸配列を含む、項45記載の方法。
【0097】
47.更に、シャペロンを過剰発現させることを含む、項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【0098】
48.シャペロンが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含む、ここで、機能的ホモログが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項47記載の方法。
【0099】
49.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び少なくとも1種のシャペロンが過剰発現される、項47又は48記載の方法。
【0100】
50.スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質が、配列番号:1に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、シャペロンが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1及び18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項49記載の方法。
【0101】
51.エルゴステロール生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び少なくとも1種のシャペロンが過剰発現される、項47又は48記載の方法。
【0102】
52.エルゴステロール生合成に関与するタンパク質が、配列番号:13、配列番号:14もしくは配列番号:15に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、シャペロンが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:13及び18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項51記載の方法。
【0103】
53.脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドの過剰発現により、ホスト細胞の膜の脂質組成が変化し、ここで、ホスト細胞の膜が、好ましくは、細胞膜又は小胞体膜である、項1~52のいずれか一項に記載の方法。
【0104】
54.前記目的のタンパク質が、目的の非膜タンパク質である、項1~53のいずれか一項に記載の方法。
【0105】
55.前記目的の非膜タンパク質が、酵素、治療タンパク質、食品添加剤又は飼料添加剤である、項54記載の方法。
【0106】
56.治療タンパク質が、抗体又はその抗原に結合する活性を未だに有する抗体フラグメントを含む、項55記載の方法。
【0107】
57.脂質代謝に関与する前記タンパク質又はその機能的ホモログが、操作前のホスト細胞と比較して、モデルタンパク質であるHyHEL(重鎖については配列番号:39、軽鎖については配列番号:40)の収率を少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%まで向上させる、項1~56のいずれか一項に記載の方法。
【0108】
58.目的のタンパク質を製造するためのリコンビナント真核生物ホスト細胞であって、ホスト細胞は、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過剰発現するように操作される、ホスト細胞。
【0109】
59.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送、エルゴステロール生合成、脂肪酸生合成、ホスファチジン酸生合成及び/又はリン脂質代謝プロセスに関与する、項58記載のホスト細胞。
【0110】
60.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、転写因子ではない、項58又は59記載のホスト細胞。
【0111】
61.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、配列番号:1~15のいずれか1つに示され、好ましくは、配列番号:1~9、配列番号:10、配列番号:11もしくは配列番号:12~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項58又は59記載のホスト細胞。
【0112】
62.脂質代謝に関与する前記タンパク質又はその前記機能的ホモログが、操作前のホスト細胞と比較して、モデルタンパク質であるHyHEL(重鎖については配列番号:39、軽鎖については配列番号:40)の収率を少なくとも10%まで向上させる、項58~61のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0113】
63.過剰発現が、前記ホスト細胞において、脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする前記ポリヌクレオチドの1、2、3、4つ又はそれ以上のコピーを有することにより達成される、項58~62のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0114】
64.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする前記ポリヌクレオチドが、前記ホスト細胞のゲノム内に組み込まれる、項58~63のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0115】
65.組み込みが、異所性及び/又は天然の遺伝子座にある、項64記載のホスト細胞。
【0116】
66.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドが、ホスト細胞ゲノムのAOX1、GAP、ENO1、TEF、HIS4、TYR1、HIS3、LEU2、URA3、LYS2、ADE2、TRP1、GAL1又はADH1遺伝子座に組み込まれる、項65記載のホスト細胞。
【0117】
67.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドが、ベクター又はプラスミドに含有される、項58~66のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0118】
68.ベクターが、YIp型ベクター、YEp型ベクター、YRp型ベクター、YCp型ベクター、pGPD-2、pAO815、pGAPZ、pGAPZα、pHIL-D2、pHIL-S1、pPIC3.5K、pPIC9K、pPICZ、pPICZα、pPIC3K、pHWO10、pPUZZLE又は2μm プラスミドである、項67記載のホスト細胞。
【0119】
69.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドの過剰発現が、前記ポリヌクレオチドの発現を駆動するリコンビナントプロモーターを使用することにより達成される、項58~68のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0120】
70.プロモーターが、PAOX1、PTPI、PPGK、PGAPDH、PLAC、PGAL、PPGI、PGAP、PTEF、PENO1、PTPI、PRPS2、PRPS7、PRPS31、PRPL1、PFLD、PICL、PTHI、PSSA1、PHSP90、PKAR2、PGND1、PGPM1、PTKL1、PPIS1、PFET3、PFTR1、PPHO8、PNMT1、PMCM1、PUBI4、PRAD2、PPET9、PFMD、PGAL1、PADH1、PADH2/GAP、PCUP1又はPMALである、項69記載のホスト細胞。
【0121】
71.脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドの過剰発現が、プロモーター活性を増強するエンハンサーを使用することにより達成される、項69記載のホスト細胞。
【0122】
72.エンハンサーが、酵母上流活性化配列UAS/GALである、項71記載のホスト細胞。
【0123】
73.真核生物ホスト細胞が、非ほ乳類真核生物ホスト細胞である、項58~72のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0124】
74.非ほ乳類真核生物ホスト細胞が、真菌ホスト細胞である、項73記載のホスト細胞。
【0125】
75.ホスト細胞が、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Trichoderma reesei、Saccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactis、Yarrowia lipolytica、Pichia methanolica、Candida boidinii、Komagataella種、Aspergillus種及びSchizosaccharomyces pombeである、項74記載のホスト細胞。
【0126】
76.配列番号:1~15、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)及びPP7435_Chr1-0794(PSD1)のいずれか1つから選択される、脂質代謝に関与する1、2、3、4、5、6、7、8種又はそれ以上のタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現される、項58~75のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0127】
77.項27~46のいずれか一項に記載のタンパク質が過剰発現される、項76記載のホスト細胞。
【0128】
78.シャペロンをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように更に操作されている、項58~77のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0129】
79.シャペロンが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含む、ここで、機能的ホモログが、配列番号:18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項78記載のホスト細胞。
【0130】
80.項48~52のいずれか一項に記載のタンパク質が過剰発現される、項78又は79記載のホスト細胞。
【0131】
81.前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチド配列を含む、項58~80のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0132】
82.前記目的のタンパク質が、目的の非膜タンパク質である、項81記載のホスト細胞。
【0133】
83.前記目的の非膜タンパク質が、酵素、治療タンパク質、食品添加剤又は飼料添加剤である、項82記載のホスト細胞。
【0134】
84.治療タンパク質が、抗体又はその抗原に結合する活性を未だに有する抗体フラグメントを含む、項83記載のホスト細胞。
【0135】
85.過剰発現が、脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする内因性ポリヌクレオチドに操作可能に連結しているレギュラトリー配列を改変することにより達成される、項58~84のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0136】
86.脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドの過剰発現により、ホスト細胞の生体膜の脂質組成が変化する、項58~85のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0137】
87.目的のタンパク質を製造するための、項58~86のいずれか一項に記載のホスト細胞の使用。
【0138】
88.目的のタンパク質が、目的の非膜タンパク質である、項87記載のホスト細胞の使用。
【0139】
89.脂質代謝に関与し、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質もしくはその機能的ホモログをコードする単離されたポリヌクレオチド又は配列番号:18に示されるアミノ酸配列を含むシャペロンもしくはその機能的ホモログをコードする単離されたポリヌクレオチドであり、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15及び18のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、単離されたポリヌクレオチド。
【0140】
90.配列番号:19~33及び36のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【0141】
91.ホスト細胞への組み込みのための、項89又は90記載の単離されたポリヌクレオチドの使用。
【0142】
92.目的のタンパク質、好ましくは、目的の非膜タンパク質を製造するための、項89又は90記載のポリヌクレオチドの使用。
【0143】
93.ホスト細胞を製造するための、項89又は90記載のポリヌクレオチドの使用。
【0144】
94.配列番号:1~15及び18のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【0145】
95.目的のタンパク質、好ましくは、目的の非膜タンパク質を製造するための、項94の単離されたポリペプチドの使用。
【0146】
96.少なくとも0.25%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、又は10% 目的のタンパク質と、項86又は87記載のポリヌクレオチドとを含み、ここで、前記ポリヌクレオチドは、異種プロモーターと操作可能に連結しており、ここで、目的のタンパク質は、好ましくは、目的の非膜タンパク質である、組成物。
【0147】
97.真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、前記ホスト細胞中において、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過少発現させることにより、脂質代謝に関与するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現しない前記ホスト細胞と比較して、前記目的のタンパク質の収率を向上させることを含む、方法。
【0148】
98.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、脂質貯蔵に関与する、項97記載の方法。
【0149】
99.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、転写因子ではない、項97又は98記載の方法。
【0150】
100.脂質貯蔵に関与する前記タンパク質が、配列番号:16もしくは17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項98又は99記載の方法。
【0151】
101.脂質貯蔵に関与する下記タンパク質
a)配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
b)配列番号:16に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:16に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
c)配列番号:17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過少発現される、項100記載の方法。
【0152】
102.目的のタンパク質が、目的の非膜タンパク質である、項97~101のいずれか一項に記載の方法。
【0153】
103.真核生物ホスト細胞が、非ほ乳類真核生物ホスト細胞である、項97~102のいずれか一項に記載の方法。
【0154】
104.非ほ乳類真核生物ホスト細胞が、真菌ホスト細胞であり、ここで、真菌ホスト細胞が、好ましくは、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Trichoderma reesei、Saccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactis、Yarrowia lipolytica、Pichia methanolica、Candida boidinii、Komagataella種、Aspergillus種及びSchizosaccharomyces pombeであり、ここで、真菌ホスト細胞が、更により好ましくは、Pichia pastorisである、項103記載の方法。
【0155】
105.
-脂質代謝に関与し、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように、ホスト細胞を操作すること、ここで、機能的ホモログが、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、
-前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように、前記ホスト細胞を操作すること、
-前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、前記ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、項97~104のいずれか一項に記載の方法。
【0156】
106.
-脂質代謝に関与し、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有し、ここで、前記ホスト細胞は、前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;
-脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過少発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養すること、及び場合により、
-前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、
項97~104のいずれか一項に記載の目的のタンパク質を製造する方法。
【0157】
107.脂質代謝に関与する下記タンパク質
a)配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、それぞれ、機能的ホモログは、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過少発現される、項97~106のいずれか一項に記載の方法。
【0158】
108.脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを、前記ホスト細胞中において過剰発現させることを含む、項97~106のいずれか一項に記載の方法。
【0159】
109.過剰発現され、脂質代謝に関与する前記タンパク質が、脂質貯蔵、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、リン脂質代謝プロセス又はホスファチジン酸生合成に関与する、項108記載の方法。
【0160】
110.スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する少なくとも2種のタンパク質が過少発現される、項109記載の方法。
【0161】
111.スフィンゴ脂質生合成に関与する下記タンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する下記タンパク質が過少発現される、
a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現され、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過少発現され、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:1、16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項110記載の方法。
【0162】
112.リン脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する少なくとも2種のタンパク質が過少発現される、項109記載の方法。
【0163】
113.リン脂質生合成に関与するタンパク質が、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)又は配列番号:10に示されるアミノ酸配列を含み、脂質貯蔵に関与するタンパク質が、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含む、項112記載の方法。
【0164】
114.リン脂質生合成に関与する下記タンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する下記タンパク質が過少発現される、
a)PP7435_Chr3-0950(SLC4)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現され、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過少発現され、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_Chr3-0950、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する;
b)PP7435_Chr1-0160(SLC1)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現され、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過少発現され、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_Chr1-0160、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する;
c)PP7435_CHR1-0078(GPT2)に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現され、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過少発現され、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_CHR1-0078、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する;
d)配列番号:10に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過剰発現され、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログが過少発現され、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:10、16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項113記載の方法。
【0165】
115.リン脂質代謝プロセスに関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する少なくとも2種のタンパク質が過少発現される、項109記載の方法。
【0166】
116.リン脂質代謝プロセスに関与するタンパク質が過剰発現され、PP7435_Chr2-0045(CDS1)に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質貯蔵に関与するタンパク質が過少発現され、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_Chr2-0045、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項115記載の方法。
【0167】
117.ホスファチジン酸生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する少なくとも2種のタンパク質が過少発現される、項116記載の方法。
【0168】
118.ホスファチジン酸生合成に関与するタンパク質が過剰発現され、PP7435_Chr3-1169(DGK1)に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質貯蔵に関与するタンパク質が過少発現され、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_Chr3-1169、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項117記載の方法。
【0169】
119.脂質貯蔵に関与する少なくとも1種のタンパク質が過剰発現され、脂質貯蔵に関与する少なくとも2種のタンパク質が過少発現される、項109記載の方法。
【0170】
120.過剰発現される脂質貯蔵に関与するタンパク質が、PP7435_Chr3-0741(ARE2)に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、過少発現される脂質貯蔵に関与するタンパク質が、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、それぞれ、PP7435_Chr3-0741、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項119記載の方法。
【0171】
121.目的のタンパク質を製造するためのリコンビナント真核生物ホスト細胞であって、ホスト細胞は、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドを過少発現するように操作され、ここで、目的のタンパク質は、好ましくは、非膜タンパク質である、ホスト細胞。
【0172】
122.脂質代謝に関与する前記タンパク質が、脂質貯蔵に関与し、配列番号:16もしくは17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログが、配列番号:16又は17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する、項121記載のホスト細胞。
【0173】
123.脂質代謝に関与する下記タンパク質
a)配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、それぞれ、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
b)配列番号:16に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:16に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
c)配列番号:17に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログが、配列番号:17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
が過少発現される、項121又は122記載のホスト細胞。
【0174】
124.脂質代謝に関与するタンパク質をコードする少なくとも1種のポリヌクレオチドが、項109~120に定義されたように過剰発現される、項121~123のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0175】
125.脂質代謝に関与する前記タンパク質又はその前記機能的ホモログが、操作前のホスト細胞と比較して、モデルタンパク質であるHyHEL(重鎖については配列番号:39、軽鎖については配列番号:40)の収率を少なくとも10%まで向上させる、項121~124のいずれか一項に記載のホスト細胞。
【0176】
126.ホスト細胞の膜の脂質組成を変化させることにより、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法であって、ホスト細胞の膜は、好ましくは、細胞膜又は小胞体膜である、方法。
【0177】
127.前記ホスト細胞の膜の脂質組成が、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質の過剰発現により、好ましくは、本明細書に記載されたヘルパータンパク質のうちの1種により変化される、項126記載の方法。
【0178】
128.スフィンゴ脂質の分子種パターンを変化させることにより、好ましくは、セラミド及び/もしくはイノシトール含有ホスホリルセラミド(イノシトールホスホリルセラミド、マンノシルイノシトールホスホリルセラミド、マンノシルジイノシトールホスホリルセラミド)のC26脂肪アシル部分の量を増加させること並びに/又はセラミド及び/もしくはイノシトール含有ホスホリルセラミド(イノシトールホスホリルセラミド、マンノシルイノシトールホスホリルセラミド、マンノシルジイノシトールホスホリルセラミド)のC24脂肪アシル部分の量を減少させることにより、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法。
【0179】
129.スフィンゴ脂質の分子種パターンが、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質の過剰発現により、好ましくは、本明細書に記載されたヘルパータンパク質のうちの1種により変化される、項128記載の方法。
【0180】
130.セラミド、IPC、MIPC及びM(IP)Cに組み込まれた26個の炭素(C26)の鎖長の脂肪アシルの相対量が、少なくとも100%まで増加し、一方、24個の炭素(C24)の鎖長の脂肪アシルの相対量が、少なくとも70%まで減少する、項128又は129記載の方法。
【0181】
131.IPC及びMIPCの量を(およそ30%)減少させることにより並びに/又はイノシトール含有ホスホリルセラミドの成熟形態であるM(IP)Cの形成を少なくとも6倍(600%)まで増加させることにより、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法。
【0182】
132.前記減少及び/又は増加が、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質の過剰発現により、好ましくは、本明細書に記載されたヘルパータンパク質のうちの1種により達成される、項131記載の方法。
【0183】
133.スフィンゴ脂質の相対分布が、下記:M(IP)Cの6倍(600%)増加及びIPCとMIPCとの相対分布のおよそ30%低下、のように影響を受ける、項131又は132記載の方法。
【0184】
134.非極性貯蔵脂質トリアシルグリセロール(TG)を細胞から枯渇させることにより、真核生物ホスト細胞中において目的のタンパク質の収率を向上させる方法。
【0185】
135.前記枯渇が、脂質代謝に関与する少なくとも1種のタンパク質の過少発現により、好ましくは、本明細書に記載されたヘルパータンパク質のうちの1種により達成される、項134記載の方法。
【0186】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的には、過剰発現(配列番号:1~15に示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質)又は過少発現(配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列を含むKOヘルパータンパク質)された場合に、目的のタンパク質の収率を向上させることが見出された、本明細書に記載された脂質代謝に関与するヘルパータンパク質の発現の驚くべき発見に基づいている。各ヘルパータンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列並びにその対応する遺伝子識別子(gene identifier)(本明細書、特に、実施例において使用される場合がある)は、表1に、「OE」(過剰発現されるヘルパータンパク質)及び「KO」(過少発現されるヘルパータンパク質)と指定されて以下に列挙される。過剰発現されるヘルパータンパク質と過少発現されるヘルパータンパク質との組み合わせは、本明細書に記載され、実施例6に詳細に記載されている。
【0187】
表1
Pichia pastoris配列の遺伝子同一性をSturmberger et al.[J. Biotechnol. (2016). 235(4):121-131]から検索し、Saccharomyces cerevisiae配列の遺伝子同一性をCherry J.M. et al.[Nucleic Acids Res. (2012) 40 (Database issue D700-5)]から検索する。遺伝子オントロジー用語は、下記のように定義される。「スフィンゴ脂質」は、脂肪酸伸長を含むスフィンゴ脂質生合成を意味する。「輸送」は、脂質輸送を意味する。「リン脂質」は、リン脂質生合成を意味する。「ステロール」は、エルゴステロール生合成を意味する。そして、「貯蔵」は、脂質貯蔵を意味する。遺伝子アクセッション番号は、European Nucleotide Archive(ENA)から検索し、タンパク質アクセッション番号は、UniProtKBから検索した。KAR2配列(ヌクレオチド及びアミノ酸)は、CBS7435とほぼ同一のP. pastoris株GS115についてのみ注釈が付けられる。したがって、KAR2についての遺伝子/タンパク質アクセッション番号は、P. pastoris株GS115の背景に注釈を付けた配列について列挙される。特に、疑義を避けるために、配列番号に言及されたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列は、このような配列の任意の他のソースに取って代わる。
【0188】
【表1】
【0189】
本発明で使用する場合、「ヘルパータンパク質」又は「本発明のヘルパータンパク質」は、脂質代謝に関与し、好ましくは、配列番号:1~15、例えば、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示されるヘルパータンパク質の場合には過剰発現されるか又は配列番号:16もしくは17に示されるヘルパータンパク質の場合には過少発現されるかのいずれかがされた場合、目的のタンパク質も発現するホスト細胞中において、本明細書中に記載されたモデルタンパク質又は目的のタンパク質(POI)の収率を向上させるタンパク質を意味する。脂質代謝に関与し、過剰発現された場合にモデルタンパク質の収率を向上させる本発明の更なるヘルパータンパク質は、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)又はその機能的ホモログに示される。この用語は、広く理解されるべきであり、例えば、シャペロン又はシャペロン様タンパク質に限定されるべきではない。本開示から明らかであろうように、本発明のヘルパータンパク質は、その機能において変化するが、全て、特定のクラスの脂質代謝に関与する。本発明の好ましいヘルパータンパク質は、配列番号:1~17のいずれか1つのアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含む。本発明の好ましいヘルパータンパク質は、配列番号:19~36のいずれか1つのヌクレオチド配列又は配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15それぞれの機能的ホモログをコードするその変異体によりコードすることができる。本発明の目的で、「ヘルパータンパク質」という用語は、配列番号:1~17のいずれか1つに示されるヘルパータンパク質それぞれの機能的ホモログを包含することも意味する。本発明は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14もしくは15に示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードする単離されたポリヌクレオチド配列を提供し、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。本発明は、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)に示されるアミノ酸配列を含む、ヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードする単離されたポリヌクレオチド配列を提供し、ここで、機能的ホモログは、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0190】
「脂質代謝に関与する」という用語は、ヘルパータンパク質が真核生物細胞の脂質代謝において機能/活性を有することを意味する。脂質代謝は、とりわけ、脂質合成、脂質分解、脂質輸送(脂質をそれらの合成部位からそれらの目的部位に運ぶ目的、例えば、生体膜への組み込みの目的で、タンパク質、小胞もしくは直接的な膜接触を介して媒介されるか又は細胞外部への過剰又は機能不全の脂質の輸送)、脂質貯蔵(過剰量の遊離ステロール又は脂肪酸により引き起こされる脂肪毒性を避けるための、生物学的に不活性な形態での脂質、例えば、ステリルエステル又はトリアシルグリセロールの貯蔵、脂質貯蔵は、特殊なオルガネラ、いわゆる、脂肪滴において生じる)、脂質改変、脂質安定性、脂質-脂質相互作用、脂肪酸生合成及び改変、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、エルゴステロール生合成、C24(脂肪アシル鎖中の24個の炭素)の代わりに、優先的にC26(脂肪アシル鎖中の26個の炭素)を含有するセラミド(セラミド及びヘキソシル-セラミド)及びイノシトール含有ホスホリルセラミド(IPC..イノシトールホスホリルセラミド、MIPC..マンノシルイノシトールホスホリルセラミド、M(IP)C..マンノシルジイノシトールホスホリルセラミド)の脂肪アシル部分である多量のスフィンゴ脂質の分子種パターンを変化させること、スフィンゴ脂質の分布パターンをIPCを犠牲にしてM(IP)Cがより多い複合スフィンゴ脂質の成熟型のより高い出現に変化させること、P. pastorisの主な貯蔵脂質であるトリアシルグリセロールを細胞から枯渇させること等の機能を含む。好ましくは、脂質代謝に関与する前記ヘルパータンパク質は、転写因子ではない。したがって、脂質代謝に関与するヘルパータンパク質により、本明細書に記載されるように過剰発現されるか又は過少発現されるかのいずれかがされた場合、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞において生体膜脂質組成が改変されることにより、リコンビナントタンパク質産生に正の影響を及ぼすことができる。本明細書で使用する場合、「生体膜」という用語は、細胞膜及び小胞体膜、小胞膜、ゴルジ膜等を含むが、これらに限定されない。したがって、本明細書で使用する場合、ヘルパータンパク質の過剰発現及び過少発現それぞれの文脈における「脂質代謝」という用語は、「生体膜脂質組成の改変」、好ましくは、真核生物ホスト細胞、特に、真菌ホスト細胞における生体膜脂質組成の改変により置き換えることができる。本明細書において言及された場合、ヘルパータンパク質の過剰発現の文脈において、このようなヘルパータンパク質は、スフィンゴ脂質生合成(配列番号:1~9を含むヘルパータンパク質)、リン脂質生合成(配列番号:10を含むヘルパータンパク質)、脂質輸送(配列番号:11を含むヘルパータンパク質)、エルゴステロール生合成(配列番号:12~15を含むヘルパータンパク質)、脂肪酸生合成、ホスファチジン酸生合成及び/又はリン脂質代謝プロセスに関与する。本明細書で使用する場合、「スフィンゴ脂質生合成」という用語は、脂肪酸伸長を含む。その結果として、スフィンゴ脂質生合成に関与するヘルパータンパク質は、スフィンゴ脂質生合成及び/又は脂肪酸伸長に関与することができる。複合スフィンゴ脂質、例えば、IPC、MIPC又はM(IP)Cの生合成は、脂肪酸の伸長に不可分に結び付けられる。長鎖脂肪酸は、脂肪酸伸長のプロセスにおいて連続的な4段階サイクルを経て、非常に長鎖の脂肪酸(例えば、C24又はC26)が形成される。ついで、脂肪酸の伸長により産生された非常に長鎖の脂肪酸は、スフィンゴ脂質生合成のプロセスにおいて直接基質として容易に組み込まれ、複合スフィンゴ脂質(IPC、MIPC、M(IP)C)を生じる。スフィンゴ脂質の生合成における最初の工程は、小胞体で起こるが、複雑なイノシトール含有ホスホリルセラミドを生じるセラミドの更なる改変及び成熟プロセスは、ゴルジ体で起こる。したがって、実質的な量のセラミド及びヘキソシルセラミドは、小胞体の生体膜に見出すことができるが、分泌経路の更なるオルガネラ(小胞及びゴルジ体)及び細胞原形質膜でもより低い程度で見出すことができる。複合スフィンゴ脂質(IPC、MIPC、M(IP)C)は、いわゆる、脂質ラフトにおいてステロールと共局在する細胞原形質膜において最も濃縮されているが、小胞体及び分泌経路に沿った他のオルガネラ(小胞、ゴルジ体)の生体膜でもより少ない量で見出すことができる。また、本明細書において言及されたように、ヘルパータンパク質の過少発現の文脈において、このようなヘルパータンパク質は、例えば、脂質貯蔵(例えば、配列番号:16又は17を含むKOヘルパータンパク質)に関与する。したがって、生体膜脂質組成の改変は、好ましくは、本明細書に記載されたヘルパータンパク質の過剰発現の場合には、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送又はエルゴステロール生合成により影響を受けるか又は好ましくは、本明細書に記載されたヘルパータンパク質の過少発現の場合には、脂質貯蔵により影響を受けることができる。脂質代謝に関与する本発明のヘルパータンパク質は、好ましくは、転写因子ではない。本明細書に記載された異なる群のヘルパータンパク質(すなわち、スフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成、脂質輸送、エルゴステロール生合成及び脂質貯蔵に関与する)は、Pichia pastoris遺伝子に基づいている。
【0191】
本明細書で使用する場合、「目的のタンパク質」という用語は、一般的には、任意のタンパク質に関するが、好ましくは、「異種タンパク質」又は「リコンビナントタンパク質」に関し、更により好ましくは、「目的の非膜タンパク質」に関する。「目的の非膜タンパク質」は、目的のタンパク質が好ましくはその天然環境(すなわち、in situ)において、真核生物細胞、例えば、真菌細胞の生物学的膜の永久的な一部であるか又はそれに付着した内因性膜タンパク質ではないことを意味する。このようなタンパク質は、生物学的膜を少なくとも1回横切るものとして分類される。したがって、本明細書で使用する場合、目的の非膜タンパク質は、好ましくは、膜貫通ドメインを有さない。ただし、本明細書で使用する場合、「非膜タンパク質」という用語は、GPI固定タンパク質を含む。
【0192】
本明細書で使用する場合、本発明のヘルパータンパク質の「ホモログ」又は「機能的ホモログ」は、タンパク質がそれらの一次構造、二次構造又は三次構造において対応する位置に同じ残基又は保存された残基を有することを意味するものとする。また、この用語は、相同ポリペプチドをコードする2種以上のヌクレオチド配列にも及ぶ。特に、本発明のヘルパータンパク質に相同なポリペプチドは、本明細書に開示された配列(配列番号:1~18)に対して少なくとも約30%のアミノ酸配列同一性を有する。好ましくは、相同ポリペプチドは、天然の配列又は全長化合物の任意の他の特別に定義されたフラグメントと、少なくとも約35%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約40%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約45%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約50%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約55%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約60%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約65%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約70%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約85%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約90%、例えば、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは、少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有するであろう。ヘルパータンパク質としての機能がこのようなホモログで証明される場合、このホモログは、「機能的ホモログ」と呼ばれる。機能的ホモログは、それが由来するヘルパータンパク質と同じ又は実質的に同じ機能を果たす、すなわち、細胞の脂質代謝において同じ酵素活性を有し又は同じ代謝反応を触媒する。ヌクレオチド配列の場合には、「機能的ホモログ」は、好ましくは、元のヌクレオチド配列とは異なる配列を有するがそれでも、退縮遺伝情報の使用により、同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を意味する。また、機能的ホモログは、ヘルパータンパク質の生物学的に活性なフラグメントであることができる。一般的には、ヘルパータンパク質の生物学的に活性なフラグメントは、全長ヘルパータンパク質の生物学的効果と類似又は匹敵する生物学的効果を発揮する前記ヘルパータンパク質のフラグメントを意味するものとする。これは、前記生物学的に活性なフラグメントが対応する全長ヘルパータンパク質(配列番号:1~18)について観察されるPOI収率の向上の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%をもたらすことを意味する。このような活性フラグメントは、例えば、前記全長ヘルパータンパク質のアミノ酸配列のアミノ末端及び/もしくはカルボキシ末端欠失により並びに/又は前記全長ヘルパータンパク質のアミノ酸配列のアミノ末端及び/もしくはカルボキシ末端のアミノ酸でない少なくとも1つのアミノ酸の欠失により得ることができる。
【0193】
一般的には、ホモログは、当技術分野において公知の任意の突然変異誘発手法、例えば、部位特異的突然変異誘発、合成遺伝子構築、半合成遺伝子構築、ランダム突然変異誘発、シャッフリング等を使用して調製することができる。部位特異的突然変異誘発は、親をコードするポリヌクレオチド中の1つ以上の規定された部位に1つ以上の(例えば、複数の)突然変異が導入される技術である。部位特異的突然変異誘発は、所望の突然変異を含有するオリゴヌクレオチドプライマーの使用を含むPCRにより、in vitroで達成することができる。また、部位特異的突然変異誘発は、親をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド中の部位での制限酵素による開裂及びそれに続くポリヌクレオチド中の突然変異を含有するオリゴヌクレオチドのライゲーションを含むカセット突然変異誘発によってもin vitroで行うことができる。通常、プラスミド及びオリゴヌクレオチドを消化する制限酵素は同じであり、プラスミド及びインサートの粘着性末端同士をライゲーションさせる。例えば、Scherer and Davis, 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76: 4949-4955;及びBarton et ai, 1990, Nucleic Acids Res. 18: 7349-4966を参照のこと。また、部位特異的突然変異誘発は、当技術分野において公知の方法により、in vivoでも達成することができる。例えば、US第2004/0171154号;Storici et ai, 2001 , Nature Biotechnol. 19: 773-776;Kren et ai, 1998, Nat. Med. 4: 285-290;及びCalissano and Macino, 1996, Fungal Genet. Newslett. 43: 15-16を参照のこと。合成遺伝子構築は、目的のポリペプチドをコードするように設計されたポリヌクレオチド分子のin vitro合成による。遺伝子合成は、オリゴヌクレオチドが合成され、フォトプログラマブルマイクロ流体チップ上に組み立てられる、Tian et al.(2004, Nature 432: 1050-1054)に記載されたマルチプレックスマイクロチップベースの技術及び同様の技術等の、多くの技術を利用して行うことができる。単一又は複数のアミノ酸置換、欠失及び/又は挿入は、突然変異誘発、リコンビネーション及び/又はシャッフリングの公知の技術、続けて、関連するスクリーニング手法、例えば、Reidhaar-Olson and Sauer, 1988, Science 241:53-57;Bowie and Sauer, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 2152-2156;WO第95/17413号;又はWO第95/22625号に開示された手法を使用して行うことができ、試験することができる。使用することができる他の方法は、エラープローンPCR、ファージディスプレイ(例えば、Lowman et al, 1991, Biochemistry 30: 10832-10837;US第5,223,409号;WO第92/06204号)及び領域特異的突然変異誘発(Derbyshire et al., 1986, Gene 46: 145;Ner et al., 1988, DNA 7:127)を含む。突然変異誘発/シャッフリング法は、ホスト細胞により発現されるクローン化された突然変異誘発ポリペプチドの活性を検出するために、ハイスループット自動スクリーニング法と組み合わせることができる(Ness et a/., 1999, Nature Biotechnology 17: 893-896)。活性ポリペプチドをコードする突然変異誘発されたDNA分子は、ホスト細胞から回収することができ、当技術分野において公知の標準的な方法を使用して素早く配列決定することができる。これらの方法により、ポリペプチド中の個々のアミノ酸残基の重要性の素早い決定が可能となる。半合成遺伝子構築は、合成遺伝子構築及び/又は部位特異的突然変異誘発及び/又はランダム突然変異誘発及び/又はシャッフリングの態様を組み合わせることにより達成される。半合成構築は、PCR技術と組み合わせて、合成されるポリヌクレオチドフラグメントを利用するプロセスにより代表される。このため、遺伝子の規定領域を新たに合成することができ、一方、他の領域を、部位特異的変異誘発プライマーを使用して増幅することができ、一方、更に他の領域をエラープローンPCR又は非エラープローンPCR増幅に供することができる。ついで、ポリヌクレオチドサブ配列をシャッフルすることができる。代替的に、ホモログを天然のソースから、例えば、他の生物、好ましくは、密接に関連する生物又は関連する生物のcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。
【0194】
配列番号:1~17のいずれか1つのホモログ又は本明細書に開示された更なるヘルパータンパク質(例えば、段落[0046])の機能は、ホモログ配列が挿入された発現カセットを提供し、試験タンパク質、例えば、実施例セクションにおいて使用されるモデルタンパク質又は別のPOIの1つをコードする配列を保有するホスト細胞をトランスフォーメーションし、同一の条件下でモデルタンパク質又はPOIの収率の差を決定することにより試験することができる。
【0195】
本発明は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16もしくは17又は配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16もしくは17の機能的ホモログをコードする単離されたポリヌクレオチド配列を提供する。単離されたポリヌクレオチド配列は、配列番号:19~35のいずれか1つを含むことができる。好ましくは、単離されたポリヌクレオチド配列は、配列番号30~58のいずれか1つのヌクレオチド配列からなる。また、本発明は、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)又はその機能的ホモログをコードする単離されたポリヌクレオチド配列も提供する。
【0196】
更に、本発明は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも30%、例えば、少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。更に、本発明は、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも30%、例えば、少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
【0197】
「単離された」という用語は、天然に存在しない形態又は環境の物質を意味する。単離された物質の非限定的な例は、(1)任意の非天然物質、(2)天然に存在する物質に関連する天然成分の1つ以上又は全てから少なくとも部分的に除去される任意の酵素、変異体、核酸、タンパク質、ペプチド又は補因子を含むがこれらに限定されない任意の物質;(3)天然に見出される物質、例えば、mRNAから作製されるcDNAに対してヒトの手により修飾された任意の物質;又は(4)天然に関連する他の成分に対して物質の量を増加させること(例えば、ホスト細胞におけるリコンビナント産生;物質をコードする遺伝子の複数のコピー;及び物質をコードする遺伝子に天然に関連するプロモーターより強力なプロモーターの使用)により改変される任意の物質が含まれる。
【0198】
本発明は、ホスト細胞への組み込みのための、上記言及された単離されたポリヌクレオチドのいずれか1つの使用を提供する。代替的に、ポリヌクレオチドがホスト細胞中に既に存在する場合、ホスト細胞は、後述されるであろうように、それらが過剰発現されるように操作することができる。別の態様では、本発明は、ホスト細胞からのPOI収率を向上させるための、前記ポリヌクレオチドの使用に関し、ここで、POIをコードするヌクレオチド配列は、前記ポリヌクレオチドと同時発現される。
【0199】
「配列同一性」又は「%同一性」は、標準化されたアルゴリズムを使用してアライメントされた少なくとも2つのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列間の残基一致の割合を指す。このようなアルゴリズムは、2つの配列間のアラインメントを最適化するために、標準化された再現可能な方法で、比較される配列中にギャップを挿入することができるため、2つの配列のより有意義な比較を達成することができる。本発明の目的で、2つのアミノ酸配列又はヌクレオチド配列間の配列同一性は、NCBI BLASTプログラムバージョン2.2.29(Jan-06-2014)(Altschul et al., Nucleic Acids Res. (1997) 25:3389-3402)を使用して決定される。2つのアミノ酸配列の配列同一性は、下記パラメータ:マトリックス:BLOSUM62、ワードサイズ:3;期待値:10;ギャップコスト:存在=11、伸長=1;フィルター=低複雑性活性化;フィルターストリング:L;成分調整:条件成分スコアマトリックス調整に設定されたblastpにより決定することができる。本発明の目的で、2つのヌクレオチド配列間の配列同一性は、下記例示的なパラメータ:ワードサイズ:11;期待値:10;ギャップコスト:存在=5、伸長=2;フィルター=低複雑性活性化;マッチ/ミスマッチスコア:2,-3;フィルターストリング:L;mに設定されたblastnによるNCBI BLASTプログラムバージョン2.2.29(Jan-06-2014)を使用して決定される。
【0200】
更に、本発明は、本発明のヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作されたホスト細胞を提供する。ヘルパータンパク質は、配列番号:1~15それぞれのいずれか1つ又はその機能的ホモログを含む。また、ヘルパータンパク質は、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)又はその機能的ホモログを含む。同様に、本発明は、本発明のヘルパータンパク質(KOヘルパータンパク質)をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作されたホスト細胞を提供する。KOヘルパータンパク質は、配列番号:16もしくは17それぞれのいずれか1つ又はその機能的ホモログを含む。本発明のKOヘルパータンパク質又はヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作されたホスト細胞は、更に、本明細書に開示された項目において説明された1種以上のヘルパータンパク質を過剰発現することができる。
【0201】
好ましくは、本発明は、目的のタンパク質を製造するためのリコンビナントホスト細胞であって、ホスト細胞は、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作される、ホスト細胞を提供する。
【0202】
好ましくは、本発明は、目的のタンパク質を製造するためのリコンビナントホスト細胞であって、ホスト細胞は、配列番号:16又は17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むKOヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作される、ホスト細胞を提供する。
【0203】
「ポリヌクレオチドを発現する」という用語は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写され、mRNAがポリペプチドに翻訳される場合を意味する。「過剰発現する」という用語は、一般的には、参照標準により示される発現レベル以上の任意の量を指す。本発明における「過剰発現する(overexpress)」、「過剰発現する(overexpressing)」、「過剰発現された(overexpresed)」及び「過剰発現(overexpression)」という用語は、ホスト細胞の遺伝的変化前又は所定の条件で遺伝的に変化されていない比較可能なホストにおける同じ遺伝子産物又はポリペプチドの発現より高いレベルでの、遺伝子産物又はポリペプチドの発現を指す。本発明において、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質が過剰発現される。ホスト細胞が所定の遺伝子産物を含まない場合、発現のために遺伝子産物をホスト細胞に導入することが可能であり、この場合、任意の検出可能な発現は、「過剰発現」という用語に包含される。
【0204】
「過少発現する」という用語は、一般的には、本明細書に記載されたように、KOヘルパータンパク質を過少発現するように操作する前のホスト細胞である参照標準により示される発現レベル以下の任意の量を指す。本明細書における「過少発現する(underexpress)」、「過少発現する(underexpressing)」、「過少発現された(underexpressed)」及び「過少発現(underexpression)」という用語は、ホスト細胞の遺伝的変化前又は遺伝的に変化されていない比較可能なホストにおける同じ遺伝子産物又はポリペプチドの発現以下のレベルでの遺伝子産物又はポリペプチドの発現を指す。例えば、KOタンパク質は、参照標準と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%まで過少発現され又は全く発現されない(100%減少する)こともあることができる。例えば、KOヘルパー遺伝子の欠失/ノックアウトにより得られる遺伝子産物又はポリペプチドの無発現も、「過少発現」という用語に包含される。
【0205】
本明細書で使用する場合、「操作された」ホスト細胞は、遺伝子操作を使用して、すなわち、ヒトの介在により操作されたホスト細胞である。ホスト細胞が所定のタンパク質を「過剰発現するように操作されている」場合、ホスト細胞は、ホスト細胞がヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを発現する、好ましくは、過剰発現する能力を有するように操作されることにより、操作前に同じ条件下でのホスト細胞と比較して、所定のタンパク質、例えば、POI又はモデルタンパク質の発現が増加する。
【0206】
ホスト細胞が所定のタンパク質を「過少発現し」又は「過少発現するように操作された」場合、ホスト細胞は、ホスト細胞がKOヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを過少発現する能力を有するように操作されることにより、所定のタンパク質、例えば、POI又はモデルタンパク質の発現が、操作前に同じ条件でのホスト細胞と比較して増加する。過少発現は、配列番号:16もしくは17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むKOヘルパータンパク質又はその機能的ホモログの機能的発現を妨げる任意の方法により行うことができる。これにより、その機能を発揮することができなくなる。過少発現の手段は、遺伝子サイレンシング(例えば、RNAi遺伝子アンチセンス)、ノックアウト、発現レベルの変化、発現パターンの変化、遺伝子配列の突然変異誘発、配列の破壊、挿入、付加、突然変異、発現制御配列の改変等を含むことができる。過少発現の好ましい手段は、KOヘルパータンパク質の機能的発現をノックアウトすることであり、例えば、KOヘルパータンパク質又はそのフラグメントのコード配列を欠失させることによるか又はKOヘルパータンパク質の発現に必要なレギュラトリー配列(例えば、プロモーター)を欠失させることによる。
【0207】
「操作前」は、本発明のホスト細胞の文脈において使用される場合、このようなホスト細胞がヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを使用して操作されていないことを意味する。このため、前記用語は、ホスト細胞がヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現しないもしくは過少発現しないこと又はヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチド過剰発現するもしくは過少発現するように操作されていないことも意味する。
【0208】
本明細書で使用する場合、「前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように前記ホスト細胞を操作する」という用語は、本発明のホスト細胞が目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを備えること、すなわち、本発明のホスト細胞が目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含有するように操作されることを意味する。これは、例えば、トランスフォーメーションもしくはトランスフェクション又はホスト細胞へのポリヌクレオチドの導入のための当技術分野において公知の任意の他の適切な技術により達成することができる。
【0209】
過剰発現
過剰発現は、以下に詳細に記載されるであろうように、当業者に公知の任意の方法で達成することができる。一般的には、過剰発現は、遺伝子の転写/翻訳を向上させることにより、例えば、遺伝子のコピー数を増加させること又は遺伝子、例えば、脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログをコードする内因性ポリヌクレオチドの発現に関連するレギュラトリー配列又は部位を変化させ又は改変することにより達成することができる。例えば、過剰発現は、レギュラトリー配列(例えば、プロモーター)に操作可能に連結しているヘルパータンパク質又は機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドの1つ以上のコピーを導入することにより達成することができる。例えば、この遺伝子は、高い発現レベルに到達するために、強力な構成的プロモーター及び/又は強力な遍在性プロモーターに操作可能に連結させることができる。このようなプロモーターは、内因性プロモーター又はリコンビナントプロモーターであることができる。代替的に、発現が構成的になるように、レギュラトリー配列を除去することが可能である。所定の遺伝子の天然プロモーターを、遺伝子の発現を増加させ又は遺伝子の構成的発現をもたらす異種プロモーターで置換することができる。例えば、ヘルパータンパク質は、操作前のホスト細胞を同じ条件下で培養した場合と比較して、ホスト細胞により、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%以上又は300%以上まで過剰発現させることができる。誘導性プロモーターを使用することにより、ホスト細胞培養の過程で発現を増加させることが更に可能になる。更に、過剰発現は、例えば、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、特定の遺伝子、例えば、リボソーム結合部位もしくは転写ターミネーターに隣接する核酸配列を変化させること、遺伝子の転写及び/もしくは遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、レギュラトリータンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写アクチベーター等)を変化させること又は例えば、リプレッサータンパク質の発現をブロックするためのアンチセンス核酸分子の使用もしくは過剰発現されるのが望まれる遺伝子の発現を通常リプレッションする転写因子についての遺伝子を欠失させもしくは突然変異させることを含むがこれらに限定されない、当技術分野における特定の遺伝子ルーチンの発現をデレギュレーションする任意の他の従来の手段によっても達成することができる。また、mRNAの寿命を延長することも、発現レベルを改善することができる。例えば、特定のターミネーター領域は、mRNAの半減期を延長するのに使用することができる(Yamanishi et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. (2011) 75:2234及びUS第2013/0244243号)。遺伝子の複数のコピーが含まれる場合、遺伝子は、可変コピー数のプラスミド中に位置するか又は染色体中に組み込まれ、増幅されるかのいずれかをすることができる。ホスト細胞がヘルパータンパク質をコードする遺伝子を含まない場合、発現のためにホスト細胞にこの遺伝子を導入可能である。この場合、「過剰発現」は、当業者に公知の任意の方法を使用して遺伝子産物を発現することを意味する。
【0210】
当業者であれば、特に、Martin et al.(Bio/Technology 5, 137-146 (1987))、Guerrero et al.(Gene 138, 35-41 (1994))、Tsuchiya and Morinaga(Bio/Technology 6, 428-430 (1988))、Eikmanns et al.(Gene 102, 93-98 (1991))EP第0472869号、US第4,601,893号、Schwarzer and Puhler(Bio/Technology 9, 84-87 (1991))、Reinscheid et al.(Applied and Environmental Microbiology 60, 126-132 (1994))、LaBarre et al.(Journal of Bacteriology 175, 1001- 1007 (1993))、WO第96/15246号、Malumbres et al. (Gene 134, 15- 24 (1993))、JP第10-229891号、Jensen and Hammer(Biotechnology and Bioengineering 58, 191-195 (1998))及びMakrides(Microbiological Reviews 60, 512-538 (1996))並びに遺伝学及び分子生物学における周知の教科書に関連する説明を見出すであろう。
【0211】
ヘルパータンパク質
本発明のヘルパータンパク質は、元々、Pichia pastoris CBS7435株又は配列番号:8及び9の場合には、Saccharomyces cerevisiaeから単離された。メチロトローフ酵母であるPichia pastoris(Komagataella phaffii)CBS7435は、一般に使用されるP. pastorisリコンビナントタンパク質産生ホストの親株である。その完全なゲノム配列は、Sturmberger et al.[J. Biotechnol. (2016). 235(4):121-131)]に記載されている。本明細書で特定されたヘルパータンパク質をコードする遺伝子は、これまで、タンパク質収率に対する有益な効果と関連していなかった。非常に密接に関連するPichia pastoris株GS115の完全なゲノム配列は、CBS7435のゲノム配列とほぼ同一であり(Nat. Biotechnol. 27 (6), 561-566)、CBS7435の配列に対応するGS115の配列も、本発明において使用することができる。
【0212】
ヘルパータンパク質は、広い範囲のホスト細胞にわたって過剰発現させることができることが想定される。このため、種又は属にネイティブな配列を使用するのに代えて、ヘルパータンパク質配列は、他の原核生物又は真核生物から得ることもでき又はこれらに由来することもできる。ヘルパータンパク質をコードする外来DNA配列は、各種のソース、例えば、植物、昆虫、真菌又はほ乳類種、好ましくは、Saccharomycetes綱、好ましくは、Saccharomycetales目、好ましくは、Saccharomycetaceae科、好ましくは、Komagataella属から得ることができる。
【0213】
特に、本発明は、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを、単独又はそれらに組み合わせにおいて過剰発現可能な、遺伝的に改変されたホスト細胞に関する。ヘルパータンパク質の組み合わせを反映するように操作されたホスト細胞が、好ましい実施態様において想定される。これらのホスト細胞は、好ましくは、本明細書に記載された方法及び使用において適用される。組み合わせは、配列番号:1~15のいずれか1つから選択される2種以上、例えば、2、3、4、5、6、7、8種以上のヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを含む。
【0214】
同様に、組み合わせは、過剰発現される配列番号:1~15のいずれか1つ及びPP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)から選択される1種以上のヘルパータンパク質又はその機能的ホモログ並びに過少発現される配列番号:16又は17のいずれか1つから選択されるヘルパータンパク質又はその機能的ホモログの組み合わせを含む。このような組み合わせを反映するように操作されたホスト細胞が、好ましい実施態様において想定される。これらのホスト細胞は、本明細書に記載された方法及び使用において適用することができる。
【0215】
スフィンゴ脂質生合成に関与する本発明の下記ヘルパータンパク質及びヘルパータンパク質の組み合わせ
(a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(b)配列番号:2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(c)配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、配列番号:3に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(d)配列番号:1及び2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1及び2に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(e)配列番号:1及び3に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1及び3に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(f)配列番号:1、3及び4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1、3及び4に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(g)配列番号:1、3、4及び8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1、3、4及び8に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(h)配列番号:5及び6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:5及び6に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(i)配列番号:1及び7に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1及び7に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(j)配列番号:5、6及び9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:5、6及び9に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する);
(k)配列番号:1、5、6及び9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はその機能的ホモログ(ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1、5、6及び9に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する)
は、好ましくは、本明細書に記載されたホスト細胞、方法及び使用に適用される。
【0216】
本発明のヘルパータンパク質の組み合わせは、スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質を過剰発現することを含む。本明細書に記載されたホスト細胞、方法及び使用に適用される好ましい組み合わせにおいて、スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質輸送に関与するタンパク質は、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0217】
本発明のヘルパータンパク質の組み合わせは、リン脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び脂質輸送に関与する少なくとも1種のタンパク質を過剰発現することを含む。本明細書に記載されたホスト細胞、方法及び使用に適用される好ましい組み合わせにおいて、リン脂質生合成に関与するタンパク質は、配列番号:10に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、脂質輸送に関与するタンパク質は、配列番号:11に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:10及び11に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0218】
本発明は、更に、本発明のヘルパータンパク質に加えて、シャペロンを過剰発現させることに関する。本明細書で使用する場合、「シャペロン」という用語は、他のポリペプチドのフォールディング、アンフォールディング、アセンブリ又はディスアセンブリを支援するポリペプチドに関する。好ましくは、シャペロンは、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、配列番号:18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0219】
したがって、本発明のヘルパータンパク質の組み合わせは、スフィンゴ脂質生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び少なくとも1種のシャペロンを過剰発現することを含む。好ましくは、スフィンゴ脂質生合成に関与するタンパク質は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、シャペロンは、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1及び18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0220】
本発明のヘルパータンパク質の更なる組み合わせは、エルゴステロール生合成に関与する少なくとも1種のタンパク質及び少なくとも1種のシャペロンを過剰発現することを含む。好ましくは、エルゴステロール生合成に関与するタンパク質は、配列番号:13、配列番号:14もしくは配列番号:15に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、シャペロンは、配列番号:18に示されるアミノ酸配列又はその機能的ホモログを含み、ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:13及び18に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0221】
目的タンパク質
本明細書で使用する場合、「目的のタンパク質」(POI)という用語は、ホスト細胞中においてリコンビナント技術により産生されるタンパク質を指す。より具体的には、タンパク質は、ホスト細胞中に天然に存在しないポリペプチド、すなわち、異種タンパク質であることができ又はホスト細胞にネイティブである、すなわち、ホスト細胞に同種タンパク質であるが、例えば、POIをコードする核酸配列を含有する自己複製ベクターによるトランスフォーメーションによりもしくはPOIをコードする核酸配列の1つ以上のコピーのリコンビナント技術によるホスト細胞のゲノムへの組み込みによりもしくはPOIをコードする遺伝子の発現を制御する1種以上のレギュラトリー配列、例えば、プロモーター配列のリコンビナント改変により産生されることができるかのいずれかであることができる。一般的には、本明細書で言及された目的のタンパク質は、当業者に周知のリコンビナント発現の方法により産生することができる。目的のタンパク質は、好ましくは、膜タンパク質ではない、すなわち、POIは、好ましくは、目的の非膜タンパク質である。
【0222】
ホスト細胞
本明細書で使用する場合、「ホスト細胞」は、タンパク質発現及び場合によりタンパク質分泌が可能な細胞を指す。このようなホスト細胞は、本発明の方法に適用される。その目的で、ホスト細胞に脂質代謝に関与するポリペプチドを過剰発現させ又は過少発現させるために、前記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、細胞に存在し又は導入される。本発明により提供されるホスト細胞は、真核生物ホスト細胞であることができる。非ほ乳類真核生物ホスト細胞がより好ましい。真菌ホスト細胞が更により好ましい。当業者により理解されるであろうように、原核生物細胞は、膜結合核を欠き、一方、真核生物細胞は、膜結合核を有する。真核生物細胞の例は、脊椎動物細胞、ほ乳類細胞、ヒト細胞、動物細胞、無脊椎動物細胞、植物細胞、線虫細胞、昆虫細胞、幹細胞、真菌細胞又は酵母細胞を含むが、これらに限定されない。
【0223】
酵母細胞の例は、Saccharomyces属(例えば、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces kluyveri、Saccharomyces uvarum)、Komagataella属(Komagataella pastoris、Komagataella pseudopastoris又はKomagataella phaffii)、Kluyveromyces属(例えば、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marxianus)、Candida属(例えば、Candida utilis、Candida cacaoi)、Geotrichum属(例えば、Geotrichum fermentans)並びにHansenula polymorpha及びYarrowia lipolyticaを含むが、これらに限定されない。
【0224】
Pichia属は、特に興味深い。Pichiaは、数多くの種を含む。この種は、Pichia pastoris、Pichia methanolica、Pichia kluyveri及びPichia angustaの種を含む。Pichia pastoris種が最も好ましい。
【0225】
旧種Pichia pastorisは分割され、Komagataella pastoris及びKomagataella phaffiiに改名されている。したがって、Pichia pastorisは、Komagataella pastoris及びKomagataella phaffiiの両方と同義語である。
【0226】
本発明に有用なPichia pastoris株の例は、X33並びにその亜株であるGS115、KM71、KM71H;CBS7435(mut+)及びその亜株であるCBS7435 mut、CBS7435 mut ΔArg、CBS7435 mut ΔHis、CBS7435 mut ΔArg、ΔHis、CBS7435 mut PDI、CBS704(=NRRL Y-1603=DSMZ 70382)、CBS2612(=NRRL Y-7556)、CBS 9173-9189及びDSMZ 70877並びにそれらの突然変異体である。これらの酵母株は、細胞リポジトリ、例えば、American Tissue Culture Collection(ATCC)、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen」(DSMZ)(Braunschweig, Germany)又はDutch 「Centraalbureau voor Schimmelcultures」(CBS)(Uetrecht, The Netherlands)から入手できる。
【0227】
更に好ましい実施態様によれば、ホスト細胞は、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Trichoderma reesei、Saccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactis、Yarrowia lipolytica、Pichia methanolica、Candida boidinii並びにKomagataella及びSchizosaccharomyces pombeである。Ustilago maydis由来のホスト細胞であることもできる。これらの酵母株は、細胞リポジトリ、例えば、American Tissue Culture Collection(ATCC)、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen」(DSMZ)(Braunschweig, Germany)又はDutch 「Centraalbureau voor Schimmelcultures」(CBS)(Uetrecht, The Netherlands)から入手できる。
【0228】
E. coliの例は、Escherichia coli K12株、特に、HMS174、HMS174(DE3)、NM533、XL1-Blue、C600、DH1、HB101、JM109に由来するもの及びB株、特に、BL-21、BL21(DE3)に由来するもの等を含む。E. coli細胞は、例えば、クローニング目的で使用することができるが、本発明のホスト細胞としても使用することができる。これらの細菌株は、細胞リポジトリ、例えば、American Tissue Culture Collection(ATCC)、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen」(DSMZ)(Braunschweig, Germany)又はDutch 「Centraalbureau voor Schimmelcultures」(CBS)(Uetrecht, The Netherlands)から入手できる。
【0229】
好ましくは、ホスト細胞により発現されるヘルパータンパク質は、同じ種、属又は科の同じ細胞又に由来し又は同細胞から組み換えられる。本明細書で使用する場合、「リコンビナント」は、ヒトの介在による遺伝物質の改変を指す。典型的には、リコンビナントは、クローニング及び組み換えを含む分子生物学的(リコンビナントDNA技術)方法によるウイルス、細胞、プラスミド又はベクター中でのDNA又はRNAの操作を指す。リコンビナント細胞、ポリペプチド又は核酸は、典型的には、それが天然に存在する対応物(「野生型」)とどのように異なるかを参照して説明することができる。「リコンビナント細胞」又は「リコンビナントホスト細胞」は、前記細胞にネイティブではなかった核酸配列を含むように遺伝的に改変された細胞又はホスト細胞を指す。
【0230】
本発明で使用する場合、「製造」又は「製造する」という用語は、目的のタンパク質が発現されるプロセスを指す。「目的のタンパク質を製造するためのホスト細胞」は、目的のタンパク質をコードする核酸配列を導入することができるホスト細胞を指す。本発明内のリコンビナントホスト細胞は、目的のタンパク質をコードする核酸配列を必ずしも含有しない。ホスト細胞が、例えば、キットにおいて、所望のヌクレオチド配列をホスト細胞に挿入するのに提供することができることが、当業者により理解される。また、「製造する」又は「製造」は、本発明のホスト細胞を使用してPOIを産生し、脂質代謝に関与するタンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現させ、前記目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で本発明のホスト細胞を培養し、場合により、前記目的のタンパク質を細胞培養物から単離するプロセスを指す。
【0231】
本明細書で使用される「ヌクレオチド配列」又は「核酸配列」という用語は、DNA又はRNAのいずれかを指す。「核酸配列」又は「ポリヌクレオチド配列」又は単に「ポリヌクレオチド」は、5’端から3’端に読み取られるデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖ポリマーを指す。これは、自己複製プラスミド、DNA又はRNAの感染性ポリマー及び非機能性DNA又はRNAの両方を含む。
【0232】
「アミノ酸」という用語は、天然及び合成アミノ酸並びに天然のアミノ酸に類似する様式で機能するアミノ酸類似物及びアミノ酸模倣物を指す。天然のアミノ酸は、遺伝情報によりコードされるアミノ酸並びに後に修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタマート及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似物は、天然のアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ酸及びR基に結合した炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このような類似物は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)又は改変されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本化学構造を維持している。アミノ酸模倣物は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然のアミノ酸に類似する様式で機能する化合物を指す。
【0233】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、互換的に使用される。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸、典型的には、少なくとも3つ、好ましくは、少なくとも20個、より好ましくは、少なくとも30個、例えば、少なくとも50個 アミノ酸を含有するタンパク質又はペプチドを指す。したがって、ポリペプチドは、アミノ酸配列を含むため、アミノ酸配列を含むポリペプチドは、本明細書において、「ポリペプチド配列を含むポリペプチド」と呼ばれる場合がある。このため、本明細書において、「ポリペプチド配列」という用語は、「アミノ酸配列」という用語と互換滴に使用される。言及されたように、過剰発現は、選択されたヘルパータンパク質の1つ又は2つ以上の余分なコピーの挿入により達成することができる。好ましい実施態様によれば、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドは、細胞あたりに単一のコピー又は複数のコピーで存在することができる。このコピー同士は、隣接し又は離れていることができる。別の好ましい実施態様によれば、本発明の方法は、細胞あたりに単一のコピー又は複数のコピーにおいて、ホスト細胞のゲノムへの組み込みに適した1つ以上のプラスミドに提供されるヘルパータンパク質をコードするリコンビナントヌクレオチド配列を利用する。このコピー同士は、隣接し又は離れていることができる。一実施態様では、過剰発現は、ホスト細胞あたりに1つ又は複数のコピーのポリヌクレオチド、例えば、2、3、4、5、6つ又はそれ以上のコピーの前記ポリヌクレオチドを発現させることにより達成することができる。ポリヌクレオチドは、好ましくは、ホスト細胞中におけるポリペプチドの発現を提供する転写及び翻訳レギュラトリー配列に操作可能に連結している。本明細書で使用する場合、「転写レギュラトリー配列」という用語は、遺伝子核酸配列に関連し、遺伝子の転写をレギュレーションするヌクレオチド配列を指す。本明細書で使用する場合、「翻訳レギュラトリー配列」という用語は、遺伝子核酸配列に関連し、遺伝子の翻訳をレギュレーションするヌクレオチド配列を指す。転写及び/又は翻訳レギュラトリー配列は、プラスミドもしくはベクターに位置するか又はホスト細胞の染色体に組み込まれているかのいずれかであることができる。転写及び/又は翻訳レギュラトリー配列は、それがレギュレーションする遺伝子の同じ核酸分子に位置する。好ましくは、過剰発現は、ホスト細胞あたりに1、2、3、4つもしくはそれ以上のコピーの、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを有することにより又はホスト細胞あたりに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個 コピーの、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを有することにより達成することができる。
【0234】
ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチド及び/又はPOIをコードするポリヌクレオチドは、好ましくは、ホスト細胞のゲノムに組み込まれる。「ゲノム」という用語は、一般的には、DNA(又は特定のウイルス種についてはRNA)においてコードされる生物の遺伝情報全体を指す。ゲノムは、染色体中、プラスミドもしくはベクター又は両方に存在することができる。好ましくは、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドは、前記細胞の染色体に組み込まれる。
【0235】
ヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドは、その天然の遺伝子座に組み込むことができる。「天然の遺伝子座」は、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドが例えば、本発明のヘルパータンパク質をコードする遺伝子の天然の遺伝子座に位置する特定の染色体上の位置を意味する。任意のこのような遺伝子は、上記表1に示された遺伝子識別子に従って特定することができる。ただし、別の実施態様では、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドは、その天然の遺伝子座ではないホスト細胞のゲノムに存在し、異所的に組み込まれる。「異所的組み込み」という用語は、その通常の染色体遺伝子座以外の部位における微生物ゲノムへの核酸の挿入、すなわち、所定又はランダム組み込みを意味する。代替的に、ヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドは、その天然の遺伝子座及び異所的に組み込むことができる。
【0236】
酵母細胞について、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチド及び/又はPOIをコードするポリヌクレオチドは、所望の遺伝子座、例えば、AOX1、GAP、ENO1、TEF、HIS4(Zamir et al., Proc. NatL Acad. Sci. USA (1981) 78(6):3496-3500)、HO(Voth et al. Nucleic Acids Res. 2001 June 15; 29(12): e59)、TYR1(Mirisola et al., Yeast 2007; 24: 761-766)、His3、Leu2、Ura3(Taxis et al., BioTechniques (2006) 40:73-78)、Lys2、ADE2、TRP1、GAL1、ADH1(これらに限定されない)に挿入することができ又は5SリボソームRNA遺伝子に組み込むことができる。
【0237】
他の実施態様では、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチド及び/又はPOIをコードするポリヌクレオチドは、プラスミド又はベクターに組み込むことができる。「プラスミド」及び「ベクター」という用語は、自己複製ヌクレオチド配列及びゲノム組み込みヌクレオチド配列を含む。当業者であれば、使用されるホスト細胞に応じて、適切なプラスミド又はベクターを利用することができる。
【0238】
好ましくは、プラスミドは、真核生物発現ベクター、好ましくは、酵母発現ベクターである。
【0239】
プラスミドは、適切なホスト生物におけるクローニングされたリコンビナントヌクレオチド配列、すなわち、リコンビナント遺伝子の転写及びそれらのmRNAの翻訳に使用することができる。また、プラスミドは、当技術分野において公知の方法、例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001)に記載されている方法により、ホスト細胞ゲノム内にターゲットポリヌクレオチドを組み込むのにも使用することができる。「プラスミド」は、通常、ホスト細胞における自己複製起点、選択マーカー、多数の制限酵素開裂部位、適切なプロモーター配列及び転写ターミネーターを含み、これらのコンポーネント同士は操作可能に連結している。目的のポリペプチドコード配列は、ホスト細胞におけるポリペプチドの発現を提供する転写及び翻訳レギュラトリー配列に操作可能に連結している。
【0240】
核酸は、同じ核酸分子上の別の核酸配列と機能的関係に置かれる場合、「操作可能に連結している」。例えば、プロモーターは、そのコード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合、リコンビナント遺伝子のコード配列と操作可能に連結している。
【0241】
ほとんどのプラスミドは、細菌細胞あたりに1コピーしか存在しない。ただし、一部のプラスミドは、より多くのコピー数で存在する。例えば、プラスミドColE1は、典型的には、E. coliの染色体あたりに10~20個 プラスミドコピーで存在する。本発明のヌクレオチド配列がプラスミドに含まれる場合、プラスミドは、ホスト細胞あたりに1~10、10~20、20~30、30~100個又はそれ以上のコピー数を有することができる。多くのコピー数のプラスミドにより、その細胞によるヘルパータンパク質の過剰発現が可能である。
【0242】
多数の適切なプラスミド又はベクターが、当業者に公知であり、多くが市販されている。適切なベクターの例は、Sambrook et al, eds., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Ed.), Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)及びAusubel et al, eds., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1997)に提供される。
【0243】
本発明のベクター又はプラスミドは、酵母人工染色体を包含する。これは、テロメア、セントロメア及び複製起点(複製起点)配列を含有する異種DNA配列(例えば、3000kbの大きさのDNA配列)を含有するように遺伝的に改変することができるDNA構築物を指す。
【0244】
また、本発明のベクター又はプラスミドは、細菌人工染色体(BAC)も包含する。これは、複製起点配列(Ori)を含有し、1種以上のヘリカーゼ(例えば、parA、parB及びparC)を含有することができる、異種DNA配列(例えば、300kbの大きさのDNA配列)を含有するように遺伝的に改変することができるDNA構築物を指す。
【0245】
ホストとして酵母を使用するプラスミドの例は、YIp型ベクター、YEp型ベクター、YRp型ベクター、YCp型ベクター(Yxpベクターは、例えば、Romanos et al. 1992, Yeast. 8(6):423-488に記載されている)pGPD-2(Bitter et al., 1984, Gene, 32:263-274に記載されている)、pYES、pAO815、pGAPZ、pGAPZα、pHIL-D2、pHIL-S1、pPIC3.5K、pPIC9K、pPICZ、pPICZα、pPIC3K、pPINK-HC、pPINK-LC(全て、Thermo Fisher Scientific/Invitrogenから入手可能)、pHWO10(Waterham et al., 1997, Gene, 186:37-44に記載されている)、pPZeoR、pPKanR、pPUZZLE及びpPUZZLE誘導体(Stadlmayr et al., 2010, J Biotechnol. 150(4):519-29.;Marx et al. 2009, FEMS Yeast Res. 9(8):1260-70.に記載されている);pJ-ベクター(例えば、pJAN、pJAG、pJAZ及びそれらの誘導体;全てBioGrammatics,Inc.から入手可能)、pJexpress-ベクター、pD902、pD905、pD915、pD912及びそれらの誘導体、pD12xx、pJ12xx(全てATUM/DNA2.0から入手可能)、pRGプラスミド(Gnugge et al., 2016, Yeast 33:83-98に記載されている)、2μm プラスミド(例えば、Ludwig et al., 1993, Gene 132(1):33-40に記載されている)を含む。このようなベクターは公知であり、例えば、Cregg et al., 2000, Mol Biotechnol. 16(1):23-52又はAhmad et al. 2014., Appl Microbiol Biotechnol. 98(12):5301-17に記載されている。更に、適切なベクターは、例えば、Lee et al. 2015, ACS Synth Biol. 4(9):975-986;Agmon et al. 2015, ACS Synth. Biol., 4(7):853-859;又はWagner and Alper, 2016, Fungal Genet Biol. 89:126-136に記載されているような進歩したモジュラークローニング技術により容易に生成することができる。加えて、これら及び他の適切なベクターは、www.addgene.orgからも入手可能である。
【0246】
ホストとしてEscherichia coliを使用するプラスミドの例は、pBR322(例えば、New England Biolabs及びThermoFisher Scientificから入手可能)、pBADベクター、pETベクターシリーズ(両方とも、例えば、ThermoFisher Scientificから入手可能であり、pETベクターは、Novagenからも入手可能)、pUC18、pUC19、pUC118/119(全て、例えば、Takaraから入手可能)、pVC119(Del Sol et al., 2006, J Bacteriol. 188(4):1540-1550に記載されている)、pSP64、pSP65(両方ともPromegaから入手可能)、pTZ-18R/-18U(Amershamから入手可能)、pTZ-19R/-19U(Sigma-Aldrichから入手可能)、pGEM-3、pGEM-4、pGEM-3Z、pGEM-4Z、pGEM-5Zf(-)(pGEMベクターは、Promegaから入手可能)及びpBluescript KS(Agilentから入手可能)を含む。Escherichia coliにおける発現に適したプラスミドの例は、pKK223(Brosius and Holy, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 81:6929-6933に記載されている)、pMC1403、pMC931(両方ともにCasadaban et al. 1980, J Bacteriol. 143(2):971-980記載されている)及びpKC30(Rao, 1984, Gene 31(1-3):247-250に記載されている)を含む。加えて、これら及び他の適切なベクターは、www.addgene.orgからも入手可能である。
【0247】
プロモーター
リコンビナント細胞における内因性ポリペプチドの過剰発現は、ホスト細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現を提供する、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)等を含む転写及び翻訳レギュラトリー配列を改変することにより達成することができる。このような配列は、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する(Maniatis et al., Science, 236: 1237-1245 (1987))。例示的な配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。
【0248】
例えば、リコンビナント細胞における内因性ヘルパータンパク質の過剰発現は、プロモーターを改変することにより、例えば、高い発現レベルに到達するために、ヘルパータンパク質に操作可能に連結される内因性プロモーターを別のより強力なプロモーターで置き換えることにより達成することができる。このようなプロモーターは、誘引的でも又は構成的でもよい。内因性プロモーターの改変は、当技術分野において公知の方法を使用して、突然変異又は相同組み換えにより行うことができる。
【0249】
ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドの過剰発現は、当技術分野において公知の他の方法により、例えば、Marx et al., 2008(Marx, H., Mattanovich, D. and Sauer, M. Microb Cell Fact 7 (2008): 23)及びPan et al., 2011(Pan et al., FEMS Yeast Res. (2011) May; (3):292-8.)に記載されているように、その内因性レギュラトリー領域を遺伝的に改変することにより達成することができる。このような方法は、例えば、ヘルパータンパク質の発現を向上させるリコンビナントプロモーターの組み込みを含む。トランスフォーメーションは、Cregg et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3376-3385に記載されている。「リコンビナント」プロモーターは、それが発現を駆動する配列に関して言及される。本明細書で使用する場合、リコンビナントプロモーターは、プロモーターが所定の配列にネイティブなプロモーターでない場合、すなわち、プロモーターが天然のプロモーター(「ネイティブなプロモーター」)と異なる場合を意味する。このようなプロモーターは、本明細書において、異種プロモーターとも呼ばれることもある。
【0250】
本明細書で使用する場合、「プロモーター」という用語は、特定の遺伝子の転写を促進する領域を指す。プロモーターは、典型的には、プロモーターが存在しない場合に発現されるリコンビナント産物の量と比較して、ヌクレオチド配列から発現されるリコンビナント産物の量を増加させる。1つの生物由来のプロモーターは、別の生物に由来する配列からのリコンビナント産物発現を増強するのに利用することができる。プロモーターは、当技術分野において公知の方法を使用して、相同組み換えによりホスト細胞染色体に組み込むことができる(例えば、Datsenko et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 97(12): 6640-6645 (2000))。加えて、1つのプロモーターエレメントは、タンデムに結合した複数の配列について発現される産物の量を増加させることができる。したがって、1つのプロモーターエレメントは、1種以上のリコンビナント産物の発現を増強することができる。
【0251】
プロモーター活性は、その転写効率により評価することができる。これは、プロモーターからのmRNA転写の量の測定により、例えば、ノーザンブロット、定量的PCRにより直接的に又はプロモーターから発現される遺伝子産物の量の測定により間接的に決定することができる。
【0252】
プロモーターは、「誘引性プロモーター」又は「構成的プロモーター」であることができる。「誘引性プロモーター」は、特定の因子の有無により誘引することができるプロモーターを指す。「構成的プロモーター」は、その関連する1種以上の遺伝子の連続転写を可能にするレギュレーションされていないプロモーターを指す。
【0253】
好ましい実施態様では、ヘルパータンパク質及びPOIをコードするヌクレオチド配列の転写は両方とも、それぞれ、誘引性プロモーターにより駆動される。別の好ましい実施態様では、ヘルパータンパク質及びPOIをコードするヌクレオチド配列の転写は両方とも、それぞれ、構成的プロモーターにより駆動される。更に別の好ましい実施態様では、ヘルパータンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写は、構成的プロモーターにより駆動され、POIをコードするヌクレオチド配列の転写は、誘引性プロモーターにより駆動される。更に別の好ましい実施態様では、ヘルパータンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写は、誘引性プロモーターにより駆動され、POIをコードするヌクレオチド配列の転写は、構成的プロモーターにより駆動される。例として、ヘルパータンパク質遺伝子の転写は、構成的GAPプロモーターにより駆動させることができ、POIをコードするヌクレオチド配列の転写は、誘引的AOX1プロモーターにより駆動させることができる。一実施態様では、ヘルパータンパク質及びPOIをコードするヌクレオチド配列の転写は、プロモーター活性及び/又は発現挙動に関して、同じプロモーター又は類似するプロモーターにより駆動される。
【0254】
多くの誘引性プロモーターが、当技術分野において公知である。多くは、Gatz, Curr. Op. Biotech., 7: 168 (1996)のレビューに記載されている(Gatz, Ann. Rev. Plant. Physiol. Plant Mol. Biol., 48:89 (1997)も参照のこと)。例は、テトラサイクリンリプレッサー系、Lacリプレッサー系、銅誘引系、サリチラート誘引系(例えば、PR1a系)、グルココルチコイド誘引(Aoyama et al., 1997)、アルコール誘引系、例えば、AOXプロモーター及びエクジソーム誘引系を含む。ベンゼンスルホンアミド誘引系(US第5,364,780号)及びアルコール誘引系(WO第97/06269号及び同第97/06268号)並びにグルタチオンS-トランスフェラーゼプロモーターも含まれる。
【0255】
酵母ホスト細胞と共に使用するのに適したプロモーター配列は、Mattanovich et al., Methods Mol. Biol. (2012) 824:329-58に記載されており、解糖酵素、例えば、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH又はGAP)及びその変異体、ラクターゼ(LAC)及びガラクトシダーゼ(GAL)、P. pastorisグルコース-6-リン酸イソメラーゼプロモーター(PPGI)、3-ホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PPGK)、グリセロールアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(PGAP)、翻訳伸長因子プロモーター(PTEF)並びにP. pastorisエノラーゼ1(PENO1)のプロモーター、トリオースリン酸イソメラーゼ(PTPI)、リボソームサブユニットタンパク質(PRPS2、PRPS7、PRPS31、PRPL1)、アルコールオキシダーゼプロモーター(PAOX)又は改変された特性を有するその変異体のプロモーター、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼプロモーター(PFLD)、イソクエン酸リアーゼプロモーター(PICL)、アルファ-ケトイソカプロアートデカルボキシラーゼプロモーター(PTHI)、ヒートショックタンパク質ファミリーメンバー(PSSA1、PHSP90、PKAR2)のプロモーター、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(PGND1)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGPM1)、トランスケトラーゼ(PTKL1)、ホスファチジルイノシトールシンターゼ(PPIS1)、フェロ-O2-オキシドレダクターゼ(PFET3)、高親和性鉄ペルミアーゼ(PFTR1)、リプレッシブルアルカリホスファターゼ(PPHO8)、N-ミリストイルトランスフェラーゼ(PNMT1)、フェロモン応答転写因子(PMCM1)、ユビキチン(PUBI4)、一本鎖DNAエンドヌクレアーゼ(PRAD2)、ミトコンドリア内膜の主要ADP/ATPキャリアのプロモーター(PPET9)(WO第2008/128701号)及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FMD)プロモーターを含む。GAPプロモーター、AOXプロモーター又はGAPもしくはAOXプロモーターから得られるプロモーターが特に好ましい。AOXプロモーターは、メタノールにより誘引することができ、例えば、グルコースによりリプレッションされる。
【0256】
適切なプロモーターの更なる例は、Saccharomyces cerevisiaeエノラーゼ(ENO-1)、Saccharomyces cerevisiaeガラクトキナーゼ(GAL1)、Saccharomyces cerevisiaeアルコールデヒドロゲナーゼ/グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(ADH1、ADH2/GAP)、Saccharomyces cerevisiaeトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、Saccharomyces cerevisiaeメタロチオネイン(CUP1)及びSaccharomyces cerevisiae 3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)及びマルターゼ遺伝子プロモーター(MAL)を含む。
【0257】
酵母ホスト細胞のための他の有用なプロモーターは、Romanos et al, 1992, Yeast 8:423-488に記載されている。
【0258】
E. coliと共に使用するのに適したプロモーター配列は、プラスミド中のT7プロモーター、T5プロモーター、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン/ラクトース(tac)プロモーター、リポタンパク質(lpp)プロモーター及びλファージPLプロモーターを含む。
【0259】
ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を駆動するプロモーターは、好ましくは、ヘルパー遺伝子のプロモーターに対して内因性ではない。好ましくは、リコンビナントプロモーターは、ヘルパータンパク質遺伝子の内因性プロモーターの代わりに使用される。
【0260】
エンハンサー
好ましい実施態様では、過剰発現は、ヘルパータンパク質の発現を駆動するプロモーター活性を増強するためのエンハンサーを使用することにより達成される。転写エンハンサーは、転写単位に対して5’及び3’、イントロン内並びにコード配列自体内で見出されており、比較的向き及び位置に依存しない。エンハンサーは、コード配列に対して5’又は3’の位置で発現ベクター内にスプライシングすることができるが、好ましくは、プロモーターから5’の位置に位置する。ほとんどの酵母遺伝子は、1つのUASのみを含有する。UASは、一般的には、数百塩基対のcap部位に存在し、ほとんどの酵母エンハンサー(UAS)は、プロモーターの3’に位置した場合、機能できないが、高等真核生物におけるエンハンサーは、プロモーターの5’及び3’の両方で機能することができる。
【0261】
現在、多くのエンハンサー配列が、ほ乳類遺伝子(グロビン、RSV、SV40、EMC、エラスターゼ、アルブミン、a-フェトタンパク質及びインスリン)から公知である。真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサー、例えば、SV40後期エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーを使用することもできる。酵母エンハンサー(上流活性化配列(UAS)とも呼ばれる)、例えば、Saccharomyces cerevisiae由来のUAS/GAL系は、酵母プロモーターとともに有利に使用することができる(EP第0317254号及びRudoni et al., The International Journal of Biochemistry and Cell Biology, (2000), 32(2):215-224に記載されている)。
【0262】
好ましい実施態様では、本発明により開示された2、3、4、5、6、7、8、9種又はそれ以上のヘルパータンパク質が過剰発現される。例えば、ホスト細胞は、2、3、4、5、6、7、8、9種又はそれ以上の、配列番号:1~15のいずれか1つから選択されるヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現するように操作することができ、ここで、その機能的ホモログは、配列番号:1~15それぞれのいずれか1つと少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含む。更なる実施態様では、ホスト細胞は、2、3、4、5、6、7、8、9種又はそれ以上の、配列番号:1~15のいずれか1つ、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)から選択されるヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現するように操作することができ、ここで、その機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つ、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含む。
【0263】
目的タンパク質
ホスト細胞が、ヘルパータンパク質及び目的のタンパク質の過剰発現に適した条件下で培養することができる場合、ホスト細胞は、目的のタンパク質を発現し、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するであろうことが想定される。ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。ホスト細胞が、ヘルパータンパク質及び目的のタンパク質の共発現に適した条件下で培養することができる場合、ホスト細胞は、目的のタンパク質を発現し、配列番号:1~15、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するであろうことが更に想定される。ここで、機能的ホモログは、それぞれ、配列番号:1~15のいずれか1つ、PP7435_Chr3-0788(SUR2)、PP7435_Chr3-1005(PHS1)、PP7435_Chr2-0350(AUR1)、PP7435_Chr4-0626(IFA38)、PP7435_Chr3-0669(SCS7)、PP7435_Chr3-0636(CRD1)、PP7435_Chr3-0950(SLC4)、PP7435_Chr2-0585(PIS1)、PP7435_chr1-0934(PRY2)、ARV1(ORF注釈なし;PP7435_Chr4-0493/0494間に位置する)、PP7435_Chr3-0741(ARE2)、PP7435_Chr4-0963(FAD12)、PP7435_Chr1-0794(PSD1)、PP7435_Chr1-0160(SLC1)、PP7435_CHR1-0078(GPT2)、PP7435_Chr3-1169(DGK1)及びPP7435_Chr2-0045(CDS1)に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。
【0264】
本明細書で使用する場合、「目的のタンパク質」(POI)という用語は、ホスト細胞中においてリコンビナント技術により産生されるタンパク質を指す。より具体的には、タンパク質は、ホスト細胞中に天然に存在しないポリペプチド、すなわち、異種タンパク質であることができ又はホスト細胞にネイティブである、すなわち、ホスト細胞に同種タンパク質であるが、例えば、POIをコードする核酸配列を含有する自己複製ベクターによるトランスフォーメーションによりもしくはPOIをコードする核酸配列の1つ以上のコピーのリコンビナント技術によるホスト細胞のゲノムへの組み込みによりもしくはPOIをコードする遺伝子の発現を制御する1種以上のレギュラトリー配列、例えば、プロモーター配列のリコンビナント改変により産生されることができるかのいずれかであることができる。一般的には、本明細書で言及された目的のタンパク質は、当業者に周知のリコンビナント発現の方法により産生することができる。
【0265】
目的のタンパク質(POI)に関して制限はない。POIは、通常、真核生物又は原核生物ポリペプチド、その変異体又は誘導体である。POIは、任意の真核生物又は原核生物タンパク質であることができる。POIの例は、Schmidt, Appl. Microbiol. Biotechnol. (2004), 65: 363-372又はKirk et al., Curr. Opin. Biotechnol. (2002), 13: 345-351に記載されている。Schmidtの表1及び2並びにKirk et al.の表1に言及されているタンパク質のいずれも、本明細書で使用される「POI」という用語に包含される。このタンパク質は、天然に分泌されるタンパク質又は細胞内タンパク質、すなわち、天然に分泌されないタンパク質であることができる。また、本発明は、タンパク質の生物学的に活性なフラグメントも含む。別の実施態様では、POIは、アミノ酸鎖であることができ又は複合体、例えば、ダイマー、トリマー、ヘテロダイマー、マルチマー又はオリゴマーで存在することができる。
【0266】
目的のタンパク質は、栄養、食事、消化、サプリメントとして、例えば、食品、飼料製品又は化粧品において使用されるタンパク質であることができる。食品は、例えば、ブイヨン、デザート、シリアルバー、菓子、スポーツドリンク、ダイエット製品又は他の栄養製品であることができる。好ましくは、目的のタンパク質は、食品添加剤である。
【0267】
別の実施態様では、目的のタンパク質は、動物飼料に使用することができる。POIは、解毒酵素、例えば、マイコトキシン分解酵素であることができる。マイコトキシン分解酵素は、アフラトキシンデトキシザイム、ゼアラレノンエステラーゼ、ゼアラレノンラクトナーゼ、ゼアラレノンヒドロラーゼ、フモニシンカルボキシルエステラーゼ、フモニシンアミノトランスフェラーゼ、アミノポリオールアミンオキシダーゼ、デオキシニバレノールエポキシドヒドロラーゼを含む。また、POIは、オクラトキシン誘導体又は麦角アルカロイドを分解する酵素であることができる。これらの化合物は、ヒト及び家畜を含む生体に対して毒性である。このような酵素の例は、オクラトキシンアミダーゼ、エルゴタミンヒドロラーゼ、エルゴタミンアミラーゼを含む。動物飼料中のマイコトキシン分解酵素は、飼料のマイコトキシン汚染を抑制するのに有用である。
【0268】
POIの更なる例は、抗菌タンパク質、例えば、ラクトフェリン、リゾチーム、ラクトフェリシン、ラクトヘドリン、カッパ-カゼイン、ハプトコリン、ラクトペルオキシダーゼ、乳タンパク質、急性期タンパク質、例えば、感染に応答して生産動物において通常産生されるタンパク質を含む。
【0269】
飼料添加剤として使用することができる酵素の例は、フィターゼ、キシラナーゼ及びβ-グルカナーゼを含む。「食物」は、ヒトが食べ、摂取し、消化することを意図した又はそれらに適した、任意の天然もしくは人工の食事等又はそのような食事の成分を意味する。
【0270】
食品添加剤として使用することができる酵素の例は、プロテアーゼ、リパーゼ、ラクターゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチナーゼ、トランスグルタミナーゼ、アミラーゼ、β-グルカナーゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ及びラッカーゼを含む。
【0271】
酵素
POIは、酵素であることができる。好ましい酵素は、工業用途、例えば、洗剤、デンプン、燃料、織物、パルプ及び紙、油、パーソナルケア製品の製造又は例えば、ベーキング、有機合成等に使用することができるものである(Kirk et al., Current Opinion in Biotechnology (2002) 13:345-351を参照のこと)。
【0272】
治療タンパク質
POIは、治療用タンパク質であることができる。POIは、本明細書により詳細に記載されるように、抗体もしくは抗体フラグメント又は抗体由来足場、単一ドメイン抗体及び抗体由来親和性足場以外のその誘導体、成長因子、ホルモン、酵素、ワクチン等の生物医薬物質として適切なタンパク質であることができるが、これらに限定されない。
【0273】
好ましくは、目的のタンパク質は、ほ乳類ポリペプチド又は更により好ましくは、ヒトポリペプチドである。特に好ましい治療タンパク質は、ほ乳類に投与することができる任意のポリペプチド、タンパク質、タンパク質変異体、融合タンパク質及び/又はそのフラグメントを指す。本発明の治療タンパク質が細胞に対して異種であることが想定されるが、必ずしも必要ではない。本発明の細胞により産生することができるタンパク質の例は、酵素、レギュラトリータンパク質、レセプター、ペプチドホルモン、成長因子、サイトカイン、足場結合タンパク質(例えば、アンチカリン)、構造タンパク質、リンホカイン、接着分子、レセプター及びアゴニストもしくはアンタゴニストとして機能することができ及び/又は治療的もしくは診断的使用を有することができる任意の他のポリペプチドであるが、これらに限定されない。更に、目的のタンパク質は、ワクチン接種に使用されるような抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質であることができる。
【0274】
このような治療タンパク質は、インスリン、インスリン様成長因子、hGH、tPA、サイトカイン、例えば、インターロイキン、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)アルファ、IFNベータ、IFNガンマ、IFNオメガ又はIFNタウ、腫瘍壊死因子(TNF)であるTNFアルファ及びTNFベータ、TRAIL;G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1及びVEGFを含むが、これらに限定されない。
【0275】
好ましい実施態様では、タンパク質は、抗体である。「抗体」という用語は、エピトープに適合し、それを認識する特定の形状を有する任意のポリペプチド鎖含有分子構造(ここで、1つ以上の非共有結合相互作用が、分子構造とエピトープとの間の複合体を安定化する)を含むことが意図される。典型的な抗体分子は、免疫グロブリンであり、全てのソース、例えば、ヒト、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、他のほ乳類、ニワトリ、他の鳥類等由来の全ての種類の免疫グロブリン、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD、IgY等が、「抗体」であると考えられる。例えば、抗体フラグメントは、Fv(VL及びVHを含む分子)、一本鎖Fv(scFV)(ペプチドリンカーにより連結されたVL及びVHを含む分子)、Fab、Fab’、F(ab’)、単一ドメイン抗体(sdAb)(単一可変ドメイン及び3つのCDRを含む分子)及びその多価提示体を含むことができるが、これらに限定されない。抗体又はそのフラグメントは、マウス、ヒト、ヒト化又はキメラ抗体又はそのフラグメントであることができる。治療タンパク質の例は、抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、リコンビナント抗体、抗体フラグメント、例えば、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、di-scFvs、bi-scFvs、タンデムscFvs、二重特異性タンデムscFvs、sdAb、ナノボディ、V及びV又はヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、IgA抗体、IgD抗体、IgE抗体、IgG抗体、IgM抗体、イントラボディ、ダイアボディ、テトラボディ、ミニボディもしくはモノボディを含む。
【0276】
治療タンパク質の更なる例は、血液凝固因子(VII、VIII、IX)、Fusarium由来のアルカリプロテアーゼ、カルシトニン、CD4レセプターダルベポエチン、DNase(嚢胞性繊維症)、エリスロポエチン、ユートロピン(ヒト成長ホルモン誘導体)、卵胞刺激ホルモン(フォリトロピン)、ゼラチン、グルカゴン、グルコセレブロシダーゼ(ゴーシェ病)、A. niger由来のグルコサミラーゼ、A. niger由来のグルコースオキシダーゼ、ゴナドトロピン、成長因子(GCSF、GMCSF)、成長ホルモン(ソマトトロピン)、B型肝炎ワクチン、ヒルジン、ヒト抗体フラグメント、ヒトアポリポタンパク質AI、ヒトカルシトニン前駆体、ヒトコラゲナーゼIV、ヒト上皮成長因子、ヒトインスリン様成長因子、ヒトインターロイキン6、ヒトラミニン、ヒトプロアポリポタンパク質AI、ヒト血清アルブミン、インスリン、インスリン及びムテイン、インスリン、インターフェロンアルファ及びムテイン、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ(ムテイン)、インターロイキン2、黄体化ホルモン、モノクローナル抗体5T4、マウスコラーゲン、OP-1(骨形成、神経保護因子)、オプレルベキン(インターロイキン11-アゴニスト)、オルガノホスホヒドロラーゼ、PDGFアゴニスト、フィターゼ、血小板由来成長因子(PDGF)、リコンビナントプラスミノーゲンアクチベーターG、スタフィロキナーゼ、幹細胞因子、破傷風毒素フラグメントC、組織プラスミノーゲンアクチベーター及び腫瘍壊死因子を含む(Schmidt, Appl Microbiol Biotechnol (2004) 65:363-372を参照のこと)。
【0277】
リーダー配列
目的のタンパク質は、ホスト細胞からのPOIの分泌を引き起こすリーダー配列と連結させることができる。発現ベクター中のこのような分泌リーダー配列の存在は、リコンビナント発現及び分泌を意図するPOIが天然に分泌されないため、天然の分泌リーダー配列を欠くタンパク質であるか又はそのヌクレオチド配列がその天然の分泌リーダー配列なしでクローニングされている場合に必要とされる。一般的には、ホスト細胞からのPOIの分泌を引き起こすのに有効な任意の分泌リーダー配列を、本発明に使用することができる。分泌リーダー配列は、酵母ソース、例えば、酵母α因子、例えば、Saccharomyces cerevisiaeのMFaもしくは酵母ホスファターゼ、ほ乳類もしくは植物ソース等から得ることができる。適切な分泌リーダー配列の選択は、当業者に明らかである。代替的に、分泌リーダー配列は、発現ベクター中のヌクレオチド配列のクローニングの前に、当業者に公知の従来のクローニング技術により、リコンビナント発現を意図するPOIをコードするヌクレオチド配列に融合させることができるか又は天然の分泌リーダー配列を含むPOIをコードするヌクレオチド配列は、発現ベクター中にクローニングされる。これらの場合、発現ベクター中の分泌リーダー配列の存在は必要とされない。
【0278】
POIをコードするリコンビナントヌクレオチド配列及びヘルパータンパク質をコードするリコンビナントヌクレオチド配列を、1種以上の自己複製プラスミド上に、細胞あたりに単一コピー又は複数コピーでも提供することができる。
【0279】
代替的に、POIをコードするリコンビナントヌクレオチド配列及びヘルパータンパク質をコードするリコンビナントヌクレオチド配列は、同じプラスミド上に、細胞あたりに単一コピー又は複数コピーで存在する。
【0280】
ヘルパータンパク質の過少発現
また、本発明者らは、発現がホスト細胞からのPOIの収率に負の影響を有することが観察された脂質貯蔵に関与するいくつかのヘルパータンパク質(KOヘルパータンパク質)も特定した。ホスト細胞からのPOIの収率に負の影響を及ぼすこのようなヘルパータンパク質は、好ましくは、転写因子ではない。配列番号:16もしくは17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログが好ましく、配列番号:16又は17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質の機能的ホモログは、配列番号:16又は17のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%、例えば、少なくとも31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99又は100%の配列同一性を有する。更に、配列番号:16又は17のKOヘルパータンパク質をコードする遺伝子の改変、例えば、突然変異又は欠失により、POIの収率を向上させることができることが発見された。本開示は、本発明者らにより特定されたKOヘルパー遺伝子を過少発現するようにホスト細胞を操作することにより、POIの収率を更に改善するのに有用な方法及び材料を提供する。このようなヘルパータンパク質がホスト細胞中に存在する場合、ヘルパータンパク質は、POI収率を改善するために、改変する、例えば、突然変異させ又はノックアウトすることができる。このようなKOヘルパータンパク質の存在は、当技術分野において公知の任意の方法により、本明細書で提供された遺伝子識別子又はヌクレオチド配列を参照して特定することができる。目的の非膜タンパク質の収率を改善するために、ホスト細胞に有利に存在しないKOヘルパータンパク質を、上記表1に列挙する。
【0281】
好ましくは、ホスト細胞は、配列番号:16もしくは17に示されるアミノ酸配列を含むKOタンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作することができ、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。例えば、ホスト細胞は、配列番号:16に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作することができる。例えば、ホスト細胞は、配列番号:17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作することができる。
【0282】
好ましくは、KO1(配列番号:16に示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質)及び/又はKO2(配列番号:17に示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質)が過少発現される場合、ホスト細胞におけるモデルタンパク質であるSDZ-Fab又はHyHEL-Fabの収率は、KOタンパク質を過少発現するように操作する前のホスト細胞と比較して、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290又は少なくとも300%まで、好ましくは、少なくとも10%まで向上させることができる。
【0283】
「過少発現」という用語は、一般的には、参照標準により示される発現レベル以下の任意の量を指し、ここで、参照標準は、KOタンパク質を過少発現するように操作する前のホスト細胞である。本発明における「過少発現する」、「過少発現する」、「過少発現された」及び「過少発現」という用語は、ホスト細胞の遺伝的変化前又は遺伝的に改変されていない同等のホストにおいて、同じ遺伝子産物又はポリペプチドの発現以下のレベルでの遺伝子産物又はポリペプチドの発現を指す。例えば、KOタンパク質は、参照標準と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%まで過少発現され又は全く発現されない(100%減少する)こともあることができる。遺伝子産物又はポリペプチドの無発現も、「過少発現」という用語に包含される。
【0284】
過少発現は、KO1及びKO2又はその機能的ホモログのうちの1つ以上の機能的発現を妨げる任意の方法により行うことができる。これにより、その機能又は完全な機能を発揮することができなくなる。過少発現の手段は、遺伝子サイレンシング(例えば、RNAi遺伝子アンチセンス)、ノックアウト、発現レベルの変化、発現パターンの変化、遺伝子配列の突然変異誘発、配列の破壊、挿入、付加、突然変異、発現制御配列の改変等を含むことができる。
【0285】
好ましくは、過少発現は、ホスト細胞においてKOタンパク質をコードするポリヌクレオチドをノックアウトすることにより達成される。遺伝子は、コード配列全体又は一部を欠失させることによりノックアウトすることができる。遺伝子ノックアウトを作製する方法は、当技術分野において公知である。例えば、Kuhn and Wurst (Eds.) Gene Knockout Protocols (Methods in Molecular Biology) Humana Press (March 27, 2009)を参照のこと。遺伝子は、遺伝子配列の一部又は全部を除去することによっても、ノックアウトすることができる。代替的に、遺伝子は、耐性遺伝子等のヌクレオチド配列の挿入によりノックアウトし又は不活性化することができる。代替的に、遺伝子は、そのプロモーターを不活性化することによりノックアウトし又は不活性化することができる。したがって、KO1及びKO2の過少発現に関して、好ましいホスト細胞は、配列番号:16もしくは17又はその機能的ホモログを発現する。ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有する。真菌ホスト細胞、例えば、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Trichoderma reesei、Saccharomyces cerevisiae、Kluyveromyces lactis、Yarrowia lipolytica、Pichia methanolica、Candida boidinii並びにKomagataella及びSchizosaccharomyces pombeが好ましい。配列番号:16又は17を発現するPichia pastoris属由来の真菌ホスト細胞が更により好ましい。
【0286】
一実施態様では、過少発現は、ホスト細胞中における前記KOタンパク質をコードする遺伝子を表わすポリヌクレオチドを破壊することにより達成される。
【0287】
「破壊」は、破壊前の元の配列と比較して、1つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基の付加、欠失又は置換をもたらす、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列における変化である。
【0288】
「挿入」又は「付加」は、破壊前の元の配列と比較して、1つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基が付加されている、核酸配列又はアミノ酸配列における変化である。
【0289】
「欠失」は、1つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基がそれぞれ除去されている(すなわち、存在しない)、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列のいずれかにおける変化と定義される。欠失は、配列全体の欠失、コード配列の一部の欠失又は単独のヌクレオチドもしくはアミノ酸残基の欠失を包含する。
【0290】
「置換」は、一般的には、ヌクレオチド又はアミノ酸残基の他のヌクレオチド又はアミノ酸残基による置き換えを指す。「置換」は、例えば、部位特異的突然変異、ランダム突然変異の生成及びギャップド二重鎖アプローチ(例えば、US第4,760,025号;Moring et al., Biotech. (1984) 2:646 ; and Kramer et al., Nucleic Acids Res., (1984) 12:9441を参照のこと)により行うことができる。
【0291】
好ましくは、破壊により、フレームシフト変異、初期停止コドン、重要な残基の点突然変異、ナンセンス又は他の非機能性タンパク質産物の翻訳が生じる。
【0292】
別の実施態様では、過少発現は、ノックアウトされる前記ポリペプチドと操作可能に連結されるプロモーターを破壊することにより達成される。プロモーターは、下流遺伝子の転写を指示する。プロモーターは、他の発現制御配列、例えば、エンハンサー、リボソーム結合部位、転写開始配列及び停止配列、翻訳開始配列及び停止配列並びにエンハンサー又はアクチベーター配列とともに、所定の遺伝子を発現するのに必要である。したがって、発現制御配列のいずれかを破壊して、ポリペプチドの発現を妨げることも可能である。
【0293】
別の実施態様では、過少発現は、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)により達成される。当技術分野において一般に使用される技術であるPTGSにより、異種RNA配列、多くの場合、破壊を必要とする遺伝子に対するアンチセンスの発現を介して遺伝子の発現レベルが低下する(Lechtreck et al., J. Cell Sci (2002). 115:1511-1522; Smith et al., Nature (2000). 407:319-320; Furhmann et al., J. Cell Sci (2001). 114:3857-3863; Rohr et al., Plant J (2004). 40(4):611-21)。
【0294】
「過少発現」は、遺伝子発現を低下させる当技術分野において公知の任意の技術により達成することができる。例えば、ポリペプチドと操作可能に連結されるプロモーターは、より低いプロモーター活性を有する別のプロモーターにより置き換えることができる。プロモーター活性は、その転写効率により評価することができる。これは、プロモーターからのmRNA転写の量の測定により、例えば、ノーザンブロット、定量的PCRにより直接的に又はプロモーターから発現される遺伝子産物の量の測定により間接的に決定することができる。別の実施態様では、過少発現は、KOタンパク質が機能的になるように適切にフォールディングされないように、発現されたKOタンパク質のフォールディングに介在することにより達成することができる。例えば、突然変異は、KOタンパク質ジスルフィド結合形成を除去し又はアルファヘリックス及びベータシートの形成を破壊するように導入することができる。
【0295】
更なる実施態様では、ヘルパータンパク質であるKO1及び/又はKO2を過少発現するホスト細胞は、本発明の1種以上のヘルパータンパク質を過剰発現することができる。過少発現されるヘルパータンパク質及び過剰発現されるヘルパータンパク質の特定の組み合わせは、本明細書における項目に開示されている。
【0296】
使用
更に、本発明は、目的のタンパク質を製造するための操作されたホスト細胞の使用を提供する。ホスト細胞は、1種以上のPOIをコードするポリペプチドを導入するのに有利に使用することができ、その後、POIを発現するのに適した条件下で培養することができる。このような使用の詳細は、本明細書において、本発明の方法に関するセクションに記載されている。
【0297】
ヘルパータンパク質及びPOIをコードするポリヌクレオチドは、1つのベクター内に関連する遺伝子それぞれをライゲーションすることにより、ホスト細胞内に組み換えることができる。遺伝子を有する単一のベクター又は一方がヘルパータンパク質遺伝子を有し、他方がPOI遺伝子を有する2つの別個のベクターを構築することが可能である。これらの遺伝子は、このような1つ以上のベクターを使用してホスト細胞をトランスフォーメーションすることにより、ホスト細胞ゲノムに組み込むことができる。一部の実施態様では、POIをコードする遺伝子は、ゲノムに組み込まれ、ヘルパータンパク質をコードする遺伝子は、プラスミド又はベクターに組み込まれる。一部の実施態様では、ヘルパータンパク質をコードする遺伝子は、ゲノムに組み込まれ、POIをコードする遺伝子は、プラスミド又はベクターに組み込まれる。一部の実施態様では、POI及びヘルパータンパク質をコードする遺伝子は、ゲノムに組み込まれる。一部の実施態様では、POI及びヘルパータンパク質をコードする遺伝子は、プラスミド又はベクターに組み込まれる。POIをコードする複数の遺伝子が使用される場合、POIをコードする一部の遺伝子は、ゲノムに組み込まれ、一方、他の遺伝子は、同じか又は異なるプラスミド又はベクターに組み込まれる。ヘルパータンパク質をコードする複数の遺伝子が使用される場合、ヘルパータンパク質をコードする一部の遺伝子は、ゲノムに組み込まれ、一方、他の遺伝子は、同じか又は異なるプラスミド又はベクターに組み込まれる。より多くの教示が、本願の下記セクションに見出すことができる。
【0298】
一般的には、目的のタンパク質は、適切な培地中でホスト細胞を培養し、発現されたPOIを培養物から単離し、それを発現産物に適切な方法により精製することにより、特に、細胞からPOIを分離することにより、リコンビナントホスト細胞を使用して産生することができる。
【0299】
更に、本発明は、目的のタンパク質を製造するための、配列番号:1~15及び18のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチドの使用を提供する。
【0300】
方法
更に、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを過剰発現させることを含む、ホスト細胞における目的のタンパク質の収率を向上させる方法に関する。該ポリヌクレオチドは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の同一性を有するアミノ酸を含むヘルパータンパク質をコードする。
【0301】
更に、本発明は、配列番号:16及び/又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むヘルパータンパク質を過少発現させることを含む、ホスト細胞における目的のタンパク質の収率を向上させる方法に関する。
【0302】
本明細書で使用する場合、「ホスト細胞における目的のタンパク質の収率を向上させる」という用語は、同じ培養条件下(ただし、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドが過剰発現されない)で、同じPOIを発現する同じ細胞と比較した場合に、目的のタンパク質の収率が向上することを意味する。
【0303】
当業者により理解されるであろうように、本発明のヘルパータンパク質の過剰発現により、POIの産物収率が向上するのが示されている。したがって、POIを向上させるべきレベルで発現した所定のホスト細胞については、ヘルパータンパク質がホスト細胞中に存在しない場合又は該細胞中でのヘルパータンパク質の発現レベルを更に向上させる場合、ヘルパータンパク質をコードする遺伝子がホスト細胞中に既に存在する場合、ホスト細胞中において、任意の1つ又は複数のヘルパータンパク質を発現させることにより、本発明を適用可能である。
【0304】
更に、本発明は、ホスト細胞における目的のタンパク質の収率を向上させる方法を提供する。該方法は、(i)ヘルパータンパク質を発現し又は過剰発現するようにホスト細胞を操作することと、(ii)前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むようにホスト細胞を操作することと、(iii)ヘルパータンパク質を過剰発現させ、目的のタンパク質を発させるのに適した条件下で、前記ホスト細胞を培養することと、場合により、(iv)目的のタンパク質を細胞培養物から単離することとを含む。(i)及び(ii)で言及された工程は、言及された順序で行われる必要はないことに留意されたい。まず、(ii)に言及された工程を行い、ついで、(i)に言及された工程を行うことが可能である。工程(i)において、ホスト細胞は、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作することができる。
【0305】
更に、本発明は、ホスト細胞における目的のタンパク質の収率を向上させる方法を提供する。該方法は、(i)ヘルパータンパク質を過少発現するようにホスト細胞を操作することと、(ii)前記目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含むように前記ホスト細胞を操作することと、(iii)目的タンパク質を発現させるのに適した条件下で、前記ホスト細胞を培養することと、場合により、(iv)目的タンパク質を細胞培養物から単離することとを含む。(i)及び(ii)で言及された工程は、言及された順序で行われる必要はないことに留意されたい。まず、(ii)に言及された工程を行い、ついで、(i)に言及された工程を行うことが可能である。工程(i)において、ホスト細胞は、配列番号:16及び17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有するアミノ酸を含むヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作することができる。
【0306】
例えば、ヘルパータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列及び/又はPOI、プロモーター、エンハンサー、リーダー等を操作するのに使用される手法は、当業者に周知であり、例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001)に記載される。
【0307】
外来又はターゲットポリヌクレオチド、例えば、過剰発現されるヘルパータンパク質又はPOIをコードするポリヌクレオチドは、種々の手段により、例えば、相同組み換えにより又は組込み部位で配列を特異的にターゲット化するハイブリッドリコンビナーゼを使用することにより、染色体に挿入することができる。上記された外来又はターゲットポリヌクレオチドは、典型的には、ベクター(「挿入ベクター」)に存在する。これらのベクターは、典型的には、環状であり、相同組み換えに使用される前に線状化される。代替として、外来又はターゲットポリヌクレオチドは、融合PCRにより連結されたDNAフラグメント又は合成的に構築されたDNAフラグメントであることができ、ついで、ホスト細胞内に組み換えられる。相同性アームに加えて、ベクターは、選択又はスクリーニングに適したマーカー、複製起点及び他のエレメントも含有することができる。ランダム又は非ターゲット組み込みをもたらす非相同(heterologous)組み換えを使用することも可能である。非相同組み換えは、明らかに異なる配列を有するDNA分子間の組み換えを指す。組み換えの方法は、当該分野で公知であり、例えば、Boer et al., Appl Microbiol Biotechnol (2007) 77:513-523に記載される。酵母細胞の遺伝子操作について、Principles of Gene Manipulation and Genomics by Primrose and Twyman(7thedition, Blackwell Publishing 2006)にも言及することもできる。
【0308】
また、過剰発現されるヘルパータンパク質及び/又はPOIをコードするポリヌクレオチドは、発現ベクター上にも存在することができる。このようなベクターは、当技術分野において公知であり、既に上記載されている。発現ベクターにおいて、プロモーターは、異種タンパク質をコードする遺伝子の上流に配置され、遺伝子の発現をレギュレーションする。マルチクローニングベクターは、それらのマルチクローニングサイトに特に有用である。発現のために、プロモーターは、一般的には、マルチクローニングサイトの上流に配置される。ヘルパータンパク質及び/又はPOIをコードするポリヌクレオチドの組み込みのためのベクターは、まず、ヘルパータンパク質及び/又はPOIをコードするDNA配列全体を含有するDNA構築物を調製し、続けて、この構築物を適切な発現ベクターに挿入するか又は個々のエレメント、例えば、リーダー配列、ターゲットDNA配列についての遺伝情報を含有するDNAフラグメントを連続的に挿入し、続けて、ライゲーションするかのいずれかにより構築することができる。フラグメントの制限処理及びライゲーションの代替として、付着部位(att)及び組み換え酵素に基づく組み換え法を使用して、DNA配列をベクターに挿入することができる。このような方法は、例えば、Landy (1989) Ann. Rev. Biochem. 58:913-949に記載されており、当業者に公知である。
【0309】
本発明のホスト細胞は、ターゲットポリヌクレオチド配列を含むベクター又はプラスミドを細胞に導入することにより得ることができる。真核生物細胞をトランスフェクションしもしくはトランスフォーメーションするか又は原核生物細胞をトランスフォーメーションするための技術は、当技術分野において周知である。これらは、脂質小胞媒介取り込み、ヒートショック媒介取り込み、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション(リン酸カルシウム/DNA共沈)、ウイルス感染(特に、改変されたウイルス、例えば、改変されたアデノウイルス等を使用)、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションを含むことができる。原核生物のトランスフォーメーションについての技術は、ヒートショック媒介取り込み、インタクト細胞との細菌プロトプラスト融合、マイクロインジェクション及びエレクトロポレーションを含むことができる。植物トランスフォーメーションのための技術は、Agrobacterium媒介移入(例えば、A. tumefaciensによる)、急速推進タングステン(rapidly propelled tungsten)又は金微小発射体、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション及びポリエチレングリコール媒介取り込みを含む。DNAは、一本鎖又は二本鎖、直鎖又は環状、弛緩又は超らせんDNAであることができる。ほ乳類細胞をトランスフェクションするための種々の技術については、例えば、Keown et al. (1990) Processes in Enzymology 185:527-537を参照のこと。
【0310】
更に、本発明は、(i)配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過剰発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:1~15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有し、ここで、前記ホスト細胞は、目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;(ii)ヘルパータンパク質又はその機能的ホモログを過剰発現させ、目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養すること、及び場合により、目的のタンパク質を細胞培養物から単離することを含む、ホスト細胞において目的のタンパク質を製造する方法を提供する。
【0311】
更に、本発明は、(i)配列番号:16もしくは17のいずれか1つに示されるアミノ酸を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードするポリヌクレオチドを過少発現するように操作されたホスト細胞を提供すること、ここで、機能的ホモログは、配列番号:16又は17に示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の配列同一性を有し、ここで、前記ホスト細胞は、目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む;(ii)目的のタンパク質を発現させるのに適した条件下で、ホスト細胞を培養すること、及び場合により、目的のタンパク質を単離することを含む、ホスト細胞において目的のタンパク質を製造する方法を提供する。好ましくは、ホスト細胞は、配列番号:16もしくは17のいずれか1つに示されるアミノ酸を含むヘルパータンパク質又はその機能的ホモログをコードする両ポリヌクレオチドを過少発現するように操作される。
【0312】
本明細書に開示された方法は、POI及びヘルパータンパク質の発現を可能にする条件下で、前記リコンビナントホスト細胞を培養することを更に含むことができることが理解される。ついで、発現系及び発現されたタンパク質の性質、例えば、タンパク質がシグナルペプチドに融合されているかどうか及びタンパク質が可溶性であるか又は非可溶性であるかどうかに応じて、リコンビナントに産生されたPOIを細胞又は細胞培養培地から単離することができる。当業者により理解されるであろうように、培養条件は、ホスト細胞の種類、特に、利用される発現ベクターを含む因子に従って変化するであろう。シグナルペプチドは、一般的には、正に荷電したN末端、続けて、疎水性コア、続けて、シグナルペプチダーゼとして公知の酵素の認識部位を含有する。この酵素により、トランスロケーションの間にタンパク質からシグナルペプチドが切断される。タンパク質は、小胞体からゴルジ体に輸送され、ついで、タンパク質の性質に応じて、分泌経路における数多くの経路のうちの1つをたどる。タンパク質は、例えば、培養培地中に分泌されることができ又は細胞中に保持されることができる。特定の分泌タンパク質のリーダー配列は、シグナルペプチドのC末端に位置し、シグナルペプチドの切断に続いて目的の成熟タンパク質からプロセシングされるペプチドを含む。このようなリーダーは、多くの場合、プレプロペプチドと呼ばれ、ここで、プレ領域は、シグナル配列であり、プロ領域は、リーダーの残りを示す。
【0313】
一例は、酵母α因子リーダーであり、これは、シグナルペプチド(C末端シグナルペプチダーゼ認識部位(Ala-Leu-Ala)、続けて、KEX2プロテアーゼプロセシングサイトを構成する塩基性アミノ酸ペア(Lys-Arg)を含有するプロ領域)、すぐ続けて、プロ領域のC末端におけるペプチドGlu-Ala-Glu-Alaを含有する。このリーダーのプロセシングは、シグナルペプチダーゼによるシグナルペプチドの除去、続けて、KEX2プロテアーゼによるLys残基とArg残基との間の切断を含む。GluAlaGluAla残基は、続けて、STE13遺伝子の産物であるペプチダーゼにより除去される(Julius et al., Cell (1983) 32:839)。酵母α因子リーダーは、US第4,546,082号に記載されている。酵母細胞により天然に分泌されるタンパク質に由来するシグナルペプチドは、酵母における異種タンパク質の産生のためのリコンビナント発現系において利用されている。酵母発現系におけるほ乳類シグナルペプチドの使用も報告されているが、特定のほ乳類シグナルペプチドは、酵母における異種タンパク質の分泌を促進するのに有効ではなかった。
【0314】
所望のポリペプチドが発現されるような適切な条件下で「培養する」という表現は、所望の化合物を産生させる又は所望のポリペプチドを得るのに適切又は十分な条件(例えば、温度、圧力、pH、誘引、成長速度、培地、期間等)下で微生物を維持し及び/又は増殖させることを指す。
【0315】
ヘルパータンパク質遺伝子及び/もしくはPOI遺伝子によるトランスフォーメーションにより又はヘルパータンパク質遺伝子の過少発現により及び/もしくはPOI遺伝子のトランスフォーメーションにより得られる本発明のホスト細胞は、好ましくは、まず、異種タンパク質を発現させる負担なしに、多量の細胞に効率的に増殖させる条件で培養することができる。細胞がPOI発現のために準備されると、POIを産生するのに適した培養条件が選択され、最適化される。
【0316】
例として、ヘルパー遺伝子及びPOIについての異なるプロモーター及び/又はコピー及び/又は組み込み部位を使用して、ヘルパー遺伝子の発現は、POIの発現に関連する誘引の時点及び強度に関して制御することができる。例えば、POI発現の誘引前に、ヘルパータンパク質を最初に発現させることができる。これは、ヘルパータンパク質がPOI翻訳の開始時に既に存在するという利点を有する。代替的に、ヘルパータンパク質及びPOIは、同時に誘引することができる。別の例では、POI発現の誘引前に、ヘルパータンパク質を最初に過少発現させることができる。これは、ヘルパータンパク質がPOI翻訳の開始時に予め存在しないという利点を有する。
【0317】
誘引刺激が提供されるとすぐに活性状態になる誘引性プロモーターを使用して、その制御下で遺伝子を転写に向けさせることができる。誘引刺激を伴う増殖条件下において、細胞は、通常、通常条件下よりゆっくり増殖するが、培養が先の段階で多量の細胞数に既に増殖しているため、培養系は、全体として、大量の異種タンパク質を産生する。誘引刺激は、好ましくは、適切な薬剤(例えば、AOXプロモーターのためのメタノール)の添加又は適切な栄養(例えば、MET3プロモーターのためのメチオニン)の枯渇である。エタノール、メチルアミン、カドミウム又は銅及び熱又は浸透圧上昇剤の添加も、ヘルパータンパク質及びPOIに操作可能に連結しているプロモーターにより決まる発現を誘引することができる。
【0318】
少なくとも1g/L、好ましくは、少なくとも10g/L 細胞乾燥重量、より好ましくは、少なくとも50g/L 細胞乾燥重量の細胞密度を得るのに最適化された増殖条件下において、バイオリアクター中で本発明のホストを培養するのが好ましい。実験室規模だけでなく、パイロット規模又は工業規模でも、このような生体分子産生の収率を達成するのが有利である。
【0319】
本発明によれば、ヘルパータンパク質の過剰発現及び/又はKOタンパク質の過少発現により、バイオマスが少なく保たれている場合であっても、POIを高収率で得ることができる。このため、乾燥バイオマス1gあたりのmg POIで測定される高い特異的収量は、実験室、パイロット及び工業規模において、1~200の範囲、例えば、50~200の範囲、例えば、100~200の範囲であることが可能である。本発明の産生ホストの特異的収率により、ヘルパータンパク質の過剰発現及び/又はKOタンパク質の過少発現を伴わない産物の発現と比較した場合、好ましくは、少なくとも1.1倍、より好ましくは、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍又は少なくとも1.4倍の向上が提供され、場合によっては、2倍以上の向上を示すことができる。
【0320】
本発明のホスト細胞は、その発現/分泌能又は収率について、標準的な試験、例えば、ELISA、活性アッセイ、HPLC、表面プラズモン共鳴(Biacore)、ウェスタンブロット、キャピラリー電気泳動(Caliper)又はSDS-Pageにより試験することができる。
【0321】
好ましくは、細胞は、適切な炭素源を含む最小培地中で培養されることにより、更に、単離プロセスを有意に単純化する。例として、最小培地は、利用可能な炭素源(例えば、グルコース、グリセロール、エタノール又はメタノール)、多量元素(カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、塩化物、スルファート、ホスファート)及び微量元素(銅、ヨウ化物、マンガン、モリブダート、コバルト、亜鉛及び鉄塩、並びにホウ酸)を含有する塩を含有する。
【0322】
酵母細胞の場合、細胞は、1種以上の上記された発現ベクターによりトランスフォーメーションされ、二倍体株を形成するように接合され、プロモーターを誘引し、トランスフォーマントを選択し又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するのに適するように改変された従来の栄養培地中において培養することができる。酵母の増殖に適した数多くの最小培地が、当技術分野において公知である。これらの培地はいずれも、必要に応じて、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びホスファート)、バッファー(例えば、HEPES、クエン酸及びリン酸バッファー)、ヌクレオシド(例えば、アデノシン及びチミジン)、抗生物質、微量元素、ビタミン及びグルコース又は同等のエネルギー源を補充することができる。任意の他の必要なサプリメントも、当業者に公知であろう適切な濃度で含ませることができる。培養条件、例えば、温度、pH等は、発現のために選択されたホスト細胞について、以前から使用されているものであり、当業者に公知である。他の種類のホスト細胞のための細胞培養条件も公知であり、当業者により容易に決定することができる。種々の微生物のための培養培地の記載は、例えば、the handbook 「Manual of Methods for General Bacteriology」 of the American Society for Bacteriology(Washington D.C, USA, 1981)に含まれる。
【0323】
細胞は、液体培地中で培養する(例えば、維持し及び/又は増殖させる)ことができ、好ましくは、連続的又は断続的のいずれかで、従来の培養方法、例えば、静置培養、試験管培養、振とう培養(例えば、回転振とう培養、振盪フラスコ培養等)、通気スピナー培養又は発酵により培養される。一部の実施態様では、細胞は、振とうフラスコ又はディープウェルプレート中で培養される。更に他の実施態様では、細胞は、バイオリアクター中において(例えば、バイオリアクター培養プロセスにおいて)培養される。培養プロセスは、バッチ、フェドバッチ及び連続培養法を含むが、これらに限定されない。「バッチプロセス」及び「バッチ培養」という用語は、培地成分、栄養、補充添加剤等が培養の開始時に設定され、培養中に変化しないが、このような因子、例えば、pH及び酸素濃度を過剰な酸性化及び/又は細胞死を防止するように制御する試みを行うことができる閉鎖系を指す。「フェッドバッチプロセス」及び「フェッドバッチ培養」という用語は、培養が進行することにつれて、1種以上の基質又はサプリメントが加えられる(例えば、増分で又は連続的に加えられる)ことを除いて、バッチ培養を指す。「連続プロセス」及び「連続培養」という用語は、定義された培養培地がバイオリアクターに連続的に添加され、等量の使用済み又は「馴化」培地が、例えば、所望の産物の回収のために同時に除去される系を指す。各種のこのようなプロセスが開発されており、当技術分野において周知である。
【0324】
一部の実施態様では、細胞は、約12~24時間培養され、他の実施態様では、細胞は、約24~36時間、約36~48時間、約48~72時間、約72~96時間、約96~120時間、約120~144時間又は144時間超の期間培養される。更に他の実施態様では、培養は、POIの望ましい生産収率に達するのに十分な時間継続される。
【0325】
上記言及された方法は、発現されたPOIを単離する工程を更に含むことができる。POIが細胞から分泌される場合、POIは、最新技術を使用して、培養培地から単離し、精製することができる。細胞からのPOIの分泌は、細胞が破壊されて細胞内タンパク質を放出する場合に生じるタンパク質の複雑な混合物からではなく、培養上清から産物が回収されるため、一般に好ましい。プロテアーゼ阻害剤、例えば、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)は、精製中のタンパク質分解を阻害するのに有用であることができ、抗生物質は、外来性汚染物の増殖を防止するのに含ませることができる。成分は、当技術分野において公知の方法を使用して、濃縮し、ろ過し、透析する等をすることができる。代替的に、培養されたホスト細胞は、超音波処理的又は機械的、酵素的又は化学的に破壊されて、所望のPOIを含有する細胞抽出物を得することもでき、そこからPOIを単離し、精製することができる。
【0326】
POIを得るための単離法及び精製法は、溶解度の差を利用する方法、例えば、塩析及び溶媒沈殿、分子量の差を利用する方法、例えば、限外ろ過及びゲル電気泳動、電荷の差を利用する方法、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、特異的親和性を利用する方法、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性の差を利用する方法、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィー及び等電点の差を利用する方法、例えば、等電点電気泳動を使用することができる。特定の精製工程は、好ましくは、同様に発現され、POI調製物を汚染するのであろう任意のヘルパータンパク質を除去するのに利用される。
【0327】
単離され、精製されたPOIは、ウェスタンブロット又はPOI活性についての特異的アッセイ等の従来の方法により特定することができる。精製されたPOIの構造は、アミノ酸分析、アミノ末端ペプチド配列決定、例えば、質量分析による一次構造分析等により決定することができる。POIは、大量かつ高純度レベルで得ることができるため、医薬組成物中の活性成分として又は飼料もしくは食品添加剤として使用するのに必要な要件を満たすことが好ましい。
【0328】
実施例
下記実施例は、当業者に、主題の発明をどのように製造し、使用するかの完全な開示及び説明を提供するように記載され、本発明と見なされ、特許請求の範囲で定義されるものの範囲を限定することを意図しない。使用される数(例えば、量、温度、濃度等)に関して正確さを保証するための努力がなされてきたが、幾らかの実験誤差及び偏差が許容されるべきである。特に断らない限り、部は、重量部であり、分子量は、平均分子量であり、温度は、摂氏であり、圧力は、大気圧又はその近傍である。
【0329】
以下の実施例により、脂質生合成に関与する新たに特定されたタンパク質(すなわち、ヘルパータンパク質により、その過剰発現、過少発現それぞれに基づいて、POIの力価(容量あたりの産物(mg/L)及び収率(乾燥細胞重量又は湿細胞重量として測定されるバイオマスあたりの産物(mg/g バイオマス)それぞれをその発現に基づいて向上させること)が説明されるであろう。例として、酵母Pichia pastorisにおけるリコンビナント抗体Fabフラグメント及びリコンビナント酵素の収率が向上する。正の効果が、振とう培養(振とうフラスコ又はディープウェルプレート中で行われる)及び実験室規模のフェッドバッチ培養において示された。
【0330】
実施例1:P. pastoris産生株の生成
a)抗体FabフラグメントHyHELを分泌するP. pastoris株の構築
P. pastoris CBS7435(CBS、Kuberl et al. 2011において配列決定されたゲノム)mut(CBS-KNAW Fungal Biodiversity Center, Uetrecht, The Netherlandsから入手)変異体をホスト株として使用した。pPM2d_pGAP及びpPM2d_pAOX発現ベクターは、pUC19細菌複製起点及びゼオシン抗生物質耐性カセットからなる、WO第2008/128701号に記載されているpPuzzle_ZeoRベクター骨格の誘導体である。異種遺伝子の発現は、P. pastorisグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーター又はアルコールオキシダーゼ(AOX)プロモーターそれぞれ及びS. cerevisiae CYC1転写ターミネーターにより媒介される。抗体FabフラグメントHyHEL(図2)の軽鎖(LC)(配列番号:44)及び重鎖(HC)(配列番号:43)を、表3におけるHyHEL-HC及びHyHEL-LCのためのプライマーを使用して、ベクターDNAテンプレート(N末端S. cerevisiaeアルファ接合因子シグナルリーダー配列を伴う目的の遺伝子を有する)から増幅し、それぞれ、SbfI及びSfiIで消化されたベクターpPM2d_pGAP及びpPM2d_pAOXの両方にライゲーションした。LCフラグメントをpPM2d_pGAP及びpPM2d_pAOXの変異体にライゲーションした。この場合、プロモーター領域中の1つの制限酵素部位を別のものに交換して、その後の線状化を可能にした(pPM2d_pGAP中のAvrIIの代わりにNdeI、pPM2d_pAOX中のBpu1102Iの代わりにBsu36I)、HCフラグメントを未改変版のベクターにライゲーションした。LC及びHCの配列確認後、両鎖のための発現カセットを、適合する制限酵素MreI及びAgeIを使用することにより、1つのベクター上で組み合わせた。
【0331】
プラスミドを、NdeI制限酵素(pPM2d_pGAP用)又はBsu36I制限酵素(pPM2d_pAOX用)それぞれを使用して線状化し、その後、P. pastorisにエレクトロポレーションした(Gasser et al. 2013. Future Microbiol. 8(2):191-208に記載されている標準的なトランスフォーメーションプロトコールを使用)。陽性トランスフォーマントの選択を50μg/mL ゼオシンを含有するYPDプレート(1リットルあたり:10g イーストエキストラクト、20g ペプトン、20g グルコース、20g アガー-アガー)上で行った。コロニーPCRを使用して、トランスフォーメーションされたプラスミドの存在を確認した。したがって、ゲノムDNAを、P. pastorisコロニーそれぞれを5分間加熱及び凍結することにより取得し、適切なプライマーを使用するPCRに直接適用した。得られた株をCBS7435 mutS pAOX HyHEL-Fab又はCBS7435 mutS pGAP HyHEL-Fabとそれぞれ命名した。
【0332】
b)抗体FabフラグメントSDZを分泌するP. pastoris株の構築
抗体FabフラグメントSDZの軽鎖(LC)及び重鎖(HC)(図2)を、表2におけるSDZ-HC及びSDZ-LCのためのプライマーを使用して、ベクターDNAテンプレート(N末端アルファ接合因子シグナルリーダー配列を伴う目的の遺伝子を有する)から増幅し、それぞれ、SbfI及びSfiIで消化された、pPM2d_pAOX又はBsu36I制限部位を有するpPM2d_pAOXの変異体それぞれにライゲーションした。LC及びHCの配列確認後、両鎖のための発現カセットを、適合する制限酵素MreI及びAgeIを使用することにより、1つのベクター上で組み合わせた。
【0333】
プラスミドを、Bsu36I制限酵素を使用して線状化し、その後、P. pastorisにエレクトロポレーションした(Gasser et al. 2013. Future Microbiol. 8(2):191-208に記載されている標準的なトランスフォーメーションプロトコールを使用)。陽性トランスフォーマントの選択を50μg/mL ゼオシンを含有するYPDプレート(1リットルあたり:10g イーストエキストラクト、20g ペプトン、20g グルコース、20g アガー-アガー)上で行った。コロニーPCRを使用して、トランスフォーメーションされたプラスミドの存在を確認した。したがって、ゲノムDNAを、P. pastorisコロニーそれぞれを5分間加熱及び凍結することにより取得し、適切なプライマーを使用するPCRに直接適用した。得られた株をCBS7435 mutS pAOX SDZ-Fab又はCBS7435 mutS pGAP HyHEL-Fabとそれぞれ命名した。
【0334】
表2に、HyHEL LC及びHC並びにSDZ LC及びHCのPCR増幅のためのオリゴヌクレオチドプライマーを示す(アルファ接合因子_フォワードは、全てのFab鎖の増幅のためのフォワードプライマーである)。
【0335】
【表2】
【0336】
実施例2:操作されたP. pastoris株の評価
メチロトローフ酵母であるP. pastorisは、産生/分泌能において余剰を提供する多様な用途を既に採用している、目的のタンパク質(POI)を含む異種又はリコンビナントタンパク質の過剰発現及び産生に十分受け入れられているホストである。このようなホスト株操作戦略は、例えば、ヘルパータンパク質、例えば、シャペロン又はタンパク質フォールディング機構の他のコンポーネントの過剰発現を含む(Zhang et al., Biotechnol Prog. (2006). 22(4):1090-1095)。P. pastorisホストリコンビナントタンパク質産生/分泌を改善することを目的とするほとんどの適用は、より広い文脈においてP. pastorisの細胞生物学を考慮していなかった。
【0337】
バイオテクノロジー関連用途において頻繁に利用されているにもかかわらず、細胞生物学的情報、例えば、P. pastorisで利用可能な膜特性及び特徴等の量は不十分である。したがって、脂質代謝、例えば、スフィンゴ脂質生合成(脂肪酸伸長を含む)、リン脂質生合成、脂肪輸送、エルゴステロール生合成又は脂質貯蔵に関与するタンパク質の本明細書で定義された過剰発現又は過少発現の効果を、リコンビナント又は異種タンパク質産生/分泌において単独又は組み合わせで調査した。このような目的のタンパク質のモデルタンパク質として、2つの異なるFabタンパク質を使用した。加えて、脂質代謝に関与するタンパク質との組み合わせにおけるシャペロンの過剰発現も調査した。
【0338】
実施例3:ターゲット遺伝子を過剰発現する株の生成
Fab分泌への正の効果の調査のために、脂質代謝に関与する多様なタンパク質(本明細書における表1を参照のこと)を、2つの異なるFab産生株:CBS7435 pPM2d_pAOX HyHEL及びCBS7435 pPM2d_pAOX SDZ(生成は、実施例1を参照のこと)において、単独でもしくは組み合わせて又はシャペロンと組み合わせて過剰発現させた。
【0339】
a)pPM2aK21発現ベクターへの脂質代謝遺伝子又はシャペロン遺伝子の増幅及びクローニング
単独で(表3;実験4a~cの結果を参照のこと)及び組み合わせで(実験6aの表3の結果)過剰発現された遺伝子を、表3及び5に示されるプライマーを使用して、開始(真正Kozak配列の最初の3又は4つのヌクレオチドを含む)から終止コドンまでのPCR(Phusion Polymerase, ThermoFisher Scientific)により増幅した。P. pastoris株CBS7435 mutからのゲノムDNAを、対応するコード配列が配列検索からでは所望の遺伝子について検索できなかったことを除いて、テンプレート(表3)として機能させた。この場合、より正確には、LIP1又はTSC3に関して、S. cerevisiaeコード配列をS. cerevisiae BY4741からのゲノムDNAから、表3に示されたプライマーを使用して増幅した。配列を、2つの制限酵素SbfI及びSfiIを使用して、pPM2aK21発現ベクターのMCSにクローニングした。pPM2aK21は、pPM2d(実施例1aに記載)の派生物であり、AOXターミネーター配列(ネイティブなAOXターミネーター遺伝子座への組み込み用)、E. coli(pUC19)用の複製起点、E. coli及び酵母における選択用の抗生物質耐性カセット(カナマイシン及びG418への耐性を付与するkanMX)、脂質代謝に関与するタンパク質又はシャペロンをコードする目的の遺伝子(GOI)のための発現カセット(GAPプロモーター、マルチクローニングサイト(MCS)及びS. cerevisiae CYC1転写ターミネーターを含む)からなる。遺伝子配列をSanger配列決定により検証した。
【0340】
表3 Pichia pastoris配列の遺伝子同一性をSturmberger et al.[J. Biotechnol. (2016). 235(4):121-131)]から検索し、Saccharomyces cerevisiae配列の遺伝子同一性をCherry J.M. et al.[Nucleic Acids Res. (2012) 40 (Database issue)]から検索する。
【0341】
【表3】

【0342】
b)Fab産生株における脂質代謝に関与するタンパク質又はシャペロンをコードする少なくとも2種の遺伝子の過剰発現
P. pastoris Fab過剰発現株であるCBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab及びCBS7435 mut pAOX SDZ-Fabを、脂質代謝に関与するタンパク質、又はシャペロンをコードする2、3又は4種の過剰発現用のホスト株として使用した(実施例3aを参照のこと)。Fab産生株へのトランスフォーメーション(Gasser et al. 2013. Future Microbiol. 8(2):191-208に記載されている標準的なトランスフォーメーションプロトコールを使用)の前に、表3から選択される遺伝子を含有するpPM2aK21ベクターを、制限酵素AscIを使用して、AOXターミネーター配列において線状化する。陽性トランスフォーマントをG418及びゼオシンを含有するYPD寒天プレート上で選択した。
【0343】
実施例4:Fab発現のスクリーニング
小規模スクリーニングにおいて、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする1種の遺伝子(表1及び3を参照のこと)それぞれを過剰発現する8~12個 トランスフォーマントをP. pastoris Fab産生株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabにおいて試験した。トランスフォーマントを線状化された空のベクター(pPM2aK21)により共トランスフォーメーションされた親ホストであるCBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabとの比較により評価し、細胞増殖、Fab力価及びFab収率におけるその影響に基づいて順位付けした。
【0344】
脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の選択を、更なるホスト株CBS7435 mutS pAOX SDZ-Fabのバックグラウンドにおいて再評価した。再度、8~12個 トランスフォーマントを線状化された空のベクター(pPM2aK21)により共トランスフォーメーションされた親ホストであるCBS7435 mut pAOX SDZ-Fabとの比較により試験した。
【0345】
a)Pichia pastoris Fab生産株の小規模栽培
10g/L グリセロール及び50μg/mL ゼオシンを含有するYP培地(10g/L イーストエキストラクト、20g/L ペプトン) 2mLに、P. pastoris株の単一コロニーを植菌し、25℃で一晩増殖させた。これらの培養物のアリコート(最終OD6002.0に相当)を、20g/L グルコース及びグルコース供給錠剤(Kuhner, Switzerland; CAT# SMFB63319)を補充した合成スクリーニング培地M2(培地組成を以下に与える) 2mLに移し、24ディープウェルプレートにおいて、25℃、280rpmで25時間インキュベーションした。培養物を1回、遠心分離により洗浄し、ついで、ペレットを合成スクリーニング培地M2に再懸濁させ、アリコート(最終OD6004.0に相当)を新たな24ディープウェルプレート中の2合成スクリーニング培地M2 2mLに移した。メタノール(5g/L)を12時間毎に48時間繰り返し加えた。その後、細胞を室温において、2,500×gで10分間遠心分離することにより回収し、分析のために調製した。バイオマスを細胞懸濁液 1mLの細胞重量を測定することにより決定し、一方、上清中に分泌されたリコンビナントタンパク質の測定を下記実施例4b~4cに記載する。
【0346】
合成スクリーニング培地M2は、1リットルあたり:22.0g クエン酸一水和物、3.15g (NHPO、0.49g MgSO 7HO、0.80g KCl、0.0268g CaCl 2HO、PTM1微量金属 1.47mL、4mg ビオチンを含有し、pHをKOH(固体)により5に設定した。
【0347】
b)SDS-PAGE及びウェスタンブロット分析
タンパク質ゲル分析のために、Bio-Rad Mini-Protean Tetra Cellシステムを、12.5% 分離ゲル(Trisベースの不連続バッファー系)及びTris-グリシンランニングバッファーを使用して使用した。電気泳動後、タンパク質をコロイドクーマシー染色により可視化するか又はウェスタンブロット分析のためにニトロセルロース膜に移した。したがって、タンパク質を製造メーカーの説明書に従って、湿潤(タンク)トランスファーのためのMini Trans-Blot(登録商標)Cell(Bio-Rad)を使用して、ニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした。ブロッキング後、ウェスタンブロットを下記抗体によりプローブした:Fab軽鎖について:抗ヒトカッパ軽鎖(結合及び遊離)-ペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗体、Sigma A7164(1:5,000);Fab重鎖について:マウス抗ヒトIgG抗体(Ab7497, Abcam)を1:1,000希釈、二次抗体としてヤギにおいて産生された抗マウスIgG(完全な分子)-ペルオキシダーゼコンジュゲート抗体(A4416, Sigma)を1:5,000希釈。
【0348】
HRPコンジュゲートについての検出を化学発光物質であるSuper Signal West Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific)により行った。
【0349】
c)ELISAによるFabの定量
ELISAによるインタクトなFabの定量を、被覆抗体として抗ヒトIgG抗体(ab7497, Abcam)を使用し、検出抗体としてヤギ抗ヒトIgG(Fab特異的)-ペルオキシダーゼコンジュゲート抗体(Sigma A0293)を使用して行った。ヒトFab/カッパ、IgGフラグメント(Bethyl P80-115)を開始濃度100ng/mLで標準として使用し、上清サンプルを相応に希釈した。TMB(biool E102)を検出用の基質として使用した。被覆、検出及び洗浄バッファーは、PBS(2mM KHPO、10mM NaHPO.2HO、2.7mM KCl、8mM NaCl、pH7.4)をベースにしており、相応にBSA(1%(w/v))及び/又はTween20(0.1%(v/v))で完成させた。
【0350】
表4に、表5に示される遺伝子を過剰発現するように操作された株のELISAにより推定されたモデルPOI HyHEL-Fabについての力価及び収率の倍 変化(FC)レベルを示す。値を、空の組み込みベクターを過剰発現する親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabと比較した相対数として与える。調査されたクローンの数を括弧内に示す(n、調査されたクローンの数)。Pichia pastoris配列の遺伝子同一性をSturmberger et al.[J. Biotechnol. (2016). 235(4):121-131)]から検索し、Saccharomyces cerevisiae配列の遺伝子同一性をCherry J.M. et al.[Nucleic Acids Res. (2012) 40(Database issue D700-D705)]から検索する。
【0351】
【表4】
【0352】
上記表4によれば、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するように操作された株により産生/分泌されたHyHEL-Fabの収率は、表4に示されたように、少なくとも20%まで向上する。また、ELO3(PP7435_chr3-0987)も、CBS7435 mutS pAOX SDZ-Fabにおいて、FC 力価1.3(n=11)及びFC 収率1.4(n=11)で過剰発現された。
【0353】
実施例5:選択された遺伝子を過少発現する株の生成
P. pastoris POI産生株を、脂質生合成経路遺伝子に関与する遺伝子、例えば、脂質貯蔵に関与する遺伝子のノックアウトを含むように操作した。トリアシルグリセロールシンターゼをコードする2つの遺伝子:dga1(PP7435_Chr3-1009(表1)及びlro1(PP7435_Chr2-0587 表1)を選択した。
【0354】
P. pastoris Fab過剰発現株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabをホスト株として使用した。Heiss et al. (2013)[Appl Microbiol Biotechnol.97(3):1241-9.]に記載されているように、分割マーカーカセットアプローチを使用して、破壊された遺伝子座を有するトランスフォーマントを生成した。陽性ノックアウト株の検証を、G418で増殖することができたトランスフォーマントのゲノムDNA及び破壊カセットの外側のプライマーを使用するPCRにより行った。
【0355】
表5に、ノックアウトカセット(ノックアウトターゲットあたりに2つの重複する分割マーカーカセット)の構築に使用された全てのプライマーを列挙する。プライマーペアA_フォワード/A_バックワード、B_フォワード/B_バックワード、C_フォワード/C_バックワード、D_フォワード/D_バックワードを使用して、フラグメントA、B、C及びDをPCR(Phusion Polymerase, Thermo Scientific)により増幅した。フラグメントAをゲノムP. pastoris DNAから、(ターゲット遺伝子の)各ATGの5プライム方向に1000bpで開始し、ATGの5プライム方向におよそ200bpまで増幅する。フラグメントDをゲノムP. pastoris DNAから、(ターゲット遺伝子の)各ATGの3プライム方向に200bpで開始し、ATGの3プライム方向に1000bpまで増幅する。フラグメントBは、KanMX選択マーカーカセットの最初の3分の2からなり、pPM2aK21ベクターDNAテンプレートから増幅される。フラグメントBは、KanMX選択マーカーカセットの最後の3分の2からなり、pPM2aK21ベクターDNAテンプレートから増幅される。フラグメントA及びBを、プライマーA_フォワード及びB_バックワードを使用するオーバーラップPCRにより共にアニーリングする(AB)。フラグメントC及びDを、プライマーC_フォワード及びD_バックワードを使用するオーバーラップPCRにより共にアニーリングする(CD)。ノックアウト株を生成するために、Fab産生ホスト株をフラグメントAB及びCD(これらは両方とも同様にオーバーラップする)の合計1μg DNAによりトランスフォーメーションした。細胞を、500μg/mL G418を含有するYPDアガープレート上で選択した。陽性ノックアウトクローンを、プライマーペアcheck_フォワード(選択マーカーカセット内に結合)及びcheck_バックワード(プライマー配列D_バックワードの後の3プライム領域に結合)を使用するPCRにより検証した。400bp領域(ATG付近)をKanMXカセットで置き換えることにより、適切なサイズのPCR産物バンドにより、予想される遺伝子座での選択マーカーカセットの組み込みが確認される。
【0356】
【表5】
【0357】
実施例6:脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の組み合わせ(過剰発現及び過少発現)
脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現の組み合わせのために、ELO3(PP7435_Chr3-0987)を過剰発現するCBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab株又はPRY1(PP7435_Chr3-1160)を過剰発現するCBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab株又はHMG1(PP7435_Chr2-0242)を過剰発現するCBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab株を全て、構成的pGAPプロモーター(実施例3a及びbに記載されたように生成)の制御下で、元株として使用した。脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の過少発現の組み合わせのために、遺伝子座DGA1における破壊(Δdga1、PP7435_Chr3-1009;実施例5に記載)を有するCBS7435 mutS pAOX HyHEL-Fab株を元株として使用した。これらの全ての株において、モデルタンパク質(POI)HyHEL-Fabをコードするプラスミドは、選択マーカーとしてゼオシンに基づいていた。一方、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする任意の更なる遺伝子の同時過剰発現のためのプラスミド又は遺伝子座の破壊に使用されるカセットは、同方向loxP認識部位に隣接するKanMX耐性カセットを有していた。
【0358】
脂質代謝に関与するタンパク質もしくはシャペロンをコードする少なくとも1種の更なる遺伝子又は脂質生合成に関与する更なるタンパク質をコードする遺伝子座の破壊に使用されるカセットによるトランスフォーメーションの前に、マーカー遺伝子発現カセット(KanMX-loxP部位に隣接)をCreリコンビナーゼによりリサイクルした。したがって、マーカーレスキューに選択された株をエピソームpTAC_Cre_HphMX4プラスミドによりトランスフォーメーションした。同プラスミドは、S. cerevisiae TPIプロモーターの制御下でCreリコンビナーゼを発現し、ヒドロマイシン(Hyg)による選択圧力が培養培地中に存在する限り、一過性にP. pastorisに保持される。トランスフォーマントをYPD/Zeo/Hygアガープレート上で、28℃で2日間増殖させ、28℃でさらに2日間増殖させるために選択アガープレート上にレプリカプレートした。2~3回の播種後に、G418及びHygで増殖する能力を失ったクローンのみを24ディープウェルプレート(DWP)スクリーニング(実施例4aに記載)に選択した。Fab力価及び収率を実施例4cに記載されたように決定した。ついて、Fab収率及び/又は力価に関して最良の株を、脂質生合成に関与するタンパク質コードする更なる遺伝子を過剰発現する別のプラスミドによりトランスフォーメーションし(実施例3a及びbに記載)又は、ついで、新たなセットのオーバーラップ分割マーカーノックアウトカセットによりトランスフォーメーションした(実施例5に記載)。8~16個のトランスフォーマント(脂質生合成に関与する2つの組み合わされたタンパク質又は脂質生合成に関与するタンパク質のノックアウトを伴う)を選択アガープレート(Zeo及びG418を含有)上で選択し、実施例4に記載されるようにFab分泌についてスクリーニングした。更なるコンビナトリアル工程のために、上記された手順を繰り返すことにより、3つの組み合わせを有する株等を得た。全てのスクリーニング実験において、親(空のベクターを有するか又は有さない過剰産生ホスト株)株を参照として使用した。
【0359】
a)脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の組み合わせの過剰発現についての結果
過剰産生株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabのバックグラウンドにおいて脂質生合成に関与するタンパク質をコードする少なくとも2種の遺伝子の過剰発現の組み合わせから、脂肪酸伸長経路を含むスフィンゴ脂質生合成の酵素コンポーネントが組み合わせで発現された場合、脂肪酸伸長経路を含むスフィンゴ脂質生合成の酵素コンポーネントが脂質輸送経路のコンポーネントとの組み合わせもしくはシャペロンとの組み合わせで過剰発現された場合、脂質輸送経路の酵素コンポーネントがリン脂質生合成経路のコンポーネントとの組み合わせで過剰発現された場合又はエルゴステロール生合成の酵素コンポーネントがシャペロンとの組み合わせで過剰発現された場合に、Fab収率及び/又は力価に関する明確な改善が証明された。
【0360】
結果を表6に示す。
【0361】
表6に、P. pastorisにおける脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現組み合わせ(+)の結果を示す。ELISAにより推定されたHYHEL-Fab力価/収率についての倍 変化(FC)レベルを、空の組み込みベクターを過剰発現する親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabと比較した相対数として与える。CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab ELO3を更なる組み合わせのための元株とした。したがって、所定の力価のFC値及び/又は所定の収率のFC値は、この明示的クローン(n=1)を指す。
【0362】
【表6】
【0363】
また、ELO2(PP7435_chr3-0603)と組み合わせたELO3(PP7435_chr3-0987)及びPRY1(PP7435_chr3-1160)と組み合わせたELO3(PP7435_chr3-0987)も、CBS7435 mutS pAOX SDZ-Fabにおいて過剰発現させ、FC 力価1.2(n=12)及びFC 収率1.4(n=12)並びにFC 力価1.3(n=10)及びFC 収率1.3(n=10)をそれぞれもたらした。
【0364】
列挙された組み合わせそれぞれにより、空のベクター対照によりトランスフォーメーションされた親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabと比較して、モデルタンパク質であるHYHEL-Fab(POI)のFab力価及び/又はFab収率の向上がもたらされるのが分かる(表7の結果を参照のこと)。元株と比較したFab力価及び/又は収率の向上から、脂肪酸伸長経路を含むスフィンゴ脂質生合成、リン脂質生合成経路、エルゴステロール生合成経路又は脂質輸送経路に関与する遺伝子の組み合わせ及び場合により、シャペロンとの組み合わせにより、モデルタンパク質であるHyHEL-Fabにより例示されるPOIの力価及び/又は収率を更に改善することができることが示される。
【0365】
b)脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の組み合わせの過少発現についての結果
脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子の2つのノックアウトの組み合わせのために、遺伝子座DGA1(PP7435_Chr3-1009)及びLRO1(PP7435_Chr2-0587)における破壊を有するCBS7435 mutS pAOX HyHEL-Fab株を使用した。株CBS7435 mutS pAOX HyHEL-Fabは、破壊に成功した遺伝子座DGA1及びLRO1を有し、表7に示されるFab収率及び力価に関する結果を表わした。
【0366】
表7に、脂質生合成(脂質貯蔵経路)に関与するタンパク質をコードする遺伝子の2つのノックアウトの結果を示す。ELISAにより推定されるHYHEL-Fab力価及び収率についての倍 変化(FC)レベルを親株CBS7435 mutS pAOX HyHELと比較した相対数として与える。
【0367】
【表7】
【0368】
実施例7:フェッドバッチ培養
脂質代謝、例えば、脂肪酸伸長を含むスフィンゴ脂質生合成及び脂質輸送等に直接的又は間接的に影響を及ぼす実施例3及び6からの操作された株を生産ホスト株改善の検証のためにフェッドバッチバイオリアクター培養において分析した。
【0369】
a)フェッドバッチプロトコール
各株を、YPhyG 50mLを充填した、広口であり、バッフル付きでカバー付きの300mL振とうフラスコに植菌し、110rpm、28℃で一晩振とうした(予備培養物1)。予備培養物2(1000mLの広口であり、バッフル付きでカバー付きの振とうフラスコ中のYPhyG 100mL)を、OD600(600nmで測定される光学濃度)が午後遅くにおよそ20(YPhyG培地に対して測定)に達するように、予備培養物1から植菌した(倍加時間:およそ2時間)。予備培養物2のインキュベーションも、110rpm、28℃で行った。
【0370】
フェッドバッチを1.0Lの作業容量バイオリアクター(Minifors, Infors, Switzerland)中で行った。全てのバイオリアクター(およそpH5.5のBSM培地 400mLを充填)を、予備培養物2からOD600 2.0まで個々に植菌した。一般的には、P. pastorisをグリセロールで増殖させて、バイオマスを生成し、続けて、培養物をグリセロール供給に供し、続けて、メタノール供給に供した。
【0371】
初期バッチ段階では、温度を28℃に設定した。生産段階を開始する前の最後の期間にわたって、温度を25℃に低下させ、残りのプロセス全体を通してこのレベルに維持した。一方、pHを5.0に低下させ、このレベルで維持した。酸素飽和度を、プロセス全体を通して30%に設定した(カスケード制御:スターラー、流量、酸素補給)。撹拌を700~1200rpmで適用し、1.0~2.0L/分の流量範囲(空気)を選択した。25% アンモニウムを使用して、pHを5.0に制御した。発泡を、消泡剤Glanapon 2000を必要に応じて加えることにより抑制した。
【0372】
バッチ段階の間に、バイオマスは、およそ110~120g/L 湿細胞重量(WCW)まで生成された(μ 約0.30/h)。古典的なバッチ段階(バイオマス生成)は、約14時間続くであろう。グリセロールは、式2.6+0.3*t(g/h)により定義される速度で供給されたため、合計30g グリセロール(60%)を8時間以内に補充した。最初のサンプリング点を20時間となるように選択した。
【0373】
次の18時間(プロセス時間20~38時間)において、グリセロール/メタノールの混合供給を適用した:式:2.5+0.13t(g/h)により定義されるグリセロール供給速度、66g グリセロール(60%)を供給及び式:0.72+0.05t(g/h)により定義されるメタノール供給速度、21g メタノールを添加。
【0374】
次の72時間(プロセス時間38~110時間)の間に、合計215~216g メタノールを供給した(式2.2+0.016t(g/L)により定義される供給速度)。
【0375】
サンプルを種々の時点で下記手順により採取した。まず、(シリンジにより)サンプル採取した培養ブロス 3mLを廃棄した。新たに採取したサンプル(3~5mL)を 1mLを1.5mL遠心管に移し、13,200rpm(16,100g)で5分間回転させた。上清を別のバイアルに慎重に移した。
【0376】
培養ブロス 1mLを計量済み(tared)エッペンドルフバイアル中において、13,200rpm(16,100g)で5分間遠心分離し、得られた上清を正確に除去した。バイアルを秤量し(精度0.1mg)、空のバイアルの容器重量を差し引いて、湿細胞重量を得た。
【0377】
培地を下記のとおりとした。
【0378】
YPhyG予備培養培地は(1リットルあたり):20g フィトン-ペプトン、10g バクト-イーストエキストラクト、20g グリセロールを含有した。
【0379】
バッチ培地:改変基礎塩培地(BSM)は(1リットルあたり):HPO(85%) 13.5mL、0.5g CaCl・2HO、7.5g MgSO・7HO、9g KSO、2g KOH、40g グリセロール、0.25g NaCl、PTM1 4.35mL、Glanapon 2000(消泡剤) 0.1mLを含有した。
【0380】
PTM1微量元素は(1リットルあたり):0.2g ビオチン、6.0g CuSO・5HO、0.09g KI、3.00g MnSO・HO、0.2g NaMoO・2HO、0.02g HBO、0.5g CoCl、42.2g ZnSO・7HO、65.0g FeSO・7HO及びHSO(95%~98%) 5.0mLを含有する。
【0381】
供給溶液グリセロールは(1kgあたり):600g グリセロール、PTM1 12mLを含有した。
【0382】
供給溶液メタノールは、純粋なメタノールを含有した。
【0383】
b)結果
表8に、過剰発現が空のベクターを含有する操作されていないFab産生株(対照株)と比較して、フェドバッチ産生プロセスにおいて、P. pastorisにおけるFab分泌/産生を増加させることが示された遺伝子又は遺伝子の組み合わせを列挙する。Fab産物力価をELISAにより定量した(実施例4c)。バイオマスを湿細胞重量として測定した。産物力価及び収率の変化を各対照株に対する倍 変化値として表わす。倍 変化値は、直接比較のために並行して増殖させ、サンプリングしたAOX HyHEL親ホスト(空のベクター対照)に対して、フェッドバッチ生産プロセスにおける力価及び産物収率の改善を示す。
【0384】
表8に、フェッドバッチ培養でのP. pastorisにおける脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子を単独で又は組み合わせて過剰発現させた結果を示す。ELISAにより推定されるHyHEL-Fab力価/収率についての倍 変化(FC)レベルを、空の組み込みベクターを過剰発現する親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabと比較した相対数として与える。
【0385】
【表8】
【0386】
表8に示されたように、列挙された遺伝子又は遺伝子の組み合わせ全てにおいて、過剰発現に基づいて、モデルタンパク質であるHyHEL-Fabの収率(mg/バイオマス)を少なくとも20%(倍 変化>1.2)向上させることに成功した。脂肪酸伸長もしくは代謝を含むスフィンゴ脂質生合成又は脂質輸送に関与する遺伝子もしくはシャペロンとの組み合わせに直接的又は間接的に影響を及ぼすコンビナトリアル過剰発現は、バイオリアクター中において、ELO3(PP7435_chr3-0987)単独を過剰発現する元株より優れていた。
【0387】
実施例8:小規模培養の脂質分析
小規模培養(実施例4aの記載に従う)で産生された選択遺伝子(表3に列挙)を過剰発現するP. pastoris産生株のバイオマスを使用して、脂質分析を行った。10mM Tris/HCl[pH7.5]中に再懸濁させた後、細胞を、Genie Disruptor(Scientific Industries)において、ガラスビーズを使用して、4℃で10分間破壊した。得られたホモジネート並びに細胞残屑及びガラスビーズを10mlのガラスPyrexチューブに移し、脂質をFolch et al.[Folch J. et al., A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues, J. Biol. Chem. 226 (1957) 497-509.]に記載されているように抽出した。簡潔に、脂質をCHCl:MeOH(2:1;v/v) 3mLで抽出し、室温で1時間激しく振とうした。タンパク質及び非極性物質を0.034% MgCl 0.2容量、2N KCl/MeOH(4:1;v/v) 1ml及び人工上相(CHCl:MeOH:HO;3:48:47;容量あたり) 1mlによる連続洗浄工程により除去した。卓上遠心分離機において2,000gで3分間遠心分離した後、水相を吸引により除去する。最後に、脂質を窒素流下で乾燥させ、-20℃で保存する。
【0388】
リン脂質分析のために、脂質抽出物をシリカゲル60プレート(Merck, Darmstadt, Germany)上に手作業でロードした。個々のリン脂質を、第1の溶媒系として(CHCl/MeOH/25% NH;容量あたり)及び第2の溶媒系として(CHCl/CO/MeOH/CHCOOH/HO;容量あたり)を使用する2次元薄層クロマトグラフィーにより分離した。リン脂質をヨウ素蒸気で染色することにより検出した。染色スポットを掻き取り、リン脂質をBroekhuyse[Broekhuyse R. M., Phospholipids in tissues of eye I isolation, characterization and quantitative analysis by two-dimensional thin-layer chromatography of diacyl and vinyl-ether phospholipids, Biochim. Biophys. Acta 152 (1968) 307-315]の手法により定量した。総リン脂質分析のために、乾燥脂質抽出物のアリコートを、標準としてホスファートを使用するホスファート測定に直接供した。
【0389】
非極性脂質(ステリルエステル(SE)及びトリアシルグリセロール(TG))の分析のために、脂質抽出物をシリカゲル60プレート(Merck, Darmstadt, Germany)にロードし、薄層クロマトグラフィーにより分離した。クロマトグラムを2段階展開システムにより上昇様式で展開させた。まず、軽油/ジエチルエーテル/酢酸(35/15/1;容量あたり)を移動相として使用し、クロマトグラムをプレートの半分の距離まで展開した。ついで、プレートを乾燥させ、クロマトグラムを、軽油/ジエチルエーテル(49/1;v/v)を第2の移動相として使用して、プレートの上部まで更に展開した。バンドを、0.63 MnCL2.4H2O、H2O 60ml、メタノール 60ml及び濃硫酸 4mlからなる溶液中にプレートを15秒間浸漬することにより可視化し、加熱チャンバー中において、105℃で30分間インキュベーションした。SE及びTGバンドを特定し、適切な標準(オレイン酸コレステリル及びトリオレイン)と比較し、スキャナー(CAMAG TLC Scanner 3)を使用して400nmでデンシトロメトリースキャニングすることにより定量した。
【0390】
ステロール分析をQuail and Kelly[Quail M. A., Kelly Sl L., The extraction and analysis of sterols from yeast, Methods Mol. Biol.53(1996) 123-31]に記載されているように行った。内部標準としてコレステロールを使用して脂質抽出物をアルカリ加水分解した後、ガス液体クロマトグラフィー/質量分析(GLC/MS)を、HP 5-MSキャピラリーカラム(20m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)を使用して、質量選択検出器(HP 5972)を備えるHewlett-Packard 5890ガスクロマトグラフィーにより行った。サンプルアリコート 1μlをスプリットレスモードにおいて、270℃の注入温度で、キャリアガスとしてヘリウムを使用し、定流モードにおいて0.9ml/分に設定された流速で注入した。温度プログラムは、100℃で1分間、10℃/分で250℃まで、3℃/分で310℃までとした。ステロールをそれらの質量断片化パターンにより特定した。
【0391】
表9.各親バックグラウンドにおける親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab及び二重欠失突然変異体Δdga1ΔIro1の脂質特徴。脂質を湿細胞重量(CWW)1gあたりのmg 脂質(リン脂質、エルゴステロール、トリアシルグリセロール、ステリルエステル)として列挙する。利用可能であれば、標準偏差を与える。N.d.(未検出)。
【0392】
【表9】
【0393】
表10.各親バックグラウンドにおける親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fab及び二重欠失突然変異体Δdga1ΔIro1の総細胞抽出物のリン脂質パターン。PI、ホスファチジルイノシトール;PS、ホスファチジルセリン;PC,ホスファチジルコリン;PE、ホスファチジルエタノールアミン;CL、カルジオリピン;PA、ホスファチジン酸。
【0394】
【表10】
【0395】
DGA1及びLRO1の欠失により、二重欠失突然変異体Δdga1Δlro1が生じる。DGA1及びLRO1は、トリアシルグリセロールの合成に必要なアシルトランスフェラーゼをコードする。両方の酵素は、ジアシルグリセロールをアシル化可能である。DGA1は、アシル-CoA依存的な様式でジアシルグリセロールをエステル化する。一方、LRO1は、アシルドナーとしてのアシル-CoAとは無関係である。両方のトリアシルグリセロール-アシルトランスフェラーゼの欠失により、表9から分かるように、トリアシルグリセロールの全損失がもたらされる。トリアシルグリセロール及びステリルエステルは両方とも、過剰のステロール及び/又は脂肪酸の貯蔵に関与する非極性脂質である。ただし、それらの存在は、細胞の生存に必須ではない。トリアシルグリセロール枯渇の強力な影響に伴って、二重欠失突然変異体Δdga1Δlro1は、貯蔵脂質の第2のクラスであるステリルエステルの強力な減少を同様に示す(表9)。ステリルエステルは、親産生株と比較して10倍まで減少する。トリアシルグリセロールの枯渇及びステリルエステルの強力な減少は、リン脂質及びステロールの全体的な減少を伴う(表9)。ただし、二重欠失変異体Δdga1Δlro1の個々のリン脂質は、大きく影響されない(表10)。ホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールについては、親産生株と比較して、両方ともホスファチジン酸を犠牲にして増加した、わずかな変化が観察された。
【0396】
表11.空の組み込みベクター(空のベクター)を過剰発現する又はP. pastorisのエルゴステロール生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する親株CBS7435 mut pAOX HyHEL-Fabの総細胞抽出物のステロール組成。HMG1は、そのネイティブな全長バージョンとして、2つの切断バージョン(t1HMG1及びt2HMG1)と同様に過剰発現される。切断バージョンは両方とも、それらのN末端膜貫通ドメインを欠いている(詳細については、表1の脚注を参照のこと)。
【0397】
【表11】
【0398】
エルゴステロール生合成経路は、非常に複雑であり、高度にレギュレーションされており、最大25種の酵素が関与している。重要な役割又は律速段階に位置するいくつかの酵素を過剰発現に選択した。ステロール組成及び総ステロール量についての効果を表11に表わす。その全長変異体としてのHMG1の過剰発現により、空の組み込みベクターを過剰発現する親産生株と比較して、ステロールパターン及び量に関していかなる変化ももたらされなかった。ただし、切断バージョンとしてのそれらのN末端膜貫通ドメインを欠いているHMG1の過剰発現により、エルゴステロールの産生の増加がもたらされる。エルゴステロール生合成経路における更に下流に関与するタンパク質であるERG11が過剰発現されると、総ステロール量の最も高い変化が達成された。
【0399】
-)二重欠失突然変異体Δdga1Δlro1では、貯蔵脂質であるトリアシルグリセロールが完全に枯渇する。
【0400】
-)二重欠失突然変異体Δdga1Δlro1は、親産生株と比較してステリルエステルの強力な減少を示す。Δdga1Δlro1の欠失に基づいて、親産生株と比較して10% ステリルエステルのみが残存する。
【0401】
-)リン脂質の総量は、親生産株と比較して、二重欠失変異体Δdga1Δlro1において約65%に減少する。
【0402】
-)同様に、Δdga1Δlro1の欠失により、ステロールの総量がおよそ68%に減少する。
【0403】
-)
【0404】
-)ERG11の過剰発現により、エルゴステロール及びステロール前駆体の最高の増加がもたらされる。エルゴステロールの量は、空の組込みベクターを過剰発現する親産生株と比較して、70%まで増加した。
【0405】
実施例9:フェッドバッチ培養の脂質分析
バイオリアクター培養の最終サンプリング時点で得られた細胞ペレット(上記示された結果)を使用して、スフィンゴ脂質を分析した。スフィンゴ脂質クラス及び各クラスの分子種に関するスフィンゴ脂質分布パターンの特徴決定から、ヘルパータンパク質ELO3が過剰発現された場合に、明確な変化が示された。ヘルパータンパク質ELO3過剰発現により引き起こされる効果を、スフィンゴ脂質生合成プロセス又は脂質輸送のさらなるコンポーネントが過剰発現された場合、更に増強し又は改変することができる。
【0406】
フェッドバッチ培養からの細胞ペレットをTEバッファー(10mM Tris;1mM EDTA;pH7.4)に溶解させ、総細胞抽出物をガラスビーズと共に4℃で15分間激しく振とうすることにより調製した。総細胞抽出物からの同一量(300μg タンパク質)に、内部標準混合物(0.15nmol N-(ドデカノイル)-スフィンガ-4-エンイン、0.15nmol N-(ドデカノイル)-1-β-グルコシル-スフィンガ-4-エンイン、4.5nmol C17スフィンガニン、Avanti Polar Lipids, Inc., Alabaster, AL, USA) 30μlを加え、プロパン-2-オール/ヘキサン/水(60:26:14;容量あたり) 6ml中に懸濁させ、J.E. Markham et al.[J. Biol.Chem. (2006). 281:22684-22694.]に以前に示されているプロトコールをわずかに改変して、60℃で30分間インキュベーションした。インキュベーションの間、サンプルを短くボルテックスし、0、10、20及び30分後に超音波処理した。ついで、抽出物を遠心分離により細胞デブリから除去し、窒素下で乾燥させ、テトラヒドロフラン/メタノール/水(4:4:1;容量あたり) 800μl中に再溶解させ[C. Bure et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. (2011). 25:3131-3145.]、アルゴン下-20℃で保存した。分析のために、サンプルを穏やかな加熱及び超音波処理により再溶解した。
【0407】
UPLC-nanoESI-MS/MSを、ACQUITY UPLC(登録商標) HSS T3カラム(100mm×1mm、1μm;Waters Corp., Milford, USA)を備えたACQUITY UPLC(登録商標)システム(Waters Corp., Milford, MA, USA)で行われる超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)により開始した。アリコート 2μlを針のオーバーフィルモードで部分ループにインジェクションした。流速は、0.12ml/分とし、分離温度は、35℃とした。スフィンゴ脂質を含有するイノシトールを、下記のように線形勾配溶出により分離した:65% 溶媒Bを2分間保持し、100% 溶媒Bに8分間で線形上昇させ、100% 溶媒Bを2分間保持し、65% 溶媒Bに2分間平衡化した。セラミド(Cer)及びヘキソシルセラミド(HexCer)を下記のように分離した:80% 溶媒Bを2分間保持し、100% 溶媒Bに8分間で線形上昇させ、100% 溶媒Bを2分間保持し、80% 溶媒Bに2分間平衡化した。溶媒Bは、0.1%(v/v) 酢酸を含有するテトラヒドロフラン/メタノール/20mM 酢酸アンモニウムとし、溶媒Aは、0.1%(v/v) 酢酸を含有するメタノール/20mM 酢酸アンモニウムとした。チップベースのナノエレクトロスプレーイオン化を、内径5μmのノズル、流速209nl/分及び電圧1.5kVでの陽イオンモードにおけるTriVersa Nanomate(登録商標)(Advion, Ithaca, NY, USA)により達成した。スフィンゴ脂質分子種の検出を4000 QTRAP(登録商標)タンデム質量分光計(AB Sciex, Framingham, MA, USA)で、(i)Cer、HexCer及びLCBについては、[M+H]分子イオンから脱水長鎖塩基(LCB)フラグメントへの遷移及び(ii)イノシトール含有スフィンゴ脂質については、ヘッド基を含有するホスホイノシトールの喪失をモニタリングすることにより行った[C.S. Ejsing et al., J. Mass Spectrom (2006). 41:372-389. J.E. Markham et al., Rapid Commun. Mass Spectrom.(2007). 21:1304-1314]。滞留時間は、30msとし、MSパラメータを、検出器応答を最大にするように最適化した。
【0408】
ヘルパータンパク質ELO3の過剰発現により、スフィンゴ脂質の総量、組成及び分子種分布におけるいくつかの顕著な変化がもたらされる。詳細には、ヘルパータンパク質ELO3が過剰発現された場合、セラミドの分子種分布及びスフィンゴ脂質のIPCクラス(IPC、MIPC、M(IP)C)の顕著なシフトが観察された(表12~16を参照のこと)。ヘキソシルセラミドの種組成は、ヘルパータンパク質ELO3の過剰発現に影響されなかった。親ホスト株(空のベクター対照)スフィンゴ脂質はほとんどが、その脂肪アシル部分において、非常に長鎖の脂肪酸(VLCFA)C24:0を含有する分子種変化を含有していた。一方、ヘルパータンパク質ELO3を過剰発現する操作された株は、VLCFA C26:0に向かう顕著なシフトを表わした。
【0409】
スフィンゴ脂質生合成プロセス又は脂質輸送の更なるコンポーネントの過剰発現は、ヘルパータンパク質ELO3を過剰発現する元株と比較して、分子種分布にはあまり影響しない(データを示さず)。ただし、特定のスフィンゴ脂質クラスの相対量及び総量に関する明確な変化が観察された。表17及び18に、全てのスフィンゴ脂質の相対分布を表わす。ヘルパータンパク質ELO3の過剰発現により、成熟イノシトール含有ホスホリルセラミドM(IP)CがIPCを犠牲にして増強される、変化した分配様式がもたらされる。ELO3との全ての組み合わせにより、ELO3+LAG1、ELO3+KAR2及びELO3+LCB1+LCB2+TSC3の組み合わせの場合のようにM(IP)Cの強力な増加を伴うか又はELO3+PRY1の組み合わせの場合のようにヘキソシルセラミドの高い増加を伴うかのいずれかであるIPCの顕著な低下が示される。
【0410】
ヘルパータンパク質ELO3過剰発現の絶対値による評価から、同様に顕著な変化が示される(表18を参照のこと)。すなわち、単独又はスフィンゴ脂質生合成、脂質輸送又はシャペロンに関与する更なる因子との組み合わせでのELO3の過剰発現により、IPCの顕著な減少がもたらされる。同時に、ELO3が過剰発現されると、M(IP)Cの絶対レベルが顕著に上昇する。M(IP)Cの蓄積は、ELO3と共に更なる成分が同時過剰発現される場合、更に効率的に増強される。M(IP)Cの最も高い蓄積は、ELO3過剰発現がKAR2過剰発現と組み合わされる場合に達成される。ELO3とPRY1との組み合わせにより、複合イノシトール含有ホスホリルセラミドの発生の全体的な減少がもたらされる。
【0411】
ELO3の過剰発現により、ほとんどのスフィンゴ脂質の変化した分子種パターンがもたらされる、すなわち、セラミド及びイノシトール含有ホスホリルセラミド(IPC、MIPC、M(IP)C)の脂肪アシル部分は、C24の代わりにC26を優先的に含有する。C26の量は、空のベクターと比較して、少なくとも100%まで増強されたスフィンゴ脂質(セラミド、IPC、MIPC及びM(IP)C)の種類により決まる(表12~16)。
【0412】
【表12】
【0413】
【表13】
【0414】
ELO3の過剰発現は、ヘキソシルセラミド種の分布パターンに影響を及ぼさない(表13)。
【0415】
【表14】
【0416】
【表15】
【0417】
【表16】
【0418】
ヘルパータンパク質ELO3と更なるヘルパータンパク質、例えば、LAG1、LCB1+LCB2+TSC3Sc、KAR2又はPRY1とを組み合わせた過剰発現により、セラミド及びイノシトール含有ホスホリルセラミド(IPC、MIPC、M(IP)C)の分子種パターンにおいて、ELO3の単独過剰発現によりもたらされるのと同一の傾向がもたらされる(より少ないC24含有種、より多いC26含有種)。C26の量は、空のベクターと比較して、少なくとも100%まで増強されたスフィンゴ脂質(セラミド、IPC、MIPC及びM(IP)C)の種類により決まる(データを示さず)。
【0419】
ELO3と更なるヘルパータンパク質、例えば、KAR2とを組み合わせた過剰発現により、セラミド及びイノシトール含有ホスホリルセラミド(IPC、MIPC、M(IP)C)において、C24含有種からC26含有種に向かうシフトが増強される。C26の量は、空のベクターと比較して、少なくとも200%まで増強されたスフィンゴ脂質(セラミド、IPC、MIPC及びM(IP)C)の種類により決まる(データを示さず)。
【0420】
ELO3の過剰発現により、スフィンゴ脂質の相対分布における顕著な変化がもたらされる(表17)。
【0421】
ELO3の過剰発現により、IPC及びMIPCのおよそ30%の減少がもたらされ、イノシトール含有ホスホリルセラミドの成熟形態であるM(IP)Cの生成が強力に向上され、これは、空のベクター過剰発現株と比較して6倍まで上昇する(表17)。
【0422】
M(IP)Cの蓄積についてのELO3過剰発現の影響は、LAG1又はKAR2のいずれかとの共過剰発現により相乗的に増強される。M(IP)Cは、空のベクター過剰発現株と比較して、少なくとも10倍上昇する(表17)。
【0423】
ELO3の過剰発現によっては、スフィンゴ脂質の全体的な形成が増加しない(表18)。
【0424】
LAG1の過剰発現によっては、ELO3の過剰発現と同様に、スフィンゴ脂質の脂肪アシル部分を変化させないが、空のベクター対照のように挙動する。C24からC26へのシフトは観察されなかった(データは示さず)。
【0425】
ただし、LAG1の過剰発現により、スフィンゴ脂質の相対分布パターンにおける類似の変化がもたらされる、すなわち、IPCを犠牲にしてM(IP)Cが増加する(表17)。
【0426】
LAG1の過剰発現により、空のベクター過剰発現株と比較して、M(IP)2Cの形成が、少なくとも10倍まで増加する(表18)。
【0427】
PRY1の過剰発現は、種分布にも、スフィンゴ脂質分布にも変化を示さない(表17)。
【0428】
PRT1の過剰発現は、全体的に低下したレベルのイノシトール含有ホスホリルセラミド(より少ないIPC、MIPC及びM(IP)C)を示す(表18)。
【0429】
【表17】
【0430】
【表18】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図1-7】
図1-8】
図1-9】
図1-10】
図1-11】
図1-12】
図1-13】
図1-14】
図1-15】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
【配列表】
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