(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】排水部材および雨樋
(51)【国際特許分類】
E04D 13/068 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
E04D13/068 503B
(21)【出願番号】P 2021109027
(22)【出願日】2021-06-30
(62)【分割の表示】P 2018015675の分割
【原出願日】2018-01-31
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】元 隆明
(72)【発明者】
【氏名】寺地 信治
(72)【発明者】
【氏名】田中 将成
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-194023(JP,U)
【文献】特開2000-064530(JP,A)
【文献】特開2004-308399(JP,A)
【文献】特開平10-299193(JP,A)
【文献】特開2009-084854(JP,A)
【文献】特開平09-273274(JP,A)
【文献】特開2008-082050(JP,A)
【文献】実開昭52-123728(JP,U)
【文献】実開昭56-157237(JP,U)
【文献】特開平07-331820(JP,A)
【文献】特開平09-324509(JP,A)
【文献】特開2002-317536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 13/068
E04D 13/064
E03C 1/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軒樋の底部から排水するための排水部材であって、
前記底部に形成された貫通孔の下方に配置される外側筒部を有し、前記底部の下面に固着される下筒と、
前記外側筒部の内側に装着され、外面に雄ねじ部が形成され、上端部が前記貫通孔内に配置され、かつ上端部が下方から上方に向かい徐々に拡径する内側筒部、および前記内側筒部の上端部から径方向の外側に向けて延び、前記底部の上面に載置される載置部を有する上筒と、を備え、
前記外側筒部は、前記外側筒部の上端部を形成する大径部と、前記大径部の下端に接続された小径部とを有し、
前記大径部と前記小径部との連結部分に段差を有し、
前記小径部の内周面には、前記内側筒部の雄ねじ部に嵌合する周方向に延びる雌ねじ部が形成され、
前記小径部に
エルボまたは竪樋が接続可能とされ、
前記大径部の上下方向の大きさは、前記小径部の上下方向の大きさよりも小さく、
前記小径部の下端には切欠きが設けられ、
前記下筒、および前記内側筒部の上端部のうちのいずれか一方には、前記貫通孔内に位置するようにいずれか他方に向けて突出し、前記貫通孔の内周縁に係合する係合部が形成されていることを特徴とする排水部材。
【請求項2】
前記係合部は、前記内側筒部の上端部に形成され、
前記載置部の下面から前記係合部の下端縁までの上下方向の距離は前記軒樋の底部の厚さよりも大きく、
前記係合部は、前記大径部の内側に配置されている請求項1に記載の排水部材。
【請求項3】
軒樋と、
前記軒樋の底部に設けた貫通孔に配置された請求項1または2に記載の排水部材と、
前記排水部材から排水される竪樋と、
を備えた雨樋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1に示すように、軒樋の底部から排水するための排水部材が知られている。この排水部材は、軒樋に固着され、かつ軒樋の底部に形成された貫通孔の下方に配置される外側筒部を有する下筒と、上端部が貫通孔内に配置され、外側筒部の内側に装着される内側筒部を有する上筒と、を備えている。内側筒部の上端部は、下方から上方に向かい徐々に拡径している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の排水部材では、内側筒部の上端部が、下方から上方に向かい徐々に拡径していて、内側筒部の上端部の外径が、上端部よりも下側に位置する部分の外径よりも大きい。この内側筒部の上端部を、軒樋の貫通孔に配置する必要があることから、貫通孔の内径を、内側筒部において上端部よりも下側に位置する部分の外径よりも大きくする必要がある。このため、例えば施工時において内側筒部を軒樋の底部の上方から貫通孔に挿入するとき等に、貫通孔に対して内側筒部の径方向の位置が定まりにくく、例えば貫通孔に対して偏った位置に上筒が取付けられることにより、止水性が悪化する等という問題があった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、軒樋の貫通孔に対して容易かつ正確に位置決めすることができる排水部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る排水部材は、軒樋の底部から排水するための排水部材であって、前記底部に形成された貫通孔の下方に配置される外側筒部を有し、前記底部の下面に固着される下筒と、前記外側筒部の内側に装着され、上端部が前記貫通孔内に配置され、かつ上端部が下方から上方に向かい徐々に拡径する内側筒部、および前記内側筒部の上端部から径方向の外側に向けて延び、前記底部の上面に載置される載置部を有する上筒と、を備え、前記下筒、および前記内側筒部の上端部のうちのいずれか一方には、前記貫通孔内に位置するようにいずれか他方に向けて突出し、前記貫通孔の内周縁に係合する係合部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この場合、下筒、および内側筒部の上端部のうちのいずれか一方に、係合部が形成されている。このため、貫通孔に上筒を挿通して下筒に装着させる際に、係合部が貫通孔の内周縁と係合することで、前記いずれか一方が貫通孔に対して径方向に位置決めされた状態となる。これにより、軒樋の貫通孔に対して容易かつ正確に排水部材を位置決めすることができる。
【0008】
また、前記係合部は、周方向の全域にわたって形成されてもよい。
【0009】
この場合、係合部が周方向の全域にわたって形成されている。このため、係合部を、貫通孔に対して径方向に確実に係合させることが可能になり、係合部による位置決めの効果を顕著に奏することができる。
【0010】
また、前記下筒、および前記内側筒部の上端部のうちのいずれか他方には、上下方向に窪み前記係合部が配置される逃げ部が形成されてもよい。
【0011】
この場合、下筒、および内側筒部の上端部のうちのいずれか他方に逃げ部が形成されているので、係合部と前記いずれか他方とが互いに干渉するのを回避することができる。
【0012】
また、前記係合部は、前記内側筒部の上端部に形成されてもよい。
【0013】
この場合、係合部が内側筒部の上端部に形成されているので、下筒に係合部を形成する必要がない。このため、下筒に接着剤を塗布して、下筒を軒樋の底部に固着する場合に、外側筒部の上端部における内周縁部に、余分な接着剤が流れ出る空間を確保しやすくすることができる。すなわち、下筒に係合部が形成されている場合、係合部が、前記の余った接着剤が流れ出ようとすることを邪魔するおそれがある。
【0014】
また、前記係合部は、前記内側筒部の上端部に形成され、前記下筒は、前記外側筒部の上端部から径方向の外側に向けて延び、前記底部の下面に固着される固着部を更に有し、前記固着部には、下方に向けて窪み前記係合部が配置される逃げ部が形成され、前記載置部の下面から前記係合部の下端縁までの上下方向の距離L1、前記固着部の上面から前記逃げ部の底面までの上下方向の距離L2、および前記底部における上下方向の厚みT1は、下記(1)式を満たしてもよい。
L2>L1-T1…(1)
【0015】
この場合、係合部および逃げ部の上下方向の軸方向の大きさ、および軒樋の底部における軸方向の厚みが(1)式を満たしているので、下筒と上筒とを軒樋の底部に取付けた際に、係合部と逃げ部とが互いに干渉するのを確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軒樋の貫通孔に対して容易かつ正確に排水部材を位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排水部材が設けられた雨樋の外観図である。
【
図3】
図1に示す排水部材を軒樋に取付ける前の状態を示す縦断面図である。
【
図4】
図2に示す排水部材に渦流防止部材を取付けた状態を示す縦断面図である。
【
図6】
図2に示す排水部材に、他の形態である渦流防止部材を取付けた状態を示す縦断面図である。
【
図8】
図2に示す排水部材に、カバーを取付けた状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る排水部材1について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る排水部材1は、高排水機能を有するものであり、例えば工場やショッピングセンター等の大型施設の建物に取り付けられている雨樋50のうち、軒先に配置される軒樋51の内側に設けられる。
【0019】
雨樋50は、
図1に示すように、軒先に沿って延びる軒樋51と、軒樋51の底部51aに形成される円形の貫通孔51b(
図2参照)に、呼び樋52を介して接続された竪樋53と、を有している。
貫通孔51bが複数設けられる場合には、貫通孔51b同士の間の間隔は、30m以下となっている。また、貫通孔51bが1つ設けられる場合には、軒樋51の端部(止り)から貫通孔51bまでの距離は15m以下となっている。
貫通孔51bの面積は、5cm
2~300cm
2、好ましくは13~190cm
2、より好ましくは20~140cm
2である。
【0020】
呼び樋52は、軒樋51に設けられた排水部材1から流下した雨水Wを水平に導水するもので、一端側が第1エルボ54によって排水部材1の下端に接続され、他端側が第2エルボ55によって竪樋53の上端に接続されている。
なお、このような態様に限られず、各エルボ54、55は、90°エルボではなく、135°のエルボでもよいし、各エルボ54、55を用いずに、排水部材1と竪樋53とが直接接続されていてもよい。
雨樋50の水平方向の距離は1.5m以下とし、1m以下であることが好ましい。ここで、雨樋50の水平方向の距離とは、貫通孔51bの中心から竪樋53の中心軸までの、呼び樋52を含む水平方向の距離を指す。
【0021】
竪樋53は、建物の外壁Pに沿って上下方向に配設され、竪樋53の下端が地中に埋設された不図示の排水管に接続されている。これにより、屋根の軒先から流下した雨水を軒樋51で受けて、呼び樋52および竪樋53を通して排水管側に排水する。
竪樋53の高さは2m以上とし、3m以上であることが好ましい。ここで、竪樋53の高さとは、雨樋50が呼び樋52を備える場合には、第2エルボ55との接続部分までの上下方向の距離を指す。また、雨樋50が呼び樋52を備えない場合には、排水部材1との接続部分までの上下方向の距離を指す。
【0022】
軒樋51は、硬質塩化ビニル樹脂やABS、AES等の合成樹脂の押出成形品であり、断面溝形状をなしている。
そして軒樋51は、不図示の鼻隠し板に取り付けられた雨樋吊具(図示省略)により吊設されて、屋根の軒先から流下した雨水を受ける。
【0023】
軒樋51は、熱による伸縮防止のため、線膨張係数が2.0×10-5/℃以下であることが好ましい。また、軒樋51の厚さ方向の中心に延伸したPET樹脂製シートや鉄製のシートなど低伸縮性シートを内挿したり、軒樋51を構成する合成樹脂自体にワラストナイトや炭素繊維などの低伸縮性の添加物を配合することで線膨張係数を小さくしたりしてもよい。
なお、軒樋51の材質としては、合成樹脂材料に限るものではなく、例えば金属材料の押出成形品等であっても良い。
【0024】
図2に示す排水部材1は、大雨時に軒樋51内に流入した雨水W(
図1参照)を軒樋51の底部51aから排水する高排水機能を有しており、排水部材1の単位面積あたりの排水流量が0.25L/秒・cm
2以上の排水性能であり、0.30L/秒・cm
2以上であることが好ましい。
図2に示すように、排水部材1は、底部51aの下面に固着される下筒10と、下筒10に装着される上筒20と、を備えている。下筒10および上筒20は上下方向に延びる共通軸上に配置されている。
【0025】
以下、この共通軸を中心軸線Oという。そして、排水部材1を上下方向から見た平面視において、中心軸線Oと直交する方向を径方向といい、中心軸線O回りに周回する方向を周方向という。
【0026】
下筒10および上筒20は、硬質塩化ビニル樹脂やポリカーボネート、ABS、AES等の合成樹脂の射出成型品である。なお、下筒10および上筒20は、合成樹脂材料に限られず、鋳型を用いた鋳鉄材料により形成されてもよい。また、上筒20および下筒10は、互いに異なる材料により形成されてもよい。
【0027】
下筒10は、底部51aの貫通孔51bの下方に配置される外側筒部11と、外側筒部11の上端部から径方向の外側に向けて延び、底部51aの下面に固着される固着部12と、を有している。
外側筒部11は、円筒状をなし、中心軸線Oと同軸に配置されている。固着部12は、上下方向から見た平面視で円形状をなし、中心軸線Oと同軸に配置されている。
【0028】
外側筒部11は、この外側筒部11の上端部を形成する大径部11Aと、大径部11Aの下端部に連結され、大径部11Aよりも小径の小径部11Bと、を備えている。大径部11Aおよび小径部11Bは中心軸線Oと同軸に配置されている。
大径部11Aの上下方向の大きさは、小径部11Bの上下方向の大きさよりも小さくなっている。
【0029】
大径部11Aの上端部は、外側筒部11の上端部を形成している。大径部11Aの上端部は、下方から上方に向かい徐々に拡径している。
図示の例では、大径部11Aの上端部は、曲面に形成されたベルマウス形状をなしている。大径部11Aの上端部は、縦断面視(上下方向に沿う断面)において、径方向の内側に向けて凸をなす。
【0030】
大径部11Aの上端部は、テーパー形状をなしてもよい。大径部11Aの上端部の縦断面視(上下方向に沿う断面)における曲率半径は、例えば3mm以上45mm以下とされ、好ましく5mm以上、45mm以下である。
小径部11Bには、第1エルボ54が嵌合される。小径部11Bおよび第1エルボ54それぞれの外周面は、径方向に段差なく面一になっている。小径部11Bの内周面には、周方向に延びる雌ねじ部11Cが形成されている。雌ねじ部11Cは、周方向の全周にわたって間隔をあけて(間欠的に)設けられている。
【0031】
上筒20は、外側筒部11の内側に装着された内側筒部21、および内側筒部21の上端部から径方向の外側に向けて延び、底部51aの上面に載置される載置部22を有している。
内側筒部21は、円筒状をなし、中心軸線Oと同軸に配置されている。載置部22は上下方向から見た平面視で円形状をなし、中心軸線Oと同軸に配置されている。載置部22の下面には接着剤が塗布され、軒樋51における底部51aの上面と固着される。
【0032】
内側筒部21の上端部は貫通孔51b内に配置されるとともに、下方から上方に向かい徐々に拡径している。図示の例では、内側筒部21の上端部は、曲面に形成されたベルマウス形状をなしている。
内側筒部21の上端部は、縦断面視(上下方向に沿う断面)において、径方向の内側に向けて凸をなす。なお、内側筒部21の上端部は、テーパー形状をなしてもよい。
【0033】
内側筒部21の上端部の縦断面視(上下方向に沿う断面)における曲率半径は、例えば5mm以上50mm以下とされ、8mm以上45mm以下が好ましく、10mm以上40mm以下がより好ましく、13mm以上30mm以下がさらに好ましい。
内側筒部21の下端部における外周面は、雌ねじ部11Cに装着される雄ねじ部21Aが形成されている。雄ねじ部21Aは、周方向の全周にわたって連続して設けられている。
【0034】
そして本実施形態では、下筒10、および内側筒部21の上端部のうちのいずれか一方には、貫通孔51b内に位置するようにいずれか他方に向けて突出し、貫通孔51bの内周縁に係合する係合部23が形成されている。図示の例では、係合部23は内側筒部21の上端部に形成され、下筒10に向けて突出している。
【0035】
係合部23は、内側筒部21の上端部に、周方向の全域にわたって連続して形成されている。その結果、上筒20の肉厚は、内側筒部21の上端部において、その他の部分より厚くなっている。なお、このような態様に限られず、係合部23は、周方向に間隔をあけて複数形成されてもよく、周方向に点状に2カ所形成してもよい。係合部23を間隔をあけて形成することで、載置部22に塗布された接着剤の余剰分を複数の係合部23の間から貫通孔51bを通って内側筒部21と下筒10の間に逃がすことができる。
【0036】
係合部23は、内側筒部21の上端部の外周面から、径方向の外側に向けて突出している。係合部23は、前述のように周方向の全域にわたって連続して形成されており、外径が貫通孔51bの内径と略同等な環状に形成されている。係合部23の外径は、貫通孔51bの内径よりも小さいことが好ましい。このような構成とすることで、載置部22に塗布された接着剤の余剰分を係合部23と貫通孔51bの隙間から貫通孔51bを通って内側筒部21と下筒10の間に逃がすことができる。
係合部23は、径方向の外側を向く外周面23aと、下方を向く下端面23b(下端縁)と、を備えている。
【0037】
外周面23aは、上下方向に沿って延び、下端面23bは、径方向に沿って延びている。外周面23aおよび下端面23bは、直角形状をなすように交差している。外周面23aは、載置部22の下面と係合部23の下端面23bとを連結する段部を形成している。 下端面23bにおける径方向の内側の端部は、内側筒部21の外周面に曲面を介して連結されている。前記曲面は、下方に向かうに従い徐々に径方向の内側に延びていて、縦断面視において径方向の内側に向けて突となす。
なお、外周面23aおよび下端面23bは直角形状をなすように交差していなくともよく、外周面23aおよび下端面23bとの間が90°より大きな角度をなすように交差していてもよく、曲面やテーパ面を有していても良い。
【0038】
また、下筒10、および内側筒部21の上端部のうちのいずれか他方には、上下方向に窪み係合部23が配置される逃げ部13が形成されている。
図示の例では、逃げ部13は下筒10の固着部12に形成されている。逃げ部13は下方に向けて窪み、固着部12に、周方向の全域にわたって形成されている。
【0039】
固着部12の外周縁部には、接着剤が塗布される塗布部14が形成されている。塗布部14は、固着部12の外周縁部の上面において、下方に向けて窪むとともに、周方向の全域にわたって形成されている。塗布部14は、逃げ部13に対して径方向の外側に隣接して配置されている。
なお、このような態様に限られず、塗布部14は周方向に間隔をあけて複数形成されてもよい。
【0040】
ここで、
図3に示すように、載置部22の下面から係合部23の下端縁(係合部23の径方向の外側の端部における下端縁)までの上下方向の距離L1、固着部12の上面から逃げ部13の底面までの上下方向の距離L2、および底部51aにおける上下方向の厚みT1は、下記(1)式を満たしている。
L2>L1-T1…(1)
なお、このような態様に限られず、前記距離L2が下記(2)式を満たしてもよく、式(2)の場合、下筒10には逃げ部13は設けなくてもよい。
T1>L2≧T1/2…(2)
【0041】
また、載置部22の下面から係合部23の下端縁までの上下方向の距離L1は、底部51aにおける上下方向の厚みT1の半分よりも大きいことが好ましい。底部51aにおける上下方向の厚みT1は例えば1.0mm以上4.0mm以下であり、1.5mm以上3.5mm以下が好ましい。
固着部12の上面から塗布部14の底面までの上下方向の距離L4は、固着部12の上面から逃げ部13の底面までの上下方向の距離L2の半分以下となっている。
【0042】
次に、軒樋51への排水部材1の取付け方法について説明する。
まず、軒樋51の底部51aに、貫通孔51bを形成する。この際、貫通孔51bの内径は、内側筒部21の係合部23における外周面23aの外径に基づいて設定することができる。
【0043】
次に、貫通孔51bを上下方向に挟む位置に、下筒10および上筒20を各別に配置する。そして、貫通孔51b内に上筒20の内側筒部21を挿通して、内側筒部21の上端部における係合部23を、貫通孔51bの内側に配置し、貫通孔51bの内周縁に径方向に係合させる。これと同時に、載置部22の下面に接着剤を塗布し、軒樋51における底部51aの上面に固着する。
【0044】
次に、下筒10の固着部12における塗布部14に接着剤を塗布する。そして、下筒10の外側筒部11を、上筒20の内側筒部21に装着する。この際、固着部12の上面を軒樋51の底部51aの下面に当接する。
ここで、余分な接着剤が、逃げ部13から内側に流れ出ることで、接着剤が固着部12の上面から径方向の外側に漏れ出て、排水部材1の外観に影響が生じるのを防ぐことができる。
【0045】
次に、排水部材1の作用について説明する。
図1に示す状態において、軒樋51内に大量の雨水Wが流れ込むと、竪樋53、呼び樋52、第1エルボ54、および第2エルボ55内に雨水Wが充満する状態となる。これによりサイフォン現象が発生し、大量の雨水Wが排水部材1により軒樋51から排水される。
この際、内側筒部21の上端部が、下方から上方に向かい徐々に拡径しているので、サイフォン現象に基づく雨水Wの流速の上昇が妨げられることがなく、大量の雨水Wを排水部材1により排水することができる。
【0046】
ところで、雨水Wが軒樋51の落とし口(内側筒部21の上端部における開口部)から流れ込むときには、渦流が発生して空気を吸い込みやすくなる。仮に空気を吸い込むと、排水は自然落下排水に戻る。
従って、サイフォン現象の発生を安定して持続させるためには、
図4から
図7に示すような渦流防止部材5、6を排水部材1の上端部に取付けてもよい。
【0047】
図4および
図5に示すように、渦流防止部材5は、円筒5aと、円筒5aの内部に配置された格子状の仕切り板5bと、を備えている。円筒5aの外径は、上筒20の内側筒部21の内径と実質的に同一とされている。
特に、円筒5aの軸方向の長さが50mm以上(例えば50~200mm程度)であって、その開口率が70%以上である渦流防止部材5を内側筒部21に内嵌して取付けると、格子状の仕切り板5bにより渦流が阻止されて整流となり、大量の雨水が空気を吸い込むことなく速やかに内側筒部21内を満流状態で流下するので好ましい。
【0048】
円筒5aの長さが50mmより短い場合は、渦流防止作用及び整流作用が不十分となり、開口率が70%より低い場合は、内側筒部21への雨水の流入量が減少して排水能力の低下を招くので、いずれの場合も好ましくない。
なお、上記の渦流防止部材5に代えて、外径が内側筒部21の内径と実質的に同一である長さが50mm以上の円柱に、その中心線と平行な多数の孔を形成して開口率を70%以上とした渦流防止部材なども好適に使用することができる。
【0049】
図6および
図7に示すように、他の形態である渦流防止部材6は、直交する十字板6aの下部に、軒樋51の落とし口のベルマウス形状に対応する形状の切欠部6bを形成したものである。
渦流防止部材6の下部を内側筒部21の上端部に挿入して取付けると、雨水が落とし口に流入する前に、渦流防止部材6の十字板6aによって、渦流の発生が確実に阻止される。これにより、渦流による空気の吸込みがなくなって、サイフォン現象が安定して発生する。
【0050】
また、
図8および
図9に示すように、内側筒部21への空気の吸い込みを防止するためには、カバー7を落とし口を覆うように設けることも有効である。
カバー7は、上面視で正方形状を呈している。カバー7の四側面の下部に流入口7aが形成されている。
【0051】
カバー7を設置すると、軒樋51の内部の雨水Wの水面が、流入口7aより高くなったときに、落とし口と大気とがカバー7によって隔離されるため、落とし口からの空気の吸い込みが防止される。
特に、雨水の水面が上昇してカバー7が水中に埋没した状態になると、渦流による大気から落し口への空気通路がカバー7によって完全に遮断されるため、空気の吸込み防止作用が顕著に発揮されてサイフォン現象が極めて安定して発生する。
なお、このカバー7に代えて、下部周囲に流入口を形成した円形ドーム状のカバーなどを使用することも勿論可能である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る排水部材1によれば、内側筒部21の上端部に係合部23が形成されている。このため、貫通孔51bに上筒20を挿通して下筒10に装着させる際に、係合部23が貫通孔51bの内周縁と係合することで、内側筒部21の上端部が、貫通孔51bに対して径方向に位置決めされた状態となる。これにより、軒樋51の貫通孔51bに対して容易かつ正確に排水部材1を位置決めすることができる。
【0053】
また、係合部23が周方向の全域にわたって形成されている。このため、係合部23を、貫通孔51bに対して径方向に確実に係合させることが可能になり、係合部23による位置決めの効果を顕著に奏することができる。
また、下筒10の固着部12に、逃げ部13が形成されているので、係合部23と固着部12とが互いに干渉するのを回避することができる。
【0054】
また、係合部23が、内側筒部21の上端部に形成されているので、外側筒部11に係合部23を形成する必要がない。このため、下筒10に接着剤を塗布して、外側筒部11を軒樋51の底部51aに固着する場合に、外側筒部11の上端部における内周縁部に、余剰した接着剤が流れ出る空間を確保しやすくすることができる。すなわち、下筒10に係合部23が形成されている場合、係合部23が、前述の余った接着剤が流れ出ようとすることを邪魔するおそれがある。
【0055】
また、係合部23および逃げ部13の上下方向の軸方向の大きさ、および軒樋51の底部51aにおける軸方向の厚みが(1)式を満たしている。このため、下筒10と上筒20とを軒樋51の底部51aに取付けた際に、係合部23と逃げ部13とが互いに干渉するのを確実に回避することができる。
【0056】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態においては、係合部23が内側筒部21の上端部に形成され、逃げ部13が下筒10に形成されている構成を示したが、このような態様に限られない。例えば、係合部23が下筒10に形成され、逃げ部13が内側筒部21の上端部に形成されてもよい。
【0058】
具体的には、下筒10に形成される係合部は、下筒10の径方向の外側を向き上下方向に沿って延びる外周面と、上方向を向き下筒10の径方向に沿って延びる上端面と、を備え、外周面および上端面が断面において略直角形状をなすよう交差し、外周面は塗布部14の上面と係合部の上端面とを連結する段部を形成している。
このような場合には、貫通孔51bの内側に下筒10の係合部23を係合させた後に、上筒20を下筒10に装着してもよい。これにより、上筒20は、下筒10を介して軒樋51に位置決めすることができる。
【0059】
また、上記実施形態においては、下筒10の固着部12に逃げ部13が形成された構成を示したが、このような態様に限られない。下筒10の固着部12に逃げ部13が形成されなくてもよい。このような場合には、下筒10の外側筒部11における大径部11Aの内側に、係合部23が配置される構成としてもよい。
【0060】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 排水部材
10 下筒
11 外側筒部
12 固着部
13 逃げ部
20 上筒
21 内側筒部
22 載置部
23 係合部
51 軒樋
51a 底部
51b 貫通孔