(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂プリプレグ、その製造方法及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
(21)【出願番号】P 2021514870
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2020015130
(87)【国際公開番号】W WO2020213406
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019080026
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019080027
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019080028
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小田 顕通
(72)【発明者】
【氏名】桑原 広明
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/115490(WO,A1)
【文献】特開2018-138383(JP,A)
【文献】特表2017-523256(JP,A)
【文献】特表2011-513529(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176788(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/115739(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056693(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、且つ、第一のPEKKと、第一のPEKKよりも還元粘度の小さい第二のPEKKを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項2】
第一のPEKKと第二のPEKKの還元粘度が下記式(1)および(2)を満たす請求項
1に記載の熱可塑性樹脂プリプレグ。
50cm
3/g≦第一のPEKKの還元粘度≦200cm
3/g ・・・式(1)
2cm
3/g≦第二のPEKKの還元粘度≦100cm
3/g ・・・式(2)
【請求項3】
第一のPEKKと第二のPEKKの質量比率が99.9995/0.0005~50/50である請求項
1または2に記載の熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項4】
少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を全熱可塑性樹脂組成物に対して50質量%以上含有し、前記PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量が100ppm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項5】
PEKK中に含まれるアルミニウムの量が45ppm以下である請求項
4に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物が、示差走査熱量計(DSC)にて、400℃から降温速度50℃/分で測定した際の結晶化エンタルピーが22J/g以上の熱可塑性樹脂組成物である請求項
1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項7】
強化繊維基材に熱可塑性樹脂組成物を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、且つ、第一のPEKKと、第一のPEKKよりも還元粘度の小さい第二のPEKKを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項8】
強化繊維基材に熱可塑性樹脂組成物を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を全熱可塑性樹脂組成物に対して50質量%以上含有し、
前記PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量が100ppm以下の熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項9】
少なくとも、強化繊維基材と、熱可塑性樹脂組成物と、から成る繊維強化複合材料であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、且つ、第一のPEKKと、第一のPEKKよりも還元粘度の小さい第二のPEKKを含有することを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項10】
少なくとも、強化繊維基材と、熱可塑性樹脂組成物と、から成る繊維強化複合材料であって、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を全熱可塑性樹脂組成物に対して50質量%以上含有し、前記PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量が100ppm以下であることを特徴とする繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維基材とこれに含浸した熱可塑性樹脂組成物とからなるプリプレグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維材料と、各種のマトリクス樹脂とを複合化して得られる繊維強化複合材料は、種々の分野・用途に広く利用されている。従来、高度の機械的特性や耐熱性等を要求される航空・宇宙分野や、産業分野などでは、マトリクス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が主に使用されている。
【0003】
しかし、これらの熱硬化性樹脂は、脆く、耐衝撃性に劣るという欠点を有する。そのため、特に航空・宇宙分野では、得られる複合材料の耐衝撃性や、成形コストの観点から、熱可塑性樹脂が、マトリクス樹脂として検討されている。
【0004】
熱可塑性樹脂の中でも、航空・宇宙分野においては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリエーテルケトンケトン(PEKK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)が、耐熱性、耐薬品性、機械強度に優れるため、期待されている。特にPEKKは、その構造中に含まれるテレフタロイル基(T)とイソフタロイル基(I)の含有比率を変化させることにより、その特性を変化させることができるため、部材ごとに求められる特性や成形条件に応じて特性を調整できる等の理由から、近年開発が加速している。
【0005】
しかし、成形コストを抑制するために、より低温、短時間の成形条件で繊維強化複合材料を成形使用すると、得られる繊維強化複合材料中でのPEKKの結晶性が低下し、耐衝撃性や靭性などの機械物性や耐薬品性などに悪影響を及ぼすことが問題となっている。
【0006】
PEKKをマトリクス樹脂とする複合材料の機械物性を向上させる方法として、例えば、特許文献1では、PEKKに特定のポリエーテルサルホン樹脂を混合する方法が提案されている。しかし、この方法では、耐熱性や耐衝撃性などの一部の物性は若干向上するものの、樹脂の引張弾性率など別の物性が低下してしまう。また、低温、短時間の成形では、十分な効果が得られるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低温、短時間で成形した場合でも、機械強度に優れた繊維強化複合材料を与える熱可塑性樹脂プリプレグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、示差走査熱量計(DSC)で測定される熱特性が特定の条件を満たす熱可塑性樹脂組成物を用いると、低温、短時間で成形をした場合においても、得られる繊維強化複合材料の機械物性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決する本発明の熱可塑性樹脂プリプレグは、少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、且つ、示差走査熱量計(DSC)にて、400℃から降温速度50℃/分で測定した際の結晶化エンタルピーが22J/g以上の熱可塑性樹脂組成物である熱可塑性樹脂プリプレグである。
【0010】
本発明のもう一つの態様は、少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を全熱可塑性樹脂組成物に対して50質量%以上含有し、且つ、第一のPEKKと、第一のPEKKよりも還元粘度の小さい第二のPEKKを含有する熱可塑性樹脂プリプレグである。本発明において、第一のPEKKと第二のPEKKの還元粘度が下記式(1)および(2)を満たすことが好ましい。
50cm3/g≦第一のPEKKの還元粘度≦200cm3/g ・・・式(1)
2cm3/g≦第二のPEKKの還元粘度≦100cm3/g ・・・式(2)
また、第一のPEKKと第二のPEKKの質量比率は、99.9995/0.0005~50/50であることが好ましい。
【0011】
本発明のもう一つの様態は、少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、前記熱可塑性樹脂組成物が、PEKKを樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、前記PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量が100ppm以下の熱可塑性樹脂プリプレグである。PEKK中に含まれるアルミニウムの量は45ppm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の更なる様態は、熱可塑性樹脂プリプレグは、少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、前記PEKK中に含まれる下記化学式(I)で表される全アリーレンエーテルケトン構造単位のうち、エーテル基がケトン基に対するオルト位でArに結合している構造異性体の比率が1.6%以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂プリプレグである。
【0013】
【0014】
(ただし、Arは置換基を有していても良いアリーレン基を表す。)
本発明は、強化繊維基材に、熱可塑性樹脂組成物を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法および、少なくとも、強化繊維基材と、熱可塑性樹脂組成物と、から成る繊維強化複合材料を包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグを用いると、低温、短時間で成形した場合でも、機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0016】
本発明の繊維強化複合材料は、低コストで成形でき、かつ、機械強度に優れるため、航空・宇宙分野等の部材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.プリプレグ
以下、本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの詳細について説明する。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグは、少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材内に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る。本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、少なくともポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含んで成る。PEKKの含有率がこの範囲であると、PEKK樹脂本来の特性が発揮され、優れた機械物性を有する繊維強化複合材料を得ることができる。PEKKの含有率が少なすぎる場合、PEKK以外の樹脂が共存することによりPEKK本来の特性が損なわれ、得られる繊維強化複合材料の機械物性を低下させる場合がある。PEKKの含有率は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。PEKKの含有率の上限は特に限定されず100質量%であってもよく、99.99質量%以下であることが好ましい。本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、PEKK樹脂以外の熱可塑性樹脂や、その他の添加剤を含んでいても良い。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグで用いる熱可塑性樹脂組成物は、さらに、示差走査熱量計(DSC)にて、400℃から降温速度50℃/分で測定した際の結晶化エンタルピー(ΔHcd)が22J/g以上の熱可塑性樹脂組成物である。熱可塑性樹脂組成物の結晶化エンタルピーが22J/g以上であると繊維強化複合材料を短時間で成形した場合でも、熱可塑性樹脂組成物が十分に結晶化するため、機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。熱可塑性樹脂組成物の結晶化エンタルピーが低すぎると、繊維強化複合材料を成形する工程の時間枠内で熱可塑性樹脂組成物が十分な結晶化度に到達せず、得られる繊維強化複合材料の機械物性を低下させる場合があるため好ましくない。本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物の結晶化エンタルピーは好ましくは25J/g以上、より好ましくは30J/g以上であり、特に好ましくは32J/g以上である。結晶化エンタルピーの上限は特に限定されないが、130J/gもあれば十分である。
【0020】
本発明においては、示差走査熱量計(DSC)で測定される熱特性が下記(A)および(B)の要件を満たす熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。
(A)示差走査熱量計(DSC)にて、30~400℃の温度範囲で、昇温速度10℃/分で測定した際の融点が350℃以下
(B)示差走査熱量計(DSC)にて、400℃から降温速度50℃/分で測定した際の結晶化エンタルピーが22J/g以上、かつ降温結晶化温度が230℃以上
なお、上記(A)における融点(Tm)とは30℃から400℃における昇温過程中にDSCチャートに現れる吸熱ピークのピークトップの値であり、2個以上のピークが存在する場合には、それらのうち、ベースラインからの高さが最も高いピークトップの値を意味する。また、上記(B)における降温結晶化温度(Tcd)とは、400℃で1分保持した後の30℃までの降温過程中にDSCチャートで観測される吸熱ピークのピークトップの値であり、2個以上のピークが存在する場合には、それらのうち、ベースラインからの高さが最も高いピークトップの値を意味する。さらに結晶化エンタルピー(ΔHcd)は上記降温過程で観測される、最も高いピークトップ値を有するピークを積分することにより得られる。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物の融点がこの範囲であると、成形性に優れたプリプレグとすることができる。熱可塑性樹脂組成物の融点が高すぎると、プリプレグを構成する熱可塑性樹脂や含まれる添加剤等が熱分解を引き起こし、得られる複合材料の物性が低下する場合がある。熱可塑性樹脂組成物の融点は345℃以下であることがより好ましく、340℃以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂組成物の融点の下限は、特に制限はないが、耐熱性の観点から、250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。
【0022】
また、降温結晶化温度が、230℃以上であると、繊維強化複合材料を低温、短時間で成形した場合でも、熱可塑性樹脂組成物が結晶化しやすいため、機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。降温結晶化温度が低すぎる場合、熱可塑性樹脂組成物の結晶化が進みにくくなりやすく、得られる繊維強化複合材料の機械物性を低下させる場合がある。降温結晶化温度は、240℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂組成物の降温結晶化温度の上限は、特に制限はないが、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明のもう一つの態様は、少なくとも、強化繊維基材と、前記強化繊維基材に一部又は全部が含浸している熱可塑性樹脂組成物と、から成る熱可塑性樹脂プリプレグであって、前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有し、且つ、第一のPEKKと、第一のPEKKよりも還元粘度の小さい第二のPEKKを含有する熱可塑性樹脂プリプレグである。上記二種類のPEKKを混合することにより、熱可塑性樹脂組成物の結晶性を高めることができ、低温、短時間で成形した場合でも、機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0024】
本発明においては、第一のPEKKと第二のPEKKの還元粘度が下記式(1)および(2)を満たすことが、熱可塑性樹脂組成物の結晶性を高めるために好ましい。
50cm3/g≦第一のPEKKの還元粘度≦200cm3/g ・・・式(1)
2cm3/g≦第二のPEKKの還元粘度≦100cm3/g ・・・式(2)
第一のPEKKの還元粘度がこの範囲内にあると、成形性と得られる複合材料の機械物性を両立した、熱可塑性樹脂プリプレグとすることができる。第一のPEKKの還元粘度が小さすぎると得られる繊維強化複合材料の機械物性を低下させる場合があり、一方、大きすぎると溶融時の粘度が著しく高くなり含浸性を低下させる場合がある。第一のPEKKの還元粘度は、60~180cm3/gであることがより好ましく、70~160cm3/gがさらに好ましい。
【0025】
また、上記第二のPEKKの還元粘度がこの範囲にあると、熱可塑性樹脂の結晶性をより向上させることができる。第二のPEKKの還元粘度は、2.5~90cm3/gであることがより好ましく、3~80cm3/gであることがさらに好ましく、10~60cm3/gであることが特に好ましい。
【0026】
本発明で用いる第二のPEKKの融点は、第一のPEKKよりも20℃以上の高いことが好ましい。
【0027】
また、第一のPEKKと第二のPEKKの質量比率は、99.9995/0.0005~50/50であることが好ましい。二種類のPEKKの混合比率をこの範囲とすることで、熱可塑性樹脂組成物の結晶性をさらに高めることが可能となる。第一のPEKKと第二のPEKKの質量比率は、99.995/0.005~60/40であることがより好ましく、99.95/0.05~80/20であることがさらに好ましく、99.9/0.1~90/10であることが特に好ましい。
【0028】
第一のPEKKおよび第二のPEKKは、いずれも直鎖状、環状、もしくは分岐構造を有していてもよいが、特に、第一のPEKKは、直鎖状の高分子構造を有することが好ましい。
【0029】
本発明のもう一つの様態の熱可塑性樹脂プリプレグは、PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量が100ppm以下の熱可塑性樹脂プリプレグである。PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量が100ppm以下であると、PEKKの結晶性および溶融安定性に優れるため、機械物性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0030】
PEKK中に含まれるアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量は80ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。また、PEKK中に含まれるアルミニウムの量は、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましい。アルミニウム、リン、ナトリウムの合計量の下限は特に限定されないが、0.01ppmであれば十分である。
【0031】
また、PEKK中に含まれるアルミニウムの量は45ppm以下であることが好ましい。PEKK中に含まれるアルミニウムの量が45ppm以下であると、PEKKの結晶性および溶融安定性をより向上させることができるため、機械物性により優れた繊維強化複合材料を得ることができる。アルミニウムの量の下限は特に限定されないが、0.001ppmであれば十分である。
【0032】
本発明において、PEKK中のアルミニウム、リン、ナトリウムの合計量、または/および、アルミニウムの量は、特に限定されないが、PEKK樹脂を洗浄、精製することで低減させることができる。具体的には、再沈殿精製法、ソックスレー抽出法、溶媒を用いた分散系での撹拌洗浄法などをとることができる。このうち、アルミニウム、リン、ナトリウムの除去効果の高さから、再沈殿精製法が好適に用いられる。再沈殿精製法において使用されるPEKKの良溶媒としては、PEKKを溶解させることができる溶媒であれば特に限定されないが、その溶解力の高さや入手の容易性から、濃硫酸が好ましく用いられる。また、再沈殿精製法において使用されるPEKKの貧溶媒は、良溶媒に比べてPEKKの溶解性が低いものであれば特に限定されないが、取り扱いや入手の容易性、精製後PEKKの回収率の高さなどから、水やアルコール類を使用するのが好ましい。
【0033】
本発明のさらなる様態の熱可塑性樹脂プリプレグは、PEKK中に含まれる下記化学式(I)で表される全アリーレンエーテルケトン構造単位のうち、エーテル基がケトン基に対するオルト位でArに結合している構造異性体の比率が1.6%以下である熱可塑性樹脂プリプレグである。
【0034】
【0035】
(ただし、Arは置換基を有していても良いアリーレン基を表す。)
オルト結合を有する構造異性体の含有率が1.6%以下であると、PEKKの結晶性に優れるため、機械物性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。オルト結合を有する構造異性体の含有率は1.5%以下であることがより好ましい。オルト結合を有する構造異性体の含有率の下限は特に限定されないが、0.01%であれば充分である。
【0036】
本発明において、PEKK中のオルト結合を有する構造異性体の含有率を低減する方法は特に限定されないが、PEKK樹脂を洗浄、精製することで低減することができる。具体的には、再沈殿精製法、ソックスレー抽出法、溶媒を用いた分散系での撹拌洗浄法などをとることができる。このうち、オルト結合を有する構造異性体の除去効果の高さや、操作の簡便性、スケールアップの容易さなどの観点から、溶媒を用いた分散系での撹拌洗浄法が好適に用いられる。使用される溶媒は特に限定されないが、その洗浄力の高さや入手の容易性から、アルコール類、ハロゲン化炭素類から選ばれる溶媒が好ましく用いられる。好適なアルコール類としては、メタノール、エタノール、2-プロパノールが例示される。また、好適に使用されるハロゲン化炭素類としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンが挙げられる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグは、強化繊維基材の一部又は全体に上記熱可塑性樹脂組成物が含浸されたプリプレグである。プリプレグ全体における熱可塑性樹脂組成物の含有率は、プリプレグの全質量を基準として、15~60質量%であることが好ましい。樹脂含有率がこの範囲であると、機械物性により優れた繊維強化複合材料を得ることができる。樹脂含有率は、20~55質量%であることが好ましく、25~50質量%であることがより好ましい。樹脂含有率が低すぎる場合、得られる繊維強化複合材料に空隙などが発生し、機械物性を低下させる場合がある。樹脂含有率が高すぎる場合、強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に質量対比機械物性が低いものになる場合がある。
【0038】
上記のような本発明の熱可塑性樹脂プリプレグを用いると、低温、短時間で成形した場合でも、機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0039】
以下に、本発明のプリプレグをさらに詳細に説明する。
(1-1) 強化繊維基材
本発明の強化繊維基材として用いる強化繊維は、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などが挙げられる。
【0040】
これらの強化繊維の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度の繊維強化複合材料が得られる点で、炭素繊維がより好ましい。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
【0041】
強化繊維にPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100~600GPaであることが好ましく、200~500GPaであることがより好ましく、230~450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は、2000MPa~10000MPaであることが好ましく、3000~8000MPaであることがより好ましい。炭素繊維の直径は、4~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、得られる繊維強化複合材料の機械的性質を向上できる。
【0042】
本発明において強化繊維基材は、強化繊維束であってもよく、強化繊維をシート状に形成した強化繊維シートとして用いてもよい。強化繊維をシート状に形成した強化繊維シートを用いることがより好ましい。強化繊維シートとしては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシート(UDシート)や、UDシートを複数、繊維方向を揃えて、または、繊維方向を変えて積層した積層シート、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙を挙げることができる。これらの中でも、強化繊維を連続繊維としてシート状に形成した、UDシートや、積層シート、二方向織物、多軸織物基材を用いると、より機械物性に優れた繊維強化複合材料が得られるため好ましい。シート状の強化繊維基材の厚さは、0.01~3mmが好ましく、0.1~1.5mmがより好ましい。
【0043】
(1-2) 熱可塑性樹脂組成物
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有する。
【0044】
ポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、公知の方法、例えば、ジハロゲン化アシル芳香族化合物とジアリールエーテルの組み合わせによる共重合反応などにより製造することができる(例えば、米国特許第3,065,205号明細書、米国特許第3,441,538号明細書、米国特許第3,442,857号明細書、米国特許第3,516,966号明細書、米国特許第4,704,448号明細書、米国特許第4,816,556号明細書、および米国特許第6,177,518号明細書等参照)。また、市販品を用いることもできる。市販のPEKK樹脂としては、例えば、アルケマ社製の「ケプスタン」や、Gharda Chemicals社製の「GAPEKK」などが挙げられる。
【0045】
本発明に用いるPEKK樹脂は、その構造中に含まれるテレフタロイル基(T)とイソフタロイル基(I)の含有比率(T/I比)が、60/40~100/0であることが好ましい。T/I比がこの範囲にあるときにはPEKKが結晶化することが可能であり、より機械物性に優れた繊維強化複合材料が得られるため好ましい。T/I比は65/35~75/25であることがより好ましい。T/I比は、例えば、製造時の共重合反応に供するジハロゲン化テレフタロイルおよびジハロゲン化イソフタロイルの相対量により調節することができる。
【0046】
また、本発明で用いるPEKK樹脂は、上記の通り、下記化学式(I)で表される全アリーレンエーテルケトン構造単位のうち、エーテル基がケトン基に対するオルト位でArに結合している構造異性体の比率が1.6%以下のPEKK樹脂である。
【0047】
【0048】
(ただし、Arは置換基を有していても良いアリーレン基を表す。)
また、化学式(I)で表される全アリーレンエーテルケトン構造単位のうち、エーテル基がケトン基に対するパラ位でArに結合している構造異性体の比率が90%以上のPEKK樹脂であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。化学式(I)で表される全アリーレンエーテルケトン構造単位のうち、エーテル基がケトン基に対するメタ位でArに結合している構造異性体の比率は、特に制限はないが、5%以下であることが好ましく、0.01~3%であることがより好ましい。
【0049】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物は、PEKKを樹脂組成物に含まれる全熱可塑性樹脂に対して50質量%以上含有していればよく、PEKK樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいても良い。本発明において用いられるPEKK以外の熱可塑性樹脂は、特に制限されないが、融点又はガラス転移温度が、150℃以上の結晶性又は非晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。好ましい樹脂の具体例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリエーテルケトン(PEK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、芳香族又は脂肪族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上併用しても良い。また、これらの共重合体を用いることもできる。
【0050】
(1-3) その他の添加剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、所望物性を付与するための添加剤を任意に配合することができる。
【0051】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物は、全熱可塑性樹脂組成物に対して0.001~20質量%の炭素材料を含有することが好ましい。全熱可塑性樹脂組成物に対して、炭素材料をこの範囲で含有すると、熱可塑性樹脂の結晶性がより向上し、優れた機械物性を有する繊維強化複合材料を得ることができる。炭素材料の含有量が少なすぎる場合は熱可塑性樹脂の結晶性を向上させる効果が得られない場合があり、また、多すぎる場合は、溶融時の粘度が著しく高くなり、強化繊維基材への樹脂組成物の含浸性を低下させる場合がある。全熱可塑性樹脂組成物に対する炭素材料の含有量は0.01~15質量%であることがより好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましく、0.3~7質量%であることが特に好ましく、0.6~5質量%であることが最も好ましい。
【0052】
炭素材料としては、フラーレン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノリボン、カーボンナノファイバー、炭素繊維、活性炭などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭を好適に用いることができる。
また、炭素材料の他に添加剤として、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素などの無機系充填剤や、導電性粒子、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤、無機系充填剤、内部離型剤などを含んでいてもよい。
【0053】
2.プリプレグの製造方法
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法は、強化繊維基材に、上記の熱可塑性樹脂組成物を含浸させるプリプレグの製造方法である。以下に、熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法を詳細に説明する。
(2-1) 熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明に用いる熱可塑性樹脂成物は、PEKKと、必要に応じてその他の成分とを混合することにより製造できる。これらの混合の順序は問わない。
【0054】
本発明において、PEKKと、必要に応じてその他の成分とを混合する方法は特に限定なく、従来公知の方法、例えば、粉体混合法、溶液法、融液法あるいはマスターバッチ法などをとることができる。混練に際しては、溶液状態での混練法あるいは溶融状態での混練法が、均一混練性の観点より好ましい。PEKKと、その他の成分との混合操作は、従来公知の混練装置を使用することができる。混練装置としては、特に限定なく、従来公知の縦型の反応容器、混合槽、混練槽あるいは一軸または多軸の横型混練装置、例えば一軸あるいは多軸のエクストルーダー、ニーダーなどが例示される。
【0055】
溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、生産性等の観点から、320℃以上であることが好ましく、より好ましくは330℃以上である。また、380℃以下であることが好ましく、より好ましくは360℃以下である。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法では、PEKKを混合する前に、PEKK樹脂を洗浄、精製することが好ましい。洗浄、精製方法は、特に限定されるものではないが、例えば、再沈殿精製法、ソックスレー抽出法、溶媒を用いた分散系での撹拌洗浄法、などが挙げられる。このうち、アルミニウム、リン、ナトリウムの除去効果の高さから、再沈殿精製法を用いることがより好ましい。
【0057】
再沈殿精製法において使用されるPEKKの良溶媒としては、PEKKを溶解させることができる溶媒であれば特に限定されないが、その溶解力の高さや入手の容易性から、濃硫酸が好ましく用いられる。また、再沈殿精製法において使用されるPEKKの貧溶媒は、良溶媒に比べてPEKKの溶解性が低いものであれば特に限定されないが、取り扱いや入手の容易性、精製後PEKKの回収率の高さなどから、水やアルコール類を使用するのが好ましい。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法では、PEKKを混合する前に、PEKK樹脂を洗浄、精製することが好ましい。洗浄、精製方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、再沈殿精製法、ソックスレー抽出法、溶媒を用いた分散系での撹拌洗浄法、などが挙げられる。このうち、オルト結合を有する構造異性体の除去効果の高さや、操作の簡便性、スケールアップの容易さなどの観点から、溶媒を用いた分散系での撹拌洗浄法が好適に用いられる。使用される溶媒は特に限定されないが、その洗浄力の高さや入手の容易性から、アルコール類、ハロゲン化炭素類から選ばれる溶媒が好ましく用いられる。好適なアルコール類としては、メタノール、エタノール、2-プロパノールが例示される。また、好適に使用されるハロゲン化炭素類としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンが挙げられる。
【0059】
(2-2) プリプレグの製造方法
本発明のプリプレグの製造方法は、特に制限がなく、従来公知のいかなる方法も採用できる。具体的には、熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムに強化繊維基材を熱融着させる方法(ホットメルト法)、熱可塑性樹脂の溶液またはエマルジョンに強化繊維基材を浸漬、乾燥後に溶融させる方法、熱可塑性樹脂粉末の床中に強化繊維基材を通し付着させた後、加熱融着させる方法、熱可塑性樹脂粉末のサスペンジョン溶液(懸濁溶液)に強化繊維基材を浸漬して、熱可塑性樹脂粉末を基材に付着させた後、加熱溶融させる方法(パウダーサスペンジョン法)などが例示される。この中でも熱可塑性樹脂を強化繊維の内部まで且つ均一に含浸させることができることから、パウダーサスペンジョン法が好ましく用いられる。
【0060】
ホットメルト法を用いる場合、熱可塑性樹脂組成物を樹脂組成物フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを用いて、離型紙やフィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより樹脂組成物フィルムを得ることができる。フィルムを製造する際の樹脂温度は、樹脂組成物の組成や粘度に応じて適宜決定する。樹脂組成物の強化繊維基材への熱融着、繊維層内への含浸は1回で行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。
【0061】
パウダーサスペンジョン法では、粉末状の熱可塑性樹脂組成物を用いる。強化繊維基材への良好な沈着(繊維間あるいは繊維表面に樹脂粉末が保持された状態)を考慮すると、熱可塑性樹脂粉末の粒子径は50μm以下で、取扱性の点からは1μmを下回らないのが良く、平均粒子径が5~50μmの範囲のものがより好ましい。上記粒度範囲の熱可塑性樹脂粉末は、下述の液体に分散させたとき、その分散性(サスペンジョン中の樹脂粉末の分散性)が安定しており、長時間生産においても、強化繊維基材に樹脂粉末を安定的に沈着できる。なお、上記の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を用いて測定される粒度分布の累積50体積%粒子径(D50)の値を言う。
【0062】
パウダーサスペンジョン法においは、熱可塑性樹脂粉末を分散させるため液体を用いることが好ましい。用いられる液体としては、水、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭素水素類から選ばれた1種若しくは2種以上の溶媒又は混合溶媒が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルセルソルブ等が、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が、ハロゲン化炭化水素類としては、塩化メチレン、ジクロロエタン等が挙げられる。中でも好ましいのは、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンあるいはそれらと水との混合溶媒、又は水である。また、上記溶媒を含有し、好適な溶媒組成を有する市販品を使用することもでき、そのような市販品としてソルミックス(製品名、日本アルコール販売(株)製)が例示される。かかる液体は、強化繊維基材を適度に開繊させるという作用もあるので、サスペンジョン中の樹脂粉末が繊維基材に均一に沈着するのに効果的である。
【0063】
熱可塑性樹脂粉末とそれを分散させるための液体(溶媒)との組み合わせは、溶媒が、熱可塑性樹脂に対して貧溶媒であることが好ましく、溶解しないものであることが好ましい。
【0064】
サスペンジョン中の熱可塑性樹脂の濃度[熱可塑性樹脂質量/(液体質量+熱可塑性樹脂質量)×100]は、1~50質量%であることが好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。
【0065】
強化繊維基材を浸漬させるときのサスペンジョンの温度は、樹脂の分散状態が良好に保たれる限り特に制限はなく、また、用いられる熱可塑性樹脂や液体の種類、濃度によって異なるが、通常は5~50℃、好ましくは5~30℃、さらに好ましくは15~30℃である。
【0066】
強化繊維基材に付着させる熱可塑性樹脂粉末の量は、強化繊維と熱可塑性樹脂粉末との合計量に対して10~70質量%であることが好ましく、プリプレグの製造上は20~50質量%がより好ましい。
【0067】
このように熱可塑性樹脂粉末を付着させた強化繊維基材は、通常、熱可塑性樹脂が分解または反応しない温度で乾燥される。乾燥温度は、80~200℃であることが好ましく、乾燥時間は1~20分間であることが製造上好ましい。
【0068】
熱可塑性樹脂粉末の付着した強化繊維基材は、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度または融点よりも低くない温度で加熱される。この処理により、熱可塑性樹脂粉末が、軟化または溶融し、強化繊維と熱可塑性樹脂組成物が一体化することにより、熱可塑性樹脂プリプレグが得られる。熱可塑性樹脂粉末の付着した強化繊維基材の加熱方法は、特に制限はなく、加熱ローラー、加熱スリット、熱プレス装置、乾燥機などを用いることができる。
【0069】
上記のような本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法によれば、低温、短時間で成形した場合でも、機械強度に優れた繊維強化複合材料を与える熱可塑性樹脂プリプレグを得ることができる。
【0070】
3.繊維強化複合材料
本発明の繊維強化複合材料は、少なくとも、強化繊維基材と、上記の熱可塑性樹脂組成物と、から成る繊維強化複合材料である。本発明の繊維強化複合材料の成形方法としては、特に限定しないが、例えば、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法が挙げられ、これらを組み合わせて用いることができる。本発明のプリプレグを用いて繊維強化複合材料を成形することが好ましい。
【0071】
本発明の繊維強化複合材料は、低コストで成形でき、かつ、機械強度に優れるため、自動車、航空機、電気・電子機器、スポーツ・レジャー用品などの用途に好適に適用できる。これらの中でも、本発明の繊維強化複合材料は航空・宇宙分野等の部材に特に好適に用いることができる。
【0072】
上記のような本発明の熱可塑性樹脂プリプレグを用いると、低温、短時間で成形した場合でも、機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する樹脂組成物の各成分や評価方法を以下に記載する。
〔成分〕
(PEKK樹脂)
・PEKK-1A:PEKK樹脂粒子、Kepstan PT7002(製品名)、Tm=334.0℃、還元粘度=100.2cm3/g、T/I比率=70/30、アルケマ社製
・PEKK-1B:PEKK樹脂粒子、Kepstan 7003(製品名)、Tm=331.0℃、還元粘度:83.9cm3/g、T/I比率=70/30、アルケマ社製
・PEKK-2A:下記製造例1により得られたPEKK樹脂、Tm=399.7℃、還元粘度:43.4cm3/g、T/I比率=100/0
・PEKK-2B:下記製造例2により得られたPEKK樹脂、Tm=214.3℃、還元粘度:3.6cm3/g、T/I比率=100/0
・PEKK-2C:PEKK樹脂粒子、GAPEKK 8-3200P(製品名)、Tm=367.0℃、還元粘度:121.8cm3/g、T/I比率=80/20、Gharda Chemicals社製
【0074】
〔製造例1〕PEKK-2Aの製造
撹拌機を備えた反応容器に、1,2-ジクロロエタン125ml、ジフェニルエーテル1.70g(0.010mol)、テレフタル酸クロリド2.03g(0.010mol)を仕込み、撹拌しながら均一な溶液とし、氷浴中で内温が-5℃以下になるまで冷却した。-5℃以下に冷却後、この溶液に塩化アルミニウム3.72g(0.028mol)を加え、約2時間かけて内温が室温(約20℃)になるまで昇温し、内温が室温に到達してから6時間撹拌を継続した。得られた反応液を氷水に加え、生成した固体をろ過、回収した。得られた固体をメタノールで終夜還流洗浄、およびろ過することにより目的とするPEKK-2Aを得た。
【0075】
〔製造例2〕PEKK-2Bの製造
撹拌機を備えた反応容器に、1,2-ジクロロエタン600mlおよびジフェニルエーテル20.3g(0.12mol)を仕込み、撹拌しながら均一な溶液とし、氷浴中で内温が-5℃以下になるまで冷却した。-5℃以下に冷却後、この溶液に塩化アルミニウム17.8g(0.13mol)およびテレフタル酸クロリド9.70g(0.048mol)を加え、約2時間かけて内温が室温(約20℃)になるまで昇温し、内温が室温に到達してから6時間撹拌を継続した。得られた反応液を氷水に加え、生成した固体をろ過、回収した。得られた固体をメタノールで終夜還流洗浄、およびろ過することにより目的とするPEKK-2Bを得た。
【0076】
(その他PAEK樹脂)
・PEEK-1:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、VESTAKEEP1000G(製品名)、Tm=345.6℃、還元粘度:64.7cm3/g、ダイセル・エボニック株式会社製
・PEEK-2:PEEK樹脂、VESTAKEEP2000G(製品名)、Tm=343.8℃、還元粘度:71.4cm3/g、ダイセル・エボニック株式会社製
【0077】
(強化繊維)
・炭素繊維:テナックス(登録商標) HTS45 P12 12K 800tex、フィラメント数12,000本、引張強度4500MPa、引張弾性率240GPa、帝人株式会社製
【0078】
[評価方法]
(1)融点、結晶化エンタルピー、降温結晶化温度
得られた樹脂組成物からサンプルを採取し、示唆捜査熱量計(DSC)として、TAインスツルメント社製 示唆捜査熱量計 Q2000を用い、以下の条件にてDSC測定を実施した。
【0079】
融点(Tm)は、下記測定条件における昇温過程中にDSCチャートに現れる吸熱ピークのピークトップの値を読み取った。2個以上のピークが存在する場合には、それらのうち、ベースラインからの高さが最も高いピークトップの値を融点とした。
【0080】
降温結晶化温度(Tcd)は、下記測定条件における降温過程中に観測される吸熱ピークのピークトップの値を読み取った。2個以上のピークが存在する場合には、それらのうち、ベースラインからの高さが最も高いピークトップの値を降温結晶化温度とした。
【0081】
結晶化エンタルピー(ΔHcd)は降温過程で観測される、最も高いピークトップ値を有するピークを積分し算出した。
測定条件
雰囲気:窒素雰囲気
昇温条件
昇温速度:10℃/分
温度範囲:30℃から400℃
降温条件
降温速度:50℃/分
温度範囲:400℃から30℃
昇温後(400℃到達後)1分間保持した後、降温を開始した。
【0082】
(2)還元粘度(ηsp/C)
各成分の還元粘度を下記条件にて測定、算出した。
粘度計:オストワルド型粘度計
溶媒:硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、精密分析用)
サンプル濃度:0.001g/cm3(サンプル質量/硫酸容量)
測定温度:30℃
ηsp/C計算式:ηsp/C=[(t/t0)-1]/C
t:サンプル溶液の通過時間(秒)
t0:溶媒の通過時間(秒)
C:溶液濃度(g/cm3)
【0083】
(3)元素含有量
PEKK樹脂中のアルミニウム、リン、ナトリウム含有量は、ICP発光分光分析法による元素分析により測定した。
【0084】
PEKKサンプル0.5gを電熱器で炭化した後、750℃の電気炉で灰化させた。灰化させたサンプルを塩酸で乾固した後、塩酸に溶解させた。ついで、50mlメスフラスコを用いて、得られた溶液を純水で希釈したものを検液として使用し、ICP発光分光分析法にて各成分の含有量を測定した。ICP発光分析の装置としては、アジレント・テクノロジー株式会社製マルチ型ICP発行分析装置Agilent5100 ICP-OESを用いた。
【0085】
(4)アリーレンエーテルケトンの構造異性体比率
PEKK樹脂中のアリーレンエーテルケトン構造の構造異性体の比率は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定により算出した。測定装置として、NMR装置(日本電子株式会社製 JNM-ECA600)を用い、PEKKサンプル10mgを重水素化トリフルオロ酢酸:重水素化クロロホルム=1:1の混合溶媒0.6mlに溶解し、室温で1H-NMRを測定した。
【0086】
得られたスペクトルから、下記算出法に従い構造異性体比率を算出した。なお、得られたスペクトルから、以下の化学式(II)~(IV)に記載の各水素に由来するピークの帰属を、「Polymer、vol.38、No.14、p.3441、1997」を参照して行った。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
オルト結合を有する構造異性体の比率=So/(So+Sp+Sm)
メタ結合を有する構造異性体の比率=Sm/(So+Sp+Sm)
パラ結合を有する構造異性体の比率=Sp/(So+Sp+Sm)
So:ケミカルシフト7.2ppmのH4
oに帰属されるピークの積分値と7.5ppmのH5
oに帰属されるピークの積分値の和を2で除した値
Sp:ケミカルシフト7.3~7.4ppmのピークからクロロホルムとH3
oの積分値を引いた、H1
pに帰属される積分値を2で除した値
Sm:ケミカルシフト7.0ppmのH7
mに帰属されるピークの積分値
【0091】
(5)平均粒子径
平均粒子径は、日機装株式会社製 レーザー回折・散乱式の粒度分析計マイクロトラックを用いて、粒度分布[累積10体積%粒径(D10)、累積50体積%粒径(D50)、累積90体積%粒径(D90)]の測定を実施し、累積50体積%粒径(D50)を平均粒子径とした。
(6)層間せん断強度(ILSS)
得られたプリプレグを0°方向に100mm、90°方向に100mmの正方形にカットした後、繊維の配向方向が同じ方向になるようにして10枚積層した。この積層体を385℃に設定したプレス機内に設置し、2MPaの圧力下、5分間プレス成型し、その後室温下で放冷することにより、厚み2mmの炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の成形板を作製した。作製した成形板から、0°方向に長さ14mm、90°方向に10mmの試験片を切り出すことで、ILSS測定用の試験片を得た。ILSS測定および算出はJIS K7078に準拠し実施した。
【0092】
繊維強化複合材料の層間せん断強度(ILSS)は75MPa以上であることが好ましく、85MPa以上であることがより好ましく、95~150MPaであることが特に好ましい。
【0093】
(実施例1)
PEKK-1A(100質量部)とPEKK-2A(1質量部)を380℃で溶融混練し、チップ状の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物のDSC測定結果を表1に記載した。次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物チップを粉砕し、平均粒子径が20μmの熱可塑性樹脂組成物粉末を得た。得られた粉末を混合溶剤ソルミックスAP-7(製品名、エタノールを取材とする混合溶剤、日本アルコール販売株式会社製)に分散させ、5.5質量%濃度のサスペンジョン溶液を調製した。
【0094】
強化繊維基材として、炭素繊維を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が194g/m2になるよう炭素繊維の引き揃えシートを調製した。得られた強化繊維基材2枚を、上記サスペンジョンを満たしたサスペンジョン浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚の基材を重ねて1枚の積層シートとしてサスペンジョン浴槽から導出した。得られた積層シートを150℃で5分間乾燥させた。
【0095】
引き続いて、積層シートを表面温度が380℃のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させることにより熱可塑性樹脂プリプレグを得た。得られたプリプレグ中の樹脂含有率は35質量%であった。こうして得られたプリプレグを用いて複合材料を製造し、その層間せん断強度(ILSS)を測定した。測定結果を表1に記載した。
【0096】
実施例1で得られた複合材料は、ILSSが110MPaであり、優れた物性を示した。
【0097】
(実施例2~6)
PEKK樹脂として、表1に記載の成分組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物および熱可塑性樹脂プリプレグを得た。得られた熱可塑性樹脂組成物のDSC測定結果、および、プリプレグを用いて得られた複合材料のILSS測定結果を表1に示した。実施例2~6で得られた複合材料は、どちらも優れた物性を示した。
【0098】
(比較例1~5)
熱可塑性樹脂組成物の成分組成を表1に示す組成に変えた以外は実施例1と同様の操作で熱可塑樹脂組成物、および熱可塑性樹脂プリプレグを調製した。得られた熱可塑性樹脂組成物のDSC測定結果、および、プリプレグを用いて得られた複合材料のILSS測定結果を表1に示した。比較例1~5で得られた複合材料のILSSは実施例と比べて低く、物性は不十分であった。
【0099】
【0100】
(実施例7)
1質量部のPEKK-1Aに対し、50質量部の硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え溶解させ、得られた均一溶液を750質量部の蒸留水(富士フイルム和光純薬株式会社製)にゆっくりと滴下した。ここで析出した固体を回収、乾燥することにより再沈殿精製したPEKKを得た。得られた精製済みPEKKは形状や大きさが不均一であった。精製後のPEKK樹脂の還元粘度、アルミニウム、リン、ナトリウム含有量およびDSCを測定した結果を、表2に示した。
【0101】
精製済みPEKKを380℃で溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物チップを作製し、さらに粉砕することにより、平均粒子径が20μmの熱可塑性樹脂組成物粉末を得た。得られた粉末を混合溶剤ソルミックスAP-7(製品名、エタノールを取材とする混合溶剤、日本アルコール販売株式会社製)に分散させ、5.5質量%濃度のサスペンジョン溶液を調製した。
【0102】
強化繊維基材として、炭素繊維を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が194g/m2になるよう炭素繊維の引き揃えシートを調製した。得られた強化繊維基材2枚を、サスペンジョン溶液を満たしたサスペンジョン浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚の基材を重ねて1枚の積層シートとしてサスペンジョン浴槽から導出した。得られた積層シートを150℃で5分間乾燥させた。
【0103】
引き続いて、積層シートを表面温度が380℃のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させることにより熱可塑性樹脂プリプレグを得た。得られたプリプレグ中の樹脂含有率は35質量%であった。こうして得られたプリプレグを用いて複合材料を製造し、その層間せん断強度(ILSS)を測定した。測定結果を表2に記載した。
【0104】
実施例7で得られた複合材料は、ILSSが97MPaであり、優れた物性を示した。
【0105】
(実施例8)
PEKK-1Bを使用した以外は実施例7と同様の操作を行い、熱可塑樹脂組成物粉末、および熱可塑性樹脂プリプレグを調製した。精製後のPEKK樹脂の還元粘度、アルミニウム、リン、ナトリウム含有量およびDSCを測定した結果を、表2に示した。
【0106】
得られた熱可塑性樹脂プリプレグを用いて複合材料を製造し、そのILSSを測定した。ILSSの測定結果を表2に示した。実施例8で得られた複合材料は、ILSSが103MPaであり、優れた物性を示した。
【0107】
(比較例6)
PEKK樹脂の精製処理を行わなかった以外は、実施例7と同様の操作を行い、熱可塑樹脂組成物粉末、およびプリプレグを調製した。用いたPEKK樹脂の還元粘度、アルミニウム、リン、ナトリウム含有量およびDSCを測定した結果を、表2に示した。
【0108】
得られた熱可塑性樹脂プリプレグを用いて複合材料を製造し、そのILSSを測定した。測定結果を表2に示した。比較例6で得られた複合材料は、ILSSが65MPaであり、物性が不十分であった。
【0109】
(比較例7)
PEKK樹脂の精製処理を行わなかった以外は、実施例8と同様の操作を行い、熱可塑樹脂組成物粉末、および熱可塑性樹脂プリプレグを調製した。用いたPEKK樹脂の還元粘度、アルミニウム、リン、ナトリウム含有量およびDSCを測定した結果を、表2に示した。
【0110】
得られた熱可塑性樹脂プリプレグを用いて複合材料を製造し、そのILSSを測定した。測定結果を表2に示した。比較例7で得られた複合材料は、ILSSが72MPaであり、物性が不十分であった。
【0111】
【0112】
(実施例9)
1質量部のPEKK-1Aに対し、100質量部のクロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、得られた分散液を還流条件下で約3時間撹拌した。冷却後、分散液を濾過することによりPEKK粉末を得た。得られたPEKK粉末について、再度上記と同様のクロロホルム洗浄を行い、次いで濾過、乾燥することにより、平均粒子径が20μmの精製済み熱可塑性樹脂組成物粉末を得た。精製後のPEKK樹脂の還元粘度、構造異性体比率およびDSCを測定した結果を、表3に示した。
【0113】
得られた熱可塑性樹脂粉末を混合溶剤ソルミックスAP-7(製品名、エタノールを取材とする混合溶剤、日本アルコール販売株式会社製)に分散させ、5.5質量%濃度のサスペンジョン溶液を調製した。
【0114】
ついで、強化繊維基材として、炭素繊維を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が194g/m2になるよう炭素繊維の引き揃えシートを調製した。得られた強化繊維基材2枚を、上記サスペンジョン溶液を満たしたサスペンジョン浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚の基材を重ねて1枚の積層シートとしてサスペンジョン浴槽から導出した。得られた積層シートを150℃で5分間乾燥させた。
【0115】
引き続いて、積層シートを表面温度が380℃のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させることにより熱可塑性樹脂プリプレグを得た。得られたプリプレグ中の樹脂含有率は35質量%であった。こうして得られたプリプレグを用いて複合材料を製造し、その層間せん断強度(ILSS)を測定した。測定結果を表3に記載した。
【0116】
実施例9で得られた複合材料は、ILSSが90MPaであり、優れた物性を示した。
【0117】
(実施例10)
PEKK-1Bを使用した以外は実施例9と同様の操作を行い、熱可塑樹脂組成物粉末、および熱可塑性樹脂プリプレグを調製した。精製後のPEKK樹脂の還元粘度、構造異性体比率およびDSCを測定した結果を、表3に示した。
【0118】
得られた熱可塑性樹脂プリプレグを用いて複合材料を製造し、そのILSSを測定した。ILSSの測定結果を表3に示した。実施例10で得られた複合材料は、ILSSが92MPaであり、優れた物性を示した。
【0119】
(比較例8)
PEKK樹脂の精製処理を行わなかった以外は実施例9と同様の操作を行い、熱可塑樹脂組成物粉末、および熱可塑性樹脂プリプレグを調製した。精製後のPEKK樹脂の還元粘度、構造異性体比率およびDSCを測定した結果を、表3に示した。
【0120】
得られた熱可塑性樹脂プリプレグを用いて複合材料を製造し、そのILSSを測定した。ILSSの測定結果を表3に示した。比較例8で得られた複合材料は、ILSSが65MPaであり、物性が不十分であった。
【0121】
(比較例9)
PEKK樹脂の精製処理を行わなかった以外は実施例10と同様の操作を行い、熱可塑樹脂組成物粉末、および熱可塑性樹脂プリプレグを調製した。精製後のPEKK樹脂の還元粘度、構造異性体比率およびDSCを測定した結果を、表3に示した。
【0122】
得られた熱可塑性樹脂プリプレグを用いて複合材料を製造し、そのILSSを測定した。ILSSの測定結果を表3に示した。比較例9で得られた複合材料は、ILSSが72MPaであり、物性が不十分であった。
【0123】
【0124】
(実施例11)
1質量部のPEKK-1Aに対し、50質量部の硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え溶解させ、得られた均一溶液を750質量部の蒸留水(富士フイルム和光純薬株式会社製)にゆっくりと滴下した。ここで析出した固体を回収、乾燥することにより再沈殿精製したPEKKを得た。ついで、硫酸精製後のPEKK-1A 1質量部に対し、100質量部のクロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え、得られた分散液を還流条件下で約3時間撹拌した。冷却後、分散液を濾過することによりPEKK粉末を得た。得られたPEKK粉末について、再度上記と同様のクロロホルム洗浄を行い、次いで濾過、乾燥し精製済みPEKK-1A粉末を得た。精製後のPEKK樹脂の還元粘度は106.3cm3/gであり、元素含有量はアルミニウム 4.0ppm、リン 0.4ppm、ナトリウム 1.3ppmであった。また、構造異性体比率は、オルト1.3%、メタ1.0%、パラ97.7%であった。
【0125】
次いで、硫酸及びクロロホルムで精製したPEKK-1A(100質量部)とPEKK-2A(1質量部)を380℃で溶融混練し、チップ状の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物のDSC測定を行った結果、融点(Tm)が334.2℃、結晶化エンタルピー(ΔHcd)が32.8J/g、降温結晶化温度が285.4℃の熱可塑性樹脂組成物であった。
【0126】
次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物チップを粉砕し、平均粒子径が20μmの熱可塑性樹脂組成物粉末を得た。得られた粉末を混合溶剤ソルミックスAP-7(製品名、エタノールを取材とする混合溶剤、日本アルコール販売株式会社製)に分散させ、5.5質量%濃度のサスペンジョン溶液を調製した。
【0127】
強化繊維基材として、炭素繊維を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が194g/m2になるよう炭素繊維の引き揃えシートを調製した。得られた強化繊維基材2枚を、上記サスペンジョンを満たしたサスペンジョン浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚の基材を重ねて1枚の積層シートとしてサスペンジョン浴槽から導出した。得られた積層シートを150℃で5分間乾燥させた。
【0128】
引き続いて、積層シートを表面温度が380℃のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させることにより熱可塑性樹脂プリプレグを得た。得られたプリプレグ中の樹脂含有率は35質量%であった。こうして得られたプリプレグを用いて複合材料を製造し、その層間せん断強度(ILSS)を測定した。実施例11で得られた複合材料は、ILSSが115MPaであり、優れた物性を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0129】