IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オハラの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ガラスおよび結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20221206BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20221206BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20221206BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20221206BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20221206BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/097
C03C10/02
C03C10/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020134653
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030556
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 望
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-052632(JP,A)
【文献】特表2009-538819(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0028739(US,A1)
【文献】特開2013-023420(JP,A)
【文献】特開2014-114200(JP,A)
【文献】特開2011-201758(JP,A)
【文献】特開平08-206190(JP,A)
【文献】特開平11-302033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算の質量%で、
SiO成分を40.0~50.0%、
Al成分を10.0~30.0%、
MgO成分を10.0~30.0%、
TiO成分を5.0~15.0%、
NaO成分を3.0~8.0%
LiO 成分を0~4.0%、
ZnO成分を0~3.0%
含有する(ただしCrO は含有しない)ことを特徴とするガラス。
【請求項2】
酸化物換算の質量%で、
成分を0~5.0%、
成分を0~5.0%
O成分を0~5.0%、
CaO成分を0~5.0%、
SrO成分を0~5.0%、
BaO成分を0~5.0%
Zr成分を0~8.0%、
Sb成分を0~1.0%
含有する請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガラスを結晶化させた結晶化ガラス。
【請求項4】
主結晶相としてMgSiO、MgTiおよびこれらの固溶体から選択される1以上を含む請求項3に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
酸化物換算の質量%で、
SiO 成分を40.0~55.0%、
Al 成分を10.0~30.0%、
MgO成分を10.0~30.0%、
TiO 成分を5.0~15.0%、
Na O成分を0超~8.0%、
ZnO成分を0~3.0%
含有し、
主結晶相としてMgSiO 、MgTi およびこれらの固溶体から選択される1以上を含むことを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項6】
酸化物換算の質量%で、
SiO 成分を40.0~55.0%、
Al 成分を10.0~30.0%、
MgO成分を10.0~30.0%、
TiO 成分を5.0~15.0%、
Na O成分を3.82~8.0%
含有し、
主結晶相としてMgSiO 、MgTi およびこれらの固溶体から選択される1以上を含むことを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項7】
酸化物換算の質量%で、
成分を0~5.0%、
成分を0~5.0%、
LiO 成分を0~4.0%、
O成分を0~5.0%、
CaO成分を0~5.0%、
SrO成分を0~5.0%、
BaO成分を0~5.0%、
ZrO 成分を0~8.0%、
Sb 成分を0~1.0%
含有する請求項5または6に記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスである請求項3から7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項9】
酸化物換算の質量%で、
SiO 成分を40.0~55.0%、
Al 成分を10.0~30.0%、
MgO成分を10.0~30.0%、
TiO 成分を5.0~15.0%、
Na O成分を3.0~8.0%
含有し、
主結晶相としてMgSiO 、MgTi およびこれらの固溶体から選択される1以上を含み、
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであることを特徴とする結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な組成を有するガラスおよび結晶化ガラスに関する。
【0002】
従来、ガラスは、スマートフォン、タブレット型PCなどの携帯電子機器にディスプレイを保護するためのカバーガラスとして、また、車載用の光学機器にレンズを保護するためのプロテクターとして、使用されている。さらに、近年、電子機器の外装となる筐体などへの利用も求められている。そして、これらの機器が過酷な使用に耐えうるよう、高い強度を有する材料の要求が強まっている。
【0003】
ガラスの強度を高めたものとして、結晶化ガラスがある。結晶化ガラスはガラス内部に結晶を析出させたものであり、ガラスよりも機械的強度が優れている。
【0004】
特許文献1には、情報磁気記録媒体用結晶化ガラス基板の材料組成が開示されている。特許文献1ではエンスタタイトなどの結晶相を有するガラスセラミックス基板が、高速回転に対応した高ヤング率を有し情報磁気記録媒体に適することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-048581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、強度の高い結晶化ガラスおよびその原料となるガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、所定の組成を有するガラスを結晶化させた結晶化ガラスが硬度が高く、さらに、化学強化することによりより硬度を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の内容を具体的に以下に示す。
【0008】
(構成1)
酸化物換算の質量%で、
SiO成分を40.0~55.0%、
Al成分を10.0~30.0%、
MgO成分を10.0~30.0%、
TiO成分を5.0~15.0%、
NaO成分を0超~8.0%
含有することを特徴とするガラス。
(構成2)
酸化物換算の質量%で、
成分を0~5.0%、
成分を0~5.0%、
LiO成分を0~4.0%、
O成分を0~5.0%、
CaO成分を0~5.0%、
SrO成分を0~5.0%、
BaO成分を0~5.0%、
ZnO成分を0~5.0%、
ZrO成分を0~8.0%、
Sb成分を0~1.0%
含有する構成1に記載のガラス。
(構成3)
構成1または2に記載のガラスを結晶化させた結晶化ガラス。
(構成4)
主結晶相としてMgSiO、MgTiおよびこれらの固溶体から選択される1以上を含む構成3に記載の結晶化ガラス。
(構成5)
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスである構成3または4に記載の結晶化ガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度の高い結晶化ガラスおよびその原料となるガラスを得ることができる。
【0010】
本発明の結晶化ガラスまたは強化した結晶化ガラスは、高い強度を有することを活かして機器の保護部材などに使用することができる。スマートフォンのカバーガラスや筐体、タブレット型PCやウェアラブル端末などの携帯電子機器の部材として利用したり、車や飛行機などの輸送機体で使用される保護プロテクターやヘッドアップディスプレイ用基板などの部材として利用可能である。また、その他の電子機器や機械器具類、建築部材、太陽光パネル用部材、プロジェクタ用部材、眼鏡や時計用のカバーガラス(風防)などに使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
結晶化ガラスは、ガラスを熱処理することでガラス内部に結晶を析出させて得ることができる。一般的に、結晶化ガラスの結晶相は、X線回折分析のX線回折図形において現れるピークの角度、および必要に応じてTEMEDXを用いて判別される。
【0013】
本発明の結晶化ガラスは、例えば、結晶相として、MgSiO、MgTi、MgSiO、NaTiSiO、MgAl、MgAlSi12またはこれらの固溶体を含む。好ましくは、主結晶相として、MgSiO、MgTiおよびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する。このような主結晶相を有することで、高い硬度を有する。
本明細書における「主結晶相」とは、X線回折図形のピークから判定される結晶化ガラス中に最も多く含有する結晶相に相応する。
【0014】
ガラスおよび結晶化ガラス(以下、単にガラスともいう)の構成成分の含有量の記載において、「酸化物換算の質量%」とは、ガラス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総量を100質量%としたときの、ガラス中に含有される各成分の酸化物の量を、質量%で表記したものである。本明細書において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、「酸化物換算の質量%」で表示する。
【0015】
本明細書において、A~B%はA%以上B%以下を表す。また、「0~C%を含有する」の0は、含有量が0%であることを意味する。
【0016】
以下、具体的に、本発明のガラスを構成する各成分の組成範囲を述べる。
【0017】
SiO成分は、ガラス網目構造を形成する必須成分である。SiO成分の含有量は、例えば、40.0%以上、41.0%以上、または42.0%以上を下限とできる。SiO成分の含有量は、例えば、55.0%以下、50.0%以下、49.0%以下、または48.0%以下を上限とできる。
【0018】
Al成分は、SiOと同様にガラス網目構造を形成し、結晶化前のガラスの熱処理により結晶相を構成する成分になりうる必須成分である。Al成分の含有量は、例えば、10.0%以上、13.5%以上、または15.0%以上を下限とできる。Al成分の含有量は、例えば、30.0%以下、25.0%以下、または23.0%以下を上限とできる。
【0019】
MgO成分は、結晶相を構成しうる成分の一つであり、必須成分である。MgO成分の含有量は、例えば、10.0%以上、13.5%以上、または15.0%以上を下限とできる。MgO成分の含有量は、例えば、30.0%以下、25.0%以下、または23.0%以下を上限とできる。
【0020】
TiO成分は、結晶を析出させるための核形成の役割を果たす必須成分である。TiO成分の含有量は、例えば、5.0%以上、6.0%以上、または7.0%以上を下限とできる。TiO成分の含有量は、例えば、15.0%以下、14.0%以下、または13.0%以下を上限とできる。
【0021】
NaO成分は、化学強化に関与する必須成分である。NaO成分の含有量は、例えば、0%超、0.5%以上、1.0%以上、2.0%以上、または3.0%以上を下限とできる。
NaO成分を多く含むと得られるガラスが失透、分相または不均一化する。従って、NaO成分の含有量は、例えば、8.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、または4.5%以下を上限とできる。
【0022】
成分、P成分は、任意成分として添加することができる。任意成分とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分である。含有量は0%以上とできる。
これら成分の含有量は、それぞれ、例えば、5.0%以下、3.0%以下、または2.0%以下を上限とできる。B成分の含有量を0~2.0%未満または0~1.0%としてもよい。
【0023】
LiO成分は、化学強化に関与する任意成分である。
LiO成分を多く含むと、失透、分相または不均一化が生じる。従って、LiO成分の含有量は、例えば、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、または1.0%以下を上限とできる。
NaO成分とLiO成分は共に化学強化に関与するが、含有量が多いと失透性が悪くなるため、合計の含有量は、5.0%以下が好ましく、4.0%以下がより好ましい。
【0024】
O成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分およびZnO成分は、任意成分として添加することができる。これら成分の含有量は、それぞれ、例えば、5.0%以下、3.0%以下、または2.0%以下を上限とできる。
【0025】
ZrO成分は、結晶を析出させるための核形成の役割を果たすことができる任意成分である。ZrO成分の含有量は、例えば、8.0%以下、5.0%以下、または3.0%以下を上限とできる。
【0026】
ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、Gd成分、TeO成分、FeO成分、La成分、Y成分、Nb成分、Ta成分、WO成分を、任意成分としてよい。各々の成分の含有量は0~2.0%、または0.5~1.0%とできる。
【0027】
ガラスは、清澄剤として、Sb成分、SnO成分およびCeO成分から選択される1以上を0~2.0%、好ましくは0.005~1.0%、さらに好ましくは0.01~0.5%含むことができる。
【0028】
Pb、Th、Cd、Tl、Os、BeおよびSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0029】
上記の配合量は適宜組み合わせることができる。
【0030】
SiO成分、Al成分、MgO成分、TiO成分およびNaO成分を合計して、80.0%以上、85.0%以上、90.0%以上、または92.0%以上とすることができる。
【0031】
本発明の強化結晶化ガラスは、その表面に圧縮応力層を有する。最表面を深さゼロとすると、最表面の圧縮応力(表面圧縮応力)がCSである。圧縮応力が0MPaのときの圧縮応力層の深さをDOLzeroとする。
【0032】
表面に圧縮応力層を形成することでクラックの延伸を抑え機械的強度を高めることができる。圧縮応力層の表面圧縮応力値(CS)は200MPa以上が好ましく、500MPa以上がより好ましく、600MPa以上がさらに好ましい。
【0033】
圧縮応力層が深いと、表面に深いクラックが生じてもクラックが延伸したり、基板が割れたりするのを抑えることができる。圧縮応力層の深さ(DOLzero)は、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。
【0034】
ガラス基板の厚さの下限は、好ましくは0.10mm以上、より好ましくは0.20mm以上、より好ましくは0.40mm以上であり、ガラス基板の厚さの上限は、好ましくは1.00mm以下、より好ましくは0.90mm以下、より好ましくは0.80mm以下である。
【0035】
結晶化ガラスまたは強化結晶化ガラスは、実施例で測定したビッカース硬度(Hv)が、好ましくは700以上、より好ましくは800以上、さらに好ましくは900である。このような耐衝撃性を有することで、保護部材として使用した際に落下時の衝撃に耐えることができる。
【0036】
本発明のガラスおよび結晶化ガラスは、例えば、以下の方法で製造できる。
原料を均一に混合し、作製した混合物を熔融、攪拌することにより均質化した後に、成形、徐冷することで、ガラスを製造する。次にこのガラスを結晶化して結晶化ガラスを作製する。さらに結晶化ガラスを母材として化学強化すると強化結晶化ガラスが形成できる。
【0037】
ガラスは、熱処理しガラス内部に結晶を析出させる。この熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
1段階の温度で熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~1000℃が好ましく、750℃~900℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は、30分~500分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
【0038】
圧縮応力層の形成方法としては、例えば結晶化ガラス基板の表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。また、結晶化ガラス基板を加熱し、その後急冷する熱強化法、結晶化ガラス基板の表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
【0039】
化学強化法は、例えば次のような工程で実施することができる。結晶化ガラスを、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)またはその混合塩や複合塩の溶融塩に接触または浸漬させる。この溶融塩に接触または浸漬させる処理(化学強化処理)は、1段階でもよく2段階で処理してもよい。
【0040】
例えば2段階化学強化処理の場合、第1に350℃~550℃で加熱したナトリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分接触または浸漬させる。続けて第2に350℃~550℃で加熱したカリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分接触または浸漬させる。
1段階化学強化処理の場合、350℃~550℃で加熱したカリウムまたはナトリウムを含有する塩、またはその混合塩に1~1440分、好ましくは90~600分接触または浸漬させる。
【0041】
熱強化法については、特に限定されないが、例えば結晶化ガラスを、300℃~600℃に加熱した後に、水冷および/または空冷などの急速冷却を実施することにより、結晶化ガラス基板の表面と内部の温度差によって、圧縮応力層を形成することができる。なお、上記化学処理法と組み合わせることにより、圧縮応力層をより効果的に形成することもできる。
【0042】
イオン注入法については、特に限定されないが、例えば結晶化ガラス(母材)表面に任意のイオンを母材表面が破壊しない程度の加速エネルギー、加速電圧にて衝突させることで母材表面にイオンを注入する。その後必要に応じて熱処理を行うことにより、他方法と同様に表面に圧縮応力層を形成することができる。
【実施例
【0043】
実施例1~35、比較例1,2
1.ガラスと結晶化ガラスの製造
ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの原料を選定し、これらの原料を表1に記載の組成(質量%)になるように秤量して均一に混合した。尚、比較例1は特許文献1の実施例6に相当する。
【0044】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300℃から1540℃の温度範囲で熔融した。その後、熔融したガラスを攪拌して均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0045】
得られたガラスに対し、表1に示す結晶化温度で一段階熱処理を施し、結晶化ガラスを作製した。得られた結晶化ガラスについて、X線回折により結晶相を確認した。確認された結晶相を表1に示す。
【0046】
2.結晶化ガラスの化学強化
作製した結晶化ガラスを切断および研削し、さらに厚さが10mmとなるように対面平行研磨し、結晶化ガラス基板を得た。
【0047】
実施例1~11,13~30、比較例1,2では、結晶化ガラス基板を、KNO塩浴に500℃8時間(480分)浸漬させ、化学強化を行い強化結晶化ガラスを得た。
【0048】
3.結晶化ガラスおよび強化結晶化ガラスの評価
結晶化ガラスおよび強化結晶化ガラスについて以下の評価を実施した。
(1)ビッカース硬度測定
結晶化ガラス(強化前)と強化結晶化ガラス(強化後)のビッカース硬度(Hv)を表2に示す。ビッカース硬度は、対面角が136°のダイヤモンド四角錐圧子を用いて、試験面にピラミッド形状のくぼみをつけたときの荷重を、くぼみの長さから算出した表面積(mm)で割った値で示した。(株)島津製作所マイクロビッカース硬度計HMV-G21Dを用い、試験荷重200gf、保持時間15秒で測定した。
【0049】
(2)応力測定
実施例1~9,11,13,14,17,19~22で得られた強化結晶化ガラス基板については応力測定をした。結果を表2に示す。表面圧縮応力値(CS)は、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEシリーズを用いて測定した。CS測定において用いられる測定機の光源は、596nmの波長の光源を選択した。CS測定に用いる屈折率は、596nmの屈折率の値を使用した。なお、波長596nmにおける屈折率の値は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じてC線、d線、F線、g線の波長における屈折率の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
CS測定に用いる596nmの光弾性定数の値は、波長435.8nm、波長546.1nm、波長643.9nmにおける光弾性定数の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0050】
圧縮応力層の深さDOLzero(μm)および中心圧縮応力(CT)は、散乱光光弾性応力計SLP-1000を用いて測定した。DOLzeroおよびCT測定に用いられる測定光源の波長は640nmの波長の光源を選択した。
DOLzeroおよびCT測定に用いる屈折率は、640nmの屈折率の値を使用した。なお、波長640nmにおける屈折率の値は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じてC線、d線、F線、g線の波長における屈折率の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0051】
DOLzeroおよびCT測定に用いる測定に用いる640nmの光弾性定数の値は、波長435.8nm、波長546.1nm、波長643.9nmにおける光弾性定数の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0052】
(3)破壊靭性
実施例19,22、比較例1で得られた結晶化ガラス基板について、化学強化の前後に破壊靭性を測定した。結果を表3に示す。破壊靭性は、(株)島津製作所マイクロビッカース硬度計HMV-G21Dを用いて、試験荷重1kgf、保持時間15秒で測定した。
【0053】
表2に示されるように、実施例の結晶化ガラスは化学強化され、表面に圧縮応力層が形成されビッカース硬度が高くなっている。
一方、比較例1,2では、KNO塩浴に500℃8時間浸漬しても、ビッカース硬度が高くなっていないことから、化学強化されず圧縮応力層が形成されていないことが分る。むしろ、塩浴浸漬により表面が荒れビッカース硬度が低下している。
【0054】
表3に示されるように、実施例19,22の結晶化ガラスは化学強化されると破壊靭性が高くなる。比較例1では、化学強化されていないため破壊靭性は変わらない。破壊靭性が高いと、クラックの延伸を抑制できる。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】