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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021005495
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110230
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2022-08-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】滝本 達也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】戸田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】足立 重之
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-40777(JP,A)
【文献】特開2005-214970(JP,A)
【文献】特開平6-109411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、
前記基材の一方の面に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された抵抗体と、
前記抵抗体を被覆する樹脂製のバリア層と、を有し、
前記バリア層は、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1以上であり、厚さが100μm以上3mm以下である、ひずみゲージ。
【請求項2】
前記バリア層は、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、又はアクリル樹脂から形成されている、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記バリア層は、前記抵抗体の上面及び側面を連続的に被覆する、請求項1又は2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記抵抗体と前記バリア層との間に、絶縁性の応力緩和層が配置されている、請求項1乃至3の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記応力緩和層は、前記バリア層よりもヤング率の小さい有機膜である、請求項4に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
ゲージ率が10以上である、請求項1乃至5の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記抵抗体に含まれるCrN及びCrNは、20重量%以下である、請求項1乃至6の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記CrN及び前記CrN中の前記CrNの割合は、80重量%以上90重量%未満である、請求項7に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体は、例えば、絶縁性樹脂上に形成されている。抵抗体は、例えば、配線を介して、電極と接続されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-74934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなひずみゲージは、水中や水の飛散する環境等で使用する場合にリーク電流による安定性が問題となる。特に、ゲージ率が高いひずみゲージの場合、リーク電流の影響が顕著であり、出力電圧がばらつく。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、リーク電流の影響による出力電圧のばらつきを低減可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、可撓性を有する基材と、前記基材の一方の面に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された抵抗体と、前記抵抗体を被覆する樹脂製のバリア層と、を有し、前記バリア層は、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1以上であり、厚さが100μm以上3mm以下である。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、リーク電流の影響による出力電圧のばらつきを低減可能なひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
図3】バリア層によるリーク電流低減効果を確認する実験結果である。
図4】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図5】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図6】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、図1のA-A線に沿う断面を示している。図1及び図2を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、バリア層70とを有している。
【0011】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0012】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0013】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0014】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0015】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。又、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材10上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0016】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、図1では、便宜上、抵抗体30を濃い梨地模様で示している。
【0017】
抵抗体30は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(図1のA-A線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向となる。
【0018】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eを形成する。抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eは、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eと各々の電極50とを電気的に接続している。
【0019】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0020】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、CrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0021】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。また、抵抗体30の厚さが1μm以下であると、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。抵抗体30の幅は、抵抗値や横感度等の要求仕様に対して最適化し、かつ断線対策も考慮すると、10μm以上100μm以下とすることが好ましい。
【0022】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0023】
又、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0024】
又、CrN及びCrN中のCrNの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCrN中のCrNの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCrNにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0025】
一方で、膜中に微量のNもしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0026】
配線40は、基材10上に形成されている。電極50は、基材10上に形成され、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されており、例えば、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。図1では、便宜上、配線40及び電極50を、抵抗体30よりも薄い梨地模様で示している。
【0027】
なお、抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、抵抗体30と配線40と電極50とは、厚さが略同一である。
【0028】
配線40や電極50の上面を、配線40や電極50よりも低抵抗の材料から形成された金属で被覆してもよい。例えば、抵抗体30、配線40、及び電極50がCr混相膜である場合、Cr混相膜よりも低抵抗な金属の材料として、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、或いは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。
【0029】
バリア層70は、抵抗体30を被覆するように設けられている。バリア層70は、抵抗体30に流れるリーク電流を低減するために形成される樹脂製の層であり、絶縁性の材料から形成されている。なお、本願において、絶縁性の材料とは、体積抵抗率が0.1MΩ・m以上の材料を指し、1MΩ・m以上であることが好ましい。
【0030】
バリア層70は、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が、5:1以上である。例えば、バリア層70の透湿度が5g/m/24hであれば、バリア層70の厚さは1mm以上である。また、バリア層70の透湿度が0.5g/m/24hであれば、バリア層70の厚さは0.1mm(100μm)以上である。また、バリア層70の透湿度が0.05g/m/24hであれば、バリア層70の厚さは0.01mm(10μm)以上である。バリア層70の最小厚さx(mm)は、バリア層材料の透湿度A(g/m/24h)×透湿度A測定時の厚さB(mm)/係数Cである。係数Cは最小厚さ(mm)を算出するための係数値であり5(g/m/24h)である。
【0031】
なお、本願において、透湿度とは、24時間当たりに単位面積(1m)のバリア層70を透過する水蒸気の質量(g)である。また、本願において、透湿度は、40℃90%RHの環境下において、JIS Z0208の規定に基づいて測定する。
【0032】
また、透湿度との比を定義する場合のバリア層70の厚さは、抵抗体30の上面と接する部分のバリア層70の厚さとする。すなわち、抵抗体30の上面から、抵抗体30の上面の法線方向に測定した場合のバリア層70の厚さである。
【0033】
バリア層70は、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が、5:1以上であれば、材料は適宜選択してよいが、例えば、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、又はアクリル樹脂から形成できる。バリア層70は、異なる材料からなる層が複数積層された積層構造であってもよい。また、例えば、エポキシ樹脂とアクリル樹脂を複合させたハイブリッド樹脂であってもよい。
【0034】
例えば、薬品と接するおそれがある場合には、バリア層70の材料として耐薬品性が高いフッ素樹脂が好適である。また、比較的高温で用いる用途の場合には、バリア層70の材料として耐熱性に優れたエポキシ樹脂が好適である。また、比較的低温で用いる用途の場合には、バリア層70の材料として低温でも柔軟性が確保できるアクリル樹脂が好適である。
【0035】
前述のように、バリア層70は、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1以上であればよい。しかし、透湿度が高い樹脂でも厚くすれば必ず使用できるということではない。バリア層70が厚くなると硬化収縮応力等が問題となるため、ある程度薄くする必要がある。硬化収縮応力等を考慮すると、バリア層70の厚さは3mm以下であることが好ましい。一方、製造上の限界から、バリア層70の厚さは100μm以上であることが好ましい。
【0036】
このように、ひずみゲージ1では、抵抗体30を被覆するように樹脂製のバリア層70を形成しており、バリア層70は透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1以上であり、厚さが100μm以上3mm以下である。
【0037】
これにより、ひずみゲージ1を水中や水の飛散する環境等で使用する場合であっても、バリア層70が水蒸気の透過を抑制するため、抵抗体30に流れるリーク電流を低減できる。その結果、ひずみゲージ1において、リーク電流の影響による出力電圧のばらつきを低減可能となる。
【0038】
特に、抵抗体30としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージは、ゲージ率が10未満である従来のひずみゲージと比較して高感度であることにより、水分の影響を受けやすく、出力電圧に測定誤差やばらつきが生じやすい。したがって、抵抗体30を被覆するように、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1以上であり、厚さが100μm以上3mm以下であるバリア層70を形成することは、抵抗体30としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージにおいて特に有効である。
【0039】
バリア層70は、抵抗体30の上面及び側面を連続的に被覆するように設けることが好ましい。これにより、バリア層70が抵抗体30の上面のみを被覆する場合よりも水分の影響を低減する効果が大きくなる。ただし、バリア層70が抵抗体30の少なくとも一部でも被覆していれば、水分の影響の低減について一定の効果が得られる。
【0040】
図3は、バリア層によるリーク電流低減効果を確認する実験結果である。図3において、試験サンプルAは、図1及び図2の構造のひずみゲージにおいてバリア層70を設けていないものであり、試験サンプルBは、図1及び図2の構造のひずみゲージ1のとおりにバリア層70を設けたものである。
【0041】
試験サンプルA及びBでは、抵抗体30として膜厚200nmのCr混相膜を用いた。また、試験サンプルBでは、バリア層70として膜厚1mmのアクリル樹脂を用いた。この場合、透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1.1となる。
【0042】
実験では、試験サンプルA及びBに測定安定時間経過(図3中の一点鎖線)後に市販の加圧式スプレーを用いて水分を噴霧し、試験サンプルA及びBを水の飛散環境に暴露した際の出力電圧の時間変化を測定した。
【0043】
図3より、バリア層を有していない試験サンプルAでは、水分に暴露した段階で、リーク電流の影響により抵抗体の抵抗値が下がることから出力電圧が急上昇していることが確認できる。一方、バリア層70を有している試験サンプルBでは、リーク電流の影響による出力電圧の上昇は確認できない。なお、試験サンプルBにおいて、ゆっくりと出力電圧が上昇しているが、これは、温度変化と同様の挙動を示しているため、ひずみゲージの熱特性(TCR)に依存するものであり、水分の影響ではない。
【0044】
発明者らは、図3と同様の実験を繰り返した結果、バリア層70の透湿度(g/m/24h)と厚さ(mm)との比が5:1以上であれば、試験サンプルAのような出力電圧の急上昇が見られず、試験サンプルBのように温度変化と同様の挙動を示すことを見出した。また、発明者らの検討によれば、バリア層70としてエポキシ樹脂及びフッ素樹脂を用いた場合にも、アクリル樹脂を用いた図3の試験サンプルBと同様の結果が得られた。
【0045】
ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30、配線40、及び電極50となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30、配線40、及び電極50の材料や厚さと同様である。
【0046】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0047】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0048】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0049】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0050】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0051】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si、TiO、Ta、SiO等が挙げられる。
【0052】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0053】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0054】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0055】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0056】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0057】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0058】
なお、機能層の平面形状は、例えば、図1に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0059】
又、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材10側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ1において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0060】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0061】
但し、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0062】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0063】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNの割合、並びにCrN及びCrN中のCrNの割合を調整できる。
【0064】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0065】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0066】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0067】
次に、フォトリソグラフィによって金属層Aをパターニングし、図1に示す平面形状の抵抗体30、配線40、及び電極50を形成する。
【0068】
なお、抵抗体30、配線40、及び電極50の下地層として基材10の上面10aに機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は図4に示す断面形状となる。符号20で示す層が機能層である。機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、例えば、図1と同様となる。但し、前述のように、機能層20は、基材10の上面の一部又は全部にベタ状に形成される場合もある。
【0069】
次に、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し電極50を露出するようにバリア層70を形成する。バリア層70は、少なくとも抵抗体30を被覆していれば、さらに配線40の一部又は全部を被覆してもよい。バリア層70の材料や厚さは、前述の通りである。なお、図1では、バリア層70は配線40の一部を被覆するように形成されている。
【0070】
バリア層70の形成方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し電極50を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。バリア層70は、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し電極50を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。以上の工程により、ひずみゲージ1が完成する。
【0071】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、ひずみゲージに応力緩和層を設ける例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0072】
図5は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。図6は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図であり、図5のB-B線に沿う断面を示している。図5及び図6を参照すると、ひずみゲージ1Aは、絶縁性の応力緩和層60を有する点が、ひずみゲージ1(図1図2等参照)と相違する。
【0073】
ひずみゲージ1Aにおいて、応力緩和層60は、抵抗体30とバリア層70との間に配置されている。すなわち、応力緩和層60は、抵抗体30を被覆するように形成され、バリア層70は応力緩和層60を被覆するように形成されている。なお、応力緩和層60を抵抗体30の上面のみに形成し、抵抗体30の側面はバリア層70で直接被覆するようにしてもよい。
【0074】
応力緩和層60は、バリア層70よりもヤング率の低い有機膜により形成されている。バリア層70のヤング率や硬化収縮応力が高いと、ひずみゲージ1Aのゲージ率を低下させる場合がある。抵抗体30とバリア層70との間に、バリア層70よりもヤング率の低い有機膜からなる絶縁性の応力緩和層60を配置することで、バリア層70に生じる応力を応力緩和層60により緩和し、抵抗体30に伝えにくくできる。
【0075】
これにより、ひずみゲージ1Aのゲージ率の低下を抑制できる。バリア層70の効果と合わせて考えると、ひずみゲージ1Aのゲージ率を犠牲にすることなく、リーク電流の影響による出力電圧のばらつきを低減可能となる。
【0076】
なお、応力緩和層60の線膨張係数は、基材10の線膨張係数に近い方が好ましい。応力緩和層60の線膨張係数と基材10の線膨張係数の差が大きくなると、温度変化に対する膨張の違いによるひずみが増幅し、抵抗体30の抵抗値の変化が大きくなる。一方、応力緩和層60の線膨張係数を基材10の線膨張係数に近くすることにより、TCRを小さくする効果が得られる。
【0077】
応力緩和層60の材料としては、例えば、樹脂、ゴム等の有機材料が挙げられる。例えば、応力緩和層60の材料は、基材10の材料と同じであってもよい。応力緩和層60の厚さは、例えば、2μm以上500μm以下とすることができる。応力緩和層60の厚さは、基材10の厚さと同じであってもよい。応力緩和層60は、例えば、バリア層70と同様の方法で形成できる。
【0078】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0079】
1、1A ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、30e、30e 終端、40 配線、50 電極、60 応力緩和層、70 バリア層
図1
図2
図3
図4
図5
図6