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特許7189322吸収式冷凍機における吸収剤として使用するためのイオン液体添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】吸収式冷凍機における吸収剤として使用するためのイオン液体添加剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20221206BHJP
   F25B 15/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C09K5/04 G
F25B15/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021506514
(86)(22)【出願日】2020-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 US2020013326
(87)【国際公開番号】W WO2020150141
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】62/792,553
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイチャウデューリ,サチャブラータ
(72)【発明者】
【氏名】メールケシュ,アミルホセイン
(72)【発明者】
【氏名】タマス,ジョージ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】マアート,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】コロナス サルセド,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】サラベラ ムニョス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】プリエート ゴンザレス,ジュアン
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2013ー513002(JP,A)
【文献】特表2013ー525727(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102212343(CN,A)
【文献】特表2012ー522873(JP,A)
【文献】特表2019ー520540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F25B 15/00-17/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収器区画と再生器区画とを備える吸収式冷凍機であって、両方の区画が冷媒と吸収剤とを含み、前記吸収剤が91~97重量%の臭化リチウムと3~9重量%の式Iを有するイオン液体とを含み、
【化1】
式中、Rは水素またはメチルであり、m=0~5である、吸収式冷凍機。
【請求項2】
前記式Iの化合物が、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の吸収式冷凍機。
【請求項3】
前記イオン液体は、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミドまたは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミドである、請求項1に記載の吸収式冷凍機。
【請求項4】
前記冷媒が水である、請求項1に記載の吸収式冷凍機。
【請求項5】
前記吸収剤が、93~96重量%の臭化リチウムと4~7重量%のイオン液体とを含む、請求項1に記載の吸収式冷凍機。
【請求項6】
前記吸収器区画は、前記冷媒と前記吸収剤との溶液を前記再生器区画に供給し、前記吸収剤の重量パーセントは、前記溶液の52%~57%である、請求項1に記載の吸収式冷凍機。
【請求項7】
吸収剤と冷媒とを含む、吸収式冷凍機で使用するための作動対であって、前記吸収剤は、93~96重量%の臭化リチウムと4~7重量%の式Iを有するイオン液体とを含み、
【化2】
式中、R は水素またはメチルであり、m=0~5である、作動対。
【請求項8】
前記イオン液体が、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項7に記載の作動対。
【請求項9】
記イオン液体が、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミドである、請求項7に記載の作動対。
【請求項10】
記イオン液体が、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミドである、請求項7に記載の作動対。
【請求項11】
前記冷媒が水である、請求項7~10のいずれか一項に記載の作動対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収材料として臭化リチウムおよび1つまたは複数の臭化イミダゾリウムイオン液体を含む吸収式冷凍機に関する。臭化イミダゾリウムイオン液体は、吸収剤の結晶化温度を低下させるための添加剤として使用される。
【背景技術】
【0002】
吸収式冷凍機は、(例えば、空調システム内の)空気流から熱を抽出するために使用することができる冷水を生成することによって冷却(チリング)効果を生成するように設計される。吸収式冷凍機は、完全な吸収冷凍サイクルを経ることによって冷却効果を生み出す。吸収剤との混合物への冷媒の熱移動と吸収剤との混合物からの冷媒の物質移動とが同時に起こることが、吸収式冷凍機において冷却効果を生じさせる主な機構である。システム内の吸収剤は、システムの動作条件下で容易に溶解することによって、冷媒に対して大きな傾向を有するべきである。吸収プロセスは、システムが大気圧未満の圧力(水ベースの吸収式冷凍機では0.01~0.1気圧)で動作することを可能にし、通常の沸点よりもはるかに低い温度で冷媒を蒸発させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
吸収式冷凍機では、冷媒の蒸気を加圧するために電力を消費する部分(すなわち圧縮機)の必要性は、適切な吸収剤の使用によって対処される。潜熱は冷媒の蒸発のために消費され、冷却の手段を提供する。蒸発器内の低圧は、より低い温度で冷媒を蒸発させる利点を提供し、それによって、システムが低温で冷却効果を生成することを可能にする。しかしながら、蒸発器の非常に低い圧力は、(サイクルを継続するために)蒸気相の凝縮プロセスをより困難にする。ここで、冷却水流に潜熱を放出して冷媒蒸気(以前に気化していたもの)を徹底的に吸収し、液相に戻すためには、効率の良い吸収剤が必要となる。
【0004】
他の化学的/物理的システムと同様に、吸収式冷凍機にもそれ自体の欠点と限界がある。システム内の吸収剤の結晶化などの特定の要因が、動作範囲を制限する可能性がある。
従来の吸収式冷凍機の利点および欠点を以下に説明する。
【0005】
[吸収式冷凍機の利点]
・電力の運用コストが低い-システム内で電力を消費する唯一の部分は、システム内で吸収剤-冷媒混合物を循環させるために使用される比較的小さいポンプである。この事実は、電力供給のためのインフラが十分に整備されていない国にとって、吸収式冷凍機が理想的な選択となる。
・冷媒(一般的には水)がほとんど浪費されない閉鎖システムである。
・乾燥した気候でも湿度の高い気候でも作業が可能。
・太陽熱集熱器や廃熱などの低温熱源によって駆動できる。
【0006】
[欠点]
水-臭化リチウム(LiBr)塩は、吸収式冷凍機において一般的に使用される冷媒-吸収剤(作動)対である。LiBrは、その高い吸湿性に起因して、水冷媒に対して非常に効率的な吸収剤である。純粋な塩として552℃の融解温度を有するLiBrは、吸収した水に完全に溶解するほど十分に高い程度まで水を吸収することができる。
【0007】
LiBrは、水蒸気を容易に吸収することができる吸湿性の高い塩である。LiBrの問題点は、水への溶解度が限られていることと、吸収式冷凍機システム内でLiBrが結晶化するリスクがあることである。これは、冷却水の温度が吸収器内で著しく低下するか、または再生器内で放出される水冷媒が多すぎる場合に起こり得る。液体溶液からのLiBrの固体粒子の結晶化は常に問題であり、特に高濃度で問題となる。これは、システムに損傷を与え、費用のかかる修正措置を必要とする可能性がある。
【0008】
システム内でのLiBrの結晶化を回避するためには、複雑な制御手順が必要とされる。したがって、LiBrと比較して問題の少ない吸収材料を有する吸収式冷凍機が必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は吸収式冷凍機を示す。
図2図2は、吸収式冷凍機の一般的な性能サイクルまたは作動領域図を示す。
図3図3は、LiBr:[BMIm]Br(95:5)-水およびLiBr-水作動対の性能サイクルを示す。
図4図4は、LiBr:[B2MIm]Br(95:5)-水およびLiBr-水作動対の性能サイクルを示す。
図5図5は、LiBr:[DMIm]Br(95:5)-水およびLiBr-水作動対の性能サイクルを示す。
図6図6は、LiBr:[HMIm]Br(95:5)-水およびLiBr-水作動対の性能サイクルを示す。
図7図7は、LiBr:[IsoBMIm]Br(95:5)-水およびLiBr-水作動対の性能サイクルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、吸収式冷凍機の従来の臭化リチウム-水作動対に、特定のタイプまたは複数のタイプのイミダゾリウム系臭化物イオン液体添加剤を最適な量で添加することが、吸収材料の水への溶解度範囲を拡張し、それによって装置内の結晶化リスクが低下することを発見した。選択した臭化イミダゾリウムイオン液体添加剤は、吸収式冷凍機の作動領域を拡張する。
【0011】
図1は、吸収式冷凍機の概略図を示す。吸収式冷凍機は、熱源(例えば、直火、温水、蒸気、太陽エネルギー、廃熱など)を利用して冷却プロセスを駆動する機械である。冷媒と吸収剤との混合物は、システムの吸収器区画および再生器区画に存在する。
【0012】
本発明は、吸収器区画と再生器区画とを含む吸収式冷凍機を提供し、両方の区画が冷媒と吸収剤との混合物を含み、吸収剤が91~97重量%の臭化リチウムおよび3~9重量%のイオン液体を含む。
【0013】
本発明の吸収式冷凍機では、作動対は吸収剤と液体冷媒とを含み、吸収剤は液体冷媒と対になっている(溶解している)。冷媒は、吸収式冷凍機の蒸発器区画内で蒸発させて冷却効果を生じさせるために使用される液体化合物である。冷媒は、一般に、低融点、低~中沸点、低毒性、低可燃性、低腐食性、低粘度、高熱伝導率、高湿潤性、および高蒸発熱など、そのようなシステムで使用するのに適切な特性を有する。
【0014】
蒸発器区画における冷却目的のためには純粋な冷媒が好ましい。冷媒は、吸収剤を用いてその液体溶液から蒸発され(すなわち、気相の冷媒)、次いで、蒸発器区画に送られる前に液相に凝縮される必要がある。吸収剤は、吸収器区画内の冷媒蒸気を吸収し、それを気相から液相に移動させる役割を有する。吸収器区画は、冷媒中の吸収剤の弱い(すなわち相対的に希釈された)溶液を再生器区画に供給する。
【0015】
再生器区画は、冷媒の一部を液相(吸収剤の溶液中)から気相(部分蒸発)に移動させ、それによって気液分離手順を実施するという唯一の役割を有する。吸収材料は、冷媒の蒸気圧を低下させ、その蒸発を妨げるので、一般に、再生器区画において負の役割を有する。しかしながら、再生器区画における吸収剤の存在は、吸収器区画から流入する冷媒流(作動対溶液)中に吸収剤が溶解されるという事実のために避けられない。吸収冷凍サイクルは、基本熱力学を用いて正確にモデル化することができる。再生器区画は、冷媒中の吸収剤の強い(すなわち比較的濃縮された)溶液を吸収器区画に供給する。
【0016】
水は、容易に入手可能であり、非毒性、不燃性、非爆発性であり、比較的高い液体範囲を有するので、好ましい冷媒である。水はまた、例外的に高い質量ベースの蒸発エンタルピーおよび比熱容量を有する。この特性の組み合わせにより、水は熱交換目的のための良好な伝熱媒体である。
【0017】
イオン液体(IL)は、有機カチオンおよび有機または無機アニオンを有する多原子塩であり、通常、100℃以下の融解温度を有すると定義される。
【0018】
多くのイオン液体(IL)は、極性の高い水分子(小さいサイズである)とは対照的に、アニオンまたはカチオンの大きな面積にわたるそれらの電子電荷密度の分散に起因して強い親水性ではない。このため、多くのILは、吸収式冷凍機における冷媒としての水と共に唯一の吸収剤として使用するには不適切である。しかしながら、本発明者らは、高吸湿性および低粘度等の他の所望の特性を維持しながら、システム内のLiBrの結晶化のリスクを低減し、表面張力を低下させる、吸収式冷凍機における吸収剤としてのLiBrへの添加剤として使用される特定のILを特定した。
【0019】
本発明者らは、水に対して高い親和性を有する、一般式Iを有するイオン液体を選択した。少量の式Iの化合物が、吸収式冷凍機において吸収剤としてのLiBrへの添加剤として使用される場合、それらは、その熱物理的特性または性能に悪影響を及ぼすことなく、LiBr-水溶液の結晶化温度および表面張力を低下させる。
【0020】
【化1】
【0021】
式Iは上記のとおりであり、式中、RはHまたはメチルであり、m=0~5である。
【0022】
一実施形態において、Rはメチルであり、m=0、1、2、3、4または5であり、例えば、m=3である。
【0023】
一実施形態では、RはHであり、m=0、3、または5であり、例えば、m=3である。
【0024】
式Iの化合物は、臭化物(Br)アニオンと、第2の窒素(N)原子に結合した1~6個の炭素原子を有する直鎖(非分岐)アルキル側鎖とを有する1-メチルイミダゾリウム系イオン液体である。本発明のための好ましい式Iの化合物としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([BMIm]Br、m=3)、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド([B2MIm]Br、m=3)、1,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド([DMIm]Br、m=0)、および1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([HMIm]Br、m=5)が挙げられる。
【0025】
【化2】
【0026】
液体溶媒に溶解した固体溶質(例えば、塩)の結晶化は、通常、溶液の温度が飽和温度未満に低下したときに起こる。理論的には、不純物は液体溶液の結晶化温度をある程度低下させることができる。本発明者らは、深共融混合物を形成する機会を増加させることによって結晶化温度をさらに低下させるために、LiBrと同じ種類のアニオン(臭化物)を共有するIL添加剤を選択した。共融混合物は、一般に、相互作用して第3の化学成分を形成しないが、特定の比で、互いの結晶化プロセスを阻害して、成分のいずれよりも低い融点を有するシステムを生じる2つ以上の化学成分の混合物として定義される。共融混合物の融点は、その構成成分の融点よりも低い。この結晶化温度低下現象の主な理由は、共有する臭化物アニオンの大きさ、形状、電子電荷密度が類似していることにより、カチオンが異なるアニオンと結晶粒子を形成する傾向が高くも低くもないため、水溶液中での塩の溶解度が高くなり、結晶粒子が形成される機会が少なくなるためである。
【0027】
式Iにおいて、m=0~5は、カチオンの側鎖の長さを示す。より長い側鎖は、カチオンの非極性部分を増加させる。本発明者らは、イミダゾリウムIL添加剤カチオンの側鎖長が長くなると、イオン成分が互いにより効果的に分離され、それによってイオン成分間の静電力が弱まり、吸収剤の結晶化のリスクが低下することを見出した。ただし、側鎖長が長くなると、作動対溶液の粘度が高くなる。したがって、本発明者らは、mが0~5である最適値を選択した。側鎖長が短くなりすぎると、イオン成分間の静電力が支配的になり、結晶化のリスクが高くなる。m>5の場合、側鎖長が長くなりすぎて水分子によって効果的に水和されず、カチオンの弱極性側鎖間のファンデルワールス力がより顕著になり、溶液中の吸収剤の結晶化温度を低下させる添加剤の能力に悪影響を及ぼす。さらに、長い側鎖については、作動対溶液の粘度が大幅に増加し、システムを通して溶液をポンプ輸送することをより困難にする。本発明者らは、イミダゾリウム-臭化物添加剤[DMIm]Br(m=0)、[BMIm]Br(m=3)、[B2MIm]Br(m=3)、および[HMIm]Br(m=5)が、吸収剤中のLiBrと共に添加剤として使用される場合、すべてがLiBr吸収剤の結晶化温度をそれ自体で抑制することを実証した。
【0028】
式Iに示されるように、イミダゾリウム-Br ILのR1位における水素(H)原子のメチル基(CH)による置換は、脱プロトン化に対するそれらの化学的安定性を増加させる。例えば、本発明者らは、[B2MIm]Br(ジメチルイミダゾリウム)が、[BMIm]Br(モノメチルイミダゾリウム)と比較してより高い熱安定性を有することを見出した。具体的には、100℃での[B2MIm]Br(m=3)の24時間等温熱重量分析(TGA)は、化合物の0.02重量%質量損失を示したが、同様の条件下で、[BMIm]Br質量損失は約0.2重量%、または約10倍高かった。これは、[B2MIm]Brが[BMIm]Brと比較して100℃で約10倍高い熱安定性を有することを示す。
【0029】
イミダゾリウムIL添加剤が直鎖アルキル側鎖を有し、分岐アルキル側鎖を有しないことが重要である。本発明者らは、分岐アルキル側鎖を有する1-メチルイミダゾリウムブロミド系イオン液体である1-イソブチルー3-メチルイミダゾリウムブロミド([IsoBMIm]Br)を合成し、試験した。[IsoBMIm]Brの化学構造を以下に示す。
【0030】
【化3】
【0031】
直鎖アルキル側鎖を有するイミダゾリウムIL添加剤とは異なり、[IsoBMIm]Br添加剤は、同等の蒸気圧でLiBrの結晶温度を低下させない。
【0032】
上記の直鎖/分岐イオン液体は、スキーム1に示される一般的なプロトコルに従って合成される。
【0033】
【化4】
【0034】
本発明は、吸収器区画および再生器区画を備える吸収式冷凍機を提供し、両方の区画は、冷媒および吸収剤を含み、吸収剤は、91~97重量%のLiBrおよび3~9重量%の式Iのイオン液体を含む。好ましい式Iの化合物としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([BMIm]Br)、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド([B2MIm]Br)、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([HMIm]Br)、1,3-ジメチルイミダゾリウムブロミド([DMIm]Br)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0035】
52~57%(弱溶液中)の全LiBr+IL吸収剤濃度を有し、そのうちの91~97重量%がLiBrであり、3~9重量%がIL添加剤である作業対溶液は、吸収式冷凍機において有用である。好ましい吸収剤は、93~96重量%のLiBrおよび4~7重量%のIL添加剤を含む。より好ましい吸収剤は、95重量%のLiBrおよび5重量%のIL添加剤を含む。吸収剤中のILの濃度が9重量%を超えると、ILの高濃度化によりLiBr塩の吸湿性が阻害されるため、作動溶液の蒸気圧が高くなりすぎる。吸収剤中のILが3重量%未満では、結晶化温度の抑制に対する添加剤の効果は大きくない。一実施形態では、IL対LiBrの重量比は、1:10~1:30、1:15~1:25、または1:17~1:22である。
【0036】
純粋なLiBr吸収剤を有する吸収式冷凍機は、水中のLiBr濃度の比較的狭い範囲内でしか動作することができない。水中のLiBrの溶液が過度に濃縮されたり過度に希釈されたりすると、プロセスが損なわれる。LiBrの高い融点(552℃)のために、非常に少量の水ではLiBrを液相に保つのに不十分であり、吸収剤が液体作動対から結晶化する原因となる。非常に多量の水(溶液の希釈が強すぎる)では、LiカチオンおよびBrアニオンを完全に溶媒和し、連続的かつ効率的に働くシステムの能力を妨げる。弱い(相対的に希釈された)流れでは約57%のLiBr/43%の水から強い(相対的に濃縮された)流れでは約62%のLiBr/38%の水へと、水中のLiBr濃度を狭く(約5重量%)変化させることで、溶液が濃縮されすぎたり、希釈されすぎたりするのを防ぎながら、許容可能な量の冷却負荷を生成することが一般的に必要とされている。
【0037】
本発明の吸収式冷凍機において吸収器区画は、冷媒とLiBr/IL吸収剤の弱溶液を再生器区画に供給し、吸収剤の重量%が溶液の52%~57%である。
【0038】
本発明の吸収式冷凍機において、再生器区画は、冷媒とLiBr/IL吸収剤の強溶液を吸収器区画に供給し、吸収剤の重量パーセントは、一般的に溶液の56%~62%である。ただし、強溶液中の吸収剤の重量%は、冷却装置の設計や運転によって異なる場合がある。
【0039】
吸収剤および冷媒(すなわち、LiBr/IL添加剤および冷媒の混合物)の本作動対は、システム内の吸収剤-冷媒混合物の循環がシステム構成要素に不合理な歪みを生じないような十分に低い粘度を有している。冷媒中のLiBr/IL添加剤の結晶化温度は、システム内でのLiBr/IL添加剤の結晶化を避けるために、吸収式冷凍機の作動温度範囲よりも低い温度とする。
【0040】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示することを意図しており、限定的であると解釈されるものではない。
【実施例
【0041】
実施例1.吸収剤-冷媒作動対の結晶化温度と蒸気圧の測定
実験的な測定を行うために、純イオン液体とLiBrを必要量秤量し、DI水と混合することにより、様々な濃度のLiBr+IL吸収剤を水中に添加した溶液を調製した。均質な溶液が形成されるまで、混合物を超音波処理した。結果の精度を高めるために、調製したばかりの試料中の最終的な水分量をカールフィッシャー滴定法で評価した。この手順では、準備段階で吸収された水分や、出発材料に予め存在する水分を考慮する。
【0042】
結晶化温度を決定するために、各溶液を冷却しながら濁度を測定した。簡単に言えば、各溶液をジャケット付きビーカーに充填し、その周りに熱流体を循環させて、0.01℃以内に制御された所望の温度を維持した。第一固体粒子の形成のインスタンスが濁度プローブによって捕捉されることを確認するために、溶液をゆっくりとした冷却速度(-0.8℃/分)で冷却した。
【0043】
作動対の蒸気圧は、吸収剤が冷媒蒸気を捕捉または放出できる程度を決定するために使用される。蒸気圧データの収集には自動化機械を使用した。平衡化時間300秒とそれに続く180秒の滞留時間2回の3回膨張法を用いて、作業試料の蒸気圧を測定した。
【0044】
実施例2.作動対間の比較
LiBr-水とLiBr/IL添加剤-水との作動対の間で関連する比較を行うために、弱溶液と強溶液との間で吸収剤の濃度の4パーセントの差を許容した。また、蒸発器内の温度について2~8℃の範囲であれば、全ての場合において良好な冷却品質を達成するのに十分であると考えられた。試験した全ての作業対、ならびにそれらのLiBr-水対応物について、吸収器の底部で35~36℃、吸収器の上部で42~46℃の温度範囲(吸収器への入口であり、結晶化の最も危険なポイントでもある)を想定した。同じ冷却性能を提供することに基づいて、LiBr-水の対応物と共に、それぞれの場合の(強および弱の段階における)作動対の濃度を表1に示す。
【0045】
吸収式冷凍機の性能に対する、LiBr水溶液への異なるIL添加剤の添加の効果を評価するために、「安全余裕度[℃]」と呼ばれるパラメータが定義される。安全余裕度は、吸収器の入口における強溶液の温度と、その濃度における作動対の結晶化温度との間の差である。より高い安全余裕度は、より良好な性能を指す。このパラメータは、異なるIL添加剤の結晶化温度抑制力を定量化することができる。異なる作動対についての安全余裕度に関するデータ、ならびにIL添加剤を含むおよび含まない強および弱LiBr-水溶液の濃度を、異なる場合について表1に列挙する。表1の第1列に示される各場合において、LiBr/IL-水の溶液は、蒸発器内の同じ温度および圧力(同じ冷却性能)ならびに強溶液と弱溶液との間の4パーセントの同じ濃度差を有することに基づいて、LiBr-水の溶液と比較される。例えば、ケース1では、水中の54%濃度のLiBr/[BMIm]Br IL(質量比95:5)は、水中の56.7%LiBrの溶液と等しい蒸気圧を与える。吸収器/蒸発器内に等しく蒸気圧を与えることを基本とし、その改善度を評価するために、各新しい作動流体の下の行には、LiBr-水作動対が列挙される。IL添加剤を有する作動対ならびにそれらのLiBr-水対応物の濃度は、許容可能な冷却品質を提供する2~8℃の範囲の蒸発器の温度を生成することができるように選択される。
【0046】
表1は、IL添加剤[BMIm]Br、[B2MIm]Br、[DMIm]Br、[HMIm]Br、および[IsoBMIm]Brについての結果を示す。ケース1~4は全て、吸収器の入口での結晶に関して安全余裕度を有意に改善するが、[IsoBMIm]Brのケース5では、純粋なLiBr吸収剤と比較した場合、安全余裕度が減少する。
【0047】
【表1】
【0048】
異なる作動対(IL添加剤を含む場合と含まない場合)の熱物理的特性を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2は、LiBr/IL-水作動対がLiBr-水作動対と比較して表面張力を低下させるというさらなる利点を示しており、これは、少量のイオン液体添加剤であっても界面活性剤として作用し、最終溶液の表面張力を低下させることができることを示している。より低い表面張力は、吸収器/再生器チャンバ内のチューブの湿潤性を良好なものに変換することができる。2つのチャンバにおいて、作動対溶液は内部チューブの外面を濡らす。チューブの濡れ性が良ければ、より高い熱量と物質移動率が得られ、それによりシステムの熱効率が向上し、熱交換器の小型化が可能になる。表2は、LiBr/IL-水溶液と純粋なLiBr-水溶液との間で他の重要な熱物理的特性(すなわち、熱容量、熱伝導率および動的粘度)に有意差がないことを示している。
【0051】
吸収式冷凍機の作動領域図では、冷凍機の異なる区画についての圧力および温度(P、T)のバイナリデータが示されている。一般的な作業領域図を図2に示す。圧力をy軸にプロットし、温度をx軸にプロットする。したがって、任意の水平線上のすべての点は同じ圧力値を有し、任意の垂直線上のすべての点は同じ温度値を有する。典型的には、吸収式冷凍機は、システムの異なる区画において2つの作動圧力(すなわち、より高い圧力およびより低い圧力)で動作する。典型的には、両方の作動圧力は真空圧であり、すなわち、それらは大気圧よりも低い。吸収式冷凍機の4つの主要な区画(蒸発器、吸収器、再生器、および凝縮器)の中で、2対の区画はそれぞれ同じ圧力で一緒に動作する。吸収器および蒸発器区画は相互接続され、より低い圧力で動作する一方、再生器および凝縮器区画も相互接続され、より高い圧力で動作する。一般に、作動領域図は、吸収式冷凍機がいかに良好に機能できるか、例えば、冷却品質が十分であるかどうか、および/または吸収器内の温度が結晶化を回避するのに安全であるかどうかを示す。
【0052】
吸収式冷凍機の蒸発器および凝縮器では冷媒のみが相変化するので、冷媒(ここでは水)の種類および上述の2つの区画の温度のみを知ることによって、これら2つの区画の圧力、ひいてはシステム内のあらゆる場所の圧力を求めることができる。蒸発器温度は、冷却要件によって決定され、通常、LiBr-HO系システムでは約2~8℃である。凝縮器温度は、冷却水温度(外気の温度および湿度にも依存する)によって直接影響され、通常35~42℃である。
【0053】
図2に示す平行四辺形状の作業領域は、4つの主動作点で構成されている。同じ圧力値(低P)を有する2つの下部点は、吸収器の頂部および底部における圧力および温度を表し、同じ圧力値(高P)を有する2つの上部点は、再生器の頂部および底部における圧力および温度を表す。作用対溶液の濃度は吸収器および再生器の底部および頂部で異なるが、異なる温度値を有することで、これら2つの区画の上部および下部で圧力が同じままになるように濃度の違いを補うことができる。一般に、作動領域図は、吸収式冷凍機がいかに良好に機能できるか、例えば、冷却品質が十分であるかどうか、および/または吸収器内の温度が結晶化を回避するのに安全であるかどうかを示す。
【0054】
表1の作動対1~4で作動する吸収式冷凍機の性能をさらに評価するために、図3図7に示す作動領域図を作成した。図2の一般的な図と同様に、図3図7において、平行四辺形状の4つの点の各セットは、吸収器の頂部および底部(低P)ならびに再生器の頂部および底部(高P)における圧力および温度の状態を示す。蒸発器および凝縮器における状態は、表1に列挙された作動対1~4の利点を示すために必要ではないため、図3図7には示されていない。
【0055】
図3図7は、表1に列挙したそれぞれのLiBr/IL-水およびLiBr-水作動対の性能サイクルを示す。試験したIL添加剤は、[BMIm]Br、[B2MIm]Br、[DMIm]Br、[HMIm]Br、および[IsoBMIm]Brであった(それぞれ図3図7)。各図において、2つの作業領域または圧力-温度(p-T)図が示されており、一方は実線で、他方は破線で示されている。実線は、LiBr/IL-水作動対の性能領域を示す。さらに、各図において、従来のLiBr-水作動対で作動する吸収式冷凍機の仮説的な作動領域(破線で示される)を重ね合わせて示した。仮説的なLiBr-水溶液は、冷却品質(すなわち蒸発器内の温度および圧力)の観点から、LiBr/IL-水作動対の特徴的な性能と一致するように選択された。
【0056】
許容可能な冷却品質(蒸発器内の温度<8℃)が、試験した全てのIL添加剤ならびにLiBr-水溶液対応物について達成された。[BMIm]Br(図3)、[B2MIm]Br(図4)および[HMIm]BrIL(図6)添加剤の場合、吸収式冷凍機は、添加剤を含まないLiBr吸収剤よりも低い再生器温度で動作することができ、その結果、より良いエネルギー効率で動作することができる。これはまた、豊富で安価な熱エネルギー源として、低グレードの廃熱を使用する機会を創出する。しかしながら、より低い再生器温度での動作は、より低い冷却品質(より高い蒸発器温度)という代償を伴う。[BMIm]Brイオン液体の使用により、他の実施例(5.1~6.3℃)と比較してより低い蒸発器温度(2.6℃)によって表1に示されるように、より高い品質(より冷たい)の冷却負荷を達成することができる。したがって、[BMIm]Br IL添加剤は、試験したすべての臭化物系イオン液体の中で最も優れた性能を示す。
【0057】
[DMIm]Brの場合(図5)、IL添加剤を用いた作動対の性能は、純粋なLiBrとほぼ同じであった。これは、2つの平行四辺形の作業領域のほぼ重ね合わせによって示される。しかしながら、IL添加剤として[DMIm]Brを有するLiBr-HOの作動対は、より低い結晶化温度を有するという純粋なLiBr-HOを超える利点を維持する。
【0058】
[IsoBMIm]Brの場合、図7に示すように、吸収式冷凍機は、より高い再生器温度で動作する必要があり、したがって、蒸発器内の同じ温度に基づいて比較すると、添加剤なしでLiBr吸収剤を使用するシステムよりもエネルギー効率が悪い(より高温の熱源を必要とする)。[IsoBMIm]Brイオン液体の場合、同じ蒸発器温度を達成するために、LiBr-水溶液と比較して約20℃高い再生器温度(すなわち、80℃対60℃)が必要とされる。これは、熱効率が低く、動作コストが高いことを意味する。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7