(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】高さのある同位体分離用蒸留塔とその組立方法
(51)【国際特許分類】
B01D 59/04 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B01D59/04
(21)【出願番号】P 2020505546
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 IB2018052581
(87)【国際公開番号】W WO2018189717
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】102017000042150
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519367751
【氏名又は名称】ガルビアーティ,クリスティアーノ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】ガルビアーティ,クリスティアーノ
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-63808(JP,A)
【文献】特開平11-190587(JP,A)
【文献】特開2000-271449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 59/04
F25J 3/00-3/08
B01D 3/00-3/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同位体分離に使用する
低温蒸留
塔であって、
底部に
沿って配置される少なくとも一つのリボイラ
ーと、
上部に
沿って配置される凝縮
器と、
中央蒸留塔部と、を備え、
支持構造の壁と前記中央蒸留塔部との間を接続手段により接続するように、前記中央蒸留塔部は構成されており、
前記中央蒸留塔部は、少なくとも一つ以上の中央モジュール要素を含み、
前記少なくとも一つ以上の中央モジュール要素は、
少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素と、
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素内で取り囲まれている少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素と、を含み、
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素によって、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素は断熱性を有し、
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素における底部の外部断熱容器の外径周りに外部スリーブが配置されており、
前記外部スリーブについて、前記底部の外部断熱容器と隣の外部モジュールの断熱容器の要素とに溶接されるように位置が調整されており、溶接された領域ではクラリオスタット部として閉じられており、
前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素は、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のうち隣の内部モジュールの塔の要素に接続される最後のセクションを除いて断熱されており、
前記最後のセクションは、溶接の後に所定の位置が多層断熱材により覆われるように構成されており、
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素、および前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のそれぞれは、一つ以上の蛇腹を含み、
前記低温蒸留塔の全高に沿った一つ以上の蛇腹の収縮または拡張によって、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素および前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のそれぞれの高さに沿った熱膨張を補償するために、前記一つ以上の蛇腹はそこに沿って配置されている、低温蒸留塔。
【請求項2】
軸方向において前記外部モジュールの断熱容器の要素に関し前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素の位置を調整するために、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素と前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素とが、固定された接続部により一点もしくは無点で接続され、スライドジョイント、スライドレストポストおよびチェーンの少なくともいずれか一つにより一点もしくは複数の点で接続されており、
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素と前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素とは部分的に、モジュールの高さの範囲内でその部分の熱膨張または収縮を局所的に補償するために軸方向に自由にスライドできるように、固定された手段により接続されていない、請求項1に記載の同位体分離に使用する低温蒸留塔。
【請求項3】
熱伝導を最小限に抑えると共に前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素の温度変化が前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素に与える影響を最小限にするために、前記塔の要素が、多層断熱材によって包まれるか、または断熱材で満たされるかのいずれか一方により断熱され、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素と前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素との間が真空状態である、請求項2に記載の低温蒸留塔。
【請求項4】
サービスパイプと、前記サービスパイプ上に設置される蛇腹と、をさらに備え、
前記蛇腹は、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素と、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素との間の空間であって、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素の外側であると共に前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素の内側に配置される、請求項3に記載の低温蒸留塔。
【請求項5】
前記リボイラーと前記凝縮器とにより消費され、または得られたエンタルピーを回収することにより同位体分離工程のコストを下げるために前記リボイラーと前記凝縮器と作動的に接続される節約用の熱交換器をさらに備える、請求項1に記載の低温蒸留塔。
【請求項6】
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素に、並行もしくは一列で接続される複数の内部モジュールの塔の要素を含む、請求項1に記載の低温蒸留塔。
【請求項7】
アルゴンおよびキセノンの同位体を分離するための最小段数をさらに含み、
有効な分離のために前記最小段数は、1と同位体の相対揮発度の差の逆数である、請求項6に記載の低温蒸留塔。
【請求項8】
少なくとも一つ以上の内部モジュールの塔の要素(23...23
n
)を取り囲む少なくとも一つ以上の外部モジュールの断熱容器の要素(22...22
n
)を含む少なくとも一つ以上の中央モジュール要素であって、1メートルから数十メートルの範囲の個々の高さを有し、予め組み立てられた前記中央モジュール要素を提供するステップと、
前記中央モジュール要素を建設現場から輸送することができ、その後、坑道または支持構造物内で、モジュールを順番に積み上げ、互いに接続することによって、所定の位置に順次組み立てられるステップと、を含み、
前記順次組み立てられるステップは、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素における2つの隣接する外部モジュールの断熱容器の要素をつなぎ合わせることと、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素における2つの隣接する内部モジュールの塔の要素をつなぎ合わせることと、を含み、
前記2つの隣接する外部モジュールの断熱容器の要素をつなぎ合わせることは、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素における底部の外部断熱容器の要素の外径周りに外部スリーブを配置し、前記底部の外部断熱容器と隣の外部モジュールの断熱容器の要素とに溶接されるか、またはつなぎ合わせられるように外部スリーブの位置が調整され、溶接された領域ではクラリオスタット部として閉じられることを含み、
前記2つの隣接する内部モジュールの塔の要素をつなぎ合わせることは、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のうち隣の内部モジュールの塔炉の要素につなぎ合わせられる最後のセクションを除いて、前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素が多層断熱材で包まれることを含み、
前記最後のセクションは、溶接の後に所定の位置が多層断熱材によって包まれるように構成されており、
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素、および前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のそれぞれは、一つ以上の蛇腹を含み、
低温蒸留塔の全高に沿った一つ以上の蛇腹の収縮または拡張によって、前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素および前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のそれぞれの高さに沿った熱膨張を補償するために、前記一つ以上の蛇腹はそこに沿って配置されている、低温蒸留塔の組立方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つの外部モジュールの断熱容器の要素および前記少なくとも一つの内部モジュールの塔の要素のそれぞれは、最初にその最終位置に調整され、その後、隣の外部モジュールの断熱容器の要素および隣の内部モジュールの塔の要素のそれぞれと溶接によって接続される、請求項8に記載の低温蒸留塔の組立方法。
【請求項10】
坑道の壁や坑道の壁を囲む岩に、ロックボルトによるかもしくは接続部を介して、坑道や立坑の壁に固定された構造プレートに設置されたプラットフォームに接続された構造支持体に、少なくとも一つ以上の中央モジュール要素がつなぎ合わせられ、
固定方法には、前記坑道の壁や前記岩に形成されたほぞ穴に固定されるほぞ結合が含まれる、請求項8に記載の低温蒸留塔の組立方法。
【請求項11】
少なくとも一つ以上の中央モジュール要素が、高い塔を有する外部の支持フレームに固定されたプラットフォームに接続された構造支持体につなぎ合わせられる、請求項8に記載の低温蒸留塔の組立方法。
【請求項12】
アルゴン、クリプトンやキセノンを含む冷媒液体であって、動作温度の範囲を広げることができる冷媒液体が用いられる、請求項8に記載の低温蒸留塔の組立方法。
【請求項13】
坑道の壁や坑道の壁を囲む岩に、ロックボルトによるかもしくは接続部を介して、坑道や立坑の壁に固定された構造プレートに設置されたプラットフォームに接続された構造支持体に、少なくとも一つ以上の中央モジュール要素がつなぎ合わせられ、
固定方法には、前記坑道の壁や前記岩に形成されたほぞ穴に固定されるほぞ結合が含まれる、請求項9に記載の低温蒸留塔の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同位体分離の分野に関する発明である。非常に背の高い同位体分離用の蒸留塔をベースにして、坑道などによりサポートするいくつかのモジュールにより構成される革新的な蒸留塔について説明する。これによりこの分野に新しい技術的革新がもたらされる。
【背景技術】
【0002】
化学元素の同位体は核内部の中性子数が異なる。陽子数すなわち電子の数は同じであり、化学結合も同様である。同位体分離は、同位体間の質量の違いによって影響を受ける物理化学的な特性のわずかな違いが重要となる。
【0003】
同位体分離に利用される様々な手法の内、分別蒸留法は軽元素の原子と分子の同位体分離手法として知られている。通常、低温で実施されることから低温蒸留法と呼ばれており、原子や軽元素の分子の同位体分離では既知の技術である。
【0004】
連続式蒸留プロセスでは、気体または液体が流量を制御をしつつ蒸留塔へ供給される。 蒸留塔内部は蒸留板や構造化パッキング(必要に応じて液体の再配分プレート)などが設置され、上向きに流れる気流と下向きに流れる液体の流れで満たされる。塔の上部では、凝縮器が上向きに流れる気流を冷やして凝縮させて下向きの液体の流れを作り出す。液体は重力に従って上部から底部へと流れ落ちる。塔の底部では液体がリボイラーの中に入り、上向きの気流を生み出し、それが塔の底部から上部へと登っていく。上部に登るのは、上部の凝縮器が気体を凝縮することで生み出される気圧の変化によるものである。連続式分別蒸留プロセスでは、物質や成分を分離させたり選択的に気化させることができる。低い気圧の物質は塔底部で凝縮され、高い気圧の物質は塔の上部で凝縮される。このプロセスで発生したスリップストリームは、上部の凝縮器や底部のリボイラーから抽出可能である。
【0005】
同位体分離に使用する場合、連続式分別蒸留プロセスは重い同位体を凝縮でき、例えば低い気圧を持つ同位体は塔の底部で凝縮され。同様に高い気圧を持つ軽い同位体は塔の上部で凝縮される。
【0006】
蒸留塔で実現可能な同位体の分離比率を決める最も重要なパラメーターは、プロセス運用の温度であるTに依存する気圧a(T)の比率である。蒸留による同位体分離の場合、比率 αは通常1に非常に近く、1からの差は非常に小さく(α-1)、通常は数千分のいくつかとか、数万分のいくつかであって、塔の運用時の温度変化はほどんど一定であり、通常は液体の沸点に近いものになる。
【0007】
僅かな差(α-1)が蒸留塔の効率的な分離に必要な平衡状態を決定する。いわゆる「フェンスケルール」では、効果的な分離に必要な最小ステージ数が
【数1】
であることを示している。これは同位体分離に必要な平衡のための段数が非常に多く、数百から数万になることを意味する。
【0008】
この小さな差(α-1)が生産の比率を厳しく制限し、分離に必要なエネルギーを決めている。これは液体の還流比であり、塔の内部の蒸留質量流量比における液体の質量流量比として定義される。例えば、上部の凝縮器で凝縮されて塔に戻る気体の質量流量比と、上部の凝縮器で凝縮されて留出液として抽出される気体の質量流量の比率は、フェンスケルールに従った理論上の最小数として
【数1】
となる。これは、有益な生成物として抽出しうる再凝縮蒸気の比率が極めて小さいことを意味している。また、蒸気を再凝縮して非常に大きな下向きの液体の流れを形成するためには、大量のエネルギーが必要であることを意味する。 これはまた、塔の底部で液体を沸騰させることにより、大きな上向きの蒸気流を生成するためにも、同じように大量のエネルギーが必要であることを意味する。
【0009】
そのため、連続式分別低温蒸留を効果的に利用するためには、数百メートルから数千メートルの高さの、極めて背の高い塔を利用できることが望ましく、それにより数千から数十万の平衡状態に対応することが可能である。塔の直径は、数十センチメートルから数メートルといった非常に大きな直径を利用できることが望ましい。これにより効果的な同位体分離に必要な蒸気と液体の平衡状態を狂わせてしまう塔の「氾濫」引き起こすことなく、極めて大きな蒸気流と下向きの液体の流れを支えることができる。
【0010】
従来の技術では低温蒸留塔は少なくとも内部の蒸留塔が自立式のもので、パッシブの断熱材やクライオスタットで断熱するものであることに注意していただきたい。例えば、多層断熱(MLI)で内部の塔を覆い、真空下で使用することにより熱伝導を最小限にした自立式の管などがその例である。 低温蒸留に適した、数百メートル以上の高さの自立する塔を設置することは不可能である。
【0011】
直径数メートルの極めて背の高い塔を建設し、テスト運転をして、実際に運用するためには、コスト負担の高い機械構造に切り替える必要があるが、そのコストは塔の高さを伸ばすよりもあっという間に高くなる。このため、従来の蒸留塔は、最も高いものでも60~70メートルを超えることはない。
【0012】
さらに、本発明の革新的な技術により、求めている数百メートルの高さに達した場合、低温蒸留塔の内部とプロセス動作温度の間の大きな変動により数分の1メートルから数メートルの熱膨張や 収縮が生じることが予測でき、容器周囲は環境温度による温度変化に対応できないことから、熱膨張や収縮に対応できないことになる。
【0013】
上記のような問題を抱える先行技術の例としては、1940年のGB 525、575の中に見いだすことができる。この例では、塔は化学プロセスに利用されている。例えば、デフレグメーターや泡鐘塔などであり、棚板などの積み重ねて構成されていて、高さ全体に隙間を開けてそれをバネで支えている。塔は均一な2つのフェロシリコンで形成されている。ナットとボルトで固定されたクランプリングがあり、端が円錐状に広がっているポットまたは金属を使用しており、ナットとボルトの一部はアイボルトを使用しており、外部鉄骨フレームのブラケットに支えられたコイル圧縮バネでフックを固定することにより接続されている。別の部分ではフランジを使って接続している。さらに、弾力性のある支持部を設けることにより、使用中の温度条件の変動による熱膨張や収縮場合に、塔の重量が分散される。
【0014】
技術者ならすぐに理解できるが、こうした設備は非常に高価であり、また高さを無制限に増やすことはできないため、妥当な高さである100メートル程度に収まり、それ以上は断熱処置が施されないことになるが、これでは低温蒸留塔として利用するという本発明の基本的な目的に反することになる。またバネを利用して塔を支えることは、低温蒸留塔に必要な数メートルの高さを確保することは難しく、熱膨張や収縮に対応することができない。
【0015】
1999年のEP 0913655では、外部の構造で囲った、大きなサイズの細長い内部構造を使った手法を紹介している。この内部構造は出願人が述べているように流体を閉じ込めるための構造である。「本発明は気体の蒸留塔のためのものであり、高さは60メートルにおよび、周囲を支持フレームで支えるものである」、 とあるように、これは本発明の目的とは異なり、従来の技術の限界の一つである。 本発明の目的は、外部構造に覆われた大規模な内部構造の建設手法であり、塔の垂直応力に対応しつつ、素早い組み立てを実現するものであると同時に、設置場所へ運ぶ前の準備組み立て(プレアセンブリ)を可能にするものである。本発明ではモジュールを使用する。各モジュールは外部構造5に囲まれた内部構造1からなるものであり、塔を必要な高さまで伸ばすことができるものである。内部構造と外部構造は各内部構造を水平に外部構造に挿入する。例えばローラー11とレール31を使用し、2つの構造を固定してモジュールを形成する。
【0016】
各モジュールは他のモジュールと接続する部分を除いて、対応する外部構造の部分に保護のための金属の板を設置する。内部には蒸留塔が設置される。外部の構造は単に支持フレームに過ぎない。モジュールは現場で下から上に向かって順番に組み立てる。 技術に関する知識のある人なら、これだけでは単に前述のような欠点をもつ蒸留塔の別の例に過ぎないことに気がつくだろう。特に、断熱や、断熱容器についても触れておらず、クライオスタットを利用する場合の真空状態で使用する断熱容器に関しても触れておらず、高さは最大で60メートルであり、しかも塔は支持フレーム内で水平方向に設置されるため、作成後に起こして垂直にする必要がある。こうした点から、この手法では本発明の目的を達成できない。 事実、本発明は数百メートルから数千メートルの高さの塔を建設するのに適した方法が必要である。そのためには塔を支えるための支持が必要になる。例えば建設の最終段階で塔を垂直方向に立てる際に、モジュールでできた塔をその支持に取り付けて、試運転や運用を行えるようなものである。本発明の好ましい実施形態としては、真空下で断熱容器をクライオスタットとして使用する低温蒸留塔がある。
【0017】
従って、この詳細で説明するように、本発明の革新的な設計を採用した高さ数百メートルに及ぶ連続式分別低温蒸留塔に鑑みると、関連の技術や知識を有する者であれば、上記で紹介した明細書は先行技術としては、決して類似のものとはいえないということが理解できるであろう。前述の明細書において技術により達成可能だと述べているものは、構造的な問題により、限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】GB 525、575
【文献】EP 0913655
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は背景となる技術の欠点を克服することにあり、特に、実用的な手法を用いて蒸留塔の高さと直径を改善することにある。また本発明の別の目的は、低温蒸留塔を紹介することにある。また別の目的として、同位体分離に新しい結果をもたらすための、新しく考案した蒸留塔を紹介することにもある。さらに、手頃な建設コストにより上記の結果を達成するための新たに考案する蒸留塔を紹介することにある。さらに別の目的として、工房でモジュールを作成して容易に設置場所まで運び、組み立てることができる(メンテナンスなど必要に応じて分解もできる)、新しく考案した蒸留塔を紹介することにある。さらに別の目的として、熱膨張または収縮とそれに伴う応力に対応することが可能な、新たに考案した蒸留塔を紹介することにある。また別の目的として、損傷した場合でも修理が難しくなく取り扱いも簡単で、パーツを容易に交換することができる、新たに考案した蒸留塔を紹介することにある。また別の目的として、蒸留のエネルギーパフォーマンスを改善することがある。最後に本発明の別の目的として、より手頃なコストで低温蒸留を行って同位体を得ることのできる、新たに考案した蒸留塔を紹介することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、それぞれ独立した多数のモジュールからなる同位体分離のための革新的な蒸留塔を建設することにある。
【0021】
その革新的な蒸留塔には、底部のリボイラーと上部の凝縮器を備え、中央に蒸留塔があり、その蒸留塔はモジュールで構成され、それらのモジュールが支持構造の壁に一定の接続方法により接続され、さらにこの塔には熱膨張や収縮による塔の高さの変化を吸収して一定に保つことができる蛇腹を有するモジュールが備えられているものである。
【0022】
さらに好ましい実施形態としては、前述のモジュールが断熱材で覆われているものがある。
【0023】
さらに好ましい実施形態としては、モジュールに断熱容器を備えたものがある。蒸留塔を多層断熱材で覆った上で、断熱容器と内部の蒸留塔の間は真空状態にすることも、断熱材でその間を埋めることもでき、それにより熱伝導を最小化して蒸留塔の温度変化影響を最小限に止めることができる。
【0024】
さらに好ましい実施形態としては、外部の断熱容器に蛇腹を有するものをいくつか使用したものであり、断熱容器の部分をいくつかの蛇腹に置き換えることによって、環境温度の変化による熱膨張や収縮を吸収して、外部の断熱容器の高さを一定に止めて上部から下部まで支持することができるようにしたものである。外部の断熱容器に蛇腹を設置することで、各モジュールの重さを、対応する各支持構造体に伝えることができる。
【0025】
さらに好ましい実施形態としては、一つの断熱容器に複数の蒸留塔を設置したものであり、その蒸留塔は平行して動作するだけでなく、直列に接続することもできるものである。
【0026】
さらに好ましい実施形態としては、前述の内部の蒸留塔が外部の断熱容器と一点で、または無点で構造的に接続されることにより、接続部分以外の蒸留塔や断熱容器が軸方向に自由に動くことができるものである。従って運用中に内部の蒸留塔が非常に大きな垂直方向の熱膨張や収縮を起こしたとしても、外部の容器には何ら負荷がかかることがない。
【0027】
またべつの好ましい実施形態では、外部容器と内部の蒸留塔が1点または無点で構造的に接続され、その接続方法としてスライドジョイント、スライドレストポスト、チェーンなどを用いることにより、外部の容器の軸方向への動きに対して内部の蒸留塔の位置の調整が最小限になるものである。内部の蒸留塔と外部の容器が接続されていない部分はそれぞれ軸方向に自由に動くので、モジュールの熱膨張や収縮する場合もその高さの範囲で伸び縮みする。
【0028】
この革新的な低温蒸留塔の組立方法については、ある好ましい実施形態としては、蒸留塔を構成するモジュールが坑道内に設置されるものもある。これは一つの実施形態にすぎず、本発明の範囲としては、本発明を制限することなく、十分な高さを使用できるものであれば、支持のための塔の建設や、同様の構造を利用しうるものである。
【0029】
本発明では蒸留塔をこれまでにないサイズで設計及び建設することが可能となる。高さは数百メートルから数千メートルに及び、直径は数センチから数メートルが可能であり、坑道内または坑道などで支持される適した構造内に設置することができるものであり、底部にリボイラーを有し、上部に凝縮器を有し、中央に革新的なモジュール型の蒸留塔をいくつか設置したものが理想的である。
【0030】
坑道を支持構造体として使用することは、蒸留塔を支えるために好都合であり、また巨大で高価な建造物を地上に建設することを避けることができることから、本発明の好ましい実施形態と言える。もっとも、別の実施形態して類似の支持構造を用いて本発明の革新的なモジュール型の蒸留塔を固定して支えることは可能であり、こうした構造は本発明の範囲に含まれるべきものであり、発明の分野を限定するものではないことに留意をいただきたい。
【0031】
好ましい実施形態としては、蒸留塔の各モジュールが坑道の壁で支えられる形態をとり、これにより高さは数千メートルまで可能であり、直径は数メートルまで可能である。好都合なことに、蒸留塔のモジュールはそれぞれ数メートルから数十メートルの高さであり、建設や試験を行う作業現場から実際に設置する場所にある坑道まで簡単に運ぶことが可能である。
【0032】
この方法であれば、最終的な組立は基本的には坑道内でモジュールを接続する作業のみであり、工数を最小限に抑えることができ、また坑道内にモジュールを設置すれば、モジュール同士の接続は容易である(モジュールを組み立てる別の方法については別途好ましい実施形態の一つとして図で詳細を示しつつ説明を加える)。
【0033】
この新しいモジュール型の蒸留塔の建設は、坑道の底部から上部へモジュールを組み立てることで完成する。
【0034】
モジュールによる同位体分離のための蒸留塔は、従来の単一のモジュール型の蒸留塔を単純に分割したものではないことに留意をいただきたい。本発明では多岐にわたる物理的な側面を追加して従来の技術的な欠点を補ったモジュール型の蒸留塔を実現するものである。
【0035】
組立現場に運搬後、モジュールを坑道の底部に下ろし、すでに決められた順番で決められた位置に設置する。好都合なことに坑道や周囲の岩でしっかりと固定される。例えば、最初にプラットフォームに固定した後で、ロックボルトなどの接続方法により坑道の壁もしくは坑道を取り囲む岩に直接固定する。この方法の一つとして、ほぞ穴を使った固定方法も含まれる。
【0036】
モジュールが最終的な位置に設置されると、モジュールの重量は坑道と周囲の岩に支えられる。 その後、すでに設置している別のモジュールに溶接もしくはフランジにより接続する。これを続けることで背の高い蒸留塔を建設することが可能になる。
【0037】
以上から、本発明で導入する革新的な要素は次のとおりである。各モジュールを坑道の壁や周囲の岩により構造的に支えるための蒸留塔の新しい接続方法。本体の各モジュールには蛇腹のほか伸縮する素材を用いて伸縮する部分を設置することにより、蒸留塔の建設時、試運転、運用時の縦方向の熱膨張や収縮を吸収できる。 蒸留塔は数百メートルの高さになり、内部の温度と最大300ケルビンの低温の温度変化に晒され、 非伸縮部分の熱膨張と収縮は数メートルに及ぶがこれは伸縮が可能な部分で吸収される。
【0038】
GB 525,575では蒸留塔を支える支持体にバネを設置して、その伸縮によりこの蒸留塔の伸縮を吸収していたが、これとは全く異なることが明白である。本発明では蒸留塔の膨張や収縮を、支持体に取り付けたバネの代わりに、蒸留塔のモジュール(とその周囲の断熱容器)に取り付けた蛇腹により吸収することにより、蒸留塔の下部から上部までの高さを変えることなく維持することを可能にする。本発明の明白な利点として、背の高い塔を建築するのに適している点がある。反対にGB 525,575の手法は、低温蒸留中に1メートル程度の収縮を引き起こして、これをバネで吸収というのは非実用的であり、蒸留塔の上部から底部までの高さが変わることになるため、100メートル以上の高さの蒸留塔の建設には適していない。この点、GB 525,575のバネを用いた手法は前述の限界や問題により熱膨張を吸収するのに役立つだけであり、熱収縮を吸収することができない。これは本発明が解決する中心的な課題の一つであり、とくに低温蒸留塔での熱収縮に対応することは本発明の中心的な課題である。
【0039】
こうした問題やすでに知られている課題を、後述する蛇腹を使った手法により本発明は解決するものである。
【0040】
すでに知られている通り、垂直の高さが数百メートルから数千メートルで直径が数メートルの坑道は簡単に利用できる。本発明で述べた塔や手法により、新たに考案した坑道壁と周囲の岩で支えたモジュールを多数つなぎ合わせる方法により、これまでにない段数を持つ蒸留塔を建設することが可能になる。段数は合計の高さに直接比例し、理論段数はそれぞれ数センチから数十センチとなる。好都合なことに、このモジュール型の塔であれば数千から数十万の段数を実現させることが可能である。
【0041】
この新しいモジュール式の塔は数十センチから数メートルの直径の塔を設置することができるため、同位体分離と同位体純度の割合を大幅に改善することが可能になる。
実施形態の一つとしては、蒸留の棚板を用いたり、構造化充填物で満たした円形状の内壁で作った中空の形状が考えられる。
【0042】
特に好ましい実施形態は、蒸留塔が断熱材の層で覆われているものである。
またある実施形態としては、断熱構造の容器で蒸留塔を囲むことによって断熱層とすることも可能である。
【0043】
またある実施形態としては、断熱容器の内面と蒸留塔の外面の間の隙間が断熱材で埋められているものもある。
【0044】
またある実施形態では断熱材として非常に高い断熱力をもち、どんな温度に対しても熱伝導率が低いパートライトを使用する。この場合開放気孔率が高いため非常に明るくなる。コストが安く、簡単に設置でき、不燃性で、低湿度に保たれるおかげで、過冷却ガスを必要とする低温分野の業界では多用されており、利用に関して数多くの利点を備えている。
また別の実施形態としては、内部の蒸留塔の外表面が多層断熱材で覆われており、断熱容器の内表面と蒸留塔の外表面の間が真空に保たれており、 10-2ミリバール以下の圧力で、クライオスタット内の蒸留塔を運用するものもある。
【0045】
また別の実施形態としては、好ましいことに断熱容器が複数の蒸留塔を有しており、この塔を平行に動作させることも、並べて繋げて動作させることもできる。この場合内側もしくは外側の断熱容器を設置することで実現できる。並べてつなげる場合は別の断熱材を用意する。並列に動作させる場合は、それぞれが独立して動作することも、連動させることも可能である。
【0046】
また別の実施形態としては、複数の垂直のモジュールセクションで最初に蒸留塔を設置し、のちにフランジや溶接で別のものに接続する方法もある。
【0047】
また別の実施形態としては、モジュール型断熱容器を垂直に設置していき、のちにフランジや溶接で別の断熱容器に接続する方法もある。
【0048】
また、好ましい実施形態として、内部の塔を構成する垂直につなげた部分、または断熱容器で取り囲んだ内部の塔の組み合わせのそれぞれに一つまたは複数の蛇腹を取りつけ、設置中や特にプロセスの実施中に塔の垂直方向に生じる熱膨張や収縮を吸収することができるものがある。
【0049】
無駄なくエネルギーを回収し続けることにより蒸留のエネルギーパフォーマンスを向上させることも本発明の目的の一つである。上部のコンデンサーの冷却エネルギーと底部のリボイラーの加熱エネルギーは2つの熱交換器を通じて送られる。 上部のコンデンサーに到達した上向きの気流を凝縮して液体化するために必要な冷媒として熱交換器使用される熱交換液を含むクローズドループがある。これはまた、液体化の段階で必要な予熱のための流体加熱として底部リボイラーの熱交換器で使用される。 熱交換のために1種類の液体を使用することも新規性があることに注意をいただきたい。
【0050】
実施形態としては、蒸留を低温で実施し、凝縮器の冷媒液体として、またリボイラーの加熱流体として窒素を使用するものがある。窒素はクローズドサーキットでリボイラーから凝縮器へ、そして凝縮器からリボイラーへと循環する。窒素は液体の状態で凝縮器上部の熱交換器に供給され、熱交換器内で気体化することにより上向きの気体の凝縮に必要な冷却エネルギーを供給する。窒素をリサイクルする凝縮器が凝縮器上部の熱交換器から排出された気体の圧力を上げ、底部のリボイラーに送る。下部のリボイラーでは、気体の窒素が凝縮器下部の熱交換器に送られる。底部のリボイラーでは、圧力を加えられた窒素による予熱のエネルギーが解放され、 還流する液体の流れを沸騰させ、窒素の交換液を冷却し、凝縮させて液体化させる。最後に、こうしたクローズループでは、底部の凝縮器の熱交換器内の液化した窒素が低温ポンプによって断熱ラインを通じて凝縮器上部の熱交換器へ送られることになる。
【0051】
またある実施形態では、液体状の窒素を底部から上部の熱交換器へ送る断熱ラインが塔の断熱容器に含まれている。またある実施形態では、気体状の窒素を底部から上部の熱交換器へ送る断熱管が塔の断熱容器に含まれている。
【0052】
熱交換用の単一の液体として窒素を用いることは新規性を有することにご注意いただきたい。
【0053】
低温蒸留の別の実施形態では、冷却液として窒素の代わりにアルゴン、クリプトン、キセノンなどの不活性貴元素が用いることにより、実際に使用する温度の範囲を拡大することが可能になる。これは単純に、同じ流体回路に液体と気体の相転移の圧力依存性の温度の範囲が異なる別の元素を使用するものである。ここで、アルゴン、クリプトン、キセノンを熱交換の単一の液体として使用することが新規性を有することにも注意をいただきたい。
【0054】
前述のように、新しく考案したモジュール式の塔はこれまでにない寸法や高さを持つことが可能となり、アルゴンやキセノンの同位体分離に必要な数百段から数千段までの段数を実現することが可能となる。
36Ar、
38Ar、
39Ar、
40Arなどのアルゴンの同位体のためのボラティリティ比率(a - 1)の差異は、数千分のいくつかに過ぎない。
39Arで激減した
40Arは、数トンから数百トンの非常に大きなスケールの暗黒物質の調査対象として非常に興味深い。前述の「フェンスケルール」により、有効な分離に必要な最小ステージ数は
【化1】
である。これは同位体分離に必要な平衡のステージが非常に大きく、数百から数万の範囲になることを示唆している。
【0055】
アルゴン同位体の分離には、アルゴンの通常の沸点に近い87ケルビンの低温下で、クライオスタット内での蒸留塔で行うことが必要になる。アルゴンの同位体凝縮を1日数キロ生産するための最小流量は、 (α - 1)の値が小さいため、 時間あたり数百m3 非常に大きな蒸気流と、時間あたり数m3の非常に大きな液体の流れを必要とする。この必要な気体と液体の流量は蒸留塔の直径を数十センチにして、フラッディングを起こすことなく表面を最高の状態に維持しつつ、大量の気体と液体の流量を維持する構造化パッキングを使用することにより実現できる。 構造化パッキングの高さを理論段数 (HETP) である10-15センチと同じ程度にして、液体の最大流速を数m3 /(m2×時間)にすることで実現させることができる。 こうした点を考慮することで、内部の蒸留塔の高さを数百メートルとし、最小の直径を数十センチにしたほうが良いということになる。 断熱容器は簡単に直径数十センチになる。
【0056】
坑道を使用することにより、モジュール型低温蒸留塔はアルゴンの同位体の生成に必要なサイズを上回ることができる。
モジュール型の低温蒸留塔は、既存の坑道に設置することで、直径数メートル、高さ数千メートルにまで建設することが可能となる。これにより、アルゴンの同位体よりも (α - 1) の値が数万分の1程度低いキセノンの同位体分離にも蒸留塔を使用することが可能になる。他のキセノン同位体が枯渇した 136Xeは、数トンから数百トン規模の非常に大きな実験では、「ニュートリノの二重ベータ崩壊」として知られる非常に稀で未観測の核崩壊状態の研究向けに非常に興味のあるものである。
【0057】
本発明はアルゴンとキセノン同位体を大量に(数キロ以上/日)分離させることを可能にするものである。
同時に本発明は軽い同位体の生産能力を大幅に高め、同時にコストを大幅に下げることができる。かなり小さい塔での低温蒸留による生成はすでに既存の技術で網羅されており、COの低音蒸留による12Cおよび13Cの生成手法含むがこれに限るものではなく、N2、 NO、NH3による14N と 15Nの生成手法含むがこれに限るものではなく、H2O、 O2、NOによる16O 及び 18Oの生成手法含むがこれに限るものではない。
【0058】
例として、蒸留塔の直径30 cmで、高さが2,500段相当になる300メートル場合、1日あたり約10kg、1度の通過あたり10の係数で、40Ar内の 39Arが減少することになる。同様に、1日数キロのCOを蒸留することで、0.995(99.5%)の同位体分離で13Cを増やすことができる。同様に1日数キロのNOを蒸留することで0.995(99.5%)の同位体分離で 15N と 18O を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
ここで説明した多くの利点を持つ同位体の蒸留に使用する革新的な低温モジュール型の塔について、以下に例を用いてさらに説明を行う。この説明は添付の図面の説明を目的としており、この例に限定されるものではない。以下の図面は本発明の様々な姿や実施形態を示したものであり、構造や、コンポーネントや、材料や、その他類似の要素については、必要に応じて別々の図で同じ参照の番号を振ってある。
【
図1】
図1は、本発明に基づいたモジュール型の蒸留塔の好ましい実施形態の一つであり、坑道とそれを支える構造内に設置したものと、坑道の側壁とそれを支える構造によって支えられている形態を示したものである。
【
図2】
図2は、本発明に基づいたモジュール型の蒸留塔の好ましい実施形態の一つであり、熱を逃がさない回収ループを実装したものを示したものである。
【
図3】
図3は、実際に各モジュールを接続して実施した場合のモジュール型の蒸留塔の好ましい実施形態の一つである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は様々な改良や代替的な構成が可能であり、そのうちいくつかの実施形態は以下の図で示しており、詳細な説明を加えた。
【0061】
もっとも、本発明の実施形態を図で示したようなものに限定する意図はないことにご理解をいただきたい。それとは反対に、本発明においては特許明細書で定義発明の範囲で網羅される改良、代替的な構成、同等のものをすべて含む意図である。
「など」、「その他」、「もしくは」とは、特に限定することがない限り、非限定の代替手段であることを意味する。
「含む」とは、特に限定することがない限り、「含むがこれに限定されない」ことを意味する。
【0062】
図1は、革新的なモジュール型の蒸留塔100の好ましい実施形態をシンプルに図で示したものであり、周囲の岩1により区切られた坑道2に支持構造7を設置しているものである。この実施形態では、すべてのモジュール型蒸留塔100は凝縮器3とリボイラー4を有し、一つもしくは複数の中央モジュール5から5
nを有する。 中央モジュール5にはそれぞれ一つもしくは複数の蛇腹が設置され、各段とプロセス中の温度が大きく揺れ動くことにより生じる、モジュール型蒸留塔100の垂直方向の熱膨張や収縮を吸収する。
この革新的な構造により、各段とプロセス中の温度が大きく揺れ動くとしても、各モジュールに取り付けた蛇腹のおかげで、塔の上から下までの高さは同じ状態のまま変化しない。これは、温度の上昇により塔のモジュールが熱膨張した場合に、モジュールに取り付けた蛇腹のいずれかが収縮し、その膨張による高さの変化を吸収するためである。また温度が低下して塔のモジュールが収縮する場合、モジュールに取り付けた蛇腹のいずれかが広がり、収縮による高さの変化を吸収する。そのため、塔の高さを変えず、さまざまな動作条件においてもその整合性を維持できるという非常な好都合な条件の下、さらに非常に革新的で好都合なことに、塔の高さを必要なだけ高くすることができる。これは100メートル以上も可能である。
【0063】
いくつか、もしくはすべての垂直のモジュール5は、シャフト壁に接続されている。ある実施形態では、垂直モジュール5が、ブラケットや支持構造物(
図3参照)により機械的な支持構造7によりシャフト壁に取り付けられる。こうしたブラケットや支持構造物はロックボルト31もしくはその他の方法によりシャフト壁に固定されるか、シャフト壁を取り囲む岩に固定される。この固定方法にはシャフト壁や岩にほぞ穴をつけたほぞ結合も含まれる。
【0064】
図1は、本発明の簡略化した実施形態として、モジュール式要素5が直接シャフト壁に接続されていることに留意をいただきたい。
さらに別の実施形態としては垂直のモジュール5が塔100にアクセスできるようにプラットフォーム29に取り付けられているものである。これはブラケットでシャフト壁に固定される方法や、ロックボルト31でシャフト壁に固定する方法や、上記で説明したような方法で固定する。シャフト壁はむき出しの岩でも、コンクリートや、強化コンクリートや、レンガなど、目的に適した層で覆ったものでも構わない。
【0065】
またある実施形態では、凝縮器やリボイラーはブラケットによりシャフト壁に固定され、そのブラケットをロックボルトなどでシャフト壁に固定する。
【0066】
またある実施形態では、凝縮器やリボイラーもプラットフォーム上に設置されるものがある。このプラットフォームはブラケットによりシャフト壁に固定され、さらにブラケットはロックボルトなどでシャフト壁に固定される。またある実施形態では、凝縮器やリボイラーに塔に生じる垂直方向の熱膨張や収縮を吸収するための蛇腹を備えたものもある。
熱交換器を使用することにより、リボイラーや凝縮器で消費・獲得したエンタルピーを回収することにより運用コストを削減することが可能になることを強調したい。
図2で示す通り、ある実施形態では低温で蒸留を行い、凝縮器で冷却流体として作用し、リボイラーでは加熱流体として作用する熱交換の流体として、窒素またはアルゴンやキセノンなどの貴元素を用いたものもある。熱交換の流体は凝縮器上部の熱交換器11に供給される。蒸留塔内の蒸留で発生する蒸気流を凝縮するための凝縮器上部の熱交換器11に必要な冷却力は、熱交換の流体が気化する相転移によりもたらされる。凝縮器上部の熱交換器11から排出された熱交換の流体の気流は、ガス圧縮機12により高圧で圧縮され、リボイラー底部の熱交換器13の入力口へ送られる。蒸留塔内の蒸留で発生する液体流を予熱するための底部のリボイラーの熱交換器11に必要な加熱力は、熱交換の流体の気体が液体に変わる相転移によりもたらされる。底部凝縮器の熱交換器13から生じた熱交換の流体の液体流は、ループが閉じるように低温ポンプ14を通じて上部凝縮器に送られる。
【0067】
また、ある実施形態では、
図3のように、塔100の各モジュール5が一つ以上の断熱容器22からなる。内部の塔の要素23の少なくとも一つは多層断熱材で覆われている(
図3には記載していない)が、他のモジュール5への溶接のみに使用する最後のモジュールは除く(この部分は以下で説明するように、溶接後に多層断熱材で覆われる)断熱容器22と内部の塔23の体積24の間は、真空状態を維持する。断熱容器を内部の塔に接続する構造支持体はここには記載していない。
前述のモジュールやモジュールの要素5…5
nはそれぞれ内部の蒸留塔23…23
nを含む断熱容器 22…22
nからなる。
【0068】
断熱容器22は、一つ以上の内部の塔の要素23からなり、それが共同もしくは互いに独立した塔としての機能を果たすことに留意いただきたい。
【0069】
本発明の好ましい実施形態の一つとしては、内部の蒸留塔23の内部24が構造化パッキングや蒸留板で満たされるものである(必要に応じて液体分配プレートを使用)。断熱容器22は熱膨張や収縮に対応するために蛇腹26に取り替えることも可能である。本実施形態においては、内部の塔23の部分は、熱膨張や収縮を吸収するための蛇腹25に置き換えられている。 蛇腹25は内部の蒸留塔23にとって不可欠な機能を果たす。蒸留塔23は、内部と運用の温度が非常に大きく変化することが予測され、それにより非常に高い温度変化による熱膨張や収縮にさらされるためである。 ここに示す通り、外部の断熱容器22の蛇腹26については設置してもしなくても良い。
【0070】
外部の断熱容器22と内部の蒸留塔23の間の空間27については、塔の上から下までを巡回する熱交換流体の2本のクローズドループの配管に利用でき、また必要であれば塔の供給ラインやセンサーにも利用できることに留意をいただきたい。また好ましい実施形態としては、内部の塔23と外部の断熱容器22の間にサービスパイプ(ここでは記載していない)を設置するものある。
【0071】
断熱容器22は構造支持体28とつなぎ合わされ、構造支持体はプラットフォーム29と接続され、そのプラットフォームはプレートやサポート30と接続され、ロックボルト31による坑道の壁に固定されるか、別のタイプのシャフトの壁に固定されるか、シャフトの壁を囲む岩に固定される。固定方法にはシャフト壁や岩にほぞ穴をつけたほぞ結合も含まれる。
【0072】
別の実施形態としては、モジュール5はロックボルトを使用して坑道に固定されたプレートに接続される。
坑道21の最下段のモジュール 5
n の次に 5
n-1が設置され、上部モジュール 5
n-1の蒸留塔 23
n_1の部分が、下部のモジュール5
nの蒸留塔 23
nに溶接することができ、溶接ポイントは点33である。(
図3は簡略化された実施形態であり、例としてモジュール5
n、5のみが示されている。)
【0073】
放射による熱の伝達を減らすために使用する多層断熱材(図示せず)は、内部の塔の断熱容器でまだ覆われていない部分を覆うために使用する。
事前に底部の外部の断熱容器外部周辺に設置したスリーブ32の位置を上げて、底部 22nと 22n-1 の隣に溶接して、溶接点34でクライオスタットを閉じる。
【0074】
その他のモジュール 51…5n-2についてはすべて同様の手法で接続し、モジュール式塔100が希望の高さに達するまで 5n-2 ~ 51を逆順で行う。
モジュールは別の方法でも接続することができるため、本発明においては重要な部分ではないことに留意をいただきたい。本実施形態においては、塔100のモジュールで最も大きな負荷がかかることを考慮して、 5n, 5n-1, 5n-2, … 52, 51, 5のモジュールを溶接することが最も安全だと考えられる。
【0075】
いずれにしても、モジュール 51 …. 5nを互いに接続することは非常に容易であり、かつ実用的であることに留意をいただきたい。またこれと同様に、保守など必要な場合には分解もまた非常に簡単であることに留意をいただきたい。これは前述した本発明の利点と同様に、その利点の一つである。
【0076】
非常に高い蒸留塔の建設を可能にする本発明の非常に重要で革新的な部分は、 5….5nを導入する点にあり、また蛇腹をモジュールに設置することにより熱膨張や収縮を吸収できる点にある。
とくに好ましい実施形態としては、モジュールに蒸留塔のモジュール容器22とモジュール要素23が少なくとも一つあり、モジュール23に少なくとも蛇腹が一つ以上あるものである。
【0077】
前述の外部の容器22と内部の塔23は、スライドジョイントや、チェーンなど、軸の方向で内部の塔が位置を調整できるような方法で接続される。容器22と内部の塔23は動かないように固定されているわけではないので、軸の方向に動くことで、熱膨張や収縮が生じてもモジュール5の高さ内でそれを吸収することができる。
【0078】
本発明のさらなる目的については、本明細書の一部である添付の請求に基づくモジュール型蒸留塔により達成される。
【0079】
そのため、モジュールの高さや直径、シャフトへの固定手段、モジュール型蒸留塔の機能の要素、モジュール同士の固定手段、その固定数など、本発明の核心部分ではない部分を変えた実施形態は、すべて添付の特許請求の範囲に含まれるものとお考えいただきたい。
【符号の説明】
【0080】
100:蒸留塔
11:熱交換器
13:熱交換器
14:低温ポンプ
2:坑道
22:モジュール容器
22:外部の容器
22:断熱容器
23:モジュール要素
23:内部の蒸留塔
23:内部の塔
23:内部の塔の要素
24:内部
24:内部の塔23の体積
25:蛇腹
26:蛇腹
27:空間
28:構造支持体
29:プラットフォーム
29:プラットフォーム
3:凝縮器
30:サポート
31:ロックボルト
31:ロックボルト
32:スリーブ
33:点
34:溶接点
4:リボイラー
5:中央モジュール
7:支持構造
【0081】
(参考文献)
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