(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】高溶解性レバウディオサイドD
(51)【国際特許分類】
C07H 15/256 20060101AFI20221206BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20221206BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C07H15/256 A CSP
A23L27/00 101A
A23L2/60
(21)【出願番号】P 2020503602
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007753
(87)【国際公開番号】W WO2019168082
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018036638
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】浦井 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】横尾 芳明
(72)【発明者】
【氏名】長尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】滝山 博志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 翔慈
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/056834(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/012572(WO,A1)
【文献】特表2015-511498(JP,A)
【文献】国際公開第2011/112892(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/082587(WO,A2)
【文献】平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年07月25日,p.57-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバウディオサイドDの結晶であって、
X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=6.7±0.2deg、10.8±0.2deg、12.9±0.15degおよび22.2±0.2degからなる群から選択される少なくとも2つの位置にピークを有する結晶形態αである、結晶。
【請求項2】
さらに2θ=6.3±0.2deg、8.9±0.2deg、10.3±0.2deg、14.4±0.2deg、17.4±0.2degおよび17.8±0.2degからなる群から選択される少なくとも1つの位置にピークを有する、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
含水率が0.1wt%~2.0wt%である、請求項1
または2に記載の結晶。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の結晶を含む甘味料組成物。
【請求項5】
請求項
4に記載の甘味料組成物を含む食品。
【請求項6】
飲食品中のレバウディオサイドDの含有量が10質量ppm~600質量ppmである、請求項
5に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への溶解性の高いレバウディオサイドDの結晶およびその製造方法に関する。本発明はさらに、レバウディオサイドDの結晶を含む甘味料組成物や、該甘味料組成物を含む飲食品にも関する。
【背景技術】
【0002】
キク科ステビア(Stevia rebaudiana)の葉にはジテルペノイドの一種であるステビオール(Steviol)とよばれる二次代謝産物が含まれており、ステビオール配糖体は砂糖の約300倍もの甘味を呈することからカロリーレスの甘味料として食品産業に利用されている。肥満が深刻な社会問題として国際的に発展しており、健康増進および医療費削減の観点からもカロリーレスの甘味料の要望は日々大きくなっている。現在では人工的に合成されたアミノ酸誘導体のアスパルテーム(Aspartame)やアセスルファムカリウム(Acesulfame Potassium)が人工甘味料として利用されているが、ステビオール配糖体のように天然に存在するカロリーレス甘味料はより安全で消費者理解(Public Acceptance)が得られやすいと期待される。
【0003】
一般的なステビオール配糖体の構造を
図1に示す。ステビアの主要なステビオール配糖体には糖が4つ付いたレバウディオサイドA (Rebaudioside A; Reb.A)と呼ばれる配糖体がある。その前駆体であるステビオール3糖配糖体のステビオシド(Stevioside)が量的に最も多く、これら2つがステビアの甘味の中心的な物質である。ステビオシドは、ステビア葉で最も含有量が多く、砂糖の250~300倍程の甘味を呈することが知られている。Reb.Aは、甘味が高く(砂糖の200~450倍)、且つ味質が良いとされるステビオール4糖配糖体であり、これらはカロリーレス甘味料として注目されている。
【0004】
Reb.Aよりもさらに味質が優れるステビオール配糖体として、レバウディオサイドD (Rebaudioside D; Reb.D)が注目されている。Reb.Dは
図1に示すジテルペン骨格に5つの糖が付加された構造を有し、砂糖の200~300倍程の甘味を呈する。したがって、これまでレバウディオサイドDを甘味料として飲料に加えること(例えば、特許文献1および2)や味質改善剤として用いる試み(例えば、特許文献3)がなされてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-518143号公報
【文献】特表2016-521974号公報
【文献】EP2482676B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、レバウディオサイドDは水への溶解性がレバウディオサイドAなどと比較して低いため、飲食品に十分な甘みをもたらす濃度で加えることが困難であるという課題があった。本発明なこのような課題に対してなされたものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、水への溶解性の高いレバウディオサイドDの結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を遂行した結果、水への溶解性の高いレバウディオサイドDの結晶形態とその製造方法を知得した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0009】
即ち、本発明は以下に記載する特徴を有するものである。
[1]レバウディオサイドDの結晶であって、
X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=6.7±0.2deg、10.8±0.2deg、12.9±0.15degおよび22.2±0.2degからなる群から選択される少なくとも2つの位置にピークを有する結晶形態αである、結晶。
[2]レバウディオサイドDの結晶であって、
X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=5.9±0.2deg、7.3±0.2deg、11.5±0.2degおよび16.8±0.2degから選択される少なくとも2つの位置にピークを有する結晶形態βである、結晶。
[3]さらに2θ=6.3±0.2deg、8.9±0.2deg、10.3±0.2deg、14.4±0.2deg、17.4±0.2degおよび17.8±0.2degからなる群から選択される少なくとも1つの位置にピークを有する、[1]に記載の結晶。
[4]さらに2θ=18.0±0.2degおよび19.0±0.2degからなる群から選択される少なくとも1つの位置にピークを有する、[2]に記載の結晶。
[5]含水率が0.1wt%~2.0wt%である、[1]~[4]のいずれかに記載の結晶。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の結晶を含む甘味料組成物。
[7][6]に記載の甘味料組成物を含む飲食品。
[8]飲食品中のレバウディオサイドDの含有量が10質量ppm~600質量ppmである、[7]に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水への溶解性の高いレバウディオサイドDの結晶を提供することができる。さらに本発明によれば、水への溶解性の高いレバウディオサイドDの結晶を含む甘味料組成物およびその甘味料組成物を含む飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一般的なステビオール配糖体の構造と名称を示す図である。
【
図2】結晶形態αおよび結晶形態βが形成される際のReb.DのXRDとDSCのパターンの変化を示す図である。
【
図3】一般に流通しているReb.D市販品5種類と結晶形態αのReb.D結晶のXRDパターンを示す図である。
【
図4】一般に流通しているReb.D市販品5種類を結晶形態αに変換した後のXRDパターンを示す図である。
【
図5】一般に流通しているReb.D市販品5種類を結晶形態βに変換した後のXRDパターンを示す図である。
【
図6】結晶形態α、結晶形態βおよび対照のReb.D結晶の水への溶解度を比較した図である。
【
図7】A)は結晶形態αおよび対照のReb.D結晶の溶解後40分の時点の濁度を示す図であり、B)は同時点の溶解量を示す図である。
【
図8】結晶形態α、結晶形態βおよび対照のReb.D結晶の水への溶解度を比較した図である。A)は24時間後の溶解量を示し、B)は48時間後の溶解量を示す。
【
図9】結晶形態αのReb.D結晶による溶解性向上の確認を行った図である。A)は結晶形態αの溶解性向上能を確認するためのスキームを示し、B)は溶解量を示す。
【
図10】結晶形態α、結晶形態βおよび対照のReb.D結晶の含水率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。なお、本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
【0013】
本明細書において、「レバウディオサイド」、「レバウディオシド」および「Reb.」は同じ意味を表すものであり、いずれも「rebaudioside」を意味するものである。同様に、本明細書において、「ズルコサイド」は「ズルコシド」と同じ意味を表すものであり、いずれも「dulcoside」を意味するものである。
【0014】
1. レバウディオサイドDの結晶
レバウディオサイドD(Rebaudioside D; Reb.D)は、上記のとおり、
図1に示すジテルペン骨格に5つの糖が付加された構造を有し、具体的には下記の化学式で示される。
【化1】
【0015】
Reb.Dは、非常に高い甘味を有し(砂糖の200~300倍程)、一般的に流通しているReb.Aよりも後味等の面で優れる。一方で、Reb.Aの水への溶解度が7.5℃で10~20g/500ml程度であるのに対して、現在市販されているReb.Dは水への溶解度が0.2~0.25g/500ml程度である。そのため、Reb.Aよりも好ましい味質を有しているにも拘らず、飲食物に甘味をもたらすのに十分な量で添加することが困難であった。
【0016】
通常、Reb.Dは、常温常圧で安定な構造(以下、「安定形」と称することもある)を有しているが、上記のとおり水への溶解性が低いという課題がある。詳細は後述するが、一般的に入手可能なReb.Dに所定の処理を加えることで、溶解性の向上した本発明のReb.Dの結晶が得られる。
【0017】
本発明者らは、水への溶解性が高いレバウディオサイドDの結晶を初めて特定した。本発明のReb.Dの結晶には、2種類の結晶形態が存在する。そのうち、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=6.7±0.2deg、10.8±0.2deg、12.9±0.15degおよび22.2±0.2degからなる群から選択される少なくとも2つの位置にピークを有する結晶形態を結晶形態αと称する。また、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=5.9±0.2deg、7.3±0.2deg、11.5±0.2degおよび16.8±0.2degから選択される少なくとも2つの位置にピークを有する結晶形態を結晶形態βと称する。いずれの結晶形態の結晶も、水への溶解度が高い。水への溶解度は好ましくは7.5℃で0.20g/500ml以上であり、より好ましくは0.25g/500ml以上であり、さらに好ましくは0.28g/500ml以上である。溶解性の上限値は、好ましくは7.5℃で0.33g/500ml以下であり、より好ましくは0.32g/500ml以下であり、さらに好ましくは0.31g/500ml以下である。あるいは、上限値は0.30g/500ml以下または0.29g/500ml以下であってもよい。なお、本明細書において結晶形態αと結晶形態βは準安定形であり、それぞれFormαとFormβと称されることがある。
【0018】
結晶形態αのReb.Dの結晶は、好ましくは、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=6.7±0.2deg、10.8±0.2deg、12.9±0.15degおよび22.2±0.2degからなる群から選択される少なくとも3つの位置にピークを有し、より好ましくは4つの位置にピークを有する。結晶形態αのReb.Dの結晶は、さらに2θ=6.3±0.2deg、8.9±0.2deg、10.3±0.2deg、14.4±0.2deg、17.4±0.2degおよび17.8±0.2degからなる群から選択される少なくとも1つの位置にピークを有していてもよく、この群から選択される少なくとも2つの位置、少なくとも3つの位置、少なくとも4つの位置、少なくとも5つの位置または6つの位置にピークを有していてもよい。
【0019】
結晶形態βのReb.Dの結晶は、好ましくは、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、2θ=5.9±0.2deg、7.3±0.2deg、11.5±0.2degおよび16.8±0.2degの少なくとも3つの位置にピークを有し、より好ましくは4つの位置にピークを有する。結晶形態βのReb.Dの結晶は、さらに2θ=18.0±0.2degおよび19.0±0.2degからなる群から選択される少なくとも1つの位置にピークを有していてもよく、この群から選択される2つの位置にピークを有していてもよい。
【0020】
上記のとおり、本発明のReb.Dの結晶の結晶形態は、X線結晶回折(XRD)を用いて同定することができる。X線結晶回折装置は一般的に入手可能なものを使用することができる。
【0021】
結晶ピーク位置の誤差は、通常±0.2deg以内であれば同一と言えるが、好ましくは±0.15deg、より好ましくは±0.10degである。
【0022】
本発明の一態様によるReb.Dの結晶は、それ自体の溶解度が向上するだけでなく、一般的に市販されているReb.Dと組み合わせて使用することで、溶解度の低い市販のReb.Dの溶解度を向上させることができる。例えば、飽和状態まで市販のReb.Dを溶解させた水溶液に、結晶形態αのReb.D結晶を添加することで溶解性が向上し、追加で加えた結晶形態αのReb.D結晶も同様に水溶液に溶解することができ、その後も析出せずに維持することができる。
【0023】
Reb.Dは、特に限定されないが、植物由来物、化学合成物、または生合成物であってもよい。例えば、Reb.Dを多く含む植物体から単離、精製してもよいが、化学合成や生合成によって得てもよい。
【0024】
本明細書において、「溶解度」とは、「液温7.5℃の溶液500ml中に溶解している溶質の量」を意味し、単位は[g/500ml]である。本明細書において特に指定されていない場合は、7.5℃の溶液における溶解度をさす。
【0025】
本明細書において、「含水率」とは、結晶に含まれる水の割合を意味するものであり、結晶全体の重量を基準とする水の重量の割合(wt%)で示される。結晶の含水率は、例えば、結晶を不活性雰囲気下で高温(例えば130℃)に加熱し、加熱前後の重量の変化量から計算することができる。本発明のReb.Dの結晶は、含水率が0.1wt%~2.0wt%であることが好ましく、0.2wt%~1.2wt%であることがより好ましく、0.40wt%~0.8wt%であることがさらに好ましい。
【0026】
本明細書において、「濁度(NTU)」とは、Reb.Dを水に溶解した際の濁りの程度を意味し、濁度が低いほどReb.Dが良く溶解しているといえる。濁度は公知の方法で測定することができ、例えば既存の吸光光度計などによりに測定することができる。
【0027】
2. 新規ステビオール配糖体を含む甘味料組成物
本発明の一態様によれば、結晶形態αまたは結晶形態βであるレバウディオサイドDの結晶を含む甘味料組成物(以下、「本発明の甘味料組成物」ともいう)が提供される。本発明の甘味料組成物は結晶形態αまたは結晶形態βであるレバウディオサイドDの結晶を含んでいれば特に限定されない。
【0028】
本発明の甘味料組成物に含まれる本発明の配糖体の量は、特に限定されないが、例えば、50~100%であり、好ましくは80~100%であり、より好ましくは95~100%である。本発明の甘味料組成物に含まれる本発明の配糖体の量は、甘味料組成物の総重量に対する本発明の配糖体の重量の割合(wt%)である。
【0029】
本発明の甘味料組成物は、さらに他のステビオール配糖体を含んでいてもよい。例えば、本発明の甘味料組成物は、本発明の配糖体に加え、レバウディオサイドA、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドE,レバウディオサイドF、レバウディオサイドG、レバウディオサイドI、レバウディオサイドJ、レバウディオサイドK、レバウディオサイドN、レバウディオサイドM、レバウディオサイドO、レバウディオサイドQ、レバウディオサイドR、レバウディオサイドV、レバウディオサイドW、レバウディオサイドKA、ズルコサイドA、ルブソシド、ステビオール、ステビオールモノシド、ステビオールビオシド及びステビオシドからなる群から選択される一種以上のステビオール配糖体をさらに含んでいてもよい。
【0030】
他のステビオール配糖体が含まれる場合、本発明の配糖体と他のステビオール配糖体との組成比は、質量比で50:50~100:0が好ましく、95:5~100:0がより好ましい。
【0031】
本発明の甘味料組成物は、さらに一般的な甘味料を含んでいてもよい。そのような一般的な甘味料としては、果糖、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、水飴、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などの天然甘味料や、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料などが挙げられる。中でもすっきりさ、飲みやすさ、自然な味わい、適度なコク味の付与の観点から、天然甘味料を用いることが好ましく、特に、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、砂糖が好適に用いられる。これら甘味成分は一種類のみ用いてもよく、また複数種類を用いてもよい。
【0032】
本発明の甘味料組成物としては、卓上用機能性甘味料組成物、シロップ(飲料用の濃縮液)、甘味増強剤、風味調整剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。シロップとして用いる場合、例えば水などで2~5倍に希釈することで飲料に用いてもよい。
【0033】
3.甘味料組成物を含む飲食品
本発明の一態様によれば、本発明の甘味料組成物を含む飲食品(以下、「本発明の飲食品」ともいう)が提供される。本発明の飲食品は本発明の甘味料組成物を含んでいれば特に限定されない。ここで飲食品とは、飲料及び食品を意味する。
【0034】
本発明の飲食品に含まれるReb.Dの量は、具体的な飲食品によって異なるが、おおむね10質量ppm~600質量ppmであるのが好ましく、10質量ppm~400質量ppmであることがより好ましく、10質量ppm~200質量ppmであることが特に好ましい。含有量をこの範囲とすることで適度な甘みを付与することができるという利点がある。
【0035】
本発明の飲食品は、さらに他のステビオール配糖体を含んでいてもよい。例えば、本発明の甘味料組成物は、本発明の配糖体に加え、レバウディオサイドA、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドE,レバウディオサイドF、レバウディオサイドG、レバウディオサイドI、レバウディオサイドJ、レバウディオサイドK、レバウディオサイドN、レバウディオサイドM、レバウディオサイドO、レバウディオサイドQ、レバウディオサイドR、レバウディオサイドV、レバウディオサイドW、レバウディオサイドKA、ズルコサイドA、ルブソシド、ステビオール、ステビオールモノシド、ステビオールビオシド及びステビオシドからなる群から選択される一種以上のステビオール配糖体をさらに含んでいてもよい。
【0036】
他のステビオール配糖体が含まれる場合、レバウディオサイドDと他のステビオール配糖体との組成比は、質量比で50:50~100:0が好ましく、95:5~100:0がより好ましい。
【0037】
本発明の飲食品は、さらに一般的な甘味料を含んでいてもよい。そのような一般的な甘味料としては、果糖、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、水飴、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などの天然甘味料や、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料などが挙げられる。中でもすっきりさ、飲みやすさ、自然な味わい、適度なコク味の付与の観点から、天然甘味料を用いることが好ましく、特に、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、砂糖が好適に用いられる。これら甘味成分は一種類のみ用いてもよく、また複数種類を用いてもよい。
【0038】
本発明の食品の例としては、特に限定されるものではないが、食品としては、製菓、製パン類、穀粉、麺類、飯類、農産・林産加工食品、畜産加工品、水産加工品、乳・乳製品、油脂・油脂加工品、調味料またはその他の食品素材等が挙げられる。
【0039】
本発明の飲料の例としては、特に限定されるものではないが、例えば炭酸飲料、非炭酸飲料、アルコール飲料、非アルコール飲料、コーヒー飲料、茶飲料、ココア飲料、栄養飲料、機能性飲料などが挙げられる。
【0040】
本発明の飲料は、加熱殺菌をされ、容器に詰められた状態の容器詰飲料として調製してもよい。容器としては、特に限定されず、例えば、PETボトル、アルミ缶、スチール缶、紙パック、チルドカップ、瓶などを挙げることができる。加熱殺菌を行う場合、その種類は特に限定されず、例えばUHT殺菌及びレトルト殺菌等の通常の手法を用いて行うことができる。加熱殺菌工程の温度は特に限定されないが、例えば65~130℃、好ましくは85~120℃で、10~40分である。ただし、上記の条件と同等の殺菌価が得られれば適当な温度で数秒、例えば5~30秒での殺菌でも問題はない。
【0041】
4.レバウディオサイドDの結晶の製造方法
上述のとおり、本発明のレバウディオサイドDの結晶は、一般的に入手可能なReb.Dを所定の条件で加熱又は乾燥することによって製造することができる。なお、本明細書において、「乾燥」とは対象に含まれる水の少なくとも一部が除去されていればよく、加熱されていなくてもよい。例えば、乾燥剤を用いたり真空状態に置くことで対象に含まれる水の少なくとも一部を除去してもよい。
【0042】
本発明のReb.Dの結晶を製造するのに用いるReb.Dは、特に限定されず、植物由来物、化学合成物、または生合成物であってもよい。例えば、Reb.Dを多く含む植物体から単離、精製してもよいが、化学合成や生合成によって得てもよい。
【0043】
通常、Reb.Dは常温常圧で安定形であるが、Reb.D結晶を40℃~150℃で0.5時間~5時間加熱することで、結晶形態αまたは結晶形態βのReb.Dを得ることができる。
【0044】
本発明の一態様によれば、安定形のReb.D結晶は、2℃/minの速度で大気雰囲気下で加熱すると、約50℃において結晶形態αに変換され、約80℃で結晶形態βに変換される。
【0045】
結晶形態αと結晶形態βの形成条件は、例えば、X線結晶回折(XRD)装置と示差走査熱量測定(DSC)装置を組み合わせたXRD-DSCを用いることによって確認することができる。
【0046】
加熱速度は、900℃/時~750℃/時、750℃/時~225℃/時、225℃/時~150℃/時、150℃/時~60℃/時または60℃/時~30℃/時の速度で加熱してもよい。
【0047】
加熱は、大気雰囲気下で行ってもよく、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0048】
本発明のReb.Dの結晶の製造方法において、加熱後に、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下または真空状態で40℃~150℃、0.5時間~5時間保持することをさらに含むことが好ましい。このような不活性ガス雰囲気下または真空状態での保持工程により、吸湿を防止して効率的に多形を形成することができる。
【0049】
加熱後、所望により所定の温度で維持した後は、自然冷却により常温まで冷却してもよく、あるいは、冷却器等を用いて、50℃/時~35℃/時、35℃/時~20℃/時、20℃/時~12℃/時、12℃/時~6.5℃/時、6.5℃/時~4.0℃/時または4.0℃/時~2.0℃/時の速度で冷却してもよい。
【0050】
冷却終了後は、真空状態か不活性ガス雰囲気下に保存することが望ましい。このような状態で保存することで、Reb.Dの結晶形態が結晶形態αや結晶形態βから溶解性の低い安定形に変化することを効果的に防止することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]結晶形態αおよび結晶形態βであるReb.D結晶の作成
レバウディオサイドD(RD95%)を窒素雰囲気下で加熱して、結晶形態αおよび結晶形態βであるReb.D結晶を作成した。その際、X線結晶回折装置(XRD)(株式会社リガク社製、「型番Ultima IV」)と示差走査熱量計(DSC)(株式会社リガク社製、「型番Thermo Plus2システム、XRD-DSCIII」)を用いて、加熱時のXRDパターンの変化と試料の状態変化による吸熱反応や発熱反応を測定し、結晶形態αおよび結晶形態βが形成されることを確認した。それぞれの装置の測定条件を以下に示す。XRD(X線結晶回折)の測定条件は、後続の実施例においても同様の条件を用いた。
XRDの測定条件:
・2θ=5~35°
・スキャン速度10°/min
DSCの測定条件:
・昇温速度 2℃/min
・加熱温度 250℃
・雰囲気 窒素(100mL/min)
【0053】
測定結果を
図2に示す。結晶形態αが形成される際には温度が50~65℃の範囲で2θ=6.5°付近においてXRDのピークが二つに移動し、結晶形態βが形成される際には80~100℃の範囲で2θ=6.0~7.5°付近においてXRDのピークがさらに移動することが観察された。
【0054】
[実施例2]結晶形態α、βの存在確認と結晶形態α、βであるReb.D結晶の作成
一般に流通しているReb.D市販品5種類について、X線結晶回折を行った。試験に使用した試料を表1に示し、得られたXRDパターンを
図3に示した。
【表1】
【0055】
この結果から、今回試験した一般に流通しているReb.D市販品5種類には、結晶形態αと結晶形態βであるReb.D結晶が含まれていないことが確認された。
【0056】
次いで、試料1~5を実施例1と同様の方法で50℃まで加熱し、結晶形態αに変換し、X線結晶回折を行った。得られたXRDパターンを
図4に示した。この結果から、試料1~5がいずれも結晶形態αに特徴的なピークを有することが確認できた。
【0057】
さらに、試料1~5の加熱を100℃まで継続し、結晶形態βに変換し、X線結晶回折を行った。得られたXRDパターンを
図5に示した。この結果から、試料1~5がいずれも結晶形態βに特徴的なピークを有することが確認できた。
【0058】
[実施例3]Reb.D結晶の溶解性
結晶形態α、結晶形態βおよび対照(control、市販の安定形のReb.D)のReb.D結晶を用意し、それぞれの溶解性を比較した。結晶形態αの結晶は、50℃にて1時間保持し、適宜N
2に置換することで得たものを用い、結晶形態βの結晶は100℃にて1.5時間保持し、適宜適宜N
2に置換し、オーバーナイトで常温まで冷却することで得たものを用いた。溶解の条件およびサンプル調製の条件を以下に示す。
・溶解条件:
7.5℃の純水(150ml)に300mgのRebDを加え、200rpmで撹拌して溶解させた。
・サンプル調製条件:
フィルターごと溶液に30秒漬け、その後、0.45umフィルターにてろ液を得た。得られたろ液を1ml回収し、純水を用いて10倍に希釈した。
測定結果を
図6に示す。結晶形態αおよび結晶形態βのいずれの結晶についても、対照(Cont)に比べて溶解量増加が観測された。
【0059】
次いで、条件を変更して溶解性を評価した。結晶形態αの結晶は、55℃にて2時間保持し、適宜N
2に置換した後に真空状態で自然冷却して得たものを用いた。溶解の条件、濁度(NTU)の測定条件、およびサンプル調製の条件を以下に示す。
・溶解条件:
7.5℃の純水(150ml)に90mg のRebD (300mg/500ml相当)を加え、350rpmで撹拌して溶解させた。40分後の溶解の程度を確認した。
・濁度(NTU)測定条件:
40分後に30mlを回収し、濁度(NTU)を測定した。濁度は吸光光度計(HACH製2100AN)を用いてホルマジンを標準液とした比濁法にて測定した。
・サンプル調製条件:
フィルターごと溶液に6秒漬け、その後、0.45umフィルターにてろ液得た。得られたろ液を1ml回収し、純水を用いて10倍に希釈した。
測定結果を
図7に示す。濁度は結晶形態αにおいて低い傾向であり、溶解性の向上が示唆される。また、溶解量も増加傾向にあることが分かった。
【0060】
さらに長期間の溶解性を確認するための試験を行った。結晶形態αの結晶は、50℃にて2時間保持し、適宜N
2に置換し、その後保温OFFで真空状態で静置することで得たものを用い、結晶形態βの結晶は100℃にて2.0時間保持し、適宜適宜N
2に置換し、保温OFFで真空状態で静置することで得たものを用いた。溶解の条件およびサンプル調製の条件を以下に示す。
・溶解条件:
7.5℃の純水(150ml)に300mgのRebDを加え、200rpmで撹拌して溶解させた。
・サンプル調製条件:
フィルターごと溶液に30秒漬け、その後、0.2umフィルターにてろ液を得た。得られたろ液を1ml回収し、純水を用いて10倍に希釈した。これらの操作を各3回実施した。
測定結果を
図8に示す。溶解後24時間と48時間のいずれにおいても、対照(Cont)に比べ5%程度の溶解量増加が観測された。
【0061】
[実施例4]Reb.D結晶追加添加による溶解性の向上
結晶形態αのReb.Dを用いることで、市販のReb.Dの溶解性が向上することを確認するために試験を行った。結晶形態αの溶解性向上能を確認するためのスキームを
図9A)に示す。最初に市販のReb.D(安定形)を飽和状態になるまで水に添加した。その24時間後に結晶形態αのReb.D結晶を当該飽和溶液に添加した。24時間後、25時間後および48時間後にサンプリングを行い、Reb.D溶解量を確認した。結果を
図9B)に示す。飽和状態の溶液に結晶形態αのReb.D結晶を添加することで、さらに溶解量が増加し、その増加は結晶形態αのReb.D結晶の添加後24H後も継続していた。
【0062】
[実施例5]各結晶形態の含水率の比較
結晶形態α、結晶形態βおよび対照(control、安定形)のReb.D結晶を用意し、それぞれの含水率を比較し、結果を
図10に示した。含水率の測定に使用した装置や条件を以下に示す。
・装置:
微量水分測定装置 CA-200 株式会社三菱ケミカルアナリティック製
水分気化装置:VA-200
試薬:陽極液:アクアミクロンAX
陰極:アクアミクロンCXU
試料加熱:130℃、不活性ガス雰囲気下(ガス:N
2、流量:300ml/min)
【0063】
各結晶形態の結晶における含水率を比較すると、対照の結晶の含水率が最も高く、5wt%を超えていた。一方で、結晶形態αと結晶形態βの結晶の含水率はそれぞれ0.67wt%と0.37wt%であった。予想外にも、より溶解性の高い結晶形態αの結晶の方が、結晶形態βの結晶よりも含水率が高いことが分かった。