(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】配向性に優れたポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20221206BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20221206BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08G73/10
C01B32/205
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2021531044
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 KR2019014273
(87)【国際公開番号】W WO2020111529
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152538
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0073519
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム・キュン ス
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ドン ユン
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-232587(JP,A)
【文献】国際公開第2005/023713(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/007510(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1883434(KR,B1)
【文献】特開2003-165850(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C01B 32/205
C08J 5/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトシートを製造するためのポリイミドフィル
ムであって、
50μmの厚さであるときの分子配向化度(Molecular Orientation Ratio)が
1.25ないし1.32であり、
数平均分子量に対する重量平均分子量の比(PDI)が1.8ないし3.0であるポリアミド酸のイミド化物であることを特徴とする
ポリイミドフィルム。
【請求項2】
厚さ
が20μmない
し100μmのものである、請求項1に記載の
ポリイミドフィルム。
【請求項3】
50μmの厚さであるときの分子配向化度(Molecular Orientation Ratio)が
1.25ないし1.32であり、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(PDI)が1.8ないし3.0であるポリアミド酸のイミド化物であるポリイミドフィルムを炭化、黒鉛化、または、炭化および黒鉛化することを含む、グラファイトシートの製造方法。
【請求項4】
前記炭化は
、800℃ない
し1500℃の温度
で1時間ない
し20時間の間行われるものである、請求項
3に記載のグラファイトシートの製造方法。
【請求項5】
前記黒鉛化は
、2,500℃ない
し3,000℃の温度まで昇温して熱処理するステップを含むものである、請求項
3に記載のグラファイトシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向性に優れたポリイミドフィルムの製造方法、これから製造されるポリイミドフィルムおよびこれを用いて製造されたグラファイトシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の電子機器は、次第に、その構造が軽量化、小型化、薄型化および高集積化しているので、単位体積当たりの発熱量が増加して熱負荷による多くの問題が生じており、代表的な問題としては、電子機器の熱負荷による半導体の演算速度の低下とバッテリーの劣化による寿命の短縮などの電子機器の性能に直接的な影響を与えることなどが例として挙げられる。
このような理由により、電子機器の効果的な放熱は、非常に重要な課題のうち一つとして浮上している。
前記電子機器に使用される放熱手段として熱伝導度に優れたグラファイトが注目されており、その中でも、シート状に加工しやすく、銅やアルミニウムの熱伝導度と比較して約2倍ないし約7倍の優れた熱伝導度を有する人工グラファイトシートが脚光を浴びている。
このような人工グラファイトシートは、一般的に高分子の炭化工程と黒鉛化工程を通じて得ることができ、高分子の中でも、約400℃以上の温度に耐え得る耐熱性高分子がグラファイト前駆体として使用されてもよい。このような耐熱性高分子の代表的な例としては、ポリイミド(polyimide、PI)を挙げることができる。
ポリイミドは、硬直な芳香族主鎖と共に化学的安定性に非常に優れたイミド環を基にして、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐薬品性、耐候性を有する高分子材料であって、人工グラファイトシートの製造の際に優れた収率、結晶化度および熱伝導度を可能にして最適のグラファイト前駆体として知られている。
一般的に、人工グラファイトシートの物性は、前記グラファイト前駆体であるポリイミドの物性に大きく影響を受けることが知られており、人工グラファイトシートの物性を向上させるためのポリイミドの改良が盛んに行われており、特に、人工グラファイトシートの熱伝導度を向上するための様々な研究が進みつつある。
それにもかかわらず、放熱による電子機器の性能の向上を顕著に導き出すことができる非常に高い熱伝導度を有する人工グラファイトシートおよびその実現を可能にするポリイミドの開発に著しい結果が出ていない状況である。
したがって、所望の熱伝導度を有する人工グラファイトシートおよびその実現を可能にするポリイミドの開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の一側面において、本発明の製造方法は、ポリアミド酸重合のための単量体の反応時間を最適に制御し、ポリイミドフィルムの前段階であるフィルムの中間体を、最適の工程条件の下で熱処理することによって、高分子鎖が密集した状態で一定の方向に配向しているポリイミドフィルムを製造することができる。
本発明によって製造されるポリイミドフィルムは、分子配向化度(Molecular Orientation Ratio)が約1.25以上で配向性に優れており、これは、後述するように、以降に製造されるグラファイトシートが優れた熱伝導度を発現することにつながり得る。
このような側面によって、前述の従来の問題を解決することができ、そこで、本発明は、その具体的な実施例を提供するに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一つの実施態様において、本発明は、
ポリイミドフィルムの製造方法であって、
(a)第1単量体を有機溶媒に溶解させるステップ;
(b)前記第1単量体の全モル数に対して、第2単量体のモル数が、約93ないし約99モル%を成すように、前記第2単量体を、前記第1単量体が溶解された有機溶媒中に分割投入し、所定の時間の間静置して重合物を製造するステップ;
(c)前記第1単量体および第2単量体が実質的に等モルを成すように、前記第2単量体を、前記(b)ステップで製造された重合体にさらに添加するステップ;
(d)前記(c)ステップで製造された重合物を、所定の時間の間静置してポリアミド酸を含有する前駆体組成物を得るステップ;および
(e)前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップを含み、
前記(b)ステップでの所要時間(Tb)、(c)ステップでの所要時間(Tc)および(d)ステップでの静置時間(Td)の割合(Tb:Tc:Td)が、約1.0ないし約1.5:約1.5ないし約2.5:約0.05ないし約0.15である、ポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、前記製造方法で製造され、分子配向化度(Molecular Orientation Ratio)が約1.25以上であるポリイミドフィルムを提供する。
一つの実施態様において、本発明は、前記ポリイミドフィルムを炭化および/または黒鉛化して製造され、熱伝導度が約1,400W/m・K以上であるグラファイトシートを提供する。
【0005】
以下では、本発明に係る「ポリイミドフィルムの製造方法」および「ポリイミドフィルム」の順に発明の実施形態をより詳述する。
これに先立ち、本明細書および請求の範囲で使用される用語や単語は通常的または辞典的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は、その自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に立脚して、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎないだけで、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないため、本出願時点においてこれらに置き換えられる様々な均等物と変形例が存在し得ることを理解しなければならない。
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なることを意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素、または、これらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするのであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、または、これらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。
本明細書において、「ジアンハイドライド(二無水物;dianhydride)」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアンハイドライドでなくてもよいが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミド酸を形成するものであり、このポリアミド酸は、再びポリイミドに変換することができる。
本明細書において、「ジアミン(diamine)」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアミンでなくてもよいが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミド酸を形成するものであり、このポリアミド酸は、再びポリイミドに変換することができる。
本明細書において、量、濃度、または、他の値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または、好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかにかかわらず、任意の一対の任意の上範囲の限界値、または、好ましい値および任意の下範囲の限界値、または、好ましい値で形成され得るすべての範囲を具体的に開示するものと理解されなければならない。数値の範囲が本明細書で言及される場合、異に記述されなければ、その範囲は、その終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する場合に言及される特定の値に限定されないものと意図される。
本明細書において、数値の範囲を表す「aないしb」において、「ないし」は、≧aで、かつ、≦bであると定義する。
【0006】
ポリイミドフィルムの製造方法
本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
(a)第1単量体を有機溶媒に溶解させるステップ;
(b)前記第1単量体の全モル数に対して、第2単量体のモル数が、約93ないし約99モル%(例えば、約93、約94、約95、約96、約97、約98または約99モル%)を成すように、前記第2単量体を、前記第1単量体が溶解された有機溶媒中に分割投入し、所定の時間の間静置して重合物を製造するステップ;
(c)前記第1単量体および第2単量体が実質的に等モルを成すように、前記第2単量体を、前記(b)ステップで製造された重合体にさらに添加するステップ;
(d)前記(c)ステップで製造された重合物を、所定の時間の間静置してポリアミド酸を含有する前駆体組成物を得るステップ;および
(e)前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップを含み、
前記(b)ステップでの所要時間(Tb)、(c)ステップでの所要時間(Tc)および(d)ステップでの静置時間(Td)の割合が、約1.0ないし約1.5(例えば、約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4または約1.5):約1.5ないし約2.5(例えば、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2.0、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4または約2.5):約0.05ないし約0.15(例えば、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.10、約0.11、約0.12、約0.13、約0.14または約0.15)であってもよい。
【0007】
前記割合を満足するとき、前記前駆体組成物に含まれるポリアミド酸は、数平均分子量に対する重量平均分子量の比(poly dispersity index、PDI)が、約1.8ないし約3.0(例えば、約1.8、約1.9、約2、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9または約3.0)、詳細には、約1.8ないし約2.5、特に詳細には、約2.0ないし約2.5であってもよい。
一般的に、「PDI」が高いほど、互いに異なる分子量を有する高分子鎖の分子量分布度(数平均分子量および重量平均分子量)がより広い面積を有することができる。
これに関連して、PDIが高いポリアミド酸は、通常のポリアミド酸と比較すると、相対的に小さい分子量を有する、例えば、分子量が下位約1%ないし約40%(例えば、約1、約10、約20、約30または約40%)に属している高分子鎖(例えば、高分子短鎖);および/または
比較的大きい分子量を有する、例えば、上位約60%ないし約100%(例えば、約60、約70、約80、約90または約100%)に属している高分子鎖(例えば、高分子長鎖)を相対的に多く含むことがあり、前記高分子長鎖および高分子短鎖間の分子量の差も比較的大きいことがある。
ポリアミド酸のPDIが、本発明の範囲に属するとき、高分子短鎖および高分子長鎖が適正な水準にポリアミド酸中に分布することができる。
ここで、適正な水準とは、鎖長さが長い高分子長鎖の間に鎖長さが短い高分子短鎖が位置するに有利な程度、水準、状態または現象を意味することができる。
【0008】
このように、高分子短鎖が長鎖の間に位置する状態がポリアミド酸に多数存在するほど、ポリアミド酸を成す高分子鎖の配列構造が比較的密集した形態であり、高分子鎖が一定の方向に向けて並んで配向する可能性が高い。
このように密集した形態および配向した配列構造を有する高分子鎖は、ポリアミド酸のアミド酸基がイミド基に変換されて製造されるポリイミドフィルムでも、その状態を維持してポリイミド高分子鎖を形成することができる。
また、このようなポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、前記ポリイミド高分子鎖が炭化および黒鉛化して生成される複数のグラファイト層を含むことができ、前記のような配列構造を内在したポリイミドの高分子鎖から由来したグラファイト層は、他の層と隣接して位置することによって、優れた熱伝導の発現に有利なグラファイト結晶構造を形成することができる。
まとめると、本発明の製造方法によって製造されるポリアミド酸は、PDIが、本発明の範囲に属しており、高分子鎖が好ましい配列構造を成していて、このポリアミド酸から由来したポリイミドフィルムは配向性に優れており、前記ポリイミドフィルムを用いて製造されたグラファイトシートは、少なくとも約1,400W/m・K以上、例えば、約1,400、約1,410、約1,420、約1,430、約1,440または約1,450W/m・K以上、他の例としては、約1,400ないし2,000W/m・K、他の例としては、約1,400ないし1,500W/m・K、他の例としては、約1,400ないし1,460W/m・K、他の例としては、約1,400ないし1,450.6W/m・Kの優れた熱伝導度を発現することができる。
換言すると、グラファイトシートの高い熱伝導度を達成するためには、前述の好ましい配列構造を成す高分子鎖を含むポリアミド酸が最も基礎的構成であって、重要な位置にあることを理解することができる。
【0009】
以下で明らかに証明するが、本発明に係る製造方法は、Tb:Tc:Tdが最適の割合を成し、後に詳述する(b)、(c)、(d)ステップに最適化した条件は、例えば、第2単量体の分割投入回数、分割投入間隔および静置時間などの工程条件が複合的に作用することによって、前記特徴を内在するポリアミド酸を実現することができると推測される。
本発明において、前記(b)ステップと前記(c)ステップとは、前記(c)ステップで第2単量体を最初に投入する時点を基準として区分することができる。
したがって、前記(b)ステップでの所要時間(Tb)は、第2単量体の最初投入時点から、前記(c)ステップで第2単量体を最初に投入する時点までを意味することができる。また、(b)ステップの静置は、前記(b)ステップで第2単量体の最後投入が完了した時点から、前記(c)ステップで第2単量体を最初に投入する時点までを意味し、(c)ステップで第2単量体を最初に投入した時点で完了および終了したものとみなすことができる。
前記(c)ステップでの所要時間(Tc)は、前記(c)ステップで第2単量体を最初に投入した時点から、前記(c)ステップで第2単量体を最後に投入して第2単量体の投入が完全に終了した時点までを意味することができる。
このとき、第2単量体の投入が完全に終了した時点は、実質的に第2単量体を全く投入しないことを意味するが、前記第1単量体および第2単量体が実質的に等モルを成すとき、第2単量体の投入を終了することができる。
前記(c)ステップにおいて、前記第1単量体および第2単量体が実質的に等モルを成すように、第2単量体を添加することは、第1単量体の全モル数に対して、第2単量体のモル数が、約99.8モル%ないし約100.2モル%(例えば、約99.8、約99.9、約100、約100.1または約100.2モル%)を成すように、第2単量体が添加されることを意味することができる。第2単量体の投入量は、前記第1単量体の全モル数に対して、約1.2モル%ないし約7.2モル%(例えば、約1.2、約1.4、約1.6、約1.8、約2、約2.2、約2.4、約2.6、約2.8、約3、約3.2、約3.4、約3.6、約3.8、約4、約4.2、約4.4、約4.6、約4.8、約5、約5.2、約5.4、約5.6、約5.8、約6、約6.2、約6.4、約6.6、約6.8、約7または約7.2モル%)、詳細には、約3モル%ないし約5モル%であってもよい。
前記(d)ステップでの静置時間(Td)は、前記(c)ステップで第2単量体の投入が完全に終了した時点から、所定の時間が経過した時点までを意味することができる。
【0010】
一方、前述のように、高分子鎖が密集した形態と配向した配列構造のポリアミド酸を重合するためには、第1単量体と第2単量体が反応する時間を適正な水準に制御する必要がある。
一般的に、ポリアミド酸の製造の際に、単量体の反応時間が長くなるほど、高分子鎖の少なくとも一部が延長する反応が持続的に誘発されることがある。その結果、高分子長鎖が多数生成されるのに対し、高分子短鎖は僅かに形成されることがある。また、単量体の反応時間が長くなるほどPDIが低くなる、つまり、分子量分布度が狭くなる傾向が生じる。
これとは逆に、単量体の反応時間が短くなるほど、高分子短鎖が多数生成され、ポリアミド酸の分子量分布度が広くなることがある。これは、以降に製造されるポリイミドフィルムの物性の低下およびグラファイトシートの熱伝導度の低下につながることがあり、PDIも急激に増加することがある。
したがって、本発明は、第1単量体と第2単量体が反応する時間を適正な水準に制御する方法を、以下の非制限的な例を通じて提供する。
一つの具体的な例において、前記(b)ステップにおいて、第2単量体は、約5分ないし約20分(例えば、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約10.5、約11、約11.5、約12、約12.5、約13、約13.5、約14、約14.5、約15、約15.5、約16、約16.5、約17、約17.5、約18、約18.5、約19、約19.5または約20分)、詳細には、約8分ないし約12分おきに少なくとも1回、詳細には、少なくとも約3回分割投入し、
前記(c)ステップにおいて、第2単量体は、約15分ないし約25分(例えば、約15、約15.5、約16、約16.5、約17、約17.5、約18、約18.5、約19、約19.5、約20、約20.5、約21、約21.5、約22、約22.5、約23、約23.5、約24、約24.5または約25分)、詳細には、約18分ないし約22分おきに少なくとも約3回、詳細には、少なくとも約5回分割投入することができる。
これに対するさらに好ましい例において、前記(b)ステップにおいて、第2単量体は、約9.5分ないし約10.5分おきに少なくとも約3回分割投入し、
前記(c)ステップにおいて、第2単量体は、約19.5分ないし約20.5分おきに少なくとも約5回分割投入することができる。
前記(b)ステップは、第2単量体を少なくとも約3回分割投入することによって、第1単量体と第2単量体の反応を徐々に誘導することができる。
また、前記(b)ステップの第2単量体の分割投入は、高分子長鎖および高分子短鎖が適正な量で生成されるようにするに有利に作用することができる。
また、前記(b)ステップにおいて、所定の範囲に属する時間おきに第2単量体を分割投入することは、形成された高分子鎖が相互作用により密集し、好ましい水準に配向するに有利に作用することができる。
特に、前記(b)ステップにおいて、第2単量体を投入するに要する総時間は、このステップで重合された重合体が適正な水準のPDIを内在するに最適の時間であり得る。
【0011】
前記(b)ステップにおいて、所定の時間の間静置することは、この過程で存在し得る未反応の第1単量体および第2単量体が徐々に反応して高分子短鎖の追加的な生成を誘導し、相対的に流動的な状態の高分子鎖が相互作用により互いに密集および配向することを誘導するに肯定的に作用することができる。
このような静置的工程を経ると、以降のステップでも、高分子鎖の密集および配向状態が安定して維持される有益な結果につながり得る。
本発明において、相互作用とは、高分子鎖間の相互作用を意味することができ、高分子鎖に存在する電子供与体と電子受容体が、他の高分子鎖のそれと電荷移動力を形成し、互いに異なる高分子鎖が互いに隣接して配列する現象および状態のうち少なくとも一つを意味することができ、前記(b)ステップの静置はこれに役立つものである。
他の側面において、前記(b)ステップを通じて、好ましい水準に生成される高分子短鎖は、以降に得られるポリイミドフィルムの配向性の向上において主に作用することができる。具体的には、高分子短鎖は、高分子長鎖に比べて、動きの自由度が高い方であるとみられるので、例えば、前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップで延伸を行うと、前記高分子短鎖が容易に動きながら所望の水準に配向することができ、これは、以降に得られるポリイミドフィルムが優れた配向性を有する有益な結果につながり得る。
前述のように実施するために、前記(b)ステップの静置は、約15分ないし約25分(例えば、約15、約15.5、約16、約16.5、約17、約17.5、約18、約18.5、約19、約19.5、約20、約20.5、約21、約21.5、約22、約22.5、約23、約23.5、約24、約24.5または約25分)、詳細には、約18分ないし約22分、さらに詳細には、約19分ないし約21分の間行われてもよいし、前述の範囲の中でも、約20分内外の時間の間静置が行われることが特に好ましい。
前記範囲から外れる時間の間静置することは、高分子鎖が密集および配向する水準が所望の程度に到達しないか、または、高分子短鎖の追加的な生成が僅かな程度に過ぎないという問題があるので、本発明が意図した効果が実現され難いという面で好ましくない。
【0012】
前記(c)ステップでは、第2単量体を分割投入することによって、前記(b)ステップで生成された重合体を成す高分子鎖の長さを延長させることができ、もう一方で、未反応の第1単量体と第2単量体が徐々に反応して高分子短鎖の追加的な生成を誘導することができる。
前記(b)ステップと同様に、前記(c)ステップを通じて、好ましい水準に生成される高分子短鎖は、以降に得られるポリイミドフィルムの配向性の向上において主に作用することができる。
注目すべきことは、前記(c)ステップが、前記(b)ステップに比べて、より長い時間、第2単量体を複数回分割投入しているが、これは、相対的に長い時間、さらに少量の第2単量体を投入することによって、さらに高分子短鎖が生成されるように誘導し、以降に得られるポリアミド酸が所定のPDIを有することに主に作用することができる。したがって、高分子鎖が相互作用し得る時間を相対的に長く確保することによって、生成過程にある高分子鎖および/または生成完了の高分子鎖が、以前の(b)ステップで生成された重合物の高分子鎖の間にさらに密集し、好ましい水準に配向することができる。
ただし、前記(c)ステップで要する時間が、本発明の範囲から外れて短縮される場合、(c)ステップの終了後に、未反応の第2単量体が過量に存在することがあり、高分子鎖間の相互作用が十分行われないことがあるので、本発明で意図された好ましい配列構造が実現され難いという問題がある。
これとは逆に、前記(c)ステップで要する時間が、本発明の範囲から外れるように延長されると、高分子鎖の形成に関与する反応以外の所望しない副反応が誘発されることがあるので、好ましくない。
まとめると、ポリアミド酸が適正な水準のPDIを有すると共に、高分子鎖が前述のような配列構造を有するためには、連続的に行われる前記(b)ステップおよび(c)ステップが、単量体の反応と高分子鎖間の相互作用に関連する工程上のバランスを成すことが重要であり、そこで、本発明は、前述のように、前記(b)ステップでの所要時間(Tb)、(c)ステップでの所要時間(Tc)の好ましい割合を説明している。
【0013】
ただし、以上のように、前記(c)ステップを完了しても、所望の水準に高分子鎖の配列構造が実現されないことがあるが、これは、(c)ステップの完了後にも、未反応の第2単量体が一部存在することがあり、これによって、生成完了の全体高分子鎖の密集および配向した状態が不安定であるからである。
したがって、本発明の製造方法は、前記(c)ステップで製造された重合物を、所定の時間の間静置する(d)ステップを含み、前記(d)ステップを通じて、残存する第2単量体が十分反応するようにし、高分子鎖が相互作用し得る時間を確保することによって、全体高分子鎖の配列構造が安定して維持されるようにすることができる。
したがって、前記(d)ステップは、前記(c)ステップと密接に関係しているので、これらのステップが、単量体の反応と高分子鎖の相互作用に関連する、工程上のバランスを成すことが重要である。そこで、本発明は、前述のように、前記(c)ステップでの所要時間(Tc)、(d)ステップでの所要時間(Tc)の好ましい割合を説明している。
前記(d)ステップの静置は、約3分ないし約7分(例えば、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5または約7分)の間、詳細には、約4分ないし約6分の間、特に詳細には、約5分程度の時間行われるのがよい。
前記範囲を下回る静置時間は、前述の効果を期待し難く、前記範囲を上回る静置時間は、高分子鎖が密集する面では有利であるが、長い時間の静置の間相対的に流動的な状態で存在する高分子鎖が絡み合いながら、以降に得られるポリイミドフィルムの配向性が低下することがあるので、好ましくない。
【0014】
本発明において、前記第1単量体は、少なくとも1種のジアミン成分であり、前記第2単量体は、少なくとも1種のジアンハイドライド成分であり、または
前記第1単量体は、少なくとも1種のジアンハイドライド成分であり、前記第2単量体は、少なくとも1種のジアミン成分であってもよい。
この際、前記(b)ステップで分割投入される第2単量体と、前記(c)ステップで分割投入される第2単量体が互いに同一の成分であるか、または、互いに異なる成分であってもよい。
前記ジアミン成分は、芳香族ジアミンであって、以下のように分類して例を挙げることができる。
1)1,4-ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン、PDA、PPD)、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸(DABA)などのように、構造上、1つのベンゼン環を有するジアミンであって、相対的に硬直な構造のジアミン;
2)4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(または、オキシアニリン、ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(4,4’-メチレンジアニリン、MDA)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’、5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジメチルベンジジン(または、o-トリジン)、2,2’-ジメチルベンジジン(または、m-トリジン)、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3、3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシドなどのように、構造上、2つのベンゼン環を有するジアミン;
3)1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-4-トリフルオロメチルベンゼン、3,3’-ジアミノ-4-(4-フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジ(4-フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1、3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(3-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのように、構造上、3つのベンゼン環を有するジアミン;
4)3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1、1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのように、構造上、4つのベンゼン環を有するジアミン。
これらは、所望のとおり、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
前記ジアンハイドライド成分は、芳香族テトラカルボン酸ジアンハイドライドであることができる。
前記芳香族テトラカルボン酸ジアンハイドライドは、ピロメリット酸ジアンハイドライド(PMDA)、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンハイドライド(s-BPDA)、2,3,3’、4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンハイドライド(a-BPDA)、オキシジフタル酸ジアンハイドライド(ODPA)、ジフェニルスルホン-3,4,3’、4’-テトラカルボン酸ジアンハイドライド(DSDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィドジアンハイドライド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンジアンハイドライド、2,3,3’、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンハイドライド、3,3’、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンハイドライド(BTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタンジアンハイドライド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンハイドライド、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸アンハイドライド)、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸アンハイドライド)、m-テルフェニル-3,4,3’、4’-テトラカルボン酸ジアンハイドライド、p-テルフェニル-3,4,3’、4’-テトラカルボン酸ジアンハイドライド、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼンジアンハイドライド、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼンジアンハイドライド、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニルジアンハイドライド、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパンジアンハイドライド(BPADA)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸ジアンハイドライド、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジアンハイドライド、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸ジアンハイドライドなどを挙げることができる。これらは、所望のとおり、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明の製造方法に用いることができる有機溶媒は、ポリアミド酸が溶解し得る溶媒であれば、特に限定されないが、一つの例として、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であることができる。
前記非プロトン性極性溶媒の非制限的な例として、
N、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N、N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)およびジグリム(Diglyme)などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を使用して、ポリアミド酸の溶解度を調節することもできる。
一つの例において、本発明の前駆体組成物の製造に特に好ましく使用することができる有機溶媒は、アミド系溶媒であるN、N’-ジメチルホルムアミドおよびN、N’-ジメチルアセトアミドであることができる。
【0017】
前記(d)ステップを通じて得られる前駆体組成物は、ポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートの摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループ硬さなどの様々な特性や工程性を改善する目的で充填材を含むことができる。前記充填材は(d)ステップで投入されてもよい。
前記充填材は、特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウムおよび雲母からなる群から選択される1種以上を挙げることができる。
【0018】
前記(d)ステップを通じて得られる前駆体組成物は、脱水剤および/またはイミド化剤をさらに含むことができる。
脱水剤および/またはイミド化剤は、(e)ステップを行うときに、前駆体組成物中のポリアミド酸をポリイミドに素早く変換させるに役立つものである。
ここで、「脱水剤」とは、ポリアミド酸に対する脱水作用を通じて閉環反応を促進する物質を意味しており、これに対する非制限的な例として、脂肪族の酸アンハイドライド、芳香族の酸アンハイドライド、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、ハロゲン化低級脂肪族、ハロゲン化低級脂肪酸アンハイドライド、アリールホスホン酸ジハライドおよびチオニルハライドなどを挙げることができる。この中でも、入手の容易性およびコストの観点から、脂肪族酸アンハイドライドが好ましく、その非制限的な例として、酢酸アンハイドライド(AA)、プロピオン酸アンハイドライドおよび乳酸アンハイドライドなどを挙げることができ、これらを単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
また、「イミド化剤」とは、ポリアミド酸に対する閉環反応を促進する効果を有する物質を意味しており、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミンおよび複素環式3級アミンなどのイミン系成分であることができる。この中でも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが好ましい。複素環式3級アミンの非制限的な例として、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン(BP)、ピリジンなどを挙げることができ、これらを単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
脱水剤の添加量は、ポリアミド酸のうちアミド酸基1モルに対して、約0.5ないし約5モル(例えば、約0.5、約1、約2、約3、約4または約5モル)の範囲内であることが好ましく、約1.0モルないし約4モルの範囲内であることが特に好ましい。また、イミド化剤の添加量は、ポリアミド酸のうちアミド酸基1モルに対して、約0.05モルないし約2モル(例えば、約0.05、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9または約2モル)の範囲内であることが好ましく、約0.2モルないし約1モルの範囲内であることが特に好ましい。
前記脱水剤およびイミド化剤が前記範囲を下回ると、化学的イミド化が不十分であり、製造されたポリイミドフィルムにクラックが形成されることがあり、フィルムの機械的強度も低下することがある。また、これらの添加量が前記範囲を上回ると、イミド化が過度に急速に進行することがあり、この場合、フィルム状にキャストすることが困難または製造されたポリイミドフィルムがブリトル(brittle)な特性を奏することがあり、好ましくない。
【0019】
前述のように、(a)ステップないし(d)ステップを通じて製造された前駆体組成物は、組成物の総重量を基準としてポリアミド酸固形分を、約10ないし約25重量%(例えば、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24または約25重量%)、詳細には、約13ないし約20重量%、特に詳細には、約13ないし約15重量%含むことができる。
前記ポリアミド酸固形分が前記範囲を上回ると、これから製造されたポリイミドフィルムを用いてグラファイトシートを製造したとき、所望の熱伝導度が発現されないことがある。
これは、前駆体組成物が高い固形分含有量のポリアミド酸を含むと、高分子鎖が絡み合いながら、以降に得られるポリイミドフィルムの配向性が低下し、これから製造されるグラファイトシートは、非規則的なグラファイト層を有するようになる点から、熱伝導度の低下によるものと推測される。
前記ポリアミド酸固形分が前記範囲を下回ると、前駆体組成物の粘度が過度に低くなることがあり、ポリイミドフィルムを製造するための製膜工程が円滑に進行されないこともあるので、好ましくない。
【0020】
一方、本発明は、以上のように製造されたポリアミド酸を含有する前駆体組成物を用いて、配向性に優れたポリイミドフィルムを完成することができ、これを実現する前記(e)ステップについて具体的に説明する。
一つの具体的な例において、前記(e)ステップは、
前記前駆体組成物を支持体上に製膜し、約110℃未満の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造するステップ;
前記フィルムの中間体を機械搬送方向(MD)に延伸させるステップ;および
前記延伸されたフィルムの中間体をMDに対する横方向(TD)の両端を固定した状態で、約20℃ないし約700℃の可変的な温度範囲で熱処理してポリイミドフィルムを得るステップを含むことができる。
ここで、フィルムの中間体とは、ポリアミド酸からポリイミドへの変換に対して、中間段階で自己支持性を有する中間形態であると理解することができる。
前記フィルムの中間体を製造するステップは、前駆体組成物を、ガラス板、アルミニウム箔、無限(endless)ステンレスベルト、または、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャスト(製膜)し、その後、支持体上の前駆体組成物を、約110℃未満(例えば、約60、約70、約80、約90または約100℃または約110℃未満)の温度、詳細には、約60℃以上ないし約110℃未満、より詳細には、約60℃ないし約100℃、さらに詳細には、約60℃ないし約90℃の範囲で選択される不変的な温度または可変的な温度で乾燥してフィルムの中間体を製造することができる。これによって、前駆体組成物に部分的な硬化および/または乾燥が起こることによってフィルムの中間体が形成されることができ、続いて、これを支持体から剥離してフィルムの中間体を得ることができる。
場合によって、前記フィルムの中間体を製造するステップは、乾燥が完了した状態のフィルムの中間体を、常温で静置するステップをさらに含むことができる。
注目すべきことは、前記フィルムの中間体を製造するステップが、約60℃以上ないし約110℃未満の相対的に低温で行われる点である。
典型的には、通常のポリイミドフィルムの製造時には、約120℃ないし約150℃の温度範囲でフィルムの中間体を形成したが、このような相対的に高温でフィルムの中間体を製造すると、前駆体組成物に含有されている有機溶媒が急速に揮発することがあり、このように急速に揮発して気化した有機溶媒は、前述の(a)ないし(d)ステップを通じて比較的規則的に密集し、一定の方向に配向した高分子鎖の配列構造を乱して好ましくない配列構造への変更または変形を誘発することがある。これは、フィルムの中間体を製造するステップで高分子鎖が相対的に流動的な状態で存在することによるものと推測される。
また、前駆体組成物が相対的に急速に乾燥するので、高分子鎖の流動性が急速に失われることがあり、これは、相互作用により高分子鎖が再び密集および/または配向しようとする現象を遮断し、以降に製造されるフィルムの中間体およびポリイミドフィルムが低下した配向性を有する状態につながり得る。
ここで、高分子鎖は、ポリアミド酸高分子鎖および/またはポリイミド高分子鎖であることができる。
一方、本発明は、約110℃未満の相対的に低温でフィルムの中間体を乾燥することによって、有機溶媒が徐々に揮発するようにし、高分子鎖の配列構造が変更または変形されることを最小化することができる。
他の側面において、前記温度範囲で前駆体組成物を乾燥することは、相対的に遅い速度で乾燥が進行されることによって乱れた高分子鎖が再び密集形態を成し、一定の方向に配向して、本発明が意図した好ましい配列構造を再形成することができる点でも好ましい。
このように製造されるフィルムの中間体は、テンターに移された状態で熱処理装置に移送されることができ、この過程で延伸されて高分子鎖の配向性を向上することができる。
ちなみに、前記フィルムの中間体を形成するための乾燥温度は、前駆体組成物の重量によって、本発明の範囲内で適切に調節することができる。
たとえば、容量が約10リットル以下である小規模の反応器を用いて、相対的に少量が重合されたポリアミド酸を含有する前駆体組成物の場合、さらに好ましい乾燥温度範囲が約60℃ないし約80℃であることができる。一方、約100リットル以上の相対的に大きい規模の反応器を用いて、相対的に多量が重合されたポリアミド酸を含有する前駆体組成物の場合、乾燥温度範囲が約80℃以上ないし約110℃未満の範囲で選択されることがさらに好ましい。
【0021】
一つの具体的な例において、前記フィルムの中間体がMDに、約110%ないし約180%(例えば、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170または約180%)、詳細には、約120%ないし約170%、特に詳細には、約130%ないし約160%の伸びで延伸することができる。
前記伸びは、例えば、テンター内に含まれた複数の移送ローラの速度差で調節することができる。
仮に、伸びが前記範囲を上回る場合、フィルムの中間体の厚さが過度に薄くなったり、破損することがあるので、好ましくない。これは、前記搬送ローラの速度が速すぎる場合に生じることがあり、互いに異なる搬送ローラの速度差が過度に大きい場合にも生じることがあるので、本発明での限定した前記伸びを実現するためには、搬送ローラの速度を適切に調節することが求められる。
また、前記伸びが前記範囲を下回る場合、所望の水準に配向性を実現し難いので、好ましくない。これは、前記搬送ローラの速度が遅すぎるか、互いに異なる搬送ローラの速度差が過度に小さい場合にも生じることがある。
一方、本発明の製造方法(a)ないし(d)ステップによると、高分子鎖が密集した形態を成し、一定の方向に配向した配列構造を有するポリアミド酸を実現することができ、これを用いて、相対的に低温環境である(e)ステップでフィルムの中間体を製造することによって、前記配列構造が好ましく維持されたフィルムの中間体を得ることができる。これに加えて、MDへの延伸を通じて、高分子鎖の配向性がより向上したフィルムの中間体を製造することができる。
【0022】
本発明は、このように製造されるフィルムの中間体に対して熱処理過程を実施することによって、前記配列構造が好ましい程度に維持されながらも、配向性がさらに向上した状態のポリイミドフィルムを製造することができる。
一つの具体的な例において、前記熱処理は、
約20℃ないし約400℃まで昇温させる第1熱処理過程;および
約400℃ないし約650℃まで昇温させる第2熱処理過程を含み、
前記第1熱処理過程は、約110℃/minを超過ないし約500℃/min(例えば、約110℃/minを超過または約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180、約190、約200、約210、約220、約230、約240、約250、約260、約270、約280、約290、約300、約310、約320、約330、約340、約350、約360、約370、約380、約390、約400、約410、約420、約430、約440、約450、約460、約470、約480、約490または約500℃/min)の範囲から選択されるいずれか一つ以上の昇温速度で行われ、
前記第2熱処理過程は、約50℃/minないし約110℃/minの範囲、例えば、約50、約60、約70、約80、約90、約100または約110℃/min、他の例としては、約50℃/minないし約100℃/minの範囲で選択されるいずれか一つ以上の昇温速度で行われてもよい。
前記第1熱処理では、相対的に速い昇温速度で行われてもよいし、詳細には、約200℃/minないし約400℃/min、より詳細には、約250℃/minないし約350℃/min、さらに詳細には、約300℃/minないし約350℃/minの範囲で選択されるいずれか一つ以上の昇温速度でイミド化を迅速に進行することができる。
前記第1熱処理の昇温速度範囲は、イミド化を好ましい程度に促進することによって、本発明で意図した高分子鎖の配列構造が最終結果物であるポリイミドフィルムに内在されるようにするのに最適に作用することができる。
具体的には、前記第1熱処理は、フィルムの中間体を製造するステップを通じて、本発明で意図した高分子鎖の配列構造が相対的に安定した状態で、相対的に短い時間の間イミド化を誘導することによって、以前のステップで形成されたポリアミド酸の高分子鎖の配列構造がポリイミドフィルムに至るまで維持させることができる。
ただし、第1熱処理で昇温速度を過度に上げる場合、ポリイミドフィルムの変形または収縮が誘発されることがあり、この場合、ポリイミドがフィルム状に実現し難く、実現しても得られたポリイミドフィルムの配向性が低下することがある。
そこで、本発明は、前記ポリイミドフィルムを得るステップにおいて、延伸されたフィルムの中間体をMDに対する横方向(TD)の両端を固定した後に、TDに対して無延伸の状態で熱処理することができる。
これを通じて、得られるポリイミドフィルムの変形を最小化できることはもちろん、熱処理過程で配向した状態の高分子鎖が移動するか、動く現象を抑制することができる。
前記昇温速度は、フィルムの中間体自体の温度変化を測定するか、テンター内の雰囲気温度の変化を測定し、熱伝達の理論に基づいて、フィルムの中間体の温度変化を計算することによって導出することができる。
【0023】
ポリイミドフィルム
本発明のポリイミドフィルムは、前述の「ポリイミドフィルムの製造方法」で製造されたことを特徴とする。
本発明のポリイミドフィルムは、その分子配向化度(Molecular Orientation Ratio、MOR)が、約1.25以上(例えば、約1.25、約1.26、約1.27、約1.28、約1.29、約1.30、約1.31または約1.32以上、他の例としては、約1.25ないし約1.50、他の例としては、約1.25ないし約1.40、他の例としては、約1.25ないし約1.32)であってもよい。
分子配向化度とは、高分子を成す高分子鎖の配向程度を定量的に表すことができる指標として理解することができ、ポリイミドフィルムの分子配向化度が、約1.25以上のとき、前記ポリイミドフィルムを用いて製造されたグラファイトシートが優れた熱伝導度を発現することができる。
本発明のポリイミドフィルムは、厚さが約15μmないし約200μm(例えば、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、約100、約105、約110、約115、約120、約125、約130、約135、約140、約145、約150、約155、約160、約165、約170、約175、約180、約185、約190、約195、約200μm)、詳細には、約20μmないし約125μm、特に詳細には、約20μmないし約100μmであることができる。
【0024】
グラファイトシート
本発明は、前述の「ポリイミドの製造方法」で製造されたポリイミドフィルムを用いて製造することができ、詳細には、前記ポリイミドフィルムを炭化および/または黒鉛化して製造することができる。
炭化ステップは、減圧または窒素ガス中でホットプレスおよび/または電気炉を用いて行われてもよい。本発明において、炭化は、約800℃ないし約1500℃(例えば、約800、約900、約1000、約1100、約1200、約1300、約1400または約1500℃)程度の温度下で、約1時間ないし約20時間(例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19または約20時間)ほど行われてもよい。
場合によっては、所望の形態への炭素配向のために、ホットプレスを用いて、垂直方向に圧力を加えてもよい。この場合、炭化過程中で、約0.1kg/cm2以上、または、約1kg/cm2以上、または、約5kg/cm2以上の圧力を加えてもよいが、これは、発明の実施を助けるための例示であって、前記の圧力条件で、本発明の範疇が限定されるものではない。
これに連続して炭化したポリイミドフィルムの黒鉛化ステップが進行されてもよいが、中間ステップとして、ホットプレスおよび/または電気炉で約1000℃以上の温度から、黒鉛化ステップに求められる約2,500℃の温度まで昇温して熱処理するステップを含むことができる。
前記黒鉛化ステップもホットプレスおよび/または電気炉が使用されてもよい。黒鉛化ステップは、また、不活性ガス中で行われてもよく、不活性ガスの好ましい例としては、アルゴンと少量のヘリウムを含む混合気体を挙げることができる。
前記黒鉛化ステップの熱処理温度は、約2,500℃以上が必要となり、経済性を考慮すると、約3,000℃以下が好ましい。例えば、黒鉛化ステップの熱処理温度は、約2500℃ないし約3000℃(例えば、約2500、約2600、約2700、約2800、約2900または約3000℃)、他の例としては、約2,600℃ないし約3,000℃、他の例としては、約2,700℃ないし約2,900℃であってもよいが、これに限定されるものではない。
場合によっては、前記黒鉛化ステップにおいて、約100kg/cm2以上または約200kg/cm2以上または約300kg/cm2以上の圧力を加えてもよいが、これは、発明の実施を助けるための例示であって、前記の圧力条件で、本発明の範疇が限定されるものではない。
このように製造されたグラファイトシートは、熱伝導度が約1,400W/m・K以上であることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法によれば、前記(a)ないし(d)ステップを通じて、高分子鎖が密集した形態を成し、一定の方向に配向した配列構造を有するポリアミド酸を実現することができる。
また、本発明は、(e)ステップを通じて製造されたポリアミド酸を含む前駆体組成物を相対的に低温で乾燥することによって、前記配列構造が好ましい程度に維持されるフィルムの中間体を製造することができる。さらに、本発明の製造方法は、フィルムの中間体をMDに延伸することによって、高分子鎖の追加的な配向性の向上を誘導することができる。
このように製造されるフィルムの中間体は、本発明の製造方法の一側面による熱処理過程によって、前述の配列構造が好ましい程度に維持されながらも、配向性がさらに向上した状態でポリイミドフィルムに変換することができる。
このような製造方法によって製造されるポリイミドフィルムは、分子配向化度(Molecular Orientation Ratio)が約1.25以上であって配向性に優れている。
従って、本発明に係るポリイミドフィルムを用いて製造されたグラファイトシートは、約1,400W/m・K以上の優れた熱伝導度を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述することにする。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が決まるわけではない。
【0027】
<実施例1>
本発明に係る製造方法の(a)ステップを、次のように行った。
300リットル反応器にDMF200kgを入れ、温度を20℃に設定した。以後、第1単量体(ジアミン)として、4,4-ODA20.3kgを投入して溶解させた。
続いて、本発明に係る製造方法の(b)ステップを、次のように行った。
第2単量体(ジアンハイドライド)として、PMDAを3回分割投入した。1回当りのPMDAの投入量は、7.15kg、7.15kg、7.15kgとし、投入は、約10分おきに連続的に行われた。最後投入が完了した時点から約20分経過した時点まで反応器をそのまま静置した。このとき、第1単量体の全モル数に対して、第2単量体のモル数が、約97モル%を成した。
連続して、本発明に係る製造方法の(c)ステップを、次のように行った。
第2単量体(ジアンハイドライド)として、PMDAを5回分割投入した。最初分割投入時に、(b)ステップの静置が完了しており、PMDAの回当りの投入量は、順番に150g、150g、150g、150g、60gとし、投入は、約20分おきに連続的に行われた。このとき、第1単量体の全モル数に対して、第2単量体のモル数が、約99.8モル%を成した。
続いて、本発明に係る製造方法の(d)ステップを、次のように行った。
(c)ステップで第2単量体の最後投入が完了した時点から約4分経過した時点まで反応器をそのまま静置した後、反応器内から15重量%のポリアミド酸固形分を含む前駆体組成物を得た。続いて、前駆体組成物にイミド剤としてベータピコリン7kgと、脱水剤として酢酸アンハイドライド48.5kgを投入し、最終前駆体組成物(製膜組成物)を製造した。
このとき、(b)ステップでの所要時間(Tb)、(c)ステップでの所要時間(Tc)および(d)ステップでの静置時間(Td)の割合が1:2:0.1であった。
続いて、本発明に係る製造方法の(e)ステップを、次のように行った。
(e-1)前駆体組成物を乾燥機内の無断(endless)ステンレス板に塗布し、約90℃の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造した。
(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置(異なる温度が造成される複数の区間を含む)に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約130%延伸させた。
(e-3)延伸されたフィルムの中間体をMDに対する横方向(TD)の両端を固定した後に、TDに対して無延伸の状態で移送し、異なる温度が造成される熱処理装置を通過するようにしながら、第1熱処理および第2熱処理を順番に行った。このとき、第1熱処理は、20℃から400℃まで、300℃/minないし350℃/minの昇温速度で行った。第2熱処理は、400℃から600℃まで、50℃/minないし100℃/minの昇温速度で行った。
(e-4)熱処理完了後、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0028】
<実施例2>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-2)を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約160%延伸させた。
【0029】
<実施例3>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-2)および(e-3)を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た
(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約160%延伸させた。
(e-3)第1熱処理は、20℃から400℃まで、450℃/minないし500℃/minの可変的な昇温速度で行った。
【0030】
<比較例1>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-1)を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
(e-1)前駆体組成物を乾燥機内のendlessステンレス板に塗布し、約110℃の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造した。
【0031】
<比較例2>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-1)を下記のように変更し、(e-2)を省略したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
(e-1)前駆体組成物を乾燥機内のendlessステンレス板に塗布し、約110℃の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造した。
【0032】
<比較例3>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-1)を下記のように変更し、(e-2)を省略したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
(e-1)前駆体組成物を乾燥機内のendlessステンレス板に塗布し、約130℃の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造した。
【0033】
<比較例4>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-2)を下記のように変更し、(e-3)の第1熱処理を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約160%延伸させた。
(e-3)第1熱処理は、20℃から400℃まで、100℃/minないし110℃/minの昇温速度で行った。
【0034】
<比較例5>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-2)を下記のように変更し、(e-3)の第1熱処理を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムの製造を試みたが、(e-3)の過程で、フィルムの中間体が破断し、ポリイミドフィルムの製造に失敗した。
(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約160%延伸させた。
(e-3)第1熱処理は、20℃から400℃まで、600℃/minないし650℃/minの昇温速度で行った。
【0035】
<比較例6>
(b)ステップでの所要時間(Tb)、(c)ステップでの所要時間(Tc)および(d)ステップでの静置時間(Td)の割合が1:1:0.1を成すように、(c)ステップにおいて、第2単量体の投入間隔をより短い時間に調整したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0036】
<比較例7>
(b)ステップでの所要時間(Tb)、(c)ステップでの所要時間(Tc)および(d)ステップでの静置時間(Td)の割合が1:2:0.5を成すように、(d)ステップにおいて、静置時間をより長い時間に調整したことを除いては、実施例1と同一の方法で、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを得た。
【0037】
<比較例8>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-1)を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムの製造を試みたが、(e-2)の過程でフィルムの中間体が破断し、ポリイミドフィルムの製造に失敗した。
(e-1)前駆体組成物を乾燥機内のendlessステンレス板に塗布し、約130℃の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造した。
【0038】
<比較例9>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-1)および(e-2)を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムの製造を試みたが、(e-2)の過程でフィルムの中間体が破断し、ポリイミドフィルムの製造に失敗した。
(e-1)前駆体組成物を乾燥機内の無断ステンレス板に塗布し、約110℃の温度で乾燥してフィルムの中間体を製造した。
(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約160%延伸させた。
【0039】
<比較例10>
本発明に係る製造方法の(e)ステップにおいて、(e-2)を下記のように変更したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムの製造を試みたが、(e-2)の過程でフィルムの中間体が破断し、ポリイミドフィルムの製造に失敗した。
-(e-2)製造されたフィルムの中間体をテンターに位置させた後、熱処理装置に移送しながら、送りローラの速度を調節してMDに約200%延伸させた。
【0040】
【0041】
<実験例1:ポリイミドフィルムの分子配向化度の測定>
実施例1ないし3および比較例1ないし4、6および7で製造されたポリイミドフィルムについて、マイクロ波方式分子配向計MOA7015を用いて、分子配向化度を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0042】
【0043】
表2に示すように、実施例によって製造されたポリイミドフィルムは、比較例に対して、顕著に優れた分子配向化度を内在しており、これは、ポリイミドフィルムを成す高分子鎖が上手く配向していることを意味する。
【0044】
<実験例2:グラファイトシートの熱伝導度の評価>
実施例1ないし3および比較例1ないし4、6および7で得られたポリイミドフィルムを炭化可能な電気炉を使用し、窒素気体下で、1℃/分の速度で1200℃まで昇温し、約2時間保持させた(炭化)。続いて、電気炉を使用し、アルゴン気体下で、20℃/分の昇温速度で2800℃まで昇温して8時間保持した後、冷却してグラファイトシートを得た。
熱拡散率測定装置(モデル名LFA447、Netsch社)を使用し、laser flash法でグラファイトシートの熱拡散率を測定し、比熱測定装置(モデル名DSC204F1、Netsch社)を使用して比熱を測定することができる。
熱拡散率およびDSC測定値に密度(重量/体積)を乗じて熱伝導度を算出し、その結果を下記表3に示した。
【0045】
【0046】
表3に示すように、実施例によって製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、比較例に対して、顕著に優れた熱伝導度を発現しており、前記表3と前述の表2の結果から、配向性に優れたポリイミドフィルムの製造に本発明の実施形態が好ましく、これは、優れた熱伝導度を有するグラファイトシートの実現にも主に作用することが分かる。
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、前記の内容に基づいて本発明の範疇内で様々な応用および変形を行うことが可能である。