(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両の走行制御方法及び走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2021503220
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 IB2019000293
(87)【国際公開番号】W WO2020178608
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 明之
(72)【発明者】
【氏名】田家 智
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-97261(JP,A)
【文献】特開2004-299593(JP,A)
【文献】特開2016-30537(JP,A)
【文献】特開2013-30149(JP,A)
【文献】特開2009-23399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記自車両が前記減速開始位置に到着したか否かを検出し、
前記自車両が前記減速開始位置に到着した時に、前記減速開始位置に到着していない時よりも大きい初期減速度で減速走行させる請求項2に記載の車両の走行制御方法。
【請求項5】
前記自車両を、現在位置から所定の基準減速度で減速させる目標車速プロファイルを設定し、
前記目標車速プロファイルと前記対向車両の車速から、前記自車両と前記対向車両が擦れ違う位置を求め、
前記停止位置と前記擦れ違う位置との相対位置関係に基づいて前記自車両を減速走行させる際の前記初期減速度を設定する請求項4に記載の車両の走行制御方法。
【請求項7】
前記擦れ違う位置が、前記停止位置から前記自車両の側にある場合に、前記停止位置と前記擦れ違う位置との距離が大きいほど、前記停止位置と前記擦れ違う位置との距離が小さい場合に比べて、前記所定の基準減速度より小さい前記初期減速度を設定し、
前記設定された初期減速度で、前記自車両を減速走行させる請求項5又は6に記載の車両の走行制御方法。
【請求項10】
前記擦れ違う位置が、前記停止位置から前記対向車両の側にある場合には、前記初期減速度を設定することに代えて、前記所定の基準減速度を最終減速度に設定し、
前記設定された最終減速度、前記自車両の現在位置、前記自車両の現在車速及び前記停止位置に基づいて、前記自車両が前記停止位置で停止可能か否かを判定し、
前記自車両が前記停止位置で停止できないと判定された場合には、前記設定された最終減速度より大きい最終減速度に切り換え、
前記設定された最終減速度又は前記設定された最終減速度より大きい最終減速度で、前記自車両を減速走行させる請求項5~9のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項17】
前記自車両が走行する走行車線の対向車線を走行する対向車両を検出し、
前記対向車両を検出した場合に、前記自車両と前記対向車両との距離を算出し、
前記距離が、予め定めた第2所定距離より長い場合に、前記対向車両が前記自車両の走行車線に進入するか否かを予測し、
前記対向車両が前記自車両の走行車線に進入すると予測した場合には、
前記自車両の減速度が、前記自車両が前記対向車両と擦れ違うまでの時間が長いほど、前記擦れ違うまでの時間が短い場合に比べて小さい値になる減速度で、前記自車両を減速走行させる請求項1~16のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項18】
自車両の走行経路にしたがって、操舵装置、動力装置及び制動装置の少なくとも何れかを制御して自律走行制御を実行する車両の走行制御装置において、
前記走行制御装置は、
前記自車両に向かって走行する対向車両を検出し、
前記対向車両が前記自車両の走行車線に進入するか否かを予測し、
前記対向車両が前記自車両の走行車線に進入すると予測した場合には、
前記自車両の初期減速度を、前記自車両が前記対向車両と擦れ違うまでの時間が長い場合、前記擦れ違うまでの時間が短い場合に比べて小さい値として、前記自車両を減速走行させるとともに、
前記走行車線に進入すると予測された対向車両と干渉しないように前記自車両の減速を開始する減速開始位置で、前記自車両を減速走行させる車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御方法及び走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自車両の対向車線を走行する対向車両が、その先行車両を追い越す場合など、対向車両が、対向車線から自車線側にはみ出して走行する状況において、車両が先行車両の追い越しを行うか否かの判定を行い、追い越しを行うと判定した場合は、追い越しが行われないと判定した場合に比して、車両が車線を反対車線側に跨いで進行するような進路が実現される実現確率を相対的に高く演算する車両進路予測装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の車両進路予測装置では、自車両情報に基づいて、自車両が採用しうる可能進路を複数生成する機能を有し、この複数の可能進路には、対向車線において先行車両を後続の車両が追い越す場合に、追越車両が追い越し終わるのを待つために、自車両が減速するという状態や、自車両が停止するという状態も含まれる、とされている(特許文献1の段落[0020]参照)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1には、自車両が走行中に、対向車両がその先行車両を追い越すために対向車線から自車線側にはみ出して走行する状況において、自車両がどのような走行制御内容で減速したり停止したりするのかまで言及されていない。仮に、自車両を一定の減速度で減速制御しながら対向車両との擦れ違いを待つものとすると、対向車両が予測に反して高速で追い越しを終了した場合のように、対向車両との擦れ違い位置が自車両の現在位置に近い場合には、加速走行制御に転じる際のジャーク(加加速度又は躍度)が大きくなり、乗員に違和感を与えるという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、対向車両と擦れ違うシーンにおいて乗員に与える違和感を抑制できる車両の走行制御方法及び走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自車両が走行する走行車線の対向車線を走行する対向車両が自車両の走行車線に進入すると予測した場合には、自車両が対向車両と擦れ違うまでの時間が長い場合の自車両の初期減速度を、擦れ違うまでの時間が短い場合に比べて小さい値に設定して、自車両を減速走行させることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対向車両が自車両の走行車線に進入すると予測した場合には、初期においては相対的に小さい減速度で減速走行を行うので、自車両を停止させるのか又は再加速させるのかを判断する猶予時間が長く確保できる。その結果、再加速すると判断された場合のジャークを小さくすることができ、乗員に対する違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る車両の走行制御装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【
図2A】
図1の車両の走行制御装置で実行される擦れ違いシーンの処理手順を示すフローチャート(その1)である。
【
図2B】
図1の車両の走行制御装置で実行される擦れ違いシーンの処理手順を示すフローチャート(その2)である。
【
図2C】
図1の車両の走行制御装置で実行される擦れ違いシーンの処理手順を示すフローチャート(その3)である。
【
図3】擦れ違いシーンの第1例を示す平面図及びこのシーンに応じた減速度プロファイルを示すグラフである。
【
図4】擦れ違いシーンの第2例を示す平面図及びこのシーンに応じた減速度プロファイルを示すグラフである。
【
図5】擦れ違いシーンの第3例を示す平面図及びこのシーンに応じた減速度プロファイルを示すグラフである。
【
図6】擦れ違いシーンの第4例を示す平面図及びこのシーンに応じた減速度プロファイルを示すグラフである。
【
図7】擦れ違いシーンの第5例を示す平面図及びこのシーンに応じた減速度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る車両の走行制御装置VTC(Vehicle Travel Controller)の構成を示すブロック図、
図3~
図7は、擦れ違いシーンの例を示す平面図及びこのシーンに応じた減速度プロファイルを示すグラフである。本実施形態の車両の走行制御装置VTCは、本発明に係る車両の走行制御方法を実施する一実施の形態でもある。
図1に示すように、本実施形態に係る車両の走行制御装置VTCは、レーダ装置11と、カメラ12と、地図データベース13と、位置検出器14と、車速センサ15と、対向車両進路予測部21と、自車両進路予測部22と、通過可否判定部23と、目標車速生成部24と、車速追従制御部25と、を備える。なお、
図1に示す部材のうち、駆動制御部51、エンジン52、制動制御部53及びブレーキ54は、車両の構成部材である。また、以下に説明する自車両V1、対向車両V2、駐車車両V3、走行車線L1、対向車線L2、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の停止位置P2、擦れ違う位置P3、減速開始位置P4及び対向車両V2の進入経路Rの各用語は、
図3~
図7に示す走行シーンによるものである。
【0011】
車両の走行制御装置VTCを構成するユニットのうち、レーダ装置11と、カメラ12と、位置検出器14と、車速センサ15は、後述するとおり各種のセンサ類で構成され、地図データベース13はメモリで構成されている。また、車両の走行制御装置VTCを構成するユニットのうち、対向車両進路予測部21と、自車両進路予測部22と、通過可否判定部23と、目標車速生成部24と、車速追従制御部25とは、一又は複数のコンピュータ及び当該コンピュータにインストールされたソフトウェアにより構成されている。コンピュータは、対向車両進路予測部21、自車両進路予測部22、通過可否判定部23、目標車速生成部24、車速追従制御部25といった各ユニットを機能させるためのプログラムを格納したROMと、このROMに格納されたプログラムを実行するCPUと、アクセス可能な記憶装置として機能するRAMとから構成される。なお、動作回路としては、CPUに代えて又はこれとともに、MPU、DSP、ASIC、FPGAなどを用いることができる。
【0012】
レーダ装置11は、車両の前部に設けられたレーザレンジファインダ(LRF)及び/又はミリ波又は超音波を用いたレーダから構成され、物標や障害物などの情報信号を、対向車両進路予測部21に出力する。レーザレンジファインダは、距離測定用の出力波であるレーザ光を車両の前方領域に照射し、その反射波(検知波)を検出することで、車両周囲の物標(物標とは、例えば、車両が走行する走行路の他車両、二輪車、自転車、歩行者、走行路面上の車線区分線、路肩の縁石、ガードレール、壁面、盛り土等である。)と、車両との間の相対位置を示す測距信号を生成する。また、ミリ波又は超音波を用いたレーダは、ミリ波や超音波を車両の前方に照射して自車両の周囲の所定の範囲を走査し、自車両の周囲に存在する他車両、二輪車、自転車、歩行者、路肩の縁石、ガードレール、壁面、盛り土等等の障害物を検出する。例えば、レーダ装置は、障害物と自車両との相対位置(方位)、障害物の相対速度、自車両から障害物までの距離等を自車両の周囲状況として検出する。
【0013】
カメラ12は、車両の前方、後方及び側方の全周囲に設けられ、物標や障害物の情報信号を、対向車両進路予測部21及び自車両進路予測部22に出力する。カメラ12は、自車両の前方、後方又は側方の所定の範囲を撮像して画像データを取得するイメージセンサであり、例えば車室内のフロントウィンドウ上部、左右のサイドミラー、トランクリッド等に設けられたCCD広角カメラからなる。カメラ12は、ステレオカメラや全方位カメラであってもよく、複数のイメージセンサを含むようにしてもよい。カメラ12は、取得した画像データから、自車両の前方、後方又は側方に存在する道路及び道路周辺の構造物、道路標示、標識、他車両、二輪車、自転車、歩行者等を自車両の周囲状況として検出する。
【0014】
地図データベース13は、三次元高精度地図情報を格納し、対向車両進路予測部21及び自車両進路予測部22からアクセス可能とされたメモリである。地図データベース13に格納された三次元高精度地図情報は、データ取得用車両を用いて実際の道路を走行した際に検出された道路形状に基づく三次元地図情報であり、地図情報とともに、道路の合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置、サービスエリア/パーキングエリアなどの詳細かつ高精度の位置情報が、三次元情報として関連付けられた地図情報である。
【0015】
位置検出器14は、GPSユニット、ジャイロセンサ、および車速センサなどから構成され、GPSユニットにより複数の衛星通信から送信される電波を検出し、自車両の位置情報を周期的に取得するとともに、取得した自車両の位置情報と、ジャイロセンサから取得した角度変化情報と、車速センサから取得した車速とに基づいて、自車両の現在の位置情報を検出する。検出された自車両の位置情報は、対向車両進路予測部21及び自車両進路予測部22に出力される。
【0016】
車速センサ15は、ドライブシャフトなどの車両の駆動系の回転速度を計測し、これに基づいて自車両の走行速度(以下、車速ともいう)を検出する。車速センサ15により検出された自車両の車速情報は、自車両進路予測部22及び目標車速生成部24に出力される。
【0017】
対向車両進路予測部21は、レーダ装置11から出力される自車両の周囲の物標及び自車両との距離、カメラ12から出力される自車両の周囲の画像データを、所定時間間隔で入力することで、自車両の周囲に他車両が存在するか否かを検出する。また、対向車両進路予測部21は、検出された他車両が、自車両が走行する走行車線の対向車線を走行する対向車両であるかを検出し、対向車両である場合には、その対向車両が自車両の走行車線に進入するか否かを予測し、進入すると予測される場合には、その進入経路Rを予測する。
【0018】
対向車両進路予測部21の機能を、
図3に示す走行シーンについて説明する。
図3に示す走行シーンは、片側1車線の左通行の道路において、自車両V1が走行車線L1を同図の左方向へ走行し、対向車両V2が対向車線L2を同図の右方向へ走行している場合であって、対向車線L2の対向車両V2の前方に駐車車両V3が停車しているため、対向車両V2は駐車車両V3を追い越すべく走行車線L1に進入する進入経路Rに沿って走行するシーンを示す。
【0019】
このような走行シーンにおいて、自車両V1に搭載された走行制御装置VTCの対向車両進路予測部21は、レーダ装置11及びカメラ12からの情報信号により対向車両V2及び駐車車両V3の存在を検出するとともに、地図データベース13及び位置検出器14からの情報信号により、自車両V1の周囲の道路情報を認識する。そして、対向車両進路予測部21は、自車両V1が走行車線L1を走行し、対向車両V2が対向車線L2を自車両方向に走行し、その前方の対向車線L2に駐車車両V3が停車していることを認識するとともに、自車両V1の車速、対向車両V2の車速、駐車車両V3の車速、自車両V1から対向車両V2までの距離、自車両V1から駐車車両V3までの距離、対向車両V2の軌道(対向車両V2の位置の時間的変化)を検出する。なお、対向車両V2は、対向車線L2を走行している車両に限定されず、対向車線L2をはみ出して自車両方向に走行している車両も含まれる。
【0020】
これらの情報信号により、対向車両進路予測部21は、自車両V1の周囲に他車両V2,V3が存在するか否かを検出し、検出された他車両V2,V3が、自車両V1が走行する走行車線L1の対向車線L2を走行する対向車両V2であるかを検出し、対向車両V2である場合には、その対向車両V2が自車両V1の走行車線L1に進入するか否かを予測する。対向車両V2が、駐車車両V3を避ける等のため、自車両V1の走行車線L1に進入すると予測される場合には、その進入経路Rも予測する。
【0021】
なお、対向車両V2が自車両V1の走行車線L1に進入するか否かは、対向車両V2の位置の時間的変化から求められる対向車両V2の軌道が、自車両V1の走行車線L1に進入する方向に向かっているか否か、又は、対向車線L2に駐車車両V3が存在し、自車両V1と駐車車両V3との距離に比べて対向車両V2が駐車車両V3に十分近く、対向車両V2が充分な時間をもって駐車車両を追い越せる状況にあるか否か、といった条件に基づいて予測することができる。また、対向車両V2の進入経路Rは、対向車両V2の位置及び車速、対向車線L2及び走行車線L1の道路形状、駐車車両V3の位置及び形状(大きさ)といった条件に基づいて予測することができる。
【0022】
対向車両進路予測部21は、以上のようにして、自車両V1の走行車線L1に進入する対向車両V2の現在位置、車速及び進入経路Rを求め、これらの情報信号を、所定時間間隔で、通過可否判定部23に出力する。なお、これら自車両V1の走行車線L1に進入する対向車両V2の現在位置、車速及び進入経路Rは、自車両V1の走行時間の経過とともに時々刻々変化するので、所定時間間隔で演算を繰り返し、通過可否判定部23へ出力される。
【0023】
自車両進路予測部22は、ドライバにより予め入力された目的地に応じた走行経路を生成し、この走行経路に沿って自車両V1を走行させるべく、自車両V1の現在位置を位置検出器14からの情報信号により認識し、自車両V1の走行車線L1を地図データベース13からの情報信号により認識し、自車両V1の車速を車速センサ15からの情報信号により認識する。そして、自車両進路予測部22は、カメラ12から自車両V1の周囲の物標および障害物に関する情報信号を所定時間間隔で入力し、走行車線L1に沿って走行するとともに、道路法規を遵守するために、信号機、横断歩道、一旦停止といった物標を検出したら、それに応じた速度制御を実行する。また、カメラ12から歩行者や他車両などの障害物が検出されたら、干渉を避けるべく速度制御又は軌道制御を実行する。自車両進路予測部22は、以上のようにして、自車両V1の走行経路、現在位置及び車速を求め、これらの情報信号を、所定時間間隔で、通過可否判定部23へ出力する。なお、これら自車両V1の走行経路、現在位置及び車速は、自車両V1の走行時間の経過とともに時々刻々変化するので、所定時間間隔で演算を繰り返し、通過可否判定部23へ出力される。
【0024】
通過可否判定部23は、最初に、自車両V1が減速することなく現在の速度で走行した場合に、対向車両V2に干渉するか否かを判定する。すなわち、対向車両進路予測部21から出力された対向車両V2の現在位置、車速及び進入経路Rと、自車両進路予測部22から出力された自車両V1の走行経路、現在位置及び車速とに基づいて、
図3に示すような走行シーンにおいて、自車両V1と対向車両V2とが干渉することなく擦れ違うことができるか否かを判定する。
【0025】
この判定に際し、通過可否判定部23は、対向車両V2の進入経路Rから自車両V1の停止位置P2を設定する。
図3に示す走行シーンについて言えば、対向車両進路予測部21により対向車両V2の進入経路Rが予測されるので、この進入経路Rに沿って走行する対向車両V2に干渉しない自車両V1の停止位置、具体的には
図3に示すように、対向車両V2が進入してきた走行車線L1から元の対向車線L2に戻る車線変更の手前の位置を、自車両V1の停止位置P2に設定する。なお、この停止位置P2は、自車両V1の現在位置や車速に拘らず、対向車両V2の進入経路Rのみにより設定することができる。またこれに代えて、停止位置P2は、例えば対向車線L2の駐車車両V3の位置に基づいて、その駐車車両V3から所定距離だけ離れた位置に設定するようにしてもよい。
【0026】
そして、
図3に示す走行シーンにおいて、自車両V1の現在位置から対向車両V2までの距離がL、自車両V1の車速がv1、対向車両V2の車速がv2であると検出されたとすると、両者が出会う(干渉する)までの時間t=L/(v1+v2)であるから、出会う位置は、自車両V1が現在位置P1からL・v1/(v1+v2)だけ走行した位置となる。そして、この出会う位置が、
図3に示すように停止位置P2よりも手前側(自車両V1の側)であるか、又は駐車車両V3の向こう側である場合は、現在時点において、自車両V1は減速することなく現在の速度で走行しても対向車両V2に干渉することなく擦れ違うことができると判定する。この場合、目標車速生成部24には、「通過可」の情報信号を出力し、それまでの速度制御を継続する。
【0027】
一方、通過可否判定部23は、自車両V1が減速することなく現在の速度で走行した場合に、対向車両V2に干渉すると判定したときは、減速制御を実行する。すなわち、自車両V1を停止位置P2で停止させるための減速制御を実行すべく、所定の基準減速度αで走行制御する目標車速プロファイルを設定し、この目標車速プロファイルと対向車両V2の車速とから、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違う位置P3を演算する。そして、通過可否判定部23は、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違うことができるか否かと、自車両V1の現在位置から停止位置までの距離と、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違う位置P3と、減速開始位置P4とを、所定時間間隔で目標車速生成部24へ出力する。
【0028】
減速開始位置P4と、擦れ違う位置P3は、以下のようにして求めることができる。
図3に示す走行シーンについて言えば、対向車両V2の進入経路Rに基づいて自車両V1の停止位置P2が設定されているので、まず当該停止位置P2に停止させることができる所定の基準減速度αを設定する。たとえば、αを、乗員が違和感を覚えない緩やかな減速度である1.0~1.4m/s
2とする。このαによる車速曲線を
図3に目標速度プロファイルの放物線として示す。自車両V1の現在の車速を示す直線と、目標速度プロファイルの放物線との交点が、自車両V1の減速開始位置P4として求められる。そして、自車両V1が、現在の車速を維持して走行し、減速開始位置P4において目標速度プロファイルの基準減速度αにしたがって減速を開始すると、自車両V1は、目標速度プロファイルにしたがった速度で減速し、停止位置P2に停止する。このときの目標速度プロファイルと、対向車両V2の車速とから、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違う位置P3を演算する。
【0029】
そして、この擦れ違う位置P3が、
図3~
図5に示すように停止位置P2よりも手前側(自車両V1の側)である場合は、現在時点において、自車両V1は、目標速度プロファイルにしたがった速度で走行すれば、対向車両V2に干渉することなく擦れ違うことができると判定する。これに対して、この擦れ違う位置P3が、
図6に示すように停止位置P2の向こう側である場合は、現在時点において、自車両V1が目標速度プロファイルにしたがった速度で走行しても対向車両V2と干渉すると判定する。通過可否判定部23は、擦れ違う位置P3が、
図3~
図5に示すように停止位置P2の手前側にある場合は、「基準減速度αで減速すれば通過可」の情報信号を目標車速生成部24へ出力し、擦れ違う位置P3が、
図6に示すように停止位置P2の向こう側にある場合は、「基準減速度αで減速しても通過不可」の情報信号を目標車速生成部24へ出力する。またこれと同時に、通過可否判定部23は、自車両V1の現在位置から停止位置までの距離と、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違う位置P3と、減速開始位置P4とを目標車速生成部24へ出力する。
【0030】
目標車速生成部24は、通過可否判定部23からの通過可否判定、減速開始位置P4、擦れ違う位置P3及び停止位置P2までの距離と、車速センサ15からの自車両V1の車速とを所定時間間隔で入力し、自車両V1が減速制御に移行した初期の初期減速度を演算して設定するとともに、当該初期減速度による減速制御の終点から減速制御を最終的に終了するまでの最終減速度を設定する。そして、目標車速生成部24は、設定された初期減速度α1と最終減速度α2とを車速追従制御部25へ出力する。
【0031】
初期減速度設定部241は、自車両V1が減速制御に移行した初期の初期減速度を演算して設定し、最終減速度設定部242は、初期減速度による減速制御の終点から減速制御を最終的に終了するまでの最終減速度を設定する。なお、走行シーンによっては、初期減速度が最終減速度に代替する場合もある。
【0032】
すなわち、目標車速生成部24は、減速開始位置P4から停止位置P2までの間の減速度が、自車両V1が対向車両V2と擦れ違うまでの時間が長いほど、擦れ違うまでの時間が短い場合に比べて小さい値(減速度=0を含む)になる減速度プロファイルを設定し、この減速度プロファイルにしたがう減速度で減速制御を実行する。換言すれば、減速開始位置P4からの初期における減速度α1を、停止位置P2の直前の最終の減速度α2に比べて、小さい減速度に設定する。さらに換言すれば、減速開始位置P4から停止位置P2までの間の減速度を一定の減速度に設定するのではなく、複数の異なる減速度に設定し、かつ複数の異なる減速度は、減速開始位置P4に近いほど(減速を開始してからの経過時間が短いほど)小さい減速度となるように設定する。
【0033】
図3に示す走行シーンについて言えば、目標車速生成部24の初期減速度設定部241は、目標速度プロファイルの減速度αに対し、減速開始位置P4から減速度切換までの間の初期減速度α1を、目標速度プロファイルの減速度αよりも小さい値に設定し(α1<α,図示するグラフの傾きの絶対値が小さい)、目標車速生成部24の最終減速度設定部242は、減速度切換から停止位置P2までの間の最終減速度α2を、初期減速度α1より大きく、かつ目標速度プロファイルの減速度αよりも大きい値に設定する(α2>α>α1,図示するグラフの傾きの絶対値が大きい)。
【0034】
また、目標車速生成部24の初期減速度設定部241は、初期減速度α1を設定するにあたり、初期減速度α1を予め決定された固定値、たとえば基準減速度1.0~1.4m/s
2に対して0~0.7m/s
2とすることができるほか、擦れ違う位置P3と停止位置P2との距離に応じた値とすることができる。
図4及び
図5に示す走行シーンは、通過可否判定部23で求められた擦れ違う位置P3と停止位置P2との距離が異なるシーンをそれぞれ示したものであり、
図4に示す走行シーンの擦れ違う位置P3と停止位置P2との距離は、
図5に示す走行シーンの擦れ違う位置P3と停止位置P2との距離に比べて大きい場合を示す。そして、目標車速生成部24の初期減速度設定部241は、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が大きいほど(
図4)、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が小さい場合(
図5)に比べて、小さい初期減速度を設定する。
【0035】
すなわち、
図4の初期減速度の傾きの絶対値は、
図5の初期減速度の傾きの絶対値より小さく設定されている。停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が大きいということは、基準減速度で減速走行したときに停止位置P2よりもより手前側で擦れ違うということであるので、相対的に短い時間の経過後に対向車両V2が元の対向車線L2に戻る可能性が高い。そのため、小さい初期減速度に設定することで、その後の対向車両V2の動向が観察でき、余計な減速を抑制することができる。
【0036】
初期減速度α1は、複数の初期減速度α11,α12,…で構成してもよい。この場合に、最後の初期減速度、すなわち最終減速度へ切り換える直前の初期減速度は、複数の初期減速度のうち最も小さい初期減速度に設定することが好ましい。最後の初期減速度を最も小さい減速度に設定することで、減速走行から再加速走行へ遷移した場合のジャークが小さくなるからである。
【0037】
目標車速生成部24の最終減速度設定部242は、初期減速度α1と、初期減速度α1からの切換タイミングと、停止位置P2までの距離とに基づいて、停止位置P2で自車両V1が停止可能な減速度を設定する。たとえば、最終減速度α2は、乗員が違和感を覚えない限界の減速度の範囲内において予め決められた固定値、たとえば基準減速度1.0~1.4m/s
2に対して、1.8~2.2m/s
2とすることができる。そして、
図3に示す走行シーンについて言えば、予め決められた固定値である最終減速度α2を停止位置P2において自車両V1が停止するように設定し、この最終減速度α2による速度プロファイルと初期減速度α1との交点を、初期減速度α1から最終減速度α2への切換位置(切換タイミング)とする。なお、最終減速度α2は、複数の最終減速度α21,α22…を含んで構成されてもよい。
【0038】
また、予め設定された最終減速度について、自車両V1が停止位置P2で停止可能であると判定された場合には、その最終減速度にて減速走行を継続する。これに対して、対向車両V2の車速が減少して予測に反して擦れ違う位置P3が停止位置P2側に変動した場合のように、予め設定された最終減速度では、自車両V1が停止位置P2で停止できないと判定された場合には、最終減速度設定部242は、自車両V1の停止制御を優先し、予め設定された最終減速度より大きい最終減速度を再度設定する。
【0039】
また、
図6に示すように、対向車両V2が突然走行車線L1に進入してきた場合のように、自車両V1と対向車両V2との擦れ違い位置P3が、停止位置P2から対向車両V2の側にある場合には、目標車速生成部24の初期減速度設定部241及び最終減速度設定部242は、初期減速度α1を設定することに代えて、基準減速度αを最終減速度に設定し、この設定された最終減速度α、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の現在車速及び停止位置P2に基づいて、自車両V1が停止位置P2で停止可能か否かを判定する。そして、停止可能であると判定された場合には、基準減速度αを最終減速度α2に設定するが、基準減速度αでは自車両V1が停止位置P2で停止できないと判定された場合には、自車両V1の停止制御を優先し、基準減速度αより大きい最終減速度α2を設定する。
【0040】
車速追従制御部25は、目標車速生成部24の初期減速度設定部241及び最終減速度設定部242により生成された初期減速度α1及び最終減速度α2を入力し、自車両V1の現在位置に応じた自車両V1の車速を生成し、この情報信号を自車両V1の車両コントローラに設けられた駆動制御部51と制動制御部53へ出力する。
【0041】
自車両V1は、駆動源であるエンジン52と、制動源であるブレーキ54とを備え、エンジン52は、駆動制御部51により制御され、ブレーキ54(ブレーキブースタ)は、制動制御部53により制御される。そして、駆動制御部51及び制動制御部53のそれぞれには、車速追従制御部25からの車速信号が入力され、これにより自車両V1の加速走行、等速走行又は減速走行が実行される。なお、本発明の車両としては、特に限定されず、ガソリンエンジン又はジーゼルエンジンを駆動源とするエンジン自動車のほか、モータを駆動源とする電気自動車(燃料電池車を含む)、エンジンとモータの両方を搭載したハイブリッド自動車が挙げられる。
【0042】
次に、本実施形態の走行制御装置VTCによる制御フローを説明する。
図2A及び
図2Bは、
図1の走行制御装置VTCで実行される擦れ違いシーンの処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは所定時間間隔で実行される。
【0043】
まず、ステップS1のサブルーチンにおいて、自車両V1は、自律走行機能により目的地に向かって自律走行しているものとする。走行制御装置VTCの対向車両進路予測部21は、この自車両V1の自律走行中に、ステップS2にて、レーダ装置11及びカメラ12を用いて、自車両V1の対向車線L2を走行する対向車両V2が存在するか否かを検出し、対向車線L2を走行する対向車両V2が存在した場合には、ステップS3にて、その対向車両V2が、自車両V1の走行車線L1に進入するか否かを予測する。ステップS2において対向車両V2を検出しない場合、ステップS3にて、対向車両V2が存在しても自車両V1の走行車線L1に進入しないと予測される場合には、ステップS1へ戻り、自律走行を継続する。なお、ステップS2において対向車両V2を検出した場合に、自車両V1と対向車両V2との距離を検出し、当該距離が予め定めた所定距離より短い場合には、緊急ブレーキに相当する大きい減速度で自車両V1を減速制御してもよい。
【0044】
ステップS3において、対向車両V2が自車両V1の走行車線L1に進入すると予測された場合には、ステップS4へ進み、通過可否判定部23は、自車両V1の現在位置、自車両V1の車速、対向車両V2の現在位置、対向車両V2の車速に基づいて、自車両V1が現在の車速にて走行した場合に、対向車両V2に干渉することなく擦れ違うことができるか否かを判定し、擦れ違うことができないと判定された場合にはステップS5へ進む。ステップS4において、自車両V1が、対向車両V2と擦れ違うことができると判定された場合にはステップS1へ戻り、自律走行を継続する。
【0045】
ステップS4において、自車両V1が減速しない限り対向車両V2と擦れ違うことができないと判定された場合、通過可否判定部23は、ステップS5において、自車両V1の現在位置、自車両V1の車速、対向車両V2の現在位置、対向車両V2の車速を入力し、ステップS6にて、対向車両V2の進入経路Rを予測する。なお、対向車両V2の進入経路Rは、対向車両進路予測部21により生成されるので、これを含めて自車両V1の現在位置、自車両V1の車速、対向車両V2の現在位置、対向車両V2の車速を通過可否判定部23へ出力する。
【0046】
ステップS7にて、通過可否判定部23は、対向車両V2の進入経路Rから自車両V1の停止位置P2を設定する。続くステップS8にて、通過可否判定部23は、所定の基準減速度αで走行制御する目標車速プロファイルを設定し、この目標車速プロファイルと対向車両V2の車速から、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違う位置P3を演算する。
【0047】
擦れ違う位置P3の演算は以下のように実行される。まず
図3に示す走行シーンにおいて、対向車両V2の進入経路Rに基づいて自車両V1の停止位置P2が設定されているので、この停止位置P2で自車両V1の車速が0となるように、同図に目標速度プロファイル(減速度がα(一定))として示す放物線の底(極値)を停止位置P2に合わせる。自車両V1の現在の車速を示す直線と、目標速度プロファイルの放物線との交点が、自車両V1の減速開始位置P4として求められる(ステップS9)。そして、自車両V1が、現在の車速を維持して走行し、減速開始位置P4において目標速度プロファイルの基準減速度αにしたがって減速を開始すると、自車両V1は、目標速度プロファイルにしたがった速度で減速し、停止位置P2に停止する。このときの目標速度プロファイルと、対向車両V2の車速とから、自車両V1と対向車両V2とが擦れ違う位置P3を演算する。
【0048】
擦れ違う位置P3が演算されるとともに減速開始位置P4が演算されると、ステップS10にて、擦れ違う位置P3は、停止位置P2よりも手前側(自車両側)か向こう側かを判定し、手前側である場合はステップS11へ進む。擦れ違う位置P3が、停止位置P2よりも向こう側である場合は、
図2BのステップS16へ進む。
【0049】
演算された擦れ違う位置P3が停止位置P2よりも手前側である場合、ステップS11にて、初期減速度α1が設定される。すなわち、減速開始位置P4からの初期における減速度α1を、停止位置P2の直前の最終の減速度α2に比べて、小さい減速度に設定する。換言すれば、減速開始位置P4から停止位置P2までの間の減速度を一定の減速度に設定するのではなく、複数の異なる減速度に設定し、かつ複数の異なる減速度は、減速開始位置P4に近いほど(減速を開始してからの経過時間が短いほど)小さい減速度となるように設定する。また、初期減速度α1の設定にあたり、
図4及び
図5に示すように、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が大きいほど(
図4)、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が小さい場合(
図5)に比べて、小さい初期減速度を設定してもよい。
【0050】
初期減速度α1が設定されたら、ステップS12にて、自車両V1の現在位置P1が減速開始位置P4に到着したか否かを判定し、自車両V1の現在位置P1が減速開始位置P4に到着したら、ステップS13にて減速を開始する。自車両V1の現在位置P1が減速開始位置P4に到着するまではステップS12を繰り返す。なお、減速開始位置P4に到着していない場合は、加速走行してもよいし、減速走行でなくてもよいし、等速走行でもよいし、ブレーキを踏んでいないアクセルオフだけの惰性走行であってもよい。ステップS13の減速開始処理は、車速追従制御部25から駆動制御部51及び制動制御部53へ目標車速を出力し、駆動制御部51がエンジン52を制御するとともに、制動制御部53がブレーキ54を制御することで実行される。
【0051】
ステップS14では、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の車速、対向車両V2の現在位置及び対向車両V2の車速から、自車両V1が対向車両V2と干渉することなく擦れ違うことができるか否かを判定する。すなわち、ステップS13にて自車両V1は初期減速度α1による減速を開始したが、その後の対向車両V2の走行状況などを検出することにより、自車両V1が干渉することなく擦れ違うことができると判定した場合には、ステップS15へ進み、減速を終了してステップS1の自律走行制御へ戻る。
図7は、減速開始位置P4から初期減速度α1で減速を開始した自車両V1が、進行可能判定ポイントにてステップS14からステップS15へ進む判定が実行されたシーンを示す図であり、自車両V1は、ステップS1の自律走行制御へ復帰することで、
図7に点線で示す再加速による設定速度への復帰が実行される。このとき、初期減速度α1により減速していた車速と、復帰後の車速とのジャークは、初期減速度α1が小さい分だけ小さくなる。すなわち、
図7に目標速度プロファイルで示す減速度αにて減速した場合、進行可能判定ポイントにおける車速と復帰後の車速とのジャークは、図示する速度差に応じて大きくなる。
【0052】
ステップS14にて、自車両V1が対向車両V2と干渉することなく擦れ違うことができないと判定した場合は、ステップS16へ進む。ステップS16~S18においては、現在設定されている初期減速度α1から次に設定される最終減速度α2への切換位置(切換タイミング)を演算するとともに、切換位置に到着したか否かを判定する。すなわち、ステップS16において、目標車速生成部24の最終減速度設定部242は、初期減速度α1と、初期減速度α1からの切換タイミングと、停止位置P2までの距離とに基づいて、停止位置P2で自車両V1が停止可能な最終減速度α2を設定する。たとえば、
図3に示す走行シーンについて言えば、予め決められた固定値である最終減速度α2を停止位置P2において自車両V1が停止するように設定し、この最終減速度α2による速度プロファイルと初期減速度α1との交点を、初期減速度α1から最終減速度α2への切換位置(切換タイミング)とする。そして、ステップS17では、自車両V1がこの切換位置(切換タイミング)に到着したか否かを判定し、到着したと判定したタイミングで、減速度を初期減速度α1から最終減速度α2に切り換える(ステップS18)。
【0053】
なお、
図2AのステップS10において、自車両V1と対向車両V2との擦れ違う位置P3が、
図6に示すように停止位置P2の向こう側である場合には、ステップS10からステップS18へ進み、
図6に示すように、初期減速度α1を設定することに代えて、減速開始位置P4から最終減速度α2による減速を開始する。これにより、自車両V1と対向車両V2との干渉を防止することができる。
【0054】
上述したステップS18にて最終減速度α2による減速に切り換り、自車両V1は停止位置P2にて停止する走行制御に移行するが、ステップS19では、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の車速、停止位置P2までの距離に基づいて、自車両V1が停止位置P2で停止できるか否かを判定する。自車両V1が停止位置P2で停止できると判定した場合は、
図2CのステップS21へ進む。これに対し、自車両V1が停止位置P2で停止できないと判定した場合はステップS19へ進み、現在設定されている最終減速度α2の値を増加させた最終減速度α2を再度設定し、この最終減速度α2にて減速を継続しながらステップS18へ戻る。この最終減速度α2の調整により、自車両V1を停止位置P2に確実に停止させることができる。
【0055】
図2CのステップS21では、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の車速、対向車両V2の現在位置及び対向車両V2の車速から、自車両V1が対向車両V2と干渉することなく擦れ違うことができるか否かを判定する。すなわち、ステップS18にて自車両V1は最終減速度α2による減速に切り換えたが、その後の対向車両V2の走行状況などを検出することにより、自車両V1が干渉することなく擦れ違うことができると判定した場合には、ステップS22へ進み、減速を終了してステップS1の自律走行制御へ戻る。これにより、自車両V1は再加速して自律走行制御にて設定された車速に復帰する。なお、ステップS22において、減速を終了してステップS1の自律走行制御へ戻る場合に、初期減速度より小さい減速度による目標車速を生成するが、減速制御を停止してから擦れ違うまでの全ての区間で減速度を小さくする必要はない。
【0056】
これに対し、ステップS21にて、自車両V1が対向車両V2と干渉することなく擦れ違うことができないと判定した場合には、ステップS23へ進み、停止位置P2に到着するまで最終減速度α2による減速を継続する。
【0057】
以上のように、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、対向車両V2が自車両V1の走行車線L1に進入すると予測した場合には、自車両V1の初期減速度を、自車両V1が対向車両V2と擦れ違うまでの時間が長い場合、擦れ違うまでの時間が短い場合に比べて小さい値に設定して、一例としては減速度プロファイル(
図3の太線にて示す)にしたがう減速度で、自車両V1を減速走行させる。これにより、自車両V1を停車させるのか或いは加速させるのかといった、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を確保することができる。つまり、猶予時間における対向車両V2の挙動に合わせて、自車両V1を走行制御できるため、余計な停止又は余計な加速を抑制することができ、その結果、乗員が覚える違和感を抑制することができる。
【0058】
特に、本実施形態の自車両V1が対向車両V2に合わせて減速する走行シーンでは、当初に減速が必要であると判断した場合でも、対向車両V2が減速したり、停止したり、または駐車車両を追い越すために加速したり、種々の挙動変化があるため、その後に減速が必要でなくなる可能性が高い。換言すれば、減速後に再加速する可能性が高い走行シーンであるから、再加速のための挙動変化に特に注意する必要がある。その意味においても、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法は、自車両V1が対向車両V2に合わせて減速する走行シーンに適用して有効であるといえる。
【0059】
本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法では、自車両V1が、走行車線L1に進入してきた対向車両V2と干渉しないように自車両V1の減速を開始する減速開始位置P4を求め、自車両V1が減速開始位置P4に到着したか否かを検出し、自車両V1が減速開始位置P4に到着した時に、自車両V1を減速走行させる。特に、自車両V1が減速開始位置P4に到着したか否かを検出し、自車両V1が減速開始位置P4に到着した時に、減速開始位置P4に到着していない時よりも大きい初期減速度で減速走行させてもよい。
【0060】
または、自車両V1の前方の状況より、自車両V1が、走行車線L1に進入してきた対向車両V2と干渉しないように自車両V1を停止させるべき停止位置P2を設定し、設定された停止位置P2、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の現在車速、所定の基準減速度及び初期減速度に基づいて、自車両V1の減速を開始する減速開始位置P4を求め、自車両V1が減速開始位置P4に到着したか否かを検出し、自車両V1が減速開始位置P4に到着した時に、自車両V1を減速走行させる。このとき、自車両V1を、現在位置P1から所定の基準減速度で減速させる目標車速プロファイルを設定し、目標車速プロファイルと対向車両V2の車速から、自車両V1と対向車両V2が擦れ違う位置P3を求め、停止位置P2と擦れ違う位置P3との相対位置関係に基づいて、自車両V1を減速走行させる際の初期減速度を設定してもよい。
【0061】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、自車両V1と対向車両V2との擦れ違う位置P3が、停止位置P2から自車両側(手前側)にある場合、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が大きいほど、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が小さい場合に比べて、所定の基準減速度αより小さい初期減速度α1を設定する。これにより、停止位置P2と擦れ違う位置P3との距離が大きいほど、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を、より一層長く確保することができる。つまり、猶予時間における対向車両V2の挙動に合わせて、自車両V1を走行制御できるため、余計な停止又は余計な加速をより一層抑制することができ、その結果、乗員が覚える違和感をより一層抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、設定された停止位置P2、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の現在車速及び所定の基準減速度αに基づいて、自車両V1の前方の減速開始位置P4を求め、自車両V1が減速開始位置P4に到着したか否かを検出し、自車両V1が減速開始位置P4に到着した時に、自車両V1を減速走行させる。これにより、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、最適な時間で自車両V1を停止位置P1に停止させることができる。
【0063】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、設定された初期減速度α1で自車両V1を減速走行させた場合に、予め設定された最終減速度α2に切り換えたとしたときに停止位置P1にて自車両V1を停止させることができるタイミングで、予め設定された最終減速度α2に切り換え、この最終減速度αで自車両V1を減速走行させる。これにより、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、確実に自車両V1を停止位置P1に停止させることができる。
【0064】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、初期減速度α1から予め設定された最終減速度α2に切り換えるまでの間に、自車両V1が停止位置P1で停止できないと判定された場合には、予め設定された最終減速度α2より大きい最終減速度に切り換え、自車両V1を減速走行させる。これにより、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、走行状況が変化した場合でも、確実に自車両V1を停止位置P1に停止させることができる。
【0065】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、初期減速度α1は、予め設定された値であるので、乗員が違和感を覚えない減速度を設定することができる。
【0066】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、初期減速度α1は、複数の初期減速度を含むので、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、擦れ違う前後の車速を、ジャークが小さくなるように設定することができる。
【0067】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、初期減速度α1は、複数の初期減速度を含み、時間的に最後に設定される(すなわち最終減速度α2へ切り換える直前の)初期減速度は、複数の初期減速度のうち最も小さい初期減速度に設定されるので、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、擦れ違った後の再加速時のジャークが小さくなる。
【0068】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、擦れ違う位置P3が、停止位置P1から対向車両側(向こう側)にある場合には、初期減速度α1を設定することに代えて、所定の基準減速度αを最終減速度に設定し、また、設定された最終減速度α、自車両V1の現在位置P1、自車両V1の現在車速及び停止位置P1に基づいて、自車両V1が停止位置P1で停止可能か否かを判定し、その結果、停止できないと判定された場合には、設定された最終減速度αより大きい最終減速度に切り換える。これにより、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、走行状況が変化した場合でも、確実に自車両V1を停止位置P1に停止させることができる。
【0069】
また、本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法によれば、減速度プロファイルにしたがう減速度で自車両V1の減速走行制御を実行中に、対向車両V2の挙動を検出し、自車両V1が対向車両V2と干渉することなく走行車線L1を走行できるか否かを予測し、自車両V1が対向車両V2と干渉することなく走行車線L1を走行できると予測した場合には、減速走行制御を停止し、減速しない目標速度を生成する。これにより、自車両V1の走行制御に関する判断を下すための猶予時間を長く確保できると同時に、再加速するなど、次の走行制御に円滑に遷移することができる。
【0070】
なお、上述した本実施形態の走行制御装置及び走行制御方法では、減速度α,α1,α2を制御要因にして適宜の値に設定したが、こうした減速度α,α1,α2に応じた車速を制御要因にしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
VTC…車両の走行制御装置
11…レーダ装置
12…カメラ
13…地図データベース
14…位置検出器
15…車速センサ
21…対向車両進路予測部
22…自車両進路予測部
23…通過可否判定部
24…目標車速生成部
25…車速追従制御部
51…駆動制御部
52…エンジン
53…制動制御部
54…ブレーキ
V1…自車両
V2…対向車両
V3…駐車車両
L1…走行車線
L2…対向車線
P1…自車両の現在位置
P2…停止位置
P3…擦れ違う位置
P4…減速開始位置
R…進入経路
α…基準減速度
α1…初期減速度
α2…最終減速度